(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記不活性ガスがアルゴンを含み、前記反応ガスが窒素を含み、60〜70%のアルゴンと30〜40%の窒素のガス比をもたらす工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
対向面との摩擦により、前記耐久性のあるトライボロジー層の一部を、トライボロジー層が前記対向面に化学機械的に結合するように、前記対向面に転写する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
PVDが100〜500℃の温度で実施されるマグネトロンスパッタリングプロセスを含み、基板に−75〜−200Vのバイアス電圧を印加し、陰極に−100〜−1000Vの電圧を印加する工程をさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
前記終端層を除去する工程が、100〜400nmの厚さを有する前記膜の前記終端層を研磨することをさらに含み、前記終端層を研磨することが、0.1〜5μmの粒径を有するダイヤモンドペーストが上に配置された表面カバーを有する部材を回転させること及び0.1〜5μmの粒径を有する布地表面カバーを有する部材を回転させることの少なくとも1つをさらに含む、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0005】
必要に応じて、本発明の詳細な実施形態を本明細書で開示するが、開示される実施形態は、様々な代替の形態で具現され得る本発明の単に例示的なものであることが理解されるべきである。図面は、必ずしもある縮尺にされているわけではなく、一部の特徴は、特定のコンポーネントの詳細を示すために誇張または最小化されている場合がある。したがって、本明細書に開示される特定の構造的および機能的詳細は、限定的であると解釈されるべきでなく、本発明を様々に使用するのに当業者に教示するための単に代表的な基礎として解釈されるべきである。
一般に、製品上に低摩擦特性を有する被膜を形成するためのシステムが提供される。被覆製品は、高温および高圧を有する環境内(例えば、エンジン内)で動作するように適応されている。被覆製品は、液体炭化水素からの添加剤、調整剤、または自然に存在する化合物を捕捉することによってトライボロジー層を形成するようにさらに適応されており、それによって、使用される添加剤の量を低減することを可能にする。
【0006】
図1を参照すると、一実施形態によって、基板上に被膜を形成するためのシステムが例示され、数字10によって一般に参照されている。システム10は、物理気相堆積(PVD)装置12および材料除去装置14を含む。
PVD装置12は、いくつかの公知のプロセス、例えば、ARC PVD、マグネトロンスパッタリング(MS)、パルスDC MS、ARC MSハイブリッド、または高出力インパルスマグネトロンスパッタリング(HIPIMS)などから選択することができる。上記プロセスのそれぞれは、十分なイオン化をもたらす。しかし、MSは、より低い処理温度(100〜500℃)で動作し、したがって、定格の温度がより低いコンポーネント(例えば、自動車グレードのコンポーネント)により良好に適している。
一実施形態では、MSを使用して基板16上に膜を堆積させるためのPVD装置12が提供される。基板16は、被覆される前の製品(または複数の製品)を表す。装置12は、基板16を納める密閉されたチャンバー18を含む。チャンバー18には、不活性ガスおよび反応ガスを受け入れるためのガス入口17が備えられている。チャンバーは、チャンバー18内で真空圧力(一般に10
-6〜10
-7トルの間)を調節するための1つまたは複数のポンプに接続された出口19も含む。
【0007】
陰極20もチャンバー18内に納められている。陰極20は、基板16上に堆積される元素の少なくとも一部を含むコンポジットターゲット棒を含む。陰極20は、少なくとも1種の硬質金属および少なくとも1種の軟質金属を含有する。陰極20は、約90〜99.9重量%の高い金属密度、または不純物に対する金属の百分率で形成されている。一実施形態では、陰極20は、約97〜98重量%の金属密度を占める。
陰極20は、軟質金属より高濃度の硬質金属を含む。一実施形態では、陰極20は、モリブデン(Mo)などの硬質金属と、銅(Cu)などの軟質金属の組合せで形成されており、モリブデンは約70〜95重量%であり、銅は5〜30重量%である。別の実施形態では、陰極20は、約75〜90重量%のモリブデンおよび10〜25重量%の銅を含む。さらに別の実施形態では、陰極20は、約82〜87重量%のモリブデンおよび13〜18重量%の銅を含む。さらに別の実施形態では、陰極32は、約85重量%のモリブデンおよび15重量%の銅を含むことができる。
【0008】
システム10の他の実施形態は、他の硬質金属および軟質金属、ならびにこれらの組合せおよび合金から形成されたコンポジットターゲット棒を有する陰極20を含む。金属は、これらのイオン電位に基づいて選択される。硬質金属(複数可)として、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、タングステン(W)、ニオブ(Nb)、ハフニウム(halfnium)(Hf)、ジルコニウム(Zr)、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、およびイットリウム(Y)を挙げることができる。軟質金属(複数可)として、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、インジウム(In)、スズ(Sn)、ガリウム(Ga)、ビスマス(Bi)、銀(Ag)、金(Au)、白金(Pt)、鉛(Pb)、パラジウム(Pd)、およびアンチモン(Sb)を挙げることができる。例えば、一実施形態では、システム10は、鉄とケイ素の合金とともに銅と亜鉛の合金を含むコンポジットターゲット棒から形成された陰極20を含む。
上記硬質金属の少なくとも1種および軟質金属の少なくとも1種から形成される陰極20は、窒化物、カーバイド、炭窒化物、またはホウ化物の被膜を堆積させるのに使用することができる。これらの実施形態では、代替の硬質金属および軟質金属のそれぞれの重量百分率は、モリブデンおよび銅について上記に示した範囲と同様である。例えば、陰極20は、約70〜95重量%の硬質金属および5〜30重量%の軟質金属を含むことができる。
システム10の他の実施形態では、複数の陰極20を同時に使用することができる。複数の陰極20は、純粋なターゲット棒(1元素)またはコンポジットターゲット棒を含むことができる。例えば、一実施形態では、システム10は、銅(軟質金属)を含有する1つの陰極20、およびモリブデン(硬質金属)を含有する別の陰極20を含む。
【0009】
装置12は、MSのために構成される場合、磁場を作り出すための磁石22を含む。陰極20および基板16はそれぞれ、電源に接続されている。陰極用電源24は、陰極20に接続されている。陰極用電源24は、陰極20に−1000〜−100Vの間の負電圧を供給する。バイアス用電源25は、バイアス電圧を供給するために基板16に接続されている。一般に、バイアス電圧は、堆積中で−300V〜0Vの間である。
【0010】
アルゴンなどの不活性ガス26は、入口17に供給され、陰極20にすぐ近くでチャンバー18内に導入される。陰極20に印加される負電圧は、アルゴン26を励起した状態にさせ、刺激して陰極20付近でプラズマを形成させる。プラズマは陽イオンを含み、これは、陰極20の表面に向かって加速する。プラズマは、磁場によって陰極20の面に閉じ込められる。アルゴンイオンが陰極20と衝突すると、これらは、CuおよびMo原子などの標的原子(図示せず)を陰極20の表面から放出させる。
【0011】
窒素などの反応ガス30は、入口17に、その後チャンバー18内に供給され、標的原子と反応する。反応ガス30は、標的原子と反応してCuMoNまたはCuMo
2Nなどの化合物(図示せず)を形成する。化合物は、基板16と接触し、基板16上にCuMoNなどの膜32を堆積する。
【0012】
装置12は、基板16を支持し、回転させるための回転機構36などの治具を含む。回転機構36は、プラズマを通って基板16を回転させるように構成されており、被覆されることが望まれる基板16上に膜32を均一に分布させることを促進する。
装置12は、チャンバー18内の高温を維持するためのヒーター38も含むことができる。一般に100〜500℃の温度が、MSの間、チャンバー内で維持される。
さらに、装置12は、マグネトロンスパッタリングプロセスの運転パラメータを制御するための制御装置40を含む。制御装置40は一般に、装置12のパラメータ(例えば、温度、圧力、電圧レベル、基板16の配向など)を制御するように互いに共同する、任意の数のマイクロプロセッサー、ASIC、IC、メモリー(例えば、FLASH、ROM、RAM、EPROM、および/またはEEPROM)、およびソフトウェアコードを含む。
【0013】
図1〜4を参照すると、様々な組成の2つの層を含む膜32が形成する。
図2は、基板16および膜32の断面図を例示する。膜32は、ボディ層またはバルク層42、およびバルク層42の上に形成される最上層または終端層44を含む。膜32の厚さは一般に、0.3〜10μmである。一実施形態では、膜32の厚さは0.75〜3.5μmである。
【0014】
終端層44は、バルク層42の表面上に形成する。終端層44は一般に、銅に富み、これは、バルク層42より高濃度の銅を有することを意味する。終端層44は、ナノピーク(nano-peak)45を形成し、非構造部分46も形成し得る。
非構造部分46は、銅および/またはモリブデンがチャンバー18内に存在する酸素と反応して形成される、銅およびモリブデンの酸化物を含む。この酸素は、水分子、陰極中の酸素不純物、チャンバー内の残遺物、または他の可能性がある意図されない源に起因して存在し得る。
システム10は、基板16を被覆して高摩耗耐性および低摩擦特質を有する製品をもたらすように構成される。しかし、終端層44は一般に、非構造部分46のためにより低い硬度、およびナノピーク45のためにより大きい表面粗さを有する。さらに、終端層44は、膜32のバルク層42より均質性が劣る。終端層44はまた一般に、バルク層42より低い摩耗耐性を有し、滑剤中の添加剤に対する応答の均一性がより低い。したがって、終端層44の形成を軽減し、次いで基板16上の最終的に形成するいずれの終端層44も除去することの両方によって、終端層44を排除することが有利である。
【0015】
終端層44の軽減は、MSプロセスの間のある特定の運転パラメータを制御することによって実現され得る。これらのパラメータには、チャンバー18内のガス比、マグネトロンの出力、バイアス電圧、およびエネルギー密度が含まれる。終端層44は、チャンバー18内のガス比を最適化することによって軽減され得る。ガス比は、チャンバー18内の不活性ガス26と反応ガス30の相対量を指す。ガス比は、堆積される膜32中のナノピーク45(窒化物)の形成に影響する。ナノピーク45は、対向面の摩耗をもたらし、アルゴンなどの約60〜70%の不活性ガスと、窒素などの30〜40%の反応ガスのチャンバー内のガス比を維持することによって軽減することができる。
終端層44は、PVDプロセスの間にエネルギー密度を増大させることによっても軽減され得る。エネルギー密度が増大すると、膜32のイオン化がより大きくなり、結晶粒形態がより小さくなる。エネルギー密度が増大するとまた、得られる膜32は、粒度が減少し、密度および硬度が増大し、軟質金属(Cu)の分散が改善され、Mo結晶粒同士間の軟質金属境界層がより薄くなる。エネルギー密度は、基板16の間隔を最適化し、プロセス温度を上昇させ、プラズマの磁場エネルギーを増大させることによって増大させることができる。
【0016】
チャンバー18内の基板16の間隔を最適化すると、エネルギー密度が増大し、終端層44の形成が軽減される。間隔の最適化は、2つの関連した概念、すなわち、基板16の間隔、および基板16と治具の間隔を指す。基板16の間隔は、基板16の個々の製品の相対的な大きさ(mass)を指す。基板16の間隔により、終端層44の形成が変動する。
基板16と治具の間隔は、支持治具(回転機構36)の大きさと比べた基板16の大きさを指す。基板16と治具の間隔は、基板16の大きさと比べて、支持治具の大きさを小さくすることによって増大する。間隔が増大すると、堆積される膜32の密度が増大し、終端層44の厚さが減少する。
プロセス温度を上昇させるとエネルギー密度が増大し、終端層44の形成が軽減される。プロセス温度は、電圧バイアスを増大させ、チャンバー18内の温度を上昇させることによって上昇させることができる。
バイアス用電源25は、基板18にバイアス電圧を供給する。バイアス電圧を調整することによって、膜32中のスパッタされる元素の相対量を変更することができる。バイアス電圧36は、膜32中の軟質金属(Cu)含量の量に対応する。例えば、負のバイアス電圧が大きいほど、基板16上に堆積される軟質金属(Cu)は少ない。一実施形態では、バイアス電圧は、−200〜−75Vの間であり、さらに別の実施形態では、これは、約−150Vである。
【0017】
プラズマのイオン化およびスパッタリング速度は、陰極用電源24によって陰極20に印加される電力を変更することによって調整することができる。一般に、陰極電圧は、−700〜−300Vの間である。少なくとも1つの実施形態では、陰極電圧は、−600〜−400Vの間であり、さらに別の実施形態では、これは約−500Vである。
終端層44は、堆積プロセスの最後に近づく際に、バイアス電圧を増大させ、かつ/または硬質金属ターゲットの電力を増大させる(純粋な硬質金属ターゲットが使用される場合)ことによって、マグネトロンターゲットの電力およびバイアス電圧を「膜中の銅がより少ない」方向に変更することによっても軽減され得る。
【0018】
チャンバー18内の温度を上昇させると、エネルギー密度が増大し、終端層44の形成が軽減される。MSの間、100〜500℃の温度がチャンバー18内で維持される。範囲の上限で動作温度を維持することにより、終端層44の形成の軽減が助長される。
プラズマ磁場エネルギーを増大させても、エネルギー密度が増大し、終端層44の形成が軽減される。プラズマ磁場エネルギーは、ARC PVDまたはARC−MSハイブリッドPVDでより高い。しかし、ARCは、より高いプロセス温度で動作し、これは、自動車グレードのコンポーネントにとって不適当となり得る。HIPIMSは、プラズマ磁場エネルギーを循環させることによって、プロセス温度を上昇させることなく、高いプラズマ磁場エネルギーをもたらす。
【0019】
終端層44の厚さは一般に、実現される軽減の量に応じて、約5〜900nmである。一実施形態では、終端層44の厚さは、100〜400nmである。さらに別の実施形態では、終端層44の厚さは、200〜300nmである。終端層44の厚さは一般に、膜32の全厚に少なくとも部分的に比例し、その結果、より厚い膜32は、より厚い終端層44を有することになる。
軽減後に残っている終端層44を除去するための材料除去装置14が備えられている。一実施形態では、材料除去装置14は、研磨装置である。装置14は、終端層44を除去するために備えられる。装置14は、回転ディスク47を含む。柔らかい布48が、ディスク47に取り付けられている。ダイヤモンドペースト50が布48に塗布される。ダイヤモンドペースト50の粒径は、約0.5〜5μmを含むことができる。別の実施形態では、ダイヤモンドペースト44の粒径は、約1〜3μmである。研磨は一般に、終端層44全体が除去されるまで実施される。
【0020】
他の実施形態(図示せず)では、材料除去装置は、1つまたは複数の機械的、化学的、および/または電気的な研磨の代替案を備えることができる。機械的材料除去法として、それだけに限らないが、平削り/成形、粉砕、ブローチ削り、ターニング(turning)、研削、ホーニング、ラップ仕上げ、および/または超仕上げを挙げることができる。機械的材料除去は一般に、ツールおよびワークピースの少なくとも一方を動かしながら(直線的または回転的に)、ツールをワークピースに接触させる工程を含む。機械的除去は、研削、ホーニング、および超仕上げなどにおいて研磨剤の使用も含むことができる。
化学的および/または電気的材料除去も、終端層を除去するために、単独で、または機械的方法とともに使用することができる。化学的/電気的除去は、それだけに限らないが、化学研磨、電気化学的加工、放電加工、電子ビーム加工、レーザー加工、電解研磨(electrolytic grinding)、または電解研磨(electropolishing)を含む方法によって達成することができる。これらの方法は、材料除去の分野で公知であり、詳細には論じられない。
【0021】
終端層44は、バルク層42と比較して摩耗耐性が低減しているので、終端層44は、被覆製品が使用され、試験され、使い古され、または他の方法で利用される際に、あわせ面と接触することによってインサイツでも除去され得る。
システム10により、基板16上に形成されたバルク被膜54を有する製品52が提供される。バルク被膜54は、終端層44が除去された後の膜32を代表する。
システム10によって形成されるバルク被膜54は、非常に硬く、高い摩耗耐性を有する。少なくとも1つの実施形態では、バルク被膜54は、少なくとも2,000ビッカース硬さの硬度(HV)を有することができる。別の実施形態では、バルク被膜54は、2,000〜6,000HVの硬度を有することができる。さらに別の実施形態では、バルク被膜54は、2,500〜5,000HVの硬度を有することができる。さらに別の実施形態では、バルク被膜54は、3,000〜4,000HVの硬度を有することができる。
【0022】
図2〜4は、バルク被膜54および終端層44の組成を例示する。
図2は、バルク層42および終端層44の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を表す。
図3は、非構造部分46が除去された後の終端層44のSEM画像を表す。
図4は、終端層44が除去された後のバルク被膜54のSEM画像を表す。
マグネトロンスパッタリングプロセス後の窒化モリブデンバルク被膜54の最終結晶粒形態は、高密度で等軸であり、結晶粒は、5〜100nmのサイズを有する。一実施形態では、粒度は10〜100nmである。さらに別の実施形態では、粒度は10〜50nmである。被膜中の銅は、一般に厚さ数原子の層である窒化モリブデン結晶粒の粒界にほとんど位置する。少なくとも1つの実施形態では、銅は、粒界において、バルク被膜54全体にわたって均一に分布している。
【0023】
図5および6は、終端層44の組成を例示する。
図5は、装置12によって基板16上に形成された終端層44のSEM画像を表す。走査型オージェ電子顕微鏡法(SAM)を使用して、基板16上の複数の位置が分析用に選択されている。この技法は、非常に薄い表面層(3〜5nm)の分析を可能にする。したがって、示したデータは、膜32の最上部の表面からのものである。終端層44の第1の位置は、数字56によって参照されており、結晶粒の中心部分に位置する。終端層44の第2の位置は、数字57で参照されており、粒界に位置する。
図6は、2つの位置のそれぞれにおける終端層12の相対組成のプロットを示す。プロットの領域1は、数字58で参照されており、終端層44中の高濃度のCuを例示する。プロットの領域2は、数字59で参照されており、終端層44中の高濃度のOを例示する。上記で言及したように、終端層44は、銅および酸化物の高含量を特徴とする。位置56の銅含量は、約10原子%であり、一方、位置57は、約25原子%の銅含量を有する。
【0024】
図7および8は、終端層44が除去された後のバルク被膜54の組成を例示する。
図7は、装置12によって基板16上に形成されたバルク被膜54のSEM画像を表す。5つの位置がSAM分析用に選択されている。バルク被膜54の第1の位置は、数字60によって参照されており、第2の位置は、数字62によって参照されており、第3の位置は、数字64によって参照されており、第4の位置は、数字66によって参照されており、第5の位置は、数字68によって参照されている。
図8は、5つの位置のそれぞれにおけるバルク被膜54の相対組成のプロットを示す。プロットに示したように、バルク被膜54の各位置60、62、64、および66における相対組成は、相対的に互いに同等である。
さらに、
図8を
図6と比較すると、バルク被膜54の位置60、62、64、66、および68は、終端層44の位置56および57(
図5)より、比較的少ない銅および酸素を有する。これらの位置の銅含量は、約3.2±0.3原子%である。
【0025】
図9および
図10は、バルク被膜54および終端層44の組成に対する基板16と治具の間隔の効果を例示する。
図9は、大きい大きさの治具に取り付けられた基板上に形成された終端層44のSEM画像を表し、ここで、治具の大きさおよび容積は、基板の相対的な大きさと比較して大きい。
図10は、小さい大きさの治具に取り付けられた基板上に形成された終端層44のSEM画像を表し、ここで、治具の大きさおよび容積は、基板の相対的な大きさと比較して小さい。
この例では、すべての被覆プロセス(例えば、温度、時間、および電圧)は一定であり、唯一の変数は間隔であった。
図9と
図10の比較は、治具の大きさを小さくすることによって間隔を増大させると、堆積される膜32の密度が増大することを例示する。
【0026】
図11を参照すると、製品52は、高温および高圧を有する環境内(例えば、エンジンまたは燃料システム内)で動作するように適応されている。バルク被膜54は、液体炭化水素70(例えば、燃料、油、および滑剤)と化学反応することによって、非常に低い摩擦の膜の形成を誘導する。膜は、液体炭化水素70からの添加剤、調整剤、または自然に存在する化合物を収集または捕捉することによって、製品52上にトライボロジー層72を形成するように適応されている。自動車用液体炭化水素70中に使用される一般的な添加剤および調整剤として、極圧添加剤(「EP化合物」)、摩擦調整剤(「FM化合物」)、さび止め剤(「RI化合物」)、および洗剤添加剤(「DA化合物」)が挙げられる。自然に存在する化合物(例えば、硫黄(sulfer))が、添加剤および調整剤が最小限にされる環境(例えば、燃料噴射システム)内に存在する場合がある。
トライボロジー層72は、製品52と対向面74の接触界面上で濃縮される。
図11は、例示的な目的で示されており、バルク被膜54を覆うトライボロジー層72を表すが、トライボロジー層72は、負荷および/または摩擦が発生する領域で実際に濃縮される。トライボロジー層72は、強いイオン結合および共有結合によって製品52の表面に結合する。トライボロジー層72の厚さは、捕捉される添加剤、調整剤、または化合物のタイプに応じて20Å〜200nmである。
トライボロジー層72は、さらなる化学反応によって連続的に補充される。トライボロジー層72のこの連続的な補充、または「アクティブな」形成は、液体炭化水素70に添加される、必要とされる添加剤、すなわち、EP化合物およびFM化合物の両方の量を著しく低減し、それでも依然として十分な保護を維持することを可能にする。このような添加剤のこの大規模な低減は、このような油、燃料および/または滑剤の毒性を改善することができる。
トライボロジー層72は、限られた液体炭化水素70の存在下でさえも形成することができる。接触表面領域上のこのような化合物および添加剤の高い程度の濃縮および形成の誘導により、動作環境内で非常に少量の液体炭化水素70が存在する場合でも、この保護的で有益なトライボロジー層72の形成が可能になる。
トライボロジー層72は、被覆コンポーネントが見出される機械が長期間未使用であっても持続し、このような長期間の未使用後の優れた始動時の保護をもたらす。
バルク被膜54およびトライボロジー層72は、共同で被膜78を形成する。被膜78は、低摩擦係数をもたらす。少なくとも1つの実施形態では、被膜78の摩擦係数は、完全に配合されたモーターオイルなどの液体炭化水素70中で試験されるとき、0.005〜0.1である。別の実施形態では、被膜78の摩擦係数は、液体炭化水素70中で試験されるとき、0.01〜0.05である。
トライボロジー層72は、未被覆の対向面74に転写して、転写されたトライボロジー層76を形成することができる。転写されたトライボロジー層76は、製品52上に存在するトライボロジー層72と化学的に同様である。
転写されたトライボロジー層76は、対向面74への転写されたトライボロジー層の化学機械結合の性質によって、通常存在する他の一時的なトライボロジー効果(未被覆鋼上のEP添加剤など)と異なる。この結合は、未被覆の鋼オン鋼(steel-on-steel)摩擦界面におけるような、本質的に一過性または瞬間的としてのものではない。
【0027】
被膜78、および被膜78を形成する方法の例を以下に説明する。以下の例は、本発明の理解を補助するために示されており、示された材料、手順、または条件に関して限定的であることは意味していない。
【0028】
(例1)
銅モリブデン−窒化物被膜を、マグネトロンスパッタリングを使用して基板上に堆積させた。スパッタリングは、約33%の窒素および約66%のアルゴンを含む雰囲気下で、90重量%のMoおよび10重量%のCuの組成を有する陰極を使用して実施した。陰極電圧は約400Vであり、バイアス電圧は約150Vであった。スパッタリングにより、2391HV plの硬度を有する膜が生じた。20mNの負荷でFischer H100C XYP試験器を使用して、硬度試験を研磨の前に実施した。
回転ディスク上に支持された柔らかい布を備えるダイヤモンド研磨装置を使用し、粒径が1〜3μmのダイヤモンドペーストを使用して、基板を研磨した。研磨により終端層が除去され、バルク被膜がもたらされた。バルク被膜は、約95〜99.8重量%のMoN/Mo
2Nおよび約0.2〜5重量%の銅を含む組成を有していた。バルク被膜の厚さは、約1.5〜2μmであり、硬度は、20mNの負荷でFischer H100C XYP試験器を使用して約2835HV plであった。
【0029】
(例2)
銅モリブデン−窒化物被膜を、マグネトロンスパッタリングを使用して基板上に堆積させた。スパッタリングは、3.22
*10^−3mbarの圧力で、約36%の窒素および約64%のアルゴンを含む雰囲気下で、90重量%のMoおよび10重量%のCuの組成を有する陰極を使用して実施した。陰極電圧は約525Vであり、バイアス電圧は約150Vであった。スパッタリングにより、2046HV plの硬度を有する膜が生じた。20mNの負荷でFischer H100C XYP試験器を使用して、硬度試験を研磨の前に実施した。
2000グリットを有するシリコンペーパーを含む手動研磨作業を使用して基板を研磨した。研磨により終端層が除去され、バルク被膜がもたらされた。バルク被膜は、約95〜99.8重量%のMoN/Mo
2Nおよび約0.2〜5重量%の銅を含む組成を有していた。バルク被膜の厚さは、約1.5〜2μmであり、硬度は、20mNの負荷でFischer H100C XYP試験器を使用して約2525HV plであった。
【0030】
(例3)
銅モリブデン−窒化物被膜を、ARC MSハイブリッドスパッタリングを使用して基板上に堆積させた。スパッタリングは、x
*10^−3mbarの圧力で、約33%の窒素および約66%のアルゴンを含む雰囲気下で、90重量%のMoおよび10重量%のCuの組成を有する陰極を使用して実施した。スパッタリングにより、3265HV plの硬度を有する膜が生じた。50mNの負荷でFischer H100C XYP試験器を使用して、硬度試験を研磨の前に実施した。
【0031】
回転ディスク上に支持された柔らかい布を備えるダイヤモンド研磨装置を使用し、粒径が1〜3μmのダイヤモンドペーストを使用して、基板を研磨した。研磨により終端層が除去され、バルク被膜がもたらされた。バルク被膜は、約95〜99.8重量%のMoN/Mo
2N、および約0.2〜5重量/原子%の銅を含む組成を有していた。バルク被膜の厚さは、約1.5〜2μmであり、硬度は、50mNの負荷でFischer H100C XYP試験器を使用して約3475HV plであった。
【0032】
例示的な実施形態が上記に説明されているが、これらの実施形態が、本発明のすべての可能性がある形態を説明することは意図されていない。むしろ、本明細書に使用した言葉は、限定ではなく、説明の言葉であり、様々な変更を、本発明の精神および範囲から逸脱することなく行うことができる。さらに、様々な実施中の実施形態の特徴を組み合わせることによって、本発明のさらなる実施形態を形成することができる。
次に、本発明の好ましい態様を示す。
1. 炭化水素に曝される基板上に被膜を形成する方法であって、
チャンバー内に基板を準備する工程と、
物理気相堆積(PVD)によって基板上に膜を堆積させる工程であって、前記膜は、バルク層および外側終端層を含む、工程と、
前記終端層の前記堆積を軽減する工程と、
前記膜から前記終端層を除去し、前記基板上に堆積された、残っているバルク層を残す工程と、
を含み、前記基板が、耐久性添加剤、摩擦調整剤、および自然に存在する化合物の少なくとも1つを有する環境内で炭化水素に曝されるとき、耐久性のあるトライボロジー層が前記バルク層の外側表面上に形成されることによって、低摩擦および抗摩耗特性を有する被膜が創製される、方法。
2. 前記チャンバー内に、少なくとも1種の軟質金属および少なくとも1種の硬質金属を含有する少なくとも1つの陰極を準備する工程をさらに含む、上記1に記載の方法。
3. 前記少なくとも1つの軟質金属が、銅、ニッケル、インジウム、スズ、ガリウム、ビスマス、銀、金、白金、鉛、パラジウム、アンチモン、および亜鉛から本質的になる群から選択される、上記2に記載の方法。
4. 前記少なくとも1つの硬質金属が、モリブデン、クロム、チタン、バナジウム、タングステン、ニオブ、ハフニウム(halfnium)、ジルコニウム、鉄、アルミニウム、ケイ素、およびイットリウムから本質的になる群から選択される、上記2に記載の方法。
5. 70〜97重量%のモリブデンおよび3〜30重量%の銅を含む陰極を前記チャンバー内に準備する工程をさらに含む、上記1に記載の方法。
6. 前記チャンバー内に不活性ガスを供給する工程と、
前記チャンバーに反応ガスを供給する工程と
をさらに含む、上記1に記載の方法。
7. 前記不活性ガスがアルゴンを含み、前記反応ガスが窒素を含む、上記6に記載の方法。
8. 約60〜70%のアルゴンと約30〜40%の窒素のガス比をもたらす工程をさらに含む、上記7に記載の方法。
9. 対向面に前記耐久性のあるトライボロジー層(tribolgical layer)の一部を転写する工程をさらに含む、上記1に記載の方法。
10. PVDがマグネトロンスパッタリングプロセスを含む、上記1に記載の方法。
11. 前記基板に−75〜−200Vのバイアス電圧を印加し、前記陰極に−100〜−1000Vの電圧を印加する工程をさらに含む、上記10に記載の方法。
12. 前記マグネトロンスパッタリングプロセスが100〜500℃の温度で実施される、上記10に記載の方法。
13. 前記終端層の前記堆積を軽減する工程が、前記チャンバー内の容積と比べて、前記基板の全大きさを小さくすることをさらに含む、上記1に記載の方法。
14. 前記終端層の前記堆積を軽減する工程が、前記チャンバー内の容積と比べて、基板支持機構の全大きさを小さくすることをさらに含む、上記1に記載方法。
15. 前記終端層の前記堆積を軽減する工程が、堆積エネルギーを増大させるために、陰極に備えられたスイッチング電源を利用することをさらに含む、上記1に記載の方法。
16. 前記終端層の前記堆積を軽減する工程が、堆積エネルギーを増大させるために、陰極に備えられたパルス電源を利用することをさらに含む、上記1に記載の方法。
17. 前記終端層の前記堆積を軽減する工程が、堆積エネルギーを増大させるために、堆積の間のバルク被膜のイオン化を増大させることをさらに含む、上記1に記載の方法。
18. 前記終端層の前記堆積を軽減する工程が、より小さい粒度を有するより高密度なバルク被膜を形成するために、堆積の間のバルク被膜のイオン化を増大させることをさらに含む、上記1に記載の方法。
19. 前記終端層の前記堆積を軽減する工程が、前記陰極の密度を増大させることをさらに含む、上記1に記載の方法。
20. 前記終端層の前記堆積を軽減する工程が、前記堆積プロセスの間に別個に加熱することをさらに含む、上記1に記載の方法。
21. 前記終端層を除去する工程が、100〜400nmの厚さを有する前記膜の前記終端層を研磨することをさらに含む、上記1に記載の方法。
22. 研磨することが、0.1〜5μmの粒径を有するダイヤモンドペーストが上に配置された表面カバーを有する部材を回転させることをさらに含む、上記19に記載の方法。
23. 研磨することが、0.1〜5μmの粒径を有する布地表面カバーを有する部材を回転させることをさらに含む、上記19に記載の方法。
24. 前記終端層を除去する工程が、100〜400nmの厚さを有する前記膜の前記終端層を化学的にストリッピングすることをさらに含む、上記1に記載の方法。
25. 基板上に堆積された硬質、耐摩耗性バルク被膜であって、
5〜100nmの粒度を有する硬質モリブデン−窒化物と、
前記モリブデン−窒化物結晶粒を囲繞する境界膜中に分布した銅と
を含み、少なくとも2,000ビッカース(HV)の硬度を有し、周囲環境内の添加剤、調整剤、および自然に存在する化合物の少なくとも1つを捕捉、濃縮し、これらと化学結合することができることによって、前記バルク被膜と対向面の間に連続補充効果のあるトライボロジー層を形成する、バルク被膜。
26. 前記トライボロジー層が、前記形成されたトライボロジー層の耐久性および保存を低減することなく、炭化水素に添加されるのに必要とされる添加剤および調整剤の大きな低減を可能にする、上記25に記載のバルク被膜。
27. 前記モリブデン−窒化物が、MoN、Mo2N、およびMoの少なくとも1種を含む、上記25に記載のバルク被膜。
28. 前記バルク被膜および前記トライボロジー層が共同で、0.01〜0.08の摩擦係数を有する被膜を形成する、上記25に記載のバルク被膜。
29. 50〜99.7重量%のモリブデン−窒化物および0.1〜50重量%の銅をさらに含む、上記25に記載のバルク被膜。
30. 0.3〜5.0μmの厚さを有する、上記25に記載のバルク被膜。
31. 前記添加剤が、低圧添加剤および極圧添加剤を含めた摩耗防止剤を含む、上記25に記載のバルク被膜。
32. 前記添加剤が摩擦調整剤を含む、上記25に記載のバルク被膜。
33. 前記トライボロジー層の化学結合が、強いイオン結合および共有結合の少なくとも1つをさらに含む、上記25に記載のバルク被膜。
34. 基板表面を有するボディと、
前記基板表面上に堆積され、50〜99.7重量%のモリブデン−窒化物および0.1〜50重量%の銅から構成され、少なくとも2,000ビッカース(HV)の硬度を有するバルク被膜と、
前記バルク被膜と隣接対向面との間で形成され、前記バルク被膜と、周囲環境内の添加剤、調整剤、および自然に存在する化合物の少なくとも1つとの間で化学的に結合することによって形成され、連続的補充に適応されているトライボロジー層と
を含む物品。