(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、例えば腹部から下肢部にかけての動脈などを撮像する場合においては、血管全体を良好に造影するために多量の造影剤を注入しながら撮像を行う必要がある。しかしながら、造影剤の副作用や造影剤のコスト等の観点から、従来に比べて少量の造影剤量で、かつ良好な造影を行うことができる装置の開発が望まれている。特に、クレアチニン値が高い被験者や副作用が出やすい被験者の場合には、副作用の問題は重要である。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、広い撮像範囲を撮像する場合であっても従来より少量の造影剤で被撮像体(例えば腹部から下肢部にかけての動脈)を良好に撮像することができる、薬液注入装置および透視撮像システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の薬液注入システムは、
被験者に対して造影剤を注入する注入ヘッドと、造影剤の注入条件を設定するためのコントローラ装置とを備えるとともに、該コントローラ装置が透視撮像装置と通信するように構成された薬液注入装置であって、
前記コントローラ装置は、
透視撮像装置によって撮像される、被験者の第1の部位から第2の部位までの距離が入力される処理と、
造影剤が前記第1の部位に到達するまでの時間t1が入力される処理と、
造影剤が前記第2の部位に到達するための時間t2が入力される処理と、
前記第1の部位から第2の部位までの距離および前記時間t1、t2に基づいて造影剤の流動速度を計算する処理と、
前記流動速度に対応する、透視撮像装置のベッドの移動速度を決定する処理と、
そのベッドの移動速度をコントローラ装置のディスプレイに表示する処理と、
を行うことを特徴とする。
【0008】
「前記流動速度に対応する、透視撮像装置のベッドの移動速度を決定する」とは、流動速度とベッドの移動速度とがまったく同じであってもよいし、両速度の間に多少の差があってもよいことを意図している。
【0009】
「時間t1が入力される処理」および「時間t2が入力される処理」においては、時間t1、t2が医師等によってコントローラ装置に手入力されるものであってもよいし、あるいは、透視撮像装置が時間t1、t2を計測し、その時間の情報が、透視撮像装置とコントローラ装置との相互通信によって該コントローラ装置に自動的に入力されるものであってもよい。
【0010】
このような構成によれば、造影剤が流れていく速度に合わせて透視撮像装置のベッドを移動させてスキャンを行うことができるので、例えば腹部から下肢部にかけての血管といった広い撮像範囲を撮像する場合であっても、少量の造影剤で良好に造影を行うことができる。また、このような撮像方式によれば、従来のものに比べて被爆量をより低減することができる。
【0011】
本発明の他の態様によれば、
前記コントローラ装置は、さらに、
前記ベッドの移動速度の情報を前記透視撮像装置に送る処理を行う。
【0012】
前記コントローラ装置は、さらに、
前記時間t1に所定の付加時間を加えることによってスキャン開始時間を決定する処理と、
該スキャン開始時間の情報を前記透視撮像装置に送る処理を行う。
【0013】
このような構成によれば、コントローラ装置から所定の情報が透視撮像装置に自動的に送られるので、透視撮像装置がこの情報に基づいてスキャン条件を自動で設定することが可能となり、医師等が透視撮像装置側で条件を設定する作業が不要となる。
【0014】
本発明の他の態様によれば、
前記コントローラ装置はさらに、被験者の体重が入力される処理を行うものであって、
スキャン開始時間を決定する処理では、
被験者の体重の区分と前記付加時間との対応テーブルを参照して、入力された前記体重に対応する付加時間を決定し、前記時間t1に該付加時間を加えることによって被験者に応じたスキャン開始時間を決定する。
【0015】
なお、「コントローラ装置」は独立した装置として設けられていてもよいし、または、他の機器の機能の一部として設けられていてもよい。例えば、透視撮像装置の制御機器の一部にコントローラ装置が組み込まれていてもよい。
【発明の効果】
【0016】
上述したように、本発明によれば、広い撮像範囲を撮像する場合であっても従来より少量の造影剤で被撮像体(例えば腹部から下肢部にかけての動脈)を良好に失敗することなく撮像することができる薬液注入装置および透視撮像システムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施の一形態を説明する。
図1に示すように、本実施形態の透視撮像システム1は、薬液注入装置100と、それと連動可能な透視撮像装置300とを備え、注入装置100は、被験者に対して造影剤を注入する注入ヘッド110およびその注入条件を設定するためのコントローラ装置150を含んでいる。
【0019】
注入ヘッド110は、造影剤が充填されたシリンジと生理食塩水が充填されたシリンジとが装着される二筒式のものであってもよいし、造影剤が充填されたシリンジのみが充填される一筒式のものであってもよい。シリンジとしては、筒状のシリンダ部材にピストン部材がスライド可能に挿入された従来公知のプレフィルドタイプを利用することができる。
【0020】
注入ヘッド110は、図示は省略するが、各シリンジのピストン部材を押し込むピストン駆動機構を有している。このピストン駆動機構には、ピストン部材を押圧する圧力を検出するためのロードセルが設けられていてもよい。注入ヘッド110は、また、シリンジに取り付けられたICタグの情報を読み取るためのタグリーダ(不図示)を有していてもよい。
【0021】
なお、ICタグには、シリンジに関する情報(シリンジの識別データ(例えばロットナンバー)、シリンダ部材の耐圧、シリンダ部材の内径、ピストン部材のストローク等)や、該シリンジに充填された薬液の情報(名称(製品名)、ヨード量などの成分情報、粘度、消費期限等)を記録可能である。
【0022】
コントローラ装置150はタッチパネル式のディスプレイ151を有している。このディスプレイ151には、例えば注入条件を設定するための画像が表示される(詳細下記)。ディスプレイ151には、また、シリンジ内の薬液の情報や、薬液注入中の薬液の注入圧力(ピストン部材を押す力)の情報等も表示される。なお、ディスプレイは複数あってもよいし、サブディスプレイが注入ヘッドに備えられていてもよい。
【0023】
コントローラ装置150は、
図1に示すように、注入ヘッド110および透視撮像装置300(詳細下記)に接続されており、これらと相互に通信可能である。なお、
図1では有線接続の例が示されているが、当然ながら無線方式により相互に通信する構成であってもよい。
【0024】
透視撮像装置300は公知のものを利用することができ、被験者を載せて水平方向に移動するベッド303と、ベッド303が所定の速度で移動している間に被検者の透視画像を撮像する装置本体302と、モニタおよびキーボード等を有する制御部(不図示)と、を備えている。
図1の透視撮像装置300では被験者は頭を装置本体302側に向けてベッド303上に横たわり、装置本体302によって頭側から下肢側に向かって撮像が行われる。
なお、下肢側から頭部側に向かって撮像が行われることもある。
【0025】
図2は本実施形態の薬液注入装置のディスプレイ151に表示される画像である。
図2に示すように、ディスプレイ151には、複数のウィンドウ52〜54が表示されている。そのうちの1つのウィンドウ53内には人体を上から見た模式画像65が表示されている。この人体模式画像65には、腹部から下肢部に延びる動脈が模式的に表示されている。
【0026】
人体模式画像65を横切るようにして、2本の縦方向のラインL1、L2が表示されている。ラインL1の位置は撮像範囲の始端に対応しており、ラインL2の位置は撮像範囲の終端に対応している。
【0027】
ラインL1の下には、造影剤がL1の位置(第1の部位)に到達するまでの時間t1を入力するための画像ボタン63Aが表示されている。同様に、ラインL2の下には、造影剤がL2の位置(第2の部位)に到達するまでの時間t2を入力するための画像ボタン63Bが表示されている。
【0028】
この時間t1およびt2は、本スキャンに先行して行われる監視スキャンで医師によって計測されたものであってもよい。または、監視スキャンにおいて透視撮像装置によって自動的に計測されるものであってもよい。
【0029】
人体模式画像65の上には、ラインL1、L2間の距離(ベッド移動距離に相当する)を入力するための画像ボタン62が表示されている。人体模式画像65の左側には、3つの画像ボタン67A〜67Cが縦に並んで表示されている。画像ボタン67Aは被験者の体重を入力するためのものであり、画像ボタン67Bは造影剤濃度を入力するためのものであり、画像ボタン67Cは薬液の注入速度を入力するためのものである。
【0030】
人体模式画像65の右側には、コントローラ装置150によって計算されたベッド移動速度(詳細後述)の表示部66Aと、スキャン開始時間の表示部66Bが表示されている。
【0031】
コントローラ装置151は、より具体的には、次のような処理を行う。
【0032】
透視撮像装置300によって撮像される、被験者の第1の部位から第2の部位までの距離が入力される処理と、
造影剤がその第1の部位に到達するまでの時間t1が入力される処理と、
造影剤がその第2の部位に到達するための時間t2が入力される処理と、
上記第1の部位から第2の部位までの距離および時間t1、t2に基づいて造影剤の流動速度を計算する処理と、
流動速度に対応する、透視撮像装置のベッド303の移動速度を決定する処理と、
ベッドの移動速度の情報を透視撮像装置300に送る処理と、
上記時間t1に所定の付加時間を加えることによってスキャン開始時間を決定する処理と、
該スキャン開始時間の情報を透視撮像装置300に送る処理。
【0033】
図1の透視撮像装置300はコントローラ装置150と相互通信するようになっており、後述するように、コントローラ装置150から送られたベッド移動速度の情報にしたがってベッド303を移動させる。また、コントローラ装置150からスキャン時間の情報を受け、薬液注入を開始した後そのスキャン時間が経過した時点から撮像(本スキャン)を開始する。
【0034】
次に、以上のように構成された本実施形態の透視撮像システム1の動作について説明する。
【0035】
まず、造影剤が第1の部位に到達するまでの時間t1を計測するために、1回目のテストショットを行う(ステップS1)。このテストショットでは注入ヘッド110から少量(一例で10ml)の造影剤を被験者に注入してTDCカーブ(Time Density Curve:時間濃度曲線)を作成し、そのピークの時間がt1とされる
【0036】
次いで、造影剤が第2の部位に到達するまでの時間t2を計測するために、2回目のテストショットを行う(ステップS2)。この工程は上記工程と同様に実施可能であり、TDCカーブのピークの時間がt2とされる。
【0037】
このように2回のテストショットにより、時間t1、t2を得ることができる。
【0038】
なお、時間t1、t2を計測するためには、上記のようなテストインジェクション法の他、撮像部位の断面をリアルタイムにモニタリングしながら造影剤の到達時間を計測するボーラストラッキング法を利用してもよい。
【0039】
次いで、コントローラ装置150のディスプレイ151を通じて、上記工程で計測した時間t1、t2と、撮像範囲の距離とを入力する。具体的には、
図2に示す画像ボタン62にタッチし、それにより表れる不図示のテンキーボタン(一例)から数値入力することによって撮像範囲の距離が入力される。この例では、撮像範囲の距離は300mmである。
【0040】
また、時間t1は、画像ボタン63Aにタッチし、それによりプルダウン方式(一例)で表れる複数の選択肢の中から1つを選ぶことにより入力される(この例では12sec)。同様に、時間t2は、画像ボタン63Bにタッチし、それによりプルダウン方式(一例)で表れる複数の選択肢の中から1つを選ぶことにより入力される(この例では15sec)。
【0041】
また、ディスプレイ151を通じて、被験者の体重および造影剤のヨード量が入力される。具体的には、画像ボタン67Aにタッチし、それにより現れる不図示のテンキーボタン(一例)から数値入力することにより被験者体重が入力される。また画像ボタン67Bをタッチし、それによりプルダウン方式(一例)で表れる複数の選択肢の中から1つを選ぶことによりヨード量が入力される。
【0042】
画像67Cは薬液注入速度の表示であり、この例では、5.0mL/secである。特に限定されるものではないが、画像ボタン67Cにタッチし、それにより現れる不図示のテンキーボタン(一例)から数値入力することによりこの数値を変更できるように構成されていてもよい。
【0043】
撮像範囲の距離および時間t1、t2が入力されたら、次いで、コントローラ装置150は、これらの数値に基づいて造影剤の流動速度を計算する(ステップS4)。具体的には、時間t1が12sec、時間t2が15sec、撮像範囲の距離が300mmのこの例の場合、造影剤の流動速度は100mm/secと計算される。コンピュータ装置150は、この流動速度100mm/secをベッド移動速度として決定し、その速度をディスプレイの表示部66Aに表示する。
【0044】
上記の説明では、造影剤の流動速度100mm/secをそのままベッド移動速度として決定しているが(つまり造影剤の流動速度とベッド移動速度とが同一であるが)、本発明はこれに限定されるものではない。
【0045】
コンピュータ装置150は、さらに、造影剤が第1の部位に到達するまでの時間t1を基礎として、透視撮像装置300がスキャンを開始する時間(スキャン開始時間)を計算する。具体的には、時間t1(ここでは12秒)に所定の付加時間(ここでは4秒)を加えた「16秒」をスキャン開始時間として決定し、このスキャン開始時間をディスプレイの表示部66Bに表示する。
【0046】
コントローラ装置150は、被験者の体重の区分と所定の付加時間との対応テーブル(不図示)を有しており、この対応テーブルを参照して付加時間を決定する。例えば、被験者体重が67.5Kg以下の場合には+4sec(
図4の符号a参照)、90.0Kg以下の場合には+7sec(符号b参照)、112.5Kg以下の場合は+11sec(符号c参照)である。
【0047】
なお、この付加時間は対応テーブルを参照して決定されてもよいし、あるいは、所定の計算式に被験者の体重を代入して計算されるものであってもよい。
【0048】
被験者の体重が増えるにつれて付加時間が長くなる理由は次のような理論による。すなわち、被験者の体重が増えるほど注入される造影剤量が増加し、
図4に示すように、TDC(Time Density Curve)カーブのピーク時間が遅延することとなる。そのため、これに合わせて、透視撮像装置のスキャン開始のタイミングも遅らせる必要がある。
【0049】
そこで本実施形態では、これを考慮して、テストショットにおける時間t1(12sec)に被験者の体重を考慮した所定の付加時間(例えば4、7、11sec)を加えるようにしている。これにより、被験者の体重に応じたて適切なタイミングでスキャンを開始することが可能となる。
【0050】
再び本システムの動作の説明に戻る。上記工程(S4)でベッド移動速度とスキャン開始時間とが決定されたら、次いで、コントローラ装置150は透視撮像装置300にこれらの情報を送る(ステップS5)。
ここまでの工程により、本スキャン前の準備が完了する。
【0051】
その後、透視撮像装置300は、コントローラ装置150から送られたベッド移動速度(この例では100mm/sec)でベッド303を移動させる。注入ヘッド110による注入開始から所定時間経過後(この例では16sec後)、ベッドを移動させながら、装置本体302を動作させてスキャンを開始する(ステップS6)。スキャンは、被験者の第1の部位から第2の部位まで行われる。
【0052】
以上説明したような本実施形態のシステム1によれば、造影剤が流れていく速度に合わせて透視撮像装置のベッドを移動させながらスキャンを行うものである。よって、例えば腹部から下肢部にかけての動脈を撮像する場合であっても、少量の造影剤で良好に造影を行うことができる。
【0053】
ここで、造影剤が腹部や下肢部に到達する時間には個体差があるが、本実施形態のシステムによれば、本スキャン前のテストショットで計測した時間t1、t2を用いてベッドの移動速度を計算する。そのため、各被験者に応じた適切なベッド移動速度を得ることができる。なお、上記のような個体差がある理由の1つは、体重、身長、血管状態(例えば血管の硬さ)などの違いによって被験者ごとに血流速度が違うためである。
【0054】
また、上記実施形態では、コントローラ装置150で決定された「ベッド移動速度」と「スキャン開始時間」の情報が透視撮像装置300に送られ、透視撮像装置300が自動的にこれに連動する(すなわち、撮像装置300がそのスキャン開始時間の情報に基づいて動作する)ようになっている。よって、医師等が透視撮像装置300側で条件を設定する作業が不要となる。
【0055】
もっとも、本発明は上記に限定されるものではなく、「ベッド移動速度」と「スキャン開始時間」の情報が単にディスプレイ151上に表示されるものであってもよい。このような構成であっても、医師等がこれらの情報を確認し手入力で透視撮像装置の条件を設定することにより、上述した本発明による効果を得ることができるためである。
【0056】
本実施形態のシステムによれば、造影剤が流れていく速度に合わせて透視撮像装置のベッドを移動させながらスキャンを行うものである。よって、従来のものに比べて被爆量を低減させることができる。特に、近年、撮像装置の性能が向上し撮像時間が短時間化しているが、そのような撮像装置を利用すれば、上記被爆量の低減効果をより顕著に得ることができる。
【0057】
なお、上記実施形態では時間t1、t2およびL1−L2間の距離を医師等が手入力する例について説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、透視撮像装置300がコントローラ装置150と相互通信し、透視撮像装置側からコントローラ装置に時間t1、t2および/またはL1−L2間の距離が自動的に入力されるようになっていてもよい。
また、L1−L2間の距離が入力される構成に限らず、L1の位置およびL2の位置を入力するとL1−L2間の距離が自動計算される構成であってもよい。
【0058】
上記実施形態の他にも、例えば、タッチパネルではなくマウスやキーボード等の入力手段を用いてコントローラ装置150に所定の情報が入力される構成であってもよい。また、コントローラ装置150がネットワークに接続されており、ネットワーク経由でコントローラ装置150に薬液注入条件やスキャン条件などのデータが与えられるように構成されていてもよい。