(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態として、溶液濃度調節方法、溶液濃度調整装置、色素増感型太陽電池、光学デバイスについて説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0015】
「溶液濃度調整装置」
図1は、本発明の溶液濃度調整装置の一実施形態を示す概略断面図である。
本実施形態の溶液濃度調整装置10は、半透膜11と、半透膜11を介して飽和溶液21と低濃度溶液22を収容する容器12と、飽和溶液21と低濃度溶液22の圧力差を調節する圧力調整装置13と、飽和溶液21および低濃度溶液22の温度を調節する温度調節装置14とから概略構成されている。
【0016】
半透膜11は、飽和溶液21および低濃度溶液22を構成する溶媒を透過し、飽和溶液21および低濃度溶液22を構成する溶質を透過しないものであれば特に限定されるものではないが、例えば、再生セルロース(セロハン)、アセチルセルロース、ポリアクリロニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエステル系ポリマーアロイ、ポリスルホンなどからなる多孔質膜が用いられる。
【0017】
ここで、飽和溶液21と低濃度溶液22は、同一の溶媒および溶質から構成される溶液である。飽和溶液21と低濃度溶液22は、溶質の量(濃度)が異なっている。
本実施形態において、飽和溶液21は、飽和または過飽和の状態にある溶液を意味しており、低濃度溶液22は、飽和溶液21よりも濃度が低く、所定の濃度に調節された溶液を意味している。
【0018】
飽和溶液21および低濃度溶液22を構成する溶媒は、特に限定されるものではなく、各種有機溶媒や水が挙げられる。
飽和溶液21および低濃度溶液22を構成する溶質は、特に限定されるものではなく、各種有機溶媒や水に溶解可能な物質が挙げられる。
【0019】
溶液濃度調整装置10が、色素増感型太陽電池の多孔質半導体層に、増感色素を吸着させるために用いられる場合、飽和溶液21および低濃度溶液22は、増感色素を含む色素溶液である。
色素溶液を構成する溶媒としては、水、メタノール、エタノール、アセトニトリル、プロパノール、t−ブタノール、アセトン、酢酸エチル、ヘキサン、シクロヘキサン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン(THF)、メチルエチルケトン、ジクロロメタン、クロロホルムなどが挙げられる。
色素溶液を構成する溶質である増感色素は、有機色素または金属錯体色素で構成されている。
有機色素として、例えば、クマリン系、ポリエン系、シアニン系、ヘミシアニン系、チオフェン系などの各種有機色素が挙げられる。
金属錯体色素としては、例えば、ルテニウム錯体などが挙げられる。
【0020】
容器12は、飽和溶液21を収容する飽和溶液収容部12Aと、低濃度溶液22を収容する低濃度溶液収容部12Bとから構成されている。
容器12の形状や大きさは特に限定されるものではなく、例えば、溶液濃度調整装置10が、色素増感型太陽電池の多孔質半導体層に、増感色素を吸着させるために用いられる場合、低濃度溶液収容部12Bは、多孔質半導体層を収容可能な形状や大きさとされる。
【0021】
容器12の材質は、飽和溶液21および低濃度溶液22によって腐食されない、安定な材質であれば、特に限定されるものではなく、例えば、ガラス、石英、ステンレス、ポリプロピレン、ポリカーボネート、アクリル、ポリテトラフルオロエチレン、シリコーンなどが挙げられる。
【0022】
圧力調整装置13としては、例えば、飽和溶液21の液面21aを押圧する押圧部15と、押圧部15を加圧する加圧部(図示略)と、加圧部に加える力を制御する制御部(図示略)とを備えたものが用いられる。
押圧部15は、飽和溶液21の液面21aを均一に押圧することができるものであれば、特に限定されるものではなく、飽和溶液21および低濃度溶液22によって腐食されない材質からなる板状のものが用いられる。
加圧部としては、スプリング、空気圧を利用したピストン、油圧を利用したピストンなどが用いられる。
制御部としては、飽和溶液収容部12Aに配管を接続し、圧力計をモニタリングしながら、圧力調整バルブによって加圧部への圧力を制御するものが用いられる。また、制御部による圧力制御は、マスフローコントローラーを利用した自動制御も可能である。
【0023】
温度調節装置14としては、飽和溶液21および低濃度溶液22を加熱するための加熱装置(ヒータ)と、飽和溶液21および低濃度溶液22を冷却するための冷却装置とを備えたものが用いられる。
冷却装置による低濃度溶液22の冷却方法としては、例えば、容器周辺に冷却水を循環させる方法、エアーコンディショナーのような空冷による冷却方法が挙げられる。
また、温度調節装置14は、飽和溶液21と低濃度溶液22を一括して温度調節可能であっても、飽和溶液21と低濃度溶液22を個別に温度調節可能であってもよい。
【0024】
「溶液濃度調節方法」
次に、溶液濃度調整装置10の使用方法を説明することにより、本実施形態の溶液濃度調節方法を説明する。
ここでは、溶液濃度調整装置10が、色素増感型太陽電池の多孔質半導体層に、増感色素を吸着させるために用いられる場合を例にとって説明する。
【0025】
まず、容器12の低濃度溶液収容部12Bに、所定の濃度に調整された低濃度溶液22を注入する。
ここで、所定の濃度の低濃度溶液22とは、低濃度溶液22が色素溶液である場合、その色素溶液の濃度が、色素増感型太陽電池の多孔質酸化物半導体層に担持させるために必要な量の増感色素を含んでいる溶液のことである。
【0026】
一方、容器12の飽和溶液収容部12Aに、飽和溶液21を注入する。
飽和溶液21は、飽和または過飽和の状態にある増感色素溶液であり、過飽和の状態にある場合には溶媒に溶解していない固体状の増感色素を含む溶液である。
固体状の増感色素とは、飽和溶液21に溶解せずに、粉末として沈殿または分散している増感色素、あるいは、塊となって沈殿している増感色素のことである。
【0027】
溶液濃度調整装置10では、飽和溶液21と低濃度溶液22の圧力差、並びに、飽和溶液21および低濃度溶液22の温度を調節することにより、低濃度溶液22の濃度を調節し、低濃度溶液22の濃度を一定に保つ。すなわち、予め多孔質酸化物半導体層に担持させるために必要な増感色素量となるように調製された低濃度溶液22の濃度を一定に保つ。
【0028】
本発明では、「溶質(増感色素)+飽和溶液21(飽和状態)」と、「溶質(増感色素)+低濃度溶液22(不飽和状態)」との接触から発現する圧力差を調節している。
ここで、溶液の浸透圧π[atm]は、下記のファントホッフの式(1)で表される。
π=MRT (1)
上記の式(1)において、Mはモル濃度[mol/dm
3]、Rは気体定数[atm・dm
3/K・mol]、Tは温度[K]を表す。
【0029】
上記の式(1)から、温度Tが一定の場合、飽和溶液21のモル濃度と低濃度溶液22のモル濃度は、それぞれの浸透圧に比例することが分かる。したがって、飽和溶液21および低濃度溶液22の温度を一定に保つとともに、飽和溶液21と低濃度溶液22の圧力差を一定に保つことによって、飽和溶液21のモル濃度と低濃度溶液22のモル濃度との差が一定に保たれ、結果として、低濃度溶液22の濃度を一定に保つことができる。
【0030】
飽和溶液21および低濃度溶液22の温度を一定に保つには、温度調節装置14により、飽和溶液21および低濃度溶液22を加熱および/または冷却する。
【0031】
飽和溶液21と低濃度溶液22の圧力差を一定に保つには、圧力調整装置13の押圧部15により、飽和溶液21の液面21aを押圧する。
低濃度溶液22の圧力は、上述したように予め調整された濃度と、低濃度溶液22の温度によって算出される。低濃度溶液22と飽和溶液21の圧力差が常に一定になるように、圧力調整装置13の押圧部15により、飽和溶液21の液面21aを押圧する力(圧力)を調整する。
あるいは、飽和溶液21の濃度を紫外可視吸光分析により測定しながら、飽和溶液21の濃度が一定になるように、圧力調整装置13の押圧部15により、飽和溶液21の液面21aを押圧する力(圧力)を調整する。
【0032】
溶液濃度調整装置10を用いて、色素増感型太陽電池の多孔質半導体層に、増感色素を吸着させるには、所定の濃度に調節された低濃度溶液22に、多孔質半導体層を所定の時間、浸漬する。
このように低濃度溶液22への多孔質半導体層の浸漬を行うと、多孔質半導体層に増感色素が吸着されて、低濃度溶液22に含まれる増感色素の量が減少する。すると、飽和溶液21および低濃度溶液22の温度が一定に保たれているとともに、飽和溶液21と低濃度溶液22の圧力差が一定に保たれているので、低濃度溶液収容部12Bから飽和溶液収容部12Aへと溶媒が移動(浸透)して、低濃度溶液22の濃度は一定に保たれる。
このとき、飽和溶液収容部12A内の溶媒量は増加するが、飽和溶液21は、予め溶媒に溶解していない固体状の増感色素を含んでいるので、増加した溶媒にその固体状の増感色素が溶解して、飽和溶液21の濃度が一定に保たれる。
【0033】
一方、低濃度溶液22を構成する溶媒の量が減少した場合、飽和溶液21および低濃度溶液22の温度が一定に保たれているとともに、飽和溶液21と低濃度溶液22の圧力差が一定に保たれているので、飽和溶液収容部12Aから低濃度溶液収容部12Bへと溶媒が移動(浸透)して、低濃度溶液22の濃度は一定に保たれる。
このとき、飽和溶液21中の溶媒は減少するが、飽和溶液21は元々飽和溶液であるため、過飽和となって増感色素が固体化し、沈殿または分散するだけであり、飽和溶液21中の濃度も一定に保たれる。
【0034】
本実施形態の溶液濃度調整装置および溶液濃度調節方法によれば、従来の色素溶液濃度の調節方法と比べて、簡便な設備のみで溶液濃度の調節を行うことができる。
【0035】
なお、本実施形態の溶液濃度調整装置および溶液濃度調節方法は、上述の浸漬方法以外の色素増感型太陽電池の製造方法にも適用することができる。例えば、スプレー方法を用いた色素の染色方法においても、使用する色素溶液の濃度が一定に保たれることが望ましいので、本実施形態の溶液濃度調整装置および溶液濃度調節方法により、色素溶液の濃度を一定に保つことによって、一定濃度の色素溶液を供給することができる。
さらに、本実施形態の溶液濃度調整装置および溶液濃度調節方法は、色素増感型太陽電池の製造方法以外にも応用することができる。例えば、色素レーザー装置やスピンコーターに、一定濃度の溶液を供給することができる。
【0036】
「太陽電池およびその製造方法」
図2〜5を参照して、本実施形態の溶液濃度調整装置および溶液濃度調節方法を用いた太陽電池の製造方法を説明する。
本実施形態の太陽電池の製造方法は、(I)光電極基板と対極基板とを形成する基板形成工程と、(II)基板形成工程により形成された光電極基板と対極基板とを貼り合せる基板貼合工程とを備えている。
【0037】
(I)基板形成工程
光電極基板31を作製する。
まず、スパッタリング法や印刷法などにより、第一基板32の一方の面32aに、スズドープ酸化インジウム、フッ素ドープ酸化スズ、酸化亜鉛などからなる透明電極膜33を成膜する(
図2参照)。
【0038】
次いで、フォトリソグラフィ法や印刷法などにより、透明電極膜33の一方の面33aに、焼成が可能な酸化チタンなどの金属酸化物を含有したペーストを塗布し、必要に応じて焼結して、多孔質の半導体からなる光電変換層34を形成する(
図2参照)。
また、エアロゾルデポジション法(AD法)により、光電変換層34を形成してもよい。
【0039】
次いで、上述の溶液濃度調整装置10を用いて、低濃度溶液収容部12B中の低濃度溶液22に光電変換層34を浸漬し、光電変換層34に増感色素を担持させ、光電極基板31を得る。
また、光電変換層34に増感色素を担持させた後、光電変換層34の表面を無水アルコールなどで洗浄してもよい。
【0040】
次いで、光電変換層34と所定の間隔を置いて、かつ、光電変換層34を囲繞するように、インクジェット法などにより、透明電極膜33の一方の面33aに封止樹脂35を形成する。
ここでは、光電極基板31と、後述する対極基板36を貼り合せた際、光電変換層34と、対極基板36の対向電極膜38とが所定の間隔を置いて離隔し、かつ、後述する電解質層39が必要とされる厚さとなるように封止樹脂35の厚さを調整する。
【0041】
対極基板36を作製する。
スパッタリング法や印刷法などにより、第二基板37の一方の面37aに、白金、ポリアニリン、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)、カーボンなどからなる対向電極膜38を成膜し、対極基板36を得る(
図3参照)。
【0042】
(II)基板貼合工程
光電極基板31に形成された封止樹脂35を介して、光電極基板31と対極基板36とを貼り合わせ、封止樹脂35によって、光電極基板31と対極基板36とを接着、固定する(
図4参照)。
この基板貼合工程により、光電極基板31と対極基板36の間に間隙が形成される。
【0043】
次いで、予め光電極基板31または対極基板36に形成しておいた注入口(図示略)から、光電極基板31と対極基板36の間の間隙に電解質を注入して、光電極基板31と対極基板36の間に電解質層39を形成する。
次いで、注入口を封止して、
図5に示すような太陽電池30を得る。
【0044】
「光学デバイス」
本実施形態における光学デバイスは、本実施形態の溶液濃度調整装置および溶液濃度調節方法によって、一定の濃度に調節された溶液を用いて製造されたものである。このような光学デバイスとしては、例えば、色素レーザー、磁気記録体、有機薄膜太陽電池などが挙げられる。