(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、撮像部のレンズ等の光学系にテープを貼付けたり、レンズ等を布等で覆うような妨害行為を検出できるが、レンズ等や発光部・受光部にスプレー塗料を吹付けられると、塗料吹付けによる妨害行為を検出できない。
一方、特許文献2は、夜間等にスプレー塗料の吹付け等の妨害行為が行われると、周辺の監視領域も暗くて照度を検出できないので、妨害行為を検出できない。
このように、従来技術では、監視カメラの運用上、比較的発生頻度の高い夜間撮影中にスプレー塗料の吹付けによる妨害行為が行われると、妨害行為を検出できない問題があった。
【0006】
この発明の主たる目的は、撮像部のレンズ等にテープを貼付けたり、レンズ等を布等で覆ったり、レンズ等にスプレー塗料を吹付けるような各種の妨害行為を確実かつ高精度に検出し得る、監視カメラ装置を提供することである。
【0007】
この発明の他の目的は、昼夜又は監視領域における環境の変化に係わらず、撮像部による監視の妨害行為である、布等で覆ったり、スプレー塗料の吹付け等により、遮蔽物が監視カメラ装置に近接又は密着した状態を確実かつ高精度に検出し得る、監視カメラ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明の監視カメラ装置(実施例に対応する符号を示せば10;以下括弧内の符号は同様)は、撮像部(22)と、前面パネル(11)と、発光部(12a)と、受光部(12b)と、光量値検出手段(31,34a,S1,S3,S9,S12,S21,S23,S13)と、記憶手段(34b)と、基準値算出手段(34a,S8,S19)
と、妨害判定手段(34a,S15,S24,S16,S26)とを備える。
撮像部は、所定の監視領域を撮像する。前面パネルは、撮像部の前面に装着され、光を透過可能なものである。発光部は、第1の光ビーム(IRB)を発光して前面パネルに向けて照射する。受光部は、発光部から発光された第1の光ビームが前面パネルに反射した第2の光ビーム(B2)を受光するとともに、当該第1の光ビームが前面パネルを透過して遮蔽物に反射しかつ前面パネルを透過して得られた第3の光ビーム(B3)を受光する。光量値検出手段は、受光部によって受光される第2の光ビームと第3の光ビームの光量値を検出する。記憶手段は、光量値検出手段によって検出された光量値を、所定の複数回分だけ記憶する。基準値算出手段は、記憶手段に記憶されている複数回分の光量値を統計的に処理して基準値を算出する。
妨害判定手段は、光量値検出手段によって検出された光量値と基準値算出手段によって算出された基準値とを比較し、光量値が基準値に比べて大きく変化したことに基づいて、妨害行為のあったことを検出する。
【0009】
第1の発明によれば、前面パネルにテープを貼付けたり、前面パネルを布等で覆ったり、前面パネルにスプレー塗料を吹付けるような各種の妨害行為を確実かつ高精度に
検出できる、監視カメラ装置が得られる。
【0011】
第2の発明では、
第1の発明において、受光部は発光部が第1の光ビームを発光しない状態において周辺光のみからなる第4の光ビームを受光する。光量値検出手段(34a,S1,S3,S9,S12,S21,S23)は、第4の光ビームに基づいて周辺の光量値を検出した後に(S1,S9)、発光部が周期的に第1の光ビームを発光する毎に受光部によって検出される第2の光ビームと第3の光ビームに基づく光量値を順次検出する(S3,S12,S21,S23)。
【0012】
第3の発明では、
第1の発明において、受光部は発光部が第1の光ビームを発光しない状態において周辺光のみからなる第4の光ビームを受光する。光量値検出手段は(34a,S1,S3,S9,S12,S21,S23)、第4の光ビームに基づいて周辺の光量値を検出した後に、発光部が第1の光ビームを発光しているとき、受光部によって検出される第2の光ビームと第3の光ビームに基づく光量値を順次検出する。
【0013】
第4の発明では、
第1の発明において、受光部は発光部が第1の光ビームを発光しない状態において周辺光のみからなる第4の光ビームを受光する。光量値検出手段(34a,S1,S3,S9,S12,S21,S23,S4,S13)は、第4の光ビームに基づいて周辺の光量値を検出した後に、発光部が第1の光ビームを発光しているとき、受光部によって検出される第2の光ビームと第3の光ビームに基づく光量値を順次検出するとともに、当該順次検出した光量値から周辺の光量値を差し引いた差分値を出力する(S4,S13)。
【0014】
第5の発明では、
第4の発明において、記憶手段(34b)は、光量値検出手段によって周期的に検出される第2の光ビームと第3の光ビームに基づく光量値から周辺の光量値を差し引いた差分値を順次記憶する(S6,S18)。基準値算出手段は、記憶手段に記憶されている、周期的に検出された複数回分の差分値を統計的に処理することによって、基準値を算出する。
【0015】
第6の発明では、
第1の発明において、記憶手段の書込み読出しを制御する書込読出制御手段(34a,S6,S18)をさらに備える。書込読出制御手段は、基準値算出手段が基準値を算出した後、光量値検出手段が光量値を検出し、記憶手段に記憶されている最も古い光量値の記憶を消去しかつ最も新しい光量値を書込むように更新的に記憶させる(S18)。
【0016】
第7の発明では、
第2,第3,第4の発明において、記憶手段の書込み読出しを制御する書込読出手段をさらに備える。書込読出制御手段は、基準値算出手段が基準値を算出した後、光量値検出手段が差分値を検出し、記憶手段に記憶されている最も古い差分値の記憶を消去しかつ最も新しい差分値を書込むように更新的に記憶させる(S18)とともに、光量値検出手段が周辺の光量値の変動を検出している期間中、記憶手段への新しい光量値の更新的な書込みを中断する(S2,S5のNO、S10のNO)。
【0017】
第8の発明では、
第1の発明において、記憶手段の書込み読出しを制御する書込読出制御手段をさらに備える。書込読出制御手段は、基準値算出手段が基準値を算出した後、光量値検出手段が光量値を検出し、記憶手段に記憶されている最も古い光量値の記憶を消去しかつ最も新しい光量値を書込むように更新的に記憶させるとともに、妨害行為判定手段が妨害行為のあることを判定している期間中、記憶手段への新しい光量値の更新的な書込みを中断する。
【0018】
第9の発明では、
第1の発明において、基準値算出手段は妨害判定手段が妨害行為のあることを判定している期間中、算出した新しい基準値の更新を中断する(S17のNO,S19を実行せず)。
【0019】
第10の発明では、
第1の発明において、妨害判定手段は、光量値検出手段によって検出された光量値が基準値算出手段によって算出された基準値よりも第1の閾値(Δ1)を上回るとき、第1の妨害行為のあることを判定する(S15,S24)。
【0020】
第11の発明では、
第1または第10の発明において、妨害判定手段は、光量値検出手段によって検出された光量値が基準値算出手段によって算出された基準値よりも第2の閾値(Δ2)を下回るとき、第2の妨害行為のあることを判定する(S16,S26)。
【0021】
第12の発明では、
第2,第3または第4の発明において、妨害判定手段は、光量値検出手段によって検出された周辺の光量値が低く、かつ光量値検出手段によって検出された光量値が基準値算出手段によって算出された基準値よりも第2の閾値を下回るとき、第2の妨害行為のあることを判定する(S16,S26)。
【0022】
第13の発明では、
第2,第3または第4の発明において、妨害判定手段は、光量値検出手段によって検出された光量値が基準値算出手段によって算出された基準値よりも第1の閾値を上回るとき、第1の妨害行為のあることを判定
し(S15,S24)、光量値検出手段によって検出された周辺の光量値の状態に応じて、第1の閾値を異なる値に変更する(S22)。
【0023】
第14の発明では、
第2,第3または第4の発明において、妨害判定手段は、光量値検出手段によって検出された光量値が基準値算出手段によって算出された基準値よりも第2の閾値を下回るとき、第2の妨害行為のあることを判定
し(S16,S26)、光量値検出手段によって検出された周辺の光量値の状態に応じて、第2の閾値を異なる値に変更する(S22)。
【0024】
第15の発明では、第1の発
明において、監視カメラ装置が発光部の発光量を制御する発光制御手段をさらに備える。
受光部は、発光制御手段
が発光部を発光制御していない状態において、周辺光のみからなる第4の光ビームを受光する。
光量値検出手段は、第4の光ビームの光量値に基づい
て、撮像部の周辺の光量値が高い状態と、周辺の光量値が低い状態を検出する周辺光量値検出手段(12,34a,S9,S10)を含む。
発光制御手段(34a,S11,S20,S22)は、周辺光量値検出手段が周辺の光量値の高い状態を検出したとき、発光部の発光量を強めるように制御し、周辺の光量値の低い状態を検出したとき、発光部の発光量を弱めるように制御する。
基準値算出手段は、発光制御手段が発光部の発光量を強めるように制御していることに応じて、光量値検出手段によって検出された光量値を減少させるように補正し、発光制御手段が発光部の発光量を弱めるように制御していることに応じ
て、光量値検出手段によって検出された光量値を増加させるように補正し(S12,S21,S23)、補正後の光量値を用いて基準値を算出する。
【0025】
第16の発明では、
第1の発明において、監視カメラ装置は、発光部の発光量を制御する発光制御手段をさらに備える。
受光部は、発光制御手段
が発光部を発光制御していない状態において、周辺光のみからなる第4の光ビームを受光する。
光量値検出手段は、第4の光ビームの光量値に基づいて、撮像部の周辺の光量値が高い状態と、周辺の光量値が低い状態を検出する周辺光量値検出手段を含む。
発光制御手段は、周辺光量値検出手段が周辺の光量値の高い状態を検出したとき、発光部の発光量を第1の比率で増倍させるように制御し、周辺の光量値の低い状態を検出したとき、発光部の発光量を第2の比率で減少させるように制御する。
基準値算出手段は、発光制御手段が発光部の発光量を増倍させるように制御していることに応じて、光量値検出手段によって検出された光量値を第1の比率で減少させるように補正し、発光制御手段
が発光部の発光量を減少させるように制御していることに応じて、光量値検出手段によって検出された光量値を第2の比率で増倍させるように補正することにより、補正後の光量値を用いて基準値を算出する。
【0026】
第17の発明では、
第1の発明において、発光部は特定波長の第1の光ビームを発光するものである。受光部は特定波長の第2の光ビームまたは第3の光ビームを受光するとともに、発光部が特定波長の第1の光ビームを発光していない状態において特定波長の第4の光ビームを受光する。
光量値検出手段は、第4の光ビームの光量値を周辺の光量値として検出し、発光部が特定波長の第1の光ビームを発光した直後において受光部によって受光された特定波長の第2の光ビームと第3の光ビームの光量値から先に検出した周辺の光量値を差し引いた差分値
を記憶手段に与える。
【発明の効果】
【0027】
この発明によれば、撮像素子等の前面に配置された前面パネルに対して、テープを貼付けたり、その前方を布等で覆ったり、前面パネルにスプレー塗料を吹付けるような各種の妨害行為を確実かつ高精度に
検出できる、監視カメラ装置が得られる。
【0028】
また、この発明によれば、昼夜又は監視領域における環境の変化に係わらず、監視カメラ装置による監視の妨害行為であるテープの貼付け、布等で前面パネルの前方を覆ったり、スプレー塗料の吹付け等により、遮蔽物が前面パネルに近接又は密着した状態を、確実かつ高精度に検出できる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1において、この発明の一実施例の監視カメラ装置10は、不審者等の行動を監視したい監視領域1における天井2又は壁面上部の高所に設置される。ここで、監視領域1は、例えばコンビニエンスストア等の店舗,現金自動預払機を設置した銀行の無人店舗又は秘密情報・貨幣等を扱う事務所等が想定される。監視領域1が室内の場合は、天井2に照明器具3が設置される。
監視カメラ装置10は、人(不審者・不正行為者等)の出入りや行動を常時撮影し、撮影した画像(静止画)又は映像(動画)を監視領域1から離れた場所にある監視室又は監視センターへ送信するものである。
【0031】
(近接検出とスプレー検出の原理)
まず、
図2(A)及び(B)を参照して、前面パネル11を設けることによって、遮蔽物の近接とスプレー塗料の吹付けによる妨害行為を検出できる原理を説明する。
本願発明者は、様々な試行錯誤と実験を繰り返した結果、監視カメラ装置10に含まれるレンズ等の光学系と撮像素子(後述の
図5に示す22a,22b)の前面部分に、アクリル板等からなる前面パネル11を配置し、発光部12aと受光部12bからなる近接センサ12をその内部に配設した構造において、以下に述べる状態を測定することによって、遮蔽物4が前面パネル11(結果として監視カメラ装置10)に近接している状態と、遮蔽物4が前面パネル11に密着している状態とを区別して検出できることを解明した。
【0032】
ここで、「遮蔽物4が前面パネル11に近接している状態」とは、
図2(A)のように、布又は紙等の遮蔽物4を監視カメラ装置10に近接させて前方を覆い隠した場合である。換言すると、撮像素子(後述の22b)の撮像可能な監視範囲の大部分を布等で覆うことにより、監視カメラ装置10で撮影した画像によって不審者を認識することが困難な状態をいう。この近接状態には、テープ類を前面パネル11に軽く貼付けて、テープ類が密着していない状態(一部が若干浮いて空気層を有する状態)も含まれる。
一方、「遮蔽物4が前面パネル11に密着している状態」とは、
図2(B)のように、前面パネル11にスプレー塗料を吹付けることにより、塗料が前面パネル11に密着した状態をいう。この密着状態には、テープ類を前面パネル11に強く押し付けて貼ることにより、テープ類が前面パネル11に密着している状態も含まれる。
【0033】
具体的には、布等の遮蔽物4が前面パネル11の所定の近接範囲(例えば0〜100mmの距離)に置かれて、監視カメラ装置10の視界の大部分が遮られた状態の場合は、
図2(A)に示すように、発光部12aから発光(又は発生)された光ビーム(発光部12aが赤外光LEDの場合は赤外光ビーム、これを「第1の光ビーム」ともいう)IRBを前面パネル11に向けて照射すると、3つの反射光B1,B2,B3が得られる。すなわち、前面パネル11の内側面で反射する反射光ビームB1と、前面パネル11の外側表面(又は外表面)で反射する反射光(第2の光ビーム)B2と、前面パネル11を透過(図では透過した赤外光を「IRB´」で示す)して遮蔽物4(
図2(A)の実線で示す位置の物)に反射して戻ってきた反射光(第3の光ビーム)B3が得られる。
このとき、反射光B3の光量は、前面パネル11と遮蔽物4との距離の二乗に反比例して増減するので、反射光B3の光量を測定すれば遮蔽物4の近接を検出できる。
ところが、遮蔽物4が前面パネル11から所定距離以上離れている場合(
図2(A)の点線で示す4´の位置の場合)や、妨害行為の目的ではない人が監視領域に単に入ったに過ぎない場合は、反射光B3の光量が極めて少ないので、遮蔽物4の近接を検出しない。
【0034】
一方、スプレー塗料の吹付け等により、遮蔽物4である塗料が前面パネル11に密着した場合は、アクリルと空気の接合面による反射ではなく、アクリルと屈折率の大きい塗料との接合面となるため、反射率が低下し、反射光B2が減少する。すなわち、反射光B1の変化は見られないが、前面パネル11の外側面(又は外表面)で反射する反射光B2が大きく減少する。
【0035】
以上の実験結果を考慮して、次のように条件設定すれば、遮蔽物4の近接状態と密着状態を区別して検出できることが判明した。
(a)遮蔽物4が所定の近接距離内に存在しない場合において、反射光B1と反射光B2の各光量を合計した受光部12bの受光量に相当する光量値(受光量をディジタル処理して数値化した値)を所定の複数回分記憶し、統計的処理(例えば光量値の平均値)によって求めた値が通常状態の基準値とされる。光量値(又はその平均値等)が通常状態の基準値に近い一定範囲内(多少の変動の範囲)である場合は、妨害行為のない通常状態とする。
(b)遮蔽物4が所定の近接距離内に存在する場合において、反射光B1と反射光B2と反射光B3の3つの光量を合計した受光部12bの光量値(又はその平均値等)が、通常状態の基準値と比較して、通常状態では起こり得ない程度に増加したとき(すなわち、上限値を超えたとき)、遮蔽物4の近接(布等による覆い隠し又はテープ類の貼付け等)を検出する。
【0036】
(c1)反射率の低い黒色スプレーの場合
反射率の低い遮蔽物4(黒色スプレー等)が前面パネル11に密着している場合は、上記(b)の場合に比べて、反射光B1の光量が略同じであるが、反射光B2の光量が大きく減少する。遮蔽物4が黒色塗料等のように反射率の低い場合、反射光B3の光量の上昇よりも、反射光B2の光量の減少の方が大きく影響する。
そして、各反射光B1,B2,B3の光量を合計した受光部12bの光量値(又はその平均値等)が、上記(a)の場合の光量値に比べて通常状態では起こりえない程度に減少したとき(すなわち、下限値を超えたとき)、遮蔽物4の密着状態(スプレー塗料の吹付け)を検出する。
(c2)反射率の高い白色スプレーの場合
反射率の高い遮蔽物4(白色スプレー等)が前面パネル11に密着している場合は、上記(b)の場合に比べて、反射光B1の光量が略同じであるが、反射光B2の光量が大きく減少す
る。
しかし、遮蔽物4が白色塗料等のような反射率の高い場
合、上記(c1)とは逆に、反射光B2の光量の減少よりも、反射光B3の光量の上昇の方が大きく影響する。
そして、各反射光B1,B2,B3の光量を合計した受光部13の受光量(又はその平均値)が、上記(a)の場合の受光量に比べて通常状態では起こりえない程度に増加したとき(すなわち、上限値を超えたとき)、遮蔽物4の近接を検出する。
【0037】
実際には、受光部12bは、反射光B1,B2,B3以外にも、監視カメラ装置10の設置場所の周辺からの周辺赤外光B4を、前面パネル11を通して受光することになる。周辺赤外光B4は、監視カメラ装置10の周辺に設置された蛍光灯等の照明器具3や、窓を通して入射する太陽光等に含まれるものである。
そのため、受光部12bの受光量は、反射光B1,B2,B3の光量に、周辺赤外光B4の光量を加えたものとなる。周辺赤外光B4は、昼間の直射日光や夕日が当たる時間帯等の高照度期間において、その光量が大きくなり、無視又は軽視できなくなる。この周辺赤外光B4は、発光部12aを自発光させないで、周辺赤外光B4のみを抽出した場合を「第4の光ビーム」という。
そこで、好ましくは、受光部12bの受光量に相当する光量値(B1+B2+B3+B4の光量値)から周辺赤外光B4の光量値を差し引いた差分値(B1+B2+B3の光量値)を用いて基準値を算出することにより、検出精度の向上を図る。
【0038】
上述の理由により、各反射光B1,B2,B3の光量と周辺赤外光B4とを合計した受光部12bの光量値、または当該光量値から周辺赤外光B4の光量を差し引いた差分値が、通常状態における所定回数分の統計的処理(例えば平均値の算出等)によって求めた基準値と比較して、通常状態では起こり得ない程度に増加して上限値を上側に超えたとき、遮蔽物4の近接を検出する。
また、当該光量値または差分値が、通常状態における所定回数分の統計的処理(平均値の算出等)によって求めた基準値と比較して、通常状態では起こり得ない程度に低下して下限値を下側に超えたとき、スプレー塗料の吹付けを検出する。
【0039】
しかし、上限値と下限値を一定値に定める(すなわち固定値にする)と、監視カメラ装置10の周辺の明るさ(または照度)が周辺環境により変化した場合に、検出精度の低下を招くこともある。
例えば、監視領域1が照明器具3による照明だけの場合を通常期間としたとき、昼間の直射日光や西日等の太陽光の差し込みが著しい高照度期間では、周辺赤外光B4が通常期間に比べて増大する。逆に、夜間の消灯時間帯のような低照度期間では、周辺赤外光B4が通常期間に比べて減少する。
そのため、周辺環境の変化によって、結果的に検出精度が低下することになる。
【0040】
そこで、本願では、上限値と下限値が、固定値ではなく、周辺環境の照度の変化にともなって変動した値に選定自在とされる。そのためには、基準値から第1のしきい値(Δ1)だけ大きな値を上限値(基準値+Δ1)と定め、基準値から第2のしきい値(Δ2)だけ小さな値を下限値(基準値−Δ2)と定める。
基準値の算出方法についても、検出精度の低下を招かないように工夫することが好ましい。その詳細は、
図6のブロック図,
図7の各期間別の波形図および
図9のフローチャートを参照して後述する。
【0041】
以上の検出原理により、監視カメラ装置10の構造上、監視方向の前面部分にアクリル等の前面パネル11を配置し、発光部12aと受光部12bからなる近接センサ12をその内部に配設して、前面パネル11の外表面の反射光B2と、前面パネル11を透過して遮蔽物4に反射した後に戻ってくる反射光B3と、周辺赤外光B4とを検出可能に構成する。
さらに、電気的処理部の構成(
図6の情報処理部34)を追加して、反射光B2と反射光B3と周辺赤外光B4の変化状態を検出し、基準値を算出する。この基準値に基づいて、遮蔽物4が前面パネル11(結果的に監視カメラ装置10)に近接した状態と密着した状態を区別して検出可能とする。
【0042】
(実施例)
次に、
図3(監視カメラ装置10の外観図),
図4(
図3のY−Y面で切断した断面図)および
図5(前面カバーの拡大断面図)を参照して、監視カメラ装置10の具体的な構造を説明する。
【0043】
監視カメラ装置10は、その前面に開口部を有する矩形形状のハウジング21を含み、ハウジング21内にレンズ等の光学系22aと撮像素子22bを含む撮像部22(
図6参照)を収納し、撮像部22の前に前面カバー23を装着して構成される。
前面カバー23は、その外周面の一方端面(背面側)がハウジング21の開口部に係合し、他方端面(前面側)に前面パネル11を装着して構成される。前面パネル11は、光を透過可能な透明又は半透明のアクリル板等からなり、前面カバー23の他方端面(前面側)に装着される。
なお、前面パネル11の材質は、アクリルに限らず、屈折率の大きな透過性の材料(ガラス等)を用いてもよい。
【0044】
ハウジング21内には、電子部品を実装するための回路基板24が直立した状態で収納される。回路基板24には、撮像素子22bが実装されるとともに、撮像素子22bの周辺に発光部12a及び受光部12bからなる近接センサ12が実装される。発光部12aは、例えば赤外光発光ダイオード(以下「赤外光LED」)が用いられ、特定波長の一例の自発赤外光(第1の光ビーム)IRBを発光して前面パネル11に向けて照射する。受光部12bは、赤外光の反射光B1〜B3とともに、照明器具3又は太陽光からの周辺赤外光B4を受光する。
ここで、発光部12aとして赤外光LEDを用いるのは、特定波長の一例の赤外光が人間に目視できず、撮像部22に写り込み難いためである。しかし、この発明では赤外光に限定されるものではなく、その他の波長(色)の光を発生する発光源を用いても良いことは勿論である。
【0045】
発光部12a及び受光部12bと前面パネル11の間には、導光管25が配設される。導光管25は、例えば棒状又は角状の透明な2つのアクリル部材が用いられ、投光用導光管25aと、受光用導光管25bとを含む。
投光用導光管25aは、発光部12aから発光される赤外光IRBを前面パネル11の位置まで効率よく導くものである。受光用導光管25bは、前面パネル11からの反射光B1,B2,B3及び周辺赤外光B4を効率よく受光部12bの位置まで導くものである。投光用及び受光用の各導光管25a,25bは、前面パネル11との間に隙間を有するように配置されて、前面カバー23の内壁側面に装着される。
【0046】
ここで、前面パネル11と発光部12a,受光部12bとの間に隙間を設けているのは、空気層を有することによって、発光部12aから発せられた赤外光(第1の光ビーム)IRBの一部が前面パネル11の内側面に反射する反射光B1と、前面パネル11の外側面(外表面)に反射する反射光B2を取り出すためである。
また、導光管25(25a,25b)を設けるのは、前面パネル11と発光部12a,受光部12bとが離れていても、赤外光IRB,反射光B1〜B3を効率よく導光するためである。
なお、前面パネル11と発光部12a,受光部12bの距離が短い場合、例えば発光部12a及び受光部12bを前面パネル11の近傍に配置した場合は、各導光管25a,25bを省略しても差し支えない。
【0047】
図6は監視カメラ装置10のブロック図である。
図6において、回路基板24には、発光部12a及び受光部12bからなる近接センサ12と撮像素子22bが実装される。また、アナログ−ディジタル(以下「A/D」と略称)変換回路31,32と駆動回路33と情報処理部34と画像圧縮回路35と通信部36とが回路基板24に実装されるか、別の回路基板に実装される。
回路的には、情報処理部34には、バスを介して画像圧縮回路35及び通信部36が接続される。また、情報処理部34には、駆動回路33を介して発光部12aが接続され、A/D変換回路31を介して受光部12bが接続される。画像圧縮回路35には、A/D変換回路32を介して撮像部22が接続される。
【0048】
具体的には、情報処理部34は、CPU34aとメモリ(記憶手段)34bと入出力(I/O)インタフェース34cとから成る。CPU34aは、メモリ34bに記憶されているプログラム、例えば
図9に示すフローを実現するためのプログラムに基づいて、光量検出,基準値算出,妨害行為判定等のための各種の処理を行う。
メモリ34bは、ROM等の不揮発性メモリと、RAM等の揮発性メモリの記憶領域(RAM領域)を含む。そして、メモリ34bの不揮発性メモリは、プログラム記憶用として用いられる。メモリ34bのRAM領域は、撮像部22によって撮像された画像データの記憶領域(以下「RAM1」と略称する)および各種処理に用いられる処理用記憶領域(以下「RAM2」と略称する)として用いる。RAM2は、例えば受光部12bによって検出された光量値(または差分値)を所定回数分だけ一時記憶する記憶領域と、複数回分の光量値(または差分値)に基づいて基準値を算出処理するための各種の記憶領域と、算出後の基準値に加算して上限値(基準値+Δ1)を算出するための第1の閾値(Δ1)と、当該基準値から減算して下限値(基準値−Δ2)を算出するための第2の閾値(Δ2)を記憶する記憶領域等を含む。
なお、メモリ34bは、ROM,RAM等の半導体メモリに限らず、ハードディスク等のその他各種の記憶手段でもよい。
【0049】
上述の上限値(基準値+Δ1)は、通常期間における所定回数分の光量値の統計的処理によって基準値を算出する場合において、妨害行為のない通常状態ではあり得ない程度に基準値から大きく増加した値である。この上限値は、布等の遮蔽物4を前面パネル11の所定の距離範囲に近づけたときに実験的に求めた値に選ばれる。
下限値(基準値−Δ2)は、通常状態の基準値に比べて、妨害行為のない通常状態ではあり得ない程度に低下した値である。この下限値は、スプレー塗料を前面パネル11に吹付けて実験的に求めた値に選ばれる。
【0050】
ここで、所定個数分の光量値(または差分値)を統計的に処理して求めた基準値を用いて上限値と下限値を算出しているのは、所定個数の光量値の平均値をそのまま用いると、近接または密着のような異常状態を検出した場合でも平均値を算出することになり、検出精度の低下を招くからである。
この実施例における基準値は、後述の
図7に示す通常期間等の安定している期間における所定回数分の光量値(または差分値)に基づいて算出するものであり、不安定期間や近接または密着状態の異常を検出している期間の光量値(または差分値)を用いて算出することを除いている。
【0051】
次に、監視カメラ装置10の各部の概要を説明する。
情報処理部34に含まれるCPU34aは、駆動回路33を制御して、発光部12aから赤外光を間欠的(又は連続的)に発光させる。CPU34aは、比較的短い所定周期(例えば、200ms〜300msの検出周期)毎に受光部12bによって受光された反射光B1,B2,B3と周辺赤外光B4を読み込むために、当該受光量をA/D変換回路31にA/D変換させて、メモリ34bのRAM2に順次記憶させる。
また、CPU34aは、基準値を求めるのに適した所定回数(又は所定周期よりも長い一定時間、例えば数十秒でも可)毎に光量値(または差分値)を統計的に処理して基準値を算出する。
【0052】
さらに、CPU34aは、基準値と第1の閾値(Δ1),第2の閾値(Δ2)に基づいて上限値(基準値+Δ1)と下限値(基準値−Δ2)を求めて、検出した光量値(または差分値)と比較することにより、妨害行為の有無を判断する。
ここで、第1の閾値(Δ1)と第2の閾値(Δ2)は、好ましくは、周辺赤外光B4が通常状態の場合をΔ1a,Δ2aとし、高照度状態の場合をΔ1b,Δ2bとし、低照度状態の場合をΔ1c,Δ2cとするように選んでもよい。
【0053】
なお、検出した反射光B1〜B3と周辺赤外光B4の光量値(または光量値から周辺赤外光B4を差し引いた差分値)から基準値を差し引いた値が正の値であって、第1の閾値(Δ1)よりも大きい場合は上限値を超えたものと判断する。光量値(または差分値)から基準値を差し引いた値が負の値であって、その絶対値が第2の閾値(Δ2)よりも大きい場合は下限値を超えた(すなわち下側に超えた)ものと判断してもよい。
図9のフローでは、差分値から基準値を差し引いた値と第1の閾値(Δ1)または第2の閾値(Δ2)との大小を比較することによって、妨害行為の有無を判断する場合の例を説明する。
【0054】
より具体的には、例えば光量値を用いて基準値を算出する場合は、CPU34aが、発光部12aから断続的に赤外光IRBを発光させて、受光部12bによって検出された反射光B1,B2,B3と周辺赤外光B4の受光量をディジタル値に変換して得た光量値を所定回数(n;例えば50回)分だけRAM2に順次書き込む。CPU34aは、所定回数分の光量値(または差分値)を用いて統計的処理することにより、基準値を算出する。
【0055】
ここで、統計的処理の算出方法として、次のような計算(演算)処理が考えられる。
第1の算出方法は、所定回数(複数の所定個数;n)分だけ検出した光量値の平均値を算出する方法である。第2の算出方法は、所定回数分だけ検出した光量値のうち、最も高い光量値と最も低い光量値を除いた残りの複数回(n−2)の光量値の平均値を求める方法である。第3の算出方法は、所定回数(n)だけ検出した光量値の正規分布を調べて、発生頻度の高い光量値を中心として上下に数段階の光量値の平均値を求める(換言すれば発生頻度の低い光量値を考慮しない)方法等である。
その他にも、誤差の少ない適当な計算式を用いて基準値を算出してもよい。
【0056】
また、差分値を用いて基準値を算出する場合には、CPU34aが、発光部12aの自発光を停止させた状態で、受光部12bによって受光された周辺赤外光B4の光量を読込み、その後で発光部12aを自発光させることにより、受光部12bによって受光された反射光B1,B2,B3と周辺赤外光B4をまとめた受光量に相当する光量値を読込み、当該光量値から周辺赤外光B4の光量値を差し引いた差分値を求める。
この発光部12aを発光させない状態による周辺赤外光B4の光量値の検出と、発光部12aを発光させたときの反射光B1,B2,B3及び周辺赤外光B4の光量値の検出と、差分値の算出を、所定回数(n)分繰り返した後、所定回数分の差分値に基づいて統計的処理を行うことにより、基準値を算出する。
この基準値を算出するための統計的処理の算出方法は、段落番号(0055)の第1〜第3の算出方法と同様である。
なお、
図9の実施例では、差分値を用いて基準値を算出する場合の例を説明する。
【0057】
一方、撮像素子22bは、監視カメラ装置10によって監視領域1の様子を常時監視するために、その様子を常時撮像(又は撮影)している。撮像素子22bによって撮像された1画面分の画像データが、撮像部22に含まれる読出制御部(図示せず)によって周期的に読み出され、A/D変換回路32によってディジタル情報に変換され、画像圧縮回路35によって画像圧縮されて、メモリ34bのRAM1に記憶される。
そして、RAM1に記憶された画像データが、通信部36によって送信可能なデータ形式に変換されて、離れた場所の監視装置37へ周期的に送信される。
【0058】
監視カメラ装置10は、ローカルエリアネットワーク(LAN)を介して離れた場所に設置された監視装置37に接続されるか、インターネット回線(又は専用回線)を介して遠隔地に設置された監視装置37に接続される。監視装置37には、モニタ38が接続されるとともに、記録装置39が接続される。記録装置39は、例えば大容量のハードディスクとDVD記録再生装置を含み、ハードディスクに記録した画像をDVD等の大容量記録媒体に定期的にバックアップ記録するものである。
【0059】
そして、監視装置37は、撮像部22によって撮像された画像が監視カメラ装置10から送信されると、その画像をモニタ38に常時表示させるとともに、記録装置39に記録させる。また、情報処理部34によって判定された妨害行為の検出結果が通信部36を介して送信されると、その結果がモニタ38に表示されるとともに、記録装置39に記録される。
なお、基準値の算出及び/又は妨害行為判定の各処理を行うための情報処理部34は、監視カメラ装置10側ではなく、離れた場所の監視装置37側に設けても良い。
【0060】
図7は本実施例における不安定期間,通常期間,高照度期間,低照度期間の各期間別に、基準値の算出及び妨害行為判定の関係を説明するために異なる時間に求めた差分値(又は光量値)の波形図である。
特に、
図7において、(A)は周辺赤外光(B4)の光量値を示し、(B)は近接センサ値の差分値から基準値を生成するタイミングを示し、(C)は近接センサ値の差分値及び上限値・下限値の関係を示す。それぞれの縦軸が光量値、横軸が時間である。時間軸は左から不安定期間,通常期間,高照度期間,通常期間,低照度期間であり、各期間の間に拡張期間が適宜取られる。
なお、各期間は、時間的に連続したものではなく、異なる時間における波形を簡易的にまとめて記載したものである。
【0061】
通常期間(高照度期間でも低照度期間でもない通常照度の期間)は、所定回数(又は個数)の光量値の検出とそれに伴う差分値の算出を行うとともに、所定回数(個数)の差分値を取得した後に、統計的処理に基づく基準値の算出を行う。そして、所定回数(個数)の差分値を取得した後に、最も古い差分値を消去しかつ最新の差分値をメモリ34bのRAM2に書き込むことにより、最新に取得した差分値から数えて所定個数前までの差分値を順次記憶させる。換言すれば、RAM2には、所定個数分の差分値が先入れ先出し態様で一時記憶されることになる。
但し、通常期間において妨害行為が検出されたときは、その検出期間中、基準値の更新を行わない(すなわち中断する)。
【0062】
高照度期間は、周辺赤外光の光量値(赤外光強度)が高い所定値(H)を超えた期間であり、光量値の検出および差分値の算出を行うとともに、所定回数(個数)の差分値を取得した後に、基準値の算出を行う。光量値の検出状態が、
図7(B)の丸付矢印で示される。
また、高照度期間において、妨害行為が検出された場合は、基準値の更新を行わない。
【0063】
低照度期間は、周辺赤外光の光量値が低い所定値(L)を下回った期間であり、光量値の検出および差分値の算出を行うとともに、所定回数(個数)の差分値を取得した後に、基準値の算出を行う。妨害行為を検出した場合は、基準値の更新を行わない。
【0064】
また、周辺赤外光の検出結果から不安定期間(左から2列目,4列目の欄)と判定された場合又は差分値の変化が大きい場合は、光量値の読込みも行わず、基準値の算出(又は生成)も行わないようにしている。
このように、本実施例では、検出精度の低下を防止するために、
図9のフローに示す算出方法によって基準値を求めている。
【0065】
図8は本実施例における通常期間,高照度期間,低照度期間の各期間別に、発光部12aの発光量と受光部12bの受光量(すなわち感度)の調整の仕方を図解的に示した図である。
通常期間における発光部12aの発光量を「1」とし、自発光したときの受光部12bの受光量(又は受光感度)を「1」とした場合において、低照度期間に通常期間と同じ発光量にすると、自発赤外光が撮像素子22bの撮像画像に写り込み、画質の低下が生じる。
そこで、好ましくは、低照度期間では、発光部12aの発光量を減分(例えば1/2に減分又は2で除算)処理することにより、自発赤外光IRBが撮像素子22bの撮像画像に写り込むのを減少させて、画質の低下を防ぐ。その代り、受光部12bの感度を増分(例えば2倍に増分)処理する。
【0066】
一方、高照度期間は、周辺環境が明るいので、自発赤外光が撮像素子22bの撮像画像に写り込むこともない。しかし、周辺赤外光の光量値が大きいので、受光量(反射光B1〜B3+周辺赤外光B4)中の自発赤外光の光量値(反射光B1〜B3)の割合が相対的に低下し、検出精度の低下を招くこともある。
そこで、好ましくは、高照度期間では、発光部12aの発光量を増分(例えば4倍に増分)し、受光部12bの感度を減分(例えば1/4倍)処理することにより、検出精度の低下を防いでいる。
ここで、発光量を増分し感度を減分する理由は、周辺の赤外光が多い場合、光量の検出値が飽和状態に近くなり、その飽和状態で反射光の光量値を検出しても正確に検出できないので、飽和状態の検出値を下げるためである。
【0067】
図9は、監視カメラ装置の異常検出処理を説明するためのフローチャートである。
図9のフローを大別すると、ステップ(図では記号「S」と略記する)1〜8は所定個数分の光量値(又は差分値)を検出して基準値を算出する処理を示し、ステップ9〜19は算出した基準値に基づいて近接検出及びスプレー検出を行う処理及び基準値を更新する処理を示す。
また、課題の解決手段との関係では、受光部12b,A/D変換回路31,CPU34aと、ステップ3,4,12,21,23(13)の処理によって、光量値検出手段としての機能を果たす。CPU34aとステップ8,19の処理によって、基準値算出手段としての機能を果たす。
【0068】
図10はこの実施例の動作を説明するための受光部12bの出力の波形図であり、特に(A)は近接検出の場合、(B)はスプレー検出の場合を示す。
次に、
図3ないし
図10を参照して、
図9のフローチャートに沿って監視カメラ装置10の異常検出(近接検出,スプレー検出)処理の具体的な動作を説明する。
【0069】
(基準値の算出処理の動作)
電源スイッチが投入されると、近接センサ12,撮像素子22b等の各電子部品に電力が供給されて、監視カメラ装置10は監視動作を開始する。応じて、情報処理部34のCPU34aは、
図9に示すフローチャートの動作を開始する。
すなわち、ステップ1において、発光部12aを発光させない状態で、受光部12bによる周辺赤外光B4の検出が行われる。この場合、発光部12aが自発光しないので、反射光B1〜B3の何れも検出されない。受光部12bによって検出された周辺赤外光B4の受光量のアナログ値がA/D変換回路31によってディジタル値に変換されて、光量値としてCPU34aのレジスタ(図示せず)にストアされる。
次のステップ2において、ステップ1で検出された光量値に基づいて、周辺状況の判定が行われる。この判定は、前回の光量値と今回の光量値の差が所定の範囲を超えて大きく変動している不安定な状態か否かを判断するものである。もし、不安定な状態であることが判定されると、ステップ1へ戻り、安定状態に達するまでステップ1および2の動作が繰り返される。
これによって、不安定期間において、検出された光量値が
図7(A)のように変動の大きな場合に、基準値を算出するための反射光B1〜B3の光量値を取得しないようにしている。
【0070】
前述のステップ2において、安定状態であることが判断されると、次のステップ3へ進む。ステップ3において、発光部12aから赤外光を自発光させた後、反射光B1〜B3と周辺赤外光B4の光量値が受光部12bによって検出される。検出されたB1〜B4の光量値がCPU34a内のレジスタにストアされる。
ステップ4において、差分値の算出処理が行われる。差分値の算出処理は、例えば反射光B1〜B3と周辺赤外光B4の光量値からステップ1で検出された周辺赤外光B4の光量値を差し引いて、差分値を求めるものである。その差分値がレジスタにストアされる。
【0071】
ステップ5において、直前のステップ4で算出した差分値が前回検出した差分値と大きく変化しているか否かが判断される。大きく変化している場合は、ステップ6の処理を行わずに、ステップ1へ戻り、ステップ1〜5を繰り返す。
前述のステップ5において大きな変化のないことが判断されると、次のステップ6において、レジスタにストアしている差分値が基準値を算出するためのデータとして、メモリ32bのRAM2のある番地に一時記憶される。
【0072】
ステップ7において、RAM2に一時記憶されている差分値が所定個数分だけ揃ったか否かが判断される。所定個数は、差分値に基づく基準値の算出に適した個数(例えば50個)に選ばれる。
所定個数揃っていない場合は、ステップ1へ戻り、ステップ1〜6の処理が所定回数だけ繰り返されて、基準値の算出に必要な所定個数の差分値の算出処理が行われる。算出された所定個数分の差分値は、先入れ先出し態様でRAM2に記憶されることになる。
このように、反射光B1〜B3の光量値だけを抽出した差分値を所定個数分だけ取得(RAM2に一時記憶)することにより、周辺赤外光B4の変動による影響を除いた基準値を算出することができる。
【0073】
前述のステップ7において、差分値が所定個数分だけ揃っていることが判断されると、ステップ8において、所定個数分の差分値を統計的に処理して、基準値の算出処理が行われる。基準値の算出処理は、段落番号(0055)において説明した第1〜第3の算出方法等に基づいて行われる。算出された基準値がRAM2のある番地に一時記憶される。
【0074】
(通常照度における妨害行為の無い場合の動作)
前述のステップ1〜8によって基準値の算出が行われた後、ステップ9において、発光部12aを発光させない状態で、受光部12bによる周辺赤外光B4の検出が行われる。受光部12bによって検出された周辺赤外光B4の受光量のアナログ値がA/D変換回路31によってディジタル値に変換されて、光量値としてCPU34aのレジスタにストアされる。
【0075】
次のステップ10において、ステップ9で検出された光量値に基づいて、周辺状況の判断が行われる。この判断処理は、直前に検出された周辺赤外光B4の光量値に基づいて、周辺状況が安定した状態であり、かつ通常照度,高照度又は低照度の何れの状態であるかを判断するものである。
このように、周辺状況を判定するのは、周辺の照度によって発光部12aの発光量を適切に調整して、発光部12aの発光量と受光部12bの感度を最適な状態に調整するためである。
【0076】
例えば、ステップ10において、通常照度であることが判断されると、ステップ11において、通常照度の場合の処理、例えば発光部13の発光量を「1」のままにして、自発赤外光を発光させるとともに、通常期間に対応する異常検出のための第1の閾値(Δ1a)と第2の閾値(Δ2a)が読み出されて、妨害行為の検出のための準備が行われる。
ステップ12において、発光部12aから赤外光を自発光させた後、反射光B1〜B3と周辺赤外光B4の光量値が受光部12bによって検出される。検出されたB1〜B4の光量値は、通常期間では増分も減分もされることなく、検出されたそのままの値がCPU34aのレジスタにストアされる。
【0077】
ステップ13において、ステップ4と同様にして、差分値の算出処理が行われる。算出された差分値は、レジスタ(図示せず)にストアされる。ステップ14において、差分値から基準値が減算されて、差分値と基準値の差が求められる。ステップ15において、差分値と基準値の差が通常期間における第1の閾値(Δ1a)を超えているか否かが判断される。「差分値−基準値」の値が第1の閾値(Δ1a)未満であれば、近接検出ではないことが判断されて、ステップ16へ進む。
ステップ16において、差分値と基準値の差が通常期間における第2の閾値(Δ2a)以下か否かが判断される。「差分値−基準値」の値が負の値であって、その絶対値が第2の閾値(Δ2a)を下側に超えていなければ、スプレーによる妨害行為ではないことが判断されて、ステップ17へ進む。
【0078】
ステップ17において、周辺状況が基準値の更新条件を満たすか否かが判断される。この基準値の更新条件は、近接検出でもスプレー検出でもなく、更新タイミング(例えば、2秒毎)であるという条件である。
従って、通常期間において近接検出でもスプレー検出でもなく、更新タイミングであれば、基準値の更新条件を満たしていることが判断されてステップ18へ進む。
ステップ18において、RAM2に記憶されている所定回数分の差分値のデータがシフトされて、最も古い差分値が消去され、直前の差分値を記憶していた番地にステップ13で算出された最新の差分値が書き込まれる。これによって、最も古い差分値を最新の差分値に更新することになる。
ステップ19において、RAM2に記憶されている所定回数分の差分値データを統計的に演算処理することによって、最新の基準値が算出される。その後、前述のステップ9へ戻り、ステップ9〜19の処理が繰り返されて、基準値の更新処理が行われる。
【0079】
(高照度期間における妨害行為の無い場合の動作)
一方、前述のステップ10において、周辺状況が安定であり、かつ高照度期間であることが判断されると、ステップ20へ進む。
ステップ20において、高照度期間の処理として、発光部13の発光量を4倍に増分して、自発赤外光を発光させるとともに、高照度期間に対応する異常検出のための第1の閾値(Δ1b)と第2の閾値(Δ2b)が読み出されて、妨害行為の検出のための準備が行われる。
ステップ21において、発光部12aから赤外光を発光させた後、反射光B1〜B3と周辺赤外光B4の光量値が受光部12bによって検出される。このとき検出されたB1〜B4の光量値は、4倍に増分されているので、受光部12bの感度を1/4に減分して、CPU34aのレジスタにストアされる。従って、検出された光量値は、ステップ20で増分しても、増分しない場合の光量値と同じ値となる。
【0080】
その後、ステップ13において、差分値の算出処理が行われる。算出された差分値は、レジスタ(図示せず)にストアされる。ステップ14において、差分値から基準値が減算されて、差分値と基準値の差が求められる。
高照度期間におけるステップ15及び16の動作は、第1の閾値が「Δ1b」であり、第2の閾値が「Δ2b」である点を除いて、通常期間の動作と同様であるので、説明を省略する。
ステップ17において、基準値の更新条件を満たす場合は、ステップ18へ進み、満たさない場合はステップ9へ戻る。
【0081】
ステップ18において、最も古い差分値が最新の差分値に更新される。具体的には、最も古い差分値が消去され、他の差分値がシフトされて、直前の差分値を記憶していた番地にステップ13で算出された最新の差分値が書き込まれる。
ステップ19において、RAM2に記憶されている所定回数分の差分値データを統計的に演算処理することによって、最新の基準値が算出される。その後、前述のステップ9へ戻り、ステップ9〜19の処理が繰り返されて、基準値の更新処理が行われる。
【0082】
(低照度期間における妨害行為の無い場合の動作)
一方、前述のステップ10において、周辺状況が安定であり、かつ低照度期間であることが判断されると、ステップ22へ進む。ステップ22において、低照度期間の処理として、発光部13の発光量を「1/2」に減分して、自発赤外光を発光させるとともに、低照度期間に対応する異常検出のための第1の閾値(Δ1c)と第2の閾値(Δ2c)がRAM2から読み出されて、低照度期間における妨害行為の検出のための準備が行われる。
ステップ23において、発光部12aから赤外光を発光させた後、反射光B1〜B3と周辺赤外光B4の光量値が受光部12bによって検出される。このとき検出されたB1〜B3の光量値は、自発赤外光が「1/2」に減分されているので、受光部の感度を2倍にして検出した光量値をCPU34aのレジスタにストアさせる。
このステップ22,23の処理によって、自発赤外光が撮像部22の撮像画像に写り込むことを防止している。
【0083】
その後のステップ13〜17の処理は、通常期間(又は高照度期間)の異常検出の無い場合の動作と同様である。すなわち、ステップ17において、周辺状況が基準値の更新条件を満たすか否かが判断される。
ステップ17において、基準値の更新条件を満たす場合は、ステップ18へ進み、満たさない場合はステップ9へ戻る。
【0084】
(近接検出の場合の動作)
次に、
図10(A)を参照して、布等で監視カメラ装置10を覆い隠す妨害行為があった場合の動作を説明する。
【0085】
不審者が布等で監視カメラ装置10を覆い隠すような妨害行為をする場合は、布等が徐々に監視カメラ装置10の前に近づけられるので、ステップ9〜19(またはステップ9,10,20,21,13〜19、もしくはステップ9,10,22,23,13〜17)の処理を繰り返して実行している間に、ステップ12(または21もしくは23)において算出される光量値が徐々に上昇し、結果としてステップ13で算出される差分値が徐々に上昇する。
そして、遮蔽物4が所定の近接範囲内まで近づいたときに、差分値が第1の閾値(Δ1;実際には、通常状態ではΔ1a,高照度状態ではΔ1b,低照度状態ではΔ1c)を超えて上昇することになる。
この場合、ステップ15において、差分値が第1の閾値(Δ1)を超えたことが判断されて、ステップ24へ進む。ステップ24において、遮蔽物4の近接による妨害行為のあったことが判定される。この判定結果は、ステップ25において、情報処理部34から通信部36を介して監視装置37へ通報される。モニタ38を監視している監視員は、布等の覆い隠し等による妨害行為を知り、監視カメラ装置10の設置場所の近くにいる警備員に連絡し、布等の覆い隠しによる妨害行為を排除するための対策(例えば、布等の除去、不審者に退去又は任意同行の要請等)を行ってもらう。
【0086】
(スプレー検出の場合の動作)
次に、
図10(B)を参照して、黒色のスプレー塗料の吹付けを検出する場合の動作を説明する。
【0087】
不審者が監視カメラ装置10に対してスプレー塗料を吹付けると、前述のステップ9〜19の処理(またはステップ9,10,20,21,13〜19の処理、もしくはステップ9,10,22,23,13〜19の処理)を繰り返して実行している間に、ステップ12(または21,23)において検出される光量値が徐々に低下し、結果としてステップ13で算出される差分値も徐々に低下する。
そして、塗料が前面パネル11の外表面に密着した状態になると、反射光B2が急に低下し、それに代わって反射光B3が次第に増加する。反射光B2の減少は、反射光B3の増加よりも大きいので、或るタイミングにおいて、差分値から基準値を差し引いた値が第2の閾値(Δ2;実際には、通常期間ではΔ2a,高照度期間ではΔ2b,低照度期間ではΔ2c)を下側に超えることになる。
【0088】
そのため、ステップ16において、差分値から基準値を差し引いた値が第2の閾値(Δ2)を下側に超えたことが判断される。次のステップ26において、スプレー塗料の吹付けによる妨害行為のあったことが判定される。この判定結果は、ステップ25において、情報処理部34から通信部36を介して監視装置37に通報され、モニタ38に表示される。
モニタ38を監視している監視員は、スプレー塗料の吹付けによる妨害行為の検出を知り、監視カメラ装置10の設置場所の近くにいる警備員に連絡し、当該妨害行為を排除するための対策を行わせる。
【0089】
従って、通常期間,高照度期間または低照度期間の何れの場合も、本願発明によれば、スプレー塗料の吹付けによる妨害行為を確実かつ高精度に検出することができる。
また、スプレー塗料の色によっては、反射光B3の反射率が異なる場合もある。例えば、塗料の色が白色等の明るい色の場合は反射光B3の反射率が高くなり、黒色等の暗い色の場合は反射光B3の反射率が低くなる。塗料の色によって、反射光B3の反射率が極めて高い場合は、近接検出として妨害行為(スプレー吹付け)を検知することもある。