特許第5898639号(P5898639)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5898639
(24)【登録日】2016年3月11日
(45)【発行日】2016年4月6日
(54)【発明の名称】地盤変位の予測方法
(51)【国際特許分類】
   G01V 9/00 20060101AFI20160324BHJP
   E02D 17/20 20060101ALI20160324BHJP
【FI】
   G01V9/00 Z
   E02D17/20 106
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-65514(P2013-65514)
(22)【出願日】2013年3月27日
(65)【公開番号】特開2014-190782(P2014-190782A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2015年3月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100085394
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 哲夫
(74)【代理人】
【識別番号】100165456
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 佑子
(72)【発明者】
【氏名】坂井 宏行
【審査官】 田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−215002(JP,A)
【文献】 特開2003−004859(JP,A)
【文献】 特開2002−339373(JP,A)
【文献】 特開2009−102841(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 9/00
E02D 17/20
G01N 33/24
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
観測対象地区の地下水中に存在する特定イオンのイオン濃度と地盤変位量とを継続的に測定し、該測定値に基づいて特定イオンのイオン濃度変化量と地盤変位量との相関関係を予め求め、該相関関係に基づいて特定イオンのイオン濃度変化量から次回に発生する地盤変位の変位量を予測する予測方法であって、前記相関関係は、イオン濃度が所定量以上変化した場合に地盤変位量はイオン濃度変化量の一次関数となることを特徴とする地盤変位の予測方法。
【請求項2】
請求項1において、特定イオンのイオン濃度変化量と地盤変位量との相関関係を求めるにあたり、イオン濃度および地盤変位量の測定開始後に最初にイオン濃度の急上昇が発生したときのイオン濃度変化と、該最初のイオン濃度の急上昇の発生後に最初に発生した地盤変位とを対応させ、以降は発生順に順次イオン濃度変化と地盤変位とを対応させて相関関係を求めたことを特徴とする地盤変位の予測方法。
【請求項3】
請求項1または2において、相関関係を求める場合に用いるイオン濃度変化量は、任意のイオン濃度急上昇を今回のイオン濃度急上昇としたとき、該今回のイオン濃度急上昇の開始を終点とする今回のイオン濃度急上昇以前の一定期間におけるイオン濃度の平均値をベースライン濃度とし、また、前記一定期間内にイオン濃度の急上昇があった場合には、該イオン濃度急上昇の終了を始点とし今回のイオン濃度急上昇の開始を終点とする期間におけるイオン濃度の平均値をベースライン濃度として、該ベースライン濃度を基準とする今回のイオン濃度急上昇時におけるイオン濃度の増加量であることを特徴とする地盤変位の予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、斜面地盤において発生する可能性のある地すべり、表層崩壊、がけ崩れ等の土砂災害をもたらすような地盤の変位を予測する地盤変位の予測方法の技術分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、自然災害の一つとして土砂災害があり、このような土砂災害として、傾斜地に発生する地すべり、表層崩壊、がけ崩れ、土石流などによる災害がある。そして、このような傾斜地での土砂災害は、斜面地盤が変状したり移動したりする地盤変位によって引き起される。このような地盤変位を測定する手法については、従来、例えば、地盤変位が発生するとされる場所にボーリング孔を掘り、ここに歪ゲージを備えたパイプを挿入し、地盤変位によって生じた歪量を計測することで地盤変位を測定するようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。また、ボーリング孔に挿入されるケーブルに形状記憶合金からなる導体を内装し、地盤変位が発生した場合に導体にケーブルの変位形状を記憶させておくことで地盤変位の測定をするようにしたものも提唱されている(例えば、特許文献2参照。)。
しかしながら前記従来のものは、実際に斜面崩壊が発生している最中又は発生した後の地盤変位を測定するものであって、地盤変位の発生を予測するものではない。しかるに、地盤変位の発生を予測することは、土砂災害を未然に防止するために重要である。
そこで、本発明の発明者は、地盤変位が発生する惧れのある地区の地下水に含まれるナトリウムイオンやカルシウムイオン等の特定イオンの濃度を経時的に測定し、該イオン濃度が急激に上昇した場合には、これを地すべりや表層崩壊等の斜面崩壊による地盤変位が発生する前兆であるとして予測する方法を発明した(特許文献3参照。)。
このものは、風化の進行等により土粒子が微細化すると、地盤内の応力に変化が生じてすべり面が発生し、このすべり面が成長することによってさらにすべり面近傍の土粒子が微細化していくという現象を捉え、このように微細化した土粒子表面を通過した地下水は、摺動力を受けていない比較的大きな土粒子表面を通過した地下水よりもイオン濃度が高くなることに着目したもので、地下水に含まれるイオン濃度を継続的に測定し、イオン濃度が上昇すれば地下水が通過してきた地盤のどこかにすべり面が発生したとみなし、該すべり面が発生したことによって地盤変位が起こる可能性が高いと予測するものである。
さらに、本発明の発明者は、地盤変位が発生すると予測される地盤から供試体を採取し、該供試体に採取した現場の地下水を通過させ、該通過した地下水の化学組成の変化を観測することで、採取した地盤での地盤変位の時期を予測できることを確認し、この考え方に基づいて地盤変位の予測方法を発明した(特許文献4参照。)。
そして、これらの発明により、地盤変位の発生の予測および発生する時期を予測することができ、地盤管理に大きく貢献している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公平6−2087号公報
【特許文献2】特許第2847180号公報
【特許文献3】特許第4219100号公報
【特許文献4】特許第4441508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献3、4のものは、地盤変位の発生の予測や、発生する時期を予測することはできるが、その地盤変位がどの程度の規模であるかは予測することができず、このため、具体的にどの程度の防災対策が必要であるかの判断がなかなか難しいという問題があり、ここに本発明の解決すべき課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、請求項1の発明は、観測対象地区の地下水中に存在する特定イオンのイオン濃度と地盤変位量とを継続的に測定し、該測定値に基づいて特定イオンのイオン濃度変化量と地盤変位量との相関関係を予め求め、該相関関係に基づいて特定イオンのイオン濃度変化量から次回に発生する地盤変位の変位量を予測する予測方法であって、前記相関関係は、イオン濃度が所定量以上変化した場合に地盤変位量はイオン濃度変化量の一次関数となることを特徴とする地盤変位の予測方法である。
請求項2の発明は、請求項1において、特定イオンのイオン濃度変化量と地盤変位量との相関関係を求めるにあたり、イオン濃度および地盤変位量の測定開始後に最初にイオン濃度の急上昇が発生したときのイオン濃度変化と、該最初のイオン濃度の急上昇の発生後に最初に発生した地盤変位とを対応させ、以降は発生順に順次イオン濃度変化と地盤変位とを対応させて相関関係を求めたことを特徴とする地盤変位の予測方法である。
請求項3の発明は、請求項1または2において、相関関係を求める場合に用いるイオン濃度変化量は、任意のイオン濃度急上昇を今回のイオン濃度急上昇としたとき、該今回のイオン濃度急上昇の開始を終点とする今回のイオン濃度急上昇以前の一定期間におけるイオン濃度の平均値をベースライン濃度とし、また、前記一定期間内にイオン濃度の急上昇があった場合には、該イオン濃度急上昇の終了を始点とし今回のイオン濃度急上昇の開始を終点とする期間におけるイオン濃度の平均値をベースライン濃度として、該ベースライン濃度を基準とする今回のイオン濃度急上昇時におけるイオン濃度の増加量であることを特徴とする地盤変位の予測方法である。
【発明の効果】
【0006】
請求項1の発明とすることにより、次回に発生する地盤変位の規模を把握できることになり、具体的な防災対策に大いに貢献できる。
請求項2または3の発明とすることにより、次回に発生する地盤変位の規模を正確に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】バックグラウンド濃度、ベースライン濃度、ピーク濃度の説明図である。
図2】測定事例1におけるイオン濃度変化量と地盤変位量との関係を示すグラフ図である。
図3】測定事例2におけるイオン濃度変化量と地盤変位量との関係を示すグラフ図である。
図4】測定事例3におけるイオン濃度変化量と地盤変位量との関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
一般に、地すべりや表層崩壊等の斜面崩壊は、風化等による地盤の不安定化に起因して発生する。そして、安定した地盤内部の土粒子は比較的大きな土粒子であるが、不安定化した地盤内部では土粒子の微視的な変位や破壊が発生しており、土粒子は小さい粒子からなる粉状になっている。このように土粒子が粉状になった箇所は応力が変化するため土塊が移動し易い状態となり、ここにすべり面が発生する。このようなすべり面が発生するとすべり面周辺の土塊の応力に変化が生じるため土塊が安定になろうとして移動し始める(地盤変位)。この移動によってすべり面は除々に成長していって地盤内に広がり、成長したすべり面を滑動面として地盤全体が移動して地すべり崩壊等の土砂災害が発生するものと考えられる。
【0009】
一方、地盤変位の観測対象となる傾斜地に降る雨水は、地表表面に到達した時点では海塩由来の粒子や空中に浮遊する煤煙由来の粒子等を含有し、例えばナトリウムイオン、カルシウムイオン、塩素イオン、硫酸イオン等の低濃度の含有が認められる。このような地表表面における雨水のイオン濃度をバックグラウンド濃度とする。
【0010】
傾斜地に降った雨水は、地表からやがて地中へと滲み込んでいき、地盤の土粒子の間を通過しながら地下水として集約されていく。
雨水を構成しているのは水であるが、水の分子は、一般に強い極性を示すことから、土粒子表面のイオン交換基(例えばシラノール基で、ケイ素原子に結合している水酸基)とのあいだでイオン交換をおこなうことが一般に知られている。このため地盤に浸透していった雨水はイオン交換がなされることによって前記バックグラウンド濃度よりも高いイオン濃度となる。このイオン濃度をベースライン濃度とする。
【0011】
ところで、土粒子が微細化した場合は、土粒子表面積が全体として増加するため、それだけ土粒子表面のイオン交換基の数も多くなり、このような状態となった土粒子表面を通過した地下水は、微細化する前の土粒子の間を通過した地下水よりもイオンの量(イオン濃度)が多くなっている。このように微細化した直後の土粒子間を通過したことによって高くなったイオン濃度をピーク濃度とする。
前述のすべり面が発生している周辺では、摩擦や部分的な破壊によって土粒子が微細化した状態となっており、土粒子全体としての有効表面積が大きくなっているため、すべり面発生箇所を通過した地下水はピーク濃度となる。
【0012】
このように傾斜地に降った雨水は傾斜地の表面から地中の地盤を経て地下水となる過程で地中の土粒子とイオン交換を行うため、観測対象地盤を通過した地下水のイオン濃度は地盤中の土質力学的な、あるいは化学的な状態を反映しており、前述したように地下水のイオン濃度がベースライン濃度からピーク濃度に上昇している場合は、観測対象地盤の何れかにすべり面が発生したと推測することが出来る。そして、このイオン濃度のベースライン濃度からピーク濃度への変化量と、すべり面の発生によって引き起される地盤変位の変位量との間には相関関係が存在すると考えられ、該相関関係を求めることで、特定イオンのイオン濃度変化量から次回に発生する地盤変位の変位量を予測することができるのではないかと推論した。
【0013】
そこで、本発明の発明者は、長期に亘り、地すべりや表層崩壊等の地盤変位が発生するとされる複数の観測対象地区において、地下水中の特定イオンのイオン濃度の変化量と地盤変位量とを継続的に測定し、該測定値に基づいてイオン濃度変化量と地盤変位量との相関関係を検討した。
【0014】
前記相関関係を検討するにあたり、地盤の変位量の測定は、観測対象地区の地盤に傾斜計孔を掘削し、該傾斜計孔に傾斜計を設置して地盤変位量を測定した。また、地下水中の特定イオンのイオン濃度の測定は、観測対象地区の地盤を通過する地下水を継続的に採取し、イオンクロマトグラフィー/電気伝導率検出法によりイオン濃度を測定した。濃度測定する特定イオンは無機イオンであって、カルシウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、硫酸イオン、塩化物イオンが例示される。
【0015】
さらに、前記特定イオンのイオン濃度の測定に基づいてイオン濃度の変化量を求めるが、この場合に、観測された任意のイオン濃度の急上昇を今回のイオン濃度急上昇としたとき、該今回のイオン濃度急上昇の開始を終点とする今回のイオン濃度急上昇以前の一定期間(例えば、1〜数週間)におけるイオン濃度の平均値をベースライン濃度とし、また、前記一定期間内にイオン濃度の急上昇があった場合には、該イオン濃度急上昇の終了を始点とし今回のイオン濃度急上昇の開始を終点とする期間におけるイオン濃度の平均値をベースライン濃度として、該ベースライン濃度を基準とする今回の急上昇時のイオン濃度の増加量を、イオン濃度の変化量とする。
【0016】
また、前述したように、イオン濃度が急上昇した場合にはすべり面が発生したと推測されるが、該すべり面の発生と、すべり面の発生により引き起される地盤変位の発生とのあいだにはタイムラグが存在する。つまり、イオン濃度が急上昇し、その後に地盤変位が発生することになり、そこで、イオン濃度変化量と地盤変位量との相関関係を検討する場合に、イオン濃度および地盤変位量の測定開始後に最初にイオン濃度の急上昇が発生したときのイオン濃度変化量と、該最初のイオン濃度の急上昇の発生後に最初に発生した地盤変位の変位量とを対応させ、以降は発生順に順次イオン濃度変化量と地盤変位量とを対応させて相関関係を求めた。
【0017】
そして、複数の観測対象地区において、イオン濃度変化量と地盤変位量との相関関係を検討したところ、イオン濃度の変化量が所定量未満の場合には、イオン濃度変化量と地盤変位量との間に相関関係は認められないが、イオン濃度の変化量が所定量以上の場合には、地盤変位量はイオン濃度変化量の一次関数となることを発見した。さらに、上記所定量や一次関数の傾き、切片は、個々の観測対象地区の地盤の特性等によって異なるため、各観測対象地区毎に相関関係を予め求めておくことで、イオン濃度変化量から次回に発生する地盤変位の変位量を予測することができると考え、本発明を完成するに至った。
【0018】
以下に、測定事例について具体的に説明する。
〈測定事例1〉
図2は、実際に地すべりが観測されているA地区において、約4年間に亘って継続的に測定した得られた、観測対象地盤を通過する地下水中に存在する特定イオン(カルシウムイオン)のイオン濃度変化量ppm(mg/L)と、観測対象地盤の地盤変位量(mm)との関係を示すグラフ図である。
この地区の表層地盤は風化を強く受けた泥岩であって、過去に幾度かの地すべりが繰り返し発生している。
地盤変位量は、観測対象地盤にすべり面発生箇所を通る傾斜計孔を掘削し、該傾斜計孔内のすべり面深さ位置に傾斜計を設置して計測した。
また、特定イオンのイオン濃度変化量を測定するにあたり、観測対象地盤を通過する地下水として前記傾斜計孔内に貯留されている地下水を採取した。採取量は地下水100mL(ミリリットル)であり、取り決めた時間毎(測定事例1では24時間毎)に採取してポリエチレンびんに入れ、分析を行った。分析は、イオンクロマトグラフィー/電気伝導率検出法を用い、前記採取した地下水中のカルシウムイオン(Ca2+)の濃度を定量した。そして、イオン濃度が急上昇してピーク濃度が観測された場合に、該イオン濃度上昇を今回のイオン濃度上昇として、今回のイオン濃度上昇の開始を終点とする今回のイオン濃度上昇より前の一定期間(測定事例1では一週間)におけるイオン濃度の平均値をベースライン濃度とし、該ベースライン濃度を基準として今回のピーク濃度観測時におけるイオン濃度の増加量(ピーク濃度−ベースライン濃度)を求めた。また、前記一定期間内にイオン濃度の急上昇(前回のイオン濃度急上昇)があった場合には、前回のイオン濃度急上昇の終了を始点とし今回のイオン濃度急上昇の開始を終点とする期間におけるイオン濃度の平均値をベースライン濃度とした。
そして、前記図2を作製するにあたり、イオン濃度および地盤変位量の測定開始後に最初にイオン濃度の急上昇が発生したときのイオン濃度変化量と、該最初のイオン濃度の急上昇の発生後に最初に発生した地盤変位の変位量とを対応させ、以降は発生順に順次イオン濃度変化量と地盤変位量とを対応させて、イオン濃度変化量をX軸、地盤変位量をY軸の値としてプロットした。
【0019】
前記図2からA地区における特定イオン(カルシウムイオン)のイオン濃度変化量と地盤変化量との関係を検討したところ、イオン濃度の変化量が130ppm未満の場合には、イオン濃度変化量と地盤変位量との間に相関関係は認められないが、イオン濃度変化量が130ppm以上の場合には、地盤変位量とイオン濃度変化量とは一次関数の相関関係が存在すると推測され、そこで、イオン濃度の変化量が130ppm以上の場合について回帰分析したところ、図2に示す回帰直線が得られた。この場合の決定係数Rは0.9088であり、強い相関関係が存在することが判明した。
【0020】
〈測定事例2〉
次に、B地区において、約4年間に亘って継続的に測定した得られた、観測対象地盤を通過する地下水中に存在する特定イオン(ナトリウムイオン)のイオン濃度変化量ppm(mg/L)と、観測対象地盤の地盤変位量(mm)との関係を示すグラフ図を図3に示す。
このB地区は軟弱な地盤であって、斜面一帯の随所に小さな崩壊が観測されている。
地盤変位量は、前記測定事例1と同様に、観測対象地盤にすべり面発生箇所を通る傾斜計孔を掘削し、該傾斜計孔内のすべり面深さ位置に傾斜計を設置して計測した。
また、特定イオンのイオン濃度変化量の測定は、前記測定事例1と同様に、傾斜計孔内に貯留されている地下水を採取した。採取量は地下水100mL(ミリリットル)で、取り決めた時間毎に採取し、イオンクロマトグラフィー/電気伝導率検出法を用い、前記採取した地下水中のナトリウムイオン(Na2+)の濃度を定量した。そして、前記測定事例1と同様にしてベースライン濃度を求め、該ベースライン濃度を基準としてイオン濃度急上昇時におけるイオン濃度の変化量(ピーク濃度−ベースライン濃度)を求めた。
さらに、前記図2の作製と同様にして、発生順に順次イオン濃度変化量と地盤変位量とを対応させてプロットすることにより、イオン濃度急上昇時のイオン濃度変化量と、その後に発生した地盤変位量との関係を示す図3を作製した。
【0021】
前記図3からB地区における特定イオン(ナトリウムイオン)のイオン濃度変化量と地盤変化量との関係を検討したところ、イオン濃度の変化量が200ppm未満の場合には、イオン濃度変化量と地盤変位量との間に相関関係は認められないが、イオン濃度変化量が200ppm以上の場合には、地盤変位量とイオン濃度変化量とは一次関数の相関関係が存在すると推測され、そこで、イオン濃度の変化量が200ppm以上の場合について回帰分析したところ、図3に示す回帰直線が得られ、一次関数の相関関係が存在することが判明した。
【0022】
〈測定事例3〉
次に、C地区において、約4年間に亘って継続的に測定した得られた、観測対象地盤を通過する地下水中に存在する特定イオン(硫酸イオン)のイオン濃度変化量ppm(mg/L)と、観測対象地盤の地盤変位量(mm)との関係を示すグラフ図を図4に示す。
このC地区は、断続的に地すべりが発生している地区である。
地盤変位量は、前記測定事例1、2と同様に、観測対象地盤にすべり面発生箇所を通る傾斜計孔を掘削し、該傾斜計孔内のすべり面深さ位置に傾斜計を設置して計測した。
また、特定イオンのイオン濃度変化量の測定は、前記測定事例1、2と同様に、傾斜計孔内に貯留されている地下水を採取した。採取量は地下水100mL(ミリリットル)で、取り決めた時間毎に採取し、イオンクロマトグラフィー/電気伝導率検出法を用い、前記採取した地下水中の硫酸イオン(SO2−)の濃度を定量した。そして、前記測定事例1、2と同様にしてベースライン濃度を求め、該ベースライン濃度を基準としてイオン濃度急上昇時におけるイオン濃度の変化量(ピーク濃度−ベースライン濃度)を求めた。
さらに、前記図2、3の作製と同様にして、発生順に順次イオン濃度変化量と地盤変位量とを対応させてプロットすることにより、イオン濃度急上昇時のイオン濃度変化量と、その後に発生した地盤変位量との関係を示す図4を作製した。
【0023】
前記図4からC地区における特定イオン(硫酸イオン)のイオン濃度変化量と地盤変化量との関係を検討したところ、イオン濃度の変化量が100ppm未満の場合には、イオン濃度変化量と地盤変位量との間に相関関係は認められないが、イオン濃度変化量が100ppm以上の場合には、地盤変位量とイオン濃度変化量とは一次関数の相関関係が存在すると推測され、そこで、イオン濃度の変化量が100ppm以上の場合について回帰分析したところ、図4に示す回帰直線が得られ、一次関数の相関関係が存在することが判明した。
【0024】
前記測定事例1〜3および実際に試みた他の複数の測定事例により、イオン濃度変化量と地盤変位量との間には、イオン濃度の変化量が所定量以上の場合に、地盤変位量はイオン濃度変化量の一次関数となるという相関関係が存在することが確認された。上記所定量や一次関数の傾き、切片は、個々の観測対象地盤の特性や、イオン濃度を測定する特定イオンによって異なるため、各観測対象地盤毎に相関関係を予め求めておく。そして、該相関関係に基づいて、イオン濃度が所定量以上変化した場合に、該イオン濃度変化量から次回に発生する地盤変位の変位量を予測することができる。これにより、次回に発生する地盤変位の規模を正確に把握できることになり、具体的な防災対策に大いに貢献できる。
【0025】
尚、前述したように、すべり面の発生によるイオン濃度の上昇と、すべり面の発生により引き起される地盤変位の発生とのあいだにはタイムラグがあり、このため、イオン濃度変化量と地盤変位量との相関関係に基づいて、イオン濃度変化量から次回に発生する地盤変位の変位量を予測できることになるが、この場合に、次回に地盤変位が発生する有力なトリガーとして降水が考えられる。而して、観測対象地区の降水量(時間あたりの降水量、所定期間内における積算降水量、所定期間内における連続降水量等)を観測し、該降水量が所定量以上の場合に、前記相関関係に基づいて予測した地盤変位量での地盤変位が発生する可能性が高いと予測することができる。
【0026】
また、観測対象地盤毎にイオン濃度変化量と地盤変位量との相関関係を求めるにあたり、正確な回帰直線を作成するにはデータ数が多い方が望ましいが、前述したように複数の観測事例により強い相関関係が存在していることが判明しているため、新たな観測対象地盤で相関関係を求めるにあたり、データ数が少なくても誤差は少ないと考えられる。また、新たな観測対象地盤で相関関係を求めるには長期に亘る観測が必要であることから、多少の誤差を考慮した上で、既に相関関係を求めてある似たような特性の地盤のものを代用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、不安定な斜面地盤において発生する可能性のある地盤変位の変位量を予測する場合に利用することができる。
図1
図2
図3
図4