特許第5897906号(P5897906)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5897906高分子アントラキノン系色素、これを用いた眼用レンズ材料及び眼用レンズ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5897906
(24)【登録日】2016年3月11日
(45)【発行日】2016年4月6日
(54)【発明の名称】高分子アントラキノン系色素、これを用いた眼用レンズ材料及び眼用レンズ
(51)【国際特許分類】
   C09B 69/10 20060101AFI20160324BHJP
   C09B 1/32 20060101ALI20160324BHJP
   C09B 1/514 20060101ALI20160324BHJP
   G02C 7/00 20060101ALI20160324BHJP
   G02C 7/04 20060101ALI20160324BHJP
   A61F 2/14 20060101ALI20160324BHJP
   A61F 2/16 20060101ALI20160324BHJP
【FI】
   C09B69/10 B
   C09B1/32
   C09B1/514
   G02C7/00
   G02C7/04
   A61F2/14
   A61F2/16
【請求項の数】5
【全頁数】46
(21)【出願番号】特願2011-546095(P2011-546095)
(86)(22)【出願日】2010年12月10日
(86)【国際出願番号】JP2010072289
(87)【国際公開番号】WO2011074501
(87)【国際公開日】20110623
【審査請求日】2013年12月3日
(31)【優先権主張番号】特願2009-286985(P2009-286985)
(32)【優先日】2009年12月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000138082
【氏名又は名称】株式会社メニコン
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(72)【発明者】
【氏名】須藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 剛士
(72)【発明者】
【氏名】大木 敏雄
【審査官】 松本 淳
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−520352(JP,A)
【文献】 特開2008−224775(JP,A)
【文献】 特表2007−503509(JP,A)
【文献】 特表2004−506061(JP,A)
【文献】 特開2003−201410(JP,A)
【文献】 特開2000−162429(JP,A)
【文献】 特開2000−044822(JP,A)
【文献】 特開平11−202268(JP,A)
【文献】 特開平09−272814(JP,A)
【文献】 特開平09−118725(JP,A)
【文献】 特開平07−003180(JP,A)
【文献】 特開平03−072576(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/124048(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/108349(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/086444(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/016617(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B 1/00−69/10
G02C 1/00−13/00
A61F 2/00
A61F 2/02− 2/80
A61F 3/00− 4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるアントラキノン系色素と、ヒドロシリル基を含むポリジメチルシロキサン構造を有する化合物との付加体であり、かつ不飽和重合性基を有さない眼用レンズ着色用の高分子アントラキノン系色素。
【化1】
(式(1)中、
及びXは、それぞれ独立して、
【化2】
で表される基である。
及びRは、それぞれ独立して、−NH、−OH、−SOH、−NO、−F、−Cl、−Br、−I、C1〜C4のアルキル基、C1〜C4のアルキルアミノ基、C1〜C4のアルコキシ基、C1〜C4のアルキルアミド基、
【化3】
で表される基である。
は、それぞれ独立して、
【化4】
で表される基である。
、R及びRは、それぞれ独立して、−H又は−CHである。
及びRは、それぞれ独立して、−H、−NH、−OH、−SOH、−NO、−F、−Cl、−Br、−I、C1〜C4のアルキル基、C1〜C4のアルキルアミノ基、C1〜C4のアルコキシ基又はC1〜C4のアルキルアミド基である。
aは1である。bは0〜1の整数である。cは0〜3の整数である。dは0〜4の整数である。但し、a、b、c及びdの関係は、a+c≦4、b+d≦4となる。eは0〜4の整数である。fは0である。g及びiはそれぞれ独立して、0〜5の整数である。h及びjはそれぞれ独立して、0〜4の整数である。)
【請求項2】
請求項1に記載の高分子アントラキノン系色素と、不飽和二重結合を有する眼用レンズ用モノマーとを含む組成物から形成され、
上記眼用レンズ用モノマーを単量体単位として含む重合体を含有する眼用レンズ材料。
【請求項3】
上記眼用レンズ用モノマーが、ポリジメチルシロキサン構造を有する請求項2に記載の眼用レンズ材料。
【請求項4】
上記眼用レンズ用モノマーが、(メタ)アクリル酸誘導体、スチレン誘導体、アリル基含有化合物、ビニル基含有化合物及びエキソ−メチレン基含有化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項2又は請求項3に記載の眼用レンズ材料。
【請求項5】
請求項1に記載の高分子アントラキノン系色素で着色されている眼用レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンタクトレンズ、人工角膜等の眼用レンズを着色するために好適に用いられる眼用レンズ用のアントラキノン系色素及びこれを用いた眼用レンズ材料、眼用レンズの製造方法並びに眼用レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、各種の物品をその材料段階において着色するために、重合性色素等、着色される材料との結合性が高い色素の開発が行われている。特に、コンタクトレンズや眼内レンズ等の眼用レンズにおいては、その材料成形段階において、所定の眼用レンズ用のモノマー成分を重合性色素と共重合させること、又は重合性色素から得られる高分子色素を所定の眼用レンズ用のモノマー成分等と均一に混合させることによって眼用レンズ材料との結合性を高め、着色させる方法が効果的である。このように着色された眼用レンズ材料を用いて製造される眼用レンズは、均一に着色され、色素の溶出等に起因する脱色や変色が少なく、また光や化学薬剤に対する耐久性にも優れたものとなる。
【0003】
そこで、眼用レンズをその材料段階において着色するために、重合性又は非重合性の高分子色素及びこれを用いる着色方法が具体的に開発されてきている。例えば、特開平8−194191号公報には、コンタクトレンズ基材のモノマー又はポリマー中の水酸基等と共有結合を形成しうる反応性色素が開示されている。この方法は、この反応性色素を含有したコンタクトレンズ材料を、カチオン化合物を含む水溶液中に浸漬することによって、反応性色素とレンズ基材との化学結合を生じさせ、この反応性色素をコンタクトレンズ基材に固着させるものである。しかしながらこの方法では、コンタクトレンズ基材中の水酸基等の官能基をもつモノマーの配合量と反応性色素の配合量とによって着色度合いが異なり、そのため色素の耐溶出性がコンタクトレンズ組成に左右されるという不都合が存在する。
【0004】
また、特表2007−505171号公報、特開2003−84242号公報等には、眼用レンズを黄色に着色するための高分子色素として、黄色色素部分及び重合性基を備えるポリジメチルシロキサンの合成方法が開示されている。しかしながら、これらの高分子色素の合成方法においては、黄色色素しか調製できないため、当該色素の適用が限定される。これは色素本体にアゾ系色素を用いているためと考えられる。従って、当該方法によって青〜緑のような長波長領域に吸収を持つ高分子色素の導入を検討した場合にはモノマーである化合物に付加させた時点で分子骨格が大きくなり、共重合させるモノマーへの溶解性が低下し、共重合させるモノマーとの共重合が適度に進行しないといった不都合が生じうる。また、この高分子色素によれば、アゾ系色素の構造上、色素自体と色素による着色物との色相に差異が生じる等といった不都合が生じることが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−194191号公報
【特許文献2】特表2007−505171号公報
【特許文献3】特開2003−84242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこれらの不都合を鑑みてなされたものであり、眼用レンズ用モノマーへの溶解性が高く、眼用レンズからの耐溶出性に優れ、着色の前後で色相の差異が小さい、赤〜紫〜青〜緑色の色相を有するアントラキノン系色素及びこれを用いた眼用レンズ材料、眼用レンズ材料の製造方法並びに眼用レンズの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた発明は、
下記一般式(1)で示される眼用レンズ着色用のアントラキノン系色素である。
【0008】
【化1】
(式(1)中、
及びXは、それぞれ独立して、
【化2】
で表される基である。
及びRは、それぞれ独立して、−NH、−OH、−SOH、−NO、−F、−Cl、−Br、−I、C1〜C4の低級アルキル基、C1〜C4の低級アルキルアミノ基、C1〜C4の低級アルコキシ基、C1〜C4の低級アルキルアミド基、
【化3】
で表される基である。
は、それぞれ独立して、
【化4】
で表される基である。
、R及びRは、それぞれ独立して−H又は−CHである。
及びRは、それぞれ独立して、−H、−NH、−OH、−SOH、−NO、−F、−Cl、−Br、−I、C1〜C4の低級アルキル基、C1〜C4の低級アルキルアミノ基、C1〜C4の低級アルコキシ基又はC1〜C4の低級アルキルアミド基である。
aは1である。bは0〜1の整数である。cは0〜3の整数である。dは0〜4の整数である。但し、a、b、c及びdの関係は、a+c≦4、b+d≦4となる。eは0〜4の整数である。fは0である。g及びiはそれぞれ独立して、0〜5の整数である。h及びjはそれぞれ独立して、0〜4の整数である。)
【0009】
当該アントラキノン系色素によれば、この色素自体が所定の重合性基を有するため、不飽和二重結合を有するモノマーと化学的に結合することができる。従って、当該アントラキノン系色素によれば、得られる着色レンズを煮沸したり、水や有機溶媒中に浸漬したりしても、当該色素がレンズから溶出せず、いわゆるレンズの色抜けを防ぐことができる。また、当該アントラキノン系色素によれば、このように不飽和二重結合を有するモノマーと化学的に結合することができるため、着色された眼用レンズが劣化しにくく、着色された眼用レンズの耐久性を高めることができる。
【0010】
また、当該アントラキノン系色素は、色素の発色団の外側に所定の重合性基を有しているため、重合等の付加反応によっても色素骨格の変化が無い。従って、当該色素は、この色素自体と、この色素によって着色された眼用レンズとの色相の差異が小さいため、色素調整等、着色作業が容易化される。更には、当該アントラキノン系色素によれば、置換基を選択することで、赤〜紫〜青〜緑色の色相に対応する色素を提供することができる。
【0011】
上記課題を解決するためになされた別の発明は、上記アントラキノン系色素と、眼用レンズ用モノマー(I)とが共有結合して得られる眼用レンズ着色用高分子アントラキノン系色素である。
【0012】
当該高分子アントラキノン系色素は、高分子量を有するため、眼用レンズを構成する樹脂の高分子鎖との絡み合い効果などにより、眼用レンズ内で強い相互作用を有している。従って、当該高分子アントラキノン系色素によれば、得られる着色レンズを煮沸したり、水や有機溶媒中に浸漬したりしても、当該色素がレンズから溶出せず、いわゆるレンズの色抜けを防ぐことができる。また、当該高分子アントラキノン系色素によれば、このように眼用レンズを構成する樹脂等と強く結合することができるため、着色物が劣化しにくく着色物の耐久性を高めることができる。
【0013】
また、当該高分子アントラキノン系色素によれば、眼用レンズを構成するモノマー成分をこの高分子アントラキノン系色素に組み込むなどの分子設計をすることで溶解性が向上し、眼用レンズを均一かつ容易に着色させることができる。
【0014】
上記眼用レンズ用モノマー(I)がポリジメチルシロキサン構造を有するとよい。このように当該高分子アントラキノン系色素にポリジメチルシロキサン構造を組み込むことでシリコーン系材料が一般的に含有されている眼用レンズ材料用の組成物への溶解性が向上し、眼用レンズを均一かつ容易に着色させることができる。
【0015】
また、当該高分子アントラキノン系色素が、上記眼用レンズ用モノマー(I)と上記アントラキノン系色素との重合体であるとよい。当該高分子アントラキノン系色素がこのように不飽和二重結合を有するモノマーとの共重合体で形成されることによっても、この色素のポリマー鎖と眼用レンズを構成する樹脂の高分子鎖との絡み合い効果が生じる。従って、当該高分子アントラキノン系色素は眼用レンズ材料内で強く固着することができる。
【0016】
上記眼用レンズ用モノマー(I)が(メタ)アクリル酸誘導体、スチレン誘導体、アリル基含有化合物、ビニル基含有化合物及びエキソ−メチレン基含有化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種であるとよい。当該高分子アントラキノン系色素が、上記化合物との共重合体であることで、眼用レンズ材料用組成物への溶解性がさらに向上し、眼用レンズを均一かつ容易に着色させることができる。
【0017】
当該高分子アントラキノン系色素が、不飽和二重結合を有することが好ましい。当該高分子アントラキノン系色素が、不飽和二重結合を有する、すなわち未反応の不飽和二重結合を残していることで、不飽和二重結合を有する眼用レンズ用モノマーとの共有結合が可能となる。従って当該高分子アントラキノン系色素によれば、眼用レンズ材料と単なる絡み合いの効果のみならず、眼用レンズ用モノマーと共有結合することで、極めて高い結合性を発揮させることができるため、着色された眼用レンズからの色素の耐溶出性及び耐久性を向上させることができる。
【0018】
上記課題を解決するためになされた別の発明は、上記アントラキノン系色素又は高分子アントラキノン系色素と、不飽和二重結合を有する眼用レンズ用モノマー(II)とを含む組成物から形成され、上記眼用レンズ用モノマー(II)を単量体単位として含む重合体を含有する眼用レンズ材料である。
【0019】
当該眼用レンズ材料は、上記アントラキノン系色素又は高分子アントラキノン系色素を含むため、他の眼用レンズ用モノマーとの溶解性及び結合性が高く、均一に着色されるとともに眼用レンズからの色素の高い耐溶出性を備えることができる。
【0020】
上記重合体は、上記アントラキノン系色素又は高分子アントラキノン系色素と眼用レンズ用モノマー(II)との共重合体を含むとよい。このように、眼用レンズ材料において、アントラキノン系色素又は高分子アントラキノン系色素と眼用レンズ用モノマー(II)とが共重合、すなわち共有結合していることで、当該色素の眼用レンズ材料内への結合性を極めて高くすることができる。そのため当該眼用レンズ材料は、色素成分の極めて高い耐溶出性を有することができる。
【0021】
上記眼用レンズ用モノマー(II)が、ポリジメチルシロキサン構造を有することが好ましい。このような当該レンズ材料によれば、さらにこの色素のモノマーへの溶解性を高めることができ、また色素と眼用レンズ用モノマー(II)との結合性を高めることができ、均一に着色されかつ耐溶出性に優れた眼用レンズ材料を提供することができる。また、当該レンズ材料によれば、ポリジメチルシロキサン構造を有する眼用レンズ用モノマー(II)を組成物とすることで、酸素透過性が向上する。
【0022】
上記眼用レンズ用モノマー(II)において、ポリジメチルシロキサン構造と不飽和二重結合とがウレタン結合を介して存在するとよい。当該眼用レンズ材料は眼用レンズ用モノマー(II)が上記構造を備えることで、酸素透過性を維持したまま弾力性を向上させることができる。
【0023】
当該眼用レンズ材料は、上記眼用レンズ用モノマー(II)が、(メタ)アクリル酸誘導体、スチレン誘導体、アリル基含有化合物、ビニル基含有化合物、エキソ−メチレン基含有化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種であるとよい。このような当該レンズ材料によっても、さらにこの色素のモノマーへの溶解性を高めることができるため、均一に着色された眼用レンズ材料を提供することができる。
【0024】
上記眼用レンズ用モノマー(II)が親水性を示すことも好ましい。当該眼用レンズ材料は、眼用レンズ用モノマー(II)が親水性を示すことで、高い含水性を備えることができる。
【0025】
上記課題を解決するためになされた別の発明は、
(A)上記アントラキノン系色素又は高分子アントラキノン系色素と不飽和二重結合を有する眼用レンズ用モノマー(II)とを含む眼用レンズ材料用の組成物を調製する工程、
(B)上記組成物を成型用型内に導入する工程、
(C)上記成型用型内の組成物に紫外線を照射及び/又は加熱により上記組成物を硬化させて硬化物を得る工程、
(D)上記硬化物を脱型する工程、
(E)上記硬化物を水和させる工程、及び
(F)上記水和した硬化物から未反応物を取り除く工程
を有する眼用レンズ材料の製造方法である。
【0026】
上記工程(D)において、媒体を使用せずに硬化物が乾燥した状態のまま行われてなることが好ましい。当該製造方法によれば、溶媒等の媒体を使用しないために、脱型した硬化物からその溶媒を取り除く等の作業工程を不要とし、製造工程の短縮化を実現することができる。
【0027】
上記工程(E)と上記工程(F)とが、水、生理食塩液、リン酸緩衝液又はホウ酸緩衝液に、上記工程(D)により得られた硬化物を浸漬させることにより同時に行なわれることが好ましい。当該製造方法によれば、この2工程を同時に行うことができるため、製造工程の短縮化を実現することができる。
【0028】
上記製造方法における上記眼用レンズ用モノマー(II)は、得られる眼用レンズ材料の酸素透過性及び色素の耐溶出性の向上の点からポリジメチルシロキサン構造を有することが好ましく、また、得られる眼用レンズ材料の含水性の点から親水性を有していることが好ましい。
【0029】
さらには、当該眼用レンズ材料の製造方法は、(G)脱型後の硬化物を表面処理する工程を有するとよい。脱型後の硬化物を表面処理することによって、当該眼用レンズ材料を高機能化することができる。上記工程(G)としては、硬化物をプラズマ放電雰囲気下に暴露する工程、表面グラフト重合する工程、又は紫外線若しくは放射線で照射する工程のいずれかを含むとよい。
【0030】
このように上記アントラキノン系色素又は高分子アントラキノン系色素で着色されている眼用レンズは、含有する色素とその他の眼用レンズ成分とが強く結合されているため、煮沸したり、水や有機溶媒中に浸漬したりしても、上記色素がレンズ自体から溶出せず、レンズの色抜けを防ぐことができる。また当該眼用レンズは、色素と他の材料成分との結合性が強いため劣化しにくく、耐久性にも優れている。
【0031】
ここで「高分子アントラキノン系色素」とは、高分子量を有するアントラキノン系色素をいい、単量体が重合して形成される多量体に限定されない。なお、高分子アントラキノン系色素における高分子量とは、ポリスチレン換算の質量平均分子量が1,000以上であることをいう。また、眼用レンズ用モノマーとは、重合可能な眼用レンズ材料用の化合物をいい、分子量の大小は問わない。また、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及び/又はメタクリル酸をいう。
【発明の効果】
【0032】
以上説明したように、本発明のアントラキノン系色素及び高分子アントラキノン系色素によれば、得られる着色レンズを煮沸したり、水や有機溶媒中に浸漬したりしても、当該色素がレンズから溶出しないため、レンズの色抜けを防ぎ、着色レンズへ高い耐久性を付与することができる。また、本発明の色素は、この色素自体とこの色素によって着色された眼用レンズとの間で色相の変化が生じないため、着色における取り扱い性が向上する。また、当該色素によれば、置換基を選択することで、赤〜紫〜青〜緑色の長波長に吸収帯を持つ色相に対応し、かつ着色前後で色相の差異が小さい色素を提供することができる。
【0033】
また、本発明の眼用レンズ用材料及び眼用レンズによれば、含有される色素が溶出せず高い耐久性を示すことができる。更には、本発明の眼用レンズ用材料の製造方法によりこのような眼用レンズ用材料を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】アントラキノン系色素1の赤外吸収スペクトルを示す図。
図2】アントラキノン系色素1のNMRスペクトルを示す図。
図3】アントラキノン系色素2の赤外吸収スペクトルを示す図。
図4】アントラキノン系色素2のNMRスペクトルを示す図。
図5】アントラキノン系色素3の赤外吸収スペクトルを示す図。
図6】アントラキノン系色素3のNMRスペクトルを示す図。
図7】アントラキノン系色素4の赤外吸収スペクトルを示す図。
図8】アントラキノン系色素4のNMRスペクトルを示す図。
図9】アントラキノン系色素5の赤外吸収スペクトルを示す図。
図10】アントラキノン系色素5のNMRスペクトルを示す図。
図11】アントラキノン系色素6の赤外吸収スペクトルを示す図。
図12】アントラキノン系色素6のNMRスペクトルを示す図。
図13】アントラキノン系色素7の赤外吸収スペクトルを示す図。
図14】アントラキノン系色素7のNMRスペクトルを示す図。
図15】アントラキノン系色素8の赤外吸収スペクトルを示す図。
図16】アントラキノン系色素8のNMRスペクトルを示す図。
図17】アントラキノン系色素9の赤外吸収スペクトルを示す図。
図18】アントラキノン系色素9のNMRスペクトルを示す図。
図19】アントラキノン系色素10の赤外吸収スペクトルを示す図。
図20】アントラキノン系色素10のNMRスペクトルを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明のアントラキノン系色素、高分子アントラキノン系色素、これらを用いた眼用レンズ材料、眼用レンズ材料の製造方法及び眼用レンズについてこの順に詳説する。
【0036】
<アントラキノン系色素>
本発明のアントラキノン系色素は、上記一般式(1)で示されるものである。
【0037】
上記R、R、R、R及びRにおけるC1〜C4の低級アルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基等が挙げられる。
【0038】
上記R、R、R、R及びRにおけるC1〜C4の低級アルキルアミノ基としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等が挙げられる。
【0039】
上記R、R、R、R及びRにおけるC1〜C4の低級アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ等、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基等が挙げられる。
【0040】
上記R、R、R、R及びRにおけるC1〜C4の低級アルキルアミド基としては、メチルアミド基、エチルアミド基、ジメチルアミド基等が挙げられる。
【0041】
なお、上記R、R、X及びXは構造安定性の面からアントラキノン骨格の1位、4位、5位又は8位に置換されることが好ましい。
【0042】
a、b、c及びdの関係は、分子量を小さく抑えるという点においてa+b+c+d≦4が好ましく、a+b+c+d≦2がさらに好ましい。また、aとbとの関係は、a+b≦2が好ましい。当該アントラキノン系色素は、置換基数を少なく抑えることで分子量をより低減させ、眼用レンズ用モノマーに対する溶解度を高めることができる。
【0043】
また、fは、重合前後の色相の変化を低減させる及び分子構造を小さく抑えるという点においては、0であることが好ましい。
【0044】
通常、色素骨格を持つ分子、例えば可視光における長波長を吸収し、紫〜青〜緑色を発色するようなジアゾ色素は、後述するような眼用レンズ用のモノマーに溶解しにくい。しかし、本発明のアントラキノン系色素は、赤〜紫〜青〜緑色を発色する、すなわち長波長帯に吸収領域を持つ色素骨格を有しているにもかかわらず、分子量が比較的低いため、眼用レンズ用のモノマーに対する溶解度が高い。当該アントラキノン系色素は、N,N−ジメチルアクリルアミド(DMAA)やN−ビニルピロリドン(N−VP)のような極性の高いモノマーには勿論、メチルメタクリレート(MMA)やエチルメタクリレート(EMA)のような比較的極性の低いモノマーにも溶解することができる。なお、当該アントラキノン系色素は、置換基の種類及び数を適宜調整することで500nm以上700nm以下に最大吸収波長を有する構造とすることができ、赤〜紫〜青〜緑色の色相を発色することができる。
【0045】
また、本発明のアントラキノン系色素は、眼用レンズ材料中において、他の眼用レンズ用モノマーとの共重合等の結合によってポリマー鎖と化学的に結合するので、レンズ用材料の着色に使用してもレンズの外部に溶出又は色移行といった現象を防ぐことができる。また、本発明のアントラキノン系色素は、一般的なアントラキノン系色素と類似の化学構造を有しているので、着色された眼用レンズは、紫外線による色素の劣化が生じにくい等の、優れた耐久性を有する。さらに、当該アントラキノン系色素は、顔料のように粒子ではなく、分子として眼用レンズ材料のポリマー鎖と結合しているので、着色された眼用レンズは透明となる。さらには、当該アントラキノン系色素は、所定の重合性基を色素の発色団の外側に有しているため、重合等の付加反応によっても色素骨格の変化が無い。従って、当該色素は、この色素自体と、この色素によって着色された着色物との間で色相の差異が小さいため、色素調整等の着色工程が容易化され、着色における色素の取り扱い性が向上する。
【0046】
当該アントラキノン系色素の具体例としては、以下の化合物が挙げられる。
【0047】
下記式(2)で表される化合物(色相 緑:以下、「アントラキノン系色素1」という。)
【化5】
下記式(3)で表される化合物(色相 赤紫:以下、「アントラキノン系色素2」という。)
【化6】
下記式(4)で表される化合物(色相 赤:以下、「アントラキノン系色素3」という。)
【化7】
下記式(5)で表される化合物(色相 紫:以下、「アントラキノン系色素4」という。)
【化8】
下記式(6)で表される化合物(色相 緑:以下、「アントラキノン系色素5」という。)
【化9】
下記式(7)で表される化合物(色相 緑:以下、「アントラキノン系色素6」という。)
【化10】
下記式(8)で表される化合物(色相 紫:以下、「アントラキノン系色素7」という。)
【化11】
下記式(9)で表される化合物(色相 紫:以下、「アントラキノン系色素8」という。)
【化12】
下記式(10)で表される化合物(色相 紫:以下、「アントラキノン系色素9」という。)
【化13】
下記式(11)で表される化合物(色相 紫:以下、「アントラキノン系色素10」という。)
【化14】
等。
【0048】
本発明のアントラキノン系色素は、公知の方法で合成することができる。例えば、先ずハロゲン基及びヒドロキシル基を有するベンゼン誘導体と(メタ)アクリル酸ハライド、アリルハライド及び/又はビニルハライドとを反応させ、重合性二重結合基を有するカップラーを合成する。続いて、当該カップラーとアミノ基を有するアントラキノン誘導体とをカップリングすることにより当該アントラキノン系色素が得られる。なお、本発明のアントラキノン系色素を合成する際に使用するカップラーは、アリル基、ビニル基、(メタ)アクリル酸エステル基又は(メタ)アクリルアミド基を分子内に有している。
【0049】
または、ハロゲン基を有するアントラキノン系色素と、アミノ基を有するスチレン誘導体とをカップリング反応させることによっても、本発明のアントラキノン系色素を得ることができる。あるいは、アミノ基を有するアントラキノン系色素と、ハロゲン基を有するスチレン誘導体とをカップリング反応させることによっても、本発明のアントラキノン系色素を得ることができる。
【0050】
<高分子アントラキノン系色素>
本発明の高分子アントラキノン系色素は、上記アントラキノン系色素と、眼用レンズ用モノマー(I)とが共有結合して得られるものである。
【0051】
当該高分子アントラキノン系色素は、高分子量であるため、眼用レンズを構成する樹脂の高分子鎖との絡み合い効果などにより、眼用レンズ内で強い結合性あるいは相互作用を有している。従って、当該高分子アントラキノン系色素によれば、得られる着色レンズを煮沸したり、水や有機溶媒中に浸漬したりしても、当該色素がレンズから溶出せず、レンズの色抜けを防ぐことができる。また、当該高分子アントラキノン系色素によれば、このように眼用レンズを構成する樹脂等と強く結合あるいは相互作用することができるため、劣化しにくく、耐久性にも優れている。また、当該高分子アントラキノン系色素は、モノマー(I)を選択することで眼用レンズ材料との溶解性を向上させることができる。
【0052】
当該高分子アントラキノン系色素は、不飽和二重結合を有しているものも、有していないものもあるが、眼用レンズ内における結合性あるいは相互作用の点からは、不飽和二重結合を有することが好ましい。当該高分子アントラキノン系色素が、不飽和二重結合を有することで、不飽和二重結合を有する眼用レンズ用モノマーとの共有結合が可能となる。従って、当該高分子アントラキノン系色素によれば、眼用レンズ材料と単なる絡み合いの効果のみならず、眼用レンズ用モノマーと共有結合することで、極めて高い結合性を発揮させることができるため、着色された眼用レンズからの色素の耐溶出性及び耐久性を向上させることができる。
【0053】
当該高分子アントラキノン系色素の分子量(ポリスチレン換算の質量平均分子量)の下限としては、1,000であるが、3,000がさらに好ましく、5,000が特に好ましい。また、当該高分子アントラキノン系色素の分子量(ポリスチレン換算の質量平均分子量)の上限は、100,000が好ましく、50,000がさらに好ましく、30,000が特に好ましい。分子量(ポリスチレン換算の質量平均分子量)が上記下限よりも小さいと眼用レンズを構成する樹脂の高分子鎖との絡み合いが十分でないため、高い相互作用結合性が得られず、その結果耐溶出性の向上が小さい。逆に、分子量(ポリスチレン換算の質量平均分子量)が上記上限を超えると、分子量が大きくなりすぎるため、眼用レンズ用モノマーの成分によっては当該色素の溶解性が低下するおそれがある。
【0054】
上記眼用レンズ用モノマー(I)としては、当該アントラキノン系色素と共有結合することができるモノマーであれば特に限定されないが、例えば、ポリジメチルシロキサン構造を有するモノマー(以下、「モノマーA」ともいう。)、親水性を有する眼用レンズ用モノマー(以下、「モノマーB」ともいう。)、又は非含水性眼用レンズモノマー(以下、「モノマーC」ともいう。)を挙げることができる。これらは1種又は複数種を混合して用いることができる。
【0055】
ポリジメチルシロキサン構造を有するモノマー(モノマーA)を用いた高分子アントラキノン系色素は、ポリジメチルシロキサン構造を有するため、眼用レンズ材料として一般的に多用されているシリコーン系化合物との相溶性が高くなり、眼用レンズ材料中に容易かつ均一に拡散され、他の眼用レンズ材料によって保持されることができる。
【0056】
上記ポリジメチルシロキサン構造とは、下記式(12)で表される構造をいう。
【化15】
(式(12)中、R、R10、R11及びR12は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、フッ素置換された炭素数1〜6のアルキル基、ヒドロキシ基又はフェニル基である。)
【0057】
上記のポリジメチルシロキサン構造を有するモノマー(モノマーA)としては、ポリジメチルシロキサン、ポリジメチルシロキサン−co−ヒドロメチルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン−co−フェニルヒドロシロキサン、ポリヒドロメチルシロキサン−co−メチルフェニルシロキサン、ポリヒドロフェニルシロキサン−co−メチルフェニルシロキサン、側鎖にフッ素置換されたアルキル基又はアルコキシ基とメチル基とを含むポリシロキサン−co−ヒドロメチルシロキサン、側鎖にポリアルキレンオキシアルキル基とメチル基とを含むポリシロキサン−co−ヒドロメチルシロキサン等を骨格として構成される化合物が挙げられる。
【0058】
上記モノマーAは、分子内に不飽和二重結合を有している。当該高分子アントラキノン系色素は、このようなモノマーAを用いることで、この色素の分子中に不飽和二重結合を残すことができる。未反応の不飽和二重結合を残している当該高分子アントラキノン系色素は、不飽和二重結合を有する眼用レンズ用モノマーとの共重合が可能となる。従って当該高分子アントラキノン系色素によれば、眼用レンズ材料と単なる絡み合いの効果のみならず、眼用レンズ用モノマーと共有結合することで、極めて高い結合性を発揮させることができるため、着色物の耐溶出性及び耐久性を向上させることができる。このような不飽和二重結合を有するモノマーAとしては、上記の各ポリジメチルシロキサンの末端や側鎖に不飽和二重結合を導入したもの等が挙げられる。
【0059】
本発明のアントラキノン系色素を、モノマーAに共有結合させる方法としては、一般的な付加反応を用いることができる。上記付加反応の例としては、触媒の存在下、本発明のアントラキノン系色素中の重合性二重結合を、構造中にヒドロシリル基(Si−H)を有するポリジメチルシロキサンに付加させる方法等が挙げられる。上記触媒としては、塩化白金酸や白金とシロキサンとの錯体等が用いられる。また、上記不飽和二重結合を有しているモノマーAは、上述の構造を有するモノマーAの両末端をアリルアルコール、続いてイソシアナートエチルメタクリレートでキャップすること等で合成することができる。このような方法にて、モノマーAの側鎖にアントラキノン系色素が導入された高分子アントラキノン系色素を合成することができる。
【0060】
このような高分子アントラキノン系色素の合成においては、反応系のアントラキノン系色素の含有量は、モノマーA100質量部に対して、0.5質量部以上100質量部以下であることが好ましい。
【0061】
当該高分子アントラキノン系色素の具体例としては、分子内に不飽和二重結合を有している高分子アントラキノン系色素として、以下の式(13)で表される化合物(色相 紫:以下、「高分子アントラキノン系色素1」という。)を挙げることができる。
【0062】
【化16】
(式(13)中、mはそれぞれ独立して、0〜100の整数、nはそれぞれ独立して1〜100の整数、pは1〜100の整数である。)
また、分子内に不飽和重合性基を有していない高分子アントラキノン系色素の具体例としては、以下の式(14)で表される化合物(色相 紫:以下、「高分子アントラキノン系色素2」という。)を挙げることができる。
【0063】
【化17】
(式(14)中、mはそれぞれ独立して、0〜100の整数、nはそれぞれ独立して1〜100の整数、pは1〜100の整数である。)
【0064】
当該高分子アントラキノン系色素としては、本発明のアントラキノン系色素と、他の不飽和二重結合を有する眼用レンズ用モノマー(I)との共重合体であってもよい。このような共重合体の高分子アントラキノン系色素を形成するモノマー(I)としては、前述したように親水性を有する眼用レンズ用モノマー(モノマーB)及び/又は、非含水性眼用レンズ用モノマー(モノマーC)を用いることができる。
【0065】
当該眼用レンズ用モノマー(I)との共重合によって得られる高分子アントラキノン系色素は、高分子量であるため、眼用レンズを構成する樹脂の高分子鎖との絡み合い効果などにより、眼用レンズ内で強い結合性を有している。従って当該高分子アントラキノン系色素によれば、得られる着色レンズを煮沸したり、水や有機溶媒中に浸漬したりしても、当該色素がレンズから溶出せず、レンズの色抜けを防ぐことができる。また、当該高分子アントラキノン系色素によれば、このように眼用レンズを構成する樹脂等と強く結合することができるため、劣化しにくく、耐久性にも優れている。また、当該高分子アントラキノン系色素は、モノマー(I)を選択することで眼用レンズ材料との溶解性を向上させることができる。例えばモノマーBを主に用いることで含水性眼用レンズ用材料成分との溶解性を高めることができ、モノマーCを主に用いることで、非含水性眼用レンズ用材料成分との溶解性を高めることができる。
【0066】
当該眼用レンズ用モノマー(I)との共重合によって得られる高分子アントラキノン系色素においても、分子内に不飽和二重結合を有することが好ましい。このように、未反応の不飽和二重結合を残している当該高分子アントラキノン系色素は、不飽和二重結合を有する眼用レンズ用モノマーとの共重合が可能となる。従って当該高分子アントラキノン系色素によれば、眼用レンズ材料と単なる絡み合いの効果のみならず、眼用レンズ用モノマーと共有結合することで、極めて高い結合性を発揮させることができるため、着色物の耐溶出性及び耐久性を向上させることができる。
【0067】
また、この共重合体である高分子アントラキノン系色素は、眼用レンズ用モノマー(I)として、モノマーB及びモノマーC以外の例えばモノマーA等を含有させた混合物から得られても良い。このようにモノマーAを含有させることで、共重合体である高分子アントラキノン系色素の側鎖等にモノマーAに由来する構造を付与することができ、眼用レンズ用材料成分への溶解性を高めることができる。
【0068】
上記モノマーBとしては、例えば、国際公開第2005/116728号パンフレットの15頁に例示された親水性モノマーや、国際公開第2004/063795号パンフレットの15頁、20〜21頁及び23〜24頁に例示されたピロリドン誘導体、N−置換アクリルアミド及び親水性モノマーを用いることができる。
【0069】
上記モノマーBの具体例としては、例えば、(メタ)アクリルアミド;2−メトキシエチルアクリレートなどのメトキシアルキルアクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどの(アルキル)アミノアルキル(メタ)アクリレート;エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどのアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどのポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート;エチレングリコールアリルエーテル;エチレングリコールビニルエーテル;(メタ)アクリル酸;アミノスチレン;ヒドロキシスチレン;酢酸ビニル;グリシジル(メタ)アクリレート;アリルグリシジルエーテル;プロピオン酸ビニル;N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジエチルメタクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)メタクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド、アクリロイルモルホリン、メタクリロイルモルホリン;N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニル−3−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−4−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−5−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−6−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−3−エチル−2−ピロリドン、N−ビニル−4,5−ジメチル−2−ピロリドン、N−ビニル−5,5−ジメチル−2−ピロリドン、N−ビニル−3,3,5−トリメチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピペリドン、N−ビニル−3−メチル−2−ピペリドン、N−ビニル−4−メチル−2−ピペリドン、N−ビニル−5−メチル−2−ピペリドン、N−ビニル−6−メチル−2−ピペリドン、N−ビニル−6−エチル−2−ピペリドン、N−ビニル−3,5−ジメチル−2−ピペリドン、N−ビニル−4,4−ジメチル−2−ピペリドン、N−ビニル−2−カプロラクタム、N−ビニル−3−メチル−2−カプロラクタム、N−ビニル−4−メチル−2−カプロラクタム、N−ビニル−7−メチル−2−カプロラクタム、N−ビニル−7−エチル−2−カプロラクタム、N−ビニル−3,5−ジメチル−2−カプロラクタム、N−ビニル−4,6−ジメチル−2−カプロラクタム、N−ビニル−3,5,7−トリメチル−2−カプロラクタムなどのN−ビニルラクタム;N−ビニルホルムアミド、N−ビニル−N−メチルホルムアミド、N−ビニル−N−エチルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニル−N−メチルアセトアミド、N−ビニル−N−エチルアセトアミド、N−ビニルフタルイミドなどのN−ビニルアミド;1−メチル−3−メチレン−2−ピロリドン、1−エチル−3−メチレン−2−ピロリドン、1−メチル−5−メチレン−2−ピロリドン、1−エチル−5−メチレン−2−ピロリドン、5−メチル−3−メチレン−2−ピロリドン、5−エチル−3−メチレン−2−ピロリドン、1−n−プロピル−3−メチレン−2−ピロリドン、1−n−プロピル−5−メチレン−2−ピロリドン、1−i−プロピル−3−メチレン−2−ピロリドン、1−i−プロピル−5−メチレン−2−ピロリドン、1−n−ブチル−3−メチレン−2−ピロリドン、1−t−ブチル−3−メチレン−2−ピロリドンなどの、重合性基がメチレン基であるピロリドン誘導体などが挙げられる。
【0070】
上記モノマーCの具体例としては、例えば、アルキル(メタ)アクリレート、シロキサニル(メタ)アクリレート、フルオロアルキル(メタ)アクリレート、フェノキシアルキル(メタ)アクリレート、フェニルアルキル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸エステル類、アルコキシアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0071】
また、アントラキノン系色素と共重合し、共重合体の高分子アントラキノン系色素を形成するモノマー(I)としては、(メタ)アクリル酸誘導体、スチレン誘導体、アリル基含有化合物、ビニル基含有化合物及びエキソ−メチレン基含有化合物等も好ましい。なお、これらのモノマーは、上述のモノマーA、モノマーB及びモノマーCの分類と重複するものもある。
【0072】
(メタ)アクリル酸誘導体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、n−ドデシル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、3−エトキシプロピル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、3−メトキシプロピル(メタ)アクリレート、エチルチオエチル(メタ)アクリレート、メチルチオエチル(メタ)アリクレートなどの直鎖状、分岐鎖状または環状のアルキル(メタ)アクリレート、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート、アルキルチオアルキル(メタ)アリクレート等を挙げることができる。
【0073】
また、ケイ素含有(メタ)アクリル酸誘導体としては、例えばトリメチルシロキシジメチルシリルメチル(メタ)アクリレート、トリメチルシロキシジメチルシリルプロピル(メタ)アクリレート、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、モノ[メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ]ビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレート、トリス[メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ]シリルプロピル(メタ)アクリレート、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、モノ[メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ]ビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、トリメチルシリルエチルテトラメチルジシロキシプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、トリメチルシリルメチル(メタ)アクリレート、トリメチルシリルプロピル(メタ)アクリレート、トリメチルシリルプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、トリメチルシロキシジメチルシリルプロピルグリセリル(メタ)アクリレート、メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルエチルテトラメチルジシロキシメチル(メタ)アクリレート、テトラメチルトリイソプロピルシクロテトラシロキサニルプロピル(メタ)アクリレート、テトラメチルトリイソプロピルシクロテトラシロキシビス(トリメチルシロキシ)シリルプロピル(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。
【0074】
スチレン誘導体としては、α−メチルスチレン、メチルスチレン、エチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、t−ブチルスチレン、イソブチルスチレン、ペンチルスチレン、メチル−α−メチルスチレン、エチル−α−メチルスチレン、プロピル−α−メチルスチレン、ブチル−α−メチルスチレン、t−ブチル−α−メチルスチレン、イソブチル−α−メチルスチレン、ペンチル−α−メチルスチレン等を挙げることができる。
【0075】
また、ケイ素含有スチレン誘導体としては、例えばトリス(トリメチルシロキシ)シリルスチレン、ビス(トリメチルシロキシ)メチルシリルスチレン、(トリメチルシロキシ)ジメチルシリルスチレン、トリス(トリメチルシロキシ)シロキシジメチルシリルスチレン、[ビス(トリメチルシロキシ)メチルシロキシ]ジメチルシリルスチレン、(トリメチルシロキシ)ジメチルシリルスチレン、ヘプタメチルトリシロキサニルスチレン、ノナメチルテトラシロキサニルスチレン、ペンタデカメチルヘプタシロキサニルスチレン、ヘンエイコサメチルデカシロキサニルスチレン、ヘプタコサメチルトリデカシロキサニルスチレン、ヘントリアコンタメチルペンタデカシロキサニルスチレン、トリメチルシロキシペンタメチルジシロキシメチルシリルスチレン、トリス(ペンタメチルジシロキシ)シリルスチレン、トリス(トリメチルシロキシ)シロキシビス(トリメチルシロキシ)シリルスチレン、ビス(ヘプタメチルトリシロキシ)メチルシリルスチレン、トリス[メチルビス(トリメチルシロキシ)シロキシ]シリルスチレン、トリメチルシロキシビス[トリス(トリメチルシロキシ)シロキシ]シリルスチレン、ヘプタキス(トリメチルシロキシ)トリシリルスチレン、ノナメチルテトラシロキシウンデシルメチルペンタシロキシメチルシリルスチレン、トリス[トリス(トリメチルシロキシ)シロキシ]シリルスチレン、(トリストリメチルシロキシヘキサメチル)テトラシロキシ[トリス(トリメチルシロキシ)シロキシ]トリメチルシロキシシリルスチレン、ノナキス(トリメチルシロキシ)テトラシリルスチレン、ビス(トリデカメチルヘキサシロキシ)メチルシリルスチレン、ヘプタメチルシクロテトラシロキサニルスチレン、ヘプタメチルシクロテトラシロキシビス(トリメチルシロキシ)シリルスチレン、トリプロピルテトラメチルシクロテトラシロキサニルスチレン、トリメチルシリルスチレンなどを挙げることができる。
【0076】
アリル基含有化合物としては、エチレングリコールジアリルカーボネート、トリメリット酸トリアリルエステル、トリアリルイソシアヌレート等を挙げることができる。
【0077】
ビニル基含有化合物としては、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、一分子内に少なくとも二つ以上の(メタ)アクリロキシ基を含むウレタン変性(メタ)アクリレート、エポキシ変性(メタ)アクリレート、ポリエステル変性(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0078】
エキソ−メチレン基含有化合物としては、メチレンシクロヘキサン、5−メチレンシクロペンタジエン、3−メチレンシクロプロパン−1,2−ジカルボン酸ジメチル、α−メチレン−γ−ブチロラクトン等を挙げることができる。
【0079】
このような不飽和二重結合を有する眼用レンズ用モノマー(I)との共重合体である高分子アントラキノン系色素は、上記アントラキノン系色素と不飽和二重結合を有する眼用レンズ用モノマー(I)とを適切な有機溶媒に混合し、公知の方法で重合することで得ることができる。このような不飽和二重結合を有する眼用レンズ用モノマー(I)との共重合体である高分子アントラキノン系色素の合成においては、反応系のアントラキノン系色素の含有量は、眼用レンズ用モノマー(I)100質量部に対して、0.5質量部以上100質量部以下であることが好ましい。
【0080】
上記適切な有機溶剤とは、モノマーB、モノマーC等の不飽和二重結合を有する眼用レンズ用モノマー(I)を十分に溶解させられるものであれば、特に限定はないが、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、N−メチル−2−ピロリドン等の水溶性溶媒が好ましい。当該有機溶剤は、眼用レンズ用モノマー(I)の種類に応じ、用いた眼用レンズ用モノマー(I)を溶解し得るものを適宜選択して用いることができる。また、これらの有機溶剤は単独で、又は2種以上を混合して用いてもよい。また、上記溶媒によれば、共重合により得られる当該高分子アントラキノン系色素を洗浄し、精製することができる。
【0081】
また、当該高分子アントラキノン系色素の合成においては、必要に応じて、ラジカル重合開始剤を添加し、室温から130℃程度の温度範囲で徐々に加熱する、又は、マイクロ波、紫外線、放射線(γ線)などの電磁波を照射することにより、重合を行うこともできる。なお、この重合は、塊状重合法であっても、溶媒などを用いた溶液重合法であってもよく、また、加熱重合させる場合には、温度を段階的に昇温させてもよい。
【0082】
熱によるラジカル重合開始剤の具体例としては、例えば、2,2’−アゾビスイソブチルニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル等のアゾ系重合開始剤;ベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等の過酸化物系重合開始剤などが挙げられる。
【0083】
電磁波による重合開始剤としては、例えば、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルホスフィンオキサイド(TPO)、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイドなどのホスフィンオキサイド系重合開始剤;メチルオルソベンゾイルベンゾエート、メチルベンゾイルフォルメート、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン−n−ブチルエーテルなどのベンゾイン系重合開始剤;2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、p−イソプロピル−α−ヒドロキシイソブチルフェノン、p−t−ブチルトリクロロアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、α,α−ジクロロ−4−フェノキシアセトフェノン、N,N−テトラエチル−4,4−ジアミノベンゾフェノンなどのフェノン系重合開始剤;1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン;1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム;2−クロロチオキサンソン、2−メチルチオキサンソンなどのチオキサンソン系重合開始剤;ジベンゾスバロン;2−エチルアンスラキノン;ベンゾフェノンアクリレート;ベンゾフェノン;ベンジルなどが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0084】
これらの重合開始剤の使用量としては、重合に供せられる全混合物(アントラキノン系色素及び眼用レンズ用モノマー(I))100質量部に対して、一般に0.01〜5質量部程度の範囲とされる。
【0085】
<眼用レンズ材料>
本発明の眼用レンズ用材料は、本発明のアントラキノン系色素又は高分子アントラキノン系色素と、不飽和二重結合を有する眼用レンズ用モノマー(II)とを含む組成物を硬化重合することによって形成され、上記眼用レンズ用モノマー(II)を単量体として含む重合体を含有する。当該眼用レンズ材料は、上記アントラキノン系色素又は高分子アントラキノン系色素を含むため、不飽和二重結合を有する眼用レンズ用モノマー(II)への溶解性及び結合性が高く、均一に着色されるとともに高い耐溶出性を有している。
【0086】
当該眼用レンズ材料において、本発明の色素と眼用レンズ用モノマー(II)とは、共有結合している場合と、していない場合とがある。しかし、どちらの場合においても、当該眼用レンズ材料は、当該色素を材料内に強く固着させることができる。当該眼用レンズ材料が、本発明のアントラキノン系色素又は不飽和二重結合を有する高分子アントラキノン系色素を含む場合は、これらの色素は分子内に不飽和二重結合を有する。従って当該眼用レンズ材料は、眼用レンズ用モノマー(II)と共有結合することができ、眼用レンズ材料内に当該色素が強く結合されることで、当該色素を固着することができる。また、当該眼用レンズ材料が、不飽和二重結合を有さない高分子アントラキノン系色素のみである場合においても、当該高分子アントラキノン系色素のポリマー鎖が、眼用レンズ用モノマー(II)の重合体と絡み合うことで結合される。従って、このような不飽和二重結合を有さない高分子アントラキノン系色素のみを含有する眼用レンズ材料も、当該色素を強く固着することができる。
【0087】
上記不飽和二重結合を有する眼用レンズ用モノマー(II)としては、特に限定されないが、眼用レンズ用モノマー(I)と同様の(メタ)アクリル酸誘導体、スチレン誘導体、アリル基含有化合物、ビニル基含有化合物及びエキソ−メチレン基含有化合物等が好ましい。また、上記不飽和二重結合を有する眼用レンズ用モノマー(II)としては、不飽和二重結合を有するモノマーA、モノマーB又はモノマーCが好ましい。
【0088】
当該眼用レンズ用モノマー(II)として使用される不飽和二重結合を有するモノマーAとしては、更にウレタン結合を介してポリジメチルシロキサン構造と不飽和二重結合とを有するものが好ましい。このようなモノマーAは、ウレタン結合という弾性力のある結合を有し、シロキサン部分により材料の柔軟性や酸素透過性を損なうことなく補強し、かつ弾力的反発性を付与して脆さをなくし、機械的強度を向上させるという性質を付与する成分である。また、当該モノマーAは、分子鎖中にシリコーン鎖を有するので、製品に高酸素透過性を付与することができる。また、当該モノマーAは、不飽和二重結合を有し、かかる重合性基を介して他の共重合成分と共重合されるので、得られる眼用レンズ材料に分子の絡み合いによる物理的な補強効果だけでなく、化学的結合(共有結合)による補強効果を付与するというすぐれた性質を有するものである。すなわち、ウレタン結合を介してポリジメチルシロキサン構造と不飽和二重結合とを有するモノマーAは、高分子架橋性モノマーとして作用することができる。
【0089】
当該ウレタン結合を介してポリジメチルシロキサン構造と不飽和二重結合とを有するモノマーAの典型的な例としては、以下の一般式(15)で表されるものが挙げられる。
【0090】
−U−(−S−U−)−S−U−A (15)
[式(15)中、Aは、以下の一般式(16)で表される基である。
11−Z11−R13− (16)
(式(16)中、Y11は(メタ)アクリロイル基、ビニル基又はアリル基である。Z11は酸素原子又は直接結合である。R13は直接結合又は炭素数1〜12の直鎖状、分岐鎖若しくは芳香環を有するアルキレン基である。)
は、以下の一般式(17)で表される基である。
−R14−Z12−Y12 (17)
(式(17)中、Y12は(メタ)アクリロイル基、ビニル基又はアリル基である。Z12は酸素原子又は直接結合である。R14は直接結合又は炭素数1〜12の直鎖状、分岐鎖若しくは芳香環を有するアルキレン基である。)
ただし、一般式(16)中のY11及び一般式(17)中のY12は同一であってもよく、異なっていてもよい。
は、以下の一般式(18)で表される基である。
−X11−E11−X15−R15− (18)
(式(18)中、X11及びX15は、それぞれ独立して直接結合、酸素原子又はアルキレングリコール基である。E11は−NHCO−基(ただし、この場合、X11は直接結合であり、X15は酸素原子又はアルキレングリコール基であり、E11はX15とウレタン結合を形成している。)、−CONH−基(ただし、この場合、X11は酸素原子又はアルキレングリコール基であり、X15は直接結合であり、E11はX11とウレタン結合を形成している。)又は飽和若しくは不飽和脂肪族系、脂環式系及び芳香族系の群から選ばれたジイソシアネート由来の2価の基(ただし、この場合、X11及びX15はそれぞれ独立して酸素原子及びアルキレングリコール基から選ばれ、E11はX11及びX15の間で2つのウレタン結合を形成している。)である。R15は炭素数1〜6の直鎖状又は分岐鎖を有するアルキレン基を示す。)
及びSは、それぞれ独立して以下の一般式(19)で表される基である。
【化18】
(式(19)中、R16、R17、R18、R19、R20及びR21は、それぞれ独立して炭素数1〜6のアルキル基、フッ素置換されたアルキル基、フェニル基又は水素原子である。Kは10〜100の整数である。Lは0又は1〜90の整数である。K+Lは10〜100の整数である。
は、以下の一般式(20)で表される基である。
−R22−X17−E14−X18−R23− (20)
(式(20)中、R22及びR23は、それぞれ独立して炭素数1〜6の直鎖状又は分岐鎖を有するアルキレン基である。X17及びX18は、それぞれ独立して酸素原子又はアルキレングリコール基である。E14は、飽和若しくは不飽和脂肪族系、脂環式系及び芳香族系の群から選ばれたジイソシアネート由来の2価の基(ただし、この場合、E14はX17及びX18の間で2つのウレタン結合を形成している。)である。
は、以下の一般式(21)で表される基である。
−R24−X16−E12−X12− (21)
(式(21)中、R24は、炭素数1〜6の直鎖状又は分岐鎖を有するアルキレン基である。X12及びX16は、それぞれ独立して直接結合、酸素原子又はアルキレングリコール基である。E12は、−NHCO−基(ただし、この場合、X12は酸素原子又はアルキレングリコール基であり、X16は直接結合であり、E12はX12とウレタン結合を形成している。)、−CONH−基(ただし、この場合、X12は直接結合であり、X16は酸素原子又はアルキレングリコール基であり、E12はX16とウレタン結合を形成している。)又は飽和若しくは不飽和脂肪族系、脂環式系及び芳香族系の群から選ばれたジイソシアネート由来の2価の基(ただし、この場合、X12及びX16はそれぞれ独立して酸素原子及びアルキレングリコール基から選ばれ、E12はX12及びX16の間で2つのウレタン結合を形成している。)である。
nは、0〜10の整数を示す。]
【0091】
上記一般式(16)及び式(17)において、Y11及びY12は、いずれも重合性基であるが、アントラキノン系色素又は不飽和二重結合を有する高分子アントラキノン系色素と容易に共重合しうるという点で、(メタ)アクリロイル基がとくに好ましい。
【0092】
上記一般式(16)及び式(17)において、Z11及びZ12は、いずれも酸素原子又は直接結合であり、好ましくは酸素原子である。R13及びR14は、いずれも直接結合又は炭素数1〜12の直鎖状、分岐鎖若しくは芳香環を有するアルキレン基であり、好ましくは炭素数2〜4のアルキレン基である。U、U及びUは、分子鎖中でウレタン結合を含む基を表わす。
【0093】
上記一般式(15)中のU及びUにおいて、E11及びE12は、上記したように、それぞれ−CONH−基、−NHCO−基又は飽和若しくは不飽和脂肪族系、脂環式系及び芳香族系の群から選ばれたジイソシアネート由来の2価の基を表わす。ここで、飽和若しくは不飽和脂肪族系、脂環式系及び芳香族系の群から選ばれたジイソシアネート由来の2価の基の例としては、エチレンジイソシアネート、1,3−ジイソシアネートプロパン、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの飽和脂肪族系ジイソシアネート由来の2価の基;1,2−ジイソシアネートシクロヘキサン、ビス(4−イソシアネートシクロヘキシル)メタン、イソホロンジイソシアネートなどの脂環式系ジイソシアネート由来の2価の基;トリレンジイソシアネート、1,5−ジイソシアネートナフタレンなどの芳香族系ジイソシアネート由来の2価の基;2,2’−ジイソシアネートジエチルフマレートなどの不飽和脂肪族系ジイソシアネート由来の2価の基が挙げられる。これらの例の中では、入手容易性及びレンズへの強度付与の観点から、ヘキサメチレンジイソシアネート由来の2価の基、トリレンジイソシアネート由来の2価の基及びイソホロンジイソシアネート由来の2価の基が好ましい。
【0094】
上記一般式(15)中のUにおいて、E11が−NHCO−基である場合には、X11は直接結合であり、X15は酸素原子又はアルキレングリコール基であり、E11はX15と式:−NHCOO−で表わされるウレタン結合を形成する。また、E11が−CONH−基である場合には、X11は酸素原子又はアルキレングリコール基であり、X15は直接結合であり、E11はX11と式:−OCONH−で表わされるウレタン結合を形成する。さらにE11が前記ジイソシアネート由来の2価の基である場合には、X11及びX15は、好ましくは、それぞれ独立して酸素原子及び炭素数1〜6のアルキレングリコール基から選ばれ、E11はX11とX15とのあいだで2つのウレタン結合を形成する。R15は炭素数1〜6の直鎖状又は分岐鎖を有するアルキレン基である。
【0095】
上記一般式(15)中のUにおいて、E14は、上記したように、飽和若しくは不飽和脂肪族系、脂環式系及び芳香族系の群から選ばれたジイソシアネート由来の2価の基を表わす。ここで、飽和若しくは不飽和脂肪族系、脂環式系及び芳香族系の群から選ばれたジイソシアネート由来の2価の基の例としては、U及びUにおける場合と同様の2価の基が挙げられる。これらの例の中では、入手容易性及びレンズへの強度付与の観点から、ヘキサメチレンジイソシアネート由来の2価の基、トリレンジイソシアネート由来の2価の基及びイソホロンジイソシアネート由来の2価の基が好ましい。また、E14はX17とX18との間で2つのウレタン結合を形成する。X17及びX18は、好ましくは、それぞれ独立して酸素原子又は炭素数1〜6のアルキレングリコール基であり、またR22及びR23は、それぞれ独立して炭素数1〜6の直鎖状又は分岐鎖を有するアルキレン基である。
【0096】
上記一般式(15)中のUにおいて、R24は炭素数1〜6の直鎖状又は分岐鎖を有するアルキレン基である。E12が−NHCO−基である場合には、X12は酸素原子又はアルキレングリコール基であり、X16は直接結合であり、E12はX12と式:−NHCOO−で表わされるウレタン結合を形成する。また、E12が−CONH−基である場合には、X12は直接結合であり、X16は酸素原子又はアルキレングリコール基であり、E12はX16と式:−OCONH−で表わされるウレタン結合を形成する。さらにE12が前記ジイソシアネート由来の2価の基である場合には、X12及びX16は、好ましくは、それぞれ独立して酸素原子及び炭素数1〜6のアルキレングリコール基から選ばれ、E12はX12とX16との間で2つのウレタン結合を形成する。
【0097】
上記X11、X15、X17、X18、X12及びX16としては、炭素数1〜20のアルキレングリコールが好ましい。このような炭素数1〜20のアルキレングリコールは、以下の一般式(22)で表される。
−O−(C2x−O)− (22)
(式中、xは1〜4の整数、yは1〜5の整数を示す。)
【0098】
上記R16、R17、R18、R19、R20及びR21がフッ素置換されたアルキル基である場合の例としては、−(CH−C2p+1(m=1〜10、p=1〜10)で表される基が挙げられる。このようなフッ素置換されたアルキル基の具体例としては、3,3,3−トリフルオロ−n−プロピル基、2−(ペルフルオロブチル)エチル基、2−(ペルフルオロオクチル)エチル基などの側鎖状のフッ素置換されたアルキル基、2−(ペルフルオロ−5−メチルヘキシル)エチル基などの分枝鎖状のフッ素置換されたアルキル基などが挙げられる。かかるフッ素置換されたアルキル基を有する化合物の配合量を多くすると、得られるレンズの抗脂質汚染性が向上する。
【0099】
及びSを表す上記一般式(19)において、Kは10〜100の整数、Lは0又は1〜90の整数であり、K+Lは、10〜100の整数であり、好ましくは10〜80である。K+Lが100よりも大きい場合には、分子量が大きくなるため、これとアントラキノン系色素又は高分子アントラキノン系色素等との相溶性が悪化し、重合時に相分離して白濁を呈し、均一で透明なレンズが得られないことがある。また、K+Lが10未満である場合には、得られるレンズの酸素透過性が低くなり、柔軟性も低下する傾向がある。
【0100】
上記一般式(15)において、nは0〜10の整数であり、好ましくは0〜5の整数である。nが10よりも大きい場合には、上記同様、シリコーン化合物の分子量が大きくなるため、これと他の組成物との相溶性が悪化し、重合時に相分離して均一で透明な眼用レンズ材料が得られないことがある。
【0101】
当該不飽和二重結合を有するモノマーAは、さらに親水性ポリマー構造を有していてもよい。この構造により、モノマーAと親水性を有するモノマーBを共に用いたときの両モノマーの相溶性が向上し、これらを含む眼用レンズ用材料の水濡れ性を向上させることができる。親水性ポリマー部分の構造としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸塩、ポリ(2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート)、ポリテトラヒドロフラン、ポリオキセタン、ポリオキサゾリン、ポリジメチルアクリルアミド、ポリジエチルアクリルアミド、ポリ(2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)などの双性イオン性基含有モノマーを重合して得られる1種以上のポリマーがあげられる。この親水性ポリマー構造部分の分子量は、100〜1,000,000であり、好ましくは1,000〜500,000である。分子量が100未満である場合、モノマーAを親水性のモノマーBに溶解させるのに十分な親水性を付与できなくなる傾向がある。一方、分子量が1,000,000を超える場合、親水性・疎水性のドメインが大きくなり透明な材料が得られなくなる傾向がある。
【0102】
ウレタン結合を介してポリジメチルシロキサン構造と不飽和二重結合とを有するモノマーAの具体例としては、以下の式(23)で表される化合物や、式(24)で表される化合物を挙げることができる。
【0103】
【化19】
【0104】
【化20】
【0105】
なお、所望する当該眼用レンズが含水性眼用レンズである場合には、眼用レンズ用材料の組成成分としてモノマーAにモノマーBを加えることができる。この場合、モノマーAは、全重合成分(上記アントラキノン系色素及び高分子アントラキノン系色素並びに後述する架橋剤を除く、以下同じ。)100質量部に対し、10質量部以上90質量部以下であることが好ましい。モノマーAの使用量が上記下限より小さいと、眼用レンズに必要な十分な酸素透過性が得られないおそれがある。逆に、モノマーAの使用量が上記上限を超えると、モノマーAの分子構造によっては、眼用レンズ材料が柔らかくなりすぎたり、逆に硬くなりすぎたりする等、機械的特性の制御が困難になる。
【0106】
一方、モノマーBは、全重合成分100質量部に対し、10質量部以上90質量部以下であることが好ましい。モノマーBの使用量が上記下限より小さいと、期待される親水性が発現されないおそれがある。逆に、モノマーBの使用量が上記上限を超えると、期待される酸素透過性が発現されない可能性がある。
【0107】
また、所望の眼用レンズが実質的に水分を含有しない非含水性眼用レンズである場合には、レンズ用材料成分としてモノマーAにモノマーCを加えることができる。非含水性眼用のレンズ材料である場合、上記モノマーAは、全重合成分100質量部に対し、5質量部以上100質量部以下であることが好ましい。当該モノマーAの使用量が上記下限より小さいと、眼用レンズに必要な十分な酸素透過性が得られないことがある。また、モノマーCは、全重合成分100質量部に対し、95質量部以下であることが好ましい。モノマーCの使用量が上記上限を超えると眼用レンズ材料が脆くなることがある。
【0108】
また、当該アントラキノン系色素は、全重合成分100質量部に対し、0.001質量部以上0.5質量部以下が好ましい。当該アントラキノン系色素の使用量が、0.001質量部よりも少ないと、着色効果を充分に発揮することができない。また、当該アントラキノン系色素の使用量が0.5質量部よりも多いと、色調が濃くなり過ぎて、実用的でなくなったり、可視光線を透過し難くなったりするなどおそれがある。
【0109】
また、当該高分子アントラキノン系色素は、全重合成分100質量部に対し、0.01質量部以上5質量部以下が好ましい。前記高分子アントラキノン系色素の使用量が0.01質量部よりも少ないと、着色効果を充分に発揮することができない。また、当該高分子アントラキノン系色素の使用量が5質量部よりも多いと、色調が濃くなり過ぎて、実用的でなくなったり、可視光線を透過し難くなったり、あるいは重合成分中に溶解させることが困難となるなどのおそれがある。
【0110】
なお、当該組成物には、本発明のアントラキノン系色素又は高分子アントラキノン系色素及び不飽和二重結合を有する眼用レンズ用モノマー(II)以外に、架橋剤等の他の成分を含有しても良い。架橋剤は、得られる眼用レンズ材料の架橋密度、柔軟性や、硬質性を調整することができる。
【0111】
当該架橋剤としては、例えば、アリルメタクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビニルメタクリレート、4−ビニルベンジルメタクリレート、3−ビニルベンジルメタクリレート、メタクリロイルオキシエチルアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジアリルエーテル、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、ブタンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、2,2−ビス(p−メタクリロイルオキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(m−メタクリロイルオキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(o−メタクリロイルオキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(p−メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(m−メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(o−メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、1,4−ビス(2−メタクリロイルオキシヘキサフルオロイソプロピル)ベンゼン、1,3−ビス(2−メタクリロイルオキシヘキサフルオロイソプロピル)ベンゼン、1,2−ビス(2−メタクリロイルオキシヘキサフルオロイソプロピル)ベンゼン、1,4−ビス(2−メタクリロイルオキシイソプロピル)ベンゼン、1,3−ビス(2−メタクリロイルオキシイソプロピル)ベンゼン、1,2−ビス(2−メタクリロイルオキシイソプロピル)ベンゼンなどが挙げられる。これらの架橋剤は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0112】
上記架橋剤の使用割合は、全重合成分100質量部に対して、好ましくは0.05質量部以上1質量部以下、より好ましくは0.1質量部以上0.8質量部以下が好ましい。架橋剤の使用割合を0.05質量部以上とすることによって、柔軟性等の調節を確実に行うことができる。一方、架橋剤の使用割合を1質量部以下とすることによって、眼用レンズの機械的強度及び耐久性の低下を抑制することができる。
【0113】
<眼用レンズ材料の製造方法>
当該眼用レンズ材料は、当業者が通常行う眼用レンズ材料の重合成形方法を用いて製造することができる。例えば、1)眼用レンズ材料用の組成物を混合した適当な型又は容器内で重合を行ない、棒状、ブロック状、板状の素材(重合体)を得た後、切削加工、研磨加工などの機械的加工により、所望の形状に加工する方法や、2)所望の形状に対応した型を用意し、この型の中で眼用レンズ材料用の組成物の重合を行なって硬化物を得て、必要に応じて機械的に仕上げ加工を施す方法等が採用される。
【0114】
本発明の眼用レンズ材料は、
(A)上記アントラキノン系色素又は高分子アントラキノン系色素と不飽和二重結合を有する眼用レンズ用モノマー(II)とを含む眼用レンズ材料用の組成物を調製する工程、
(B)上記組成物を成型用型内に導入する工程、
(C)上記成型用型内の組成物に紫外線を照射及び/又は加熱により上記組成物を硬化させて硬化物を得る工程、
(D)上記硬化物を脱型する工程、
(E)上記硬化物を水和させる工程、及び
(F)上記水和した硬化物から未反応物を取り除く工程
を有する方法で製造することができる。
【0115】
上記(A)工程は、(A−1)本発明のアントラキノン系色素及び眼用レンズ用モノマー(I)を含む組成物を混合し、高分子アントラキノン系色素を得る工程と、(A−2)上記高分子アントラキノン系色素及び不飽和二重結合を有する眼用レンズ用モノマー(II)を含む眼用レンズ材料用の組成物を混合する工程の2工程からなってもよい。当該方法によれば、一連の工程で、単分子のアントラキノン系色素から高分子アントラキノン系色素を合成し、この高分子アントラキノン系色素を着色剤とした眼用レンズ材料を製造することができる。
【0116】
当該製造方法においては、眼用レンズ材料用の組成物である不飽和二重結合を有する眼用レンズ用モノマー(II)の種類に応じた、高分子アントラキノン系色素を選択することができる。すなわち、不飽和二重結合を有する眼用レンズ用モノマー(II)が不飽和二重結合を有するモノマーAを主成分とする場合は、本発明のアントラキノン系色素とモノマーAとが共有結合された高分子アントラキノン系色素を用いることで、色素の組成物への相溶性が向上する。不飽和二重結合を有する眼用レンズ用モノマー(II)が他のモノマー(モノマーB、モノマーC等)を主成分とする場合も同様である。
【0117】
本発明においては、当該組成物中の成分の均一性を向上させるために、上記組成物が水溶性有機溶媒を含むことが好ましい。当該水溶性有機溶媒は、重合性成分に対して、ごくわずかな量として存在することで、重合反応が進行した後も未反応のモノマーを系中に拡散させて重合反応に関与させることができる。すなわち、水溶性有機溶媒は、残留する重合性成分を低減することができる。また、使用する有機溶媒は水溶性のため、後に行われる溶出処理の工程において容易に水と置換されることができる。
【0118】
当該水溶性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールなどの炭素数1〜4のアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、N−メチル−2−ピロリドン等を用いることができる。この水溶性有機溶媒は、重合性成分の種類に応じ、用いた重合性成分を溶解し得るものを適宜選択して用いればよい。また、これらは単独で、又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0119】
当該水溶性有機溶媒の使用量としては、全組成物に対して、0.1質量%以上5質量%が好ましく、0.2質量%以上4質量%以下がさらに好ましい。当該水溶性有機溶媒の使用量が上記範囲未満である場合、重合時の残留成分の量が増加する傾向がある。一方、当該水溶性有機溶媒の使用量が上記範囲を超える場合は、組成物が不均一となり、後に行われる重合反応時において相分離が生じ、得られる材料は白濁するおそれがある。
【0120】
当該組成物中には、ラジカル重合開始剤又は光重合開始剤が含まれても良い。このラジカル重合開始剤及び光重合開始剤としては、前述の高分子アントラキノン系色素の重合の際に好適なものと同様なものを挙げることができる。
【0121】
紫外線照射による重合に用いられる型の材質としては、材料硬化に必要な紫外線を透過することができる、例えばポリプロピレン、ポリスチレン、ナイロン、ポリエステル等の汎用樹脂が好ましく、ガラスを用いることもできる。
【0122】
型内の重合成分を紫外線照射する場合の好ましい紫外線照度は、材料を十分に硬化させるために、1.0mW/cm以上で、材料の劣化を防ぐという目的から50mW/cm以下である。また照射時間は、材料を十分に硬化させるためには、1分以上が好ましい。紫外線の照射は、一段階にて行っても良く、また、異なる照度の紫外線を段階的に照射しても良い。さらに、重合時には紫外線の照射と同時に加熱をしてもよく、このことにより重合反応は促進され、効果的に眼用レンズを成形しうる。
【0123】
加熱により硬化する場合の当該加熱温度は、反応促進の点から、好ましくは25℃以上であり、より好ましくは30℃以上であり、型の変形を抑制するためには好ましくは100℃以下であり、より好ましくは90℃以下である。
【0124】
重合後、得られた硬化物に必要に応じて切削加工、研磨加工などの機械加工を施す。なお、切削は硬化物(共重合体)の少なくとも一方の面又は両方の面の全面にわたって行っても良いし、硬化物(共重合体)の少なくとも一方の面又は両方の面の一部に対して行っても良い。本発明の眼用レンズ材料としては、特殊レンズなど製品の使用用途に広がりを持たせることを考慮して、硬化物(共重合体)の少なくとも一方の面又はその一部を切削したものであることがとくに好ましい。成形体(共重合体)の少なくとも一方の面又はその一部を切削することは、すなわち、鋳型法にて重合して得られたブランクスを切削して所望の眼用レンズ形状にすることを含む概念である。
【0125】
なお、上記工程(D)においては、水等の媒体を使用せずに硬化物が乾燥した状態のまま行われてなることが好ましい。当該製造方法によれば、溶媒等を使用しないために、脱型した硬化物からその溶媒を取り除く等の作業工程を要しないため、製造工程の短縮化を実現することができる。
【0126】
また、上記工程(E)の硬化物を水和、すなわち含水させる工程と、上記工程(F)の水和した硬化物から未反応物を取り除く工程とは、水、生理食塩液、リン酸緩衝液及びホウ酸緩衝液のいずれかに、上記工程(D)により得られた(脱型された)硬化物を浸漬させることにより同時に行なわれることが好ましい。当該製造方法によれば、2工程を同時に行うことができるため、製造工程の短縮化を実現することができる。
【0127】
更には、当該眼用レンズ材料の製造方法では、(G)さらに脱型後の硬化物を表面処理することで、レンズ表面に親水性や耐汚染性を付与することができる。この表面処理としては例えば、各種反応ガス又は不活性ガスなどを利用し、硬化物をプラズマ放電雰囲気下に暴露するプラズマ処理、コロナ放電、エキシマVUV等の紫外線又は放射線の照射等によるドライプロセスが適用可能である。また、表面処理としては、上記ドライプロセスに加えて、又は、代えて、ポリ電解質を利用した多層積層法(Layer−by−layer法)や、予めプラズマ処理などにより表面にラジカル活性種を生成させた後、親水性モノマーと接触させることで表面グラフト重合する等のウェットプロセスを適用することも可能である。
【0128】
<眼用レンズ>
こうして得られる本発明の眼用レンズ材料は、含有される色素他の眼用レンズ成分と強く結合しているため、当該色素が溶出せず、高い耐候性を有する。従って、当該眼用レンズ材料は、例えば、コンタクトレンズ、眼内レンズ、人工角膜、角膜オンレイ、角膜インレイ等の眼用レンズに好適に使用することができる。
【実施例】
【0129】
以下に合成例及び実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0130】
<合成例1>
アントラキノン系色素1の合成
1,4−ジクロロアントラキノン(1.00g)、4−アミノスチレン(1.03g)とパラジウム触媒(0.25g)をジメトキシエタン(DME)に溶解させた。次に、窒素ガスによるバブリングを30分間実施した。次いで60%水素化ナトリウム(1.44g)を入れ、90℃で3時間反応させた。反応終了後、溶媒のジメトキシエタンを減圧留去した。ジクロロメタン(DCM)、蒸留水及び飽和食塩液を加え攪拌・分液した。続いてDCM層を取り出し、ガラスフィルターにより濾別した。続いてDCMを減圧留去した。次に、ノルマルヘキサン及びアセトニトリルを加え溶解・攪拌・分液した。次にアセトニトリル層を取り出し、ガラスフィルターにより濾別した。次にアセトニトリルを減圧留去した。その後、カラムクロマトグラフィーにて精製した。試料を乾燥して0.71gの1,4−ビス((エテニルフェニル)アミノ)−9,10−アントラキノン(上記式(2)で表されるアントラキノン系色素1)を得た(収率45%)。得られたアントラキノン系色素1は鮮やかな緑色であった。
【0131】
合成例1で得たアントラキノン系色素1の測定値は以下の通りである。
(1)最大吸収波長:649nm
(2)赤外吸収スペクトルを図1に示す。
(3)NMRスペクトル(溶媒:クロロホルムーd)を図2に示す。
【0132】
<合成例2>
アントラキノン系色素2の合成
1,8−ジクロロアントラキノン(0.50g)、4−アミノスチレン(0.52g)とパラジウム触媒(0.12g)をDMEに溶解させた。次に、窒素ガスによるバブリングを30分間実施した。次いで60%水素化ナトリウム(0.72g)を入れ、120℃で16時間反応させた。反応終了後、溶媒のDMEを減圧留去した。合成例1と同様の方法にて精製を実施した。試料を乾燥して0.34gの1,8−ビス((エテニルフェニル)アミノ)−9,10−アントラキノン(上記式(3)で表されるアントラキノン系色素2)を得た(収率43%)。得られたアントラキノン系色素2は鮮やかな赤紫色であった。
【0133】
合成例2で得たアントラキノン系色素2の測定値は以下の通りである。
(1)最大吸収波長:560nm
(2)赤外吸収スペクトルを図3に示す。
(3)NMRスペクトル(溶媒:クロロホルムーd)を図4に示す。
【0134】
<合成例3>
アントラキノン系色素3の合成
1−ヨードアントラキノン(0.50g)、4−アミノスチレン(0.29g)とパラジウム触媒(0.07g)をDMEに溶解させた。次に、窒素ガスによるバブリングを30分間実施した。次いで60%水素化ナトリウム(0.82g)を入れ、70℃で3時間反応させた。反応終了後、溶媒のDMEを減圧留去した。合成例1と同様の方法にて精製を実施した。試料を乾燥して0.29gの1−((エテニルフェニル)アミノ)−9,10−アントラキノン(上記式(4)で表されるアントラキノン系色素3)を得た(収率43%)。得られたアントラキノン系色素3は鮮やかな赤色であった。
【0135】
合成例3で得たアントラキノン系色素3の測定値は以下の通りである。
(1)最大吸収波長:515nm
(2)赤外吸収スペクトルを図5に示す。
(3)NMRスペクトル(溶媒:クロロホルムーd)を図6に示す。
【0136】
<合成例4>
アントラキノン系色素4の合成
1−ヨード−4−ヒドロキシアントラキノン(0.50g)と、4−アミノスチレン(0.28g)と、パラジウム触媒(0.02g)と、配位子(0.06g)とをトルエンに溶解・分散させ、窒素ガスによるバブリングを30分間実施した。次いで炭酸セシウム(3.15g)を入れ、120℃で12時間反応させた。反応終了後、溶媒のトルエンを減圧留去した。DCM、水、飽和食塩液を加え攪拌・分液し、DCM層を取り出し、ガラスフィルターにより濾別した。続いて、DCMを減圧留去した。次いで減圧留去にて残存している4−アミノスチレンを留去した。その後、カラムクロマトグラフィーにて精製した。その試料を乾燥して0.34gの1−エテニルフェニルアミノ−4−ヒドロキシ−9,10−アントラキノン(上記式(5)で表されるアントラキノン系色素4)を得た(収率52%)。得られたアントラキノン系色素4は鮮やかな紫色であった。
【0137】
合成例4で得たアントラキノン系色素4の測定値は以下の通りである。
(1)最大吸収波長:585nm
(2)赤外吸収スペクトルを図7に示す。
(3)NMRスペクトル(溶媒:クロロホルムーd)を図8に示す。
【0138】
<合成例5>
アントラキノン系色素5の合成
1,4−ジクロロアントラキノン(0.50g)、4−アミノスチレン(0.22g)とパラジウム触媒(0.12g)をDMEに溶解させた。次に、窒素ガスによるバブリングを30分間実施した。次いで60%水素化ナトリウム(0.72g)を入れ、60℃で3時間反応させた。その後、p−トルイジン(0.23g)を加え、90度で3時間反応させた。反応終了後、溶媒のDMEを減圧留去した。合成例1と同様の方法にて精製を実施した。試料を乾燥して0.20gの1−((エテニルフェニル)アミノ)−4−((4−メチルフェニル)アミノ)−9,10−アントラキノン(上記式(6)で表されるアントラキノン系色素5)を得た(収率26%)。得られたアントラキノン系色素5は鮮やかな緑色であった。
【0139】
合成例5で得たアントラキノン系色素5の測定値は以下の通りである。
(1)最大吸収波長:650nm
(2)赤外吸収スペクトルを図9に示す。
(3)NMRスペクトル(溶媒:クロロホルムーd)を図10に示す。
【0140】
<合成例6>
アントラキノン系色素6の合成
1,4−ジクロロアントラキノン(0.50g)、アリルp−アミノフェニルエチルエーテル(0.77g)とパラジウム触媒(0.12g)をDMEに溶解させた。次に、窒素ガスによるバブリングを30分間実施した。次いで60%水素化ナトリウム(0.72g)を入れ、90℃で3時間反応させた。反応終了後、溶媒のDMEを減圧留去した。
合成例1と同様の方法にて精製を実施した。試料を乾燥して0.18gの1,4−ビス((アリルオキシエチルフェニル)アミノ)−9,10−アントラキノン(上記式(7)で表されるアントラキノン系色素6)を得た(収率18%)。得られたアントラキノン系色素6は鮮やかな緑色であった。
【0141】
合成例6で得たアントラキノン系色素6の測定値は以下の通りである。
(1)最大吸収波長:646nm
(2)赤外吸収スペクトルを図11に示す。
(3)NMRスペクトル(溶媒:クロロホルムーd)を図12に示す。
【0142】
<合成例7>
アントラキノン系色素7の合成
1−ヨード−4−ヒドロキシアントラキノン(0.50g)と、アリル4−アミノフェニルメチルエーテル(0.38g)と、パラジウム触媒(0.02g)と、配位子(0.06g)とをトルエンに溶解・分散させ、窒素ガスによるバブリングを30分間実施した。次いで炭酸セシウム(3.15g)を入れ、120度で16時間反応させた。反応終了後、溶媒のトルエンを減圧留去した。DCM、蒸留水及び飽和食塩液を加え攪拌・分液し、DCM層を取り出し、ガラスフィルターにより濾別した。続いて、DCMを減圧留去した。その後、カラムクロマトグラフィーにて精製した。その試料を乾燥して0.18gの1−(アリルオキシメチルフェニル)アミノ−4−ヒドロキシ−9,10−アントラキノン(上記式(8)で表されるアントラキノン系色素7)を得た(収率21%)。得られたアントラキノン系色素7は鮮やかな紫色であった。
【0143】
合成例7で得たアントラキノン系色素7の測定値は以下の通りである。
(1)最大吸収波長:564nm
(2)赤外吸収スペクトルを図13に示す。
(3)NMRスペクトル(溶媒:クロロホルムーd)を図14に示す。
【0144】
<合成例8>
アントラキノン系色素8の合成
1−ヨード−4−ヒドロキシアントラキノン(0.50g)と、アリル4−アミノフェニルエチルエーテル(0.41g)と、パラジウム触媒(0.02g)と、配位子(0.06g)とをトルエンに溶解・分散させ、窒素ガスによるバブリングを30分間実施した。次いで炭酸セシウム(3.15g)を入れ、120℃で16時間反応させた。反応終了後、溶媒のトルエンを減圧留去した。合成例7と同様の方法にて精製を実施した。その試料を乾燥して0.10gの1−(アリルオキシエチルフェニル)アミノ−4−ヒドロキシ−9,10−アントラキノン(上記式(9)で表されるアントラキノン系色素8)を得た(収率13%)。得られたアントラキノン系色素8は鮮やかな紫色であった。
【0145】
合成例8で得たアントラキノン系色素8の測定値は以下の通りである。
(1)最大吸収波長:586nm
(2)赤外吸収スペクトルを図15に示す。
(3)NMRスペクトル(溶媒:クロロホルムーd)を図16に示す。
【0146】
<合成例9>
アントラキノン系色素9の合成
1−(4−(2−ヒドロキシエチル)フェニル)アミノ−4−ヒドロキシアントラキノン(0.50g)と、アリルイソシアネート(0.14g)をトルエンに溶解させ、スズ触媒(0.02g)を入れ、30℃で24時間反応させた。反応終了後、溶媒のトルエンを減圧留去した。DCM、蒸留水及び飽和食塩液を加え攪拌・分液し、DCM層を取り出し、ガラスフィルターにより濾別した。続いてDCMを減圧留去した。ノルマルヘキサン及びアセトニトリルを加え溶解・攪拌・分液した。次にアセトニトリル層を取り出し、ガラスフィルターにより濾別した。次にアセトニトリルを減圧留去した。その後、カラムクロマトグラフィーにて精製した。その試料を乾燥して0.08gの1−(4−(2−(アリルアミノカルボニルオキシ)エチル)フェニルアミノ−4−ヒドロキシアントラキノン(上記式(10)で表されるアントラキノン系色素9)を得た(収率13%)。得られたアントラキノン系色素9は鮮やかな紫色であった。
【0147】
合成例9で得たアントラキノン系色素9の測定値は以下の通りである。
(1)最大吸収波長:575nm
(2)赤外吸収スペクトルを図17に示す。
(3)NMRスペクトル(溶媒:クロロホルムーd)を図18に示す。
【0148】
<合成例10>
アントラキノン系色素10の合成
1−(4−(2−ヒドロキシエチル)フェニル)アミノ−4−ヒドロキシアントラキノン(0.30g)と、トリエチルアミン(0.17g)をDCMに溶解させた。次いでメタクリロイルクロリド(0.09g)を入れ、室温下で24時間反応させた。反応終了後、溶媒のDCMを減圧留去した。DCM、水、飽和食塩液を加え攪拌・分液し、DCM層を取り出し、ガラスフィルターにより濾別した。続いて、DCMを減圧留去した。その後、カラムクロマトグラフィーにて精製した。その試料を乾燥して0.15gの1−(4−(2−メタクリロイルオキシエチル)フェニル)アミノ−ヒドロキシ−9,10−アントラキノン(上記式(11)で表されるアントラキノン系色素10)を得た(収率42%)。得られたアントラキノン系色素10は鮮やかな紫色であった。
【0149】
合成例10で得たアントラキノン系色素10の測定値は以下の通りである。
(1)最大吸収波長:567nm
(2)赤外吸収スペクトルを図19に示す。
(3)NMRスペクトル(溶媒:クロロホルムーd)を図20に示す。
【0150】
また、得られたアントラキノン系色素1〜10の最大吸収波長、及び色相を下記表1に示す。
【0151】
【表1】
【0152】
<合成例11>
高分子アントラキノン系色素1の合成
ポリジメチルシロキサン−co−ヒドロメチルシロキサン(Mn=7,600、ポリスチレン換算、Si−Me:Si−H=90:10)の両末端をアリルアルコール、次いでイソシアナートエチルメタクリレートでキャップし、不飽和二重結合及びポリジメチルシロキサン構造を有するシロキサン化合物を得た。このシロキサン化合物2.28g(0.30ミリモル)及び0.10g(0.30ミリモル)の上記アントラキノン系色素4をトルエン40mLに溶解させ、不活性ガス(窒素)をバブリングしながら室温で30分攪拌し、その後溶液に白金触媒20μLを添加し、60℃以上の温度で20時間以上攪拌して反応させた。得られた溶液に蒸留水50mLを添加して100℃で2時間以上加熱した。反応溶媒を留去した後、ジクロロメタン(200mL)、蒸留水(100mL)及び飽和食塩液(100mL)を加えて攪拌した。分液ロートで分離させたジクロロメタン層を回収し、ガラスフィルターにより濾別した。再度、蒸留水(100mL)及び飽和食塩液(100mL)で洗浄してジクロロメタン層を回収し、ガラスフィルターにより濾別することにより触媒を除去した。その後、ジクロロメタンを留去し、n−ヘキサン300mLを添加して再溶解させ、アセトニトリルにて洗浄を繰り返してから取り出したn−ヘキサン層を濾過し、n−ヘキサンを留去してオイル状の高分子アントラキノン系色素1(上記式(13))を1.09g得た(収率46%)。
【0153】
<合成例12>
高分子アントラキノン系色素2の合成
ポリジメチルシロキサン−co−ヒドロメチルシロキサン(Mn=7,000、ポリスチレン換算、Si−Me:Si−H=70:30)2.10g(0.30ミリモル)及び0.31g(0.90ミリモル)の上記アントラキノン系色素4をトルエン120mLに溶解させ、不活性ガス(窒素)をバブリングしながら室温で30分攪拌した。その後、溶液に白金触媒50μLを添加し、60℃以上の温度で20時間以上攪拌して反応させた。反応後の精製工程は合成例11に準じて作業を行い、オイル状の高分子アントラキノン系色素2(上記式(14))を1.39gを得た(収率58%)。
【0154】
<合成例13>
高分子アントラキノン系色素3の合成
N−メチル−2−ピロリドン2,000質量部中に、上記アントラキノン系色素4を4.95質量部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル25.06質量部、TRIS(トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルメタクリレート)72.05質量部、及びアゾビスイソブチロニトリル2.0質量部を加えて78〜80℃で8時間撹拌した。冷却後、水10,000質量部中に投じ、得られた析出物を濾過した。水、メタノールで順次洗浄、乾燥し、アントラキノン系色素4、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル及びTRISの共重合体である高分子アントラキノン系色素3(色相 青)を56.1質量部得た(収率55%)。
【0155】
<合成例14>
マクロモノマーAの合成
予め窒素置換された側管にジムロート冷却管、機械式撹拌器及び温度計を取り付けた1L三つ口フラスコ内に、イソホロンジイソシアネート(IPDI)75.48g(0.34モル)及び鉄アセチルアセトネート(FeAA)0.12gを添加した。ついで、両末端水酸基ジメチルシロキサン(重合度40、水酸基当量1,560g/モル、信越化学工業(株)製KF−6002、以下、DHDMSi40という)529.90gを添加し、80℃に加熱したオイルバス中で約4時間、撹拌した。
【0156】
次に、2−ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)39.47g(0.34モル)、重合禁止剤としてp−メトキシフェノール(MEHQ)0.20gを三つ口フラスコ内に添加し、80℃のオイルバス中で撹拌した。約3時間後、反応溶液から、H−NMR及びFT/IRを使用して反応の確認を行い、所定の化合物が得られていることを確認した。さらに、粗化合物はn−ヘキサンとアセトニトリルにて抽出・洗浄し、n−ヘキサン層を回収して、減圧下にて有機溶媒ならびに低分子化合物を留去した。精製化合物(マクロモノマーA(上記式(22))522.33g(収率81%)を得た。分析結果は以下の通りである。
【0157】
H−NMR(in CDCl);δ0.06ppm(Si−CH,m),0.52(Si−CH,2H,m),2.91(NH−CH,2H,d),3.02(CH−N=C=O,2H,s),3.42(−O−CH,2H,t),3.61(−O−CH,2H,m),4.18−4.34(−(O)CO−CH−,6H,m),4.54(NH,1H,s),4.85(NH,1H,s),5.84(CH=,1H,dd),6.14(CH=,1H,dd),6.43(CH=,1H,dd)FT/IR;1,262及び802cm−1(Si−CH),1,094及び1,023(Si−O−Si),1,632(C=C)1,728付近(C=O、エステル及びウレタン)
【0158】
<使用成分>
以下の実施例で用いられている略称の意味を示す。
・Green6:1,4−ビス(p−メチルフェニルアミノ)アントラキノン
・Violet2:1−(p−メチルフェニルアミノ)−4−ヒドロキシアントラキノン
・マクロモノマーA(ポリジメチルシロキサン構造と不飽和二重結合とがウレタン結合を介して存在するマクロモノマー):合成例14で合成した上記一般式(23)で表される化合物
・TRIS:トリス(トリメチルシロキシ)シリルプロピルメタクリレート
・DMAA:N,N−ジメチルアクリルアミド
・N−VP:N−ビニルピロリドン
・2−MTA:2−メトキシエチルアクリレート
・2−HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
・AMA:アリルメタクリレート
・EDMA:エチレングリコールジメタクリレート
・HMPPO:2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン
・AIBN:2,2’−アゾビスイソブチロニトリル
【0159】
[実施例1]
色素として上記合成例にて合成したアントラキノン系色素1を0.02質量部、眼用レンズ用モノマーとして、マクロモノマーAを30.0質量部、TRISを25.0質量部、DMAAを15.0質量部及びN−VPを30.0質量部、架橋剤としてEDMAを0.4質量部、重合開始剤としてHMPPOを0.4質量部含む眼用レンズ材料用の組成物を調製した。これらの組成物を、コンタクトレンズ形状を有する鋳型(ポリプロピレン製、直径約14mm及び厚さ0.1mmのコンタクトレンズに対応)内に注入し次いでこの鋳型に紫外線を20分間照射して光重合を行った。重合後、鋳型からコンタクトレンズ形状の硬化物を得て、生理食塩液中に浸漬し、吸水させて水和処理を施し、実施例1の眼用レンズ用材料を得た。
【0160】
[実施例2]
色素として上記合成例にて合成したアントラキノン系色素4を0.02質量部用いた以外は上記実施例1と同様にして、実施例2の眼用レンズ用材料を得た。
【0161】
[実施例3]
色素として上記合成例にて合成したアントラキノン系色素6を0.02質量部用いた以外は上記実施例1と同様にして、実施例3の眼用レンズ用材料を得た。
【0162】
[実施例4]
色素として上記合成例にて合成したアントラキノン系色素8を0.02質量部用いた以外は上記実施例1と同様にして、実施例4の眼用レンズ用材料を得た。
【0163】
[実施例5]
色素として上記合成例にて合成したアントラキノン系色素10を0.02質量部用いた以外は上記実施例1と同様にして、実施例5の眼用レンズ用材料を得た。
【0164】
[実施例6]
色素として上記合成例にて合成した高分子アントラキノン系色素1を0.02質量部用いた以外は上記実施例1と同様にして、実施例6の眼用レンズ用材料を得た。
【0165】
[実施例7]
色素として上記合成例にて合成した高分子アントラキノン系色素2を0.02質量部用いた以外は上記実施例1と同様にして、実施例7の眼用レンズ用材料を得た。
【0166】
[実施例8]
色素として上記合成例にて合成したアントラキノン系色素1を0.02質量部、眼用レンズ用モノマーとして、マクロモノマーAを10.0質量部、TRISを25.0質量部、N−VPを40.0質量部及び2−MTAを25質量部、架橋剤としてAMAを0.4質量部、重合開始剤としてHMPPOを0.4質量部含む眼用レンズ材料用の組成物を調製したこと以外は実施例1と同様にして実施例8の眼用レンズ材料を得た。
【0167】
[実施例9]
色素として上記合成例にて合成したアントラキノン系色素4を0.02質量部用いたこと以外は上記実施例8と同様にして実施例9の眼用レンズ材料を得た。
【0168】
[実施例10]
色素として上記合成例にて合成したアントラキノン系色素6を0.02質量部用いたこと以外は上記実施例8と同様にして実施例10の眼用レンズ材料を得た。
【0169】
[実施例11]
色素として上記合成例にて合成したアントラキノン系色素8を0.02質量部用いたこと以外は上記実施例8と同様にして実施例11の眼用レンズ材料を得た。
【0170】
[実施例12]
色素として上記合成例にて合成したアントラキノン系色素10を0.02質量部用いたこと以外は上記実施例8と同様にして実施例12の眼用レンズ材料を得た。
【0171】
[実施例13]
色素として上記合成例にて合成した高分子アントラキノン系色素1を0.02質量部用いたこと以外は上記実施例8と同様にして実施例13の眼用レンズ材料を得た。
【0172】
[実施例14]
色素として上記合成例にて合成した高分子アントラキノン系色素2を0.02質量部用いたこと以外は上記実施例8と同様にして実施例14の眼用レンズ材料を得た。
【0173】
[実施例15]
色素として上記合成例にて合成したアントラキノン系色素1を0.02質量部、眼用レンズ用モノマーとして、N−VPを15.0質量部及び2−HEMAを85.0質量部、架橋剤としてAMAを1.0質量部及びEDMAを1.0質量部、重合開始剤としてHMPPOを0.4質量部含む眼用レンズ材料用の組成物を調製したこと以外は実施例1と同様にして実施例15の眼用レンズ材料を得た。なお、実施例15で使用した各眼用レンズ用モノマーはポリジメチルシロキサン構造を有さないものである。
【0174】
[実施例16]
色素として上記合成例にて合成したアントラキノン系色素4を0.02質量部用いた以外は上記実施例15と同様にして実施例16の眼用レンズ材料を得た。
【0175】
[実施例17]
色素として上記合成例にて合成したアントラキノン系色素6を0.02質量部用いた以外は上記実施例15と同様にして実施例17の眼用レンズ材料を得た。
【0176】
[実施例18]
色素として上記合成例にて合成したアントラキノン系色素8を0.02質量部用いた以外は上記実施例15と同様にして実施例18の眼用レンズ材料を得た。
【0177】
[実施例19]
色素として上記合成例にて合成したアントラキノン系色素10を0.02質量部用いた以外は上記実施例15と同様にして実施例19の眼用レンズ材料を得た。
【0178】
[実施例20]
色素として上記合成例にて合成したアントラキノン系色素1を0.02質量部、眼用レンズ用モノマーとして、マクロモノマーAを30.0質量部、TRISを25.0質量部、DMAAを15.0質量部及びN−VPを30.0質量部、架橋剤としてEDMAを0.4質量部、重合開始剤としてAIBNを0.4質量部含む眼用レンズ材料用の組成物を調製した。上記組成物を、コンタクトレンズ形状を有する鋳型(ポリプロピレン製、直径約14mm及び厚さ0.1mmのコンタクトレンズに対応)内に注入し、次いでこの鋳型を90℃に調節された乾燥機にて60分間熱重合を行った。重合後、鋳型からコンタクトレンズ形状の重合体を得、生理食塩液中に浸漬し、吸水させて水和処理を施し、実施例20の眼用レンズ用材料を得た。
【0179】
[比較例1]
色素として、Green6を0.02質量部用いたこと以外は実施例1と同様にして比較例1の眼用レンズ材料を得た。
【0180】
[比較例2]
色素として、Violet2を0.02質量部用いたこと以外は実施例1と同様にして比較例2の眼用レンズ材料を得た。
【0181】
[比較例3]
色素として、Green6を0.02質量部用いたこと以外は実施例8と同様にして比較例3の眼用レンズ材料を得た。
【0182】
[比較例4]
色素として、Violet2を0.02質量部用いたこと以外は実施例8と同様にして比較例4の眼用レンズ材料を得た。
【0183】
[比較例5]
色素として、Green6を0.02質量部用いたこと以外は実施例15と同様にして比較例5の眼用レンズ材料を得た。
【0184】
[比較例6]
色素として、Violet2を0.02質量部用いたこと以外は実施例15と同様にして比較例6の眼用レンズ材料を得た。
【0185】
なお、上記実施例1〜20及び比較例1〜6の組成物の配合量(質量部)は、再度以下の表2〜表5に示す。
【0186】
【表2】
【0187】
【表3】
【0188】
【表4】
【0189】
【表5】
【0190】
<評価>
上記実施例1〜20及び比較例1〜6で得られた各眼用レンズ用材料の外観、レンズ規格、吸光度及び抽出率を以下のように評価した。その結果を表6〜表9に示す。なお、表中の「−」は測定していないことを示す。
(1)外観
得られた着色コンタクトレンズの外観(色、透明性、異物の有無、変形の有無)を目視にて調べた。
(2)レンズ規格
20℃に調節した流通保存液中にて、レンズ3枚の直径を測定した。
(3)吸光度測定
積分球を使用してレンズの可視吸収スペクトルを測定し、着色剤に基づく吸収のλmaxを測定した。
(4)抽出率
レンズからの色素の溶出挙動(色素の重合性)を確認するため、コンタクトレンズを眼脂成分(ワックスエステル)2mL、又はアセトン2mLに浸漬し、24時間室温で抽出し、抽出前後での色素由来の吸収を紫外可視分光光度計にて測定した。測定の際は上記(3)の装置及びレンズ測定用積分球を使用した。各色素由来のピークについて最大吸光度を用い、以下の式に従って抽出率を測定した。なお、ワックスエステル又はアセトンによる抽出試験のそれぞれにおいて、レンズ3枚を使用し、レンズ個々について以下の式を用いて抽出率を求め、平均値を表示した。
【0191】
抽出率(%)={(抽出前の吸光度−抽出後の吸光度)/抽出前の吸光度}×100
なお、抽出率が低いことは、色素がレンズから溶出しないことを意味している。
【0192】
【表6】
【0193】
【表7】
【0194】
【表8】
【0195】
【表9】
【0196】
本実施例で示されるように、実施例1〜20のアントラキノン系色素又は高分子アントラキノン系色素を色素として用いて製造された眼用レンズ用材料の最大吸収波長λmaxは、含有された色素自体の最大吸収波長λmaxと差が少なく、重合前後で色相差がほとんど無いことが示された。また、実施例1〜20の眼用レンズ用材料は、アセトン及びワックスエステルによる抽出率が、比較例1〜6の眼用レンズ用材料と比べて極めて低く、色素が他のレンズ成分と強く結合又は相互作用していることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0197】
本発明のアントラキノン系色素は他のモノマーと強く結合することができるため、眼用レンズ材料の着色剤として使用することができる。この眼用レンズ材料は、例えば、コンタクトレンズ、眼内レンズ、人工角膜、角膜オンレイ、角膜インレイ等の眼用レンズに好適に使用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
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図20