特許第5897488号(P5897488)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5897488-四塩化チタンの製造方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5897488
(24)【登録日】2016年3月11日
(45)【発行日】2016年3月30日
(54)【発明の名称】四塩化チタンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/02 20060101AFI20160317BHJP
   C01B 9/02 20060101ALN20160317BHJP
【FI】
   C01G23/02 EZAB
   !C01B9/02
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-56602(P2013-56602)
(22)【出願日】2013年3月19日
(65)【公開番号】特開2014-181153(P2014-181153A)
(43)【公開日】2014年9月29日
【審査請求日】2015年1月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】堀川 松秀
(72)【発明者】
【氏名】谷 誠一郎
(72)【発明者】
【氏名】堀口 亮太
(72)【発明者】
【氏名】深澤 英一
【審査官】 相田 悟
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−018305(JP,A)
【文献】 特表昭60−500171(JP,A)
【文献】 特開昭63−315519(JP,A)
【文献】 特開昭61−183123(JP,A)
【文献】 米国特許第03655344(US,A)
【文献】 特開2010−155763(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物金属成分を含有するチタン鉱石とコークスとを塩素で反応させて四塩化チタンを製造する四塩化チタン製造工程と、
前記四塩化チタン製造工程で生成した四塩化チタンを回収する四塩化チタン回収工程と、
前記四塩化チタン製造工程で副生した不純物金属塩化物を水洗処理して得られたスラリーを、ろ液と固形物に分離した後、ろ液を乾燥処理し、不純物金属塩化物の塩素分を塩酸の形で回収するとともに未反応のチタン鉱石およびコークスを回収する回収工程とを有することを特徴とする四塩化チタンの製造方法。
【請求項2】
前記液と固形物分離する処理を、沈降分離、圧縮濾過分離または遠心分離のいずれか1つの方法により行なうことを特徴とする請求項に記載の四塩化チタンの製造方法。
【請求項3】
前記乾燥処理で副生した塩酸ガスを塩酸水溶液として回収することを特徴とする請求項に記載の四塩化チタンの製造方法。
【請求項4】
前記乾燥処理に用いる熱源として、スポンジチタンの製造工程で発生する余剰熱を利用することを特徴とする請求項に記載の四塩化チタンの製造方法。
【請求項5】
前記余剰熱が、チタン鉱石の塩素化反応容器から発生する熱、四塩化チタンを還元してスポンジチタンを製造するスポンジチタン反応容器の冷却の際に発生する余剰熱、または、四塩化チタン還元用のマグネシウムを製造する塩化マグネシウムの溶融塩電解槽から発生する余剰熱であることを特徴とする請求項に記載の四塩化チタンの製造方法。
【請求項6】
前記余剰熱が、チタン鉱石の塩素化反応で副生したCOガスの燃焼熱であることを特徴とする請求項に記載の四塩化チタンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン鉱石を原料として四塩化チタンを製造する方法に係り、特に、四塩化チタンの製造工程で発生する廃棄物の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
四塩化チタンは、チタン鉱石の塩素化反応により製造されているが、チタン鉱石には数%の不純物酸化物が含まれている。これらの不純物酸化物の大半は、酸化チタンと同様に塩素化されるが、大部分の不純物塩化物は、コストをかけて産業廃棄物として処理されている。
【0003】
しかしながら、従来の方法では、廃棄物処理のためのコストを要するといった経済的観点のみならず、廃棄物の発生という地球環境の保護という意味でも改善の余地が残されている。
【0004】
チタン鉱石の塩素化工程で発生する廃棄物中の固形物は、四塩化チタンよりも融点が高く、プレスケーキの形で、最終的に埋め立て処理され(例えば、特許文献1参照)、廃水は、無害化処理された後、公共下水道を経て海洋に放出されている。
【0005】
前記した固形物の大半は、不純物金属の塩化物が水酸化物に変換されたものであり、大局的にはチタン鉱石の塩素化に使用した塩素ガスが前記塩化物の形で廃棄されていることを意味し、塩素ガス原単位という観点からも改善が求められている。
【0006】
前記塩素ガス原単位の改善手法としては、不純物金属塩化物の水洗処理された溶液をプレスケーキとして処理する際の含水率を低減させる手段が考えられるが、実用的には、含水率に限界があり別の手段が求められている。
【0007】
また、無害化された廃水については、工場内にリサイクル使用する手段もあるが、その用途や使用量は、限られており、前記廃水の全量を工場内のリサイクルに充てることは難しく、やはり別の処理手段が求められている。
【0008】
このように四塩化チタンの製造工程で発生する廃棄物を効率よく処理して、その発生量を抑制できるような技術が求められている。
【0009】
このような観点においては、塩素化工程で発生した塩化残渣を酸化焙焼して前記残渣中に含まれる塩素ガスを回収する技術が知られている(例えば、特許文献2参照)。この方法はいわゆる塩化物の酸化焙焼による塩素ガスの回収技術に関するものであるが、この方法においては、反応に必要な酸素ガスが新たに必要となりコスト面で改善の余地が残されている。
【0010】
このように、チタン鉱石の塩素化工程で発生する不純物金属塩化物から有価物を効率よく回収してリサイクル利用でき、かつ、廃棄物の絶対量を削減できるような技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平2012−011278号公報
【特許文献2】特開昭52−1144491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、チタン鉱石を原料とした四塩化チタンの製造工程で副生した不純物金属塩化物から有価物を分離回収すると共に、廃棄物の絶対量も削減する手段の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる実情に鑑み前記課題の解決手段について鋭意検討を重ねてきたところ、チタン鉱石の塩素化による四塩化チタンの製造工程で副生した不純物金属塩化物を水洗処理した後、これを固形物と廃液に分離し、次いで、前記固形物を脱水処理してから、これを塩素化すると共に、前記廃液の方は、加熱処理することにより、不純物金属塩化物から塩酸と四塩化チタンを回収することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明に係る四塩化チタンの製造方法は、不純物金属成分を含有するチタン鉱石とコークスを塩素で反応させて四塩化チタンを製造する四塩化チタン製造工程と、四塩化チタン製造工程で生成した四塩化チタンを回収する四塩化チタン回収工程と、四塩化チタン製造工程で副生した不純物金属塩化物中の塩素分を塩酸の形で回収するとともに未反応のチタン鉱石およびコークスを回収する回収工程を有することを特徴とするものである。
【0015】
本発明に係る四塩化チタンの製造方法は、回収工程において、不純物金属塩化物を水洗処理して得られたスラリーをろ液と固形物に分離した後、固形物を塩素化処理することを好ましい態様とするものである。
【0016】
本発明に係る四塩化チタンの製造方法は、回収工程において、不純物金属塩化物を水洗処理して得られたスラリーを、ろ液と固形物に分離した後、ろ液を乾燥処理することをさらなる特徴とするものである。
【0017】
本発明に係る四塩化チタンの製造方法は、液と固形物分離する処理を、沈降分離、圧縮濾過分離または遠心分離のいずれか1つの方法により行なうことを好ましい態様とするものである。
【0018】
本発明に係る四塩化チタンの製造方法は、乾燥処理で副生した塩酸ガスを塩酸水溶液として回収することを好ましい態様とするものである。
【0019】
本発明に係る四塩化チタンの製造方法に係る乾燥に用いる熱源として、スポンジチタン反応容器の冷却の際に発生する余剰熱または塩化マグネシウムの溶融塩電解槽から発生する余剰熱を用いることを好ましい態様とするものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る方法に従うことで、チタン鉱石の塩素化法に基づき四塩化チタンの製造工程で副生した不純物金属異塩化物から有価金属を効率よく抽出することができるのみならず、廃棄物の絶対量も効率よく削減することができる、という効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の最良の実施形態について図面を用いながら以下に詳細に説明する。図1は、本発明に係る好ましい態様の設備仕様の一例を表している。本発明に係る四塩化チタンの製造方法について図1を用いて以下に説明する。
【0023】
塩化炉1内では、チタン鉱石とコークスに対して底部から供給された塩素ガスにより流動層5が形成されている。この流動層5に対して、上部より、チタン鉱石およびコークスが連続的に投入されている。
【0024】
流動層5の温度は、1000℃近傍に維持されており、その結果、流動層5内では、四塩化チタンが生成され、同時にCOおよびCOガスが副生される。また、チタン鉱石に含まれている鉄やシリコンあるいはバナジウム等の不純物金属塩化物も副生される。
【0025】
塩化炉1で生成された四塩化チタンは、冷却系2を通過する間に沸点以下まで冷却され、四塩化チタン回収器4にて液体の形で回収される。回収された四塩化チタンは、さらに蒸留工程を経て精製されて製品として出荷される。
【0026】
一方、前記したようにチタン鉱石中に含まれている不純物金属塩化物は、四塩化チタンガスと共に、冷却系2に送られて、不純物金属塩化物の大半は、コンデンサ3にて冷却されて固体の形で不純物回収器6に回収される。
【0027】
また、不純物回収器6には、未反応のチタン鉱石およびコークスも一部含まれている。流動層5内にあるチタン鉱石およびコークスは反応に伴って消費され、やせ細って微粉となるが、これら鉱石とコークスの微粉は、流動層で生成した四塩化チタンガス流に乗って未反応のまま、下流側の冷却系2にキャリーオーバーされて、前記不純物回収器6に回収される。
【0028】
不純物回収器6で回収された不純物金属塩化物および未反応の鉱石とコークスを含む固形分は、本発明においては水洗処理して不活性化処理した後、ろ過処理または遠心分離により固形物と廃液とに分離することが好ましい。
【0029】
分離された廃液は、塩酸酸性溶液となっているため、これを加熱して発生した塩酸ガスを冷却することで塩酸水溶液として回収することができる。回収された塩酸水溶液は、鉄鋼材料の酸洗剤等に利用することができる。
【0030】
本発明においては、当該水溶液を加熱乾燥する場合の熱源としては、スポンジチタンの製造工程で発生する余剰熱や溶融塩電解に用いる電解槽より発生する余剰熱を使用することが好ましい。
【0031】
本発明で製造する四塩化チタンは、スポンジチタンの製造原料に供される。また、スポンジチタンの製造過程で副生した還元性金属塩化物は、溶融塩電解して再び還元性金属となりリサイクル使用される。
【0032】
これらスポンジチタンの製造工程および還元性金属の溶融塩電解工程では不可避的に熱が発生するため、このような次工程内で生成する余剰熱を廃棄物処理の熱処理工程において使用することにより、本発明に係る乾燥操作を経済的に進めることができる、という効果を奏するものである。
【0033】
これに対して、前記方法で分離された廃液中の固形物は、未反応のチタン鉱石およびコークスが含まれているので、乾燥後、元の塩化炉に戻す形で再利用することを好ましい態様とするものである。
【0034】
前記した未反応のチタン鉱石およびコークスは微粉状であるため、例えば、気体を媒体として塩化炉内の流動層内に吹き込むことが好ましい。前記気体としては、塩素ガスやCOガスを公的に使用することができる。
【0035】
また、本願発明においては、前記のチタン鉱石およびコークスを成形して造粒体の形に加工しておいても良い。 前記したような造粒体に加工しておくことにより、塩化炉内に形成された流動層内に必ずしも吹き込む必要はなく、流動層の上方空間より流動層に向かって投下するような供給方法を選択することもできる。
【0036】
なお、前記造粒体の成形時には、廃液を乾燥処理して回収された未反応のコークス並びにチタン鉱石に対して、新規なコークスやチタン鉱石を配合しておいても良い。
【0037】
前記コークス並びにチタン鉱石を造粒体に配合しておくことにより、前記造粒体の塩素化速度を効果的に高めることができる、という効果を奏するものである。
【0038】
上記した固形物の乾燥の際にも、前記した廃熱を有効に利用することができ、その結果効率よく固形物の乾燥処理を進めることができる、という効果を奏するものである。
【0039】
以上、述べた手段以外に、不純物塩化物を含むスラリーを遠心分離にかけて、水分と故固形物を分離することもできる。その結果、ろ過処理に比べて短時間に分離処理を進めることができる、という効果を奏するものである。
【0040】
前記した圧縮濾過器、遠心分離器としては、フィルタープレスや、ろ布型遠心分離機、無ろ布遠心分離機などといった形式を本発明に対して好適に用いることができる。
【0041】
以上述べた方法に従うことにより、四塩化チタンの製造工程で副生する不純物金属塩化物を含む固形廃棄物からはチタン鉱石とコークスを、廃液からは塩素ガスを効果的に回収することができる、という効果を奏するものである。
【実施例】
【0042】
以下、実施例および比較例を示すことで、本発明をより詳細に説明する。
実施例の共通条件は、以下のとおりである。
1.原料
1)チタン鉱石(合成ルチル)
化学組成:下記表1に記載(単位は%)
粒度:100μm〜500μm
2)塩素ガス:純度99.99%
2.塩素化条件
1)温度:900℃〜1100℃
2)圧力:常圧
3.不純部物塩化物スラリーの処理
1)本発明では、圧縮濾過器であるフィルタープレスで処理した。
2)固形物および廃液乾燥
スポンジチタン製造用還元炉から回収された廃熱を用いて、スラリーの濾過処理で回収された廃液を加熱乾燥した。
加熱温度:500℃〜900℃
雰囲気:大気中
【0043】
【表1】
【0044】
[実施例1]
図1に示したフローに沿って、四塩化チタンの製造工程で発生した不純物金属塩化物を水洗処理してスラリーを生成した。該スラリー中の塩酸、チタン鉱石、コークス、酸化鉄および水のそれぞれの含有率を調査した。
該スラリーを図1のフローに沿って処理することにより、最終的に回収された塩酸、酸化鉄、チタン鉱石およびコークスの含有率を調査した。
原料を100とした場合の塩酸中の塩素換算値、チタン鉱石、コークス、酸化鉄、および水に関する回収率を表2に整理した。
【0045】
その結果、表2に示すように、各原料に対する回収率は、80%〜95%という高い値を示した。
【0046】
表2に示した塩素の回収量、即ち、回収された塩酸中の塩素換算値は、原料塩素に対して80%という高い回収率を示した。また、チタン鉱石、コークスおよび水の回収率は、95%という高い値を示した。
【0047】
その結果、チタンおよびコークスをリサイクル使用することにより、製造された四塩化チタンの単位重量当たりの鉱石原単位およびコークス原単位がそれぞれ5%改善された。
【0048】
【表2】
【0049】
[比較例1]
実施例1において、図1のフローに代えて、水洗処理された不純物金属塩化物スラリーをプレスフィルターを用いて、固液分離した後。廃液は、無害化処理後、下水に廃棄した。一方、固体のケーキは、産業廃棄物の形で埋め立て処分した。この間、公共下水およびプレスケーキの処分料が別途発生した。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、四塩化チタンの製造工程で副生する廃棄物から有価物を効果的に回収することができる。
【符号の説明】
【0051】
1…塩化炉、
2…冷却系、
3…コンデンサ、
4…四塩化チタン回収器、
5…流動層、
6…不純物回収器。
図1