特許第5898724号(P5898724)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5898724
(24)【登録日】2016年3月11日
(45)【発行日】2016年4月6日
(54)【発明の名称】車両の制御装置及び車両の制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/22 20060101AFI20160324BHJP
【FI】
   B60L15/22 Y
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-123297(P2014-123297)
(22)【出願日】2014年6月16日
(65)【公開番号】特開2016-5328(P2016-5328A)
(43)【公開日】2016年1月12日
【審査請求日】2015年2月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】富士重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095957
【弁理士】
【氏名又は名称】亀谷 美明
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100128587
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 一騎
(72)【発明者】
【氏名】家永 寛史
【審査官】 相羽 昌孝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−029473(JP,A)
【文献】 特開2008−236914(JP,A)
【文献】 特開2007−228722(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00− 3/12
B60L 7/00−13/00
B60L15/00−15/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライブシャフトを介してタイヤを駆動する駆動部と、
要求トルクに基づいて前記ドライブシャフトの捩れ量を算出し、当該捩れ量を車両速度に相当する前記駆動部の回転数に加算して得られるスリップ判定の基準回転数を出力する基準回転数算出部と、
前記駆動部の回転数と前記基準回転数とを比較して前記タイヤがスリップしているか否かを判定するスリップ判定部と、
前記スリップ判定部により前記タイヤがスリップしていることが判定された場合に、目標回転数に対して駆動部の回転数を制御し、前記タイヤのスリップが収束に向かうと前記目標回転数に対してタイヤの回転数を制御する回転数制御部と、
を備えることを特徴とする、車両の制御装置。
【請求項2】
前記スリップ判定部は、前記駆動部の回転数と前記基準回転数との差分と所定のしきい値との比較に基づいて、前記タイヤがスリップしていると判定することを特徴とする、請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記回転数制御部は、前記駆動部の回転数と前記目標回転数との差分と所定のしきい値との比較に基づいて、前記タイヤのスリップが収束に向かっていると判定することを特徴とする、請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記基準回転数算出部は、前記駆動部の回転数と、前記ドライブシャフトの捩れ量を前記車両速度に相当する前記駆動部の回転数に加算して得られる前記基準回転数との比較に基づいて、前記タイヤがスリップしていると判定した場合は、前記基準回転数として前記車両速度に相当する前記駆動部の回転数を出力することを特徴とする、請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
駆動部の駆動力をタイヤに伝達するドライブシャフトの捩れ量を要求トルクに基づいて算出し、当該捩れ量を車両速度に相当する前記駆動部の回転数に加算してスリップ判定の基準回転数を算出するステップと、
前記駆動部の回転数と前記基準回転数とを比較して前記タイヤがスリップしているか否かを判定するステップと、
前記タイヤがスリップしていることが判定された場合に、目標回転数に対して前記駆動部の回転数を制御するステップと、
前記駆動部の回転数と前記目標回転数との差分に基づき前記タイヤのスリップが収束に向かっているか否かを判定するステップと、
前記タイヤのスリップが収束に向かっていると判定された場合に、前記目標回転数に対してタイヤの回転数を制御するステップと、
を備えることを特徴とする、車両の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置及び車両の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば下記の特許文献1には、駆動系の捩れ剛性を考慮したモータトルクとモータ回転数との間の伝達特性を用いて推定した推定モータ回転数相当値と、実際のモータ回転数相当値との比較に基づいて、駆動輪のスリップを判定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−029473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発進時や極低速時等に発生する駆動輪のスリップは、できるだけ短時間で抑制させることが望ましい。しかしながら、ドライブシャフトを介してモータ等の駆動部とタイヤ(車輪)とが接続された構成では、センサから得られるタイヤ回転数に基づいて駆動部のフィードバック制御を行うと、タイヤが駆動部から離れているために検出の際のムダ時間が多くなり、このムダ時間の間にタイヤ回転数が上昇してしまうため、スリップを抑制することは困難である。
【0005】
一方、センサから得られる駆動部の回転数に基づいて駆動部のフィードバック制御を行うと、ムダ時間を抑えることはできるが、駆動部とタイヤとの間にドライブシャフトが存在するため、ドライブシャフトの捻れ振動により制御性が悪化してしまう問題がある。
【0006】
上記特許文献1に記載された技術では、駆動系の捩れ剛性を考慮した推定モータ回転数相当値と、実際のモータ回転数相当値との比較に基づいて、駆動輪のスリップを判定している。しかしながら、スリップ判定後にタイヤ回転数に基づく制御を行うと、上述したようなムダ時間の間にタイヤ回転数が上昇してしまうため、スリップを抑制することは困難である。また、スリップ判定後にモータ回転数に基づく制御を継続すると、上述のようなドライブシャフトの捩れ振動により制御性が悪化する問題が生じる。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、ドライブシャフトを介してタイヤを駆動する場合に、タイヤのスリップを瞬時に判定して抑制するとともに、ドライブシャフトの捩れ振動による制御性の低下を抑止することが可能な、新規かつ改良された車両の制御装置及び車両の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、ドライブシャフトを介してタイヤを駆動する駆動部と、要求トルクに基づいて前記ドライブシャフトの捩れ量を算出し、当該捩れ量を車両速度に相当する前記駆動部の回転数に加算して得られるスリップ判定の基準回転数を出力する基準回転数算出部と、前記駆動部の回転数と前記基準回転数とを比較して前記タイヤがスリップしているか否かを判定するスリップ判定部と、前記スリップ判定部により前記タイヤがスリップしていることが判定された場合に、目標回転数に対して駆動部の回転数を制御し、前記タイヤのスリップが収束に向かうと前記目標回転数に対してタイヤの回転数を制御する回転数制御部と、を備える、車両の制御装置が提供される。
【0009】
前記スリップ判定部は、前記駆動部の回転数と前記基準回転数との差分と所定のしきい値との比較に基づいて、前記タイヤがスリップしていると判定するものであっても良い。
【0010】
また、前記回転数制御部は、前記駆動部の回転数と前記目標回転数との差分と所定のしきい値との比較に基づいて、前記タイヤのスリップが収束に向かっていると判定するものであっても良い。
【0011】
また、前記基準回転数算出部は、前記駆動部の回転数と、前記ドライブシャフトの捩れ量を前記車両速度に相当する前記駆動部の回転数に加算して得られる前記基準回転数との比較に基づいて、前記タイヤがスリップしていると判定した場合は、前記基準回転数として前記車両速度に相当する前記駆動部の回転数を出力するものであっても良い。
【0012】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、駆動部の駆動力をタイヤに伝達するドライブシャフトの捩れ量を要求トルクに基づいて算出し、当該捩れ量を車両速度に相当する前記駆動部の回転数に加算してスリップ判定の基準回転数を算出するステップと、前記駆動部の回転数と前記基準回転数とを比較して前記タイヤがスリップしているか否かを判定するステップと、前記タイヤがスリップしていることが判定された場合に、目標回転数に対して前記駆動部の回転数を制御するステップと、前記駆動部の回転数と前記目標回転数との差分に基づき前記タイヤのスリップが収束に向かっているか否かを判定するステップと、前記タイヤのスリップが収束に向かっていると判定された場合に、前記目標回転数に対してタイヤの回転数を制御するステップと、を備える、車両の制御方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ドライブシャフトを介してタイヤを駆動する場合に、タイヤのスリップを瞬時に判定して抑制するとともに、ドライブシャフトの捩れ振動による制御性の低下を抑止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る車両の構成を示す模式図である。
図2】車両制御装置の構成を示す模式図である。
図3】基準回転数算出部の構成を示す模式図である。
図4】車両の運動モデルを示す模式図である。
図5】本実施形態に係るフィードバック制御(実線)と、タイヤ回転数のみでフィードバック制御した場合(破線)との比較を示す特性図である。
図6図5に示した本実施形態に係るフィードバック制御における回転数挙動を詳細に示す特性図である。
図7】基準回転数Nm’とドライブシャフトの捩れ分に相当する補正量(積分値I)との関係を示す特性図である。
図8】本実施形態の車両制御装置における処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0016】
まず、図1を参照して、本発明の一実施形態に係る車両100の構成について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る車両100の構成を示す模式図である。図1に示すように、車両100は、4つのタイヤ(車輪)102,104,106,108、車両制御装置(コントローラ)200、後輪のタイヤ106,108のそれぞれの回転を制御する2つのモータ(駆動部)300,302、各モータ300,302と各タイヤ106,108を連結するドライブシャフト400,402、後輪の各タイヤ106,108の回転から車輪速を検出する車輪速センサ500,502、各モータ300,302の回転数を検出するモータ回転数センサ600,602、加速度センサ700を有して構成されている。車両100は、リヤの左右の駆動輪(タイヤ106,108)を独立して駆動する電動車として構成されている。
【0017】
図2は、車両制御装置200の構成を示す模式図である。図1に示すように、車両制御装置200は、目標回転数取得部210、ドライバーの要求トルク取得部220、車体速度取得部230、モータ回転数取得部240、タイヤ回転数取得部250、基準回転数算出部260、回転数制御部270を有して構成されている。
【0018】
目標回転数取得部210は、目標回転数Ntgtを取得する。目標回転数Ntgtは、車両100の車両速度としての車体速度の推定値V’をモータ300,302の軸上の回転数に換算し、更にスリップ率を上乗せしたものである。また、目標回転数Ntgtを算出する際には、アクセル開度、車両100のヨーレート、操舵角の値も考慮して目標回転数Ntgtが算出される。要求トルク取得部220は、アクセルペダルの開度からドライバー(運転者)の要求トルクTdを取得する。車体速度取得部230は、車体速度をモータ300,302の駆動軸の回転数に換算した値Nv’を算出する。モータ回転数取得部240は、モータ回転数センサ600,602により検出されたモータ回転数Nmを取得する。タイヤ回転数取得部250は、車輪速センサ500,502により検出されたタイヤ106,108の回転数に基づいて、タイヤ回転数をモータ300,302の駆動軸の回転数に換算した値Nt’を取得する。
【0019】
回転数制御部270は、スリップ判定部272を有している。回転数制御部270は、スリップ判定が行われた場合は、目標回転数Ntgtに対してモータ300,302の回転数をフィードバック制御する。また、回転数制御部270は、スリップ判定が行われない場合は、目標回転数Ntgtに対してタイヤ回転数Nt’をフィードバック制御する。このように、本実施形態では、スリップ判定の状況に応じて、フィードバックに使用するセンサ値をモータ回転数センサ600,602と車輪速を検出する車輪速センサ500,502との間で切り換えてフィードバック制御を行う。本実施形態において、これらの制御は、車輪速、車体速度をモータ300,302の駆動軸上の回転数に換算した値に基づいて行われる。回転数制御部270は、スリップ抑制、目標回転数(目標スリップ率)追従、トルクダウン回復の機能を有するフィードバック制御を行う。
【0020】
基準回転数算出部260は、スリップ判定を行う基準となる基準回転数Nm’を算出する。図3は、基準回転数算出部260の構成を示す模式図である。基準回転数算出部260は、モータ角加速度算出部261、タイヤ角加速度算出部262、減算部263、積分部264、加減算部265、スリップ判定部266、加算部267を有して構成されている。基準回転数算出部260には、要求トルクTd、車体速度Nv’、モータ回転数Nmが入力される。
【0021】
基準回転数算出部260が算出する基準回転数Nm’は、モータ300,302の軸上での車体速度Nv’に対してドライブシャフト400,402の捩れ量を加算して得られる値である。発進加速時など、ドライバーの要求トルクTdの増加によりドライブシャフト400,402に大きな捩れが発生すると予想される場合、要求トルクTdから非スリップ時のモータ回転数に相当する基準回転数Nm’を算出する。本実施形態では、このようにして算出された基準回転数Nm’と、モータ回転数Nmとを比較することによって、タイヤ106,108にスリップが生じているか否かを判定する。車体速度Nv’に対してドライブシャフト400,402の捩れ量を加算して得られる基準回転数Nm’は、スリップが発生していない場合のモータ回転数に相当する。このため、スリップが発生していない場合は基準回転数Nm’とモータ回転数Nmは一致するが、スリップが発生している場合はタイヤ106,108が余分に回転するため、モータ回転数Nmの方が基準回転数Nm’よりも大きくなる。従って、基準回転数Nm’とモータ回転数Nmとを比較することによって、ドライブシャフト400,402に大きな捩れが発生すると予想される場合に、タイヤ106,108にスリップが生じているか否かを判定することができる。
【0022】
基準回転数算出部260は、ドライバーの要求トルクTdからドライブシャフト400,402の捩れ量を算出し、モータ軸上の車体速度Nv’に加算することで、基準回転数Nm’を算出する。このため、要求トルクTdがモータ角加速度算出部261とタイヤ角加速度算出部262へ入力される。
【0023】
図4は、車両100の運動モデルを示す模式図である。図4に示すように、重量Mの車両100は、速度V、加速度αで走行する。このとき、左右のタイヤ前後力Ft(L+R)と走行抵抗Frが発生する。また、モータ300,302がトルクTmを発生させると、タイヤ106,108はタイヤ前後力Ftを発生させる。ドライブシャフト400,402の捩れ剛性はKd、ドライブシャフト400,402の減衰力はKcであり、路面摩擦係数はμである。また、モータ300,302のイナーシャはJmであり、ホイール(タイヤ106,108)のイナーシャはJwである。
【0024】
モータ角加速度算出部261、タイヤ角加速度算出部262は、図4のモデルにおいて、以下の運動方程式(1)〜式(7)を連立して解くことにより、モータの角加速度dωm/dtとホイールの角加速度dωw/dtを算出する。
【0025】
Tm−Td/N=Jm・dωm/dt ・・・・(1)
Td−R・Ft=Jw・dωw/dt ・・・・(2)
Ft−Fr=M・α ・・・・(3)
Td=Kd∫(ωm/N−ωw)dt+Kc(ωm/N−ωw)
・・・・(4)
s(制動時のタイヤスリップ率)=(R・ωw−V)/V (V>R・ωw)
・・・・(5)
s(駆動時のタイヤスリップ率)=(R・ωw−V)/Rω (V≦R・ωw)
・・・・(6)
Ft=μ・f(s) (f(s)はマップで与えるか、又は定数とする)
・・・・(7)
【0026】
上式において、(1)式はモータの運動方程式、(2)式はホイールの運動方程式、(3)式は車体の運動方程式、(4)式はドライブシャフトの運動方程式、(5)式および(6)式はタイヤスリップ率の運動方程式、(7)式はタイヤ前後力の運動方程式を示している。
【0027】
また、上式における定数、変数は以下の通りである。
<定数>
Jm:モータイナーシャ
Jw:ホイールイナーシャ
M: 車両重量
N: 減速比
Kd:ドライブシャフト捩れ剛性
Kc:ドライブシャフト減衰力
R: タイヤ半径
μ: 路面摩擦係数
f(s):タイヤs−F特性マップ[N]
<変数>
Tm:モータトルク[N・m]
Td:ドライブシャフトトルク[N・m]
Ft:タイヤ前後力[N]
Fr:走行抵抗[N]
ωm:モータ角速度[rad/s
ωw:ホイール角速度[rad/s
V: 車体速度[m/s]
dωm/dt:モータ角加速度[rad/s
dωw/dt:ホイール角速度[rad/s
α:車体加速度[m/s
s:タイヤスリップ率
【0028】
以上により、図3に示すモータ角速度算出部261がモータ角加速度dωm/dtを算出し、タイヤ角速度算出部262がタイヤ角加速度dωw/dtを算出する。減算部263は、モータ角加速度dωm/dtからタイヤ角加速度dωw/dtを減算した値を算出し、積分部264は減算部263による減算結果を積分して回転数を求める。積分部264による積分の結果得られる積分値Iは、ドライブシャフト400(または402)の捩れによるモータ300(または302)とタイヤ106(または108)との回転数の差に相当する。従って、車体速度Nv’と積分値Iを加算することで、ドライブシャフトの捩れ分を考慮した基準回転数Nm’を算出することができる。
【0029】
加減算部265には、車体速度Nv’、積分値I、及びモータ回転数Nmが入力される。加減算部265は、モータ回転数Nmと、車体速度Nv’と積分値Iを加算して得られる基準回転数Nm’との差分S(=Nm−Nm’)を求める。加減算部265が求めたモータ回転数Nmと基準回転数Nm’との差分の絶対値Sはスリップ判定部266へ入力される。
【0030】
スリップ判定部266は、モータ回転数Nmと基準回転数Nm’との差分Sと所定のスリップ判定しきい値n1とを比較する。そして、スリップ判定部266は、モータ回転数Nmと基準回転数Nm’との差分Sがしきい値n1以上の場合は、スリップが発生していると判定する。上述したように、スリップが発生していない場合は、モータ回転数Nmと基準回転数Nm’は一致するが、スリップが発生している場合は、モータ回転数Nmと基準回転数Nm’とが乖離するため、モータ回転数Nmと基準回転数Nm’との差分Sと所定のスリップ判定しきい値n1とを比較することによって、スリップ判定を行うことができる。
【0031】
スリップ判定部266は、スリップが発生していると判定した場合は、加算部267へ“0”を出力する。一方、スリップ判定部266は、スリップが発生していないと判定した場合は、加算部267へ積分値Iを出力する。
【0032】
加算部267には、車体速度Nv’が入力される。スリップ判定部266でスリップ判定が行われた場合は、ドライブシャフト400,402の捩れ量は“0”であるため、車体速度Nv’とスリップ判定部266から入力された値“0”が加算部267で加算されて得られる基準回転数Nm’が回転数制御部270へ出力される。この場合、基準回転数Nm’は車体速度Nv’と一致する。
【0033】
一方、スリップ判定部266でスリップ判定が行われなかった場合は、車体速度Nv’と、積分値Iとが加算部267で加算されて得られる基準回転数Nm’が回転数制御部270へ出力される。従って、加算部267から出力される基準回転数Nm’は、スリップ判定部266でスリップ判定が行われた場合は、車体速度Nv’へ補正されることになる。
【0034】
以上のように、基準回転数算出部260は、スリップ判定の有無に応じて、スリップ判定が行われた場合は基準回転数Nm’を車体速度Nv’に補正して回転数制御部270へ出力し、スリップ判定が行われなかった場合は車体速度Nv’に積分値Iを加算した値を基準回転数Nm’として出力する。
【0035】
回転数制御部270のスリップ判定部272は、基準回転数算出部260から出力された基準回転数Nm’に基づいて同様のスリップ判定を行う。
【0036】
回転数制御部270は、スリップ判定が行われた場合は、目標回転数Ntgtに対してモータ300,302の回転数をフィードバック制御し、フィードバック制御のための出力トルクを出力する。また、回転数制御部270は、スリップ判定が行われない場合は、目標回転数Ntgtに対してタイヤ回転数Nt’をフィードバック制御し、フィードバック制御のための出力トルクを出力する。このため、回転数制御部270のスリップ判定部272は、入力された基準回転数Nm’を用いて、基準回転数算出部260のスリップ判定部266と同様の手法でスリップの有無を判定する。この際、基準回転数算出部260のスリップ判定部266でスリップ判定が行われた場合は、基準回転数Nm’が車体速度Nv’に補正されているため、捩れ量に相当する値が“0”とされており、より高精度にスリップ判定を行うことができる。
【0037】
スリップ判定部272は、モータ回転数Nmと基準回転数Nm’との差分と所定のスリップ判定しきい値n1とを比較することによって、スリップ判定を行う。そして、回転数制御部270は、スリップ判定が行われた場合は、目標回転数Ntgtに対してモータ回転数Nmをフィードバック制御する。また、回転数制御部270は、目標回転数Ntgtに対してモータ回転数Nmをフィードバック制御した結果、スリップが収束に向かった場合は、目標回転数Ntgtに対してタイヤ回転数Nt’をフィードバック制御する。なお、回転数制御部270は、自らスリップ判定を行うことなく、基準回転数算出部260のスリップ判定部266からスリップ判定結果を受け取って、モータ回転数Nm又はタイヤ回転数Nt’をフィードバック制御することもできる。
【0038】
このように、スリップ判定が行われた場合はモータ回転数Nmをフィードバック制御し、その後、スリップが収束に向かった時にタイヤ回転数Nt’のフィードバック制御に切り換えることで、ドライブシャフト400,402の捩れに起因する振動を確実に抑止することができる。
【0039】
図5は、本実施形態に係るフィードバック制御(実線)と、タイヤ回転数のみでフィードバック制御した場合(破線)との比較を示す特性図であって、横軸は時間を、縦軸はタイヤ回転数を示している。図5は、路面摩擦係数μを0.1とし、停止状態から全開加速した場合をシミュレーションしたものである。
【0040】
図5において、本実施形態に係るフィードバック制御(実線)では、スリップ判定が行われるとモータ回転数Nmを目標回転数Ntgtへフィードバック制御し、その後、モータ回転数Nmが目標回転数Ntgtに近くなると、タイヤ回転数Ntを目標回転数Ntgtへフィードバック制御している。一方、比較として示したタイヤ回転数のみのフィードバック制御(破線)では、全開加速の際にタイヤ回転数Nt’のみを目標回転数Ntgtにフィードバック制御している。
【0041】
図5に示すように、全開加速を開始すると、実線、破線のいずれの特性においても、タイヤのスリップが発生し、回転数が急激に上昇する。しかし、タイヤ回転数のみに基づくフィードバック制御(破線)では、前述したようにムダ時間が多いため、ムダ時間の間にタイヤ回転数が大きく上昇してしまう。本実施形態では、スリップ判定が行われると検出の際の応答性がより早いモータ回転数Nmを用いてフィードバック制御を行うため、本実施形態によるフィードバック制御(実線)の方が、加速開始直後のタイヤ回転数が低く抑えられ、よりスリップを抑制できていることが判る。また、スリップ収束後のタイヤ回転数のハンチングも、本実施形態によるフィードバック制御(実線)の方が抑えられている。
【0042】
図6は、図5に示した本実施形態に係るフィードバック制御における回転数挙動を詳細に示す特性図である。ここで、図6の縦軸はモータ300,302の軸上に換算した回転数を示しており、横軸は時間を示している。図6では、基準回転数Nm’(一点鎖線)、モータ回転数Nm(破線)、目標回転数Ntgt(二点鎖線)、タイヤ回転数Nt’(実線)のそれぞれが停止状態から加速した場合に変化する様子を示している。
【0043】
図6に示すように、停止状態から加速すると、モータ回転数Nmと基準回転数Nm’がともに上昇する。そして、時刻t21の時点でモータ回転数Nmと基準回転数Nm’とが乖離し、両者の差分Sが所定のしきい値n1以上となる。これにより、スリップが発生しているとの判定が行われ、目標回転数Ntgtとモータ回転数Nmとの間でフィードバック制御が行われる。これにより、時刻t21以降はモータ回転数Nmが目標回転数Ntgtに近づくように低回転側に制御され、スリップを最小限に抑えることが可能となる。また、モータ回転数Nmはムダ時間が少なく応答性が早いため、素早いスリップの検出が可能になり、加速開始直後に効果的にスリップを抑制することができる。従って、図6に示すように、タイヤ回転数Nt’が立ち上がる以前にスリップの発生を検知することが可能となり、スリップを確実に抑制することができる。なお、時刻t21以降において、モータ回転数Nmが目標回転数Ntgtに近づくように低回転側に制御される結果、タイヤ回転数Nt’の回転数も低回転側に制御されることになる。
【0044】
その後、時刻t22でモータ回転数Nmと目標回転数Ntgtとの差分が所定のしきい値n3以下となると、フィードバック制御の制御量をモータ回転数Nmからタイヤ回転数Nt’へ切り換える。従って、時刻t22以降は、目標回転数Ntgtに対してタイヤ回転数Nt’をフィードバック制御する。これにより、ドライブシャフト400,402を介さないタイヤ回転数Nt’を用いてモータ300,302の回転数をフィードバック制御することで、ドライブシャフト400,402の捩れに起因する振動を効果的に抑制することが可能となる。従って、スリップ判定の応答性の向上と、振動抑制による安定性の確保とを両立させることが可能である。
【0045】
図7は、基準回転数Nm’とドライブシャフト400,402の捩れ分に相当する補正量(積分値I)との関係を示す特性図であって、図6に対して縦軸のスケールを拡大して示している。上述したように、基準回転数Nm’は、車体速度V’にドライブシャフト400,402の捩れ分に相当する補正量(積分値I)を加算して得られる。図7に示すように、発進加速時は要求トルクTdに応じてドライブシャフト400,402の捩れ分に相当する補正量が増加し、捩れ量は最大値に達した後、減少する。このため、捩れ分に相当する補正量の増加に伴って、時刻t21の直前まで基準回転数Nm’は増加する。
【0046】
時刻t21でスリップ判定が行われると、それ以降の基準回転数Nm’の算出では、車体速度V’に対してドライブシャフト400,402の捩れ分に相当する補正量(積分値I)は加算されないため、基準回転数Nm’は車体速度V’と等しくなる。
【0047】
以上のように、本実施形態によれば、基準回転数Nm’とモータ回転数Nmとの比較に基づいてスリップ判定を行い、スリップ判定が行われた場合は、モータ回転数Nmによるフィードバック制御を行うことで、スリップを確実に抑制することが可能である。また、モータ回転数Nmと目標回転数Ntgtとの差分が所定のしきい値n3以下となった場合は、スリップが収束方向に向かっているため。タイヤ回転数Nt’によるフィードバック制御を行うことで、ドライブシャフト400,402の捩れ振動による制御性の悪化を確実に抑止することが可能である。
【0048】
次に、図8のフローチャートに基づいて、本実施形態の車両制御装置における処理の手順について説明する。先ず、ステップS10では、車体速度の推定値V’を算出する。車体速度の推定値V’は、車輪速センサ500で検出したタイヤ角速度から推定できるが、スリップが生じている場合は、車両100の加速度を積分して得られる速度から推定することもできる。車両の加速度は、加速度センサ700の検出値から得られる。また、車両100がGPSを備えている場合、推定した値をGPSの検出値で補正することで精度を高めることもできる。
【0049】
次のステップS12では、目標回転数Ntgtを算出する。上述したように、目標回転数Ntgtは、車体速度の推定値V’をモータ300,302の軸上の回転数に換算し、更にスリップ率を上乗せしたものである。目標回転数Ntgtは、回転数制御部270による回転数制御の目標値である。回転数制御部270では、目標回転数Ntgtに対してフィードバック制御が行われる。次のステップS14では、モータ300,302の軸上での車体速度Nv’を算出する。車体速度Nv’は、車体速度の推定値V’をモータ300,302の軸上に換算した値である。
【0050】
次のステップS16では、モータ回転数Nmを取得する。次のステップS18では、モータ300,302の軸上に換算したタイヤ回転数Nt’を算出する。タイヤ回転数Nt’は、車輪速センサ500により検出されたタイヤ回転数をモータ300,302の軸上に換算することによって算出される。例えば、タイヤ106,108とモータ300,302との間にギヤ等の減速機構が介在している場合は、その減速比を考慮してタイヤ回転数Nt’が算出される。
【0051】
次のステップS20では、ドライバーの要求トルクTdの変化量ΔTdを算出する。変化量ΔTdは、所定時間内における要求トルクTdの変化量から求まる。次のステップS22では、変化量ΔTdが、トルク急増判定のためのしきい値Δt1以上であるか否かを判定し、ΔTd≧Δt1の場合はステップS24へ進む。
【0052】
ステップS24では、基準回転数Nm’を算出する。上述したように、基準回転数Nm’は、非スリップ時のドライブシャフト400,402の捩れを考慮したモータ回転数の推定値であり、車体速度Nv’にドライブシャフト400,402の捩れ量(積分値I)を加算することによって算出される。
【0053】
次のステップS26では、モータ回転数Nmと基準回転数Nm’との差分が所定のしきい値n1以上であるか否かを判定する。ここで、しきい値n1はスリップ判定のためのしきい値である。そして、Nm−Nm’≧n1の場合は、スリップが発生していると判定し、ステップS28へ進む。ステップS28では、目標回転数Ntgtに対してモータ回転数Nmをフィードバック制御する。一方、ステップS26でNm−Nm’<n1の場合は、処理を終了する(END)。
【0054】
ステップS28の後はステップS30へ進み、モータ回転数Nmと目標回転数Ntgtとの差分が所定のしきい値n3以下であるか否かを判定する。ここで、しきい値n3は制御量をモータ回転数Nmからタイヤ回転数Nt’へ切り換えるためのしきい値である。そして、Nm−Ntgt≦n3の場合は、モータ回転数Nmが目標回転数Ntgtに近くなり、スリップが収束に向かっていると考えられることから、ステップS32へ進み、目標回転数Ntgtに対してタイヤ回転数Nt’をフィードバック制御する。一方、ステップS30でNm−Ntgt>n3の場合は、ステップS28へ戻る。
【0055】
ステップS32の後はステップS34へ進み、タイヤ回転数Nt’と目標回転数Ntgtとの差分が所定のしきい値n4以下であるか否かを判定する。ここで、しきい値n4は、スリップが収束したか否かを判定するためのしきい値である。そして、Nt’−Ntgt≦n4の場合は、タイヤ回転数Nt’が目標回転数Ntgtに近くなり、スリップが収束したと考えられることから、処理を終了する(END)。一方、ステップS34でNt’−Ntgt>n4の場合は、ステップS32へ戻る。
【0056】
また、ステップS22でΔTd<Δt1の場合はステップS40以降の処理へ進む。ステップS20でΔTd<Δt1の場合は、要求トルクTdの急激な増加がないため、ステップS40以降では、モータ回転数Nmによるスリップ判定を行わずに、タイヤ回転数Nt’をフィードバック制御する。
【0057】
先ず、ステップS40では、タイヤ回転数Nt’と車体速度Nv’との差分が所定のしきい値n2以上であるか否かを判定する。ここで、しきい値n2は、タイヤ回転数Nt’と車体速度Nv’とに基づいてスリップを判定するためのしきい値である。そして、Nt’−Nv’≧n2の場合は、ステップS42へ進み、目標回転数Ntgtに対してタイヤ回転数Nt’をフィードバック制御する。一方、Nt’−Nv’<n2の場合は、タイヤ回転数Nt’と車体速度Nv’に近いため、処理を終了する。
【0058】
ステップS42の後はステップS44へ進む。ステップS44では、タイヤ回転数Nt’と目標回転数Ntgtとの差分が所定のしきい値n4以下であるか否かを判定する。そして、Nt’−Ntgt≦n4の場合は、処理を終了する。一方、Nt’−Ntgt>n4の場合は、ステップS42へ戻る。
【0059】
以上のように、図8の処理によれば、モータ回転数Nmと基準回転数Nm’との差分が所定のしきい値n1以上である場合は、スリップ判定が行われ、モータ回転数Nmによるフィードバック制御が行われる。これにより、加速開始の早い段階からスリップを確実に抑制することが可能である。また、モータ回転数Nmによるフィードバック制御を行った結果、モータ回転数Nmと目標回転数Ntgtとの差分が所定のしきい値n3以下となると、タイヤ回転数Nt’によるフィードバック制御が行われる。従って、ドライブシャフト400,402の捩れ振動による制御性の悪化を確実に抑止することが可能である。
【0060】
以上説明したように本実施形態によれば、基準回転数Nm’とモータ回転数Nmとの差分に基づいて、加速開始直後に素早くスリップ検出を行うことが可能となる。そして、スリップ判定が行われた場合は、目標回転数Ntgtに対してモータ回転数Nmをフィードバック制御することで、スリップを効果的に抑制することができる。また、目標回転数Ntgtに対してモータ回転数Nmをフィードバック制御した結果、スリップが収束に向かった場合は、目標回転数Ntgtに対してタイヤ回転数Nt’をフィードバック制御することで、ドライブシャフト400,402の撓みに起因する振動を確実に抑止することができる。
【0061】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0062】
260 基準回転数算出部
266,272 スリップ判定部
270 回転数制御部
300,302 モータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8