特許第5897522号(P5897522)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5897522ポリクロロプレンラテックス組成物、ゴムアスファルト組成物並びに塗布膜、シート及び多層シート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5897522
(24)【登録日】2016年3月11日
(45)【発行日】2016年3月30日
(54)【発明の名称】ポリクロロプレンラテックス組成物、ゴムアスファルト組成物並びに塗布膜、シート及び多層シート
(51)【国際特許分類】
   C08L 95/00 20060101AFI20160317BHJP
   C08L 11/02 20060101ALI20160317BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20160317BHJP
【FI】
   C08L95/00
   C08L11/02
   C08K3/22
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-182605(P2013-182605)
(22)【出願日】2013年9月3日
(65)【公開番号】特開2015-48449(P2015-48449A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2014年8月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】島野 紘一
(72)【発明者】
【氏名】砂田 潔
(72)【発明者】
【氏名】星野 博司
(72)【発明者】
【氏名】萩原 尚吾
【審査官】 藤本 保
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/015043(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/017705(WO,A1)
【文献】 特開平11−209523(JP,A)
【文献】 特開平10−237404(JP,A)
【文献】 特開2002−155167(JP,A)
【文献】 特開2012−180437(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L95/00
C08L11/02
C08K3/00−13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)ポリクロロプレンラテックス中に含まれる固形分100質量部にカリウムイオンを0.6質量部以上1.7質量部以下とナトリウムイオンを0.1質量部未満とを含むポリクロロプレンラテックスの固形分100質量部と、数平均粒子径が0.1μm以上0.3μm以下かつ比表面積が15m/g以上25m/g以下の亜鉛華5質量部以上20質量部以下を含むポリクロロプレンラテックス組成物と、(2)アスファルト乳剤と、を混合したゴムアスファルト組成物であり、ポリクロロプレンラテックス組成物に含まれる総固形分とアスファルト乳剤に含まれる固形分の質量の比を、30:70から45:55の範囲内となるように混合したゴムアスファルト組成物。
【請求項2】
請求項記載のゴムアスファルト組成物と凝固剤とからなるゴムアスファルト組成物。
【請求項3】
請求項または記載のゴムアスファルト組成物を乾燥させて得られる塗布膜。
【請求項4】
請求項または記載のゴムアスファルト組成物を乾燥させて得られるシート。
【請求項5】
請求項または記載のゴムアスファルト組成物を乾燥させて得られる層を少なくとも一層含む多層シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリクロロプレンラテックス組成物、及び該ポリクロロプレンラテックス組成物とアスファルト乳剤からなるゴムアスファルト組成物、並びに該ゴムアスファルト組成物を用いて得られる塗布膜、シート及び多層シートに関する。
【背景技術】
【0002】
建築分野や土木分野で用いる防水材料として、例えば建築物やトンネルなどの壁や床、天井、屋上などに塗布したり、隙間を充填する硬化性や伸び性や強度に優れ、基材との接着性や耐久性が高く、外観において優れた防水塗布膜を形成することができ、作業性に優れたアスファルト系防水用組成物(特許文献1)や、耐候性フィルム層、熱可塑性樹脂フィルム層、及びゴムアスファルト層を順次積層してなる多層シートからなる防水シート(特許文献2)が知られている。また、低温下での安定性及び被着体上での成膜性が共に優れるゴムアスフアルト組成物が得られるポリクロロプレンラテックス、ゴムアスフアルト組成物及びその施工方法、シート並びに防水塗布膜に関する公知技術(特許文献3)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−91728号公報
【特許文献2】特開2002−264250号公報
【特許文献3】国際公開第2012/17705号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のポリクロロプレンラテックス組成物とアスファルト乳剤からなるゴムアスファルト組成物に関する分野では、例えば該ゴムアスファルト組成物を用いて施工した防水塗布膜にひび割れが生じたり、また該ゴムアスファルト組成物を原材料とした防水シートを敷設する際にシート自体が破損する課題があり、本発明は機械的強度の向上した塗布膜やシートを提供できるポリクロロプレンラテックス組成物、及び該ポリクロロプレンラテックス組成物とアスファルト乳剤からなるゴムアスファルト組成物、さらに該ゴムアスファルト組成物を乾燥させて得られる機械的強度の向上した塗布膜、シート及び多層シートそのものの提供を目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、カリウムイオンを0.6質量部以上1.7質量部以下とナトリウムイオンを0.1質量部未満とを含むポリクロロプレンラテックスの固形分100質量部と、数平均粒子径が0.1μm以上0.3μm以下かつ比表面積が15m/g以上25m/g以下の亜鉛華5質量部以上20質量部以下を含むポリクロロプレンラテックス組成物である。また本発明では、該ポリクロロプレンラテックス組成物と、アスファルト乳剤と、を混合したゴムアスファルト組成物であり、ポリクロロプレンラテックス組成物に含まれる総固形分とアスファルト乳剤に含まれる固形分の質量の比を、30:70から45:55の範囲内となるように混合したゴムアスファルト組成物となすことができる。なお、このゴムアスファルト組成物には凝固剤を混合することも可能である。さらに本発明として、該ゴムアスファルト組成物を乾燥させることにより塗布膜を得ることができ、また該ゴムアスファルト組成物を乾燥させて成形したシートや、該ゴムアスファルト組成物を乾燥して得られる層を少なくとも一層含む多層シートを得ることができる。
【発明の効果】
【0006】
本発明の実施によりゴムアスファルト組成物そのものの機械的強度が向上することにより、さらに例えばひび割れが生じにくい塗布膜や、施工中に割れが生じ難いシート及び多層シートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<クロロプレンラテックス組成物>
本発明の第1の実施形態であるポリクロロプレンラテックス組成物は、カリウムイオンを0.6質量部以上1.7質量部以下とナトリウムイオンを0.1質量部未満とを含むポリクロロプレンラテックスの固形分100質量部と、数平均粒子径が0.1μm以上0.3μm以下かつ比表面積が15m/g以上25m/g以下の亜鉛華5質量部以上20質量部以下を含むポリクロロプレンラテックス組成物である。
【0008】
(1)ポリクロロプレンラテックス
本発明のポリクロロプレンラテックス組成物の母体となるポリクロロプレンラテックスは、2−クロロ−1,3−ブタジエン(以下クロロプレンと記す)の単独重合体、又はクロロプレンと、クロロプレンと共重合可能な他の単量体との共重合体(単独重合体と共重合体を併せて、以下ポリクロロプレンと記す)が、乳化・分散剤を介して水中に分散しているラテックスである。
【0009】
ポリクロロプレンの重合方法としては塊状重合法、溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法などがあるが、ラテックス状態のポリクロロプレンを得るためには乳化重合法が一般には好ましい。また、クロロプレンと共重合可能な他の単量体の例としては、2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン、1−クロロ−1,3−ブタジエン、スチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、イソプレン、ブタジエン、並びにアクリル酸、メタクリル酸及びこれらのエステル類などがあり、本発明の目的を満たす共重合組成の範囲で用いることができる。なお乳化重合法で重合系内の除熱効果を高めて効率良くポリクロロプレンラテックス組成物を製造するために、単量体の初期添加量を全単量体の10質量%以上50質量%以下として重合を開始し、単量体の転化率が1%以上40%以下の間まで重合が進行した時点から重合終了転化率に達するまでの間に、重合温度よりも低い温度に冷却した残りの単量体を重合系内へ連続的に添加する操作方法をとることが可能である。
【0010】
乳化重合法で使用できる乳化・分散剤の種類に対して特に制限はないが、ポリクロロプレンラテックス組成物中の固形分に対するナトリウムイオンとカリウムイオンの質量割合を調節する際の容易さの観点からは、アニオン系の乳化・分散剤を主に使用することが好ましく、ロジン酸のアルカリ金属塩、特に不均化ロジン酸のカリウム塩を好ましく使用することができる。但し本発明では、カルボン酸型、スルホン酸型、硫酸エステル型又はリン酸エステル型などの乳化・分散剤を、例えばロジン酸のアルカリ金属塩と同時に用いることも可能である。ロジン酸のアルカリ金属塩と併用可能な乳化・分散剤の例としては、脂肪族モノカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、n−アシルサルコシン塩、及びn−アシルグルタミン酸塩などのカルボン酸型の乳化・分散剤が挙げられる。同様にジアルキルスルホコハク酸塩、アルカンスルホン酸塩、アルファオレフィンスルホン酸塩、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル(分岐型)ベンゼンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩−ホルムアルデヒド縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸塩、n−メチル−n−アシルタウリン塩などのスルホン酸型の乳化・分散剤、アルキル硫酸エステル塩、アルコールエトキシサルフェート及び油脂硫酸エステル塩などの硫酸エステル型の乳化・分散剤、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩及びポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸塩などのリン酸エステル型の乳化・分散剤が、ロジン酸のアルカリ金属塩と併用できるものとして挙げられる。この他にも、例えばアルキルアリルスルホン酸塩、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルがロジン酸のアルカリ金属塩と併用可能な乳化・分散剤である。
【0011】
また本発明では、ポリクロロプレンを重合する際に使用できる重合開始剤や連鎖移動剤(分子量調整剤)の種類も特に限定されるものではなく、公知の開始剤や連鎖移動剤を使用することができる。重合開始剤としては、例えば過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過酸化水素及び過酸化ベンゾイルなどの有機過酸化物類を挙げることができ、連鎖移動剤としては、n−ドデシルメルカプタンやtert−ドデシルメルカプタンなどの長鎖アルキルメルカプタン類、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィドやジエチルキサントゲンジスルフィドなどのジアルキルキサントゲンジスルフィド類、及びヨードホルムなどを挙げることができる。
【0012】
重合条件にも特に制限はないが、重合温度は0℃以上55℃以下の範囲が好ましく、最終的な単量体転化率は50%以上100%以下に調整することが好ましい。単量体転化率が100%に達する前に重合を停止させる場合に用いる重合禁止剤としては、例えばチオジフェニルアミン、4−タ−シャリーブチルカテコール、2,2−メチレンビス−4−メチル− 6−tertブチルフェノール及びジエチルヒドロキシルアミンなどを使用することができる。
【0013】
本発明では重合終了後のポリクロロプレンを、トルエン可溶な成分と架橋が進行してトルエンに不溶となったゲル成分とに分類した場合、ゲル成分の質量割合(ゲル分率)には特に制限はない。但しゲル分率を、例えば乳化重合法で作製した後に凍結乾燥した質量Aのポリクロロプレンラテックスを23℃で20時間トルエンに溶解(0.6質量%に調整)し、遠心分離機と200メッシュ金網による固液分離後に金網上に残った不溶分をゲルとして、これを風乾してからさらに110℃で3時間処理した乾燥質量Bを測り、下記の(式1)に従って求めた値をとした場合には、70質量%以上95質量%以下に調整されていることが好ましい。ゲル分率がこの範囲であると、該ポリクロロプレン組成物とアスファルト乳剤を混合したゴムアスファルト組成物から得られる塗布膜やシートを高温条件下で施行しても破損しにくくなる。
ゲル分率(質量%)=B/A×100 (式1)
なおポリクロロプレンのゲル分率は、連鎖移動剤の添加量や単量体の転化率を変えることによっても変化させることができる。
【0014】
さらに本実施形態のポリクロロプレンラテックスには、重合終了後に公知のpH調整剤、凍結安定剤、酸化亜鉛などの金属酸化物、炭酸カルシウムやシリカなどの無機充填剤、ジブチルフタレートやプロセスオイルなどの可塑剤・軟化剤、更に各種老化防止剤や加硫促進剤、イソシアネート類などの硬化剤、増粘剤などを、本発明の効果を阻害しない範囲で任意に配合することができる。
【0015】
本発明におけるポリクロロプレンラテックス中の固形分とは、純粋なポリクロロプレンの他、クロロプレン重合時の副原料や助剤として用いられる乳化・分散剤、重合開始剤や連鎖移動剤(分子量調整剤)などに由来する固体成分を含めた固形分を示している。ポリクロロプレンラテックス中の固形分には、ポリクロロプレンラテックスに後から添加する固体状の無機化合物、即ち亜鉛華などの金属酸化物、炭酸カルシウムやシリカなどの無機充填剤(以下、亜鉛華以外の無機化合物という)は含めない。具体的には、ポリクロロプレンラテックス中の固形分は、亜鉛華や亜鉛華以外の無機化合物を添加してない、或いは添加する前のポリクロロプレンラテックスを蒸発皿に数g量り取り(質量Xとする)、これを110℃で3時間乾燥した後の残留物(質量Yとする)である。従って、本発明のポリクロロプレンラテックス中の固形分の質量濃度は、Y/X×100(単位:質量%)となる。本発明のポリクロロプレンラテックス中に含まれる固形分の質量濃度は40質量%以上60質量%以下が好ましい。ポリクロロプレンラテックス中の固形分が30質量%未満の場合や45質量%を越えてしまうと、ポリクロロプレンラテックス、亜鉛華や亜鉛華以外の無機化合物、さらにアスファルト乳剤が均一に混合され難くなることがある。
一方、ポリクロロプレンラテックス組成物に含まれる総固形分とは、ポリクロロプレンラテックスに後から添加する固体状の無機化合物、即ち亜鉛華などの金属酸化物、炭酸カルシウムやシリカなどの無機充填剤も含めた全ての固形分である。
【0016】
(2)カリウムイオンとナトリウムイオン
本発明のポリクロロプレンラテックスでは、ポリクロロプレンラテックス中の固形分100質量部中に、カリウムイオンを0.6質量部以上1.7質量部以下、より好ましくは0.7質量部以上1.0質量部以下、ナトリウムイオンは0.1質量部を超えないように、より好ましくは0.03質量部以上0.05質量部以下となるように含むものである。カリウムイオンの含有量がポリクロロプレンラテックス中の固形分100質量部中に0.6質量部に満たない場合や、ナトリウムイオンの含有量が0.1質量部を超える場合には、ポリクロロプレンラテックス自体や、該ポリクロロプレンラテックスに亜鉛華や亜鉛華以外の無機化合物を加えたポリクロロプレンラテックス組成物の低温貯蔵時の保存安定性が低下し、それを補うためにより多くの凍結安定剤の添加が必要となるため、該ポリクロロプレンラテックスを用いたゴムアスファルト組成物の塗装適性やゴムアスファルト組成物からシート、多層シートの成膜性が低下して強度が弱まる傾向がある。一方、カリウムイオンの含有量が1.7質量部を超えると、ポリクロロプレンラテックスや、該ポリクロロプレンラテックスに亜鉛華や亜鉛華以外の無機化合物を加えたポリクロロプレンラテックス組成物、及び該ポリクロロプレンラテックス組成物とアスファルト乳剤を混合して得られるゴムアスファルト組成物が層分離しやすくなり、その結果として強度不足を招くなどの不具合が生じる。カリウムイオンやナトリウムイオンの含有量を調整するためには、クロロプレンの乳化重合する際に還元剤や緩衝塩を同時に添加すればよい。還元剤や緩衝塩の例としては、ピロ亜硫酸カリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素カリウム、リン酸カリウム、リン酸水素カリウムなどのカリウム塩を挙げることができる。
【0017】
ポリクロロプレンラテックス中に含まれるカリウムイオンやナトリウムイオンの量は、一般に知られているイオン電極法で求めたイオン濃度から算出することができる。なお、イオン電極法とは、目的とするイオンに選択的に感応するイオン選択性電極(イオンセンサー)と比較電極とを試料中に挿入して、両電極間に生じる電位差よりイオン濃度を測定する方法である。測定に用いられる電極は、ナトリウムイオン電極法ではガラス電極、カリウムイオン電極法ではニュートラルキャリアー含有液膜電極がある。
【0018】
(3)亜鉛華
本発明における、特に数平均粒子径と比表面積を規定した亜鉛華は、これを用いたポリクロロプレンラテックス組成物とアスファルト乳剤とを混合したゴムアスファルト組成物の成膜性が向上すると共に、またこれを乾燥させて得られる塗布膜やシート、多層シートの機械的強度が向上することが特に見出されたため添加するものである。
【0019】
本発明でポリクロロプレンラテックスに添加する亜鉛華の数平均粒子径は特に0.1μm以上0.3μm以下の範囲である。亜鉛華の数平均粒子径は、水中で超音波分散をした後に自然乾燥して得た亜鉛華粉末の、SEM装置(FE―SEM SU6600:日立ハイテクノロジーズ社製)による200個の観察画像の定方向接線径(Feret径)の数平均値である。数平均粒子径が0.1μmに満たない亜鉛華を用いると亜鉛華同士が凝集して、ポリクロロプレンラテックス中への均一分散が困難になり、亜鉛華自体が飛散しやすくなるため取扱い性も低下する。また数平均粒子径が0.3μmを超えると、得られる塗布膜やシートの機械的強度が向上しない場合がある。
【0020】
また本発明の亜鉛華が有する比表面積は、15m/g以上25m/g以下の範囲である。ここで亜鉛華の比表面積は、亜鉛華を水中で超音波分散をした後に自然乾燥して得た粉末をサンプルとして、比表面積測定装置(モノソーブ:QUANTACHROME INSTRUMENTS社製)を用いてJIS−Z8830に準拠して窒素を吸着質としたBET法により測定した値である。亜鉛華の比表面積が15m/gに満たないと、クロロプレン重合体の架橋を促進できなくなり、得られるシートの引張強度が向上しない場合がある。比表面積が25m/gを超える亜鉛華は、吸湿して亜鉛華自体の品質が劣化しやすい傾向があるため、工業的な生産に用いることが難しい。
【0021】
本発明における亜鉛華の添加量は、ポリクロロプレンラテックス中の固形分100質量部に対して5質量部以上20質量部以下である。亜鉛華の添加量が5質量部に満たないと、得られるシートの引張強度が向上しない場合がある。また、亜鉛華の添加量が20質量部を超えてしまうと、得られるシートの引張物性が向上しない場合や平滑なシートが得られない場合がある。
【0022】
このような数平均粒子径及び比表面積の条件を満たす亜鉛華としては、例えば無機亜鉛塩水溶液とアルカリ水溶液からなる反応液を攪拌反応槽内で反応させて得られる湿式製造法による亜鉛華を例示することができる。なお、亜鉛華は均一混合しやすくするために、クロロプレンラテックスに添加する前に、予め水中に分散させておくこともできる。亜鉛華を水中に分散させるための乳化剤としては、一般的なアニオン系乳化剤が使用可能であり、例えばDarvan No.1(商品名、R.T.Verderbilt Company社製)などの市販品がある。
【0023】
<ゴムアスファルト組成物>
本発明の第2の実施形態であるゴムアスファルト組成物は、本発明のポリクロロプレンラテックス組成物とアスファルト乳剤とを、ポリクロロプレンラテックスに含まれる固形分の質量及び亜鉛華や亜鉛華以外の無機化合物の質量を合計した質量と、アスファルト乳剤中に含まれる固形分の質量の比が、30:70から45:55の範囲内となるように混合したゴムアスファルト組成物である。この場合、ポリクロロプレンラテックス中の固形分と、亜鉛華や亜鉛華以外の無機化合物を合計した質量の比が30未満であると、アスファルトシートの引張強度が著しく低下する不具合が生じ、一方45を超えるとアスファルトシート作製時にゴムアスファルト組成物が層分離したり、アスファルトシートの乾燥時間がより長く必要になるなど新たな課題が生じる。
【0024】
なお本発明で用いられるアスファルト乳剤とは、アスファルトを分散剤を用いて水中に分散させたもので、本発明ではアニオン系の分散剤を用いたアスファルト乳剤が好ましい。さらにアスファルトには、天然のアスファルト及び石油由来のアスファルトがあるが、天然のアスファルトとしては、ギルンナイト、グラハマライト、トリニダットがあり、石油由来のアスファルトとしては、原油の蒸留により得られる各種針入度のストレートアスファルト、ストレートアスファルトに空気を吹き込んで酸化重合して得られるブローンアスファルト、セミブローンアスファルトがある。これらのアスファルトは2種以上混合して使用することも可能である。アニオン系の分散剤としては、例えば、脂肪酸、高級アルコール硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸、カルボン酸、スルホン酸及びそれらのアルカリ金属塩がある。これらは2種以上混合して使用することもできる。これらの分散剤の使用量は特に制限はない。一般的にはアスファルト中に含まれる固形分100質量部に対して0.2質量部以上0.5質量部以下添加することにより、アスファルトを必要かつ充分に水中に分散させることができる。
【0025】
また本発明で用いるアスファルト乳剤に含まれる固形分の質量濃度には特に制限はないが、50質量部以上80質量%以下の範囲にあることが好ましい。アスファルト乳剤中の固形分が50質量%未満であるとアスファルトシート作製時の乾燥時間が長く必要であったり、得られえる塗膜やシートに亀裂が生じる問題があり、80質量%を超えると、アスファルト乳剤とポリクロロプレンラテックスが良好に分散しない場合や得られる塗布膜やシート及び多層シートの機械的強度を向上させることができない場合がある。
【0026】
さらに本発明のクロロプレンラテックス組成物とアスファルト乳剤を混合して得られるゴムアスファルト組成物中の固形分の質量濃度は特に制限はないが、40質量%以上60質量%以下の範囲にあることが望ましい。ゴムアスファルト組成物中の固形分の質量濃度をこの範囲に調整すると、得られるゴムアスファルト組成物を塗装膜やシート及び多層シートに成形する際の乾燥時間を短くできるとともに、加工性が向上するため好ましい。
【0027】
さらに本発明のゴムアスファルト組成物には、凝固剤を混合して乾燥時の固化を促進させることもできる。凝固剤は、各種多価金属塩の水溶液であり、アスファルト乳剤の水中での分散安定性を低下させて、アスファルト乳剤に含まれるアスファルトを凝固析出させるための助剤である。凝固剤として用いられる多価金属塩は、易水溶性でゴムアスファルト組成物の凝固性能に優れているものが好ましく、例えば、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、ミョウバンがある。ゴムアスファルト組成物に凝固剤を混合させる場合、その添加量は、ゴムアスファルト組成物と凝固剤の質量比が90:10から70:30の範囲内となるように均一混合することが好ましい。添加量がこの範囲であれば、ゴムアスファルト組成物を短時間で固化させることが出来るとともに、その表面への凝固剤の析出を防止することができる。
【0028】
<塗布膜とシート>
本発明のゴムアスファルト組成物は、そのまま塗布して乾燥させて塗布膜を形成させたり、該組成物を乾燥させて得たシートや本発明のゴムアスファルトを用いた多層シートに成形することができ、本発明の第3の実施形態となすことができる。これらの塗布膜は、建築物やトンネルなどの構築物にそのまま塗りつけて施工することができ、シート及び多層シートの場合には、接着剤や粘着剤を用いたり、加熱圧着や物理的な治具の使用、その他の固定手段を用いて敷設することにより、これら建築物や構築物に防水性を付与することができる。
【0029】
本発明のゴムアスファルト組成物を施工する被塗布面の前処理や塗布方法には特に制約はないが、例えば、該組成物そのままを流し込んで覆ったり、刷毛やコテ等による塗布や、充填機やスプレーなどを利用する方法が可能である。またシートや多層シートの成形方法にも特に制約はないが、例えばロールを用いたシート成形や、剥離紙上に本発明のゴムアスファルト組成物をキャストして乾燥させた後、剥離紙を剥がしてシートとなすことができる。得られる塗布膜やシートの厚さは、施工場所や使用環境に合わせて適宜設定すればよいが、0.2mm以上15mm以下の範囲とすることで、防水性能を維持しつつ取り扱いが良好となるため好ましい。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0031】
(実施例1)
(ポリクロロプレンラテックス組成物の製造)
内容積10リットルの反応器を用い、窒素気流下で水100質量部、ロンヂスK−25(不均化ロジン酸カリウム、荒川化学工業社製)2.5質量部、水酸化カリウム0.8質量部、デモールN(β−ナフタリンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩、花王社製)0.8質量部と亜硫酸カリウム0.5質量部を仕込み、溶解後、攪拌しながらクロロプレン100質量部とジエチルキサントゲン酸ジスルフィド(大内新興化学工業社製)0.14質量部を加えた。過硫酸カリウムを重合開始剤として用い、窒素雰囲気下、45℃で重合し、重合率が90%に達したところでフェノチアジンの乳濁液を加えて重合を停止した。減圧下で未反応単量体を除去してポリクロロプレンラテックスを得た。さらに減圧下で水分を蒸発させて濃縮し、ポリクロロプレンラテックスの固形分が60質量%となるように調整した。なお、得られたポリクロロプレンラテックス中に含まれるカリウムイオン濃度、及びナトリウムイオン濃度をコンパクトカリウムイオンメータC−131、及び同C−122(堀場製作所社製)を用いて測定し、ポリクロロプレンラテックスの中に含まれる固形分100質量部に対する各イオンの割合を求めたところ、カリウムイオンが0.8質量部、ナトリウムイオンが0.04質量部であった。さらに得られたポリクロロプレンラテックス100質量部と、亜鉛華としてAZ−SW(数平均粒子径0.20μm、比表面積20.0m/g、大崎工業社製)5質量部を、撹拌機スリーワンモーターTYPEHEIDON 1200G(新東科学社製)を用いて混合してポリクロロプレンラテックス組成物とした。
【0032】
(ポリクロロプレンラテックス組成物の低温貯蔵性評価)
得られたポリクロロプレンラテックス組成物は、その一部を50mLの密栓付きガラス製容器に移し、−1℃の環境下で24時間放置した後の状態を目視観察することによりその低温貯蔵性を評価した。このとき乳化状態を保っていれば低温貯蔵安定性は良好、層分離して乳化状態が破壊されていれば工業製品として実用に耐えないと判断した。
【0033】
(ゴムアスファルト組成物の調整)
上述の方法によって得たポリクロロプレンラテックス組成物中に関し、ポリクロロプレンラテックス中の固形分100質量部と、亜鉛華の5質量部の合計105質量部に対して、固形分157.5質量部を含む市販のアニオン系のアスファルト乳剤(固形分70質量%、pH12.0)を配合し、撹拌機MAZELAマゼラZ(東京理化機器社製)を用いて、室温にて回転速度250rpmで30分間混合した後、そのまま室温で30分静置してゴムアスファルト組成物とした。なお本実施例の場合、ポリクロロプレンラテックスに含まれる固形分の質量及び亜鉛華や亜鉛華以外の無機化合物の質量を合計した質量と、アスファルト乳剤中に含まれる固形分の質量の比は40:60である。
【0034】
(シートの製造)
上述の方法によって得られたゴムアスファルト組成物150gを200mm×200mmの剥離紙上にキャストして、25℃で120時間乾燥させ、剥離紙からシートを剥がし更に40℃で48時間乾燥して、厚さ2mmのシートを得た。
【0035】
(シートの評価)
上述の方法によって得られたシートにつき、23℃における引張強度を測定した。引張強度の測定は以下の通り行った。
【0036】
(引張強度)
上述の方法で得られたシートをJIS−K6251に記載の方法でダンベル3号形に打ち抜いて試験片とし、引張試験機(Quick Reader mx 株式会社上島製作所社製)を用いて、破断伸び及び破断強度を測定した。破断伸びは1100%以上の値を示したものを合格とした。破断強度は0.90N/mm以上の値を示したものを合格とした。評価結果を表1に示す。
【0037】
(実施例2〜11、比較例1〜14、参考例1、2)
以下に示す実施例、比較例及び参考例は、実施例1でポリクロロプレンラテックス組成物を製造する際に用いた亜鉛華の種類と添加量、カリウムイオンとナトリウムイオンの含有量、ゴムアスファルト組成物を製造する際に用いたアスファルト乳剤の添加量をそれぞれ表1に示したものに変更して実施例1と同様に評価したものである。評価結果を表1、及び表2に併せて示した。
実施例11はゴムアスファルト組成物を作製する際にポリクロロプレンラテックス組成物とアスファルト乳剤が混合しにくかったため、混合時間を3倍の90分とした。なお、表1及び表2中、亜鉛華の、「META−Z 102」は井上石灰工業株式会社製のMETA−Z 102(数平均粒子径0.19μm、比表面積11.6m/g)、「AZO−B」は正同化学工業株式会社製のAZO−B(数平均粒子径0.35μm、比表面積12.0m/g)、「酸化亜鉛2種」は堺化学工業株式会社製の酸化亜鉛2種(数平均粒子径1.38μm、比表面積3.2m/g)である。また、比較例3、5で用いた凍結安定剤はエマルゲン220(花王社製)で、ポリクロロプレンラテックス中の固形分100質量部に対して0.5質量部(固形分換算)添加した。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
表1及び表2に示すとおり、本発明の範囲にある各実施例のポリクロロプレンラテックス組成物はそれ自体の低温貯蔵安定性を保ちつつ、該ポリクロロプレンラテックス組成物とアスファルト乳剤を混合して得られるゴムアスファルト組成物を成形して得たシートは、比較例群に示すシートに比べて破断伸びの値は維持しつつ、引張強度は約2〜4割増しとなっており、機械的強度が明らかに増しており、本発明の効果が確認された。