(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図面について詳細に述べるが、いくつかの図面を通して同様の符号は同様の要素を表す。
【0021】
本明細書における被覆物品は、単枚ガラス窓、IG窓ユニット、自動車の窓、及び/又はガラス基板のような一枚の若しくは複数枚の基板を包含する他の好適な用途のような被覆物品用途に使用することができる。
【0022】
前述の通り、場合により、低Eコーティング中のIR反射層(例えば、銀をベースとする層)は、後続の堆積プロセス、熱酸化、腐食、水分、化学的浸食及び/又は過酷な環境によって生じる損傷から保護しなければならない可能性がある。例えば、後続の層を堆積するのに用いられるプラズマ中の酸素を高度にイオン化して、銀をベースとする層を酸素から保護しなければならないことがある。また、堆積後の「大気下でのプロセス」では、銀をベースとする層が酸素、水分、酸及び/又は塩基等から攻撃を受け易い可能性もある。このことは、銀をベースとする層と大気との間に位置する層に欠陥があるために、銀をベースとする層が完全に覆われていない場合(例えば、引っ掻き傷、ピンホール等)に特に当てはまる。
【0023】
例えば、銀を含む層を包含するコーティングの劣化が当該層内でのAgの物理的な再構築によって引き起こされる可能性があり、その結果、場合により、重ねた層が加熱によって崩壊することもある。特定の実施態様例では、熱処理中に問題が生じる可能性もある。この場合、銀をベースとする層に酸素が拡散する可能性がある。特定の実施態様例では、銀をベースとする層に達した酸素は、シート抵抗を低下させる、放射に影響を与える及び/又は曇りを生じさせる等によって当該層の特性に影響を及ぼす可能性があり、また、層スタックによる性能を低下させることもある。場合により、Agが凝集することで欠陥が生じる可能性もある。
【0024】
そのため、特定の実施態様例では、低Eコーティング中の銀をベースとする層(及び/又は他のIR反射層)とバリア層とを併用することで、前記の問題及び/又はその他の問題の一部又は全ての発生を減少させる可能性がある。特定の実施例では、前記バリア層が銀の周囲に薄い酸化物保護層を形成して、被覆物品の耐食性や化学的及び/又は力学的な耐久性を改善する可能性がある。
【0025】
本発明の特定の実施態様例は、コーティングを支持する少なくとも1枚のガラス基板を包含する被覆物品に関する。コーティングは一般に、少なくとも一部のIR放射を反射及び/又は遮断する少なくとも1層の赤外線(IR)反射層を有する。本発明の別の実施態様では、IR反射層は銀、金、NiCr等のような材料又はそれらの三元合金からなっていてもよく、或いはそれらを包含していてもよい。多くの場合、IR反射層はコーティングの少なくとも第1コンタクト層と第2コンタクト層との間に挟持されている。
【0026】
以上のことから、Ni含有三元合金を含むバリア層を供給することは有利であると考えられる。特定の実施例では、バリア層は、ニッケル、クロム及び/又はモリブデン等の材料(例えば、C22、BC1及び/又はB3等のHaynes合金)を含んでいてよい。他の実施態様例では、Ni含有三元合金はさらに、Ti、Cr、Nb、Zr、Mo、W、Co及び/又はこれらの組み合わせを包含していてもよい。場合により、Ni含有三元合金バリア層(例えば、ニッケル、クロム及び/又はモリブデン等のような金属を含むもの)は、(1)IR反射層との十分な接着力と、(2)酸性及び/又はアルカリ性溶液に対する改善された耐食性と、(3)高温酸化中の保護と、(4)全体的な改善された化学的及び/又は力学的な耐久性と、を有する可能性がある。他の実施態様例では、これらの利点は、ニッケル、クロム及び/又はモリブデンを含む層を、バリア層としてよりもIR反射層及び/又は他の機能層として使用することで生じる可能性がある。
【0027】
さらに、他の実施態様例では、2層以上のバリア層を供給してもよい。有利なことに、IR反射層の少なくとも片面に(また、場合により、両面に)少なくとも2層のバリア層を供給することで前記利点が生じる可能性もあることが分かった。特定の実施態様例では、Ni含有合金又はNi含有三元合金をIR反射層に隣接させて使用してもよく、また、良好な耐食性並びに良好な化学的及び力学的な耐久性を付与する材料を第2バリア層として選択してもよい。
【0028】
図1は、本発明の実施態様例による被覆物品の断面図である。特定の実施態様例では、
図1に示す被覆物品は、表面1及び/又は表面2に低Eコーティングを有する単枚ガラス窓として使用されてよく、低Eコーティングには単一IR反射層のみが備わっている。しかし、別の実施態様例では、
図1の被覆物品は追加の層を含んでいてもよい。さらに、本明細書に記載の実施態様例にしたがって製造された被覆物品は、別の実施態様例及び応用例によれば、表面1、表面2、表面3及び/又は表面4上にコーティングを有する断熱ガラスユニット(IGU)に使用されてもよく、表面2及び/若しくは表面3上の中間層寄りに組み込まれたコーティング又は表面1若しくは表面4に暴露されたコーティングを有する一体型積層板に使用されてもよく、表面2及び/若しくは表面3上の中間層寄りに組み込まれたコーティング又は表面4に暴露されたコーティングを有する積層アウトボードを積層したIGUに使用されてもよく、表面3及び/若しくは表面6に暴露された被覆物又は表面4及び/若しくは表面5に組み込まれた被覆物を有する積層インボードを積層したIGUに使用されてもよい。言い換えれば、このコーティングは、一体構造として使用されてもよく、2枚以上の基板を備えたIGユニットに使用されてもよく、或いはガラスユニット内に2回以上使用されてもよく、また、別の実施態様例では、ユニットのどの表面に供給されてもよい。
【0029】
被覆物品は、ガラス基板1(例えば、透明な、緑色の、ブロンズ色の又は青緑色の、厚さ1.0〜10.0mm、より好ましくは厚さ約1.0mm〜6.0mmのガラス基板)と、前記基板に直接的に又は間接的に供給された多層コーティング35(又は層システム)と、を包含する。
【0030】
図1に示すように、コーティング35は、任意の誘電体層3及び/又は任意の誘電体層5と、Ni含有三元合金を含む第1バリア層7であって、Ni、Ti、Cr、Nb、Zr、Mo、W、Co及び/又はこれらの組み合わせ(例えば、Ni
xCr
yMo
z、Ni
xTi
yCr
z、Ni
xTi
yNb
z、Ni
xNb
yZr
z、Ni
xCr
yZr
z、Ni
xTi
yMo
z、Ni
xZr
yMo
z、Ni
xNb
yMo
z、Ni
xCr
yMo
z、Ni
xW
yCr
z、Ni
xW
yMo
z、Ni
xW
yZr
z、Ni
xW
yNb
z、Ni
xW
yTi
z、Ni
xCo
yMo
z、Ni
xCo
yCr
z、Ni
xCo
yMo
z、Ni
xCo
yZr
z、Ni
xCo
yNb
z及び/又はNi
xCo
yTi
z)からなっていてよいか又はそれらを包含していてよいものと、銀又は金等のうち1種以上を包含するIR反射層9と、Ni含有三元合金を含む第2バリア層11であって、Ni、Ti、Cr、Nb、Zr、Mo、W、Co及び/又はこれらの組み合わせ(例えば、Ni
xCr
yMo
z、Ni
xTi
yCr
z、Ni
xTi
yNb
z、Ni
xNb
yZr
z、Ni
xCr
yZr
z、Ni
xTi
yMo
z、Ni
xZr
yMo
z、Ni
xNb
yMo
z、Ni
xCr
yMo
z、Ni
xW
yCr
z、Ni
xW
yMo
z、Ni
xW
yZr
z、Ni
xW
yNb
z、Ni
xW
yTi
z、Ni
xCo
yMo
z、Ni
xCo
yCr
z、Ni
xCo
yMo
z、Ni
xCo
yZr
z、Ni
xCo
yNb
z及び/又はNi
xCo
yTi
z)からなっていてよいか又はそれらを包含していてよいものと、任意の誘電体層13であって、特定の実施例では保護オーバーコートであってよいものと、を備えている。本発明の特定の実施態様例では、他の層及び/又は他の材料を供給してもよく、また、特定の実施例では、特定の層を削除又は分割してもよい。層3、層5及び/又は層13は1層以上の個別の層を包含していてよい。誘電体層3、誘電体層5及び誘電体層13は、窒化ケイ素、酸化ケイ素、オキシ窒化ケイ素、酸化スズ、酸化チタン及び/又は任意の好適な誘電材料からなっていてもよく、或いはそれらを包含していてもよい。特定の実施態様例では、任意のオーバーコート層16が供給されていてもよい。当該層は、他の実施例では除外されてもよい。特定の実施態様例では、任意のオーバーコート層16を供給する場合、当該層16はジルコニウムからなっていてもよく、或いはそれを包含していてもよい。別の実施例では、ジルコニウムをベースとする層は部分的に又は完全に酸化されてもよい。さらなる実施態様例では、層16は、Zr
xMo
yO
z、ZrAlOx及び/又はTiZrOx等のジルコニウム系合金の酸化物を含んでいてもよい。前記材料は、有利なことに、コーティング並びに/又は被覆物品のトライポロジー的性質及び/若しくは摩擦特性を改善するのに役立つ可能性がある。他の実施例では、他の誘電体層をコーティングの別の場所に供給してもよい。特定の実施態様例では、前記層を少なくとも最初はジルコニウム窒化物として堆積してもよい。
【0031】
赤外線(IR)反射層9は、好ましくは実質上又は完全に金属及び/又は導電性であり、銀(Ag)、金又は他の好適なIR反射材料を含んでよく、又は本質的にそれからなってもよい。IR反射層9は、コーティングに低放射率や低シート抵抗等のような低E特性及び/又は良好な日射調整特性を発揮させるのに役立つ。しかし、本発明の特定の実施態様では、IR反射層9は僅かに酸化されていてもよい。
【0032】
別の実施態様例では、
図1に示しかつ本明細書に記載のIR反射層は銀を含んでもよく、又は本質的に銀からなってよい。そのため、特定の実施態様例には銀合金が包含されてもよいことも分かるであろう。このような場合、Agは、好適な量のZr、Ti、Ni、Cr、Pd及び/又はこれらの組み合わせとの合金であってもよい。特定の実施態様例では、Agは、PdとCuをそれぞれ約0.5〜2%(重量%又は原子濃度)含む、PdとCuとの合金であってよい。他の考えられる合金には、Agと、Co、C、Mg、Ta、W、NiMg、PdGa、CoW、Si、Ge、Au、Pt、Ru、Sn、Al、Mn、V、In、Zn、Ir、Rh及び/又はMoのうち1種以上と、が包含される。一般に、ドーパント濃度は0.2〜5%(重量%又は原子濃度)の範囲、より好ましくは0.2〜2.5%の範囲であってよい。前記範囲内で操作することにより、銀が、そうでなければ合金化によって失われる可能性のあるAgをベースとする層の好ましい光学特性を保持するのに役立ち、その結果、スタックの光学特性全体を維持するのに役立つと同時に、化学的耐久性、腐食耐久性及び/又は力学的耐久性を高めるのにも役立つ可能性がある。本明細書で特定される代表的なAg合金ターゲット材料は、単一のターゲットを用いてスパッタリングされてもよく、2種(以上のターゲット)を用いた同時スパッタ法等によって堆積されてもよい。場合により、高い耐食性を付与することに加えてAg合金を使用することにより、高温での銀拡散性を低減するのに役立つと同時に、層スタック内で酸素の移動量を減少させる又は阻止するのに役立つ可能性がある。これにより、銀拡散性が更に向上し、好ましくない耐久性の原因となり得る前記Agの成長特性及び構造特性を変える可能性もある。
【0033】
特定の実施態様例では、バリア層7は亜鉛酸化物からなっていてもよく、或いはそれらを包含していてもよい。本発明の別の実施態様では、第1Ni含有三元合金層7と第2Ni含有三元合金層11の組成は同一であっても異なっていてもよい。
【0034】
誘電体層13は、窒化ケイ素、酸化ケイ素、オキシ窒化ケイ素、酸化スズ及び酸化チタン等からなっていてもよく、又はそれを包含してもよい。特定の実施態様例では、誘電体層13は2層以上の個別の層から構成されてよい。さらに、場合により、誘電体層13は保護オーバーコートとして供給されてもよい。
【0035】
有利なことに、前記層に例えばNi含有三元合金を使用することで、耐食性が向上でき、そして化学的及び/又は力学的な耐久性が改善できることも分かった。Ni含有三元合金(並びに又はその酸化物、窒化物及び/若しくはオキシ窒化物)を使用することでAg粒界上に保護層が形成されると考えられる。特定の実施態様例では、これにより、更に良好な耐食性及び/又は耐湿性並びに化学的耐久性を有する被覆物品が得られる可能性がある。さらに、IR反射層の周囲に薄い酸化物保護層を形成することで、酸素の拡散を軽減することができ、特定の実施態様例では、耐食性並びに化学的及び力学的な耐久性の改善に役立つ可能性もあると考えられる。
【0036】
特定の実施態様例では、Ni含有三元合金はニッケル、クロム及び/又はモリブデンを含んでいてよい。特定の実施態様例では、ニッケル及びNi含有合金は、様々な腐食性環境、高温、高圧及び/又はこれら要因の組み合わせに耐え得る可能性がある。また一方で、Niは、場合により、通常の環境下で良好な耐食性を付与する可能性もあるが、高温高湿及び/又は酸性浸食に反応する可能性もある。そのため、特定の実施例では、Crを添加して酸性溶液に対する耐食性を改善することも可能である。他の実施例では、Crによって、高温酸化から保護してもよい。
【0037】
また一方、Ni及び/又はCrからなる又は本質的にそれらからなるバリア層をさらに改良してもよい。例えば、堆積直後でしかも大気中で加熱された(その結果、NiCr酸化物を形成する可能性がある)本質的にNiCrからなる層は、高温の酸性溶液及びアルカリ性溶液に晒されると腐食及び/又はエッチングされる可能性がある。加熱されたNiCrコーティングは、(1)20%NaOH中(65℃で1時間)、(2)50%H
2SO
4中(65℃で1時間)及び(3)5%HCl中(65℃で1時間)にエッチング除去される可能性がある。さらに、熱湯に晒す(100℃に1時間)と、加熱されたNiCrが曇ることが確認された。これは、塩化物及び/又は水素化物の形成が原因である可能性がある。
【0038】
別の例として、コーティング直後のNiCrを包含する層(例えば、部分的に酸化されたもの、又は加熱されたNiCrを包含する層ほど酸化されていないもの)は、50%H
2SO
4(65℃で1時間)及び5%HCl(65℃で1時間)によってエッチング除去されることもある。そのため、IR反射層(例えば、銀を含むもの)は、化学的浸食及び/又は過酷な環境(例えば、高温及び/又は高湿環境下)に弱い可能性があることも分かる。したがって、改善されたバリア層が必要である。このことは、特定の実施態様例ではコーティングが風雨にさらされる可能性があるため、被覆物品が一体型として使用されるか又はIGユニット若しくは積層アセンブリの外表面で使用される用途に特に当てはまる可能性がある。
【0039】
したがって、コーティングを供給する一体型用途、コーティングを表面1(例えば、結露防止のため)及び/又は表面4(例えば、U値を改善するため)に供給するIGユニット、並びにコーティングが前記環境に直接さらされる可能性のある他の場合では、更に優れた耐食性並びに改善された化学的及び/又は力学的な耐久性を有する材料を、例えばAgをベースとする層を保護するために使用するのが好ましいこともある。
【0040】
特定の実施態様例では、モリブデンは、特にニッケルと併用すると、耐酸性だけでなく孔食や隙間腐食をも改善する可能性があることが分かった。さらに、モリブデンは、特にクロムと併用すると、アルカリ性溶液からの浸食に関して改善された特性をもたらす可能性がある。そのため、有利なことに、銀をベースとする層の周囲にNiCrMo系合金を使用することで、低Eスタックにおいて改善された耐食性並びに改善された化学的及び/又は力学的な耐久性がもたらされる可能性があることが分かった。NiCrMoをベースとするバリアは、堆積直後でも熱処理後でも、Ni及びCrからなる及び/又は本質的にそれらからなるバリア層と比べて改善された性能を有するコーティングを提供する可能性がある。
【0041】
有利なことに、NiCrMo系合金(例えば、C22、BC1及び/又はB3といったHallestoy)は少なくとも1層の銀をベースとする層を包含するコーティングを、場合により、本質的にNi及びCrからなる層よりも十分に保護する可能性があることが分かった。さらに、更なる実施例では、NiCrMo系合金は、被覆物品を可視損傷からも保護する可能性がある。NiCrMoは、コーティング内の最上部の誘電体層(例えば層13)と合金を形成することで、アルカリ性溶液及び熱湯に対する当該層の性能をさらに改善する可能性もあると考えられる。このことは、最上部の誘電体層13がケイ素をベースとする実施態様に特に当てはまる可能性がある。例えば、MoSiを含む材料は、その優れた耐熱性と耐食性によって、高温ヒーターとして使用される。
【0042】
表1〜3に、参照として、3種のNiCrMo系合金実施態様例(例えば、C22、BC1及びB3)に関する組成を表す。
【0046】
図2(a)にはコーティング35'が包含されている。
図2(a)は、
図2(a)がNiCrMoを含む合金から構成される層7及び層11を特に必要としていること以外は、
図1を基にしている。特定の実施態様例では、層7及び/又は層11はさらに、例えば上記表1に示すように、Fe、W、Co、Si、Mn、C、V、Al及び/又はTiを潜在的に少量含んでいてもよい。
【0047】
図2(b)は、コーティング35"を示している。
図2(b)は、
図2(b)がハステロイ合金(Hastelloy)C22からなる又はそれを包含する層7及び層11を特に必要としかつ任意のオーバーコートがZrを包含すると明記していること以外は、
図1及び
図2(a)を基にしている。
【0048】
図3(a)は、別の実施態様例を示している。
図3(a)の実施態様では、様々なNi系合金をコーティング36内で有効に使用することで、コーティングの特性を更に改善する可能性がある。
図3(a)、
図3(b)及び
図3(c)に関する実施態様例では、Ni系合金は必ずしも三元であるとは限らない。場合により、Ni系合金は、二元であってもよく、又は4種以上の金属を含んでいてもよい。例えば、層7はNiCr(並びに/又はその酸化物及び/若しくは窒化物)からなっても又はそれを包含していてもよいが、層11は、NiTi(並びに/又はその酸化物及び/若しくは窒化物)からなる又はそれを包含する。特定の実施態様例では、層7がNiCrをベースとし、そして層11がNiTiをベースとしている層スタックのシート抵抗は、層7と層11が共にNiCrをベースとしている層スタックよりも約25〜45%低く、更に好ましくは約30〜40%低く、最も好ましくは少なくとも34%低い可能性がある。
【0049】
別の実施例として、層7はNiCr(並びに/又はその酸化物及び/若しくは窒化物)からなっても又はそれを包含していてもよいが、層11はNi
xCr
yMo
z(例えば、C22)からなる又はそれを包含する。特定の実施態様例では、層7がNiCrをベースとし、そして層11がNi
xCr
yMo
zをベースとしている層スタックのシート抵抗は、層7と層11が共にNiCrをベースとしている層スタックよりも約20〜35%低く、更に好ましくは約25〜30%低く、最も好ましくは少なくとも28%低い可能性がある。
【0050】
したがって、特定の実施態様例では、層7はNiCr、Ni
xCr
yMo
z (例えば、C22、B3、BC1等)及びNiTiのうち少なくとも1種からなっていてもよく、或いはそれらを包含していてもよく、また、層11は、層7のために選択された材料が層11のために選択された材料と異なるのであれば、NiCr、Ni
xCr
yMo
z(例えば、C22、B3、BC1等)及びNiTiのうち少なくとも1種からなっていてもよく、或いはそれらを包含していてもよい。
【0051】
図3(b)は、コーティング36'を支持する被覆物品1を表している。
図3(b)は、
図3(b)がNiCr(並びに/又はその酸化物及び/若しくは窒化物)からなる又はそれを包含する層7とNiTi(並びに/又はその酸化物及び/若しくは窒化物)からなる又はそれを包含する層11とを特に必要としていること以外は、
図3(a)を基にしている。
【0052】
図3(c)は、コーティング36"を支持する被覆物品1を表している。
図3(c)は、
図3(c)がNiCr(並びに/又はその酸化物及び/若しくは窒化物)からなる又はそれを包含する層7とNi
xCr
yMo
z(並びに/又はその酸化物及び/若しくは窒化物)からなる又はそれを包含する層11とを特に必要としていること以外は、
図3(a)を基にしている。
【0053】
上述の通り、
図3(a)、
図3(b)及び
図3(c)に従って作製されたコーティングは、有利なことに、例えばNiCrをベースとするバリア層のみを包含するコーティングと比べると大幅に低下したシート抵抗を有する可能性がある。
【0054】
図4は、本発明の実施態様例による被覆物品の断面図である。特定の実施例では、
図4に示す被覆物品は、2層のIR反射層を含む低Eコーティングを有する単枚ガラス窓として使用されてよい。被覆物品は、ガラス基板1(例えば、透明な、緑色の、ブロンズ色の又は青緑色の、厚さ1.0〜10.0mm、好ましくは厚さ約1.0mm〜6.0mmのガラス基板)と、前記基板に直接的に又は間接的に供給された多層コーティング45(又は層システム)と、を包含する。
図4の実施態様は、ガラス基板1と、誘電体層3及び/又は誘電体層5と、Ni含有三元合金7と、銀をベースとする層9と、Ni含有三元合金11と、銀をベースとする層19と、Ni含有三元合金21と、誘電体層13と、任意のオーバーコート層16と、を包含する。層7、層11及び/又は層21は、本明細書において
図1の実施態様例中の層7に関して記載した材料例のいずれか及び/又はそれら全てからなっていてもよく、或いはそれらを包含していてもよい。同様に、Agをベースとする層9及びAgをベースとする層19は、本明細書に記載の銀合金であってよい。誘電体層3、誘電体層5、誘電体層13及び誘電体層16は任意である。前記層は、本明細書において前記層に関して記載した材料のうちいずれかを含んでいてよい。前記層のうちの一部若しくはそれら全てが別の実施態様例に従って供給されてもよく、又はどの層も別の実施態様例に従って供給されなくてもよい。
【0055】
図5は、
図4を基にしており、また、コーティング45'を包含している。
図5は、層7、層9、層11及び/又は層19がNiCrMo系合金(例えば、C22、BC1及び/又はB3)を含んでいてよいと規定している。
【0056】
図6に示すような別の実施態様例は、先に示唆した本発明の特定の実施態様例の別の態様に関する。これら実施態様例では、機能層(例えば、銀を含むIR反射層)の片面又は両面にバリア層を2層供給することで、耐久性を改善できることが分かった。
【0057】
特に、
図6は、本発明の実施態様例による被覆物品の断面図である。被覆物品は、ガラス基板1(例えば、透明な、緑色の、ブロンズ色の又は青緑色の、厚さ1.0〜10.0mm、好ましくは厚さ約1.0mm〜6.0mmのガラス基板)と、前記基板に直接的に又は間接的に供給された多層コーティング50(又は層システム)と、を包含する。コーティング50はガラス基板1で支持されており、任意の誘電体層3及び/又は任意の誘電体層5と、銀をベースとする層9を挟持する第1バリア層8/10及び第2バリア層6/12と、誘電体層13と、任意のオーバーコート層16と、を包含する。
【0058】
任意の誘電体層3、任意の誘電体層5及び任意の誘電体層13は、窒化ケイ素、酸化ケイ素、オキシ窒化ケイ素、酸化チタン、酸化スズ及び任意の他の好適な誘電材料からなっていてもよく、或いはそれらを包含していてもよい。別の実施態様例によれば、前記層は全てが含まれていてもよく、全く含まれていなくてもよく、又はそれらのうち一部が含まれていてもよい。さらなる実施態様例では、前記層はそれぞれ1層以上の個別の層を包含していてよい。
【0059】
特定の実施態様例では、任意のオーバーコート層16が供給されていてもよい。当該層は、他の実施例では除外されてもよい。特定の実施態様例では、任意のオーバーコート層16を供給する場合、当該層16はジルコニウムからなっていてもよく、或いはそれらを包含していてもよい。場合により、ジルコニウムをベースとする層は部分的に及び/又は完全に酸化されてよい。さらなる実施態様例では、層16は、Zr
xMo
yO
z、ZrAlOx及び/又はTiZrOx等のジルコニウム系合金の酸化物を含んでいてもよい。これらの材料は、コーティング並びに/又は被覆物品のトライポロジー的性質及び/若しくは摩擦特性を向上させるのに有効に役立つ可能性がある。
【0060】
さらに
図6についていえば、バリア層6及びバリア層12は、改善された耐食性並びに/又は高い化学的及び力学的な耐久性のために選択された材料を含んでいてよい。特定の実施態様例では、「バリア1」層8及び「バリア1」層10(以下に詳述する)と「バリア2」層6及び「バリア2」層12との接着は有利である。場合により、層6及び層12はそれぞれ層8及び層10とだけでなく、誘電体層12とも十分に接着していてよい。さらに、特定の実施態様では、層6及び層12のための材料は、層8及び層10で使用される材料と化学的に相溶し得る可能性がある。
【0061】
熱処理可能な(例えば、焼き戻し処理可能な)コーティングでは、場合により、層6及び層12に使用される材料が熱的に安定であることが望ましいことがある。特定の実施例では、前記材料が、熱処理後のコーティングの性能を光学的又は物理的にほとんど低下させないことが望ましい場合もある。
【0062】
以上のことから、有利なことに、「バリア2」層6及び12はNb、Zr、Ti、Cr及び/又はNbを含んでいてよいことが分かった。例えば、層6及び/又は層12は、NbZr、Zr、TiCr及び/又はTiNbを含んでいてよい。特定の実施態様例では、前記材料は、焼きなまし処理後のコーティング及び/又は熱処理可能なコーティングに良好な腐食特性及び耐薬品性を付与する。特定の実施態様例では、コーティングを焼きなまし処理する場合は、TiCrを「バリア2」として使用してよい。他の実施態様例では、コーティングを熱処理する場合は、Zr、NbZr及び/又はTiNbを層6及び/又は層12に使用してもよい。
【0063】
さらに
図6の実施態様についていえば、Ni含有合金は、銀を含む層9に隣接して使用してよい。特定の実施態様例では、銀を含む層に最も近いバリア層である「バリア1」(層8及び層10)は、Niからなっていてもよく、或いはそれらを包含していてもよい。層8及び層10はまた、Cr、Mo及び/又はTiのうち1種以上を包含してもよい。特定の実施態様例では、NiCrMo、NiCr及び/又はNiTiを層8及び層10に使用してもよい。有利なことに、銀をベースとする層に近い又はそれに隣接する層8及び層10に前記材料を使用することで、Agを含む層との更に良好な接着性及び化学的相溶性が得られることが分かった。特定の実施態様例では、Tiは、単独では強力な耐食性を付与できないが、Niと合金化すると合金の電位が貴の(すなわち正の)方向に変わるので、Agにとって更に良好な保護を付与する可能性がある。特定の実施例では、熱処理可能な(例えば、倍強化された及び/又は熱強化可能な)NiTiは、特に耐久性及び光学特性に関して、改善された性能を付与する可能性がある。
【0064】
さらに、特定の実施態様例では、層8及び層10における前記材料は改善されたAg分散をもたらす可能性もある。Agの更に良好な構造上の特性を付与することで、分散等の光学特性を更に向上させるのに役立つ可能性もあると考えられる。さらに現在では、場合により、NiTiOxを含む層をAgを含む層に隣接して供給することで、凝集や早期のAgフィルム融合を軽減する可能性もあるとも考えられる。
【0065】
図7は
図6を基にしている。
図7において、コーティング50'は、NbZr、Zr、TiCr及び/又はTiNbを含む層6及び/又は層12と、Niを包含するバリア層から構成される層8及び/又は層10と、を包含する。
【0066】
図8もまた
図6を基にしており、代表的な実施態様例を示している。
図8において、コーティング50"は、窒化ケイ素をベースとする誘電体層3(任意の誘電体層5は含まれていない)と、NbZrを含む第1「バリア2」層6と、C22を含む第1「バリア1」層8と、銀をベースとするIR反射層9と、C22を含む第2「バリア1」層10と、NbZrを含む第2「バリア2」層12と、場合により保護オーバーコートとしても役立つ可能性のある、窒化ケイ素を含む誘電体層13と、を備えている。ただし、他の実施態様例では、独立した保護オーバーコート層16を供給してもよい。特定の実施態様例では、層16は、ジルコニウムをベースとするものであってよく、また、ジルコニウム酸化物及び/又はその合金からなっていてもよく、或いはそれらを包含していてもよい。層16はさらにAl、Ti及び/又はMoを包含してもよい。
【0067】
図9は
図6の実施態様と同様であるが、
図9は二重銀コーティング60を対象としている。
図9は、ガラス基板1と、誘電体層3及び/又は誘電体層5と、第1「バリア2」層6と、第1「バリア1」層8と、Agを含む第1IR反射層9と、第2「バリア1」層10と、第2「バリア2」層12と、第3「バリア1」層18と、銀を含む第2IR反射層19と、第4「バリア1」層20と、第4「バリア2」層22と、誘電体層13と、任意のオーバーコート層16と、を包含する。
図9において、「バリア1」層8、「バリア1」層10、「バリア1」層18及び/又は「バリア1」層20は、「バリア1」層8及び/又は「バリア1」層10に関して本明細書で説明したどの材料からなっていてもよく、或いはそれらを包含していてもよい。ただし、特定の実施例では、バリア層18は、バリア層8及びバリア層10とは別の材料からなっていてもよく、或いはバリア層8及びバリア層10とは別の材料を包含していてもよい。「バリア2」層6、「バリア2」層12及び「バリア2」層22は、「バリア2」層6及び/又は「バリア2」層12に関して本明細書で説明したどの材料からなっていてもよく、或いはそれらを包含していてもよい。誘電体層3、誘電体層5及び/又は誘電体層13のうちの一部若しくはそれら全てが別の実施態様例に従って含まれていてもよく、又はどの前記誘電体層も別の実施態様例に従って含まれていなくてよい。誘電体層3、誘電体層5及び誘電体層13は、窒化ケイ素、酸化ケイ素、オキシ窒化ケイ素、酸化スズ、酸化チタン及び/又は任意の好適な誘電材料からなっていてもよく、或いはそれらを包含していてもよい。他の実施態様例では、独立した保護オーバーコート層16を供給してもよい。特定の実施態様例では、層16は、ジルコニウムをベースとしてもよく、また、ジルコニウム酸化物及び/又はその合金からなっていてもよく、或いはそれらを包含していてもよく、場合によりAl、Ti及び/又はMoを更に包含してもよい。他の実施例では、他の誘電体層をコーティング中の別の場所に供給してもよい。
【0068】
図10はコーティング50'''を示しており、これは
図6に示すコーティング50と同様である。ただし、コーティング50'''はさらに誘電体層14及び/又は誘電体層15を包含している。特定の実施態様例では、前記誘電体層は、銀をベースとする層9よりも下にある「バリア1」と「バリア2」の間に供給してよく、また、銀をベースとする層9よりも上にある「バリア2」と「バリア1」の間に供給してもよい。
図10の特定の実施態様例では、誘電体層で挟持された「バリア2」層6及び「バリア2」層12はさらに、当該層及び/又はコーティング全体の化学的及び/又は力学的な耐久性を改善する可能性もある。さらに、誘電体層14及び/又は誘電体層15をコーティングに包含することで、有利なことに、銀をベースとする層を腐食及び/又は引っ掻き傷からさらに保護する可能性もある。特定の実施態様例では、前記層14及び/又は層15は、窒化ケイ素、酸化ケイ素、オキシ窒化ケイ素、酸化チタン、酸化スズ及び/又は任意の好適な誘電材料を含んでいてよい。さらに、特定の実施態様例では、前記層14及び/又は層15は高密度であってよい。
【0069】
図11はコーティング60'を示しており、これは
図9に示すコーティング60と同様である。ただし、コーティング60'は、誘電体層14'及び/又は誘電体層15'を更に包含している。これらの層は前述の層14及び層15と同様である。また、前記層14'及び/又は前記層15'はそれぞれ、ガラス基板に最も近い「バリア2」層とガラス基板から最も遠い「バリア2」層に挟持されている。
図11の実施態様では、層6及び層22はそれぞれ、誘電体層3及び/又は誘電体層5と誘電体層14'及び誘電体層15'と誘電体層13に挟持されている。
【0070】
図12及び
図13は、本発明の実施態様例による被覆物品の断面図である。
図12において、被覆物品は、ガラス基板1(例えば、透明な、緑色の、ブロンズ色の又は青緑色の、厚さ1.0〜10.0mm、より好ましくは厚さ約1.0mm〜6.0mmのガラス基板)と、前記基板に直接的に又は間接的に供給された多層コーティング75(又は層システム)と、を包含する。
図12は、誘電体層3及び/又は誘電体層5と、バリア層7及び/又はバリア層8と、銀をベースとする層9と、バリア10'と、バリア層10"と、バリア層24と、に加えて、別の実施態様例によればオーバーコート及び/又はトップコートとして役立つ可能性がある誘電体素13と、を包含する。誘電体層3、誘電体層5及び誘電体層13は、窒化ケイ素、酸化ケイ素、オキシ窒化ケイ素、酸化スズ、酸化チタン及び/又は任意の好適な誘電材料からなっていてもよく、或いはそれらを包含していてもよい。他の実施例では、他の誘電体層をコーティング中の別の場所に供給してもよい。他の実施態様例では、独立した保護オーバーコート層16を供給してもよい。特定の実施態様例では、層16は、ジルコニウムをベースとしてもよく、ジルコニウム酸化物及び/又はその合金からなっていてもよく、或いはそれらを包含していてもよく、場合によりAl、Ti及び/又はMoを包含してもよい。
【0071】
図12において、バリア層6、バリア層7及び/若しくはバリア層8は、Ni含有三元合金を含む
図1ないし
図2の層7、Ni、Cr、Mo及び/若しくはTiからなる又はそれらを包含する「バリア1」層8及び/又は「バリア1」層10、並びに/又はNb、Zr、Ti、Cr及び/若しくはNbからなる又はそれらを包含する「バリア2」層6及び/又は「バリア2」層12に関して説明した材料からなっていてもよく、或いはそれらを包含していてもよい。一部の実施例では、層6、層7及び層8のうち1層のみを
図12の実施態様に含むこともできる。ただし、他の実施態様では、さらに多くの層が含まれていてもよい。
【0072】
図12は、バリア層10'、バリア層10"及びバリア層16も包含する。特定の実施態様例では、バリア層10'は、Agをベースとする層9と良好に接着するようにNiを含有してよい。特に特定の実施態様例では、前記層10'は、Ni及び/若しくはTi並びに/又はそれらの酸化物(例えば、Ni
xTi
yO
z)からなっていてもよく、或いはそれらを包含していてもよい。層10"は、Ni及び/若しくはCr並びに/又はそれらの酸化物からなっていてもよく、或いはそれらを包含していてもよい。特定の実施態様例では、層10"は、コーティング全体の力学的な耐久性を増強する可能性がある。最終的に、場合により、層24は「酸化物バリア」(BOx)層であってよい。特定の実施態様例では、層24は、Sn、TiCr、TiNb、NbZr、CrZr、TiMo、ZrMo、NbMo、CrMo、WCr、WMo、WZr、WNb、WTi、CoMo、CoCr、CoZr、CoNb及び/又はCoTiの酸化物からなっていてもよく、或いはそれらを包含していてもよい。特定の実施例では、バリア層16を供給することで、コーティングの耐久性が更に改善される可能性がある。
【0073】
図13は、二重IR反射層コーティング85を包含すること以外は、
図12を基にしている。特定の実施態様例では、
図13に示す被覆物品は、二重IR反射層を含む低Eコーティングを有する単枚ガラス窓として使用されてよい。被覆物品は、ガラス基板1(例えば、透明な、緑色の、ブロンズ色の又は青緑色の、厚さ1.0〜10.0mm、より好ましくは厚さ約1.0mm〜6.0mmのガラス基板)と、前記基板に直接的に又は間接的に供給された多層コーティング85(又は層システム)と、を包含する。
図13は、誘電体層3及び/又は誘電体層5と、バリア層6、バリア層7及び/又はバリア層8と、銀をベースとする層9と、バリア10、バリア層11及び/又はバリア層12と、Agをベースとする層19と、バリア層10'と、バリア層10"と、バリア層24と、別の実施態様例によればオーバーコート及び/又はトップコートとして役立つ可能性がある誘電体層13と、を包含する。他の実施態様例では、独立した保護オーバーコート層16を供給してもよい。特定の実施態様例では、層16は、ジルコニウムをベースとしてもよく、ジルコニウム酸化物及び/又はその合金からなっていてもよく、或いはそれらを包含していてもよく、場合によりAl、Ti及び/又はMoを包含してもよい。誘電体層3、誘電体層5及び誘電体層13は、窒化ケイ素、酸化ケイ素、オキシ窒化ケイ素、酸化スズ、酸化チタン及び/又は任意の好適な誘電材料からなっていてもよく、或いはそれらを包含していてもよい。他の実施例では、他の誘電体層をコーティング中の別の場所に供給してもよい。
【0074】
図13において、バリア層6、バリア層7及び/若しくはバリア層8は、Ni含有三元合金を含む
図1ないし
図2の層7、Ni、Cr、Mo及び/若しくはTiからなる或いはそれらを包含する「バリア1」層8及び/又は「バリア1」層10、並びに/又はNb、Zr、Ti、Cr及び/若しくはNbからなる或いはそれらを包含する「バリア2」層6及び/又は「バリア2」層12に関して説明した材料からなっていてもよく、或いはそれらを包含していてもよい。一部の実施例では、層6、層7及び層8のうち1層のみを
図13の実施態様に含むこともできる。ただし、他の実施態様では、さらに多くの層が含まれていてもよい。
【0075】
図13において、バリア層10'、バリア層10"及びバリア層24は、
図12の実施態様における層10'、層10"及び層24に関して本明細書で説明した材料からなっていてもよく、或いはそれらを包含していてもよい。
【0076】
他の実施態様例では、銀をベースとする層の上にあるバリア層材料は、銀をベースとする層よりも下に供給されたバリア層材料と異なっていてもよい。本明細書に記載のバリア層について考えられる組み合わせはいずれも、前記図中に示した層スタック及び本明細書に記載の層スタックのいずれに使用してもよい。
【0077】
特定の実施態様例では、本明細書に記載の二元合金、三元合金、四元合金等はいずれも、単一金属ターゲット及び/又は単一セラミックターゲットからスパッタリングされてもよく、或いは別の実施態様では二種以上の異なるターゲット(金属ターゲット及び/又はセラミックターゲット)から同時にスパッタリングされてもよい。
【0078】
図14は、本発明の実施態様例による被覆物品の断面図である。特定の実施態様例では、
図14に示す被覆物品は、単一機能層を有する単枚ガラス窓として使用されてよい。被覆物品は、ガラス基板1(例えば、透明な、緑色の、ブロンズ色の又は青緑色の、厚さ1.0〜10.0mm、より好ましくは厚さ約1.0mm〜6.0mmのガラス基板)と、前記基板に直接的に又は間接的に供給された多層コーティング100(又は層システム)と、を包含する。
図14は、ガラス基板1と、任意の誘電体層3及び/又は任意の誘電体層5と、NiCrMo系合金(例えば、C22,CB1又はB3)を含む機能層9'と、任意の誘電体層13と、任意のオーバーコート層16と、を包含する。他の層をこのコーティングに包含してもよい。層13は、酸化ケイ素、窒化ケイ素及び/若しくはオキシ窒化ケイ素並びに/又はチタン及び/若しくはスズの酸化物などからなっていてもよく、或いはそれらを包含していてもよい。特定の実施態様例では、層16は、ジルコニウムをベースとしてもよく、ジルコニウム酸化物及び/又はその合金からなっていてもよく、或いはそれらを包含していてもよく、場合によりさらにAl、Ti及び/又はMoを包含してもよい。
【0079】
図15は、
図14の実施態様に基づく実施態様例を示す。
図15はコーティング100'を包含する。
図15において、誘電体層3は窒化ケイ素を含むが、誘電体層5は除外されている。別の実施態様例によれば本明細書に記載のどの誘電体層も除外可能であることに留意する。さらに、他の実施態様例によれば、前記層を分割してもよく、或いは追加の層を挿入してもよい。層9'はコーティングの機能層であり、しかも層9'は
図15の実施態様ではC22を含んでいる。誘電体層13は、前述の通り2層以上の個別の層から構成されていてよく、窒化ケイ素を含んでおり、また、層13'はジルコニウム酸化物を含む。本発明の別の実施態様では、ZrOxを包含する層は保護オーバーコート層として供給してもよく、先に示したもの及び前述のものが挙げられる。しかし、特定の実施態様例では、先に示唆した通り、Si
xN
yを含む層をオーバーコート層として供給してもよい。
【0080】
図16は、
図14の実施態様に基づく追加的な実施態様例を示している。
図16は
図15と同様であるが、
図16はさらにバリア層6'を包含する。バリア層6'は、「バリア2」層に関して
図6〜
図9で説明した材料を含んでいてよい。したがって、層6'は、
図16に示すように、機能層9'に対するバリア層として役立つ可能性があり、NbZrからなっていてもよく、或いはそれを包含していてもよい。他の実施態様例では、層6'は、Nb、Zr、Ti及び/又はCrのうち1種以上からなっていてもよく、或いはそれらを包含していてもよい。
【0081】
本明細書に記載のバリア層は、別の実施態様にしたがって酸化及び/又は窒化されてよい。別の実施態様例によれば、前記層は、酸素及び/若しくは窒素の存在下で堆積されてもよく、並びに/又は後続層の堆積及び/若しくは熱処理のような追加の処理工程中に酸化及び/若しくは窒化されてもよい。
【0082】
さらに、本明細書に記載のNi系三元合金は、四元合金であってもよく、或いは別の実施態様例によれば5種以上の材料を有していてもよい。言い換えれば、特定の実施態様例では「三元合金」と記載されているが、このような合金は3種以上の材料を包含していてもよいことが分かるであろう。
【0083】
さらなる実施態様例では、NiCrからなる若しくはそれらを包含する層及び/又は当該層をスパッタリングするのに使用されるターゲットは、NiCrを20:80、40:60、60:40又は80:20の(重量)比で含んでいてよい。NiMoからなる若しくはそれらを包含する層及び/又は当該層をスパッタリングするのに使用されるターゲットは、NiMoを20:80、40:60、60:40又は80:20の(重量)比で含んでいてよい。NbCrからなる若しくはそれらを包含する層及び/又は当該層をスパッタリングするのに使用されるターゲットは、NbCrを20:80、40:60、60:40又は80:20の(重量)比で含んでいてよい。NbZrからなる若しくはそれらを包含する層及び/又は当該層をスパッタリングするのに使用されるターゲットは、NbZrを20:80、40:60、60:40又は80:20の(重量)比で含んでいてよい。本明細書に記載のバリア層はさらに、Haynes214からなっていてもよく、或いはそれらを包含していてもよい。
【0084】
特定の実施態様例では、
図1〜
図16に示す被覆物品は、表面1及び/又は表面2に低Eコーティングを有する単枚ガラス窓として使用されてよく、低Eコーティングは単一IR反射層のみを包含している。しかし、別の実施態様例では、
図1の被覆物品は追加の層を含んでいてもよい。さらに、本明細書に記載の実施態様例にしたがって製造された被覆物品は、別の実施態様例及び応用例によれば、表面1、表面2、表面3及び/又は表面4上にコーティングを有する断熱ガラスユニット(IGU)に使用されてもよく、表面2及び/若しくは表面3上の中間層に組み込まれた又は前記中間層上に配置された又は前記中間層寄りに配置されたコーティング或いは表面4に暴露されたコーティングを有する一体型積層板に使用されてもよく、表面2及び/若しくは表面3上の中間層寄りに組み込まれたコーティング又は表面4に暴露されたコーティングを有する積層アウトボードを積層したIGUに使用されてもよく、表面3及び/若しくは表面6に暴露された被覆物又は表面4及び/若しくは表面5に組み込まれた被覆物を有する積層インボードを積層したIGUに使用されてもよい。言い換えれば、このコーティングは、一体構造として使用されてもよく、2枚以上の基板を備えたIGユニットに使用されてもよく、或いはガラスユニットに2回以上使用されてもよく、また、別の実施態様例では、ユニットのどの表面に供給されてもよい。また一方、他の実施態様例では、本明細書に記載の被覆物品はIR反射層を何層使用してもよく、他のガラス基板を何枚か組み合わせて積層型ガラスユニット及び/又は断熱ガラスユニットを形成してもよい。別の実施態様例によれば、前記コーティングはIGU、VIG、自動車のガラス及び他の用途と共に使用することも可能である。
【0085】
さらに、本明細書に記載の
図1〜
図16のコーティングは、当該コーティングが外気に直接さらされる用途では、表面1上に使用してもよい。特定の実施態様例では、この用途としては結露防止コーティングを挙げることができる。他の実施態様例では、この用途としては、天窓、自動車の窓及び/若しくは自動車のフロントガラス、IGユニット、VIGユニット並びに/又は冷蔵庫のドア及び/若しくは冷凍庫のドア等を挙げることができる。本明細書に記載の
図1〜16のコーティングはまた、二重IGユニットの表面4又は三重IGユニットの表面6に適用することで窓のU値を改善することも可能である。前記コーティングは、防風ドア等の用途で一体的に使用することも可能である。特定の実施態様例では、本明細書に記載のコーティングが、有利なことに、優れた耐久性及び安定性、低い曇り、そして特定の実施態様例では、平坦で掃除し易い特性であることが証明された。
【0086】
本明細書に記載のコーティングに関する他の実施態様例、特に一体型コーティング用途に関する他の実施態様例には、結露防止コーティングが挙げられる。本明細書に記載のコーティングは、表面1の結露防止用途に使用してよい。これは、コーティングが外部環境下で持ち堪えられるようにすることができる。特定の実施態様例では、ガラス表面が内部領域からの熱をより一層逃がしにくいように、コーティングの半球放射率は低くてよい。これにより、ガラス表面での結露の発生が有効に減少する可能性がある。
【0087】
本明細書に記載のコーティングの別の用途例としては、本明細書に開示されたコーティング例又は材料例を、建物内部に露出しているIGユニットの表面4(例えば、日光から最も遠い表面)に使用することが挙げられる。この場合、コーティングは大気に晒される。場合により、このことがスタック内のAg層に損傷を与える可能性もある。しかし、本明細書に記載のコーティングを使用することによって、改善されたバリア材料及び/又はAg合金を包含するコーティングの耐食性は改善され、力学的及び/又は化学的な耐久性はさらに向上する可能性がある。
【0088】
特定の実施態様例では低Eコーティングに関して説明してきたが、本明細書に記載の様々なバリア層は多種多様なコーティングと共に使用することも可能である。
【0089】
特定の実施態様例では、本明細書に記載の被覆物品(例えば、
図1〜14参照)は熱処理(例えば、焼き戻し処理)してもしなくてもよい。本明細書で使用するとき、「熱処理」及び「熱処理すること」という用語は、ガラスを包含する物品の焼き戻し処理及び/又は倍強化処理が達成されるのに十分な温度まで物品を加熱することを表す。この定義には、例えば、被覆物品をオーブン又は炉内で少なくとも約550℃、より好ましくは少なくとも約580℃、更に好ましくは少なくとも約600℃、一層好ましくは少なくとも約620℃、最も好ましくは少なくとも約650℃において焼き戻し処理及び/又は倍強化処理を行うのに十分な時間加熱することが包含される。これは、特定の実施態様例では、少なくとも約2分間、又は約10分以下であってよい。
【0090】
上述の通り、特定の実施対応例は、ガラス基板で支持された低Eコーティングが包含され得る。この被覆物品は、別のガラス基板若しくは他の基板と一体化してもよく、又はそれらに積層してもよい。被覆物品はまた、断熱ガラス(IG)ユニットに内蔵してもよい。IGユニットは一般に実質上平行に間隔を空けた第1ガラス基板と第2ガラス基板とを備えている。基板の周囲にシールを供給して、基板間の間隙(Ar、Xe及び/又はKr等の不活性ガスで少なくとも部分的に満たされていてよい)を保持する。
【0091】
先に示唆した通り、本明細書に開示した材料例は、低E用途及び/又は結露防止用途に関して使用できる。低Eコーティング及び/又は結露防止コーティングの例は、例えば、出願番号 12/926,714、同12/923,082、同12/662,894、同12/659,196、同12/385,234、同12/385,802、同12/461,792、同12/591,611及び同12/654,594に記載されており、これにより、これらの内容を全て参照として本明細書に組み込む。したがって、例えば特定の実施態様例では、本明細書に記載の1種以上のバリア層材料は、1層以上のNi及び/又はCrを含む層に取って代わってもよく、又はそれらに追加してもよい。特定の実施態様例では、本明細書に開示した1種以上の材料は、機能性IR反射(通常は、銀をベースとする)層に取って代わってもよく、又はそれらに追加してもよい。
【0092】
本明細書に記載の層のうち一部又は全ては、スパッタリング蒸着又は例えばCVDや燃焼堆積等のような任意の他の好適な技法によって配置してよい。
【0093】
本明細書で使用するとき、「上に(ある)」、「によって支持されている」等の用語は、特に明記されていない限り、2つの要素が互いに直接隣り合っていることを表すものではないと解釈すべきである。言い換えると、第1層と第2層の間に層が1つ以上存在していても、第1層は第2層の「上に」ある又は第2層「によって支持されている」ということができる。
【0094】
本発明は、現在最も実用的で好ましい実施形態であると考えられるものについて記載してきたが、本発明は、開示した実施態様に限定されるものではなく、それどころか、特許請求の範囲の主旨及び範囲に包含される様々な変更及び同等の配置を網羅するものであると解されるべきである。