(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0014】
図1はハイブリッド車両を駆動する駆動装置の概要を示すスケルトン図を、
図2は
図1の駆動装置を制御する制御装置の概要を示すブロック図をそれぞれ表している。
【0015】
ハイブリッド車両(図示せず)は、
図1に示すようなハイブリッド駆動装置10を備えている。ハイブリッド駆動装置10は、ハイブリッド車両の前方側に搭載され、エンジン(内燃機関)11およびモータ(電動機)12を備えている。エンジン11は、クランクシャフト(出力軸)11aを備え、クランクシャフト11aの一端側(図中左側)はエンジン11内に配置され、クランクシャフト11aの他端側(図中右側)はモータ12に向けて延ばされている。
【0016】
エンジン11の側部には、エンジン11を始動するスタータとしての機能に加え、エンジン11の駆動により発電するオルタネータとしての機能を有するISGモータ13が設けられている。ISGモータ13は回転軸13aを備え、当該回転軸13aの一端側にはギヤ13bが設けられている。回転軸13aのギヤ13bは、クランクシャフト11aの一端側に設けられたギヤ11bに噛み合わされており、回転軸13aおよびクランクシャフト11aは互いに動力伝達可能となっている。ただし、回転軸13aおよびクランクシャフト11aは、ギヤの噛み合いに限らず、タイミングベルト,ファンベルト,チェーン等を介して動力伝達可能としても良い。
【0017】
クランクシャフト11aの軸方向に沿うギヤ11b側には、クランクシャフト11aの回転数、つまりエンジン11の回転数を検出する第1回転センサ11fが設けられている。第1回転センサ11fは、クランクシャフト11aの回転に応じてパルス信号(矩形波信号)を発生するようになっており、第1回転センサ11fが発生したパルス信号は、エンジン回転数信号NeとしてECU43(
図2参照)に入力されるようになっている。これによりECU43は、エンジン回転数信号Neの個数をカウントして、エンジン11の回転数を算出するようになっている。ここで、エンジン回転数信号Neを得るために、クランクシャフト11aの回転数を検出するに限らず、例えば、エンジン11の点火パルスの発生タイミングを電気的に検出し、当該点火パルスの発生タイミングに基づいてエンジン回転数信号Neを得ることもできる。
【0018】
モータ12は、回転軸12aが固定された回転子12bを備え、例えば、U相,V相,W相を有する3相のブラシレスDCモータにより構成されている。モータ12は、車室内等(図示せず)に搭載された制御装置40(
図2参照)により力行駆動または回生駆動され、力行駆動することでハイブリッド車両はモータ走行し、回生駆動することで運動エネルギを電気エネルギとして回収し、車載バッテリ(図示せず)を充電するようになっている。
【0019】
エンジン11のクランクシャフト11aとモータ12の回転軸12aとの間には、エンジン11側から、トルクコンバータ14,第1ワンウェイクラッチ15,油圧クラッチ16,第2ワンウェイクラッチ17および無段変速機18が設けられている。
【0020】
第1ワンウェイクラッチ15は、第1ギヤ機構19を介して油圧ポンプ20のエンジン11側に接続され、第2ワンウェイクラッチ17は、第2ギヤ機構21を介して油圧ポンプ20のモータ12側に接続されている。つまり、油圧ポンプ20は、エンジン11の一方向への回転およびモータ12の一方向への回転により一方向に回転駆動されるようになっている。ここで、油圧ポンプ20は、エンジン11およびモータ12の双方に回転駆動されるが、回転数が速い方によって回転駆動される。なお、油圧ポンプ20においてもギヤによる回転駆動に限らず、タイミングベルト,ファンベルト,チェーン等により回転駆動するようにしても良い。
【0021】
トルクコンバータ14は、エンジン11と油圧クラッチ16との間に設けられ、ポンプインペラ(ポンプ)14aおよびタービンランナ(タービン)14bを備え、ポンプインペラ14aとタービンランナ14bとの間には、ステータ14cが設けられている。トルクコンバータ14の内部には、比較的粘度の低い流体としてのオイル(図示せず)が循環するようになっており、ポンプインペラ14aの回転に伴うオイルの慣性力がタービンランナ14bに伝達され、これによりタービンランナ14bに固定された出力軸14dが回転するようになっている。つまり、ポンプインペラ14aおよびタービンランナ14bは、オイルを介して互いに動力を伝達し得る構造となっている。
【0022】
クランクシャフト11aの他端側はポンプインペラ14aを介して第1ワンウェイクラッチ15に接続され、出力軸14dの他端側は油圧クラッチ16の固定ケース16aに接続されている。また、ステータ14cは、トルクコンバータ14,油圧クラッチ16,無段変速機18等を収容する変速機ケース(ハウジング)22に固定されている。さらに、モータ12を形成する回転軸12aの一端側は油圧クラッチ16の移動部材16bに接続されている。
【0023】
出力軸14dの軸方向に沿う固定ケース16a側には、出力軸14dの回転数、つまりタービンランナ14bの回転数を検出する第2回転センサ14eが設けられている。第2回転センサ14eは、出力軸14dの回転に応じてパルス信号を発生するようになっており、第2回転センサ14eが発生したパルス信号は、タービン回転数信号NtとしてTCU42(
図2参照)に入力されるようになっている。これによりTCU42は、タービン回転数信号Ntの個数をカウントして、タービンランナ14bの回転数を算出するようになっている。
【0024】
油圧クラッチ(クラッチ)16は、出力軸14dに固定された固定ケース16aと、回転軸12aに固定されて固定ケース16aに向けて移動する移動部材16bとを備えている。移動部材16bは、油圧ポンプ20からの油液の供給により固定ケース16aに向けて移動するようになっている。そして、油圧クラッチ16に油液を供給することで移動部材16bが固定ケース16aに向けて移動し、その後、両者は一体となって互いに駆動力が伝達される締結状態となる。また、油圧クラッチ16から油液を排出することで移動部材16bが固定ケース16aから後退(離間)して駆動力が伝達されない遮断状態となる。ここで、油圧クラッチ16は、油液の供給量に応じて締結力が比例するようになっている。つまり、油液の供給量を増加させると、これに伴い締結力も増加するようになっている。
【0025】
無段変速機(変速機)18は、油圧クラッチ16とモータ12との間に設けられ、エンジン11やモータ12の回転数を変速して車軸31に出力するようになっている。無段変速機18は、プライマリプーリ23およびセカンダリプーリ24を備え、各プーリ23,24間には巻き掛け伝動要素としてのチェーン25が巻き掛けられている。
【0026】
プライマリプーリ23は回転軸12a上に設けられ、回転軸12aに固定された固定シーブ23aと、回転軸12aの軸方向に移動可能な可動シーブ23bとを備えている。プライマリプーリ23には、油圧ポンプ20から油液が給排されるようになっており、プライマリプーリ23に油液を供給することで、可動シーブ23bは固定シーブ23aに向けて移動し、その結果、プライマリプーリ23に対するチェーン25の巻き掛け径が大きくなり、ひいては変速比が高速側に変化する。一方、プライマリプーリ23から油液を排出することで、可動シーブ23bは固定シーブ23aから離れて、上記とは逆にチェーン25の巻き掛け径が小さくなり、ひいては変速比が低速側に変化する。
【0027】
セカンダリプーリ24は回転軸12aに対して平行となった平行軸26上に設けられ、平行軸26に固定された固定シーブ24aと、平行軸26の軸方向に移動可能な可動シーブ24bとを備えている。セカンダリプーリ24には、油圧ポンプ20から油液が供給されるようになっており、セカンダリプーリ24に油液を供給することで、可動シーブ24bは固定シーブ24aに向けて移動し、これにより変速時等にチェーン25が弛むのを防止している。よって、プライマリプーリ23とセカンダリプーリ24との間で、動力伝達を効率良く行えるようになっている。
【0028】
プライマリプーリ23から伝達されるセカンダリプーリ24の駆動力は、平行軸26,第3ギヤ機構27および出力クラッチ28を介して駆動シャフト29に伝達されるようになっている。駆動シャフト29に伝達された駆動力は、ディファレンシャルギヤ30を介して、駆動輪が装着された車軸31に出力されるようになっている。このように、セカンダリプーリ24は車軸31に動力伝達可能に接続され、よって無段変速機18は、車軸31に所定の変速比で動力を伝達するようになっている。なお、出力クラッチ28は、油圧ポンプ20からの油液の給排により締結状態または遮断状態となる。具体的には、シフトポジションがドライブ(D)またはリバース(R)のときに締結状態となり、シフトポジションがパーキング(P)またはニュートラル(N)のときに遮断状態となる。
【0029】
次に、以上のように形成したハイブリッド駆動装置10を制御する制御装置40について、図面を用いて詳細に説明する。
【0030】
図2に示すように、制御装置40は、ハイブリッド駆動装置10(
図1参照)を統括的に制御するHEVCU(ハイブリッド車両コントロールユニット)41を備え、当該HEVCU41には、TCU(トランスミッションコントロールユニット)42,ECU(エンジンコントロールユニット)43,MCU(モータコントロールユニット)44およびISGモータ13が電気的に接続されている。ここで、HEVCU41,TCU42,ECU43およびMCU44は、本発明におけるコントロールユニットを構成している。
【0031】
HEVCU41には、ハイブリッド車両の走行状態信号(状態信号)を出力するアクセルセンサ45,ブレーキセンサ46,シフトポジションセンサ47および車速センサ48が電気的に接続されている。
【0032】
アクセルセンサ45は、操作者によるアクセルペダル(図示せず)の踏み込み操作により加速要求信号αを出力し、ブレーキセンサ46は、操作者によるブレーキペダル(図示せず)の踏み込み操作により減速(停止)要求信号STを出力し、シフトポジションセンサ47は、操作者によるシフトレバー(図示せず)のチェンジ操作によりドライブ信号Dやパーキング信号P等を出力する。また、車速センサ48は、
図1に示す車軸31の近傍(詳細図示せず)に設けられ、ハイブリッド車両の走行速度(車速)を検出して車速信号Vを出力する。
【0033】
これによりHEVCU41は、ハイブリッド車両が現在どのような走行状態にあるのか(加速状態,減速状態,停止状態等)を演算して把握し、TCU42,ECU43,MCU44およびISGモータ13に対して要求信号や駆動信号等、種々の信号を出力し、ハイブリッド車両を統括的に制御する。
【0034】
TCU42には、油圧クラッチソレノイド16c,供給用プライマリソレノイド23c,排出用プライマリソレノイド23dおよびセカンダリソレノイド24cが電気的に接続され、これらを駆動するようになっている。また、TCU42には、
図1に示す出力軸14d(タービンランナ14b)の回転数を検出する第2回転センサ14eが電気的に接続され、タービン回転数信号Ntが第2回転センサ14eから入力されるようになっている。
【0035】
TCU42は、HEVCU41からの油圧クラッチ要求信号CLに基づいて油圧クラッチソレノイド16cを駆動し、これにより油圧クラッチ16(
図1参照)への油液の供給量を制御するようになっている。また、TCU42は、HEVCU41からの変速比要求信号SCに基づいて供給用プライマリソレノイド23c,排出用プライマリソレノイド23dおよびセカンダリソレノイド24cをそれぞれ駆動し、これにより無段変速機18(
図1参照)を変速する変速制御を行うようになっている。
【0036】
さらに、TCU42からは、油圧クラッチ16の現在の状態および無段変速機18の現在の状態がフィードバック信号FB1としてHEVCU41に出力され、これによりHEVCU41は、TCU42に補正制御等を加え、油圧クラッチ16の締結状態および無段変速機18の変速状態を最適制御できるようにしている。ここで、TCU42からのフィードバック信号FB1には、第2回転センサ14eからのタービン回転数信号Ntが含まれている。
【0037】
ECU43には、エンジン11の補機類である燃料噴射装置11c,スロットル装置11dおよび点火装置11eが電気的に接続され、これらを駆動するようになっている。また、ECU43には、
図1に示すクランクシャフト11a(エンジン11)の回転数を検出する第1回転センサ11fが電気的に接続され、エンジン回転数信号Neが第1回転センサ11fから入力されるようになっている。
【0038】
ECU43は、HEVCU41からのエンジントルク要求信号TQE,噴け上げ要求信号THおよび噴け上げ目標回転数TNに基づき、燃料噴射装置11c,スロットル装置11dおよび点火装置11eをそれぞれ所定のタイミングで制御するようになっている。
【0039】
また、ECU43からは、エンジン11の現在の状態、つまりエンジン11の現在の回転数やエンジン11が発生している現在の駆動トルク等がフィードバック信号FB2としてHEVCU41に出力されるようになっている。これによりHEVCU41は、ECU43に補正制御等を加え、エンジン11の回転数やエンジン11の駆動トルクを最適制御できるようにしている。ここで、ECU43からのフィードバック信号FB2には、第1回転センサ11fからのエンジン回転数信号Neが含まれている。
【0040】
MCU44には、モータ12が電気的に接続されている。MCU44は、HEVCU41からのモータトルク要求信号TQMに基づき、モータ12を駆動制御するようになっている。ここで、モータ12の駆動制御は、インバータ(図示せず)を介して行われ、当該インバータは車載バッテリ(リチウムイオン二次電池等)からの電力を3相に変替して駆動電流を生成し、生成した駆動電流をモータ12に供給するようになっている。
【0041】
また、MCU44からは、モータ12の現在の状態、つまりモータ12の現在の回転数やモータ12が発生している現在の駆動トルク等がフィードバック信号FB3として、HEVCU41に出力されるようになっている。これによりHEVCU41は、MCU44に補正制御等を加え、モータ12の回転数やモータ12の駆動トルクを最適制御できるようにしている。
【0042】
HEVCU41には、ISGモータ13が電気的に接続されており、HEVCU41は、ISGモータ13に対してクランキング要求信号CRを出力するようになっている。ここで、クランキング要求信号CRは、ISGモータ13をスタータとして駆動するための駆動電流であって、ISGモータ13は、クランキング要求信号CRを受けるとエンジン11を始動するようになっている。つまり、クランキング要求信号CRは、種々の条件が揃ってハイブリッド車両をモータ走行からエンジン走行に移行させる際に出力されるようになっている。
【0043】
次に、以上のように形成した制御装置40の動作内容について、図面を用いて詳細に説明する。
【0044】
図3は
図2の制御装置の動作内容を説明するフローチャート図を、
図4はモータ走行からエンジン走行に移行する状態を説明するタイミングチャート図をそれぞれ表している。
【0045】
ハイブリッド車両を走行させるために、運転者がアクセルペダルを踏み込み操作すると、当該アクセルペダルの操作に基づいて、HEVCU41にはアクセルセンサ45からの加速要求信号α(
図2参照)が入力される。すると、加速要求信号αのHEVCU41への入力をトリガとして、
図3に示すフローチャート(走行モード移行処理)が実行される(ステップS1)。
【0046】
ただし、アクセルペダルの踏み込み操作により走行モード移行処理をスタートさせずに、その他の状態信号をトリガとして走行モード移行処理をスタートさせても良い。例えば、車載バッテリのSOCが低下してモータ走行が困難な場合に、このときのSOCの低下を示すSOC低下信号の検出をトリガとしても良い。この場合、SOC低下信号が車両の状態信号となる。
【0047】
ハイブリッド車両が、モータ12の駆動により低車速でクリープ走行しているときは、ハイブリッド駆動装置10(
図1参照)は、
図4の時間t1以前のモータ走行領域に示す状態となっている。つまり、運転者によるアクセルペダルの踏み込み操作が無く、油圧クラッチ16(
図1参照)への制御量(供給油量)もゼロで、油圧クラッチ16は遮断状態(開放状態)となっている。また、ハイブリッド車両がクリープ走行していることからプライマリプーリ23の回転数も低い回転数Nprpm(例えば300rpm)となっており、このときは未だエンジン11は停止状態なのでタービンランナ14b(エンジン11)の回転数は0rpmのままである。なお、
図4の時間t1以前のハイブリッド車両の状態においては、モータ12の駆動により低車速でクリープ走行しているので、モータトルク(指示トルク)Mt1は比較的大きな値を示している。
【0048】
運転者によりアクセルペダルの踏み込み操作が行われると、その後、
図3に示すステップS2において、エンジン走行に移行するか否かを判定する。ここで、エンジン走行に移行するか否かの判定は、HEVCU41によって行われ、具体的には、アクセルセンサ45からの加速要求信号αの大きさや車載バッテリのSOCの状態等に基づいて行われる。
【0049】
ステップS2でno判定の場合、つまりエンジン11によるエンジン走行に移行する必要が無く、モータ12で充分に加速できる場合には、ステップS2の判定を繰り返し行う。一方、ステップS2でyes判定の場合には、エンジン走行に移行する必要があるとして、ステップS3に進む。ここで、ステップS2でno判定する場合とは、アクセルペダルの踏み込み操作量が少なくてアクセルセンサ45からの加速要求信号αが小さく、車載バッテリのSOCが充分である場合等である。一方、ステップS2でyes判定する場合とは、アクセルペダルの踏み込み操作量が多くてアクセルセンサ45からの加速要求信号αが大きく、車載バッテリのSOCが不足している場合等である。
【0050】
ステップS3では、車速センサ48からの車速信号Vが、低車速V1未満であるか否かを判定する。ここで、低車速V1は、例えばハイブリッド車両がクリープ走行をしているときの例えば5km/hに設定され、より具体的には、無段変速機18を低速側に変速制御した状態のもとで、エンジン11のアイドル回転数Niがプライマリプーリ23の回転数Npを上回る車速に設定(Ni>Np)されている。そして、ステップS3でyes判定の場合(V<V1)にはステップS4に進み、ステップS3でno判定の場合(V≧V1)にはステップS5に進む。
【0051】
ステップS4では、モータ走行からエンジン走行に移行するために、HEVCU41は、クランキング要求信号CRをISGモータ13に出力し、これによりエンジン11を始動させる。また、HEVCU41は、噴け上げ要求信号THをECU43に出力し、エンジン11の回転数を増加させる回転数噴け上げ制御を実行する。さらに、HEVCU41は、油圧クラッチ要求信号CLおよび変速比要求信号SCをTCU42に出力し、クラッチ締結制御と変速制御とを実行する。
【0052】
続くステップS6では、クラッチ締結制御の前段の動作(
図4の時間t1〜t2)として、油圧クラッチ16の締結を準備する締結準備動作を実行する。締結準備動作においては、TCU42によって油圧クラッチソレノイド16cが駆動され、油圧ポンプ20から油圧クラッチ16に向けて、当該油圧クラッチ16を締結させない程度の油液を供給する。つまり、
図4の時間t1〜t2間に示すように、締結準備動作中においては、油圧クラッチ16への制御量(油量)は低く抑えられた状態、つまり油液の消費量(エネルギ消費量)は低く抑えられた状態となっている。
【0053】
また、ステップS6では、HEVCU41によって、トルクコンバータ14のポンプインペラ14aとタービンランナ14bとの回転数差に起因して発生するトルコン伝達トルク(推定トルク)Ttを演算する。つまり、エンジン11の駆動により当該エンジン11(トルクコンバータ14)から油圧クラッチ16に伝達され得る伝達トルクを演算(推定)する。ここで、トルコン伝達トルクTtは、下記式(1)によって演算することができる。なお、下記式(1)におけるトルク比Ctおよび容量係数Cfは、第1回転センサ11fからのエンジン回転数信号Neと、第2回転センサ14eからのタービン回転数信号Ntとから算出した速度比から、トルクコンバータ14の特性に応じて演算することができる。
【0054】
Tt=k・Ct・Cf・Ne
2・・・式(1)
k:各パラメータの単位変換および、トルクコンバータの形式や構造等により決まる係数
Ct:トルク比
Cf:容量係数
Ne:エンジン回転数信号
トルコン伝達トルクTtの演算は、HEVCU41に入力されたフィードバック信号FB1,FB2に含まれるエンジン回転数信号Ne,タービン回転数信号Ntに基づいて行われ、このトルコン伝達トルクTtの演算処理と略並行して、
図4に示すようにタービンランナ14b(エンジン11)の回転数が上昇していく。ここで、ハイブリッド車両は低車速V1未満で走行しているとの判定(ステップS3でのyes判定)に基づき、ECU43は、HEVCU41からの噴け上げ要求信号THや噴け上げ目標回転数TN等により、エンジン11を安定して駆動できる最低回転数、つまりアイドル回転数Ni(例えば800rpm)となるよう制御する。なお、クラッチ締結制御の前段の動作(
図4の時間t1〜t2)においては、油圧クラッチ16は未だ締結状態ではないため、タービンランナ14bの回転数およびエンジン11(ポンプインペラ14a)の回転数は、同じ値を示しつつアイドル回転数Niに向けて変化する。
【0055】
ステップS7では、エンジン11の回転数がアイドル回転数Niになったことから、クラッチ締結制御の後段の動作(
図4の時間t2〜t3)として、油圧クラッチ16を締結状態とする締結動作を実行する。この締結動作においては、TCU42によって油圧クラッチソレノイド16cが駆動され、油圧ポンプ20から油圧クラッチ16に向けて、油液が徐々に供給されていく。つまり、油圧クラッチ16への制御量は、
図4の時間t2〜t3間に示すように徐々に増加するよう調整される。
【0056】
また、ステップS7では、油圧クラッチ16が徐々に締結されていくに連れて、モータトルクMt1を徐々に小さくする制御を実行する。ここで、モータトルクMt1は、運転者のアクセル操作等に基づき決定される要求トルクであって、HEVCU41はモータトルク要求信号TQMを調整し、モータトルクMt1を、油圧クラッチ16が完全に締結される最終段階(
図4の時間t3)において、減算トルクMt2となるようにする。なお、減算トルクMt2は、
図4に示すように、モータトルクMt1からトルコン伝達トルクTtを減算することで求められる(Mt2=Mt1−Tt)。
【0057】
ここで、HEVCU41によりトルコン伝達トルクTtを算出(ステップS6)し、HEVCU41によりモータトルクMt1をトルコン伝達トルクTtに基づいて減算トルクMt2とし(ステップS7)、MCU44によりモータ12を減算トルクMt2で駆動する制御は、本発明におけるトルク補正制御を構成している。
【0058】
これにより、モータ走行からエンジン走行に切り替える際、つまり油圧クラッチ16を締結する際に、モータ12が発生するトルクおよびエンジン11がトルクコンバータ14を介して発生するトルクが、トータルで増大するのを抑制して、ハイブリッド車両が瞬間的に加速して飛び出すようなことが防止される。そして、
図4の時間t2〜t3に示すように、油圧クラッチ16が徐々に締結されていくに連れて、タービンランナ14bの回転数が徐々に低下して、プライマリプーリ23の回転数が徐々に上昇し、やがて油圧クラッチ16が完全に締結状態となる時間t3において、回転軸12aと出力軸14dとが一体回転するようになる。
【0059】
その後、
図3のステップS8(
図4の時間t3)において、油圧クラッチ16の締結が完了したことに伴い、ハイブリッド車両のモータ走行からエンジン走行への移行が完了し、続くステップS9において、走行モード移行処理が終了する。なお、上流のステップS3でno判定した場合にはステップS5に進むが、ステップS5においては、ハイブリッド車両が低車速V1以上で走行していることから、プライマリプーリ23の回転数Npがエンジン11のアイドル回転数Niを上回るとして通常の制御、つまりモータトルクMt1を小さくせずにエンジン11の回転数(トルク)を上昇させる制御を行い、これによりトルク変動の少ない油圧クラッチ16の締結動作を行う。
【0060】
図4の時間t3以降のエンジン走行領域においては、ハイブリッド車両は、制御装置40を形成するHEVCU41等によって、エンジン11での通常走行および無段変速機18による通常の変速制御が実行される。
【0061】
以上詳述したように、本実施の形態に係るハイブリッド車両の制御装置40によれば、HEVCU41,TCU42,ECU43およびMCU44はそれぞれ協働して、プライマリプーリ23(モータ12)の回転数Npがエンジン11のアイドル回転数Niよりも低いときで、加速要求信号αの入力によりモータ12による走行からエンジン11による走行に切り替えるときに、ポンプインペラ14aとタービンランナ14bとの回転数差により発生するトルクを推定し、推定したトルコン伝達トルク(推定トルク)Ttをモータ12に対するモータトルク(指示トルク)Mt1から減算し、減算して得た減算トルクMt2でモータ12を駆動するトルク補正制御を行う。
【0062】
これにより、モータ12の回転数Npがエンジン11のアイドル回転数Niよりも低いときで、モータ12による走行からエンジン11による走行に切り替えるときに、モータ12が発生するトルクおよびエンジン11がトルクコンバータ14を介して発生するトルクが、トータルで増大するのを抑制できる。よって、ハイブリッド車両が瞬間的に加速して飛び出すのを確実に防止でき、ひいてはより滑らかな走行モードの切り替え(モータ走行からエンジン走行)を実現できる。
【0063】
また、本実施の形態に係るハイブリッド車両の制御装置40によれば、HEVCU41,TCU42,ECU43およびMCU44はそれぞれ協働して、トルク補正制御において、モータ12に対する指示トルク(モータトルクMt1)を徐々に小さくして減算トルクMt2にするとともに、油圧クラッチ16を遮断状態から徐々に締結状態にするので、より滑らかに走行モードを切り替えることが可能となる。
【0064】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、上記実施の形態においては、第2回転センサ14eによりタービンランナ14bの回転数をそのまま検出し、検出した回転数に基づきトルコン伝達トルクTtを求めた場合を示したが、本発明はこれに限らず、タービンランナ14bの回転数の変化率から推定した推定回転数や、タービンランナ14bの回転数の変化を予め予測した回転数マップ等を用いてトルコン伝達トルクTtを求めるようにしても良い。この場合、モータ走行からエンジン走行への移行時間を短縮することができる。
【0065】
また、上記実施の形態においては、第1回転センサ11fによりエンジン11の回転数をそのまま検出し、検出した回転数に基づきトルコン伝達トルクTtを求めた場合を示したが、本発明はこれに限らず、エンジン11の回転数の挙動を推定し、この推定回転数を用いてトルコン伝達トルクTtを求めるようにしても良い。この場合においても、モータ走行からエンジン走行への移行時間を短縮することができる。ここで、エンジン11の回転数の挙動を推定するには、油圧クラッチ16の締結時のタービンランナ14bの回転数や、その推定値からエンジン11に掛かる負荷を演算して推定する。
【0066】
さらに、上記実施の形態においては、
図4の時間t1〜t2の間において、モータトルクMt1を大きい状態のままとし、
図4の時間t2〜t3の間において、モータトルクMt1を徐々に小さくして減算トルクMt2とした場合を示したが、本発明はこれに限らず、時間t1〜t2の間において、ハイブリッド車両の駆動力に変化が生じない程度に、トルコン伝達トルクTtに基づいて予めモータトルクMt1を小さくしておいても良い。この場合においても、モータ走行からエンジン走行への移行時間を短縮することができる。
【0067】
また、上記実施の形態においては、モータ走行からエンジン走行への移行中(
図4の時間t1〜t3)において、無段変速機18の変速比を変速制御しない場合を示したが、本発明はこれに限らず、プライマリプーリ23(モータ12)の回転数Npを高くする変速比に変速制御しても良い。要は、モータ12の回転数とエンジン11の回転数とを近付けるよう変速比を変速制御しても良く、この場合、求めるトルコン伝達トルクTtを小さい値にできる。したがって、モータ走行からエンジン走行への移行時間を短縮することができる。