特許第5896802号(P5896802)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユニチカ株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5896802
(24)【登録日】2016年3月11日
(45)【発行日】2016年3月30日
(54)【発明の名称】樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/42 20060101AFI20160317BHJP
   C08G 63/16 20060101ALI20160317BHJP
   C09D 167/00 20060101ALI20160317BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20160317BHJP
   C09D 175/06 20060101ALI20160317BHJP
【FI】
   C08G18/42 Z
   C08G63/16
   C09D167/00
   C09D7/12
   C09D175/06
【請求項の数】6
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2012-68542(P2012-68542)
(22)【出願日】2012年3月26日
(65)【公開番号】特開2013-199577(P2013-199577A)
(43)【公開日】2013年10月3日
【審査請求日】2015年2月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】特許業務法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 幸史朗
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−213201(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/42
C08G 63/16
C09D 7/12
C09D 167/00
C09D 175/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル共重合体と硬化剤とを含む樹脂組成物であって、前記ポリエステル共重合体が、多価カルボン酸成分とグリコール成分とを含むポリエステルポリマーを主鎖とし、前記多価カルボン酸成分がテレフタル酸を含有し、該ポリエステルポリマーの末端が下記式(I)または式(II)で表されるテトラカルボン酸二無水物で封止されることにより、該末端に1個のカルボキシル基と1個の酸無水物基とが導入され、かつ数平均分子量が1500〜50000であることを特徴とする樹脂組成物。
【化1】
【化2】
【請求項2】
ポリエステル共重合体のガラス転移点が、−15〜85℃であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
ポリエステル共重合体が、該ポリエステル共重合体に含まれる多価カルボン酸成分の全量に対し1〜18mol%であるテトラカルボン酸二無水物を用いて封止されたものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
硬化剤が、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂組成物を製造する方法であって、下記(i)および(ii)の工程をこの順に有することを特徴とする樹脂組成物の製造方法。
(i)多価カルボン酸およびグリコールを重合して主鎖となるポリエステル樹脂を得た後、該ポリエステル樹脂の末端水酸基量を基準として、上記式(I)または式(II)で表されるテトラカルボン酸二無水物を1.0〜3.0当量の割合で添加し、末端に1個のカルボキシル基と1個の酸無水物基とが導入されたポリエステル共重合体を得る工程。
(ii)(i)で得られたポリエステル共重合体を溶剤に溶解した後、次いで硬化剤を添加し、樹脂組成物を得る工程。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂組成物から形成されたことを特徴とする塗膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、末端が特定の構造を有するテトラカルボン酸二無水物で封止されたポリエステル共重合体、および硬化剤を含有する樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂は、機械的強度、熱安定性、疎水性、耐薬品性などに優れるため、繊維、フィルムあるいはシートなどの成形体の材料として、各種分野で広く利用されている。
【0003】
ポリエステル樹脂においては、構成成分である多価カルボン酸およびグリコールの種類の組み合わせを適宜に選択することで、種々の構造および特性を得ることができる。そして、ポリエステル樹脂は、各種の基材にコーティングされた場合の該基材との密着性に優れている。さらに、ポリエステル樹脂を基材にコーティングすることで得られた塗膜は、他の基材に対する接着性にも優れている。このような優れた密着性および接着性を活かし、ポリエステル樹脂は、接着剤、コーティング剤、インキバインダーあるいは塗料などの用途において広く使用されている。
【0004】
また、ポリエステル樹脂の構成成分として、芳香環構造や脂環構造のような骨格が導入されることで、該ポリエステル樹脂の剛性および耐熱性の向上を図ることができる。例えば、特許文献1には、環状アセタール骨格を有するジオール単位を含有するポリエステル樹脂が記載されている。また、特許文献2には、トリシクロデカン骨格を有する化合物を用いることが記載されている。
【0005】
特許文献1および特許文献2に記載されたポリエステル樹脂においては、その耐熱性はある程度向上されているが、トルエンなどの汎用の有機溶剤への溶解性が著しく低いものとなってしまう。通常、樹脂を塗膜化する場合は、該樹脂を有機溶剤へ溶解して得られた溶解液を基材にコーティングし、次いで乾燥させるという工程を経るため、特許文献1および特許文献2に記載されたような溶解性の低いポリエステル樹脂を塗膜化することは不可能であるという問題があった。
【0006】
さらに、ポリエステル樹脂から得られる塗膜の耐熱性を向上させるために、該ポリエステル樹脂の有機溶剤への溶解性を維持しつつ、そのガラス転移温度を向上させることが検討されている。例えば、特許文献3および特許文献4には、得られる共重合ポリエステル樹脂において、その組成を特定のものとすることで、ガラス転移温度を向上させ、ひいては耐熱性を向上させることが記載されている。しかしながら、特許文献3および4に記載された共重合ポリエステル樹脂の耐熱性はいまだ十分ではなく、加えて、塗膜とした場合の剛直性に劣るという問題がある。
【0007】
さらに、本発明者により、ポリエステル樹脂の末端に対して、カルボキシル基を1個有する酸無水物基を導入したポリエステル共重合体とすることが検討されている(出願中未公開)。しかしながら、このようなポリエステル共重合体を塗膜化すると、分子量が低く硬化させた場合にも、依然として塗膜とされた場合の剛直性に劣る場合がある。一方、分子量が高い場合には、塗膜とされた場合の耐熱性はある程度向上するものの不十分であり、さらに有機溶剤への溶解性に劣り塗膜化が困難であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−292593号公報
【特許文献2】特開2003−119259号公報
【特許文献3】特開2011−190348号公報
【特許文献4】特開2011−190349号公報
【0009】
つまり、従来技術においては、溶解性、および塗膜とされた場合の耐熱性や剛直性のいずれにおいても顕著に優れるポリエステル共重合体を得ることは困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記の問題点を解決しようとするものであり、含有されるポリエステル共重合体が汎用の有機溶剤に対する溶解性に優れるため塗膜化が容易であり、該ポリエステル共重合体の分子量が低いものであっても、塗膜とした場合における耐熱性および剛直性に優れる樹脂組成物を得ることを技術的な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、主鎖であるポリエステルポリマーの末端が特定の構造を有するテトラカルボン酸二無水物で封止されたポリエステル共重合体および硬化剤を含有する樹脂組成物は、上記の問題が解決されることを見出し、本発明に到達した。
すなわち本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)ポリエステル共重合体と硬化剤とを含む樹脂組成物であって、前記ポリエステル共重合体が、多価カルボン酸成分とグリコール成分とを含むポリエステルポリマーを主鎖とし、前記多価カルボン酸成分がテレフタル酸を含有し、該ポリエステルポリマーの末端が下記式(I)または式(II)で表されるテトラカルボン酸二無水物で封止されることにより、該末端に1個のカルボキシル基と1個の酸無水物基とが導入され、かつ数平均分子量が1500〜50000であることを特徴とする樹脂組成物。
【化1】
【化2】
【0012】
(2)ポリエステル共重合体のガラス転移点が、−15〜85℃であることを特徴とする(1)の樹脂組成物。
【0013】
(3)ポリエステル共重合体が、該ポリエステル共重合体に含まれる多価カルボン酸成分の全量に対し1〜18mol%であるテトラカルボン酸二無水物を用いて封止されたものであることを特徴とする(1)または(2)の樹脂組成物。
【0014】
(4)硬化剤が、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートであることを特徴とする(1)〜(3)の樹脂組成物。
【0015】
(5)(1)〜(4)のいずれかの樹脂組成物を製造する方法であって、下記(i)および(ii)の工程をこの順に有することを特徴とする樹脂組成物の製造方法。
(i)多価カルボン酸およびグリコールを重合して主鎖となるポリエステル樹脂を得た後、該ポリエステル樹脂の末端水酸基量を基準として、上記式(I)または式(II)で表されるテトラカルボン酸二無水物を1.0〜3.0当量の割合で添加し、末端に1個のカルボキシル基と1個の酸無水物基とが導入されたポリエステル共重合体を得る工程。
(ii)(i)で得られたポリエステル共重合体を溶剤に溶解した後、次いで硬化剤を添加し、樹脂組成物を得る工程。
【0016】
(6)(1)〜(4)のいずれかの樹脂組成物から形成されたことを特徴とする塗膜。
【発明の効果】
【0017】
本発明の樹脂組成物は、含有されるポリエステル共重合体が、主鎖であるポリエステルポリマーの末端が、特定の構造を有するテトラカルボン酸二無水物を用いて封止されているため、該ポリエステル共重合体の分子量を高くせずとも、塗膜とされた場合における耐熱性および剛直性に優れるという効果が奏される。また、含有されるポリエステル共重合体の分子量を低くすることができるため、該共重合体は汎用の有機溶剤に対する溶解性に優れるものであり、その結果、塗膜化が容易な樹脂組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の樹脂組成物は、主鎖であるポリエステルポリマーの末端が特定の構造を有するテトラカルボン酸二無水物で封止されたポリエステル共重合体および硬化剤を含有するものである。
【0019】
まず、ポリエステル共重合体について述べる。
本発明の樹脂組成物に含有されるポリエステル共重合体は、多価カルボン酸成分とグリコール成分とを含むポリエステルポリマーを主鎖とし、該ポリエステルポリマーの末端が特定の構造を有するテトラカルボン酸二無水物(以下、単に「テトラカルボン酸二無水物」と称する場合がある)で封止されることにより、該末端に1個のカルボキシル基と1個の酸無水物基とが導入されたものである。
【0020】
主鎖であるポリエステルポリマーに含まれる多価カルボン酸成分は、特に限定されないが、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、ヘプタデカン二酸、オクタデカン二酸、ノナデカン二酸、エイコサン二酸、ドコサン二酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4、4’−ジカルボキシビフェニル、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−ヒドロキシ-イソフタル酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸、1,3,4−ベンゼントリカルボン酸、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、トリメリット酸、シュウ酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、2,5−ノルボルネンジカルボン酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸などや、またはその無水物が挙げられる。なかでも、耐久性などの観点から、テレフタル酸、イソフタル酸を含むことが好ましい。
【0021】
主鎖であるポリエステルポリマーに含まれるグリコール成分としては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、スピログリコール、ダイマージオール、ネオペンチルグリコール、2,2−ブチルエチルプロパンジオール、1,2−プロパンジオールなどが挙げられる。なかでも、溶解性の観点から、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,2−プロパンジオールが好ましい。
【0022】
主鎖であるポリエステルポリマーには、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて、多価カルボン酸成分およびグリコール成分以外のモノマー成分(他のモノマー成分)が含有されていてもよい。なお、主鎖であるポリエステルポリマーにおける、他のモノマー成分の共重合割合は、ポリエステルポリマーに含まれる全モノマー成分に対して50mol%未満であることが好ましい。
【0023】
他のモノマー成分としては、例えば、テトラヒドロフタル酸、乳酸、オキシラン、グリコール酸、2−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシイソ酪酸、2−ヒドロキシ−2−メチル酪酸、2−ヒドロキシ吉草酸、3−ヒドロキシ吉草酸、4−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸、10−ヒドロキシステアリン酸、4-(β-ヒドロキシ)エトキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸;β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトンなどの脂肪族ラクトンなどが挙げられる。
【0024】
また、他のモノマー成分として、モノカルボン酸、モノアルコールなどが用いられてもよい。モノカルボン酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸、シクロヘキサン酸、4−ヒドロキシフェニルステアリン酸などが挙げられる。モノアルコールとしては、オクチルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、2−フェノキシエタノールなどが挙げられる。
【0025】
ポリエステルポリマーを封止するためのテトラカルボン酸二無水物は、2個の酸無水物基を有する化合物である。そして、本発明においてテトラカルボン酸二無水物は、下記式(I)で示されるナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物であるか、下記式(II)で表される3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物であることが必要であり、つまり、芳香族環を有することが必要である。
【0026】
【化1】
【0027】
【化2】
【0028】
本発明においては、上述のようなテトラカルボン酸二無水物を用いることで、以下のような効果が奏される。すなわち、主鎖の末端を封止するために剛直な骨格を有するテトラカルボン酸二無水物が用いられているため、分子量を高くすることなく、塗膜とした場合に耐熱性および剛直性に優れるようなポリエステル共重合体を含有する樹脂組成物を得ることができる。そして、このようなポリエステル共重合体は、その分子量を低く調整することができるため、有機溶剤への溶解性にも優れるものとなり、つまり、このようなポリエステル共重合体が含有された樹脂組成物は、塗膜化が容易であるという利点がある。
【0029】
上記式(I)および(II)で表されるテトラカルボン酸二無水物のうちでも、剛直性および耐熱性がバランスよく付与されうる観点から、上記式(I)で示されるナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物を用いることが好ましい。
【0030】
なお、上記式(I)および式(II)にて示される以外の、2個の酸無水物基を有する化合物を用いて末端が封止された場合は、塗膜とした場合における剛直性および耐熱性に優れるようなポリエステル共重合体を含有する樹脂組成物とすることができない。また、上記式(I)および式(II)にて示される以外の2個の酸無水物基を有する化合物を用いる際に、塗膜とされた場合の耐熱性を向上させようとして分子量を高くすると、得られるポリエステル共重合体は有機溶剤への溶解性に劣るものとなり、塗膜化が容易な樹脂組成物とすることができない。つまり、本発明においては、上記のような特定構造を有するテトラカルボン酸二無水物を用いて末端を封止することにより、その分子量が低くても、塗膜とされた場合の剛直性および耐熱性に優れるポリエステル共重合体を含有する樹脂組成物得ることを初めて見出したものである。
【0031】
上記式(I)および式(II)にて表されるテトラカルボン酸二無水物は、市販品を好適に使用することができる。例えば、これらは東京化成工業社より入手可能である。
【0032】
ポリエステル共重合体において、主鎖であるポリエステルポリマーの末端に1個のカルボキシル基と1個の酸無水物基とが導入されるためには、予め調製されたポリエステル樹脂に対して、上記式(I)および式(II)にて表されるテトラカルボン酸二無水物を添加することが好ましい。このようにすることにより、該末端が特定のテトラカルボン酸二無水物で封止されたポリエステル共重合体とすることができる。より具体的には、テトラカルボン酸二無水物における酸無水物基の−O−の部分が、ポリエステル樹脂の末端基であるOH基にアタックすることで付加反応を起こすことにより開環する。その結果、ポリエステルポリマーの末端にカルボキシル基を1個有する酸無水物基が導入されたポリエステル共重合体を得ることができる。
【0033】
より具体的には、上記式(I)および式(II)にて表されるテトラカルボン酸二無水物の−O−の部分が開環し、それぞれ、下記式(i)および(ii)にて表される基となる。この基がポリエステル樹脂の末端を封止することにより、ポリエステルポリマーの末端に1個のカルボキシル基と1個の酸無水物基とが導入された本発明のポリエステル共重合体が得られるのである。
【0034】
【化3】
【0035】
【化4】
【0036】
本発明の樹脂組成物に含有されるポリエステル共重合体の分子量は、具体的には、数平均分子量で示される。該ポリエステル共重合体の数平均分子量は、1500〜50000であることが必要であり、6000〜40000であることが好ましく、8000〜35000であることがより好ましく、10000〜30000であることがさらに好ましい。
【0037】
数平均分子量が1500未満であると、ポリエステル共重合体の有機溶剤に対する溶解性に劣るため、該ポリエステル共重合体を含有する樹脂組成物の塗膜化が困難となったりするという問題がある。一方、数平均分子量が50000を超えると、得られた樹脂組成物が塗膜とされた場合に、十分な耐熱性や剛直性を達成することが困難となったり、また、かえって有機溶剤への溶解性が劣ったりする場合がある。
【0038】
本発明の樹脂組成物に含有されるポリエステル共重合体において、テトラカルボン酸二無水物の封止量は、該ポリエステル共重合体に含まれる多価カルボン酸成分の全量に対して1〜18mol%であることが好ましく、1〜15mol%であることがより好ましく、1〜12mol%であることがさらに好ましく、1〜9mol%であることが最も好ましい。
【0039】
テトラカルボン酸二無水物の封止量が1mol%未満であると、カルボキシル基を1個と酸無水物基を1個有する化合物がポリエステルポリマーに対して付加される際にゲル化が進む場合があり好ましくない。一方、封止量が18mol%を超えると、このようなポリエステル共重合体を含有する本発明の樹脂組成物から塗膜を得た場合に酸無水物基が余剰となり、該余剰酸無水物によって、ポリエステル共重合体自体が可塑化される。その結果、そのような塗膜は耐久性が劣る場合があり好ましくない。
【0040】
本発明の樹脂組成物に含有されるポリエステル共重合体のガラス転移点は、−15〜85℃であることが好ましく、−10〜75℃であることがより好ましく、0〜65℃であることがさらに好ましい。ガラス転移温度が−15℃未満であると、硬化された場合であっても耐熱性に劣るポリエステル共重合体となり、ひいては、耐熱性に劣る樹脂組成物しか得られない場合があるため好ましくない。一方、ガラス転移温度が85℃を超えると、ポリエステル共重合体の溶融粘度が高くなり過ぎるため、重合温度を高温とする必要がある。その結果、ポリエステル共重合体が熱分解や熱劣化するため、必要な数平均分子量を有するポリエステル共重合体が得られなかったり、分解したポリエステル共重合体が一部架橋することがあり溶解性が劣るものとなったりする場合があるため好ましくない。
【0041】
また、本発明のポリエステル共重合体は、結晶性であってもよいし、非晶性であってもよい。
【0042】
本発明の樹脂組成物は、上記のような本発明のポリエステル共重合体と硬化剤とを含有するものである。本発明においては、特定の構成を有するポリエステル共重合体と硬化剤とが併用されることで、初めて、溶解性、塗膜とされた場合の耐熱性および剛直性に優れる樹脂組成物を得ることができたのである。
【0043】
樹脂組成物に含有される硬化剤としては、上記のようなポリエステル共重合体が有する官能基、又はポリエステル共重合体が反応して形成される官能基(例えば、カルボキシル基やその無水物、水酸基、エポキシ基、イソシアネート基など)との反応性を有する化合物であれば、特に限定されるものではない。
【0044】
硬化剤の具体例としては、フェノール樹脂、尿素、メラミン、ベンゾグアナミン、アセトグアナミンなどのホルムアルデヒド付加物;尿素、アクリルアミドなどのグリオキザール付加物;炭素数1〜6のアルコールによるそれら付加物のアルキル化合物などのアミノ樹脂;エポキシ樹脂;イソシアネート化合物及びその各種ブロックイソシアネート化合物;アジリジン化合物;カルボジイミド基含有化合物;オキサゾリン基含有化合物などが挙げられる。
【0045】
これらの中でも、硬化反応性に優れる点で、イソシアネート化合物およびその各種ブロックイソシアネート化合物、エポキシ樹脂、オキサゾリン基化合物が好ましい。また、150℃以下という比較的低温における硬化反応性に優れる観点からは、イソシアネート化合物およびその各種ブロックイソシアネート化合物が好ましい。
【0046】
イソシアネート化合物としては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)等の芳香族ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)などの脂肪族ジイソシアネート単量体およびそれらの三量体が挙げられる。なかでも、硬化反応速度が速い点で、芳香族ジイソシアネートが特に好ましい。一方、耐溶剤性、加工性に優れる塗膜形成が可能なことから、硬化剤としてアミノ樹脂も好ましく用いることができる。
【0047】
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、硬化触媒が含有されていてもよい。硬化触媒としては、特に限定されず、オクチル錫のような金属塩、アミン系の硬化触媒などが挙げられる。
【0048】
本発明の樹脂組成物におけるポリエステル共重合体と硬化剤の含有比率は、硬化剤としてイソシアネートの単量体を用いる場合と、イソシアネートの三量体を用いる場合で異なる。イソシアネートの単量体を用いる場合は、通常、ポリエステル共重合体の末端カルボキシル基量に対して、硬化剤のイソシアネート基が0.5〜35倍モルであることが好ましく、0.8〜10倍モルであることがより好ましく、0.9〜7倍モルであることがさらに好ましく、1.0〜5倍モルであることが最も好ましい。0.5倍モル未満であると、ポリエステル共重合体の硬化が不十分となる場合がある。一方、35倍モルを超えると、硬化剤がもはや過剰となりゲル化の要因となる場合がある。
【0049】
硬化剤としてイソシアネートの三量体を用いる場合は、通常、ポリエステル共重合体の末端カルボキシル基量に対して、硬化剤のイソシアネート基が0.9〜45倍モルあることが好ましく、1.2〜15倍モルであることがより好ましく、1.4〜9倍モルであることがさらに好ましく、1.6〜6倍モルであることが最も好ましい。0.9倍モル未満であると、ポリエステル共重合体の硬化が不十分となる場合がある。一方、45倍モルを超えるともはや過剰となりゲル化の要因となる場合がある。
【0050】
次に、本発明のポリエステル共重合体の製造方法について説明する。
本発明のポリエステル共重合体の製造方法は、下記(i)および(ii)の工程をこの順に有することを特徴とする。
(i)多価カルボン酸およびグリコールを重合して主鎖となるポリエステル樹脂を得た後、該ポリエステル樹脂の末端水酸基量を基準として、上記式(I)または式(II)で表されるテトラカルボン酸二無水物を1.0〜3.0当量の割合で添加し、末端に1個のカルボキシル基と1個の酸無水物基とが導入されたポリエステル共重合体を得る工程。
(ii)(i)で得られたポリエステル共重合体を溶剤に溶解した後、次いで硬化剤を添加し、樹脂組成物を得る工程。
【0051】
工程(i)について以下に述べる。
まず、主鎖であるポリエステルポリマーとなるポリエステル樹脂を、例えば、以下のような方法で製造する。つまり、多価カルボン酸やグリコールなどの原料モノマーを反応缶に投入した後、エステル化反応をおこなう。次いで、公知の方法で所望の分子量に達するまで重縮合させることにより、ポリエステル樹脂を製造することができる。エステル化反応は、例えば、180℃以上の温度において4時間以上おこなわれる。
【0052】
重縮合反応は、一般的には、130Pa以下という減圧下かつ220〜280℃という温度下で、重合触媒を用いておこなわれる。重合触媒としては、テトラブチルチタネ−トなどのチタン化合物、酢酸亜鉛、酢酸マグネシウム、酢酸亜鉛などの金属の酢酸塩、三酸化アンチモン、ヒドロキシブチルスズオキサイド、オクチル酸スズなどの有機スズ化合物などが挙げられる。なお、重合触媒の使用量は、過少であると重合反応が遅くなる場合があり、一方、過多であると得られるポリエステル共重合体の色調が低下する場合があるため、酸成分1モルに対し、0.1〜20×10−4モルであることが好ましい。
【0053】
そして、このようにして得られたポリエステル樹脂に、その末端水酸基量を基準として、1.0〜3.0当量の、上記式(I)または(II)で表されるテトラカルボン酸二無水物を付加反応させることにより、その末端に1個のカルボキシル基と1個の酸無水物基とが導入されたポリエステル共重合体を製造することができる。なお、付加反応させるには、ポリエステル樹脂にテトラカルボン酸二無水物を添加するなどして、両者を接触させればよい。
【0054】
テトラカルボン酸二無水物は、ポリエステル樹脂の末端水酸基量に対して1.0〜3.0当量で用いることが好ましく、1.0〜2.0当量で用いることがより好ましく、1.0〜1.5当量で用いることがさらに好ましい。テトラカルボン酸二無水物を末端水酸基量より過剰に入れることで、ポリエステル樹脂への酸無水物基の付加反応を、過不足なく十分に進行させ、さらにポリエステルポリマー中に水酸基を残さないようにすることができる。そのため、次々と必要以上に付加反応が起こるものであるゲル化反応の発生を抑制しつつ、ポリエステルポリマーの末端が封止された剛直なポリエステル共重合体を得ることができる。
【0055】
一方、テトラカルボン酸二無水物の使用量が3.0当量を超えると、ポリエステル樹脂への付加反応に用いられない酸無水物基(つまり、未反応のままの酸無水物基)が余剰に残存する。そのため、本発明のポリエステル共重合体と硬化剤とを含有する樹脂組成物において、未反応の酸無水物基と硬化剤との反応が起こることによりポリエステル共重合体に作用する硬化剤が少なくなってしまい、つまりポリエステル共重合体の硬化が不十分となり、後述の硬化剤と併用されることにより奏される剛直性の向上効果が十分に発現しない場合があるので好ましくない。なお、未反応のテトラカルボン酸二無水物は、適宜の溶媒等を用いて洗浄することにより除去されていてもよい。
【0056】
次に、工程(ii)について述べる。
本発明の樹脂組成物を得るには、以下のような方法を採用することができる。すなわち、上記のようにして得られた本発明のポリエステル共重合体を、汎用の有機溶剤に溶解して溶解液を得る。そして、この溶解液に、硬化剤および必要に応じて硬化触媒などを配合すればよい。
【0057】
本発明の樹脂組成物において、ポリエステル共重合体と硬化剤の配合比率としては、通常、ポリエステル共重合体の末端カルボキシル基量に対して、硬化剤のイソシアネート基がほぼ等量となるよう配合を行うことが好ましく、0.7〜2.0倍モルであることがより好ましく、0.8〜1.5倍モルであることがさらに好ましく、0.9〜1.3倍モルであることが特に好ましい。0.7倍モル未満であると、十分な硬化を行うことが難しくなる場合があり、2.0倍モルを超えると硬化剤がもはや過剰となり過ぎゲル化等の要因となる場合がある。
【0058】
なお、汎用の有機溶剤としては、特に限定されないが、トルエン、メチルエチルケトン、アルコール、あるいはこれらの水溶液などが挙げられる。
【0059】
本発明の樹脂組成物を、例えば、各種の基材に対してコーティング(塗布)し、次いで乾燥して有機溶媒の除去をおこなうことで、本発明の塗膜とすることができる。
【0060】
ここで、ポリエステル共重合体と硬化剤との硬化反応が起こることで塗膜となるのであるが、樹脂組成物の塗布後にさらにエージングをおこなって、硬化反応を促進することができる。エージングの条件は、用いられるポリエステル共重合体や硬化剤の種類、およびそれらの組成などにより異なるものであるが、適宜調整することができる。例えば、エージング温度は40〜60℃が好ましく、エージング時間は72〜120時間が好ましい。なお、エージング温度を高めに設定することで、エージング時間を短縮することも可能である。
【0061】
本発明の樹脂組成物がコーティングされる基材としては、特に限定されるものではないが、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂またはポリ塩化ビニル樹脂などの樹脂からなるフィルムやシート、アルミニウムまたは銅などの金属箔などが挙げられる。また、コーティングや乾燥をおこなう方法や条件についても、特に限定されず、公知の手法でおこなうことができる。
【0062】
本発明の樹脂組成物を含む塗膜は、耐熱性および剛直性に優れるばかりか、基材への密着性、および他の基材への接着性に優れている。そのため、接着剤やコーティング剤などの用途において、特に好適に用いられる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例により、さらに具体的に説明する。本発明は、これらの実施例により限定されるものではない。
【0064】
評価法および測定法は次の通りである。
(1)ポリエステル共重合体の酸価
ポリエステル共重合体の、末端における酸無水物基が開環している状態での酸価を測定した。
得られたポリエステル共重合体を溶媒(ジメチルスルホキシド)で洗浄後、0.5g精秤した。次いで、50mlのジオキサン水溶液[(ジオキサン)/(水)=9/1、体積比]に対して、150℃で40分間溶解をおこなった。このとき、ポリエステル共重合体の末端の酸無水物基が開環すると推測される。そして、室温まで冷却した後、クレゾールレッドを指示薬として0.1モル/Lの水酸化カリウムメタノール溶液で滴定をおこない、中和に消費されたKOHのmg数を、ポリエステル樹脂のg数で割った値を酸価として求めた。
【0065】
(2)ポリエステル共重合体の数平均分子量
送液ユニット(島津製作所社製、「LC−10ADvp型」)および紫外−可視分光光度計(島津製作所社製、「SPD−6AV型」)を用い、GPC分析により、ポリエステル共重合体の数平均分子量を求めた。なお、分析条件としては、検出波長を254nmとし、溶媒としてテトラヒドロフランを用い、ポリスチレン換算により求めた。
【0066】
(3)ポリエステル共重合体の組成
NMR測定装置(日本電子社製、「JNM−LA400型」)を用い、1H−NMR測定を行って、それぞれの共重合成分のピーク強度から組成を求めた。なお、測定溶媒としては、重水素化トリフルオロ酢酸を用いた。
【0067】
(4)ポリエステル共重合体のガラス転移点(Tg)
JIS−K 7121に従って、入力補償型示差走査熱量測定装置(パーキンエルマー社製、「ダイヤモンドDSC」)を用い、20℃から120℃まで、10℃/分で昇温させたチャートから、ガラス転移点(Tg)を読み取った。
【0068】
(5)ポリエステル共重合体の溶解性
得られたポリエステル共重合体を、その固形分濃度が30質量%になるように、トルエンとメチルエチルケトンの混合溶剤[(トルエン)/(メチルエチルケトン)=8/2、質量比)に溶解させる際の状況を目視で観察し、下記の基準で評価した。
○:ポリエステル共重合体のほとんどが溶解した。
△:ポリエステル共重合体の一部が溶解した。
×:ポリエステル共重合体がほとんど溶解しなかった。
○または△であるものは実用上の溶解性を備えていると判断した。×であるものは溶解性に劣り塗膜化が困難であるため、実用性を有さないと判断した。
【0069】
(6)塗膜化したときの剛直性(硬度の異なる鉛筆を用いた試験)
ポリエステル共重合体を、その固形分濃度が30質量%になるように、トルエンとメチルエチルケトンの混合溶剤[(トルエン)/(メチルエチルケトン)=8/2、質量比]に溶解させて、溶解液を得た。該溶解液に、硬化剤を11g配合して樹脂組成物とした。該樹脂組成物を、卓上型コーティング装置(安田精機社製、フィルムアプリケータNo.542−AB型、バーコータ装置)を用いて銅板に塗布した。その後、100℃で30秒間熱処理することで、乾燥時の厚みが25μmである塗膜を形成した。この塗膜を50℃で96時間エージングした後、各種の硬度を有する鉛筆(三菱鉛筆社製、「UNI」シリーズ)を用いて引っ掻き、塗膜が破損して鉛筆の先端が基板に達したときの該鉛筆の硬度により、下記の基準で評価した。
◎:鉛筆の硬度が3H以上であった。
○:鉛筆の硬度がH以上3H未満であった。
△:鉛筆の硬度がHB以上H未満であった。
×:鉛筆の硬度がHB未満であった。
【0070】
(7)塗膜化したときの耐熱性(熱圧試験)
ポリエステル共重合体を、その固形分濃度が30質量%になるように、トルエンとメチルエチルケトンの混合溶剤[(トルエン)/(メチルエチルケトン)=8/2、質量比]に溶解させて、溶解液を得た。該溶解液に、硬化剤を11.0g配合して樹脂組成物とした。該樹脂組成物を、卓上型コーティング装置(安田精機社製、フィルムアプリケータNo.542−AB型、バーコータ装置)を用いて銅板に塗布した。その後、100℃で30秒間熱処理することで、乾燥時の厚みが25μm、塗布面積10000mmである塗膜を形成した。この塗膜を50℃×96時間または50℃×144時間エージングした後、該塗膜の上にさらに銅板を載せ、ヒートプレス機にて温度120℃、圧力0.1MPaで熱圧した。熱圧時の塗膜の流れ出し量(つまり銅板からのはみ出し量)を目視にて観察した。下記の基準で評価した。
◎:塗膜の流れ出しがほとんどなく、塗布面積の95%以上が残った。
○:塗膜が流れ出し、塗布面積の85以上95%未満が残った。
△:塗膜が流れ出し、塗布面積の50以上85%未満が残った。
×:塗膜が流れ出し、残存したのは塗布面積の50%未満であった。
【0071】
(8)総合評価
○:上記の(5)〜(7)の評価結果において×の評価が無い。
×:上記の(5)〜(7)の評価結果のうち、1つ以上の×の評価がある。
【0072】
(ポリエステル樹脂の調製)
調製例1
テレフタル酸57g(31mol%)、イソフタル酸64g(35mol%)、セバシン酸76g(34mol%)、エチレングリコール46g(67mol%)、ネオペンチルグリコール78g(68mol%)、および重合触媒としてテトラブチルチタネート0.1gを反応器に仕込み、系内を窒素に置換した。そして、これらの原料を1000rpmで撹拌しながら、反応器を245℃で加熱し、溶融させた。反応器内温度が245℃に到達してから、3時間エステル化反応を進行させた。3時間経過後、系内の温度を240℃にし、系内を減圧した。系内が高真空(圧力:0.1〜10−5Pa)に到達してから、さらに3.0時間重合反応を行ってポリエステル樹脂Aを得た。
【0073】
調製例2〜19
重合反応時間を表1のように変更した以外は、調製例1と同様にし、ポリエステル樹脂B〜Sを得た。調製例1〜19で得られたポリエステル樹脂における、モノマーの仕込み組成、重合反応時間を表1に示す。なお、調整例2および16は重合反応時間が0時間であり、エステル化反応後の重合反応を行っていないことを示す。
【0074】
【表1】
【0075】
なお、表1および後述の表2中における略語は、それぞれ以下のものを示す。
TPA:テレフタル酸
IPA:イソフタル酸
SEA:セバシン酸
ADA:アジピン酸
EG:エチレングリコール
PG:プロピレングリコール
NPG:ネオペンチルグリコール
BAEO:ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物
PTMG1000:ポリテトラメチレングリコール
【0076】
I:上記式(I)で示されるナフタレン-1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物
II:上記式(II)で示される3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物
【0077】
III:下記式(III)で示される4,4’−オキシジフタル酸無水物
【化5】
【0078】
IV:下記式(IV)で示される1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物
【化6】
【0079】
MDI:4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(東京化成工業社製、試薬、分子量250.27)
HDI:ヘキサメチレンジイソシアネート(東京化成工業社製、試薬、分子量168.20)
IPDI:イソホロンジイソシアネート(東京化成工業社製、試薬、分子量222.29)
HDI3:ヘキサメチレンジイソシアネートの三量体(旭化成ケミカルズ社製、「デュラネートTPA100」、分子量504)
EP:エポキシレジン(アデカ社製、「EP−4100」、エポキシ当量190g/eq)
OX:2,2’−(1,3フェニレン)ビス−2−オキサゾリン(東京化成工業社製、試薬、分子量216.24)
【0080】
実施例1
反応系内に窒素を封入して常圧とし、ポリエステル樹脂Aとナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物5g(2.4mol%)とを添加した。次いで、系内の温度を240℃とし、さらに1時間反応を行い、本発明のポリエステル共重合体を得た。得られたポリエステル共重合体を、その固形分濃度が30質量%になるように、トルエンとメチルエチルケトンの混合溶剤[(トルエン)/(メチルエチルケトン)=8/2、質量比]に溶解させ、硬化剤としての4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを11.0g(末端カルボキシル基量に対して等量)添加し、本発明の樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物から、上記評価方法における(6)および(7)の手法により、PETフィルム上と銅板上とに、それぞれ、塗膜を形成した。実施例1の結果を表2に示す。
【0081】
実施例2〜29および比較例1〜4
使用するポリエステル樹脂の種類、および2個の酸無水物基を有する化合物の種類と添加量、硬化剤の種類を、表2〜3に示すように変更した以外は、実施例1と同様の操作を行って樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物について、樹脂特性、塗膜性能を評価した。その結果を表2〜3に示す。
【0082】
【表2】
【0083】
【表3】
【0084】
表2〜4で明らかなように、実施例1〜29で得られた樹脂組成物は、塗膜とした場合の剛直性および耐熱性に優れていた。
【0085】
比較例1で得られた樹脂組成物は、含有されるポリエステル共重合体の数平均分子量が50000を超えるものであったため、塗膜とされた場合の耐熱性および剛直性に劣るものであった。
【0086】
比較例2で得られた樹脂組成物は、含有されるポリエステル共重合体の数平均分子量が過少であり、有機溶剤への溶解性に劣るものであった。そのため、塗膜とされることができず、評価できなかった。
【0087】
比較例3で得られた樹脂組成物は、本発明にて規定される以外のテトラカルボン酸二無水物を用いて末端が封鎖されたポリエステル共重合体が含有されていたため、塗膜とされた場合の剛直性に劣るものであった。
【0088】
比較例4で得られた樹脂組成物は、本発明にて規定される以外のテトラカルボン酸二無水物を用いて末端が封鎖されたポリエステル共重合体が含有されていたため、塗膜とされた場合の耐熱性および剛直性に劣るものであった。