特許第5896993号(P5896993)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5896993
(24)【登録日】2016年3月11日
(45)【発行日】2016年3月30日
(54)【発明の名称】ヒトGDF8に対する抗体
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/24 20060101AFI20160317BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20160317BHJP
   C12N 15/02 20060101ALI20160317BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20160317BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20160317BHJP
   A61P 21/04 20060101ALI20160317BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20160317BHJP
   A61P 19/10 20060101ALI20160317BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20160317BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20160317BHJP
【FI】
   C07K16/24ZNA
   C12N15/00 A
   C12N15/00 C
   A61K39/395 N
   A61P21/00
   A61P21/04
   A61P19/08
   A61P19/10
   A61P19/02
   A61P7/00
【請求項の数】13
【全頁数】49
(21)【出願番号】特願2013-512186(P2013-512186)
(86)(22)【出願日】2011年5月25日
(65)【公表番号】特表2013-528608(P2013-528608A)
(43)【公表日】2013年7月11日
(86)【国際出願番号】US2011037837
(87)【国際公開番号】WO2011150008
(87)【国際公開日】20111201
【審査請求日】2014年5月12日
(31)【優先権主張番号】61/372,882
(32)【優先日】2010年8月12日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/348,559
(32)【優先日】2010年5月26日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】597160510
【氏名又は名称】リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】トレヴァー・スティット
(72)【発明者】
【氏名】エスター・ラトレス
【審査官】 原 大樹
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−511480(JP,A)
【文献】 特表2007−530551(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/058346(WO,A1)
【文献】 特表2010−502633(JP,A)
【文献】 特表2008−539241(JP,A)
【文献】 Cancer Res,2009年,Vol.69,Abstract No. 4650
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C07K 1/00−19/00
MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/WPIDS/WPIX/CAplus(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号340を含む野生型成熟ヒトGDF8に特異的に結合するか、又はその生物学的活性を遮断するが、成熟ヒトGDF8のアミノ酸48〜72がTGFβ1の対応するアミノ酸配列と置き換えられているキメラGDF8/TGFβ1構築物に結合しないか又はその生物学的活性を遮断しない、単離されたヒト抗体又はその抗原結合フラグメントであって、
ここで該キメラGDF8/TGFβ1構築物が配列番号352のアミノ酸配列を含み、
そして、ここで該抗体又は抗原結合フラグメントは:(a)重鎖可変領域(HCVR)からの重鎖CDR(HCDR1、HCDR2及びHCDR3)、ここで該HCVRは配列番号362/364/366のHCDR1/HCDR2/HCDR3アミノ酸配列を含み;並びに(b)軽鎖可変領域(LCVR)からの軽鎖CDR(LCDR1、LCDR2及びLCDR3)、ここで該LCVRは配列番号370/372/374のLCDR1/LCDR2/LCDR3アミノ酸配列を含み;を含む、
上記単離されたヒト抗体又はその抗原結合フラグメント
【請求項2】
抗体又は抗原結合フラグメントが:(a)配列番号360アミノ酸配列を有するHCVRからの重鎖CDR(HCDR1、HCDR2及びHCDR3);並びに(b)配列番号368アミノ酸配列を有するLCVRからの軽鎖CDR(LCDR1、LCDR2及びLCDR3)を含む、請求項1に記載の単離された抗体又は抗原結合フラグメント。
【請求項3】
野生型成熟GDF8(配列番号340)内の線状エピトープに結合しない、請求項1又は2に記載の単離された抗体又は抗原結合フラグメント。
【請求項4】
配列番号340のアミノ酸1〜14、1〜18、17〜42、48〜65、48〜69、48〜72、52〜65、52〜72、56〜65、56〜72、65〜72、73〜90、75〜105及び91〜105のアミノ酸配列を有する単離されたGDF8ペプチドに結合しない、請求項1〜のいずれか1項に記載の単離された抗体又は抗原結合フラグメント。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項に記載の抗体又は抗原結合フラグメント、及び薬学的に許容しうる担体又は希釈剤を含む医薬組成物。
【請求項6】
医療における使用のための、請求項1〜のいずれか1項に記載の単離された抗体又は抗原結合フラグメント、又は請求項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
GDF8活性を阻害することにより処置可能な疾患若しくは障害に罹患しているか、それらの疾患若しくは障害と診断されたか、又はそれらの疾患若しくは障害に罹患する危険性がある患者の処置における使用のための、請求項に記載の単離された抗体若しくは抗原結合フラグメント、又は医薬組成物。
【請求項8】
GDF8活性を阻害することにより処置可能である疾患又は障害が、筋肉減少症、悪液質、及び不活動又は不動に起因する筋萎縮からなる群より選択される疾患又は障害である、請求項に記載の単離された抗体若しくは抗原結合フラグメント、又は医薬組成物。
【請求項9】
GDF8活性を阻害することにより処置可能な疾患若しくは障害に罹患しているか、それらの疾患若しくは障害と診断されたか、又はそれらの疾患若しくは障害に罹患する危険性がある患者の処置における使用のための医薬の製造における、請求項1〜のいずれか1項に記載の単離された抗体若しくは抗原結合フラグメント、又は請求項に記載の医薬組成物の使用。
【請求項10】
GDF8活性を阻害することにより処置可能な疾患又は障害が、筋肉減少症、悪液質、筋消耗、筋委縮症、癌、関節炎、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病、骨粗しょう症、変形性関節症、骨減少症、股関節骨折を含む骨折、代謝症候群、グルコース恒常性及びインスリン感受性からなる群より選択される疾患又は障害である、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
悪液質が、特発性か又は他の状態に対して二次的である、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
筋消耗又は委縮症が、不活動、不動、床上安静、外傷、医療処置若しくは外科的処置により引き起こされるか又はそれらに伴う、請求項10に記載の使用。
【請求項13】
代謝症候群が、糖尿病、肥満、栄養障害、器官萎縮症、慢性閉塞性肺疾患及び食欲不振からなる群より選択される、請求項10に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、増殖分化因子−8(GDF8)に特異的である抗体及びその抗原結合フラグメントに関する。
【背景技術】
【0002】
背景
増殖分化因子−8(GDF8)(ミオスタチンとしても知られる)は、増殖因子のTGF−βスーパーファミリーのメンバーである。GDF8は、成長中及び成体の骨格筋において高度に発現される、骨格筋量の負の調節因子である。
【0003】
GDF8は種の間で高度に保存されており、そしてマウス及びヒトGDF8のアミノ酸配列は同一である(配列番号338〜339に示されるヒトGDF8核酸配列及びアミノ酸配列)(非特許文献1)。
【0004】
多数のヒト疾患が筋肉組織の減少又は障害に関連しており(例えば筋ジストロフィー、筋萎縮症、筋消耗症候群、筋肉減少症及び悪液質)、そしてGDF8の阻害剤は、これらの疾患又は障害の処置に適用可能である。
【0005】
GDF8に対する抗体及び治療方法は、例えば特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7及び特許文献8において開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】US 6,096,506
【特許文献2】US 7,320,789
【特許文献3】US 7,807,159
【特許文献4】WO 2007/047112
【特許文献5】WO 2005/094446
【特許文献6】US 2007/0087000
【特許文献7】US 7,261,893
【特許文献8】WO 2010/070094
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】McPherron et al. 1977 Nature 387:83−90
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の概要
本発明は、ヒト増殖分化因子8(GDF8)に特異的に結合する、ヒト又はヒト化抗体及びヒト又はヒト化抗体の抗原結合フラグメントを提供する。これらの抗体は、GDF8に高親和性で結合すること及びGDF8活性を中和することを特徴とする。本抗体は、全長(例えばIgG1又はIgG4抗体)であっても、抗原結合部分(例えばFab、F(ab’)2又はscFvフラグメント)のみを含んでいてもよく、そして機能に影響を及ぼすように、例えば残りのエフェクター機能を排除するように改変されていてもよい(Reddy et al.(2000) J.Immunol. 164:1925−1933)。
【0009】
一実施態様において、本発明の抗体は、配列番号2、18、34、50、66、82、98、114、130、146、162、178、194、210、226、242、258、274、290、306、360、及び376、又はその実質的に同一の配列からなる群より選択される重鎖可変領域(HCVR)アミノ酸配列を含む。
【0010】
一実施態様において、本発明の抗体は、配列番号10、26、42、58、74、90、106、122、138、154、170、186、202、218、234、250、266、282、298、314、322、368、及び384又はその実質的に同一の配列からなる群より選択される軽鎖可変領域(LCVR)アミノ酸配列を含む。
【0011】
一実施態様において、本発明の抗体はHCVRアミノ酸配列及びLCVRアミノ酸配列を含み、ここでHCVR/LCVR対の配列は、配列番号2/10、18/26、34/42、50/58、66/74、82/90、98/106、114/122、130/138、146/154、162/170、178/186、194/202、210/218、226/234、242/250、258/266、274/282、290/298、306/314、114/322、360/368、及び376/384からなる群より選択される。
【0012】
本発明はまた、重鎖相補性決定領域3(HCDR3)アミノ酸配列及び軽鎖CDR3アミノ酸配列(LCDR3)を含むヒト抗体若しくはヒト化抗体又は抗体の抗原結合フラグメントを特徴とし、ここでHCDR3アミノ酸配列は、配列番号8、24、40、56、72、88、104、120、136、152、168、184、200、216、232、248、264、280、296、312、366、及び382、又はその実質的に同一の配列からなる群より選択され、そしてLCDR3アミノ酸配列は、配列番号16、32、48、64、80、96、112、128、144、160、176、192、208、224、240、256、272、288、304、320、328、374、及び390、又はその実質的に同一の配列からなる群より選択される。別の実施態様において、抗体又はそのフラグメントは、配列番号8/16、24/32、40/48、56/64、72/80、88/96、104/112、120/128、136/144、152/160、168/176、184/192、200/208、216/224、232/240、248/256、264/272、280/288、296/304、312/320、120/328、366/374、及び382/390からなる群より選択されるHCDR3/LCDR3アミノ酸配列対を含む。
【0013】
関連する実施態様において、抗体又はそのフラグメントは、重鎖CDR1(HCDR1)及びCDR2(HCDR2)アミノ酸配列並びに軽鎖CDR1(LCDR1)及びCDR2(LCDR2)アミノ酸配列をさらに含み、ここでHCDR1アミノ酸配列は、配列番号4、20、36、52、68、84、100、116、132、148、164、180、196、212、228、244、260、276、292、308、362、及び378、又はその実質的に同一の配列からなる群より選択され;HCDR2アミノ酸配列は、配列番号6、22、38、54、70、86、102、118、134、150、166、182、198、214、230、246、262、278、294、310、364、及び380、又はその実質的に同一の配列からなる群より選択され;LCDR1アミノ酸配列は、配列番号12、28、44、60、76、92、108、124、140、156、172、188、204、220、236、252、268、284、300、316、324、370、及び386、又はその実質的に同一の配列からなる群より選択され;そしてLCDR2アミノ酸配列は、配列番号14、30、46、62、78、94、110、126、142、158、174、190、206、222、238、254、270、286、302、318、326、372、及び388、又はその実質的に同一の配列からなる群より選択される。別の実施態様において、HCDR1、HCDR2及びHCDR3は、配列番号36/38/40、116/118/120、228/230/232、362/364/366、及び378/380/382からなる群より選択され;そしてLCDR1、LCDR2及びLCDR3は、配列番号44/46/48、124/126/128、236/238/240、370/372/374、及び386/388/390からなる群より選択される。さらに別の実施態様において、重鎖及び軽鎖CDRは、配列番号36/38/40/44/46/48(例えば21−E5)、116/118/120/124/126/128(例えば8D12)、228/230/232/236/238/240(例えば1A2)、362/364/366/370/372/374(例えばH4H1657N2)、及び378/380/382/386/388/390(例えばH4H1669P)からなる群より選択される。
【0014】
関連する実施態様において、本発明は、GDF8に特異的に結合する抗体又は抗体の抗原結合フラグメントを包含し、ここで該抗体又はフラグメントは、配列番号2/10、18/26、34/42、50/58、66/74、82/90、98/106、114/122、130/138、146/154、162/170、178/186、194/202、210/218、226/234、242/250、258/266、274/282、290/298、306/314、114/322、360/368、及び376/384からなる群より選択される重鎖及び軽鎖可変ドメイン配列内に含有される重鎖及び軽鎖CDRドメインを含む。HCVR及びLCVRアミノ酸配列内のCDRを同定するための方法及び技術は当該分野で周知であり、そして本明細書において開示される特定のHCVR及び/又はLCVRアミノ酸配列内のCDRを同定するために使用され得る。CDRの境界を同定するために使用され得る例となる伝統的手法としては、例えば、Kabat定義、Chothia定義、及びAbM定義が挙げられる。一般的な用語で、Kabat定義は配列多様性に基づき、Chothia定義は構造的ループ領域の位置に基づき、そしてAbM定義は、KabatとChothiaのアプローチの折衷である。例えば、Kabat、「Sequences of Proteins of Immunological Interest」National Institutes of Health、Bethesda、Md.(1991);Al−Lazikani et al.、J. Mol. Biol.273:927−948(1997);及びMartin et al.、Proc.Natl. Acad.Sci.USA 86:9268−9272(1989)を参照のこと。抗体内のCDR配列を同定するために公開データベースも利用可能である。
【0015】
本発明はまた、本発明の抗体又は抗原結合フラグメントをコードする核酸分子も提供する。本発明の抗体をコードする核酸を有する組み換え発現ベクター、及びこのようなベクターが導入されている宿主細胞も本発明により包含され、本発明の宿主細胞を培養することによる本発明の抗体の製造方法も同様である。
【0016】
一実施態様において、本発明の抗体は、配列番号1、17、33、49、65、81、97、113、129、145、161、177、193、209、225、241、257、273、289、305、359、及び375、又は少なくとも95%の相同性を有するその実質的に類似した配列からなる群より選択されるヌクレオチド配列によりコードされるHCVRを含む。
【0017】
一実施態様において、本発明の抗体は、配列番号9、25、41、57、73、89、105、121、137、153、169、185、201、217、233、249、265、281、297、313、321、367、及び383又は少なくとも95%の相同性を有するその実質的に類似した配列からなる群より選択されるヌクレオチド配列によりコードされるLCVRを含む。
【0018】
一実施態様において、本発明の抗体は、HCV/LCVR対配列が、配列番号 1/9、17/25、33/41、49/57、65/73、81/89、97/105、113/121、129/137、145/153、161/169、177/185、193/201、209/217、225/233、241/249、257/265、273/281、289/297、305/313、113/321、359/367、及び375/383からなる群より選択される核酸分子対によりコードされる、HCVRアミノ酸配列及びLCVRアミノ酸配列を含む。
【0019】
本発明はまた、配列番号7、23、39、55、71、87、103、119、135、151、167、183、199、215、231、247、263、279、295、311、365、及び381、又は少なくとも95%の相同性を有するその実質的に類似した配列からなる群より選択されるヌクレオチド配列によりコードされるHCDR3、並びに配列番号15、31、47、63、79、95、111、127、143、159、175、191、207、223、239、255、271、287、303、319、327、373、及び389、又は少なくとも95%の相同性を有するその実質的に類似した配列からなる群より選択されるヌクレオチド配列によりコードされるLCDR3を含むヒト抗体若しくはヒト化抗体又は抗体フラグメントを特徴とする。一実施態様において、HCDR3/LCDR3セットは、配列番号7/15、23/31、39/47、55/63、71/79、87/95、103/111、119/127、135/143、151/159、167/175、183/191、199/207、215/223、231/239、247/255、263/271、279/287、295/303、311/319、119/327、365/373、及び381/389からなる群より選択されるヌクレオチド配列対によりコードされる。
【0020】
関連する実施態様において、抗体又は抗体フラグメントは、HCDR1が、配列番号3、19、35、51、67、83、99、115、131、147、163、179、195、211、227、243、259、275、291、307、361、及び377、又は少なくとも95%の相同性を有するその実質的に類似した配列からなる群より選択されるヌクレオチド配列によりコードされ、HCDR2が、配列番号5、21、37、53、69、85、101、117、133、149、165、181、197、213、229、245、261、277、293、309、363、及び379、又は少なくとも95%の相同性を有するその実質的に類似した配列からなる群より選択されるヌクレオチド配列によりコードされ、LCDR1が、配列番号11、27、43、59、75、91、107、123、139、155、171、187、203、219、235、251、267、283、299、315、323、369、及び385 又は少なくとも95%の相同性を有するその実質的に類似した配列からなる群より選択されるヌクレオチド配列によりコードされ、そしてLCDR2が、配列番号13、29、45、61、77、93、109、125、141、157、173、189、205、221、237、253、269、285、301、317、325、371、及び387、又は少なくとも95%の相同性を有するその実質的に類似した配列からなる群より選択されるヌクレオチド配列によりコードされる、HCDR1及びHCDR2、並びにLCDR1及びLCDR2をさらに含む。一実施態様において、抗体又は抗体フラグメントは、配列番号35/37/39/43/45/47、115/117/119/123/125/127、227/229/231/235/237/239、361/363/365/369/371/373、又は377/379/381/385/387/389の核酸配列セットによりコードされる重鎖及び軽鎖CDRを含む。
【0021】
本発明はまた、GDF8に特異的に結合する単離された抗体又は抗体フラグメントを特徴とし、該抗体又は抗体フラグメントは、(a)式X1−X2−X3−X4−X5−X6−X7−X8(配列番号329)[式中、X1はGlyであり;X2はPheであり;X3はThrであり;X4はPheであり;X5はSerであり;X6はAla又はSerであり;X7はPhe又はTyrであり;X8はGly又はAlaである]のアミノ酸配列を含むHCDR1;(b)式X1−X2−X3−X4−X5−X6−X7−X8(配列番号330)[式中、X1はIleであり;X2はGly又はSerであり;X3はTyr又はGlyであり;X4はSer又はAspであり;X5はGlyであり;X6はGlyであり;X7はSer又はAsnであり;そしてX8はAla又はGluである]のアミノ酸配列を含むHCDR2;(c)式X1−X2−X3−X4−X5−X6−X7−X8−X9−X10−X11−X12−X13−X14(配列番号331)[式中、X1はSer又はAlaであり;X2はThr又はLysであり;X3はAsp又はIleであり;X4はGly又はSerであり;X5はAla又はHisであり;X6はTrp又はTyrであり;X7はLys又はAspであり;X8はMet又はIleであり;X9はSer又はLeuであり;X10はGly又はSerであり;X11はLeu又はGlyであり;X12はAsp又はMetであり;X13はVal又はAspであり;X14はValであるか又は存在しない]のアミノ酸配列を含むHCDR3;(d)式X1−X2−X3−X4−X5−X6(配列番号332)[式中、X1はGlnであり;X2はAsp又はGlyであり;X3はIleであり;X4はSerであり;X5はAsp又はAsnであり;そしてX6はTyr又はTrpである]のアミノ酸配列を含むLCDR1;(e)式X1−X2−X3(配列番号333)[式中、X1はThr又はAlaであり;X2はThr又はAlaであり;そしてX3はSerである]のアミノ酸配列を含むLCDR2;及び(f)式X1−X2−X3−X4−X5−X6−X7−X8−X9(配列番号334)[式中、X1はGlnであり;X2はLys又はGlnであり;X3はAla又はTyrであり;X4はAsp又はAsnであり;X5はSerであり;X6はAla又はPheであり;X7はProであり;X8はLeuであり;そしてX9はThrである]のアミノ酸配列を含むLCDR3領域からなる群より選択される重鎖及び軽鎖CDRを含む。
【0022】
上述のコンセンサス配列(配列番号329〜334)を誘導する方法論は図4A及び4Bにおいて説明される。
【0023】
本発明はまた、表面プラズモン共鳴アッセイ(例えばBIACORETM)により測定して約1nM又はそれ以下の親和性(解離定数「KD」として表される)でGDF8に結合する、完全ヒト抗体若しくはヒト化抗体又は抗体フラグメントを特徴とする。特定の実施態様において、本発明の抗体は、約700pM若しくはそれ以下;約500pM若しくはそれ以下;約320pM若しくはそれ以下;約160pM若しくはそれ以下;約100pM若しくはそれ以下;約50pM若しくはそれ以下;約10pM若しくはそれ以下;又は約5pM若しくはそれ以下のKDを示す。
【0024】
一実施態様において、本発明は、ヒトGDF8に特異的に結合して阻害し、そしてGDF8誘導性ルシフェラーゼアッセイにより測定して、約10nMに等しいか若しくはそれ以下;約5nM若しくはそれ以下;約3nM若しくはそれ以下;約2nM若しくはそれ以下;約1nM若しくはそれ以下;約500pM若しくはそれ以下;又は約200pM若しくはそれ以下のIC50を示す、完全ヒト又はヒト化モノクローナル抗体(mAb)を提供する。以下の実験の項において示されるように、本発明の抗GDF8抗体のいくつかは、密接な関係があるタンパク質、例えばGDF11の活性を、ルシフェラーゼバイオアッセイにおいてGDF8よりもかなり高いIC50で遮断する。一実施態様において、本発明は、GDF11活性の遮断に関してGDF8と比較して、少なくとも約10倍、少なくとも約50倍、少なくとも約100倍、少なくとも約200倍、少なくとも約500倍、少なくとも約1000倍、又は少なくとも約1500倍高いIC50を示す抗体又は抗体の抗原結合フラグメントを提供する。
【0025】
本発明は、変更されたグリコシル化パターンを有する抗GDF8抗体を包含する。いくつかの適用において、望ましくないグリコシル化部位を除去する変更、又は例えば抗体依存性細胞傷害(ADCC)機能を増加させるために、オリゴ糖鎖上に存在するフコース部分を欠損した抗体(Shield et al.(2002)JBC 277:26733を参照のこと)が有用であり得る。他の適用において、ガラクトシル化の変更が、補体依存性細胞傷害(CDC)を変更するために行われ得る。
【0026】
本発明は、GDF8の特定のエピトープに結合し、そしてGDF8の生物学的活性を遮断することができる抗GDF8抗体を含む。第一の実施態様において、本発明の抗体は、成熟GDF8タンパク質(配列番号340)のアミノ酸約1〜約109;約1〜約54;約1〜約44;約1〜約34;約1〜約24;及び約1〜約14内のエピトープに結合する。第二の実施態様において、本発明の抗体は、成熟GDF8タンパク質(配列番号340)のアミノ酸約35〜約109;約45〜約109;約55〜約109;約65〜約109;約75〜約109;約85〜約109;約92〜約109;又は約95〜約109内のエピトープの1つ又はそれ以上に結合する。第三の実施態様において、抗体又は抗体の抗原結合フラグメントは、成熟ヒトGDF8タンパク質のアミノ酸残基約48〜約72;約48〜約69;約48〜約65;約52〜約72;約52〜約65;又は約56〜約65のエピトープ内で結合する。
【0027】
関連する実施態様において、本発明は、配列番号36/38/40/44/46/48、116/118/120/124/126/128、228/230/232/236/238/240、362/364/366/370/372/374、又は378/380/382/386/388/390のHCDR1/HCDR2/HCDR3/LCDR1/LCDR2/LCDR3のアミノ酸配列の組み合わせを含む別の抗体と、GDF8への特異的結合について競合する抗体又はその抗原結合フラグメントを提供する。一実施態様において、本発明の抗体又は抗原結合フラグメントは、配列番号2/10、18/26、34/42、50/58、66/74、82/90、98/106、114/122、130/138、146/154、162/170、178/186、194/202、210/218、226/234、242/250、258/266、274/282、290/298、306/314、114/322、360/368、又は376/384のHCVR/LCVRアミノ酸配列対を含む別の抗体とGDF8への特異的結合について競合する。さらに別の関連する実施態様において、本発明は、配列番号36/38/40/44/46/48、116/118/120/124/126/128、228/230/232/236/238/240、362/364/366/370/372/374、又は378/380/382/386/388/390のHCDR/LCDRのアミノ酸配列の組み合わせを含む別の抗体により認識されるGDF8上のエピトープを認識する抗体又はその抗原結合フラグメントを提供する。一実施態様において、本発明の抗体又は抗原結合フラグメントは、配列番号2/10、18/26、34/42、50/58、66/74、82/90、98/106、114/122、130/138、146/154、162/170、178/186、194/202、210/218、226/234、242/250、258/266、274/282、290/298、306/314、114/322、360/368、又は376/384のHCVR/LCVRのアミノ酸配列対を含む別の抗体により認識されるGDF8上のエピトープを認識する。
【0028】
本発明はまた、組み換えヒト又はヒト化抗ヒトGDF8抗体及び許容しうる担体を含む組成物を特徴とする。本発明のヒト抗GDF8抗体をコードする核酸分子を含有するベクター及びベクターを含む宿主細胞、さらにはこれらの新規な抗体を製造する方法が本発明にさらに含まれ、該方法は、本発明の抗GDF8抗体又は抗体フラグメントをコードする核酸を含む宿主細胞を、タンパク質の産生を可能にする条件下で増殖させ、そしてそのようにして産生されたタンパク質を回収することを含む。
【0029】
本発明はまた、本発明の抗体又はその抗原結合部分を使用してGDF8活性を阻害するための方法を特徴とする。一実施態様において、この方法は、本発明の抗体又は抗体フラグメントを、GDF8活性の阻害により寛解される障害に罹患したヒト被験体に投与することを含む。好ましい実施態様において、本発明の抗体又は抗体フラグメントを用いて処置されるヒト被験体は、グルコース恒常性の改善、体脂肪量の減少、インスリン感受性の増加、腎機能の改善及び/又は脂肪蓄積の減少を必要としている。本発明の抗体又は抗体フラグメントは、骨粗しょう症、骨減少症、変形性関節症及び骨折を含む骨減少を特徴とする疾患又は状態を処置、予防、又は抑制するため、代謝症候群を処置するため、グルココルチコイド若しくはステロイドホルモンの持続投与からの筋消耗又は筋ジストロフィー、筋萎縮症、筋消耗症候群、筋肉減少症及び悪液質に関連する筋力低下に対抗するために有用である。
【0030】
他の目的及び利点は、以下の詳細な説明を検討することにより明らかとなるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】プロテイナーゼKを用いたヒトGDF8の限定加水分解の免疫ブロット。ゲルは非還元18%SDS−PAGEであり、0.2μg GDF8を各レーンにロードし、そして2μg/mlの抗体、コントロールI(A)、1A2(B)又は21−E9(C)のいずれかであった。レーン1:消化時間10分、1μg GDF8、0μgプロテイナーゼK;レーン2:消化時間10分、GDF8 1μg、1μgプロテイナーゼK;レーン3:消化時間10分、1μg GDF8、6μgプロテイナーゼK;レーン4:消化時間45分、1μg GDF8、0μgプロテイナーゼK;レーン5:消化時間45分、GDF8 1μg、1μgプロテイナーゼK;レーン6:消化時間45分、1μg GDF8、6μgプロテイナーゼK。
図2】高用量のプロテイナーゼKを用いたヒトGDF8の限定加水分解の免疫ブロット。ゲルは非還元18%SDS−PAGEであり、0又は4μg GDF8を各レーンにロードし、そして2μg/mlのコントロールI(A)又は1A2(B)のいずれかであった。レーン1:消化時間16時間、0μg GDF8、96μgプロテイナーゼK;レーン2:消化時間16時間、GDF8 4μg、0μgプロテイナーゼK;レーン3:消化時間16時間、4μg GDF8、24μgプロテイナーゼK;レーン4:消化時間16時間、4μg GDF8、96μgプロテイナーゼK;レーン5:消化時間1時間、GDF8 4μg、24μgプロテイナーゼK;レーン6:消化時間1時間、4μg GDF8、96μgプロテイナーゼK;レーン7:消化時間10分、GDF8 μg、0μgプロテイナーゼK;レーン8:消化時間10分、4μg GDF8、24μgプロテイナーゼK。
図3A】抗体処置の前のインスリン耐性試験を受けたマウスにおける開始グルコースレベルパーセントを経時的に示すグラフ。
図3B】抗体処置の後のインスリン耐性試験を受けたマウスにおける開始グルコースレベルパーセントを経時的に示すグラフ。
図4A】例示の抗GDF8抗体H4H1657N2及びH4H1669Pからの重鎖CDRのアミノ酸配列比較であり、これらの配列間で共有されるコンセンサス配列を示す。
図4B】例示の抗GDF8抗体H4H1657N2及びH4H1669Pからの軽鎖CDRのアミノ酸配列比較であり、これらの配列間で共有されるコンセンサス配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
詳細な説明
本発明の方法を記載する前に、当然のことながら、記載される特定の方法、及び実験条件は変化し得るので、本発明はこのような方法及び条件に限定されない。これも当然ことながら、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるので、本明細書において使用される用語は、特定の実施態様を説明する目的のみのためであり、限定することを意図されない。
【0033】
本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用される単数系「a」、「an」、及び「the」は、文脈が明確にそうではないと指示していなければ、複数の言及を含む。従って、例えば「方法(a method)」への言及は1つ若しくはそれ以上の、方法及び/又は本明細書において記載され、かつ/若しくは本開示を読むと当業者に明らかとなる工程を含む。
【0034】
別の定義がなければ、本明細書において使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者により一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書において使用される用語「約」は、特定の列挙された数値に関して使用される場合、列挙された値から1%以下だけ変化し得ることを意味する。例えば、本明細書で使用される表現「約100」は99及び101を含み、そしてその間の全ての数値を含む(例えば99.1、99.2、99.3、99.4など)。
【0035】
本明細書において記載される方法及び材料と類似するか又は等価ないずれの方法及び材料も本発明の実施又は試験において使用され得るが、好ましい方法及び材料をここで記載する。
【0036】
定義
「ヒト増殖分化因子−8」、「GDF8」及び「ミオスタチン」は、配列番号338の核酸配列によりコードされるタンパク質並びに配列番号339(プロペプチド)及び340(成熟タンパク質)のアミノ酸配列を有するタンパク質を指すように交換可能に使用される。
【0037】
本明細書において使用される用語「抗体」は、4つのポリペプチド鎖、ジスルフィド結合により相互連結された2つの重(H)鎖及び2つの軽(L)鎖を含む免疫グロブリン分子、さらにはそれらのマルチマー(例えばIgM)を指すことを意図される。各重鎖は重鎖可変領域(本明細書ではHCVR又はVHと略される)及び重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、3つのドメイン、CH1、CH2及びCH3を含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではLCVR又はVLと略される)及び軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は1つのドメイン(CL1)を含む。VH及びVL領域は、相補性決定領域(CDR)と称される超可変性の領域にさらに細分することができ、これらはフレームワーク領域(FR)と称されるより保存された領域に組み入れられている。各VH及びVLは、3つのCDR及び4つのFRから構成され、アミノ末端からカルボキシ末端に以下の順序で配置されている:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。本発明の異なる実施態様において、抗GDF8抗体(又はその抗原結合部分)のFRはヒト生殖系列配列と同一であり得、又は天然若しくは人工的に改変され得る。アミノ酸コンセンサス配列は、2つ又はそれ以上のCDRの比較分析(side−by−side analysis)に基づいて定義され得る。
【0038】
本明細書において使用される用語「抗体」はまた、全長抗体分子の抗原結合フラグメントも含む。本明細書において使用される用語抗体の「抗原結合部分」、「抗原結合フラグメント」などは、抗原に特異的に結合して複合体を形成する、天然に存在するか、酵素的に得られるか、合成又は遺伝子的に操作されたポリペプチド又は糖タンパク質を含む。抗体の抗原結合フラグメントは、例えば全長抗体分子からいずれかの適切な標準的な技術、例えばタンパク質分解消化、又は抗体の可変ドメイン及び場合により定常ドメインをコードするDNAの操作及び発現を含む組み換え遺伝子操作技術を使用して誘導され得る。このようなDNAは公知であり、かつ/又は商業的供給源、DNAライブラリー(例えばファージ−抗体ライブラリーを含む)から容易に入手可能であるか、又は合成することができる。DNAは配列決定され得、そして化学的に操作され得るか、又は例えば1つ若しくはそれ以上の可変ドメイン及び/若しくは定常ドメインを適切な構成に配置するか、又はコドンを導入するか、システイン残基を作製するか、アミノ酸を修飾、付加若しくは欠失させるなどの分子生物学的技術を使用することにより操作され得る。
【0039】
抗原結合フラグメントの非限定的な例としては:(i)Fabフラグメント;(ii)F(ab')2フラグメント;(iii)Fdフラグメント;(iv)Fvフラグメント;(v)単鎖Fv(scFv)分子;(vi)dAbフラグメント;及び(vii)抗体の超可変領域を模倣するアミノ酸残基からなる最小認識単位(例えば単離された相補性決定領域(CDR))が挙げられる。他の操作された分子、例えば二重特異性抗体、三重特異性抗体、四重特異性抗体及びミニ抗体(minibodies)もまた、本明細書において使用される表現「抗原結合フラグメント」内に包含される。
【0040】
抗体の抗原結合フラグメントは、典型的には少なくとも1つの可変ドメインを含む。可変ドメインは任意のサイズ又はアミノ酸組成のものであり得、一般的には1つ又はそれ以上のフレームワーク配列と隣接するかインフレームである少なくとも1つのCDRを含む。VLドメインに伴ってVHドメインを有する抗原結合フラグメントにおいて、VH及びVLドメインは互いに対していずれかの適切な配置で位置し得る。例えば、可変領域はダイマーであり得、VH−VH、VH−VL又はVL−VLダイマーを含み得る。あるいは、抗体の抗原結合フラグメントは、モノマーのVH又はVLドメインを含有し得る。
【0041】
特定の実施態様において、抗体の抗原結合フラグメントは、少なくとも1つの定常ドメインに共有結合で連結された少なくとも1つの可変ドメインを含有し得る。本発明の抗体の抗原結合フラグメント内で見られ得る可変ドメイン及び定常ドメインの非限定的な例示の構成としては:(i) VH−CH1;(ii) VH−CH2;(iii) VH−CH3;(iv) VH−CH1−CH2;(v) VH−CH1−CH2−CH3;(vi) VH−CH2−CH3;(vii) VH−CL;(viii) VL−CH1;(ix) VL−CH2;(x) VL−CH3;(xi) VL−CH1−CH2;(xii) VL−CH1−CH2−CH3;(xiii) VL−CH2−CH3;及び(xiv) VL−CLが挙げられる。上に列挙した例示の構成のいずれかを含む可変ドメイン及び定常ドメインのいずれかの構成において、可変ドメイン及び定常ドメインは、互いに直接連結されていても、完全又は部分的なヒンジ又はリンカーの領域により連結されていてもよい。ヒンジ領域は、少なくとも2つ(例えば5、10、15、20、40、60又はそれ以上)のアミノ酸からなり得、これらは単一のポリペプチド分子中の隣接する可変ドメイン及び/又は定常ドメインの間の可動性又は半可動性の連結を生じる。さらに、本発明の抗体の抗原結合フラグメントは互いにかつ/又は1つ若しくはそれ以上のモノマーVH若しくはVLドメインと非共有結合で結合した(例えばジスルフィド結合(単数又は複数)により)、上で列挙した可変及び定常ドメイン構成のいずれかのホモダイマー又はヘテロダイマー(又は他のマルチマー)を含み得る。
【0042】
全長抗体分子と同様に、抗原結合フラグメントは単一特異的でも多重特異的(例えば二重特異的)であってもよい。抗体の多重特異的抗原結合フラグメントは、典型的には、少なくとも2つの異なる可変ドメインを含み、ここで各可変ドメインは、別の抗原に特異的に結合することができるか、同じ抗原上の異なるエピトープに特異的に結合することができる。本明細書において開示される例示の二重特異的抗体形式を含むいずれかの多重特異的抗体形式は、当該分野で利用可能な所定の技術を使用して本発明の抗体の抗原結合フラグメントの状況における使用のために適合され得る。
【0043】
本発明の抗体は、補体依存性細胞傷害(CDC)又は抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)により機能し得る。「補体依存性細胞傷害」(CDC)は、補体の存在下での本発明の抗体による、抗原を発現している細胞の溶解を指す。「抗体依存性細胞媒介性細胞傷害」(ADCC)は、Fc受容体(FcR)を発現する非特異的細胞傷害性細胞(例えば、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球、及びマクロファージ)が標的細胞上の結合した抗体を認識し、そしてそれにより標的細胞の溶解をもたらす、細胞媒介性の反応を指す。CDC及びADCCは、当該分野で周知でありかつ利用可能なアッセイを使用して測定され得る。(例えば、米国特許第5,500,362号及び同第5,821,337号、及びClynes et al.、Proc. Natl. Acad. Sci.(USA) 95:652−656(1998)を参照のこと)。
【0044】
用語「特異的に結合する」又は同様のものは、抗体又はその抗原結合フラグメントが、生理条件下で比較的安定な、抗原との複合体を形成することを意味する。特異的結合は、1x10-6M又はそれ以下の解離定数により特徴付けられ得る。2つの分子が特異的に結合するか否かを決定するための方法は当該分野で周知であり、これらとしては、例えば、平衡透析、表面プラズモン共鳴などが挙げられる。例えば、本発明の文脈においてヒトGDF8に「特異的に結合する」抗体には、ヒトGDF8又はその部分(例えば、配列番号340の少なくとも6つの連続したアミノ酸を含むペプチド)に、表面プラズモン共鳴アッセイにおいて測定して、約1000nM未満、約500nM未満、約300nM未満、約200nM未満、約100nM未満、約90nM未満、約80nM未満、約70nM未満、約60nM未満、約50nM未満、約40nM未満、約30nM未満、約20nM未満、約10nM未満、約5nM未満、約4nM未満、約3nM未満、約2nM未満、約1nM未満又は約0.5nM未満のKDで結合する抗体が含まれる。(例えば本明細書の実施例3を参照のこと)。しかし、ヒトGDF8に特異的に結合する単離された抗体は、他の抗原、例えば他の種由来のGDF8分子に対して交差反応性を有し得る。
【0045】
用語「高親和性」抗体は、表面プラズモン共鳴(例えばBIACORETM)又は溶液アフィニティーELISAにより測定して、約10-8M若しくはそれ以下、約10-9M若しくはそれ以下、約10-10M若しくはそれ以下、約10-11M若しくはそれ以下、又は約10-12M若しくはそれ以下の解離定数(KD)でGDF8に結合することができる抗体を指す。
【0046】
用語「遅い解離速度(slow off rate)」又は「Koff」は、表面プラズモン共鳴(例えばBIACORETM)で測定して、1x10-3-1又はそれ以下、好ましくは1x10-4-1又はそれ以下の速度定数でGDF8から解離する抗体を意味する。
【0047】
「中和」又は「遮断」抗体は、GDF8へのその結合がGDF8の生物学的活性の阻害をもたらす抗体を指すように意図される。GDF8の生物学的活性のこの阻害は、GDF8の生物学的活性の1つ又はそれ以上の指標を測定することにより評価され得る。GDF8の生物学的活性のこれらの指標は、当該分野で公知のインビトロ又はインビボでのいくつかの標準的なアッセイの1つ又はそれ以上により評価され得る(以下の実施例を参照のこと)。
【0048】
本明細書において開示される完全ヒト抗GDF8抗体は、対応する生殖系列配列と比較して、重鎖及び軽鎖可変ドメインのフレームワーク領域及び/又はCDR領域において1つ又はそれ以上のアミノ酸の置換、挿入及び/又は欠失を含み得る。このような変異は、本明細書において開示されるアミノ酸配列を例えば公開抗体配列データベースから入手可能な生殖系列配列と比較することにより容易に確認され得る。本発明は、本明細書において開示されるアミノ酸配列のいずれかから誘導され、1つ又はそれ以上のフレームワーク領域及び/又はCDR領域内の1つ又はそれ以上のアミノ酸が、対応する生殖系列残基(単数又は複数)に復帰変異されているか、又は対応する生殖系列残基(単数又は複数)の保存的アミノ酸置換(天然又は非天然)に復帰変異されている(このような配列変化は本明細書で「生殖系列復帰変異」と呼ばれる)、抗体及びその抗原結合フラグメントを含む。当業者は、本明細書において開示される重鎖及び軽鎖可変領域配列から開始して、1つ又はそれ以上の個々の生殖系列復帰変異又はその組み合わせを含む多数の抗体及び抗原結合フラグメントを容易に製造することができる。特定の実施態様において、VH及び/又はVLドメイン内のフレームワーク及び/又はCDR残基は全て、生殖系列配列に復帰変異される。他の実施態様において、特定の残基のみ、例えば、FR1の最初の8つのアミノ酸内若しくはFR4の最後の8つのアミノ酸内に見られる変異した残基のみ、又はCDR1、CDR2若しくはCDR3内に見られる変異した残基のみが、生殖系列配列に復帰変異される。さらに、本発明の抗体は、フレームワーク及び/又はCDR領域内の2つ又はそれ以上の生殖系列復帰変異のいずれかの組み合わせを含有し得、すなわち、ここで特定の個々の残基が生殖系列配列に復帰変異される一方で、生殖系列配列と異なる特定の他の残基は維持される。一旦得られると、1つ又はそれ以上の生殖系列復帰変異を含有する抗体及び抗原結合フラグメントは、1つ又はそれ以上の所望の特性、例えば改善された結合特異性、増加した結合親和性、改善されたか又は増強されたアンタゴニスト又はアゴニスト生物学的特性(場合によって)、減少した免疫原性などについて容易に試験され得る。この一般的な方法で得られる抗体及び抗原結合フラグメントは、本発明内に包含される。
【0049】
本発明はまた、1つ又はそれ以上の保存的置換を有する本明細書において開示されるHCVR、LCVR、及び/又はCDRアミノ酸配列のいずれかの変異体を含む抗GDF8抗体を含む。例えば、本発明は、本明細書において開示されるHCVR、LCVR、及び/又はCDRアミノ酸配列のいずれかと比較して、例えば10又はそれ以下、8又はそれ以下、6又はそれ以下、4又はそれ以下などの保存的アミノ酸置換を含むHCVR、LCVR、及び/又はCDRアミノ酸配列を有する抗GDF8抗体を含む。一実施態様において、抗体は、8又はそれ以下の保存的アミノ酸置換を含む配列番号360及び376から選択されるアミノ酸配列を有するHCVRを含む。別の実施態様において、抗体は、6又はそれ以下の保存的アミノ酸置換を含む配列番号360及び376から選択されるアミノ酸配列を有するHCVRを含む。別の実施態様において、抗体は、4又はそれ以下の保存的アミノ酸置換を含む配列番号360及び376から選択されるアミノ酸配列を有するHCVRを含む。別の実施態様において、抗体は、2又はそれ以下の保存的アミノ酸置換を含む配列番号360及び376から選択されるアミノ酸配列を有するHCVRを含む。一実施態様において、抗体は、8又はそれ以下の保存的アミノ酸置換を含む配列番号368及び384から選択されるアミノ酸配列を有するLCVRを含む。別の実施態様において、抗体は、6又はそれ以下の保存的アミノ酸置換を含む配列番号368及び384から選択されるアミノ酸配列を有するLCVRを含む。別の実施態様において、抗体は、4又はそれ以下の保存的アミノ酸置換を含む配列番号368及び384から選択されるアミノ酸配列を有するLCVRを含む。別の実施態様において、抗体は、2又はそれ以下の保存的アミノ酸置換を含む配列番号368及び384から選択されるアミノ酸配列を有するLCVRを含む。
【0050】
特定の実施態様において、本発明の抗体又は抗体フラグメントは、治療的部分、例えば細胞毒、化学療法薬、及び免疫抑制剤又は放射性同位体に結合され得る(「免疫複合体」)。
【0051】
本明細書で使用される「単離された抗体」は、その天然環境の少なくとも1つの成分から同定され、そして分離及び/又は回収された抗体を意味する。例えば抗体が天然で存在するか又は天然で産生される生物、組織又は細胞の少なくとも1つの成分から分離されたか又は取り出された抗体は、本発明の目的のための「単離された抗体」である。単離された抗体はまた、組み換え細胞内の原位置の抗体、さらには少なくとも1つの精製若しくは単離工程にかけられた抗体を含む。特定の実施態様によれば、単離された抗体は、他の細胞物質及び/又は化学物質を実質的に含まないものであり得る。
【0052】
本明細書で使用される用語「表面プラズモン共鳴」は、例えばBIACORETMシステム(Pharmacia Biosensor AB、Uppsala、Sweden and Piscataway、N.J.)を使用して、バイオセンサーマトリックス内のタンパク質濃度の変化の検出により実時間で生体分子特異的な相互作用の分析を可能にする光学的現象を指す。
【0053】
本明細書で使用される用語「KD」は、特定の抗体−抗原相互作用の平衡解離定数を指すように意図される。
【0054】
用語「エピトープ」は、免疫グロブリン又はT細胞受容体へ特異的に結合することができるいずれかの決定基、好ましくはポリペプチド決定基を含む。特定の実施態様において、エピトープ決定基は、分子の化学的活性表面の分類、例えばアミノ酸、糖側鎖、ホスホリル基、又はスルホニル基を含み、そして特定の実施態様では、特定の3次元構造特性、及び/又は特定の電荷特性を有し得る。エピトープは、抗体により結合される抗原の領域である。特定の実施態様において、抗体がタンパク質及び/又は高分子の複雑な混合物中のその標的抗原を優先的に認識する場合に、その抗体が抗原に特異的に結合すると言われる。例えば、抗体は、KDが10-8M若しくはそれ以下、又は10-9M若しくはそれ以下、又は10-10M若しくはそれ以下である場合に抗原に特異的に結合すると言われる。
【0055】
タンパク質又はポリペプチドは、サンプルの少なくとも約60〜75%が単一種のポリペプチドを示す場合に「実質的に純粋」であるか、「実質的に均一」であるか又は「実質的に精製」されている。ポリペプチド又はタンパク質は、モノマーでもマルチマーでもよい。実質的に純粋なポリペプチド又はタンパク質は、典型的にはタンパク質サンプルの約50%、60、70%、80%又は90%質量/質量を構成し、通常は純度約95%、そして好ましくは純度99%を超える。タンパク質の純度又は均一性は、当該分野で周知の多数の手段、例えばタンパク質サンプルのポリアクリルアミドゲル電気泳動、続いて当該分野で周知の染色剤でゲルを染色して単一のポリペプチドバンドを可視化することにより示され得る。特定の目的のために、HPLC又は精製のための当該分野で周知の他の手段を使用することにより、より高分解能が得られ得る。
【0056】
本明細書で使用される用語「ポリペプチドアナログ又は変異体」は、アミノ酸配列の一部に対して実質的な同一性を有し、かつ以下の特性の少なくとも1つを有する少なくとも25のアミノ酸のセグメントから構成されるポリペプチドを指す:(1)適切な結合条件下でのGDF8への特異的結合、又は(2)GDF8の生物学的活性を遮断する能力。典型的には、ポリペプチドアナログ又は変異体は、天然に存在する配列に対して保存的アミノ酸置換(又は挿入若しくは欠失)を含む。アナログは典型的には少なくとも20アミノ酸長、少なくとも50、60、70、80、90、100、150又は200アミノ酸長又はそれ以上であり、そしてしばしば全長の天然に存在するポリペプチドと同程度の長さであり得る。
【0057】
好ましいアミノ酸置換は:(1)タンパク質分解に対する感受性を減少させ、(2)酸化に対する感受性を減少させ、(3)タンパク質複合体を形成するための結合親和性を変更し、(4)結合親和性を変更し、そして(4)このようなアナログの他の物理化学的又は機能的特性を付与するか又は変更するものである。アナログは、天然に存在するペプチド配列以外の配列の様々な変異を含み得る。例えば、単一又は複数のアミノ酸置換(好ましくは保存的アミノ酸置換)が、天然に存在する配列において(好ましくは分子間接触を形成するドメインの外側の部分において)行われ得る。保存的アミノ酸置換は、親配列の構造的特性を実質的に変化させるべきではない(例えば、アミノ酸の置き換えは、親配列に存在するらせんを破壊する傾向を有するべきなく、親配列を特徴付ける他の種類の二次構造を崩壊させるべきでもない)。当該分野で認識されたポリペプチド二次構造及び三次構造の例は、Proteins、Structures and Molecular Principles (Creighton 1984 W. H. Freeman and Company、New York;Introduction to Protein Structure (Branden & Tooze、eds.、1991、Garland Publishing、NY);及びThornton et at. 1991 Nature 354:105において記載される。
【0058】
非ペプチドアナログは、テンプレートペプチドの特性に類似した特性を有する薬物として製薬業界において一般的に使用される。これらの種類の非ペプチド化合物は、「ペプチド模倣薬」又は「ペプチドミメティクス」と称される(例えば、Fauchere(1986) J.Adv.Drug Res.15:29;及びEvans et al.(1987)J.Med.Chem.30:1229を参照のこと)。コンセンサス配列の1つ又はそれ以上のアミノ酸を同じ型のD−アミノ酸(例えば、L−リジンの代わりにD−リジン)で系統的に置換することもまた、より安定なペプチドを生成するために使用され得る。さらに、コンセンサス配列又は実質的に同一のコンセンサス配列変異を含むコンストレインド(constrained)ペプチドは、当該分野で公知の方法により(Rizo et al.(1992)Ann.Rev.Biochem.61:387)、例えば、ペプチドを環化させる分子内ジスルフィド架橋を形成することができる内部システイン残基を加えることにより生成され得る。
【0059】
核酸配列の文脈における用語「配列同一性パーセント」は、最大対応について整列された場合に同じものである、2つの配列における残基を指す。配列同一性比較の長さは、一続きの少なくとも約9ヌクレオチド長より長くてもよく、通常は少なくとも約18ヌクレオチド、より通常には少なくとも約24ヌクレオチド、典型的には少なくとも約28ヌクレオチド、より典型的には少なくとも約32ヌクレオチド、そして好ましくは少なくとも約36、48又はそれ以上のヌクレオチドであり得る。ヌクレオチド配列同一性を測定するために使用され得る当該分野で公知の多数の様々なアルゴリズムがある。例えば、ポリヌクレオチド配列は、FASTA、Gap又はBestfitを使用して比較することができ、これらはWisconsin Package Version 10.0、Genetics Computer Group (GCG)、Madison、Wisにおけるプログラムである。FASTA(例えばプログラムFASTA2及びFASTA3を含む)は、問い合わせ配列と検索配列との間のベストオーバーラップの領域のアラインメント及び配列同一性パーセントを提供する(Pearson (1990) Methods Enzymol.183:63−98及び(2000) Methods Mol.Biol.132:185−219)。そうではないと明記されていなければ、特定のプログラム又はアルゴリズムについてのデフォルトパラメーターを使用する。例えば、核酸配列間の配列同一性パーセントは、FASTAを使用してそのデフォルトパラーメーター(ワードサイズ6、及びスコアリングマトリックスについてNOPAMファクター)用いるか、又はGap使用してGCGバージョン6.1に提供されるようなそのデフォルトパラーメーターを用いて決定され得る。
【0060】
核酸配列に対する言及は、そうではないと明記されていなければ、その補体を包含する。従って、特定の配列を有する核酸分子への言及は、その相補的な配列とともに、その相補鎖を包含すると理解されるべきである。一般に、当該分野は用語「配列同一性パーセント」、「配列類似性パーセント」及び「配列相同性パーセント」を交換可能に使用する。本出願において、これらの用語は核酸配列に関して同じ意味を有するものとする。
【0061】
核酸又はそのフラグメントに言及する場合の用語「実質的な類似性」又は「実質的な配列類似性」は、適切なヌクレオチドの挿入又は欠失を有する別の核酸(又はその相補鎖)と最適に整列された場合に、上で考察したようないずれかの周知の配列同一性アルゴリズム(例えばFASTA、BLAST又はGap)により測定して、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%又は少なくとも約99%のヌクレオチド塩基においてヌクレオチド配列同一性が存在することを示す。
【0062】
ポリペプチドに適用される用語「実質的な同一性」又は「実質的に同一」は、2つのペプチド配列が、例えばプログラムGAP又はBESTFITによりデフォルトギャップ重みを使用して最適に整列された場合に、少なくとも約80%の配列同一性、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%又は少なくとも約99%の配列同一性を共有することを意味する。好ましくは、同一でない残基の位置は、保存的アミノ酸置換により異なる。「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸残基が類似した化学的特性(例えば電荷又は疎水性)を有する側鎖(R基)を有する別のアミノ酸残基で置換されているものである。一般に、保存的アミノ酸置換は、タンパク質の機能的特性を実質的に変化させない。2つ又はそれ以上のアミノ酸配列が保存的置換により互いに異なる場合、配列同一性パーセント又は類似性度は、その置換の保存的性質を補正するように上方調整され得る。この調整を行うための手段は当業者に周知である。例えば、Pearson (1994)Methods Mol.Biol.24:307−331を参照のこと。類似した化学的特性を有する側鎖を有するアミノ酸のグループの例としては、1)脂肪族側鎖:グリシン、アラニン、バリン、ロイシン及びイソロイシン;2)脂肪族−ヒドロキシル側鎖:セリン及びスレオニン;3)アミド含有側鎖:アスパラギン及びグルタミン;4)芳香族側鎖:フェニルアラニン、チロシン、及びトリプトファン;5)塩基性側鎖:リジン、アルギニン、及びヒスチジン;が挙げられ、そして6)硫黄含有側鎖はシステイン及びメチオニンである。好ましい保存的アミノ酸置換グループは:バリン−ロイシン−イソロイシン、フェニルアラニン−チロシン、リジン−アルギニン、アラニン−バリン、グルタミン酸−アスパラギン酸、及びアスパラギン−グルタミンである。あるいは、保存的な置換は、Gonnet et al.(1992) Science 256:1443−45において開示されるPAM250対数尤度行列において正の値を有するいずれかの変化である。「中程度に保存的な」置換は、PAM250対数尤度行列において負ではない値を有するいずれかの変化である。
【0063】
ポリペプチドについての配列類似性(配列同一性とも呼ばれる)は、典型的には配列解析ソフトウェアを使用して測定される。タンパク質解析ソフトウェアは、保存的アミノ酸置換を含む様々な置換、欠失及び他の変更に帰属される類似性の尺度を使用して類似した配列を対応させる。例えば、GCGは「Gap」及び「Bestfit」のようなプログラムを含み、これらはデフォルトパラメーターを使用して、密接に関連したポリペプチド、例えば異なる生物種由来の相同ポリペプチドの間、又は野生型タンパク質とそのムテインとの間の配列相同性又は配列同一性を決定するために使用され得る。例えば、GCGバージョン6.1を参照のこと。ポリペプチド配列はまた、GCGバージョン6.1におけるプログラムであるFASTAを使用してデフォルト又は推奨のパラメーターを使用して比較することができる。FASTA(例えばFASTA2及びFASTA3)は、問い合わせ配列と検索配列との間のベストオーバーラップの領域のアラインメント及び配列同一性パーセントを提供する(Pearson (2000)、前出)。本発明の配列を異なる生物由来の多数の配列を含むデータベースと比較する場合に好ましい別のアルゴリズムは、デフォルトパラメーターを使用する、コンピュータープログムBLAST、特にblastp又はtblastnである。例えば、Altschul et al.(1990) J. Mol. Biol.215:403−410及びAltschul et al.(1997) Nucleic Acids Res. 25:3389 402を参照のこと。
【0064】
相同性について比較されるポリペプチド配列の長さは、一般的には少なくとも約16アミノ酸残基、少なくとも約20残基、少なくとも約24残基、少なくとも約28残基、又は少なくとも約35残基である。多数の異なる生物由来の配列を含むデータベースを検索する場合、アミノ酸配列を比較することが好ましい。
【0065】
用語「有効量」は、特定の決められた目的の達成をもたらす、抗体又は抗体の抗原結合フラグメントの濃度又は量である。抗GDF8抗体又はその抗体の抗原結合フラグメントの「有効量」は実験的に決定され得る。さらに、「治療有効量」は、決められた治療効果を達成するために有効な、抗GDF8抗体又はその抗原結合フラグメントの濃度又は量である。この量もまた実験的に決定され得る。
【0066】
ヒト抗体の製造
完全ヒトモノクローナル抗体を含むモノクローナル抗体を生成するための方法は当該分野で公知である。いずれかのこのような公知の方法を、GDF8に特異的に結合するヒト抗体を作製するために本発明の状況において使用することができる。
【0067】
VELOCIMMUNETM技術又はモノクローナル抗体を生成するためのいずれかの他の公知の方法を使用して、ヒト可変領域及びマウス定常領域を有する、GDF8に対する高親和性キメラ抗体を最初に単離する。以下の実験の項におけるように、抗体は親和性、選択性、エピトープなどを含む所望の特徴を有し、それらについて選択される。マウス定常領域は、本発明の完全ヒト抗体、例えば野生型又は改変されたIgG1又はIgG4を生成するために所望のヒト定常領域と置き換えられる。選択される定常領域は特定の用途によって変わり得るが、高親和性抗原結合及び標的特異性の特徴は可変領域に属する。
【0068】
一般に、本発明の抗体は、非常に高い親和性を有し、固相に固定されているか又は溶液相中のいずれかの抗原への結合により測定した場合、典型的には約10-12〜約10-9MのKDを有する。マウス定常領域は、本発明の完全ヒト抗体、例えば野生型IgG1(配列番号335)若しくはIgG4(配列番号336)、又は改変されたIgG1若しくはIgG4(例えば配列番号337)を生成するために所望のヒト定常領域と置き換えられる。選択される定常領域は特定の用途によって変わり得るが、高親和性抗原結合及び標的特異性の特徴は可変領域に属する。
【0069】
生物学的同等物(Bioequivalents)
本発明の抗GDF8抗体及び抗体フラグメントは、記載される抗体のアミノ酸配列から変化したアミノ酸配列を有するがヒトGDF8に結合する能力は保持しているタンパク質を包含する。このような変異体抗体及び抗体フラグメントは、親配列と比較した場合にアミノ酸の1つ又はそれ以上の付加、欠失、又は置換を含むが、記載される抗体の生物学的活性と本質的に同等の生物学的活性を示す。同様に、本発明の抗GDF8抗体をコードするDNA配列は、開示された配列と比較してヌクレオチドの1つ又はそれ以上の付加、欠失又は置換を含むが、本発明の抗GDF8抗体又は抗体フラグメントと本質的に生物学的に同等である抗GDF8抗体又は抗体フラグメントをコードする配列を包含する。このような変異体アミノ酸及びDNA配列の例は上で考察されている。
【0070】
2つの抗原結合タンパク質、又は抗体は、例えばそれらが、その吸収の速度及び程度が、単回用量又は複数回用量のいずれかで同様の実験条件下で同じモル用量で投与された場合に有意な差異を示さない薬学的等価物又は薬学的代替物である場合に、生物学的に同等であるとみなされる。いくつかの抗体は、それらの吸収の程度において等価であるがそれらの吸収速度は等価でない場合に等価物又は薬学的代替物とみなされ、そしてさらに吸収速度におけるこのような差異が意図的でかつ標識化で反映され、例えば慢性的使用で有効な身体薬物濃度の達成に本質的ではなく、そして研究される特定の製剤については医学的に重要でないと考えられるので、生物学的に同等とみなされ得る。
【0071】
一実施態様において、2つの抗原結合タンパク質は、それらの安全性、純度、及び効力において臨床的に意味のある差異がない場合に生物学的に同等である。
【0072】
一実施態様において、2つの抗原結合タンパク質は、参照製品との交換を行わずに継続された治療と比較して、有害作用(免疫原性の臨床的に有意な変化、又は減少した有効性を含む)の危険性の予期される増加を伴わずに、参照製品と生物学的製品とを1回又はそれ以上交換することができる場合、生物学的に同等である。
【0073】
一実施態様において、2つの抗原結合タンパク質は、それらが両方とも使用の条件(単数又は複数)について共通の作用機構(単数又は複数)により、このような機構が知られている程度まで作用する場合に生物学的同等である。
【0074】
生物学的同等性はインビボ及びインビトロの方法で実証され得る。生物学的同等性の測定としては、例えば、(a)抗体又はその代謝物の濃度が血液、血漿、血清又は他の生体液において時間の関数として測定される、ヒト又は他の哺乳動物におけるインビボでの試験;(b)ヒトインビボバイオアベイラビリティーデータと相関しており、かつヒトインビボバイオアベイラビリティーデータを合理的に予測するインビボでの試験;(c)抗体(又はその標的)の適切な急性薬理効果が時間の関数として測定される、ヒト又は他の哺乳動物におけるインビボでの試験;及び(d)抗体の安全性、有効性、又はバイオアベイラビリティー若しくは生物学的同等性を確立する十分に制御された臨床試験におけるものが挙げられる。
【0075】
本発明の抗GDF8抗体の生物学的に同等な変異体は、例えば残基若しくは配列の様々な置換を行うことにより、又は生物学的活性に必要のない末端若しくは内部残基若しくは配列を欠失させることにより構築され得る。例えば、生物学的活性に必須でないシステイン残基は、再生の際に不必要か又は不正確な分子内ジスルフィド架橋の形成を防止するために欠失され得るか又は他のアミノ酸と置き換えられ得る。他の状況において、生物学的に同等な抗体は、抗体のグリコシル化特性を変更するアミノ酸変化、例えばグリコシル化を排除又は除去する変異を含む抗GDF8抗体変異体を含み得る。
【0076】
エピトープマッピング及び関連する技術
特定のエピトープに結合する抗体(例えば、IgEのその高親和性受容体への結合を遮断するもの)をスクリーニングするために、Harlow and Lane(1990)(前出)に記載されるような慣用の交差遮断アッセイが行われ得る。他の方法としては、アラニンスキャニング変異体、ペプチドブロット(Reineke(2004)Methods Mol Biol 248:443−63)、又はペプチド切断分析が挙げられる。さらに、エピトープ切除、エピトープ抽出及び抗原の化学的修飾のような方法を使用することができる(Tomer (2000) Protein Science 9:487−496)。
【0077】
用語「エピトープ」は、B及び/又はT細胞が応答する抗原上の部位を指す。B細胞エピトープは、連続したアミノ酸又はタンパク質の三次折り畳みにより並置される連続していないアミノ酸の両方から形成され得る。連続したアミノ酸から形成されるエピトープは典型的には変性溶媒に対してさらされた状態で保持され、一方で三次折り畳みにより形成されるエピトープは、典型的には変性溶媒で処理すると失われる。エピトープは典型的には少なくとも3、そしてより通常では少なくとも5又は8〜10のアミノ酸を独特の空間配置で含む。
【0078】
改変補助プロファイリング(Modification−Assisted Profiling)(MAP)(抗原構造ベースの抗体プロファイリング(Antigen Structure−based Antibody Profiling)(ASAP)としても知られる)は、同じ抗原に対して特異的な多数のモノクローナル抗体(mAb)を、化学的又は酵素的に改変された抗原表面への各抗体の結合プロフィールの類似性にしたがって分類する方法である(US2004/0101920)。各カテゴリーは、別のカテゴリーにより表されるエピトープと明らかに異なるか、又は部分的に重複する独特のエピトープを示し得る。この技術は、遺伝的に同一の抗体の速いフィルタリングを可能にし、その結果特徴付けを遺伝的に異なる抗体に集中させることができる。ハイブリドーマスクリーニングに適用される場合、MAPは所望の特徴を有するmAbを産生する微量のハイブリドーマクローンの同定を容易にし得る。MAPは、本発明の抗GDF8抗体を、異なるエピトープに結合する抗体のグループに分類するために使用され得る。
【0079】
本発明は、ヒトGDF8(配列番号340)の特定のエピトープに結合し、そしてGDF8の生物学的活性を遮断することができる抗GDF8抗体及び抗体の抗原結合フラグメントを含む。一実施態様において、抗体又はその抗原結合フラグメントは、アミノ酸残基1〜109;1〜54;1〜44;1〜34;1〜24;及び1〜14を含むエピトープ内に結合する。別の実施態様において、抗体又はその抗原結合フラグメントは、アミノ酸残基65〜72;35〜109;45〜109;55〜109;65〜109;75〜109;85〜109;92〜109;又は95〜109から構成されるエピトープ内に結合する。別の実施態様において、抗体又はその抗原結合フラグメントは、アミノ酸残基48〜72;48〜69;48〜65;52〜72;52〜65;又は56〜65を含むエピトープ内に結合する。特定の実施態様において、抗体又はその抗原結合フラグメントは、2つ又はそれ以上のエピトープ内に結合し得る。
【0080】
本発明はまた、野生型成熟GDF8(配列番号340)に結合するが、配列番号340の全長アミノ酸配列よりも少ない単離されたペプチドには結合しない、抗体及びその抗原結合フラグメントを含む。例えば、本発明は、野生型成熟GDF8(配列番号340)に結合するが、配列番号340の10〜40の連続したアミノ酸配列からなる単離されたペプチドには結合しない抗GDF8抗体を含む。本発明はまた、野生型成熟GDF8内のいずれの線状エピトープにも結合しない抗GDF8抗体を含む。本発明の特定の実施態様において、抗GDF8抗体は、配列番号340を含む野生型成熟ヒトGDF8に結合するが、配列番号340のアミノ酸1〜14、1〜18、17〜42、48〜65、48〜69、48〜72、52〜65、52〜72、56〜65、56〜72、65〜72、73〜90、75〜105及び91〜105からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する1つ又はそれ以上の単離されたGDF8ペプチドには結合しない。特定の実施態様において、抗GDF8抗体は、上述のGDF8ペプチドのいずれにも結合しない。所定の抗体が特定のGDF8ペプチドに結合することができるかどうかを決定する方法は、当業者に公知である。1つの例となる方法は本明細書において実施例7で説明されており、その方法ではGDF8ペプチドをミクロスフェアに結合し、抗体をそのペプチド結合ミクロスフェアに加え、そして洗浄工程に続いて、抗体が結合したミクロスフェアを検出する。結合した抗体が存在しないことは、その抗体が試験された特定のペプチドに結合しないことを示す。
【0081】
本発明はまた、野生型成熟ヒトGDF8(例えば、配列番号340を含むタンパク質又はポリペプチド)に特異的に結合するが、GDF8の特定のアミノ酸が、非同一であるが関連するタンパク質(例えばTGFβ−1)からの対応するアミノ酸配列で置き換えられているキメラGDF8構築物に結合しない単離されたヒト抗体又はその抗原結合フラグメントを含む。一例において、キメラ構築物は、成熟GDF8のアミノ酸48〜72がTGFβ−1の対応するアミノ酸配列(例えば、TGFβ−1のアミノ酸49〜76)で置き換えられているGDF8/TGFβ−1キメラである。1つのこのようなキメラの例は配列番号352で表される(本明細書中の実施例4及び6を参照のこと)。従って、特定の実施態様において、本発明の抗体は、野生型成熟ヒトGDF8(配列番号340)に特異的に結合するが、配列番号352のキメラGDF8/TGFβ−1構築物には結合せず、このことは、上記抗体が結合するエピトープが、配列番号340の残基48〜72内に位置するアミノ酸を含むか又は包含するこということを示す。本明細書の実施例4において記載されるアッセイのようなブロッキングアッセイもまた、抗体が野生型成熟ヒトGDF8(配列番号340)に結合し、かつキメラGDF8/TGFβ−1構築物(例えば配列番号352の構築物)に結合しないかどうかを間接的に確認するために使用され得る。例えば、野生型成熟ヒトGDF8の生物学的活性を遮断するが、キメラGDF8/TGFβ−1の生物学的活性は遮断しない抗体は、キメラ構築物中の対応するTGFβ−1配列により置き換えられているGDF8の部分に結合するとみなされる。
【0082】
同様に、本発明はまた、バイオアッセイにおいて野生型成熟GDF8媒介活性を遮断するが、キメラGDF8構築物(例えば、成熟GDF8のアミノ酸48〜72がTGFβ−1の対応するアミノ酸配列で置き換えられているGDF8/TGFβ−1キメラ(例えば配列番号352))の活性を遮断しない、単離されたヒト抗体又はその抗原結合フラグメントも含む。本発明のこの局面の状況において使用され得る例となるGDF8バイオアッセイは、本明細書において実施例4で記載されるGDF8誘導性ルシフェラーゼアッセイであるが、GDF8の細胞活性を測定することができる他の類似したバイオアッセイも同様に本明細書において考慮される。
【0083】
本発明は、本明細書において記載される特定の例となる抗体のいずれかと同じエピトープに結合する抗GDF8抗体を含む。同様に、本発明はまた、GDF8又はGDF8フラグメントへの結合について、本明細書に記載される特定の例となる抗体のいずれかと交差競合する抗GDF8抗体も含む。
【0084】
抗体が参照抗GDF8抗体と同じエピトープに結合するかどうか、又は参照抗GDF8抗体との結合について競合するかどうかは当該分野で公知の所定の方法を使用することにより容易に決定することができる。例えば、試験抗体が本発明の参照抗GDF8抗体と同じエピトープに結合するかどうかを決定するために、参照抗体を飽和条件下でGDF8タンパク質又はペプチドに結合させる。次に、GDF8分子に結合する試験抗体の能力を評価する。試験抗体が参照抗GDF8抗体との飽和結合後にGDF8に結合することができる場合、その試験抗体は参照抗GDF8抗体と異なるエピトープに結合すると結論づけることができる。他方で、試験抗体が参照抗GDF8抗体との飽和結合の後にGDF8分子に結合することができない場合、その試験抗体は本発明の参照抗GDF8抗体により結合されるエピトープと同じエピトープに結合し得る。次いでさらなる所定の実験(例えば、ペプチド変異及び結合分析)を行って、試験抗体が結合しないと観察されたことが実際に参照抗体と同じエピトープへの結合に起因するかどうか、又は立体的な遮断(又は別の現象)が観察された結合しないことの原因であるのかどうかを確認し得る。この種の実験は、ELISA、RIA、Biacore、フローサイトメトリー又は当該分野で利用可能ないずれかの他の定量的若しくは定性的な抗体結合アッセイを使用して行われ得る。本発明の特定の実施態様によれば、同じ(又は重複する)エピトープに結合する2つの抗体は、例えば1倍、5倍、10倍、20倍又は100倍過剰である一方の抗体が、競合結合アッセイにおいて測定して、他方の結合を少なくとも50%阻害するが、好ましくは75%、90%又は99%も阻害する場合に、同じ(又は重複する)エピトープに結合する(例えば、Junghans et al.、Cancer Res.1990:50:1495−1502を参照のこと)。あるいは、一方の抗体の結合を減少させるか又は排除する、抗原における本質的に全てのアミノ酸変異が、他方の結合を減少させるか又は排除する場合、2つの抗体は同じエピトープに結合するとみなされる。一方の抗体の結合を減少させるか又は排除するアミノ酸変異の一部のみが他方の結合を減少させるか又は排除する場合、2つの抗体は「重複するエピトープ」を有するとみなされる。
【0085】
抗体が参照抗GDF8抗体と結合について競合するかどうかを決定するために、上記の結合方法論が2つの方向性で行われる:第一の方向性では、参照抗体を飽和条件下でGDF8分子に結合させて、続いて試験抗体のGDF8分子への結合を評価する。第二の方向性において、試験抗体を飽和条件下でGDF8分子に結合させて、続いて参照抗体のGDF8分子への結合を評価する。両方の方向性において、第一の(飽和)抗体のみがGDF8分子に結合することができる場合、試験抗体及び参照抗体はGDF8への結合について競合すると結論づけられる。当業者には当然のことながら、参照抗体と結合について競合する抗体は、参照抗体と同じエピトープに必ずしも結合しないかもしれないが、重複するか又は隣接するエピトープを結合することにより参照抗体の結合を立体的にブロックするかもしれない。
【0086】
種選択性及び種交差反応性
本発明の特定の実施態様によれば、抗GDF8抗体は、ヒトGDF8に結合するが他の種由来のGDF8には結合しない。あるいは、本発明の抗GDF8抗体は、特定の実施態様において、ヒトGDF8に結合し、かつ1つ又はそれ以上の非ヒト種由来のGDF8に結合する。例えば、本発明の抗GDF8抗体は、ヒトGDF8に結合し得、そして場合によっては、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、スナネズミ、ブタ、ネコ、イヌ、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ、ラクダ、カニクイザル(cynomologous)、マーモセット、アカゲザル又はチンパンジーのGDF8のうち1つ又はそれ以上に結合してもしなくてもよい。
【0087】
免疫複合体
本発明は、治療的部分(例えば、細胞毒素、化学療法薬、免疫抑制剤又は放射性同位体)に結合したヒト又はヒト化抗GDF8モノクローナル抗体(免疫複合体)を包含する。細胞毒素剤は、細胞に有害な薬剤を含む。免疫複合体を形成するために適した細胞毒素剤及び化学療法薬の例は当該分野で公知であり、例えばWO05/103081を参照のこと。
【0088】
多重特異的抗体
本発明の抗体は、単一特異的、二重特異的、又は多重特異的であり得る。多重特異的抗体は、1つの標的ポリペプチドの異なるエピトープに対して特異的であり得るか、又は1つより多くの標的ポリペプチドに対して特異的な抗原結合ドメインを含み得る。例えば、Tutt et al.、1991、J.Immunol.147:60−69;Kufer et al.、2004、Trends Biotechnol.22:238−244を参照のこと。本発明の抗GDF8抗体は、別の機能的分子、例えば別のペプチド又はタンパク質に連結されても、それらと同時発現されてもよい。例えば、抗体又はそのフラグメントは、第二の結合特異性を有する二重特異的又は多重特異的な抗体を製造するために、1つ又はそれ以上の他の分子実体、例えば別の抗体又は抗体フラグメントに、(例えば、化学的カップリング、遺伝子融合、非共有結合又はその他の方法により)機能的に連結され得る。例えば、本発明は、免疫グロブリンの1つのアームがヒトGDF8又はそのフラグメントに特異的であり、そして免疫グロブリンの他のアームが第二の治療標的に特異的であるか又は治療的部分に結合されている二重特異的抗体を含む。
【0089】
本発明の状況において使用され得る例となる二重特異的抗体の形式は、第一の免疫グロブリン(Ig)CH3ドメイン及び第二のIg CH3ドメインの使用を含み、ここで第一及び第二のIg CH3ドメインは、少なくとも1つのアミノ酸により互いに異なり、そしてここで少なくとも1つのアミノ酸の差異が、そのアミノ酸の差異がない二重特異的抗体と比較して、プロテインAに対する二重特異的抗体の結合を減少させる。一実施態様において、第一のIg CH3ドメインはプロテインAに結合し、そして第二のIg CH3ドメインは、プロテインA結合を減少させるか又は消滅させる変異(例えばH95R変更(IMGTエキソン番号付けによる;EU番号付けではH435R))を含む。第二のCH3はY96F変更(IMGTによる;EUではY436F)をさらに含み得る。第二CH3内で見られ得るさらなる変更としては以下が挙げられる:IgG1抗体の場合、D16E、L18M、N44S、K52N、V57M、及びV82I(IMGTによる;EUではD356E、L358M、N384S、K392N、V397M、及びV422I);IgG2抗体の場合、N44S、K52N、及びV82I(IMGT;EUではN384S、K392N、及びV422I);並びにIgG4抗体の場合、Q15R、N44S、K52N、V57M、R69K、E79Q、及びV82I(IMGTによる;EUではQ355R、N384S、K392N、V397M、R409K、E419Q、及びV422I)。上記の二重特異的抗体の形式に対する変形は本発明の範囲内で検討される。
【0090】
治療的投与及び製剤
本発明は、本発明の抗体又はその抗原結合フラグメントを含む治療用組成物を提供する。本発明に従う治療用組成物の投与は、適切な担体、添加剤及び製剤中に組み込まれて改善された輸送、送達、耐性などをもたらす他の薬剤と共に投与される。多数の適切な製剤が全ての薬剤師に公知の処方集において見られ得る:Remington's Pharmaceutical Sciences、Mack Publishing Company、Easton、PA。これらの製剤としては、例えば散剤、ペースト剤、軟膏、ゼリー、ワックス、オイル、脂質、脂質(カチオン性又はアニオン性)含有小胞(例えばLIPOFECTINTM)、DNA結合体、無水吸収ペースト、水中油及び油中水型乳剤、乳剤carbowax(様々な分子量のポリエチレングリコール)、半固形ゲル、並びにcarbowaxを含有する半固形混合物が挙げられる。前述の混合物のいずれも、製剤中の活性成分がその製剤により不活性化されず、かつ製剤が生理学的に適合性であり投与経路で許容できるものであるならば、本発明に従う処置及び治療において適切であり得る。Powell et al.「Compendium of excipients for parenteral formulations」PDA(1998)J Pharm Sci Technol 52:238−311も参照のこと。
【0091】
用量は、投与しようとする被験体の年齢及び大きさ、対象の疾患、状態、投与経路などに依存して変わり得る。本発明の抗体がGDF8に関連する様々な状態及び疾患、例えば筋ジストロフィー、筋萎縮症、筋消耗症候群、筋肉減少症及び悪液質の処置のために成人患者において使用される場合、本発明の抗体を、通常は約0.01〜約20mg/体重kg、約0.1〜約10mg/体重kg、又は約0.1〜約5mg/体重kgの単回用量で静脈内投与することが有利である。状態の重症度によって、処置の頻度及び期間は調整され得る。他の非経口投与及び経口投与において、抗体は上で示した用量に相当する用量で投与され得る。状態が特に重症である場合、用量は、状態によって、存在する場合は重大な副作用を引き起こす量まで増加され得る。
【0092】
様々な送達系が公知であり、本発明の医薬組成物を投与するために使用され得る、例えば、リポソーム封入、微小粒子、マイクロカプセル、変異ウイルスを発現することができる組み換え細胞、受容体媒介エンドサイトーシス(例えば、Wu et al.(1987)J.Biol.Chem.262:4429−4432を参照のこと)。導入方法としては、限定されないが、皮内、筋内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外、及び経口の経路が挙げられる。組成物は、いずれかの都合の良い経路により、例えば注入又はボーラス注射により、上皮又は皮膚粘膜の内層(例えば、口腔粘膜、直腸及び腸の粘膜など)を通る吸収により投与され得、そして他の生物学的に活性な薬剤と一緒に投与され得る。投与は全身的でも局所でもよい。
【0093】
医薬組成物はまた、小胞、特にリポソームで送達され得る(Langer(1990)Science 249:1527−1533を参照のこと)。
【0094】
本発明の医薬組成物は、標準的な針及びシリンジで皮下又は静脈内に送達され得る。さらに、皮下送達に関して、ペン型送達デバイスは本発明の医薬組成物の送達において容易に有用性を有する。このようなペン型送達デバイスは再使用可能でも使い捨てでもよい。再使用可能なペン型送達装置は、一般的に医薬組成物を含有する交換式カートリッジを利用する。カートリッジ内の全ての医薬組成物が投与されてカートリッジが空になると、空のカートリッジを容易に廃棄して、医薬組成物を含有する新しいカートリッジと交換することができる。その後ペン型送達デバイスを再使用することができる。使い捨てのペン型送達デバイスには交換式カートリッジはない。むしろ、使い捨てペン型送達デバイスは、デバイス内のレザバー中に保持された医薬組成物で予め充填(prefilled)される。レザバーの医薬組成物が空になると、デバイス全体を廃棄する。
【0095】
多数の再使用可能なペン型及び自動注入送達デバイスが、本発明の医薬組成物の皮下送達において有用性を有する。例としては、限定されないが、少し名前を挙げると、AUTOPENTM(Owen Mumford、Inc.、Woodstock、UK)、DISETRONICTMペン(Disetronic Medical Systems、Bergdorf、Switzerland)、HUMALOG MIX 75/25TMペン、HUMALOGTMペン、HUMALIN 70/30TMペン(Eli Lilly and Co.、Indianapolis、IN)、NOVOPENTM I、II及びIII(Novo Nordisk、Copenhagen、Denmark)、NOVOPEN JUNIORTM (Novo Nordisk、Copenhagen、Denmark)、BDTMペン(Becton Dickinson、Franklin Lakes、NJ)、OPTIPENTM、OPTIPEN PROTM、OPTIPEN STARLETTM、並びにOPTICLIKTM (sanofi−aventis、Frankfurt、Germany)が挙げられる。本発明の医薬組成物の皮下送達において有用性を有する使い捨てペン型送達デバイスの例としては、限定されないが、少し名前を挙げると、SOLOSTARTMペン(sanofi−aventis)、FLEXPENTM(Novo Nordisk)、及びKWIKPENTM(Eli Lilly)、SURECLICKTM自動注入装置(Amgen、Thousand Oaks、CA)、PENLETTM (Haselmeier、Stuttgart、Germany)、EPIPEN (Dey、L.P.)、及びHUMIRATMペン(Abbott Labs、Abbott Park IL)が挙げられる。
【0096】
特定の状況において、医薬組成物は、制御放出系で、例えばポンプ又はポリマー材料を使用して送達され得る。別の実施態様において、制御放出系を組成物の標的の近位に配置することができ、従って全身用量のほんの一部しか必要とされない。
【0097】
経口投与用の組成物の例としては、固形又は液状の投薬形態、具体的には、錠剤(糖剤及びフィルムコート錠を含む)、丸剤、顆粒剤、粉末状製剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤を含む)、シロップ剤、乳剤、懸濁剤などが挙げられる。このような組成物は、公知の方法により製造され、そして製剤分野で従来使用されるビヒクル、希釈剤又は添加剤を含有する。錠剤用のビヒクル又は添加剤の例は、ラクトース、デンプン、スクロース、ステアリン酸マグネシウムなどである。
【0098】
注射用製剤は、静脈内、皮下、皮内、及び筋内注射、点滴などのための投薬形態を含み得る。これらの注射用製剤は公知の方法により製造され得る。例えば、注射用製剤は、例えば上記の抗体又はその塩を、注射に従来使用される滅菌水性媒体又は油性媒体中に溶解、懸濁又は乳化させることにより製造され得る。注射用の水性媒体としては、例えば生理食塩水、グルコース及び他の補助剤などを含有する等張液があり、これらは適切な可溶化剤、例えばアルコール(例えばエタノール)、ポリアルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤[例えば、ポリソルベート80、HCO−50(硬化ヒマシ油のポリオキシエチレン(50mol)付加物)]などと組み合わせて使用され得る。油性媒体としては、例えばゴマ油、大豆油などが使用され、これらは可溶化剤、例えば安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどと組み合わせて使用され得る。このようにして製造された注射剤は、好ましくは適切なアンプルに充填される。
【0099】
上記の経口又は非経口用途のための医薬組成物は、活性成分の用量に適合させるために適した単位用量の投薬形態へと有利に製造される。このような単位用量の投薬形態としては、例えば錠剤、丸剤、カプセル剤、注射剤(アンプル)、坐剤などが挙げられる。含有される前記の抗体の量は、一般的には単位用量の投薬形態あたり約5〜500mgであり;特に注射の形態では、前記抗体は、他の投薬形態について約5〜100mg及び約10〜250mgで含まれることが好ましい。
【0100】
抗体の治療的使用
本発明の抗体は、とりわけ、GDF8活性に関連するいずれかの疾患又は障害の処置、予防及び/又は寛解のために有用である。より詳細には、本発明の抗体は、個体における筋肉の強度/筋力及び/若しくは筋肉量及び/若しくは筋肉機能を増加させることにより、又はGDF8活性を遮断することにより代謝(炭水化物、脂質及びタンパク質プロセシング)を有利に変更することにより改善され得るいずれかの状態又は障害の処置のために有用である。本発明の抗GDF8抗体を用いて処置され得る例となる疾患、障害及び状態としては、限定されないが、筋肉減少症、悪液質(特発性か又は他の状態、例えば癌、慢性腎不全若しくは慢性閉塞性肺疾患に対して二次的のいずれか)、筋損傷、筋消耗及び筋萎縮症、例えば不活動、不動、床上安静、外傷、医療処置若しくは外科的処置(例えば、股関節骨折、人工股関節置換、人工膝関節置換など)により引き起こされるか若しくはそれらに伴うか、又は人工呼吸の必要による筋萎縮又は筋消耗が挙げられる。本発明の抗GDF8抗体はまた、癌、肥満、糖尿病、関節炎、多発性硬化症、筋ジストロフィー、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病、骨粗しょう症、変形性関節症、骨減少症、代謝症候群(糖尿病、肥満、栄養障害、器官萎縮症(organ atrophy)、慢性閉塞性肺疾患及び、及び食欲不振が挙げられるがこれらに限定されない)のような疾患を処置、予防又は寛解させるために使用され得る。
【0101】
本発明は、本発明の抗GDF8抗体を、少なくとも1つのさらなる治療的に活性な成分と組み合わせて投与することを含む治療投与計画を含む。このようなさらなる治療的に活性な成分の非限定的な例としては、他のGDF8抗体(例えば、GDF8の小分子阻害剤又は他のGDF8抗体若しくは結合分子)、増殖因子阻害剤、免疫抑制剤、抗炎症剤、代謝阻害剤、酵素阻害剤、及び細胞傷害性/細胞増殖抑制剤が挙げられる。さらなる治療的に活性な成分(単数又は複数)は、本発明の抗GDF8抗体の投与の前に、投与と同時に、又は投与後に投与され得る。
【0102】
抗体の診断的使用
本発明の抗GDF8抗体はまた、例えば診断目的のために、サンプル中のGDF8を検出及び/又は測定するために使用され得る。例えば、抗GDF8抗体又はそのフラグメントは、GDF8の異常な発現(例えば、過剰発現、過小発現、発現しないことなど)を特徴とする状態又は疾患を診断するために使用され得る。GDF8についての例となる診断アッセイは、例えば、患者から得られたサンプルを本発明の抗GDF8抗体と接触させることを含み得、ここでこの抗GDF8抗体は、検出可能な標識又はレポーター分子で標識されている。あるいは、非標識抗GDF8抗体を、それ自体検出可能に標識されている二次抗体と組み合わせて診断適用において使用することができる。検出可能な標識又はレポーター分子は、放射性同位体、例えば3H、14C、32P、35S、若しくは125I;蛍光性若しくは化学発光性の部分、例えばフルオレセインイソチオシアネート、若しくはローダミン;又は酵素、例えばアルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、若しくはルシフェラーゼであり得る。サンプル中のGDF8を検出又は測定するために使用され得る特定の例となるアッセイとしては、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、及び蛍光活性化細胞分類(FACS)が挙げられる。
【0103】
本発明に従ってGDF8診断アッセイにおいて使用され得るサンプルは、正常又は病的状態下の患者から得られ、検出可能な量のGDF8タンパク質又はそのフラグメントを含有するいずれかの組織又は体液サンプルがを含む。一般的に、健常患者(例えば異常なGDF8のレベル又は活性に関連する疾患又は状態に罹患していない患者)から得られる特定のサンプル中のGDF8のレベルが、GDF8のベースライン又は標準レベルを最初に確立するために測定される。次いでこのGDF8のベースラインレベルを、GDF8関連疾患又は状態を有することが疑われる個体から得られたサンプルにおいて測定されたGDF8レベルに対して比較することができる。
【実施例】
【0104】
実施例1. ヒトGDF8に対するヒト抗体の生成
マウスを当該分野で公知のいずれかの方法により免疫し得る(例えば、Harlow and Lane、前出を参照のこと)。一実施態様において、GDF8抗原を、免疫応答を賦活するためのアジュバントを用いて、ヒトIg重鎖及びカッパ軽鎖可変領域をコードするDNAを含むVELOCIMMUNE(R)マウスに直接投与した。適切なアジュバントとしては、完全及び不完全フロイントアジュバント、MPL+TDMアジュバント系(Sigma)、又はRIBI(ムラミルジペプチド)(O’Hagan 2000 Vaccine Adjuvant、by Human Press、Totawa、NJを参照のこと)が挙げられる。抗体免疫応答を、標準的な抗原特異的イムノアッセイによりモニタリングした。所望の免疫応答が得られたら、一実施態様において、抗体発現B細胞を採取し、そしてマウス骨髄腫細胞と融合させてそれらの生存能を保ち、そしてハイブリドーマ細胞株を形成した。ハイブリドーマ細胞株をスクリーニングし、そして抗原特異的抗体を産生する細胞株を同定するために選択した。
【0105】
あるいは、抗原特異的ハイブリドーマ細胞を、フローサイトメトリーにより単離してもよい。手短には、骨髄腫細胞への融合後に、プールしたハイブリドーマ細胞を10日間HAT培地で増殖させる。次いで細胞を採取し、そしてビオチン標識GDF8 2μg/mlで1時間染色し、続いてフィコエリトリン−ストレプトアビジンを加える。蛍光標識細胞をフローサイトメトリーで分別し(ハイブリドーマ成長培地を含有する96ウェルプレート中に1ウェルあたり単一の細胞)、8〜10日間培養し、そして機能的に望ましいモノクローナル抗体の存在について馴化培地スクリーニングする。
【0106】
別の実施態様において、抗GDF8抗体を脾細胞の直接単離により生成した。抗原特異的抗体を、U.S.2007/0280945A1に記載されるように、抗原免疫B細胞から骨髄腫細胞への融合なしに直接的に単離した。安定な組み換え抗体発現CHO細胞株を単離した適切な組換え体から樹立した。
【0107】
実施例2. 遺伝子利用分析
産生される抗体の構造を分析するために、抗体可変領域をコードする核酸をクローンし、そして配列解析した。核酸配列及び抗体の推定アミノ酸配列から、遺伝子利用を、各抗体鎖について同定した。表1は、本発明に従う選択された抗体についての遺伝子利用を示す。抗体識別子(HCVR/LCVR):21−E5(配列番号34/42);21−B9(配列番号18/26);21−E9(配列番号98/106);21−A2(配列番号2/10);22−D3(配列番号50/58);22−E6(配列番号66/74);22−G10(配列番号82/90);1A2(配列番号226/234);20B12(配列番号274/282);58C8(配列番号242/250);19F2(配列番号258/266);8D12−1(配列番号114/122);4E3−7(配列番号194/202);9B11−12(配列番号162/170);4B9(配列番号226/234);1H4−5(配列番号210/218);9B4−3(配列番号178/186);3E2−1(配列番号290/298);4G3−25(配列番号306/314);4B6−6(配列番号130/138);H4H1657N2(配列番号360/368);H4H1669P(配列番号376/384)。
【0108】
【表1】
【0109】
以下の実施例において使用されるコントロール構築物
様々なコントロール構築物(抗GDF8抗体及び他のGDF8アンタゴニスト)を、比較の目的のために以下の実験に含めた。コントロール構築物を以下のように指定した:コントロールI:US7,261,893において記載される「Myo29」 の対応するドメインのアミノ酸配列(すなわち、配列番号16及び18)を有する重鎖及び軽鎖可変領域を含むヒト抗GDF8抗体;コントロールII:US 2006/0263354において記載される「2_112_K」の対応するドメインのアミノ酸配列(すなわち、配列番号118及び120)を有する重鎖及び軽鎖可変領域を含むヒト抗GDF8抗体;コントロールIII:配列番号391のアミノ酸配列を有するActRIIB−Fc融合構築物;並びにコントロールIV:配列番号391の64位のアラニン[A64]がアルギニンで置き換えられている[R64]こと以外はコントロールIIIと同一の変異ActRIIB−Fc融合構築物(全てのコントロール構築物を全ての実施例で使用したわけではない)。
【0110】
実施例3. 抗原結合親和性決定
選択された抗体に対する抗原結合についての平衡解離定数(KD値)を、実時間バイオセンサー表面プラズモン共鳴アッセイ(BIACORETM2000)を使用して表面動力学により決定した。各々の選択された抗体を、BIACORETMチップへの直接的化学カップリングにより生成したヤギ抗マウスIgGポリクローナル抗体表面又はヤギ抗hFcポリクローナル抗体(Jackson Immuno Research Lab)表面のいずれかに捕捉して、捕捉抗体表面を形成した。ヒトGDF8ホモダイマー、hGDF11ホモダイマー、又はhGDF5ホモダイマーを25nMで捕捉抗体表面上に注入し、そして抗原−抗体結合及び解離を実時間で室温にてモニタリングした。動力学的分析を行ってKD、解離速度定数(kd)、会合速度定数(ka)及び抗原/抗体複合体解離の半減期を計算した(表2)。
【0111】
【表2】
【0112】
前述の実験を、候補抗体H4H1669P又はH4H1657N2の捕捉抗体表面上に適用されたGDF8でも行った。予備的データは、両方の抗体について非常に遅い解離速度(off rate)を示し、1〜2pM又はそれ以下のKDが示唆された。
【0113】
選択された抗体に対する抗原結合についてのKD値もまた、BSAを含有しない改変ランニングバッファを用いて上記のように決定した。
【0114】
【表3】
【0115】
さらなる抗原結合実験を行い、ここではGDF8及びGDF11を選択された抗GDF8抗体及びコントロール抗体の表面上に25℃及び37℃で適用した。選択された抗体に対する抗原結合についての平衡解離定数(KD値)を、実時間バイオセンサー表面プラズモン共鳴アッセイ(BIACORETMT100)を使用して表面動力学により決定した。各々の選択された抗体又はコントロールを、BIACORETM CM5センサーチップへの直接的化学カップリングにより作製されたヤギ抗hFcポリクローナル抗体(Jackson Immuno Research Lab Cat#109−005−098)表面上に捕捉して捕捉抗体表面を形成した。様々な濃度(2.5〜0.625nM、2倍希釈)のhGDF8ホモダイマー又はhGDF11ホモダイマー(又はいくつかの実験ではアクチビンA)を捕捉抗体表面上に注入し、そして抗原−抗体結合及び解離を実時間でモニタリングした。動力学的分析を行って、KD、解離速度定数(kd)、会合速度定数(ka)及び抗原/抗体複合体解離の半減期を計算した。結果を表4にまとめる。(NB=結合は観察されなかった)。
【0116】
【表4】
【0117】
上で示したように、本発明の抗体H4H1669P、H4H1657N2、及び1A2−hIgGは、全てGDF8への強い結合を示したが、GDF11の結合は示さなかった。それに反して、コントロール分子はGDF8及びGDF11の両方への結合を示した。
【0118】
実施例4. Smad2/ルシフェラーゼ応答の抗体遮断
GDF8誘導性ルシフェラーゼアッセイ。 GDF8又はGDF11応答性プロモーター駆動ルシフェラーゼ発現を含む操作されたA204細胞株(ヒト横紋筋肉腫細胞、ATCC)を使用して、選択された抗GDF8抗体がGDF8媒介又はGDF11媒介細胞機能をインビトロで中和する能力を決定するためにのバイオアッセイを開発した。GDF8又はGDF11誘導性ルシフェラーゼ活性の阻害を以下のように決定した:細胞を96ウェルプレート上に培地中2x104細胞/ウェルで播種し、そして終夜37℃、5%CO2でインキュベートした。抗体タンパク質(細胞培地中25nMから始まる段階希釈)を2つのプレートでA204/Smad2細胞のウェルに三連で加えた;GDF8又はGDF11(0.8nM)を各ウェルに加えた。これらのプレートを37℃、5%CO2で6時間インキュベートした。ルシフェラーゼ活性を、BRIGHT−GLO(R)基質(Promega)を加えることにより決定し、そしてIC50値を決定した(表5)。
【0119】
【表5】
【0120】
選択された抗GDF8抗体の、GDF8媒介又はGDF11媒介細胞機能を中和する能力を、多様な濃度のGDF8又はGDF11を用いて上記のようにさらに分析した(表6)。(nd=測定していない;NB=結合はない)。
【0121】
【表6】
【0122】
上記のバイオアッセイを、活性化ペプチドとしてGDF8/TGFβ−1キメラ構築物を使用して繰り返した。詳細には、アミノ酸48〜72がTGFβ−1 の対応するアミノ酸で置き換えられた成熟GDF8からなるキメラをこの実験で使用した(配列番号352、本明細書では「GDF8/TGFβ[48−72]」とも呼ばれる)。これを、ヒトTGFβ−1配列が対応するGDF8配列と置き換わる完全ヒトGDF8前駆体をコードする発現構築物から製造した。生物活性を、GDF8/TGFβ[48−72]構築物のCHO細胞における一過性トランスフェクションにより生じた馴化培地でアッセイした。発現及びプロセシングをウェスタンブロットにより評価した。馴化培地を20倍に濃縮し、80℃に5分間加熱して結合したGDF8プロペプチドを不活性化し、そしてバイオアッセイにおいて段階希釈で活性について評価した。キメラタンパク質の正確な濃度はこれらの実験では決定されていないが、典型的な濃度は濃縮前で1〜10ug/mlであった。上記のように、GDF8応答性プロモーター駆動ルシフェラーゼ発現を含む細胞を96ウェルプレートに播種した。選択された抗体(細胞培地中100nMで始まる段階希釈)を、最大の応答を生じると決定された量のGDF8/TGFβ[48−72]キメラタンパク質馴化培地に加えた。この混合物を45分間プレインキュベートし、そしてレポーター細胞に加えた。ルシフェラーゼ活性を測定し、そして以下の表7において示されるように、およそのIC50値を計算した(NB=遮断なし)。
【0123】
【表7】
【0124】
GDF8/TGFβ[48−72]キメラ構築物は、このアッセイにおいてルシフェラーゼ発現を活性化することができ、そして1A2−hFc及びコントロールIは、この構築物の生物活性を遮断することができた。しかし、抗体H2M1657N2及びH1H1669Pは、GDF8/TGFβ[48−72]キメラ構築物の生物活性を遮断することができなかった。これらの2つの抗体は、このアッセイ系において野生型GDF8の生物活性を遮断することが示されたので(表6を参照のこと)、H2M1657N2及びH1H1669PがGDF8のアミノ酸48〜72内のエピトープとの相互作用によりそれらの生物学的効果を及ぼす可能性が高いと結論づけることができる。
【0125】
実施例5. プロテイナーゼK消化により生成されたhGDF8フラグメントの免疫ブロット
ウェスタンブロット分析を使用して、プロテイナーゼKでタンパク質分解消化された試験及びコントロールのmAbヒトGDF8の免疫反応性を決定した。1μgヒトGDF8及び0、1又は6μgプロテイナーゼKを含有する酵素反応系を消化緩衝液中で10又は45分間インキュベートした。反応混合物(200ng)中に存在するGDF8の20%の量を含有する等しいアリコートを3つの別々の18%SDS−PAGE非還元ゲルにロードし、そしてPVDF膜にエレクトロブロットした(electroblotted)。各々の膜を2μg/mlで一次抗体とともにインキュベートし、続いてHRPに結合された適切な二次抗体とともにインキュベートした。コントロールmAb I、1A2 mAb及び21−E9 mAbについてそれぞれ検出された得られた免疫反応性を図1A〜Cに示す。結果は、レーン3及び6におけるコントロールmAb(A)についてGDF8反応性の喪失を示す。著しく対照的に、抗体1A2は約17〜19kDの分子量のより小さなGDF8フラグメントに対して免疫反応性を保持している(図1B)。
【0126】
10分、1時間又は16時間の消化時間で、GDF8 0又は4μg、及び0、24又は96μgプロテイナーゼKの存在下で実験を繰り返した。結果(図2A−B)は、プロテイナーゼKが存在しない場合に、コントロール及び1A2 mAbの両方が全長成熟(未消化)GDF8と免疫反応性であるということを示す(図2A−B、レーン2及び7を参照のこと)。プロテイナーゼKの存在下で、コントロールI mAbについて全ての時点で免疫反応性は失われた。著しく対照的に、1A2 mAbは消化されたヒトGDF8フラグメントと免疫反応性のままであった(図2B、レーン3〜6及び8)。これらの結果は、1A2 mAbが、プロテイナーゼKの存在下でインタクトなままであるGDF8のより小さなフラグメントと免疫反応性であるが、コントロールmAbはより小さなフラグメント(17〜19kD)に対する免疫反応性を失うということを示す。
【0127】
修正ウェスタンブロット分析を使用して、選択された抗GDF8抗体についてのhGDF8エピトープをさらに決定した。修正点は、hGDF8特異的一次抗体を膜と共にインキュベートする前に、各抗hGDF8抗体を、1000倍又は50倍モル過剰の、1〜14アミノ酸、17〜42アミノ酸、48〜72アミノ酸、又は75〜105アミノ酸のhGDF8ペプチドフラグメントと共にプレインキュベートしたことであった。結果は、50倍モル過剰でのペプチドフラグメント48〜72アミノ酸のプレインキュベートは、抗体8D12のhGDF8に対する結合を遮断することができるということを示す。
【0128】
実施例6. GDF8キメラに対する抗体結合
12のキメラGDF8プロタンパク質を作製した。表8は成熟キメラGDF8タンパク質構造を示す。キメラGDF8タンパク質は2つのセットを含んでおり:一方のセットはGDF8配列のBMP2配列での様々な置換を有しており、他方のセットはGDF8配列のTGFβ1配列での様々な置換を有していた。これらのキメラタンパク質を使用して抗体結合を試験し位置を特定した。
【0129】
【表8】
【0130】
様々なキメラGDF8プロタンパク質を、操作された安定なCHO.hFurin細胞株において一過性トランスフェクトした。上記と同様のウェスタンブロット分析を使用して様々な抗hGDF8抗体の各々のキメラGDF8への結合を検出した。手短には、CHO上清10μgをSDS−PAGE(非還元又は還元)ゲルの各レーン上にロードし、そしてPVDF膜にエレクトロブロットした。次いでこの膜を抗GDF8抗体とともに2μg/mlでインキュベートし、続いてHRPに結合された適切な二次抗体に曝露した。表9に示されるように、抗体8D12はB48又はT48のいずれにも結合することができなかった。この結果は、成熟GDF8のアミノ酸48〜72が抗体8D12のGDF8への結合に関与するこということを示した。
【0131】
【表9】
【0132】
実施例7. hGDF8ペプチドに対する抗体結合
14のペプチド(表10)を成熟hGDF8(配列番号340)から生成した。未改変ペプチド、N−末端ビオチン化ペプチド(N−term)、又はC末端ビオチン化ペプチド(C−term)を使用して抗体結合を試験しそして位置を特定した。全長hGDF8、hGDF11及び未改変ペプチドをそれぞれ個々にxMAP(R) Multi−Analyte COOHミクロスフェア(又はビーズ)にアミンカップリングした。ビオチン化ペプチドをそれぞれxMAP(R) Multi−Analyte LumAvidinミクロスフェアに結合させた。次いでペプチド結合ビーズ懸濁液を等体積のブロッキング緩衝液(PBS、1%BSA、0.05% Tween20、0.05%アジ化ナトリウム)と混合し、次いで96ウェルフィルタープレート(Millipore、MULTISCREEN(R) BV)に分配した。次いでコントロール及び試験抗hGDF8抗体を、2.5μg/mlでペプチド結合ビーズ懸濁液に加え、そして室温にて終夜ビーズに結合させた。次いで抗体とインキュベートしたビーズをPBST(PBS+0.05%Tween20)で2回洗浄し、そしてフィコエリトリン(PE)結合抗hFC又はPE結合抗mFC抗体のいずれかと共に室温で45分間インキュベートした。ビーズを再び洗浄し、そして様々なペプチドに対する抗体結合シグナルをLUMINEX(R)100TM又は200TM機器のいずれかを用いて検出した。表10に示されるように、抗hGDF8抗体8D12はペプチド4、5、6、7、8、及び9に結合することができる。それに反して、抗hGDF8抗体H4H1657N2はいずれのペプチドにも結合しなかった)データは示していない)。
【0133】
【表10】
【0134】
実施例8.ヒト抗GDF8抗体のアクチビンRIIBへのGDF8結合に対する効果
成熟hGDF8を最初にLuminex(R)ビーズにアミンカップリングした。次いで
hGDF8被覆Luminex(R)ビーズを様々な抗hGDF8抗体と共に1.25μg/mlで2時間室温にてインキュベートした。次いでヒトアクチビンRIIB−mFcをビーズ−抗体混合物に加え、そしてさらに2時間室温にてインキュベートした。次いでビーズを洗浄し、そしてR−フィコエリトリン(R−PE)結合抗mFcポリクローナル抗体で染色し、そして平均蛍光強度(MFI)を測定した。表11において示されるように、コントロールmAb I及び抗体21−E5は両方ともhGDF8とhアクチビンRIIBとの間の結合を遮断することができたが、コントロールmAb IIは結合を部分的にしか遮断することができなかった。抗体1A2は、hGDF8のその受容体アクチビンRIIBへの結合を遮断することができなかった(表11、n=3)。
【0135】
【表11】
【0136】
実施例9. 抗体8D12変異体
改変されたLCVRを有する抗体8D12変異体を、8D12のLCVRの以下のアミノ酸の1つ又はそれ以上を改変することにより生成した:A7S又はT、A8P、P9L、S18P、V19A、M21I、K27Q、F41Y、V42L、R44K、R55L又はT、M56G又はL、N58Y、L59R、A75D、R79K、A105G、L109V、及びL111I。
【0137】
抗体変異体のhGDF8に関する結合親和性(KD)を、BSAを含有しない改変ランニングバッファ中で上記の実時間バイオセンサー表面プラズマ(plasma)共鳴アッセイ(BIAcoreTM3000)を使用して決定した(表12)。
【0138】
【表12】
【0139】
抗体変異体とhGDF8ペプチドとの間の結合もまた、実施例7において上で記載されるように試験した。抗体変異体8D12−v2及び8D12−v3は、C末端ビオチン化ペプチド4、5、7、及び10に対して強い結合を示した。
【0140】
実施例10. 抗GDF8抗体の骨格筋量に対する効果
選択された抗GDF8 mAbの骨格筋肥大の誘導に関する有効性をインビボで決定した。手短には、20匹の雄性CB17 SCIDマウス(約9週齢)を体重によって4つのグループに均等に分けた。選択されたmAb(コントロールI、1A2、21−E5、8D12、1A2−hIgG、又はコントロールII)を、3つの増加する用量2.5mg/kg/用量、5mg/kg/用量、及び10mg/kg/用量で注射した。ヒトIgGのFcフラグメントをネガティブコントロールとして使用した。抗体を最初の週に2回、そしてその後3週間は週に1回腹腔内投与した。28日目にマウスを安楽死させて体重を量り、そして前脛骨(TA)筋、腓腹(GA)筋、及び四頭(Quad)筋、心臓、脾臓、及び腎臓を切開して重さを量った。組織を開始体重に対して正規化し、そしてネガティブコントロールに対する重量のパーセント変化を計算した。6つの別々の実験を抗体:コントロールI、1A2、21−E5、8D12、1A2−hIgG、及びコントロールIIを用いて繰り返した(表13〜18)。さらにまた実験を、増加するより高用量のコントロールI抗体を10mg/kg/用量、30mg/kg/用量、及び50mg/kg/用量で用いて繰り返した(表19)。結果をネガティブコントロールに対する増加パーセント±標準偏差として表す。
【0141】
【表13】
【0142】
【表14】
【0143】
【表15】
【0144】
【表16】
【0145】
【表17】
【0146】
【表18】
【0147】
【表19】
【0148】
同様の実験を、SCIDマウスに投与した抗体H4H1657N2及びH4H1669P並びにコントロールを使用して行った。詳細には、10週齢の雄性SCIDマウスに、以下の投薬スケジュールにしたがって抗体を10mg/kgで皮下投与した:1週目に2x、そして2週目及び3週目に1x/週。合計処置期間は28日であった。この実験のために、5匹のマウスにアイソタイプネガティブコントロール抗体を投与し;5匹のマウスにコントロールI(Myo29)を投与し;6匹のマウスにH4H1657N2を投与し;そして6匹のマウスにH4H1669Pを投与した。結果を表20にまとめ、ネガティブコントロールに対する増加パーセント±標準偏差として表す。
【0149】
【表20】
【0150】
同様の実験をまた、C57マウスに投与した抗体H4H1657N2及びH4H1669P並びにコントロールを使用して行った。詳細には、10週齢の雄性C57マウスに、以下の投薬スケジュールにしたがって抗体を10mg/kgで皮下投与した。この実験のために、5匹のマウスにアイソタイプネガティブコントロール抗体を投与し;5匹のマウスにコントロールI(Myo29)を投与し;5匹のマウスにH4H1657N2を投与し;そして6匹のマウスにH4H1669Pを投与した。結果を表21にまとめ、ネガティブコントロールに対する増加パーセント±標準偏差として表す。
【0151】
【表21】
【0152】
次に、用量応答実験を、抗体H4H1657N2及びH4H1669PをSCIDマウスにおいて使用して行った。詳細には、10週齢の雄性SCIDマウスに、以下の投薬スケジュールにしたがってコントロール抗体を30mg/kgで、そしてH4H1657N2又はH4H1669Pを2.5、10又は30mg/kgで皮下投与した:1週目は週に2x、そしてその後は週に1x。結果を表22及び23にまとめ、ネガティブコントロールに対する増加パーセント±標準偏差として表す。
【0153】
【表22】
【0154】
【表23】
【0155】
別の実験において、10週齢の6匹の雄性SCIDマウスの5つのグループに、以下の投薬スケジュールにしたがって、アイソタイプネガティブコントロール抗体を10mg/kgで、そしてH4H1657N2を0.1、0.75、2.5、又は10mg/kgで皮下投与した:合計28日の処置の間、1週目は週に2x、そしてその後は週に1x。結果を表24にまとめ、ネガティブコントロールに対する増加パーセント±標準偏差として表す。
【0156】
【表24】
【0157】
この実施例において示されるように、抗体H4H1657N2及びH4H1669Pは、様々な範囲の用量でマウスに投与された場合に、筋肉量において有意な増加を生じた。
【0158】
実施例11. グルコース恒常性に対する抗GDF8抗体の効果
本発明の抗GDF8抗体を、それらのグルコース恒常性及びインスリン感受性に対する効果について食事性肥満(DIO)マウスモデルにおいて試験した。この実験において、DIOマウスを、C57BL6マウスに高脂肪餌(45%kcal脂肪)を9週齢から開始して7週間与えることにより得た。8週目から開始して、抗体を2週間又はそれ以上の間、週に2回30mg/kg投与し、そしてこの試験を1週後に終了した(処置後21日)。この実験で使用した抗体はH4H1669P及びH4H1657N2に加えてアイソタイプネガティブコントロール抗体及びコントロールI(Myo29に対応する抗体GDF8抗体)であった。インスリン耐性試験を、抗体処置の前後に行った。インスリン(2IU/kg)を4時間の絶食後に腹腔内投与し、そしてグルコースレベルを測定した。結果を図3A(抗体処置前)及び3B(抗体処置後)において説明する。
【0159】
この実験において実証されたように、抗GDF8抗体の投与によるミオスタチン阻害は、DIOマウスにおけるグルコース恒常性を改善した。インスリンボーラスに応じたグルコースの低下における有意な差異が、抗GDF8抗体グループ(H4H1669P、H4H1657N2又はコントロールI)とアイソタイプコントロール抗体グループの間で見られた。
【0160】
実施例12. H4H1657N2の投与による、筋萎縮のインビボでの遮断
C57マウスを使用して、ギプス包帯(casting)/固定及びデキサメタゾン投与により誘発される筋萎縮の予防におけるH4H1657N2のインビボでの特性を決定した。
【0161】
ギプス包帯実施例において、8匹のC57マウスの3つのグループを麻酔し、そして足首関節を90°の角度でギプス材料を用いて14日間固定した。第4のグループは平静な(unperturbed)ままにし、そして非固定グループコントロールとして使用した。固定した14日間の間、マウスにアイソタイプネガティブコントロール抗体;コントロールI(Myo29);又はH4H1657N2を投与した。これら3つのグループに抗体を30mg/kgで、固定の時点で開始して週に2回2週間皮下投与した。結果を表25にまとめ、ネガティブコントロールに対する変化パーセント±標準偏差として表す。これらの結果は、固定の14日後に、H4H1657N2抗体処置を受けたグループがアイソタイプコントロールグループに対して骨格筋喪失の有意な減少を示すということを示した。
【0162】
【表25】
【0163】
デキサメタゾン実施例において、5匹のC57マウスの2つのグループを麻酔し、そして浸透圧ポンプを皮下に移植し、これは1μg/g/日のデキサメタゾンを送達した。2つのさらなるグループに食塩水を送達する浸透圧ポンプを移植し、そしてコントロールとして使用した。14日間の処置の間、マウスの2つのグループ(1つは食塩水、及び1つはデキサメタゾン)にアイソタイプネガティブコントロール抗体を投与し;そしてマウスの2つのグループ(1つは食塩水、及び1つはデキサメタゾン)にH4H1657N2抗体を投与した。抗体を30mg/kgで週に2回2週間皮下注射した。抗体処置はポンプ移植の時点で開始した。結果を表26にまとめ、ネガティブコントロールに対する変化パーセント±標準偏差として表す。H4H1657N2抗体を投与されたデキサメタゾングループとアイソタイプコントロールを投与されたグループとの比較は、H4H1657N2抗体での処置がデキサメタゾン処置により誘発される筋肉量喪失を防止することを示した。
【0164】
【表26】
【0165】
実施例13. インビボでのH4H1657N2の特異性
H4H1657N2のインビボでの特異性を調べるために、C57BL6マウスに薬物を注射し、そして処置されたマウスからの血清を、質量分析に基づくリガンド「フィッシング(fishing)実験」にかけた。手短には、薬物(H4H1657N2、コントロールIV又はアイソタイプネガティブコントロール)をC57BL6マウスに14日の期間にわたって複数回(0日目、3日目(D3)、7日目(D7)、10日目(D10))注射した。動物を14日目に屠殺し、そして血清を抗ヒトFcビーズとともにインキュベートした。ビーズを洗浄し、そして結合した物質をSDS−PAGEローディングバッファで溶出した。溶出された物質をSDS−PAGEにかけて5〜20kDaの範囲の分子量に対応するゲルスライスを切り取った。サンプルを、標準的な還元、アルキル化及びトリプシン処理条件を使用して質量の分析のために処理した。消化物をナノC18カラムで分離し、そして自動的にBruker Anchor Targetsにスポットした。MALDI−MS(MS/MS)分析(Bruker Ultraflextreme)を自動化した方法でLC−WARP(Bruker Daltonics)を使用して行った。質量スペクトルをMASCOT(Matrix Science)を使用して検索し、そして結果をアイソタイプコントロールに対して評価した。溶出されたタンパク質は表27に列挙される。
【0166】
【表27】
【0167】
表27に示されるように、マウスGDF8のみがこの実験によりH4H1657N2についての結合パートナーであること同定された。(マウス及びヒトGDF8の配列は同一である。)これに反して、コントロールIVはGDF8に加えてTGFベータリガンドファミリーのいくつかの他のメンバー(とりわけGDF11を含む)に結合した。この実験により、GDF8に対するH4H1657N2の特異性がインビボの状況で確認された。
【0168】
本発明は、本明細書中に記載される特定の実施態様による範囲に限定されるべきではない。実際に、本明細書に記載されるものに加えて本発明の様々な改変が、前述の説明及び添付の図面から当業者に明らかとなるだろう。このような改変は、添付の特許請求の範囲内であることを意図される。
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]