(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記入力ステップにて、さらに、前記第1のキャビティ基準断面と前記第1のノード基準断面との間に位置し、且つそれらの断面に平行な第1のセグメント基準断面であって、前記電線が当該第1のセグメント基準断面を通過する第5の通過点が前記第1の通過点よりも単位面積当たりに占める密度が密である第1のセグメント基準断面と、前記第2のキャビティ基準断面と前記第2のノード基準断面との間に位置し、且つそれらの断面に平行な第2のセグメント基準断面であって、前記電線が当該第2のセグメント基準断面を通過する第6の通過点が前記第4の通過点よりも単位面積当たりに占める密度が密である第2のセグメント基準断面と、を特定するための情報の入力を受け付け、
前記通過点算出ステップにて、さらに、前記第5の通過点、及び、前記第6の通過点を算出し、
前記区間線長算出ステップにて、さらに、前記第1の通過点の位置座標及び前記第5の通過点の位置座標に基づく前記第1のキャビティ基準断面−前記第1のセグメント基準断面区間における区間線長の算出、前記第5の通過点の位置座標及び前記第2の通過点の位置座標に基づく前記第1のセグメント基準断面−前記第1のノード基準断面区間における区間線長の算出、前記第3の通過点の位置座標及び前記第6の通過点の位置座標に基づく前記第2のノード基準断面−前記第2のセグメント基準断面区間における区間線長の算出、及び前記第6の通過点の位置座標及び前記第4の通過点の位置座標に基づく前記第2のセグメント基準断面−前記第2のキャビティ基準断面区間における区間線長の算出を行う、
ことを特徴とする請求項1記載の電線長出力方法。
前記通過点算出ステップにて、前記第1のキャビティ基準断面上の第1の通過点の分布が前記第1のノード基準断面または前記第1のセグメント基準断面に縮小して投影されたものとして前記第2の通過点または前記第5の通過点を算出し、前記第2のキャビティ基準断面上の第4の通過点の分布が前記第2のノード基準断面または前記第2のセグメント基準断面に縮小して投影されたものとして前記第3の通過点または前記第6の通過点を算出する、
ことを特徴とする請求項1または2記載の電線長出力方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ワイヤハーネスをモデル化するにあたって、そのワイヤハーネスを構成する電線の長さ(以下、単に、電線長と称する。)を定める必要がある。ところで、近年では、ワイヤハーネスを製造工程における、治具板上での電線の配索作業効率向上のために、ワイヤハーネスの設計段階において、治具板に電線が配索されたワイヤハーネスをモデル化することがなされている(特許文献2参照。)。こうしたワイヤハーネスをモデル化する場合に電線長として適切な数値が設定されていないと、例えば次のことが起こりえる。
【0005】
すなわち、電線長が理想値よりも小さく設定されていると、電線の一端に接続されたコネクタが治具板上に配置されたコネクタ固定具に届かず、当該電線を適切に配索できない、或いは、コネクタ固定具に届き配索されたとしても電線に過剰な張力が作用する、といった状態でモデル化される。他方、電線長が理想値よりも大きく設定されていると、配索された電線に過剰な湾曲が形成され、他の電線がその湾曲した部分に絡まった状態でモデル化される。
【0006】
電線長に適切な数値が設定されているか否かは、治具板に配索された状態でモデル化されたワイヤハーネスを視認した解析者が判断する。解析者が電線長に適切な数値が設定されていないと判断した場合には再度、電線長に数値を設定し、ワイヤハーネスをモデル化することとなる。こうした電線長を設定するために要する手間を軽減するために、モデル化する前に電線長を算出することができる手法が求められる。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、治具板に配索されたワイヤハーネスをモデル化する前に、該ワイヤハーネスを構成する電線の電線長を算出することができる電線長出力方法及び電線長出力プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した目的を達成するために、本発明に係る電線長出力方法は、下記(1)〜(3)を特徴としている。
(1) 治具板上に配索される、一端が第1のコネクタに接続され他端が第2のコネクタに接続される
複数の電線の線長を該電線毎に計算するための
、コンピュータによって実行される電線長出力方法であって、
少なくとも、前記第1のコネクタに連結された前記電線の一端を含む平面である第1のキャビティ基準断面と、前記第2のコネクタに連結された前記電線の他端を含む平面である第2のキャビティ基準断面と、
前記複数の電線に対して設定された前記電線が屈曲する
複数の屈曲箇所のうち対応する屈曲箇所から前記第1のキャビティ基準断面側に所定距離離れて位置する、前記第1のキャビティ基準断面に平行な平面である第1のノード基準断面と、前記
対応する屈曲箇所から前記第2のキャビティ基準断面側に前記所定距離離れて位置する、前記第2のキャビティ基準断面に平行な平面である第2のノード基準断面と、を特定するための情報
の入力を受け付ける入力ステップと、
前記電線が前記第1のキャビティ基準断面を通過する第1の通過点を、前記複数の電線に対して設定された前記第1のコネクタの複数のキャビティのうち対応するキャビティの位置を特定することによって算出し、前記電線が前記第1のノード基準断面を通過する第2の通過点を、前記第1の通過点と前記対応する屈曲箇所とを繋ぐ線分が前記第1のノード基準断面と交わる点、又は、前記第1の通過点が前記第1のノード基準断面に対して前記線分の延在方向に投影された点として算出し、前記電線が前記第2のキャビティ基準断面を通過する第4の通過点を、前記複数の電線に対して設定された前記第2のコネクタの複数のキャビティのうち対応するキャビティの位置を特定することによって算出し、前記電線が前記第2のノード基準断面を通過する第3の通過点を、前記第4の通過点と前記対応する屈曲箇所とを繋ぐ線分が前記第2のノード基準断面と交わる点、又は、前記第4の通過点が前記第2のノード基準断面に対して前記線分の延在方向に投影された点として算出する通過点算出ステップと、
前
記第1の通過点の位置座標及び前
記第2の通過点の位置座標に基づく前記第1のキャビティ基準断面−前記第1のノード基準断面区間における区間線長の算出、前
記第2の通過点の位置座標、前
記第3の通過点の位置座標及び前記
対応する屈曲箇所における前記電線の屈曲角度に基づく前記第1のノード基準断面−前記第2のノード基準断面区間における区間線長の算出、及び前
記第3の通過点の位置座標及び前
記第4の通過点の位置座標に基づく前記第2のノード基準断面−前記第2のキャビティ基準断面区間における区間線長の算出、を行う区間線長算出ステップと、
前記
区間線長算出ステップにて算出した各区間における区間線長を合算したものを前記電線の線長として出力する出力ステップと、
を有すること。
(2) 上記(1)の構成の電線長出力方法であって、
前記入力ステップにて、さらに、前記第1のキャビティ基準断面と前記第1のノード基準断面との間に位置し、且つそれらの断面に平行な第1のセグメント基準断面であって、
前記電線が当該第1のセグメント基準断面を通過する第5の通過点が前記第1の通過点よりも単位面積当たりに占める密度が密である第1のセグメント基準断面と、前記第2のキャビティ基準断面と前記第2のノード基準断面との間に位置し、且つそれらの断面に平行な第2のセグメント基準断面であって、
前記電線が当該第2のセグメント基準断面を通過する第6の通過点が前記第4の通過点よりも単位面積当たりに占める密度が密である第2のセグメント基準断面と、を特定するための情報
の入力を受け付け、
前記通過点算出ステップにて、さらに、
前記第5の通過点、及び、前記第6の通過点を算出し、
前記区間線長算出ステップにて、さらに、前記第1の通過点の位置座標及び前記第5の通過点の位置座標に基づく前記第1のキャビティ基準断面−前記第1のセグメント基準断面区間における区間線長の算出、前記第5の通過点の位置座標及び前記第2の通過点の位置座標に基づく前記第1のセグメント基準断面−前記第1のノード基準断面区間における区間線長の算出、前記第3の通過点の位置座標及び前記第6の通過点の位置座標に基づく前記第2のノード基準断面−前記第2のセグメント基準断面区間における区間線長の算出、及び前記第6の通過点の位置座標及び前記第4の通過点の位置座標に基づく前記第2のセグメント基準断面−前記第2のキャビティ基準断面区間における区間線長の算出を行う、
こと。
(3) 上記(1)または(2)の構成の電線長出力方法であって、
前記通過点算出ステップにて、前記第1のキャビティ基準断面上の第1の通過点の分布が前記第1のノード基準断面または前記第1のセグメント基準断面に縮小して投影されたものとして前記第2の通過点または前記第5の通過点を算出し、前記第2のキャビティ基準断面上の第4の通過点の分布が前記第2のノード基準断面または前記第2のセグメント基準断面に縮小して投影されたものとして前記第3の通過点または前記第6の通過点を算出する、
こと。
【0009】
前述した目的を達成するために、本発明に係る電線長出力プログラムは、下記(4)を特徴としている。
(4) コンピュータに、上記(1)から(3)のいずれか1つの構成の電線長出力方法の各ステップを実行させるための電線長出力プログラム。
【0010】
上記(1)の構成の電線長出力方法によれば、治具板に配索されたワイヤハーネスをモデル化する前に、該ワイヤハーネスを構成する電線の電線長を算出することができる。
上記(2)の構成の電線長出力方法によれば、ワイヤハーネスを構成する電線の電線長を、実際のワイヤハーネスの形状により則して算出することができる。
上記(3)の構成の電線長出力方法によれば、ワイヤハーネスを構成する電線の電線長を、実際のワイヤハーネスの形状により則して算出することができる。
上記(4)の構成の電線長出力プログラムによれば、治具板に配索されたワイヤハーネスをモデル化する前に、該ワイヤハーネスを構成する電線の電線長を算出することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電線長出力方法及び電線長出力プログラムによれば、治具板に配索されたワイヤハーネスをモデル化する前に、該ワイヤハーネスを構成する電線の電線長を算出することができる。この結果、算出された適切な電線長をモデル化される電線の電線長として設定することにより、解析者が電線長に適切な数値が設定されていないと判断した場合に再度、電線長に数値を設定して再計算する手間を軽減することができる。
【0012】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態のワイヤハーネス解析装置による電線長出力方法について詳細に説明する。
【0015】
[電線−電線間の応力が考慮されたワイヤハーネスシミュレーション手法]
本発明の実施形態について説明する前に、まず、電線の応力が考慮されたワイヤハーネスシミュレーション手法の一例について説明する。
【0016】
ワイヤハーネスを構成する電線−電線間に作用する応力を考慮したアルゴリズムとしては、「原子間力ポテンシャルを用いたワイヤーハーネスシミュレーション手法の基礎的検討:武居 周、松嶋 基、小宮 茂、山本 一郎、日本機械学会計計算力学講演会論文集」のなかで基礎的検討がなされている。この非特許文献のなかでは、CADによるワイヤーハーネス設計において、ワイヤーの剛性が考慮され、かつワイヤー同士の貫入を回避するような手法として、これまでに提案されている力学モデルに対して新たに原子間力ポテンシャルを考慮することによって、ワイヤー同士の貫通を回避するような数理モデル、及びその計算アルゴリズムが提案されている。その計算アルゴリズムの概要について、以下説明する。本明細書では、仮想上のワイヤハーネスをモデル化するにあたって、電線とその電線以外の物体との接触が考慮されず、その電線がその物体に埋没するかのように位置付けされることを、「貫入する」と称する。
図1は、原子間力ポテンシャルを用いてモデル化されたワイヤハーネスのイメージ図であり、
図1(a)は、原子間力ポテンシャルが作用していない状態を示す図であり、
図1(b)は、原子間力ポテンシャルが作用している状態を示す図である。また、
図2は、原子間に働く相互作用を説明する図であり、
図2(a)は、原子間に引力が働く場合を示す図であり、
図2(b)は、原子間に斥力が働く場合を示す図である。尚、その計算アルゴリズムの詳細については、上記非特許文献を参照されたい。
【0017】
図1(a)及び
図1(b)に示されるように、ワイヤハーネスW/Hを構成する複数本の電線C1、C2、C3は、それぞれ、球体のポテンシャル評価用原子S1、S2、S3が多数、隣り合うようにして配置されものとしてモデル化されている。線径が長手方向に一定であるように電線C1、C2、C3をモデル化するため、各電線C1、C2、C3を構成するポテンシャル評価用原子S1、S2、S3の半径R1、R2、R3は、いずれも一定の数値である。
【0018】
また、
図2(a)に示されるように、2つのポテンシャル評価用原子s1、s2において、各ポテンシャル評価用原子s1、s2の中心間の距離dが、ポテンシャル評価用原子s1の半径r1とポテンシャル評価用原子s2の半径r2の和よりも大きければ、2つのポテンシャル評価用原子s1、s2に引力が働く。他方、
図2(b)に示されるように、2つのポテンシャル評価用原子s1、s2において、各ポテンシャル評価用原子s1、s2の中心間の距離dが、ポテンシャル評価用原子s1の半径r1とポテンシャル評価用原子s2の半径r2の和よりも小さければ、2つのポテンシャル評価用原子s1、s2に斥力が働く。
図2(a)及び
図2(b)では、2つのポテンシャル評価用原子s1、s2に作用する原子間力ポテンシャルを説明したが、上述した各電線C1、C2、C3を構成するポテンシャル評価用原子S1、S2、S3の一つ一つには、該ポテンシャル評価用原子S1、S2、S3以外の全てのポテンシャル評価用原子S1、S2、S3との間で原子間力ポテンシャルが作用している。
【0019】
そこで、ポテンシャル評価用原子S1、S2、S3の一つ一つについて、該ポテンシャル評価用原子S1、S2、S3以外の全てのポテンシャル評価用原子S1、S2、S3との間で作用する原子間力ポテンシャルの合計値uを算出する。さらに、電線C1、C2、C3の一本一本について、該電線C1、C2、C3を構成するポテンシャル評価用原子S1、S2、S3の原子間力ポテンシャルの合計値uの総和U1、U2、U3を算出する。こうして算出されるUは、一本の電線が有するポテンシャルエネルギーを表している。
【0020】
モデル化されるべきワイヤハーネスがN本の電線C1、C2、・・・、CNによって構成されている場合、各電線C1、C2、・・・、CN毎に、ポテンシャルエネルギーU1、U2、・・・、UNが算出される。こうして算出されるポテンシャルエネルギーU1、U2、・・・、UNを、各ポテンシャル評価用原子S1、S2、・・・、SNの座標(x、y、z)を設計変数として与えて反復的に繰り返し算出し、各ポテンシャルエネルギーU1、U2、・・・、UNが最小となる設計変数を得る。こうして得られた、ある電線C1、C2、・・・、CNにおける設計変数、つまり各ポテンシャル評価用原子S1、S2、・・・、SNの座標(x、y、z)は、エネルギー的に最も安定した状態にある電線が辿る座標を表している。こうして、電線―電線間の応力が考慮されたワイヤハーネスを得ることができる。
【0021】
ところで、上述した計算アルゴリズムにおいて、各ポテンシャルエネルギーU1、U2、・・・、UNが最小となる設計変数を得るにあたって、各電線C1、C2、・・・、CNに電線長L0、L0、・・・、LNが制約条件として課されることが考えられる。つまり、下記(1)及び(2)の条件を満たす各ポテンシャル評価用原子S1、S2、・・・、SNの座標(x、y、z)を得る手法が考えられる。
(1)各ポテンシャルエネルギーU1、U2、・・・、UNが最小となる。
(2)各ポテンシャル評価用原子S1、S2、・・・、SNの座標(x、y、z)に基づき算出される各電線の電線長が、設定された電線長L0、L0、・・・、LNとの誤差が所定の範囲に収まる。
(2)の条件は、電線長を極力短くすることが実際のワイヤハーネスに求められるという背景のもとで課された制約条件であると言える。
【0022】
[発明が解決しようとする課題]において説明したように、治具板に配索されたワイヤハーネスをモデル化する場合に電線長として適切な数値L0、L0、・・・、LNが設定されている必要がある。ところで、上述した電線−電線間に作用する応力を考慮したアルゴリズムにおいて、ワイヤハーネスをモデル化する、すなわち、各ポテンシャルエネルギーU1、U2、・・・、UNが最小となる設計変数を得る、ためには膨大な演算時間を要する。このため、解析者が電線長に適切な数値L0、L0、・・・、LNが設定されていないと判断した場合に再度、電線長に数値を設定し、ワイヤハーネスをモデル化することは、その時間的損失が計り知れない。こうした問題点を解決すべく、本出願の発明者は、モデル化する前に電線長を算出することができる手法を着想するに至った。
【0023】
[本発明の実施形態のワイヤハーネス解析装置のハードウェア構成]
図3は、本発明の実施形態のワイヤハーネス解析装置のハードウェア構成を示すブロック図である。本発明に係る実施の形態のワイヤハーネス解析装置は、入力部311、データベース部312、プログラム記憶部313、データ記憶部314、表示部315、処理部316を含んで構成される。本発明のワイヤハーネス解析装置は、例えば汎用PCによって構成される場合、入力部311はキーボード、マウス、テンキーなどの各種入力インタフェースによって実現され、データベース部312及びプログラム記憶部313は、ハードディスクドライブ(HDD)によって実現され、データ記憶部314はRAM(Random Access Memory)によって実現され、表示部315はCRTディスプレイ、液晶ディスプレイなどの各種出力デバイスによって実現され、処理部316は、CPU(Central Processing Unit)によって実現される。データベース部312には、ワイヤハーネスをモデル化する際に利用される電線形状情報、コネクタ形状情報、治具形状情報等が記憶されている。また、プログラム記憶部313には、上述の[電線−固定具間の応力が考慮されたワイヤハーネスシミュレーション手法]にて説明した計算アルゴリズムや、後述する本発明の実施形態の電線長出力方法に係る処理を処理部316に実行させるためのプログラムが記録されている。また、データ記憶部314には、[電線−固定具間の応力が考慮されたワイヤハーネスシミュレーション手法]にて説明した計算アルゴリズムや後述する本発明の実施形態の電線長出力方法に係る処理を実行している処理部316から入出力されるデータが記録される。
【0024】
[電線長計算方法の概要]
以下、本発明の実施形態のワイヤハーネス解析装置による電線長出力方法についてその概要を説明する。
図4は、4つの基準断面、電線が各基準断面を通過する通過点及びノードを含む、電線長を計算するための簡易モデルを示す図である。
【0025】
本発明の実施形態における電線長計算方法は、その計算のための入力情報として、ワイヤハーネスをモデル化する際に利用される電線形状情報、コネクタ形状情報、治具形状情報から必要な情報を適宜抽出する。電線形状情報は、車両に配索されるワイヤハーネスの電線の仕様を規定する情報である。また、コネクタ形状情報は、車両に配索されるワイヤハーネスのコネクタの仕様を規定する情報である。また、治具形状情報は、治具板に備わる固定具(電線を屈曲させるUフォークやコネクタを固定する固定具など)の形状及び配置位置を規定する情報である。
【0026】
抽出した情報をもとに、
図4に示す簡易モデルを作成する。
図4に示す簡易モデルは、治具板上に配索される、一端が第1のコネクタ31に接続され他端が第2のコネクタ32に接続される電線41が通過する通過点をモデル化したものである。より詳細には、
図4に示す簡易モデルは、ある箇所51において所定角度θ屈曲する電線41がある断面61、62、63、64を通過する通過点の位置座標を特定したものである。電線41が屈曲する箇所のことを以後、ノードと称する。
【0027】
補足すると、ワイヤハーネスをモデル化する際に利用される電線形状情報、コネクタ形状情報、治具形状情報から、治具板上におけるコネクタ31、32を固定する固定具の配置位置、治具板上におけるUフォークの配置位置、電線41の一方の端部及び他方の端部が差し込まれる、コネクタ31、32におけるキャビティ位置、等を読み取ることができる。こうした情報から、各電線毎に、電線41が治具板上において配索される経路、及びノード51の位置が特定される。
【0028】
<断面設定工程>
こうしてモデル化された簡易モデルに対して、断面61、62、63、64を特定するための情報を入力し、当該断面61、62、63、64を簡易モデル上に形成する。
【0029】
断面61は、第1のコネクタ31に連結された電線41の一端を含む平面である。以下、断面61を第1のキャビティ基準断面と称する。また、断面64は、第2のコネクタ32に連結された電線41の他端を含む平面である。以下、断面64を第2のキャビティ基準断面と称する。通常、コネクタには複数の電線が連結されているため、コネクタ形状情報を参照して当該電線の一端及び他端の座標を抽出すれば、第1のキャビティ基準断面61及び第2のキャビティ基準断面64は一意に定めることができる。
【0030】
また、断面62は、ノード51から第1のキャビティ基準断面61側に所定距離離れて位置する、第1のキャビティ基準断面61に平行な平面である。以下、断面62を第1のノード基準断面と称する。また、断面63は、ノード51から第2のキャビティ基準断面64側に所定距離離れて位置する、第2のキャビティ基準断面64に平行な平面である。以下、断面63を第2のノード基準断面と称する。第1のノード基準断面62は第1のキャビティ基準断面61に、第2のノード基準断面63は第2のキャビティ基準断面64に、それぞれ平行に対向する面である。第1のノード基準断面62及び第2のノード基準断面63は、それぞれから延びる法線が所定角度θを成すように定められる。第1のノード基準断面62及び第2のノード基準断面63はそれぞれ、第1のキャビティ基準断面61及び第2のキャビティ基準断面64が定められ、且つノード51からの所定距離を定めれば、一意に定めることができる。
【0031】
電線41のノード51の位置は、治具形状情報からUフォークの位置座標及びUフォークの形状を参照することにより、定められる。
図5は、ノードを通過する面で切り取った電線の断面図であり、
図5(a)はUフォークの幅方向に各種電線のノードを分散させた図であり、
図5(b)はUフォークの幅方向及び高さ方向に各種電線のノードを分散させた図である。
【0032】
ノード51は、サブハーネスが屈曲する位置、またはサブハーネスを構成する電線が分岐する位置として定められる。仮に、ある2つの電線に対して同一の位置座標をノードに割り当ててしまうと、その2つの電線が交差することになってしまい、正確な電線長の算出の妨げになってしまう。そこで、本発明の実施形態では、ノードの設定位置は、
図5(a)に示すように、UフォークUFの幅方向(
図5(a)の左右方向)に分散して設定される。このとき、サブハーネスSH1、SH2、SH3単位でノードの設定位置を密集させるようにする。
【0033】
さらに、
図5(a)に示すようにUフォークUFの幅方向にノードの設定位置を分散したとしても、屈曲した所定角度θの大きな電線と所定角度θの小さな電線が交差する場合が考えられる。このため、
図5(b)に示すように、UフォークUFの高さ方向(
図5(b)の上下方向)にノードの設定位置を分散させることが好ましい。このようにノードの位置を設定することによって、本発明の実施形態のワイヤハーネス解析装置による電線長出力方法では、最適な電線長を設定、つまり、他の電線と交差することなしに最短経路を通過する電線の長さを設定することができる。
【0034】
<通過点算出工程>
続いて、電線41が、第1のキャビティ基準断面61、第1のノード基準断面62、第2のノード基準断面63及び第2のキャビティ基準断面64の各断面を通過する通過点を算出する。電線41が第1のキャビティ基準断面61を通過する第1の通過点71は、コネクタ形状情報を参照して第1のコネクタ31におけるキャビティの位置を特定することにより算出することができる。電線41が第1のノード基準断面62を通過する第2の通過点72は、第1の通過点71とノード51とを繋ぐ線分が第1のノード基準断面62と交わる点、つまり、第1の通過点71が第1のノード基準断面62に対して電線41の長手方向に投影された点、として算出することができる。電線41が第2のノード基準断面63を通過する第3の通過点73は、後述する第4の通過点74とノード51とを繋ぐ線分が第2のノード基準断面63と交わる点、つまり、第4の通過点74が第2のノード基準断面63に対して電線41の長手方向に投影された点、として算出することができる。電線41が第2のキャビティ基準断面64を通過する第4の通過点74は、コネクタ形状情報を参照して第2のコネクタ32におけるキャビティの位置を特定することにより算出することができる。
【0035】
図4に示すように、第1のキャビティ基準断面61と第2のキャビティ基準断面64が同形状であり、第1のキャビティ基準断面61と第2のキャビティ基準断面64を向かい合わせたときに第1の通過点71と第4の通過点74が対向する位置関係にある場合には、第3の通過点73を次のように算出することもできる。すなわち、第3の通過点73は、第2の通過点72を、ノード51を通過しUフォークが立設する方向に平行な軸に対して所定角度θ回転させた点、つまり、第2の通過点72が軸に対して回転投影された点、として算出することもできる。
【0036】
<区間線長算出工程>
続いて、第1のキャビティ基準断面61−第1のノード基準断面62区間、第1のノード基準断面62−第2のノード基準断面63区間、第2のノード基準断面63−第2のキャビティ基準断面64区間、それぞれにおける電線41の線長を算出する(各区間に位置する電線41の線長のことを区間線長と称する)。第1のキャビティ基準断面61−第1のノード基準断面62区間の区間線長は、第1の通過点71の位置座標及び第2の通過点72の位置座標から算出される。また、第1のノード基準断面62−第2のノード基準断面63区間の区間線長は、第2の通過点72の位置座標、第3の通過点73の位置座標、ノード51の位置座標及び所定角度θから算出される。また、第2のノード基準断面63−第2のキャビティ基準断面64区間の区間線長は、第3の通過点73の位置座標及び第4の通過点74の位置座標から算出される。区間線長の具体的な算出方法については、後述する。
【0037】
<電線長算出工程>
項目<区間線長算出工程>にて算出した各区間における区間線長を合算したものを電線41の電線長として出力する。
【0038】
上述した電線長計算方法では、
図4に示すように、1本の電線41について電線長を算出する工程を説明した。この工程を他の電線についても実施する。
図4の簡易モデルでは、電線41と同一のサブハーネスを構成する他の7本の電線の電線長を算出するとともに、
図5に示すように他のサブハーネスSH1、SH2、SH3についても、各サブハーネスを構成する電線の電線長を算出する。こうして電線長が算出されるワイヤハーネスを概念的に捉えると、
図6に示すようになる。
図6は、治具板上に配索した場合を想定した簡易モデルの概略図であり、
図6(a)は治具板を上面視した図であり、
図6(b)は
図6(a)におけるVIb−VIb線の矢視断面図である。
【0039】
図6(a)には、治具板上に、UフォークUF、第1のコネクタ31a、31b及び第2のコネクタ32a、32b、32cが設置されている。上述した<断面設定工程>を実行することにより、第1のキャビティ基準断面61a、61b、第1のノード基準断面62a、62b、62c、62d、第2のノード基準断面63a、63b、63c、及び第2のキャビティ基準断面64a、64b、64cが定められる。
【0040】
図6(a)及び
図6(b)に示すように、第1のコネクタ31a、31b及び第2のコネクタ32a、32b、32cそれぞれに両端が接続されたサブハーネスは、各コネクタにおけるキャビティ位置が該コネクタの幅方向及び高さ方向に分散されており、且つ、
図5を参照して説明したようにUフォークの幅方向及び高さ方向に各種電線のノードが分散されている。このため、簡易モデルでは、いずれか2つの電線が交差してしまうことが無いよう、サブハーネスが設定されることになる。このように、電線が布線される位置及びノードの位置を考慮することによって、本発明の実施形態のワイヤハーネス解析装置による電線長出力方法では、最適な電線長を設定、つまり、他の電線と交差することなしに最短経路を通過する電線の長さを設定することができる。
【0041】
ところで、こうして算出した電線の中には、仮にその全ての電線が両端に共通のコネクタ31、32が固定される場合であっても、その電線長が異なる。実際のワイヤハーネスを構成する電線は、その全ての電線が両端に共通のコネクタ31、32が固定される場合その電線長が一律であることが多いが、理想的にはその電線長が異なることが好ましい。この点を踏まえ、本発明の実施形態のワイヤハーネス解析装置による電線長出力方法では、さらに、次の点が考慮されている。
【0042】
第1のキャビティ基準断面61−第1のノード基準断面62区間、及び第2のノード基準断面63−第2のキャビティ基準断面64区間においては、第2の通過点72は、第1の通過点71が第1のノード基準断面62に対して投影された点であり、第3の通過点73は、第4の通過点74が第2のノード基準断面63に対して投影された点であるため、8点存在する第2の通過点72または第3の通過点73の単位面積当たりの密度は、8点存在する第1の通過点71または第4の通過点74のものよりも密である。このため、外側に第1の通過点71または第4の通過点74が位置する電線程、当該区間における電線長が長くなり、内側に第1の通過点71または第4の通過点74が位置する電線程、当該区間における電線長が短くなる。一方、実際のワイヤハーネスの電線には、テープ巻きされて束ねられた箇所があるが、そのようなワイヤハーネスの電線束は、コネクタからそのテープ巻きされた箇所までのテープ巻きされていない区間において、コネクタ外側に位置する電線程、当該区間における電線長が長くなり、コネクタ内側に位置する電線程、当該区間における電線長が短くなる(後述の
図8参照。)。本発明の実施形態では、このような実際のワイヤハーネスの電線長の異なりを考慮するために、第1のキャビティ基準断面61−第1のノード基準断面62区間、及び第2のノード基準断面63−第2のキャビティ基準断面64区間において、第2の通過点72は、第1の通過点71が第1のノード基準断面62に対して投影されたものとして、第3の通過点73は、第4の通過点74が第2のノード基準断面63に対して投影されたものとしている。このように、布線される位置毎に異なる電線の長さを考慮することによって、本発明の実施形態のワイヤハーネス解析装置による電線長出力方法では、最適な電線長を設定、つまり、電線の長さが過小に設定されることを抑制した上で電線長を設定することができる。
【0043】
また、第1のノード基準断面62−第2のノード基準断面63区間においては、第3の通過点73は、第2の通過点72を、ノード51を通過しUフォークが立設する方向に平行な軸に対して所定角度θ回転させた点として算出することができる。このため、ノード51から離れて第2の通過点72が位置する電線程、当該区間における電線長が長くなり、ノード51から近くに第2の通過点72が位置する電線程、当該区間における電線長が短くなる。一方、実際のワイヤハーネスの電線束でも、屈曲箇所の外側に位置する電線程電線長が長く、内側に位置する電線程電線長が短くなる。本発明の実施形態では、このような実際のワイヤハーネスの電線長の異なりを考慮するために、
図10を参照して後述する手法を採用している。このように、布線される位置毎に異なる電線の長さを考慮することによって、本発明の実施形態のワイヤハーネス解析装置による電線長出力方法では、最適な電線長を設定、つまり、電線の長さが過小に設定されることを抑制した上で電線長を設定することができる。
以上が、本発明の実施形態のワイヤハーネス解析装置による電線長出力方法の概要である。
【0044】
[電線長計算方法の詳細]
続いて、本発明の実施形態のワイヤハーネス解析装置による電線長出力方法についてその詳細を説明する。
【0045】
上述した項目[電線長計算方法の概要]では、
図4に示すように、第1のキャビティ基準断面61、第1のノード基準断面62、第2のノード基準断面63、第2のキャビティ基準断面64の合計4つの断面を簡易モデル上に形成した。より好適な実施形態では、さらに2つの断面65、66を加えた合計6つの断面61〜66を簡易モデル上に形成する。
図7は、6つの基準断面、電線が各基準断面を通過する通過点及びノードを含む、電線長を計算するための簡易モデルを示す図である。また、
図8は、ワイヤハーネスの電線束における各基準断面の位置を説明する図である。
【0046】
<断面設定工程>
断面65は、第1のキャビティ基準断面61と第1のノード基準断面62との間に、第1のキャビティ基準断面61から所定距離離れて位置する断面である。以下、断面65を第1のセグメント基準断面と称する。第1のセグメント基準断面65は、第1のキャビティ基準断面61及び第1のノード基準断面62に平行な断面である。第1のセグメント基準断面65は、上述した[電線長計算方法の概要]にて説明した第1のキャビティ基準断面61−第1のノード基準断面62区間を2つの区間に分割する断面である。また、断面66は、第2のキャビティ基準断面64と第2のノード基準断面63との間に、第2のキャビティ基準断面64から所定距離離れて位置する断面である。以下、断面66を第2のセグメント基準断面と称する。第2のセグメント基準断面66は、第2のキャビティ基準断面64及び第2のノード基準断面63に平行な断面である。第2のセグメント基準断面66は、上述した[電線長計算方法の概要]にて説明した第2のノード基準断面63−第2のキャビティ基準断面64区間を2つの区間に分割する断面である。第1のセグメント基準断面65及び第2のセグメント基準断面66を追加することにより、実際の形状により則したワイヤハーネスにおいて、電線長を算出することができる。
【0047】
第1のセグメント基準断面65及び第2のセグメント基準断面66が設定される位置には次の意味合いがある。すなわち、実際のワイヤハーネスの電線には、テープ巻きされて束ねられた箇所がある。第1のセグメント基準断面65及び第2のセグメント基準断面66が設定される位置は、そのようなワイヤハーネスの電線束における、テープ巻きされていない区間とテープ巻きされていない区間とを隔てる境界である。
図8を参照して説明すると、第1のキャビティ基準断面61−第1のセグメント基準断面65区間及び第2のセグメント基準断面66−第2のキャビティ基準断面64区間に位置する電線束は、テープ巻きされず、電線がばらけた状態にある。他方、第1のセグメント基準断面65−第1のノード基準断面62区間、及び第2のノード基準断面63区間−第2のセグメント基準断面66区間に位置する電線束は、テープ巻きされた状態にある。このように、第1のセグメント基準断面65及び第2のセグメント基準断面66は、テープ巻きされた区間を規定する役割を果たす。尚、テープ巻きされた区間についての情報は、電線形状情報に含まれており、当該情報をもとに、第1のセグメント基準断面65及び第2のセグメント基準断面66を設定する位置を特定することができる。尚、
図8では、治具板上に配索される電線が複数箇所で屈曲または分岐することを考慮して、複数のノード51が定められている。
【0048】
<通過点算出工程>
続いて、電線41が、第1のキャビティ基準断面61、第1のセグメント基準断面65、第1のノード基準断面62、第2のノード基準断面63、第2のセグメント基準断面66及び第2のキャビティ基準断面64の各断面を通過する通過点を算出する。第1のセグメント基準断面65及び第2のセグメント基準断面66が新たに設定されたことにより、第1のノード基準断面62を通過する第2の通過点72を算出する手法が変わる。このため、第1のセグメント基準断面65、第1のノード基準断面62、及び第2のセグメント基準断面66の各断面を通過する通過点を算出する手法について説明する。第1のキャビティ基準断面61、第2のノード基準断面63、及び第2のキャビティ基準断面64の各断面を通過する通過点を算出する手法については、重複する記載を避ける。
【0049】
電線41が第1のセグメント基準断面65を通過する第5の通過点75は、第1の通過点71とノード51とを繋ぐ線分が第1のセグメント基準断面65と交わる点、つまり、第1の通過点71が第1のセグメント基準断面65に対して電線41の長手方向に投影された点、として算出することができる。このため、ある電線束において、第1のセグメント基準断面65を通過する第5の通過点75は、第1のキャビティ基準断面61を通過する第1の通過点71よりも、単位面積当たりに占める通過点の密度が密になる。
【0050】
また、電線41が第1のノード基準断面62を通過する第2の通過点72は、第1のセグメント基準断面65を通過する第5の通過点75から該第1のセグメント基準断面65の法線方向に延ばした直線が第1のノード基準断面62と交わる点、つまり、第5の通過点75が第1のノード基準断面62に対して第1のセグメント基準断面65の法線方向に投影された点、として算出する。このように第5の通過点75を第1のノード基準断面62に対して第1のセグメント基準断面65の法線方向に投影された点として第2の通過点72が算出されるのは、第1のセグメント基準断面65−第1のノード基準断面62区間に位置する電線束がテープ巻きされた状態にあるためである。すなわち、第1のセグメント基準断面65−第1のノード基準断面62区間に位置する電線束の径は略一定と看做せるためである。
【0051】
また、電線41が第2のセグメント基準断面66を通過する第6の通過点76は、第4の通過点74とノード51とを繋ぐ線分が第2のセグメント基準断面66と交わる点、つまり、第4の通過点74が第2のセグメント基準断面66に対して電線41の長手方向に投影された点、として算出することができる。このため、ある電線束において、第2のセグメント基準断面66を通過する第6の通過点76は、第2のキャビティ基準断面64を通過する第4の通過点74よりも、単位面積当たりに占める通過点の密度が密になる。
【0052】
また、電線41が第2のノード基準断面63を通過する第3の通過点73は、第2のセグメント基準断面66を通過する第6の通過点76から該第2のセグメント基準断面66の法線方向に延ばした直線が第2のノード基準断面63と交わる点、つまり、第6の通過点76が第2のノード基準断面63に対して第2のセグメント基準断面66の法線方向に投影された点、として算出する。このように第6の通過点76を第2のノード基準断面63に対して第2のセグメント基準断面66の法線方向に投影された点として第3の通過点73が算出されるのは、第2のノード基準断面63−第2のセグメント基準断面66区間に位置する電線束がテープ巻きされた状態にあるためである。すなわち、第2のノード基準断面63−第2のセグメント基準断面66区間に位置する電線束の径は略一定と看做せるためである。
【0053】
<区間線長算出工程>
続いて、第1のキャビティ基準断面61−第1のセグメント基準断面65区間、第1のセグメント基準断面65−第1のノード基準断面62区間、第1のノード基準断面62−第2のノード基準断面63区間、第2のノード基準断面63−第2のセグメント基準断面66区間、第2のセグメント基準断面66−第2のキャビティ基準断面64区間、それぞれにおける電線41の区間線長を算出する。
【0054】
まず、第1のキャビティ基準断面61−第1のセグメント基準断面65区間の区間線長及び第2のセグメント基準断面66−第2のキャビティ基準断面64区間の区間線長を算出する手法を詳細に説明する。
図9(a)及び
図9(b)は、第1のキャビティ基準断面−第1のセグメント基準断面区間の区間線長の算出方法を説明する図であり、
図9(a)は第1のキャビティ基準断面及び第1のセグメント基準断面上を視た斜視図であり、
図9(b)は
図9(a)の斜視図を側面から視た側面図である。
【0055】
第1のキャビティ基準断面61−第1のセグメント基準断面65区間の区間線長は、第1の通過点71の位置座標及び第5の通過点75の位置座標から算出される。すなわち、次に示す2つの数式(1)及び(2)から算出される
Y=sqrt(L×L−X×X) (1)
L’=(X×X/Y+Y)×atan(Y/X) (2)
ここで、Lは第1の通過点71と第5の通過点75とを結ぶ線分の長さである。また、Xは第1のキャビティ基準断面61と第1のセグメント基準断面65との間の離間距離である。また、YはLを対角線に持つ長方形のXとは異なる辺の長さである。また、L’は第1のキャビティ基準断面61−第1のセグメント基準断面65区間の区間線長である。
【0056】
数式(1)及び(2)から算出される区間線長L’は、
図9(b)に示すように、長軸の長さがX/2、短軸の長さがY/2とされる楕円によって長軸と短軸が成すπ/2の範囲において描かれる軌跡の線長L’/2を算出し、その数値を2倍して算出される。区間線長を正確に算出するにあたっては、電線に曲げクセや重力が作用するなどすることによって撓み及び捻じれが発生していることを考慮する必要がある。楕円が描く軌跡の線長L’/2は、この撓み及び捻じれを考慮したものである。このように、電線の撓み及び捻じれを考慮することによって、本発明の実施形態のワイヤハーネス解析装置による電線長出力方法では、最適な電線長を設定、つまり、電線の長さが過小に設定されることを抑制した上で電線長を設定することができる。
【0057】
また、第2のセグメント基準断面66−第2のキャビティ基準断面64区間の区間線長は、第6の通過点76の位置座標及び第4の通過点74の位置座標から算出される。当該区間の区間線長の算出もまた、数式(1)及び(2)から算出される。上述した第1のキャビティ基準断面61−第1のセグメント基準断面65区間の区間線長の算出手法において、第1の通過点71を第4の通過点74に、第5の通過点75を第6の通過点76に、それぞれ読みかえられたい。
【0058】
次に、第1のセグメント基準断面65−第1のノード基準断面62区間及び第2のノード基準断面63−第2のセグメント基準断面66区間の区間線長を算出する手法を詳細に説明する。第1のセグメント基準断面65−第1のノード基準断面62区間及び第2のノード基準断面63−第2のセグメント基準断面66区間に位置する電線束の径は略一定と看做せ、また、テープ巻きされた電線束は棒状と看做せる。このため、これらの区間では電線束の各電線の長さは同一であるとする。こうした前提のもと、第1のセグメント基準断面65−第1のノード基準断面62区間の区間線長は、第1のセグメント基準断面65と第1のノード基準断面62の離間距離に一致する。また、第2のノード基準断面63−第2のセグメント基準断面66区間の区間線長は、第2のノード基準断面63と第2のセグメント基準断面66の離間距離に一致する。
【0059】
次に、第1のノード基準断面62−第2のノード基準断面63区間の区間線長を算出する手法を詳細に説明する。
図10は、第1のノード基準断面−第2のノード基準断面区間の区間線長の算出方法を説明する図である。
上記<通過点算出工程>で述べたように、第2の通過点72は、第1のキャビティ基準断面61の第1の通過点71の分布が縮小して第1のノード基準断面62に投影されたものであり、また、第3の通過点73は、第2のキャビティ基準断面64の第4の通過点74の分布が縮小して第2のノード基準断面63に投影されたものである。ところで、
図7に示す簡易モデルでは、第1のキャビティ基準断面61と第2のキャビティ基準断面64が同形状であり、第1のキャビティ基準断面61と第2のキャビティ基準断面64を向かい合わせたときに第1の通過点71と第4の通過点74が対向する位置関係にある場合である。言い換えれば、第1の通過点71の位置座標を規定する、第1のコネクタ31に端子が収容されるキャビティ位置と、第4の通過点74の位置座標を規定する、第2のコネクタ32に端子が収容されるキャビティ位置と、がノード51を挟んで向かい合う位置関係である。このような場合には、第1のノード基準断面62−第2のノード基準断面63区間の区間線長を、ノード51の位置座標を中心とし半径をノード51から第1のノード基準断面62(または第2のノード基準断面63)までの距離とする円周上における、第2の通過点72及び第3の通過点73を結ぶ円弧の長さとして算出することができる。
【0060】
しかしながら、サブハーネスの両端にそれぞれ接続されるコネクタを、上述のように同形状とし、且つそれらコネクタに端子が収容されるキャビティ位置がノードを挟んで対称であるものとすることは、サブハーネスの設計自由度を大きく制限することになる。このため、サブハーネスの両端にそれぞれ接続されるコネクタが異なる形状であっても、第1のノード基準断面62−第2のノード基準断面63区間の区間線長を算出することができる手法が必要である。そこで、サブハーネスの両端にそれぞれ接続されるコネクタの形状によらず、また、コネクタに形成されるキャビティ位置に制約の無い手法を提案し、その手法を第1のノード基準断面62−第2のノード基準断面63区間の区間線長の算出に採用する。
【0061】
図10に示すように、第2の通過点72と第3の通過点73は、第1のノード基準断面62と第2のノード基準断面63を平行に向かい合わせにしたときに対向する位置関係にはない。このとき、第1のノード基準断面62−第2のノード基準断面63区間の区間線長は、次に示す数式(3)から算出される
L’=Z+2πR{(2φ+180−θ)/360} (3)
ここで、Rは、ノード51から第1のノード基準断面62または第2のノード基準断面63までの所定距離である。また、φは、第2の通過点72、点O1、点Z1を結ぶ線分によって形成される鋭角の角度である。また、点O1は、第2の通過点72から所定距離Rだけ第1のノード基準断面62幅方向中央に向かった点である。点O2は、第3の通過点73から所定距離Rだけ第2のノード基準断面63幅方向中央に向かった点である。Zは、点Z1と点Z2を結ぶ線分であり、線分O1Z1及び線分O2Z2に直交するものである。
概略的には、第1のノード基準断面62−第2のノード基準断面63区間の区間線長L’は、
図10に示される実線の長さであり、中心を点O1、半径をRとする円周上における角度φ/360分の円弧の長さと、点Z1と点Z2を結ぶ線分Zの長さと、中心を点O2、半径をRとする円周上における角度(180−θ+φ)/360分の円弧の長さと、の和により算出される。
【0062】
数式(3)から算出される区間線長L’は、
図10に示すように、円弧の長さが加味されて算出される。ところで、区間線長を正確に算出するにあたっては、電線に曲げクセや重力が作用するなどすることによって撓み及び捻じれが発生していることを考慮する必要がある。区間線長L’に含まれる円弧の長さは、この撓み及び捻じれを考慮したものである。このように、電線の撓み及び捻じれを考慮することによって、本発明の実施形態のワイヤハーネス解析装置による電線長出力方法では、最適な電線長を設定、つまり、電線の長さが過小に設定されることを抑制した上で電線長を設定することができる。
【0063】
<電線長算出工程>
項目<区間線長算出工程>にて算出した各区間における区間線長を合算したものを電線41の電線長として出力する。
【0064】
以上、本発明の実施形態のワイヤハーネス解析装置による電線長出力方法について説明した。本発明の電線長出力方法及び電線長出力プログラムによれば、治具板に配索されたワイヤハーネスをモデル化する前に、該ワイヤハーネスを構成する電線の電線長を算出することができる。このため、電線長を解析者が設定するために要する手間を軽減することができるとともに、誤った電線長を設定した場合にワイヤハーネスを再度モデル化する機会を減らすことができる。