【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ポリビニルアルコール系樹脂を含有するポリビニルアルコール系樹脂スラリーとアルデヒドとの混合液を、温度120〜200℃、圧力0.2〜3MPaの高温高圧条件下でアセタール化反応させる工程を有するポリビニルアセタール系樹脂の製造方法であって、前記ポリビニルアルコール系樹脂スラリー中のポリビニルアルコール系樹脂の濃度が50重量%以上であるポリビニルアセタール系樹脂の製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明者らは、ポリビニルアルコール系樹脂とアルデヒドとからポリビニルアセタール系樹脂を製造する方法において、得られた樹脂のアセタール化度にばらつきが発生する原因を検討した。その結果、アセタール化反応の途中で析出した樹脂成分と、液体である反応媒体とが相分離(固液分離)を起こすことが原因であることを見出した。
【0009】
即ち、水系媒体中に溶解したポリビニルアルコール系樹脂とアルデヒドとが反応しアセタール化度が一定以上に達すると、水系媒体に不溶になったポリビニルアルコール系樹脂が析出してくる。従来のポリビニルアルコール系樹脂の製造方法では、中和工程や洗浄工程を経た後、析出してきたポリビニルアルコール系樹脂を回収していた。しかしながら、析出した樹脂は、高温反応条件下では融着を起こしやすく、大きな塊状となって反応装置の器壁や撹拌羽根に付着してしまう。このように器壁や攪拌羽根に付着した樹脂は、攪拌してもほとんど移動しなくなり、それ以上のアセタール化反応が進行しにくくなる。反応が進んで大量のポリビニルアセタール系樹脂が析出してくると、攪拌自体を充分にはできなくなり、全体としての反応が更に不均一となる。その結果、得られるポリビニルアセタール系樹脂にはアセタール化度の大きなばらつきが発生していたものと考えられる。また、このような不均一な反応状況では、アルデヒドの縮合反応等の副反応も起こりやすくなり、生成したアルデヒドの縮合物によってポリビニルアセタール系樹脂が着色したり、ポリビニルアセタール系樹脂が劣化しやすくなるために重合度の低下が起こり、目的の重合度を有するポリビニルアセタール系樹脂を得ることができなかったりするという問題も発生していたと考えられる。
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するための製造方法を鋭意検討した結果、従来では考えられない高濃度のポリビニルアルコール系樹脂スラリーを用い、特定の反応温度、圧力下においてアルデヒドと反応させることにより、アセタール化反応中に生成した樹脂と反応媒体との固液分離が発生することなく、均一に反応を進めて、アセタール化度のばらつきがほとんどないポリビニルアセタール系樹脂を得ることができることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
本発明のポリビニルアセタール系樹脂の製造方法では、ポリビニルアルコール系樹脂を含有するポリビニルアルコール系樹脂スラリーとアルデヒドとの混合液を、温度120〜200℃、圧力0.2〜3MPaの高温高圧条件下でアセタール化反応させる工程を有する。
【0012】
上記ポリビニルアルコール系樹脂としては、例えば、ポリ酢酸ビニルをアルカリ、酸、アンモニア水等によりけん化することにより製造された樹脂等の従来公知のポリビニルアルコール系樹脂を用いることができる。
上記ポリビニルアルコール系樹脂は、完全けん化されていてもよいが、少なくとも主鎖の1カ所にメソ、ラセミ位に対して2連の水酸基を有するユニットが最低1ユニットあれば完全けん化されている必要はなく、部分けん化ポリビニルアルコール系樹脂であってもよい。また、上記ポリビニルアルコール系樹脂としては、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂、部分けん化エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂等、ビニルアルコールと共重合可能なモノマーとビニルアルコールとの共重合体も用いることができる。
上記ポリ酢酸ビニル系樹脂は、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。
【0013】
上記ポリビニルアルコール系樹脂は、通常、けん化の際に発生した塩基性成分であるカルボン酸塩を含有しているため、これを洗浄除去又は中和してから使用することが好ましい。カルボン酸塩を洗浄除去又は中和することによって、塩基性条件で触媒作用を受けるアルデヒドの縮合反応を効果的に抑制することができるために樹脂の着色をより抑えることができる。
上記洗浄工程における洗浄方法としては、例えば、溶剤によって塩基性成分を抽出する方法や、樹脂を良溶媒に溶解させた後に貧溶媒を投入して樹脂のみを再沈させる方法や、ポリビニルアルコール系樹脂を含有する溶液中に吸着剤を添加して塩基性成分を吸着除去する方法等が挙げられる。
上記中和工程に用いる中和剤としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の鉱酸や、炭酸等の無機酸や、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ヘキサン酸等のカルボン酸や、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸等の脂肪族スルホン酸や、ベンゼンスルホン酸等の芳香族スルホン酸、フェノール等のフェノール類等が挙げられる。
【0014】
上記ポリビニルアルコール系樹脂スラリー中のポリビニルアルコール系樹脂の濃度の下限は50重量%である。ポリビニルアルコール系樹脂の濃度50重量%以上とすることにより、アセタール化反応がほとんど固体の一相状態で進行することから、固液分離による不均一状態で反応が進行することなく、極めて均一なアセタール化度のポリビニルアセタール系樹脂を得ることができる。ポリビニルアルコール系樹脂の濃度50重量%未満であると、固液分離状態が発生し、均一なアセタール化度のポリビニルアセタール系樹脂を得ることができなかったり、アルデヒドの副反応が起こりやすくなって、生成したポリビニルアセタール系樹脂が着色したり、ポリビニルアセタール系樹脂が劣化しやすくなるために重合度の低下が起こり、目的の重合度を有するポリビニルアセタール系樹脂を得ることができないといった問題が発生する。上記ポリビニルアルコール系樹脂スラリー中のポリビニルアルコール系樹脂の濃度の好ましい下限は65重量%、より好ましい下限は80重量%であり、100重量%であってもよい。
【0015】
上記ポリビニルアルコール系樹脂スラリーは、水系媒体を含有することが好ましい。水系媒体を含有することにより、よりアセタール化反応を促進することができる。
上記水系媒体としては、水、アルコール又はその混合媒体が挙げられる。なかでも、反応を効率よく進めることができ、副生成物を抑制できることから、水が好適である。
【0016】
上記ポリビニルアルコール系樹脂スラリーが上記水系媒体を含有する場合において、上記記ポリビニルアルコール系樹脂スラリー中の水系媒体の含有量の上限は50重量%である。水系媒体の含有量が50重量%を超えると、固液分離状態が発生し、均一なアセタール化度のポリビニルアセタール系樹脂を得ることができなかったり、アルデヒドの副反応が起こりやすくなって、生成したポリビニルアセタール系樹脂が着色したり、ポリビニルアセタール系樹脂が劣化しやすくなるために重合度の低下が起こり、目的の重合度を有するポリビニルアセタール系樹脂を得ることができないといった問題が発生する。
【0017】
上記アルデヒドとしては、例えば、炭素数1〜19の直鎖状、分枝状、環状飽和、環状不飽和、又は、芳香族のアルデヒド等が挙げられる。具体的には例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオニルアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、tert−ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド等が挙げられる。上記アルデヒドは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、上記アルデヒド化合物はホルムアルデヒドを除き、1以上の水素原子がハロゲン等により置換されたものであってもよい。
【0018】
上記ポリビニルアルコール系樹脂に対する上記アルデヒドの配合量の好ましい下限はモル比で0.6倍量、好ましい上限は1.2倍量である。上記アルデヒドの配合量が0.6倍量未満であると、得られるポリビニルアセタール系樹脂のアセタール化度が充分に上昇しないことがあり、1.2倍量を超えると、アルデヒドの縮合反応が起こりやすくなって分子内に共役二重結合を有する副生成物が発生し、得られる樹脂が着色することがある。上記アルデヒドの配合量のより好ましい下限は0.65倍量、より好ましい上限は1.1倍量である。なお、アセタール化反応では、ポリビニルアルコール系樹脂に含まれる2つの水酸基に対して1つの分子のアルデヒドが結合する。したがって、上記ポリビニルアルコール系樹脂に対するアルデヒドのモル比とは、ポリビニルアルコール系樹脂に含まれる水酸基のモル量を1/2倍した量に対する配合したアルデヒドのモル比率を意味している。また、上記ポリビニルアルコール系樹脂に含まれる水酸基のモル量は、該ポリビニルアルコール系樹脂をNMR等によって測定することで得ることができる。
【0019】
上記ポリビニルアルコール系樹脂と上記アルデヒドの反応には、ごく少量の酸触媒を用いてもよい。酸触媒を用いる場合には、室温大気圧環境下における上記混合液の水素イオン濃度が1×10
−2mol/L以下となるように塩酸及び/又は硝酸を混合液に添加すればよい。酸触媒添加による水素イオン濃度を上記範囲とすることで、得られたポリビニルアセタール系樹脂は中和工程を行わなくても樹脂中に含まれる酸量を充分に少なくすることができ、たとえば、加熱成型する際の樹脂の着色や長期の使用における樹脂劣化を起こさないポリビニルアセタール系樹脂を得ることができる。
なお、本明細書において上記室温とは0〜40℃の範囲の温度を意味し、上記大気圧とは0.09〜0.11MPaの範囲の圧力を意味する。
【0020】
上記混合液を反応させる際の温度の下限は120℃、上限は200℃である。上記反応温度が120℃未満であると、反応混合液が均一とならず、均一なアセタール化度を有するポリビニルアセタール系樹脂が得られなかったり、得られるポリビニルアセタール系樹脂が着色したりする。上記反応温度が200℃を超えると、アルデヒドの縮合反応によって分子内に共役二重結合を有する副生成物が発生し、樹脂が着色する原因となったり、原料であるポリビニルアルコール系樹脂の脱水反応が起こって分子内に共役二重結合を有する構造が発生し、得られるポリビニルアセタール系樹脂に着色が生じたり、樹脂の劣化が発生して重合度が低下して目的の重合度を有するポリビニルアセタール系樹脂が得られなかったりする。上記反応温度の好ましい下限は130℃、好ましい上限は180℃である。
【0021】
上記混合液を上記高温高圧流体中で反応させる際の圧力の下限は0.2MPa、上限は3MPaである。上記反応圧力が0.2MPa未満であると、反応混合液が均一とならず、均一なアセタール化度を有するポリビニルアセタール系樹脂が得られなかったり、反応が充分に進まず、充分なアセタール化度を有するポリビニルアセタール系樹脂が得られなかったりする。上記反応圧力が3MPaを超えると、製造に必要な装置に高い耐圧設計が必要となり、実質的に製造装置を製造することが困難となる場合がある。上記反応圧力の好ましい下限は0.25MPaであり、好ましい上限は2.8MPaである。
【0022】
上記原料混合液を高温高圧流体中で反応させる反応装置は特に限定されず、例えば、流通方式の連続反応装置や、原料を一つの反応容器にためて反応を行うバッチ方式の反応装置や、反応容器を直列につないで一定の反応率まで進むと次の反応容器へと順次送っていくセミフロー方式の反応装置等が挙げられる。
【0023】
上記いずれの反応装置を用いる場合であっても、上記混合液を攪拌する機構を反応装置内に設けることが好ましい。上記原料混合液を攪拌することでアセタール化反応をより均一に進めることができ、アセタール化度のばらつきがほとんどないポリビニルアセタール系樹脂を得ることができる。
上記混合液と上記高温高圧流体とを攪拌する機構は、反応部内に配置することが可能であり、かつ、流体を攪拌することが可能な部品であれば特に限定されず、例えば、撹拌羽根やスクリューを用いた動的な撹拌機構、スタティックミキサー等の静置的な撹拌機構、温度勾配をつけることによって対流を起こすような撹拌機構等が挙げられる。特に、高粘度の流体を撹拌できることから、撹拌羽根やスクリューを用いた動的な撹拌機構が好適に用いられる。
【0024】
本発明のポリビニルアセタール系樹脂の製造方法は、例えば、
図1に示したような回分式反応装置を用いて行うことができる。
図1の回分式反応装置は、反応部4に対して、原料タンクA1と原料タンクB2とが耐圧性のラインで接続されており、例えば、原料タンクA1には原料となるビニルアルコール系樹脂スラリーを、原料タンクB2には原料となるアルデヒドを貯留する。原料タンクA1と反応部4とを結ぶ耐圧性のライン上には、スラリーポンプ9とバルブA5とが配置されている。原料タンクB2と反応部4とを結ぶ耐圧性のライン上には、高圧液送ポンプ10、流体加熱ヒーター7及びバルブB6が配置されている。反応部4には、反応部攪拌機11、反応の状況を目視にて確認するための覗き窓3、反応部加熱ヒーター8が取り付けられている。
【0025】
図1の回分式反応装置を用いた本発明のポリビニルアセタール系樹脂の製造方法では、まず原料となるビニルアルコール系樹脂を水等の水系媒体に溶解又は懸濁させたビニルアルコール系樹脂スラリーを原料タンクA1に投入する。このスラリーをスラリーポンプ9で反応部4に送液し、バルブA5を閉じた後、撹拌、加熱して、系内の温度、圧力を所定の温度、圧力とする。
一方、原料となるアルデヒドを原料タンクB2に投入し、バルブB6を閉じた状態で、高圧液送ポンプ10で送液することにより、アルデヒドを所定の温度、圧力にまで加熱、加圧する。バルブB6を開いて加熱、加圧されたアルデヒドを、ビニルアルコール系樹脂スラリーが投入された反応部4に導き、系内の温度、圧力を所定の温度、圧力に保った状態で撹拌することにより、アセタール化反応を進める。
【0026】
本発明のポリビニルアセタール系樹脂の製造方法を用いて製造されるポリビニルアセタール系樹脂のアセタール化度の好ましい下限は55モル%である。上記ポリビニルアセタール系樹脂のアセタール化度が55モル%未満であると、ポリビニルアセタール系樹脂の溶剤への溶解性が低下したり、溶融粘度が高くなりすぎて成型性が悪くなったり、フィルムに成型した際には、柔軟性が低下してフィルムが脆くなってポリビニルアセタール系樹脂の特長である衝撃エネルギー吸収性が低下したり、耐水性が悪化したりすることがある。上記ポリビニルアセタール系樹脂のアセタール化度のより好ましい下限は60モル%である。
上記ポリビニルアセタール系樹脂のアセタール化度の上限は特に限定されないが、実質的には80モル%程度を超えたアセタール化度のポリビニルアセタール系樹脂を得ることは困難であろう。
【0027】
本発明のポリビニルアセタール系樹脂の製造方法を用いて製造されるポリビニルアセタール系樹脂のアセタール化度のばらつきは、CV値で0.05以下であることが好ましい。上記ポリビニルアセタール系樹脂のアセタール化度のCV値が0.05を超えると、ポリビニルアセタール系樹脂の溶剤への溶解性が低下したり、可塑剤を配合して使用した際に濁りが発生したり、ポリビニルアセタール樹脂の特長である衝撃エネルギー吸収性が低下したりすることがある。上記ポリビニルアセタール系樹脂のアセタール化度のCV値のより好ましい上限は0.03、更に好ましい上限は0.02である。
なお、上記ポリビニルアセタール系樹脂のアセタール化度のCV値は、無作為に10カ所からサンプリングして得た樹脂サンプルについて、
1H−NMR測定によりブチラール化度を測定し、得られた10のデータをもとに算出した値を意味する。
【0028】
本発明のポリビニルアセタール系樹脂の製造方法を用いて製造されるポリビニルアセタール系樹脂の重合度の好ましい下限は200、好ましい上限は5000である。上記ポリビニルアセタール系樹脂の重合度が200未満であると、フィルムに成型した際の強度が低下することがある。上記ポリビニルアセタール系樹脂の重合度が5000を超えると、溶融粘度が高くなりすぎて成型性が悪くなることがある。上記ポリビニルアセタール系樹脂の重合度のより好ましい下限は300、より好ましい上限は4000である。