(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5897411
(24)【登録日】2016年3月11日
(45)【発行日】2016年3月30日
(54)【発明の名称】軸受構造
(51)【国際特許分類】
B60B 35/02 20060101AFI20160317BHJP
F16C 19/38 20060101ALI20160317BHJP
F16C 19/54 20060101ALI20160317BHJP
F16C 35/063 20060101ALI20160317BHJP
F16C 35/067 20060101ALI20160317BHJP
F16C 41/00 20060101ALI20160317BHJP
F16C 33/80 20060101ALI20160317BHJP
B60B 35/18 20060101ALI20160317BHJP
【FI】
B60B35/02 L
F16C19/38
F16C19/54
F16C35/063
F16C35/067
F16C41/00
F16C33/80
B60B35/18 B
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-134592(P2012-134592)
(22)【出願日】2012年6月14日
(65)【公開番号】特開2013-256247(P2013-256247A)
(43)【公開日】2013年12月26日
【審査請求日】2015年5月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】特許業務法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 靖治
【審査官】
柳元 八大
(56)【参考文献】
【文献】
実開平04−032315(JP,U)
【文献】
特開2007−178254(JP,A)
【文献】
実開平05−023136(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60B 35/02
B60B 35/18
F16C 19/38
F16C 19/54
F16C 33/80
F16C 35/063
F16C 35/067
F16C 41/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を軸支する軸部にベアリングを介しハブを回転自在に外嵌支持すると共に、該ハブの外周部にパルサーリングを一体的に嵌合固定した軸受構造において、前記パルサーリングを車幅方向内側に向け径が連続的に漸増する形状とし且つその最外縁部が固定側のブレーキシューやブレーキドラム以外の既設部材により径方向に被覆されるように当該既設部材に対して径方向に近接させて配置したことを特徴とする軸受構造。
【請求項2】
車輪を軸支する軸部がナックルのスピンドルであり、既設部材がブレーキシューを支持するためのスパイダであることを特徴とする請求項1に記載の軸受構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図4はトラック等におけるフロント側(操舵輪側)の独立懸架構造の一例であり、
図4中における符号の1は、図示しないタイロッドを連結されてステアリング操作されるナックルを示し、該ナックル1のスピンドル2に、図示しない車輪を取り付けるためのハブ3がユニットベアリング4を介し回転自在に外嵌支持されている。
【0003】
このユニットベアリング4は、前記前記ナックル1のスピンドル2の周囲に嵌挿されるインナーレース5と、該インナーレース5の外周に転動自在に設置される転動体(コロ)6と、前記インナーレース5の外周に配設されて前記転動体6を転動自在に抱持するアウターレース7と、該アウターレース7及び前記インナーレース5の相互間の隙間を車幅方向両側で塞いでグリス(特に図示せず)を封じ込めるシール8,9とを予めユニット化したアッセンブリとなっている。
【0004】
また、前記ユニットベアリング4は、ハブ3の内周部に対し圧入されてアウターレース7が前記ハブ3の内周面とタイトな嵌め合い状態を成すようになっており、前記アウターレース7の車幅方向外側(
図4中の右側)には、前記ハブ3の内周面に形成された段差2aに係止して位置決めするための係止部10が形成されている。
【0005】
一方、前記インナーレース5は、前記ナックル1のスピンドル2に対し作業性を考慮した隙間嵌め(ルーズフィット)となっており、前記インナーレース5を前記ナックル1の当接面11に突き当てて反対側からスピンドルナット12で締め付けることにより固定されるようになっている。
【0006】
ここで、前記ハブ3の車幅方向内側(
図4中の左側)の端部外周には、その車幅方向内側に向かう側面に多数の歯13aが形成されたパルサーリング13が圧入固定されており、該パルサーリング13の歯13aの通過を磁界の変化等として捉える非接触式のセンサ(図示せず:図示の断面とは異なる位相に配置)により検出してカウントし、これにより車輪の回転数を監視できるようになっている。
【0007】
即ち、近年における車両には、ブレーキ操作時の車輪のロックを防止するアンチロック・ブレーキ・システム(Antilock Brake System:以下ではABSと称する)が装備されており、この種のABSでは、ブレーキ操作時における車輪の回転数の変化を監視して制動力を制御する必要があるため、車輪と一体的に回転するハブ3にパルサーリング13が備えられている。
【0008】
更に、前記パルサーリング13に対し車幅方向に対峙するナックル1側には、ブレーキシュー14を支持するためのスパイダ15が取り付けられており、前記ハブ3の車幅方向外側には、前記ブレーキシュー14を押し付けられることにより制動力を生じさせるためのブレーキドラム16が取り付けられている。
【0009】
また、ここに図示している例においては、スパイダ15の内周部に段差部15aが形成されていて、パルサーリング13との干渉が所要のクリアランスを介して確実に回避されるようにしてある。
【0010】
尚、この種の軸受構造に関連する先行技術文献情報としては下記の特許文献1等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−255962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、従来におけるパルサーリング13は、軸心方向に一様な径で形成された短筒形状を成しており、シール8に機能不良が生じてユニットベアリング4からグリスが漏れ出た場合に、ハブ3をつたってパルサーリング13に到り、該パルサーリング13が走行時に回転することでグリスが周辺へ飛び散り、ブレーキシュー14やブレーキドラム16にグリスが付着してブレーキ性能を低下させる虞れがあった。
【0013】
このため、スパイダ15にディフレクタ17を付設してブレーキシュー14やブレーキドラム16へのグリスの付着を防ぐ対策を施す必要があるが、前記パルサーリング13から飛散するグリスの方向が予想できないため、広範囲を網羅し得る大型のディフレクタ17を付設しなければならず、このような大型のディフレクタ17の付設により部品点数と組立工数が増えてコストの高騰や作業負担の増大が避けられなくなるという問題があった。
【0014】
本発明は上述の実情に鑑みてなしたもので、ディフレクタを付設することなくパルサーリングから周辺へのグリスの飛散を防止し得る軸受構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、車輪を軸支する軸部にベアリングを介しハブを回転自在に外嵌支持すると共に、該ハブの外周部にパルサーリングを一体的に嵌合固定した軸受構造において、前記パルサーリングを車幅方向内側に向け径が連続的に漸増する形状とし且つその最外縁部が固定側の
ブレーキシューやブレーキドラム以外の既設部材により径方向に被覆されるように
当該既設部材に対して径方向に近接させて配置したことを特徴とするものである。
【0016】
而して、このようにすれば、シールの機能不良等によりベアリングから漏れ出たグリスがハブをつたってパルサーリングに到り、該パルサーリングの回転によりグリスに遠心力が作用すると、該グリスがパルサーリングの最外縁部に集められて該最外縁部から径方向外側へ向けて飛び散るため、その飛散したグリスの全てが固定側の既設部材により遮蔽されて周辺への広範囲に及ぶ飛散が防止されることになる。
【0017】
即ち、これまでのパルサーリングは、軸心方向に一様な径で形成された短筒形状を成していたため、パルサーリングから飛散するグリスの方向が不特定で広範囲に及んでいたが、パルサーリングを車幅方向内側に向け径が連続的に漸増する形状とすれば、グリスの飛散する位置がパルサーリングの最外縁部に特定され且つグリスの飛散する方向が前記最外縁部から径方向外側へ向かう方向に特定されるため、パルサーリングの最外縁部が固定側の既設部材により径方向に被覆されるように配置すれば、パルサーリングの最外縁部から飛び散るグリスの全てを遮蔽することが可能となる。
【0018】
また、本発明においては、車輪を軸支する軸部がナックルのスピンドルであり、既設部材がブレーキシューを支持するためのスパイダであることが好ましく、このようにした場合には、スパイダ側のブレーキシューやハブ側のブレーキドラムへのグリスの付着を防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
上記した本発明の軸受構造によれば、下記の如き種々の優れた効果を奏し得る。
【0020】
(I)本発明の請求項1に記載の発明によれば、シールの機能不良等によりベアリングからグリスが漏れ出るような事態が起きたとしても、ハブをつたってパルサーリングまで到ったグリスの飛散を固定側の既設部材により遮蔽して周辺への広範囲に及ぶ飛散を防止することができるので、大型のディフレクタの付設を不要とすることができ、これにより部品点数と組立工数を削減することができてコストの高騰や作業負担の増大を回避することができる。
【0021】
(II)本発明の請求項2に記載の発明によれば、スパイダ側のブレーキシューやハブ側のブレーキドラムへのグリスの付着を防止することができ、該グリスの付着によるブレーキ性能の低下を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明を実施する形態の一例を示す断面図である。
【
図3】
図1のパルサーリングの変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0024】
図1〜
図3は本発明を実施する形態の一例を示すもので、
図4と同一の符号を付した部分は同一物を表わしている。
【0025】
図1に示す如く、本形態例の軸受構造においては、先に
図4で説明した従来の車軸構造と基本的な構成は同様であり、ナックル1のスピンドル2(車輪を軸支する軸部)に対しユニットベアリング4(ベアリング)を介してハブ3が回転自在に支持されていると共に、該ハブ3の車幅方向内側(
図1中の左側)の外周部には、その車幅方向内側に向かう側面に多数の歯18aを備えたパルサーリング18が圧入固定されているが、
図2に単品図としても示してある通り、このパルサーリング18は、車幅方向内側に向け径が連続的に漸増する形状となっており、しかも、その最外縁部が前記ナックル1側(固定側)のスパイダ15(既設部材)に形成された段差部15aに入り込んで径方向に被覆されるように配置されている。
【0026】
ここで、本形態例におけるパルサーリング18の外周部は、車幅方向内側に向け直線状に上り勾配を成す錐状曲面となっているが、
図3に示す如く、車幅方向内側に向け円弧状に上り勾配を成すような球状曲面となっていても良い。
【0027】
而して、このようにした場合に、シール8の機能不良等によりユニットベアリング4から漏れ出たグリスがハブ3をつたってパルサーリング18に到り、該パルサーリング18の回転によりグリスに遠心力が作用すると、該グリスがパルサーリング18の最外縁部に集められて該最外縁部から径方向外側へ向けて飛び散るため、その飛散したグリスの全てがスパイダ15により遮蔽されて周辺への広範囲に及ぶ飛散が防止されることになる。
【0028】
即ち、これまでのパルサーリング13(
図4参照)は、軸心方向に一様な径で形成された短筒形状を成していたため、パルサーリング13から飛散するグリスの方向が不特定で広範囲に及んでいたが、本形態例のようにパルサーリング18を車幅方向内側に向け径が連続的に漸増する形状とすれば、グリスの飛散する位置がパルサーリング18の最外縁部に特定され且つグリスの飛散する方向が前記最外縁部から径方向外側へ向かう方向に特定されるため、パルサーリング18の最外縁部がスパイダ15により径方向に被覆されるように配置すれば、パルサーリング18の最外縁部から飛び散るグリスの全てを遮蔽することが可能となる。
【0029】
従って、上記形態例によれば、シール8の機能不良等によりユニットベアリング4からグリスが漏れ出るような事態が起きたとしても、ハブ3をつたってパルサーリング18まで到ったグリスの飛散をスパイダ15により遮蔽して周辺への広範囲に及ぶ飛散を防止することができるので、大型のディフレクタ17(
図4参照)の付設を不要とすることができ、これにより部品点数と組立工数を削減することができてコストの高騰や作業負担の増大を回避することができると共に、スパイダ15側のブレーキシュー14やハブ3側のブレーキドラム16へのグリスの付着を防止することができて該グリスの付着によるブレーキ性能の低下を回避することができる。
【0030】
尚、本発明の軸受構造は、上述の形態例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0031】
1 ナックル
2 スピンドル(車輪を軸支する軸部)
3 ハブ
4 ユニットベアリング(ベアリング)
14 ブレーキシュー
15 スパイダ
16 ブレーキドラム
18 パルサーリング
18a 歯