【実施例】
【0031】
本発明の実施例を、
図1〜
図5を参照して説明する。
図1〜
図3は、第1実施例を説明する図である。
図1を参照すると、油圧式のテンショナ100は、自動車用のエンジンが備える巻掛け伝動装置としてのチェーン伝動装置10に備えられる。チェーン伝動装置10は、エンジンである内燃機関の動弁装置を駆動するタイミングチェーン伝動装置である。
【0032】
チェーン伝動装置10は、テンショナ100のほかに、エンジンが備える複数の回転軸にそれぞれ結合されて一体に回転する同数の回転ホイールとしてのスプロケット(図示されず)に掛け渡されて走行する巻掛け伝動体としての無端のチェーン20と、走行するチェーン20を案内する可動ガイド30とを備える。可動ガイド30は、エンジンの本体であるエンジンブロックに移動可能に、ここでは揺動可能に支持されて、テンショナ100により付勢されてチェーン20に押し付けられる。
【0033】
テンショナ100は、給油路111および収容穴112が設けられたボディ110と、収容穴112に挿入された状態で進退方向に摺動可能にボディ110に支持される円筒状のプランジャPと、収容穴112内においてボディ110およびプランジャPにより形成される油室120内に配置されてプランジャPを前進方向に付勢する付勢手段としてのバネ121と、給油源からの作動油が導かれる給油路111から油室120への作動油の流入を許容する一方で、油室120から給油路111への作動油の流出を制限する逆止弁130とを備える。
ボディ110は、取付部113に挿通されるボルト40によりエンジンブロックに固定される。
【0034】
前進方向および後退方向、すなわち進退方向は、収容穴112の軸線Lbに平行な方向であり、プランジャPが前進する方向および後退する方向である。軸線Lbは、円柱状の収容穴112の中心軸線であり、収容穴112に摺動可能に嵌合している有底円筒状のプランジャPの中心軸線Lpにほぼ平行である。また、径方向および周方向は、軸線Lb(または、軸線Lbと一致しているときの中心軸線Lp)を中心とする径方向および周方向である。
なお、「ほぼ」との表現は、「ほぼ」との修飾語がない場合を含むと共に、「ほぼ」との修飾語がない場合とは厳密には一致しないものの、「ほぼ」との修飾語がない場合と比べて作用または効果に関して有意の差異がない範囲を意味する。
そして、テンショナ100に組み付けられたプランジャPに関して、その中心軸線Lpと軸線Lbとが一致している状態は、プランジャPの非傾斜状態(
図1,
図2に実線で示されている。)である。
【0035】
ボディ110に組み付けられて油室120内に配置される逆止弁130は、給油路111に連なると共に作動油が流通する弁油路132が設けられたボールシート131と、ボールシート131に対して離座および着座することにより弁油路132を開閉するチェックボール133と、チェックボール133をボールシート131に着座可能に付勢する弁バネ134と、チェックボール133を囲んで配置されると共に離座したチェックボール133の移動量を制限するリテーナ135とから構成される。
【0036】
可動ガイド30は、プランジャPを介して作用するバネ121の付勢力であるバネ力と、摺接するチェーン20からの反力とに応じて揺動する。
プランジャPは、テンショナ100の使用範囲、すなわち可動ガイド30に接触しているプランジャPが進退方向で移動する範囲において、進退方向で、最も後退したときの最大後退位置(
図1に実線で示される位置である。)と、最も前進したときの最大前進位置(
図1に二点鎖線で示される位置である。)との間で移動可能である。
プランジャPは、チェーン20の張力減少時またはチェーン20の伸び時に、前進して、可動ガイド30を介してチェーン20に張力を付与する一方、チェーン20の張力増大時に、チェーン20からの反力により後退して、チェーン20の張力を減少させると共に、油室120内の作動油を収容穴112とプランジャPとの間の微小隙間である後述の径方向隙間Cからリークさせて、チェーン20の振動を減衰させる。
【0037】
図1,
図2を参照すると、プランジャPは、可動ガイド30に接触する円板状の前端壁140と、収容穴112内に位置する円筒状の後端壁160と、進退方向でこれら両端壁140の間の中間部である円筒状の側壁150とから構成されるプランジャ壁を有する。
前端壁140は、プランジャPにおいて、可動ガイド30を押圧する部分であると共に油室120を閉塞する閉塞端壁であり、プランジャPの最大後退位置で、収容穴112から前進方向に突出している。
側壁150は、ボディ110に対して進退方向に摺動するときに、収容穴112の周壁面115に摺接する摺接面152を含む外周面151を有する。摺接面152は、外周面151の少なくとも一部であり、本実施例では、外周面151のほぼ全体である。周壁面115は、ボディ110において、周方向で収容穴112を形成している部分である。周壁面115および摺接面152はほぼ円柱面であり、周壁面115および前記非傾斜状態での摺接面152は、軸線Lbにほぼ平行である。
後端壁160は、プランジャPにおいて、摺接面152よりも径方向内方のみに位置する外周面163を有する部分であり、収容穴112内に開放する開口を形成する開放端壁である。両外周面151,163は、プランジャPの外周面であるプランジャ外周面を構成する。
【0038】
図2を主に参照し、
図1を適宜参照すると、後端壁160は、側壁150に連続する前進方向側の前進側後端壁161と、前進側後端壁161に後退方向側で連続する後退側後端壁162とを有する。後端壁160の外周面163は、前進側後端壁161が有する前進側外周面164と、後退側後端壁162が有する後退側外周面165とから構成され、両外周面164,165が連続することで形成される接続部169において屈曲している二段階形状の面である。
外周面163における前進方向側の前進側外周面164、および、前進側外周面164に、その後退方向側で連続する後退側外周面165は、いずれも中心軸線Lpを中心軸線とする回転面であるテーパ面である。
前進側外周面164は、摺接面152および前進側外周面164の境界である境界部170において、摺接面152に連続している。境界部170は、摺接面152および前進側外周面164により形成される部位である。
【0039】
プランジャPは、金属材料、例えばステンレス鋼からなる板材に、深絞り加工と、該深絞り加工の後に行われる加工である後加工とを施すことにより形成される。この深絞り加工により、前端壁140、側壁150および後端壁160が形成され、前端壁140の肉厚t4、側壁150の主要部の肉厚t5および後端壁160の肉厚t6が、ほぼ同じ値になるように設定された厚さである。
ここで、前記主要部は、側壁150において局所的に肉厚t5が異なる特異部分(例えば、テンショナ100の後退を規制可能とするための後退規制機構(例えば、ラチェット機構)が設けられる場合に、該後退規制機構の一部を構成する部分(例えば、ラック歯)である。)が存するときの、該特異部分以外の部分であり、本実施例のように、前記特異部分がない場合には、側壁150の全体である。
【0040】
後端壁160は、前記後加工において、塑性加工によりテーパ形状に形成される。なお、前記後加工には、不要な部分を切断する工程が含まれてもよい。
前進側外周面164は、プランジャPの深絞り加工により形成された面である。このため、いずれも深絞り加工により形成される摺接面152および前進側外周面164において、それぞれの面粗さはほぼ同じである。
後退側外周面165は、前記後加工において、機械加工(例えば、切削または研削)により形成された面である。
なお、後端壁160が、例えば、前記後加工である塑性加工としての転造により形成される場合には、前進側外周面164の面粗さが、プランジャPの深絞り加工により形成された面粗さよりも小さくなる。このため、前進側外周面164をテーパ面に形成するための工程を利用して、前進側外周面164と周壁面115との間の摩擦力を一層減少させることができる。
【0041】
任意の周方向位置において、軸線Lbを含む平面である軸線平面(以下、「軸線平面」という。)と周壁面115との交線である周壁交線116が形成される。
同様に、プランジャPが非傾斜状態にあるときに、任意の周方向位置において、軸線平面と摺接面152との交線である摺接交線156と、軸線平面と後端壁160との外周面163の交線である後端交線166とが形成される。
後端交線166は、軸線平面と前進側外周面164との交線である前進側交線167と、軸線平面と後退側外周面165との交線である後退側交線168とから構成される。
摺接交線156および周壁交線116は、互いにほぼ平行であると共に、軸線Lbにほぼ平行である。本実施例では、各交線116,156,167,168は、単一の直線である。
【0042】
同一の軸線平面上で、周壁交線116に対して、前進側交線167は、特定面間角度α1を含む前進側面間角度αを形成する。前進側面間角度αは、前進側交線167が、周壁交線116に対して径方向内方に傾斜していることで、周壁交線116との間で形成する鋭角の角度である。そして、特定面間角度α1は、摺接交線156と前進側交線167とが交差する交差部171における前進側面間角度αである。交差部171は、軸線平面上での境界部170である。
同様に、同一の軸線平面上で、周壁交線116に対して、後退側交線168は、後退側面間角度βを形成する。後退側面間角度βは、後退側交線168が、周壁交線116に対して径方向内方に傾斜していることで、周壁交線116との間で形成する鋭角の角度である。
【0043】
本実施例において、前進側面間角度αは、前進側交線167の全体において同じであり、後退側面間角度βは、後退側交線168の全体において同じである。後退側面間角度βは前進側面間角度αよりも大きく、したがって、後退側面間角度βの最小値は、前進側面間角度αの最大値よりも大きいということができる。
そして、前進側面間角度αおよび後退側面間角度βは、摺接交線156に対して、前進側交線167および後退側交線168がそれぞれ形成する角度でもある。
【0044】
ボディ110に対するプランジャPの摺動を可能とするために、摺接面152でのプランジャPの外径である摺接面152の径は、収容穴112の径である周壁面115の径よりも僅かに小さい。このため、前記非傾斜状態において、プランジャPと周壁面115との間には、摺接面152の全周に亘って円環状の微小な径方向隙間C(以下、「隙間C」という。)が形成されている。なお、
図1,
図2では、図示の便宜上、隙間Cが誇張されて示されている。
【0045】
図1を参照すると、プランジャPは、隙間Cの範囲内で、前端壁140と可動ガイド30との間で作用する摩擦力により、軸線Lbに対して中心軸線Lpが傾斜角θで傾斜する傾斜状態になることがある。この傾斜状態は、摺接面152と周壁面115との接触部位A1,A2(
図1参照)での接触により規定される。接触部位A1,A2は、前進側接触部位A1および後退側接触部位A2(
図3も参照)である。
【0046】
図1,
図3を参照すると、傾斜状態には、最大前進位置にあるプランジャPの傾斜状態である大傾斜状態(
図1に二点鎖線で示されている。)と、最大前進位置よりも後退方向側の位置にあるプランジャPの傾斜状態である小傾斜状態(その一例が、
図3に太い二点鎖線で示されている。)とが含まれる。
小傾斜状態での傾斜角θである小傾斜角θ1は、大傾斜状態での傾斜角θである大傾斜角θ2よりも小さい。傾斜角θはプランジャPが最大前進位置に近づくほど大きくなる。そして、一般的には、傾斜状態で互いに接触する境界部170領域(すなわち、境界部170、境界部170付近の前進側外周面164および境界部170付近の摺接面152)と周壁面115との間で作用する接触圧(すなわち、ヘルツ応力)は、プランジャPが最大前進位置に近づくほど大きくなる。
【0047】
そこで、テンショナ100において、特定面間角度α1は大傾斜角θ2とほぼ同じ値に設定されている。このため、大傾斜状態では、
図3に示されるように、境界部170を含めて前進側外周面164が周壁面115に、進退方向での前進側外周面164の形成範囲のほぼ全体に亘って接触し、周壁交線116に対して前進側交線167が形成する角度がほぼ0°となる。
【0048】
さらに、テンショナ100においては、プランジャPの小傾斜状態で、境界部170と周壁面115とが接触する場合にも、
図3に細い二点鎖線で示される
図6の従来技術のように、特定面間角度α1に相当する面間角度が、最大前進位置でのプランジャ510の傾斜角よりも大きく、大傾斜状態において、軸線平面と周壁面515(
図6参照)との交線に対して、軸線平面とC面取り部513との交線がほぼ0°よりも大きな角度を形成する場合、および、
図3に一点鎖線で示される
図7の従来技術のように、軸線平面と摺接面612(
図7参照)との交線と、境界部617(
図7参照)における軸線平面とR面取り部613との交線とが、ほぼ一直線上にあって、特定面間角度α1に相当する面間角度がほぼ0°である場合に比べて、境界部170領域と周壁面115との接触領域が増大して、その接触圧が小さくなる。
一方、後退側外周面165は、プランジャPの、非傾斜状態およびすべての傾斜状態で、周壁面115と非接触となるように、前進側外周面164の全体よりも径方向内方に位置する。
【0049】
次に、前述のように構成された実施例の作用および効果について説明する。
テンショナ100が、ボディ110に設けられた収容穴112に挿入された状態で進退方向に摺動可能にボディ110に支持されるプランジャPと、該プランジャPを前進方向に付勢するバネ121とを備えることにより、ボディ110の収容穴112に摺動可能に収容されているプランジャPが、チェーン20の張力変動に応じて前進方向および後退方向に移動することで、テンショナ100はチェーン20の張力を適度に設定することができる。
【0050】
前端壁140、側壁150および後端壁160の各肉厚t4,t5,t6が、プランジャPが深絞り加工により形成されていることで、ほぼ同じ値の厚さに設定されている。
これにより、プランジャPが深絞り加工により形成されている加工品であることから、プランジャPが鍛造や切削により形成される場合に比べて、コストを削減しながら、プランジャPの薄肉化によるプランジャPの軽量化を実現することができる。そして、プランジャPの軽量化により、チェーン20の張力変動に対するプランジャPの進退の応答性が向上して、チェーン20に対する張力設定の迅速性を向上させることができる。また、プランジャPの各壁140,150,160には、深絞り加工による加工硬化が生じているので、プランジャPに耐摩耗性を付与する後処理(例えば、熱処理)が不要になるため、コストを削減しながら、プランジャPの耐摩耗性が向上して、プランジャPの耐久性を向上させることができる。さらに、プランジャPの形成材料としてステンレス鋼が使用されるので、炭素鋼で形成されているプランジャに施される防錆処理が不要になって、コストを削減することができる。
【0051】
最大前進位置にあるプランジャPが大傾斜状態で傾斜しているときの大傾斜角θ2と、軸線Lbにほぼ平行な周壁交線116に対して、後端交線166が、境界部170において形成する特定面間角度α1とは、ほぼ同じ値である。
これにより、プランジャPが大傾斜状態で傾斜しているときには、大傾斜角θ2と特定面間角度α1とがほぼ同じ値になるので、プランジャPが最大前進位置および該最大前進位置よりも後退方向側の前進位置において傾斜状態にあるときに、最大面間角度α1に相当する角度が大傾斜角θ2よりも大きくて、プランジャの摺接面と後端壁の外周面との境界部が、収容穴の周壁面に接触する場合(例えば、
図6に示される従来技術)、および、後端交線166に相当する交線と周壁交線116に相当する交線とが一直線上にあって特定面間角度α1に相当する角度がほぼ0°である場合(例えば、
図7に示される従来技術)に比べて、境界部170領域と周壁面115との接触領域が増大して、その接触圧が小さくなる。このため、境界部170領域の摩耗および周壁面115の摩耗が低減するので、プランジャPおよびボディ110の耐久性を向上させることができる。また、境界部170領域と周壁面115との間の摩擦力が減少し、しかも、深絞り加工により薄肉化されたプランジャPの変形が抑制されるので、ボディ110に対するプランジャPの摺動性が向上して、プランジャPの進退の応答性を向上させることができる。
【0052】
後端壁160の外周面163は、摺接面152と共に境界部170を形成する前進側外周面164と、後退側外周面165とを有し、後端交線166は前進側交線167である。
これにより、摺接交線116に対して前進側交線166が、大傾斜角θ2とほぼ同じ角度である特定面間角度α1を形成するので、プランジャPが大傾斜状態を含む傾斜状態にあるときには、前進側外周面164と周壁面115との間の接触圧が小さくなり、境界部170領域および周壁面115の摩耗を低減させ、境界部170領域と周壁面115との間の摩擦力を減少させることができる。
また、後退側外周面165は前進側外周面164よりも径方向内方のみに位置することにより、後端壁160において、後退側外周面165は、後退方向に向かって、少なくとも特定面間角度α1で傾斜している前進側外周面164よりも径方向内方に位置するので、後退側外周面165での後端壁160、すなわち後端側後端壁162の外径が小さくなる。このため、テンショナ100の組立時に、収容穴112へのプランジャPの挿入が容易になり、ボディ110へのプランジャPの組付性を向上させることができて、テンショナ100のコスト削減に寄与することができる。
【0053】
摺接面152の面粗さと前進側外周面164の面粗さとは、ほぼ同じであることにより、前進側外周面164での面粗さが、深絞り加工により形成されている摺接面152の面粗さとほぼ同等になるので、前進側外周面164と周壁面115との間の摩擦力が減少して、プランジャPの応答性を向上させることができ、また前進側外周面164および周壁面115の摩耗を低減することができる。
しかも、前進側外周面164の面粗さは、プランジャPを深絞り加工により形成することにより形成されたものであるので、面粗さを調整するための専用の加工が不要になって、コストを削減することができる。
【0054】
特定面間角度α1が、周壁交線116に対して前進側交線167が形成する前進側面間角度αであることにより、プランジャPが大傾斜状態を含む傾斜状態にあるときには、前進側外周面164と周壁面115との接触により、境界部170領域および周壁面115との間での接触圧が小さくなり、境界部170領域および周壁面115の摩耗を低減させ、境界部170領域と周壁面115との間の摩擦力を減少させることができる。
また、周壁交線116に対して後退側交線168が形成する後退側面間角度βの最小値が、周壁交線116に対して前進側交線167が形成する前進側面間角度αの最大値よりも大きいことにより、テンショナ100の組立時に、後退側後端壁162の外径を小さくできるので、収容穴112へのプランジャPの挿入を容易にすることができる。
【0055】
前進側外周面164および後退側外周面165がテーパ面であることにより、各交線167,168が直線になるので、プランジャPが大傾斜状態となる最大前進位置では、前進側外周面164が、進退方向での形成範囲のほぼ全体で周壁面115に接触することから、大傾斜状態および小傾斜状態において、境界部170領域と周壁面115との接触領域が増加し、その接触圧の減少度合いが大きくなる。このため、境界部170領域および周壁面115の摩耗を低減させ、境界部170領域と周壁面115との間の摩擦力を減少させることができる。
【0056】
また、前進側外周面164が、深絞り加工により形成された面であることにより、前進側外周面164には、深絞り加工による加工硬化が生じているので、前進側外周面164に耐摩耗性を付与するための熱処理等の表面処理が不要になる。このため、コストを削減しながら、前進側外周面164および周壁面115の摩耗を低減することができる。
【0057】
次に、
図4,
図5を参照して、本発明の第2,第3実施例を説明する。第2,第3実施例は、第1実施例とは、部分的に異なるものの、その他は基本的に同一の構成を有するものである。そのため、同一の部分についての説明は省略または簡略にし、異なる点を中心に説明する。なお、第1実施例の部材等と同一の部材等または対応する部材等については、基本的に第1実施例における符号と同一の符号が使用されている。
【0058】
図4を参照すると、第2実施例におけるテンショナ100のプランジャP2の後端壁160の外周面263において、前進側外周面264は、前進側交線267が径方向外方に向かって凸状の円弧状曲線である回転面であり、後退側外周面265は、後退側交線268が、前進側交線267の半径よりも小さい半径を有すると共に径方向外方に向かって凸状の円弧状曲線である回転面である。
外周面263は、両外周面264,265が連続することで形成される接続部269において屈曲している二段階形状の面である。そして、両交線267,268は、後端交線266を構成する。また、前進側交線267の半径は、肉厚t6よりも大きく、境界部170領域での接触圧を減少させるためには、大きいほど好ましい。
【0059】
前進側面間角度αは、前進側交線267上の各点での接線Lt(
図4にはその一部が例示されている。)が、周壁交線116に対して径方向内方に傾斜していることで、周壁交線116との間で形成する角度である。
同様に、後退側面間角度βは、後退側交線268上での各点での接線Ltが、周壁交線116に対して径方向内方に傾斜していることで、周壁交線116との間で形成する角度である。
そして、前進側交線267と摺接交線156との交差部171における前進側面間角度αである特定面間角度α1は、第1実施例におけるプランジャPと同様に、プランジャP2が大傾斜状態にあるときの大傾斜角θ2(
図3参照)とほぼ同じである。
また、後退側面間角度βの最小値は、前進側面間角度αの最大値よりも大きい。
【0060】
前進側交線267および後退側交線268は、本実施例では1つの半径をそれぞれ有する円弧である。別の例として、前進側交線267および後退側交線268のそれぞれが、互いに異なる複数の半径の円弧から構成される複合円弧から構成されてもよい。
後退側外周面265は、プランジャP2の、すべての傾斜状態および非傾斜状態で、周壁面115と非接触となるように、前進側外周面264の全体よりも径方向内方に位置する。
【0061】
第2実施例によれば、第1実施例と共通または相当する構造により奏される作用および効果に加えて、次の作用および効果が奏される。
前進側交線267と後退側交線268とは、いずれも径方向外方に向かって凸状の円弧状曲線であることにより、前進側外周面264および後退側外周面265において、周壁交線116に対する各交線264,265の面間角度α,βが、各交線264,265上で後退方向に向かうにつれて大きくなるので、後端壁160の進退方向幅を減少させると同時に、後退側外周面265での後端壁160、すなわち後端側後端壁161の外径を小さくすることができる。このため、収容穴112へのプランジャPの挿入容易化によるボディ110へのプランジャPの組付性を向上させながら、プランジャPを、進退方向で小型化することができ、軽量化することができる。
【0062】
前進側交線267の半径が、後退側交線268の半径よりも大きいことにより、前進側交線267が円弧状曲線である場合にも、前進側外周面264では、周壁面115との接触領域を増大させて、接触圧を減少させることができるので、境界部170領域および周壁面115の摩耗を低減することができ、また境界部170領域と周壁面115との間の摩擦力を減少させることができる。
しかも、後退側交線268の半径が前進側交線267の半径よりも小さいので、後退側後端壁162の外径を小さくすることが可能になり、収容穴112へのプランジャPの挿入を容易にすることができる。
【0063】
図5を参照すると、第3実施例におけるテンショナ100のプランジャP3の後端壁160の外周面363は、後端交線366が径方向外方に向かって凸状の円弧状曲線である回転面である。そして、後端交線366は、その半径が、交差部171を始点として後退方向に向かうにつれて連続的に小さくなる曲線であり、例えばクロソイド曲線である。
また、後端交線366の最大半径は、肉厚t6よりも大きく、境界部170領域での接触圧を減少させるためには、大きいほど好ましい。
面間角度γは、後端交線366上の各点での接線Ltが、周壁交線116に対して径方向内方に傾斜していることで、周壁交線116との間で形成する角度である。そして、後端交線366と摺接交線156との交差部171(境界部170)における面間角度γである特定面間角度γ1は、第1実施例におけるプランジャPと同様に、プランジャP3が大傾斜状態にあるときの大傾斜角θ2とほぼ同じであり、すべての面間角度γのうちの最小値である。
【0064】
第3実施例によれば、第1実施例と共通または相当する構造により奏される作用および効果に加えて、次の作用および効果が奏される。
後端交線366が、後退方向に向かうにつれて半径が連続的に小さくなる円弧状曲線であることにより、後端壁160の外周面363が、屈曲部を有することなく、径方向で連続的に滑らかに変化するので、収容穴112へのプランジャPの挿入の円滑性が向上し、ボディ110へのプランジャPの組付性を向上させることができる。
【0065】
以下、前述した実施例の一部の構成を変更した実施例について、変更した構成に関して説明する。
外周面163,263は、第1,第2実施例では、二段階形状の面であったが、三段階以上の形状の面であってもよい。
第1実施例において、前進側交線167および後退側交線168は、一方が円弧状曲線で、他方が直線であってもよい。
第3実施例において、後端交線366が1つの半径を有する円弧状曲線であってもよい。