(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5897243
(24)【登録日】2016年3月11日
(45)【発行日】2016年3月30日
(54)【発明の名称】液相酸化により芳香族ポリカルボン酸を調製する方法
(51)【国際特許分類】
C07C 51/265 20060101AFI20160317BHJP
C07B 61/00 20060101ALI20160317BHJP
C07C 63/26 20060101ALI20160317BHJP
【FI】
C07C51/265
C07B61/00 300
C07C63/26 E
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2009-541881(P2009-541881)
(86)(22)【出願日】2007年12月18日
(65)【公表番号】特表2010-513355(P2010-513355A)
(43)【公表日】2010年4月30日
(86)【国際出願番号】EP2007011213
(87)【国際公開番号】WO2008074497
(87)【国際公開日】20080626
【審査請求日】2010年12月20日
【審判番号】不服2014-13751(P2014-13751/J1)
【審判請求日】2014年7月15日
(31)【優先権主張番号】06026566.7
(32)【優先日】2006年12月21日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】502132128
【氏名又は名称】サウディ ベーシック インダストリーズ コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100090468
【弁理士】
【氏名又は名称】佐久間 剛
(72)【発明者】
【氏名】ハシュミ,シィエド アズハル
(72)【発明者】
【氏名】アル−ルハイダン,スライマン
【合議体】
【審判長】
佐藤 健史
【審判官】
瀬良 聡機
【審判官】
木村 敏康
(56)【参考文献】
【文献】
特開平02−138150(JP,A)
【文献】
特開平07−247239(JP,A)
【文献】
酒井 俊人 外2名「イオン性液体」,住友化学,2003−II(2003)p.26−34
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C51/265,C07C51/235,C07C63/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
p−キシレンまたはm−キシレンの液相酸化によって芳香族ポリカルボン酸を調製する方法であって、反応区域において、カルボン酸溶媒と、コバルトおよびマンガンを含む触媒と、促進剤との存在下で、前記化合物を酸素含有ガス酸化剤と接触させる工程を有してなり、前記芳香族ポリカルボン酸がテレフタル酸またはイソフタル酸であり、および前記促進剤が臭化1−エチル−3−メチルイミダゾリウムであることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記溶媒が酢酸であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記触媒がアルカリ金属をさらに含むことを特徴とする請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記酸化剤が酸素または空気であることを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記反応区域における温度が150〜250℃であり、圧力が1.5〜2.5MPaであることを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記促進剤が、溶媒に基づいて10〜10000ppmの濃度で存在することを特徴とする請求項1から5いずれか1項記載の方法。
【請求項7】
テレフタル酸を調製するための、請求項1記載の方法であって、反応区域において、150〜250℃の温度で、1.5〜2.5MPaの圧力で、溶媒としての酢酸と、コバルト−マンガン触媒と、促進剤としての臭化1−エチル−3−メチルイミダゾリウムとの存在下で、p−キシレンを空気により酸化させる工程を有してなる方法。
【請求項8】
前記触媒がアルカリ金属をさらに含むことを特徴とする請求項7記載の方法。
【請求項9】
臭化1−エチル−3−メチルイミダゾリウムが、溶媒に基づいて10〜10000ppmの濃度で存在することを特徴とする請求項7または8記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、C1〜C4アルキル基、ヒドロキシルアルキル基またはホルミル基を2または3つ有するベンゼンまたはナフタレン化合物の液相酸化により芳香族ポリカルボン酸を調製する方法であって、反応区域において、カルボン酸溶媒と、コバルト、マグネシウム、クロム、銅、ニッケル、バナジウム、鉄、モリブデン、スズ、セリウムおよびジルコニウムからなる群より選択される金属を少なくとも1種類有する触媒と、促進剤との存在下で、前記化合物を酸素含有ガスに接触させる工程を有してなる方法に関する。より詳しくは、本発明は、テレフタル酸を製造する方法であって、反応区域において、溶媒としての酸性酸、コバルト−マンガン触媒および促進剤の存在下で、p−キシレンを空気または酸素で酸化させる工程を有してなる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
そのような方法は特許文献1から公知であり、この文献には、キシレン異性体の液相酸化により、ベンゼンジカルボン酸、例えば、テレフタル酸を調製する方法であって、キシレンが、溶媒としての酢酸と、触媒としてのコバルト塩と、促進剤としての、アセトアルデヒド、トルアルデヒド、ブタノン、またはメチルエチルケトンなどの有機化合物との存在下で、酸化剤としての酸素または空気と接触せしめられる方法が記載されている。
【0003】
1,4−および1,3−ベンゼンジカルボン酸としても知られている、テレフタル酸(TPA)およびイソフタル酸(IPA)は、PETおよびPBTなどの熱可塑性樹脂、および熱硬化性ポリエステル樹脂を含む様々なポリマーのための主原料として、大規模生産されている。TPAなどの芳香族ポリカルボン酸を製造するための工業的に適用されたプロセスのほとんどは、元々特許文献2に記載された技術に基づいている。可溶性のコバルト−マンガン−臭素触媒系がこれらのプロセスの核心を形成し、出発材料のキシレンのメチル基をほぼ定量的に酸化させる。酢酸は一般に溶媒として用いられ、圧縮空気中の酸素は酸化剤であり、反応温度は170〜220℃の範囲内にある。コバルトおよびマンガンの様々な塩は触媒として使用でき、臭素源は、中でも、HBr、NaBr、臭化アンモニウムまたはテトラブロモエタンであって差し支えない。臭化物は、促進剤として働くと考えられ、特に、第2の(およびさらに別の)メチル置換基の酸化を活性化させるのに必要である。酸化反応は液相中で行われるが、溶媒中の芳香族ポリカルボン酸の溶解性が低いために、そのほとんどは、形成されると沈殿する。これにより、実際に、三相系:固体のTPA結晶;溶解した出発芳香族化合物、中間体生成物、およびある程度の溶解したTPAを含む溶媒;並びに窒素、酢酸、水、および酸素を含む蒸気:が生じる。反応熱は、溶媒の蒸発によって除去される。一般に、約120分までの滞留時間が用いられ、89%を超えるキシレンが反応し、95%を超えるTPAが生成される。メチル基の酸化は、各工程で生じ、例えば、p−キシレンの場合には、2つの中間体、すなわち、p−トルイル酸および4−カルボキシベンズアルデヒド(4−CBA;A−ホルミル安息香酸とも呼ばれる)が形成される。4−CBAは、その構造がTPAに類似しているために、厄介な化合物であり、TPAと共結晶化したり、TPA中に取り込まれたりする。高モル質量の線状ポリエステルを製造するために、テレフタル酸などのモノマーは、非常に高純度である必要がある。上述したプロセスにより得られた初期生成物は>98%のTPAを含有するかもしれないが、れそは、一般に、粗テレフタル酸(CTA)と称される。精製テレフタル酸(PTA)と一般に称されるポリマーグレードのTPAを製造するために、プロセスは一般に、反応、精製および/または結晶化工程を1つ以上さらに含む。
【0004】
これらのプロセスの主な欠点は、臭素系の促進剤が、酢酸溶媒と一緒になって、プロセス設備の主要部品における接触材料としてチタンなどの高価な特殊金属を使用する必要のある、高腐食性媒質を形成することである。
【0005】
多くの文献がこの問題に対処しており、様々な解決策が提案されてきた。例えば、特許文献3には、設備部品の耐臭化物材料から製造する必要のある数が減らせるように、特別な洗浄および分離工程を含むプロセスが記載されている。特許文献4には、触媒としてのコバルトとジルコニウムの組合せが開示されており、これにより、反応温度を低くし、反応条件をより穏やかにすることができるであろうが、長期に亘る反応時間で転化率が比較的低くなってしまう。特許文献5にも、コバルト−ジルコニウム触媒を適用したプロセスが記載されおり、このプロセスには、臭化物促進剤が存在する必要はないであろう。
【0006】
特許文献1に記載されているプロセスは、臭素系の促進剤は適用しないが、多量の触媒を使用する必要があり、コバルト塩の触媒は、芳香族化合物(キシレン)に基づいて5から25モル%で適用される。この公知のプロセスのさらに別の欠点は、使用される有機促進剤が、適用される反応条件下で酸化され、その後の精製および再利用工程がさらに複雑になることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6355835号明細書
【特許文献2】米国特許第2833816号明細書
【特許文献3】英国特許出願公開第2000493号明細書
【特許文献4】米国特許第3299125号明細書
【特許文献5】米国特許第6153790号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
それゆえ、カルボン酸溶媒、金属触媒および促進剤の存在下で、アルキル基、ヒドロキシアルキル基またはホルミル基2または3つにより置換された芳香族化合物の酸素含有ガスによる液相酸化によって、芳香族ポリカルボン酸を調製する方法であって、高腐食性媒質を使用せず、高い転化率を示し、分離および回収工程が容易な方法が、当該産業において必要とされている。
【0009】
したがって、本発明の課題は、そのような改良方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題は、本発明にしたがって、促進剤が、有機陽イオンおよび臭化物またはヨウ化物陰イオンを含むイオン性液体である方法により達成される。
【0011】
意外なことに、請求項1により定義された方法によって、カルボン酸溶媒、金属触媒および臭化物−またはヨウ化物−含有促進剤の存在下で、置換されたベンゼンまたはナフタレン化合物の酸素含有ガスによる液相酸化によって、転化率が高く、反応速度が好ましく、通常は促進剤としてのハロゲン含有化合物の使用に関連する重大な腐食問題のない、芳香族ポリカルボン酸を調製することができる。この方法では、プロセス設備に高耐腐食性の材料または内張を使用する必要がなく、それゆえ、投資費用とメンテナンス費用が節約され、プラントの信頼性が増す。
【0012】
米国特許出願公開第2004/0015009A1号明細書には既に、2つのアルキル置換基を有する芳香族化合物の酸化にイオン性液体が用いられるプロセスが開示されたのは事実であるが、このプロセスにおいては、イオン性液体は、溶媒として用いられ、メタンスルホネートなどの硫黄含有陰イオンを含有することが好ましい。その上、長時間が経過した後でさえも、転化率は比較的低かった。
【0013】
本発明による方法において、促進剤としての有機陽イオンおよび臭化物またはヨウ化物陰イオンを含むイオン性液体を使用すると、芳香族化合物の第2の置換基のその後の酸化を、第1の置換基に関するものと同じ反応条件下で行うこともできる。本発明による方法のさらに別の利点は、イオン性液体は、固体のポリカルボン酸反応生成物から他の成分と共に容易かつ完全に分離することができ、再利用できることである。さらに、ハロゲン化芳香族生成物などの不純物が検出可能な量で形成されず、反応装置から排出される排気ガス中に臭化メチルなどの有害生成物が見られなかった。
【0014】
本発明は、1〜4の炭素原子を有するアルキル基、ヒドロキシアルキル基またはホルミル基2または3つにより置換されたベンゼンまたはナフタレン化合物の液相酸化によって、芳香族ポリカルボン酸を調製する方法に関する。特に適したアルキル基は、メチル基、エチル基、およびイソプロピル基であり、適切なヒドロキシアルキル基は、ヒドロキシメチル基およびヒドロキシエチル基である。この化合物の芳香族環上に存在する2または3つのそのような基は、同じであっても異なっていても差し支えなく、それぞれ、ジカルボン酸またはトリカルボン酸が形成される。芳香族化合物が2つのメチル置換基を有することが好ましい。酸化すべき適切な化合物の例は、o−,m−,およびp−キシレン、ビスヒドロキシメチルベンゼン、並びに2,6−ジメチルナフタレンである。適切な化合物の例としては、カルボン酸およびその対応するエステルに、既に部分的に酸化されているもの、例えば、p−トルイル酸、p−トルイル酸メチルおよびp−カルボキシアルデヒドが挙げられる。
【0015】
本発明による方法は、それぞれ、p−キシレンまたはm−キシレンからのテレフタル酸またはイソフタル酸の調製に関することが好ましい。
【0016】
本発明による方法に用いられるカルボン酸溶媒は、出発の置換芳香族化合物のための溶媒であり、酸化条件下で実質的に影響を受けない。適切なカルボン酸としては、2〜8の炭素原子を有する低級脂肪族モノカルボン酸、および安息香酸が挙げられる。2〜4の炭素原子を有し、第3炭素原子に水素原子がない、飽和脂肪族カルボン酸を使用することがより好ましい。溶媒として酢酸を使用することが最も好ましい。この溶媒がある程度の水をさらに含んでもよい。使用する溶媒の量は重要ではないが、溶媒の芳香族化合物に対する比は、3:1から15:1の範囲にある。
【0017】
本発明の方法において、先に文献に記載されているように、コバルト、マグネシウム、クロム、銅、ニッケル、バナジウム、鉄、モリブデン、スズ、セリウムおよびジルコニウムからなる群より選択される金属を少なくとも1種類含む触媒が用いられる。様々な価数を有するこれらの金属は、無機または有機塩の形態で使用することができる。好ましくは有機塩、より好ましくは、金属酢酸塩などの、低級カルボン酸塩が用いられる。触媒として、好ましくはコバルト塩を、より好ましくはマンガン、セリウムおよび/またはジルコニウム塩とともに使用する。良好な活性および安定性の点から見て、コバルトおよびマンガンの組合せを含む触媒が最も好ましい。
【0018】
触媒がアルカリ金属をさらに含有することが好ましい。何故ならば、これによって、不純物のレベル、例えば、p−キシレンの酸化の場合には、p−トルイル酸および4−CBAのレベルが減少するからである。アルカリ金属は、他の金属成分に関して上述したように、塩の形態で加えられることが好ましい。触媒がカリウムまたは
セシウムをさらに含むことがより好ましく、
セシウム塩が最も好ましい。
【0019】
本発明による方法に用いられる触媒の量は、幅広く、例えば、数ppmから数%まで、様々であってよい。触媒としてコバルトおよびマンガンが用いられる場合、それらの濃度は、それぞれ、10から10000ppmおよび20から20000ppm(溶媒の質量に基づく)の範囲にあることが好ましい。コバルトおよびマンガンの濃度が、それぞれ、100から1000ppmおよび500から2000ppmの範囲にあることがより好ましい。コバルトのマンガンに対する比は、幅広く、例えば、5/1から1/25まで様々であってよいが、2/1から1/15までであることが好ましく、1から1/10、またはさらには約1/5であることがより好ましい。
【0020】
芳香族ポリカルボン酸を調製するための本発明による方法は、置換芳香族化合物を酸化剤としての酸素含有ガスと接触させる工程を含む。酸素分子、空気または酸素を含む任意の他のガス混合物、例えば、二酸化窒素または二酸化炭素などの、任意の酸素含有ガスを適用しても差し支えない。本発明による方法を実施する好ましい様式において、酸素含有ガスは、4〜50体積%、好ましくは10〜25体積%の二酸化炭素を含む。これにより、反応時間と副反応がさらに減少する。酸素の総量の置換芳香族化合物に対する比は、酸化すべき置換基の数に依存する。酸素は過剰に用いられることが好ましい。例えば、酸素の芳香族化合物に対するモル比は、3から500までであることが好ましく、5から100までがより好ましい。
【0021】
芳香族ポリカルボン酸を調製するための本発明による方法は、反応区域において、液相中で置換芳香族化合物を酸化剤と接触させる工程を含む。この液相は、溶媒、溶解した反応体、触媒、促進剤などを含む。反応区域において適用される反応条件、温度および圧力は、液相が維持され、かつ所望の反応が生じて、所望の転化率が達成されるが、相当な蒸発や望ましくない副反応が生じないようなものである。一般に、適切な温度は150〜250℃の範囲、好ましくは185〜225℃の範囲にあり、適切な圧力は1.5〜2.5MPaの範囲、好ましくは1.8〜2.2MPaの範囲にある。それは、これによって、約60から120分の滞留時間で、高い転化率で所望の生成物が得られるからである。
【0022】
本発明による方法における反応区域は、当業者に公知の1つ以上の反応装置、例えば、連続様式またはバッチ式で動作できる撹拌タンク型反応装置を含むことができる。そのような反応装置、およびその後の設備部品が、チタンなどの特殊な臭化物耐性材料から製造される必要のないことが、本発明の利点の1つである。そのような反応装置の適切な材料の例としては、例えば、Hastealloy−Cとして市販されているNiCrMo合金などの合金が挙げられる。
【0023】
本発明は、金属触媒および促進剤としての有機陽イオンと臭化物またはヨウ化物陰イオンを含むイオン性液体を適用した、置換芳香族化合物の液相酸化によって、芳香族ポリカルボン酸を調製する方法に関する。イオン性液体は、ここでは、実質的にイオンのみを含有し、200℃未満の融点を有し、適用された条件で液体でる化合物として定義され、これは以下のサイト「http://www.chemsoc.org/ExemplarChem/entries/2004/bristol_vichery/ionic_liquids.htm」に与えられる定義と同様である。イオン性液体は、一般に、低粘度であり、不揮発性であり、固有導電性である。従来の有機溶媒におけるように、多くの種類の化学反応がイオン性液体中で生じ、「環境に優しい化学」および生体触媒における溶媒としてのその使用に多くの研究が向けられていることが知られている。イオン性液体の性質は、陽イオンと陰イオンの特別な組合せを選択することによって、調節される。
【0024】
本発明による方法において促進剤として用いられるイオン性液体は、臭化物またはヨウ化物陰イオンと共に有機陽イオンを含む。イオン性液体がこれらのタイプの陽イオンと陰イオンから実質的になることが好ましい。
【0025】
有機陽イオンは異なる構造のものであってよいが、有機陽イオンが第四級窒素含有基であることが好ましい。その適切な例としては、環状および脂肪族第四級窒素含有陽イオンが挙げられる。好ましい陽イオンは、1−アルキルピリジニウムまたは1,3−ジアルキルイミダゾリウムであり、ここで、アルキル基は直鎖または分岐アルキルであって差し支えない。
【0026】
アルキル基は、好ましくは1〜5の、より好ましくは1〜3の炭素原子を含有する。その利点としては、良好な安定性、および反応混合物中の良好な可溶性が挙げられる。
【0027】
イオン性液体の陰イオンは、臭化物またはヨウ化物陰イオンであり得るが、この陰イオンが臭化物イオンであることが好ましい。何故ならば、これにより、本発明による方法において促進剤としての活性と選択性が高くなるからである。好ましい化合物は、臭化1−エチル−3−メチルイミダゾリウムであり、これにより、可溶性、活性および安定性の好ましい組合せが提供される。
【0028】
本発明による方法におけるイオン性液体の促進剤は、所望の効果を得るために、比較的低濃度で使用することができる。イオン性液体の適切な濃度範囲は、約10から約50000ppm(溶媒に基づく)までであり、濃度が10〜1000ppmの範囲にあることが好ましい。
【0029】
有機陽イオンおよび臭化物またはヨウ化物陰イオンを含むイオン性液体は、本発明による方法において別の臭素含有化合物などの他の促進剤を添加する必要がないような、促進剤としての活性を示す。芳香族化合物の第2の置換基(および随意的に第3の置換基)を酸化させるための反応条件は、第1の置換基(例えば、メチル基)を酸化させるのに用いられたまま維持して差し支えない。イオン性液体の促進剤は、反応において消費されず、分離し、繰り返し再利用することができる。
【0030】
本発明の好ましい実施の形態において、本発明の方法は、反応区域において、溶媒としての酸性酸、コバルト−マンガン触媒および促進剤としての第四級窒素含有陽イオンと臭化物陰イオンを含有するイオン性液体の存在下におけるp−キシレンの空気または酸素により酸化させる工程を有してなるテレフタル酸の調製に関する。この方法のさらに好ましい条件および実施の形態は、先に論じられたものと類似している。
【0031】
本発明による方法は、上述した方法によって得られた芳香族ポリカルボン酸、例えば、テレフタル酸を単離し、精製する追加の各工程をさらに含んでよい。そのような処理工程は、当業者によく知られており、特に、TPAおよびIPAの製造について、並びに粗製テレフタル酸(CTA)を精製テレフタル酸(PTA)に変えることについて、一般的な文献、例えば、ウルマン工業化学百科事典(例えば、http://www.mrw.interscience.wiley.com/ueic/articles/a26_193/sect3-fs.thmlを介して入手できる)、および上述した特許文献、並びにその中に引用された文献の関連する章に記載されてきた。そのような追加の処理工程としては、濾過または遠心分離などの単離工程、洗浄工程、水素化または後酸化などの二次反応工程、および結晶化と乾燥工程が挙げられる。
【実施例】
【0032】
本発明を、以下の非限定的実験を参照して、さらに説明する。
【0033】
実施例1
実験装備は、機械式撹拌機、ガス供給管、還流凝縮器、熱電対および大気放出板を備えた1000mlの連続撹拌タンク型反応装置を含む。この反応装置は、温度制御湯浴から熱油を循環させることによって加熱される。排出ガスは、さらに分析するためのトラップに通過せしめられる。反応装置および他の関連する設備は、Hastealloy Cから製造されている。
【0034】
この実験において、溶媒としての酢酸、触媒としての酢酸コバルト4水和物と酢酸マンガン4水和物の組合せ、および促進剤としての臭化1−エチル−3−メチルイミダゾリウムを用いて、p−キシレンを酸化剤としての空気により酸化させた。
【0035】
以下の実験手法を適用した:
a) 30分間に亘り2.0MPaで反応装置に窒素を充填することにより、漏れ試験を行い、漏れについて検査した、
b) 投与ポンプを用いて、5ml/分の速度で40gのp−キシレンを反応装置に装填した、
c) 10ml/分の速度で200gの酢酸を反応装置に装填した、
d) 1.0ml/分の速度で10gの触媒と促進剤の溶液[0.02質量%(溶媒に加え)のCo
+2濃度、1/5のCo
+2/Mn
+2質量比、および1.0/1.0のBr
-/(Co
+2+Mn
+2)比を有する]を反応装置に装填した、
e) 撹拌機をゆっくと始動させ、100〜150rpmに設定した、
f) 油浴からの熱油を循環させることによって、凝縮器の温度を85℃に設定した、
g) 50ml/時の流量で窒素を注入し、反応装置の圧力を1.8MPaに維持した、
h) 油浴からの熱油を循環させることによって、反応装置を215℃に加熱し、圧力調整バルブで1.8MPaの圧力を維持し、
i) 温度が215℃に到達した後、窒素ラインを閉じ、50ml/時の流量で空気を1.8MPaで注入し、
j) オンラインガス分析装置で排出ガス中のO
2およびCO
2濃度を検査し、[O
2]が2.0〜2.5体積%の範囲にあり、[CO
2]が1.3〜1.5体積%の範囲にあるように、空気の流量または温度を調節し、
k) 120分間に亘り反応を継続し、反応装置の温度を215〜220℃の間に、圧力を1.8〜1.9MPaの範囲に維持し(連続的に温度と圧力をモニタし)、
l) 温度を記録し、反応の発熱を調節し、反応温度が225℃より高くなったら気流を停止し、
m) 120分後、高温の油浴温度を低下させることによって、反応装置の20℃への冷却を開始し、
n) バルブを開くことによって、ガスをゆっくりと排気し、
o) 底のドレンバルブを開くことによって、スラリー生成物を取り出し、それをガラス製ビーカー内に収集し、
p) ブフナー漏斗を用いて濾過し、フード内で固体のCTE生成物および母液を分離し、
q) 2時間に亘りオーブン内において90℃で湿ったケーキを乾燥させ、
r) 生成物および母液を分析のためにサンプリングした。
【0036】
p−キシレンの転化率は実質的に100%であることが分かった。排出ガスのガスクロマトグラフィーは、検出可能な臭化メチルは全く示さなかった。排出ガスを硝酸銀溶液に通過させることによって、さらなる定量実験を行った。このときに、溶液中に変化は起こらず、おそらく、臭化メチルが全く形成されなかったことを示している。表1において、HPLCにより決定された回収済み固体生成物の分析結果が与えられている。HMWCは、高分子量化合物を意味する。臭化メチルも臭化副生成物も見られなかったという観察から、臭化物は、イオン性液体化合物中に結合したまま残っており、腐食を生じ得る臭素含有化合物を形成しないと結論付けられる。その上、イオン性液体は、固体生成物流から分離することができ、よって、臭素含有化合物は生成物流中に存在しない。
【0037】
実施例2
実施例1について記載した様式を繰り返したが、Br
-/Cs
+のモル比が1になるような量で酢酸
セシウムを添加した。回収したTPAについての結果が、表1に示されており、
セシウムなどのアルカリ金属を添加すると、触媒性能がさらに改善され、例えば、望ましくない不純物のレベルが減少することを示している。
【0038】
比較実験A
実施例1の実験を繰り返したが、ここでは、従来のCo系触媒を用い、促進剤として臭化マンガンを用いた。
【0039】
反応装置から排出されたガス中に、微量の臭化メチルが検出された。表1に示されている、回収された固体生成物についてのHPLCデータは、臭素化された芳香族化合物などの不純物が形成されたことを明白に示している。イオン性液体の促進剤を用いて調製したCTAにおいて、そのような臭化物の存在は検出されなかった。このことは、生成物混合物から、臭化物を含有するイオン性液体の分離は、容易でありかつ完全であることを示している。反応媒質中に臭素化合物を含む従来技術のプロセスでは、そのような媒質に長期間曝露されると、金属腐食が生じることが知られている。
【0040】
比較実験B
実施例2を繰り返したが、促進剤として、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムブロモトリクロロアルミネートを用いた。p−キシレンの転化率は、GCにより決定されたように<50%であることが分かった。これは、イオン性液体中のハロゲン陰イオンの有利な効果を示している。
【表1】