特許第5897083号(P5897083)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5897083耐微摺動摩耗性に優れる接続部品用導電材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5897083
(24)【登録日】2016年3月11日
(45)【発行日】2016年3月30日
(54)【発明の名称】耐微摺動摩耗性に優れる接続部品用導電材料
(51)【国際特許分類】
   C25D 5/10 20060101AFI20160317BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20160317BHJP
   C25D 5/50 20060101ALI20160317BHJP
   C25D 5/12 20060101ALI20160317BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20160317BHJP
   C22C 9/04 20060101ALI20160317BHJP
   C22C 9/01 20060101ALI20160317BHJP
   C22C 9/02 20060101ALI20160317BHJP
   C22C 9/05 20060101ALI20160317BHJP
   C22C 9/06 20060101ALI20160317BHJP
   C22C 9/10 20060101ALI20160317BHJP
   C22C 13/00 20060101ALI20160317BHJP
   H01B 5/02 20060101ALI20160317BHJP
   H01B 1/02 20060101ALI20160317BHJP
   H01R 13/03 20060101ALI20160317BHJP
   C22C 13/02 20060101ALN20160317BHJP
   C22C 19/03 20060101ALN20160317BHJP
   C22F 1/08 20060101ALN20160317BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20160317BHJP
【FI】
   C25D5/10
   C25D7/00 H
   C25D5/50
   C25D5/12
   C22C9/00
   C22C9/04
   C22C9/01
   C22C9/02
   C22C9/05
   C22C9/06
   C22C9/10
   C22C13/00
   H01B5/02 A
   H01B1/02 A
   H01R13/03 D
   !C22C13/02
   !C22C19/03 G
   !C22F1/08 B
   !C22F1/00 602
   !C22F1/00 613
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 630F
   !C22F1/00 630E
   !C22F1/00 630D
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 661A
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 686B
   !C22F1/00 692A
   !C22F1/00 694B
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 604
【請求項の数】12
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2014-170956(P2014-170956)
(22)【出願日】2014年8月25日
【審査請求日】2015年6月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100100974
【弁理士】
【氏名又は名称】香本 薫
(72)【発明者】
【氏名】鶴 将嘉
【審査官】 宮本 靖史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−214882(JP,A)
【文献】 特開2012−167310(JP,A)
【文献】 特開2013−209680(JP,A)
【文献】 特開2010−196084(JP,A)
【文献】 特開2010−265542(JP,A)
【文献】 特開2013−231223(JP,A)
【文献】 特許第4024244(JP,B2)
【文献】 特開平07−157893(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/00 − 7/12
H01R 13/00 − 13/08
H01R 13/15 − 13/35
H01B 1/00 − 1/24
H01B 5/00 − 5/16
C22C 5/00 − 25/00
C22C 27/00 − 28/00
C22C 30/00 − 30/06
C22C 35/00 − 45/10
C22F 1/00 − 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe:0.01〜2.6質量%、P:0.01〜0.3質量%を含有し、残部Cu及び不可避的不純物からなる銅合金板条を母材とし、前記母材の表面に、Cu含有量が20〜70at%のCu−Sn合金被覆層と、Sn被覆層がこの順に形成され、前記Sn被覆層はリフローSnめっきであり、その材料表面は少なくとも一方向における算術平均粗さRaが0.15μm以上で、全ての方向における算術平均粗さRaが3.0μm以下であり、前記Sn被覆層の表面に前記Cu−Sn合金被覆層の一部が露出して形成され、前記Cu−Sn合金被覆層の材料表面露出面積率が3〜75%である接続部品用導電材料において、前記Cu−Sn合金被覆層の平均の厚さが0.2〜3.0μmで同被覆層の表面の平均結晶粒径が2μm未満であり、前記Sn被覆層の平均の厚さが0.05〜5.0μmであることを特徴とする耐微摺動摩耗性に優れる接続部品用導電材料。
【請求項2】
前記銅合金板条が、さらに、Sn:0.001〜0.5%、Zn:0.005〜3.0%の1種又は2種を含有することを特徴とする請求項1に記載された耐微摺動摩耗性に優れる接続部品用導電材料。
【請求項3】
Mn、Mg、CaをA群元素としたとき、前記銅合金板条が、さらに、前記A群元素の1種又は2種以上を合計で0.0001〜0.5質量%含有することを特徴とする請求項1又は2に記載された耐微摺動摩耗性に優れる接続部品用導電材料。
【請求項4】
Zr、Ag、Cr、Cd、Be、Ti、Si、Co、Ni、Al、Au、PtをB群元素としたとき、前記銅合金板条が、さらに、前記B群元素の1種又は2種以上を合計で0.001〜0.5質量%含有することを特徴とする請求項1又は2に記載された耐微摺動摩耗性に優れる接続部品用導電材料。
【請求項5】
Zr、Ag、Cr、Cd、Be、Ti、Si、Co、Ni、Al、Au、PtをB群元素としたとき、前記銅合金板条が、さらに、前記B群元素の1種又は2種以上を合計で0.001〜0.5質量%含有し、かつ前記A群元素とB群元素の合計が0.5質量%以下であることを特徴とする請求項3に記載された耐微摺動摩耗性に優れる接続部品用導電材料。
【請求項6】
前記材料表面は、少なくとも一方向における前記Cu−Sn合金被覆層の平均の材料表面露出間隔が0.01〜0.5mmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載された耐微摺動摩耗性に優れる接続部品用導電材料。
【請求項7】
前記Sn被覆層表面に露出する前記Cu−Sn合金被覆層の厚さが0.2μm以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載された耐微摺動摩耗性に優れる接続部品用導電材料。
【請求項8】
前記母材の表面と前記Cu−Sn合金被覆層の間にさらにCu被覆層を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載された接続部品用導電材料。
【請求項9】
前記母材の表面と前記Cu−Sn合金被覆層の間にさらにNi被覆層、Co被覆層、Fe被覆層のうちいずれか1つからなる下地層が形成され、前記下地層の平均の厚さが0.1〜3.0μmであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載された接続部品用導電材料。
【請求項10】
前記母材の表面と前記Cu−Sn合金被覆層の間にさらにNi被覆層、Co被覆層、Fe被覆層のうちいずれか2つからなる下地層が形成され、前記下地層の合計の平均の厚さが0.1〜3.0μmであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載された耐微摺動摩耗性に優れる接続部品用導電材料。
【請求項11】
前記下地層とCu−Sn合金被覆層の間にさらにCu被覆層を有することを特徴とする請求項9又は10に記載された接続部品用導電材料。
【請求項12】
前記材料表面にさらに平均厚さ0.02〜0.2μmのSnめっき層が形成されていることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載された耐微摺動摩耗性に優れる接続部品用導電材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として自動車分野や一般民生分野で用いられる端子等の接続部品用導電材料に関し、特に微摺動摩耗を低減できるSnめっき付接続部品用導電材料に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジンを電子的に制御する機器(ECU: Electronic Control Unit)等に用いられる多極コネクタ用嵌合端子の素材として、Cu−Ni−Si系、Cu−Ni−Sn−P系、Cu−Fe−P系、Cu−Zn系等、種々の銅合金が用いられている。
【0003】
Cu−Ni−Si系合金は、600MPa以上の引張り強さ、中程度の導電率(35〜45%IACS)、及び0.2%耐力の80%の曲げ応力負荷状態で150℃×1000時間保持後の応力緩和率が12〜20%程度の特性を有し、強度と耐応力緩和特性に優れている。
Cu−Zn系を代表するC2600(Cu−30質量%Zn)は、500〜600MPaの引張り強さと高いばね限界値を有する。また、Cuより価格の安いZnを多く含有し、かつ加工熱処理工程が比較的単純であるため、価格が安い。このため、嵌合端子の素材として多用されているが、導電率が28%IACSと低く、前記条件での応力緩和率が70%を超える等の弱点がある。
【0004】
C19210、C194等のCu−Fe−P系合金は、引張り強さ400〜600MPa程度、導電率60〜90%IACS、前記条件における応力緩和率が60%以下の特性を有する。しかし、Cu−Fe−P系合金の場合、応力緩和特性を向上させるMg、Sn等の合金元素を添加し、加工熱処理条件の最適化を行っても、25%以下の応力緩和率を達成することは難しい。なお、耐応力緩和特性が求められる雌端子の場合、通常、前記条件での応力緩和率が25%以下の銅合金が選定される。
【0005】
一方、Cu−Fe−P系合金は、Cu−Ni−Si系合金や黄銅より導電率が高く、端子を小型化(オス−メス端子間の接触面積が小さくなる)しても、温度上昇の抑制に有利である。また、応力緩和率が黄銅より15%以上小さい。さらに、Snを先めっきした銅合金条を打抜き加工して製作した端子の打抜き加工面は母材が露出するが、合金元素の含有量が2.5質量%以下のCu−Fe−P系合金の場合、露出部分のはんだ濡れ性が優れ、Snを後めっきすることなくはんだ付けが可能である。Cu−Fe−P系合金にはこのような利点があることから、特に小型の嵌合端子用、更にはその中でも雄端子用として用いられるようになってきた。
【0006】
嵌合端子には、耐食性確保及び接触部における接触抵抗低減等のため、表面に厚さ1μm程度のSn被覆層(リフローSnめっきなど)が設けられる。Sn被覆層を形成した嵌合端子では、オス端子をメス端子に挿入する際、軟質なSn被覆層(Hv:10〜30程度)が塑性変形し、オス−メス端子間に生じたSn−Snの凝着部が剪断される。このとき発生する変形抵抗及び剪断抵抗により、Sn被覆層を形成した嵌合端子では、端子の挿入力が大きくなる。
前記ECUは、多数の嵌合端子を収容するコネクタにより接続されることから、局数の増大に伴って接続の際の挿入力が大きくなる。従って、作業者の負担の軽減、接続の完全性確保等の観点から、嵌合端子の挿入力低減が求められている。
【0007】
端子嵌合後においては、微摺動摩耗現象が問題となる。微摺動摩耗現象とは、自動車のエンジンの振動や走行時の振動、及び雰囲気温度の変動に伴う膨張、収縮等により、オス端子とメス端子の間に摺動が発生し、これにより端子表面のSnめっきが摩耗する現象である。微摺動摩耗現象で生じたSnの摩耗粉が酸化し、接点部近傍に多量に堆積し、摺動する接点部同士の間にかみ込むと、接点部同士の接触抵抗が増大する。この微摺動磨耗現象はオス端子とメス端子の間の接圧力が小さいほど発生しやすくなることから、挿入力が小さい(接圧力が小さい)嵌合端子において特に発生しやすい。前記のとおり、Cu−Fe−P系合金は応力緩和率が比較的大きいため、Cu−Fe−P系合金を素材とする嵌合端子は、高温長時間経過後、端子の接圧力が低下する。従って、Cu−Fe−P系合金を素材とする端子は、応力緩和率が小さいCu−Ni−Si系合金を素材とする端子に比べ、微摺動磨耗がより発生しやすくなっている。
【0008】
一方、特許文献1には、銅合金母材表面に、厚さが0.1〜1.0μmのNi層、厚さ0.1〜1.0μmのCu−Sn合金層、及び厚さが2μm以下のSn層からなる表面めっき層がこの順に形成された接続部品用導電材料が記載されている。特許文献1の記載によれば、Sn層の厚さが0.5μm以下のとき動摩擦係数が低下し、多極の嵌合端子として用いたときに挿入力を低く抑えることができる。
【0009】
特許文献2には、表面粗さを大きくした銅合金母材の表面に、必要に応じてNiめっきを行い、続いてCuめっき及びSnめっきをこの順に施した後、リフロー処理することにより得られた接続部品用導電材料が記載されている。この接続部品用導電材料は、銅合金母材の表面に、厚さが3μm以下のNi被覆層(Niめっきが行われた場合)、厚さが0.2〜3μmのCu−Sn合金被覆層、及び厚さが0.2〜5μmのSn被覆層からなる表面被覆層を有する。この接続部品用導電材料は、Sn被覆層の間から硬質のCu−Sn合金被覆層が一部露出しているため動摩擦係数が小さく、嵌合端子として用いたとき、端子の接圧力を小さくすることなく、挿入力を低減することができる。特許文献2には、銅合金母材をCu−Fe−P系合金とした発明例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−68026号公報
【特許文献2】特開2006−183068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に記載された接続部品用導電材料は、従来のリフローSnめっき材に比べて端子挿入時の動摩擦係数を大幅に低下させることができる。しかし、さらなる動摩擦係数の低下と耐微摺動磨耗特性の改善が求められていた。
特許文献2に記載された接続部品用導電材料は、特許文献1に記載された接続部品用導電材料に比べて端子挿入時の動摩擦係数を低下させることができるため、低挿入力化のために端子の接圧力を小さくする必要がない。従って、従来のSnめっき付き銅合金材に比べて微摺動摩耗が起きにくく、Snの摩耗粉の発生量が少なく、その結果、接触抵抗の増大が抑えられる。このため、この接続部品用導電材料は、自動車等の分野で実際に使用が増えている。しかし同時に、高い導電率を有し端子の小型化に適する一方で、応力緩和率が比較的大きいCu−Fe−P系合金を用いた場合において、耐微摺動摩耗特性のさらなる改善が求められている。
【0012】
本発明は、銅合金母材として応力緩和率が比較的大きいCu−Fe−P系合金を用いた接続部品用導電材料において、その耐微摺動摩耗特性を、特許文献2等に記載された従来の接続部品用導電材料に比べて改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る接続部品用導電材料は、Fe:0.01〜2.6質量%、P:0.01〜0.3質量%を含有し、残部Cu及び不可避的不純物からなる銅合金板条を母材とし、前記母材の表面に、Cu含有量が20〜70at%のCu−Sn合金被覆層と、Sn被覆層がこの順に形成され、材料表面はリフロー処理されていて、前記Sn被覆層はリフローSnめっきであり、その材料表面は少なくとも一方向における算術平均粗さRaが0.15μm以上で、全ての方向における算術平均粗さRaが3.0μm以下であり、前記Sn被覆層の表面に前記Cu−Sn合金被覆層の一部が露出して形成され、前記Cu−Sn合金被覆層の材料表面露出面積率が3〜75%である接続部品用導電材料において、前記Cu−Sn合金被覆層の平均の厚さが0.2〜3.0μmで同被覆層の表面の平均結晶粒径が2μm未満であり、前記Sn被覆層の平均の厚さが0.05〜5.0μmであることを特徴とする。
【0014】
上記接続部品用導電材料において、前記銅合金は、必要に応じて、さらに、Sn:0.001〜0.5%、Zn:0.005〜3.0%の1種又は2種を含有することができる。
また、前記銅合金は、必要に応じて、さらに、A群元素(Mn、Mg、Ca)の1種又は2種以上を合計で0.0001〜0.5質量%、又は/及び、B群元素(Zr、Ag、Cr、Cd、Be、Ti、Si、Co、Ni、Al、Au、Pt)の1種又は2種以上を合計で0.001〜0.5質量%含有することができる。前記銅合金が前記A群元素とB群元素の両方を含有する場合、その合計含有量は0.5質量%以下とする。
【0015】
上記接続部品用導電材料は、特許文献2に記載された接続部品用導電材料と同じく、以下の好ましい実施の形態をとり得る。
前記材料表面は、少なくとも一方向における前記Cu−Sn合金被覆層の平均の材料表面露出間隔が0.01〜0.5mmである。
前記Sn被覆層表面に露出する前記Cu−Sn合金被覆層の厚さが0.2μm以上である。
前記母材の表面は、少なくとも一方向における算術平均粗さRaが0.3μm以上で、全ての方向における算術平均粗さRaが4.0μm以下である。
前記母材の表面は、少なくとも一方向における凹凸の平均間隔Smが0.01〜0.5mmである。
【0016】
また、上記接続部品用導電材料の表面被覆層は、以下の好ましい実施の形態をとり得る。
前記母材の表面と前記Cu−Sn合金被覆層の間にさらにCu被覆層を有する。
前記母材の表面と前記Cu−Sn合金被覆層の間にさらにNi被覆層、Co被覆層、Fe被覆層のうちいずれか1つからなる下地層が形成され、前記下地層の平均の厚さが0.1〜3.0μmである。
前記母材の表面と前記Cu−Sn合金被覆層の間にさらにNi被覆層、Co被覆層、Fe被覆層のうちいずれか2つの下地層が形成され、2層からなる前記下地層の合計の平均厚さが0.1〜3.0μmである。
前記下地層が形成された場合に、前記下地層とCu−Sn合金被覆層の間にさらにCu被覆層を有する。
前記リフロー処理された材料表面にさらに平均厚さ0.02〜0.2μmのSnめっき層が形成されている。
前記Sn被覆層、Cu被覆層、Ni被覆層、Co被覆層及びFe被覆層は、それぞれSn、Cu、Ni、Co、Fe金属のほか、Sn合金、Cu合金、Ni合金、Co合金、Fe合金を含む。また、前記Snめっき層は、Sn金属のほか、Sn合金を含む。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、銅合金母材として応力緩和率が比較的大きいCu−Fe−P系合金を用いた接続部品用導電材料において、その耐微摺動摩耗特性を、特許文献2等に記載された従来の接続部品用導電材料に比べて改善することができる。また、リフロー処理後の材料表面にSnめっき層を形成した場合、特許文献2に記載された従来の接続部品用導電材料に比べて、はんだ付け性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例No.4のCu−Sn合金被覆層表面のSEM(走査型電子顕微鏡)組織写真である。
図2】微摺動摩耗測定治具の概念図である。
図3】摩擦係数測定治具の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[銅合金母材]
(1)Cu−Fe−P合金の組成
本発明は、Fe:0.01〜2.6質量%、P:0.01〜0.3質量%を含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなるCu−Fe−P合金を対象とする。
Feは、Fe単体又はFe基金属間化合物として析出し、銅合金の強度や耐熱性を向上させる主要元素である。Feの含有量が0.01質量%未満では、析出物の生成量が少なく、導電率の向上は満たされるものの、強度向上への寄与が不足し、強度が不足する。一方、Feの含有量が2.6質量%を超えると、導電率が低下しやすく、導電率を増加させるために析出量を増やそうとすると、逆に、析出物の成長・粗大化を招き、強度と曲げ加工性が低下する。従って、Feの含有量は0.01〜2.6質量%の範囲とする。
【0020】
Pは、脱酸作用があるほか、Feと化合物を形成して、銅合金を高強度化させる主要元素である。Pの含有量が0.01質量%未満では、製造条件によっては、析出物の生成量が少なく、所望の強度が得られない。一方、P含有量が0.3質量%を超えると、導電性が低下するだけでなく、熱間加工性が低下する。従って、Pの含有量は0.01〜0.3質量%の範囲とする。
【0021】
上記Cu−Fe−P合金は、必要に応じて、さらに、Sn:0.001〜0.5質量%、Zn:0.005〜3.0質量%の1種又は2種を含有することができる。
Znは、Cu−Fe−P合金のはんだめっき及びSnめっきの耐熱剥離性を改善する。Znの含有量が0.005質量%未満の場合、所望の効果が得られない。一方、Znの含有量が3.0質量%を超えると、はんだ濡れ性が低下するだけでなく、導電率の低下が大きくなる。従って、Znの含有量は0.005〜3.0%とする。
Snは、Cu−Fe−P合金の強度向上に寄与する。Snの含有量が0.001質量%未満の場合は高強度化に寄与しない。一方、Snの含有量が0.5質量%を超えて多くなると、その効果が飽和し、逆に、導電率の低下を招くばかりか、曲げ加工性も劣化する。銅合金の強度及び導電率を所望の範囲内とするため、Snの含有量は0.001〜0.5質量%の範囲とする。
【0022】
上記Cu−Fe−P合金は、必要に応じて、さらに、A群元素(Mn、Mg、Ca)の1種又は2種以上、又は/及び、B群元素(Zr、Ag、Cr、Cd、Be、Ti、Si、Co、Ni、Al、Au、Pt)の1種又は2種以上を含有することができる。
前記A群元素は、Cu−Fe−P合金の熱間加工性の向上に寄与する。前記A群元素の含有量が0.0001質量%未満の場合、所望の効果が得られない。一方、前記A群元素の含有量が0.5質量%を越えると、粗大な晶出物や酸化物が生成してCu−Fe−P合金の曲げ加工性が低下し、導電率の低下も激しくなる。従って、前記A群元素の含有量は0.0001〜0.5質量%の範囲とする。
【0023】
前記B群元素(Zr、Ag、Cr、Cd、Be、Ti、Si、Co、Ni、Al、Au、Pt)は、Cu−Fe−P合金の強度を向上させる効果がある。前記B群元素の含有量が合計で0.001質量%未満の場合、所望の効果が得られない。一方、前記B群元素の含有量が合計で0.5質量%を越えると、粗大な晶出物や酸化物が生成してCu−Fe−P合金の曲げ加工性が低下し、導電率の低下も激しくなる。従って、前記B群元素の含有量は0.001〜0.5質量%の範囲とする。なお、上記Cu−Fe−P合金が前記A群元素とB群元素の両方を含有する場合、導電率の低下を抑えるため、その合計含有量は0.5質量%以下とする。
なお、以上説明したCu−Fe−P合金の組成自体は公知である。
【0024】
(2)Cu−Fe−P合金の特性
本発明に係るCu−Fe−P合金板材は、圧延方向に平行(L.D.)及び垂直(T.D.)方向に採取した試験片において0.2%耐力が共に400MPa以上、導電率が55%IACS以上であることが望ましい。また、圧延方向に平行(L.D.)方向において、0.2%耐力の80%の曲げ応力負荷状態で150℃×1000時間保持後の応力緩和率が、60%以下であることが望ましい。なお、応力緩和率の値はリフロー処理の前後で事実上変化しないと推測される。
【0025】
(3)Cu−Fe−P合金の製造方法
Cu−Fe−P系銅合金板条は、通常、鋳塊を面削後、熱間圧延し、熱間圧延後急冷し又は溶体化処理し、続いて冷間圧延及び析出焼鈍を行った後、仕上げ冷間圧延を行って製造されている。冷間圧延及び析出焼鈍は必要に応じて繰り返し、仕上げ冷間圧延後に必要に応じて低温焼鈍が行われる。本発明に係るCu−Fe−P合金板条(めっき母材)の場合も、この製造工程自体を大きく変更する必要はない。耐応力緩和特性及び導電率の向上のため、熱間圧延以後の加工熱処理工程で、Cu合金板条中にFe及びFe−P化合物の微細析出物を多量に析出させる条件を選定する。
【0026】
熱間圧延は、700℃以上の温度で終了し、直ちに水冷する。熱間圧延後、溶体化処理を行う場合は、700℃以上の温度に再加熱した後、その温度から水冷する。
析出焼鈍は、微細なFe及びFe−P化合物を析出させるための熱処理であり、板条の温度が300〜600℃程度に達してから、0.5〜30時間程度保持する。
Cu−Fe−P系銅合金板条の耐応力緩和特性を改善するため、最終冷間圧延後に低温焼鈍を行うことが好ましい。バッチ焼鈍の場合、板条の温度が300〜400℃程度に達してから10分〜5時間程度保持する。連続焼鈍の場合、400〜650℃の雰囲気の炉に板条を連続通板すればよい(実体温度条件としては、板条の温度が300〜400℃程度に達してから5秒〜1分程度保持する)。
【0027】
[表面被覆層]
(1)Cu−Sn合金被覆層中のCu含有量
Cu−Sn合金被覆層中のCu含有量は、特許文献2に記載された接続部品用導電材料と同じく、20〜70at%とする。Cu含有量が20〜70at%のCu−Sn合金被覆層は、CuSn相を主体とする金属間化合物からなる。本発明ではCuSn相がSn被覆層の表面に部分的に突出しているため、電気接点部の摺動の際に接圧力を硬いCuSn相で受けてSn被覆層同士の接触面積を一段と低減でき、これによりSn被覆層の摩耗や酸化も減少する。一方、CuSn相はCuSn相に比べてCu含有量が多いため、これをSn被覆層の表面に部分的に露出させた場合には、経時や腐食などによる材料表面のCuの酸化物量などが多くなり、接触抵抗を増加させ易く、電気的接続の信頼性を維持することが困難となる。また、CuSn相はCuSn相に比べて脆いために、成形加工性などが劣るという問題点がある。従って、Cu−Sn合金被覆層の構成成分を、Cu含有量が20〜70at%のCu−Sn合金に規定する。このCu−Sn合金被覆層には、CuSn相が一部含まれていてもよく、母材及びSnめっき中の成分元素などが含まれていてもよい。しかし、Cu−Sn合金被覆層のCu含有量が20at%未満では凝着量が増して微摺動摩耗性が低下する。一方、Cu含有量が70at%を超えると経時や腐食などによる電気的接続の信頼性を維持することが困難となり、成形加工性なども悪くなる。従って、Cu−Sn合金被覆層中のCu含有量は20〜70at%とする。Cu−Sn合金被覆層中のCu含有量の下限は好ましくは45at%であり、上限は好ましくは65at%である。
【0028】
(2)Cu−Sn合金被覆層の平均の厚さ
Cu−Sn合金被覆層の平均の厚さは、特許文献2に記載された接続部品用導電材料と同じく、0.2〜3.0μmとする。本発明では、Cu−Sn合金被覆層の平均の厚さを、Cu−Sn合金被覆層に含有されるSnの面密度(単位:g/mm)をSnの密度(単位:g/mm)で除した値と定義する。下記実施例に記載したCu−Sn合金被覆層の平均の厚さ測定方法は、この定義に準拠するものである。Cu−Sn合金被覆層の平均の厚さが0.2μm未満では、本発明のようにCu−Sn合金被覆層を材料表面に部分的に露出形成させる場合には、高温酸化などの熱拡散による材料表面のCuの酸化物量が多くなる。材料表面のCuの酸化物量が多くなると、接触抵抗が増加し易く、電気的接続の信頼性を維持することが困難となる。一方、3.0μmを超える場合には、経済的に不利であり、生産性も悪く、硬い層が厚く形成されるために成形加工性なども悪くなる。従って、Cu−Sn合金被覆層の平均の厚さを0.2〜3.0μmに規定する。Cu−Sn合金被覆層の平均の厚さの下限は好ましくは0.3μmであり、上限は好ましくは1.0μmである。
【0029】
(3)Sn被覆層の平均の厚さ
Sn被覆層の平均の厚さは0.05〜5.0μmとする。この範囲は、特許文献2に記載された接続部品用導電材料におけるSn被覆層の平均の厚さ(0.2〜5.0μm)と比べると、薄厚方向にやや広い。Sn被覆層の平均の厚さが0.2μm未満では、特許文献2に記載されているとおり、高温酸化などの熱拡散による材料表面のCuの酸化物量が多くなり、接触抵抗を増加させ易く、耐食性も悪くなる。その一方で、摩擦係数が低下し、大幅な低挿入力化を実現できる。しかし、Sn被覆層の平均の厚さがさらに薄く、0.05μm未満になると、軟らかいSnによる潤滑効果が発揮されなくなり、逆に摩擦係数が上昇する。Sn被覆層の平均の厚さが5.0μmを超える場合には、Snの凝着により、摩擦係数が上昇するだけでなく、経済的に不利であり、生産性も悪くなる。従って、Sn被覆層の平均の厚さを0.05〜5.0μmに規定する。このうち、低接触抵抗及び高耐食性が重視される用途の場合は0.2μm以上が好ましく、特に低摩擦係数が重視される用途の場合は0.2μm未満が好ましい。Sn被覆層の平均の厚さの下限は好ましくは0.07μm、さらに好ましくは0.10μmであり、上限は好ましくは3.0μm、さらに好ましくは1.5μmである。
Sn被覆層がSn合金からなる場合、Sn合金のSn以外の構成成分としては、Pb、Bi、Zn、Ag、Cuなどが挙げられる。Pbについては50質量%未満、他の元素については10質量%未満が好ましい。
【0030】
(4)材料表面の算術平均粗さRa
特許文献2に記載された接続部品用導電材料と同じく、材料表面の少なくとも一方向における算術平均粗さRaが0.15μm以上、全ての方向における算術平均粗さRaが3.0μm以下とする。全ての方向において算術平均粗さRaが0.15μm未満の場合、Cu−Sn合金被覆層の材料表面突出高さが全体に低く、電気接点部の摺動の際に接圧力を硬いCuSn相で受ける割合が小さくなり、特に微摺動によるSn被覆層の摩耗量を低減することが困難となる。一方、いずれかの方向において算術平均粗さRaが3.0μmを超える場合、高温酸化などの熱拡散による材料表面のCuの酸化物量が多くなり、接触抵抗を増加させ易く、電気的接続の信頼性を維持することが困難となる。従って、母材の表面粗さは、少なくとも一方向の算術平均粗さRaが0.15μm以上かつ全ての方向の算術平均粗さRaが3.0μm以下と規定する。好ましくは、少なくとも一方向の算術平均粗さRaが0.2μm以上で、全ての方向の算術平均粗さRaが2.0μm以下である。
【0031】
(5)Cu−Sn合金被覆層の材料表面露出面積率
Cu−Sn合金被覆層の材料表面露出面積率は、特許文献2に記載された接続部品用導電材料と同じく、3〜75%とする。なお、Cu−Sn合金被覆層の材料表面露出面積率は、材料の単位表面積あたりに露出するCu−Sn合金被覆層の表面積に100をかけた値として算出される。Cu−Sn合金被覆層の材料表面露出面積率が3%未満では、Sn被覆層同士の凝着量が増し、耐微摺動摩耗性が低下してSn被覆層の摩耗量が増加する。一方、75%を超える場合には、経時や腐食などによる材料表面のCuの酸化物量などが多くなり、接触抵抗を増加させ易く、電気的接続の信頼性を維持することが困難となる。従って、Cu−Sn合金被覆層の材料表面露出面積率を3〜75%に規定する。好ましくは下限が10%、上限が50%である。
【0032】
(6)Cu−Sn合金被覆層表面の平均結晶粒径
Cu−Sn合金被覆層表面の平均結晶粒径は2μm未満とする。Cu−Sn合金被覆層表面の平均結晶粒径が小さくなると、Cu−Sn合金被覆層表面の硬さ、及びCu−Sn合金被覆層の上に存在するSn被覆層の見かけの硬さが大きくなり、動摩擦係数がさらに小さくなる。また、Cu−Sn合金被覆層表面の硬さが大きくなることで、端子の摺動時にCu−Sn合金層が変形又は破壊しにくくなり、耐微摺動摩耗性が向上する。
さらに、Cu−Sn合金被覆層表面の平均結晶粒径が小さくなると、Cu−Sn合金被覆層の表面の微視的な凹凸が小さくなり、露出したCu−Sn合金層被覆層と相手側端子との接触面積が増大する。これにより、Cu−Sn合金被覆層と相手側端子のCu−Sn合金被覆層又はSn被覆層の間の凝着力が大きくなり、端子の静摩擦係数が増大し、端子間に振動、熱膨張・収縮が作用しても端子同士がずれにくくなり、耐微摺動磨耗性が向上する。
そのため、Cu−Sn合金被覆層表面の平均結晶粒径は2μm未満、好ましくは1.5μm以下、更に好ましくは1.0μm以下とする。なお、後述する実施例に示すとおり、特許文献2において好ましいとされるリフロー処理条件で得られた接続部品用導電材料では、Cu−Sn合金被覆層表面の平均結晶粒径は2μmを越えている。
【0033】
(7)Cu−Sn合金被覆層の平均の材料表面露出間隔
Cu−Sn合金被覆層の少なくとも一方向における平均の材料表面露出間隔は、特許文献2に記載された接続部品用導電材料と同じく、0.01〜0.5mmとすることが好ましい。なお、Cu−Sn合金被覆層の平均の材料表面露出間隔は、材料表面に描いた直線を横切るCu−Sn合金被覆層の平均の幅(前記直線に沿った長さ)とSn被覆層の平均の幅を足した値と定義する。Cu−Sn合金被覆層の平均の材料表面露出間隔が0.01mm未満では、高温酸化などの熱拡散による材料表面のCuの酸化物量が多くなり、接触抵抗を増加させ易く、電気的接続の信頼性を維持することが困難となる。一方、0.5mmを超える場合には、特に小型端子に用いた際に低い摩擦係数を得ることが困難となる場合が生じてくる。一般的に端子が小型になれば、インデントやリブなどの電気接点部(挿抜部)の接触面積が小さくなるため、挿抜の際にSn被覆層同士のみの接触確率が増加する。これにより凝着量が増すため、低い摩擦係数を得ることが困難となる。従って、Cu−Sn合金被覆層の平均の材料表面露出間隔を少なくとも一方向において0.01〜0.5mmとすることが好ましい。より好ましくは、Cu−Sn合金被覆層の平均の材料表面露出間隔を全ての方向において0.01〜0.5mmにする。これにより、挿抜の際のSn被覆層同士のみの接触確率が低下する。好ましくは下限が0.05mm、上限が0.3mmである。
【0034】
(8)表面に露出するCu−Sn合金被覆層の厚さ
本発明に係る接続部品用導電材料において、表面に露出するCu−Sn合金被覆層の厚さは、特許文献2に記載された接続部品用導電材料と同じく、0.2μm以上とすることが好ましい。本発明のようにCu−Sn合金被覆層の一部をSn被覆層の表面に露出させる場合、製造条件によりSn被覆層の表面に露出するCu−Sn合金被覆層の厚さが前記Cu−Sn合金被覆層の平均の厚さと比較して極めて薄くなる場合が生じるからである。
なお、Sn被覆層の表面に露出するCu−Sn合金被覆層の厚さは、断面観察により測定した値と定義する(前記Cu−Sn合金被覆層の平均の厚さ測定方法とは異なる)。Sn被覆層の表面に露出するCu−Sn合金被覆層の厚さが0.2μm未満の場合、微摺動摩耗現象が早期に生じやすい。また、高温酸化などの熱拡散による材料表面のCuの酸化物量が多くなり、また耐食性も低下することから、接触抵抗を増加させ易く、電気的接続の信頼性を維持することが困難となる。従って、Sn被覆層の表面に露出するCu−Sn合金被覆層の厚さを0.2μm以上とすることが好ましい。より好ましくは0.3μm以上である。
【0035】
(9)リフロー処理後に形成されるSnめっき層
リフロー処理後に接続部品用導電材料の表面に形成されるSnめっき層の平均の厚さは0.02〜0.2μmとする。このSnめっき層が形成された接続部品用導電材料は、はんだ濡れ性が向上するため、はんだ付け接合部を有する端子の製造に適する。Snめっきは、光沢Snめっき、無光沢Snめっき、あるいはその中間の光沢度が得られる半光沢Snめっきのいずれでもよい。Snめっき層の平均の厚さが0.02μm未満では、はんだ濡れ性の向上の効果が小さく、0.2μmを超えると摩擦係数が高くなり、かつ耐微摺動摩耗性が低下する。このSnめっき層の平均の厚さは0.03μm以上が好ましく、0.05μm以上がさらに好ましい。
このSnめっき層は、リフロー処理後の表面全体に均一な厚さで形成することが好ましいが、リフロー処理後の表面に露出したCu−Sn合金被覆層とSn被覆層とでは、Snめっきの付きやすさに差がある(後者が前者より付きやすい)。このため、露出したCu−Sn合金被覆層の部分には、Snめっきの未着部が一部存在する場合がある。
【0036】
(10)その他の表面被覆層構成
(a)特許文献2に記載された接続部品用導電材料と同じく、母材とCu−Sn合金被覆層の間にCu被覆層を有していてもよい。このCu被覆層はリフロー処理後にCuめっき層が残留したものである。Cu被覆層は、Znやその他の母材構成元素の材料表面への拡散を抑制するのに役立ち、はんだ付け性などが改善されることが広く知られている。Cu被覆層は厚くなりすぎると成型加工性などが劣化し、経済性も悪くなることから、Cu被覆層の厚さは3.0μm以下が好ましい。
Cu被覆層には、母材に含まれる成分元素等が少量混入していてもよい。また、Cu被覆層がCu合金からなる場合、Cu合金のCu以外の構成成分としてはSn、Zn等が挙げられる。Snの場合は50質量%未満、他の元素については5質量%未満が好ましい。
【0037】
(b)特許文献2に記載された接続部品用導電材料と同じく、母材とCu−Sn合金被覆層の間(Cu被覆層がない場合)、又は母材とCu被覆層の間に、下地層としてNi被覆層が形成されていてもよい。Ni被覆層はCuや母材構成元素の材料表面への拡散を抑制して、高温長時間使用後も接触抵抗の上昇を抑制するとともに、Cu−Sn合金被覆層の成長を抑制してSn被覆層の消耗を防止し、また亜硫酸ガス耐食性が向上することが知られている。また、Ni被覆層自身の材料表面への拡散はCu−Sn合金被覆層やCu被覆層により抑制される。このことから、Ni被覆層を形成した接続部品用材料は、耐熱性が求められる接続部品に特に適する。しかし、Ni被覆層の平均の厚さが0.1μm未満の場合、Ni被覆層中のピット欠陥が増加することなどにより、上記効果を充分に発揮できなくなる。このため、Ni被覆層の平均の厚さは0.1μm以上であることが好ましい。一方、Ni被覆層は厚くなりすぎると成型加工性などが劣化し、経済性も悪くなることから、Ni被覆層の平均の厚さは3.0μm以下が好ましい。Ni被覆層の平均厚さは、好ましくは下限が0.2μm、上限が2.0μmである。
Ni被覆層には、母材に含まれる成分元素等が少量混入していてもよい。また、Ni被覆層がNi合金からなる場合、Ni合金のNi以外の構成成分としては、Cu、P、Coなどが挙げられる。Cuについては40質量%以下、P、Coについては10質量%以下が好ましい。
【0038】
(c)Ni被覆層に代え、下地層としてCo被覆層又はFe被覆層を用いることができる。Co被覆層はCo又はCo合金からなり、Fe被覆層はFe又はFe合金からなる。
Co被覆層又はFe被覆層は、Ni被覆層と同様に、母材構成元素の材料表面への拡散を抑制する。このため、Cu−Sn合金層の成長を抑制してSn層の消耗を防止し、高温長時間使用後において接触抵抗の上昇を抑制するとともに、良好なはんだ濡れ性を得るのに役立つ。しかし、Co被覆層又はFe被覆層の平均厚さが0.1μm未満の場合、Ni被覆層と同様に、Co被覆層又はFe被覆層中のピット欠陥が増加することなどにより、上記効果を充分に発揮できなくなる。また、Co被覆層又はFe被覆層の平均厚さが3.0μmを超えて厚くなると、Ni被覆層と同様に、上記効果が飽和し、また曲げ加工で割れが発生するなど端子への成形加工性が低下し、生産性や経済性も悪くなる。従って、Co被覆層又はFe被覆層を下地層としてNi被覆層の代わりに用いる場合、Co被覆層又はFe被覆層の平均厚さは0.1〜3.0μmとする。Co被覆層又はFe被覆層の平均厚さは、好ましくは下限が0.2μm、上限が2.0μmである。
【0039】
(d)Ni被覆層、Co被覆層、Fe被覆層のうちいずれか2つを、下地層として用いることができる。この場合、Co被覆層又はFe被覆層を、母材表面とNi被覆層の間、又は前記Ni被覆層とCu−Sn合金層の間に形成することが好ましい。2層の下地層(Ni被覆層、Co被覆層、Fe被覆層のうちいずれか2つ)の合計の平均厚さは、下地層をNi被覆層のみ、Co被覆層のみ又はFe被覆層のみとした場合と同じ理由で、0.1〜3.0μmとする。この合計の平均厚さは、好ましくは下限が0.2μm、上限が2.0μmである。
【0040】
[接続部品用導電材料の製造方法]
本発明の接続部品用導電材料は、銅合金母材の表面を粗化処理したうえで、該母材表面に直接に、あるいはNiめっき層やCuめっき層を介してSnめっき層を形成し、続いてリフロー処理することにより製造する。この製造方法のステップは、特許文献2に記載された接続部品用導電材料の製造方法と同じである。
母材の表面を粗化処理する方法としては、イオンエッチング等の物理的方法、エッチングや電解研磨等の化学的方法、圧延(研磨やショットブラスト等により粗面化したワークロールを使用)、研磨、ショットブラスト等の機械的方法がある。この中で、生産性、経済性及び母材表面形態の再現性に優れる方法としては、圧延や研磨が好ましい。
Niめっき層、Cuめっき層及びSnめっき層が、それぞれNi合金、Cu合金及びSn合金からなる場合、先にNi被覆層、Cu被覆層及びSn被覆層に関して説明した各合金を用いることができる。
【0041】
Niめっき層の平均の厚さは0.1〜3μm、Cuめっき層の平均の厚さは0.1〜1.5μm、Snめっき層の平均の厚さは0.4〜8.0μmの範囲が好ましい。Niめっき層を形成しない場合、Cuめっき層を全く形成しないこともあり得る。
リフロー処理により、Cuめっき層又は銅合金母材のCuとSnめっき層のSnが相互拡散し、Cu−Sn合金被覆層が形成されるが、その際にCuめっき層が全て消滅する場合と一部残留する場合の両方があり得る。
【0042】
粗化処理後の母材表面粗さは、特許文献2に記載された接続部品用導電材料と同じく、少なくとも一方向の算術平均粗さRaが0.3μm以上、かつ全ての方向の算術平均粗さRaが4.0μm以下であることが望ましい。全ての方向において算術平均粗さRaが0.3μm未満の場合、本発明の接続部品用導電材料の製造が困難となる。具体的にいえば、リフロー処理後の材料表面の少なくとも一方向における算術平均粗さRaを0.15μm以上とし、かつCu−Sn合金被覆層の材料表面露出面積率を3〜75%とし、同時にSn被覆層の平均の厚さを0.05〜5.0μmとすることが困難となる。一方、いずれかの方向において算術平均粗さRaが4.0μmを超える場合、溶融Sn又はSn合金の流動作用によるSn被覆層表面の平滑化が困難となる。従って、母材の表面粗さは、少なくとも一方向の算術平均粗さRaが0.3μm以上、かつ全ての方向の算術平均粗さRaが4.0μm以下とする。この表面粗さとしたことにより、溶融Sn又はSn合金の流動作用(Sn被覆層の平滑化)に伴い、リフロー処理で成長したCu−Sn合金被覆層の一部が材料表面に露出する。母材の表面粗さは、好ましくは、少なくとも一方向の算術平均粗さRaが0.4μm以上、全ての方向の算術平均粗さRaが3.0μm以下である。
【0043】
また、特許文献2に記載された接続部品用導電材料と同じく、母材表面の前記一方向において算出された凹凸の平均間隔Smは、0.01〜0.5mmとすることが好ましい。リフロー処理によりCuめっき層又は銅合金母材と溶融したSnめっき層の間に形成されるCu−Sn拡散層は、通常、母材の表面形態を反映して成長する。このため、リフロー処理により形成されるCu−Sn合金被覆層の材料表面露出間隔は、母材表面の凹凸の平均間隔Smをおよそ反映したものとなる。従って、母材表面の前記一方向において算出された凹凸の平均間隔Smは、0.01〜0.5mmであることが好ましい。より好ましくは、下限が0.05mm、上限が0.3mmである。これにより、材料表面に露出するCu−Sn合金被覆層の露出形態を制御することが可能となる。
【0044】
特許文献2には、リフロー処理の条件として、600℃以下の温度で3〜30秒で行うことが好ましいと記載され、そのうち特に300℃以下のできるだけ少ない熱量で行うことが好ましいと記載され、実施例は主として280℃×10秒の条件で行われている。また特許文献2の段落0035には、このリフロー処理条件で得られたCu−Sn合金被覆層の結晶粒径が、数〜数十μmであると記載されている。
【0045】
一方、本発明者の知見によれば、Cu−Sn合金被覆層の結晶粒径をさらに小さく、2μm未満とするには、リフロー処理時の昇温速度を大きくする必要がある。この昇温速度を大きくするには、リフロー処理時に材料に与える熱量を大きくすればよく、つまりは昇温時においてリフロー処理炉の雰囲気温度を高く設定すればよい。昇温速度は15℃/秒以上が好ましく、さらに好ましくは20℃/秒以上である。なお、特許文献2には、Cu−Sn合金被覆層の結晶粒径が数μm〜数十μmと記載されているから、リフロー処理の昇温速度は8〜12℃/秒程度又はそれ以下ではないかと推測される。
【0046】
実体温度としてのリフロー処理温度は400℃以上が好ましく、450℃以上が更に好ましい。一方、Cu−Sn合金被覆層のCu含有量が高くなり過ぎないように、リフロー処理温度は650℃以下が好ましく、600℃以下がさらに好ましい。また、上記リフロー処理温度に保つ時間(リフロー処理時間)は5〜30秒程度とし、リフロー処理温度が高いほど短時間とすることが望ましい。リフロー処理後は、定法に従い水中に浸漬し急冷する。
以上の条件でリフロー処理を行うことで、結晶粒径の小さいCu−Sn合金被覆層が形成される。また、Cu含有量が20〜70at%のCu−Sn合金被覆層が形成され、0.2μm以上の厚さを有するCu−Sn合金被覆層が表面に露出し、かつSnめっき層の過度の消耗が抑えられる。
【0047】
リフロー処理後、必要に応じて、接続部品用導電材料の表面に、平均の厚さが0.02〜0.2μmのSnめっき層を形成する。このSnめっきは、光沢Snめっき、無光沢Snめっき、あるいはその中間の光沢度が得られる半光沢Snめっきのいずれでもよい。
【実施例1】
【0048】
表1に示す組成と機械的性質及び導電率を有する板厚0.25mmのCu−Fe−P合金A〜Dに、機械的な方法(圧延又は研磨)で表面粗化処理を行い(No.1〜11)、又は表面粗化処理を行わず(No.12〜14)、種々の表面粗さを有する銅合金母材に仕上げた。このCu−Fe−P合金母材A〜Dに、Niめっきを行い(No.6,7,14は行わず)、さらに種々の厚さのCuめっき及びSnめっきを施した後、リフロー処理炉の雰囲気温度を調整し、表2に示す種々の条件(温度×時間)でリフロー処理を行うことにより試験材を得た。リフロー処理温度への昇温速度は、No.1〜10では15℃/秒以上、No.11〜14では10℃/秒程度であった。
【0049】
なお、Cu−Fe−P合金板の機械的性質及び導電率は、以下の要領で測定した。
0.2%耐力は、Cu−Fe−P合金板から採取したASTME08試験片(圧延方向に平行(L.D.)及び垂直(T.D.)方向)を用いて測定した。
応力緩和率は、片持ち梁方式によって測定した。長さ方向が板材の圧延方向に対して平行方向(L.D.)及び直角方向(T.D.)になる幅10mm、長さ90mmの短冊状試験片を採取し、その一端を剛体試験台に固定する。固定端から距離lの位置で試験片にたわみd(=10mm)を与え、固定端に、それぞれの方向(L.D.又はT.D.)における材料の0.2%耐力の80%に相当する表面応力を負荷する。前記距離lは、日本伸銅協会技術標準(JCBA−T309:2004)の「銅及び銅合金薄板条の曲げによる応力緩和試験方法」により算出した。たわみを与えた試験片を150℃に加熱したオーブン中に1000時間保持した後に取り出し、たわみ量d(=10mm)を取り去ったときの永久歪みδを測定し、応力緩和率RS=(δ/d)×100を計算する。
導電率は、Cu−Zn合金板から圧延平行方向に採取した試験片を用いて測定した。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
得られた試験材について、各被覆層の平均の厚さ、Cu−Sn合金被覆層のCu含有量、Cu−Sn合金被覆層の材料表面露出面積率、材料表面に露出するCu−Sn合金被覆層の厚さ、Cu−Sn合金被覆層の平均の材料表面露出間隔、Cu−Sn合金被覆層表面の平均結晶粒径、及び材料表面粗さを、下記要領で測定した。その結果を表2に示す。なお、No.1〜14の試験材は、リフロー処理によってCuめっき層は消滅し、Cu被覆層が存在しない。
下記測定方法は、Cu−Sn合金被覆層表面の平均結晶粒径の測定方法を除き、特許文献2に記載された方法に倣った。
【0053】
(Ni被覆層の平均の厚さ測定方法)
蛍光X線膜厚計(セイコーインスツルメンツ株式会社;SFT3200)を用いて、リフロー処理後のNi被覆層の平均の厚さを測定した。測定条件は、検量線にSn/Ni/母材の2層検量線を用い、コリメータ径をφ0.5mmとした。
(Cu−Sn合金被覆層のCu含有量測定方法)
まず、試験材をp−ニトロフェノール及び苛性ソーダを成分とする水溶液に10分間浸漬し、Sn被覆層を除去した。その後、EDX(エネルギー分散型X線分光分析器)を用いて、Cu−Sn合金被覆層のCu含有量を定量分析により求めた。
【0054】
(Cu−Sn合金被覆層の平均の厚さ測定方法)
まず、試験材をp−ニトロフェノール及び苛性ソーダを成分とする水溶液に10分間浸漬し、Sn被覆層を除去した。その後、蛍光X線膜厚計(セイコーインスツルメンツ株式会社;SFT3200)を用いて、Cu−Sn合金被覆層に含有されるSn成分の膜厚を測定した。測定条件は、検量線にSn/母材の単層検量線又はSn/Ni/母材の2層検量線を用い、コリメータ径をφ0.5mmとした。得られた値をCu−Sn合金被覆層の平均の厚さと定義して算出した。
【0055】
(Sn被覆層の平均の厚さ測定方法)
まず、蛍光X線膜厚計(セイコーインスツルメンツ株式会社;SFT3200)を用いて、試験材のSn被覆層の膜厚とCu−Sn合金被覆層に含有されるSn成分の膜厚の和を測定した。その後、p−ニトロフェノール及び苛性ソーダを成分とする水溶液に10分間浸漬し、Sn被覆層を除去した。再度、蛍光X線膜厚計を用いて、Cu−Sn合金被覆層に含有されるSn成分の膜厚を測定した。測定条件は、検量線にSn/母材の単層検量線又はSn/Ni/母材の2層検量線を用い、コリメータ径をφ0.5mmとした。得られたSn被覆層の膜厚とCu−Sn合金被覆層に含有されるSn成分の膜厚の和から、Cu−Sn合金被覆層に含有されるSn成分の膜厚を差し引くことにより、Sn被覆層の平均の厚さを算出した。
【0056】
(表面粗さ測定方法)
接触式表面粗さ計(株式会社東京精密;サーフコム1400)を用いて、JIS B0601−1994に基づいて測定した。表面粗さ測定条件は、カットオフ値を0.8mm、基準長さを0.8mm、評価長さを4.0mm、測定速度を0.3mm/s、及び触針先端半径を5μmRとした。表面粗さの測定方向は、表面粗化処理の際に行った圧延又は研磨方向に直角な方向(表面粗さが最も大きく出る方向)とした。
【0057】
(Cu−Sn合金被覆層の材料表面露出面積率測定方法)
試験材の表面を、EDX(エネルギー分散型X線分光分析器)を搭載したSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて200倍の倍率で観察した。得られた組成像の濃淡(汚れや傷等のコントラストは除く)から画像解析によりCu−Sn合金被覆層の材料表面露出面積率を測定した。
(Cu−Sn合金被覆層の平均の材料表面露出間隔測定方法)
試験材の表面を、EDX(エネルギー分散型X線分光分析器)を搭載したSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて200倍の倍率で観察した。得られた組成像から、材料表面に引いた直線を横切るCu−Sn合金被覆層の平均の幅(前記直線に沿った長さ)とSn被覆層の平均の幅を足した値の平均を求めることにより、Cu−Sn合金被覆層の平均の材料表面露出間隔を測定した。測定方向(引いた直線の方向)は、表面粗化処理の際に行った圧延又は研磨方向に直角な方向とした。
【0058】
(材料表面に露出するCu−Sn合金被覆層の厚さ測定方法)
ミクロトーム法にて加工した試験材の断面を、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて10,000倍の倍率で観察し、画像解析処理により材料表面に露出するCu−Sn合金被覆層の厚さの最小値を測定した。
(Cu−Sn合金被覆層表面の平均結晶粒径測定方法)
試験材をp−ニトロフェノール及び苛性ソーダを成分とする水溶液に10分間浸漬し、Sn被覆層を除去した。その後、試験材表面をSEMにより3000倍で観察し、画像解析により、各粒子を円としたときの直径(円相当直径)の平均値を求め、これをCu−Sn合金被覆層表面の平均結晶粒径とした。なお、試験材No.4の表面組織写真を図1に示す。
【0059】
また、得られた試験材について、下記要領で微摺動摩耗試験を行い、微摺動後の摩耗量を測定した。その結果を、同じく表2に示す。
(微摺動摩耗試験)
嵌合型接続部品における電気接点のインデント部の形状を模擬し、図2に示すような摺動試験機(株式会社山崎精機研究所;CRS−B1050CHO)を用いて評価した。まず、各試験材から切り出した板材のオス試験片1を水平な台2に固定し、その上に各試験材から切り出した半球加工材(外径をφ1.8mmとした)のメス試験片3をおいて被覆層同士を接触させた。なお、オス試験片1とメス試験片3は同一の試験材を使用した。メス試験片3に3.0Nの荷重(錘4)をかけてオス試験片1を押さえ、ステッピングモータ5を用いてオス試験片1を水平方向に摺動させた(摺動距離を50μm、摺動周波数を1Hzとした)。なお、矢印は摺動方向である。
摺動回数100回の微摺動を行ったオス試験片1をミクロトーム法にて加工し、摩耗痕の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)により10,000倍の倍率で観察した。観察される摩耗痕の最大深さを微摺動後の摩耗量とした。
【0060】
表2に示すように、No.1〜10は、各被覆層の平均の厚さ、Cu−Sn合金被覆層のCu含有量、材料表面粗さ、Cu−Sn合金被覆層の材料表面露出面積率、材料表面に露出するCu−Sn合金被覆層の厚さ、Cu−Sn合金被覆層の平均の材料表面露出間隔について、本発明の規定を満たす。このうち、リフロー処理温度が低く、昇温速度が小さかったNo.11は、Cu−Sn合金被覆層表面の平均結晶粒径が3.5μmであり、本発明の規定を満たさない。これに対し、リフロー処理温度が高く、昇温速度が大きかったNo.1〜10は、Cu−Sn合金被覆層表面の平均結晶粒径が本発明の規定を満たす。 No.1〜10はいずれも、微摺動摩耗量がNo.11より少なく、特に母材が同じ材質で被覆層構造が類似するNo.3とNo.11を比較すると、No.3の微摺動摩耗量はNo.11の摩耗量の38%に減少している。
なお、No.11も、Cu−Sn合金被覆層の材料表面露出面積率がゼロ(Cu−Sn合金被覆層が最表面に露出していない)のNo.12〜14に比べると、微摺動摩耗量が少ない。
【実施例2】
【0061】
表1の合金記号BのCu−Fe−P合金板に、機械的な方法(圧延又は研磨)で表面粗化処理を行い(No.15〜22)、又は表面粗化処理を行わず(No.23〜25)、種々の表面粗さを有する銅合金母材に仕上げた。この銅合金母材に、下地めっき(Ni,Co,Feの1種又は2種)を行い(No.21,25は行わず)、さらに種々の厚さのCuめっき及びSnめっきを施した。次いで、リフロー処理炉の雰囲気温度を調整し、表3に示す種々の条件(温度×時間)でリフロー処理を行うことにより試験材を得た。リフロー処理温度への昇温速度は、No.15〜21では15℃/秒以上、No.22〜25では10℃/秒程度であった。
【0062】
【表3】
【0063】
得られた試験材について、実施例1と同様の測定及び試験を行った。そのほか、得られた試験材について、下記要領でCo被覆層及びFe被覆層の平均の厚さの測定,並びに摩擦係数の測定を行った。その結果を表3に示す。なお、No.15〜25の試験材において、Cuめっき層は消滅していた。
【0064】
( Co層の平均厚さの測定)
蛍光X線膜厚計(セイコーインスツルメンツ株式会社;SFT3200)を用いて、試験材のCo層の平均の厚さを算出した。測定条件は、検量線にSn/Co/母材の2層検量線を用い、コリメータ径をφ0.5mmとした。
(Fe層の平均厚さの測定)
蛍光X線膜厚計(セイコーインスツルメンツ株式会社;SFT3200)を用いて、試験材のFe層の平均厚さを算出した。測定条件は、検量線にSn/Fe/母材の2層検量線を用い、コリメータ径をφ0.5mmとした。
【0065】
(摩擦係数の測定)
嵌合型接続部品における電気接点のインデント部の形状を模擬し、図3に示すような装置を用いて測定した。まず、No.15〜25の各試験材から切り出した板材のオス試験片6を水平な台7に固定し、その上にNo.23の試験材(表面にCu−Sn合金層が露出しない)から切り出した半球加工材(外径をφ1.8mmとした)のメス試験片8を置いて表面同士を接触させた。続いて、メス試験片8に3.0Nの荷重(錘9)をかけてオス試験片6を押さえ、横型荷重測定器(アイコーエンジニアリング株式会社;Model−2152)を用いて、オス試験片6を水平方向に引っ張り(摺動速度を80mm/minとした)、摺動距離5mmまでの最大摩擦力F(単位:N)を測定した。摩擦係数を下記式(1)により求めた。なお、10はロードセル、矢印は摺動方向であり、摺動方向は圧延方向に垂直な向きとした。
摩擦係数=F/3.0 ・・・(1)
【0066】
表3に示すように、No.15〜21は、各被覆層の平均の厚さ、Cu−Sn合金被覆層のCu含有量、材料表面粗さ、Cu−Sn合金被覆層の材料表面露出面積率、材料表面に露出するCu−Sn合金被覆層の厚さ、Cu−Sn合金被覆層の平均の材料表面露出間隔について、本発明の規定を満たす。このうち、リフロー処理温度が低く、昇温速度が小さかったNo.22は、Cu−Sn合金被覆層表面の平均結晶粒径が2.7μmであり、本発明の規定を満たさない。これに対し、リフロー処理温度が高く、昇温速度が大きかったNo.15〜21は、Cu−Sn合金被覆層表面の平均結晶粒径が本発明の規定を満たす。No.15〜21はいずれも、微摺動摩耗量がNo.22より少ない。なお、No.22も、Cu−Sn合金被覆層の材料表面露出面積率がゼロ(Cu−Sn合金被覆層が最表面に露出していない)のNo.23〜25に比べると、微摺動後の摩耗量が少ない。
また、Sn被覆層の平均の厚さが0.2μm未満のNo.16,21は、摩擦係数が極めて低い。
【実施例3】
【0067】
実施例2で作製した発明例No.15に対し、リフロー処理後に種々の厚さで電気光沢Snめっきを施し、No.26〜29の試験材を得た。Snめっき層の平均の厚さは、下記要領で測定し、その結果を表4に示す。得られた試験材に対し、実施例2と同様の微摺動摩耗試験と摩擦係数の測定試験のほか、はんだ濡れ性の評価試験を行った。その結果を表4に示す。
【0068】
【表4】
【0069】
(Snめっき層の平均の厚さ測定方法)
No.26〜29の試験材について、実施例1に記載した測定方法で、Sn被覆層全体(電気光沢SnめっきによるSnめっき層を含む)の平均の厚さを求めた。Sn被覆層全体の平均の厚さから、No.15のSn被覆層(電気光沢SnめっきによるSnめっき層を含まない)の平均の厚さを差し引くことにより、Snめっき層の平均の厚さを算出した。
【0070】
(はんだ濡れ試験)
各々の試験材No.15,26〜29から切り出した試験片に対して、非活性フラックスを1秒間浸漬塗布した後、メニスコグラフ法にてゼロクロスタイムと最大濡れ応力を測定した。はんだ組成はSn−3.0Ag−0.5Cuとし、試験片を255℃のはんだに浸漬し、浸漬条件は、浸漬速度を25mm/sec、浸漬深さを12mm、浸漬時間を5.0secとした。はんだ濡れ性は、ゼロクロスタイム≦2.0sec、最大濡れ応力≧5mNを基準とし、いずれの基準も満たすものを○、いずれか一方のみ満たすものを△、いずれの基準も満たさないものを×と評価した。
【0071】
表4に示すように、No.26〜29は、最表面にSnめっき層を有しているため、No.15に比べてはんだ濡れ性が良好である。中でも、No.26〜28は最表面のSnめっき層の平均の厚さが本発明の規定を満たしており、低摩擦係数とはんだ濡れ性を兼備し、微摺動摩耗量が少ない。なお、No.29ははんだ濡れ性は良好であるが、摩擦係数が大きくなった。
【符号の説明】
【0072】
1,6 オス試験片
2,7 台
3,8 メス試験片
4,9 錘
5 ステッピングモータ
10 ロードセル
【要約】      (修正有)
【課題】Cu−Fe−P合金板を母材とし、その表面にNiめっき(必要に応じて)、Cuめっき及びSnめっきを形成し、Snめっき層をリフロー処理して製造した接続部品用導電材料の耐微摺動摩耗特性の改善方法の提供。
【解決手段】Cu−Fe−P合金がFe:0.01〜2.6質量%、P:0.01〜0.3質量%を含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなり、リフロー処理後の母材表面に、Cu含有量が20〜70at%で、平均厚さが0.2〜3.0μmのCu−Sn合金被覆層と、平均厚さが0.05〜5.0μmのSn被覆層を形成し、材料表面の一方向における算術平均粗さRaが0.15μm以上で、全ての方向における算術平均粗さRaが3.0μm以下であり、Sn被覆層の表面にCu−Sn合金被覆層の一部が露出面積率が3〜75%で露出し、Cu−Sn合金被覆層の表面の平均結晶粒径が2μm未満とされる接続部品用導電材料。
【選択図】図1
図2
図3
図1