(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5898265
(24)【登録日】2016年3月11日
(45)【発行日】2016年4月6日
(54)【発明の名称】インプラント
(51)【国際特許分類】
A61C 8/00 20060101AFI20160324BHJP
【FI】
A61C8/00 Z
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-136688(P2014-136688)
(22)【出願日】2014年7月2日
(62)【分割の表示】特願2011-269569(P2011-269569)の分割
【原出願日】2004年12月6日
(65)【公開番号】特開2014-205064(P2014-205064A)
(43)【公開日】2014年10月30日
【審査請求日】2014年7月2日
(31)【優先権主張番号】0303322-2
(32)【優先日】2003年12月11日
(33)【優先権主張国】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】506260386
【氏名又は名称】ノベル バイオケア サーヴィシィズ アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【弁理士】
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】ホール, ヤン
【審査官】
胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−304185(JP,A)
【文献】
国際公開第03/015654(WO,A1)
【文献】
国際公開第03/030767(WO,A1)
【文献】
国際公開第03/047455(WO,A1)
【文献】
特開昭63−049155(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顎骨(2)およびその上の軟組織(3)に形成された穴(2a)内に嵌合されるように設計され、前記顎骨の上縁(2b)に当接して配置される第一部分(4b’)を備えたインプラント(1)において、前記第一部分が一つの溝を含み、前記溝が、第一部分の外側表面(4c)の全周に延在し、かつ前記インプラントの長手軸(4e)に直角の断面内に実質的に延在し、前記溝(9)が椀状断面(9c)を有し、前記溝(9)が50〜100μmの深さ(D)を有し、前記インプラントに外ねじ(4a)が設けられており、それにより前記インプラントが前記穴(2a)内にねじ込まれることができ、第一部分(4b’)の溝が、第一部分の外側表面(4c)と溝の残部(9c)との間に遷移部(9a、9b)を有し、前記遷移部が斜切部であることを特徴とするインプラント。
【請求項2】
前記溝(9)が半円形、双曲線形、もしくは半楕円形の断面、または丸みを付けた隅を持つ矩形断面を有することを特徴とする請求項1に記載のインプラント。
【請求項3】
深さ(D)が約70μmであることを特徴とする請求項2に記載のインプラント。
【請求項4】
前記溝(9)が70〜160μmの範囲の幅(B)を有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のインプラント。
【請求項5】
幅(B)が約110μmであることを特徴とする請求項4に記載のインプラント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、関連する軟組織を伴って骨(顎骨)の穴に嵌合されるインプラントに関する。該インプラントは、骨の上縁に当接して配置することのできる部分を備える。
【背景技術】
【0002】
そのようなインプラントは周知であり、市販されている。該インプラントには一般的に外ねじが設けられ、それによって穴内に確実にねじ込むことができ、穴はねじ付きまたはねじ無しとすることができる。公知のインプラントでは、顎骨の上縁に当接する前記部分は一般的性質の螺条を持つか、あるいは例えばインプラントの垂直方向に延びる隆起部および凹部を有することができる。インプラントは、顎骨の前記上縁に当接して配置することのできる螺条または表面処理領域を配設することのできるスペーサスリーブ、補綴物等を備えるかあるいは支持することができる。これらの螺条もまた一般的性質のものである。
【発明の概要】
【0003】
インプラントの分野における一般的課題は、インプラントのアタッチメント部品(スペーサ、補綴物等)に近いインプラント上部領域における時間経過後の骨吸収を防止することである。骨吸収は前記上部が露出することを意味し、それは審美的に劣る結果をもたらす。この露出はまた、炎症を引き起こす傾向のある細菌および微生物がインプラントの下部へ侵入するおそれがあることをも意味する。これらの欠点により、場合によってはインプラントの嵌合をやりなおさなければならないことになるかもしれない。本発明の目的は、とりわけこの課題を解決することにある。
【0004】
本発明は、ある種の特別に配設された溝および/または陥凹が効果的な骨の運動および実際の溝および/または陥凹内への骨の内成長をもたらし得るという知識を利用する。溝および陥凹によって促進される骨運動および内成長は、問題のインプラント部(チタン部)と骨との間の優れた融合をもたらす。これに関し、国際公開第97/05238号(Boyde)および本願の出願人によって出願されたスウェーデン特許出願第02.03896‐6号を参考にすることができる。
即ち、本発明は以下の構成を有する。
(1)顎骨(2)およびその上の軟組織(3)に形成された穴(2a)内に嵌合されるように設計され、前記顎骨の上縁(2b)に当接して配置される部分(4b’)を備えたインプラント(1)において、骨の運動および骨の内成長(10)を促進しかつ前記骨の内成長によって前記部分の周りにおける前記骨(2)とその上の軟組織(3)の実質的または可視的沈下に対抗する障壁を形成するように設計された、溝(9、9’)または陥凹が前記部分にその周囲長の少なくとも大部分に沿って設けられることを特徴とするインプラント。
(2)二つ以上の溝、例えば実質的に平行な溝が、前記顎骨の上縁(2b)に当接して配置されることを特徴とする(1)に記載のインプラント。
(3)各溝(9、9’)または陥凹が、対応する弧状または湾曲した顎骨に沿う弧状または湾曲した溝または陥凹の組から構成されることを特徴とする(1)または(2)に記載のインプラント。
(4)各溝または陥凹(9、9’)が椀状断面(9c)、例えば半円形、双曲線形、もしくは半楕円形の断面、または丸みを付けた隅を持つ矩形断面を有し、50〜100μm、好ましくは約70μmの深さ(D)を有することを特徴とする(1)、(2)、または(3)に記載のインプラント。
(5)各溝(9、9’)または陥凹が椀状断面(9c)、例えば半円形、双曲線形、もしくは半楕円形の断面を有し、70〜160μmの範囲の幅(B)を有し、好ましくは約110μmの値を有することを特徴とする(1)ないし(4)のいずれかに記載のインプラント。
(6)前記沈下に対する対抗または防止が、前記部分より上に位置する軟組織(3)とインプラント部分(5a’)またはインプラントアタッチメント部品との間の接触が改善されることを意味することを特徴とする(1)ないし(5)のいずれかに記載のインプラント。
(7)前記単数もしくは複数の溝または陥凹内への骨の内成長が、インプラントの上部の露出、従ってこれらの部分の可視的露出を防止することを特徴とする(6)に記載のインプラント。
(8)前記単数もしくは複数の溝(9、9’)および/または陥凹内に確立された骨の内成長(10)は、細菌および/または微生物が上部から下に位置する部分(4d)へ侵入することをも防止することを特徴とする(5)ないし(7)のいずれかに記載のインプラント。
(9)表面の全周に延在し、かつ前記部分の上部/外側部分に位置し、前記インプラントの長手軸(4e)に実質的に直角の断面内に実質的に延在する、溝(9,9’)が前記部分に設けられることを特徴とする(1)ないし(8)のいずれかに記載のインプラント。
(10)外側/上部の溝および/または陥凹が、前記インプラントの別の部分または他の複数部分の他の溝および/または陥凹と調整されることを特徴とする(1)ないし(9)のいずれかに記載のインプラント。
【0005】
新規のインプラントを特徴付けると主にみなすことのできる特長は、とりわけ、その周囲長の大部分に沿って、当該部分に骨の運動および骨の内成長を促進するように設計された溝または陥凹が設けられ、かつ該溝または陥凹内での骨の内成長によって、骨とその上の軟組織の実質的または可視的沈下に対抗する障壁が当該部分の周囲に形成されることである。
【0006】
一実施形態では、当該部分は、外周の大部分、好ましくは全部に沿って延びる二つ以上の溝または陥凹の組を備えることができる。一つまたはそれ以上の前記溝または陥凹は、対応する弧状または湾曲した骨(顎骨)に沿う、弧状もしくは湾曲した溝または陥凹の組から構成されることができる。好適な実施形態では、該溝または陥凹は、半円形、半楕円形、双曲線等の基本形状の断面を有する。該断面は、50〜100μm、好ましくは約70μmの深さ、および70〜160μmの範囲の、好ましくは約110μmの幅を有する。前記沈降の対抗または防止は、前記上部に対する軟組織の接触および保持が改善されることをも意味する。好適な実施形態では、外側表面の周りに延在しかつ当該部分の上部/外側部分に配置された溝が当該部分に設けられ、前記溝は、インプラントの長手軸に実質的に直角に配置される断面内に実質的に延在する。本発明の概念のさらなる展開は、添付の特許請求の範囲の従属請求項に記載される。
【0007】
上記提案したものによって、骨が溝または陥凹内に成長することにより効果的な障壁を得ることができる。骨および軟組織の沈下はこの方法で効果的に回避される。問題のインプラントの当該部分の下にあるインプラント部分および/またはインプラントのアタッチメント部品の露出は効果的に回避され、それは純粋に審美的理由でかなりの利点がある。加えて、炎症を起こしやすい種類の細菌または微生物の侵入も回避される。溝および/または陥凹は、ターニング、フライス削り、エングレービング、エッチング、ショットピーニング、レーザ加工等によって得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
本発明の特徴的な特長を有するインプラントのここで提案する実施形態について、添付の図面を参照しながら以下に説明する。
【
図1】
図1は、顎骨の形の骨および軟組織における穴内に嵌合された従来より公知のインプラントの部分の縦断面を示す。
【
図2】
図2は、新規のインプラントの部分の縦断面を示す。
【
図3】
図3は、顎骨に嵌合された新規のインプラントの第二の実施形態の縦断面を示す。
【
図4】
図4は、インプラント(部分的に図示する)および顎骨における溝構造の拡大縦断面を示す。
【
図5】
図5は、
図2および3に係るインプラントと共に使用される溝または陥凹の構造を、
図4に比べてさらに拡大して示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1において、参照番号1は一般的に、顎骨2およびそれより上にある軟組織3を指す。インプラントは一般的に参照番号4で示され、顎骨に形成された穴2a内にねじ込まれる。インプラントがねじ込まれる前に、穴はねじ付きまたはねじ無しとすることができる。インプラントは外ねじ4aを備え、それによりインプラントを穴2a内にねじ込むことができる。インプラントの上部には当初顎骨2の上縁2bに当接して配置することのできる部分4bが設けられる。インプラントは、例えばスペーサスリーブの形のアタッチメント部品5を備えるかまたはそれに接続されることができる。アタッチメント部品は、
図1に象徴的に示される補綴物6を支持する。
図1は骨吸収7が顎骨に発生している場合を示し、該骨吸収は、軟組織3が沈下し、かつこの場合にはアタッチメント部品5の上部5aと骨との間に目立つ空間8が形成されるかもしれないことを意味する。空間8はアタッチメント部品またはインプラントの上部の大部分に沿って延在し得る。したがって本実施例における空間8は、上部5aが露出するという影響をもたらし、それは審美的観点から受け入れられない。
図1において、骨吸収の範囲はHによって示されており、これはしばしば1mmまたはそれ以上の値を取ることがある。
【0010】
図2において、本発明に係るインプラントは4’で示されている。
図2のインプラントは、
図1のインプラント4に対応する構造を有する。本発明の概念によると、インプラント4’の部分4b’には、部分4b’の外周方向に延びる上部溝9が設けられる。図示した例示的実施形態では、溝は
図2における図の面に直角な断面において外周全体に延在する。断面はインプラントの長手軸4eに直角とすることができる。代替の実施形態においては、溝は外周の大部分に沿って延在することができる。溝9は骨2の上縁2bに当接して配置される。該部分の外側表面は4cによって示され、顎骨の対向表面は2cによって示されている。
図2に示された例では、分かり易くするために溝9は大幅に拡大されている。溝は原則的に、周囲長全体またはその大部分に沿って配置される一組の陥凹に置き換えることができる。溝または陥凹は、本発明によると、骨の運動および骨の内成長が溝によって、または陥凹の組自体によって促進されるような性質のものである。下でさらに詳述する骨の内成長は、
図1に示すように骨吸収が発生した場合に軟組織3が沈下するのを防止する障壁を頂部に形成する。従って障壁は、骨2がインプラントの上部の外側表面に沿って沈下し、
図1に示すように軟組織3がそれに続くのを防止する。本発明によって、骨吸収は妨げられ、軟組織3と当該部分の上部5a’との間に小さい空間8’(図示せず)しか形成することができない。軟組織3は前記穴内において、その内側表面3aがアタッチメント部品5の外側表面5bに当接する状態で位置することができる。こうして障壁は骨吸収を防止し、細菌が蓄積するおそれのある空間8’はその範囲および深さがかなり低減されるかあるいは完全に削減される。アタッチメント部品はインプラントと一体化されるか、またはインプラントに適用されることができる。
【0011】
図3は、顎骨2および軟組織3に嵌合されたインプラントの第二の実施形態を示す。該インプラントの構造は、部分4b”が対応して湾曲形また弧状の顎骨の縁2b’に沿うことができるように湾曲するか弧状であることを除いては、上に示したものと同じであってよい。当該部分は、底部が湾曲部分に隣接しかつ頂部が構造物または補綴物6を支持するアタッチメント部品5’を支持するか、あるいはこの場合はかかるアタッチメント部品5を含む。この場合にも、溝9’は当該部分の上部に配設される。溝9’は、上記の溝9と同様の仕方で、顎骨の上縁2b’に対向して配置される。この場合も、溝は当該部分の周囲長全体または大部分に沿って延在されることができる。溝9’は、上記と同様に、代替的に、溝と同様の仕方で配設される一組の陥凹から構成されることができる。さらなる溝を部分4b”の溝9’に実質的に平行に配置することができる。
【0012】
図4は溝構造をより詳細に示す。溝9はここでは、その構造のおかげで溝内での骨の運動および骨の内成長を高める型である。
図4においては、骨の内成長は10で象徴される。溝より下のインプラントまたはインプラント部分4dは、顎骨2との融合を維持する。つまり表面2cおよび4cはきつく閉じられる。口腔はここでは11で表される。
【0013】
図5によると、溝9は断面が椀形または半円形である。主要な半円形の設計の代替として、双曲線、楕円形、または円形の様々な変形例が可能である。長方形および正方形の形状も使用することができる。しかし、これらの場合、隅に丸みを付け、尖鋭にしないことあるいは尖縁を設けないことが重要である。溝または陥凹は、遷移部9aおよび9bを伴って、事実上椀形または半円形の形状で9cで図示されている。溝または陥凹の幅はBで示され、斜切部9aおよび9bの内側の部分で測定される。溝の深さはDによって示される。幅Bは約110μmであることが好ましく、深さDは約70μmであることが好ましい。周方向の溝または陥凹の長さ(範囲)に関し、「大部分」という表現は、部分4の周りの表面の少なくとも60%に溝および/または陥凹が設けられることを意味する。単数もしくは複数の溝または陥凹は、インプラントの他の部分に対応して設計される溝および陥凹との調整が可能である。
【0014】
本発明は、例として上に示した実施形態に限定されず、添付の特許請求の範囲および発明の概念の範囲内で変形することができる。