特許第5897934号(P5897934)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5897934
(24)【登録日】2016年3月11日
(45)【発行日】2016年4月6日
(54)【発明の名称】摺動材料および軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/12 20060101AFI20160324BHJP
   C22C 13/00 20060101ALN20160324BHJP
   C22C 13/02 20060101ALN20160324BHJP
   C22F 1/16 20060101ALN20160324BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20160324BHJP
【FI】
   F16C33/12 Z
   !C22C13/00
   !C22C13/02
   !C22F1/16 Z
   !C22F1/00 631A
   !C22F1/00 681
   !C22F1/00 692Z
   !C22F1/00 630C
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-46500(P2012-46500)
(22)【出願日】2012年3月2日
(65)【公開番号】特開2013-181621(P2013-181621A)
(43)【公開日】2013年9月12日
【審査請求日】2014年10月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】591001282
【氏名又は名称】大同メタル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】特許業務法人 サトー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗本 覚
(72)【発明者】
【氏名】川上 直久
(72)【発明者】
【氏名】戸田 和昭
【審査官】 久島 弘太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−064426(JP,A)
【文献】 特開2005−023344(JP,A)
【文献】 特開2001−241445(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/028136(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 17/00− 17/26
F16C 33/00− 33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sn基マトリクスに前記Sn基マトリクスよりも硬い二種類以上のSn含有金属間化合物が分散している摺動材料であって、
前記Sn含有金属間化合物は、最も硬い第一位化合物、前記第一位化合物の次に硬い第二位化合物を少なくとも含み、
前記Sn含有金属間化合物は、以下の要件(1)〜(3)のすべてを満たす摺動材料。
(1)観察視野の面積を面積Sとし、前記Sn含有金属間化合物の総面積を総面積Stとしたとき、Sn含有金属間化合物の面積率R=St/Sは、20%≦R≦60%である。
(2)前記観察視野における前記第二位化合物の面積を第二位面積S2としたとき、前記総面積Stに対する前記第二位化合物の面積率R2=S2/Stは、5%≦R2≦50%である。
(3)前記観察視野における前記第一位化合物の面積を第一位面積S1としたとき、前記第二位面積S2に対する前記第一位化合物の面積率R1=S1/S2は、50%≦R1≦800%である。
【請求項2】
前記第二位化合物のビッカース硬さH2は、前記Sn基マトリクスのビッカース硬さHmの3倍以上である請求項1記載の摺動材料。
【請求項3】
前記第二位化合物の硬さH2は、ビッカース硬さで100〜200である請求項1または2記載の摺動材料。
【請求項4】
前記第二位化合物は、短径および長径を有する針状形状の結晶であって、長径が5μm以上の結晶の面積を長結晶面積Sxとしたとき、前記第二位面積S2に対する面積率Rx=Sx/S2が、50%≦Rxである請求項1から3のいずれか一項記載の摺動材料。
【請求項5】
前記第二位化合物は、Sn−Agである請求項1から4のいずれか一項記載の摺動材料。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項記載の摺動材料と、
前記摺動材料が相手部材との摺動側端面に設けられている軸受部材と、
を備える軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動材料および軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
摺動材料は、Pbなどの環境負荷物質の使用を回避しつつ、増大する負荷に対するさらなる性能の向上が求められている。例えば、特許文献1は、Sn−Sb−Cuを基礎とするSn基の摺動材料に、Co、Mn、Sc、Geなどの元素を添加することを提案している。これにより、特許文献1では、析出するSn−Cu、Sn−Sbは微細化および面取りされ、摺動材料のSn基マトリクスの強度が高められている。すなわち、特許文献1の場合、摺動材料は、硬度の高いSn−Cuの析出物を用いることにより、強度を高めるとともに、耐摩耗性を向上している。
【0003】
しかしながら、硬度の高いSn−Cuの析出物は、摺動する相手部材よりも硬い。そのため、析出物としてSn−Cuを主として用いる摺動材料は、相手部材の損傷を引き起こし、結果として焼付きやかじりなどを招き得るという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2011−513592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の目的は、Pbなどの環境負荷物質を用いることなく、耐焼付性のさらなる向上が図られる摺動材料および軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の摺動材料は、Sn基マトリクスに前記Sn基マトリクスよりも硬い二種類以上のSn含有金属間化合物が分散している摺動材料である。前記Sn含有金属間化合物は、最も硬い第一位化合物、前記第一位化合物の次に硬い第二位化合物を少なくとも含んでいる。
【0007】
Sn基の摺動材料は、添加する金属元素に応じて二種類以上のSn含有金属間化合物を生成する。これら二種類以上のSn含有金属間化合物は、それぞれ硬さが異なる。すなわち、二種類以上のSn含有金属間化合物は、最も硬い金属間化合物である第一位化合物、および第一位化合物の次に硬い第二位化合物を含む。摺動材料に含まれる金属元素の種類は、二種類に限らず、三種類以上でもよい。この場合、Sn含有金属間化合物は、三種類以上生成する場合がある。このとき、当然ながら、第二位化合物の次に硬いSn含有金属間化合物は第三位化合物であり、第三位化合物の次に硬いSn含有金属間化合物は第四位化合物である。また、摺動材料は、Sn、およびSnとともに金属間化合物を生成する各種元素に加え、不可避的な不純物を含んでいる。
【0008】
本願発明者は、このようにSn基マトリクスに二種類以上のSn含有金属間化合物が含まれるとき、硬さが第二位となる第二位化合物が摺動材料の耐焼付性の向上に大きく寄与することを見出した。Sn基の摺動材料は、例えば軸受部材である摺動部材として相手部材と摺動することにより、相手部材にSn基マトリクス物などの凝着を招く。この相手部材に凝着した成分物は、摺動材料と相手部材との局所的な接触の原因となり、局所的な摩耗や焼付きを招く。そのため、相手部材に凝着した成分物は、取り除く必要があり、摺動材料に析出した硬い析出物によって掻き落とすことができる。一方、上述の通り、例えばSn−Cuのように相手部材より硬い析出物は、相手部材を損傷させ、結果として焼付きを招く。このことから、摺動部材は、相手部材の損傷を抑えつつ、凝着した成分を掻き落とす析出物を含有することが好ましい。すなわち、本願発明者は、Sn基の摺動材料の場合、硬さ順位が第一位となる第一位化合物および硬さ順位が第二位となる第二位化合物を制御することにより、相手部材の損傷を招くことなくSn基マトリクス物などの凝着成分を掻き落とすことができ、耐焼付性を向上できることを見出した。
【0009】
具体的には、摺動材料を構成するSn含有金属間化合物は、以下の要件(1)〜(3)のすべてを満たすことにより、耐焼付性を向上させることができる。
(1)観察視野の面積を面積Sとし、Sn含有金属間化合物の総面積を総面積Stとしたとき、Sn含有金属間化合物の面積率R=St/Sは、20%≦R≦60%である。
ここで、Sn含有金属間化合物の総面積Stとは、少なくとも第一位化合物および第二位化合物を含む二種類以上のSn含有金属間化合物の観察視野における面積の総和を意味する。相手部材に凝着したSn基マトリクス物は、摺動材料に析出したSn含有金属間化合物によって掻き落とされる。そのため、Sn含有金属間化合物の面積率Rが20%未満になると、相手部材に凝着したSn基マトリクス物の掻き落としは不十分になる。一方、Sn含有金属間化合物の面積率Rが60%を超えると、Sn基マトリクスに対して析出するSn含有金属間化合物は過剰となる。そのため、相手部材との摺動時における摩擦抵抗が増大し、発熱が増大する。したがって、面積率Rを20%≦R≦60%に設定することにより、Sn基マトリクス物の掻き落とし作用と発熱の抑制とを両立することができる。
【0010】
本明細書における観察視野とは、例えば顕微鏡などで拡大した任意の視野を意味する。本発明は、Sn含有金属間化合物の面積率を基準として特定している。そのため、観察視野の倍率や面積は、任意に設定することができる。
【0011】
(2)観察視野における第二位化合物の面積を第二位面積S2としたとき、総面積Stに対する第二位化合物の面積率R2=S2/Stは、5%≦R2≦50%である。
相手部材に凝着したSn基マトリクス物は、摺動材料に析出したSn含有金属間化合物によって掻き落とされる。そのため、第二位化合物の面積率R2が5%未満になると、相手部材に凝着したSn基マトリクス物の掻き落としは不十分になる。一方、第二位化合物の面積率R2が50%を超えると、摺動材料の硬さは過大となる。そのため、相手部材との摺動時における摩擦抵抗が増大し、発熱が増大する。したがって、面積率R2を5%≦R2≦50%に設定することにより、Sn基マトリクス物の掻き落とし作用と発熱の抑制とを両立することができる。
【0012】
(3)観察視野における前記第一位化合物の面積を第一位面積S1としたとき、第二位面積S2に対する第一位化合物の面積率R1=S1/S2は、50%≦R1≦800%である。
上述の通り相手部材に凝着したSn基マトリクス物は、摺動材料に析出したSn含有金属間化合物によって掻き落とされる。特に、硬さ順位が一位の第一位化合物は、凝着したSn基マトリクス物の掻き落とし作用が高い反面、相手部材の損傷を招きやすい。そのため、第一位化合物と第二位化合物との面積率R1を規定することにより、凝着したSn基マトリクス物の掻き落とし作用と相手部材の損傷を抑制する作用とが両立する。すなわち、第一位化合物の面積率R1が50%未満になると、相手部材に凝着したSn基マトリクス物の掻き落としは不十分になる。一方、第一位化合物の面積率R1が800%を超えると、摺動材料の硬さは過大となる。そのため、相手部材との摺動時における摩擦抵抗が増大し、発熱が増大する。したがって、面積率R1を50%≦R1≦800%に設定することにより、Sn基マトリクス物の掻き落とし作用と発熱の抑制とを両立することができる。
優れた耐焼付性を発揮するにおいて、面積率R≧22%かつ面積率R2≧18%かつ面積率R1≦320%であることが好ましい。
【0013】
請求項2記載の摺動材料では、第二位化合物のビッカース硬さH2は、Sn基マトリクスのビッカース硬さHmの3倍以上である。
このように、硬さH2と硬さHmとの関係を、Hm×3≦H2に設定することにより、相手部材に凝着したSn基マトリクス物の掻き落とし作用は向上する。したがって、耐焼付性をより向上させることができる。
【0014】
請求項3記載の摺動材料では、第二位化合物の硬さH2は、ビッカース硬さで100〜200である。
このように、硬さH2をビッカース硬さ100〜200に設定することにより、相手部材の損傷を招くことなく、相手部材に凝着したSn基マトリクスは掻き落とされる。したがって、耐焼付性をより向上させることができる。
【0015】
請求項4記載の摺動材料では、第二位化合物は、短径および長径を有する針状形状の結晶であって、長径が5μm以上の結晶の面積を長結晶面積Sxとしたとき、第二位面積S2に対するSxの面積率Rx=Sx/S2が、50%≦Rxである。
結晶の面積を同一とすると、短径と長径との差が大きくなるほど外周の全長が増加する。すなわち、投影面積で見た場合、針状形状の結晶は、例えば面積が同一の正方形に近い形状の結晶と比較して外周の全長が大きい。摺動材料のSn含有金属間化合物は、Sn基マトリクスに析出している。そのため、Sn含有金属間化合物は、Sn基マトリクスによって保持されている。ここで、Sn含有金属間化合物は、結晶の外周の全長が大きくなるほど、Sn基マトリクスと接する全長が大きくなる。その結果、Sn含有金属間化合物は、Sn基マトリクスによって広い範囲で保持され、Sn基マトリクスから脱落しにくくなる。仮にSn基マトリクスからSn含有金属間化合物が脱落すると、脱落したSn含有金属間化合物は、異物として摺動材料と相手部材との間に介在し、焼付きを招く原因となる。そこで、第二位化合物を針状形状の結晶とし、この第二化合物の結晶のうち長径がμm以上の結晶の面積率Rxを、50%≦Rxとすることにより、第二位化合物はSn基マトリクスからの脱落が低減される。したがって、耐焼付性をさらに向上させることができる。
【0016】
請求項5記載の摺動材料では、第二位化合物は、Sn−Agである。
Sn−Agは、Sn基マトリクスよりも硬く、摺動の相手部材よりも軟らかな適度な硬さを有している。また、Sn−Agは、上記の各条件を満足する化合物である。そのため、Sn−Agからなる第二位化合物は、摺動の相手部材の損傷を招くことなく、相手部材に凝着したSn基マトリクスの掻き落とし作用を発揮する。したがって、優れた耐焼付性を発揮させことができる。
摺動材料は、請求項6記載のように軸受部材の摺動側端面に設けられ、相手部材と摺動する。これにより、相手部材と軸受部材との耐焼付性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態による摺動材料を示す模式的な断面図
図2】実施形態による摺動材料を製造するための冷却工程を示す概略図
図3】実施形態による摺動材料の試験結果を示す概略図
図4】実施形態による摺動材料の試験結果を示す概略図
図5】実施形態による摺動材料の耐焼付性試験の条件を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、摺動材料の具体的な実施形態について説明する。
まず、本実施形態において試料とする摺動材料を適用した摺動部材の作製手順について説明する。
摺動部材10は、軸受合金層12を備えている。軸受合金槽12は、例えば鋼などにより半円筒状や円筒状に成形された図示しない裏金層の表面に設けられている。軸受合金層12は、本実施形態の摺動材料で形成されている。軸受合金層12を構成する摺動材料は、図1に示すように観察視野において、基本となるSn基マトリクス13に二種類以上のSn含有金属間化合物が析出している。図1に示すように三種類のSn含有金属間化合物が析出している場合、各Sn含有金属間化合物は互いにその硬さに差がある。すなわち、三種類のSn含有金属間化合物は、第一位化合物21、第二位化合物22、および第三位化合物23から構成されている。第一位化合物21は、三種類のSn含有金属間化合物の中で最も硬いSn含有金属間化合物からなる。第二位化合物22は、第一位化合物21の次に硬いSn含有金属間化合物からなる。第三位化合物23は、第二位化合物22よりも軟らかく、三種類のSn含有金属間化合物の中で最も軟らかいSn含有金属間化合物からなる。一例として、Snに、Cu、AgおよびSbの三種類の元素を添加した摺動材料からなる軸受合金層12の場合、この摺動材料は、第一位化合物21として粒状結晶のSn−Cu、第二位化合物22として針状結晶のSn−Ag、および第三位化合物23として方形状結晶のSn−Sbを含む。
【0019】
軸受合金層12は、次のような遠心鋳造によって形成される。軸受合金層12を構成する各元素は、所定の成分比率に調整された後、加熱によって溶解される。溶解した溶湯は、半円筒状の鋼を組合せて円筒状にされている裏金層の内周側に注がれる。溶湯が注がれた裏金層は、回転される。これにより、溶解した溶湯は、遠心力によって裏金層の内周側において均一に広がる。裏金層の内周側に広がった溶湯を冷却することにより、軸受合金層12は裏金層の内周側に形成される。すなわち、摺動材料からなる軸受合金層12は、裏金層の内周側に張り付けられる。
【0020】
ここで、軸受合金層12を構成する摺動材料は、冷却を制御することにより、二種類以上のSn含有金属間化合物の析出が制御される。具体的には、各Sn含有金属間化合物は、鋳造時において冷却を制御することによって、硬さの順に析出させることができる。例えば、Sn−Cu、Sn−AgおよびSn−Sbの三種類のSn含有金属間化合物を含む摺動材料の場合、Sn含有金属間化合物は、Sn−Cuからなる第一位化合物21、Sn−Agからなる第二位化合物22、Sn−Sbからなる第三位化合物23の順で析出する。したがって、本実施形態の摺動材料からなる軸受合金層12において第二位化合物22をより多く析出させるために、冷却工程は図2に示すように温度と時間が制御される。
【0021】
より詳細には、裏金層に重ねられた摺動材料の溶湯は、図2に示すように第一次冷却期間P1において、まず第二位化合物22が析出する温度まで急冷する。これにより、摺動材料の溶湯は、短期間の第一位化合物21の析出温度T1を経て迅速に第二位化合物22の析出温度T2に到達する。その結果、摺動材料は、第一位化合物21の析出温度T1近傍となっている期間が短縮される。次に、裏金層11に重ねられた摺動材料の溶湯は、第二次冷却期間P2において、第二位化合物22の析出温度から徐冷または保持される。これにより、摺動材料の溶湯は、第二位化合物22の析出温度に近い温度で長期間維持され、第二位化合物22の析出が促進される。そして、裏金層に重ねられた摺動材料の溶湯は、第二位化合物22の析出温度から徐冷または保持された後、第三次冷却期間P3において急冷される。これにより、摺動材料の溶湯は、短期間の第三位化合物23の析出温度を経て全体が硬化する温度まで急速に冷却される。このように、軸受合金層12を形成する摺動材料は、第一次冷却期間P1、第二次冷却期間P2および第三次冷却期間P3の長さを適切に調整することにより、Sn基マトリクス13に分散する第一位化合物21、第二位化合物22および第三位化合物23の観察視野における面積率が制御される。
以上の手順によって、図3および図4に示すように実施例1〜実施例8、および比較例1〜比較例5に相当する試料の摺動部材10を作製した。
【0022】
(耐焼付性試験)
得られた摺動部材10の実施例1〜実施例8、および比較例1〜比較例5は、図5に示す試験条件で耐焼付性について検証した。具合的な試験条件は、荷重パターンが連続荷重である。荷重は、0.2MPa/分で増加させながら加えた。速度は、0.2m/秒に設定した。潤滑油は、VG05を用いた。相手部材である軸部材は、材質が鋼材であり、軸硬さをビッカース硬さで200〜250に設定した。さらに、相手部材である軸部材の表面粗さは、Ry1μmに設定した。そして、摺動部材10の実施例1〜実施例8、および比較例1〜比較例5の背面温度が150℃を超えたとき、または摩擦力が50Nを超えた時点での荷重を、焼付かない最大面圧(MPa)と判断した。焼付かない最大面圧は、実測値から小数点以下を切り捨てた値とした。
【0023】
以下、検証結果について図3および図4に基づいて、耐焼付性の観点から考察する。
まず、摺動部材10におけるSn含有金属間化合物の面積率が耐焼付性に与える影響を図3に基づいて検証する。実施例1〜実施例8は、次の三つの要件を満たしている。
【0024】
要件(1)観察視野の面積を面積Sとし、Sn含有金属間化合物の総面積を総面積Stとしたとき、Sn含有金属間化合物の面積率R=St/Sは、20%≦R≦60%である。
要件(2)観察視野における第二位化合物の面積を第二位面積S2としたとき、総面積Stに対する第二位化合物の面積率R2=S2/Stは、5%≦R2≦50%である。
要件(3)観察視野における第一位化合物の面積を第一位面積S1としたとき、第二位面積S2に対する第一位化合物の面積率R1=S1/S2は、50%≦R1≦800%である。
【0025】
これらの要件(1)から要件(3)を満たす実施例1〜実施例8は、これらの要件(1)から要件(3)のいずれかを満たさない比較例1〜比較例5と比較して、耐焼付性が向上している。これは、要件(1)から要件(3)をすべて満たす実施例1〜実施例8は、相手部材に凝着したSn基マトリクスの掻き落とし作用を発揮しつつ、摩擦抵抗の増加を招くことなく発熱を抑制することができるからと考えられる。なお、ここでは、110μm×150μmの観察視野を用いた。
【0026】
具体的には、実施例1〜実施例8は、比較例3および比較例4に比較して耐焼付性が高い。比較例3は、要件(1)における面積率Rが10%であり、面積率Rが下限値である20%未満である。また、比較例4は、要件(1)における面積率Rが70%であり、面積率Rが上限値である60%を超える。比較例3のように面積率Rが20%未満であると、相手部材に凝着したSn基マトリクスの掻き落としは不十分になる。一方、比較例4のように面積率Rが60%を超えると、Sn基マトリクスに対して析出するSn含有金属間化合物が過剰となる。そのため、相手部材との摺動時における摩擦抵抗が増大し、発熱が増大する。
【0027】
また、実施例1〜実施例8は、比較例1、比較例2および比較例5に比較して耐焼付性が高い。比較例1は、要件(2)における面積率R2が60%であり、面積率R2が上限値である50%を超える。比較例2および比較例5は、要件(2)における面積率R2がそれぞれ2%、3%であり、面積率R2が下限値である5%未満である。比較例1のように面積率R2が50%を超えると、摺動材料の硬さが過大となる。そのため、相手部材との摺動時における摩擦抵抗が増大し、発熱が増大すると考えられる。一方、比較例2および比較例5のように面積率R2が5%未満であると、相手部材に凝着したSn基マトリクスの掻き落としは不十分になる。
【0028】
さらに、実施例1〜実施例8は、比較例1、比較例3および比較例5に比較して耐焼付性が高い。比較例1および比較例3は、要件(3)における面積率R1がそれぞれ20%であり、面積率R1が下限値である50%未満である。比較例5は、要件(3)における面積率R1が900%であり、面積率R1が上限値である800%を超える。比較例1および比較例3のように面積率R1が50%未満であると、相手部材に凝着したSn基マトリクスの掻き落としは不十分になる。一方、比較例5のように面積率R1が800%を超えると、摺動材料の全体的な硬さが過大となる。そのため、相手部材との摺動時における摩擦抵抗が増大し、発熱が増大すると考えられる。
以上、説明したように、摺動部材10におけるSn含有金属間化合物の面積率R、面積率R2および面積率R1は、いずれも摺動部材10の耐焼付性を決定する要素になることがわかった。
【0029】
次に、摺動部材10における第二位化合物22と耐焼付性との関係について図4に基づいて検証する。
(第二位化合物およびSn基マトリクスの硬さと耐焼付性との関係)
第二位化合物22の硬さH2は、Sn基マトリクス13の硬さHmの3倍以上にすることが好ましい。実施例2〜実施例8は、第二位化合物22の硬さH2をSn基マトリクス13の硬さHmの3倍以上に設定している。一方、実施例1は、第二位化合物22の硬さH2をSn基マトリクス13の硬さHmの2.5倍に設定している。すなわち、実施例1は、H2/Hm<3である。
【0030】
実施例2〜実施例8は、実施例1と比較して耐焼付性が向上している。このように、Hm×3≦H2に設定した実施例2〜実施例8は、第二位化合物22の硬さH2がSn基マトリクス13の硬さHmよりも十分に大きい。そのため、摺動時に相手部材に凝着したSn基マトリクスは、硬い第二位化合物22によって掻き落とされる。その結果、実施例2〜実施例8は、実施例1に比較して耐焼付性が向上したと考えられる。
このように、第二位化合物22の硬さH2は、Sn基マトリクス13の硬さHmとの関係において耐焼付性に寄与することがわかった。
【0031】
(第二位化合物のビッカース硬さと耐焼付性との関係)
第二位化合物22の硬さH2は、ビッカース硬さで100〜200であることが好ましい。実施例3〜実施例8は、第二位化合物22の硬さH2がビッカース硬さで100〜200である。一方、実施例1および実施例2は、第二位化合物22の硬さH2がビッカース硬さで90である。すなわち、実施例1および実施例2は、第二位化合物22の硬さH2がビッカース硬さで100未満である。実施例3〜実施例8は、実施例1および実施例2と比較して耐焼付性が向上している。このように、第二位化合物22の硬さH2をビッカース硬さ100〜200に設定することにより、相手部材の損傷を招くことなく、相手部材に凝着したSn基マトリクスが掻き落とされる。その結果、実施例3〜実施例8は、実施例1および実施例2に比較して耐焼付性が向上したと考えられる。
このように、第二位化合物22のビッカース硬さは、耐焼付性に寄与することがわかった。
【0032】
(第二位化合物の結晶形状および長結晶面積の面積率と耐焼付性との関係)
第二位化合物22は、短径および長径を有する針状形状の結晶であることが好ましい。また、第二位化合物22は、長径がμm以上の結晶の面積を長結晶面積Sxとしたとき、第二位面積S2に対する面積率Rxが50%≦Rxであることが好ましい。
【0033】
実施例4〜実施例8は、実施例1〜実施例3と比較して耐焼付性が向上している。このように第二位化合物22が針状形状の結晶である実施例4〜実施例8は、短径と長径との差が大きな形状を有している。そのため、第二位化合物22が針状形状の結晶である実施例4〜実施例8は、平面視において方形状の結晶に比較して結晶の外周の全長が大きくなる。その結果、第二位化合物22とSn基マトリクス13とが接する全長が大きくなり、第二位化合物22がSn基マトリクス13に保持される力は大きくなる。これにより、Sn基マトリクス13に保持されている析出した第二位化合物22は、Sn基マトリクス13から脱落しにくくなる。そして、第二位化合物22のうち長径が5μm以上の結晶の面積率Rxを、50%≦Rxとすることにより、第二位化合物22はSn基マトリクス13からの脱落が低減されると考えられる。
このように、第二位化合物22の結晶形状および長結晶面積の面積率Rxは、耐焼付性に寄与することがわかった。
【0034】
(第二位化合物の種類)
以上のことを総合すると、第二位化合物22がSn−Agである実施例4〜実施例8は、第二位化合物22がSn−Auである実施例1、実施例2、および第二位化合物22がSn−Sb−Asである実施例3に比較して、耐焼付性が高い。これにより、Sn基マトリクス13に二種類以上のSn含有金属間化合物が析出する摺動材料において、第二位化合物22がSn−Agである摺動材料は、相手部材に凝着したSn基マトリクスの耐焼付性が向上することがわかった。すなわち、摺動材料は、第二位化合物22がSn−AuやSn−Sb−Asであっても耐焼付性を向上させることができるとともに、第二位化合物22がSn−Agであるとき、耐焼付性がより向上することがわかった。また、第二位化合物22がSn−Ag−SbやSn−Ag−Sb−Cuなどであるときも、耐焼付性が同様に優れていた。
【0035】
以上説明した摺動材料を用いた摺動部材10は、内燃機関のクランクシャフトの軸受などに用いられる。特に、摺動部材10は、船舶用などの大型の内燃機関に好適に用いることができる。
以上説明した本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。
【符号の説明】
【0036】
図面中、13はSn基マトリクス、21は第一位化合物、22は第二位化合物、23は第三位化合物を示す。
図1
図2
図3
図4
図5