(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ワークを支持して回転させる主軸と、この主軸で支持されたワークの周面を加工する加工手段と、前記主軸に支持された前記ワークの径を計測するワーク径機上計測装置とを備え、
前記ワーク径機上計測装置は、
前記主軸に支持されたワークの周面の主軸回転による表面移動量を計測する表面移動量センサと、
前記ワークの回転角を検出する回転位置センサと、
前記表面移動量センサで計測された表面移動量を、この表面移動量の範囲を移動する間に前記回転位置センサで計測された回転角で除することによってワークの径を計算するワーク径計算手段とを備え、
前記表面移動量センサは、前記ワークの表面を撮影する撮影手段と、撮影された画像を処理して表面移動量を計算する表面移動量計算手段とでなる、
ことを特徴とするワーク径計測機能付き工作機械。
前記表面移動量センサの前記表面移動量計算手段は、前記撮影手段で一定撮影間隔毎に撮影された連続するそれぞれ2枚の画像を対比して、この2枚の画像間で移動したワークの周面の移動量である画像間表面移動量を求める画像処理、およびこの各画像間表面移動量を加算することにより、ワークの径の計算に用いる表面移動量を求める加算処理を行い、前記画像処理では、与えられたワークの径の予測値と、前記ワークの回転速度と、前記撮影手段による撮影間隔とから求まる画像間表面移動量の推定移動量を用い、対比する前記2枚の画像のうち、前記推定移動量に対応する位置の近傍でのみ対比して、定められた一致度の評価値を計算することで前記画像間表面移動量を計測する請求項1または請求項2記載のワーク径計測機能付き工作機械。
前記撮影手段の画像が最も鮮明になる、前記撮影手段と前記ワークの表面間のギャップを求める処理であるフォーカス検知を行うフォーカス検知手段、および前記画像が最も鮮明になる前記ギャップの位置へ前記撮影手段を移動させるフォーカス調整手段を設けた請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のワーク径計測機能付き工作機械。
前記フォーカス検知手段は、フォーカス検知の対象とする画像につき、ワークの周方向に並ぶ複数の領域に分割して各分割画像について前記フォーカス検知をそれぞれ行い、これら複数の分割画像につき計測された前記ギャップの差を検出する周方向傾き誤差検出部を有する請求項4記載のワーク径計測機能付き工作機械。
前記フォーカス検知手段は、前記表面移動量計算手段の計算した表面移動量につき、前記周方向傾き誤差検出部が検出した前記ギャップの差によって、前記撮影手段の光軸が、ワーク軸心に垂直な面内で前記ワークの被撮影面に垂直でないことに起因する計測誤差を補正する誤差補正部を有する請求項5記載のワーク径計測機能付き工作機械。
前記撮影手段が前記加工手段を構成する刃物台に取付けられ、前記ワーク径計算手段の計算したワークの径と、前記フォーカス検知手段がフォーカスが合うと検知したX軸位置とを監視し、この監視したワークの径とX軸位置、および想定したワークの径とフォーカスが合うと想定したX軸位置とから、前記ワークの軸心と前記撮影手段の切り込み方向の相対熱変位を監視する相対熱変位監視手段と、この監視した相対熱変位を用いて前記加工手段の工具移動量の熱変位補正を行う熱変位補正手段を設けた請求項4ないし請求項6のいずれか1項に記載のワーク径計測機能付き工作機械。
前記撮影手段が前記加工手段を構成する刃物台に取付けられ、前記フォーカス検知手段がフォーカスが合うと検知したX軸位置を監視し、この監視したX軸位置、およびフォーカスが合うと想定したX軸位置を用い、熱変位と除いた加工力による変位と、摩耗による刃先後退量の和を求める力学的相対変位監視手段を設けた、請求項4ないし請求項7のいずれか1項に記載のワーク径計測機能付き工作機械。
前記ワーク径機上計測装置による計測とフォーカス検知を、前記ワークの軸方向の複数箇所で行わせ、これら複数箇所のワークの径とフォーカスが合うと検知したX軸位置から、刃物台に対するワークまたは主軸の中心の位置と傾き成分、およびワークのたわみ成分を検出する多点計測手段を設けた請求項4ないし請求項7のいずれか1項に記載のワーク径計測機能付き工作機械。
前記撮影手段は、前記加工手段を構成する刃物台が有する複数の工具ステーションの一つに取付けた請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載のワーク径計測機能付き工作機械。
前記撮影手段は、前記加工手段を構成する刃物台における工具が取付けられた工具ステーションに、加工時にワークの加工している周面を撮影可能に取付けた請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載のワーク径計測機能付き工作機械。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のタッチセンサによる計測(特許文献1等)は、設置の自由度が低く、また計測時間が長くなるという問題がある。具体的には、旋盤のX軸(切込み方向)の可動範囲は、通常、ワークに対して加工する側には広いが、その反対側には狭いため、大きな径を計測するには、大きな治具が必要となる。特許文献1の例では、主軸に支持されたワークの両側を、刃物台に取付けられたタッチセンサで計測するようにしているが、このような刃物台の可動範囲が広い旋盤は、一般的ではなく、限られた仕様の旋盤となる。
また、従来のタッチセンサによる計測では、Z軸(主軸軸心方向)方向に長いワークのチャックに近い位置を計測するにも、大きな突き出しの治具が必要となり、その場合には逆にチャックから遠い位置を計測することが困難になる。さらに、心押し台を利用する場合は、ワークの軸心を横切ることができず、旋盤の加工のために備えられた動作可能範囲を利用して計測することができない。
しかも、タッチセンサは、静止したワークに対して、ゆっくりと接触させる必要があるため、計測には比較的時間を要する。
【0006】
従来のローラ接触式の計測装置は、ワークの片方に接触させる点で、設置の自由度はタッチセンサ式に比べて高い。しかし、ローラとワーク間の接触面間の滑り等による誤差の発生が懸念され、高精度な検出が難しい。しかも、接触式であるため、ワークに対してローラをゆっくりと接触させる必要があり、これも計測には比較的時間を要する。
【0007】
上記従来の非接触型の周長計測手段を用いた計測装置は、レーザドップラ測長計を用いており、測長センサとワークとの間の距離を一定に保つ必要がある。この距離を一定に保つ手段として、ワークに接するローラを有する倣い機構が例示されているが、倣い機構をワークに接触させるために、接触式の計測装置と同じく、ローラをゆっくりと接触させる必要があり、これも計測には比較的時間を要する。しかも、レーザドップラ測長計は特殊な測長計であり、コスト高となる。
【0008】
この発明の目的は、計測装置の設置上の自由度が高く、工作機械の形式を選ばずに設置でき、かつ機上で精度良く、短時間でワーク径が計測でき、また一般的な機器で構成できて低コストで製作できるワーク径計測機能付き工作機械を提供することである。
この発明の他の目的は、焦点合わせの誤差によって結像倍率に変化が生じず、高精度に表面移動量を計測できるようにすることである。
この発明のさらに他の目的は、工作機械の特徴を利用して少ない計算量で精度良くワークの径を計測可能とすることである。
この発明のさらに他の目的は、鮮明な画像を得て、ワークの径をより精度良く計測できるようにすることである。
この発明のさらに他の目的は、撮影手段の光軸が被撮影面に対して傾きを生じる取付誤差に対して、その傾き誤差の検出を可能にし、また傾き誤差を補正してワークの径をより一層精度良く計測できるようにすることである。
この発明のさらに他の目的は、ワークの径の計測を利用して、熱変位補正を精度良く行えるようにすることである。
この発明のさらに他の目的は、熱変位を除いた加工力による変位と摩耗による刃先後退量の和が求められるようにすることである。
この発明のさらに他の目的は、ワークまたは主軸の中心の位置と傾き成分、およびワークのたわみ成分を検出して、加工時の工具移動の補正が行えるようにすることである。
この発明のさらに他の目的は、刃物台の動きを利用して撮影手段の動作を可能とすることである。
この発明のさらに他の目的は、加工を行いながら計測可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明のワーク径計測機能付き工作機械は、ワーク(W)を支持して回転させる主軸(1)と、この主軸(1)で支持されたワーク(W)の周面を加工する加工手段(2)と、前記主軸(1)に支持された前記ワーク(W)の径(D,R)を計測するワーク径機上計測装置(3)とを備える。
前記ワーク径機上計測装置(3)は、前記主軸(1)に支持されたワーク(3)の周面の主軸回転による表面移動量(L)を計測する表面移動量センサ(4)と、前記ワーク(W)の回転角(θ)を検出する回転位置センサ(5)と、前記表面移動量センサ(4)で計測された表面移動量(L)を、この表面移動量(L)の範囲を移動する間に前記回転位置センサ(5)で計測された回転角(θ)で除することによってワーク(W)の径を計算するワーク径計算手段(6)とを備える。
前記表面移動量センサ(4)は、前記ワーク(W)の表面を撮影する撮影手段(7)と、撮影された画像を処理して表面移動量を計算する表面移動量計算手段(8)とでなる。前記撮影手段(7)は、テレセントリック光学系を有することが好ましい。
なお、前記ワークの周面は、外周面であっても内周面であっても良い。また、計測するワークの径は、直径であっても、半径であっても良い。
【0010】
この構成によると、主軸(1)でワーク(W)を回転させながら、表面移動量センサ(4)でワーク(W)の周面の表面移動量を計測する。この計測の間に回転した主軸(1)の回転角(θ)、すなわちワーク(W)の回転角(θ)を前記回転位置センサ(5)で計測する。ワーク径計算手段(6)は、この計測した表面移動量を回転角(θ)で除することによってワーク(W)の径(D,R)を計算する。この計算値がワーク(W)の径の計測値となる。
このワーク径機上計測装置(3)は、表面移動量センサ(4)を用いるため、ワーク(W)の直径上の片側に表面移動量センサ(4)を位置させて計測でき、ワーク軸心を挟む両側に移動させて計測する必要がない。このため、治具類の交換等を必要とすることなく、加工した形状のどの位置の径も計測可能であり、ワーク(W)の大きさや心押し台の有無に計測の可否が左右されることもない。回転位置センサ(5)は、主軸(1)の回転を検出するセンサであるため、配置上の問題が生じず、また工作機械として主軸(1)の回転制御に用いられているエンコーダ等を利用することも可能である。これらのため、ワーク径機上計測装置(3)の工作機械への設置上の自由度が高く、工作機械の形式を選ばずに設置することができる。
【0011】
表面移動量センサ(4)は、ワーク(W)の表面を撮影する撮影手段(7)と、撮影された画像を処理して表面移動量(L)を計算する表面移動量計算手段(8)とで構成されるため、非接触で計測でき、また表面移動量と回転角(θ)とで径を計測するため、計測時にワーク(W)の回転を停止する必要がない。撮影手段(7)とワーク表面間の距離は、撮影手段(7)の光学系の種類によっては画像の倍率変化に影響し、表面移動量(L)や径(D,R)の計算結果に影響する。しかし、撮影手段(7)では、テレセントリック光学系を持つものなど、撮影手段(7)とワーク表面間の距離が倍率に影響しないものがある。また、焦点位置を観測しながら撮影すること、または画像処理の工夫等によっても、倍率の変化を回避できる。このため、撮影手段(7)とワーク表面間の距離を正確に保つための倣い装置等を用いることなく、完全に非接触で撮影手段(7)による適切な撮影が行える。完全非接触のため、接触式に比べて撮影手段(7)をワーク表面に比較的に高速で近づけることができる。このように、計測時にワークの回転を停止する必要がなく、かつ完全非接触のために比較的に高速で近づけることができ、また倍率変化の影響も殆ど無くせるため、精度良く、短時間でワーク径(D,R)が計測できる。
撮影手段(7)は、画素数が多い高精度のものが、量産により安価に販売されており、そのような一般的なものが使用でき、回転位置センサ(5)も一般的なものが使用できるため、高価な特殊品が不要で、このワーク径機上計測装置(3)を安価に製造できる。
【0012】
テレセントリック光学系は、主光線が像焦点(または物体焦点)を通るように配置した光学系であるため、焦点合わせの誤差によって結像倍率に変化が生じない。そのため、前記撮影手段(7)にテレセントリック光学系を用いると、高精度に表面移動量を計測できる。
【0013】
この発明において、前記表面移動量センサ(4)の前記表面移動量計算手段(8)は、前記撮影手段(7)で一定撮影間隔毎に撮影された連続するそれぞれ2枚の画像を対比して、この2枚の画像間で移動したワーク(W)の周面の移動量である画像間表面移動量(ΔL)を求める画像処理、およびこの各画像間表面移動量(ΔL)を加算することにより、ワーク(W)の径の計算に用いる表面移動量(L)を求める加算処理を行う。前記画像処理では、与えられたワーク(W)の径(D,R)の予測値と、前記ワーク(D,R)の回転速度と、前記撮影手段(7)による撮影間隔とから求まる画像間表面移動量(ΔL)の推定移動量を用い、対比する前記2枚の画像のうち、前記推定移動量に対応する位置の近傍でのみ対比して、定められた一致度の評価値を計算することで前記画像間表面移動量(ΔL)を計測するものであっても良い。
【0014】
表面移動量計算方法として、連続する2枚の画像を対比し、一致度の評価値を計算して2枚の画像間での表面移動量を求める画像処理は、平面上の移動距離の光学的計測による計算手法として一般的に行われている。しかし、一般的に行われている手法は、画像の全域について総当たり的に対比する処理を行うため、演算量が多くて演算に時間がかかる。機上計測では、演算時間が長いと工作機械の稼働率、サイクルタイムに影響するため、演算時間を極力短くする必要がある。これにつき、上記の構成による画像処理では、与えられたワーク(W)の径(D,R)の予測値と、前記ワーク(W)の回転速度と、前記撮影手段(7)による撮影間隔とから求まる画像間表面距離の推定移動量を用い、対比する前記2枚の画像のうち、前記推定移動量に対応する位置の近傍でのみ対比するため、演算量を飛躍的に削減でき、高速に表面移動量を計算で推定することができる。すなわち、工作機械で加工されたワーク(W)は、目標の径が既知であるため、加工誤差が零である場合の、対比する2枚の画像間の表面移動量が計算できる。そのため加工誤差が零である場合の移動量を推定移動量として、この推定移動量に対応する位置の、予想される誤差分に応じた近傍でのみ対比することで、2枚の画像間での表面移動量を求めることができる。
なお、従来の2枚の画像間での表面移動量を求める一般的な画像処理は、平面上での移動量の計算であるのに対して、この発明では周面、すなわち円筒面上の移動量を求める処理となるが、撮影間隔に応じた微小距離だけ離れた画像間の計算であるため、円筒面上の移動量であっても、平面上の移動量と同様に計算することができる。この多角形の辺の和と円の周長との差は一般に非常に小さいが、この幾何学的な補正(変換)は少ない計算量で可能であり、補正してより正確に径の計測を行うこともできる。
【0015】
この発明において、前記撮影手段(7)の画像が最も鮮明になる、前記撮影手段(7)と前記ワークの表面間のギャップを求める処理であるフォーカス検知を行うフォーカス検知手段(10)、および前記画像が最も鮮明になる前記ギャップとなる位置へ前記撮影手段(7)を移動させるフォーカス調整手段(58)を設けても良い。
テレセントリック光学系を有する場合は、焦点ずれでの倍率変化は殆どないため、フォーカス検知は必ずしも必要ではない。しかし、テレセントリック光学系を用いても焦点が合わない場合は画像がぼやけるため、2枚の画像の一致度を求めて画像間表面移動量を求めるにつき、高精度に求められないことがある。フォーカス検知を行って鮮明な画像を撮影することで、より一層高精度に画像間表面移動量(ΔL)を求め、ワーク(W)の径の計算に用いる表面移動量(L)を求めることができる。
フォーカス検知は、次に説明する傾き補正に、より効果的に利用できる。また、フォーカス検知によって、撮影手段(7)とワーク(W)の表面間の画像が最も鮮明になるギャップが分かれば、そのギャップとワークの径の計測値とを用いて、工作機械の運転における種々の補正を精度良く行うことができる。
【0016】
前記フォーカス検知手段(10)は、フォーカス検知の対象とする画像につき、ワーク(W)の周方向に並ぶ複数の領域に分割して各分割画像(Fg,Ff)について前記フォーカス検知をそれぞれ行い、これら複数の分割画像(Fg,Ff)につき計測された前記ギャップの差を検出する周方向傾き誤差検出部(11)を有するものとしても良い。
前記撮影手段(7)は、その支持体への取付誤差等により、光軸(Q)がワークの直径を成す線からずれる心高誤差(Δh)、または光軸(Q)がワーク表面の被撮影面に垂直な線に対して傾く誤差により、計測誤差を生じることがある。これにつき、上記のようにフォーカス検知を、ワーク周方向に並ぶ複数の分割画像(Fg,Ff)に分割してそれぞれ行えば、これら複数の分割画像(Fg,Ff)につき計測されたギャップの差から、心高誤差または傾き誤差が生じていることが分かる。この誤差ができるだけ零になるように、撮影手段(7)の取付位置や取付角度を調整すれば、前記心高誤差,傾き誤差を無くし、または小さくすることができる。また、調整することなく、あるいは調整しても残る誤差につき、次のように補正を行うこともできる。
【0017】
すなわち、前記フォーカス検知手段(10)は、前記表面移動量計算手段(8)の計算した表面移動量につき、前記周方向傾き誤差検出部(11)が検出した前記ギャップの差によって、前記撮影手段(7)の光軸(Q)が、ワーク軸心(O)に垂直な面内で前記ワーク(W)の被撮影面に垂直でないことに起因する計測誤差を補正する誤差補正部(12)を有するものとしても良い。
前記複数の分割画像(Fg,Ff)の前記ギャップの差が分かれば、このギャップの差と、複数の分割画像の中心間距離とから、撮影手段(7)の光軸(Q)が被計測面に垂直でないことに起因する計測誤差に対して、表面移動量(L)を正しく補正することができる。
【0018】
この発明において、前記撮影手段(7)が前記加工手段(2)を構成する刃物台(15)に取付けられ、前記フォーカス検知手段(10)を設けた場合に、前記ワーク径計算手段(6)の計算したワーク(W)の径(R)と、前記フォーカス検知手段(10)がフォーカスが合うと検知したX軸位置(x1 )とを監視し、この監視したワークの径(R)とX軸位置(x1 )、および想定したワークの径(R0 )とフォーカスが合うと想定したX軸位置(x0)とから、前記ワーク(W)の軸心(O)と前記撮影手段(7)の切り込み方向の相対熱変位を監視する相対熱変位監視手段(54)と、この監視した相対熱変位を用いて前記加工手段(2)の工具移動量の熱変位補正を行う熱変位補正手段(55)を設けても良い。上記の想定したワークの径(R0 )は、目標寸法であって既知である。フォーカスが合うと想定したX軸位置(x0)は、ワークの径の目標寸法と、撮影手段(7)が有する固有の焦点距離とによって定まる値であり、既知である。フォーカス検知手段(10)がフォーカスが合うと検知したX軸位置(x1 )は、フォーカス検知により得た画像が最も鮮明になる位置である。なお、X軸位置(x1)の監視は、例えば、X軸サーボモータ(37)に設けられたエンコーダ等の位置検出器の検出値を監視することで行う。
【0019】
前記ワーク径計算手段(6)の計算した加工済みのワーク(W)の径(R)と、目標径である想定したワークの径(R0 )との誤差には、加工時における熱変位(ΔT)と、加工力による工具−ワーク間の相対変位および摩耗による刃先後退量の和(ΔF)が含まれる。しかし、前記撮影手段(7)が刃物台(15)に取付けられていると、フォーカス検知手段(10)がフォーカスが合うと検知したX軸位置(x1 )とフォーカスが合うと想定したX軸位置(x0)との誤差は、前記刃先後退量の和となり、熱変位は含まない。(加工と測定の間の時間は十分に短くすることができ、その間の熱変位の変化は無視することができるものとする。)
すなわち、主軸(1)に対して熱変位を生じた刃物台(15)に撮影手段(7)が載っているため、フォーカスが合うと検知したX軸位置(x1 )の値は、熱変位(ΔT)を含まない値として検知される。前記撮影手段(7)による撮影時には工具(16)の刃先がワーク(W)に接していないため、工具−ワーク間変位や摩耗による誤差は発生しない。
このように、計算したワーク(W)の径(R)と想定したワークの径(R0 )との誤差(R −R0)には熱変位(ΔT)と刃先後退量の和(ΔF)とが含まれるが、フォーカスが合うと検知したX軸位置(x1 )と想定したX軸位置(x0)との誤差(x1 −x0)の値は熱変位は含まない値であるため、両者の差(x1 −x0)−(R −R0)を取ることで、前記切り込み方向の相対熱変位(ΔT)が求められる。前記相対熱変位監視手段(54)は、この計算を行う。(なお、参照符号は、簡明のために半径値で示した場合につき付したが、直径値で計算しても良い。)
これにより、旋盤等の工作機械にとって最も重要な切込み方向の相対熱変位(ΔT)を監視することも可能となる。この監視により、旋削加工において最も重要なワーク(W)の径について、長時間の電源オフ時からの運転開始等にも、暖気運転等の無駄を省き、常に計測精度に近い加工精度まで補正することが可能となる。
熱変位補正は、フォーカス検知で得られる値を用いずに、ワーク(W)の径(D,R)の計測値のみからでも行うこともできるが、前記撮影手段(7)が刃物台(15)に取付けられている場合、前記フォーカス検知で得られる値を用いることで、ワーク(W)の径(D,R)を求めるために計測したときの撮影手段(7)の位置となる刃物台(15)の位置が精度良く分かる。そのため、前記ギャップを用いることで、より一層精度良く補正することができる。
【0020】
この発明において、前記撮影手段(7)が前記加工手段(2)を構成する刃物台(15)に取付けられ、前記フォーカス検知手段(10)を設けた場合に、前記フォーカス検知手段(10)がフォーカスが合うと検知したX軸位置(x1 )を監視し、この監視したX軸位置(x1)、およびフォーカスが合うと想定したX軸位置(x0 )を用い、熱変位を除いた加工力による相対変位と、摩耗による刃先後退量の和(ΔF)を求める力学的相対変位監視手段(56)を設けても良い。上記の加工力による相対変位は、工具(16)がワーク(W)に押し付けられることによる工具(16)とワーク(W)、および工作機械の各部の変形による相対変位である。
上述のように、撮影手段(7)による撮影時には工具(16)の刃先がワーク(W)に接していないため、工具(16)の変形や摩耗による誤差は発生しない。撮影手段(7)が刃物台(15)に取付けられていると、フォーカス検知手段(10)がフォーカスが合うと検知したX軸位置(x1 )とフォーカスが合うと想定したX軸位置(x0)との誤差は、熱変位は含まず、前記刃先後退量の和(ΔF)となる。力学的相対変位監視手段(56)は、このような計算により、熱変位を除いた加工力による相対変位と、摩耗による刃先後退量の和(ΔF)を求める。
【0021】
なお、刃先後退量の和(ΔF)には、加工力による相対変位と、摩耗による刃先後退量とが含まれるが、摩耗による刃先後退量は加工時間によって次第に大きくなるのに対して、加工力による相対変位は、刃先の摩耗に伴う変化を除いて経時的な変化がない。そのため、刃先後退量の和(ΔF)の変化を時間軸上で統計的に処理することにより、加工力による変位と、摩耗による刃先後退量とを分離して検出することが可能である(単に、新しい工具に交換した時点からの差分を刃先後退量としてもよい)。力学的相対変位監視手段(56)は、このような処理で加工力による相対変位と、摩耗による刃先後退量とを分離して検出する機能を有するものとしても良い。
なお、加工する前に、チャック部分や加工する前のワークを測定すると、その直径にはあまり意味がない(加工前のワーク径を知ることもできる)が、その際に求められる熱変位分を補正すると一つ目のワークから加工精度が高まる。
また、同じワークを量産し続ける場合、2つ目のワークからは、ワーク径のみを用いて補正すれば、すべてが補正されて加工精度が高まる。しかし、この加工誤差=補正すべき量は、熱変位だけによって生じるのではなく、ワーク・工具・工作機械構造の変形、工具の刃先位置の設定誤差や摩耗による後退、サーボの位置決め誤差などが積み重なって生じる。従って、異なる加工条件で加工力が変わったり、ワーク形状が変わったり、使用する工具が変わったり、加工位置が変わったりすると、熱変位以外は大きく変わる可能性がある。しかし、熱変位は短時間ではあまり変化しないため、前回と異なる加工をする際には、前回の加工のワーク径の誤差を用いるのではなく、熱変位分のみを補正する方が適切となる。以上のように、最初の一つ目の加工の際、あるいは加工条件などが変わる際などに熱変位補正が有効になる。
【0022】
この発明において、前記ワーク径機上計測装置(3)による計測とフォーカス検知を、前記ワーク(W)の軸方向の複数箇所で行わせ、これら複数箇所のワーク(W)の径とフォーカスが合うと検知したX軸位置(x1 )から、刃物台(15)に対するワーク(W)または主軸の中心の位置と傾き成分、およびワークのたわみ成分を検出する多点計測手段(57)を設けても良い。
工作機械の持つ組立誤差や熱変形等で加工手段(2)における主軸軸心方向(Z軸方向)の案内が微妙に斜めになっている場合があるが、多点計測によりワーク(W)または主軸の中心の位置と傾き成分、およびワークのたわみ成分を検出することで、前記組立誤差や熱変形等に対して、Z軸送りの動作に切込み方向の動作を加えるなどして補正を行い、高精度に加工することができる。
【0023】
この発明において、前記撮影手段(7)は、前記加工手段(2)を構成する刃物台(15)が有する複数の工具ステーション(15a)の一つに取付けても良い。
このように刃物台(15)に撮影手段(7)を取付けることで、刃物台(15)を移動させる機構を利用して、前記撮影手段(7)をワークに対して計測のために近づけたり退避させたりする相対移動を行わせることができる。特に、工具ステーション(15a)の一つに取付けた場合は、工具(16)で加工する場合と類似の動作や制御によって計測が行える。また、熱変位補正を行う際に、工具ステーションの熱変位も含めて補正することができる。このように刃物台に撮影手段(7)を取付ける場合に、従来のタッチセンサによる直径方向両端の2点計測では、ワーク(W)の軸心(O)を横切ることができず、適用できる工作機械の仕様が制限されるが、この発明は表面移動量(L)の検出によるため、ワーク(W)の加工箇所と反対側を計測する必要がなくて、適用できる工作機械の仕様の制限が無くなる。
【0024】
前記撮影手段(7)は、前記加工手段を構成する刃物台における工具が取付けられた工具ステーションに、加工時にワークの加工している周面を撮影可能に取付けても良い。
このように、加工する工具と同じ工具ステーションに撮影手段(7)が取付けられていると、加工しながら、その加工のための工具の移動を利用して撮影手段(7)による撮影が行え、加工中にワークの径の計測が行える。そのため、専用の計測サイクルが不要となり、稼働率が向上する。また、リアルタイムで補正が可能となるため、次のワークの加工に補正を加えるのではなく、加工中のワークの径を補正することが可能となる(短い時間遅れは伴う)。
【0025】
なお、前記撮影手段(7)は、必ずしも刃物台(15)に取付けなくても良く、例えば、工作機械のベッド(31)やフレーム上に設置された計測専用の可動台等に設置しても良い。
【発明の効果】
【0026】
この発明のワーク径計測機能付き工作機械は、ワークを支持して回転させる主軸と、この主軸で支持されたワークの周面を加工する加工手段と、前記主軸に支持された前記ワークの径を計測するワーク径機上計測装置とを備え、前記ワーク径機上計測装置は、前記主軸に支持されたワークのワーク径計測対象部における周面の主軸回転による表面移動量を計測する表面移動量センサと、前記ワークの回転角を検出する回転位置センサと、前記表面移動量センサで計測された表面移動量を、この計測の間に前記回転位置センサで計測された回転角で除することによってワークの径を計算するワーク径計算手段とを備え、前記表面移動量センサは、前記ワークの表面を撮影する撮影手段と、撮影された画像を処理して表面移動量を計算する表面移動量計算手段とでなるため、ワーク径機上計測装置の設置上の自由度が高く、工作機械の形式を選ばずに設置でき、かつ機上で精度良く、短時間でワーク径が計測でき、また一般的な機器で構成できて低コストで製作できる。
【0027】
この発明において、前記撮影手段にテレセントリック光学系を用いた場合は、焦点合わせの誤差によって結像倍率に変化が生じず、高精度に表面移動量を計測できる。
この発明において、ワークの径の予測値、回転速度、撮影間隔から求まる画像間表面移動量の推定移動量を用い、対比する2枚の画像のうち、推定移動量に対応する位置の近傍でのみ対比するようにした場合は、工作機械の特徴を利用して少ない計算量で精度良くワークの径を計測することができる。
この発明において、フォーカス検知を行うようにした場合は、鮮明な画像を得て、ワークの径をより精度良く計測できる。
この発明において、画像をワークの周方向に並ぶ複数の領域に分割してフォーカス検知をそれぞれ行うようにした場合は、撮影手段の光軸が被撮影面に対して傾きを生じる取付誤差に対して、その傾き誤差の検出が行える。
その誤差の誤差補正部を設けた場合は、傾き誤差を補正してワークの径をより一層精度良く加工することができる。
計測したワークの径とフォーカス検知のギャップとを監視する相対変位監視手段、およびその熱変位補正手段を設けた場合は、ワーク径の計測を利用して、熱変位補正を精度良く行うことができる。
前記ワーク径機上計測装置による計測とフォーカス検知を、前記ワークの軸方向の複数箇所で行わせ、これら複数箇所のワークの径とギャップの計測値から、ワークまたは主軸の中心の位置と傾き成分、およびワークのたわみ成分を検出する多点計測手段を設けた場合は、ワークまたは主軸の中心の位置と傾き成分、およびワークのたわみ成分を検出して、加工時の工具移動の補正を行うことができる。
前記撮影手段を刃物台の工具ステーションの一つに取付けた場合は、刃物台の動きを利用して撮影手段の動作が可能となる。
刃物台の同じ工具ステーションに工具と前記撮影手段を取付けた場合は、加工を行いながら計測することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
この発明の実施形態を図面と共に説明する。このワーク径計測機能付き工作機械は、ワークWを支持して回転させる主軸1と、この主軸1で支持されたワークWの周面を加工する加工手段2とを備えた旋盤等の工作機械において、主軸1に支持されたワークWの径を計測するワーク径機上計測装置3を設けて構成される。計測するワークWの径は、直径であっても半径であっても良い。また、計測するワークWの径は、図示の例ではワークWの外周面の径であるが、内周面の径の計測にも適用できる。
【0030】
ワーク径機上計測装置3は、ワークWの周面の主軸回転による表面移動量を計測する表面移動量センサ4と、ワークWの回転角を検出する回転位置センサ5と、表面移動量センサ4で計測された表面移動量を、この表面移動量の計測の間に前記回転位置センサ5で計測された回転角で除することによってワークWの径を計算するワーク径計算手段6とを備える。表面移動量センサ4は、ワークの表面を撮影する撮影手段7と、撮影された画像を処理して表面移動量を計算する表面移動量計算手段8とでなる。
【0031】
図4,
図5は、この工作機械における工作機械本体30の正面図および平面図をそれぞれ示す。工作機械は、工作機械本体30と、工作機械本体30を制御する制御装置50とからなる。工作機械本体30はタレット型の旋盤からなる。ベッド31上に主軸台32を介して前記主軸1が支持され、主軸1の主軸頭に、ワークWを把持するチャック14が設けられている。主軸1は、サーボモータ等からなる主軸モータ33に直結され、または伝達機構(図示せず)を介して連結され、回転駆動される。主軸モータ33に、前記回転位置センサ5が設けられている。回転位置センサ5は、光学式のロータリエンコーダ等からなる。回転位置センサ5は、主軸1に対して直接に設けても良い。
【0032】
加工手段2は、刃物台15と、この刃物台に取付けられた工具16とでなる。刃物台15は、正面形状が多角形状のタレット型であり、外周の各平面部分からなる各工具ステーション15aに工具16が取付けられる。工具16は、バイト16aとこのバイト16aを保持したバイトホルダ16bとでなる。各工具ステーション15aに取付けられる工具16のうちのいずれかは、ドリル等の回転工具であっても良い。刃物台15の工具ステーション15aの一つに、工具16に代えて前記撮影手段7が取付けられる。撮影手段7は、撮影手段支持部材17を介して工具ステーション15aに取付けられる。なお、各図において、工具16は一部のものだけを図示し、残りのものは図示を省略している。
【0033】
上記タレット型の刃物台15は、送り台34の上側送り台部34bに、タレット軸35を介して割出回転可能に搭載されている。送り台34は、送り台ベース34aと上側送り台部34bとからなり、送り台ベース34aは、ベッド31上にX軸案内36を介して、主軸軸心方向(Z軸方向)と直交する水平方向(X軸方向)に進退自在に設置されている。なお、X軸およびZ軸に直交する方向がY軸方向である。上側送り台部34bは、送り台ベース34a上にZ軸案内(図示せず)を介して主軸軸心方向(Z軸方向)に進退自在に搭載されている。送り台ベース34aはX軸サーボモータ37により、送りねじ機構38を介して進退駆動される。上側送り台部34bは、Z軸サーボモータ39により、送りねじ機構40を介して進退駆動される。これら送り台ベース34aおよび上側送り台部34bの進退移動により、刃物台15が直交2軸方向に移動する。また、上側送り台部34bに搭載された割出用モータ41により、刃物台15の旋回割出が行われる。
【0034】
図3は、工作機械の制御系およびワーク径機上計測装置3の概念構成を示す。工作機械制御装置50は、工作機械本体30の全体を制御する装置であり、コンピュータ式の数値制御装置およびプログラマブルコントローラからなる。工作機械制御装置50は、CPU(中央処理装置)およびメモリ等で構成される演算制御部51と、記憶装置(図示せず)とを有し、制御プログラム52を演算制御部51で実行して工作機械本体30の各部の制御を行う。
【0035】
この構成の工作機械において、前記ワーク径機上計測装置3の一部としてセンサ側処理手段9が設けられ、かつこのワーク径機上計測装置3の計測結果を利用し、または動作させる手段として、機械側処理手段53が設けられている。撮影手段7を工具16に変えて主軸1に対向させるように刃物台15を割り出す制御、および撮影手段7をワークWに対して移動させる制御は、例えば制御プログラム52に計測用のサブプログラム等として設けておく。センサ側処理手段9は、工作機械制御装置50とは独立して設けられたマイクロコンピュータ等の演算処理装置に設けられものであっても、また工作機械制御装置50と同じコンピュータや同じ回路基盤上に設けられたものであっても良い。機械側処理手段53は、図示の例では工作機械制御装置50の一部として設けられた例を示しているが、その一部が工作機械制御装置50とは独立して設けられていても良い。
【0036】
センサ側処理手段9に、前記ワーク径計算手段6と、表面移動量演算手段8とが設けられ、さらにフォーカス検知手段10が設けられている。フォーカス検知手段10は、後に説明する周方向傾き誤差検出部11、誤差補正部12、および長さ方向傾き誤差検出部13を有している。
機械側処理手段53には、後に説明するフォーカス調整手段58、相対変位監視手段54、熱変位補正手段55、力学的相対変位監視手段56、および多点計測手段57が設けられている。
【0037】
ワーク径機上計測装置3の各部につき、具体的に説明する。ワーク径計算手段6は、
図6に概念を示すように、表面移動量センサ4で計測された表面移動量Lを、この計測の間に前記回転位置センサ5で計測された回転角θで除することによってワークWの半径Rを計算する。計測値として直径Dを出力する場合は、計算された半径の2倍の値を出力する。表面移動量を計測する回転角θは、360°未満でも可能であるが、360°以上、例えば360°の整数倍とすることが、精度確保の上で好ましい。
【0038】
撮影手段7は、CCDカメラ等の、撮影した画像のデータを縦横のマトリクス状に並ぶピクセルのデータとして出力するカメラであって、撮影する画像を拡大する光学系を内蔵している。撮影手段7の光学系は、被撮影面に対する位置が焦点位置から前後しても、一定した倍率の画像が得られる光学系が望ましく、テレセントリック系の光学系が用いられている。撮影手段7は、光軸QがワークWの軸心、すなわち主軸1の軸心Oと直交するX軸方向となるように、刃物台15(
図1)に設置する。
【0039】
撮影手段7の付近または中には、撮影する面を照らす照明具60(
図1(B))を設ける。照明具60の照明光は、レーザ光とすることが、撮影される画像に特徴のある模様(スペックルパターン)が生じやすいことから好ましい。照明具60は、撮影手段支持部材17に取付けても良く、また撮影手段7であるカメラに取付けても良い。照明具60の照射方向は、撮影手段7の光軸に対して斜め方向または平行方向(一致も含む)とする。レーザ光を照明することにより、スペックルパターンが生じて、撮影する面が表面粗さの小さい平滑面であっても、表面移動量を求めるための画像処理に必要な表面各部の性状の違いが認識できる画像として撮影できる。撮影手段7と照明具60とを並べる方向は、Y軸方向としても、またZ軸方向としても、その間としても、あるいは並べずに撮影手段の中を通して光を照射しても良い。
【0040】
表面移動量演算手段8は、概略を説明すれば、撮影手段7で一定撮影間隔毎に撮影された、例えば
図8のように連続する2枚の画像G1,G2を対比して、この2枚の画像G1,G2間の画像間表面移動量ΔLを求める画像処理と、この各画像間表面移動量ΔLを加算することにより、ワークWの径の計算に用いる表面移動量Lを求める加算処理とでなる。
【0041】
図8は概念的な説明図であるが、上記のようにレーザ光を照明すると、ワーク表面が平滑な面であっても、微細な違いが撮影され、画像G1,G2中に特徴部分Ga〜Gcが現れる。この特徴部分Ga〜Gcの移動を検出することによって、画像間での被撮影面の移動距離である画像間表面移動量ΔLが分かる。なお、実際には画像の特徴部分は画像の全体に無数に生じる。同図において、1点鎖線で示す範囲は、ワーク表面の同じエリアを示す。画像G2に破線で付した範囲は、同画像G2上に1点鎖線で示したエリアの移動前の位置を示す。
【0042】
具体的には
図7(A)に、符号<1>,<2>,<3>で画像を撮影順に示すように、例えば、常に、一つ前の画像と約半分、同じ範囲を撮影する。同図において、同じハッチングで示す範囲が、同じ範囲となる画像部分である。なお、例えば3分の2を重ねれば、半分に比べて能率は悪くなるが精度は向上する。ワークの直径Dの予測値は、加工仕上がり寸法として既知であるから、そのワーク径の予測値と回転速度とから、一つ前の画像と約半分が同じ範囲となる撮影間隔が求まり、その撮影間隔で撮影すれば良い。撮影装置7の撮影間隔に応じて、ワーク回転速度を調整して、約半分の画像が同じ範囲となるようにしても良い。ワーク径計算手段6によるワーク径の予測値の認識については、入力操作手段(図示せず)から入力しても、制御プログラム52から取り込むようにしても良い。
【0043】
このように撮影した移動前後の各2枚の画像の間で、その同じ範囲とした移動前後の画像部分(それぞれ参照画像g,対象画像fと称す)の比較を行う。同図(B)のように、移動後の画像である対象画像fについては、例えば予想される誤差分となる周囲の数ピクセル分を除いた対象画像f′を生成する(なお、予想される誤差分は、ワークWの周方向については主に後述の推定移動量に対する誤差分である。ワークWの長さ方向についての予想される誤差分は、撮影装置の光軸回りの取り付け誤差で生じる誤差分であり、極僅かであるため、1ピクセル程度、または零としても良い)。この対象画像f′を、移動前の参照画像g上で、微小距離ずつ、例えば1ピクセル分ずつ移動させ、各移動時の参照画像gに対する対象画像f′の一致度を、定められた一致度評価値により求める。このようにして、評価値の行列(1方向に求める場合はベクトル)を求める。この一致評価値のピークを検出し、ピークとなるときの画像移動量を算出する。画像の1ピクセルと実際の被撮影面の寸法関係は既知であるので、画像移動量からワークWの表面移動量が求まる。さらに、1ピクセル以下の高分解能で移動量を算出する場合には、後述するように、ピークとなる位置を中心として1ピクセルずつ移動した近傍位置での評価値も利用して補間することができる。
【0044】
なお、撮影手段7による撮影は、被写体に対する画像の倍率が一定となるように行う必要があるが、前記のようにテレセントリック系等の光学系を用いているため、撮影手段7のワークWの表面に対する位置が焦点位置から多少ずれても一定の倍率で撮影できる。テレセントリック光学系は、主光線が像焦点(または物体焦点)を通るように配置した光学系であるため、焦点合わせの誤差によって結像倍率に変化が生じない。そのため、撮影手段7にテレセントリック光学系を用いると、高精度に表面移動量を計測できる。なお、一定の倍率で撮影できる高精度の焦点調整手段、または画像処理の補正手段等を用いれば、必ずしもテレセントリック光学系を用いなくても良い。
【0045】
画像一致度の評価値としては、輝度差の絶対値の総和R
SAD(SAD:Sum of Absolute Difference)、または輝度差の2乗の総和R
SSD(SSD:Sum of Squared Difference )、または相互相関係数R
CC(CC:Correlation Coefficient )が採用できる。
R
SAD 、R
SSD 、R
CCは、それぞれ次式の値である。
【0047】
上式において、f(i,j)は、対象画像fのi列,j行のピクセルの輝度、g(i,j)は、参照画像gのi列,j行のピクセルの輝度である。
【0048】
なお、評価値の補間方法としては、折れ線(1次)近似による方法、放物線(2次)近似による方法、および4次方程式による方法等が採用できる。折れ線近似による方法は、複数の評価値を折れ線で繋いでその折れ線上で補間する値を求める方法である。放物線近似による方法は、3点の評価値を繋ぐ放物線上で、または4点以上の評価値に最もフィットする放物線を最小二乗法により求めその上で補間する値を求める方法である。4次方程式による方法は、同様に5点以上の評価により4次多項式を求め、その4次多項式の極大値をとる座標を補間による推定値とする方法である。
【0049】
図9は実験・計算例を示す。同図(A)は移動前の画像を、同図(B)は下へ150μm移動させた移動後の画像を示す。同図(C)は画像処理の結果の例であり、評価値は上記輝度差の絶対値の総和R
SAD である。
同図(C)に示すように、ピークが顕著に表れており、画像が一致する移動量が明確に分かる。
【0050】
図9は、撮影した前後の画像のうちの同じ撮影範囲の全てのデータを用いて計算した例であるが、ワーク径の予測値が既知であり、画像の移動量が予測できるため、実際にはこのようにx,y方向に大きな範囲で走査して多くの評価値を求める必要はなく、
図7と共に前述したように、加工誤差が予想される数ピクセルの範囲内でのみ評価値を算出すれば良い。
すなわち、入力されたワークの径の予測値と、前記ワークの回転速度と、前記撮影手段7による撮影間隔とから求まる画像間表面移動量の推定移動量を用い、対比する前記2枚の画像のうち、前記推定移動量に対応する位置の近傍でのみ対比して、定められた一致度の評価値を計算することで前記画像間表面移動量ΔLを計測する。
【0051】
次に、フォーカス検知手段10(
図3)によるギャップ計測につき説明する。
図10に示すように、撮影手段7をワークWの撮影ポイントWpの被撮影面に対して遠近移動させたときに、撮影手段7と被撮影面との間のギャップHの変化によって、撮影手段7の撮影した画像がぼやけたり、鮮明になったりする。鮮明の程度によって各画素間の濃度変化値が変わる。
【0052】
フォーカス検知手段10は、刃物台15のX軸方向移動により撮影手段3をワークWの被撮影面に近づけたときの、このような濃度変化値の変化をフォーカス検知部10aにより検出し、最も濃度変化値の高い位置を計測する。
【0053】
図11は、試験装置(図示せず)よる試験例の画像を示す。この試験では撮影対象物の被撮影面が平面であるが、被撮影面に垂直な方向をZ軸方向としている。この試験例では、同図(A)の焦点が合った位置(Z軸の値が0μm)から、同図(B)のように6μm離れると画像がぼやけ、同図(C)のように8μm離れると、画像が全く不鮮明となる。このように、ギャップによって画像の濃度変化に変化が生じる。この濃度変化は、濃度値の微分(差分)で検出することができる。
【0054】
このフォーカス検知の処理方法と計算例を、
図12と共に説明する。同図(A)に示した3つの撮影画像は、焦点があった画像GA(左の画像)、焦点が少しずれた画像GB(中央の画像)、焦点がずれた画像GC(右の画像)である。各画像GA,GB,GCの濃度は、同図(B)に示すように焦点があった画像GAでは濃度変化が大きく、焦点がずれるほど濃度変化が小さい。濃度変化は、同図(C)に示すような分布となり、その平均値は焦点がずれるほど小さくなる。この濃度変化の平均(濃度変化率)を評価値として、被撮影面と撮影手段7とのギャップの値(移動距離)で示すと、同図(D)の濃度変化率曲線のようにピークを示す。このピークを示すギャップの値が焦点距離、すなわち最も画像が鮮明となるギャップとなる。
【0055】
同図の処理方法は、次式による焦点検出の評価値R
AAD の計算で行える。
【数2】
【0056】
上記焦点検出の評価値RAAD (
図12(D)では濃度変化率)は、横i番目、縦j番目のピクセルの濃淡値f(i,j)の隣との差分を全ピクセルで平均したものである。この他の方法として、フーリエ変換を利用しても良い。
【0057】
フォーカス検知部10a(
図3)は、具体的には、上記の焦点検出の評価値RAAD を求める処理によって、焦点位置となるギャップを検知する。
【0058】
図3のフォーカス調整手段58は、刃物台15のX方向移動によって撮影手段3をワークWに近づけるときに、目標位置(焦点が合うとして設定した位置)に達する手前の検出開始位置から、フォーカス検知手段10が出力する焦点検出の評価値を監視し、評価値が下がり始めると近づけ動作を止め、その位置で、または評価値が最も高い位置に戻して撮影手段3による撮影を開始させる。すなわち、目標位置の手前から焦点検出の評価値を監視すると、次第に評価値が高くなり、焦点位置で評価値が最も高くなり、焦点位置を過ぎると評価値が下がるので、その焦点位置または焦点位置付近で撮影手段3を位置させて撮影を行う。目標位置からどの程度手前となる位置から焦点検出の評価値を監視するかは、工作機械の精度等に応じて適宜定める。
【0059】
周方向傾き誤差検出部11(
図3)につき説明する。周方向傾き誤差検出部11は、撮影手段17の光軸Qが、ワーク軸心O(Z軸)に垂直な面内で、ワークWの被撮影面に対し垂直でない誤差を検出する手段である。光軸Qが、ワーク軸心O(Z軸)に垂直な面内で、ワークWの被撮影面に対して傾く形態として、
図15(A),(B)に示す2つの形態がある。同図(A)は、撮影手段17の光軸QがY軸方向にずれる心高誤差を生じている場合であり、この場合は、心高の誤差Δhによって、撮影ポイントの被撮影面が傾くことになる。同図(B)は、被撮影面の心高は正しいが、光軸Qが傾いている場合である。これら
図15(A),(B)の2つの形態が複合して生じる場合もある。
【0060】
周方向傾き誤差検出部11は、上記のような傾きを検出する処理として、
図13に示すように、フォーカス検知の対象とする画像Fにつき、ワーク径方向に並ぶ2つの領域の分割画像に分割して、それぞれ焦点検出(ギャップ計測)を行い、各分割画像Fg,Ff毎の焦点位置(ギャップ)を出力する。2つの分割画像Fg,Ffは、撮影した全体画像Fに対して、同図のように残り部分Fcが生じるように分割しても良い。2つの分割画像Fg,Ffに分割するについては、例えば
図7と共に前述した一つ前の画像と約半分を同じ範囲として撮影するように分割した領域を利用しても良く、さらに3つ以上の分割画像を利用しても良い。
【0061】
この周方向傾き誤差検出部11の検出した2つの領域の焦点距離(ギャップ)は、例えば工作機械の操作盤(図示せず)の表示装置の画面に出力しても良い。その場合、2つのギャップが等しくなるように、撮影手段7の心高、または取付角度、またはその両方を調整し、その後の表面移動距離の計測のための撮影を傾きなく行うことができる。
【0062】
誤差補正部12は、周方向傾き誤差検出部11の検出した2つの分割画像Fg,Ffのギャップの差g
d (
図14)と、2つの分割画像Fg,Ffの中心間距離l
C を用い、表面移動計測値を、次式により補正する。
【0064】
図14と共に説明すると、仮に撮影手段7の光軸方向Qに垂直な方向の移動量を2つの分割画像の中心間距離lcとすれば、これが画像から計測される移動量であるが、本当(接線方向)の移動量は、同図の傾いた辺の移動量であり、√(gd
2 +lc
2 )となる。撮影間隔が異なり実際の移動量がlcでない場合であっても補正の比率は同じであるため、上記の式のように、補正することで、正しい表面移動量Lが求められる。
なお、誤差補正部12は、表面移動量Lの補正の機能に加え、この実施形態では、フォーカス調整手段58による撮影手段7の位置の調整や後述の熱変位補正などに用いるギャップの値を補正する機能を有するものとしている。
後述の熱変位補正などの補正に用いるX方向相対熱変位は、主軸の軸心と刃物台との間の相対的なX方向の変位であり、次式による計算で求められる。
X方向相対熱変位ΔT=フォーカス時のX軸値の誤差(x1 −x0)−ワーク半径測定値の誤差(R −R0)
ここで、X方向相対熱変位は主軸とタレットが離れる向きを正としている。このX方向相対熱変位の分、X軸指令値を補正する(減らす)ことで、初めて加工するワークや、ワークの形状が変更される場合、休憩などの機械停止の後に、より高精度で加工が可能になる。
【0065】
上記の傾き誤差は、ワーク軸心(Z軸)に垂直な面内での傾き誤差であるが、撮影手段7の光軸Qがワーク軸心に垂直な面に対して傾いている場合がある。すなわち、光軸QがワークWの長さ方向に傾いていることがある。前述のワーク軸心(Z軸)に垂直な面内での傾きはワーク断面の円上での傾きのために、心高の誤差も生じ、僅かな取付誤差であっても被撮影面に対する光軸Qの角度の誤差が大きくなるのに対し、ワーク長さ方向に対する傾きは取付誤差の影響が小さい。しかし、ワーク長さ方向に対する傾きについても誤差を減らすように調整すると、より精度良く移動量が求められる。
【0066】
図3の長さ方向傾き誤差検出部13は、このようなワーク長さ方向に対する光軸Qの傾きによる誤差を検出する手段である。この長さ方向傾き誤差検出部13は、具体的には、
図17に示すように、撮影した画像Fを、ワークWの長さ方向(Z軸方向)に並ぶ2つの領域の分割画像Fg,Ffに分割し、それぞれの分割画像Fg,Ffのギャップを出力する。各分割画像Fg,Ffのギャップは、上記と同様に操作盤の表示装置の画面に出力しても良い。両分割画像Fg,Ffのギャップが等しくなるように、撮影手段7の取付角度を調整すれば、長さ方向の光軸Qの傾きを無くせる。
【0067】
図3の工作機械制御装置50における相対熱変位監視手段54は、前記ワーク径計算手段6の計算したワークWの径Rと、前記フォーカス検知手段10がフォーカスが合うと検知したX軸位置x1 (
図17)とを監視し、この監視したワークの径RとX軸位置x1 、および想定したワークの径R0 とフォーカスが合うと想定したX軸位置x0 とから、前記ワークWの軸心Oと前記撮影手段7の切り込み方向Xの相対熱変位(工作機械の主軸の軸心と刃物台の間の相対熱変位に概ね一致する)ΔTを監視する。X軸位置x1の監視は、例えば、X軸サーボモータ37に設けられたエンコーダ等の位置検出器の検出値を監視することで行う。
熱変位補正手段55は、相対熱変位監視手段54でこの監視した相対熱変位を用いて前記加工手段2の工具移動量の熱変位補正を行う。具体的には、熱変位補正手段55は、制御プログラム52を実行して刃物台15を切込み方向(X軸方向)へ移動させるX軸制御部51aにおいて、熱変位補正を行う。
【0068】
力学的相対変位監視手段56は、前記フォーカス検知手段10がフォーカスが合うと検知したX軸位置x1 を監視し、この監視したX軸位置x1、およびフォーカスが合うと想定したX軸位置x0 を用い、熱変位を除いた加工力による変位と、摩耗による刃先後退量(刃先位置の設定誤差を含む)の和ΔFを求める。
【0069】
図17と共に、前記相対熱変位監視手段54および力学的相対変位監視手段56の行う処理を説明する。同図では、主軸1と刃物台15との相対変位となる熱変位を、計測時の主軸1の軸心Oが、理想時(熱変位が生じていない状態)の主軸軸心O
0 に対して変位した図として示している。換言すれば、同図は刃物台15の位置を基準として主軸の熱変位を示している。計測時は、ワークWの加工の直後であり、工作機械の温度変化は緩やかであるため、計測時と加工時との熱変位は同じとして考える。同図において、ハッチングを付した部分は、理想時のワークWの形状を示す。
同図からわかるように、計算したワークの径Rには、熱変位ΔTと、刃先後退量の和ΔF(加工力による工具−ワーク間の相対変位および摩耗による刃先後退量)が含まれる。計測時にフォーカス検知手段10がフォーカスが合うと検知したX軸位置x1 は、計測時のワークWの表面から、フォーカスが合うギャップH0だけ離れた位置である。この検知したX軸位置x1 の値には、前記撮影手段7が刃物台15に取付けられているため、熱変位ΔTが含まれない。
一方、撮影手段7による撮影時には工具16の刃先がワークWに接していないため、加工力による工具16の変位(ワークに対する相対的なもの)や工具の摩耗による誤差は発生しない。そのため、フォーカスが合うと検知したX軸位置x1 とフォーカスが合うと想定したX軸位置x0 との誤差(x0 −x1)は、前記刃先後退量の和となり、熱変位は含まない。
上記の想定したワークWの径R0 は、目標寸法であって既知である。フォーカスが合うと想定したX軸位置x0 は、ワークWの径の目標寸法R0 と、フォーカスが合うギャップH0 を加算した値であり、このギャップH0 は、撮影手段7が持つ焦点距離によって定まる値であり、一定であって、既知である。例えば、ギャップH0 は、工作機械の実使用よりも前に試験等によって検出した値を記憶して用いる。
【0070】
上述のように、計算したワークWの径Rと想定したワークWの径R0 との誤差(R0 −R)には熱変位(ΔT)と刃先後退量の和(ΔF)とが含まれるが、フォーカスが合うと検知したX軸位置x1 と想定したX軸位置x0 との誤差(x0 −x1)の値は熱変位を含まない値である。したがって、両誤差の差(R0 −R)−(x0 −x1)を取ることで、前記切り込み方向Xの相対熱変位ΔTが求められる。前記相対熱変位監視手段54は、この計算を行う。なお、ここでは半径値で計算した場合につき付したが、直径値で計算しても良い。
【0071】
このように、旋盤等の工作機械で最も重要となるX軸方向の相対熱変位ΔTを監視し、熱変位補正することで、旋削加工において最も重要となる直径について、暖気運転等の無駄を省き、常に計測精度に近い加工精度まで補正することが可能となる。
熱変位補正は、フォーカス検知で得られる値を用いずに、ワークWの径D,Rの計測値のみからでも行うこともできる(この場合には熱変位のみならず、加工力による変形や工具刃先位置後退量(設定誤差を含む)も同時に補正される)が、前記撮影手段7が刃物台15に取付けられている場合、前記フォーカス検知で得られる値を用いることで、ワークWの径D,Rを求めるために計測したときの撮影手段7の位置となる刃物台15の位置が精度良く分かる。そのため、前記フォーカス検知で得られる値を用いることで、異なるワークを加工する際、加工条件や工具が変わる際にも精度よく補正することができる。
【0072】
力学的相対変位監視手段56による処理を説明する。上述のように、撮影手段7による撮影時には工具16の刃先がワークWに接していないため、加工力による工具16−ワーク間変位や工具摩耗による誤差は発生しない。撮影手段7が刃物台15に取付けられていると、フォーカス検知手段10がフォーカスが合うと検知したX軸位置x1 とフォーカスが合うと想定したX軸位置x0 との誤差は、熱変位は含まず、前記刃先後退量の和ΔFとなる。力学的相対変位監視手段56は、このような計算により、熱変位を除いた加工力による変位と、摩耗による刃先後退量の和ΔFを求める。
【0073】
なお、刃先後退量の和ΔFには、加工力による変位と、摩耗による刃先後退量(刃先位置設定誤差も含まれる)とが含まれるが、摩耗による刃先後退量は加工時間によって次第に大きくなるのに対して、加工力による変位は、刃先の摩耗に伴う変化を除いて経時的な変化がないため、刃先後退量の和ΔFの変化を時間軸上で統計的に処理することにより、加工力による変位と、摩耗による刃先後退量とを分離して検出ことが可能である。力学的相対変位監視手段56は、このような処理で加工力による変位と、摩耗による刃先後退量とを分離して検出する機能を有するものとしても良い。
【0074】
多点計測手段57は、
図18に示すように、 前記ワーク径機上計測装置3による計測とフォーカス検知を、前記ワークWの軸方向の複数の計測ポイントWpで行わせ、これら複数ポイントのワークWの径とギャップの計測値から、ワークWまたは主軸の中心の位置と傾き成分、およびワークのたわみ成分(いずれも刃物台に対する相対的な成分)を検出する。なお、この場合のギャップの計測値は、上記のフォーカスが合うと想定したX軸位置(x0 )にあるときのギャップの計測値である。
工作機械の持つ組立誤差や熱変形等で加工手段2における主軸軸心方向(Z軸方向)の案内が微妙に斜めになっている場合があるが、多点計測によりワークWまたは主軸の中心の位置と傾き成分、およびワークのたわみ成分(いずれも刃物台に対する相対的な成分)を検出することで、前記組立誤差や熱変形等に対して、Z軸送りの動作に切込み方向(x軸)の動作を加えるなどして補正を行い、高精度に加工することができる。
上記のワーク軸心と撮影手段7間の相対変位の計測をZ軸方向の複数点で行うことで、Y軸回りの回転であるB軸相対変位を監視することも可能である。この計測値を利用し、元来、その工作機械が持つ組立誤差、例えばZ軸案内のXZ平面内での傾きや、熱変形に起因してワークWの外周面の円筒形状が若干の円錐形状の成分を持つ誤差を補正することができる。この誤差補正は、例えば、刃物台15のZ軸方向の送り時に、各点の間での前記相対変位の差に応じて、切込み方向(X軸方向)の移動を与えることで行う。
【0075】
この実施形態によると、整理して示すと次の利点が得られる。
ワーク径機上計測装置3は、表面移動量センサ4と回転位置センサ5とで構成し、表面移動量センサ4は撮影手段7とその画像処理を行う表面移動量計算手段8とで構成したため、ワーク径機上計測装置3の設置上の自由度が高く、工作機械の形式を選ばずに設置でき、かつ機上で精度良く、短時間でワークWの径が計測でき、また一般的な機器で構成できて低コストで製作できる。
撮影手段7にはテレセントリック光学系を用いたため、焦点合わせの誤差によって結像倍率に変化が生じず、高精度に表面移動量を計測できる。
表面移動距離計算手段8は、ワークの径の予測値、回転速度、撮影間隔から求まる画像間表面移動量の推定移動量を用い、対比する2枚の画像のうち、推定移動量に対応する位置の近傍でのみ対比するため、工作機械の特徴を利用して少ない計算量で精度良くワーク30の径を計測することができる。
フォーカス検知手段10を設けたため、鮮明な画像を得て、ワークWの径をより精度良く計測できる。
周方向傾き誤差検出11および誤差補正部12を設け、画像をワークWの周方向に並ぶ2つの領域に分割してフォーカス検知をそれぞれ行うようにしたため、撮影手段7の光軸Qが被撮影面に対して傾きを生じる取付誤差に対して、その傾き誤差の検出が行える。この傾き誤差を補正して表面移動距離を計算するため、ワークWの径をより一層精度良く加工することができる。
計測したワークWの径とフォーカス検知のギャップとを監視する相対熱変位監視手段54、およびその監視結果を用いて補正する熱変位補正手段55を設けたため、ワークWの径の計測結果を利用して、熱変位補正を精度良く行うことができる。
力学的相対変位監視手段56を設けたため、熱変位を除いた加工力による変位と摩耗による刃先後退量の和が求められる。
計測をワークWの軸方向の複数箇所で行わせる多点計測手段57を設けたため、ワークWの円錐形状の誤差(加工形状が円柱とは限らないが、この誤差成分は必ず円錐形状)成分が生じないように、加工時の工具移動の補正を行うことができる。
前記撮影手段7は刃物台15の工具ステーション15aの一つに取付けたため、刃物台15の動きを利用して撮影手段の動作が可能となる。
【0076】
なお、上記実施形態では、刃物台15における工具ステーション15aの一つに、工具16に変えて撮影手段7を取付けたが、例えば
図19に示すように、刃物台15の同じ工具ステーション15aに、工具16と撮影手段7との両方を取付けても良い。撮影手段7は、フォーカス検知を行うようにする場合は、X軸方向に進退させる装置(図示せず)を介して設置する。
この構成の場合、加工中にワーク径の計測を行うことができ、計測サイクルを別に設けることが不要で、リアルタイムのワーク径補正による加工精度向上、工作機械の稼働時間の向上、サイクルタイムの向上が図れる。
【0077】
図20に示すように、撮影手段7は、刃物台15に設置する変わりに、計測専用の可動台59を介して、工作機械のベッド31やフレーム上等に設置しても良い。可動台59は、撮影手段7を計測時にワークWに近づけ、主軸1に対するワークWの交換時等の非計測時はワークWから退避させるようにする。