特許第5896859号(P5896859)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5896859ボイラ水のシリカ濃度推定装置、シリカ濃度調整装置、シリカ濃度推定方法、及びシリカ濃度調整方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5896859
(24)【登録日】2016年3月11日
(45)【発行日】2016年3月30日
(54)【発明の名称】ボイラ水のシリカ濃度推定装置、シリカ濃度調整装置、シリカ濃度推定方法、及びシリカ濃度調整方法
(51)【国際特許分類】
   F22B 37/38 20060101AFI20160317BHJP
   F22D 11/00 20060101ALI20160317BHJP
【FI】
   F22B37/38 E
   F22D11/00 Z
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-172078(P2012-172078)
(22)【出願日】2012年8月2日
(65)【公開番号】特開2014-31931(P2014-31931A)
(43)【公開日】2014年2月20日
【審査請求日】2015年4月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134544
【弁理士】
【氏名又は名称】森 隆一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(72)【発明者】
【氏名】濱崎 彰弘
(72)【発明者】
【氏名】木戸 遙
(72)【発明者】
【氏名】石原 伸夫
(72)【発明者】
【氏名】椿▲崎▼ 仙市
【審査官】 渡邉 洋
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−82915(JP,A)
【文献】 特開2008−64393(JP,A)
【文献】 特開平7−103404(JP,A)
【文献】 特開平9−126408(JP,A)
【文献】 特開2004−85146(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0224016(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F22B37/00−37/78
F22D11/00−11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイラと、前記ボイラで発生した蒸気を水にして前記ボイラに戻す循環ラインと、を備えるボイラプラントにおけるボイラ水のシリカ濃度推定装置において、
ボイラ内の温度を測定するボイラ水温度計と、
ボイラ内の圧力を測定するボイラ内圧力計と、
ボイラ給水速度を測定する第一流量計と、
ボイラ水のシリカ濃度を記憶するシリカ濃度記憶部と、
前記ボイラ内の温度と前記ボイラ内の圧力とから蒸気中へのシリカ溶解度を算出するシリカ溶解度算出手段と、を備え、
前記シリカ濃度記憶部に記憶された前記シリカ濃度が前記シリカ溶解度よりも大きい場合に、前記シリカ濃度に、前記シリカ濃度と前記シリカ溶解度との差分、前記ボイラ給水速度、及び前記ボイラの保有水量によって算出されるシリカ濃度増加分を加算することによって、前記シリカ濃度記憶部に記憶されたシリカ濃度を更新することを特徴とするボイラ水のシリカ濃度推定装置。
【請求項2】
前記シリカ溶解度算出手段は、蒸気へのシリカ溶解度、ボイラ内の圧力、及びボイラ内の温度の相関関係が記憶されたデータベースに基づいて回帰分析によって求められた計算式を用いてシリカ溶解度を算出することを特徴とする請求項1に記載のボイラ水のシリカ濃度推定装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のボイラ水のシリカ濃度推定装置と、
前記ボイラからボイラ水をブローするブロー手段と、
前記ブロー手段によってブローされるボイラブロー水量を測定する第二流量計と、
前記循環ラインに給水する純水装置と、
前記純水装置から供給される純水のシリカ濃度である給水シリカ濃度を測定するシリカ濃度計と、
ボイラ水をブローする制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記シリカ濃度から、前記シリカ濃度と前記給水シリカ濃度との差分、前記ボイラブロー水量、及び前記ボイラと前記循環ラインの全保有水量によって算出されるシリカ濃度減少分を減算することによって、前記シリカ濃度記憶部に記憶されたシリカ濃度を更新することを特徴とするボイラ水のシリカ濃度調整装置。
【請求項4】
ボイラと、前記ボイラで発生した蒸気を水にして前記ボイラに戻す循環ラインと、を備えるボイラプラントにおけるボイラ水のシリカ濃度推定方法において、
ボイラ内の温度、及びボイラ内の圧力を測定する工程と、
ボイラ給水速度を測定する工程と、
ボイラ水のシリカ濃度を記憶する工程と、
前記ボイラ内の温度と前記ボイラ内の圧力とから蒸気中へのシリカ溶解度を算出する工程と、
記憶された前記シリカ濃度が前記シリカ溶解度よりも大きい場合に、前記シリカ濃度に、前記シリカ濃度と前記シリカ溶解度との差分、前記ボイラ給水速度、及び前記ボイラの保有水量によって算出されるシリカ濃度増加分を加算することによって、記憶されたシリカ濃度を更新する工程と、を含むことを特徴とするボイラ水のシリカ濃度推定方法。
【請求項5】
前記シリカ溶解度は、蒸気へのシリカ溶解度、ボイラ内の圧力、及びボイラ内の温度の相関関係が記憶されたデータベースに基づいて回帰分析によって求められた計算式によって算出されることを特徴とする請求項4に記載のボイラ水のシリカ濃度推定方法。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載のボイラ水のシリカ濃度推定方法を用いてシリカ濃度を推定する工程と、
所定のボイラ水ブロー管理値を設定する工程と、
前記シリカ濃度推定方法によって推定された前記シリカ濃度が所定のボイラ水ブロー管理値よりも大きい場合にボイラ水をブローする工程と、
前記ボイラからブローされるボイラブロー水量を測定する工程と、
前記循環ラインに給水する工程と、
前記循環ラインに供給される給水のシリカ濃度である給水シリカ濃度を測定する工程と、
前記シリカ濃度から、前記シリカ濃度と前記給水シリカ濃度との差分、前記ボイラブロー水量、及び前記ボイラと前記循環ラインの全保有水量によって算出されるシリカ濃度減少分を減算することによって、前記シリカ濃度記憶部に記憶されたシリカ濃度を更新する工程と、を含むことを特徴とするボイラ水のシリカ濃度調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火力発電用ドラム型ボイラや、船舶用ボイラ等の循環するボイラ水のシリカ濃度を推定、調整するボイラ水のシリカ濃度推定装置、シリカ濃度調整装置、シリカ濃度推定方法、及びシリカ濃度調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、火力発電用ドラム型ボイラのボイラ水に含まれるシリカは、配管の内周面などに付着するスケールの原因となるため管理値が定められており、この管理値を超えないように管理されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
ボイラ水のシリカ濃度の測定は、ボイラに付随して設けられたサンプリングラック内に設置されたシリカ濃度計を用いて、ボイラ水から抽出されたサンプル水に対して行われる。そして、ボイラ水のシリカ濃度が所定の管理値を超えた場合にボイラ水のブローを実施するとともに純水を補給することによって、ボイラ水のシリカ濃度を減少させるように調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−126408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したようなシリカ濃度計は、装置そのものが非常に高額であるとともに、定期的に試薬補充や校正が必要であるため、初期導入費用、維持費用がかさみ、ボイラ運用のコスト高の原因となっている。
【0006】
この発明は、このような事情を考慮してなされたもので、その目的は、ボイラで発生した蒸気を水にしてボイラに戻す循環ラインを備えるボイラプラントの初期導入費用、及び維持費用を低減することができるボイラ水のシリカ濃度推定装置、シリカ濃度調整装置、シリカ濃度推定方法、及びシリカ濃度調整方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提供している。
即ち、本発明に係るボイラ水のシリカ濃度推定装置は、ボイラと、前記ボイラで発生した蒸気を水にして前記ボイラに戻す循環ラインと、を備えるボイラプラントにおけるボイラ水のシリカ濃度推定装置において、ボイラ内の温度を測定するボイラ水温度計と、ボイラ内の圧力を測定するボイラ内圧力計と、ボイラ給水速度を測定する第一流量計と、ボイラ水のシリカ濃度を記憶するシリカ濃度記憶部と、前記ボイラ内の温度と前記ボイラ内の圧力とから蒸気中へのシリカ溶解度を算出するシリカ溶解度算出手段と、を備え、前記シリカ濃度記憶部に記憶された前記シリカ濃度が前記シリカ溶解度よりも大きい場合に、前記シリカ濃度に、前記シリカ濃度と前記シリカ溶解度との差分、前記ボイラ給水速度、及び前記ボイラの保有水量によって算出されるシリカ濃度増加分を加算することによって、前記シリカ濃度記憶部に記憶されたシリカ濃度を更新することを特徴とする。
【0008】
上記構成によれば、ボイラ水のシリカ濃度を常時測定するためのシリカ濃度計を設置する必要がないため、ボイラプラントの初期導入費用、及び維持費用を低減することができる。
【0009】
上記ボイラ水のシリカ濃度推定装置において、前記シリカ溶解度算出手段は、蒸気へのシリカ溶解度、ボイラ内の圧力、及びボイラ内の温度の相関関係が記憶されたデータベースに基づいて回帰分析によって求められた計算式を用いてシリカ溶解度を算出することを特徴とする。
上記構成によれば、より容易にシリカ溶解度を算出することができる。
【0010】
また、本発明に係るボイラ水のシリカ濃度調整装置は、上記いずれかのボイラ水のシリカ濃度推定装置と、前記ボイラからボイラ水をブローするブロー手段と、前記ブロー手段によってブローされるボイラブロー水量を測定する第二流量計と、前記循環ラインに給水する純水装置と、前記純水装置から供給される純水のシリカ濃度である給水シリカ濃度を測定するシリカ濃度計と、ボイラ水をブローする制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記シリカ濃度から、前記シリカ濃度と前記給水シリカ濃度との差分、前記ボイラブロー水量、及び前記ボイラと前記循環ラインの全保有水量によって算出されるシリカ濃度減少分を減算することによって、前記シリカ濃度記憶部に記憶されたシリカ濃度を更新することを特徴とする。
【0011】
上記構成によれば、ボイラプラントの初期導入費用、及び維持費用を低減することができるとともに、ボイラ水のシリカ濃度をボイラ水ブロー管理値以下に保持することができる。
【0012】
また、本発明に係るボイラ水のシリカ濃度推定方法は、ボイラと、前記ボイラで発生した蒸気を水にして前記ボイラに戻す循環ラインと、を備えるボイラプラントにおけるボイラ水のシリカ濃度推定方法において、ボイラ内の温度、及びボイラ内の圧力を測定する工程と、ボイラ給水速度を測定する工程と、ボイラ水のシリカ濃度を記憶する工程と、前記ボイラ内の温度と前記ボイラ内の圧力とから蒸気中へのシリカ溶解度を算出する工程と、記憶された前記シリカ濃度が前記シリカ溶解度よりも大きい場合に、前記シリカ濃度に、前記シリカ濃度と前記シリカ溶解度との差分、前記ボイラ給水速度、及び前記ボイラの保有水量によって算出されるシリカ濃度増加分を加算することによって、前記シリカ濃度記憶部に記憶されたシリカ濃度を更新する工程と、を含むことを特徴とする。
【0013】
上記ボイラ水のシリカ濃度推定方法において、前記シリカ溶解度は、蒸気へのシリカ溶解度、ボイラ内の圧力、及びボイラ内の温度の相関関係が記憶されたデータベースに基づいて回帰分析によって求められた計算式によって算出されることが好ましい。
【0014】
また、本発明に係るボイラ水のシリカ濃度調整方法は、上記いずれかのボイラ水のシリカ濃度推定方法を用いてシリカ濃度を推定する工程と、所定のボイラ水ブロー管理値を設定する工程と、前記シリカ濃度推定方法によって推定された前記シリカ濃度が所定のボイラ水ブロー管理値よりも大きい場合にボイラ水をブローする工程と、前記ボイラからブローされるボイラブロー水量を測定する工程と、前記循環ラインに給水する工程と、前記循環ラインに供給される給水のシリカ濃度である給水シリカ濃度を測定する工程と、前記シリカ濃度から、前記シリカ濃度と前記給水シリカ濃度との差分、前記ボイラブロー水量、及び前記ボイラと前記循環ラインの全保有水量によって算出されるシリカ濃度減少分を減算することによって、前記シリカ濃度記憶部に記憶されたシリカ濃度を更新する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ボイラ水のシリカ濃度を常時測定するためのシリカ濃度計を設置する必要がないため、ボイラプラントの初期導入費用及び維持費用を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態のボイラ水のシリカ濃度調整装置が適用されるコンバインドサイクル発電プラントの概略系統図である。
図2】ボイラ水のシリカ濃度調整装置による処理手順を示すフローチャートである。
図3】シリカの飽和・過熱蒸気への溶解度と、温度、圧力の相関関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本実施形態のシリカ濃度推定装置1、及びシリカ濃度調整装置39が適用されるコンバインドサイクル発電プラント2(ボイラプラント)の概略系統図である。
図1に示すように、本実施形態のコンバインドサイクル発電プラント2は、ガスタービン3と蒸気タービン4の回転駆動力により発電機5を駆動して発電させるように構成されている。ガスタービン3の排気出口には、排熱回収ボイラ7(HRSG、以下ボイラと呼ぶ)が接続されている。
【0018】
ガスタービン3は、燃焼用空気を圧縮する圧縮機24と、圧縮された高圧空気と燃料との混合気を燃焼させて高温高圧の燃焼ガスを供給する燃焼器25と、タービン26とを備えている。
【0019】
ボイラ7と蒸気タービン4とは、蒸気ライン10によって接続されており、ボイラ7で発生した蒸気は、蒸気ライン10を介して蒸気タービン4に流入するように構成されている。蒸気タービン4には、復水器12が設けられており、蒸気タービン4で膨張仕事をして駆動した後の蒸気を復水器12に排出させて凝縮して復水するようになっている。また復水器12には復水を溜めるホットウエル13が設けられている。
【0020】
ホットウエル13とボイラ7とは給水ライン14によって接続されており、この給水ライン14上には給水ポンプ15と、給水ライン14を流れる給水の速度であるボイラ給水速度F[m/h]を測定する第一流量計22が設けられている。
【0021】
ボイラ7には、ボイラ水を排出するためのブロー手段23が設けられている。ブロー手段23は、ブローライン27と、ブローライン27上に設けられブロー水の排出を制御するブロー弁29とを有しており、ブロー弁29の下流側には、ブロー水のブロー水量F[m/h]を測定するための第二流量計30が設けられている。ブロー弁29は、制御装置9からの命令信号に従って開閉自在とされている。
【0022】
また、ボイラ7には、ボイラ内の圧力P[MPa]を測定するボイラ内圧力計32と、ボイラ内の温度Tp[℃]を測定するボイラ水温度計33が備えられている。第一流量計22とボイラ内圧力計32とボイラ水温度計33とは、例えばケーブルによってシリカ濃度推定装置1のシリカ濃度更新部40と接続されており、出力信号がシリカ濃度更新部40に送信されるように構成されている。
【0023】
また、ホットウエル13には、純水装置16から純水供給ライン17を介して純水が供給されるように構成されている。純水装置16は純水を生成する装置であり、純水供給ライン17上には純水装置16によって生成される純水を貯留する純水タンク18が設けられている。
【0024】
純水供給ライン17上であって、純水装置16と純水タンク18との間には、純水装置16から供給される純水のシリカ濃度である給水シリカ濃度S[g/m]を測定することができるシリカ濃度計20が設けられている。シリカ濃度計20は、例えばケーブルによって制御装置9と接続されており、出力信号が制御装置9に送信されるように構成されている。
【0025】
また、純水供給ライン17上であって、純水タンク18とホットウエル13の間には、純水の流入を制御するための給水弁21が設けられている。給水弁21は、制御装置9からの命令信号に従って開閉自在とされている。
【0026】
また、ボイラ水が、ボイラ7、蒸気タービン4、復水器12を経て、給水ポンプ15によって再びボイラ7に循環する経路を循環ライン34と呼ぶ。本実施形態のボイラ7は、ブロー手段23によってボイラ水をブローするとともに、給水手段11によって循環ライン34にブローによって失われた水を補給することによって、シリカ濃度の調整を行っている。
【0027】
ボイラ水のシリカ濃度を調整するためのボイラ水のブローはシリカ濃度調整装置39を備えた制御装置9によって実施され、ボイラ水のシリカ濃度Sは、シリカ濃度推定装置1のシリカ濃度記憶部41に記憶されるとともに、シリカ濃度更新部40によって更新されるようになっている。また、シリカ濃度更新部40は、シリカ溶解度S[g/m]を算出するシリカ溶解度算出手段42を備えている。
そして、制御装置9は、シリカ濃度更新部40によって更新され、シリカ濃度記憶部41に記憶されたシリカ濃度を、随時参照したり更新したりできるようになっている。
【0028】
シリカ濃度推定装置1は、ボイラ水温度計33と、ボイラ内圧力計32と、第一流量計22と、シリカ濃度更新部40を有し、後述する処理によって、シリカ濃度を推定するものである。
また、シリカ濃度更新部40は、シリカ濃度記憶部41と、シリカ溶解度算出手段42とを有しており、ボイラ水温度計33、ボイラ内圧力計32、及び第一流量計22による測定値と、シリカ溶解度算出手段42によって算出されたシリカ溶解度を用いてシリカ濃度記憶部41に記憶されたシリカ濃度を更新するものである。
なお、図1においては、シリカ濃度更新部40は制御装置9とは別に設けられた装置として示されているが、シリカ濃度更新部40は制御装置9内に組み込まれていてもよい。
【0029】
シリカ濃度調整装置39は、制御装置9に含まれる調整装置であり、シリカ濃度推定装置1と、ブロー手段23と、第二流量計30と、純水装置16と、シリカ濃度計20と、を有し、後述する処理によって、シリカ濃度を調整するものである。
【0030】
次に、本実施形態のシリカ濃度調整装置39の動作について説明する。図2は、ボイラ水シリカ濃度を推定しつつ、ボイラ水シリカ濃度を調整する処理手順を示すフローチャートである。シリカ濃度推定装置1、及びシリカ濃度調整装置39は、コンバインドサイクル発電プラント2が運転している間、図2の処理を行う。
【0031】
まず、オペレータによって、制御装置9の記憶部に固定値が入力される(固定値入力工程S1)。固定値入力工程S1においては、オペレータによって、ボイラ保有水量V[m]及びボイラ以外の保有水量V[m]が制御装置9の所定の記憶部に入力される。これらボイラ保有水量V、及びボイラ以外の保有水量Vは設計値であり、これらの和が循環ライン34中の全保有水量(V+V)[m]となる。
【0032】
また、オペレータによってシリカ濃度Sの計算頻度として、計算時間間隔ΔT[h]が制御装置9の記憶部に入力される。即ち、シリカ濃度Sの推定処理又は調整処理は、ΔT毎に行われる。また、オペレータは、後述する回帰計算によって決定される、蒸気中へのシリカ溶解度Sを算出するのに必要な計算式の係数を決定する。
【0033】
さらに、オペレータによってボイラ水ブロー管理値S[g/m]が制御装置9の記憶部に入力される。このボイラ水ブロー管理値Sは、JIS B 8223「ボイラ水の給水及びボイラ水の水質(2006年)」において定められている数値である。
【0034】
ここで、蒸気中へのシリカ溶解度Sの計算式の作成方法について説明する。
蒸気中へのシリカ溶解度Sの計算式とは、ボイラ水温度Tp、ボイラ内圧力Pより、シリカ溶解度Sを算出するための計算式であり、図3に示すシリカの飽和・過熱蒸気への溶解度のグラフ、即ち蒸気へのシリカ溶解度、ボイラ内の圧力、及びボイラ内の温度の相関関係が記憶されたデータベースに基づいて作成される。
【0035】
計算式は、回帰分析を用いて、
= a + b×Tp +c×P
なる形式の重回帰式によって表される。この重回帰式において、ボイラ水温度Tpとボイラ内圧力Pが説明変数であり、シリカ溶解度Sが目的変数(従属変数)である。
係数a,bは、所定の回帰分析ツールによって求めることができる。
本実施形態では、図3に示すシリカの飽和・過熱蒸気への溶解度のグラフより、以下の表に示す7点の分析データを用いて回帰分析を行った。
【0036】
【表1】
【0037】
回帰分析によって、図3のグラフに対応するシリカ溶解度Sの計算式は、以下の計算式(1)に示すものとなった。
= −14.318 + 0.017798×Tp + 1.3912×P
・・・ (1)
【0038】
次いで、オペレータは、ボイラ水中のシリカ濃度の初期値SB0[g/m]を設定する(シリカ濃度初期値設定工程S2)。ここでは、ボイラ水のシリカ濃度を手分析によって計測し、この分析値をボイラ水中のシリカ濃度の初期値SB0とする。
【0039】
次いで、制御装置9が、ボイラ水のシリカ濃度S、及びボイラ給水中シリカ濃度Si[g/m]を設定し、この値がシリカ濃度更新部40のシリカ濃度記憶部41に記憶される(シリカ濃度設定工程S3)。ここでは、固定値入力工程S1において設定されたボイラ水中シリカ濃度の初期値SB0がボイラ水中シリカ濃度S及びボイラ給水中シリカ濃度Siとして設定される。
そして、シリカ濃度推定装置1が、ボイラ水温度Tp、及びボイラ内圧力Pの計測値を取得する(温度圧力取得工程S4)。
【0040】
次いで、シリカ濃度推定装置1は、シリカ溶解度算出手段42を用いてシリカ溶解度Sを算出する(シリカ溶解度算出工程S5)。即ち、温度圧力取得工程S4によって取得されたボイラ水温度Tp及びボイラ内圧力Pを計算式(1)に入力することによって、シリカ溶解度Sを算出する。
【0041】
次に、シリカ濃度推定装置1は、シリカ溶解度算出工程S5において算出されたシリカ溶解度Sの値と、シリカ濃度設定工程S3においてシリカ濃度記憶部41に記憶されたシリカ濃度Sとを比較する(シリカ溶解度比較工程S6)。
【0042】
ここで、蒸気へのシリカ溶解度Sがシリカ濃度Sよりも大きい場合は、ボイラ水のシリカ濃度Sは変化しないため、ボイラ水のシリカ濃度Sの積算は行われない。
よって、シリカ濃度Sとボイラ給水中シリカ濃度Siは変更されることなく、計算終了判断工程S14にて計算を終了するか否かを判断され、通常は、固定値入力工程S1で設定された計算時間間隔ΔT[h]が経過するまで待機した後、温度圧力取得工程S4に戻る。そして、シリカ濃度推定装置1は、ボイラ水温度Tp及びボイラ内圧力Pを取得し、シリカ溶解度Sの再計算を行う。
【0043】
一方、シリカ溶解度Sがシリカ濃度S以下であった場合、蒸気にシリカが溶解し切れなかったシリカがボイラ水に残留するため、ボイラ水のシリカ濃度Sが上昇することになる。即ち、シリカ濃度Sを補正する必要がある。
【0044】
シリカ濃度調整装置39は、ボイラ水のシリカ濃度Sを補正する前段階として、シリカ濃度増加分ΔS[g/m]を算出する(シリカ濃度増加分算出工程S7)。シリカ濃度増加分ΔSは、以下の計算式(2)によって算出される。
【0045】
【数1】
【0046】
次いで、シリカ濃度調整装置39は、シリカ濃度増加分算出工程S7で算出したシリカ濃度増加分ΔSに基づき、ボイラ水のシリカ濃度Sを計算する。即ち、シリカ濃度Sにシリカ濃度増加分ΔSを加算した値と、ボイラブロー管理値Sと比較する(ボイラブロー管理値比較工程S8)。
【0047】
ここで、ボイラ水のシリカ濃度Sが、ボイラブロー管理値S以下であった場合は、ボイラ水中シリカ濃度Sを、
= S + ΔS
とし、かつ、及びボイラ給水中シリカ濃度Siを、
= S
とする。そして、後述する計算終了判断工程S14にて計算を終了するか否かを判断され、通常は、計算時間間隔ΔTが経過するまで待機した後、温度圧力取得工程S4に戻って、シリカ溶解度算出手段42がボイラ水温度Tp及びボイラ内圧力Pを取得し、シリカ溶解度Sの再計算を行う。
【0048】
そして、シリカ濃度調整装置39は、ボイラ水のシリカ濃度Sが、ボイラブロー管理値Sよりも大きかった場合にボイラブローを実施する(ボイラブロー実施工程S9)。シリカ濃度調整装置39は、第二流量計30を用いてボイラブローによって排出されるブロー水の水量F[m/h]を取得する(ボイラブロー水量計測工程S10)。
そして、ボイラブローによるホットウエル水位低下をホットウエルレベル計43が検出し、レベル制御により、ブロー水量と等しい純水が純水装置16より供給される。
【0049】
即ち、ボイラ水のシリカ濃度Sが、ボイラブロー管理値Sを上回った場合は、ボイラ水が排出されるとともに循環ライン34に純水が供給されることによってボイラ水が希釈され、ボイラ水のシリカ濃度Sがボイラブロー管理値S以下の値を保持できるようにしている。
【0050】
ここで、ボイラブロー及び純水の補給によってシリカ濃度Sの濃度が下がるため、シリカ濃度調整装置39はシリカ濃度Sの再計算を行う(シリカ濃度再計算工程S11)。
ここで、シリカ濃度減少分ΔSは、以下の計算式(3)によって算出される。
【0051】
【数2】
【0052】
即ち、ブロー後のシリカ濃度Sは以下の計算式(4)によって再計算される。
【0053】
【数3】
【0054】
また、ボイラ給水中シリカ濃度Siはシリカ濃度Sと等しいと見なせるため、
Si=S
とする(ボイラ給水中シリカ濃度設定工程S12)。
【0055】
なお、シリカ濃度再計算工程S11においては、シリカ濃度を再計算する代わりに、手分析により、シリカ濃度を取得し、シリカ濃度推定装置1に入力してもよい。
【0056】
そして、計算終了判断工程S13において、計算を終了するかの判断を行う。通常、ボイラ7の運転を続行する場合は、計算を終了せずに計算時間間隔ΔTが経過するまで待機した後、温度圧力取得工程S4に戻る。
【0057】
次に、上記実施形態のボイラ水のシリカ濃度調整装置39の作用について説明する。
コンバインドサイクル発電プラント2を起動させ、ボイラ水の運転中の所定の段階で、オペレータは、ボイラ水のシリカ濃度Sを手分析により取得し、制御装置9の記憶部に入力する。
【0058】
シリカ濃度推定装置1は、シリカ濃度Sとシリカ溶解度Sとを比較し、シリカ濃度Sがシリカ溶解度Sを下回っている場合は、シリカ濃度Sの記憶値を変化させず保持する。
一方、シリカ濃度調整装置39は、シリカ濃度Sがシリカ溶解度Sを上回っている場合は、シリカ濃度Sにシリカ濃度増加分ΔSを積算することでシリカ濃度Sを補正する。そして、シリカ濃度調整装置39は、補正されたシリカ濃度Sとボイラ水ブロー管理値Sとを比較し、シリカ濃度Sがボイラ水ブロー管理値Sを上回っている場合は、ブロー及び給水を実施させる。ブローを実施した場合は、計算式(4)に従って、シリカ濃度Sの初期値をリセットする。
【0059】
上記実施形態によれば、ボイラ水のシリカ濃度Sは、ボイラ水温度Tp、ボイラ内圧力Pによって算出されるシリカ溶解度S、及びボイラ給水速度Fによって算出されるため、ボイラ水のシリカ濃度Sを測定する為のシリカ濃度計20を設ける必要がない。即ち、既存の設備のみでシリカ濃度Sを推定することができる。これにより、シリカ濃度計20を設置するための初期費用、及びシリカ濃度計20を用いてシリカ濃度を測定費用などの維持費用を削減することができる。
【0060】
なお、本発明の技術範囲は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更を加えることが可能である。例えば、以上で説明した実施形態では、シリカ濃度推定装置1及びシリカ濃度調整装置をコンバインドサイクル発電プラント2に適用したが、ガスタービン3を省略した火力発電プラントに適用してもよいし、発電プラントに限らず、船舶用ボイラに適用してもよい。
【符号の説明】
【0061】
1…シリカ濃度推定装置 2…コンバインドサイクル発電プラント 7…ボイラ 9…制御装置 11…給水手段 12…復水器 14…給水ライン 16…純水装置 17…純水供給ライン 18…純水タンク 20…シリカ濃度計 21…給水弁 22…第一流量計 23…ブロー手段 27…ブローライン 29…ブロー弁 30…第二流量計 32…ボイラ内圧力計 33…ボイラ水温度計 34…循環ライン 39…シリカ濃度調整装置 41…シリカ濃度記憶部 42…シリカ溶解度算出手段 43…ホットウエルレベル計
図1
図2
図3