【0007】
以下、本発明に係る動脈硬化又は動脈硬化性疾患の治療剤及び診断薬について詳細に説明する。
本発明の治療剤は、葉酸受容体β(FRβ)に結合する抗体と細胞毒素又は細胞毒性剤とをコンジュゲートした複合体若しくは当該抗体を有効成分として含むことに特徴がある。すなわち、本発明の治療剤は、上記複合体及び上記抗体のいずれか一方又は両方を有効成分として含んでいる。また、本発明の診断薬は、葉酸受容体β(FRβ)に結合する抗体を有効成分として含むことに特徴がある。本明細書で使用される「葉酸受容体β」又は「FRβ」は、哺乳動物の動脈硬化巣に存在する活性化マクロファージの細胞表面に発現される受容体タンパク質を意味する。哺乳動物には、ヒトを含む霊長類、ウシ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジなどの家畜動物、イヌ、ネコなどのペット動物などが含まれる。好ましい哺乳動物はヒトである。
本明細書で使用される「葉酸受容体β(FRβ)に結合する抗体」は、FRβタンパク質を認識して該タンパク質に結合することができる抗体であり、以下に述べるように、該抗体は、無傷の抗体であってもよいし、あるいは、活性化マクロファージとの結合親和性を有する限り、抗体フラグメントや合成抗体(例えば組換え抗体、二重特異性抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体など)であってもよい。これらの抗体はまた、動脈硬化巣に存在する活性化マクロファージ以外の細胞の表面にFRβを発現するような場合には、活性化マクロファージ及び当該細胞の両方に結合することを可能にする。抗体をヒトに対して使用する場合、好ましい抗体はヒト抗体又はヒト化抗体である。
本明細書で使用する「細胞毒素」又は「細胞毒性剤」は、活性化マクロファージを死滅させる又は障害する能力をもつ任意の物質を指す。
1 抗体
本発明において、上記抗体は、動脈硬化巣に存在する活性化マクロファージのFRβに特異的に結合するものである。ここで、「特異的」とは、上記抗体が上記マクロファージのFRβと免疫学的反応により結合するが、FRβ又はそれと80%以上の配列同一性をもつタンパク質以外のタンパク質とは実質的に結合しないことを意味する。この点で、上記抗体は、FRのアイソフォームの1つであるFRα(例えばヒトFRαはヒトFRβとの間に約70%のアミノ酸配列同一性がある(特表2008−500025))と結合しないことが望ましい。
本発明で使用可能な抗体は、抗原であるFRβタンパク質又はその部分ペプチドに結合可能な抗体分子全体又はそのフラグメントである。部分ペプチドは、5以上、好ましくは7以上、より好ましくは8以上の連続アミノ酸を有する。一般に、抗原性エピトープ又は抗原決定基は、約5〜約10アミノ酸からなり、かつ連続的アミノ酸配列又は不連続的アミノ酸配列を有する。
本発明の抗体は、FRβと結合する、好ましくは特異的に結合する限り、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト抗体、それらの抗体フラグメントのいずれであってもよい。
本発明の抗体はまた、いずれの免疫グロブリン(Ig)クラス(IgA,IgG,IgE,IgD,IgMなど)及びサブクラス(IgG1,IgG2,IgG3,IgG4,IgA1,IgA2など)のものであってもよい。また、免疫グロブリンの軽鎖は、κ又はλのいずれであってもよい。
本発明の抗体フラグメントは、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)
2、Fv、重鎖モノマー又はダイマー、軽鎖モノマー又はダイマー、1つの重鎖と1つの軽鎖からなるダイマーなどを含む。このようなフラグメントの作製方法は当該技術分野で公知であり、例えばパパイン、ペプシン等のプロテアーゼによる抗体分子の消化、或いは公知の遺伝子工学的手法により得ることができる。
本発明の抗体はまた、組換え抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体などであってもよい。組換え抗体には、例えば一本鎖抗体(scFv)、二重特異性抗体などが含まれる。二重特異性抗体は、2つの異なる結合特異性を有する抗体を指し、例えばdiabody、ScDb(single chain diabody),dsFv−dsFvなどが含まれる(浅野竜太郎,生化学77(12)1497−1500,2005参照)。
以下、本発明において使用するための抗体の作製方法について詳述する。
本発明において使用可能な抗体を作製するにあたり、最初に免疫原(抗原)として使用するタンパク質、すなわちFRβタンパク質又はその部分ペプチドを調製する。ここで部分ペプチドは、5以上、好ましくは7以上の連続アミノ酸からなる配列を有するものである。免疫原として使用することができるFRβタンパク質の由来は、標的とするFRβと特異的に結合することができる抗体を誘起できるものであるものであれば特に限定されず、例えばヒト、マウス等の哺乳動物に由来するFRβタンパク質又はその部分ペプチドを免疫原として使用する。本発明では、免疫原として、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるヒトFRβタンパク質又はその部分ペプチド、あるいは配列番号2に示すアミノ酸配列からなるマウスFRβタンパク質又はその部分ペプチドを使用することができる。免疫原として、配列番号1に示すアミノ酸配列からなるヒトFRβタンパク質又はその部分ペプチドを使用することが特に好ましい。
かかるFRβタンパク質又はその部分ペプチドは、FRβのアミノ酸配列情報(例えば配列番号1など)に基づき、当該技術分野で公知の手法、例えば固相ペプチド合成法などにより調製することができる。ヒトを含む他の哺乳動物由来のFRβの配列情報は、例えばGenBank(NCBI、米国)、EMBL(EBI、欧州)などから入手可能である。
あるいは、遺伝子組換え手法を利用して、FRβタンパク質又はその部分ペプチドを生産することも可能である。簡単に説明すると、FRβタンパク質をコードするDNAの配列を適当なタンパク質産生用ベクターに連結し、標的FRβタンパク質又はその部分ペプチドが発現し得るように宿主中に導入し、該宿主中でFRβタンパク質又はその部分ペプチドを生産することができる。この手法は当業者に周知であり、この場合に採用するベクター、宿主細胞、形質転換方法、培養方法、標的タンパク質の精製方法は、当業者が適宜選択することができる。遺伝子組換え手法については、例えば、Sambrookら,Molecular Cloning A Laboratory Manual,2版,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)、Ausubelら,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons(1998)などを参照することができる。
上記のようにして調製したFRβタンパク質又はその部分ペプチドを免疫原として、本発明の抗体を製造することができる。あるいは、標的FRβタンパク質又はその部分ペプチドをコードするDNAを組み込んだ発現ベクター、或いは該タンパク質又はその部分ペプチドを発現する哺乳動物細胞を免疫原として使用して、本発明の抗体を製造してもよい。
本発明のポリクローナル抗体は、上記のようにして作製した免疫原を、哺乳動物、例えばウサギ、ラット、マウスなどに免疫して、抗血清を得ることによって製造することができる。具体的には、上記免疫原を、必要に応じて免疫原性を高めるためのアジュバントと共に、哺乳動物に静脈内、皮下又は腹腔内投与する。アジュバントとしては、市販の完全フロイントアジュバント、不完全フロイントアジュバント、水酸化アルミニウム、ミョウバン(Alum)、ムラミルペプチド(細菌細胞壁関連ペプチドの一種)等を使用することができる。その後、数日から数週間の間隔で、1〜7回の免疫を行い、最後の免疫日から1〜7日後に、ELISA等の酵素免疫測定法などによって抗体価を測定し、最大の抗体価を示した日に採血して抗血清を得る。このようにして取得した抗血清は、そのまま使用してもよいし、FRβタンパク質又はその部分ペプチドを固定化したカラムで1回又は数回精製処理を行った後に使用してもよい。
本発明で使用可能なモノクローナル抗体は、以下のようにして作製することができる。すなわち、上記のようにして免疫感作した哺乳動物から得た抗体産生細胞(例えば脾臓由来リンパ球細胞、リンパ系細胞など)と自己抗体産生能のないミエローマ細胞からハイブリドーマを調製し、ハイブリドーマをクローン化し、免疫に用いた抗原に対して特異的親和性を示すモノクローナル抗体を産生するクローンを選択することによって製造することができる。かかるハイブリドーマの製造方法は当該技術分野で周知であり、例えばKohler及びMilsteinら(Nature(1975)256:495−96)の方法に準じて行うことができる。
本発明のモノクローナル抗体の例として、ヒトFR−β発現細胞により免疫されたマウスの脾細胞と、マウスミエローマ細胞とを融合させることにより得られたマウス−マウスハイブリドーマクローン36b又はクローン94bが産生するモノクローナル抗体等を挙げることができる。
また本発明のモノクローナル抗体の他の例として、マウスFR−β発現細胞により免疫されたラットの脾細胞と、ラットミエローマ細胞とを融合させることにより得られたラット−ラットハイブリドーマクローンCL5又はクローンCL10が産生するモノクローナル抗体等を挙げることができる。
本発明は、上記のようにして作製したハイブリドーマが有する核酸であって、該ハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体のH鎖又はL鎖を含む抗体をコードする遺伝子を包含する。これらの核酸はハイブリドーマから通常の遺伝子工学的手法により得ることができ、またその塩基配列も公知の塩基配列決定法により決定することができる。例として、マウス−マウスハイブリドーマクローン36b細胞が産生するモノクローナル抗体のH鎖可変領域遺伝子及びL鎖可変領域遺伝子の塩基配列をそれぞれ配列番号3及び4に、マウス−マウスハイブリドーマクローン94b細胞が産生するモノクローナル抗体のH鎖可変領域遺伝子及びL鎖可変領域遺伝子の塩基配列をそれぞれ配列番号5及び6に示す。また他の例として、ラット−ラットハイブリドーマクローンCL5が産生するモノクローナル抗体のH鎖可変領域遺伝子及びL鎖可変領域遺伝子の塩基配列をそれぞれ配列番号7及び8に、ラット−ラットハイブリドーマクローンCL10が産生するモノクローナル抗体のH鎖可変領域遺伝子及びL鎖可変領域遺伝子の塩基配列をそれぞれ配列番号9及び10に示す。
本発明は、上記のようにして作製したハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体のH鎖可変領域遺伝子(例えば配列番号3、5、7、9)、L鎖可変領域遺伝子(例えば配列番号4、6、8、10)に制限されず、これらの遺伝子の変異体を包含する。かかる変異体としては例えば以下のものを挙げることができる。
(i)上記H鎖又はL鎖可変領域遺伝子において、1個〜数個の塩基の欠失、置換、付加又は挿入を有し、かつFRβに結合する同等もしくは同質の生物学的活性を有するタンパク質をコードする変異体;(ii)上記H鎖可変領域コード核酸又はL鎖可変領域コード核酸と実質的に同一の塩基配列を有し、かつFRβに結合する同等もしくは同質の生物学的活性を有するタンパク質をコードする変異体;及び(iii)上記H鎖可変領域コード核酸又はL鎖可変領域コード核酸の相補的配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつFRβに結合する同等もしくは同質の生物学的活性を有するタンパク質をコードする変異体。
本発明のH鎖及びL鎖可変領域遺伝子の関連で使用する「数個」という用語は、1〜20個、好ましくは1〜15個、より好ましくは1〜10個を指す。
本発明のH鎖及びL鎖可変領域遺伝子の関連で使用する「実質的に同一」とは、上記のようにして作製したハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体のH鎖可変領域遺伝子(例えば配列番号3、5、7、9)、L鎖可変領域遺伝子(例えば配列番号4、6、8、10)と、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、96%、97%、98%又は99%の同一性を有することを意味する。なお、2つの配列間の同一性%は、配列が共有する同一な位置の数の関数である(すなわち、同一性%=同一な位置の数/位置(例えば、一部重複する位置)の総数x100)。
2つの配列間の同一性%の決定は、例えばカーリン(Karlin)及びアルトシュール(Altschul)(1993)(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873−5877)において改変されたカーリン及びアルトシュール(1990)(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2264)のアルゴリズムを用いて行うことができる。この種のアルゴリズムは、アルトシュールら(1990)J.Mol.Biol.215:403のNBLAST及びXBLASTプログラムに組み込まれている。また、比較用のギャップが入ったアライメントを得るためには、アルトシュールら(1997)Nucleic Acids Res.25:3389に記載されたGapped BLASTを用いるとよい。または、分子間の遠隔的な関連を検出する反復検索を行うためにPSI−BLASTを用いることもできる。BLAST、Gapped BLAST及びPSI−BLASTプログラムを用いる際には、それぞれのプログラム(例えば、XBLAST及びNBLAST)のデフォルトパラメーターを使用することができる(http://www.ncbi.nlm.nih.gov.参照)。配列比較のために使用できるアルゴリズムのその他の好ましい例として、例えばマイヤーズ(Myers)及びミラー(Miller)(1988)、CABIOS 4:11−17のアルゴリズムである。この種のアルゴリズムは、GCC配列整列化ソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム(version2.0)に組み込まれている。
本明細書において使用する「ストリンジェントな条件」とは、これに限定されるものではないが、例えば30℃〜50℃で、3〜4×SSC(150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウム、pH7.2)、0.1〜0.5%SDS中で1〜24時間のハイブリダイゼーション、より好ましくは40℃〜45℃で、3.4×SSC、0.3%SDS中で1〜24時間のハイブリダイゼーション、そしてその後の洗浄を含む。洗浄条件としては、例えば、2×SSCと0.1%SDSを含む溶液、および1×SSC溶液、0.2×SSC溶液による室温での連続した洗浄などの条件を挙げることができる。ただし、上記条件の組み合わせは例示であり、当業者であればハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを決定する上記の又は他の要素(例えば、ハイブリダーゼーションプローブの濃度、長さ及びGC含量、ハイブリダイゼーションの反応時間など)を適宜組み合わせることにより、上記と同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
本明細書において「同等」とは、例えばFRβ抗原に対する結合特異性、結合親和性といった生物学的な活性が実質的に同一であることを指す。またこの用語は、実質的に同質の活性を有する場合を含んでもよく、ここでいう「同質」の活性とは、FRβ抗原に対する特異的結合性といった活性の性質が同一であること、或いは生理的性質、薬理的性質、又は生物学的性質が同一であることをいう。
これらのハイブリダイゼーションにおける「ストリンジェントな条件」の他の例については、例えばSambrookら(上記)、Ausubelら(上記)などに記載されており、これらの条件を本発明に使用してもよい。
上記変異体は、天然に生じたものであってもよいし、人為的に変異を導入したものであってもよい。人為的な変異の導入は、例えば部位特異的変異導入法(Sitespecific mutagenesis)を用いて常法により導入することができる(Proc Natl Acad Sci USA.,1984 81:5662;Sambrookら(上記))。
本発明では、上記のように作製したハイブリドーマに基づき、遺伝子組換え技術を用いて組換え抗体を作製することもできる。具体的には、作製したハイブリドーマからモノクローナル抗体をコードする遺伝子をクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞等の哺乳類細胞株、大腸菌、酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞といった宿主に導入して、宿主において組換え抗体を生産させることができる(P.J.Delves.,ANTIBODY PRODUCTION ESSENTIAL TECHNIQUES.,1997 WILEY、P.Shepherd and C.Dean.,Monoclonal Antibodies.,2000 OXFORD UNIVERSITY PRESS,J.W.Goding.,Monoclonal Antibodies:principles and practice.,1993 ACADEMIC PRESS)。
さらに、トランスジェニック動物作製技術を用いて目的抗体の遺伝子が内在性遺伝子に組み込まれたトランスジェニックなマウス、ウシ、ヤギ、ヒツジ又はブタを作製し、FRβタンパク質又はその部分ペプチドを抗原として免疫したのち、そのトランスジェニック動物の血液、ミルク中などからその抗体遺伝子に由来する抗体を大量に取得することも可能である。また、上記トランスジェニック動物のなかには、内因性抗体遺伝子を欠失したかつヒト抗体遺伝子を保有するマウスやウシなどのヒト抗体産生動物も知られているので、このような動物を利用する場合には、ヒトFRβに結合する完全ヒト抗体を得ることができる(例えば国際公開WO 96/9634096、WO 96/33735、WO98/24893など)。さらにまた、当該動物の抗体産生細胞(例えばB細胞)とミエローマ細胞から作製したハイブリドーマをin vitroで培養する場合には、上記のような手法で、モノクローナル抗体を産生することもできる。このとき、培養する細胞種の特性、試験研究の目的及び培養方法等の種々の条件に応じて、ハイブリドーマを増殖、維持及び保存させ、培養上清中にモノクローナル抗体を産生させるために用いられるような既知栄養培地又は既知の基本培地から誘導調製されるあらゆる栄養培地を用いて実施することが可能である。
産生されたモノクローナル抗体は、当該技術分野において周知の方法、例えばプロテインAあるいはプロテインGカラムによるクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、硫安塩析法、ゲル濾過、アフィニティクロマトグラフィー等を適宜組み合わせることにより精製することができる。
本発明で使用可能な抗体はまた、キメラ抗体であることができる。本発明のキメラ抗体は、例えばMorrison et al.,1984,Proc.Natl.Acad.Sci.,81:6851−6855;Neuberger et al.,1984,Nature,312:604−608;Takeda et al.,1985,Nature,314:452−454に記載される技術を用いて製造することができる。これらの技術では、適当な抗原特異性を有するマウス抗体分子からの遺伝子を適当な生物学的活性を有するヒト抗体分子からの遺伝子と共にスプライシングする。キメラ抗体は、異なる動物種に由来する異なる部分が存在する分子である。キメラ抗体として、例えば、抗FRβマウス又はラットモノクローナル抗体のH鎖及び/又はL鎖可変領域と他の哺乳動物由来の免疫グロブリン定常領域とを有する抗体を挙げることができる。
本発明においてはまた、例えばマウス又はラットmAb由来の可変領域又は超可変領域を含む可変領域の一部と、ヒト免疫グロブリンの定常領域、又はヒト免疫グロブリンの可変領域の一部及び定常領域、とを有する抗体、例えば「ヒト化抗体」を挙げることができる。ヒト化抗体の場合、マウス由来の抗体領域部分は約10%未満が望ましい。
上記ヒト化抗体は、例えば抗ヒトFRβマウスモノクローナル抗体(又は抗マウスFRβラットモノクローナル抗体)のH鎖可変領域及び/又はL鎖可変領域のアミノ酸配列中の少なくとも1つの相補性決定領域(CDR1、2及び3)を含むアミノ酸配列を含むことができる。さらに具体的には、以下の抗体を例示することができる。
(1)以下の(a)、(b)、(c)又は(d)に示すポリヌクレオチドによりコードされるH鎖可変領域のアミノ酸配列中の少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含むアミノ酸配列を含む抗体:
(a)配列番号3に示す塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(b)配列番号3に示す塩基配列において1個〜数個の塩基の欠失、置換、付加又は挿入を含み、かつFRβに結合する生物学的活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号3に示す塩基配列と少なくとも90%の配列同一性を有し、かつFRβに結合する生物学的活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号3に示す塩基配列の相補的配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつFRβに結合する生物学的活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
(2)以下の(a)、(b)、(c)又は(d)に示すポリヌクレオチドによりコードされるL鎖可変領域のアミノ酸配列中の少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含むアミノ酸配列を含む抗体:
(a)配列番号4に示す塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(b)配列番号4に示す塩基配列において1個〜数個の塩基の欠失、置換、付加又は挿入を含み、かつFRβに結合する生物学的活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号4に示す塩基配列と少なくとも90%の配列同一性を有し、かつFRβに結合する生物学的活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号4に示す塩基配列の相補的配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつFRβに結合する生物学的活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
(3)以下の(a)、(b)、(c)又は(d)に示すポリヌクレオチドによりコードされるH鎖可変領域のアミノ酸配列中の少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含むアミノ酸配列を含む抗体:
(a)配列番号5に示す塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(b)配列番号5に示す塩基配列において1個〜数個の塩基の欠失、置換、付加又は挿入を含み、かつFRβに結合する生物学的活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号5に示す塩基配列と少なくとも90%の配列同一性を有し、かつFRβに結合する生物学的活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号5に示す塩基配列の相補的配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつFRβに結合する生物学的活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
(4)以下の(a)、(b)、(c)又は(d)に示すポリヌクレオチドによりコードされるL鎖可変領域のアミノ酸配列中の少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含むアミノ酸配列を含む抗体:
(a)配列番号6に示す塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(b)配列番号6に示す塩基配列において1個〜数個の塩基の欠失、置換、付加又は挿入を含み、かつFRβに結合する生物学的活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号6に示す塩基配列と少なくとも90%の配列同一性を有し、かつFRβに結合するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号6に示す塩基配列の相補的配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつFRβに結合する生物学的活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
(5)以下の(a)、(b)、(c)又は(d)に示すポリヌクレオチドによりコードされるH鎖可変領域のアミノ酸配列中の少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含むアミノ酸配列を含む抗体:
(a)配列番号7に示す塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(b)配列番号7に示す塩基配列において1個〜数個の塩基の欠失、置換、付加又は挿入を含み、かつFRβに結合する生物学的活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号7に示す塩基配列と少なくとも90%の配列同一性を有し、かつFRβに結合する生物学的活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号7に示す塩基配列の相補的配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつFRβに結合する生物学的活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
(6)以下の(a)、(b)、(c)又は(d)に示すポリヌクレオチドによりコードされるL鎖可変領域のアミノ酸配列中の少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含むアミノ酸配列を含む抗体:
(a)配列番号8に示す塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(b)配列番号8に示す塩基配列において1個〜数個の塩基の欠失、置換、付加又は挿入を含み、かつFRβに結合する生物学的活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号8に示す塩基配列と少なくとも90%の配列同一性を有し、かつFRβに結合する生物学的活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号8に示す塩基配列の相補的配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつFRβに結合する生物学的活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
(7)以下の(a)、(b)、(c)又は(d)に示すポリヌクレオチドによりコードされるH鎖可変領域のアミノ酸配列中の少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含むアミノ酸配列を含む抗体:
(a)配列番号9に示す塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(b)配列番号9に示す塩基配列において1個〜数個の塩基の欠失、置換、付加又は挿入を含み、かつFRβに結合する生物学的活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号9に示す塩基配列と少なくとも90%の配列同一性を有し、かつFRβに結合する生物学的活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号9に示す塩基配列の相補的配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつFRβに結合する生物学的活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
(8)以下の(a)、(b)、(c)又は(d)に示すポリヌクレオチドによりコードされるL鎖可変領域のアミノ酸配列中の少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含むアミノ酸配列を含む抗体:
(a)配列番号10に示す塩基配列からなるポリヌクレオチド;
(b)配列番号10に示す塩基配列において1個〜数個の塩基の欠失、置換、付加又は挿入を含み、かつFRβに結合する生物学的活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(c)配列番号10に示す塩基配列と少なくとも90%の配列同一性を有し、かつFRβに結合するタンパク質をコードするポリヌクレオチド;
(d)配列番号10に示す塩基配列の相補的配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつFRβに結合する生物学的活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
上記マウスドナー配列に適するヒトアクセプター抗体配列は、マウス可変領域のアミノ酸配列の既知のヒト抗体のH鎖又はL鎖の配列とのコンピュータ比較によって同定されうる。そのフレームワーク配列がマウスL鎖可変領域及びH鎖可変領域のフレームワーク領域と高い配列同一性を表すヒト抗体からの可変ドメインは、マウスフレームワーク配列を用いてNCBI BLAST(米国)を利用するKabatデータベースに照会することによって同定することができる。このとき、マウスドナー配列と80%以上、好ましくは90%以上の配列の同一性を共有するアクセプター配列を選択することができる。ラットドナー配列についても同様に、それに適するヒトアクセプター抗体配列を同定することができる。
このようにして同定されたヒトアクセプター抗体H鎖及びL鎖配列をコードする塩基配列をベースにして、その可変領域の一部をマウス抗体のものと置換するように組換えを行う。得られたヒト/マウスキメラH鎖及びL鎖をコードするDNAを発現ベクターに組込み、適当な宿主細胞に形質転換することによって、ヒト化抗体をクローン化、産生することができる。
上記のようなキメラ抗体、ヒト化抗体は、ヒトへの適用に際し、抗原性を低減できるという利点を有する。
本発明の抗体はまた、例えば米国特許第4,946,778号;Bird,1988,Science 242:423−426;Huston et al.,1988,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879−5883;Ward et al.,1989,Nature 334:544−546に記載される技術を用いて作製した、FRβタンパク質又はその部分ペプチドに対する一本鎖抗体(scFv)であってもよい。本発明の一本鎖抗体は、例えば本発明のモノクローナル抗体のH鎖可変領域(例えば配列番号3、5、7、9)及びL鎖可変領域遺伝子(例えば配列番号4、6、8、10)の配列情報に基づき、常法に従ってそれぞれH鎖フラグメントとL鎖フラグメントを調製し、アミノ酸架橋によってFv領域のH鎖フラグメントとL鎖フラグメントとを連結し、一本鎖のポリペプチドを得ることにより形成することができる。
2.複合体
本発明の治療剤の有効成分としての複合体は、上記1.に説明した、活性化マクロファージの表面に発現する分子標的としてのFRβと結合する抗体と、該マクロファージ(及び場合により、その他の細胞)の細胞死を引き起こす細胞毒素又は細胞毒性剤とから基本的に構成される。
ここで、細胞死は、細胞の死滅、殺傷又は障害を意味し、細胞毒素又は細胞毒性剤によって引き起こされる。細胞毒素は、いわゆるトキシンとも呼ばれるタンパク質であるのに対して、細胞毒性剤は、低分子量の化学療法剤であり、前者には、微生物、特に細菌由来のトキシンが含まれ、一方、後者には、アルキル化剤、代謝拮抗剤、抗生物質、分子標的薬、植物アルカロイド、ホルモン剤などが含まれる。
本発明の複合体が上記抗体と細胞毒素からなるとき、これらの成分は融合タンパク質の形態をとることができる。この場合、細胞毒素は、好ましくは抗体タンパク質のC末端に、必要に応じてリンカー(例えばペプチド)を介して、結合することができる。一方、本発明の複合体が上記抗体と細胞毒性剤からなるとき、これらの成分は、結合のための官能基を介して共有結合又は非共有結合によって結合することができる。
本発明によれば、動脈硬化巣に存在する活性化マクロファージを認識し、当該活性化マクロファージに対して細胞死を誘発することができ、その結果として、動脈硬化巣を退縮することができる。
2.1 細胞毒素又は細胞毒性剤
本発明に使用することができる細胞毒は、動脈硬化巣に存在する活性化マクロファージの細胞死を誘導する目的で使用することができる任意の細胞毒素であり、例えば緑膿菌外毒素(Pseudomonas aeruginosa exotoxin)、リシンA鎖(ricin A chain)、脱糖鎖リシンA鎖(deglycosylated ricin A chain)、リボゾーム不活性化タンパク質(a ribosome inactivating protein)、アルファサルシン(alpha−sarcin)、ゲロニン(gelonin)、アスペルギリン(aspergillin)、リストリクトシン(restrictocin)、リボヌクレアーゼ(ribonuclease)、エポドフィロトキシン(epidophyllotoxin)、ジフテリアトキシン(diphtheria toxin)などを挙げることができる。本発明においては、特に、緑膿菌外毒素を使用することが好ましい。
あるいは、本発明に使用することができる細胞毒性剤は、アルキル化剤、代謝拮抗剤、抗生物質、分子標的薬、植物アルカロイド、ホルモン剤などから適宜選択可能である。
2.2 リコンビナントイムノトキシンなどの複合体
本発明の複合体の1つであるリコンビナントイムノトキシンを作製するために、上記のようにして作製された本発明の抗体又はその部分ペプチドは細胞毒素とコンジュゲートされる。すなわち、本発明に係るリコンビナントイムノトキシンとは、標的(すなわちFRβタンパク質)に結合する本発明の上記抗体が、細胞毒素又はそのサブユニットにコンジュゲートされたキメラ分子である。本発明においては、植物や細菌等に由来する細胞毒素、ヒト起源の細胞毒素、合成の細胞毒素を使用することができる。
本発明の抗体と細胞毒素とのコンジュゲートは、以下のようにして行うことができる。すなわち、抗体分子中の反応性基(例えばアミノ基、カルボキシル基、水酸基等)を利用し、該反応性基と反応しうる官能基をもつ細胞毒と該抗体とを接触させることによって、本発明のリコンビナントイムノトキシンを得ることができる。あるいは、本発明の抗体のH鎖可変領域遺伝子(配列番号3、5、7、9)及びL鎖可変領域遺伝子(配列番号4、6、8、10)の配列情報に基づき、遺伝子工学的手法により、H鎖フラグメント又はL鎖フラグメントのいずれかを細胞毒素との融合タンパク質として作製し、細胞毒素と融合していない他方のフラグメントと一緒に、SH結合を介して一本鎖抗体又は二本鎖抗体を形成させることによって、本発明のリコンビナントタンパク質を作製してもよい。SH結合を介したH鎖フラグメントとL鎖フラグメントの結合は、βメルカプトエタノールやジチオスレイトールなどの還元剤などによってメルカプト基(−SH基)を露出後、両者を混和することによって達成することができる。
本発明のリコンビナントイムノトキシンの一例として、それぞれ上記マウス−マウスハイブリドーマクローン36b細胞又はクローン94bが産生するモノクローナル抗体と緑膿菌外毒素とのリコンビナントイムノトキシンであるリコンビナントイムノトキシンが挙げられる。マウス−マウスハイブリドーマクローン36bと緑膿菌害毒外のリコンビナントイムノトキシンは、例えば配列番号11に示すポリペプチドからなるH鎖と、配列番号12に示すポリペプチドからなるL鎖との一本鎖又は二本鎖抗体である。またマウス−マウスハイブリドーマクローン94bが産生するモノクローナル抗体と緑膿菌外毒素とのリコンビナントイムノトキシンは、例えば配列番号13に示すポリペプチドからなるH鎖と、配列番号14に示すポリペプチドからなるL鎖との一本鎖又は二本鎖抗体である。
本発明の複合体のもう1つの例は、上記のFRβに結合する抗体と細胞毒性剤との結合体である。一般に、抗体の定常領域、好ましくはC末端側に細胞毒性剤を結合することができる。結合は、抗体蛋白質のNH2基、SH基、OH基、COOH基などを利用し、これと反応性の官能基をもつ細胞毒性剤とを、場合により例えば炭化水素リンカーを介して、化学的に結合することによって実施できる。
3 治療剤
以上で説明した本発明の抗体若しくは本発明の複合体は、動脈硬化巣に存在する活性化マクロファージに特異的に高発現しているFRβを標的とし、当該マクロファージの細胞死を誘導することができる。このように、本発明の抗体若しくは本発明のリコンビナントイムノトキシン等の複合体は、動脈硬化巣に存在する活性化マクロファージを有意に減少させることで、動脈硬化巣を退縮することができる。より具体的には、本発明の抗体若しくは本発明のリコンビナントイムノトキシン等の複合体を動脈硬化巣に作用させることで、アテローム性プラークを退縮させる動脈の肥厚及び硬化を正常な状態に近づけることができる。
本発明の抗体若しくは本発明の複合体は、これを有効成分として含む動脈硬化の治療剤若しくは動脈硬化性疾患の治療剤として製剤化される。すなわち、本発明に係る治療剤は、治療上有効量の複合体若しくは本発明の抗体を含むものである。ここで、「治療上有効量」とは、所与の症状や用法について治療効果を与え得る量を指し、動脈硬化及び/又は動脈硬化性疾患の治療対象の性別、年齢、体重、疾患の重篤度、投与経路など様々な要因に応じて変化する。例えば、所与の用法に従って、60kgの成人に、本発明の複合体が1日当たり30μg以上、好ましくは40μg以上の量で投与される量を治療上有効量として含むことができる。
本発明に係る治療剤は、本発明の抗体若しくは本発明の複合体に加えて、生理学的に許容し得る製薬上の添加物、例えば希釈剤、保存剤、可溶化剤、乳化剤、アジュバント、酸化防止剤、等張化剤、賦形剤及び担体などの1種以上を含むことができる。また、動脈硬化や動脈硬化性疾患の治療に効果的な公知の他の薬剤との混合物としてよい。かかる薬剤としては、特に限定されないが、血中コレステロールを低下させる薬剤:プラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン等のHMG−CoA還元酵素阻害薬;プロブコール等のプロブコール製剤;コレスチラミン、コレスチミド等の陰イオン交換樹脂剤;クリノフィブラート、ベザフィブラート、フェノフィブラート等のフィブラート系製剤等を挙げることができる。また、かかる薬剤としては、血中コレステロールを低下させる薬剤以外にも、例えば、抗血小板薬や、高血圧、糖尿病、高尿酸血症に対する薬剤を挙げることもできる。
本発明に係る治療剤は、経口投与、或いは注射、例えばボーラス注射又は連続注入による非経口投与(すなわち静脈内又は筋肉内投与)用に製剤化することができる。また、本発明に係る治療剤は、動脈注射として製剤化してもよい。注射用製剤は、保存剤を添加して、例えばアンプル又は複数回投与容器中の単位投与剤形として提供することができる。あるいは、本発明の治療剤は、好適なビヒクル、例えば発熱物質不含の滅菌水などで使用前に再構成するための凍結乾燥粉剤としてもよい。
投与経路は、経口経路、並びに静脈内、筋肉内、動脈内、皮下及び腹腔内の注射などが考えられる。あるいは、患者の動脈硬化巣が存在する動脈に動脈注射により投与することによって、直接本発明の治療剤を動脈硬化巣に接触させてもよい。
本発明の治療剤による治療は、動脈硬化及び動脈硬化性疾患を挙げることができる。ここで、動脈硬化性疾患としては、動脈硬化に起因するに疾患・症状であれば何ら限定されず、如何なる疾患・症状を挙げることができる。例えば、動脈硬化性疾患としては、脳梗塞、脳出血、虚血性心疾患、大動脈瘤、大動脈解離、腎硬化症、腎不全及び閉塞性動脈硬化症などを挙げることができる。
本発明の治療剤を適用する対象は特に限定されず、健常者、動脈硬化に罹患している患者、動脈硬化性疾患に罹患している患者、動脈硬化及び/又は動脈硬化性疾患を治療している患者、動脈硬化及び/又は動脈硬化性疾患の予防を検討している健常者等のいずれであってもよい。またその対象はヒトに限らず、ヒト以外の哺乳動物であってもよい。例えば、ヒト以外の哺乳動物として、ヒト、マウス、ラット、サル、ウサギ、イヌ、ネコなどを例として挙げることができる。
4.診断薬
本発明の診断薬は、上記1.に説明した、活性化マクロファージの表面に発現する分子標的としてのFRβと結合する抗体を有効成分としている。すなわち、上記1.に説明した抗体を、動脈硬化及び/又は動脈硬化性疾患の診断に使用することができる。具体的に、上記1.に説明した抗体、すなわち活性化マクロファージのFRβに特異的に結合する抗体により、動脈硬化及び/又は動脈硬化性疾患を診断することができる。ここで、動脈硬化及び/又は動脈硬化性疾患を診断するとは、より具体的に、動脈硬化巣(動脈硬化病変部位)を検出することを含む意味である。
更に具体的には、上記1.に説明した抗体を放射線物質に結合させてシンチグラムで可視化したり、核磁気共鳴装置(MRI)の造影剤や超音波診断装置のマイクロバブル造影剤に上記1.に説明した抗体を結合させて可視化する分子イメージングを適用することで、動脈硬化巣(動脈硬化病変部位)を検出することができる。特に、FRβを発現する活性化マクロファージは、脂質成分を多く含む不安定な活動性のある動脈硬化病変(不安定プラークとも称する)に存在する。したがって、上記1.に説明した抗体を使用することにより、この不安定プラークを有する活動性のある動脈硬化病変を検出することができる。なお、動脈硬化巣には、不安定プラークと安定プラークの2種類が存在することが知られている(Libby P et al:Nat Med 8;1257−1262,2002)。そして臨床上、脳梗塞や心筋梗塞を起こすプラークの破裂に伴う血栓形成は、不安定プラークに起こると考えられている。したがって、この不安定プラークを安定プラークから区別して検出できれば、プラークの破裂に伴う血栓形成の高リスク部位を診断することができる。
なお、本発明に係る診断薬は、上記1.に説明した抗体を有効成分として含む診断薬として製剤化される。すなわち、本発明に係る診断薬は、診断上有効量の上記抗体を含むものである。ここで、「診断上有効量」とは、所与の症状や用法について診断可能な量を指し、動脈硬化及び/又は動脈硬化性疾患の診断対象の性別、年齢、体重、疾患の重篤度、投与経路など様々な要因に応じて変化する。例えば、所与の用法に従って、60kgの成人に、本発明の複合体が1日当たり30μg以上、好ましくは40μg以上の量で投与される量を診断上有効量として含むことができる。
本発明に係る診断薬は、上記1.に説明した抗体に加えて、生理学的に許容し得る製薬上の添加物、例えば希釈剤、保存剤、可溶化剤、乳化剤、アジュバント、酸化防止剤、等張化剤、賦形剤及び担体などの1種以上を含むことができる。
本発明に係る診断薬は、経口投与、或いは注射、例えばボーラス注射又は連続注入による非経口投与(すなわち静脈内又は筋肉内投与)用に製剤化することができる。また、本発明に係る診断薬は、動脈注射として製剤化してもよい。注射用製剤は、保存剤を添加して、例えばアンプル又は複数回投与容器中の単位投与剤形として提供することができる。あるいは、本発明の診断剤は、好適なビヒクル、例えば発熱物質不含の滅菌水などで使用前に再構成するための凍結乾燥粉剤としてもよい。
投与経路は、経口経路、並びに静脈内、筋肉内、動脈内、皮下及び腹腔内の注射などが考えられる。あるいは、患者の動脈硬化巣が存在する動脈に動脈注射により投与することによって、直接本発明の診断薬を動脈硬化巣に接触させてもよい。
本発明の診断薬による診断は、動脈硬化及び動脈硬化性疾患を挙げることができる。ここで、動脈硬化性疾患としては、動脈硬化に起因するに疾患・症状であれば何ら限定されず、如何なる疾患・症状を挙げることができる。例えば、動脈硬化性疾患としては、脳梗塞、脳出血、虚血性心疾患、大動脈瘤、大動脈解離、腎硬化症、腎不全及び閉塞性動脈硬化症などを挙げることができる。
本発明の診断薬を適用する対象は特に限定されず、健常者、動脈硬化に罹患している患者、動脈硬化性疾患に罹患している患者、動脈硬化及び/又は動脈硬化性疾患を治療している患者、動脈硬化及び/又は動脈硬化性疾患の予防を検討している健常者等のいずれであってもよい。またその対象はヒトに限らず、ヒト以外の哺乳動物であってもよい。例えば、ヒト以外の哺乳動物として、ヒト、マウス、ラット、サル、ウサギ、イヌ、ネコなどを例として挙げることができる。
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
【実施例4】
【0011】
抗ヒトFRβ抗体及びリコンビナントイムノトキシンによる動脈硬化の治療効果の検証
動物モデルとして、15週齢のapolipoprotein E(ApoE)ノックアウトマウス(ApoE−/−)を使用した。本実施例においては、実施例3で調製したリコンビナントイムノトキシンを使用し(イムノトキシン投与群)、実施例1で調整した抗体(抗ヒトFRβマウスモノクローナル抗体)を使用し(抗体投与群)、また対照として、FRβとの結合性が欠損している偽薬(PE38と抗ヒトFRβマウスモノクローナル抗体94bのVHとの融合タンパク質)を使用した(偽薬投与群)と生理食塩水を用いた(コントロール群)。イムノトキシン投与群、抗体投与群、偽薬投与群及びコントロール群にはそれぞれ5個体のマウスを割り当てた。15週齢より17週齢までの間、三日間隔で計5回、2.5μg相当のリコンビナントイムノトキシンあるいは偽薬を生理食塩水0.1mlで希釈して尾静脈より静注した。抗体投与群には、1個体あたり0.3mgの抗体を生理食塩水0.1mlで希釈して尾静脈より静注した。コントロール群には0.1mlの生理食塩水を尾静脈より静注した。
〔免疫組織化学的解析〕
投与後28日目にマウスを安楽死させ、心臓ならびに上行大動脈を切除して凍結組織標本を作製し、上記実施例2と同様にして免疫組織化学的解析を行った。
大動脈洞の動脈硬化性病変は、大動脈弁基部の動脈硬化病変が最初に現れる部位から50μmおきに15箇所で調べられ、Oil red−Oで染色した。大動脈病変を定量化するために、顕微鏡下の各々のイメージは、デジタル化されて、Sion Imageソフトウェアを用いて分析した。Oil red−O陽性の領域は、全体の横断面の血管壁域と比較分析した。各々の動物の15箇所の平均値を測定した。
イムノトキシン投与群、抗体投与群、偽薬投与群及びコントロール群の動脈硬化病変のOil Red O染色結果の一例を
図2に示す。なお、
図2(a)はイムノトキシン投与群の動脈硬化病変のOil Red O染色結果であり、
図2(b)はコントロール群の動脈硬化病変のOil Red O染色結果であり、
図2(c)は偽薬投与群の動脈硬化病変のOil Red O染色結果であり、
図2(d)は抗体投与群の動脈硬化病変のOil Red O染色結果である。また、大動脈病変を定量した結果を
図3に示す。
図2及び
図3に示すように、イムノトキシン投与群及び抗体投与群では、動脈硬化巣が有意に退縮していることが明らかとなった。特に、本実施例では、
図3に示すように、イムノトキシン投与群における動脈硬化が31%、抗体投与群における動脈硬化が43%抑制された。このようにOil Red O染色で示される脂質成分を多く含む不安定な活動性のある動脈硬化病変を縮小させたことより、このイムノトキシン及び抗体は、それぞれ活動性のある不安定な動脈硬化病変の治療に使用できることが示唆された。
〔末梢血単核球の測定〕
上述した免疫組織化学的解析において、イムノトキシン投与群、抗体投与群、偽薬投与群、及びコントロール群のマウス群を安楽死させた際、1000U/mlのヘパリンでコートした注射針で心臓より全血を採血し、単級数を血球測定板により測定した。
測定結果を
図4に示す。
図4に示すように、イムノトキシン投与群、抗体投与群、偽薬投与群、およびコントロール群において末梢血単球数に有意差は認められなかった。
〔血中脂質レベルの測定〕
また、血中総コレステロールを飽食時にT−CHOカイノス(カイノス社)を用いて測定した。測定結果を
図5に示す。
図5に示すように、イムノトキシン投与群、抗体投与群、偽薬投与群、およびコントロール群において血中総コレステロール値に有意差は認められなかった。
〔動脈硬化巣のFRβ発現性マクロファージ数の測定〕
さらに、イムノトキシン投与群、抗体投与群、偽薬投与群及びコントロール群について、投与終了後28日目に得たマウスの心臓ならびに上行大動脈から凍結組織標本を作製し、免疫組織化学的解析を行った。顕微鏡下の各々のイメージは、デジタル化されて(DS−Fil,Nikon,Tokyo,Japan)、イメージソフトウェア(NIS−Elements,Nikon)を用いて分析した。大動脈弁基部の動脈硬化病変巣においてFRβ発現細胞数を算定し、FRβ発現細胞数をイムノトキシン群、抗体投与群、偽薬投与群及びコントロール群で比較検討した。
イムノトキシン投与群、抗体投与群、偽薬投与群及びコントロール群の免疫染色結果を
図6−1及び6−2に示す。なお、
図6−1(a)はコントロール群の動脈硬化病変の免疫染色結果であり、
図6−1(b)はイムノトキシン投与群の動脈硬化病変の免疫染色結果であり、
図6−2(c)は偽薬投与群の動脈硬化病変の免疫染色結果であり、
図6−2(d)は抗体投与群の動脈硬化病変の免疫染色結果である。また、動脈硬化病変マクロファージ数の計測結果を、イムノトキシン投与群、抗体投与群、偽薬投与群及びコントロール群について比較した結果を
図7に示す。
図6−1、6−2及び
図7に示すように、イムノトキシン投与群及び抗体投与群ではFRβ発現性マクロファージが除去され、さらに動脈硬化巣が抑制されていることが分かる。
以上の結果から、実施例3で調製したリコンビナントイムノトキシン及び実施例1で調整した抗体は、動脈硬化巣に存在する活性化マクロファージを細胞死に至らしめ、その結果、動脈硬化巣、特に活動性のある不安定な動脈硬化巣を退縮させる薬理作用を有することが明らかとなった。そして、これらの結果から、動脈硬化巣に存在するFRβ発現性マクロファージを選択的に除去することで、動脈硬化の治療、特に活動性のある不安定な動脈硬化病変の治療、及び動脈硬化性疾患の治療に効果的であることが示された。
また、FRβ発現マクロファージは、Oil Red O染色で示される脂質成分を多く含む不安定な活動性のある動脈硬化病変に存在することが示された。この結果より、不安定プラークを有する活動性のある動脈硬化病変を、FRβを指標として検出することができる。すなわち、実施例2で作製したような抗マウスFRβラットモノクローナル抗体等の抗FRβ抗体を用いることで、不安定プラークを有する活動性のある動脈硬化病変を特定することができる。