【実施例】
【0096】
実施例1.PAC−1および個別化抗癌治療
本明細書中でさらに考察するように、アポトーシスは、多細胞生物に共通のプログラム細胞死型である。アポトーシスの回避は癌の特徴であり、多数の癌が天然のアポトーシスシグナルに耐性を示す。この耐性は、ほとんどの場合、アポトーシス促進性シグナルの下流システイン−アスパラギン酸プロテアーゼ(カスパーゼ)への適切な伝達を防止する上流アポトーシスタンパク質の異常な発現および変異に起因する。最終的に、執行カスパーゼ−3の活性化は、ほとんどのアポトーシス経路における重要な連携工程である。驚いたことに、プロカスパーゼ−3は多数の癌で上方制御されるが、上流アポトーシスカスケードの変化によってその活性化が防止される。
【0097】
カスパーゼ−3の上流のアポトーシスタンパク質をターゲティングするためのアポトーシス促進性化合物が多数開発されている。しかし、上記障害物により、しばしば、これらの化合物の癌性細胞における所望のアポトーシス促進効果が阻止される。個別化され、且つより有効な抗癌ストラテジーは、カスケードの任意の障害物の下流のアポトーシス促進性タンパク質の直接活性化を含む。
図1は、プロカスパーゼ−3の小分子活性化のいくつかの態様を示す。
【0098】
本発明者らは、in vitroおよび多数の癌細胞株においてプロカスパーゼ−3をカスパーゼ−3に直接活性化する(癌性細胞のアポトーシスの誘導)小分子としてPAC−1を報告している(Nat.Chem.Biol.2006、2、543−550)。PAC−1はまた、複数のマウス癌モデルにおいて有効性が示されている。
【0099】
上流アポトーシスタンパク質の変異および異常発現は、アポトーシス促進性シグナルが下流エフェクターカスパーゼに到達するのを阻止する。重要な執行者であるプロカスパーゼ−3は、多数の癌で上方制御される。プロカスパーゼ−3を直接活性化することができる小分子を得るという目的のために多大な努力が捧げられている。この努力のいくつかを、本発明のさらなる背景として本明細書中に記載する。
【0100】
スキーム1は、プロカスパーゼ−3アクチベーターの例示的な高処理スクリーニングの例を示す。
【0101】
【化17】
約20,000種の化合物を、プロカスパーゼ−3を活性カスパーゼ−3に活性化する能力について発色基質を使用してスクリーニングした。PAC−1を、用量依存様式でプロカスパーゼ−3を活性化することができる化合物と同定した。PAC−1−I−8は、活性を示さない構造的に関連する化合物である。
【0102】
【化18】
図2は、PAC−1が癌細胞を選択的に死滅させることを示す。PAC−1は、新たに切除した結腸腫瘍から単離した細胞の死滅を誘導する。新たに切除した原発性結腸腫瘍(隣接する非癌性組織と共に)を23人から得て、癌性組織および非癌性組織を分離した。PAC−1は、プロカスパーゼ−3の細胞濃度に比例する様式で細胞死を誘導する。円は、23個の結腸腫瘍由来の初代癌性細胞を示す。黒三角は、種々の癌細胞株を示す。菱形は、以下の4つの非癌性細胞型である:Hs888Lu(肺線維芽細胞)、MCF−10A(乳房線維芽細胞)、Hs578Bst(乳房上皮細胞)、および健康なドナーの骨髄から単離した白血球。四角は、23人の腫瘍周縁部から単離した初代非癌性細胞である。
【0103】
図3および4は、マウス癌異種移植モデルにおける腫瘍成長のPAC−1遅延を示す(Puttら、Nat.Chem.Biol.2006,2,543−550)。
図3について、NCI−H226(肺癌)細胞株を使用した皮下注射によってマウスに腫瘍を形成させた。この皮下注射は、各群あたり8匹のマウスを使用し、マウスあたり3つの腫瘍を形成させる。PAC−1またはビヒクルを、1〜21日目に経口栄養によって1日1回投与した。エラーバーはs.e.m.である。
図4について、マウスにNCI−H226細胞株を注射した。(Puttら、Nat.Chem.Biol.2006,2,543−550)に記載のプロトコールにしたがって、マウスを経口栄養によってPAC−1(100mg/kg−1)で処置した。コントロールマウスの肺は、大量の灰色の腫瘍塊を有するのに対して、PAC−1を投与したマウスは視覚可能な腫瘍がほとんど存在しない。
【0104】
亜鉛イオンはプロカスパーゼ−3を阻害することが公知である。PAC−1は、亜鉛の存在下にて用量依存様式でプロカスパーゼ−3を活性化し、亜鉛阻害のIC50を移行することができる。PAC−1−I−8はプロカスパーゼ−3を活性化することができるのではなく、高濃度で阻害を示す。
図5、6、および7は、PAC−1がプロカスパーゼ−3のZn2+阻害を軽減することを示す。カスパーゼ−3およびプロカスパーゼ−3の酵素活性に及ぼす亜鉛濃度範囲の影響を試験した。全ての緩衝液をChelex(登録商標)樹脂で最初に処理して、いかなる微量金属夾雑物も除去した。プロカスパーゼ−3自体が活性なカスパーゼ−3にゆっくり自己タンパク質分解することが多いので、3つ全てのカスパーゼ切断部位が除去されたプロカスパーゼ−3の三重変異体(D9A/D28A/D175A)を作製した。文献中のデータと一致して、このプロカスパーゼ−3三重変異体はタンパク質分解に対して安定であり、活性はカスパーゼ−3の活性の約1/200である(データ示さず)。亜鉛存在下での酵素アッセイは、この金属がカスパーゼ−3(データ示さず)、プロカスパーゼ−3(データ示さず)、およびプロカスパーゼ−3(D9A/D28A/D175A)変異体(
図5)を強力に阻害することを示す。
図6は、10μM ZnSO4を含む緩衝液中でアッセイした場合にPAC−1がプロカスパーゼ−3(D9A/D28A/D175A)(D3A)変異体活性を増強することを示す。示すように、PAC−1は高化合物濃度でこれら3つの酵素を実際に阻害する。示したデータは、3つの試験の代表である。
図7は、10μM ZnSO4を含む緩衝液中でアッセイした場合にPAC−1−I−8がプロカスパーゼ−3(D9A/D28A/D175A)(D3A)変異体活性を増強することを示す。PAC−1−I−8は、ZnSO4の非存在下でさえも高化合物濃度でこの酵素を実際に阻害する。
【0105】
図8、9、および10は、PAC−1が金属キレート剤であることを示す。亜鉛の存在下では、PAC−1は、405nmの吸光度で特徴的な増加を示す。不活性誘導体は、高濃度の亜鉛でさえも吸光度はいかなる変化も示さない。この吸光度の移行を使用して、PAC−1:Zn2+複合体の結合定数を、連続変位法によって決定することができる。
図8に示すように、漸増量のZnSO4でのPAC−1の滴定により、この化合物の紫外可視スペクトルが変化する。Zn2+結合の際のモル吸光係数のこの移行により、PAC−1−Zn2+結合の化学量論およびこの相互作用の解離定数の両方を決定するための都合のよい方法が得られる。連続変位法の修正バージョンを、この決定で使用した。総濃度50μMのZnSO4およびPAC−1の種々のモル分率についての410nmの吸光度を得た。次いで、これらの値を、化学量論点(すなわち、全Zn2+が過剰量のPAC−1によって結合する場合)で可能な極大吸収(1と設定した)に対して正規化した。
図9のグラフ中の0.5モル分率でのピークによって証明されるように、連続変位法の適用により、1:1の化学量論比でPAC−1がZn2+に結合することが明らかとなった。この小分子−金属相互作用の非常に強い性質も
図9から明らかである。化学量論比1:1で、PAC−1はその吸収が亜鉛結合状態にほとんど完全に移行する(96%のPAC−1は1:1の比でZn2+と結合してPAC−1−Zn2+になる)。この96%の値および式log Ka=0.3010−log M+log ymax−2log(1−ymax)を使用して、PAC−1−Zn2+相互作用についてKd=42nMが得られる。
図8に示すように、PAC−1−Zn2+相互作用のKdが42nMである一方で、吸光度の変化はマイクロモル濃度の亜鉛を使用して依然として認められる。これは、本実験においてKdと比較して高い総リガンド濃度(50μM)に起因する。本実験で使用した亜鉛およびPAC−1の濃度に基づいて、Adairの式は、約30μM亜鉛でのPAC−1−Zn2+複合体の最大半量の集団平均部位占有率を予想し、これは得られたデータと一致している(
図8)。紫外可視分光法によってモニタリングしたところ、ZnSO4のPAC−1−I−8への滴定によってスペクトル変化は得られず、これは、PAC−1−8がZn2+に結合しないという考えと一致していた。この結果を確認するために、第2の方法を使用してPAC−1−Zn2+解離定数を決定した。この実験では、予め形成されたPAC−1とZn2+との複合体を、EGTA(エチレングリコールビス(β−アミノエチルエーテル)N,N′−四酢酸、Zn2+に対して公知の親和性を有する金属結合剤)で滴定し、410nmでの吸光度をモニタリングした。EGTA−Zn2+結合定数についての文献に記載の値を使用して、PAC−1−Zn2+解離定数を55nMと計算し、これは、連続変位法によって計算したKd42nMと一般的に一致した。
図10は、ZnSO4のPAC−1−I−8溶液(50μMを含む50mM Hepes、100mM KNO3、pH7.2緩衝液)への滴定によってPAC−1−I−8の紫外可視スペクトルは変化しないことを示す。5μMずつ増加する0〜70μMのZnSO4濃度を示す。
【0106】
実施例2.PAC−1および誘導体の合成
分子モデリングにより、
図15に示すPAC−1−Zn2+複合体の最低エネルギー配座異性体を得た。この構造を、MMFF力場を使用した23個の低エネルギー配座異性体の配座探索から得た。モデルにより、N−アシルヒドラゾン骨格(フェノールヒドロキシル)との相互作用およびベンジル環との陽イオンπ相互作用が示唆される。
【0107】
構造的に改変されたPAC−1誘導体のファミリーを合成して、これらの構造の構成要素および亜鉛結合におけるその役割ならびにこの化合物ファミリーの細胞傷害能を調査した。
【0108】
4つの誘導体クラスを合成して、フェノールの位置(クラスI)、ベンジル基(クラスII)、これらの環の組み合わせ(クラスIII)、およびN−アシルヒドラゾン骨格(クラスIV)を調査した。これらのクラスを、上記のスキーム2に示す。
【0109】
【化19】
これらの化合物およびクラスについてのさらなる情報は、以下に見出される:Petersonら、,J.Med.Chem.2009,52,5721−5731。クラスI〜III化合物の大部分を、スキーム3Aに記載のように適切なヒドラジドとアルデヒドとの縮合によって合成した。スキーム3Aに示すように、この縮合物の収率は72%と95%との間であった。1gが例外であり、ジスルフィド二量体を自発的に形成し、それにより収率が減少した。かかる縮合反応により、11種のクラスI誘導体(1a〜k)、7種のクラスII誘導体(2a〜g)、および1種のクラスIII誘導体(3)が合成された。スキーム1中のヒドラジド構成要素を、種々の塩化ベンジルのピペラジンとの反応、得られた生成物のクロロ酢酸エチルでのアルキル化、その後の得られたエステルのヒドラジンとの反応によって合成した。アルデヒド構成要素を購入したか、簡単な出発物質から合成した。3種のクラスIV誘導体を、類似の縮合反応によって合成することもできる。したがって、2個のピペラジン窒素のうちの1個を欠く化合物(4a〜c)を、スキーム3の式1および2に記載の対応するヒドラジドおよびアルデヒドから合成した。しかし、クラスIV中の多数の誘導体を類似の縮合反応によって合成することができず、別の合成経路を必要とした。したがって、化合物4dを、NaCNBH3を使用したPAC−1中のヒドラゾンの還元によって合成した(スキーム4A、式3)。化合物4e〜gを、27の適切なクロリドとの反応によって合成した(スキーム4A、式4〜6)。これらのクラスは、これらの環系の電子および複合体に関与する配位ヘテロ原子を探索する。
【0110】
【化20】
置換によって両環が変化したクラスI〜IIIのPAC−1誘導体を、以下のスキーム3Aに示す経路を使用して合成した:
【0111】
【化21】
スキーム3A.「R」変数をこのスキームのために示し、その使用法は本開示の残部と必ずしも同一ではないことに留意のこと。本開示にわたる全てのかかるバリエーションは、当業者に容易に理解される。
【0112】
クラスIV化合物を、以下に示すようにわずかに修正して合成した。
【0113】
【化22】
いくつかのさらなるクラスIV化合物を、スキーム4Aに示す方法を使用して合成した。
【0114】
【化23】
4クラスの化合物の合成方法を本明細書中に示す。材料−他に指示がない限り、全ての試薬をFisherから入手した。全ての緩衝液をMilliQ精製水を使用して作製した。Ac−DEVD−pNAを合成した。Luriaブロス(LB)をEMDから入手した。エトポシドをSigmaから入手した。カスパーゼ活性緩衝液は、50mM Hepes(pH7.4)、300mM NaClを含み、Chelex(登録商標)で処理している。Ni NTA結合緩衝液は、50mM Tris(pH8.0)、300mM NaCl、および10mMイミダゾールを含む。Ni NTA洗浄緩衝液は、50mM Tris(pH8.0)、300mM NaCl、および20mMイミダゾールを含む。Ni NTA溶離緩衝液は、50mM Tris(pH8.0)、300mM NaCl、および500mMイミダゾールを含む。アネキシンV 結合緩衝液は、10mM HEPES(pH7.4)、140mM NaCl、2.5mM CaCl2、0.1%BSAを含む。C末端6×Hisタグ化プロカスパーゼ−3タンパク質を、下記のように発現させた。
【0115】
細胞培養−U937ヒトリンパ腫細胞およびSK−Mel−5ヒト黒色腫細胞をATCCから入手した。細胞を、10%FBSおよび1%pen−strepを補足したRPMI 1640成長培地中で培養した。細胞を37℃および5%CO2でインキュベートした。0.05%トリプシン(Trysin)−EDTA(Gibco)希釈物を使用した細胞単層のトリプシン処理によってSK−Mel−5細胞の継代培養を行い、上記のようにFBSおよびpen−strepを補足したRPMI 1640成長培地中でさらに培養した。
【0116】
細胞死アッセイ−U937ヒトリンパ腫細胞を、10%FBSおよび1%pen−strepを含む200μLのRPMI 1640成長培地中に5000細胞/ウェルの密度で96ウェルプレートのウェルにプレートした。0μMと100μMとの間の化合物濃度で細胞が処理されるように、各ウェルに、2μLの100×化合物保存液を種々の濃度で含むDMSOを添加した。各濃度を五連で試験した。各プレート中の5ウェルにポジティブコントロールとしての10μMエトポシドを添加し、5ウェルにネガティブコントロールとしての2μLのDMSOを添加した。次いで、プレートを、5%CO2中にて37℃で72時間インキュベートした。72時間のインキュベーション後、プレートを、前に記載のようにスルホローダミンBアッセイを使用して分析した1。具体的には、プレートの各ウェルに、50μLの80%(w/v)TCA水溶液を添加し、プレートを4℃で一晩静置した。次いで、プレートを水蒸気にて5回穏やかに洗浄して、過剰量のTCAおよび沈殿した血清タンパク質を除去した。次いで、プレートを風乾し、その後に100μLの0.057%(w/v)スルホローダミンBを含む1%(v/v)酢酸溶液を各ウェルに添加し、室温で30分間染色した。染色後、ウェルを100μLの1%(v/v)酢酸で5回穏やかに洗浄して、非結合色素を除去した。次いで、プレートを風乾した。次いで、200μLの10mM Tris塩基(pH10.5)を各ウェルに添加し、プレートを、オービタルシェーカーに5分間おいた。次いで、Molecular Dynamicsプレートリーダーにて510nmのODを読み取り、細胞死滅率を計算し、ポジティブコントロール(100%細胞死)およびネガティブコントロール(0%細胞死)に対して正規化した。細胞死滅率を各化合物濃度について平均化し、化合物濃度の関数としてプロットした。データを、Table curve 2Dを使用してロジスティックな用量応答曲線にフィッティングし、IC50値を計算した。実験を3回繰り返し、計算したIC50値の平均を報告した。平均値の標準誤差(SEM)を決定し、三連の実験について報告した。各用量−応答曲線は示さない。
【0117】
プロカスパーゼ−3/カスパーゼ−3の組換え発現および精製−プロカスパーゼ−3およびカスパーゼ−3を、前に記載のように正確に組換え発現および精製した。簡潔に述べれば、プロカスパーゼ−3およびカスパーゼ−3を、大腸菌のエレクトロコンピテントBL21(DE3)株(Novagen)中でのpHC332発現プラスミドから発現させた。C末端6×Hisタグ化タンパク質を、Ni NTA樹脂(Qiagen)を使用して精製した。タンパク質含有画分を回収し、プールした。次いで、Chelex(登録商標)樹脂で処理したカスパーゼ活性緩衝液を充填したPD−10カラム(GE Healthcare)へのタンパク質の適用によって精製タンパク質をさらに精製して、いかなる夾雑亜鉛も除去した。得られた亜鉛を含まないタンパク質含有画分を含むカスパーゼ活性緩衝液をプールし、濃度を決定し、タンパク質溶液を液体窒素中で瞬間凍結し、−80℃で保存した。
【0118】
カスパーゼ−3活性アッセイ−カスパーゼ−3(1μM)の無亜鉛保存液(2×)を、カスパーゼ活性緩衝液中で調製した。200μM〜200nMの種々の濃度の化合物保存液を、カスパーゼ活性緩衝液にて作製した(2×)。ZnSO4(25μM)を含むカスパーゼ活性緩衝液の保存液(10×)を調製した。384ウェルプレートの各ウェルに、20μLのカスパーゼ−3(最終濃度500nM)、20μLの化合物保存液、および5μLのZnSO4(最終濃度2.5μM)、または緩衝液を添加した。各プレートは、ポジティブコントロールウェル(0μM亜鉛および化合物なし)およびネガティブコントロールウェル(2.5μM亜鉛および化合物なし)を含んでいた。プレートを、室温で30分間インキュベートした。次いで、プレートの各ウェルに、5μLのAc−DEVD−pNA基質の2mM保存液を添加し、その直後に405nmにおける吸光度をspectramaxプレートリーダー(Molecular Devices,Sunny Vale,CA)にて1分毎に30分間モニタリングした。各ウェルの勾配を使用して活性を決定し、ポジティブコントロールウェルおよびネガティブコントロールウェルに対して正規化してパーセント活性を得た。各化合物濃度(4ウェル)についてのデータを平均し、化合物濃度の関数としてパーセント活性をプロットした。データを、Table Curve 2Dを使用して分析し、ロジスティックな用量応答曲線にフィッティングした。化合物の大部分は、10μMで最大活性を達成した。10μMでのパーセント活性を各化合物について決定し、対応するSEMを使用した3回の実験の平均として報告した。各用量−応答曲線は示していない。
【0119】
EGTA蛍光滴定アッセイ−この滴定アッセイは、公開されたプロトコールに基づく。滴定前に、キュベットにEDTA(10mM)を10分間充填し、その後に滅菌脱イオン水およびアセトンで洗浄していかなる夾雑金属イオンも除去した。PAC−1または誘導体(60μM)を、10倍希釈(PAC−1の最終濃度:6μM)が達成されるようにEGTA(7.3mM)を有する緩衝液(Hepes:50mM、KNO3:100mM(pH7.2))を含むキュベットに添加した。Zn(OTf)2(0〜10mM)を漸増的に添加した。Zn−PAC−1(または誘導体)複合体の形成を、蛍光強度(ex/em:410nm/475nm)の増加によってモニタリングした。475nmでの蛍光強度を、MaxChelatorプログラムを使用して計算した遊離Zn濃度([Zn]f/M)に対してプロットした。データをKaleidaGraphを使用して分析し、公開されたプロトコールによって誘導した以下の式S1に基づいて形成曲線にフィッティングした:
I=(IminKD+Imax[Zn]f)/(KD+[Zn]f)
(式中、IminおよびImaxを、遊離プローブ(この場合、PAC−1または誘導体)の蛍光強度およびZn−プローブ複合体の蛍光強度とそれぞれ定義した)。
【0120】
免疫蛍光染色−ポリリジン溶液(Sigma)中でカバーガラスを1時間震盪し、次いで、MilliQで洗浄することによって18mmの丸型no.1ホウケイ酸カバーガラス(VWR)にポリリジンをコーティングした。SK−Mel−5ヒト黒色腫細胞を、12ウェルプレートの底部のポリリジンコーティングしたカバーガラス上で成長させた。密集度が約80%になった時に、細胞をDMSOまたは100μM PAC−1を含むDMSO(総DMSOは1%未満)のいずれかで1時間処置した。次いで、細胞を1mLのPBSで2回洗浄し、3.7%ホルムアルデヒドを含むPBS中にて室温で10〜15分間固定した。次いで、細胞をPBSで再度2回洗浄し、次いで、0.1% Triton X−100を含むPBSで5分間透過処理した。次いで、細胞を3%BSAを含むPBS中で10分間ブロッキングし、500倍希釈のウサギ抗プロカスパーゼ−3抗体と1時間インキュベートした。次いで、カバーガラスをPBSで5回洗浄し、1000倍希釈の抗ウサギAlexafluor647抱合二次抗体と遮光下で20分間インキュベートした。カバーガラスをPBSで5回再度洗浄し、MilliQH2Oで1回洗浄した。次いで、Fluorosave(Calbiochem)を使用してカバーガラスをスライドガラス上にマウントし、画像化まで暗所で保存した。細胞を、LeicaSP2多光子共焦点顕微鏡にて画像化した。
【0121】
生細胞画像化−SK−Mel−5細胞を、no.1ホウケイ酸グロースチャンバー(Nunc)の底面上で密集度約80%まで成長させた。次いで、細胞をDMSO、25μM FAM−DEVD−fmkを含むDMSO、25μM AF350−PAC−1を含むDMSO、または25μM FAM−DEVD−fmkおよび25μM AF350−PAC−1の両方で同時に5%CO2下にて37℃で1時間処置した。次いで、細胞を、フェノールレッドを欠くRPMI 1640成長培地で5回洗浄した。次いで、細胞を、画像化前に37℃で2時間さらにインキュベートした。核染色用のSYBRグリーンで染色した細胞について、100,000倍希釈のSYBRグリーンを含む培地を画像化直前に添加した。細胞を、LeicaSP2 多光子共焦点顕微鏡にて画像化した。
【0122】
画像解析−画像を明瞭にするために輝度およびコントラストを調整した。画像について、Image Jを使用して、赤色チャンネルを10と28との間の線形強度勾配を反映するように調整した。緑色チャンネルについて、0と44との間の線形強度勾配を反映するように画像を調整した。顕微鏡のオフセットを説明するために、赤色チャンネルを手動でx方向に5ピクセルオフセット指定し、緑色チャンネルを手動でy方向に6ピクセルオフセット指定した。半径1ピクセルのガウスぼかしを使用して画像をフルタリングし、信号対雑音比を改善した。ImageJプラグインJACoPを使用して、重複率をManders重複係数を使用して決定した。
【0123】
PAC−1誘導体によるアポトーシスの誘導−最終濃度50μMが達成されるようにU937細胞(1mLの1×106細胞/mL)を種々の化合物の5μLエタノール保存液で処置した。細胞を37℃で12時間インキュベートした。細胞を遠心分離し(200gで5分間)、PBS(2mL)で洗浄し、500μLのアネキシンV結合緩衝液に再懸濁した。各サンプルに、10μLのFITC抱合アネキシンV染料(Southern Biotech)および10μLのヨウ化プロピジウム(Sigma)を最終濃度50μg/mLまで添加した。細胞集団を、Benton Dickinson LSR II細胞フローサイトメーターで分析した。
【0124】
材料と方法
概要
無水条件が必要な全ての反応を、乾燥機で乾燥させたガラス製品中にて陽圧の窒素またはアルゴン雰囲気下で行った。標準的なシリンジ技術を、液体の無水添加のために使用した。乾燥テトラヒドロフランを、市販の溶媒精製システム(Innovative Technologies)における活性アルミナカラムまたは分子ふるいの通過によって得た。他に断らない限り、全ての出発物質、溶媒、および試薬を供給業者から入手し、さらに精製せずに使用した。フラッシュクロマトグラフィを、230〜400メッシュシリカゲルを使用して行った。ヒドラジド5、PAC−1、1a、1h、3−アリルサリチルアルデヒド、2−メルカプトベンズアルデヒド、23、30、44を、修正した文献に記載の方法にしたがって調製した。
【0125】
化合物分析
全てのNMR実験を、内部標準として残存非重水素化溶媒を用いたVarian Unity 400MHzまたは500MHz分光計にてCDCl3(Sigma)、CD3OD(sigma)、またはアセトン−d6(Sigma)のいずれかにおいて記録した。化学シフト、δ(ppm);結合定数、J(Hz);多重性(s=シングレット、d=ダブレット、t=トリプレット、q=カルテット、m=マルチプレット);および積分値を報告する。高分解能質量スペクトルデータを、University of Illinois Mass Spectrometry LaboratoryのMicromass Q−Tofウルトラハイブリッド型四重極/飛行時間型ESI質量分析計で記録した。全ての融点を補正していない。分析HPLCをAltimaC18カラム(2.1×20mm、移動相Aは0.1%TFA水溶液であり、Bは、0〜45%Bを5分間、次いで45〜55%Bを5〜10分間、次いで55〜100%Bを10〜15分間、100%に保って15〜20分間、および100〜0%を20〜25分間の勾配系を使用したアセトニトリルである)にて行った。LC−MSを、C18カラム(2.1×5mm、移動相Aは0.1%TFA水溶液であり、Bは、0%Bに保って0〜2分間、次いで0〜50%Bを2〜5分間、次いで50〜100%Bを5〜7分間、100%に保って7〜8分間、および100〜0%を8〜10分間の勾配系を使用したアセトニトリルである)にて行った。
【0126】
【化24】
【0127】
【化25】
【0128】
【化26】
実施例3.PAC−1誘導体の評価
図11は、化合物I−II−7についての亜鉛媒介性カスパーゼ−3阻害の軽減を示す。
図12は、化合物I−IV−3についての亜鉛媒介性カスパーゼ−3阻害の軽減を示す。グラフは、3つの個別の用量応答実験を示す。エラーバーは、各データポイントについての平均値の標準誤差を示す。
図13は、亜鉛の使用または未使用時の化合物1−II−6の吸収スペクトルを示す。
【0129】
PAC−1誘導体を、癌細胞を死滅させ、in vitroでプロカスパーゼ−3を活性化し、亜鉛に結合する能力について、細胞培養物中およびin vitroアッセイで評価した。プロカスパーゼ−3を活性化する化合物は、一般に、U937細胞においてIC50値が低い。例示的なデータを、以下の表1〜4に示す。
【0130】
細胞死の誘導を、U−937(ヒトリンパ腫)細胞株を使用して決定した。U−937細胞は、懸濁培養で成長する。これらの実験について、細胞を一連の濃度範囲の化合物に72時間曝露し、細胞死をスルホローダミンBアッセイによって定量し、IC
50値を、ロジスティックな用量−応答曲線から計算した。
【0131】
データから、以下が認められる。(1)亜鉛に結合できないPAC−1誘導体はin vitroでカスパーゼ−3を活性化せず、培養でU−937細胞の死滅をあまり誘導しない。この情報により、PAC−1の亜鉛結合能力がその細胞死誘導特性に重要であることが示唆される。(2)オルト−ヒドロキシN−アシルヒドラゾンモチーフは亜鉛結合に重要である。(3)亜鉛に結合する実質的に全ての化合物は、in vitroでカスパーゼ−3を活性化し、培養でU−937細胞の死滅を誘導する。in vitroカスパーゼ−3活性化を示さないが、依然としてU−937細胞に毒性を示す唯一の化合物I−IV−1およびI−IV−2は、この傾向の例外である。興味深いことに、本発明者らは、これら2つの化合物(濃度10μMで)がカスパーゼ−3酵素活性の合理的に強力なインヒビターであることを見出している。したがって、化合物の任意の活性化効果を、この阻害によってマスキングすることができる。この阻害効果は、PAC−1も高化合物濃度でプロカスパーゼ−3/カスパーゼ−3を阻害することを示す前のデータと一致する。
【0132】
【表1】
【0133】
【表2】
【0134】
【表3】
【0135】
【表4】
実施例4.共焦点顕微鏡法
Zn2+への結合によってPAC−1が癌細胞を死滅させることを確認するために、蛍光PAC−1を使用した共焦点顕微鏡法を行って、細胞中でのPAC−1の細胞内局在を調査した。スキーム5に示すように、PAC−1の蛍光バージョンを、PAC−1へのAlexa Fluor 350の「クリッキング」によって合成した。
【0136】
【化27】
上記の蛍光標識した化合物AF−PAC−1は、これらのアッセイにおいてPAC−1に類似の活性を有する(IC
50対U−937細胞=14.8(3.2μM;10μMでのカスパーゼ−3活性化=6.3(1.6%および50μM=20(3%;亜鉛のK
d=61(9nM)。
図14は、共焦点顕微鏡法研究の結果を示す。AF−PAC−1のカスパーゼ−3/−7酵素活性部位との共局在化。DMSOで処置したSK−MEL−5細胞は、赤色および緑色チャンネルの両方においてバックグラウンドレベルの染色を示す(ここでは、モノクロ階調)。FAM−DEVD−fmkのみで処置した細胞は、いかなるバックグラウンドレベルを超える染色も示さない。AF−PAC−1のみで処置した細胞は細胞質中に点状の染色を示し、この染色は520nmでの励起で増加しない。AF−PAC−1およびFAM−DEVD−fmkで同時に処置した細胞は、強いカスパーゼ−3/−7活性のスポット(偽着色)およびAF−PAC−1の点状染色(偽染色)を示し、これは、重複画像における良好な共局在化を示す。
【0137】
実施例5.イヌを使用したPAC−1についての臨床試験
2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンを使用したPAC−1の処方物を、より高い用量で動物に投与した。イヌは、急性の神経毒性(運動失調症および癲癇)を経験した。マウスにおけるさらなる研究により、高用量で類似の症状が示された。PAC−1が血液脳関門(BBB)を通過し、NMDA受容体で結合した阻害性亜鉛をキレート化すると考えられる。結果として、新規の化合物PAC−II−9を合成し、試験した。この化合物に関するさらなる情報を、本明細書中の他の場所に記載する。
【0138】
【表5】
予備動物研究は、PAC−1−II−9が神経毒性問題の改善に有用であることを示していた。
【0139】
さらなる化合物およびLogBBデータを表6に示す。
【0140】
【表6-1】
【0141】
【表6-2】
実施例6.PAC−II−9(S−PAC−1)は神経毒性を軽減する
アポトーシス細胞死の誘導は、有望な抗癌ストラテジーである。アポトーシスカスケードにおける重要な事象は、プロカスパーゼ酵素原の活性カスパーゼ(その後に多数の細胞基質を切断するシステインプロテアーゼ)へのタンパク質分解性活性化である。2006年に、プロカスパーゼ−3の触媒活性を増強し、カスパーゼ−3への自己活性化を誘導する小分子が報告された。この化合物(PAC−1と呼ばれる)は、癌細胞のアポトーシスを誘導し、脂質ベースの処方物として経口投与するかコレステロールペレットとして皮下に植え込んだ場合にマウス異種移植モデルにおいて抗腫瘍活性を示す。本明細書中にマウスにおけるPAC−1(静脈内ボーラスとして送達される)の評価を報告し、これらの研究により、高投薬量のPAC−1が神経毒性を誘導することが明らかとなっている。この所見および推定される神経毒性機構に基づいて、PAC−1誘導体(S−PAC−1と呼ばれる)をデザインし、合成し、評価した。PAC−1と同様に、S−PAC−1は、プロカスパーゼ−3を活性化し、癌細胞のアポトーシス死を誘導する。しかし、マウスおよびイヌで評価した場合、S−PAC−1は神経毒性を誘導しない。イヌにおけるS−PAC−1についての持続静脈内注入プロトコールを確立し、それにより、この化合物が24時間で約15μMの定常状態血漿濃度に到達することが可能であった。リンパ腫の5匹の愛玩犬を、小規模臨床試験においてS−PAC−1を使用して評価した。結果は、S−PAC−1がこれらの患畜において十分に許容され、これらの処置によって5匹の患畜のうち4匹で部分的後退または疾患の安定化が誘導されたことを示す。
【0142】
この10年で、個別化抗癌ストラテジーとしての標的治療の可能性が証明されている。これらのアプローチは、正常細胞に特異性を付与するために癌細胞中に存在する特異的タンパク質を活用する(1)。かかる「個別化」薬物は、染色体転座から生じる標的(2)(BCR−ABL融合タンパク質(3)のためのグリベック)、構成的活性化を起こすタンパク質の特異的変異形態(イレッサおよびEGFR変異、(4)PLX4032および変異BRAF(5,6))、または癌細胞で過剰発現されるタンパク質(以下にさらに説明する)に達する。癌の顕著な特徴の1つがアポトーシスに対する耐性であるので(7〜9)、アポトーシスタンパク質は、抗癌薬の創薬のための特に興味深い標的である(10)。実際、抗癌活性は、アポトーシスタンパク質の調節不全発現をターゲティングする化合物(p53−MDM2相互作用の小分子破壊因子(11,12)、Bcl−2のインヒビター(13)、およびXIAPのリガンド(14,15)が含まれる)を使用して証明されている。
【0143】
システインプロテアーゼのカスパーゼファミリーのメンバーは、アポトーシスの開始および実行の両方における重要なプレーヤーである。これらの酵素は、成熟した高活性酵素にタンパク質分解的に活性化される低活性酵素原(プロ酵素)として細胞中に存在する。プロカスパーゼ−3のカスパーゼ−3へのタンパク質分解性変換がアポトーシスに最も重要である。内因性および外因性のアポトーシス経路の両方がプロカスパーゼ−3を活性化するために集結し、カスパーゼ−3が100種を超える細胞基質を有するので、プロカスパーゼ−3のカスパーゼ−3への活性化はアポトーシスカスケードにおける極めて重要且つ関連の深い事象である。興味深いことに、プロカスパーゼ−3は、種々の腫瘍組織構造(乳癌(16)、結腸癌(17)、肺癌(18)、リンパ腫(19)、神経芽細胞腫(20)、黒色腫(21)、および肝臓癌(22)が含まれる)中で過剰発現され、プロカスパーゼ−3を活性化する小分子は正常細胞と対比して癌細胞に選択性を有し得ると示唆される。2006年に、本発明者らは、プロカスパーゼ−3活性をin vitroで増強し、培養における癌細胞の死滅を誘導し、脂質ベースの処方物として経口投与するかコレステロールペレットとして皮下に植え込んだ場合に複数のマウス異種移植モデルにおいて有効性を有する小分子(PAC−1と呼ばれる)の発見を報告した(23)。PAC−1は、プロカスパーゼ−3をin vitroで阻害性亜鉛イオンのキレート化を介して活性化し(24)、誘導体の合成および評価によってPAC−1の生物学的活性がインタクトなオルト−ヒドロキシN−アシルヒドラゾン亜鉛キレート化モチーフを有することに関連することが明らかとなった(25)。大量のデータにより、PAC−1が、プロカスパーゼ−3由来の亜鉛のキレート化、最も顕著には蛍光PAC−1誘導体の細胞カスパーゼ−3活性部位との共局在化によって癌細胞のアポトーシス死を誘導することが示唆される(25)。
【0144】
第1のプロカスパーゼ活性化化合物として、PAC−1を用いた実験は、実行可能な抗癌ストラテジーとしてのプロカスパーゼ−3活性化の可能性を示す。患者における癌処置のための実験的治療としてのPAC−1をさらに開発するために、本発明者らは、静脈内投与され、より洗練されたin vivo腫瘍モデル系、具体的には、自然発生癌を有するイヌにおけるこの化合物の効果を特徴付けるよう試みた。癌を有する愛玩犬における実験的治療の評価により、マウス異種移植モデルを超える多数の利点が得られる(26)。本明細書中に、本発明者らは、マウスにおける静脈内PAC−1の毒性研究、および培養下で癌細胞株のアポトーシスを誘導し、マウスおよび研究用イヌで十分に許容され、自然発生リンパ腫を有するイヌ患畜の小規模試験で有効なPAC−1誘導体(S−PAC−1と呼ばれる)の発見を報告する。
【0145】
PAC−1の処方。ヒト癌患者の処置についてのプロカスパーゼ−3アクチベーターのトランスレーショナルな調査を円滑にするために、静脈内投与(従来の抗癌剤のための最も一般的な薬物送達経路)した場合のPAC−1の耐容性を評価した。この目的を達成するために、本発明者らは、水溶液中で高濃度のPAC−1(親油性薬物)を確実に維持する処方手順を最初に最適化した。水溶液中のPAC−1の溶解および維持が可能な溶解補助剤は、2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンであった。200mg/mLの2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン水溶液中で、PAC−1は20mg/mLで溶解する。完全な溶解には水溶液をpH1.5〜2に酸性化する必要があり、次いで、溶液をpH5〜6に回復させる。この手順を使用して、PAC−1は溶液中に維持され、4℃で保存した場合に少なくとも5日間安定である。
【0146】
PAC−1の毒性。静脈内投与したPAC−1の実行可能性および耐容性を特徴付けるために、C57/BL6マウスに、10、20、30、および50mg/kgのPAC−1(2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン中に溶解)を外側尾静脈注射によって投与し、動物を24時間観察した。10mg/kgのPAC−1では、毒性の臨床徴候は認められなかった。この様式で20mg/kgのPAC−1を投与したマウスは、軽度の神経学的症状(嗜眠が含まれる)および軽度の運動失調症を示した。これらの症状は注射後20分間持続し、その時点でマウスを回復させ、さらなる毒性の徴候は認められなかった。30mg/kgのPAC−1を投与したマウスは、明白な神経毒性の徴候(攣縮(1/3)、運動失調症(3/3)、および平衡感覚障害(3/3)が含まれる)を示した。これは注射後5分以内に発生し、およそ15分間持続した。50mg/kgのPAC−1を投与したマウスは、より明白な運動失調症および平衡感覚障害を伴う急性神経毒性症状を示した。この投薬量では、全てのマウスで筋攣縮が認められた。2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンビヒクルのみを投与したマウスは、毒性を示さなかった。マウスでこの神経毒性が認められたにもかかわらず、PAC−1は、より低い用量でイヌに安全に投与された。この神経毒性が種特異性でなかったことを確認するために、60mg/kgのPAC−1を1匹の健康な研究用猟犬に10分間にわたってi.v.投与した。この高濃度のPAC−1の投与により、類似の神経毒性(運動失調症および攣縮が含まれる)が得られ、これは20分間持続した。
【0147】
in vitroにおける亜鉛に対するPAC−1の既知の親和性(24)およびその証明された細胞亜鉛への結合能力(25)を考慮すると、本発明者らは、PAC−1を含む2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンを投与したマウスおよびイヌで認められた神経毒性が処置したマウスの中枢神経系内のNMDA受容体での細胞内亜鉛のキレート化に原因するとの仮説を立てた。この仮説は、PAC−1で認められたものに類似の神経学的表現型を誘導する他の亜鉛キレーターのin vivo研究からのデータに一致する(27,28)。実際、血液脳関門(BBB)29を横切る分割を予想するためのPAC−1のin silico分析は、PAC−1のlogBBの計算値が−0.07であることを示す。このlogBBは、血液と脳との間の分割比0.85/1.0に相関するであろう。これにより、かなりの量のPAC−1が中枢神経系に侵入することができることが示唆される。いくつかの研究により、細胞内亜鉛貯蔵物のキレート化がNMDA受容体の持続的抑制を軽減し、それにより、神経過興奮を引き起こすことが示されている(28,30)。
【0148】
【化28】
S−PAC−1のデザイン。この神経毒性を克服するために、本発明者らは、神経毒性が減少し、より高い濃度を投与可能なBBBの透過性がより低いPAC−1の誘導体を合成した。PAC−1のベンジル環上に組み込まれた極性官能基は、親化合物の活性を維持しながら推定logBBを減少させるはずである。そのようなものとして、S−PAC−1(PAC−1のスルホンアミド誘導体)を、BBBを透過する能力が顕著に減少した(logBB−1.26)と予想される化合物としてデザインした。S−PAC−1への合成経路をスキーム6に示す。この経路は、以前に報告されたPAC−1への合成経路の修正形態である(23)。簡潔に述べれば、スルホンアミド1をピペラジン2とカップリングして高収率でエステル3を得る。次いで、エステルをヒドラジンと反応させてヒドラジド4を生成し、次いで、アルデヒド5と縮合してS−PAC−1を生成する。この経路についての全ての実験の詳細ならびにS−PAC−1および種々の中間体についてのスペクトルデータを、本明細書中の他の場所に見出すことができる。特に、反応順序は拡張性が高く、実際、スキーム6に列挙した収率は、40グラムのS−PAC−1の生成についての収率である。このスケールアップには、各中間体についての容易な精製プロトコールの開発が重要であった。したがって、化合物2をエタノールからの再結晶によって精製し、ヒドラジド3をメタノールからの再結晶によって精製し、最終生成物を、シリカゲルクロマトグラフィおよびメタノールからの再結晶によって精製する。この合成を40グラムスケールで4回行うことにより、160g超のS−PAC−1が首尾よく生成された。より小さなスケールのS−PAC−1の合成の詳細を、本明細書中の他の場所に見出すことができる。
【0149】
S−PAC−1は亜鉛イオンに結合する。S−PAC−1の活性を、いくつかの生化学アッセイで特徴付けた。EGTA競合滴定実験(31)を使用して、S−PAC−1:Zn
2+複合体の結合定数を決定した。この実験では、既知量のEGTAおよびS−PAC−1を含む溶液を、漸増濃度のZn
2+を使用して滴定し、S−PAC−1の蛍光を475nmでモニタリングした。Zn
2+存在下での蛍光の変化を使用して、形成曲線をプロットした(
図16b)。EGTAの既知の結合定数を使用して、遊離亜鉛濃度を計算し、これを使用してS−PAC−1:Zn
2+複合体の結合定数を決定することができる。この複合体のKdは、PAC−1:Zn
2+の52±2nMと比較して46±5nMである(25)(
図20)。
【0150】
EGTA蛍光滴定アッセイ−この滴定アッセイは、公開されたプロトコールに基づく(Huang,Org.Lett.2007,9,4999−5002)。滴定前に、キュベットをEDTA(10mM)と10分間インキュベートし、その後に滅菌脱イオン水およびアセトンで洗浄していかなる夾雑金属イオンも除去した。PAC−1または誘導体(60μM)を、10倍希釈(PAC−1の最終濃度:6μM)が達成されるようにEGTA(7.3mM)を有する緩衝液(Hepes:50mM、KNO
3:100mM(pH7.2))を含むキュベットに添加した。Zn(OTf)
2(0〜10mM)を漸増的に添加した。Zn−PAC−1(または誘導体)複合体の形成を、蛍光強度(ex/em:410nm/475nm)の増加によってモニタリングした。475nmでの蛍光強度を、MaxChelatorプログラムを使用して計算した遊離Zn濃度([Zn]
f/M)に対してプロットした(Patton,Cell Calcium,2004,35,427−431)。データをKaleidaGraphを使用して分析し、公開されたプロトコールによって誘導した以下の式S1に基づいて形成曲線にフィッティングした:
I=(IminK
D+Imax[Zn]
f)/(K
D+[Zn]
f) 式S1
(式中、IminおよびImaxを、遊離プローブ(この場合、PAC−1または誘導体)の蛍光強度およびZn−プローブ複合体の蛍光強度とそれぞれ定義した)。
【0151】
S−PAC−1はプロカスパーゼ−3をin vitroで活性化する。in vitroにて外因性亜鉛の存在下でS−PAC−1が組換え発現したプロカスパーゼ−3を活性化する能力を評価した。確実にプロ酵素の活性をモニタリングするために、タンパク質分解的に切断不可能なプロカスパーゼ−3変異体(3つのアスパラギン酸切断部位の残基がアラニンに変異している(D9A/D28A/D175A))を使用した(24,32)。この組換え発現したタンパク質を10μM亜鉛の存在下でインキュベートし、S−PAC−1をサンプルに添加し、酵素活性を15分間隔でモニタリングした。
図16cに示すように、S−PAC−1は、亜鉛媒介阻害の軽減によってプロ酵素の酵素活性を迅速に(5分以内)増強する。
【0152】
S−PAC−1は、培養下の複数の癌細胞株の細胞死を誘導する。S−PAC−1が亜鉛とキレート化し、in vitroでプロカスパーゼ−3を活性化することが確認されたので、一連のヒト、イヌ、およびマウスの癌細胞株に対するS−PAC−1の抗癌活性を評価した。細胞を種々の濃度の化合物と72時間インキュベートし、その後にスルホローダミンBアッセイを使用して細胞死を評価した(33)。PAC−1およびS−PAC−1のIC50値を表1Aに報告する。PAC−1はHeLa細胞でより効力があるようであるにもかかわらず、ほとんどの場合、S−PAC−1はPAC−1と等しい効力を有する。PAC−1およびS−PAC−1は共に、起源となる種と無関係に、試験した全てのリンパ腫細胞株に対して効力があるようである。U−937細胞を使用したさらなる分析は、これらの細胞においてS−PAC−1がアポトーシスを誘導することを示す。U−937細胞を、DMSO、50μM PAC−1、または50μM S−PAC−1で12時間処置した。インキュベーション後、アポトーシスをアネキシンV/PI染色によって評価し、フローサイトメトリーによって分析した(
図16d)。PAC−1およびS−PAC−1の両方での処置により、アネキシンV染色を示す細胞集団が増加する。この実験では、S−PAC−1は、PAC−1と同一の程度(約40%)までアポトーシスを誘導する。
【0153】
in vivoでのS−PAC−1の評価のための適切な処置ストラテジーを決定するために、S−PAC−1細胞傷害性の時間依存性を評価した。U−937細胞を、S−PAC−1で種々の時間処置した。S−PAC−1での処置後、細胞を洗浄して化合物を除去し、化合物を含まない成長培地中で培養した。72時間で全ての処置時間についての細胞死を評価した。各曝露時間についてのIC
50値を決定し、表1Bに報告した。3、6、および9時間で、IC
50値は試験した最高濃度よりも高かった。曝露12時間で、IC
50値の急速な減少が認められる。曝露24時間までに、IC
50値はほぼ最小であり、その後48時間にわたってほとんど変化しない。これらの時間依存性実験により、癌細胞を化合物に少なくとも24時間曝露した場合、S−PAC−1がin vivoで最も有効であると示唆される。
【0154】
S−PAC−1は、マウスにおいて神経毒性効果を示さない。in vitroおよび細胞培養でのS−PAC−1の活性が確認されたので、C57/BL6マウスにおけるS−PAC−1の毒性効果を評価した。PAC−1の毒性決定に類似の様式で、S−PAC−1(2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンを使用して可溶化)を、外側尾静脈注射によって12.5mg/kg、25mg/kg、37.5mg/kg、および350mg/kgでC57/BL6マウスに投与した。用量350mg/kgでさえも神経毒性は認められなかった。
【0155】
マウス腫瘍モデルにおけるS−PAC−1の最初の評価目的のために、マウスにおけるS−PAC−1の薬物動態学を決定した。S−PAC−1の血漿濃度が24時間にわたって約10μMを超えるような様式でS−PAC−1を投与することができる場合、処置は、腫瘍細胞におけるプロカスパーゼ−3の活性化およびアポトーシスの誘導に有効であり得る。これらの株を使用した処置ストラテジーを開発するために、C57/BL6マウスを、i.p.投与によって125mg/kgのS−PAC−1を含む2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンで処置した。マウスを屠殺し、投与後の種々の時点で採血した。血液サンプルを遠心分離し、血清を回収し、液体クロマトグラフィによって分析して薬物濃度を決定した。S−PAC−1についての時間に対する薬物濃度を
図17Aに示す。この用量によって達成されたピーク血漿濃度は、注射30分後の約170μMである。次いで、S−PAC−1の血漿濃度は急速に減少し、注射4時間後にはS−PAC−1は残存しない。このデータの分析により、マウスにおけるS−PAC−1の排出半減期は約1時間であることを示す。マウスにおける達成されたピーク血漿濃度およびS−PAC−1の短い半減期に基づいて、マウスにおいて24時間にわたって10μMの最小血漿濃度を達成および維持するために用量350mg/kgのS−PAC−1で2時間毎に処置する必要があると予想された。S−PAC−1のこの頻繁な投与レジメン(i.p.にて2時間毎に24時間)は技術的に実現可能であったにもかかわらず、マウス腫瘍モデルを使用した新規の治療薬としてのS−PAC−1のさらなる評価は方法論的に実用的ではなかった。そのようなものとして、本発明者らは、S−PAC−1の定常状態濃度を長期間維持するためのさらなる実用性を付与するより大きな哺乳動物実験系(特に、健康なイヌおよび自然発生癌を保有するイヌ)においてS−PAC−1をさらに調査することを試みた。
【0156】
研究用イヌにおけるS−PAC−1の評価。健康な研究用猟犬を、S−PAC−1の薬物動態学調査および毒性調査のために使用した。4匹の研究用猟犬を、i.v.注射にて10分間にわたって25mg/kgのS−PAC−1(2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリンに溶解)で処置した。イヌにおける静脈内投与したS−PAC−1の薬物動態学的プロフィールを特徴付けるために、複数の血清サンプルを24時間にわたって回収した。薬物動態分析に加えて、研究用イヌにおける単回用量の静脈内S−PAC−1投与の血液学的および非血液学的な耐容性を、4週間にわたって毎週モニタリングした(表2A)。
図17Bに示すように、この25mg/kgのi.v.ボーラス量に起因するピーク血漿濃度は約150μMであった。これは、125mg/kgのi.p.用量で処置したマウスで達成されたピーク血漿濃度に類似していた。薬物動態学的プロフィールの分析から、イヌにおけるS−PAC−1の半減期は、3時間であると計算された。さらに、単回用量の静脈内S−PAC−1処置は、4匹全ての研究用イヌにおいて十分に許容され、処置の結果として、これらの動物において短期または長期の有害事象は認められなかった。
【0157】
イヌにおける3時間の半減期がマウスにおけるS−PAC−1の半減期より有意に改善されているにもかかわらず、薬物動態学的計算により、約10μMを超える血清レベルを維持するために薬物を1日の流れの中で数回投与する必要があると予想された。あるいは、持続注入を使用して、一連の処置の間に薬物が定常状態の血清濃度を維持することができる。持続注入ストラテジーは、他の化学療法薬(ダカルバジン(34)、シトシンアラビノシド(35)、およびゲムシタビン(36)など)と共に98時間までの注入時間で使用されている。さらに、YM155(より長い曝露時間で活性が増加するアポトーシス促進性の治験薬)が現在臨床試験中であり、これは、168時間の持続注入を利用する(37)。
【0158】
3匹の健康な研究用イヌを使用して、持続注入レジメンによってS−PAC−1を安全に投与することができるかどうかを決定し、約10μMを超える血漿濃度を維持するのに適切な投与レベルを決定した。各イヌに、i.v.注入によって10分間にわたって初回負荷量を投与し、その後に注入ポンプによってさらに24時間送達させて投薬量を維持した。各イヌをその24時間の注入にわたって有害反応について観察し、間隔をおいて採血してS−PAC−1処置の薬物動態学的プロフィールを評価した。さらに、S−PAC−1注入の終了後、研究用イヌを、4週間にわたって毎週血液学的および非血液学的な毒性について評価した。
【0159】
24時間持続注入として投与したS−PAC−1を研究用イヌに安全に投与することができ、マイクロモルの定常状態の血漿濃度に容易に到達する。この様式でS−PAC−1を投与したイヌについての薬物動態学的プロフィールは、定常状態の血漿濃度が用量漸増と相関することを示す(
図17C)。これらの結果に基づいて、7mg/kgの負荷量および3mg/kg/時間の定速注入が約10μMの定常状態の血漿濃度を達成するために十分であろうと予想される。さらに、S−PAC−1の定速注入は試験した全ての用量で十分に許容され、いかなる研究用イヌにおいても血液学的または非血液学的な毒性は認められなかった。
【0160】
S−PAC−1のin vitro活性が確認され、化合物を定速注入によって安全に投与することができ、且つ10μMを超えるS−PAC−1の定常状態の血漿濃度を24時間持続して達成することができることが示されたので、自然発生リンパ腫を有するクライアント所有の愛玩犬の小規模(n=5)臨床試験を行った。愛玩犬における自然発生癌は、ヒト癌と多数の類似点がある(組織学的外観、腫瘍遺伝学、分子標的、生物学的および臨床的挙動、ならびに治療反応性が含まれる)(38)。これらのイヌ自発発生癌のうち、多中心性リンパ腫は最も一般的であり、100,000匹のイヌあたり13〜24匹が発症する(39)。多中心性B細胞またはT細胞性イヌリンパ腫の臨床的進行および処置は、ヒトの非ホジキンリンパ腫と同一の特徴を多数有する。イヌリンパ腫およびヒト非ホジキンリンパ腫の両方は、同一の細胞傷害性薬物(ドキソルビシン、ビンクリスチン、およびシクロホスファミドなど)に対して臨床的に応答する。これらの薬物は、CHOP処置プロトコール(ヒトのびまん性大細胞型B細胞リンパ腫のためのファーストライン治療である)の構成要素である(40)。イヌに投与した場合、CHOPプロトコールは、リンパ腫と診断されたイヌのおよそ90%で完全な臨床的寛解を誘導するであろう(41,42)。ヒト応答に類似して、CHOP治療を使用して寛解を達成するイヌの大部分が疾患再発を経験するであろう(43)。ヒトリンパ腫とイヌリンパ腫との間の共通点を考慮して、イヌリンパ腫臨床試験におけるS−PAC−1の評価により、新規のヒト治療としてのS−PAC−1の開発のための重要なトランスレーショナルな情報が得られる。
【0161】
S−PAC−1試験の選択規準。University of Illinois−Urbana Champaign,College of Verinary Medicine,Small Animal Clinicに連れていかれたか付託されたイヌについて臨床試験の参加を考慮した。適格な患畜の選択規準は以下であった:多中心性リンパ腫が組織学的または細胞学的に確認されていること、全身腫瘍組織量が測定可能であること、好ましい活動状態、平均余命が4週間超であること、研究参加の3週間以内に化学療法の履歴がないこと、および有意な共存性の疾患(腎不全または肝不全が含まれる)、鬱血性心不全の病歴、または臨床的凝固障害を持たないこと。さらに、ペット所有者は、大学のガイドラインに従って、研究参加前にインフォームド・コンセントの書類に署名しなければならなかった。
【0162】
イヌリンパ腫患畜におけるS−PAC−1の毒性および薬物動態学。5匹のイヌ患畜を、2つの処置レジメン(表7Cにまとめている)のうちの1つによってS−PAC−1で処置した。第1の処置レジメンに参加した患畜に、4週間のサイクルで週1回S−PAC−1の24時間連続注入を行った。第2の処置レジメンに参加した患畜に、2処置サイクルで1週間おきにS−PAC−1を72時間連続注入した。各S−PAC−1処置サイクルの間に薬物動態分析のために採血した。さらに、血液学的および非血液学的毒性を特徴付けるために、それぞれの計画された追跡調査来院時に全ての愛玩犬から採血した。投与の間に、動物共同腫瘍学グループの共通用語および有害事象の基準(VCOG_CTCAE)を遵守した胃腸毒性観察スコアのためにペット所有者が患畜をモニタリングした(44)。処置レジメン1または2のいずれかに参加した全ての患畜では、いかなる臨床学的に有意な血液学的または非血液学的毒性も証明されなかった(表7CおよびD)。小さな有害事象(注入部位の自己限定性の局在化された刺激(n=3)、一過性の無食欲(n=1)、および軽度の下痢(n=2)など)のみがペット所有者によって報告された。全ての有害反応は、各処置サイクルの終了後48時間以内に鎮静した。
【0163】
薬物動態分析により、
図18に示すように、全ての患畜が測定可能なS−PAC−1の血清濃度を有することが示された。S−PAC−1濃度は、注入開始から6時間以内に定常状態に到達した。健康な研究用イヌからの予想にしたがって、7mg/kgの負荷量および3mg/kg/時間の定速注入を使用した注入は、ほとんどの処置において10μMを超える定常状態の血漿濃度を達成するのに十分であった。
【0164】
S−PAC−1の抗腫瘍活性。全身腫瘍組織量の評価を、末梢リンパ節の累積カリパス測定および下顎リンパ節のCTスキャンによって一連の研究を通してモニタリングした。カリパス測定をRECIST法にしたがって行った(45)。簡潔に述べれば、4対の末梢リンパ節(下顎、肩甲骨全部、鼠径部、および膝窩)についての最長の直線の長さの測定値を記録し、これらの値のまとめからRECISTスコアを得た。4対全ての末梢リンパ節のカリパス測定に加えて、全ての患畜の下顎リンパ節のCTスキャンを行った。これにより、リンパ節の最大直線長の正確且つ客観的な測定が可能であった。処置した5匹の患畜のうち、1匹の患畜(患畜1)が、4週間の処置にわたるRECISTスコアおよびCTスキャンによる下顎リンパ節の測定値の両方が約30%減少した部分的応答を示した(
図19AおよびB)。4つの処置サイクル後、薬物投与を停止し、イヌをその後2週間RECISTによってモニタリングした。処置の非存在下では、このイヌについてのRECISTスコアは劇的に増加した(36日目および42日目)。この部分的応答に加えて、3匹の患畜は安定化疾患を示した一方で(患畜2〜4)、1匹の患畜は疾患の進行を示した(患畜5)。
【0165】
S−PAC−1は、癌患畜の臨床試験で評価されるべきPAC−1クラスの第1の化合物(およびプロカスパーゼ−3の第1の小分子アクチベーター)である。そのようなものとして、このデータは、抗癌治療としてのプロカスパーゼ−3活性化ストラテジーに重要である。化合物の作用機構およびBBBのその予想される透過性を考慮すると高用量のPAC−1が神経毒性を誘導することはおそらく驚くべきことではない。さらに、この神経毒性の発症の短期間の遅延(約5分間)により、認められた神経毒性がPAC−1の最初のピーク血漿濃度の結果ではなく、むしろ、BBBを横切るPAC−1の再分布の結果であると示唆される。亜鉛ホメオスタシスは中枢神経系で重要であり(46)、NMDA受容体は、持続性阻害を得るために亜鉛に結合する必要がある(28)。NMDA受容体は低親和性(K
d=5.5μM)で亜鉛に結合し(47)、それにより、亜鉛に対する親和性がより高い亜鉛キレーター(PAC−1またはS−PAC−1(それぞれK
d=46および52nM)など)がこれらの受容体から亜鉛を首尾よく隔離することができるであろうと示唆される。いくつかの研究は、細胞内亜鉛キレート化によってこれらの受容体が過剰に励起され(27)、それにより、非制御の筋肉の動きおよび痙攣などの症状を生じる(28)ことを示している。実際、細胞透過性亜鉛キレーター(TPEN)は、マウスにおいて低濃度で重篤な神経毒性を誘導し、より高い濃度で急死を誘導することが示されている(48)。
【0166】
BBBを経由する化合物の透過性に影響を及ぼす因子(極性、親油性、およびサイズが含まれる)がいくつか存在する(29)。BBBへの化合物の透過性を減少させるための1つのストラテジーは、分子の極性を増加させることである。アリールスルホンアミドモチーフが多数の小分子治療で共通するので、スルホンアミド官能基の付加は、かかる極性の増大のための良好な候補である。アリールスルホンアミド官能基を含むFDA承認薬には、セレコキシブ(セレブレックス(登録商標))、タムスロシン(フロマックス(登録商標))、およびヒドロクロロチアジドが含まれる。
【0167】
リンパ腫を有する愛玩犬は、治験新薬調査のための重要なツールである(26)。米国の愛玩犬のほぼ1/4が癌で死亡し(49)、無処置での診断からの平均生存期間は4〜6週間である。リンパ腫を有するイヌの標準的なケアは、CHOP治療の適用である(26)。この治療は、19週間にわたる16クールの薬物投与からなり、それにより、通常、完全に寛解する。ヒト疾患に類似して、寛解を達成する大部分のイヌは、しばしば薬物耐性を伴う再発を経験するであろう。そのようなものとして、原発性および再発性の両方のリンパ腫に取り組むための新規のファルマコフォアが必要である。表6Cに示すように、本研究に参加した1匹のイヌ(患畜1)はCHOP治療後5ヶ月間寛解し、最近になって再発性リンパ腫と診断された。研究参加の際、このイヌは、S−PAC−1処置に応答して腫瘍サイズが27%減少した。比較的短い処置持続時間(S−PAC−1についての4週間対CHOPについての19週間)を考慮すると、この部分的応答は有意である。イヌリンパ腫は、一般に、疾患診断後数週間以内に急速に悪化して末梢リンパ節が劇的に拡大するので、5匹の患畜のうちの4匹が4週間にわたって部分的応答または安定病態を達成したことは望ましいことである。これは、処置停止後の患畜1のリンパ節で認められる急速な拡大によってさらに説明される。
【0168】
PAC−1クラスの化合物は、阻害性亜鉛イオンのキレート化によってプロカスパーゼ−3を活性化する(25)。細胞内亜鉛は、主に、メタロプロテアーゼ(亜鉛フィンガードメイン)および他の金属結合タンパク質中の強固に結合した複合体中に見出される。しかし、約10%の細胞亜鉛が弱く結合した不安定なプール中に存在すると考えられている(50)。多数の研究により、内因性抗アポトーシス制御因子として不安定な亜鉛が関連すると見なされている(51〜54)。興味深いことに、弱く結合した亜鉛のプールのキレート化は、新規の抗癌ストラテジーである(24,25)。最近、別の小分子亜鉛キレーター(ML−133)は、in vitroおよび結腸癌のマウス異種移植モデルで抗癌性を有することが報告された(55)。著者によって報告されていないが、ML−133は、PAC−1およびS−PAC−1に類似の様式(すなわち、プロカスパーゼ−3の活性化)で作用し得る。したがって、S−PAC−1の評価はまた、抗癌ストラテジーとしての不安定性亜鉛プールのキレート化で有用である。
【0169】
結論として、S−PAC−1は、親化合物PAC−1に類似の活性を有する強力な細胞傷害性小分子である。高用量のPAC−1(2−ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン中で投与した場合)が神経毒性をin vivoで誘導する一方で、S−PAC−1はこの副作用を生じない。S−PAC−1を、マウス、研究用イヌ、およびリンパ腫保有イヌに安全に投与することができ、この予備的単回投薬量評価において有望な臨床的効果を示す。S−PAC−1を用いても神経毒性を示さないことを考慮して、ここで評価した用量よりも高い用量で安全であることが証明されると認識される。リンパ腫イヌにおけるS−PAC−1の完全なイヌ臨床試験(用量漸増を含む)は、現在進行中である。
【0170】
表6.A)種々の培養癌細胞株におけるPAC−1およびS−PAC−1の細胞傷害性分析。B)U−937細胞におけるS−PAC−1細胞傷害性の時間依存性。C)5匹のS−PAC−1で処置したリンパ腫保有イヌの特徴付け。
【0171】
【表6-3】
【0172】
【表6-4】
表7.A)単回用量のS−PAC−1で処置した研究用イヌ、C)1週間毎に24時間の定速注入の4回連続処置においてS−PAC−1で処置したリンパ腫保有イヌ、およびD)1週間おきに72時間の定速注入の2回連続処置においてS−PAC−1で処置したリンパ腫保有イヌの選択された血液学的および非血液学的なパラメーター。
【0173】
【表7】
材料と方法
概要
無水条件が必要な全ての反応を、乾燥機で乾燥させたガラス製品中にて陽圧の窒素またはアルゴン雰囲気下で行った。標準的なシリンジ技術を、液体の無水添加のために使用した。乾燥テトラヒドロフランを、市販の溶媒精製システム(Innovative Technologies)における活性アルミナカラムまたは分子ふるいの通過によって得た。他に断らない限り、全ての出発物質、溶媒、および試薬を供給業者から入手し、さらに精製せずに使用した。フラッシュクロマトグラフィを、230〜400メッシュシリカゲルを使用して行った。化合物1、2、および5(Naganawa,Bioorg Med Chem,2006,14,7121−7137)を、文献に記載の方法にしたがって調製した。
【0174】
化合物の分析
全てのNMR実験を、内部標準として残存非重水素化溶媒を用いたVarian Unity 400MHzまたは500MHz分光計にてD
2O(Sigma)、CD
3OD(sigma)、またはアセトン−d6(Sigma)のいずれかにおいて記録した。化学シフト、δ(ppm);結合定数、J(Hz);多重性(s=シングレット、d=ダブレット、t=トリプレット、q=カルテット、m=マルチプレット);および積分値を報告する。高分解能質量スペクトルデータを、University of Illinois Mass Spectrometry LaboratoryのMicromass Q−Tofウルトラハイブリッド型四重極/飛行時間型ESI質量分析計で記録した。全ての融点を補正していない。LC−MSを、C18カラム(2.1×5mm、移動相Aは0.1%TFA水溶液であり、Bは、0%Bに保って0〜2分間、次いで0〜50%Bを2〜5分間、次いで50〜100%Bを5〜7分間、100%に保って7〜8分間、および100〜0%を8〜10分間の勾配系を使用したアセトニトリルである)にて行った。
【0175】
【化29】
【0176】
【化30】
エチル2−(4−(4−スルファモイルベンジル)ピペラジン−1−イル)アセタート(3)
【0177】
【化31】
1(108g、440.7mmol、1.4当量)およびK
2CO
3(132.4g、958.2mmol、3当量)を含む3:2のTHF/アセトン(総量2192mL)の撹拌混合物に、エチル2−(ピペラジン−1−イル)アセタート、2(79.9g、319.4mmol、1当量))を添加した。反応物を、TLCによってモニタリングしながら24時間還流した。溶液を濾過し、固体をアセトン(80mL)で洗浄した。濾液を真空下で濃縮し、次いで、エタノール中での再結晶によって精製して3(57.4g、60%)を淡黄色固体として得た。ミリグラムスケールで、粗生成物を、シリカゲルでのフラッシュカラムクロマトグラフィ(1:4 MeOH/EtOAc)によって精製した。
1H−NMR (500 MHz, CD
3OD): δ 7.86 (d, J = 8.0 Hz, 2H), 7.52 (d, J = 8.0Hz, 2H), 4.17 (q, J = 7.1Hz, 2H), 3.61 (s, 2H), 3.24 (s, 2H), 2.58 (broad d, J = 50.4Hz, 8H), 1.26 (t, J = 7.1Hz, 3H).
13C NMR (126 MHz, CD
3OD): δ 170.4, 142.8, 142.4, 129.7, 126.0, 61.9, 60.6, 58.5, 52.5, 52.4, 13.3.HRMS(ESI):実測値:342.1487(M+1);C
15H
24N
3O
4Sの計算値:342.1488.融点:153.0〜154.5.IR(原液):3319,1739,1160cm
−1。
【0178】
4−((4−(2−ヒドラジニル−2−オキソエチル)ピペラジン−1−イル)メチル)ベンゼンスルホンアミド(4)
【0179】
【化32】
3(110.9g、324.8mmol、1当量)を含む2:1のエタノール/メタノール(総量650mL、0.5 M)の撹拌溶液に、無水ヒドラジン(30.6mL、974.5mmol、3当量)を添加した。反応物を、TLC(1:1 MeOH/EtOAc)によってモニタリングしながら16時間還流した。反応混合物を真空下で濃縮した。残渣をCH
2Cl
2に溶解し、水(100mL)およびブライン(100mL)で洗浄した。水層を、CH
2Cl
2(3×80mL)およびEtOAc(80mL)で抽出した。合わせた有機層をNa
2SO
4で乾燥させ、濾過し、真空下で濃縮した。メタノール中での再結晶を使用した精製により、4(96.3g、91%)を白色固体として得た。ミリグラムスケールで、反応物をエタノール中で運転した(0.06M)。
1H NMR (500 MHz, CD
3OD): δ 7.85 (d, J = 8.2Hz, 2H), 7.51 (d, J = 8.2Hz, 2H), 3.61 (s, 2H), 3.04 (s, 2H), 2.54 (broad s, 8H).
13C NMR (126 MHz, CD
3OD): δ 170.2, 142.8, 142.4, 129.7, 126.0, 61.9, 59.8, 53.0, 52.6. HRMS(ESI):実測値:328.1436(M+1);C
13H
22N
5O
3Sの計算値:328.1443.融点:194.5〜196.0.IR(原液):3320,1670,1158cm
−1。
【0180】
(E)−4−((4−(2−(2−(3−アリル−2−ヒドロキシベンジリデン)ヒドラジニル)−2−オキソエチル)ピペラジン−1−イル)メチル)ベンゼンスルホンアミド(S−PAC−1)
【0181】
【化33】
5(28.8g、177.3mmol、1当量)を含む1:2のアセトニトリル/メタノールの撹拌溶液(総量1180mL、0.15M)に、4(98.7g、301.4mmol、1.7当量)およびHCl(7mol%)を添加した。反応物を、TLCによってモニタリングしながら48時間還流した。溶液を真空下で濃縮した。粗生成物を、シリカゲルでのフラッシュカラムクロマトグラフィ(1:4 MeOH/EtOAc)およびその後のメタノール中での再結晶によって精製して、S−PAC−1(45.9g、55%)をオフホワイト固体として得た。ミリグラムスケールで、反応物をエタノール(0.02M)中で運転した。
1H NMR (500 MHz, (CD
3)
2CO): δ 11.86 (s, 1H), 10.79 (s, 1H), 8.51 (s, 1H), 7.85 (d, J = 8.2Hz, 2H), 7.53 (d, J = 8.2Hz, 2H), 7.19 (d, J = 7.6Hz, 2H), 6.86 (t, J = 7.6Hz, 1H), 6.56 (s, 2H), 6.02 (tdd, 1H, J=6.7Hz, J=10.1Hz, J=16.9Hz), 5.04 (m, 2H), 3.60 (s, 2H), 3.42 (d, J = 6.7Hz, 2H), 3.18 (s, 2H) 2.57 (broad d, J = 46.5Hz, 8H).
13C NMR (126 MHz, (CD
3)
2CO): δ 165.7, 156.4, 150.0, 143.4, 143.2, 136.9, 131.8, 129.32, 129.30, 127.9, 126.2, 119.1, 117.8, 115.1, 62.0, 61.1, 53.7, 52.9, 33.8. HRMS(ESI):実測値:472.2014(M+1);C
23H
30N
5O
4Sの計算値:472.2019.融点:108.5〜111.0.IR(原液):3227,1684,1606,1157cm
−1.純度:>99.5%(LC−MS)。
【0182】
4−(ピペラジン−1−イルメチル)ベンゼンスルホンアミド(6)
【0183】
【化34】
無水ピペラジン(860mg、10.0mmol、5当量)をTHF(10mL)に添加し、ピペラジンが完全に溶解するまで混合物を加熱還流した。溶液1(500mg、2.0mmol、1当量)を添加した。反応混合物を、TLCによってモニタリングしながら2.5時間還流した。反応混合物を1M KOH溶液で中和し、次いで、真空下で濃縮した。シリカゲルでのフラッシュカラムクロマトグラフィ(1:4 MeOH/EtOAc)での精製により、6(250mg、49%)を淡黄色半固体として得た。
1H NMR (400 MHz, D
2O/(CD
3)
2CO): δ 7.84 (d, J = 8.4Hz, 2H), 7.51 (d, J = 8.4Hz, 2H), 3.69 (s, 2H), 3.42 (s, 2H), 3.22 (m, 4H), 2.74 (m, 4H), 1.87 (apparent s, 1H).
13C NMR (126 MHz, CDCl
3): δ 140.93, 140.87, 131.0, 126.3, 61.1, 49.0, 43.13. HRMS(ESI):実測値:256.1114(M+1);C
11H
18N
3O
2Sの計算値:256.1120.IR(原液):3142,1158cm
−1。
【0184】
実施例7.薬学的実施形態
以下は薬学的および薬理学的な実施形態に関する情報を記載し、当業者に利用可能な分野の情報をさらに補足する。正確な処方物、投与経路、および投薬量を、患者の状況を考慮して各医師が選択することができる(例えば、Fingl et.al.,in The Pharmacological Basis of Therapeutics,1975,Ch.1 p.1を参照のこと)。
【0185】
担当医は、毒性または臓器不全などのために投与を終了するか、中断するか、調整する方法および時期を承知していることに留意すべきである。逆に、担当医はまた、臨床反応が適切ではなかった場合により高いレベルに処置を調整する(有毒局面を考慮するか排除する)ことを承知しているであろう。目的の障害の管理における投与量の規模は、処置すべき容態の重症度および投与経路によって変化し得る。容態の重症度を、例えば、標準的な予後評価法によって一部評価することができる。さらに、用量および(おそらく)投与頻度はまた、環境(例えば、各患者の年齢、体重、および応答)に応じて変化し得る。上記での考察に類似したプログラムも、獣医学で使用することができる。
【0186】
処置される特定の容態および選択されたターゲティング法に応じて、かかる薬剤を処方し、全身または局所に投与することができる。処方および投与の技術を、Alfonso and Gennaro(1995)および当該分野の他の場所に見出すことができる。適切な経路には、例えば、経口投与、直腸投与、経皮投与、膣投与、経粘膜投与、または腸投与、非経口送達(筋肉内注射、皮下注射、または髄内注射が含まれる)、ならびに眼内投与、髄腔内投与、静脈内投与、または腹腔内投与が含まれ得る。
【0187】
注射または他の経路について、本発明の薬剤を、水溶液、好ましくは生理学的に適合可能な緩衝液(ハンクス液、リンゲル液、注射用蒸留水、生理食塩水、または他の溶液など)中で処方することができる。経粘膜投与のために、透過すべきバリアに適切な浸透剤を処方物中で使用することができる。かかる浸透剤は、当該分野で一般に公知である。
【0188】
本発明の実施のために本明細書中に開示の化合物を全身投与または他の投与に適切な投薬量に処方するための薬学的に許容可能なキャリアの使用は、本発明の範囲内である。キャリアの適切な選択および適切な製造の実施により、本発明の組成物、特に溶液として処方した組成物を、非経口(静脈内注射など)または他の経路で投与することができる。適切な化合物を、当該分野で周知の薬学的に許容可能なキャリアを使用して、経口投与に適切な投薬量に容易に処方することができる。かかるキャリアにより、本発明の化合物を、例えば、処置されるべき患者による経口摂取のための錠剤、丸薬、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー、エリキシル、溶液、および懸濁液などとして処方することができる。他の経路のために、処方物を、クリーム、軟膏、およびローションなどのために調製することができる。
【0189】
細胞内投与が意図される薬剤を、当業者に周知の技術を使用して投与することができる。例えば、かかる薬剤を、リポソーム、他の膜輸送促進部分、または他のターゲティング部分にカプセル化し、次いで、上記のように投与することができる。リポソームには、水性内部を有する球状脂質二重層が含まれ得る。リポソーム形成時に水溶液中に存在する全ての分子を、水性内部に組み込むことができる。リポソーム内容物を、外部微小環境から保護すると同時に、リポソームが細胞膜に融合するので、細胞質に有効に送達させる。さらに、疎水性のために、有機小分子を、細胞内に直接投与することができる。
【0190】
本発明での使用に適切な薬学的組成物には、意図する目的を達成するのに有効な量の有効成分を含む組成物が含まれる。有効量の決定は、特に、本明細書中に提供した開示および当該分野の他の情報を考慮して、十分に当業者の能力の範囲内である。
【0191】
有効成分に加えて、これらの薬学的組成物は、薬学的に使用することができる調製物への活性化合物の処理が容易になる賦形剤および助剤を含む適切な薬学的に許容可能なキャリアを含むことができる。経口投与のために処方した調製物は、錠剤、糖衣錠、カプセル、または溶液の形態であり得る。この調製物には、遅延放出または医薬品が小腸または大腸に到達した場合にのみ放出するために処方した調製物が含まれる。
【0192】
本発明の薬学的組成物を、それ自体が公知の様式(例えば、従来の混合、溶解、懸濁、顆粒化、糖衣錠作製、浮揚、乳化、カプセル化、封入、凍結乾燥、および他の過程によって)で製造することができる。
【0193】
非経口投与のための薬学的処方物には、水溶性形態の活性化合物の水溶液が含まれる。さらに、活性化合物の懸濁液を、必要に応じて、油性注射懸濁液として調製することができる。適切な親油性溶媒またはビヒクルには、脂肪油(ゴマ油など)、合成脂肪酸エステル(オレイン酸エチルまたはトリグリセリドなど)、またはリポソームが含まれる。水性注射懸濁液は、懸濁液の粘度を増加させる物質(カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、またはデキストランなど)を含むことができる。任意選択的に、懸濁液はまた、適切な安定剤または高度に濃縮された溶液の調製が可能なように化合物の溶解度を増大させる薬剤を含むことができる。
【0194】
経口用の薬学的調製物を、活性化合物を固体賦形剤と合わせ、任意選択的に得られた混合物を粉砕し、顆粒混合物を、必要に応じて適切な助剤を添加後、錠剤または糖衣錠のコアを得るために処理することによって得ることができる。適切な賦形剤は、特に、充填剤(糖(ラクトース、スクロース、マンニトール、またはソルビトールが含まれる)、セルロース調製物(例えば、メイズデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチル−セルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムなど)、および/またはポリビニルピロリドン(PVP)など)である。必要に応じて、崩壊剤(架橋ポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸もしくはその塩(アルギン酸ナトリウムなど)など)を添加することができる。
【0195】
糖衣錠コアを、任意選択的に、適切なコーティングを使用して得る。この目的のために、糖濃縮液を使用することができ、糖濃縮液は、任意選択的に、アラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、カルボポールゲル、ポリエチレングリコール、および/または二酸化チタン、ラッカー溶液、および適切な有機溶媒または溶媒混合物を含むことができる。活性化合物用量の異なる組み合わせの識別または特徴付けのために、染料または色素を錠剤または糖衣錠のコーティングに添加することができる。
【0196】
経口で使用することができる薬学的調製物には、ゼラチンで作製したプッシュフィットカプセル、ならびにゼラチンおよび可塑剤(グリセロールまたはソルビトールなど)で作製した軟質の密封カプセルが含まれる。プッシュフィットカプセルは、充填剤(ラクトースなど)、結合剤(デンプンなど)、および/または潤滑剤(タルクまたはステアリン酸マグネシウムなど)、および必要に応じて安定剤と混合した有効成分を含むことができる。軟カプセルでは、活性化合物を、適切な液体(脂肪油、流動パラフィン、または液体ポリエチレングリコールなど)に溶解または懸濁することができる。さらに、安定剤を添加することができる。
【0197】
本出願は、全ての目的のために以下の各出願全体を参考として援用する:米国特許仮出願第60/684,807号、2005年5月26日出願、発明者Paul J.Hergenrother,Karson S.Putt,Grace W.Chen,Jennifer M.Pearson [代理人事件整理番号47−05P];米国特許仮出願第60/743,878号、2006年3月28日出願、発明者Paul J.Hergenrother,Karson S.Putt,Grace W.Chen,Jennifer M.Pearson [代理人事件整理番号47−05P1];米国特許出願第11/420,425号、2006年5月25日出願、発明者Paul J.Hergenrother,Karson S.Putt,Grace W.Chen,Jennifer M.Pearson [代理人事件整理番号47−05US];PCT国際出願番号PCT/US 06/020910号、2006年5月26日出願、発明者Paul J.Hergenrother,Karson S.Putt,Grace W.Chen,Jennifer M.Pearson [代理人事件整理番号47−05WO];PCT国際出願番号PCT/US2008/061510号、2008年4月25日出願、発明者Paul J.Hergenrother,Karson S.Putt,Joseph S.Sandhorst,Quinn P.Peterson,and Valerie Fako [代理人事件整理番号73−07 WO]; 米国特許仮出願第60/914,592号、2007年4月27日出願、発明者Paul J.Hergenrother;Karson S.Putt;Joseph S.Sandhorst;Quinn P.Peterson;Valerie Fako [代理人事件整理番号73−07P]。米国特許出願第12/597,287号、2009年10月23日出願 [代理人事件整理番号73−07 US]。本出願と同一の発明者を有する本明細書中に列挙した特許出願中の組成物として特許請求の範囲に記載の化合物は、本出願中の組成物として特許請求の範囲に記載されることを意図せず、個別または組み合わせた特許請求の範囲由来の各化合物を排除することができるように本出願中に十分に開示することを意図する。
【0198】
参照による引用および変形形態の記述
本出願を通して、全てのリファレンス(例えば、特許書類(発行または登録された特許またはその等価物が含まれる)、特許出願公開、非公開特許出願、および非特許文献または他の原資料)は、各リファレンスが本出願中の開示と少なくとも部分的に不一致である程度まで個別に参考として援用されるように、その全体が本明細書中で参考として援用される(例えば、部分的に不一致のリファレンスは、リファレンスの部分的に不一致の部分を除いて参考として援用される)。
【0199】
本明細書中に添付の任意の付属書類は、明細書および/または図面の一部として参考として援用される。
【0200】
用語「含む(comprise)」、「含む(comprises)」、「含んだ(comprised)」、または「含んでいる(comprising)」を本明細書中で使用する場合、これらは、記述の特徴、整数、工程、またはこれらで言及した成分の存在を特定すると解釈されるが、1つまたは複数の他の特徴、整数、工程、成分、またはその群の存在または付加を排除するわけではない。個別の本発明の実施形態を含むことも意図し、用語「含んでいる(comprising)」または「含む(comprise(s))」または「含んだ(comprised)」は、これらの用語、文法上の同義語(例えば、「〜からなる(consisting/consist(s))」または「本質的に〜からなる(consisting essentially of/consist(s)essentially of)」)と任意選択的に置換され、それにより、必ずしも同延ではないさらなる実施形態が説明される。明確にするために、本明細書中で使用する場合、「含んでいる(comprising)」は、「有する(having)」、「含んでいる(including)」、「含んでいる(containing)」、または「〜によって特徴付けられる(characterized by)」と同義語であり、さらなる引用していない要素または方法の工程を含むか、無制限であり、且つ排除しない。本明細書中で使用する場合、「〜からなる(consisting of)」は、クレームエレメント中に特定されない任意の要素、工程、構成要素、または成分を排除する。本明細書中で使用する場合、「本質的に〜からなる(consisting essentially of)」は、クレームの基本的且つ新規の特徴に実質的に影響を及ぼさない(例えば、有効成分に影響を及ぼさない)材料または工程を排除しない。本明細書中の各例では、用語「含んでいる(comprising)」、「本質的に〜からなる(consisting essentially of)」、および「〜からなる(consisting of)」のいずれかを、他の2つの用語のいずれかと置換することができる。本明細書中に例示として記載の発明を、本明細書中に具体的に開示されていない任意の要素または制限の非存在下で適切に実施することができる。
【0201】
本発明は、種々の特定且つ好ましい実施形態および技術を参照して記載している。しかし、本発明の精神および範囲内にとどめながら、多数の変更形態および修正形態を得ることができると理解すべきである。本明細書中に具体的に記載のもの以外の組成物、方法、デバイス、デバイスエレメント、材料、選択的特徴、手順、および技術を、過度の実験に頼ることなく本明細書中に広く開示の本発明の実施に適用することができることが当業者によって認識されるであろう。本明細書中に記載の組成物、方法、デバイス、デバイスエレメント、材料、手順、および技術の全ての当該分野で公知の機能的等価物およびその一部は、本発明に含まれることが意図される。範囲を開示する時は常に、全ての部分的範囲および各値が含まれることが意図される。本発明は、開示の実施形態(図面に示されるか、明細書中に例示された任意の実施形態が含まれる)に制限されず、実施形態は、例示または例証のために提供し、本発明を制限しない。本発明の範囲は、特許請求の範囲のみによって制限されるものとする。
【0202】
参考文献
米国特許仮出願第60/684,807号、2005年5月26日出願;米国特許仮出願第60743878号、2006年3月28日出願;米国特許出願第11/420,425号、2006年5月25日出願(2007年3月1日にUS20070049602号として公開);PCT国際出願番号PCT/US06/020910号、2006年5月26日出願(2006年11月30日にWO2006/128173号として公開)(本明細書中で参考として援用される)は、本発明の構成要件に関する。
【0203】
これらの出願は、特にその全体が参考として援用される:米国特許仮出願第60/516556号、Hergenrotherら、2003年10月30日出願;米国特許仮出願第60/603246号、Hergenrotherら、2004年8月20日出願;U.S.10/976,186号、Hergenrotherら、2004年10月27日出願。
【0204】
米国特許仮出願第60/684,807号、2005年5月26日出願;米国特許仮出願第60743878号、2006年3月28日出願;米国特許出願第11/420,425号、2006年5月25日出願;PCT国際出願番号PCT/US06/020910号、2006年5月26日出願;米国特許仮出願第60/914,592号、2007年4月27日出願。
【0205】
US6,762,045号、膜由来カスパーゼ−3、これを含む組成物、およびその使用方法;US6,534,267号、カスパーゼのアクチベーターをコードするポリヌクレオチド;US6,403,765号、短縮Apaf−1およびその使用方法;US6,303,329号;6,878,743号、Choongら、、2005年4月12日発行;US20040077542号、Wang,Xiaodong;ら、、2004年4月22日公開;US20040180828号、Shi,Yigong、2004年9月16日公開。
【0206】
【化35】
【0207】
【化36】
【0208】
【化37】
【0209】
【化38】
【0210】
【化39】
【0211】
【化40】
【0212】
【化41】
【0213】
【化42】
【0214】
【化43】
【0215】
【化44】