【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の摺動材料は、Sn基マトリクスに前記Sn基マトリクスよりも硬い二種類以上のSn含有金属間化合物が分散している摺動材料である。前記Sn含有金属間化合物は、最も硬い第一位化合物、前記第一位化合物の次に硬い第二位化合物を少なくとも含んでいる。
【0007】
Sn基の摺動材料は、添加する金属元素に応じて二種類以上のSn含有金属間化合物を生成する。これら二種類以上のSn含有金属間化合物は、それぞれ硬さが異なる。すなわち、二種類以上のSn含有金属間化合物は、最も硬い金属間化合物である第一位化合物、および第一位化合物の次に硬い第二位化合物を含む。摺動材料に含まれる金属元素の種類は、二種類に限らず、三種類以上でもよい。この場合、Sn含有金属間化合物は、三種類以上生成する場合がある。このとき、当然ながら、第二位化合物の次に硬いSn含有金属間化合物は第三位化合物であり、第三位化合物の次に硬いSn含有金属間化合物は第四位化合物である。また、摺動材料は、Sn、およびSnとともに金属間化合物を生成する各種元素に加え、不可避的な不純物を含んでいる。
【0008】
本願発明者は、このようにSn基マトリクスに二種類以上のSn含有金属間化合物が含まれるとき、硬さが第二位となる第二位化合物が摺動材料の耐焼付性の向上に大きく寄与することを見出した。Sn基の摺動材料は、例えば軸受部材である摺動部材として相手部材と摺動することにより、相手部材にSn基マトリクス物などの凝着を招く。この相手部材に凝着した成分物は、摺動材料と相手部材との局所的な接触の原因となり、局所的な摩耗や焼付きを招く。そのため、相手部材に凝着した成分物は、取り除く必要があり、摺動材料に析出した硬い析出物によって掻き落とすことができる。一方、上述の通り、例えばSn−Cuのように相手部材より硬い析出物は、相手部材を損傷させ、結果として焼付きを招く。このことから、摺動部材は、相手部材の損傷を抑えつつ、凝着した成分を掻き落とす析出物を含有することが好ましい。すなわち、本願発明者は、Sn基の摺動材料の場合、硬さ順位が第一位となる第一位化合物および硬さ順位が第二位となる第二位化合物を制御することにより、相手部材の損傷を招くことなくSn基マトリクス物などの凝着成分を掻き落とすことができ、耐焼付性を向上できることを見出した。
【0009】
具体的には、摺動材料を構成するSn含有金属間化合物は、以下の要件(1)〜(3)のすべてを満たすことにより、耐焼付性を向上させることができる。
(1)観察視野の面積を面積Sとし、Sn含有金属間化合物の総面積を総面積Stとしたとき、Sn含有金属間化合物の面積率R=St/Sは、20%≦R≦60%である。
ここで、Sn含有金属間化合物の総面積Stとは、少なくとも第一位化合物および第二位化合物を含む二種類以上のSn含有金属間化合物の観察視野における面積の総和を意味する。相手部材に凝着したSn基マトリクス物は、摺動材料に析出したSn含有金属間化合物によって掻き落とされる。そのため、Sn含有金属間化合物の面積率Rが20%未満になると、相手部材に凝着したSn基マトリクス物の掻き落としは不十分になる。一方、Sn含有金属間化合物の面積率Rが60%を超えると、Sn基マトリクスに対して析出するSn含有金属間化合物は過剰となる。そのため、相手部材との摺動時における摩擦抵抗が増大し、発熱が増大する。したがって、面積率Rを20%≦R≦60%に設定することにより、Sn基マトリクス物の掻き落とし作用と発熱の抑制とを両立することができる。
【0010】
本明細書における観察視野とは、例えば顕微鏡などで拡大した任意の視野を意味する。本発明は、Sn含有金属間化合物の面積率を基準として特定している。そのため、観察視野の倍率や面積は、任意に設定することができる。
【0011】
(2)観察視野における第二位化合物の面積を第二位面積S2としたとき、総面積Stに対する第二位化合物の面積率R2=S2/Stは、5%≦R2≦50%である。
相手部材に凝着したSn基マトリクス物は、摺動材料に析出したSn含有金属間化合物によって掻き落とされる。そのため、第二位化合物の面積率R2が5%未満になると、相手部材に凝着したSn基マトリクス物の掻き落としは不十分になる。一方、第二位化合物の面積率R2が50%を超えると、摺動材料の硬さは過大となる。そのため、相手部材との摺動時における摩擦抵抗が増大し、発熱が増大する。したがって、面積率R2を5%≦R2≦50%に設定することにより、Sn基マトリクス物の掻き落とし作用と発熱の抑制とを両立することができる。
【0012】
(3)観察視野における前記第一位化合物の面積を第一位面積S1としたとき、第二位面積S2に対する第一位化合物の面積率R1=S1/S2は、50%≦R1≦800%である。
上述の通り相手部材に凝着したSn基マトリクス物は、摺動材料に析出したSn含有金属間化合物によって掻き落とされる。特に、硬さ順位が一位の第一位化合物は、凝着したSn基マトリクス物の掻き落とし作用が高い反面、相手部材の損傷を招きやすい。そのため、第一位化合物と第二位化合物との面積率R1を規定することにより、凝着したSn基マトリクス物の掻き落とし作用と相手部材の損傷を抑制する作用とが両立する。すなわち、第一位化合物の面積率R1が50%未満になると、相手部材に凝着したSn基マトリクス物の掻き落としは不十分になる。一方、第一位化合物の面積率R1が800%を超えると、摺動材料の硬さは過大となる。そのため、相手部材との摺動時における摩擦抵抗が増大し、発熱が増大する。したがって、面積率R1を50%≦R1≦800%に設定することにより、Sn基マトリクス物の掻き落とし作用と発熱の抑制とを両立することができる。
優れた耐焼付性を発揮するにおいて、面積率R≧22%かつ面積率R2≧18%かつ面積率R1≦320%であることが好ましい。
【0013】
請求項2記載の摺動材料では、第二位化合物の
ビッカース硬さH2は、Sn基マトリクスの
ビッカース硬さHmの3倍以上である。
このように、硬さH2と硬さHmとの関係を、Hm×3≦H2に設定することにより、相手部材に凝着したSn基マトリクス物の掻き落とし作用は向上する。したがって、耐焼付性をより向上させることができる。
【0014】
請求項3記載の摺動材料では、第二位化合物の硬さH2は、ビッカース硬さで100〜200である。
このように、硬さH2をビッカース硬さ100〜200に設定することにより、相手部材の損傷を招くことなく、相手部材に凝着したSn基マトリクスは掻き落とされる。したがって、耐焼付性をより向上させることができる。
【0015】
請求項4記載の摺動材料では、第二位化合物は、短径および長径を有する針状形状の結晶であって、長径が5μm以上の結晶の面積を長結晶面積Sxとしたとき、第二位面積S2に対するSxの面積率Rx=Sx/S2が、50%≦Rxである。
結晶の面積を同一とすると、短径と長径との差が大きくなるほど外周の全長が増加する。すなわち、投影面積で見た場合、針状形状の結晶は、例えば面積が同一の正方形に近い形状の結晶と比較して外周の全長が大きい。摺動材料のSn含有金属間化合物は、Sn基マトリクスに析出している。そのため、Sn含有金属間化合物は、Sn基マトリクスによって保持されている。ここで、Sn含有金属間化合物は、結晶の外周の全長が大きくなるほど、Sn基マトリクスと接する全長が大きくなる。その結果、Sn含有金属間化合物は、Sn基マトリクスによって広い範囲で保持され、Sn基マトリクスから脱落しにくくなる。仮にSn基マトリクスからSn含有金属間化合物が脱落すると、脱落したSn含有金属間化合物は、異物として摺動材料と相手部材との間に介在し、焼付きを招く原因となる。そこで、第二位化合物を針状形状の結晶とし、この第二化合物の結晶のうち長径が
5μm以上の結晶の面積率Rxを、50%≦Rxとすることにより、第二位化合物はSn基マトリクスからの脱落が低減される。したがって、耐焼付性をさらに向上させることができる。
【0016】
請求項5記載の摺動材料では、第二位化合物は、Sn−Agである。
Sn−Agは、Sn基マトリクスよりも硬く、摺動の相手部材よりも軟らかな適度な硬さを有している。また、Sn−Agは、上記の各条件を満足する化合物である。そのため、Sn−Agからなる第二位化合物は、摺動の相手部材の損傷を招くことなく、相手部材に凝着したSn基マトリクスの掻き落とし作用を発揮する。したがって、優れた耐焼付性を発揮させことができる。
摺動材料は、請求項6記載のように軸受部材の摺動側端面に設けられ、相手部材と摺動する。これにより、相手部材と軸受部材との耐焼付性を向上させることができる。