(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態に係る変速機操作用倍力装置100について説明する。
【0011】
まず、
図1を参照して、変速機操作用倍力装置100の全体構成について説明する。
【0012】
変速機操作用倍力装置100は、運転者によるシフト操作力を倍力して変速機構101を介して変速機(図示省略)に伝達するものである。変速機操作用倍力装置100は、主としてトラックやバスなどの大型車両に搭載される大型の手動変速機に適用される。
【0013】
変速機操作用倍力装置100は、運転者によるシフト操作力が入力される入力ロッド10と、入力ロッド10に対して軸方向に相対移動可能に設けられて入力ロッド10の移動に応じて軸方向に移動する出力ロッド20と、出力ロッド20の推力を倍力する倍力機構30と、入力ロッド10と出力ロッド20と倍力機構30とを収装するハウジング1とを備える。
【0014】
入力ロッド10は、軸方向に摺動自在にハウジング1に収装される中空のロッドである。入力ロッド10は、一端部10aがハウジング1内に収装され、他端部10bがハウジング1の外部に露出する。入力ロッド10の一端部10aは、倍力機構30における後述するロッド31に連結される。入力ロッド10の他端部10bは、運転室内に設けられたシフトレバー(図示省略)にリンク機構(図示省略)を介して連結される。
【0015】
入力ロッド10は、運転者がシフトレバーを操作することによって軸方向に移動する。入力ロッド10は、例えばH型シフトゲージに沿って操作されるシフトレバーの場合には、運転者がシフトレバーを縦方向に移動させていずれかのギアに入れようとした場合に軸方向のいずれかの方向に移動する。
【0016】
リンク機構は、入力ロッド10の外周に突出する連結部を有して入力ロッド10の他端部10bに連結されるジョイントと、入力ロッド10の中心軸に対して斜めに傾斜して設けられてジョイントの連結部とシフトレバーとを連結するロッドとを備える。これにより、ロッドを通じて伝達されるシフト操作力は、入力ロッド10の中心軸から外周にずれた位置に伝達される。
【0017】
よって、運転者がシフトレバーを操作すると、入力ロッド10には、軸方向に移動させる力だけでなく、軸中心に回転させる力が作用する。つまり、入力ロッド10は、運転者によるシフトレバーの操作によって、軸方向に移動するとともに軸中心に回転する。なお、ロッドに代えて、ワイヤによって連結部とシフトレバーとを連結してもよい。
【0018】
入力ロッド10は、軸方向に沿って形成される長穴部15を有する。長穴部15には、その長手方向に摺動自在なように、後述するピン41が挿入される。この長穴部15とピン41の構成については、後で
図2を参照しながら詳細に説明する。
【0019】
出力ロッド20は、軸方向に摺動自在にハウジング1に収装される中空のロッドである。出力ロッド20は、入力ロッド10と同軸に設けられる。出力ロッド20は、入力ロッド10の移動に応じて、入力ロッド10と同じ方向へ移動する。出力ロッド20は、その両端がハウジング1の外部に露出する。出力ロッド20の中空部には、入力ロッド10と倍力機構30のロッド31とが摺動自在に収装される。
【0020】
出力ロッド20は、後述するストライカ40を介して変速機構101に連結される。出力ロッド20は、運転者のシフト操作による推力が倍力機構30で倍力されることによって軸方向に移動する。これにより、運転者によるシフト操作力を倍力して変速機に伝達することができる。
【0021】
入力ロッド10と出力ロッド20とが出入りするハウジング1の一端開口部1aと、出力ロッド20が出入りするハウジング1の他端開口部1bとには、ダストなどの異物がハウジング1内部に侵入することを防止するダストブーツ2が各々取り付けられる。
【0022】
倍力機構30は、圧縮流体としての圧縮空気によって出力ロッド20の推力を倍力するものである。倍力機構30は、入力ロッド10が出力ロッド20に対して軸方向に設定距離だけ相対移動することによって作動する。
【0023】
ここでいう設定距離は、入力ロッド10と出力ロッド20との相対移動によって長穴部15の長手方向に摺動するピン41が、中立位置から長穴部15の端部15c(
図2参照)に当接する手前までの距離に設定される。即ち、倍力機構30は、ピン41が長穴部15を摺動して端部15cに当接する前に作動する。
【0024】
倍力機構30は、出力ロッド20の外周に固定されるピストン33と、ピストン33が摺動自在に収装されるシリンダ34と、出力ロッド20内に設けられシリンダ34内への圧縮空気の供給を切り換えるバルブ機構35とを備える。
【0025】
ピストン33は、入力ロッド10が一方向に移動したときに圧縮空気が供給される第一流体室34aと、入力ロッド10が他方向に移動したときに圧縮空気が供給される第二流体室34bとをシリンダ34の内部に画成する。ピストン33は、入力ロッド10の軸方向への摺動に応じて第一流体室34a又は第二流体室34bに圧縮空気が供給されることで軸方向に押圧されて移動する。この圧縮空気の押圧力によって、出力ロッド20の推力が倍力される。
【0026】
シリンダ34は、ハウジング1の内部に画成される。シリンダ34の中心には、出力ロッド20が摺動自在に挿通する。シリンダ34の長さは、出力ロッド20のストローク長さと比較して長く形成される。シリンダ34の内径は、ピストン33の外径と略同径に形成される。
【0027】
バルブ機構35は、出力ロッド20の内周に固定される円筒状のバルブ本体部35aと、バルブ本体部35aの内周を軸方向に移動可能なロッド31と、ロッド31の移動に伴って軸方向に移動する一対のバルブリフタ31d,31eと、バルブリフタ31d,31eによって各々開閉される一対のバルブ32a,32bとを備える。バルブ機構35は、ロッド31がバルブ本体部35aにおける中立位置にある中立状態からいずれかの方向に移動した場合に、第一流体室34aと第二流体室34bとのいずれかに圧縮空気を供給するように切り換える。
【0028】
ロッド31は、一端が入力ロッド10に固定され、入力ロッド10と一体に軸方向に移動する。ロッド31は、外部の空気圧源(図示省略)から供給される圧縮空気が通過する流体通路31aを有する。流体通路31aは、ロッド31の中心軸に沿って形成される。
【0029】
バルブ本体部35aは、流体通路31aと第一流体室34aとを連通可能な第一連通路33aと、流体通路31aと第二流体室34bとを連通可能な第二連通路33bとを有する。バルブ本体部35aの内周には、バルブ32aが着座可能なシート32dと、バルブ32bが着座可能なシート32eとが環状に突設される。
【0030】
バルブリフタ31dとバルブリフタ31eとは、略円筒状に形成されてバルブ本体部35aの内周とロッド31の外周との間の環状空間に摺動自在に設けられる。バルブリフタ31dとバルブリフタ31eとは、互いに同軸に設けられる。一方のバルブリフタ31dは、ロッド31が一方へ移動したときにロッド31と一体に移動し、他方のバルブリフタ31eは、ロッド31が他方へ移動したときにロッド31と一体に移動する。
【0031】
バルブリフタ31dは、シート32dとの間に収装される第一ばね31bによって軸方向の一方に付勢されている。バルブリフタ31eは、シート32eとの間に収装される第二ばね31cによって軸方向の他方に付勢されている。これにより、ロッド31は、運転者によるシフト操作が行われていない状態では、第一ばね31bの付勢力にロッド31に作用する流体通路31aの内圧による力を加えた力と、第二ばね31cの付勢力とのつり合いによって、バルブ本体部35aにおける中立位置に位置することとなる。
【0032】
バルブ32aとバルブ32bとは、略円筒状に形成され、互いに対向してバルブ本体部35aの内周とロッド31の外周との間の環状空間に設けられる。バルブ32aとバルブ32bとは、バルブリフタ31dとバルブリフタ31eとの間に同軸に設けられる。バルブ32aとバルブ32bとの間には、各々を相対する方向に向けて付勢し合う第三ばね32cが設けられる。
【0033】
バルブ32aは、運転者によるシフト操作が行われていない状態では、ロッド31が中立位置に位置するため、シート32dに着座して第一連通路33aを閉じて、圧縮空気を通過不能としている。この状態から運転者による一方へのシフト操作が行われると、ロッド31とともにバルブリフタ31dが軸方向に移動し、バルブ32aは、シート32dから離間して第一連通路33aを開く。これにより、流体通路31aを通じて供給される圧縮空気が第一流体室34aへ供給されることとなる。
【0034】
同様に、バルブ32bは、運転者によるシフト操作が行われていない状態では、ロッド31が中立位置に位置するため、シート32eに着座して第二連通路33bを閉じて、圧縮空気を通過不能としている。この状態から運転者による他方へのシフト操作が行われると、ロッド31とともにバルブリフタ31eが軸方向に移動し、バルブ32bは、シート32eから離間して第二連通路33bを開く。これにより、流体通路31aを通じて供給される圧縮空気が第二流体室34bへ供給されることとなる。
【0035】
変速機操作用倍力装置100は、出力ロッド20に固定されて出力ロッド20の移動を変速機構101を介して変速機に伝達するストライカ40と、入力ロッド10の長穴部15に挿入されてストライカ40とともに長穴部15の長手方向に移動可能なピン41とを備える。
【0036】
ストライカ40は、略円筒状に形成されてピン41によって出力ロッド20の外周に固定される。ストライカ40は、出力ロッド20の軸方向への移動に伴って一体に移動する。ストライカ40の軸方向への移動は、変速機構101を介して変速機のシフトフォーク(図示省略)に伝達される。これにより、運転者のシフト操作力が倍力機構30によって倍力されて変速機が変速されることとなる。
【0037】
ピン41は、円柱状に形成され、ストライカ40と出力ロッド20とを径方向に貫通する。ピン41は、ストライカ40を出力ロッド20に固定する。ピン41は、入力ロッド10の長穴部15を径方向に貫通する。ピン41は、入力ロッド10と出力ロッド20との相対移動に伴い、長穴部15に沿って摺動する。
【0038】
ピン41は、運転者のシフト操作によって倍力機構30が作動した後、運転者が更にシフト操作を行うことによって、長穴部15の端部15c(
図2参照)に当接可能である。ピン41が長穴部15の端部15cに当接することによって、入力ロッド10と出力ロッド20との更なる相対移動が規制される。これにより、運転者の更なるシフト操作による力が倍力機構30を構成する部品に伝達されることを防止している。
【0039】
次に、
図2を参照して、長穴部15について説明する。
【0040】
長穴部15は、ピン41が摺動する一対の直線部15aと、各々の直線部15aの両端と連続して形成される四個の曲線部15bと、ピン41が当接可能な一対の端部15cとを有する。長穴部15は、ピン41の組み付け性を向上するとともにピン41の摺動性を確保するために、ピン41の直径と比較して短手方向の長さが大きく形成される。そのため、ピン41と直線部15aとの間には所定の大きさの隙間が形成される。
【0041】
直線部15aは、入力ロッド10が軸方向に移動するとともに軸中心に回転したときに、ピン41が当接して摺動する摺動面である。ピン41は、入力ロッド10の軸方向への移動に伴う軸中心の回転によって、ピン41と直線部15aとの間の隙間の大きさの分だけ長穴部15の短手方向に移動する。これにより、入力ロッド10が軸方向へ移動するときには、ピン41は、一対の直線部15aのいずれかに当接しながら摺動することとなる。
【0042】
直線部15aは、ピン41のストローク範囲以上の長さに形成される。ここでいうストローク範囲は、ピン41が一方の端部15cに当接する一方のストローク端と、ピン41が他方の端部15cに当接する他方のストローク端との間の範囲である。これにより、ピン41がストロークしても、ピン41の摺動面が曲線部15bに差し掛かる前にピン41の端部が端部15cに当接する。よって、ピン41の摺動面が曲線部15bと当接することはない。
【0043】
曲線部15bは、長穴部15の内周の角部にピン41の曲率半径と比較して小さな曲率半径に形成される。曲線部15bの曲率半径を小さくすることで、長穴部15の長手方向の長さを延長することなく、直線部15aの長さを長くすることができる。
【0044】
端部15cは、一対の曲線部15bの間に直線的に形成される。端部15cには、ピン41がストローク端まで摺動したときに当接する当接面である。端部15cは、ピン41が当接できればよいため、直線的な形状に限らず曲線的であってもよい。
【0045】
次に、
図1から
図3を参照して、変速機操作用倍力装置100の作用について説明する。
【0046】
運転者がシフトレバーを操作すると、シフト操作力がリンク機構を介して入力ロッド10に伝達される。これにより、入力ロッド10は、ハウジング1内に進入する方向、又はハウジング1から退出する方向に移動する。以下では、入力ロッド10がハウジング1内に進入する方向に移動する場合について説明する。
【0047】
入力ロッド10がハウジング1内に進入する方向に移動すると、倍力機構30のロッド31は、入力ロッド10と一体に軸方向に移動する。入力ロッド10が設定距離だけ移動すると、バルブリフタ31dが入力ロッド10に押されて軸方向へ移動する。
【0048】
バルブリフタ31dが入力ロッド10に押されて移動すると、バルブ32aは、第三ばね32cの付勢力に抗して軸方向に移動する。バルブ32aはシート32dから離間し、第一連通路33aが開かれる。これにより、第一連通路33aを通じて、流体通路31aと第一流体室34aとが連通する。
【0049】
第一流体室34aには、空気圧源からの圧縮空気が供給される。これにより、第一流体室34aの圧力が上昇して容積が拡大し、ピストン33が押圧される。ピストン33は、第二流体室34bに向かって摺動し、出力ロッド20もまたピストン33と一体に移動する。
【0050】
ストライカ40は、ピン41によって出力ロッド20の外周に固定されるため、出力ロッド20の移動によって一体に移動する。ストライカ40の軸方向への移動は、変速機構101を介して変速機のシフトフォークに伝達される。したがって、運転者のシフト操作力が倍力機構30によって倍力されて変速機が変速されることとなる。
【0051】
ここで、従来の変速機操作用倍力装置では、入力ロッドに形成される長穴部は、両端部に曲率半径が一定の曲線部が形成され、その間に一対の直線部が形成されるものであった。上述したようにピンと長穴部との間には、ピンの組み付け性を向上するとともにピンの摺動性を確保するために、所定の大きさの隙間が設けられる。そのため、曲線部の曲率半径は、ピンの曲率半径と比較して大きかった。
【0052】
従来の変速機操作用倍力装置において、入力ロッドが回転しながら移動すると、ピンは一方の直線部に当接しながら摺動し、ピンが端部に接触するより手前の位置で、曲線部に差し掛かることとなる。そのため、ピンが曲線部に引っ掛かり、それ以上摺動できなくなるおそれがあった。
【0053】
このように、ピンが端部に接触するより手前の位置で曲線部に引っ掛かると、入力ロッドが設定距離だけ移動できない場合がある。そのため、運転者がシフト操作を行っても、倍力機構が作動しないおそれがあった。
【0054】
また、倍力機構を確実に作動させるために、運転者によるシフト操作力が入力ロッドの中心軸に対して斜めに入力される場合には、シフト操作力が入力ロッドの軸方向に作用するように補正するためのリンク(図示省略)を更に設ける場合があった。
【0055】
これに対して、変速機操作用倍力装置100では、長穴部15の直線部15aが、ピン41のストローク範囲以上の長さに形成される。シフト操作力が入力ロッド10に対して斜めに入力されると、
図3に示すように、ピン41が一方の直線部15aに当接しながら摺動することとなる。このとき、ピン41は直線部15aに沿ったままストローク端まで摺動することができるため、ピン41が曲線部15bに当接することは無い。よって、ピン41が曲線部15bに引っ掛かって摺動しなくなることはない。したがって、ピン41の摺動性を確保することができる。
【0056】
このように、変速機操作用倍力装置100では、シフト操作力を入力ロッド10に対して斜め方向から入力可能であるため、シフトレバーと入力ロッド10とを連結するリンク機構の設計自由度が向上する。
【0057】
また、変速機操作用倍力装置100では、シフト操作力を入力ロッド10に対して斜め方向から入力可能であるため、シフト操作力が入力ロッドの軸方向に作用するように補正するリンクを更に設ける必要が無い。したがって、重量の低減及びコストの削減が可能である。
【0058】
なお、運転者のシフト操作によって入力ロッド10がハウジング1から退出する方向に移動する場合は、出力ロッド20が上述した方向と反対の方向へ移動する点で相違するが、作用効果は上述した内容と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0059】
以上の実施の形態によれば、以下に示す効果を奏する。
【0060】
ピン41が挿入される長穴部15の直線部15aは、ピン41のストローク範囲以上の長さに形成される。そのため、シフト操作力が入力ロッド10に対して斜めに入力されても、ピン41は直線部15aに沿ってストローク端まで摺動することができる。よって、ピン41が曲線部15bに引っ掛かって摺動しなくなることはない。したがって、ピン41の摺動性を確保することができる。
【0061】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。