(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明を構成するMRI装置の全体構成を示すブロック図である。
図1に示すように、このMRI装置は、主として、静磁場発生系1と、傾斜磁場発生系2と、送信系3と、受信系4と、信号処理系5と、制御系(シーケンサ6とCPU7)とを備えている。
【0013】
静磁場発生系1は、被検体8の周りの空間(撮影空間)に均一な静磁場を発生させるもので、永久磁石方式、常電導方式或いは超電導方式等の磁石装置からなる。
【0014】
傾斜磁場発生系2は、例えば静磁場の方向をZ方向とし、それと直交する2方向をX方向,Y方向とするとき、これら3軸方向に傾斜磁場パルスを発生する3つの傾斜磁場コイル9と、それらをそれぞれ駆動する傾斜磁場電源10とからなる。傾斜磁場電源10を駆動することにより、X,Y,Zの3軸あるいはこれらを合成した方向に傾斜磁場パルスを発生することができる。傾斜磁場パルスは、被検体8における撮影位置の特定のために、そして、被検体8から発生するNMR信号に位置情報を付与するために印加される。
【0015】
送信系3は、高周波発振器11と、変調器12と、高周波増幅器13と、送信用の高周波照射コイル14とから成る。高周波発振器11が発生したRFパルスを変調器12で所定のエンベロープの信号に変調した後、高周波増幅器13で増幅し、高周波照射コイル14に印加することにより、被検体を構成する原子の原子核に核磁気共鳴を起こさせる電磁波(高周波信号、RFパルス)が被検体に照射される。高周波照射コイル14は、通常、被検体に近接して配置されている。
【0016】
受信系4は、受信用の高周波受信コイル15と、増幅器16と、直交位相検波器17と、A/D変換器18とから成る。送信用の高周波照射コイル14から照射されたRFパルスの応答として被検体が発生したNMR信号は、受信用の高周波受信コイル15により検出され、増幅器16で増幅された後、直交位相検波器17を介してA/D変換器18によりデジタル量に変換され、二系列の収集データとして信号処理系5に送られる。
【0017】
信号処理系5は、CPU7と、記憶装置19と、操作部20とから成り、CPU7において受信系4が受信したデジタル信号にフーリエ変換、補正係数計算、画像再構成等の種々の信号処理を行う。記憶装置19は、ROM21、RAM22、光磁気ディスク23、磁気ディスク24等を備え、例えば、経時的な画像解析処理および計測を行うプロブラムやその実行において用いる不変のパラメータなどをROM21に、全計測で得た計測パラメータや受信系で検出したエコー信号などをRAM22に、再構成された画像データを光磁気ディスク23や磁気ディスク24にそれぞれ格納する。操作部20は、トラックボール又はマウス25、キーボード26などの入力手段と、入力に必要なGUIを表示するとともに信号処理系5における処理結果などを表示するディスプレイ27とを備えている。CPU7が行う各種処理や制御に必要な情報は、操作部20を介して入力される。また撮影により得られた画像はディスプレイ27に表示される。
【0018】
制御系は、シーケンサ6とCPU7とから成り、上述した傾斜磁場発生系2、送信系3、受信系4および信号処理系5の動作を制御する。特に傾斜磁場発生系2および送信系3が発生する傾斜磁場パルスおよびRFパルスの印加タイミングならびに受信系4によるエコー信号の取得タイミングは、シーケンサ6を介して撮影方法によって決まる所定のパルスシーケンスにより制御される。
【0019】
以下、上記本発明のMRI装置を用いた脂肪抑制撮像方法の各実施例を説明する。本発明の脂肪抑制撮像方法は、本撮像シーケンス部の最初のRFパルス印加持において、脂肪組織のプロトンの縦磁化の量をゼロあるいは所望の値に制御することにより脂肪組織からの信号を抑制するものである。以下に説明する実施例1は、脂肪組織のプロトンの縦磁化の量をゼロにする実施形態であり、実施例2は、脂肪組織のプロトンの縦磁化の量を所望の値に制御する実施形態である。
【実施例1】
【0020】
本発明のMRI装置を用いた脂肪抑制撮像方法の実施例1を説明する。
【0021】
図2に本実施例の脂肪抑制撮像のためのパルスシーケンスを示す。図中、RFおよびGx、Gy、Gzの軸は、それぞれRFパルスおよび傾斜磁場パルスの印加タイミングを示す。
【0022】
図示するように、脂肪抑制撮像のパルスシーケンスは、脂肪抑制シーケンス部200と、本撮像シーケンス部210とからなる。本撮像シーケンス部210は、RFパルス211を印加してスピンを励起し、画像再構成に用いるエコー信号を取得する一般的な撮像パルスシーケンスであればよく、特に限定されない。例えば公知のグラディエントエコー系シーケンスや、EPI、FSEなどの高速撮像パルスシーケンスなどからなる。従って、
図2では、RFパルス211のみを示し、傾斜磁場パルスやエコー信号計測等のそれに続くパルスシーケンスは省略する。
【0023】
また、1繰り返しTr(本撮像シーケンス部210における最初のRFパルスの印加間隔)毎に脂肪抑制シーケンス部200が実行されるのではなく、複数回数のTr(複数個の本撮像シーケンス部210)毎に脂肪抑制シーケンス部200を実行しても良い。1繰り返しTr毎に脂肪抑制シーケンス部200実行するよりも、若干、脂肪抑制効果は低くなるが、脂肪抑制シーケンス部200を一部省略できるので時間効率が向上し、高速に脂肪抑制撮像を行うことが可能になる。
【0024】
本実施例における脂肪抑制シーケンス部200は、複数のCHESSパルスと各CHESSパルスに続いて印加されるスポイラー傾斜磁場とから構成される。図示する例では、3つのCHESSパルス201、202、203と、各CHESSパルスに続く3つのスポイラー傾斜磁場パルス204、205、206を示している。CHESSパルス201、202、203は、所定のスピンのみを選択的に励起する選択励起パルスで、ここでは、脂肪組織中の水素プロトン(以下、脂肪スピンともいう。)の共鳴周波数と同じ周波数に設定されていて脂肪組織中の水素プロトンのみが選択励起できるようになっている。一般に共鳴周波数は、静磁場強度に依存するので、静磁場強度に応じて算出された周波数が設定される。
【0025】
CHESSパルスの数は、
図2では、3つの場合を示したが、2以上であればよく、1つのCHESSパルスの発生する照射磁場の不均一の度合い等に応じて適宜決定される。より具体的にはCHESSパルスによって脂肪組織のプロトンを選択励起する場合、選択励起の空間的不均一は、CHESSパルス1個が発生する高周波磁場強度の空間的不均一、及び被検体が配置される静磁場の空間的不均一に依存する。それら空間的不均一に依存する1つのCHESSパルスによる選択励起の空間的不均一の分布は、予めファントム等を用いて測定したデータに基づき計測してもよいし、被検体を装置内に配置した状態における実測データから撮影対象である被検体が変わることに逐次計測してもよい。
【0026】
ただしCHESSパルスによる脂肪組織のプロトンの選択励起の空間的不均一(以下、照射磁場不均一と呼ぶ。)の度合いが大きいほど、不均一抑制の効果を上げるためにCHESSパルスの数を多くする必要があると考えられる。その場合には脂肪抑制シーケンス部200の時間が長くなり、結果として本撮像シーケンス部も含めた全体の撮像時間が延長される。従って、CHESSパルスの数は2〜数個とするのが好適である。
【0027】
例えば、前記照射磁場不均一の度合いが+/-30%未満であれば、2パルスとし、+/-50%未満であれば、3パルスとし、+/-50%以上であれば、4パルスとすれば良い。
【0028】
またCHESSパルスの数は、許容される脂肪抑制シーケンス部200の時間に応じて変更してもよい。脂肪抑制シーケンス部200の時間は、必要とされる本撮像シーケンス部210の時間によっても決まり、全体の撮像時間から本撮像シーケンス部210の時間を引いた時間となる。脂肪抑制シーケンス部200の印加間隔が短い場合、CHESSパルスの数を少なくすることが必要となる。
【0029】
また、本実施例におけるCHESSパルス201、202、203のフリップ角は、本撮像シーケンス部210における最初のRFパルス(211)印加時において、脂肪スピンの縦磁化が実質的ゼロとなるように最適化されている。フリップ角の最適値をどのように求めるかについては、後述する。
【0030】
また、
図2においてスポイラー傾斜磁場204、205、206は、CHESSパルス201、202、203の印加によって所定のフリップ角で倒れたスピン(励起されたスピン)の位相を拡散させるための傾斜磁場である。ただし本実施例ではスポイラー傾斜磁場は、図示するように3方向の傾斜磁場の各々についてCHESSパルス(201〜203)印加の度に印加される。またスポイラー傾斜磁場の印加量(傾斜磁場波形と時間軸とで囲まれる部分の面積)は、2回目のスポイラー傾斜磁場205が1回目のスポイラー傾斜磁場204と異なり、3回目のスポイラー傾斜磁場206が2回目のスポイラー傾斜磁場205と異なるように設定されている。例えば、2回目のスポイラー傾斜磁場205は1回目のスポイラー傾斜磁場204の2倍、3回目のスポイラー傾斜磁場206は2回目のスポイラー傾斜磁場205の2倍になるように設定されている。このようにスポイラー傾斜磁場の印加量を、直前に印加されたスポイラー傾斜磁場の印加量と異ならせることにより、連続的に印加されるCHESSパルスにより干渉エコーが発生して、本撮像シーケンス部により生成される画像上に不要なアーチファクトが現われることを抑制できる。
【0031】
次にCHESSパルスのフリップ角について説明する。ここではCHESSパルスが3個である場合を例に説明する。
【0032】
本実施例では、各CHESSパルス201、202、203のフリップ角は、本撮像シーケンス部210における最初のRFパルス印加時において、脂肪スピンの縦磁化がゼロとなり、且つ、CHESSパルス一つ一つによる脂肪組織のプロトンの選択励起が空間的にある程度の不均一を持つ(以下、脂肪組織の選択励起が不均一であるという)場合にも、実質的に本撮像シーケンス部210における最初のRFパルス印加時において脂肪スピンの縦磁化が空間的になるべくゼロとなるようにフリップ角及び印加間隔が決定される。すなわち、各CHESSパルス201、202、203のフリップ角をθ
1、θ
2、θ
3とし、パルス間隔(CHESSパルス201と202との間隔、CHESSパルス202と203との間隔、CHESSパルス203と本撮像シーケンス部210で最初に印加される励起パルス211との間隔)をτ
1、τ
2、τ
3としたとき、励起パルス211印加直前における脂肪スピンの縦磁化M(3)をフリップ角θ
1、θ
2、θ
3とパルス間隔τ
1、τ
2、τ
3を変数とする関数として求める。更に、本撮像シーケンス部210における最初のRFパルス印加時において、脂肪スピンの縦磁化がほぼゼロになるようにする(M(3)≒0となるようにする)という第1の条件と、脂肪組織の選択励起にある程度の不均一を持つ場合にも、M(3)の変動が所定の閾値以下となるという第2の条件を満たすように、フリップ角θ
1、θ
2、θ
3及びτ
1、τ
2、τ
3を決定する。
【0033】
また、脂肪抑制シーケンス部200の複数のCHESSパルスについて、それらのフリップ角の比を保ったまま全体のフリップ角を変えると、照射磁場不均一の特徴に応じて好適に全体としてのフリップ角の組み合わせを設定できる。例えば、複数のCHESSパルスがあるフリップ角をそれぞれ持つ場合に、脂肪組織の選択励起の不均一が+40%から−40%までである場合にM(3)の変動が所定の閾値以下である場合に、各複数のCHESSパルスのフリップ角の比を一定としたままで強度を低めに設定することによって、前記不均一が+60%から−20%まで変動する場合に、M(3)の変動が所定の閾値以下となるように設定できる。すなわち、照射磁場不均一の特性に応じて好適な複数のCHESSパルスの強度(フリップ角)の組み合わせを決定できる。
【0034】
次に、脂肪抑制シーケンス部を構成する各CHESSパルスのフリップ角を、操作者がインタラクティブに決定する方法の一例について、説明する。
【0035】
先ず、RFパルス211印加直前における脂肪スピンの縦磁化M(3)は、脂肪スピンの磁化の縦緩和時間をT1、初期の(脂肪抑制パルスシーケンス部開始時の)縦磁化をM(0)とすると、以下のようにして表すことができる。
【0036】
まず、最初のCHESSパルス201を印加後、次のCHESSパルス202印加直前の脂肪スピンの残留縦磁化M(1)は次式(1)で表すことができる。
【0037】
{数1}
【0038】
ただし、式(1)においてθ1はCHESSパルス201のフリップ角であり、τ1は、CHESS
パルス201印加後、CHESSパルス202印加までの時間である。
【0039】
次に2つ目のCHESSパルス202を印加後、次のCHESSパルス203印加直前の脂肪スピンの残留縦磁化M(2)は次式(2)で表すことができる。
【0040】
{数2}
【0041】
ただし、式(2)においてθ2はCHESSパルス202のフリップ角であり、τ2は、CHESSパルス202印加後、CHESSパルス203印加までの時間である。
【0042】
さらに3つ目のCHESSパルス203を印加後、本撮像シーケンス部210における最初のRFパルス印加時の脂肪スピンの残留縦磁化M(3)は次式(3)で表すことができる。
【0043】
{数3}
【0044】
なおM(0)は、脂肪抑制シーケンスの印加間隔をTrとすると、概ね式(4)で表される。なおTrは、マルチスライス撮像の場合、特定のスライス位置におけるスライス選択のためのRFパルス印加間隔(繰り返し時間)をTR、スライス数をMSとした場合、Tr=TR/MSの関係があり、撮像のパラメータとしてTR、MSが設定されていれば、一義的に定まるパラメータである。
【0045】
{数4}
【0046】
ここでパルス間隔τ
1、τ
2、τ
3を、脂肪抑制シーケンスにおけるCHESSパルスの周波数選択性の要請により決定される最小のパルス印加時間と最小のスポイラー傾斜磁場印加時間とで決まる最小時間であると固定して考えると、M(3)はフリップ角θ
1、θ
2、θ
3のみを変数とする関数となる。
【0047】
本実施例において、操作者がインタラクティブに脂肪抑制シーケンス部を構成する各CHESSパルスのフリップ角を決定する方法の一例について、説明する。
【0048】
最初に、式(3)を用いて、第1〜第3のCHESSパルス(201〜203)のフリップ角を3軸とするM(3)の値の3次元マップを作成し、3次元マップ上で各角度を所定の範囲で変化させてM(3)の変化を調べる。
【0049】
操作者は、3次元マップ上で、各CHESSパルスがフリップ角の広い範囲に亘って本撮像シーケンス最初のCHESSパルス印加時の脂質成分の縦磁化M(3)が所定の閾値以下である領域がなるべく広い領域を見出し、その領域内で各CHESSパルスのフリップ角の最適値を選択する。
【0050】
具体的にCPU7は、例えば、第1CHESSパルスのフリップ角θ1を1−180°の範囲で一定間隔で変化させて固定し、各θ1において横軸を第2CHESSパルスのフリップ角θ2、縦軸を第3CHESSパルスのフリップ角θ3とする2次元空間上に脂質成分の縦磁化M(3)の値をプロットしたマップを作成してディスプレイ27に表示する。操作者は、このマップ全体を見て、まず、M(3)が所定の閾値以下である領域がなるべく広い領域のあるθ1のマップを見つける。次に、見つけたθ1のマップの前後のθ1のマップを参照して、それら前後のマップにおいて共に縦磁化M(3)が所定の閾値以下である領域がなるべく広い領域を見いだす。この様にして、各CHESSパルスのおおまかな最適フリップ角を見いだす。
図3(a)(b)(c)は、それぞれθ1=79°,100°,126°の場合のマップ例である。これらで示されたマップによれば、丸でマークした位置を通る破線の線分領域近傍において、M(3)が所定の閾値以下である領域がなるべく広い領域となる。
【0051】
次に、各CHESSパルスのフリップ角の微調整として、CPU7は、各CHESSパルスの大凡の最適フリップ角を式(3)に入力し、前記破線で示された線分上で各CHESSパルスの強度を変化させる係数(例えばAmpとして、10%から200%の範囲)を縦軸とし、縦軸を脂質成分の縦磁化M(3)としたグラフ(後述する
図13のようなもの)を作成し、グラフの縦磁化M(3)が所望の値を維持する領域が極力平坦で広くなるように微調整する。ただし、前記破線で示された線分は、傾きがログスケールで(横軸縦軸が対数で表されているグラフで)、たとえば1となるようにしている。このようにログスケールで傾き1となる線分上で3個のフリップ角の組み合わせの最適値を求めることにより、照射磁場不均一の影響がそれぞれのフリップ角に比例して依存する場合に、最適に照射磁場不均一の影響を見積もることができるという利点がある。
【0052】
こうして、決定されたM(3)≒0とする最適なフリップ角構成は、例えば、第1CHESSパルスがフリップ角117°、第2CHESSパルスがフリップ角77°、第3CHESSパルスがフリップ角180°である。尚、上記計算では、3つのパルスのパルス間隔τ1、τ2、τ3をそれぞれ、17msec、17msec、13msecとし、パルス系列の印加間隔Trを250msec(静磁場強度が1.5Tである場合の一般的な脂肪のT1値)である。
【0053】
以上までが、脂肪抑制シーケンス部を構成する各CHESSパルスのフリップ角を、操作者がインタラクティブに決定する方法の一例である。
【0054】
上記実施例によれば、脂肪抑制シーケンス部200を設けた脂肪抑制撮像において、複数のCHESSパルスを用い、特に各CHESSパルスのフリップ角を最適化したので、CHESSパルスの発生する高周波磁場の空間的強度に不均一、あるいは被検体の配置される静磁場の空間的不均一があっても、その影響を最小にして、本撮像シーケンス部210における最初のRFパルス印加時において実質的に脂肪スピンの縦磁化が空間的に一様にゼロであるように調整され、すべての空間的な領域で脂肪スピンを抑制した良好な画像を得ることができる。
【0055】
また本実施例によれば、CHESSパルスの印加後に印加されるスポイラー傾斜磁場の印加量を、直前に印加されたスポイラー傾斜磁場の印加量と異ならせることにより、連続的に印加されるCHESSパルスにより干渉エコーが発生して、不要なアーチファクトが画像上に現われることを抑制できる。
【0056】
また本実施例によれば、非特許文献1記載の断熱パルスを用いる場合のように、撮影シーケンスを開始するまでに縦磁化の回復を待つ必要がないので、脂肪抑制シーケンス部200の時間を短くできる。その結果、撮影時間を全体として長引かせること無く、脂肪抑制による撮像が可能となる。
【0057】
また本実施例によれば、非特許文献1記載の断熱パルスを用いる場合と対比して高周波磁場の生体への吸収量(SAR)が低減される。その理由は、非特許文献1に記載の断熱反転パルスによる方法は、通常照射時間が長く、SARが高くなる可能性があるのに対比して、本実施例は、3つのsinc pulseを用いており、各sincパルスは、例えば、5ローブ、印加時間10msec前後、パルス強度は117度、77度、180度となっており、一般のパルスシーケンスに用いられるRFパルスとほぼ同じパルスの組み合わせでできているので、SARを低減することができるからである。特に、近年開発が進められている静磁場強度が3TであるMRI装置の場合、印加される高周波磁場が高いのでSARの低減がより強く求められている。すなわち、本実施例に記載された技術は強度の高い静磁場を発生する静磁場発生源を持つMRI装置に有効である。
【実施例2】
【0058】
次に、本発明の実施例2を説明する。本実施例2は、脂肪抑制シーケンス部200で複数のCHESSパルスを用いることは前述の実施例1と同様である。異なる点は、複数のCHESSパルスの印加間隔(あるいは複数のCHESSパルス間の複数の印加間隔の中の1つ)を制御し、本撮像シーケンス部210における最初のRFパルス印加時において、脂肪スピンの縦磁化が所望の値となり、且つ、照射磁場不均一がある程度生じている場合にも、実質的に脂肪スピンの縦磁化が空間的に一様に所望の値となるように決定される。より具体的には、例えば脂肪スピンの縦磁化を所望の値とするために、脂肪抑制シーケンス部200における最後のCHESSパルスとそのひとつ前のCHESSパルスとの間の時間間隔を制御する。その他については、前述の実施例1と同様である。以下、実施例1との共通部分の説明は省略し、異なる部分について詳細に説明する。
【0059】
本実施例を説明するために、水分子内水素プロントの共鳴周波数とほぼ同等の共鳴周波数を呈する脂肪酸系の脂肪成分(Olefinic Fat)からの信号をキャンセルする非特許文献2記載の従来技術(以下、第1の方法という。)を
図4を用いて説明する。
図4(a)は水と脂質成分の周波数スペクトル分布図である。このような場合に、
図4(b)に示すように、一般的な1つのCHESSパルスによる脂肪抑制、すなわち、通常の脂質成分(水スペクトルと離れた周波数の位置に現れる脂質の成分)のみの縦磁化M(3)を0にするような励起では、Olefinic fatの縦磁化は残留してしまい、脂肪抑制が不完全となってしまう。これに対して、非特許文献2記載の従来技術では
図4(c)に示すように、1つのCHESSパルスによって選択励起する通常の脂質成分の縦磁化を、水分子と同等の共鳴周波数を持つOlefinic fatの成分量に応じて、部分反転させて所望の値にする。脂肪酸系の脂肪成分(Olefinic fat成分)は、一般的に脂質成分を1とすると、0.05〜0.1程度含まれるとされるので、例えば、本撮像シーケンス部210における最初のRFパルス印加時における脂肪スピンの縦磁化M(3)をM(3)≒−0.1M0 (M0は通常の脂肪成分の磁化の初期値)などにすると良い。このようにすれば、本撮像シーケンス部210においてエコー信号を取得する際に、この部分反転された脂質成分とOlefinic fat成分による信号が互いにキャンセルアウトされ、Olefinic fat成分も含めて全脂肪組織を抑制することができる。
【0060】
或いは、脂肪酸系の脂肪成分(Olefinic Fat成分)からの信号をキャンセルする非特許文献3記載の従来技術(以下、第2の方法という。)として、1つのCHESSパルスで、Olefinic fatと同じ磁化量だけ通常の脂質成分をOlefinic Fat成分の磁化と同じ方向に若干残る程度に励起する。そして、本撮像シーケンスにおいて、信号読み出し傾斜磁場の印加のタイミングをずらし、通常の脂質成分とOlefinic Fat成分とがエコー信号取得時にOut of phaseとなる(つまり位相が180°異なる)ように設定する。このようにして、Olefinic Fat成分に起因する信号がキャンセルアウトされ、Olefinic Fat成分も含めて全脂肪組織を抑制することができる。
【0061】
しかし、上記2つの従来方法では、CHESSパルスが一つであるため、照射磁場不均一があると、脂質成分の縦磁化の励起を本撮像シーケンス部210の最初のRFパルス印加時において空間的に均一に所望の値にすることが困難となる。そこで、本実施例では、CHESSパルスを複数用い、更に複数のCHESSパルスの時間間隔を制御することにより、本撮像シーケンス部210における最初のRFパルス印加時における通常の脂質成分の縦磁化を均一に所望の値に励起するものである。以下、詳細に本実施例を説明する。
【0062】
なお、信号抑制する核種を脂肪の水素プロトンとして以下説明するが、本実施形態は脂肪の水素プロトンに限らず他の核種にも適用できる。例えば、ケミカルシフトイメージング時には水のプロトンであっても良い。
【0063】
図5は、本実施例において、本撮像シーケンス部210における最初のRFパルス印加時における脂質成分の縦磁化M(3)を所望の値に励起するためのパルスシーケンスについて示したものである。RFはRFパルス(CHESSパルス等)を印加する軸を表し、Gは任意の一軸についてのスポイラー傾斜磁場パルスを表している。
図5によれば、通常の脂質成分(
図4において、水と離れた周波数の位置に配置された脂質成分)の縦磁化M(3)が所望の値に励起されるように、つまり、通常の脂質成分の縦磁化M(3)がフリップ角で表して所望の値となるように、脂肪抑制シーケンス部200の最終CHESSパルスとそのひとつ前のCHESSパルスとの間の時間間隔τ2を変更されている。
【0064】
図6は、本実施例における、前記時間間隔τ2の変更と、本撮像シーケンス部210における最初のRFパルス印加時における通常の脂質成分の縦磁化M(3)との関係例を示す。
図6によれば、τ2の変更量(Δτ2)と、本撮像シーケンス部210における最初のRFパルス印加時における脂質成分の縦磁化M(3)の絶対値はほぼ比例関係にあることがわかる。例えば、
図7によれば、
図7(a)に示された励起された脂質成分の縦磁化がM(3)≒0となる時間間隔τ2を次第に長くすると、
図7(b)
図7(c)に示すように縦磁化がM(3)≒−0.1からM(3)≒−0.2とマイナス方向に絶対値が大きくなる。
【0065】
即ち、励起された脂質成分の縦磁化はフリップ角換算で90°以上となり部分反転され、そのフリップ角の値は時間間隔τ2が大きく変更されるのに従って、大きくなる。一方
図7(b)(c)によれば、横軸によって表された照射磁場不均一によって縦磁化M(3)の値が大きく変わらない範囲は、時間間隔τ2によらずほぼ同じ範囲であることが、
図7(b)(c)において、縦軸(Residual magnetization M(3))が、横軸のB1Amplitude「%」が60%から140%のように変化することによってもほぼ値が一定の値で維持されていることよりわかる。つまり、励起された脂質成分の縦磁化M(3)が照射磁場不均一によって影響を受けない状態は、τ2を変更しても維持されている。
【0066】
一方、
図7(a)図に示す状態の時間間隔τ2から次第に時間間隔τ2を短くすると、
図7(d)
図7(e)に示すように縦磁化がM(3)≒+0.1からM(3)≒+0.2とプラス方向に絶対値が大きくなる。即ち、励起された脂質成分の縦磁化のフリップ角は90°以下となり、Olefinic fatと同じ方向に若干残る程度に励起される。そのフリップ角は時間間隔τ2が小さく変更されるのに従って、小さくなる。一方
図7(d)(e)によれば、横軸によって表された照射磁場不均一によって縦磁化M(3)の値が大きく変わらない範囲は、時間間隔τ2によらずほぼ同じ範囲であることが、
図7(d)(e)において、縦軸(Residual magnetization M(3))が、横軸のB1Amplitude「%」が60%から140%と変化することとによってもほぼ値が一定の値で維持されていることよりわかる。つまり、励起された脂質成分の縦磁化M(3)が照射磁場不均一によって影響を受けない状態は、τ2を変更しても維持されている。
【0067】
なお、脂質成分の縦磁化のフリップ角を90°以下に励起することは、脂肪抑制シーケンス部200の最後のCHESSパルスと本撮像シーケンス部210の最初のRFパルスとの時間間隔τ3を長くすることによっても実現できる。
【0068】
次に、
図8を用いて、脂質成分の縦磁化M(3)を所望の値、つまり所望のフリップ角にする処理フローの一例を説明する。
図8に示された処理フローは、プログラムとして予めROM21に記憶されており、CPU7に読み出されて、実行されることにより実施されるものである。以下、各処理ステップの詳細を説明する。
【0069】
ステップ801で、脂質成分の縦磁化M(3)を本撮像シーケンス部の最初のRFパルス印加時にどの値に励起するかを、フリップ角(FA)で入力するための入力画面を示したものである。入力画面はディスプレイ27に表示される。操作者は、この入力画面上でキーボード、マウスなどの周辺機器を介して、脂質成分の縦磁化M(3)をフリップ角(FA)を用いて入力する。前述の第1の方法(非特許文献2記載の技術)を用いるのであればフリップ角(FA)を90度以上とし、前述の第2の方法(非特許文献3記載の技術)を用いるのであればフリップ角(FA)を90度以下にする。
【0070】
ステップ802で、CPU7は、入力されたフリップ角(FA)に基づいて、励起後の縦磁化M(3)を求める。具体的には、励起後の縦磁化M(3)を、
{数5}
M(3) = cos(FA) (5)
として求める。
【0071】
ステップ803で、CPU7は、ステップ802で求められた励起後の縦磁化M(3)に基づいて、脂肪抑制シーケンス部200における最後のCHESSパルスとそのひとつ前のCHESSパルスとの間の時間間隔τ2を求める。τ2の求め方は、以下に説明する式(6)においてM(3)=cos(FA)として、τ2を算出した式(7)となる。尚、励起後の縦磁化M(3)に基づく時間間隔τ2値の算出は、
図6に示すように、縦磁化M(3)と時間間隔の変更量Δτ2とが線形な関係にあることを利用して、縦磁化M(3)に依存させて時間間隔の変更量Δτ2を求めても良い。
【0072】
ステップ804で、CPU7は、ステップ803で求めた時間間隔τ2を用いて脂肪抑制シーケンス部200を生成すると共に、これに所望の本撮像シーケンス部210を結合してパルスシーケンスを生成し、シーケンサ6に生成したパルスシーケンスの情報を通知する。
【0073】
ステップ805で、シーケンサ6は、ステップ804で生成されたパルスシーケンスを用いて、エコー信号の計測を実行する。つまり、パルスシーケンスの脂肪抑制シーケンス部200は脂質成分の縦磁化M(3)を所望の値に励起し、その状態で後続の本撮像シーケンス部210により画像再構成に用いるエコー信号を計測する。なお、前述の第2の方法を用いるのであれば、信号読み出し傾斜磁場の印加のタイミングをずらし、通常の脂質成分とOlefinic Fat成分とがエコー信号取得時にOut of phaseとなる(つまり位相が180°異なる)ように設定する。これにより、通常の脂質成分からの信号とOlefinic Fat成分からの信号が共に抑制され、且つ、その抑制度合い(特に、抑制の空間的均一さ)も非特許文献2や非特許文献3の場合より高くなる。
【0074】
また、実施例1の場合と同様に、照射磁場不均一があっても、その影響を最小にして、本撮像シーケンス部210における最初のRFパルス印加時において実質的に脂肪スピンの縦磁化が空間的に一様に所望の値であるように調整され、すべての領域で脂肪スピンを抑制した良好な画像を得ることができる。
【0075】
以上迄が、脂肪の縦磁化M(3)を所望の値に励起してエコー信号を計測する迄の処理フローである。
【0076】
次に、所望の縦磁化M(3)の値に基づいて時間間隔τ2を求める算出式について、
図5を用いて説明する。
【0077】
ブロッホの方程式によれば、縦磁化M(3)は、RFパルスによる励起で平衡状態から乱されたとき、ある時定数(T1緩和時間)によって緩和して励起前の平衡状態に戻る。ここで、各CHESSパルス(
図2における201〜203)のフリップ角をα1、α2、α3とし、パルス間隔をτ1、τ2、τ3とする。
【0078】
すると、実施例1における式(3)は、本実施例では次式(6)のようになる。
{数6}
となる。
【0079】
3個のCHESSパルスで励起される所望の縦磁化をフリップ角FAで表し、式(6)において、M(3)=cos(FA) として式(6)をτ2について解くと、
{数7}
【0080】
(7)
となる。
【0081】
式(7)に基づき、撮影シーケンスにおける最初のCHESSパルス印加時において、
脂肪抑制シーケンス部200の最後のCHESSパルス(
図2における203)とそのひとつ前のCHESSパルス(
図2における202)との間の時間間隔τ2が算出される。
【0082】
上記本実施例によれば、脂肪抑制シーケンス部を構成する各CHESSパルスの形状や強度を変えることなく、CHESSパルス間の時間間隔を表すパラメータの一つを変えるだけで、本撮像シーケンス部における最初のRFパルス印加時における縦磁化を任意に制御できる。
【0083】
つまり、本実施例では本撮像シーケンス部における最初のRFパルス印加時において操作者から設定された所望の縦磁化を励起するために、CHESSパルスの時間間隔の変数τの一つであるτ2という一個のパラメータのみを変更すれば良い。本実施例では、FA→τ2の算出も式(7)のように容易であり、パルスシーケンスの変更もCHESSパルスの時間間隔のみの変更となるので、脂肪抑制シーケンス部の実装及び制御が容易である。
【0084】
本実施例では、任意の核種の縦磁化M(3)の値を、照射磁場不均一の影響をあまり受けない形で、断熱パルスを用いる方法のように撮影時間を長引かせることもなく、所望の値に制御可能になる。
【0085】
本実施例による方法は、水分子内プロトンの共鳴周波数とほぼ同等の共鳴周波数を呈する脂肪酸系の脂肪成分(Olefinic Fat)がある場合における、前述の第1の方法と第2の方法における本撮像シーケンス部と組み合わせることが可能であり、照射磁場不均一の影響を受けずに、断熱パルスを用いる方法のように撮影時間を長引かせることもなく、脂肪抑制シーケンスを実行できる。
【0086】
従って、所望の核種(通常は水分子内のプロトン)からの信号を用いて画像を生成する際に、空間的に均質、かつ、抑制度合いが高く、脂肪抑制が可能となる。
【0087】
本実施例において本撮像シーケンス部における最初のRFパルス印加時における縦磁化をフリップ角として表してそれを基に最適な脂肪抑制シーケンスを容易に設計できるメリットは、上述したOlefinic Fatも抑制するか、それとも純粋に通常の脂質成分だけを抑制するかといったように、抑制度合いを操作者が個々の撮像ケースに合わせて、適宜選択できることである。例えば、操作者は、脂肪を(わざと、構造が把握できるように)淡く残したり、あるいはしっかり脂肪を抑制したり、といった操作者による抑制の好みに応じて脂肪抑制シーケンスを容易に設計できる。
【実施例3】
【0088】
次に本発明の実施例3を説明する。本実施例は、脂肪抑制シーケンスにおいて連続的に印加されるCHESSパルスにより干渉エコーが発生して、不要なアーチファクトが画像上に現われることを抑制する方法が、実施例1と異なる。
【0089】
図9に、実施例3の脂肪抑制シーケンス部200を示す。
【0090】
図示するように、本実施例では、最初のCHESSパルス201を印加した後、傾斜磁場の3軸のうち2軸、ここではX軸およびY軸のスポイラー傾斜磁場パルス207、208が印加されている。そして、2番目のCHESSパルス202を印加した後も傾斜磁場の3軸のうち2軸のスポイラー傾斜磁場パルスを印加されるが、直前のスポイラー傾斜磁場の組み合わせとは異なる組み合わせとなる。例えば、図示するようにY軸およびZ軸のスポイラー傾斜磁場パルス208、209が印加される。同様に3番目の高周波傾斜磁場パルスを印加した後もスポイラー傾斜磁場パルスの組み合わせを異ならせて印加される。例えば、図示するようにZ軸およびX軸のスポイラー傾斜磁場パルス209、207が印加される。
【0091】
このように本実施例では、各CHESSパルスを印加した後に印加されるスポイラー傾斜磁場パルスが、直前のスポイラー傾斜磁場パルスとは異なり、且つ最終的に脂肪抑制シーケンス部200における各軸のスポイラー傾斜磁場の印加量が同一となるようになっている。これにより、実施例1と同様に、脂肪抑制シーケンスにおいて連続的に印加されるCHESSパルスにより干渉エコーの発生して、不要なアーチファクトが画像上に現われることを抑制することができる。また、スポイラー傾斜磁場パルスをシンプルにすることができるので、傾斜磁場電源の負担及び、傾斜磁場パルス印加に伴う騒音を低減することができる。
【0092】
なお、各CHESSパルス間で、1軸のみにスポイラー傾斜磁場パルスを挿入するともに、CHESSパルス間でスポイラー傾斜磁場パルスの挿入軸を変えても良い。
【0093】
また、本実施例では複数のCHESSパルスのフリップ角及び印加間隔が実施例1や2で示されたように最適化されていて、これにより、従来の1つのCHESSパルスのみの場合と比較して高い脂肪抑制効果が得られ、また断熱パルスを用いた場合と比較して脂肪抑制パルスシーケンスにかかる時間も短くなり、全体としての撮影時間も短時間となる利点もある。
【実施例4】
【0094】
次に、本発明MRI装置を用いた脂肪抑制撮像方法の実施例4を説明する。本実施例は、理論シミュレーションによる最適化法によって、最適なフリップ角θ
1、θ
2、θ
3の組み合わせを決定する実施例である。その処理フローの一例を
図10に示す。この処理フローは、プログラムとして予めRAM22に記憶されており、CPU7に読み出されて、CPU7が実行されることにより実施されるものである。以下、各処理ステップの詳細を説明する。
【0095】
ステップ1001で、θ
1、θ
2、θ
3の各値について式(3)よりM(3)が算出され、θ
1、θ
2、θ
3を3軸とするM(3)値の3次元データマップが作成される。なお、上述したように、操作者により撮像パラメータ(繰り返し時間(Tr)やスライス枚数(MS)等)が事前に設定されている場合は、これらの設定された撮像パラメータの条件の下に、各最適なフリップ角が算出される。
【0096】
ステップ1002で、ステップ1001で作成された3次元データマップにおいて、M(3)≒0である領域(θ
1、θ
2、θ
3で決まる領域)が抽出される。
【0097】
ステップ1003で、ステップ1001で作成された3次元データマップにおいて、M(3)をθ
1、θ
2、θ
3で微分した、M(3)値の微分値dMの3次元データマップが作成される。このM(3)値の微分値dMは、フリップ角の変動によるM(3)値の変化の度合いを示すものであり、微分値dMが小さいほどフリップ角の変動によるM(3)値の変化が少ないこと、すなわち照射磁場不均一による影響が少ないことを意味する。つまり微分値dMが小さい領域では照射磁場不均一が少々あっても安定的に脂肪の縦磁化を抑制できることを意味する。
【0098】
ステップ1004で、ステップ1003で作成された微分値の3次元データマップにおいて、dMが閾値以下である領域が抽出される。閾値は、理想的には0であるが、有る程度の領域を抽出すために実用的な値を閾値として良い。
【0099】
ステップ1005で、ステップ1002とステップ1004で抽出された各領域が重なる部分(AND領域)が抽出される。
【0100】
ステップ1006で、AND領域の中央の位置のフリップ角θ
1、θ
2、θ
3が、最適なフリップ角の組み合わせとして決定される。
【0101】
以上までが、最適なフリップ角θ
1、θ
2、θ
3の組み合わせを決定する処理フローの一例である。なお、上述の処理フローは、操作者が設定した撮像パラメータに依存させて最適なフリップ角θ
1、θ
2、θ
3の組み合わせを決定する例であるが、操作者が設定した撮像パラメータで決まる撮像条件は、複数のCHESSパルスの特性に大きな影響を与えないことから、操作者からの撮像条件の設定値がどのような値でも、最適なフリップ角θ
1、θ
2、θ
3の組み合わせを決定することが可能となる。
【0102】
あるいは別の一例として、上述のようにM(3)値及びその微分値dM(3)の3次元データマップをそれぞれ作成して最適領域を抽出する代わりに、例えば下式(8)で表される評価関数mを定義し、
{数8}
mが最小となるθ
1、θ
2、θ
3を一般的な最適化計算法により探索してもよい。さらに照射される高周波磁場のエネルギーを最小にすることを考慮すると、評価関数m(式(8)の右辺の全体に、(θ
1+θ
2+θ
3)を掛けたり加えて、最適化計算を行ってもよい。すなわち、式(8)あるいは式(8)の右辺に(θ
1+θ
2+θ
3)を掛けたり加えた評価関数mを最小にするような解を最適化計算法で決定することによっても、実質的に脂肪信号の抑制を図ることができる。
【0103】
例えば、
図11に、最初のCHESSパルス(
図2における201)のフリップ角θ
1を90°に固定し、第2、第3のCHESSパルス(
図2における202、203)のフリップ角θ
2、θ
3を変数とした場合のM(3)値および微分値dMの各2次元データマップの一例を示す。図中、M(3)値は白黒濃淡で示されており、黒い領域1101はM(3)値がゼロである領域を示す。また黒い領域のうち広がりのある領域1102は、M(3)値の変化が少なく、微分値が小さい領域である。上述した最適化のステップ1002では、領域1101が抽出され、ステップ1004では微分値が小さい領域1102が抽出される。最終的に領域1102のほぼ中央の位置にフリップ角が設定されることにより、場所によるフリップ角の不均一(照射磁場不均一)があっても、すべての撮像領域で脂肪の縦磁化M(3)を実質的にゼロにできるフリップ角が決定される。
【0104】
なお
図11には、説明を簡単にするために2次元のデータマップを示したが、3次元であっても同様である。また最適化においては、予め領域1101あるいは1102を切り出すための閾値を設定しておき、自動的に最適なフリップ角を算出するようにしてもよい。
【0105】
なお本実施例では、各フリップ角の組み合わせにおいて照射磁場不均一による影響の高低を示す指標として、縦磁化M(3)の微分値を用いたが、微分値を用いる代わりに、縦磁化M(3)がゼロである領域がどの程度広いかを指標とすることも可能である。このことの説明を簡単にするために
図12に示す2次元データマップを用いて説明する。
図12は、
図11と同様に、フリップ角θ
1を固定し、第2、第3のCHESSパルス202、203のフリップ角θ
2、θ
3を変数とした場合のM(3)値の2次元データマップであり、実線で囲まれた領域1101がM(3)値がゼロである領域である。この2次元データマップで、領域1101の、θ
2=θ
3を満たす線Lと平行な方向の幅が最も広い位置1103を、最適なフリップ角算出のための領域とする。
【0106】
図12では2次元の場合で例示したが、3次元の場合には、3次元データマップにおいて、縦磁化M(3)≒0である領域の、原点(θ
1=0、θ
2=0、θ
3=0)を通り、θ
1=θ
2=θ
3を満たす線Lと平行な方向の幅Wを指標とし、幅Wが最も広い領域を最適なフリップ角を算出のための領域とすればよい。
【0107】
このように、原点(θ
1=0、θ
2=0、θ
3=0)を通り、θ
1=θ
2=θ
3を満たす線Lと平行な方向への幅をどの程度広くとれるかを基に最適なフリップ角の組み合わせを算出するのは、照射磁場不均一による影響は、3次元マップのθ
1、θ
2、θ
3それぞれの方向において均等である場合を想定すると、2次元あるいは3次元マップ上でθ
1方向にΔθの照射磁場不均一の影響が表れる場合にはθ
2方向θ
3方向もΔθの影響が現れるので
原点(θ
1=0、θ
2=0、θ
3=0)を通り、θ
1=θ
2=θ
3を満たす線Lと平行な方向な線(例えば、破線(1104)で示された線)に沿って幅が広い領域を探索すれば、脂肪抑制シーケンスの実際の照射磁場不均一の特徴に合致した形で最適な3個のCHESSパルスのフリップ角の組み合わせを探索できると考えられるからである。
【0108】
一方、照射磁場不均一による影響が、θ
1、θ
2、θ
3それぞれのフリップ角の大きさに依存し、例えば比例関係にある場合には、原点(θ
1=0、θ
2=0、θ
3=0)を通りM(3)がゼロである領域を通る直線上に幅Wを広く取れるようにして最適なフリップ角の組み合わせを算出すれば良いと考えられる。
【0109】
脂肪抑制シーケンス部200におけるCHESSパルスの数およびフリップ角の最適値は、MRI装置の静磁場強度に応じて設定したものを、予め脂肪抑制撮像パルスシーケンスの一部として磁気共鳴イメージング装置の製作時点で組み込んでいても良いし、脂肪抑制撮像パルスシーケンスを使用する操作者が、撮影の度に撮像パルスシーケンスのパラメータ設定の一部として設定しても良い。例えば、撮像に際し、操作者は、ディスプレイ27に表示された入力画面上で、静磁場強度や照射磁場不均一を考慮して、CHESSパルスの数を設定し、撮像の繰り返し時間Trを設定する。これにより、CPU7は、上述した式(3)あるいは式(6)により、脂肪スピンの縦磁化3次元データマップを自動的に作成し、
図10に示す手順に従い、CHESSパルスの最適なフリップ角を決定する。
【0110】
また照射磁場不均一は、磁場内に設置される被検体の組織の誘電率や伝導率によっても変わるため、被検体毎に照射磁場不均一を実測し、それを用い実際の被検体配置に応じて最適なパルス数及びフリップ角の組み合わせ、各CHESSパルスの印加間隔を自動決定するようにしてもよい。照射磁場不均一の測定については、例えば非特許文献4に記載されており、近年では短時間に計測可能である。
【0111】
以上、本発明の各実施の形態を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、前述の実施例1においては、複数のCHESSパルスの最適化の条件として、パルス間隔が不変であるとして最適なフリップ角の組み合わせを求めたが、パルス間隔も含めた最適化も可能である。
【0112】
最後に、上記実施例を実際の磁気共鳴イメージング装置に適用した例を説明する。
【0113】
先ず、静磁場強度1.5TのMRI装置を想定し、脂肪抑制パルスシーケンスとして3つのCHESSパルスを用いる場合の最適なフリップ角をシミュレーションにより計算した。最適化の計算において、パルス間隔τ
1、τ
2、τ
3はそれぞれ17msec、17msec、13msecとし、パルス系列の印加間隔をTrを270msecとした。その結果、1種の最良な組み合わせが得られた。第1の組み合わせは、第1パルスを117°、第2パルスを77°、第3パルスと180°とするものである。
【0114】
第1の組み合わせで励起した場合の、脂肪スピンの縦磁化強度の照射磁場強度依存性をシミュレートした結果(実線)を
図13に示す。比較例として、
図14(a)に示すような脂肪抑制パルスとして単一の90°パルスを用いた場合の、脂肪スピンの縦磁化強度の照射磁場強度依存性を点線で示す。図示するように、本実施例では磁場不均一約+/-50%の範囲で脂肪スピンの残留縦磁化強度を5%未満、すなわちほぼゼロにできた。1.5Tの高磁場機で被検体を用いた実測での実際の照射磁場不均一は約30%程度であることがわかっているが、本発明により、このような不均一に対応できることが示された。
【0115】
また
図14(b)に示すような反転パルスを用いた脂肪抑制の場合は、反転パルス印加から本撮像の励起パルス印加までに、脂肪スピンの磁化が0クロスするための時間TI(1.5T機で約150msec程度)が必要となるのに対し、本実施例では、第1パルスから本撮像の励起パルス印加までの時間が約50msecであり、大幅に時間が短縮できることが示された。なお構成するパルスの1つの印加時間を周波数の選択性を維持した形で短いパルスを設計すれば、さらに短縮も可能である。
【0116】
次に第1の組み合わせを用いて、脂肪ファントムおよびボランティアを用いた撮像を行なった。スポイラー傾斜磁場は、実施例1において示された方法を採用した。また本撮像のパルスシーケンスとしては、Fast Spin Echo 法のパルスシーケンスを用いた。比較例として、単一の90°パルスを脂肪抑制シーケンス部として用い、それ以外の条件は実施例と同じにして撮像を行なった。
図15に脂肪ファントムを用いた場合の画像を示す。図中、(a)は本実施例による画像、(b)は比較例による画像である。図からもわかるように、本実施例によれば、脂肪ファントムからの信号はほぼ抑制されているのに対し、比較例では、部分的に信号が抑制されているが、抑制されずに脂肪が高信号である部分が見られた。
【0117】
図16にボランティアを用いた場合の画像と、
図17にそのラインプロファイルを示す。
図16中、(a)は本発明の実施例による画像、(b)は比較例による画像で、実線が本実発明の実施例、点線が比較例である。
図17において、一点鎖線で示した部分は、皮下脂肪に対応し、この部分の観察から、本発明の実施例では比較例(CHESSパルスが1発のみである場合)に対して脂肪信号が大幅に抑制されていることがわかる。
【0118】
また、
図18は、3つのCHESSパルスのフリップ角の比を上記の値で保った状態で、全体としてのCHESSパルス強度をAmp40-140%と変化させたときの脂肪抑制領域のプロファイル変化(縦磁化M(3)の変化)を実測したものである。尚、Amp 100%がフリップ角90°相当のCHESSパルス強度である。
【0119】
図18(a)は、ファントムの撮像例であり、中央部の低信号領域が脂肪抑制領域である。このファントム画像における縦の点線で示した位置のプロファイルを
図18(b)(c)に示す。
図18(b)は、従来の1つのCHESSパルスでCHESSパルス強度を変化させたときのプロファイル変化を示す。CHESSパルス強度を変化させるにしたがって、プロファイルの強度(縦磁化Mz)が変化していることがわかる。一方、
図18(c)は、本願発明の3つのCHESSパルスで強度を変化させたときのプロファイル変化を示す。Amp65%以上になると、プロファイルの強度(縦磁化Mz)がMz≒0の状態でCHESSパルス強度に依存しなくなることがわかる。これは本願発明の脂肪抑制シーケンスでは、CHESSパルスの照射強度に対して、縦磁化Mzが依存しない状態を実現できていることを示す。
【0120】
図19は、(a)〜(f)図が時間間隔τ2を変化させたときの腹部撮像画像であり、(g)図が脂肪抑制をOffにした場合の腹部撮像画像であり、(h)図が一般的な1つのCHESSパルスにより脂肪抑制をした腹部撮像画像である。上述したように、τ2を延長するにつれて、徐々に脂肪組織が抑制され、τ2=30msec前後(M(3)=-0.1M0程度)で、脂肪組織全体が均質に抑制できた。この結果は、計算機シミュレーションどおりに実際のボランティアでも前述の縦磁化の制御ができていることが示された。