(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5898491
(24)【登録日】2016年3月11日
(45)【発行日】2016年4月6日
(54)【発明の名称】複合ろう材とそれを用いたろう付方法
(51)【国際特許分類】
B23K 35/14 20060101AFI20160324BHJP
B23K 35/30 20060101ALI20160324BHJP
C22C 5/02 20060101ALI20160324BHJP
C22C 5/06 20060101ALI20160324BHJP
C22C 5/08 20060101ALI20160324BHJP
C22C 9/00 20060101ALI20160324BHJP
B23K 1/19 20060101ALI20160324BHJP
B23K 103/04 20060101ALN20160324BHJP
【FI】
B23K35/14 A
B23K35/30 310A
B23K35/30 310B
B23K35/30 310C
C22C5/02
C22C5/06 Z
C22C5/08
C22C9/00
B23K1/19 J
B23K103:04
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-288743(P2011-288743)
(22)【出願日】2011年12月28日
(65)【公開番号】特開2013-136078(P2013-136078A)
(43)【公開日】2013年7月11日
【審査請求日】2014年12月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森橋 遼
(72)【発明者】
【氏名】山中 光一
(72)【発明者】
【氏名】今村 嘉秀
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 勇人
(72)【発明者】
【氏名】大岸 秀之
【審査官】
市川 篤
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭57−052590(JP,A)
【文献】
特開昭60−166194(JP,A)
【文献】
特開平11−104819(JP,A)
【文献】
特開昭58−100992(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/14
B23K 35/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄鋼材料の被接合材を接合する複合ろう材であって、
Auろう材層と、
前記Auろう材層を挟んで両側に配置され、Auろう材層よりも低融点であり、かつ前記被接合材と合金化し難い金属からなる重ね合わせろう材層と、
を備え、
前記重ね合せろう材層は、Agを含む合金ろう材層である、複合ろう材。
【請求項2】
前記Auろう材層は、
その組成が、Au、Cu、Niの三元組成図において、
組成比(Au(wt%),Cu(wt%),Ni(wt%))が、
点1(19,81,0)、
点2(28,66,6)、
点3(36,54,10)、
点4(53,33,14)、
点5(58,25,17)、
点6(63,18,19)、
点7(66,12,22)、
点8(69,0,31)、
点9(99,0,1)、
点10(99,1,0)、
の10点を結ぶ直線で囲まれた領域にあり、残部が不可避成分である請求項1に記載の複合ろう材。
【請求項3】
前記重ね合せろう材層は、
その組成が、Ag、Cu、Pdの三元組成図において、
組成比(Ag(wt%),Cu(wt%),Pd(wt%))が、
点11(10,90,0)、
点12(16,54,30)、
点13(20,46,34)、
点14(25,34,41)、
点15(30,28,42)、
点16(36,22,42)、
点17(45,16,39)、
点18(99,0,1)、
点19(99,1,0)の9点を結ぶ直線で囲まれた領域にあり、残部が不可避成分である請求項1又は2に記載の複合ろう材。
【請求項4】
前記Auろう材層および重ね合せろう材層は、板状、帯状、線状、球状、粉末状、プリフォーム状またはペースト状のろう材から形成されている請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合ろう材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合ろう材を用いたろう付方法であって、
対向配置した鉄鋼材料の被接合材の間に前記複合ろう材を配置し、前記被接合材および前記複合ろう材を所定時間加熱してろう付することを特徴とする複合ろう材を用いたろう付方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼材料の被接合材を接合する複合ろう材と、その複合ろう材を用いたろう付方
法に関する。
【背景技術】
【0002】
ろう付は金属を精度良く接合することができる接合方法として様々な産業分野で用いられている。
【0003】
その中でも、回転機械などにおいて高い強度が求められる部位の鉄鋼製品を得る場合のろう付は、高い強度が得られる金ろう材(以下、単に「Auろう材」ともいう)によって被接合材が接合される(非特許文献1参照)。このAuろう材としては、例えば、BAu−4などのAuろう材が使用される。このAuろう材を用いた被接合材のろう付は、例えば、被接合材の接合部分にAuろう材を設けた状態で、それらを約1000℃の温度の熱処理炉内で加熱することによってろう付される(特許文献1参照)。
また、ろう付においては、被接合材の材質や形状等に合わせて、複数のろう材を組合せて接合を行うことや、ろう材の成分を調整して接合を行うことが一般的になされている。例えば、複数のろう材を組合せるものとして、Ag層の片面にAuまたはAu合金ろう材層を形成するようにした複合ろう材が開示されている(特許文献2参照)。一方、ろう材の成分を調整するものとして、20〜40重量%の金と、15〜30重量%の銀と、15〜30重量%の銅と、2〜6重量%のニッケルと、0〜4重量%クロムとからなるステンレス接合用のろう材が開示されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2003−531731公報
【特許文献2】特許第2536582号公報
【特許文献3】特許第3625963号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J. Nowacki, W. Kryttowicz, A. Potapczyk, Some Aspects of Vacuum Brazing as a Production Method for Centrifugal Compressor Impellers
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述したAuろう材を用いて高温で加熱するろう付の場合、ろう付時間が長くなるにしたがって、被接合材とろう層との界面付近に、直径約数μmの微小ボイド(以下、「ミクロボイド」という)が形成されることが分った。このミクロボイドは、例えば、ステンレス鋼材の被接合材をAuろう材でろう付した場合、
図7に示す顕微鏡写真のように、被接合材100とろう材105の界面106付近の部分にミクロボイド110が発生する。
図7に示す断面は、ステンレス鋼材の被接合材100,101をAuろう材105でろう付した部分の断面であり、Auろう材105としてBAu−4(Au;80(wt%)、Ni;20(wt%))を用い、約1000℃で、約60分間加熱してろう付した例である。
【0007】
そして、上記したように界面106付近の部分にミクロボイド110が発生した場合、このミクロボイド110によってろう付部分における疲労強度が低下する。
図8は、上記ミクロボイドの面積率と、そのろう付部分に所定回数の負荷をかけたときの疲労強度との関係について実験を行った結果を示す図である。図示するように、ミクロボイドの面積率が増えるにしたがって、ろう付部分の疲労強度が低下する。例えば、ミクロボイドの面積率が1%未満の場合、疲労強度が1000MPaであるが、ミクロボイドの面積率が約6%になると、疲労強度が約750MPaに低下する。
そのため、特に、高い強度が必要で、長い均熱時間を必要とする比較的大型の製品の接合では、Auろう材を用いて高温で加熱するろう付を採用することが困難である。
【0008】
そこで、本出願の発明者は、上記ミクロボイドの発生メカニズムを検討し、鉄鋼材料を接合するろう材として、ミクロボイドの発生を抑制し、強度の低下を抑制できるろう材について研究した。
【0009】
まず、上記ミクロボイド110の発生メカニズムについて、複数の検証試験の結果から以下のように考えた。
図9(a),(b) は、そのミクロボイドの発生メカニズムを模式化した図である。図では、片側の界面付近を模式化して示している。
【0010】
図9(a) に示すように、ろう付開始とともに被接合材100の鉄(以下、単に「Fe」ともいう)が溶融したろう材に拡散すると、凝固が開始して樹枝状晶107の成長が開始する。
【0011】
さらに、時間の経過とともに、
図9(b) に示すように、Feが拡散してろう材105全体に混ざることによって融点の高いFeでろう材105の融点自体が上昇して融液の粘度が増加し、溶けたろう材105が界面106付近に形成された樹枝状晶107の間隙108を埋める役割を果たさなくなり、この融液が満たされない部分がミクロボイド110として残るのではないかと考えた。
【0012】
つまり、高温のろう付時間が長くなると、鉄鋼材料のFeが拡散し、それによってAuろう材が合金化して樹枝状晶107の間隙108に融液が埋められない部分が生じ、それがミクロボイド110になるのではないかと考えた。
【0013】
そして、本出願の発明者は、このようなミクロボイドの発生メカニズムの知見から、上記ミクロボイドの発生対策として、ろう材105と被接合材(鉄鋼材料)100,101との間に、
1)ろう材の融点を下げる成分を入れる、
2)Feの拡散を抑制するろう材を入れる、
という二点の対策でミクロボイドの発生を抑制することができるのではないかと考えた。
【0014】
なお、上記特許文献1〜3および非特許文献1には、このようなミクロボイドの発生メカニズムに関する知見、及びその対策について何ら記載も示唆もされていない。
【0015】
本発明は、上記考察結果に基づき、鉄鋼材料のろう付に関してミクロボイドの発生を抑制し、強度の低下を抑制することができる複合ろう材と、その複合ろう材を用いたろう付方
法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明に係る複合ろう材は、鉄鋼材料の被接合材を接合する複合ろう材であって、Auろう材層と、前記Auろう材層を挟んで両側に配置され、Auろう材層よりも低融点であり、かつ前記被接合材と合金化し難い金属からなる重ね合わせろう材層と、を備え
、前記重ね合せろう材層は、Agを含む合金ろう材層であることを特徴とする。この明細書及び特許請求の範囲の書類中における「重ね合せろう材層」は、Auろう材層と鉄鋼材料との間に位置するようにAuろう材層に重ね合わせるろう材層をいい、「ろう材層」は、「層状」に形成したろう材をいう。この構成により、Auろう材層よりも低融点の重ね合せろう材層が、鉄鋼材料の被接合材を接合するろう材層の融点上昇を抑えることができる。また、被接合材と合金化し難い金属からなる重ね合せろう材層が、Auろう材層と被接合材の間に配置されることとなるため、効果的に鉄鋼材料のFeが拡散するのを抑えることができる。よってミクロボイドの発生を抑制し、強度の低下を抑制することができる。特に、この構成により、ミクロボイドの発生を抑制し、強度の低下を抑制することができるため、高い強度が必要で、長い均熱時間を必要とする比較的大型の製品の接合を行う場合であっても、Auろう材を用いたろう付が可能となる。
【0017】
また、前記重ね合せろう材層を形成するろう材は、Auろう材よりも低融点であり、被接合材と合金化し難いこと、すなわち被接合材と互いに固溶し難いことが求められる
が、Ag(銀)を含む合金ろう材を鉄鋼材料と接する重ね合せろう材層として使用して、低融点で鉄鋼材料のFeが拡散するのを抑制することができる複合ろう材を構成することができる。
【0018】
また、前記Auろう材層は、その組成が、Au(金)、Cu(銅)、Ni(ニッケル)の三元組成図において、組成比(Au(wt%),Cu(wt%),Ni(wt%))が、点1(19,81,0)、点2(28,66,6)、点3(36,54,10)、点4(53,33,14)、点5(58,25,17)、点6(63,18,19)、点7(66,12,22)、点8(69,0,31)、点9(99,0,1)、点10(99,1,0)の10点を結ぶ直線で囲まれた領域にあり、残部が不可避成分であってもよい。このように構成すれば、Auによる複合ろう材の強度を保ちつつ、重ね合せろう材層によってろう材の融点を下げ、かつ鉄鋼材料との合金化を抑制してミクロボイドの発生を抑制することができる。
【0019】
また、前記重ね合せろう材層は、Agを含む合金ろう材層であり、その組成が、Ag(銀)、Cu(銅)、Pd(パラジウム)の三元組成図において、組成比(Ag(wt%),Cu(wt%),Pd(wt%))が、点11(10,90,0)、点12(16,54,30)、点13(20,46,34)、点14(25,34,41)、点15(30,28,42)、点16(36,22,42)、点17(45,16,39)、点18(99,0,1)、点19(99,1,0)の9点を結ぶ直線で囲まれた領域にあり、残部が不可避成分であってもよい。重ね合せろう材層を形成するろう材の成分として、AgにCu、Pdを添加し合金化することで、ろう材の融点を幅広く変えることができる。また、ここではAuやNiに固溶しやすいCu、Pdを用いており、AuやNiと強度低下原因となる脆弱な化合物を作らず、高い強度のろう付ができる。
【0020】
また、前記Auろう材層および重ね合せろう材層は、板状、帯状、線状、球状、粉末状、プリフォーム状およびペースト状のろう材から形成されていてもよい。このように構成すれば、使用条件等に応じて種々の形態から形成された重ね合せろう材層をAuろう材層の両側に重ねることで複合ろう材を形成することができる。
【0021】
一方、本発明に係るろう付方法は、前記いずれかの複合ろう材を用いた鉄鋼材料のろう付方法であって、対向配置した前記鉄鋼材料の被接合材の間に前記複合ろう材を配置し、前記被接合材および複合ろう材を所定時間加熱してろう付することを特徴とする。この構成により、Auろう材層よりも低融点の重ね合せろう材層が、鉄鋼材料である被接合材を接合するろう材の融点の上昇を抑えるとともに、鉄鋼材料のFeが拡散するのを抑えることができ、これによってミクロボイドの発生を抑制した鉄鋼材料のろう付ができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、鉄鋼材料の被接合材を接合する場合に、ミクロボイドの発生を抑制し、強度の低下を抑制することができる複合ろう材及びろう付方法を提供することが可能となる。その結果、より高い強度で接合した鉄鋼製品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施形態に係る複合ろう材の断面図である。
【
図2】
図1に示す複合ろう材におけるAuろう材層の三元組成図である。
【
図3】
図1に示す複合ろう材における重ね合せろう材層の三元組成図である。
【
図4】
図1に示す複合ろう材を用いたろう付の所定時間経過後のろう材層の融点変化を示すグラフである。
【
図5】
図4に示す複合ろう材を用いたろう付の所定時間経過後の接合部分の断面を示す顕微鏡写真である。
【
図6】
図4に示す複合ろう材を用いてろう付した鉄鋼材料の疲労強度を示すグラフである。
【
図7】従来のろう材を用いて鉄鋼材料をろう付した接合部分の断面を示す顕微鏡写真である。
【
図8】
図7に示すろう付した鉄鋼材料におけるミクロボイド面積率と疲労強度の関係を示すグラフである。
【
図9】
図7に示すミクロボイドの発生メカニズムを模式的に示す図面であり、(a) はろう付開始直後の模式図、(b) はろう付を所定時間行った時の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下の実施形態では、箔状のろう材を重ねた複合ろう材1を例に説明する。また、以下の説明では、対向配置した鉄鋼材料である被接合材10,11をろう付する例を説明するが、被接合材10,11の位置関係等は他の関係であってもよい。
【0025】
図1に示すように、この実施形態の複合ろう材1は、Auろう材層2を挟んで両側に重ね合せろう材層3が設けられた3層の複合ろう材1となっている。この複合ろう材1は、重ね合せろう材層3が鉄鋼材料である被接合材10,11にそれぞれ接するように配置され、これら被接合材10,11と複合ろう材1とが熱処理炉(図示略)内で加熱されることによって被接合材10,11がろう付される。
【0026】
図2は、上記複合ろう材1におけるAuろう材層2の成分組成を示す三元組成図である。この実施形態のAuろう材層2は、図に示す三元組成図に●の点で示されている点1〜点10を結ぶ直線に囲まれる領域の組成比を有するものであり、残部は不可避成分である。具体的には、組成比(Au(wt%),Cu(wt%),Ni(wt%))が、点1(19,81,0)、点2(28,66,6)、点3(36,54,10)、点4(53,33,14)、点5(58,25,17)、点6(63,18,19)、点7(66,12,22)、点8(69,0,31)、点9(99,0,1)、点10(99,1,0)の10点を結ぶ直線で囲まれた領域内にある。
【0027】
Auろう材層2をこのような領域に規定して組成範囲を限定したことで、Auの含有量が19%wt以上、99wt%以下と多く、強度の高い複合ろう材1が得られるようにしている。
【0028】
また、
図2に示す成分組成は、Auろう材層2を890℃〜1050℃の範囲で溶融するものとしている。
【0029】
図3は、上記複合ろう材1における重ね合せろう材層3の成分組成を示す三元組成図である。この実施形態の重ね合せろう材層3は、図に示す三元組成図に●の点で示されている点11〜点19の9点を結ぶ直線に囲まれる領域の組成比を有するものであり、残部は不可避成分である。具体的には、組成比(Ag(wt%),Cu(wt%),Pd(wt%))が、点11(10,90,0)、点12(16,54,30)、点13(20,46,34)、点14(25,34,41)、点15(30,28,42)、点16(36,22,42)、点17(45,16,39)、点18(99,0,1)、点19(99,1,0)の9点を結ぶ直線で囲まれた領域内にある。
【0030】
重ね合せろう材層3をこのような領域に規定して組成範囲を限定したことで、重ね合せろう材層3の融点がAuろう材層2に比べて低く、Feの拡散を抑制して鉄鋼材料と合金化し難い複合ろう材1が得られるようにしている。
【0031】
また、
図3に示す成分範囲は、上記Auろう材層2よりも融点が低く、重ね合せろう材層3を760℃〜1040℃の範囲で溶融するものとしている。
【0032】
図4〜6は、上述した
図1に示すように、上記Auろう材層2と重ね合せろう材層3とを積層した複合ろう材1を用いて被接合材(鉄鋼材料)10,11をろう付した実験の一例を示す図面である。複合ろう材1としては、Auろう材層2(BAu−4)の両側に重ね合せろう材層3(BAg−8)を重ねたものを用い、被接合材10,11としては、SUS403の鉄鋼材料を用いている。ろう付の条件としては、ろう付温度=1000℃、ろう付時間=60分、でろう付している。
【0033】
図4に示すように、上記複合ろう材1によって被接合材(鉄鋼材料)10,11をろう付した場合、図示する60分の位置に示すように、点線20で示すAuろう材層2のみを使用した場合の推定される融点の上昇量に比べて、実線21で示すように60分後の融点温度を約1000℃に抑えることができる。そして、これにより、高温でのろう付時間が約60分と長くなっても、ろう材の溶融温度を凝固領域に上げることなく、溶融領域に留めることができる。
【0034】
その結果、
図5に示すように、上記した条件でろう付した被接合材(鉄鋼材料)10,11は、ろう付部分の断面を顕微鏡写真で見ると、被接合材10,11と複合ろう材1との界面12付近におけるミクロボイドの発生を抑制した接合となっている。
【0035】
このような実験結果から、上述した
図9(a),(b) のミクロボイド発生メカニズムにおいて、複合ろう材1の重ね合せろう材層3が、被接合材10,11を接合するろう材の融点上昇を抑えるとともに、被接合材10,11のFeが拡散するのを抑制していると考える。そして、これによって複合ろう材1の融点が上昇してろう材の粘度が増加するのを抑え、溶けたろう材が界面12付近に形成された樹枝状晶(
図9(a),(b) )の間隙を埋める融液の役割を果たして、被接合材10,11と複合ろう材1との界面12付近にミクロボイドが発生するのを抑制したものと考える。
【0036】
また、
図6に示すように、上記複合ろう材1で接合した被接合材(鉄鋼材料)10,11に繰返し荷重を与えて疲労試験を行った結果、点線30で示すAuろう材のみでろう付して、面積率にして約6%のミクロボイドが発生した場合に比べ、実線31で示す複合ろう材1によって被接合材10,11を接合してミクロボイドの発生を抑制した場合には、繰返し数が少ない場合の低サイクルにおいて約30〜40%の疲労強度の向上を図ることができる。従って、上記複合ろう材1で鉄鋼材料の被接合材10,11を接合することにより、より高い強度で接合した鉄鋼製品(例えば、回転機械等)を得ることができる。
【0037】
なお、
図6に示す繰返し数Nfの106 回では同一になるが、これは高サイクル領域であり、ミクロボイドが疲労寿命に影響を及ぼさないようになるためであると考えられる。
【0038】
以上のように、上記複合ろう材1によれば、鉄鋼材料の被接合材10,11をろう付によって接合する場合に、接合部分のろう材の融点の上昇を抑えるとともに、被接合材10,11のFeが拡散するのを抑え、複合ろう材1と被接合材10,11との界面付近にミクロボイドが発生するのを抑えて、安定したろう付を行うことが可能となる。
【0039】
従って、上記複合ろう材1でろう付して製作する鉄鋼製品を、Auろう材層2による強度の高いろう付で安定して製作することができる。
【0040】
なお、上記実施形態では、Auろう材層2および重ね合せろう材層3を薄板状(箔状)に形成したものを重ねた例を説明したが、これらのろう材層2,3は、板状、帯状、線状(ワイヤ状)、球状、粉末状、プリフォーム状またはペースト状の形態のものを重ね合せるようにしてもよく、Auろう材層2および重ね合せろう材層3の形態は限定されるものではない。
また、複合ろう材1を用いて接合を行う際には、予めAuろう材層2および重ね合わせろう材層3を一体化しておいてもよいし、Auろう材層2および重ね合わせろう材層3をそれぞれ準備しておき、被接合材の上に重ね合わせて配置するようにしてもよい。
【0041】
また、上記実施形態では、Auろう材層2(BAu−4)の両側に同じ組成の重ね合せろう材層3(BAg−8)を重ねた複合ろう材1を例に説明したが、Auろう材層2と重ね合せろう材層3との組合せは、異なる組成の組合わせでもよく、上記実施形態に限定されるものではない。
【0042】
さらに、上述した実施形態は一例を示しており、本発明の要旨を損なわない範囲での種々の変更は可能であり、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明に係る複合ろう材は、回転機械などの鉄鋼材料を高い接合強度で接合する場合のろう材として利用できる。
【符号の説明】
【0044】
1 複合ろう材
2 Auろう材層
3 重ね合せろう材層
10 被接合材(鉄鋼材料)
11 被接合材(鉄鋼材料)
12 界面
20,30 点線
21,31 実線