特許第5897979号(P5897979)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5897979同軸電線の端末処理方法及び端末処理装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5897979
(24)【登録日】2016年3月11日
(45)【発行日】2016年4月6日
(54)【発明の名称】同軸電線の端末処理方法及び端末処理装置
(51)【国際特許分類】
   H01R 43/28 20060101AFI20160324BHJP
   H02G 1/14 20060101ALI20160324BHJP
   H01B 13/016 20060101ALI20160324BHJP
【FI】
   H01R43/28
   H02G1/14
   H01B13/00 553Z
【請求項の数】4
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2012-104016(P2012-104016)
(22)【出願日】2012年4月27日
(65)【公開番号】特開2013-232349(P2013-232349A)
(43)【公開日】2013年11月14日
【審査請求日】2015年3月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100105474
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 弘徳
(74)【代理人】
【識別番号】100108589
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 利光
(72)【発明者】
【氏名】古畑 賢太
(72)【発明者】
【氏名】白木 恭嗣
【審査官】 山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−023525(JP,A)
【文献】 特開平01−081608(JP,A)
【文献】 独国特許発明第04212805(DE,C1)
【文献】 特開2009−272236(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 43/28
H02G 1/14
H01B 13/016
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部導体を絶縁体で覆ったコア部と、このコア部の周囲に設けられた複数本の素線からなる外部導体と、外部導体の周囲を覆うシースとを有し、前記内部導体とともに前記外部導体が導線として用いられる同軸電線に対して、その端末で前記コア部と前記外部導体とに分岐させる同軸電線の端末処理方法であって、
前記シースを端部で除去することで前記外部導体部分を露出させる外部導体露出工程と、
前記外部導体部分の端部を把持して移動させることで前記外部導体の露出部分を弛ませ、前記外部導体の素線を前記コア部の外周面から分離させる外部導体解放工程と、
前記外部導体の素線に形成された隙間から前記内部導体を有する前記コア部を押し出して前記外部導体から取り出す内部導体取出し工程と、
前記外部導体の端部を把持して捻ることで前記外部導体を撚り合わせる外部導体撚合わせ工程と、
を含むことを特徴とする同軸電線の端末処理方法。
【請求項2】
前記外部導体解放工程前に、前記外部導体露出工程で露出された前記外部導体部分の端末における前記コア部に円筒状の中子を装着する中子装着工程を行うことを特徴とする請求項1に記載の同軸電線の端末処理方法。
【請求項3】
前記中子装着工程前に、前記外部導体露出工程で露出された前記外部導体の端末近傍箇所を外周側から圧縮して変形させ、前記外部導体の端末部分を前記コア部から離れるように広げる外部導体端末拡開工程を行うことを特徴とする請求項2に記載の同軸電線の端末処理方法。
【請求項4】
内部導体を絶縁体で覆ったコア部と、このコア部の周囲に設けられた複数本の素線からなる外部導体と、外部導体の周囲を覆うシースとを有し、前記内部導体とともに前記外部導体が導線として用いられる同軸電線に対して、その端末で前記コア部と前記外部導体とに分岐させる同軸電線の端末処理装置であって、
前記シースを端部で除去することで前記外部導体部分が露出された前記同軸電線の前記シースの端部を把持する把持治具と、
前記把持治具で把持された前記同軸電線の露出された前記外部導体の端部を把持した状態で軸方向へ移動または軸心を中心として回動することによって、前記外部導体の露出部分を弛ませて前記外部導体の複数本の素線を前記コア部の外周面から分離させるチャック治具と、
前記分離させられた外部導体の複数本の素線間に形成された隙間のうち側方の一方側の隙間から進入して前記内部導体を有する前記コア部を側方の他方側へ押圧して屈曲させて、前記隙間のうち側方の他方側の隙間から前記コア部を前記外部導体の外へ取り出す押出治具と、
を備えることを特徴とする同軸電線の端末処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部導体と外部導体とを有する同軸電線の端末処理方法及び端末処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、シールド機能を有する電線として、内部導体の周囲を外部導体で覆った同軸電線が用いられている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
また、このような同軸電線において、その端末部分で内部導体から外部導体を分離する端末処理の技術が知られている(例えば、特許文献3参照)。この端末処理ではまず、図23に示すように、細線からなる外部導体1の撚りを戻し、次に、図24に示すように、エアメス2によって外部導体1を中心導体3からエアで分離させ、その後、図25(a)から図25(c)に示すように、この分離させた外部導体1を直立させ、その外部導体1の細線束を把持具4で挟持して引延ばしながら捻る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−171952号公報
【特許文献2】特開2007−66825号公報
【特許文献3】特開平1−81608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、自動車等の車両に配線されるワイヤハーネスでは、内部導体の外周に配置される外部導体を、シールド用ではなく内部導体と同様に導線として使用する同軸電線が用いられることがある。このような同軸電線は、その端末において内部導体と外部導体とに分離され、これらの内部導体及び外部導体のそれぞれがコネクタへ接続される。
【0006】
このような用途に用いられる同軸電線は、外部導体がシールド用のような細径ではないため、外部導体の撚りを戻す際に、チャックされた同軸電線のシースと外部導体とが滑り、十分に撚りを戻せない場合がある。
【0007】
しかも、素線径の大きい外部導体に対しては、エアメスのエアによる外部導体の分離が困難である。また、分離させた外部導体を束ねる際に、この外部導体の素線の束を挟持して引延ばしながら捻ると、外部導体の素線が損傷したり断線し、電気的・機械的特性の低下が懸念される。
【0008】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、容易に外部導体と内部導体とを分岐させることが可能な同軸電線の端末処理方法及び端末処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達成するために、本発明に係る同軸電線の端末処理方法は、下記(1)〜(6)を特徴としている。
(1) 内部導体を絶縁体で覆ったコア部と、このコア部の周囲に設けられた複数本の素線からなる外部導体と、外部導体の周囲を覆うシースとを有し、前記内部導体とともに前記外部導体が導線として用いられる同軸電線に対して、その端末で前記コア部と前記外部導体とに分岐させる同軸電線の端末処理方法であって、
前記シースを端部で除去することで前記外部導体部分を露出させる外部導体露出工程と、
前記外部導体部分の端部を把持して移動させることで前記外部導体の露出部分を弛ませ、前記外部導体の素線を前記コア部の外周面から分離させる外部導体解放工程と、
前記外部導体の素線に形成された隙間から前記内部導体を有する前記コア部を押し出して前記外部導体から取り出す内部導体取出し工程と、
前記外部導体の端部を把持して捻ることで前記外部導体を撚り合わせる外部導体撚合わせ工程と、
を含むこと。
(2) 上記(1)の同軸電線の端末処理方法において、前記外部導体解放工程では、前記コア部に横巻きされた前記外部導体の端部を、その撚り方向と逆方向へ回動させて撚りを解くことで前記外部導体を弛ませること。
(3) 上記(1)または(2)の同軸電線の端末処理方法において、前記内部導体取出し工程前に、前記外部導体解放工程で弛まされた前記外部導体を複数の素線の群に分割し、前記コア部を押し出すための隙間を形成する外部導体分割工程を行うこと。
(4) 上記(1)〜(3)の同軸電線の端末処理方法において、前記外部導体撚合わせ工程前に、前記内部導体取出し工程でコア部が取り出されて弛んだ前記外部導体を、その外周から押圧することで収束させる外部導体収束工程を行うこと。
(5) 上記(1)〜(4)の同軸電線の端末処理方法において、前記外部導体解放工程前に、前記外部導体露出工程で露出された前記外部導体部分の端末における前記コア部に円筒状の中子を装着する中子装着工程を行うこと。
(6) 上記(5)の同軸電線の端末処理方法において、前記中子装着工程前に、前記外部導体露出工程で露出された前記外部導体の端末近傍箇所を外周側から圧縮して変形させ、前記外部導体の端末部分を前記コア部から離れるように広げる外部導体端末拡開工程を行うこと。
【0010】
上記(1)の同軸電線の端末処理方法では、外部導体部分の端部を直接把持して移動させることで、シースに対する外部導体の滑りが軽減され、外部導体の露出部分を容易に弛ませて外部導体の素線をコア部の外周面から確実に分離させることができる。
つまり、外部導体がシールド用のような細径ではなく素線の径が大きい車両のワイヤハーネス用途の同軸電線においても、素線を損傷させたり断線させることなく、外部導体をコア部から確実に分離させることができる。これにより、製品形状の安定化を図り、良好な電気的・機械的特性を確保できる。また、端末処理の機械化が容易であり、よって、加工工数の削減を図ることができる。
そして、このように外部導体の素線をコア部から分離させ、内部導体を有するコア部を押し出して外部導体から取り出し、さらに、外部導体を撚り合わせることで、コア部の内部導体と外部導体とを確実に分岐させてコネクタ等への接続を可能にできる。
また、内部導体を有するコア部を押し出して外部導体と分岐させるので、同軸電線の固定位置及び外部導体の端末位置が変更されることがなく、よって、外部導体解放工程と外部導体撚合わせ工程とで同じ設備を用いることができ、設備費の削減を図ることができる。
上記(2)の同軸電線の端末処理方法では、外部導体がコア部に横巻きされている同軸電線においては、外部導体の端部を把持して撚り方向と逆方向へ回動させて撚りを解くことで、極めて容易に外部導体を弛ませてコア部から分離させることができる。
上記(3)の同軸電線の端末処理方法では、内部導体を有するコア部を取り出す前に、外部導体分割工程で外部導体を複数の素線の群に分割して隙間を形成しておくので、コア部との分岐の容易化を図ることができる。
上記(4)の同軸電線の端末処理方法では、外部導体を撚り合わせる前に、弛んだ外部導体を、その外周から押圧することで収束させるので、外部導体撚合わせ工程での外部導体の撚り合わせの容易化及び円滑化を図ることができる。
上記(5)の同軸電線の端末処理方法では、外部導体部分の端末におけるコア部に円筒状の中子を装着しておくことで、外部導体解放工程において、外部導体を中子の外周面とチャック治具とで挟持することとなり、コア部の内部導体への押圧負荷や捩じれ負荷の作用をなくすことができる。これにより、コア部の内部導体の引張や伸びなどの機械的特性の低下を防ぎ、良好な品質を維持させることができる。
上記(6)の同軸電線の端末処理方法では、中子の装着前に外部導体の端末近傍箇所を外周側から圧縮して変形させ、外部導体の端末部分をコア部から離れるように広げるので、中子の装着の容易化による作業性の向上を図ることができる。
【0011】
また、上述した目的を達成するために、本発明に係る同軸電線の端末処理装置は、下記(7)〜(10)を特徴としている。
(7) 内部導体を絶縁体で覆ったコア部と、このコア部の周囲に設けられた複数本の素線からなる外部導体と、外部導体の周囲を覆うシースとを有し、前記内部導体とともに前記外部導体が導線として用いられる同軸電線に対して、その端末で前記コア部と前記外部導体とに分岐させる同軸電線の端末処理装置であって、
前記シースを端部で除去することで前記外部導体部分が露出された前記同軸電線の前記シースの端部を把持する把持治具と、
前記把持治具で把持された前記同軸電線の露出された前記外部導体の端部を把持した状態で軸方向へ移動または軸心を中心として回動することによって、前記外部導体の露出部分を弛ませて前記外部導体の複数本の素線を前記コア部の外周面から分離させるチャック治具と、
前記分離させられた外部導体の複数本の素線間に形成された隙間のうち側方の一方側の隙間から進入して前記内部導体を有する前記コア部を側方の他方側へ押圧して屈曲させて、前記隙間のうち側方の他方側の隙間から前記コア部を前記外部導体の外へ取り出す押出治具と、
を備えること。
(8) 上記(7)の同軸電線の端末処理装置において、露出されて弛まされた前記外
部導体を複数の素線の群に分割して前記外部導体に隙間を形成する分割治具を備えること。
(9) 上記(7)または(8)の同軸電線の端末処理装置において、露出されて弛まされた前記外部導体を、その外周から押圧することで収束させる収束治具を備えること。
(10) 上記(7)〜(9)の同軸電線の端末処理装置において、露出された前記外部導体の端末近傍箇所を外周側から圧縮して変形させ、前記外部導体の端末部分を前記コア部から離れるように広げる端末拡開治具を備えること。
【0012】
上記(7)の同軸電線の端末処理装置では、シース部分を把持治具で把持した状態で、外部導体の端部をチャック治具で直接把持して移動させることで、シースに対する外部導体の滑りが軽減され、外部導体の露出部分を容易に弛ませて外部導体の素線をコア部の外周面から確実に分離させることができる。
つまり、外部導体がシールド用のような細径ではなく素線の径が大きい車両のワイヤハーネス用途の同軸電線においても、素線を損傷させたり断線させることなく、外部導体をコア部から確実に分離させることができる。これにより、製品形状の安定化を図り、良好な電気的・機械的特性を確保できる。また、端末処理の機械化が容易であり、よって、加工工数の削減を図ることができる。
そして、このように外部導体の素線をコア部から分離させ、内部導体を有するコア部を押出治具で押し出して外部導体から取り出し、さらに、チャック治具を回転させて外部導体を撚り合わせることで、コア部の内部導体と外部導体とを確実に分岐させてコネクタ等への接続を可能にできる。
また、内部導体を有するコア部を押出治具で押し出して外部導体と分岐させれば、同軸電線の固定位置及び外部導体の端末位置が変更されることがなく、よって、外部導体を解放させる外部導体解放工程と外部導体を撚り合わせる外部導体撚合わせ工程とで同じ設備である把持治具及びチャック治具を用いることができ、設備費の削減を図ることができる。
また、外部導体の端部をチャック治具で把持して回動させることで、外部導体を容易に撚り合わせることができる。
上記(8)の同軸電線の端末処理装置では、内部導体を有するコア部を取り出す前に、分割治具で外部導体を複数の素線の群に分割して隙間を形成しておくことができ、コア部との分岐の容易化を図ることができる。
上記(9)の同軸電線の端末処理装置では、外部導体を撚り合わせる前に、弛んだ外部導体を、その外周から収束治具で押圧することで収束させることができ、外部導体の撚り合わせの容易化及び円滑化を図ることができる。
上記(10)の同軸電線の端末処理装置では、外部導体の端末近傍箇所を端末拡開治具で外周側から圧縮して変形させ、外部導体の端末部分をコア部から離れるように広げることができ、チャック治具で外部導体を把持する際の保護となる円筒状の中子をコア部の端部へ容易に装着することが可能となり、作業性の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、容易に外部導体と内部導体とを分岐させることが可能な同軸電線の端末処理方法及び端末処理装置を提供できる。
【0014】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1(a)及び図1(b)は、本発明の同軸電線の端末処理方法及び端末処理装置による端末処理の対象となる同軸電線を示す図であって、図1(a)は端部における斜視図、図1(b)は端部における断面図である。
図2図2は、本発明の同軸電線の端末処理方法及び端末処理装置によって端末処理された同軸電線の端部の斜視図である。
図3図3は、外部導体露出工程を説明する同軸電線の端部の斜視図である。
図4図4は、外部導体解放工程を説明する同軸電線の端部の斜視図である。
図5図5は、チャック治具を説明するチャック治具の正面図である。
図6図6は、外部導体解放工程を説明する同軸電線の端部の斜視図である。
図7図7は、外部導体分割工程を説明する同軸電線の端部の斜視図である。
図8図8は、外部導体分割工程を説明する同軸電線の端部の斜視図である。
図9図9は、内部導体取出し工程を説明する同軸電線の端部の斜視図である。
図10図10は、内部導体取出し工程を説明する同軸電線の端部の斜視図である。
図11図11は、外部導体収束工程を説明する同軸電線の端部の斜視図である。
図12図12は、外部導体収束工程を説明する同軸電線の端部の斜視図である。
図13図13は、外部導体撚合わせ工程を説明する同軸電線の端部の斜視図である。
図14図14は、外部導体撚合わせ工程を説明する同軸電線の端部の斜視図である。
図15図15は、外部導体端末裁断工程を説明する同軸電線の端部の斜視図である。
図16図16は、外部導体端末拡開工程を説明する同軸電線の端部の斜視図である。
図17図17は、外部導体端末拡開工程を説明する同軸電線の端部の斜視図である。
図18図18(a)及び図18(b)は、外部導体の端末部分が拡開された同軸電線の端部の側面図及び正面図である。
図19図19は、中子装着工程を説明する同軸電線の端部の斜視図である。
図20図20は、中子装着工程を説明する同軸電線の端部の斜視図である。
図21図21は、外部導体解放工程を説明する同軸電線の端部の斜視図である。
図22図22は、チャック治具による同軸電線のチャックの状態を説明するチャック治具の正面図である。
図23図23は、端末処理の従来例を説明する同軸電線の端部の側面図である。
図24図24は、端末処理の従来例を説明する同軸電線の端部の側面図及び正面図である。
図25図25は、端末処理の従来例を説明する図であって、図25(a)から図25(c)はそれぞれ同軸電線の端部の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施形態の例を、図面を参照して説明する。
【0017】
(第1実施形態)
まず、第1実施形態に係る端末処理方法及び端末処理装置について説明する。
【0018】
図1(a)及び図1(b)は、本発明の同軸電線の端末処理方法及び端末処理装置による端末処理の対象となる同軸電線を示す図であって、図1(a)は端部における斜視図、図1(b)は端部における断面図、図2は、本発明の同軸電線の端末処理方法及び端末処理装置によって端末処理された同軸電線の端部の斜視図である。
【0019】
図1(a)及び図1(b)に示すように、本発明に係る端末処理方法及び端末処理装置が端末処理を行う対象となる同軸電線10は、その中心に、内部導体11を絶縁体12で覆ったコア部13を有し、このコア部13の周囲に外部導体14が設けられ、さらに、その周囲がシース15で覆われた構造とされている。
【0020】
内部導体11は、例えば、複数本の銅線からなる撚り線または銅線からなる単線である。絶縁体12は、合成樹脂からなる絶縁材から形成されている。外部導体14は、複数本の銅線等の素線14aを一方向へ横巻きで巻き付けたものである。シース15は、合成樹脂からなる絶縁材から形成されている。
【0021】
この同軸電線10は、外部導体14がシールド用ではなく内部導体11と同様に導線として使用されるもので、自動車等の車両に配線されるワイヤハーネスとして用いられる。このような同軸電線10の外部導体14では、シールドのための外部導体のような細径の素線よりも太い素線が用いられている。
【0022】
本実施形態に係る端末処理方法及び端末処理装置では、図2に示すように、上記の同軸電線10を、端部におけるシース15が除去され、内部導体11を絶縁体12で覆ったコア部13と外部導体14とが分岐された状態に端末処理する。そして、このように端末処理することで、コア部13の端部で内部導体11を露出させ、この内部導体11及びコア部13から分岐させた外部導体14をコネクタ等へ接続することができる。
【0023】
次に、本実施形態に係る端末処理方法及び端末処理装置を、その工程毎に詳述する。
【0024】
図3は、外部導体露出工程を説明する同軸電線の端部の斜視図、図4は、外部導体解放工程を説明する同軸電線の端部の斜視図、図5は、チャック治具を説明するチャック治具の正面図、図6は、外部導体解放工程を説明する同軸電線の端部の斜視図、図7は、外部導体分割工程を説明する同軸電線の端部の斜視図、図8は、外部導体分割工程を説明する同軸電線の端部の斜視図、図9は、内部導体取出し工程を説明する同軸電線の端部の斜視図、図10は、内部導体取出し工程を説明する同軸電線の端部の斜視図、図11は、外部導体収束工程を説明する同軸電線の端部の斜視図、図12は、外部導体収束工程を説明する同軸電線の端部の斜視図、図13は、外部導体撚合わせ工程を説明する同軸電線の端部の斜視図、図14は、外部導体撚合わせ工程を説明する同軸電線の端部の斜視図、図15は、外部導体端末裁断工程を説明する同軸電線の端部の斜視図である。
【0025】
(外部導体露出工程)
外部導体14を露出させる外部導体露出工程を行う。
具体的には、同軸電線10の端部におけるシース15をカッタ等により切断する。そして、切断箇所よりも端部側のシース15を端部方向へ引き抜く。これにより、図3に示すように、外部導体14を所定長さだけ露出させる。
【0026】
(外部導体解放工程)
露出させた外部導体14を解してコア部13から離す外部導体解放工程を行う。
この外部導体解放工程では、図4に示すように、把持治具21及びチャック治具31を用いる。
【0027】
把持治具21は、シース15の外径に対応する円弧状の把持凹部22が形成された一対の把持ブロック23を備えており、この把持凹部22で同軸電線10のシース15の端部を把持する。
【0028】
チャック治具31は、図5に示すように、等間隔に配置された3つのチャック体32を有しており、これらのチャック体32が径方向へ移動可能とされている。これらのチャック体32は、その配置の中心側に押圧凹部33を有しており、チャック治具31には、チャック体32の配置の中心に、押圧凹部33によって囲われた挿通孔34が形成されている。このチャック治具31は、挿通孔34を中心としてチャック体32が回動可能とされている。
【0029】
上記の把持治具21及びチャック治具31を用いた外部導体解放工程では、図4に示すように、把持治具21の把持ブロック23の間に同軸電線10のシース15の端部を配置させた状態で、把持ブロック23同士を近接させる。これにより、把持ブロック23の把持凹部22で同軸電線10のシース15の端部を把持する。また、チャック治具31の挿通孔34に同軸電線10の外部導体14部分の端部を挿入した状態でチャック体32を配置の中心側へ移動させる。これにより、外部導体14部分を各チャック体32の押圧凹部33で外周側から押圧して固定する。
【0030】
この状態において、図6に示すように、チャック治具31のチャック体32を、横巻きされた外部導体14の巻方向と逆方向へ回動させる。すると、外部導体14が解されて各素線14aに弛みが生じ、コア部13から離れて膨らんだ状態となる。
【0031】
なお、チャック体32の回転角度θは、露出させた外部導体14の軸方向の長さ寸法L(mm)と外部導体14の撚りピッチP(mm/回転)とから次式で算出する。
【0032】
θ=L/P
【0033】
(外部導体分割工程)
解されてコア部13から離された外部導体14を分割する外部導体分割工程を行う。
【0034】
この外部導体分割工程では、図7に示すように、分割治具41を用いる。分割治具41は、同軸電線10の端部における左右に設けられており、同軸電線10に対して軸方向と直交する方向へ移動可能とされている。これらの分割治具41は、同軸電線10へ向かって突出する分割片42を有する一対の分割体43を備えており、これらの分割体43は、互いに上下方向へ開閉可能とされている。
【0035】
上記の分割治具41を用いた外部導体分割工程では、図7に示すように、分割体43同士を閉じた状態の分割治具41を同軸電線10に近接させ、解されて膨らんだ状態の外部導体14へ分割片42を挿し込む。
【0036】
この状態で、図8に示すように、それぞれの分割治具41の分割体43を上下に開き、また、チャック治具31のチャック体32を径方向外方へ移動させて外部導体14の端部における固定を解除する。すると、外部導体14は、上下二つの素線14aの群に分割され、これらの素線14aの群の間に隙間Sが形成され、この隙間Sでコア部13が露出された状態となる。
【0037】
(内部導体取出し工程)
外部導体14を二つの素線14aの群に分割したら内部導体11を有するコア部13を取り出す内部導体取出し工程を行う。
【0038】
この内部導体取出し工程では、図9に示すように、押出治具51を用いる。この押出治具51は、同軸電線10の端部における一側に設けられており、同軸電線10に対して軸方向と直交する方向へ移動可能とされている。この押出治具51には、その先端側における同軸電線10の端部と逆側の角部に、同軸電線10のコア部13を保持する保持溝52が形成されている。
【0039】
上記の押出治具51を用いた内部導体取出し工程では、図10に示すように、押出治具51を同軸電線10に近接させて外部導体14に形成された一方の隙間Sへ押し込む。このようにすると、コア部13が押出治具51の保持溝52内に入り込んで保持されるとともに、この押出治具51によって側方へ押圧されてシース15の端部側で屈曲される。これにより、内部導体11を有するコア部13が他方の隙間Sから外部導体14の外へ押し出されて取り出される。
【0040】
(外部導体収束工程)
内部導体11を有するコア部13を取り出したら外部導体14を収束させる外部導体収束工程を行う。
【0041】
この外部導体収束工程では、図11に示すように、収束治具61を用いる。この収束治具61は、同軸電線10の外部導体14の左右に一対ずつ配置された収束ブロック62を備えている。これらの収束ブロック62は、外部導体14の左右で同軸電線10の軸方向へ位置がずらされて互い違いに配置されており、それぞれ外部導体14に対して軸方向と直交する方向へ移動可能とされている。これらの収束ブロック62には、外部導体14側にV溝63が形成されている。
【0042】
上記の収束治具61を用いた外部導体収束工程では、図12に示すように、コア部13を上方へ向けた状態で収束ブロック62を外部導体14へ向かって移動させる。すると、これらの左右に設けられた収束ブロック62は、V溝63に外部導体14を保持しながら互いに重なり合うように交差する。これにより、V溝63に保持された外部導体14は、収束ブロック62によって挟み込まれ、よって、同軸電線10の軸線上に収束される。
【0043】
(外部導体撚合わせ工程)
収束させた外部導体14を撚り合わせる外部導体撚合わせ工程を行う。
【0044】
この外部導体撚合わせ工程では、図13に示すように、前述したチャック治具31を用いる。チャック治具31を用いた外部導体撚合わせ工程では、図13に示すように、チャック治具31の挿通孔34に同軸電線10の外部導体14の端部を挿入した状態でチャック体32を配置の中心側へ移動させる。これにより、外部導体14の端部を各チャック体32の押圧凹部33で外周側から押圧して固定する。
【0045】
この状態において、図14に示すように、チャック治具31のチャック体32を、一方向へ回動させる。このようにすると、外部導体14の素線14aが撚り合わされる。
【0046】
なお、この回動方向としては、予め横巻きされていた外部導体14の巻方向と同一方向とするのが好ましい。また、チャック体32の回転数は、外部導体14の素線14aの材料特性によって異なるが、概ね、2回転から3回転程度とするのが好ましい。また、外部導体14の素線14aを撚り合わせると、その撚り合わせによって外部導体14が軸方向に収縮する。したがって、チャック治具31は、同軸電線10の軸方向に移動可能とし、外部導体撚合わせ工程では、撚り合わせによって収縮する外部導体14に対応してチャック治具31を軸方向へ移動させる。
【0047】
(外部導体端末裁断工程)
図15に示すように、チャック治具31で固定されたことでチャック痕が形成されている外部導体14の端末部分をカッタ等で切断して除去する外部導体端末裁断工程を行う。
【0048】
以上の工程を行うことで、同軸電線10の端部において内部導体11を有するコア部13と外部導体14とが分岐され、それぞれコネクタ等への接続が可能な状態となる。
【0049】
このように、上記第1実施形態に係る端末処理方法及び端末処理装置によれば、外部導体14部分の端部をチャック治具31で直接把持して移動させることで、シース15に対する外部導体14の滑りが軽減され、外部導体14の露出部分を容易に弛ませて外部導体14の素線14aをコア部13の外周面から確実に分離させることができる。
【0050】
つまり、外部導体14がシールド用のような細径ではなく素線14aの径が大きい車両のワイヤハーネス用途の同軸電線10においても、素線14aを損傷させたり断線させることなく、外部導体14をコア部13から確実に分離させることができる。これにより、製品形状の安定化を図り、良好な電気的・機械的特性を確保できる。また、端末処理の機械化が容易であり、よって、加工工数の削減を図ることができる。
【0051】
そして、このように外部導体14の素線14aをコア部13から分離させ、内部導体11を有するコア部13を押し出して外部導体14から取り出し、さらに、外部導体14を撚り合わせることで、コア部13の内部導体11と外部導体14とを確実に分岐させてコネクタ等への接続を可能にできる。
【0052】
また、内部導体11を有するコア部13を押し出して外部導体14と分岐させるので、同軸電線10の固定位置及び外部導体14の端末位置が変更されることがなく、よって、外部導体解放工程と外部導体撚合わせ工程とで同じ設備である把持治具21及びチャック治具31を用いることができ、設備費の削減を図ることができる。
【0053】
特に、外部導体14がコア部13に横巻きされている同軸電線10においては、外部導体14の端部を把持して撚り方向と逆方向へ回動させて撚りを解くことで、極めて容易に外部導体14を弛ませてコア部13から分離させることができる。
【0054】
また、内部導体11を有するコア部13を取り出す前に、外部導体分割工程で外部導体14を複数の素線14aの群に分割して隙間Sを形成しておくので、コア部13との分岐の容易化を図ることができる。
【0055】
また、外部導体14を撚り合わせる前に、弛んだ外部導体14を、その外周から押圧することで収束させるので、外部導体撚合わせ工程での外部導体14の撚り合わせの容易化及び円滑化を図ることができる。
【0056】
なお、上記実施形態では、外部導体解放工程において、横巻きされた外部導体14の撚りと逆に回転させて外部導体14を弛ませたが、外部導体14が縦添えされた同軸電線10の場合では、チャック治具31によって外部導体14の端部を把持した状態で、このチャック治具31を軸方向における端部と逆方向へ移動させて外部導体14を弛ませることとなる。
【0057】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る端末処理方法及び端末処理装置について説明する。
【0058】
前述した外部導体解放工程において、チャック治具31の各チャック体32の押圧凹部33で外部導体14部分を外周側から押圧して外部導体14を固定すると、その負荷が内部導体11を有するコア部13へ加わる。また、チャック治具31で外部導体14を固定した状態でチャック体32を回動させて外部導体14の撚り戻しを行うと、内部導体11を有するコア部13にも捩じれの負荷が加わる。このような押圧の負荷や捩じれの負荷がコア部13に作用すると、コア部13の内部導体11が変形するおそれがある。
【0059】
このため、第2実施形態に係る端末処理方法及び端末処理装置では、外部導体露出工程後に前処理を行い、その後の外部導体解放工程での内部導体11の変形を防止する。
【0060】
以下、前処理について説明する。
図16は、外部導体端末拡開工程を説明する同軸電線の端部の斜視図、図17は、外部導体端末拡開工程を説明する同軸電線の端部の斜視図、図18(a)及び図18(b)は、外部導体の端末部分が拡開された同軸電線の端部の側面図及び正面図、図19は、中子装着工程を説明する同軸電線の端部の斜視図、図20は、中子装着工程を説明する同軸電線の端部の斜視図、図21は、外部導体解放工程を説明する同軸電線の端部の斜視図、図22は、チャック治具による同軸電線のチャックの状態を説明するチャック治具の正面図である。
【0061】
(外部導体端末拡開工程)
外部導体露出工程で露出させた外部導体14の端末を広げる外部導体端末拡開工程を行う。
【0062】
この外部導体端末拡開工程では、図16に示すように、把持治具21及び端末拡開治具71を用いる。端末拡開治具71は、同軸電線10の外部導体14の左右に配置された成形ブロック72を備えている。成形ブロック72は、上下に成形刃部73を有しており、左右の成形ブロック72で、上下の成形刃部73が同軸電線10の軸方向へ互い違いにずらされている。そして、これらの成形ブロック72には、上下の成形刃部73によって外部導体14側に圧縮溝部74が形成されている。
【0063】
上記の端末拡開治具71を用いた外部導体端末拡開工程では、図17に示すように、把持治具21によって同軸電線10のシース15の端部を把持した状態で、外部導体14部分の端末から約1mmから10mmの位置で成形ブロック72を外部導体14へ向かって移動させる。すると、これらの左右に設けられた成形ブロック72は、圧縮溝部74に外部導体14部分の端末を保持しながら成形刃部73が互いに噛み合うように交差する。これにより、圧縮溝部74に保持された外部導体14には、その外周から成形ブロック72の成形刃部73が押し付けられる。これにより、コア部13の周囲の外部導体14は、その成形刃部73の押し付け箇所が中心方向へ圧縮されて屈曲される。すると、図18(a)及び図18(b)に示すように、この押し付け箇所よりも端末側の外部導体14が押し付け方向と逆方向である径方向外方へ広がることとなり、コア部13を構成する絶縁体12から分離される。
【0064】
このように、端末拡開治具71で外部導体14を成形しても外部導体14の端末の広がりが十分でない場合は、成形ブロック72を一旦離間させて一回目の圧縮位置から端末と反対側へずらして再度成形ブロック72を外部導体14部分へ押し付ける。すると、外部導体14が、軸方向の2箇所で径方向外方へ変形することから、外部導体14の端末での広がりを大きくすることができる。
【0065】
(中子装着工程)
図19に示すように、外部導体端末拡開工程によって外部導体14を端末で広げたら、図20に示すように、コア部13の端末部分に、例えば、硬質の樹脂や金属から形成された円筒状の中子81を被せて装着する。
【0066】
上記の前処理を行った後は、第1実施形態と同様に、外部導体解放工程以降の端末処理を行う。
【0067】
このとき、図21及び図22に示すように、外部導体解放工程において、チャック治具31の各チャック体32の押圧凹部33で外部導体14部分を外周側から押圧すると、外部導体14は、中子81の外周面とチャック体32の押圧凹部33とで挟持されて固定されることとなり、内部導体11を有するコア部13への押圧の負荷がなくされる。また、チャック治具31で外部導体14を固定した状態でチャック体32を回動させて外部導体14の撚り戻しを行うと、外部導体14とともに中子81が回動することとなり、内部導体11を有するコア部13への捩じれの負荷がなくされる。
【0068】
このように、上記第2実施形態に係る端末処理方法及び端末処理装置によれば、外部導体14部分の端末におけるコア部13に円筒状の中子81を装着しておくことで、外部導体解放工程において、外部導体14を中子81の外周面とチャック治具31とで挟持することとなり、コア部13の内部導体11への押圧負荷や捩じれ負荷の作用をなくすことができる。これにより、コア部13の内部導体11の引張や伸びなどの機械的特性の低下を防ぎ、良好な品質を維持させることができる。
【0069】
また、中子81の装着前に外部導体14の端末近傍箇所を外周側から圧縮して変形させ、外部導体14の端末部分をコア部13から離れるように広げるので、中子81の装着の容易化による作業性の向上を図ることができる。
【0070】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【符号の説明】
【0071】
10 同軸電線
11 内部導体
12 絶縁体
13 コア部
14 外部導体
14a 素線
15 シース
21 把持治具
31 チャック治具
41 分割治具
51 押出治具
61 収束治具
71 端末拡開治具
81 中子
S 隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
図12
図13
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