特許第5897730号(P5897730)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5897730
(24)【登録日】2016年3月11日
(45)【発行日】2016年3月30日
(54)【発明の名称】高圧ポンプ
(51)【国際特許分類】
   F02M 59/10 20060101AFI20160317BHJP
   F02M 59/44 20060101ALI20160317BHJP
   F04B 9/04 20060101ALI20160317BHJP
【FI】
   F02M59/10 A
   F02M59/44 J
   F04B9/04 A
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-542761(P2014-542761)
(86)(22)【出願日】2012年11月8日
(65)【公表番号】特表2015-502484(P2015-502484A)
(43)【公表日】2015年1月22日
(86)【国際出願番号】EP2012072105
(87)【国際公開番号】WO2013075949
(87)【国際公開日】20130530
【審査請求日】2014年5月21日
(31)【優先権主張番号】102011086703.1
(32)【優先日】2011年11月21日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】501125231
【氏名又は名称】ローベルト ボッシュ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルナー・ハーグ
(72)【発明者】
【氏名】フリードリッヒ・ベッキング
【審査官】 森藤 淳志
(56)【参考文献】
【文献】 独国特許出願公開第102009029297(DE,A1)
【文献】 特開平05−332222(JP,A)
【文献】 特開2004−218459(JP,A)
【文献】 特開平05−221131(JP,A)
【文献】 特開平05−180116(JP,A)
【文献】 特開平05−141216(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M39/00−71/04
F04B9/00−15/08
F01D1/00−1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の燃料噴射装置用高圧ポンプであって、
前記高圧ポンプ(2)が、燃料(100)で充填されるポンプケース内部空間(6)を備えたポンプケース(4)を有し、
前記ポンプケース(4)内に、ポンプピストン(8)を備えた少なくとも1つのポンプ要素が配置され、
前記ポンプピストン(8)が、タペットボディ(10)とローラ(12)とにより、駆動軸(16)のカム(14)または偏心体で間接的に支持され、
前記タペットボディ(10)が、前記カム(14)または前記偏心体を介して、中心軸線(I)方向に振動運動(Z)で駆動可能であり、
前記中心軸線(I)方向において前記タペットボディ(10)にローラシュー(18)が固定結合され、
前記ローラシュー(18)が、前記ローラ(12)を部分的に受容するための実質的に部分筒状の凹部(20)を有している、
前記高圧ポンプにおいて、
前記ローラシュー(18)が少なくとも1つの潤滑室(22)を有し、前記タペットボディ(10)の前記振動運動(Z)の間に、前記少なくとも1つの潤滑室(22)により、前記ローラ(12)に前記ポンプケース内部空間(6)から燃料(100)が供給され
前記ポンプケース内部空間(6)が前記タペットボディ(10)によりタペット空間(24)とポンプ内部空間(26)とに分割され、
前記タペット空間(24)内に前記ポンプピストン(8)が配置され、
前記ポンプ内部空間(26)内に前記カム(14)または前記偏心体が前記駆動軸(16)とともに配置され、
前記潤滑室(22)が、第1の横断面(52)を備えた少なくとも1つの第1の開口部(28)により、流体を誘導するように前記タペット空間(24)と結合され、
前記潤滑室(22)が、第2の横断面(54)を備えた少なくとも1つの第2の開口部(30)により、流体を誘導するように前記ポンプ内部空間(26)と結合され、
前記少なくとも1つの第1の横断面(52)の全体が第1の全横断面を形成し、
前記少なくとも1つの第2の横断面(54)の全体が第2の全横断面を形成し、
前記第1の全横断面と前記第2の全横断面とが互いに異なっている、
ことを特徴とする高圧ポンプ。
【請求項2】
前記少なくとも1つの潤滑室(22)が前記ローラ(12)の縦延在方向に対し実質的に平行に延在していることを特徴とする、請求項1に記載の高圧ポンプ。
【請求項3】
互いに鏡対称に成形された2つの潤滑室(22)が、前記ローラ(12)に関し互いに対向するように前記ローラシュー(18)内に形成されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の高圧ポンプ。
【請求項4】
前記第1および第2の全横断面は、前記少なくとも1つの潤滑室(22)内に最大で2バールの過圧が生じるように構成されていることを特徴とする、請求項に記載の高圧ポンプ。
【請求項5】
前記第2の全横断面が前記第1の全横断面よりも小さいことを特徴とする、請求項1から4までのいずれか一項に記載の高圧ポンプ。
【請求項6】
前記ローラシュー(18)が、ローラシューボディ(32)とローラシューカバー(34)とを有し、
前記ローラシューボディ(32)と前記ローラシューカバー(34)とが、回転方向および並進方向で互いに固定結合され、
前記ローラシューボディ(32)が前記ポンプピストン(8)と前記ローラ(12)との間に配置され、
前記ローラシューボディ(32)が前記駆動軸(16)側の端面(44)によって画成され、
前記端面(44)と、前記部分円柱状の凹部(20)を画成している側面(42)とが、1つの線(L)に沿って交わり、
前記線(L)が前記側面(42)に対して形成される接線面(T)内にあり、
前記接線面(T)と前記中心軸線(I)とが角度(α)を成し、
前記角度(α)が17゜と25゜の間である、
ことを特徴とする、請求項1から5までのいずれか一項に記載の高圧ポンプ。
【請求項7】
前記潤滑隙間(38)が前記線(L)と前記ローラ(12)との間に形成され、
燃料(100)が前記潤滑隙間(38)に供給される、
ことを特徴とする、請求項に記載の高圧ポンプ。
【請求項8】
前記少なくとも1つの潤滑室(22)が前記ローラシューカバー(34)内に形成されていることを特徴とする、請求項またはに記載の高圧ポンプ。
【請求項9】
前記ローラシューカバー(34)が、前記ローラシューボディ(32)に対向する下面(48)において、前記ローラ(12)の縦延在方向に対し実質的に平行にエッジ(50)を形成し、
前記エッジ(50)は、該エッジ(50)が前記ローラ(12)上の潤滑膜を阻害することなく前記ローラ(12)の汚染を防止するように、前記ローラ(12)から間隔をもって位置していることを特徴とする、請求項からまでのいずれか一項に記載の高圧ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
ディーゼルエンジンでは、燃料が高圧でそれぞれの燃焼室に噴射される。噴射圧は最近では約1600バールないし2000バールであり、将来的には2500バールまで増大される予定である。高圧縮される燃料は今日ではほとんどの場合蓄圧(コモンレール)システムを介して提供される。この蓄圧システムには、高圧ポンプを用いて圧縮された燃料が装入される。高圧ポンプは通常ピストン圧縮機であり、そのポンプピストンはカムにより並進方向に移動する。ほとんどの場合、この種の高圧ポンプには、ポンプピストンとカムまたは偏心体との間にローラシューが配置され、ローラシューはタペット内に配置されている。カムとローラシューとの間にはローラが配置され、ローラはローラシューに設けた部分筒状の凹部内に配置され、作動中にカムを介して転動する。カムは駆動軸に固定結合され、その際駆動軸はディーゼルエンジンの従動軸と直接に連結されている。高圧ポンプの上流側には予搬送ポンプが接続され、予搬送ポンプは燃料を貯留容器から吸い込み、その出力部において圧力をもった体積流を提供し、圧力をもった体積流は、圧縮のためにポンプ要素に供給されるとともに、潤滑の目的で、ポンプを取り囲んでいるポンプケースにも供給される。発生すべき圧力が高いため、高圧ポンプは特にローラがローラシューに接触する接触領域で高い機械的負荷に曝されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
従って、潤滑の目的でローラシューに設けたローラの接触個所への燃料の供給の実施態様を改善した高圧ポンプを提供する必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0003】
上記の必要性は、独立請求項の対象によって充足され得る。本発明の更なる有利な構成は従属項の対象によって明らかになる。
【0004】
本発明の第1構成例によれば、内燃機関の燃料噴射装置用高圧ポンプが提供される。この高圧ポンプは、燃料で充填されるポンプケース内部空間を備えたポンプケースを有し、ポンプケース内に、ポンプピストンを備えた少なくとも1つのポンプ要素が配置されている。ポンプピストンは、タペットボディとローラとによって、間接的に駆動軸のカムまたは偏心体で支持されている。タペットボディは、カムまたは偏心体を介して、中心軸線方向に振動運動で駆動可能である。中心軸線方向においてタペットボディにローラシューが固定結合されている。ローラシューは、ローラを部分的に受容するための実質的に部分筒状の凹部を有している。ローラシューは少なくとも1つの潤滑室を有し、タペットボディの振動運動の間に、少なくとも1つの潤滑室により、ローラにポンプケース内部空間から燃料が供給される。
【0005】
タペットボディの振動運動により、ポンプケースから燃料を補助的に目的に応じてローラに供給することができ、これによってローラシューに設けたローラの接触面に燃料が増量されて潤滑剤として提供される。この場合、燃料供給はタペットボディの運動の間だけ行うことができる。さらに、タペットボディを目的に応じて成形する以外に、たとえば電気操作弁またはポンプのような他の補助構成要素を必要としない。潤滑剤はローラに付着し、接触面相互の相対運動によって、狭くなっている潤滑隙間内へ搬送または引き込むことができる。この場合、潤滑剤または燃料の圧縮によって発生される圧力は、ローラとタペットボディとの間の接触面が互いに約1〜2μm離間する程度の大きさである。燃料供給が増量されることにより、一方では接触面での潤滑を改善させることができる。他方では、接触面に生じる熱をその中により好適に放出させることができ、従っていわゆる「ホットスポット」の発生、すなわち潤滑剤の局所的過熱を防止することができる。このように、タペットボディ内に形成される潤滑室と関連してローラシューを構成することにより、技術水準から公知の高圧ポンプに比べて潤滑剤の供給が増量されているので、ローラとローラシューとの間の接触箇所の荷重もしくは面圧をも増大させることができるように高圧ポンプは供給されている。
【0006】
本発明の更なる構成例によれば、少なくとも1つの潤滑室はローラの縦延在方向に対し実質的に平行に延在している。
【0007】
これにより、ローラにその全長にわたって燃料が供給されるよう保証できるので有利である。これは、たとえば、潤滑室からローラのほうへ向いているスリット状の開口部によって行うことができる。特に、スリット状の開口部またはスリットは、潤滑剤が供給後にローラ上に均一な厚さの潤滑膜を形成するように構成されていてよい。もちろん、潤滑室のスリットは、該スリットを通じて供給される燃料が、ローラによって、狭くなっている潤滑隙間内へ搬送されてローラシューに設けたローラの接触面に到達するように配置されている。
【0008】
本発明の更なる構成例によれば、互いに鏡対称に成形された2つの潤滑室が、ローラに関し互いに対向するようにローラシュー内に形成されている。
【0009】
ローラシュー内に潤滑室を鏡対称に成形することにより、タペットボディをローラシューとともにポンプケース内へ組み込む組み込み方向が設定されない。これにより、高圧ポンプを組み立てる際の取り付けミスが回避される。
【0010】
本発明の更なる構成例によれば、高圧ポンプのポンプケース内部空間はタペットボディによりタペット空間とポンプ内部空間とに分割されている。タペット空間内にはポンプピストンが配置され、ポンプ内部空間内にはカムまたは偏心体が駆動軸とともに配置されている。潤滑室は、第1の横断面を備えた少なくとも1つの第1の開口部により、流体を誘導するようにタペット空間と結合されている。潤滑室は、第2の横断面を備えた少なくとも1つの第2の開口部により、流体を誘導するようにポンプ内部空間と結合されている。前記第1の横断面の全体は第1の全横断面を形成している。前記第2の横断面の全体は第2の全横断面を形成している。第1の全横断面と第2の全横断面とは互いに異なっている。
【0011】
潤滑室により互いに結合されている第1および第2の開口部により、タペットボディの振動運動の際に、ポンプ内部空間とタペット空間との間で燃料の交換を行うことができるようになっていてよい。従って、タペット空間内にある燃料の圧縮が少なくとも十分に回避される。第1の開口部の第1の横断面の第1の全横断面が第2の開口部の第2の横断面の第2の全横断面と異なっていることにより、より小さな全横断面を備えた開口部は絞りとして作用する。もちろん、ローラボディを、それぞれ第1の開口部および第2の開口部のみを有するように構成してもよい。絞りによって潤滑室内に圧力を生成させることができる。この潤滑室内に生成された圧力は、燃料を潤滑室のスリット状の開口部またはスリットを通じて加圧状態でローラに供給するために使用することができる。第1および第2の開口部はたとえば穿孔部として構成されていてよい。通常は、潤滑室は、第1の開口部と第2の開口部との間で循環する燃料が潤滑室によってローラ側へ転向されるように構成されている。この場合潤滑室は、燃料がローラに対し垂直にまたは角度を成して誘導されるように構成されていてよい。また、タペットボディの上昇運動または下降運動のいずれかの際に燃料がローラに供給されるように、タペットボディの1つの位置により小さな全横断面を選定してもよい。
【0012】
本発明の更なる構成例によれば、第1および第2の全横断面は、少なくとも1つの潤滑室内に最大で2バールの過圧が生じるように構成されている。
【0013】
比較的低い圧力により、実際には無視できるような小さな抵抗のみが振動運動するタペットボディに対し反作用するようになる。しかしながら、この圧力は、ローラとローラシューとの間の接触面への十分な燃料供給もしくは潤滑剤供給を保証するためには十分である。
【0014】
本発明の更なる構成例によれば、第2の全横断面は第1の全横断面よりも小さい。
【0015】
これにより、潤滑室を通じて提供される燃料は、タペットボディの上昇運動の際に、すなわちポンプ要素に供給された燃料がポンプピストンにより圧縮される場合に、ローラに供給されるようになる。従って、ローラに大きな力が作用したときに、ローラシューに設けたローラの接触面に燃料が供給されるので有利である。
【0016】
本発明の更なる構成例によれば、高圧ポンプのローラシューは、ローラシューボディとローラシューカバーとを有している。ローラシューボディとローラシューカバーとは、回転方向および並進方向で互いに固定結合され、ローラシューボディはポンプピストンとローラとの間に配置されている。ローラシューボディは駆動軸側の端面によって画成されている。この端面と、部分円柱状の凹部を画成している側面とは、1つの線に沿って交わっている。この線は前記側面に対する接線面内にあり、接線面と中心軸線とは角度を成している。この角度は17゜と25゜の間である。
【0017】
この小さな角度により、該角度が部分的に90゜に達している技術水準から公知のローラシューボディに比べてローラシューボディを薄く実施することが可能である。これに伴ってローラシューに必要な材料が減るため、移動質量をも減少させることができる。質量の減少は、高圧ポンプの疲労強度を促進させる。また、前記角度が17゜ないし25゜という小さな角度であるために部分筒状の凹部へのアクセスが良好になるので、部分筒状の凹部の表面を滑り層および/または耐摩耗層としての炭素または炭素化合物を用いてプラズマコーティングすることができ、有利である。また、ローラシューボディとローラシューカバーとは異なる素材から形成されていてもよい。特にローラシューカバーは、ローラシューボディよりも比重が小さな材料から製造されていてよい。
【0018】
本発明の更なる構成例によれば、潤滑隙間が前記線とローラとの間に形成されている。燃料はこの潤滑隙間に供給される。
【0019】
通常は、この潤滑隙間は約20μmの幅である。ローラによってポンプ内部空間から潤滑隙間内に引き込まれる燃料膜は約3〜6μmの厚さである。従って潤滑隙間には約14〜17μmの空間が残り、この空間の中に補助燃料を装入することができる。従って、潤滑室を通じて潤滑隙間に装入される燃料量は、燃料膜としてローラを通じて一緒に引き込まれる燃料量よりも多くできる。
【0020】
本発明の更なる構成例によれば、潤滑室はローラシューカバー内に形成されている。
【0021】
有利には、潤滑室は機械的に略無負荷のローラシューカバー内に形成されている。従って、ローラシューボディの作製を潤滑室の作製とは切り離して行うことができる。また、潤滑室は、たとえばローラシューカバーをローラシューボディに継ぎ合わせた後に、ローラシューカバーとローラシューボディとの協働作用によってはじめて形成させることができる。この場合、たとえばローラシューカバーのローラシューボディ側表面は連続的に形成されていてよい。この場合、潤滑室のスリット状の開口部はこの表面に形成されていてよい。さらに、ローラシューボディの、ローラシューカバーの前記表面の側にある下面は、平坦に形成されていてよい。ローラシューボディの下面をこのように構成することにより、ローラシューボディを価格的に好ましく製造できる。
【0022】
本発明の更なる構成例によれば、ローラシューカバーは、ローラシューボディに対向する下面において、ローラの縦延在方向に対し実質的に平行にエッジを形成している。このエッジは、該エッジがローラ上の潤滑膜を阻害することなくローラの汚染を防止するように、ローラから間隔をもって位置している。
【0023】
前記エッジは、有利にはローラから約10μmの間隔で位置している。このようにすると、ローラ上の3〜6μm厚の潤滑膜はエッジによって阻害されない。しかしながら、潤滑膜によって一緒に引張られる粒子はローラから除去することができ、その結果潤滑膜が潤滑隙間内へ、特にローラとローラシューとの接触面に引き込まれることがない。
【0024】
本発明の更なる構成例によれば、ローラシューカバーはローラシューボディにねじ結合部、締め付け結合部またはロック結合部により結合されている。
【0025】
本発明の更なる構成例によれば、高圧ポンプのローラシューカバーは横断面にてローラと少なくとも部分的に後方から係合している。
【0026】
ローラシューカバーのこのような構成により、ローラシューカバーは組み立ての際にローラ用の紛失阻止部として機能する。
【0027】
本発明の更なる構成例によれば、高圧ポンプのローラシューカバーは一体に形成されている。
【0028】
たとえば、ローラシューカバーは射出成形部品として形成されていてよい。もちろん、ローラシューカバーを複数の部品から形成してもよい。しかし、これは一体に形成されたローラシューカバーに比べて製造コストおよび組み立てコストがより高くなる場合もある。
【0029】
本発明の更なる構成例によれば、ローラシューカバーはプラスチックから形成されている。
【0030】
もちろん、この目的のためには、一方ではディーゼル燃料に対し抵抗力があり、他方では−40℃ないし約+150℃の温度に対して安定性がある高価値のプラスチックのみが使用される。
【0031】
本発明の更なる構成例によれば、高圧ポンプのローラシューとタペットボディとは一体に形成されている。
【0032】
なお、発明に対する思想は高圧ポンプとの関連で説明した。この場合、本発明の他の構成にもつながるように、説明した個々の構成要件を種々の態様で互いに組み合わせることができることは当業者にとって明白である。
【0033】
本発明のいくつかの実施形態を添付の図を用いて説明する。図は概略的なものであり、縮尺どおりのものではない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】ローラシュー内に潤滑室を組み込んだ高圧ポンプの縦断面図である。
図2図1から既知の高圧ポンプの一部分の縦断面図である。
図3】ローラシューボディの横断面図である。
図4】ローラシューカバーの横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1は内燃機関の燃料噴射装置用の高圧ポンプ2を示し、高圧ポンプ2は、燃料100で充填されるポンプケース内部空間6を備えたポンプケース4を有している。ポンプケース4内には、ポンプピストン8を備えた、ここには図示していない少なくとも1つのポンプ要素が配置されている。ポンプピストン8は、駆動軸16のカム14に設けたローラ12を介してタペットボディ10で支持されている。矢印方向Aでの駆動軸16の回転により、タペットボディ10もポンプピストン8も中心軸線Iに沿って振動運動Zを行なう。タペットボディ10はローラシュー18を有している。この場合、ローラシュー18は部分筒状の凹部20を有し、部分筒状の凹部はここでは穿孔部として形成されている。ローラシュー18内には、互いに対向し合い且つ互いに鏡対称に形成された2つの潤滑室22が成形されている。タペットボディ10はポンプケース内部空間6をタペット空間24とポンプ内部空間26とに分割している。この場合、タペット空間24内にはポンプピストン8があり、ポンプ内部空間26内には、カム14を備えた駆動軸16がある。タペット空間24は流体を誘導するようにポンプ内部空間26と結合されている。このため潤滑室22は、燃料を誘導するように、ローラシュー18内に形成された第1の開口部28を通じてタペット空間24と結合されている。さらに潤滑室22は、燃料を誘導するように、ローラシュー18内に形成された第2の開口部30を用いてポンプ内部空間26と結合されている。タペット空間24もポンプ内部空間26も燃料100で充填されている。ローラシュー18が振動運動Zを行なっている間、燃料100は第1の開口部28を通じて且つ潤滑室22と第2の開口部30とを介してタペット空間24からポンプ内部空間26へ誘導され、および、その逆へ誘導される。これにより、振動運動Zの間にタペット空間24とポンプ内部空間26との間に実質的に圧力差がないよう保証される。ローシュー18は、ローラ12とポンプピストン8との間に配置されるローラシューボディ32と、ポンプ内部空間26のほうへ向いているローラシューカバー34とを含んでいる。潤滑室22は、プラスチックから作製されたローラシューカバー34内に形成されている。本実施例では、潤滑室22は、平坦な下面として形成された、ローラシューボディ32のローラシューカバー34側端面44と、ローラシューカバー34の、連続的なローラシューボディ32側上面46とによって画成されている。さらに、平坦な下面44と連続的な上面46とは、ローラシューカバー34内に形成されてローラ12のほうへ向いている、スリット36の形態のスリット状開口部を形成している。スリット36を介して燃料100はローラ12とローラシューボディ32との間に形成された潤滑隙間38に供給可能である。ローラシュー18が振動運動Zを行なっている間の潤滑隙間38の幅は約20μmである。この潤滑隙間38は連続的に狭くなって、ローラ12とローラシューボディ32との間の接触面40を形成している。ローラ12とローラシューボディ32とは作動中に接触面40の領域で互いに1〜2μmの間隔である。
【0036】
図1から既知の高圧ポンプ2の一部分を示している図2でよりよくわかるように、ローラシューボディ32の下面44と、部分円柱状の凹部20を画成している側面42とは、線Lに沿って交わっている。線Lは、側面42に対して形成された接線面T内にある。接線面Tと中心軸線Iとは角度αを成している。角度αは17゜と25゜の間である。ローラシューボディ32の下面44とローラシューカバー34との間に形成されているローラ12側スリット36は、図を見やすくするために破線で示してある。スリット36は、ローラシューボディ32とローラシューカバー34との間の最も狭い個所を形成している。潤滑室22はこのスリット36によって画成される。ローラシューカバー34の上面46に対向して下面48がある。下面48は、ローラ12が部分的に受容されている部分円柱状の凹部49との交線において、エッジ50を形成している。エッジ50は例えば作動中にローラ12から約10μmの間隔があり、作動中に回転しているローラ12に付着する潤滑膜から粒子を除去するのに用いる。
【0037】
図3はローラシューボディ32の横断面図である。ここでは見えない潤滑室は、燃料を誘導するように、2つの第1の開口部28によりタペット空間24と結合されている。両第1の開口部28はそれぞれ第1の横断面52を有している。両第1の横断面52の全体は第1の全横断面を生じさせている。
【0038】
図4はローラシューカバー34の横断面図である。なお、ここに図示していない潤滑室は、燃料を誘導するように、第2の開口部30によりポンプ内部空間と結合され、その際第2の開口部30は、第2の全横断面でもある第2の横断面54を有している。図3の第1の全横断面と図4の第2の全横断面とを直接比較すれば、第1の全横断面が第2の全横断面よりも大きいことは明らかである。
【0039】
図1ないし図4を用いて、本高圧ポンプ2の機能態様について説明する。タペットボディ10が駆動軸16の方向に下降運動している間、燃料100は、ポンプ内部空間26から、第2の開口部30と潤滑室22と両第1の開口部28とを通じてタペット空間24内へ到達する。もちろん、高圧ポンプ2が停止している間も、圧力平衡によりタペット空間24は燃料100で充填される。タペットボディ10がポンプピストン8の方向へ上昇運動している間、燃料100は、タペット空間24から、両第1の開口部28と潤滑室22と第2の開口部30とを介してポンプ内部空間26内へ到達する。しかし第1の全横断面が第2の全横断面よりも大きいので、第2の全横断面は、もしくは、本実施形態では第2の開口部30の横断面は、1つの絞りである。第1および第2の全横断面のサイズは、タペットボディ10の上昇運動の間、潤滑室22内に最大で2バールまでの圧力が形成されるように選定されている。特に図2において、燃料100がいかにしてタペット空間24から潤滑室22に供給され、さらにスリット36に供給されるかは矢印Fにより明らかであり、この場合燃料100は、当初は中心軸線Iに対し実質的に平行にローラ12のほうへ誘導されて潤滑室22により転向される。回転するローラ12には、ポンプ内部空間26から来る燃料100から成る潤滑膜が約3〜6μmの厚さで付着する。潤滑隙間38が約20μmであるので、タペット空間24から来る燃料100は残りの約14〜17μmの潤滑隙間に供給される。従って、タペット空間24から潤滑隙間38に供給される燃料量は、ポンプ内部空間26からローラ12に付着する潤滑量よりも多い。タペット空間24から来る燃料100はローラ12によって潤滑隙間38で受容され、ローラ12とローラシューボディ32との間の接触面40に供給される。この場合、接触面40の領域におけるローラ12とローラシューボディ32との間の作動中の間隔は、約1〜2μmである。17゜ないし25゜の角度αにより、部分筒状の凹部20の側面42を炭素または炭素化合物のプラズマでコーティングすることは簡単に可能である。ローラシューカバー34に形成されたエッジ50がローラ12からわずかに約10μmの間隔で位置しているにすぎないので、ポンプ内部空間26から来てローラ12に付着する潤滑膜(約3〜6μmの厚さである)は阻害されない。タペット空間24からの燃料100を潤滑室22を用いて付加的に供給することにより、接触面40での潤滑が改善される。特に、いわゆる「ホットスポット」の形成が回避され、すなわち接触面40での燃料100の点状過熱が回避される。これにより総じて高圧ポンプ2の寿命が長くなる。
【符号の説明】
【0040】
2 高圧ポンプ
4 ポンプケース
6 ポンプケース内部空間
8 ポンプピストン
10 タペットボディ
12 ローラ
14 カム
16 駆動軸
18 ローラシュー
20 部分筒状の凹部
22 潤滑室
24 タペット空間
26 ポンプ内部空間
28 第1の開口部
30 第2の開口部
32 ローラシューボディ
34 ローラシューカバー
38 潤滑隙間
42 部分筒状の凹部の側面
44 ローラシューボディの端面
48 ローラシューカバーの下面
50 エッジ
52 第1の横断面
54 第2の横断面
100 燃料
I 中心軸線
L ローラシューボディの下面と部分筒状の凹部を画成している側面とが交わる線
T 接線面
Z タペットボディの振動運動
図1
図2
図3
図4