(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記着色剤が、黒色染料、黄色染料、マゼンタ染料、赤色染料、紫色染料、シアン染料、青色染料、緑色染料、橙色染料、褐色染料、白色染料およびそれらの組合せからなる群から選択される
請求項1に記載のインク。
各々の官能基がアクリレート、アルコール、アミド、アミン、カルバメート、カルボキシレート、エポキシ、エステル、エーテル、グアニジン、イミン、ケトン、オキシム、ホスフェート、ホスホネート、プロトン化窒素、シラン、スルフェートおよびスルホンアミドからなる群から選択される
請求項4に記載のインク。
カール防止剤、緩衝剤、結合剤、殺生物剤、防蝕剤、分散剤、保湿剤、光安定剤、ナノ粒子安定剤、蛍光増白剤、pH調整剤、ポリマー、レオロジー改質剤、金属イオン封鎖剤、安定剤、界面活性剤、増粘剤、粘度調整剤および表面活性剤からなる群から選択される成分
をさらに含む請求項1に記載のインク。
カール防止剤、緩衝剤、結合剤、殺生物剤、防蝕剤、分散剤、保湿剤、光安定剤、ナノ粒子安定剤、蛍光増白剤、pH調整剤、ポリマー、レオロジー改質剤、金属イオン封鎖剤、安定剤、界面活性剤、増粘剤、粘度調整剤および表面活性剤からなる群から選択される成分を添加すること
をさらに含む請求項8に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0008】
ここで、開示のインクの具体例について詳細に言及する。適用可能な場合、代替例についても簡潔に説明する。
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、数量を特定していない単数形(the singular forms "a," "an," and "the")は、文脈上他に明確に示されていない限り、複数の指示対象を含むことに留意されたい。
本明細書で使用される場合、「約」は例えば製造プロセスにおける変動に起因する±10%の分散を意味する。
本明細書で使用される場合、「長鎖」という用語は、1つまたは複数の全フッ素置換(perfluorinated)炭素鎖を含み、各々の炭素鎖が一列に5個以上の(more than four)全フッ素置換炭素を含む分子を指す。
本明細書で使用される場合、「短鎖」という用語は、1つまたは複数の全フッ素置換炭素鎖を含み、各々の炭素鎖が一列に4個以下の全フッ素置換炭素を含む分子を指す。
【0009】
フッ素系界面活性剤は、プリントヘッドでのパドリングの制御、または媒体基材に印刷された画像の滲み(bleeding:ブリード)、けば立ち(feathering:ひげ)、モットリング、ドットゲイン、スメアリング(smearing)等の最小化のようなインクと媒体との相互作用の改善のために水性インクに使用される一般的な添加剤である。特に、これまでは長鎖の全フッ素置換炭素を含むフッ素系界面活性剤が使用されてきた。しかしながら、2009年12月に、米国環境保護庁(EPA)は、長鎖の全フッ素置換化学物質(PFC)の顕著な有害作用について詳述した行動計画を公開し、有害物質規制法による規則制定権を用いて、これらの長鎖PFCがもたらす危険性に対処するという意向を表明した。
【0010】
ペルフルオロポリエーテル(PFPE)を含む新たな水性インク用の組成物が開示されている。PFPEは、毒性が長鎖PFCよりも顕著に低く、インクの品質を改善することが可能な場合がある短鎖PFCである。PFPEには長くとも二炭素鎖しか含まれず、これは一般に使用されるフッ素系界面活性剤中の炭素鎖よりも短く、EPAによる長鎖PFCの特徴(すなわち一列に5個以上のフッ素化炭素)よりも短い。さらに、水性インクへのPFPEの使用はデキャップ性、湿潤性および/または噴射性が改善されたインクをもたらし得る。
【0011】
概して、PFPEは、フッ素化メチレンオキシドおよびエチレンオキシド反復単位を含む骨格を有するポリマー群である。これらの材料の骨格への酸素の組込みは、これらの毒性を長鎖PFC等の酸素化されていない全フッ素置換炭素鎖よりも顕著に低くすることができる。さらに、PFPEを官能基化して、インクの品質を改善するためのインクの添加剤として使用することができる。
【0012】
概して、PFPEは、それらを水性インクの添加剤としての使用に特に好適なものとすることができる多数の特性を有し得る。例えば、下記で更に論考するように、PFPEは炭素対フッ素比が低いことから良好な界面活性剤であり得る。したがって、対応する長鎖フッ素系界面活性剤と同様に、水性インク中でPFPEは気液界面まで上昇し、オリフィス孔(orifice bore)内に液体キャップを形成することができる。液体キャップの形成はインクの蒸発を減少させ、デキャップ時間を改善することができる。言い換えると、液体キャップの形成は、その性能がインクの乾燥による悪影響を受けるまでプリントヘッドのキャップを外した状態にすることができる時間を増加し得る。水性インク中にPFPEが含まれることは、液滴のヨレ(misdirection)、プリントヘッドのデキャップ時間に悪影響を与える別の状態を引き起こす可能性があるインクのパドリング、ウィッキングまたは有機若しくは無機プリントヘッド表面への広がりを低減するのにも役立ち得る。さらに、対応する長鎖フッ素系界面活性剤と同様に、上で更に説明したように、PFPEは滲み、けば立ち、モットリング等のインクと媒体との相互作用を改善することができる。
【0013】
最後に、水性インク中でPFPEは非反応性であってもよく、インクの粘度を変更しなくてもよく、液体状態を保ってもよい。また、PFPEを含むインクを印刷プロセスに使用する場合、インクが乾燥する際にPFPEが結晶を形成しないように、PFPEは非晶質のままであってもよい。
【0014】
官能基化されたPFPEの全体構造の一例は、以下の通りであり得る:
【化3】
(式中、pおよびqは各々任意の整数であり、一部の例では、p:qの比率は1:1〜1:2であり、Z
1およびZ
2は各々フッ素または任意の官能基であり、R
1、R
2、R
3は各々フッ素、任意のアルキル基または任意の官能基であり得るが、ただし、R
1、R
2およびR
3が全てフッ素である場合、Z
1およびZ
2の両方がフッ素とはならず、水溶液中では、官能基化されたPFPEがかかる水溶液の表面張力を低下させる)。
【0015】
一部の例では、上記で論考したように、R
1、R
2およびR
3は任意のアルキル基、例えば直鎖、分岐または超分岐アルキルであり得る。かかる基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ドデシル基またはn−テトラデシル基を挙げることができるが、これらに限定されない。本明細書で使用される場合、「超分岐ポリマー」は、中心骨格から開始する反復単位を有する密に分岐した樹枝状ポリマーを意味する。
【0016】
一部の例ではR
1、R
2、R
3は全て同じであるが、他の例ではR
1、R
2またはR
3の少なくとも1つが他のR基とは異なる。さらに、一部の例ではアルキルR
1、アルキルR
2またはアルキルR
3は、上記のZ基と同じ特性を有する1つまたは複数の付加的な官能基を更に含み得る。
【0017】
一部の例ではZ
1、Z
2、R
1、R
2、R
3およびアルキルR
1、アルキルR
2またはアルキルR
3上の任意の付加的な官能基は全て同じであり得る。他の例ではZ
1、Z
2、R
1、R
2、R
3およびアルキルR
1、アルキルR
2またはアルキルR
3上の任意の付加的な官能基は全て同じでなくてもよい。更に他の例ではZ
1、Z
2、R
1、R
2、R
3およびアルキルR
1、アルキルR
2またはアルキルR
3上の任意の付加的な官能基は全て異なっていてもよい。
【0018】
先に論考したように、Z
1、Z
2、R
1、R
2、R
3またはアルキルR
1、アルキルR
2若しくはアルキルR
3上の任意の付加的な官能基は任意の官能基であり得るが、ただし、水溶液中では、官能基化されたPFPEはかかる水溶液の表面張力を低下させる。表面張力は、液体が外力に耐えることができる程度の尺度である。概して、水溶液中の表面張力は、水溶液と別の液体または気体との界面に見られる水素結合によって決定される。PFPE等の界面活性剤は、水溶液と別の液体または気体との界面へのそれらの拡散がエネルギー的に起こりやすいことから、水溶液中の表面張力を低下させる。この界面で、水素結合が非水環境を求める界面活性剤の疎水性部分によって破壊され、表面張力が低下した水溶液が生じ得る。
【0019】
好適な官能基の一部の例としては、アクリレート、アルコール、アミド、アミン、カルバメート、カルボキシレート、エポキシ、エステル、エーテル、グアニジン、イミン、ケトン、オキシム、ホスフェート、ホスホネート、プロトン化窒素、シラン、スルフェートまたはスルホンアミドを挙げることができるが、これらに限定されない。一部の例では、好適な官能基はアルコールであり得る。一例では、好適な官能基はヒドロキシメチル基であり得る。他の例では、他のアルコール誘導体を使用してもよい。
【0020】
一部の例では、PFPEは、R
1、R
2およびR
3が全てフッ素である下記の一般式を有する直鎖ポリマーであり得る:
【化4】
(式中、pおよびqは各々任意の整数であり、一部の例では、p:qの比率は1:1〜1:2であり得る)。一部の例では、Z
1若しくはZ
2またはZ
1およびZ
2の両方がカルボキシレートであり得る。塩基性水性インク中で使用される場合、pKaが5未満のPFPE上のカルボキシレート基は水性インク中で脱プロトン化され、残存する全フッ素置換構造の可溶化を補助し得る。他の例では、上記のように、全フッ素置換構造の可溶化を補助し得る他の官能基を用いることができる。
(なお、出願当初の一般式:
【化5】
は、上記の式の誤記である。)
【0021】
PFPEを水性インクの添加剤として使用する場合、インク配合物の一例は官能基化されたPFPEと、インク媒体と着色剤とを含み得る。さらに、一部の例では、下記で更に論考するように、インク配合物は他の添加剤を更に含み得る。一部の例では、官能基化されたPFPEはインクの0wt%〜2wt%を構成し得る。
【0022】
水性インクに使用されるインク媒体は、水と1つ若しくは複数の有機溶媒またはその組合せとを含み得る。一部の例では、水はインクの60wt%〜99.9wt%を構成し、1つまたは複数の有機溶媒はインクの0wt%〜40wt%を構成する。
【0023】
一部の例では、好適な水溶性有機溶媒としては、グリセロール、グリコール、アルコール、ジオール、アミン、エーテル、アミドまたはそれらの組合せを挙げることができるが、これらに限定されない。かかる好適な溶媒の非限定的な例としては、1,2−ヘキサンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,3,5−(2−メチル)−ペンタントリオール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2−アルキルジオール、エチルヒドロキシ−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、2−ヒドロキシエチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、n−メチルピロリドン、1−(2−ヒドロキシエチル)−2−ピロリドン、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコール、liponicエチレングリコール−1、ジエチレングリコール、テトラエチレングリコール、n−ブチルエーテル、トリ(プロピレングリコール)メチルエーテル、グリセロール、n,n−ジ−(2−ヒドロキシエチル)−4,4−ジメチルヒダントイン、3−ピリジルカルビノール、3−メチル−1−ブタノール、ペンタエリスリトール、2−ヒドロキシエチル−2−イミダゾール、テトラメチレンスルホン、スルホランまたはそれらの組合せを挙げることができる。
【0024】
インクに使用される着色剤は有機または無機であり、着色染料、安定な水分散液を形成するように表面改質された着色顔料、またはRGB若しくはCYMK等の任意の可能な色でのそれらの組合せであり得る。一部の例では、着色剤はインクの0wt%〜20wt%であり得る。
【0025】
一部の例では、着色剤は黒色染料、黄色染料、マゼンタ染料、赤色染料、紫色染料、シアン染料、青色染料、緑色染料、橙色染料、褐色染料、白色染料またはそれらの組合せから選択することができる。染料は単一の染料または染料の組合せであり得る。一例では、黄色染料と青色染料とを混合することで緑色染料を形成することができる。また、インク媒体中の溶媒組成は、特定の染料または染料の組合せに所望の溶解度をもたらすように選択することができる。
【0026】
下記の染料のリストは、色指数(C.I.)による一般名を用いて記載される。これらのリストは単に一例として与えられ、包括的であることを意図するものではない。多数の他の染料または染料の組合せを使用することもできる。黒色染料としては、C.I.ソルベントブラック5、7、27、28、29、34、35、45、46または48を挙げることができる。青色染料としては、C.I.ソルベントブルー4、5、6、35、38、48、59、67、70、104または136を挙げることができる。紫色染料としては、C.I.ソルベントバイオレット8、9、11、14または38を挙げることができる。褐色染料としては、C.I.ソルベントブラウン1、3、5、20、42、43、44、48または52を挙げることができる。橙色染料としては、C.I.ソルベントオレンジ3、11、20、25、54、60、62、63、86、99または105を挙げることができる。赤色染料としては、C.I.ソルベントレッド1、23、29、49、119、122、125、127、130、132、135、149、160、164、168、169、172または233を挙げることができる。黄色染料としては、C.I.ソルベントイエロー10、13、14、19、25、28、33、88、89、114、146または163を挙げることができる。上で論考したように、染料は様々な組合せで使用することができる。一例では、C.I.ソルベントブルー70およびC.I.ソルベントレッド233、またはソルベントバイオレット9およびソルベントブラウン52を組み合わせて使用することができる。
【0027】
先に論考したように、安定な水分散液を形成するように表面改質された着色顔料を、着色剤として水性インクに使用することもできる。かかる着色顔料の非限定的な例としては、PR122若しくはPR269等のマゼンタ顔料、PY74、PY17若しくはPY174等の黄色顔料、またはPB15:1、PB15:2若しくはPB15:3等のシアン顔料を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0028】
最後に一部の例では、インク媒体は、カール防止剤、緩衝剤、結合剤、殺生物剤、防蝕剤、分散剤、保湿剤、光安定剤、ナノ粒子安定剤、蛍光増白剤、pH調整剤、ポリマー、レオロジー改質剤、金属イオン封鎖剤、安定剤、界面活性剤、増粘剤、粘度調整剤、表面活性剤またはそれらの組合せ等の他の添加剤を更に含むことができる。かかる添加剤は印刷性能の向上、プリントヘッドの信頼性の改善、媒体基材上に印刷された画像の品質の改善、またはそうでなければインクの品質若しくはインクの使用の改善に役立ち得る。一部の例では、このような他の添加剤はインクの0wt%〜10wt%であり得る。
【0029】
上で簡潔に論考したように、PFPE添加剤を含むインクは、対応する長鎖フッ素系界面活性剤よりも毒性が顕著に低いことに加えて、任意のPFPE添加剤または任意の他のフッ素系界面活性剤の添加剤を含まないインクよりも性能が良好である場合がある。特に、PFPE添加剤は、デキャップ性、パドリング性、湿潤性または噴射性等のインクの1つまたは複数の特性を改善し得る。さらに、同様に上記で論考したように、インクがPFPEを含む場合にインクと媒体との相互作用は改善され得る。特に、液滴の浸透の減少および媒体へのインクの滲みの減少の可能性がある。
【0030】
PFPE添加剤を含む水性インクはより良好なデキャップ性を有し得る。デキャップ性は、インクの入ったインクカートリッジがキャップを外してアイドリング状態に或る程度の時間置かれてからインクが回復する速度を説明するものである。良好なデキャップ性を有するインクは、印刷プロセスに使用する場合により少ないパドリングを示すことができる。
【0031】
図1Aは、回復までのスピット(適切な液滴の吐出が行われ、プリントヘッドの性能が回復するまでのレジスタ噴出の回数)およびデキャップ時間(秒)の座標上の、既知の無効なデキャップ溶媒を用いたPFPEを含むインクとPFPEを含まないインクとの回復を比較するグラフ100aである。この比較では初めに、2つのプリントカートリッジに、低デキャップ溶媒であることが知られる1,2−ヘキサンジオールベースの溶媒を含むインクを装填した。一方のカートリッジでは、インクは0.5wt%のジカルボキシレート末端PFPEを更に含んでいた。次に、カートリッジのキャップを外してアイドリング状態に一定時間置いた。プリントヘッドのキャップを外すことでインクの相分離が引き起こされ、それによりノズルに粘性プラグが形成され得る。最後に、プリントヘッドのキャップを或る程度の時間外しておいた後、プリントヘッドがインク滴を適切に噴出するまでのスピットの回数を測定した。本明細書で使用される場合、「スピット」は、プリントヘッドによるプリント媒体または廃棄容器へのインク滴の噴出を意味する。
【0032】
図1Aにおいて、プロットライン120は、0.5wt%のジカルボキシレート末端PFPEを含むインクを装填したプリントヘッドによる回復までのスピットの回数を表す。一方で、プロットライン110は、PFPEを含まないインクを装填したプリントヘッドによる回復までのスピットの回数を表す。プロットライン110に見られるように、PFPEを含まないインクを装填したプリントヘッドは、15秒間のデキャップ時間の後に回復まで100回を超えるスピットを受け、15秒を超えるデキャップ時間については回復しなかった。一方で、プロットライン120に見られるように、PFPEを含むインクを装填したプリントヘッドは、60秒を超えるデキャップ時間の後であっても最低回数のスピットで回復した。したがって、低デキャップ溶媒を含むインク中にPFPEが含まれることは、良好なデキャップ性を有する顕著に改善したインクをもたらし得る。
【0033】
一方で、
図1Bは、回復までのスピットおよびデキャップ時間(秒)の座標上の、既知の有効なデキャップ溶媒を用いたPFPEを含むインクとPFPEを含まないインクとの回復を比較するグラフ100bである。比較を行うのに用いる方法は、PFPEを含む既知の無効なデキャップ溶媒とPFPEを含まない溶媒との比較において上記したものと実質的に同じであった。既知の有効なデキャップ溶媒である2−ピロリドン(2P)の入ったカートリッジにインクを装填し、一方のカートリッジでは、インクが0.5%のジカルボキシレート末端PFPEを更に含んでいた。
【0034】
図1Bにおいて、プロットライン140は、0.5wt%のジカルボキシレート末端PFPEを含むインクを装填したプリントヘッドによる回復までのスピットの回数を表す。一方で、プロットライン130は、PFPEを含まないインクを装填したプリントヘッドによる回復までのスピットの回数を表す。プロットライン130およびプロットライン140に見られるように、既知の有効なデキャップ溶媒を使用した場合にPFPEを含むインクとPFPEを含まないインクとの回復速度に大きな差はない、すなわちプロットライン130とプロットライン140との差は、実験のノイズに起因するものであり得る。どちらのインクも良好なデキャップ性を示し、60秒を超えるデキャップ時間の後であっても回復までに最低回数のスピットしか必要としなかった。したがって、PFPE添加剤の添加は、有効なデキャップ溶媒を含むインクの良好なデキャップ性に悪影響を及ぼすものではない。
【0035】
インクの蒸発速度もそのデキャップ性に影響を与える可能性がある。インクの蒸発が起こると、ノズルでのインク粘度の局所的な増加、駆動気泡(drive bubble)強度の低下(すなわちレジスタでの水分枯渇)、または相分離等の幾つかの他の蒸発による現象によりインクが分解する場合がある。したがって、インクの蒸発速度を抑えることができれば、インクのデキャップ性は改善し得る。したがって、蒸発速度が高いインクと比較すると、蒸発速度の低いインクはより一貫性があり、より長いデキャップ期間の後であってもより確実にインク滴を噴出することが可能であり得る。
【0036】
図2は、正規化した質量パーセントおよび時間(秒)の座標上の、既知の無効なデキャップ溶媒である1,2−ヘキサンジオールをベースとするインク媒体を用いた、PFPE添加剤を含むインク滴とPFPE添加剤を含まないインク滴との蒸発速度を比較するグラフ200である。PFPEが含まれる試験では、インクは0.5wt%のジカルボキシレート末端PFPEを更に含んでいた。
【0037】
図2において、群220のプロットラインは各々PFPEを含むインク滴の蒸発速度を表し、群210のプロットラインは各々PFPEを含まないインク滴の蒸発速度を表す。蒸発速度は、周囲環境において或る特定の経過時間後に残存する液滴の質量パーセントで表される。群220のプロットラインに見られるように、PFPEの添加は、より一貫した遅い蒸発速度を有するインク滴をもたらし、上記で先に論考したように、より一貫したインクがより良好なデキャップ性を有し得ることが示された。
【0038】
したがって、全体としては、PFPE添加剤の添加は無効なデキャップ溶媒を含むインクのデキャップ性の改善に役立つ場合があり、有効なデキャップ溶媒を含むインクの良好なデキャップ性に悪影響を及ぼすものではない。
【0039】
次に、先に論考したように、インク中のPFPE添加剤はまた、印刷時のインクのパドリングを減少させ、インクの噴射性(正:jettability properties)を改善し得る。PFPE添加剤を既知の無効なデキャップ溶媒を含むインクに添加すると、得られたインクはより高い液滴速度およびより高レベルの安定性で噴出され得る。下記表1に、0.5wt%のジカルボキシレート末端PFPEを含むインク滴の噴出の平均速度と、PFPEまたは任意の他のフッ素系界面活性剤を含まないインク滴の噴出の平均速度との差を示す。どちらのインクも、無効なデキャップ溶媒である1,2−ヘキサンジオールを更に含む。
【0041】
表1に見られるように、PFPE添加剤を含むインク滴は、PFPEまたは他のフッ素系界面活性剤の添加剤を含まないインク滴よりも速い液滴速度で噴出され得る。さらに、同様に表1に見られるように、PFPEを含まないインクの平均液滴速度の標準偏差はPFPEを含むインクよりもはるかに高い。この高い標準偏差は、PFPEを含まないインク滴の噴出がより不規則で一貫性がなく、それにより印刷画像の品質が不良となる若しくは一貫性がなくなるか、またはプリントヘッド表面でのパドリングが生じ得ることを示す。したがって、PFPE添加剤を含むインクの使用はプリントヘッドでのパドリングを減少させ、より一貫した、より品質の良好な印刷画像をもたらし得る。
【0042】
最後に、同様に先に論考したように、PFPE添加剤はインクの湿潤性を改善し得る。インク化学では、湿潤性はインクがどのように基材と接触するかを説明するものであり、インク滴と基材との間の角度は「接触角」として知られる。湿潤性が高いインクは90度未満の接触角で基材に滴下され、基材の広範囲に広がることができる。湿潤性が低いインクは90度超の接触角で基材に滴下され、最小限の広がりで基材との接触を保つことができる。したがって、湿潤性が高いインクはプリントヘッド表面でのパドリングを示す場合があり、湿潤性が低いインクはプリントヘッド表面でのパドリングを示すことが少ない。
【0043】
加えて、湿潤性が低いインクは、非吸収性傾向がある、孔の少ない媒体(例えばプラスチック)等の非伝統的な媒体への印刷に効果的に使用することができる。このような孔の少ない媒体では、湿潤性が低いインクは広がりの低下またはドットゲインの低下によって高解像度の境界を生成することが可能である。
【0044】
図3は、PFPEを含むインクおよびPFPEを含まないインクの有機媒体基材および無機媒体基材での湿潤挙動を示す。
図3において、画像330および画像340は、それぞれ無機ガラス基材および有機接着剤様エポキシ基材上に滴下したPFPEを含むインクを示す。一方、画像310および画像320は、それぞれ無機ガラス基材および有機接着剤様エポキシ基材上に滴下したPFPEを含まないインクを示す。使用したインクは既知の無効なデキャップ溶媒である1,2−ヘキサンジオールをベースとするものであった。PFPEが含まれる試験では、インクは0.5wt%のジカルボキシレート末端PFPEを更に含んでいた。使用した無機基材は、ピエゾプリントヘッドのオリフィスに見られるものと類似の材料から形成され、使用した有機基材は、サーマルインクジェットプリントヘッドのオリフィスおよび他の類似のポリマープリントヘッドのオリフィスに見られるものと類似の材料から形成されていた。
【0045】
画像310および画像320に見られるように、PFPEを含まないインクを無機基材および有機基材上に滴下した場合、インクと基材との間の接触角は0度に近づき、湿潤性が高いインクが印刷時にパドリングし得ることが示される。さらに、PFPEを含まないインクは基材上に滴下すると、境界の不規則な画像を高速で生成する。一方で、画像330および画像340に見られるように、PFPEを含むインクを無機基材および有機基材上に滴下した場合、インクと基材との間の接触角は75度に近づき、湿潤性が低いインクが印刷時にパドリングしないことが示される。また、PFPEを含むインクは基材上に滴下すると、境界の滑らかなコンパクトな画像を生成する。したがって、PFPEを含むインクは湿潤性が低く、プリントヘッドのオリフィスでのパドリングをほとんど生じず、より高品質な画像をもたらし得る。
【0046】
上述のPFPE成分を含むインクは、水性インクを配合する任意の可能なプロセスを用いて作製することができる。インクの成分は任意の順序で添加し、混合することができる。一部の例では、1つまたは複数の成分を同時に添加し、混合する。
【0047】
上述のPFPE成分を含むインクが、インクジェットインクへの特定の用途で説明されていることを理解されたい。しかしながら、添加剤としてのPFPE成分の使用は、水性UVインク等の他の水性インク技術にも使用することができる。