【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度独立行政法人 医薬基盤研究所 先駆的医薬品・医療機器研究発掘支援事業、産業技術強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記工程(2)において、PCR増幅されるDNAが、FAM150A、GRM6、ZNF540、ZFP42、ZNF154、RIMS4、PCDHAC1、KHDRBS2、ASCL2、KCNQ1、PRAC、WNT3A、TRH、FAM78A、ZNF671、SLC13A5及びNKX6−2からなる群より選択される少なくとも1つの遺伝子におけるCpGアイランドを含む、請求項1記載の方法。
前記工程(2)において、PCR増幅されるDNAが、FAM150A、GRM6、ZNF540、ZFP42、ZNF154、RIMS4、PCDHAC1、KHDRBS2、ASCL2、KCNQ1、PRAC、WNT3A、TRH、FAM78A、ZNF671、SLC13A5及びNKX6−2からなる群より選択される少なくとも1つの遺伝子におけるCpGアイランドを含む、請求項6記載の方法。
前記工程(2)において、PCR増幅されるDNAが、FAM150A、GRM6、ZNF540、ZFP42、ZNF154、RIMS4、PCDHAC1、KHDRBS2、ASCL2、KCNQ1、PRAC、WNT3A、TRH、FAM78A、ZNF671、SLC13A5及びNKX6−2からなる群より選択される少なくとも1つの遺伝子におけるCpGアイランドを含む、請求項11記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本明細書において、「腎細胞癌」とは、腎臓の尿細管上皮細胞が癌化したものであり、その病理学的特徴から、淡明細胞型、顆粒細胞型、色素嫌性型、紡錘型、嚢胞随伴型、嚢胞由来型、嚢胞性型、乳頭状型に分類される癌である。また、本明細書において、「被験体」としては、例えば、腎細胞癌に罹患した患者又はその疑いのある患者、外科手術等によって腎細胞癌の治療が施された患者が挙げられる。
【0024】
本明細書において、癌の「予後不良」とは、例えば、被験体の予後(治療後)の生存率が低いことが挙げられ、より具体的には、術後500日経過後の無再発生存率(無癌生存率)が50%以下であることが挙げられ、あるいは、術後1500日経過後の全生存率(全体的な生存率)が70%以下となることが挙げられる。
【0025】
本明細書において、「DNAメチル化」とは、DNAにおいて、シトシンの5位の炭素がメチル化されている状態のことを意味する。また本明細書において、DNAの「メチル化を検出する」とは、当該DNAにおけるメチル化DNAの存在の有無もしくは存在量、存在量の比、または当該DNAのメチル化率を測定することを意味する。本明細書において、「DNAメチル化率」とは、検出の対象とする特定のDNAにおいてCpGアイランドのシトシンがメチル化されている割合を意味し、例えば、検出の対象とする特定のDNAのCpGアイランドにおける、全シトシン数(メチル化シトシン及び非メチル化シトシン)に対するメチル化シトシン数の比率にて表すことができる。
【0026】
本明細書において、「CpGサイト」とは、DNA中でシトシン(C)とグアニン(G)との間がホスホジエステル結合(p)している部位のことを意味する。また本明細書において、CpGアイランドは、ホスホジエステル結合(p)を介したシトシン(C)−グアニン(G)の2塩基配列が高頻度で出現する領域をいう。CpGアイランドは、遺伝子上流のプロモーター領域に存在することが多い。本明細書において、「(ある)遺伝子のCpGサイトまたはCpGアイランド」とは、当該遺伝子のコード領域に近い位置に存在するCpGアイランド、または該CpGアイランドに含まれるCpGサイトを意味し、好ましくは当該遺伝子のプロモーター領域に存在するCpGサイトまたはCpGアイランドを意味する。特定の遺伝子のCpGサイトまたはCpGアイランドは、MassARRAY法、パイロシークエンシング等の方法に基づいて同定することができる。
【0027】
本明細書において、「基準となる保持時間」(以下、基準保持時間ともいう)とは、CIMP陽性群とCIMP陰性群とを分けることができるHPLCの保持時間、あるいは、腎細胞癌から調製されたゲノムDNAに由来する検出シグナルについて、高度にメチル化されたDNAに由来するシグナル群と、メチル化の程度の低いDNAに由来するシグナル群とを分けることができるHPLCの保持時間を示す。すなわち、基準となる保持時間(基準保持時間)より早い保持時間には、高度にメチル化されたDNAに由来するシグナルが検出されるので、基準保持時間より早い保持時間に検出シグナルを有する検体は予後不良であると判定され得る。前述の基準保持時間は、HPLCの分析条件、ゲノムDNAの領域、あるいは遺伝子マーカーの種類等によってクロマトグラムが変化するので、それらの条件等に応じて適切な基準保持時間を設定すればよい。また、必要とされる臨床感度も考慮し、基準保持時間を設定するのが好ましい。
【0028】
一実施形態において、本発明は、以下の工程を含む、腎細胞癌を含む組織の判定方法を提供する。
(1)被験体の腎臓組織から調製されたゲノムDNAを亜硫酸水素塩で処理する工程;
(2)該亜硫酸水素塩によって処理されたDNAをPCRによって増幅する工程;
(3)得られたPCR増幅産物をイオン交換クロマトグラフィーにかける工程;
(4)該クロマトグラフィーで得られた検出シグナルの保持時間を得る工程;
(5)工程(4)の結果が基準となる保持時間より早い場合に、該組織を、予後不良の腎細胞癌患者から得られた腎細胞癌を含む組織であると判定する工程。
【0029】
別の一実施形態において、本発明は、以下の工程を含む、腎細胞癌を含む組織を判定するためのデータを得る方法を提供する。
(1)被験体の腎臓組織から調製されたゲノムDNAを亜硫酸水素塩で処理する工程;
(2)該亜硫酸水素塩によって処理されたDNAをPCRによって増幅する工程;
(3)得られたPCR増幅産物をイオン交換クロマトグラフィーにかける工程;
(4)該クロマトグラフィーで得られた検出シグナルの保持時間を得る工程;
(5)工程(4)の結果が基準となる保持時間より早い場合か否かを、該組織が予後不良の腎細胞癌患者から得られた腎細胞癌を含む組織であるか否かを判定するためのデータとして取得する工程。
【0030】
別の一実施形態において、本発明は、以下の工程を含む腎細胞癌患者の予後判定方法を提供する。
(1)被験体の腎臓組織から調製されたゲノムDNAを亜硫酸水素塩で処理する工程;
(2)該亜硫酸水素塩によって処理されたDNAをPCRによって増幅する工程;
(3)得られたPCR増幅産物をイオン交換クロマトグラフィーにかける工程;
(4)該クロマトグラフィーで得られた検出シグナルの保持時間を得る工程;
(5)工程(4)の結果が基準となる保持時間より早い場合に、該被験体の腎細胞癌を予後不良と判定する工程。
【0031】
別の一実施形態において、本発明は、上記工程(4)の前にさらに以下の工程が行われる、腎細胞癌を含む組織または腎細胞癌患者の判定方法を提供する。
(1’)上記被験体の腎臓組織から調製されたゲノムDNAのPCR増幅領域に相当するメチル化していないDNAを亜硫酸水素塩で処理する工程;
(2’)工程(1’)で得られた亜硫酸水素塩によって処理されたDNAをPCRによって増幅する工程;
(3’)工程(2’)で得られたPCR増幅産物をイオン交換クロマトグラフィーにかける工程;
(3a)工程(3)のクロマトグラフィーで得られた検出シグナルから、工程(3’)のクロマトグラフィーで得られた検出シグナルを差し引いて差分データを得る工程。
【0032】
被験体の腎臓組織としては、DNAを含む腎臓組織またはその細胞であればよく、例えば、生検や外科手術等において採取した組織、およびその凍結物や固定化標本が挙げられる。ゲノムDNAの分解等を抑制し、より効率よくDNAメチル化検出を行えるという観点からは、凍結した腎臓組織を用いることが望ましい。
【0033】
上記腎臓組織または細胞からサンプルDNAを調製する方法としては、特に制限はなく、公知の手法を適宜選択して用いることができる。DNAを調製する公知の方法としては、フェノールクロロホルム法、または市販のDNA抽出キット、例えば後述するQIAamp DNA Mini kit(Qiagen社製)、Clean Columns(NexTec社製)、AquaPure(Bio−Rad社製)、ZR Plant/Seed DNA Kit(Zymo Research社製)、prepGEM(ZyGEM社製)、BuccalQuick(TrimGen社製)を用いるDNA抽出方法等が挙げられる。
【0034】
次いで、抽出したサンプルDNAを亜硫酸水素塩で処理する。DNAの亜硫酸水素塩処理の方法としては、特に制限はなく、公知の手法を適宜選択して用いることができる。亜硫酸水素塩処理のための公知の方法としては、例えば、後述するEpiTect Bisulfite Kit(48)(Qiagen社製)や、MethylEasy(Human Genetic Signatures Pty社製)、Cells−to−CpG Bisulfite Conversion Kit(Applied Biosystems社製)、CpGenome Turbo Bisulfite Modification Kit(MERCK MILLIPORE社製)などの市販のキットを用いる方法が挙げられる。
【0035】
次いで、亜硫酸水素塩によって処理されたサンプルDNAを、PCRによって増幅する。PCR増幅の方法としては特に制限はなく、増幅対象のDNAの配列、長さ、量などに応じて、公知の手法を適宜選択して用いることができる。
【0036】
腎細胞癌については、17遺伝子(FAM150A、GRM6、ZNF540、ZFP42、ZNF154、RIMS4、PCDHAC1、KHDRBS2、ASCL2、KCNQ1、PRAC、WNT3A、TRH、FAM78A、ZNF671、SLC13A5及びNKX6−2)におけるDNAメチル化が、腎細胞癌の予後不良(CIMP陽性)と関連していることが報告されている(特許文献4)。したがって、本発明の方法においてPCR増幅される標的DNAは、好ましくは、上記17遺伝子からなる群より選択される少なくとも1つの遺伝子におけるCpGアイランドのDNAメチル化を検出できるように選択され、より好ましくは、上記17遺伝子のCpGサイトのメチル化を検出できるように選択される。例えば、標的DNAは、上記17遺伝子のいずれかのコード領域および/またはプロモーター領域の一部または全部をコードするDNAである。好ましくは、上記17遺伝子のいずれかのプロモーター領域の一部又は全部をコードするDNAである。より好ましくは、上記17遺伝子のいずれかのCpGアイランドの一部又は全部をコードするDNAである。
【0037】
FAM150AはRefSeq ID:NP_997296で特定されるタンパク質をコードする遺伝子であり、GRM6はRefSeq ID:NP_000834で特定されるタンパク質をコードする遺伝子であり、ZNF540はRefSeq ID:NP_689819で特定されるタンパク質をコードする遺伝子であり、ZFP42はRefSeq ID:NP_777560で特定されるタンパク質をコードする遺伝子であり、ZNF154はRefSeq ID:NP_001078853で特定されるタンパク質をコードする遺伝子であり、RIMS4はRefSeq ID:NP_892015で特定されるタンパク質をコードする遺伝子であり、PCDHAC1はRefSeq ID:NP_061721で特定されるタンパク質をコードする遺伝子であり、KHDRBS2はRefSeq ID:NP_689901で特定されるタンパク質をコードする遺伝子であり、ASCL2はRefSeq ID:NP_005161で特定されるタンパク質をコードする遺伝子であり、KCNQ1はRefSeq ID:NP_000209で特定されるタンパク質をコードする遺伝子であり、PRACはRefSeq ID:NP_115767で特定されるタンパク質をコードする遺伝子であり、WNT3AはRefSeq ID:NP_149122で特定されるタンパク質をコードする遺伝子であり、TRHはRefSeq ID:NP_009048で特定されるタンパク質をコードする遺伝子であり、FAM78AはRefSeq ID:NP_203745で特定されるタンパク質をコードする遺伝子であり、ZNF671はRefSeq ID:NP_079109で特定されるタンパク質をコードする遺伝子であり、SLC13A5はRefSeq ID:NP_808218で特定されるタンパク質をコードする遺伝子であり、NKX6−2はRefSeq ID:NP_796374で特定されるタンパク質をコードする遺伝子である。
【0038】
上記17遺伝子のCpGサイトは、基準ヒトゲノム配列である、NCBIデータベース Genome Build 37上の位置を基準にして、表1〜4に記載の染色体上の位置に存在する。
【0043】
特許文献4に記載のCIMP判定において、DNAメチル化の検出対象として好ましいCpGサイトとしては、基準ヒトゲノム配列であるNCBIデータベース Genome Build 37上の位置が、第8染色体53,478,454位、第5染色体178,422,244位、第19染色体38,042,472位、第4染色体188,916,867位、第19染色体58,220,662位、第20染色体43,438,865位、第5染色体140,306,458位、第6染色体62,995,963位、第11染色体2,292,004位、第11染色体2,466,409位、第17染色体46,799,640位、第19染色体58,220,494位、第1染色体228,194,448位、第3染色体129,693,613位、第9染色体134,152,531位、第19染色体58,238,928位、第17染色体6,617,030位及び第10染色体134,599,860位からなる群から選択される少なくとも1のCpGサイトである。
【0044】
PCR増幅産物の鎖長は、PCRの増幅時間の短縮、ならびにイオン交換クロマトグラフィーでの分析時間の短縮や分離性能の維持等の要素を勘案して適宜選択することができる。例えば、CpGアイランドが多いサンプルDNAを用いる場合のPCR増幅産物の鎖長は、1000bp以下が好ましく、700bp以下がより好ましく、500bp以下がさらに好ましい。一方、CpGアイランドが少ないサンプルDNAを用いる場合のPCR増幅産物の鎖長は、PCRにおける非特異的ハイブリダイズを避けられる15mer付近のプライマーを使用する場合のPCR増幅産物の鎖長である30〜40bpが下限となる。一方で、CpGアイランドの含有率がリッチになるようにプライマーを設計するのが好ましい。例えば、CpGサイトのシトシンが、PCR増幅産物の鎖長に対して2%以上含まれるのが好ましく、5%以上含まれるのがより好ましい。
【0045】
続いて、得られたPCR増幅産物をイオン交換クロマトグラフィーにかける。本発明で行われるイオン交換クロマトグラフィーは、アニオン交換クロマトグラフィーが好適である。本発明で行われるイオン交換クロマトグラフィーに用いるカラムの充填剤としては、表面に強カチオン性基を有する基材粒子であれば特に限定されないが、特許文献2に示される充填剤表面に強カチオン性基と弱カチオン性基の両方を有する基材粒子が好ましい。
【0046】
本明細書において、上記強カチオン性基とは、pHが1から14の広い範囲で解離するカチオン性基を意味する。すなわち、上記強カチオン性基は、水溶液のpHに影響を受けず解離した(カチオン化した)状態を保つことが可能である。
【0047】
上記強カチオン性基としては、4級アンモニウム基が挙げられる。具体的には例えば、トリメチルアンモニウム基、トリエチルアンモニウム基、ジメチルエチルアンモニウム基等のトリアルキルアンモニウム基等が挙げられる。また、上記強カチオン性基のカウンターイオンとしては、例えば、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等のハロゲン化物イオンが挙げられる。
【0048】
上記基材粒子の表面に導入される上記強カチオン性基量は、特に限定されないが、充填剤の乾燥重量あたりの好ましい下限は1μeq/g、好ましい上限は500μeq/gである。上記強カチオン性基量が1μeq/g未満であると、保持力が弱く分離性能が悪くなることがある。上記強カチオン性基量が500μeq/gを超えると、保持力が強くなり過ぎてPCR増幅産物を容易に溶出させることができず、分析時間が長くなりすぎる等の問題が生じることがある。
【0049】
本明細書において、上記弱カチオン性基とは、pkaが8以上のカチオン性基を意味する。すなわち、上記弱カチオン性基は、水溶液のpHによる影響を受け、解離状態が変化する。すなわち、pHが8より高くなると、上記弱カチオン性基のプロトンは解離し、プラスの電荷を持たない割合が増える。逆にpHが8より低くなると、上記弱カチオン性基はプロトン化し、プラスの電荷を持つ割合が増える。
【0050】
上記弱カチオン性基としては、例えば、3級アミノ基、2級アミノ基、1級アミノ基等が挙げられる。なかでも、3級アミノ基であることが望ましい。
【0051】
上記基材粒子の表面に導入される上記弱カチオン性基量は、特に限定されないが、充填剤の乾燥重量あたりの好ましい下限は0.5μeq/g、好ましい上限は500μeq/gである。上記弱カチオン性基量が0.5μeq/g未満であると、少なすぎて分離性能が向上しないことがある。上記弱カチオン性基量が500μeq/gを超えると、強カチオン性基と同様保持力が強くなり過ぎてPCR増幅産物を容易に溶出させることができず、分析時間が長くなりすぎる等の問題が生じることがある。
【0052】
上記基材粒子表面の強カチオン性基または弱カチオン性基量は、アミノ基に含まれる窒素原子を定量することにより測定することができる。窒素を定量する方法として、例えばケルダール法が挙げられる。本発明(実施例)記載の充填剤の場合には、まず、重合後に強カチオン性基に含まれる窒素を定量し、次いで、弱カチオン性基を導入した後の強カチオン性基と弱カチオン性基に含まれる窒素を定量することにより、後から導入した弱カチオン性基量を算出することができる。このように定量することにより、充填剤を調製する際に、強カチオン性基量および弱カチオン性基量を上記範囲内に調整することができる。
【0053】
上記基材粒子としては、例えば、重合性単量体等を用いて得られる合成高分子微粒子、シリカ系等の無機微粒子等を用いることができるが、合成有機高分子からなる疎水性架橋重合体粒子であることが望ましい。
【0054】
上記疎水性架橋重合体は、少なくとも1種の疎水性架橋単量体と少なくとも1種の反応性官能基を有する単量体を共重合して得られる疎水性架橋重合体、少なくとも1種の疎水性架橋単量体と少なくとも1種の反応性官能基を有する単量体と少なくとも1種の疎水性架橋単量体とを共重合して得られる疎水性架橋重合体のいずれであってもよい。
【0055】
上記疎水性架橋性単量体としては、単量体1分子中にビニル基を2個以上有するものであれば特に限定されず、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリル酸エステル、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリル酸エステル若しくはテトラ(メタ)アクリル酸エステル、またはジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルキシレン、ジビニルナフタレン等の芳香族系化合物が挙げられる。なお、本明細書において上記(メタ)アクリレートとは、アクリレートまたはメタクリレートを意味し、(メタ)アクリルとは、アクリルまたはメタクリルを意味する。
【0056】
上記反応性官能基を有する単量体としては、グリシジル(メタ)アクリレート、イソシアネートエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0057】
上記疎水性非架橋性単量体としては、疎水性の性質を有する非架橋性の重合性有機単量体であれば特に限定されず、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステルや、スチレン、メチルスチレン等のスチレン系単量体が挙げられる。
【0058】
上記疎水性架橋重合体が、上記疎水性架橋性単量体と上記反応性官能基を有する単量体とを共重合して得られるものである場合、上記疎水性架橋重合体における上記疎水性架橋性単量体に由来するセグメントの含有割合の好ましい下限は10重量%、より好ましい下限は20重量%である。
【0059】
本発明のイオン交換クロマトグラフィー用充填剤は、上記基材粒子の表面に、上記強カチオン性基と上記弱カチオン性基とを有する重合体層を有するものであることが好ましい。また、上記強カチオン性基と上記弱カチオン性基とを有する重合体において、上記強カチオン性基と上記弱カチオン性基とはそれぞれ独立した単量体に由来するものであることが好ましい。具体的には、本発明のイオン交換クロマトグラフィー用充填剤は、上記疎水性架橋重合体粒子と、上記疎水性架橋重合体粒子の表面に共重合された強カチオン性基を有する親水性重合体の層とからなる被覆重合体粒子の表面に、弱カチオン性基が導入されたものであることが好適である。
【0060】
上記強カチオン性基を有する親水性重合体は、強カチオン性基を有する親水性単量体から構成されるものであり、1種以上の強カチオン性基を有する親水性単量体に由来するセグメントを含有すればよい。すなわち、上記強カチオン性基を有する親水性重合体を製造する方法としては、強カチオン性基を有する親水性単量体を単独で重合させる方法、2種以上の強カチオン性基を有する親水性単量体を共重合させる方法、強カチオン性基を有する親水性単量体と強カチオン性基を有しない親水性単量体を共重合させる方法等が挙げられる。
【0061】
上記強カチオン性基を有する親水性単量体としては、4級アンモニウム基を有するものであることが好ましい。具体的には例えば、メタクリル酸エチルトリエチルアンモニウムクロリド、メタクリル酸エチルジメチルエチルアンモニウムクロリド、メタクリル酸エチルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、アクリル酸エチルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、アクリル酸エチルトリエチルアンモニウムクロリド、アクリル酸エチルジメチルエチルアンモニウムクロリド、アクリルアミドエチルトリメチルアンモニウムクロリド、アクリルアミドエチルトリエチルアンモニウムクロリド、アクリルアミドエチルジメチルエチルアンモニウムクロリド等が挙げられる。
【0062】
上記被覆重合体粒子の表面に上記弱カチオン性基を導入する方法としては、公知の方法を用いることができる。具体的には例えば、上記弱カチオン性基として3級アミノ基を導入する方法としては、グリシジル基を有する単量体に由来するセグメントを有する疎水性架橋重合体からなる疎水性架橋重合体粒子の表面において上記強カチオン性基を有する親水性単量体を共重合し、次いでグリシジル基に3級アミノ基を有する試薬を反応させる方法;イソシアネート基を有する単量体に由来するセグメントを有する疎水性架橋重合体からなる疎水性架橋重合体粒子の表面において上記強カチオン性基を有する親水性単量体を共重合し、次いで、イソシアネート基に3級アミノ基を有する試薬を反応させる方法;上記疎水性架橋重合体粒子の表面において上記強カチオン性基を有する親水性単量体と3級アミノ基を有する単量体とを共重合する方法;3級アミノ基を有するシランカップリング剤を用いて上記強カチオン性基を有する親水性重合体の層を有する被覆重合体粒子の表面に3級アミノ基を導入する方法;カルボキシ基を有する単量体に由来するセグメントを有する疎水性架橋重合体からなる疎水性架橋重合体粒子の表面において上記強カチオン性基を有する親水性単量体を共重合し、次いで、カルボキシ基と3級アミノ基を有する試薬とを、カルボジイミドを用いて縮合させる方法;エステル結合を有する単量体に由来するセグメントを有する疎水性架橋重合体からなる疎水性架橋重合体粒子の表面において上記強カチオン性基を有する親水性単量体を共重合し、エステル結合部を加水分解した後、次いで、加水分解によって生成したカルボキシ基と3級アミノ基を有する試薬とを、カルボジイミドを用いて縮合させる方法等が挙げられる。なかでも、グリシジル基を有する単量体に由来するセグメントを有する疎水性架橋重合体からなる疎水性架橋重合体粒子の表面において上記強カチオン性基を有する親水性単量体を共重合し、次いで、グリシジル基に3級アミノ基を有する試薬を反応させる方法や、イソシアネート基を有する単量体に由来するセグメントを有する疎水性架橋重合体からなる疎水性架橋重合体粒子の表面において上記強カチオン性基を有する親水性単量体を共重合し、次いで、イソシアネート基に3級アミノ基を有する試薬を反応させる方法が好ましい。
【0063】
グリシジル基やイソシアネート基等の反応性官能基に反応させる上記3級アミノ基を有する試薬としては、3級アミノ基と反応性官能基に反応可能な官能基を有する試薬であれば、特に限定されない。上記3級アミノ基と反応性官能基に反応可能な官能基としては、例えば、1級アミノ基、水酸基等が挙げられる。なかでも、末端に1級アミノ基を有している基が好ましい。当該官能基を有する具体的な試薬としては、N,N−ジメチルアミノメチルアミン、N,N−ジメチルアミノエチルアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、N,N−ジメチルアミノブチルアミン、N,N−ジエチルアミノエチルアミン、N,N−ジエチルアミノプロピルエチルアミン、N,N−ジエチルアミノブチルアミン、N,N−ジエチルアミノペンチルアミン、N,N−ジエチルアミノヘキシルアミン、N,N−ジプロピルアミノブチルアミン、N,N−ジブチルアミノプロピルアミン等が挙げられる。
【0064】
上記強カチオン性基、好ましくは4級アンモニウム塩と、上記弱カチオン性基、好ましくは3級アミノ基との相対的な位置関係は、上記強カチオン性基が上記弱カチオン性基よりも基材粒子の表面から遠い位置、即ち外側にあることが好ましい。例えば、上記弱カチオン性基は基材粒子表面から30Å以内にあり、上記強カチオン性基は基材粒子表面から300Å以内で、かつ、弱カチオン性基よりも外側にあることが好ましい。
【0065】
本発明のイオン交換クロマトグラフィー用充填剤に用いられる上記基材粒子の平均粒子径は、特に限定されないが、好ましい下限は0.1μm、好ましい上限は20μmである。上記平均粒子径が0.1μm未満であると、カラム内が高圧になりすぎて分離不良を起こすことがある。上記平均粒子径が20μmを超えると、カラム内のデッドボリュームが大きくなりすぎて分離不良を起こすことがある。なお、本明細書において上記平均粒子径は体積平均粒子径を示し、粒度分布測定装置(AccuSizer780/Particle Sizing Systems社製など)を用いて測定することができる。
【0066】
本発明で行われるイオン交換クロマトグラフィーに用いる溶離液の組成としては、公知の条件を用いることができる。
【0067】
上記溶離液に用いる緩衝液としては、公知の塩化合物を含む緩衝液類や有機溶媒類を用いることが好ましく、具体的には例えば、トリス塩酸緩衝液、トリスとEDTAからなるTE緩衝液、トリスとホウ酸とEDTAからなるTBA緩衝液等が挙げられる。
【0068】
上記溶離液のpHは特に限定されないが、好ましい下限は5、好ましい上限は10である。この範囲に設定することで、上記弱カチオン性基も効果的にイオン交換基(アニオン交換基)として働くと考えられる。上記溶離液のpHのより好ましい下限は6、より好ましい上限は9である。
【0069】
上記溶離液に含まれる塩としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム等のハロゲン化物とアルカリ金属とからなる塩;塩化カルシウム、臭化カルシウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム等のハロゲン化物とアルカリ土類金属とからなる塩;過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム等の無機酸塩、等を用いることができる。また、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、コハク酸ナトリウム、コハク酸カリウム等の有機酸塩を用いることもできる。上記塩は、いずれか単独または組み合わせて使用され得る。
【0070】
上記溶離液の塩濃度としては、分析条件に合わせ適宜調整すればよいが、好ましい下限は10mmol/L、好ましい上限は2000mmol/Lであり、より好ましい下限は100mmol/L、より好ましい上限は1500mmol/Lである。
【0071】
さらに、本発明のイオン交換クロマトグラフィーに用いる溶離液には、分離性能をさらに高めるためにアンチカオトロピックイオンが含まれている。アンチカオトロピックイオンは、カオロトピックイオンとは逆の性質を有し、水和構造を安定化させる働きがある。そのため、充填剤と核酸分子との間の疎水性相互作用を強める効果がある。本発明のイオン交換クロマトグラフィーの主たる相互作用は静電的相互作用であるが、加えて、疎水性相互作用の働きも利用することにより分離性能が高まる。
【0072】
上記溶離液に含まれるアンチカオトロピックイオンとしては、リン酸イオン(PO
43−)、硫酸イオン(SO
42−)、アンモニウムイオン(NH
4+)、カリウムイオン(K
+)、ナトリウムイオン(Na
+)などが挙げられる。これらのイオンの組合せの中でも、硫酸イオンおよびアンモニウムイオンが好適に用いられる。上記アンチカオトロピックイオンは、いずれか単独または組み合わせて使用され得る。なお、上述のアンチカオトロピックイオンの一部には、上記溶離液に含まれる塩や緩衝液の成分が含まれる。このような成分を使用する場合、溶離液に含まれる塩としての性質または緩衝能と、アンチカオトロピックイオンとしての性質の両方を具備するので、本発明には好適である。
【0073】
本発明のイオン交換クロマトグラフィー用溶離液におけるアンチカオトロピックイオンの分析時の濃度は、分析対象物に合わせて適宜調整すればよいが、アンチカオトロピック塩として2000mmol/L以下であることが望ましい。具体的には、アンチカオトロピック塩の濃度を0〜2000mmol/Lの範囲でグラジエント溶出させる方法を挙げることができる。従って、分析開始時のアンチカオトロピック塩の濃度は0mmol/Lである必要はなく、また、分析終了時のアンチカオトロピック塩の濃度も2000mmol/Lである必要はない。上記グラジエント溶出の方法は、低圧グラジエント法であっても高圧グラジエント法であってもよいが、高圧グラジエント法による精密な濃度調整を行いながら溶出させる方法が好ましい。
【0074】
上記アンチカオトロピックイオンは、溶出に用いる溶離液のうちの1種のみに添加してもよいが、複数種の溶離液に添加してもよい。また上記アンチカオトロピックイオンは、充填剤とPCR増幅産物との間の疎水性相互作用を強める効果または緩衝能と、PCR増幅産物をカラムから溶出させる効果の両方の役割を備えていても良い。
【0075】
本発明で行われるイオン交換クロマトグラフィーでPCR増幅産物を分析する際のカラム温度は、好ましくは30℃以上であり、より好ましくは40℃以上であり、さらに好ましくは45℃以上である。イオン交換クロマトグラフィーのカラム温度が30℃未満であると充填剤とPCR増幅産物との間の疎水性相互作用が弱くなり、所望の分離効果を得ることが難しくなる。イオン交換クロマトグラフィーのカラム温度が45℃未満である場合、メチル化DNAの亜硫酸水素塩処理物のPCR増幅産物(メチル化DNAサンプル)と非メチル化DNAの亜硫酸水素塩処理物のPCR増幅産物(非メチル化DNAサンプル)との保持時間の差が小さい。さらに、カラム温度が60℃以上では、メチル化DNAサンプルと非メチル化DNAサンプルの間の保持時間の差がさらに広がり、かつそれぞれのピークもより明瞭になるので、より精度のよいDNAのメチル化の検出が可能になる。
【0076】
さらに、イオン交換クロマトグラフィーのカラム温度が高くなると、メチル化DNAサンプルと非メチル化DNAサンプルとが明瞭に分離されるので、サンプルDNA中のメチル化DNAと非メチル化DNAの存在比率に従って両者の保持時間のピーク面積またはピーク高さに差異が生じやすくなる。したがって、カラム温度を高くすれば、メチル化DNAサンプルと非メチル化DNAサンプルの間の保持時間のピークの面積または高さに基づいて、サンプルDNA中のメチル化DNAおよび非メチル化DNAそれぞれの存在量や存在比率を測定することがより容易になる。
【0077】
一方、イオン交換クロマトグラフィーのカラム温度が90℃以上になると、PCR増幅産物中の核酸分子の二本鎖が乖離するため分析上好ましくない。さらに、カラム温度が100℃以上になると、溶離液の沸騰が生じる恐れがあるため分析上好ましくない。したがって、本発明で行われるイオン交換クロマトグラフィーでPCR増幅産物を分析する際のカラム温度は、30℃以上90℃未満であればよく、好ましくは40℃以上90℃未満であり、より好ましくは45℃以上90℃未満であり、さらに好ましくは55℃以上90℃未満であり、さらにより好ましくは55℃以上85℃以下であり、なお好ましくは60℃以上85℃以下である。
【0078】
上記イオン交換クロマトグラフィーカラムへの試料注入量は、特に限定されずカラムのイオン交換容量および試料濃度に応じて適宜調整すればよい。流速は0.1mL/minから3.0mL/minが好ましく、0.5mL/minから1.5mL/minがより好ましい。流速が遅くなると分離の向上が期待できるが、遅くなりすぎると分析に長時間を要したり、ピークのブロード化による分離性能の低下を招く恐れがある。逆に流速が早くなると分析時間の短縮という面においてはメリットがあるが、ピークが圧縮されるため分離性能の低下を招く。よって、カラムの性能によって適宜調整されるパラメータではあるが、上記流速の範囲に設定することが望ましい。各サンプルの保持時間は、各サンプルについて予備実験を行うことによって予め決定することができる。送液方法はリニアグラジエント溶出法やステップワイズ溶出法など公知の送液方法を用いることができるが、本発明における送液方法としてはリニアグラジエント溶出法が好ましい。グラジエント(勾配)の大きさは溶出に用いる溶離液を0%から100%の範囲で、カラムの分離性能および分析対象物(ここではPCR増幅産物)の特性に合わせ適宜調整すればよい。
【0079】
本発明においては、上述した手順で亜硫酸水素塩処理したDNAのPCR増幅産物をイオン交換クロマトグラフィーにかけることによって、サンプルDNAにおけるDNAのメチル化を検出する。
【0080】
DNAを亜硫酸水素塩処理した場合、当該DNA中の非メチル化シトシンはウラシルに変換されるが、メチル化シトシンはシトシンのままである。亜硫酸水素塩処理したDNAをPCR増幅すると、非メチル化シトシン由来のウラシルは、さらにチミンに置き換わるため、メチル化DNAと非メチル化DNAとの間で、シトシンとチミンの存在比率に差が生じる。したがって、PCR増幅産物中のDNAは、メチル化率に応じた異なる配列を有する。上記PCR増幅産物をイオン交換クロマトグラフィーにかけると、当該増幅産物中に含まれるDNAの塩基配列に応じて、異なるシグナルを示すクロマトグラムが得られる。
【0081】
例えば、サンプルDNAの亜硫酸水素塩処理物のPCR増幅産物からの検出シグナルを、サンプルDNAと塩基配列は同じであるがメチル化していないDNAの亜硫酸水素塩処理物のPCR増幅産物(以下、陰性対照という)からの検出シグナル、またはサンプルDNAと塩基配列は同じでかつメチル化率が既知(例えば、100%)であるDNAの亜硫酸水素塩処理物のPCR増幅産物(以下、陽性対照という)からの検出シグナルと比較することにより、サンプルDNA中におけるメチル化DNAの存在の有無を測定することができる。
【0082】
あるいは、サンプルDNAの亜硫酸水素塩処理物のPCR増幅産物からの検出シグナルを、陰性および陽性対照からの検出シグナルと比較することにより、サンプルDNA中のメチル化DNAの存在量、および非メチル化DNAとの存在量の比を測定することができる。またあるいは、サンプルDNAと塩基配列は同じでかつメチル化率が既知である複数のDNAの亜硫酸水素塩処理物に由来する複数のPCR増幅産物(以下、標準という)からの検出シグナルを、サンプルDNAの亜硫酸水素塩処理物のPCR増幅産物からの検出シグナルと比較することにより、サンプルDNA中のメチル化DNAのメチル化率、存在量、および非メチル化DNAとの存在量の比を測定することができる。
【0083】
本発明の方法においては、上記陰性対照、陽性対照または標準の代わりに、上記陰性対照、陽性対照または標準と同じ塩基配列からなる、化学的または遺伝子工学的に合成したDNAを用いてもよい。さらに本発明の方法においては、陰性対照、陽性対照または標準の調製には市販品を用いることもでき、例えばEpiTect Control DNA and Control DNA Set(Qiagen社製)を使用できる。
【0084】
好ましい態様において、本発明で行われるイオン交換クロマトグラフィーにおいては、上記サンプルDNAの亜硫酸水素塩処理物のPCR増幅産物を含む試料と、上記陰性対照もしくは陽性対照、または上記標準の試料とを、個別にイオン交換クロマトグラフィー分析に供する。カラムに吸着した試料を、複数の溶離液を用いてグラジエント溶出させることにより、サンプルDNAの亜硫酸水素塩処理物のPCR増幅産物と陰性対照もしくは陽性対照または標準とを、DNAメチル化率に応じて異なる保持時間で溶出することができる。
【0085】
陰性対照からの検出シグナルは、サンプルDNAの代わりに、サンプルDNAと塩基配列は同じであるがメチル化していないDNAを用いて上述した手順で亜硫酸水素塩処理およびPCRを行い、得られたPCR増幅産物をイオン交換クロマトグラフィーにかけることによって獲得することができる。陽性対照からの検出シグナルは、サンプルDNAの代わりに、サンプルDNAと塩基配列は同じでかつメチル化率が既知(例えば、100%)であるDNAを用いて上述した手順で亜硫酸水素塩処理およびPCRを行い、得られたPCR増幅産物をイオン交換クロマトグラフィーにかけることによって獲得することができる。あるいは、上述した合成DNAや市販のDNAを陰性または陽性対照として、イオン交換クロマトグラフィーにかけることで、陰性または陽性対照からの検出シグナルを得てもよい。
【0086】
標準からの検出シグナルは、サンプルDNAの代わりに、サンプルDNAと塩基配列は同じでかつメチル化率が既知である複数のDNAを用いて上述した手順で亜硫酸水素塩処理およびPCRを行い、得られた複数のPCR増幅産物をそれぞれイオン交換クロマトグラフィーにかけることによって獲得することができる。さらに、得られた各々の検出シグナルから、検量線を作成してもよい。あるいは、上述した合成DNAや市販のDNAを標準として、イオン交換クロマトグラフィーにかけることで、標準からの検出シグナルを得てもよい。
【0087】
次いで、上記クロマトグラフィーで得られたサンプルDNAの亜硫酸水素塩処理物のPCR増幅産物からの検出シグナルと、陰性もしくは陽性対照、または標準からの検出シグナルとを比較する。両者の検出シグナルの違いに基づいて、サンプルDNAのメチル化を検出することができる。
【0088】
例えば、サンプルDNAの亜硫酸水素塩処理物のPCR増幅産物から得られた検出シグナルのピークの保持時間が、陰性対照のピークの保持時間とずれていれば、サンプルDNAがメチル化していると判定できる。さらにこのとき、保持時間のずれが大きいほど、メチル化率がより大きいと推定できる。逆に、サンプルDNAの亜硫酸水素塩処理物のPCR増幅産物から得られた検出シグナルのピークの保持時間が、100%メチル化陽性対照のピークの保持時間とずれているほど、サンプルDNAのメチル化率はより小さいと推定できる。あるいは、メチル化率が既知の標準から得られた複数のピークの保持時間に基づいて検量線を作成し、この検量線に基づいてサンプルDNAのメチル化率を決定することができる(
図1および2参照)。
【0089】
上記検量線により、DNAメチル化率と保持時間とを関連づけることができる。したがって、該検量線に基づいて、基準保持時間に対応するDNAメチル化率(以下、基準DNAメチル化率ともいう)を求めることができる。基準DNAメチル化率を取得しておけば、HPLCの機材や分析条件を変更した場合であっても、該変更された機材や条件下で新たに作成した検量線に該基準DNAメチル化率をあてはめることによって、新しい基準保持時間を容易に算出することができる。
【0090】
また例えば、サンプルDNAの亜硫酸水素塩処理物のPCR増幅産物から得られた検出シグナルのピークの高さまたはピーク面積を、メチル化DNAのメチル化率および混合比が既知のDNAの亜硫酸水素塩処理物のPCR増幅産物から得られた検出シグナルのピークの高さまたはピーク面積と比較することによって、サンプルDNAにおけるメチル化DNAの存在比率(例えば非メチル化DNAの存在比率や、特定の割合でメチル化されたDNAの存在比率など)を決定することができる。
【0091】
本発明の方法において、クロマトグラフィーによる検出シグナルのピークの有無を判定する方法としては、既存のデータ処理ソフトウェア、例えばLCsolution(島津製作所)、GRAMS/AI(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)、Igor Pro(WaveMetrics社)などを用いたピーク検出が挙げられる。LCsolutionを用いたピークの有無の判定方法を例示すると、具体的には、まずピークを検出させたい保持時間の区間を指定する。次に、ノイズなど不要なピークを除去するために、各種パラメータを設定する。例えば、パラメータ「WIDTH」を不要なピークの半値幅よりも大きくする、パラメータ「SLOPE」を不要なピークの立ち上り傾斜より大きくする、パラメータ「DRIFT」の設定を変えることにより分離度の低いピークを垂直分割するかベースライン分割するか選択する、などが挙げられる。パラメータの値は、分析条件、選択した遺伝子マーカーの種類、検体の量などにより、異なるクロマトグラムが得られるため、クロマトグラムに応じて適切な値を設定すればよい。
【0092】
保持時間、すなわちピークトップの時間は、上記のデータ処理ソフトウェアで自動的に計算することができる。例えば、クロマトグラムを一次微分し、微分係数が正から負へ変化する時間をピークトップの時間として取得することができる。
【0093】
本発明の方法においては、クロマトグラフィーによる検出シグナルの保持時間について調べる。その結果が、基準保持時間より早い保持時間に検出シグナルが得られる場合に、当該試料を、予後不良の腎細胞癌患者から得られた試料であると判定する。
図3A、Bに示すように、高メチル化率DNAのピークと低メチル化率DNAのピークとの分離がよく、二峰化する場合には、ピークの分離によって非メチル化DNAの影響を除去でき、予後不良の腎細胞癌患者から得られた試料であることが精度よく判定できる。
【0094】
さらに、本発明の方法においては、サンプルDNAの亜硫酸水素塩処理物のPCR増幅産物から得られた検出シグナルから、陰性対照から得られた検出シグナルを差し引いた差分データを求めることができる。差分データを求めることにより、サンプルDNA全体としての検出シグナルから非メチル化DNAからのシグナル(ノイズ)を除去し、メチル化DNAからのシグナルのみを抽出することができる。当該差分データは、サンプルDNA中のメチル化DNAによる検出シグナルに相当する。この差分データの保持時間を基準保持時間と比較する。その結果が、基準保持時間より早い場合、当該試料を、予後不良の腎細胞癌患者から得られた試料であると判定する。当該差分データを用いることによって、メチル化DNAからのシグナル成分が微弱にしか検出されないサンプル、例えば、メチル化DNAの存在比率の低いサンプルDNAや、メチル化率の低いメチル化DNAを含むサンプルDNAにおいても、メチル化DNAの検出や解析が可能になる。また、サンプルDNA中に様々なメチル化率のDNAが含まれる場合には、肩のあるピークが得られる、複数のピークが重なる、など様々なパターンのクロマトグラムが得られる。そのような場合において、差分データを求めることによって高メチル化率のサンプルDNAのシグナルのみを抽出できることから、高精度に癌予後判定ができる。
【0095】
したがって、上記差分データを用いることにより、サンプルDNA中のメチル化DNAに関するより高精度な解析が可能になる。なお差分データを求める際には、サンプルDNAと陰性対照に用いるDNAとのDNA量を合わせておくことが望ましい。DNA量の確認は、吸光度測定等の測定方法により確認すればよい。
【0096】
上記差分データを利用する場合の本発明の癌予後判定方法の手順は、基本的には、上述した差分前のデータの場合と同じである。例えば、クロマトグラフィーによる検出シグナルの保持時間について調べ、結果が、基準となる保持時間より早い保持時間に検出シグナルが得られる場合に、当該試料を予後不良の腎細胞癌患者から得られた試料であると判定する。
【0097】
本発明の予後判定方法において、上記差分データの利用は非常に有効である。臨床検査のために採取される検体は、DNAメチル化が進行していない非癌上皮細胞や間質細胞等の正常細胞を含む場合や、またはDNAメチル化がそれほど進行していない前癌状態の細胞を多く含む場合、あるいは様々なDNAメチル化率の癌細胞が様々な割合で存在する場合がある。上記差分データを用いることによって、検体中の正常細胞や前癌細胞中の正常DNA、あるいは測定対象とする遺伝子領域がメチル化されていない癌細胞に由来する非メチル化DNAの影響を除去することができるので、より高精度なメチル化DNAの検出を行うことができ、さらに当該検出結果を利用すれば、より高精度な癌予後判定を行うことができる。
【0098】
本発明の予後判定方法によれば、試料中のメチル化DNAと非メチル化DNAを分離検出することができるので、試料が正常細胞を多く含んでいる場合であってもメチル化DNAの存在およびそのメチル化率を高精度に検出し、正確な予後判定を行うことができる。本発明の方法では、従来の検査では予後不良にもかかわらずCIMP陽性と判定されていなかったような被験体についても、正確な予後判定が可能になる。
【実施例】
【0099】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0100】
〔患者及び組織サンプル〕
109の癌組織(T)サンプル及び対応する107の非癌腎皮質組織(N)サンプルは、原発性の淡明細胞型腎細胞癌を罹患している110人の患者から手術によって摘出された試料から得たものであり、Nサンプルには顕著な組織学的変化は認められていない。なお、これら患者は、術前の治療は受けておらず、国立がん研究センター病院にて腎摘出術を受けた患者である。79名の男性と31名の女性とからなり、平均年齢は62.8±10.3歳(平均±標準偏差、36〜85歳)である。
【0101】
また、サンプルの組織学的診断は、WHOの分類に従って行った(Eble,J.N.ら、「腎細胞癌 腫瘍WHO分類 病理学及び遺伝学 男性生殖器及び泌尿系の腫瘍」、2004年、IARC出版、Lyon、10〜43ページ、
図1 参照)。
【0102】
さらに、全ての腫瘍の組織学的異型度は「Fuhrman,S.A.ら、Am.J.Surg.Pathol.、1982年、6巻、655〜663ページ」に記載の基準に従って評価し、TNM分類は「Sobin,L.H.ら、国際対がん連合(UICC)、TNM悪性腫瘍の分類、第6版、2002年、Wiley−Liss、New York、193〜195ページ」に従って分類した。
【0103】
また、腎細胞癌の肉眼分類の基準として、肝細胞癌(HCC)において確立された基準を採用した(非特許文献4〜6 参照)。なお、タイプ3(多結節癒合型)HCCは、タイプ1(単結節型)及びタイプ2(単結節周囲増殖型)のHCCよりも、組織学的分化度は低く、肝内転移の発生率は高い(Kanai,T.ら、Cancer、1987年、60巻、810〜819ページ参照)。
【0104】
血管侵襲の有無は、へマトキシリン−エオジン及びエラスチカ・ワン・ギーソン染色を施したスライドを顕微鏡にて観察することによって調べた。腎静脈の本幹における腫瘍血栓の有無は肉眼的観察によって調べた。
【0105】
今回の研究対象である全ての患者からは、書面によるインフォームドコンセントを得ている。また、本研究は、国立がん研究センターの倫理委員会の承認を受けて実施されたものである。
【0106】
〔参考例1〕従来法によるCIMP陰性/陽性判定
従来法によるCIMP陰性/陽性判定は、特許文献4に記載のMassARRAY法(実施例5)に従って行った。メチル化DNA検出方法の1つであるMassARRAY法にて、17遺伝子(FAM150A、GRM6、ZNF540、ZFP42、ZNF154、RIMS4、PCDHAC1、KHDRBS2、ASCL2、KCNQ1、PRAC、WNT3A、TRH、FAM78A、ZNF671、SLC13A5及びNKX6−2)のCpGサイト(表1〜4)についてのDNAメチル化レベルを検出した。
【0107】
MassARRAY法は、亜硫酸水素塩処理後のDNAを増幅し、RNAに転写し、さらにRNAaseにより塩基特異的に切断した後、質量分析計によって、メチル化DNA断片と非メチル化DNA断片との分子量の差を検出する方法である。
【0108】
先ず、前記CpGサイトを含むCpGアイランドに対し、EpiDesigner(SEQUENOM社製、MassARRAY用プライマー設計ソフト)を用いてMassARRAYのプライマー設計を行った。
【0109】
また、PCRにおけるバイアスの影響を排除するため、1プライマーセット当たり、DNAポリメラーゼ3種とアニール温度4段階程度の条件との組み合わせを平均して試行し、定量性の良好な至適PCR条件を決定した。そして、PCR標的配列に含まれ解析対象となる全てのCpG部位について、採用したPCR条件で定量性が良好であることを確認し、109の腎細胞癌組織サンプルのうち腎細胞癌102検体において、MassARRAY解析を実施した。
【0110】
まず、前記患者から得た新鮮凍結組織サンプルを、フェノール−クロロホルムにて処理し、次いで透析を施すことによって、高分子量DNAを抽出した(Sambrook,J.ら、モレキュラークローニング:実験マニュアル 第3版、コールドスプリングハーバー出版、NY、6.14〜6.15ページ 参照)。そして、DNA500ngを、EZ DNA Methylation−Gold
TMキット(Zymo Research社製)を用い、亜硫酸水素塩処理に供した。亜硫酸水素塩処理ゲノムDNAをPCRにて増幅して、インビトロ転写反応を行った。次いで、得られたRNAをRNAaseによりウラシルの部位で特異的に切断し、各サンプルのゲノムDNAのメチル化の有無に応じた長さの異なる断片を生成した。そして、得られたRNA断片を、一塩基の質量の差異を検出できるMALDI−TOF MAS(SEQUENOM社製、MassARRAY Analyzer 4)にかけ、質量分析を行った。得られた質量分析結果を、解析ソフトウェア(EpiTYPER、SEQUENOM社製)を用いて、リファレンス配列にアラインメントし、メチル化DNAに由来するRNA断片と非メチル化DNAに由来するRNA断片との質量の比から、メチル化レベルを算出した。本解析に用いたプライマーの配列と該プライマーのセットを用いて増幅されたPCR産物の配列を、表5及び6ならびに配列表に示す。
【0111】
【表5】
【0112】
【表6】
【0113】
MassARRAYの解析対象とした全ての領域に関し、前記CpGサイトのDNAメチル化レベルを検出することによって、予後不良の腎細胞癌(CIMP陽性群:14検体)と、予後が良好である腎細胞癌(CIMP陰性群:88検体)とを判別した。
【0114】
〔参考例2〕アニオン交換カラムの調製
攪拌機付き反応器中の3重量%ポリビニルアルコール(日本合成化学社製)水溶液2000mLに、テトラエチレングリコールジメタアクリレート(新中村化学工業社製)200g、トリエチレングリコールジメタアクリレート(新中村化学工業社製)100g、グリシジルメタクリレート(和光純薬工業社製)100gおよび過酸化ベンゾイル(キシダ化学社製)1.0gの混合物を添加した。攪拌しながら加熱し、窒素雰囲気下にて80℃で1時間重合した。次に、強カチオン性基を有する親水性単量体として、メタクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロリド(和光純薬工業社製)100gをイオン交換水に溶解した。これを同じ反応器に添加して、同様にして、攪拌しながら窒素雰囲気下にて80℃で2時間重合した。得られた重合組成物を水およびアセトンで洗浄することにより、4級アンモニウム基を有する親水性重合体の層を表面に有する被覆重合体粒子を得た。得られた被覆重合体粒子について、粒度分布測定装置(AccuSizer780/Particle Sizing Systems社製)を用いて測定したところ、平均粒子径は10μmであった。
【0115】
得られた被覆重合体粒子10gをイオン交換水100mLに分散させ、反応前スラリーを準備した。次いで、このスラリーを撹拌しながら、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン(和光純薬工業社製)を10mL加え、70℃で4時間反応させた。反応終了後、遠心分離機(日立製作所社製、「Himac CR20G」)を用いて上澄みを除去し、イオン交換水で洗浄した。洗浄後、遠心分離機を用いて上澄みを除去した。このイオン交換水による洗浄を更に4回繰り返し、基材粒子の表面に4級アンモニウム基と3級アミノ基とを有するイオン交換クロマトグラフィー用充填剤を得た。
【0116】
上記イオン交換クロマトグラフィー用充填剤を液体クロマトグラフィーシステムのステンレス製カラム(カラムサイズ:内径4.6mm×長さ20mm)に充填した。
【0117】
〔参考例3〕イオン交換クロマトグラフィーによるメチル化DNAの検出
(1)ゲノムDNAの抽出と亜硫酸水素塩処理
患者から得た新鮮凍結組織サンプルを、フェノール−クロロホルムにて処理し、次いで透析を施すことによって、高分子量DNAを抽出した(Sambrook,J.ら、モレキュラークローニング:実験マニュアル 第3版、コールドスプリングハーバー出版、NY、6.14〜6.15ページ 参照)。DNA500ngを、EZ DNA Methylation−Gold
TMキット(Zymo Research社製)を用い、亜硫酸水素塩処理に供した。
【0118】
(2)PCR
(1)で得られた亜硫酸水素塩処理ゲノムDNAをPCR増幅した。PCRは、鋳型DNA 10ng、GeneAmp 1×PCR buffer(Life Technologies社製)、200μmol/L GeneAmp dNTP Mix(Life Technologies社製)、0.75U AmpliTaq Gold DNA Polymerase(Life Technologies社製)、0.25μmol/L forwardおよびreverseプライマーを含んだ25μLの反応液で行った。PCRでは、95℃5分間初期熱変性を行った後、94℃30秒→59℃(F3−R3プライマー使用時)30秒→72℃40秒を1サイクルとして35サイクル続け、さらに72℃10分の伸張反応を行った。PCR終了後、予めethidium bromideを添加した3%アガロースゲルに、反応液5μLにloading dye solution 1μLを混ぜた後アプライして電気泳動し、PCR増幅産物を観察して目的のPCR増幅産物が得られたことを確認した。各プライマーの配列は、表7に示した。
【0119】
【表7】
【0120】
(3)HPLC分析
参考例2で準備したアニオン交換カラムを用いて、以下の条件でイオン交換クロマトグラフィーを行い、(2)で得られた各PCR増幅産物を分離検出した。
システム:LC−20Aシリーズ(島津製作所社製)
溶離液:溶離液A 25mmol/Lトリス塩酸緩衝液(pH7.5)
溶離液B 25mmol/Lトリス塩酸緩衝液(pH7.5)+1mol/L硫酸アンモニウム
分析時間:分析時間は15分
溶出法:以下のグラジエント条件により溶離液Bの混合比率を直線的に増加させた。
0分(溶離液B40%)→10分(溶離液B100%)
検体:(2)で得られたPCR増幅産物
流速:1.0mL/min
検出波長:260nm
試料注入量:5μL
カラム温度:70℃
【0121】
〔実施例1〕DNAメチル化率によるクロマトグラフィー保持時間の変動
FAM150A遺伝子プロモーターにおける、39個のCpGサイトを有する384bp領域のDNA配列に基づいて、39個のCpGサイト全てがメチル化されているDNA(100%メチル化DNA)から全くメチル化されていないDNA(0%メチル化DNA)まで、メチル化率の異なる8つのDNAを合成した。なお50%メチル化DNAについては、メチル化位置を5'側寄り、3’側寄り、および中央寄りの3パターンのDNAを合成した。各合成DNAのメチル化率およびCpGアイランドのメチル化数を表8に示す。
【0122】
【表8】
【0123】
上記8つの合成DNAを、参考例3の手順に従って亜硫酸水素塩処理、PCR、およびHPLCにかけた。合成DNA No.1(100%メチル化)、No.2(0%メチル化)、No.3(25%メチル化)、No.4(50%メチル化)およびNo.5(75%メチル化)についてのHPLCのクロマトグラムを
図1に示す。DNAメチル化率に従って保持時間の短縮が見られた。さらに、8つのDNAについて、メチル化率に対してHPLCの保持時間をプロットしたデータを
図2に示す。HPLCの保持時間は、DNAメチル化率に対して極めて高い相関を示した。さらに、50%メチル化DNAについては、メチル化位置に依らず、ほぼ同一の保持時間を示すことが確認された。このことから、DNA中のメチル化位置に依らず、メチル化率に依存して保持時間が決定されることが示された。したがって、HPLCの保持時間を測定することにより、サンプルDNAに含まれるメチル化率を測定することができる。
【0124】
〔実施例2〕腎細胞癌におけるDNAメチル化解析と予後判定
参考例1でCIMP判定された腎細胞癌のうち、患者13人からのCIMP陽性腎細胞癌と、5人からのCIMP陰性腎細胞癌からゲノムDNAを調製した。参考例3(1)〜(3)の手順に従って、該DNAを亜硫酸水素塩処理、PCR、およびHPLCにかけた。PCRでは、FAM150A遺伝子プロモーターにおける、384bp領域を増幅した。
さらに、上記PCR増幅領域におけるメチル化率が0%(陰性対照)および100%(陽性対照)のDNAについても、それぞれ同様の手順でHPLC分析した。
【0125】
CIMP陽性およびCIMP陰性試料から得られたHPLCクロマトグラムを
図3に示す。
図3には、非メチル化DNA(陰性対照)および100%メチル化DNA(陽性対照)のクロマトグラムも表示されている。
図3A,BはCIMP陽性試料のクロマトグラムであり、非メチル化DNA(陰性対照)のピークと保持時間の異なるピークが明瞭に出現しており、メチル化DNAの存在を表している。
図3CはCIMP陰性試料のクロマトグラムであり、そのピークは非メチル化DNA(陰性対照)のピークと保持時間においてほとんど区別できず、メチル化DNAがほぼ存在しないことを示している。
図3Dは、CIMP陰性試料のクロマトグラムであるが、非メチル化DNA(陰性対照)のピークと保持時間の異なるピークが明瞭に出現しており、メチル化DNAの存在を表している。すなわち、CIMP陰性と判定されていても予後不良の検体である可能性を示唆している。
【0126】
図4は、本実施例で調べた18個のCIMP陰性/陽性試料全てについて、HPLCクロマトグラムのピークの保持時間をプロットした図である。CIMP陰性試料と陽性試料は、保持時間の分布が明らかに異なっていることから、本発明の方法により、MassARRAY法で判定された癌のCIMPを、本発明の方法によっても正確に判断できることが明らかにされた。
【0127】
本実施例にて用いたFAM150A遺伝子プロモーター384bp領域においては、
図4に示されるように保持時間9.3min付近でCIMP陽性群とCIMP陰性群とが分かれていることから、保持時間9.3min付近を基準となる保持時間に設定できる。すなわち、基準となる保持時間(基準保持時間)より早い保持時間に検出シグナルを有する検体は、予後不良であると判定できる。前述の基準保持時間は、HPLCの分析条件、ゲノムDNAの領域、あるいは遺伝子マーカーの種類等によってクロマトグラムが変化するので、適切な基準保持時間を設定すればよい。また、必要とされる臨床感度も考慮し、基準保持時間を設定するのが好ましい。
【0128】
本実施例においては、陽性対照(DNAメチル化率100%)の保持時間が約9.0分および陰性対照(DNAメチル化率0%)の保持時間が約9.35分であったことから、基準保持時間をもたらす基準DNAメチル化率は約17%と計算された。したがって、本実施例にて用いたFAM150A遺伝子プロモーター384bp領域において、上記基準DNAメチル化率(約17%)より高いDNAメチル化率を有する検体は、予後不良であることが示された。
【0129】
MassARRAYで得られたDNAメチル化率の平均値と、本発明で得られたDNAメチル化率とを比較する。本発明で得られた検出シグナルが
図3A,Bのような二峰化したピークについて、保持時間(溶出が早いほうの保持時間をa、遅いほうの保持時間をbとする)から算出されるDNAメチル化率をプロットし、MassARRAYで得られたDNAメチル化率と比較したものを、
図5Aに示す。
図5Aにおいては、それぞれの方法により得られたDNAメチル化率は相関しているように見えない。しかしながら、保持時間aと保持時間bの平均より算出した合成ピークC(保持時間c)から得られるDNAメチル化率をプロットし、同様にMassARRAYで得られたDNAメチル化率と比較したものを、
図5Bに示す。
図5Bに示されるように、合成ピークCから算出されるDNAメチル化率は、MassARRAY法で得られたDNAメチル化率の平均値と良好に相関する。
【0130】
本発明によれば、例えば30%メチル化DNAと70%メチル化DNAが等量混合された試料と、すべて50%メチル化DNAである試料とが、明確にクロマトグラム上で判別できる。それに対し、上記の例においては、MassARRAY法ではいずれの試料も平均値として50%メチル化DNAという情報しか得られない。本発明によれば、MassARRAY法とは異なり、試料中に含まれる様々なDNAメチル化率のシグナルを分離して検出できることから、平均化されていないDNAメチル化率を得ることができる。
【0131】
MassARRAY法、パイロシークエンシング等の方法で得られるDNAメチル化率の値は、測定に供した試料全体の平均値としてのDNAメチル化率が得られるため、結果として、高度にメチル化されたDNAを有する細胞の有無を判定することができないという問題点があった。本発明によれば、CIMP陰性と判定されていても、非メチル化DNAの影響を除去し、高メチル化DNAを含むか否かを検出できることから、DNAメチル化率を低く見積もるリスクが避けられる。さらには、予後不良の疑いのある検体を判定できる。
【0132】
特許文献4に記載の方法によるCIMP判定は、複数の遺伝子マーカーのCpGアイランドを対象にCpGサイトのメチル化を調べてCIMP陽性またはCIMP陰性を判定していた。本発明によれば、単独の遺伝子マーカーであっても、HPLCより得られた検出シグナルを解析することによって、CIMP判定と同等の腎細胞癌の予後判定が容易にできる可能性が示唆された。さらに、複数の遺伝子マーカーについてHPLCによる検出シグナルを解析することによって、予後判定を高精度化できる可能性が示唆された。