(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ブートストラップ方式のハイサイド回路とローサイド回路とを多相交流電力の相ごとに備え、前記ハイサイド回路と前記ローサイド回路とがスイッチング動作を行うことにより前記多相交流電力を発生させて負荷を駆動するインバータ装置であって、
前記多相交流電力の各相に対して備えられたハイサイド回路が前記負荷を駆動する期間において、前記多相交流電力の各相の相電流が極大となるタイミング以後に、前記ハイサイド回路を一定期間にわたってオフ状態に制御する制御部を備えたことを特徴とするインバータ装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の従来技術によるブートストラップ方式のインバータ回路によれば、3相交流モータの回転数が低い場合、ハイサイド回路の駆動用トランジスタQHをオン状態に維持することが困難になり、出力電圧Vu,Vv,Vwを維持することが困難になるという問題がある。
【0008】
この問題について、
図9を参照して説明する。
図9は、従来技術によるインバータ装置の問題を説明するための図であり、U相、V相、W相の各相のハイサイド回路およびローサイド回路の各駆動用トランジスタのゲートに印加される信号の電圧波形を模式的に示す波形図である。
図9において、VGSHは、各相のハイサイド回路を構成する駆動用トランジスタQHのゲート・ソース間電圧を表し、VGSLは、各相のローサイド回路を構成する駆動用トランジスタQLのゲート・ソース間電圧を表している。
【0009】
ここでは説明の簡略化のため、U相のゲート・ソース間電圧VGSH,VHSLの波形に着目して説明する。
図9の例では、前述のスイッチング動作により、時刻t10以前に、ハイサイド回路の駆動用トランジスタQHがオフ状態に制御され、ローサイド回路の駆動用トランジスタQLがオン状態に制御されている。これによりブートストラップ用コンデンサCが低電圧電源VDの電圧で充電された状態となっている。
【0010】
時刻t10で、駆動回路DRHがハイレベルの信号を駆動用トランジスタQHのゲートに供給すると、駆動用トランジスタQHのゲート・ソース間電圧VGSHは、駆動回路DRHから供給される信号のハイレベル、即ち駆動回路DRHに供給される低電圧電源VDの電圧まで上昇し、駆動用トランジスタQHがオン状態になる。この後、前述したように、出力電圧Vu,Vv,Vwの上昇に伴って、ブートストラップ用コンデンサCにより駆動回路DRHの電源ノード端子の電圧が昇圧され、駆動用トランジスタQHのゲート・ソース間電圧がゲート閾値電圧VTH以上に維持される。この出力電圧Vu,Vv,Vwの上昇の初期段階では、駆動用トランジスタQHのゲート・ソース間電圧VGSHは、ブートストラップ用コンデンサCの充電電圧である低電圧電源VDの電圧に概ね等しくなる。
【0011】
しかしながら、出力電圧Vu,Vv,Vwが上昇して駆動回路DRHの電源ノード端子の電圧が昇圧されると、ダイオードDが逆バイアス状態になり、駆動回路DRHは低電圧電源VDから電気的に切り離される。このため、ブートストラップ用コンデンサCのリーク電流または放電電流(以下、「放電電流」と総称する。)が顕在化し、時間の経過に伴ってブートストラップ用コンデンサCの端子間電圧が低電圧電源VDの電圧から徐々に低下する。この結果、駆動回路DRHの電源ノード端子の電圧が低下し、駆動用トランジスタQHのゲート・ソース間電圧VGSHが低下する。そして、時刻t20で、駆動用トランジスタQHのゲート・ソース間電圧VGSHがゲート閾値電圧VTHを下回ると、駆動用トランジスタQHがオフ状態になる。従って、時刻t20以降、出力電圧Vu,Vv,Vwを維持することができなくなる。
【0012】
このような現象は、3相交流モータMの回転数が低い程、顕著になる。すなわち、3相交流モータMの回転数が低い場合、
図9に示す各相の電圧波形の周期が長くなり、駆動用トランジスタQHがオン状態を維持すべき時刻t10から時刻t30までの期間が長くなる。通常、ブートストラップ用コンデンサCの放電電流は略一定であるから、ゲート・ソース間電圧VGSHが低電圧電源VDの電圧からゲート閾値電圧VHに低下するのに要する時間(t20−t10)も略一定である。従って、3相交流モータMの回転数が低い程、駆動用トランジスタQHがオフ状態となる時間(t30−t20)が長くなり、3相交流モータMを駆動することが困難になる。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、交流モータの低回転領域において出力電圧を維持することができるインバータ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様に係るインバータ装置は、ブートストラップ方式のハイサイド回路とローサイド回路とを多相交流電力の相ごとに備え、前記ハイサイド回路と前記ローサイド回路とがスイッチング動作を行うことにより前記多相交流電力を発生させて負荷を駆動するインバータ装置であって、前記多相交流電力の各相に対して備えられたハイサイド回路が前記負荷を駆動する期間において、前記多相交流電力の各相の相電流が極大となるタイミング以後に、前記ハイサイド回路を一定期間にわたってオフ状態に制御する制御部を備えたことを特徴とするインバータ装置の構成を有する。
【0015】
前記インバータ装置において、例えば、前記制御部は、前記交流電力の第1相に続く第2相に対して備えられたローサイド回路がオン状態からオフ状態に移行するタイミングに同期して、前記多相交流電力の第1相に対して備えられたハイサイド回路を一定期間にわたってオフ状態に制御する。
前記インバータ装置において、例えば、前記制御部は、前記多相交流電力の各相に対して備えられたハイサイド回路およびローサイド回路の制御状態を切り替える際のデッドタイム期間において、前記多相交流電力の第1相に対して備えられたハイサイド回路を一定期間にわたってオフ状態に制御する。
前記インバータ装置において、例えば、前記制御部は、前記交流電力の第1相の相電流が減少する期間において、前記多相交流電力の第1相に対して備えられたハイサイド回路を一定期間にわたってオフ状態に制御する。
【0016】
前記インバータ装置において、例えば、前記多相交流電力の各相の相電流を検出する電流検出部を更に備え、前記制御部は、前記電流検出部により検出された各相の相電流の変化量を取得し、該変化量に基づいて前記多相交流電力の各相の相電流が極大となるタイミングを取得する。
前記インバータ装置において、例えば、前記多相交流電力の各相に対して備えられたハイサイド回路を構成するブートストラップ用コンデンサの端子間電圧を検出する電圧検出部を更に備え、前記制御部は、更に、前記電圧検出部により検出された前記ブートストラップ用コンデンサの端子間電圧が、前記多相交流電力の各相に対して備えられたハイサイド回路をオン状態に保つために必要とされる電圧の下限値を下回った場合、前記ハイサイド回路を一定期間にわたってオフ状態に制御する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様によれば、多相交流電力の低い周波数領域においてハイサイド回路の駆動用トランジスタをオン状態に維持することができる。従って交流モータの低回転領域において出力電圧を維持し、交流モータを駆動することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態によるインバータ装置100の構成の一例を概略的に示す回路図である。インバータ装置100は、ブートストラップ方式のハイサイド回路121H,122H,123Hと、ローサイド回路121L,122L,123Lとを3相交流電力(多相交流電力)の相ごとに備え、これらハイサイド回路とローサイド回路とがスイッチング動作を行うことにより上記3相交流電力を発生させて3相交流モータM(負荷)を駆動するものである。
【0020】
[構成の説明]
インバータ装置100の構成を詳細に説明する。
インバータ装置100は、制御部110と、ハイサイド回路121H,122H,123Hと、ローサイド回路121L,122L,123Lとを備える。
本実施形態では、ハイサイド回路121Hとローサイド回路121Lは、3相交流モータMに供給される3相交流電力のU相に対して備えられ、これらハイサイド回路121Hとローサイド回路121Lとがスイッチング動作を行うことによりU相の出力電圧Vuを発生させる。同様に、ハイサイド回路122Hとローサイド回路122Lは、V相の出力電圧Vvを発生させ、ハイサイド回路123Hとローサイド回路123Lは、W相の出力電圧Vwを発生させる。
【0021】
制御部110は、ハイサイド回路121H,122H,123Hおよびローサイド回路121L,122L,123Lの上述のスイッチング動作を制御するものである。本実施形態の特徴として、制御部110は、上記3相交流電力のU相、V相、W相の各相に対して備えられたハイサイド回路121H,122H,123Hが3相交流モータMを駆動する期間において、各相の相電流が極大となるタイミング以後に、上記ハイサイド回路を一定期間にわたってオフ状態に制御する。これにより、ハイサイド回路121H,122H,123Hが3相交流モータを駆動する期間において、これらハイサイド回路を構成する後述のブートストラップ用コンデンサCが再充電される。その詳細は後述する。
【0022】
ハイサイド回路121H,122H,123Hのそれぞれは、ダイオードDと、ブートストラップ用コンデンサCと、駆動回路DRH、ボディダイオードDBHを有する駆動用トランジスタQHとを備える。ダイオードDのアノードは低電圧電源VD(15V)の正電極に接続される。ダイオードDのカソードには、ブートストラップ用コンデンサCの一方の第1電極と共に駆動回路DRHの電源ノード端子が接続される。
【0023】
駆動回路DRHの入力部には、制御部110からU相スイッチング制御信号が供給され、駆動回路DRHの出力部には、電界効果型トランジスタである駆動用トランジスタQHのゲートが接続される。駆動用トランジスタQHのドレインには、高電圧電源VB(69V)の正電極が接続され、そのソースには、ブートストラップ用コンデンサCの他方の第2電極と共に駆動回路DRHのグランドノード端子が接続される。
【0024】
U相のハイサイド回路121Hを構成する駆動用トランジスタQHのソースは、このハイサイド回路121Hの出力部をなし、そのソース電圧はU相の正極性の出力電圧Vuとして3相交流モータMのU相の巻線Lu(インダクタ)に供給される。同様に、V相のハイサイド回路122Hを構成する駆動用トランジスタQHのソース電圧は、V相の出力電圧Vvとして3相交流モータMのV相の巻線Lv(インダクタ)に供給され、W相のハイサイド回路123Hを構成する駆動用トランジスタQHのソース電圧は、W相の出力電圧Vwとして3相交流モータMのW相の巻線Lw(インダクタ)に供給される。
【0025】
一方、ローサイド回路121L,122L,123Lのそれぞれは、駆動回路DRLと、ボディダイオードDBLを有する駆動用トランジスタQLとを備える。ここで、駆動回路DRLの電源ノード端子には低電圧電源VDの正電極が接続される。また、駆動回路DRLの入力部には、制御部110からU相スイッチング制御信号が供給され、駆動回路DRLの出力部には、電界効果型トランジスタである駆動用トランジスタQLのゲートが接続される。駆動用トランジスタQLのソースには、駆動回路DRLのグランドノード端子と共に高電圧電源VBおよび低電圧電源VDの各負電極が接続される。
【0026】
U相のローサイド回路121Lを構成する駆動用トランジスタQLのドレインは、このローサイド回路121Lの出力部をなし、そのドレイン電圧は、U相の負極性の出力電圧Vuとして3相交流モータMのU相の巻線Luに供給される。同様に、V相のローサイド回路122Lを構成する駆動用トランジスタQLのドレイン電圧は、V相の負極性の出力電圧Vvとして3相交流モータMのV相の巻線Lwに供給され、W相のローサイド回路123Lを構成する駆動用トランジスタQLのドレイン電圧は、W相の負極性の出力電圧Vwとして3相交流モータMのW相の巻線Lwに供給される。
【0027】
なお、本実施形態では、低電圧電源VDの電圧を15Vとし、高電圧電源VBの電圧を69Vとするが、これら各電源の電圧はこの例に限定されない。また、駆動回路DRHの「グランドノード端子」なる用語の「グランド」は、駆動回路DRHの電源ノード端子の電位に対する低電位を意味し、必ずしも0Vの電位を与える接地を意味しない。
【0028】
[動作の説明]
次に、本実施形態によるインバータ装置100の動作を説明する。
図2を参照して、インバータ装置100の動作を概略的に説明する。
図2は、インバータ装置100の動作を概略的に説明するための波形図であり、各相のハイサイド回路およびローサイド回路が備える駆動用トランジスタのゲート・ソース間電圧VGSH,VGSLと、U相の相電流Iuと、ブートストラップ用コンデンサCの端子間電圧VBCの各波形を示す。
【0029】
なお、
図2において、各相のローサイド回路の駆動用トランジスタのゲート・ソース間電圧VGSLの波形は、パルス幅変調された波形となっている。このパルス幅変調により相電流の大きさを調整し、これにより3相交流モータMの所望の回転トルクを得ている。
【0030】
図2に示すように、インバータ装置100のハイサイド回路121H,122H,123Hと、ローサイド回路121L,122L,123Lのスイッチング動作は、60度の位相角に相当する期間を1つのステージとして、ステージST1〜ST6の各波形で示される6つの動作から組み立てられている。
【0031】
図2において、時刻t1から時刻t2のステージST1では、U相のハイサイド回路121HとV相のローサイド回路122LとW相のハイサイド回路123Hがオン状態であり、その他のハイサイド回路およびローサイド回路はオフ状態である。時刻t2から時刻t3のステージST2では、U相のハイサイド回路121HとV相のローサイド回路122LとW相のローサイド回路123Lがオン状態であり、その他のハイサイド回路およびローサイド回路はオフ状態である。
【0032】
時刻t3から時刻t4のステージST3では、V相のハイサイド回路122HとW相のローサイド回路123LとU相のハイサイド回路121Hがオン状態であり、その他のハイサイド回路およびローサイド回路はオフ状態である。時刻t4から時刻t5のステージST4では、V相のハイサイド回路122HとW相のローサイド回路123LとU相のローサイド回路121Lがオン状態であり、その他のハイサイド回路およびローサイド回路はオフ状態である。
【0033】
時刻t5から時刻t6のステージST5では、W相のハイサイド回路123HとU相のローサイド回路121LとV相のハイサイド回路122Hがオン状態であり、その他のハイサイド回路およびローサイド回路はオフ状態である。時刻t6から時刻t7のステージST6では、W相のハイサイド回路123HとU相のローサイド回路121LとV相のローサイド回路122Lがオン状態であり、その他のハイサイド回路およびローサイド回路はオフ状態である。
【0034】
インバータ装置100は、上述のステージST1〜ST6の各動作を繰り返すことにより3相交流電力を発生させて3相交流モータMに供給する。この3相交流電力により、3相交流モータMの各相の巻線Lu,Lv,Lwに流れる電流の方向が各ステージごとに切り替えられて巻線Lu,Lv,Lwに回転磁界を発生させ、この回転磁界により3相交流モータMが回転する。
【0035】
本実施形態では、ハイサイド回路121H,122H,123Hがオン状態となって3相交流モータMを駆動する期間において、U相、V相、W相の各相の相電流が極大となるタイミング以後に、上記ハイサイド回路を一定期間にわたってオフ状態に制御する。
図2の例では、U相に対して備えられたハイサイド回路121Hが3相交流モータMを駆動するステージST1〜ST3の期間において、U相の相電流Iuが極大となる時刻t21から時刻t3にかけて、ハイサイド回路121Hをオフ状態に制御する。これにより、各ハイサイド回路を構成するブートストラップ用コンデンサCを再充電するが、その詳細は後述する。
【0036】
なお、本実施形態では、時刻t21および時刻t3は、前述の
図9に示す時刻t20よりも前の時刻に設定されている。即ち、時刻t21および時刻t3は、ブートストラップ用コンデンサCの放電電流により駆動用トランジスタQHのゲート・ソース間電圧VGSHがゲート閾値電圧VTHを下回る時刻の前の時刻である。従って、時刻t21および時刻t3では、ブートストラップ用コンデンサCの放電電流によって駆動用トランジスタQHはオフ状態になっていない。
【0037】
次に、
図3および
図4を参照して、ブートストラップ方式のハイサイド回路121Hの基本的動作について、ブートストラップ用コンデンサCの充電動作と、ブートストラップ用コンデンサCによる昇圧動作を説明する。ここで、
図3は、インバータ装置100の動作を説明するための説明図であり、U相のハイサイド回路121Hが備えるブートストラップ用コンデンサCの充電動作と昇圧動作を説明するための回路図である。また、
図4は、インバータ装置100の上記動作を説明するための波形図である。
【0038】
図4の時刻t0以前では、
図3(a)に示すように、ハイサイド回路121Hおよびローサイド回路121Lは共にオフ状態であり、出力電圧Vuは0Vである。この場合、ハイサイド回路121Hを構成する駆動回路DRHは、ローレベルの信号を出力し、これにより駆動用トランジスタQHのゲート・ソース間電圧VGSHは0Vとされ、この駆動用トランジスタQHはオフ状態になる。一方、ローサイド回路121Lの駆動回路DRLもローレベルの信号を出力し、これにより駆動用トランジスタQLがオフ状態になる。
【0039】
続いて、
図4の時刻t0では、
図3(b)に示すように、ローサイド回路121Lがオン状態になる。即ち、ローサイド回路121Lの駆動回路DRLはハイレベルの信号を出力し、これにより駆動用トランジスタQLがオン状態になり、そのドレイン・ソース間電圧VDSLが0Vになる。この結果、出力電圧Vuとして0Vが出力される。ここで、ローサイド回路121Lの駆動用トランジスタQHのドレイン・ソース間電圧VDSLが0Vになることは、ハイサイド回路121Hの駆動用トランジスタQHのソース電圧が0Vになることを意味する。このため、時刻t0で、ハイサイド回路121Hのブートストラップ用コンデンサCにダイオードDを介して低電圧電源VDの電圧(15V)が印加され、このブートストラップ用コンデンサCが充電される。この充電に伴ってブートストラップ用コンデンサCの端子間電圧VBCが上昇する。
【0040】
続いて、
図4の時刻t1では、
図3(c)に示すように、ローサイド回路121Lがオフ状態になり、ハイサイド回路121Hがオフ状態になる。即ち、時刻t1の直前に、ローサイド回路121Lの駆動回路DRLがローレベルの信号を出力し、これにより駆動用トランジスタQLがオフ状態になる。また、ハイサイド回路121Hの駆動回路DRHは、時刻t1で駆動用トランジスタQHのゲート閾値電圧VTH以上のハイレベル(15V)の信号を出力し、これにより駆動用トランジスタQHがオン状態になる。この結果、U相の出力電圧Vuが上昇する。
【0041】
U相の出力電圧Vuが上昇すると、その上昇分だけ、ブートストラップ用コンデンサCを介して駆動回路DRHの電源ノード端子の電圧が上昇し、この駆動回路DRHが出力する信号レベルが上昇する。これにより駆動用トランジスタQHのゲート・ソース間電圧VGSHが出力電圧Vuの上昇分だけ昇圧される。
【0042】
仮にブートストラップ用コンデンサCに放電電流が存在しないとすれば、駆動用トランジスタQHのゲート・ソース間電圧VGSHが昇圧されることにより、駆動用トランジスタQHのゲート・ソース間電圧VGSHがゲート閾値電圧VTH以上の低電圧電源VDの電圧(15V)に維持され、この駆動用トランジスタQHがオン状態に維持される。実際には、ブートストラップ用コンデンサCの放電電流の存在により、このブートストラップ用コンデンサCの端子間電圧VBCは、時刻t1以降、定電圧電源VDの電圧(15V)から徐々に低下する。
【0043】
次に、
図5および
図6を参照して、ブートストラップ用コンデンサCの再充電について説明する。ここで、
図5は、インバータ装置100の動作を説明するための説明図であり、U相のハイサイド回路121Hが備えるブートストラップ用コンデンサCの再充電動作を説明するための回路図である。また、
図6は、インバータ装置100の上記再充電動作を説明するための波形図である。なお、
図6の時刻t1,t2,t21,t3,t4は、
図2の時刻t1,t2,t21,t3,t4に対応し、
図6の時刻t1は、
図4の時刻t1に対応している。
【0044】
前述したように、
図6の時刻t1に対応する
図4の時刻t1では、駆動用トランジスタQHがオン状態になり、U相の出力電圧Vuが上昇する。この後、ブートストラップ用コンデンサCの放電電流により、
図6の時刻t1以降に示すように、ブートストラップ用コンデンサCの端子間電圧VBCが、ブートストラップ用コンデンサCの放電電流により時間の経過に伴って低電圧電源VDの電圧(15V)から徐々に低下する。
【0045】
続いて、時刻t21から時刻t3の期間において、
図5(a)に示すように、ハイサイド回路121Hが一時的にオフ状態になる。即ち、制御部110の制御の下、ハイサイド回路121Hの駆動回路DRHがローレベルの信号を駆動用トランジスタQHのゲートに出力する。ここで、駆動回路DRHが出力するローレベルは、駆動回路DRHのグランドノード端子の電圧により供給され、この駆動回路DRHのグランドノード端子の電圧は、駆動用トランジスタQHのソース電圧に等しい。従って、駆動用トランジスタQHのソース電圧とゲート電圧が等しくなり、駆動用トランジスタQHのゲート・ソース間電圧VGSHが0Vになる。この結果、時刻t21から時刻t3の期間において、駆動用トランジスタQHがオフ状態になる。
【0046】
時刻t21で駆動用トランジスタQHがオフ状態になると、ハイサイド回路121Hの駆動用トランジスタQHを介して3相交流モータMの巻線Luに供給される相電流Iuが消失するが、この相電流Iuの消失により巻線Luに誘導される電圧により、低電圧電源VDからダイオードDおよびブートストラップ用コンデンサCを介して巻線Luに流れ込む電流IB’が発生する。この電流IB’によりブートストラップ用コンデンサCが再充電され、ブートストラップ用コンデンサCの端子間電圧VBCが低電圧電源VDの電圧(15V)にまで回復される。これにより、ブートストラップ用コンデンサCの放電電流による端子間電圧VBCの低下分が補われる。
【0047】
また、時刻t21で駆動用トランジスタQHがオフ状態になると、このときに巻線Luに誘導される電圧により、上述の電流IB’に加え、ローサイド回路121Lの駆動用トランジスタQLのボディダイオードBDLを介して高電圧電源VBの負電極から巻線Luに流れ込む電流IDBLが発生する。これにより、時刻t21から時刻t3において駆動用トランジスタQHがオフ状態になっても、見かけ上、巻線Luの相電流Iuが維持される。従って、時刻t1から時刻t4の期間において3相交流モータMが継続的に駆動される。
【0048】
本実施形態では、制御部110は、3相交流電力のU相(第1相)に続くV相(第2相)に対して備えられたローサイド回路122Lがオン状態からオフ状態に移行するタイミング、即ちステージが切り替わるタイミングに同期して、上記3相交流電力のU相(第1相)に対して備えられたハイサイド回路121Hを時刻t21から時刻t3の一定期間にわたってオフ状態に制御する。本実施形態では、時刻t21から時刻t3の期間として、上記3相交流電力の各相に対して備えられたハイサイド回路およびローサイド回路の制御状態を切り替える際の相間の貫通電流を防止するために設定されたデッドタイム期間が利用される。制御部110は、上述のデッドタイム期間において、上記3相交流電力のU相(第1相)に対して備えられたハイサイド回路121Hを一定期間にわたってオフ状態に制御する。
【0049】
上述のデッドタイム期間は、60度の位相角ごとに前述のステージST1からステップST6を切り替えるための既定の信号の基づいて設定される期間である。従って、上述の時刻t21から時刻t3の期間でハイサイド回路121Hをオフ状態に制御するための信号を別途生成する必要はない。このデッドタイム期間では、全相のハイサイド回路およびローサイド回路がオフ状態となる。
【0050】
通常、相電流は、ステージが切り替わるときに極大値を示す。従って、ステージが切り替わる際のデッドタイムの期間においてハイサイド回路をオフ状態とすれば、このハイサイド回路のブートストラップ用コンデンサCを再充電するときの電流IB’が大きくなるため、短時間でブートストラップ用コンデンサCを再充電することができる。ただし、上述の例に限定されず、ブートストラップ用コンデンサCを再充電するためにハイサイド回路を一時的にオフ状態とする期間は任意に設定できる。
【0051】
続いて、時刻t3において、制御部110の制御の下、ハイサイド回路121Hがオン状態に復帰すると、出力電圧Vuが再び上昇し、この上昇分だけ駆動回路DRHの電源モード端子の電位が昇圧され、この駆動回路DRHが出力する信号レベルも昇圧される。この結果、ハイサイド回路121Hの駆動用トランジスタQHを介して供給される出力電圧Vuが低電圧電源VDの電圧(15V)に回復する。
【0052】
この後、ブートストラップ用コンデンサCの放電電流により、前述と同様に、ブートストラップ用コンデンサCの端子間電圧VBCが徐々に低下するが、上述の再充電により、時刻t3からデッドタイム期間の直前の時刻t31までの期間において、駆動用トランジスタQHのゲート・ソース間電圧VGSHはゲート閾値電圧VTH以上に維持される。このため、時刻t3から時刻t31の期間において駆動用トランジスタQHがオン状態に維持され、この駆動用トランジスタQHを介して、高電圧電源VBの正電極の電圧(69V)が出力電圧Vuとして3相交流モータMに出力される。
【0053】
上述の動作の説明において、時刻t21および時刻t3は、ブートストラップ用コンデンサCの放電電流により駆動用トランジスタQHのゲート・ソース間電圧VGSHがゲート閾値電圧VTHを下回る時刻(
図9の時刻t20)の前の時刻であるものとしているので、ブートストラップ用コンデンサCの放電電流により駆動用トランジスタQHのゲート・ソース間電圧VGSHがゲート閾値電圧VTHを下回る前にブートストラップ用コンデンサCが再充電される。これにより、ハイサイド回路が3相交流モータMを駆動すべき全期間において、駆動用トランジスタQHをオン状態に維持することができる。
【0054】
ここで、時刻t21および時刻t3の設定手法として、例えば、ブートストラップ用コンデンサCの容量と駆動回路DRHの消費電流からブートストラップ用コンデンサCの放電電流を算出し、この放電電流に基づいて、3相交流モータMの回転に応じてブートストラップ用コンデンサCの端子間電圧が低下する前に再充電が実施されるように、ブートストラップ用コンデンサCの容量値を調整する。これにより、駆動用トランジスタQHのゲート・ソース間電圧VGSHがゲート閾値電圧VTHを下回る時刻の前に時刻t21および時刻t3を設定することができる。
【0055】
以上、本実施形態によれば、ハイサイド回路が3相交流モータMを駆動する期間において、駆動用トランジスタQHのゲート・ソース間電圧VGSHがゲート閾値電圧VTHを下回る前にブートストラップ用コンデンサCを再充電することにより、駆動用トランジスタQHをオン状態に維持することができる。また、ブートストラップ用コンデンサCの再充電の期間において、見かけ上、相電流(3相交流モータMの励磁電流)を維持することもできる。従って、3相交流モータMの回転が低回転になり、3相交流電力の周波数が低下しても、3相交流モータMを駆動する期間においてハイサイド回路の駆動用トランジスタQHをオン状態に維持することができ、この3相交流モータMをスムーズに加速・減速させることが可能になる。
【0056】
また、本実施形態によれば、ローサイド回路121L,122L,123Lをオン状態とすることなく、ブートストラップ用コンデンサCを再充電することができる。従って、3相交流モータMの回転を維持しつつ、ハイサイド回路の出力電圧の低下を抑制することが可能になる。
【0057】
更に、本実施形態によれば、相電流が極大となるデッドタイム期間においてハイサイド回路の駆動用トランジスタQHを一定期間にわたってオフ状態にするので、ブートストラップ用コンデンサCの充電時間を短縮することができ、短時間で駆動用トランジスタQHをオン状態に復帰させることが可能になる。
更にまた、本実施形態によれば、ブートストラップ用コンデンサCを再充電することによりゲート・ソース間電圧VGSHの低下を抑制するので、ブートストラップ用コンデンサCの容量を小さくすることができる。
更にまた、本実施形態によれば、
図2の時刻t21〜t3の区間TにおいてU相のローサイド回路をオンしないため、この区間Tにおいて、U相の電圧VGSHと電圧VGSLとの間のデッドタイムを確保する必要がない。V相、W相についても同様である。
【0058】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態を説明する。
上述の第1実施形態では、相電流が極大になるデッドタイム期間でハイサイド回路をオフ状態に制御してブートストラップ用コンデンサCを再充電するものとしたが、本実施形態では、相電流が減少する期間において、ハイサイド回路を一時的にオフ状態に制御してブートストラップ用コンデンサCを再充電する。
【0059】
即ち、本実施形態では、前述の第1実施形態による
図1の制御部110が、3相交流電力の第1相(例えばU相)の相電流(例えばIu)が減少する期間において、この第1相に対して備えられたハイサイド回路(例えばハイサイド回路121H)を一定期間にわたってオフ状態にする。例えば、前述の
図2のU相の相電流Iuの波形において、相電流Iuが極大となる時刻t21から次のデッドタイム期間の開始時点である時刻t31までの間の任意の一定期間において、ハイサイド回路121Hをオフ状態に制御する。その他については、上述の第2実施形態と同様である。
【0060】
なお、ハイサイド回路をオフ状態にする期間の設定は、相電流の波形を設計段階で予め推定することにより行うことができる。即ち、設計段階で各相の相電流の波形を算出または実測し、その波形の減少区間を特定する。そして、ブートストラップ用コンデンサCの充電に必要な相電流と時間を考慮して上で、その減少区間の任意の区間を、ハイサイド回路がオフ状態となる期間として設定する。ただし、この例に限定されず、どのような手法を用いて相電流の減少区間を把握してもよい。
【0061】
本実施形態によれば、3相交流モータMの駆動中にハイサイド回路がオフ状態になっても3相交流モータMの回転が阻害されない。即ち、相電流が減少する期間では3相交流モータMの回転子が慣性運動により回転するため、3相交流モータMの回転数は略一定となる。このため、相電流が減少する期間でハイサイド回路が一時的にオフ状態になっても、3相交流モータMの回転数は殆ど変化しない。従って、相電流が減少する期間でハイサイド回路を一定期間にわたってオフ状態に制御すれば、3相交流モータMの回転に影響を与えることなく、ブートストラップ用コンデンサCを再充電することが可能になる。
【0062】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態を説明する。
図7は、本実施形態によるインバータ装置300の構成の一例を概略的に示す図である。インバータ装置300は、前述の第1実施形態または第2実施形態によるインバータ装置の構成において、更に、各相の出力電圧Vu,Vv,Vwに対応する相電流Iu,Iv,Iwをそれぞれ検出する電流検出部ISENu,ISENv,ISENwを備える。
【0063】
また、本実施形態において、制御部310は、第1実施形態または第2実施形態の制御部110の機能に加え、電流検出部ISENu,ISENv,ISENwの検出信号Sisenから各相の相電流Iu,Iv,Iwの変化量を取得し、この変化量に基づいて各相の相電流Iu,Iv,Iwが極大となるタイミングを取得する機能を有する。その他については、上述の第1実施形態または第2実施形態と同様である。
【0064】
本実施形態によれば、3相交流モータMの回転数の変化に応じて、相電流Iu,Iv,Iwが極大となるタイミングを的確に把握することができる。従って、ブートストラップ用コンデンサCの再充電を安定的に行うことが可能になる。
【0065】
なお、第3実施形態では、上述の第1実施形態または第2実施形態の構成を前提としたが、必ずしも上述の実施形態の構成を前提とする必要はなく、デッドタイム期間とは無関係に、制御部310において、電流検出部ISENu,ISENv、ISENwの検出結果にのみ基づいてブートストラップ用コンデンサCの再充電のタイミングを決定してもよい。
【0066】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態を説明する。
図8は、本実施形態によるインバータ装置400の構成例を概略的に示す図である。インバータ装置400は、前述の第1実施形態から第3実施形態によるインバータ装置の構成において、更に、3相交流電力の各相に対して備えられたハイサイド回路121H,122H,123Hを構成するブートストラップ用コンデンサCの端子間電圧を検出する電圧検出部VSENu,VSENv、VSENwを備える。
【0067】
また、本実施形態において、制御部410は、前述の第1実施形態から第3実施形態における制御部の機能に加えて、更に、電圧検出部VSENu,VSENv、VSENwの検出信号Svsenに基づいてハイサイド回路を一定期間にわたってオフ状態に制御する機能を有する。即ち、本実施形態では、制御部410は、ブートストラップ用コンデンサCの端子間電圧が、3相交流電力の各相に対して備えられたハイサイド回路121H,122H,123Hをオン状態に保つために必要とされるゲート・ソース間電圧の所定の下限値(ゲート閾値電圧VTH以上の所定電圧)を下回った場合、ハイサイド回路121H,122H,123Hをそれぞれ一定期間にわたってオフ状態に制御する。その他については、上述の第1実施形態から第3実施形態と同様である。
【0068】
本実施形態によれば、例えば、ブートストラップ用コンデンサCの放電電流が増加し、ブートストラップ用コンデンサCの端子間電圧の低下が顕著になった場合に、ブートストラップ用コンデンサCの再充電を適宜実施することができる。従って、ブートストラップ用コンデンサCの放電電流が増加しても、駆動用トランジスタQHを安定的にオン状態に維持することが可能になる。
【0069】
なお、第4実施形態では、上述の第1実施形態から第3実施形態の構成を前提としたが、必ずしも上述の実施形態の構成を前提とする必要はなく、デッドタイム期間とは無関係に、電圧検出部VSENu,VSENv、VSENwの検出結果にのみ基づいてブートストラップ用コンデンサCの再充電のタイミングを決定してもよい。
【0070】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
例えば、上述の実施形態では、ハイサイド回路およびローサイド回路のスイッチング動作を制御する制御部110の制御の下にハイサイド回路を一定期間にわたってオフ状態に制御するものとしたが、ハイサイド回路が備える駆動用トランジスタQHを一定期間にわたってオフ状態に制御することができれば、どうような手段を用いて駆動用トランジスタQHをを制御してもよい。
また、上述の実施形態では、3相交流電力(多相交流電力)を発生させる場合を例として説明したが、任意の交流電力を発生させるインバータ装置に本発明を適用することができる。