(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
電線の導体部に接続する圧着部と、相手側コンタクトに接続する接続部とを有する軸状に延びる導電性のコンタクトと、このコンタクトの周囲を絶縁性の内部ハウジングを介して筒状に覆う本体部と、前記電線のシールド層に接続するバレル部とを有する導電性のシェルとを備えた、前記電線の端末に接続するコネクタであって、
前記シェルは、金属製の圧延材の曲げ加工品で、周方向における端縁同士の合せ目を少なくとも一つ備え、この合せ目から前記筒状の内向きに少なくとも一方の端縁から延出した切り出し片を備え、この切り出し片が、前記圧着部に向い合う位置に備わるところに特徴を有するコネクタ。
【背景技術】
【0002】
通信速度の高速化にともない同軸電線の端末に取り付けられるコネクタにもシールド構造が要求される。特にGHz(ギガヘルツ)レベルを超える高周波領域においては、ノイズやエネルギーロスの問題が生じないように、反射や放射の問題を考慮して伝送経路間のインピーダンスの整合をとることが重要な課題のひとつになる。すなわち、通信環境を構成する電線、回路、およびコネクタの各インピーダンスが互いに整合していることが望まれる。
【0003】
高速伝送用のコネクタは、信号伝送部のコンタクトの周囲に絶縁体の合成樹脂を介在させ、その周囲を接地電圧と同電位の導電性のシェルで覆う構造が一般的である。このような構造をとることで、電気信号の反射が抑制され、音声や映像に乱れが生じない信号伝送がおこなえるようになる。
【0004】
コネクタのインピーダンスは、コンタクトやシェルの構造、および誘電体の誘電率などをパラメータとして周辺装置との整合をとるのが一般的であるが、コンタクトの長手方向の場所によってコネクタ内でインピーダンスの不整合が生じるときがある。主にこの不整合は、伝送経路であるコンタクトと、これを覆うシェルとの構造的な関係に変化が生じる場所でおこり、一般的に、コンタクトの外径Dcと、それを覆うシェルの内径Dsとの比H(H=Ds/Dc)をとり、場所によるこの比Hでもってその構造的な関係が表現される。すなわち、この比Hがコンタクトの長手方向に亘り常に一定であるときは、構造的な関係は一様で、コネクタのインピーダンスは全体的に整合がとれた状態であるが、この比Hが相違するときは、構造的な関係に変化が生じ、コネクタは場所によってインピーダンスに不整合が生じている。一般的に、コンタクトの接続部の外径は、圧着部の外径に比べて大きく、一方シェルは全長に亘りほぼ一定の形状(筒状)をしているので、コンタクトの場所によりこの比Hに変化が生じる。
【0005】
この構造的な関係の変化を修正しコネクタのインピーダンスの整合をとるいくつかの技術が知られている。たとえば、接続部に比べてその外径が小さくなる圧着部に対して、この部分に金属テープを巻くことによって両者の外径を合わせる方法や、この部分に金属スリーブを装着してこの比Hを一定化する方法が知られている。
【0006】
しかし、このようなテープを巻いたり、スリーブを装着したりする方法は、部品点数や作業工数の増加を来し、コストの増加を招くものである。このような別途部品を準備してコンタクトの外径を制御する方法に対して、この部分に向い合うシェルの内径を制御し、この比Hを一定化する方法(コネクタのインピーダンスの整合をとる方法)が知られている。たとえば特許文献1記載の技術によれば、コンタクトの圧着部に向い合うシェルの底面にプレス加工によって凸状部を形成し、この凸状部の先端と、コンタクトの圧着部との距離を狭めることで、見かけ上のシェルの内径を小さくし、他の部分(主に接続部)の比Hと近似的に等しくするものである。
【0007】
しかし、このようなプレス加工によってシェルの底面に凸状部を形成する方法は、絞り深さに限界があり、必要とする高さを備えた凸状部の形成がなされないおそれがある。この点を考慮した技術が知られている。たとえば、特許文献2記載の技術によれば、コンタ
クトの圧着部に向い合うシェルの底面の位置に凸状部を切り起こしによって形成するものであり、凸状部の高さ調整の自由度に関して特許文献1記載の技術に比べて優位性が認められる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、この技術によれば、シェルの底面の一部を切り起こして凸状部を形成するため、凸状部を切り起こした跡のシェルの底面に穴が形成される。これにより、シェルのシールド構造の一部に破れが生じ、この部分におけるノイズや放射の問題が懸念され、さらには、インピーダンスの整合(電線やコネクタの他の部分との整合)も十分になされないおそれがある。
【0010】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、一つの目的は、作業性を損なうことなくインピーダンスの整合をとることができるシェル構造を備えたコネクタを提供するものである。さらに一つの目的は、インピーダンスの調整範囲が広く、調整が容易なシェル構造を備えたコネクタを提供するものである。さらに一つの目的は、シールド構造に破れが生じないシェル構造を備えたインピーダンスの整合をとることができるコネクタを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のコネクタは、(1)電線の芯線に接続する圧着部と、相手側コンタクトに接続する接続部とを有する軸状に延びる導電性のコンタクトと、このコンタクトの周囲を絶縁性の内部ハウジングを介して筒状に覆う本体部と、前記電線のシールド層に接続するバレル部とを有する導電性のシェルとを備えた、前記電線の端末に接続されるコネクタであって、前記シェルは、金属製の圧延材の曲げ加工品で、周方向における端縁同士の合せ目を少なくとも一つ備え、この合せ目から前記筒状の内向きに少なくとも一方の端縁から延出した切り出し片を備え、この切り出し片が、前記圧着部に向い合う位置に備わるところに特徴を有するものである。
【0012】
この発明によれば、圧着部に向い合う位置に、周方向における端縁同士の合せ目から内向きに延出した切り出し片が備わる。これにより、接続部に比べてその外径が小さい圧着部に対して、シェルから延びる切り出し片が近接する構造が得られる。その結果、コンタクトの圧着部における圧着部の外径D1cに対する、シェルの見かけ上の内径D1s(切り出し片によりシェルの内径が小径化された場合と近似した効果が得られる)の比H1(=D1s/D1c)と、接続部における接続部の外径D2cに対する、シェルの内径D2sの比H2(=D2s/D2c)と、を近似的に等しくする(H1≒H2)ことができる。これにより、圧着部におけるインピーダンスの上昇が抑制され、その結果、金属テープや金属スリーブを圧着部に取り付けることなく、圧着部周辺のインピーダンスと、電線や、コネクタの他の部分のインピーダンスとの整合をとることができるようになる。
【0013】
切り出し片は、プレス加工で形成された凸状片が、端縁同士の合せ目において内向きに曲げられたものなので、形状や大きさの自由度が高く、インピーダンスの整合をとるための調整範囲が広く、且つ、調整が容易である。さらに、切り出し片は、端縁同士の合せ目に備わるので、シェルの底面の一部を切り欠いて凸状部を形成する場合のようにシェルの一部に穴部が形成されることはない。これにより、シールド性を損なうことなくインピー
ダンスの整合をとることができる。
【0014】
さらに好ましくは、本発明のコネクタは、(2)前記切り出し片が側面視矩形状で、内向きに延びる方向の先端が前記圧着部に対して離間して並行に延びるところに特徴を有する(1)記載のものである。
【0015】
この発明によれば、切り出し片は、端縁同士の合せ目から内向きに立つ矩形体で、圧着部に対して並行して向い合う。これにより、コンタクトの接続部に比べて外径が小さい圧着部に対して、導電性のシェルの一部がその見かけ上の内径を長手方向に亘り均一に小さくするように備わる。この均一性により一層、シールド性を損なうことなくインピーダンスの整合をとることができる。
【0016】
さらに好ましくは、本発明のコネクタは、(3)前記切り出し片が、前記圧着部の長手方向の長さに対応する長さを備えるところに特徴を有する(2)記載のものである。
【0017】
この発明によれば、平面視矩形状の切り出し片は、圧着部の長手方向の長さに対応する長さが備わる。これにより、コンタクトの接続部の外径に比べて外径が小さい圧着部に対して、その全域に亘り対応するシェルの見かけ上の内径が小径化される。その結果、圧着部のインピーダンスの上昇が一様に抑制されるので、シールド性を損なうことなくインピーダンスの整合をとることができる。
【0018】
さらに好ましくは、本発明のコネクタは、(4)前記切り出し片の前記先端が、90度から180度の間の曲げ部を備えるところに特徴を有する(1)から(3)のうち一項記載のものである。
【0019】
この発明によれば、切り出し片の先端は、90度から180度の間の曲げ部を備えているので、圧延材の切断面がそのままの状態で圧着部に向い合う場合と比べて大きな幅を有した広がりのある面構成で圧着部に向い合うことができる。これにより、圧着部の周面の一部をより広い範囲に亘り覆うことができるので、この部分のシェルの見かけ上の内径の小径化範囲が拡大され、この部分におけるインピーダンスの上昇をより効果的に抑制できる。その結果、一層シールド性を損なうことなくインピーダンスの整合をとることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で実施することができる。
図1は、本発明の実施形態に係るコネクタの分解斜視図である。
図2は同コネクタに組み付けられるコンタクトの外観斜視図であり、(A)は電線と組み付け前の状態を示す図、(B)は電線と組み付け後の状態を示す図である。
図3は同コネクタに組み付けられるシェルの加工工程図であり、(A)は展開形状を示す図、(B)は加工途中を示す図、(C)は加工完成を示す図である。
図4は
図1に示されるコネクタの組み付け後の断面斜視図である。
図5は
図1で示されるコネクタの組み付け後のV−V断面図である。
図6は
図1で示されるコネクタの組み付け後のVI−VI断面図である。
図7は
図1で示されるコネクタの組み付け後のVII−VII断面図である。
【0022】
〈コネクタの概要〉
本発明のコネクタ1は、
図1に示されるように、電線50の芯線51と接続する圧着部320、および図示しない相手側コンタクトと接続する接続部310を有する導電性のコンタクト30を備えるとともに、このコンタクト30の周囲を絶縁性の内部ハウジング10を介して筒状に覆う本体部200、および電線50のシールド層に接続するバレル部240を有する導電性のシェル20を備えるものである。シェル20は、銅合金の圧延材の曲げ加工品で、周方向における端縁同士を接合した合せ目205を備える。この合せ目205から前記筒状の内向きに一方の端縁から延出した切り出し片210を備え、この切り出し片210が圧着部320に向い合う位置に備わるものである。なお、本実施形態における切り出し片210は、シェル20の側面に対して直角に切り起こされているが、勿論このような形態に限られるものではない。
【0023】
さらに、切り出し片210が側面視矩形状で、内向きに延びる方向の先端が圧着部320に対して離間して並行に延び、圧着部320の長手方向の長さに対応する長さを備えるものである。なお、説明中の指示方向は、特段断りがない限り図面で定義する方向指示に従う。
【0024】
〈コンタクト〉
コンタクト30は、
図2に示されるように、図示しないオス型端子と電気的機械的に接続する接続部310と、電線50に収まる芯線51と接続するための圧着部320とを備える、銅合金製圧延材の曲げ加工品である。接続部310は、断面矩形のボックス形状を備えるとともに、圧着部320は、底部と二枚の縦板部とで断面Uの字状を形成し、ここに芯線51を圧着して固定する。接続部310と、圧着部320とは、底部を共有して同一軸上に備わる。
【0025】
コンタクト30は、
図2に示されるように、前方に接続部310と、その後方に圧着部320とを備えるが、その断面形状は、
図6、
図7に示されるように、相違する。接続部310は、断面矩形で内側に図示しないオス型端子を収容するための嵌合空間を備えている。これに対して、圧着部320は芯線51を圧着するために外径は丸みを帯びている。また、接続部310は、内側に嵌合空間を備えるために、芯線を加締める圧着部320に比べてその外径は、大きい。
【0026】
〈内部ハウジング〉
内部ハウジング10は、絶縁性の合成樹脂からなる射出成形品であり、導電性のコンタクト30と、その周囲を覆う導電性のシェル20との間に備わる。内部ハウジング10は
、
図4、
図5に示されるように、内部にコンタクト収容室112を備えた断面矩形の筒状で、胴体部110と、鍔部120とを備える。鍔部120は、胴体部110の前方に備わり、その表面は、胴体部110の表面に比べて、シェル20の板厚1枚分程度張出し、境目に段差が生じている。これにより、シェル20表面と、鍔部120とを平坦につなげるとともに、組み付け後シェル20の抜けを抑制する。
【0027】
内部ハウジング10は、
図1に示されるように、左右側面の長手方向の中央部に上下方向に延びる係止凹部113を備える。係止凹部113は、組み付け後シェル20の対応するところと係合し、シェル20を正規組み付け位置に固定する。
【0028】
内部ハウジング10は、
図1に示されるように、鍔部120の両側面中央に係合溝114を備える。係合溝114は、組み付け時シェル20の対応するところと係合し、シェル20を正規組み付け位置まで案内する。
【0029】
〈シェル〉
シェル20は、金属圧延材の折り曲げ加工品で、
図3に示されるように、コンタクト30の周面を覆う断面矩形の筒状体である。シェル20は、信号伝送路であるコンタクト30の周囲を接地電圧と同電位で覆うことで、この部分におけるノイズや、放射を抑制する。さらに、シェル20は電線50や回路のインピーダンスに対してコネクタ1のインピーダンスの整合をとる上で、構造上重要なものである。
【0030】
シェル20は、
図3に示されるように、コンタクト30を覆う本体部200、電線50の編組と接続するバレル部240、および、これらの間に位置する連結部230を、底部を共通にして直線状に備えている。シェル20は、本体部200の周方向の端縁に矩形状に張出した切り出し片210を、展開形状の材料段階で一体的に備えている。断面矩形の筒状を形成する前段階で、切り出し片210をその基端部から内側に90度曲げておき、その後筒状の本体部が完成する段階で、内向きに切り出し片が向かうように下面で端縁同士を突き合わせる。これにより、内部に収容空間221が形成されるとともに、端縁同士の合せ目には、切り出し片210が立てられた状態で備わる。切り出し片210が備わる部分も含めて合せ目は、端面同士が付き合わされた状態で接合され、合せ目は全長に亘り隙間の形成が抑制されている。
【0031】
切り出し片210は、
図3に示されるように、材料段階でシェル20本体と一体的に形成され、使用時シェル20本体と同電位を構成する。切り出し片210は側面視矩形状で、内向きの先端は圧着部320に対して並行して延びる平坦な切断面である。切り出し片210は、組み付け時コンタクト30の真下に離間して位置し、圧着部320の全長に亘りこれに対して向い合う。
【0032】
シェル20は、
図3に示されるように、先端に前方に張出した係合片216を備える。係合片216は、組み付け時、内部ハウジング10の係合溝114と係合し、内部ハウジング10を正規組み付け位置に案内する。シェル20は、
図3に示されるように、側面に切り起こされた係止片215、215を備える。係止片215は、組み付け時、内部ハウジング10の係止凹部113と係止し、内部ハウジング10を正規組み付け位置に固定する。
【0033】
〈コネクタの組み付け〉
コネクタ1の組み付けについて図面を参照しつつ説明する。
図4は
図1に示されるコネクタの組み付け後の断面斜視図である。
図5は
図1で示されるコネクタの組み付け後のV−V断面図である。
図6は
図1で示されるコネクタの組み付け後のVI−VI断面図である。
図7は
図1で示されるコネクタの組み付け後のVII−VII断面図である。
図8は
図1に示されるコネクタの組み付け工程を示す工程図であって、(A)はコンタクトと電線との接続工程、(B)はコンタクトと内部コネクタとの組み付け工程、(C)はシェルの組み付け工程、(D)は外部ハウジングの組み付け工程である。
【0034】
本発明の実施形態に係るコネクタ1は、
図8に示されるように、第1から第4までの組み付け工程によって組み付けられる。第1工程(A);電線50にコンタクト30を圧着する工程。外部シース、編組等の処理が完了した電線50に収まる芯線51の先端をストリップし、露出した導体部をコンタクト30後端部に備わる圧着部320に電気的機械的に接続する。
【0035】
第2工程(B);シェル20を内部ハウジング10に組み付ける工程。
図8に示されるように、シェル20を正規組み付け位置よりやや後方の仮組み付け位置から、内部ハウジング10の周面上を前方にスライドさせ正規組み付け位置まで移動し、ここで嵌め合わせる。このスライド過程で、シェル20の先端に備わる係合片216は、内部ハウジング10の両側面のそれぞれ対応する位置に備わる係合溝114に案内されて進み、奥部にある押し切り位置(正規組み付け位置)で、シェル20は、内部ハウジング10に固定される。
【0036】
固定は、シェル20の両側面の中央付近に備わる舌片状の係止片215、215と、内部ハウジングの両側面中央の対応する位置に備わる係止凹部113、113とが係止することでなされる。
【0037】
第3工程(C);コンタクト30を内部ハウジング10に組み付ける工程。内部ハウジング10の内側に形成されたコンタクト収容室112にコンタクト30を組み付ける。コンタクト収容室112に備わる図示しない樹脂製のランスにコンタクト30の図示しない係合突起部が係合することで、コンタクト30は、内部ハウジング10に固定される。コンタクト30を内部ハウジング10に固定した後、シェル20のバレル部240と、電線50の外部シースの面上に折り返された編組とを電気的機械的に接続する。接続は加締め方式による。
【0038】
第4工程(D);外部ハウジング40を組み付ける工程。
図8に示されるように、外部ハウジング40をシェル20で周面が覆われた状態の内部ハウジング10に組み付ける。外部ハウジング40は、内部ハウジング10の先頭部から組み付けられる。外部ハウジング40は、内周面上に備わる図示しない樹脂製のランスがシェル20に備わる図示しない係合突起部に係合することで、正規組み付け位置で固定される。外部ハウジング40の開口部、および収容空間は、シェル20の周面に密接した状態で組み付けられる。外部ハウジング40は、シェル20の前半分が露出する態様で、シェル20と電線50の端部が接続するバレル部240を覆う位置に組み付けられる。
【0039】
〈組み付け完成〉
組み付けが完了したコネクタ1は、
図9に示されるように、コンタクト30を備えた内部ハウジング10の周面全体が概ねシェル20で覆われ、さらにそのシェル20の一部が外部ハウジング40で覆われている。さらに、後端ではバレル部240で編組によってシールドされた電線50と接続している。
【0040】
コンタクト30は、
図4、
図5に示されるように、絶縁性の内部ハウジング10を間に挟む態様で周囲が導電性のシェル20で覆われている。コンタクト30は、断面矩形の接続部310と、その後方に断面略円形の圧着部320とを備える。接続部310の断面中心は、圧着部320の断面中心と投影視ほぼ重なる位置にあり、接続部310の断面外径は、圧着部320の断面外径に比べて大きい。一方、シェル20の本体部200は、断面
矩形の大きさを変えずにコンタクト30全体を覆う。これにより、
図6、
図7に示されるように、圧着部周辺のコンタクト30の外径D1cと、シェル20の内径D1s´との比H1´(D1s´/D1c)は、接続部310周辺のコンタクト30の外径D2cと、シェル20の内径D2sとの比H2(D2s/D2c)に比べて小さくなり(H2<H1´)、このままでは、圧着部のインピーダンスは、電線や、コネクタの他の部分のインピーダンスに対して整合がとれなくなる。
【0041】
本実施形態に係るコネクタ1は、
図4から
図7に示されるように、圧着部320における圧着部320周辺のコンタクト30の外径D1cと、シェル20の見かけ上の内径D1s(切り出し片が圧着部に接近することでこの周囲のシェルの内径が小径化されたのと同様の効果が得られる)との比H1(D1s/D1c)と、接続部310周辺のコンタクト30の外径D2cと、シェル20の内径D2sとの比H2(D2s/D2c)とを切り出し片210を備えることによって調整し、近似的に等しくするものである(H2≒H1)。これにより、圧着部320におけるインピーダンスの上昇が抑制され、圧着部のインピーダンスは、電線50や、コネクタ1の他の部分のインピーダンスに対して整合がとられることとなる。
【0042】
この目的に適うように、切り出し片210は、
図4から
図7に示されるように、コネクタ1の後方に位置する圧着部320に向い合うように、延びる方向と並行して真下に備わる。切り出し片210は、シェル20の底面の中央にある合せ目205から垂直に立ち、ほぼ圧着部320の長手方向(前後方向)の全長に対して向い合うように延びる。切り出し片210の圧着部320に対して向い合う面は、概ね平坦である。これにより、圧着部に向い合うシェル20の見かけ上の内径は一様に小径化される。
【0043】
〈作用原理〉
ノイズやエネルギーロスの問題が生じないように、反射や放射の問題を考慮して伝送経路間のインピーダンスの整合をとることが求められる。すなわち、電線50、回路、およびコネクタ1の各インピーダンスが同じ値をとることが望まれる。コネクタ1のインピーダンスは、コンタクト30の長手方向の場所によって相違する。主にこの相違は、伝送経路であるコンタクト30と、これを覆うシェル20との構造的な変化が生じる場所でおこり、一般的に、コンタクトの外径Dcと、それを覆うシェルの内径Dsとの比H(H=Ds/Dc)をとり、この比Hでもってその構造的な変化が表現される。一般的に、この比Hは接続部310周辺と圧着部320周辺とで相違し、圧着部320周辺の比Hは接続部310周辺の比Hに比べて大きい値をとる。
【0044】
本発明の場合、発明者らは、シェル20が金属圧延材を筒状に加工したものであり、端縁同士の合せ目205が少なくとも一箇所は生じるところに着眼し、ここにシェル20のシールド性を破ることなく、切り出し片210を設けることができること、さらに、この切り出し片が圧着部に接近することで、この周辺のシェルの内径が小径化された場合と同様の効果が得られるとの知見に基づいて、圧着部320のインピーダンスを、電線50や、コネクタ1の他の部分のインピーダンスに合わせられるという技術的思想に想到したものである。
【0045】
切り出し片210は、シェル20本体と材料段階から一体的に連なるもので、その形成はプレス加工の一工程で可能であり、その備わる位置も、もともとある空間内だからコネクタ1の小型化の妨げになることもない。また、切り出し片210は、その形状が金属圧延材からの切り出し加工によって調製できるので、高さや幅の自由度が高く、繊細なインピーダンスの整合をとる上で好適である。さらに、シェル20を分割構成とすることで複数の合せ目205を備え、そこに複数の切り出し片210を構成することも可能である。この場合、より繊細にインピーダンスの整合をとることができる。このように、作業性や
小型化の妨げにならず、簡易な方法でインピーダンスの整合をとることができるコネクタ1が提供できる。
【0046】
〈効果〉本実施形態では、以下に示す効果を得ることができる。
・本実施形態に係るコネクタ1は、金属スリーブや金属テープなどの別途準備が必要な部品を装着することなく、インピーダンスの整合をとることができる。これにより、作業効率の低下や、コストの増加が抑制される。
・本実施形態に係るコネクタ1は、シェル20の内側に切り出し片210を備える。これにより、コネクタ1の小型化を阻害することなく、インピーダンスの整合をとることができる。
【0047】
・本実施形態に係るコネクタ1は、シェル20を形成する金属圧延材のプレス加工片が切り出し片210を構成するものである。これにより、切り出し片210の縦横寸法や形状の自由度が高いので、インピーダンスの整合をとるための調製範囲がひろがる。
・本実施形態に係るコネクタ1は、切り出し片210がシェル20を形成する金属圧延材のプレス加工によって構成されるものである。これにより、切り出し片210のとりうる形状の自由度が高いので、インピーダンスの整合をとるための調製範囲がひろがる。
【0048】
・本実施形態に係るコネクタ1は、シェル20を形成する金属圧延材の周方向の端縁に切り出し片210が備わり、端縁同士の合せ目は塞がれた構造である。これにより、シェル20に穴部が形成されないので、シールド状態が保たれた状態で、インピーダンスの整合をとることができる。
・本実施形態に係るコネクタ1は、圧着部320が長手方向に延びた場合でも、それに対応した切り出し片210を構成することが可能である。これにより、圧着部320の長さに対応したインピーダンスの整合をとることができる。
【0049】
〈他の実施形態〉
以上、本発明を実施形態に基づいて説明したが、本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、発明思想の範囲内で種々の変更が可能である。他の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図10、
図11は他の実施形態に係るシェルの外観斜視図である。先に説明した実施形態と同じ構造のものには同じ符号を付し、変更がある構造には新たな符号を付す。また、重複する説明を避けるために、他の実施形態の特徴部分のみ説明を加える。
【0050】
他の第1実施形態に係る切り出し片A210は、
図10に示されるように、先端に180度の折り返し部を備える。これにより、圧着部320に対応する部分の面積が広がり、繊細なインピーダンスの整合をとるために好適な構造である。他の第2実施形態に係る切り出し片B210は、
図11に示されるように、先端に90度の折り曲げ部を備える。これにより、圧着部320に対応する部分の面積が広がり、繊細なインピーダンスの整合をとるために好適な構造である。このように切り出し片の構造に変更を加えた場合にも、概ね上記した効果が得られる。