(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記グラフェン構造を有する炭素材料が、グラフェン、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー及び薄片化黒鉛からなる群から選択された少なくとも1種の炭素材料である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂複合成形体。
前記第1の層において、前記第1の熱可塑性樹脂100重量部に対し、前記フィラーが1〜50重量部の割合で含有されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂複合成形体。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1,2の成形体の機械的強度をより高めるには、上記樹脂複合材料に大量のフィラーを添加する必要があった。そのため、上記成形体の機械的強度を高めることが困難であるという問題があった。また、特許文献3においても、炭素繊維織物や高濃度のカーボンナノファイバーを用いるため、製造コストが高くなるという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、より少ないフィラーにより機械的強度がより高められた樹脂複合成形体及びそのような樹脂複合成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の樹脂複合成形体では、第1の熱可塑性樹脂と、グラフェン構造を有する炭素材料からなるフィラーとを含み、前記フィラーが前記第1の熱可塑性樹脂中に分散されている複数の第1の層と、第2の熱可塑性樹脂を主成分とする複数の第2の層とが積層されている。本発明の樹脂複合成形体では、前記第2の層にはグラフェン構造を有する炭素材料からなるフィラーが含まれていない、または前記第1の層に含まれる炭素材料からなるフィラーの量をX、前記第2の層に含まれる炭素材料からなるフィラーの量をYとすると、X>Yである。
【0009】
本発明の樹脂複合成形体のある特定の局面では、前記複数の第1の層と前記複数の第2の層とが交互に積層されている。その場合には、樹脂複合成形体の機械的強度をより高めることができる。
【0010】
本発明の樹脂複合成形体の他の特定の局面では、前記第2の層がグラフェン構造を有する炭素材料からなるフィラーを含まない。その場合には、樹脂複合成形体の機械的強度をさほど低めることなく、樹脂複合成形体に用いられるグラフェン構造を有する炭素材料からなるフィラーの量を効率的に減らすことができる。
【0011】
本発明の樹脂複合成形体の別の特定の局面では、前記グラフェン構造を有する炭素材料が、グラフェン、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー及び薄片化黒鉛からなる群から選択された少なくとも1種の炭素材料である。その場合には、グラフェン構造を有する炭素材料はナノサイズを有し、かつ比表面積が大きい。そのため、樹脂複合成形体の機械的強度をより高めることができる。
【0012】
本発明の樹脂複合成形体のさらに他の特定の局面では、前記第1の層において、前記フィラーが、前記第1の熱可塑性樹脂100重量部に対して1〜50重量部の割合で含有されている。その場合には、樹脂複合成形体の機械的強度をより効果的に高めることができる。
【0013】
本発明の樹脂複合成形体のさらに別の特定の局面では、前記樹脂複合成形体の形状がシート状である。その場合には、シート状の複数の第1の層及び第2の層を積層することにより、樹脂複合成形体を容易に成形することができる。
【0014】
本発明の樹脂複合成形体の製造方法は、前記第1の熱可塑性樹脂と前記フィラーとを含み、前記フィラーが前記第1の熱可塑性樹脂中に分散されている樹脂複合組成物を用意する工程と、前記樹脂複合組成物と前記第2の熱可塑性樹脂とを共押出し成形することにより、前記第1の層と前記第2の層との積層体を形成する工程と、上記積層体を分割し、分割された上記積層体をさらに積層する工程とを備える。上記製造方法によって、本発明の種々の樹脂複合成形体を製造することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の樹脂複合成形体では、第1の層に分散されているグラフェン構造を有する炭素材料からなるフィラーの量が、第2の層に含まれるグラフェン構造を有する炭素材料からなるフィラーの量より多いため、第1の層の機械的強度が高められている。本発明の樹脂複合成形体は、複数の第1の層と複数の第2の層とが積層されているため、第1の層の機械的強度により、樹脂複合成形体全体の機械的強度を高めることができる。従って、本発明の樹脂複合成形体によれば、より少ないフィラー添加量で、樹脂複合成形体の機械的強度をより高めることができる。また、本発明の樹脂複合成形体の製造方法によれば、共押出し成形により第1の層と第2の層との積層体を形成した後、上記積層体を分割し、分割された上記積層体をさらに積層することにより多層成形するため、複数の第1の層と複数の第2の層とが多数積層された本発明の樹脂複合成形体を効率的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0018】
図1は、本発明の樹脂複合成形体の模式的断面図である。なお、
図1においては、フィラー15の存在を明確にするため、断面であることを表すハッチングを省略している。
【0019】
図1に示すように、樹脂複合成形体1では、複数の第1の層11と複数の第2の層12とが積層されている。本実施形態では、複数の第1の層11と複数の第2の層12とが交互に積層されている。もっとも、樹脂複合成形体1の積層状態は特に限定されず、例えば、樹脂複合成形体1は、複数の第1の層11または複数の第2の層12が連続して積層された部分を備えていてもよい。
【0020】
樹脂複合成形体1の形状は特に限定されないが、例えば、シート状であることが好ましい。その場合には、薄いシート状の複数の第1の層11及び第2の層12を積層することにより、樹脂複合成形体1を容易に成形することができる。
【0021】
第1の層11には、熱可塑性樹脂11aが含まれており、熱可塑性樹脂11a中にはフィラー15が分散されている。第2の層12は、本実施形態では、熱可塑性樹脂12aからなるが、熱可塑性樹脂12aを主成分とするものであってもよい。主成分とするとは、第2の層12の重量の半分以上が、第2の層12に含まれる熱可塑性樹脂12aの重量からなるものをいうものとする。熱可塑性樹脂11a,12aを用いた樹脂複合成形体1では、加熱により様々な成形方法を用いて、様々な成形品を容易に得ることができる。
【0022】
熱可塑性樹脂11a,12aとしては、特に限定されず、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニルなどを挙げることができる。好ましくは、熱可塑性樹脂11a,12aとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体などのポリオレフィンが用いられる。ポリオレフィンを用いることにより、樹脂複合成形体1のコストを低減でき、かつ樹脂複合成形体1をより容易に製造することができる。
【0023】
また、熱可塑性樹脂11a,12aは同じ樹脂であってもよく、異なる樹脂であってもよい。熱可塑性樹脂11a,12aが同じ樹脂である場合には、第1の層11と第2の層12との密着性を高めることができる。また、熱可塑性樹脂11a,12aが異なる樹脂である場合には、例えば、熱可塑性樹脂11aを含む第1の層11と、熱可塑性樹脂12aを含む第2の層12との機能を分けることにより、樹脂複合成形体1に機械的強度以外の機能性を付与することができる。例えば、熱可塑性樹脂12aとしてガスバリア性の高いポリエチレンオキシドを用いることによって、ガスバリア性の高い樹脂複合成形体1を得ることができる。また、熱可塑性樹脂12aとして耐衝撃性の高いABSを用いることによって、耐衝撃性の高い樹脂複合成形体1を得ることができる。また、第1の層11には、フィラー15として、カーボンファイバー織布を用いてもよい。熱可塑性樹脂中にカーボンファイバー織布を挿入することによって、第1の層11の靭性を損なうことなく強度を高めることができる。また、第1の層11には、カーボンファイバー織布が積層されていてもよい。この場合にも、第1の層11の靭性を損なうことなく強度を高めることができる。
【0024】
第1の層11では、グラフェン構造を有する炭素材料からなるフィラー15が上記熱可塑性樹脂11a中に分散されている。第2の層12は、本実施形態では、熱可塑性樹脂12aからなり、グラフェン構造を有する炭素材料からなるフィラーを含まない。もっとも、本発明の樹脂複合成形体1においては、第2の層12は、第1の層11に含まれるフィラー15の量よりも少ない量である限り、グラフェン構造を有する炭素材料からなるフィラーを含んでいてもよい。
【0025】
本発明の樹脂複合成形体1では、第1の層11に含まれるフィラー15の量が、第2の層12に含まれるグラフェン構造を有する炭素材料からなるフィラーの量よりも重量基準において多い。すなわち、樹脂複合成形体1では、グラフェン構造を有する炭素材料からなるフィラーが、複数の第1の層11に偏在している。複数の第1の層11では、多くのフィラー15が熱可塑性樹脂11a中に均一に分散されているため、複数の第1の層11の機械的強度が高くなる。それによって、複数の第1の層11が積層されている樹脂複合成形体1全体の機械的強度をより高めることができる。すなわち、本発明によれば、少ないフィラーで樹脂複合成形体1の機械的強度をより高めることができる。
【0026】
第1の層11に含まれる熱可塑性樹脂11a中に含まれるフィラー15の量は、熱可塑性樹脂11a100重量部に対し、1〜50重量部の範囲とすることが好ましい。熱可塑性樹脂11a中に含まれるフィラー15の量を上記範囲とすることで、引張弾性率等の機械的強度の高められた樹脂複合成形体1を得ることができる。熱可塑性樹脂中11aに含まれるフィラー15の量が1重量部未満では、樹脂複合成形体1の機械的強度を充分に高められないことがある。熱可塑性樹脂11a中に含まれるフィラー15の量が50重量部を超えると、樹脂複合成形体1の剛性が高くなり、樹脂複合成形体1が脆くなることがある。
【0027】
第2の層12に含まれるグラフェン構造を有する炭素材料からなるフィラーの量は、熱可塑性樹脂12a100重量部に対し、好ましくは、50重量部未満である。より好ましくは、第2の層12には、グラフェン構造を有する炭素材料からなるフィラーは含まれない。第2の層12に含まれるグラフェン構造を有する炭素材料からなるフィラーの量が少ないほど、樹脂複合成形体1の機械的強度をさほど低めることなく、グラフェン構造を有する炭素材料からなるフィラーの使用量を効率的に減らすことができる。
【0028】
上記のように、本実施形態では、複数の第1の層11と複数の第2の層12とが交互に積層されている。この場合には、複数の第1の層11が樹脂複合成形体1全体の機械的強度をよりより高めることができる。
【0029】
上記炭素材料としては、好ましくは、グラフェン、カーボンナノチューブ、グラファイト、カーボンファイバー及び薄片化黒鉛からなる群から選択された少なくとも1種を用いることができる。より好ましくは、上記炭素材料としては、複数のグラフェンシートの積層体、すなわち薄片化黒鉛が用いられる。本発明において、薄片化黒鉛とは、元の黒鉛を剥離処理して得られるものであり、元の黒鉛よりも薄いグラフェンシート積層体をいう。薄片化黒鉛におけるグラフェンシート積層数は、元の黒鉛より少なければよいが、通常数層〜200層程度である。上記薄片化黒鉛には薄いグラフェンシートが積層されており、上記薄片化黒鉛はアスペクト比が比較的大きい形状を有する。従って、本発明の樹脂複合成形体において、第1の層11に含まれる熱可塑性樹脂11a中に上記薄片化黒鉛からなるフィラー15が均一に分散された場合には、上記薄片化黒鉛の積層面に交差する方向に加わる外力に対する補強効果を効果的に高めることができる。
【0030】
なお、アスペクト比とは、薄片化黒鉛の積層面方向における最大寸法の薄片化黒鉛の厚みに対する比をいうものとする。上記薄片化黒鉛のアスペクト比が低すぎると、上記積層面に交差する方向に加わった外力に対する補強効果が充分でないことがある。一方で、上記薄片化黒鉛のアスペクト比が高すぎても、効果が飽和してそれ以上の補強効果を望めないことがある。従って、アスペクト比の好ましい下限は70であり、好ましい上限は500である。
【0031】
第1の層11の厚みは特に限定されないが、フィラー15の厚みの1〜3倍であることが好ましい。その場合には、フィラー15が第1の層11の面と平行な方向へと配向する。そのため、第1の層11及び樹脂複合成形体1の引張弾性率をさらに高めることができる。より好ましくは、複数の第1の層11の厚みは、フィラー15の厚みの1〜2倍であってもよい。
【0032】
また、第2の層12の厚みは、第1の層11の厚みと同程度とすることができる。
【0033】
なお、第1の層11及び第2の層12の厚みから、樹脂複合成形体1を所望の厚みとするために必要な樹脂複合成形体の全層数を決定してもよい。
【0034】
次に、本発明の樹脂複合成形体1の製造方法の一実施形態について説明する。
【0035】
まず、フィラー15を熱可塑性樹脂11a中に均一に分散することにより、フィラー15が熱可塑性樹脂11a中に均一に分散された熱可塑性樹脂組成物を得る。上記分散方法は、例えば、熱可塑性樹脂11aとフィラー15とを、プラストミル等の二軸スクリュー混練機や二軸押出機等を用いて、加熱下において混練することにより、フィラー15が熱可塑性樹脂11a中に均一に分散された上記熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。
【0036】
次に、上記熱可塑性樹脂組成物と熱可塑性樹脂12aとを用いて、上記熱可塑性樹脂組成物からなる第1の層11と、熱可塑性樹脂12aからなる第2の層12とが積層された、2層〜数層の積層体を得る。上記積層体を得る方法は特に限定されず、例えば、プレス成形した積層板を積層する方法や、延伸したシートを積層する方法などが挙げられるが、好ましくは、ウェットラミネーション法、ドライラミネーション法、押出コーティング法、多層溶融押出法、ホットメルトラミネーション法及びヒートラミネーション法などが挙げられる。
【0037】
より好ましくは、上記製造方法としては、本発明の樹脂複合成形体の製造が容易である多層溶融押出法を用いることができる。具体的には、2台の押出機を用いて、上記熱可塑性樹脂組成物と熱可塑性樹脂12aとを共押出し成形することにより、上記熱可塑性樹脂組成物からなる第1の層11と、熱可塑性樹脂12aからなる第2の層12とが積層された、2層〜数層の積層体を得ことができる。上記多層溶融押出法としては、例えば、マルチマニホールド法及びフィードブロック法などが挙げられる。
【0038】
次に、上記積層体を、多層形成ブロックへと移送する。上記多層形成ブロックにおいて上記積層体を分割し、分割された上記積層体をさらに積層することにより多層成形して、層数が10層以上の樹脂複合成形体1を得ることができる。
【0039】
上記10層以上の積層体からなる樹脂複合成形体を得る方法の一例を、
図2を参照して説明する。
図2に示すように、第1の層22と第2の層23とを積層してなる積層体21を押出機から押出す。該押出し方向において、I工程において積層体21を複数に分割する。すなわち、積層体21の押出し方向に平行な方向であり、かつ積層面に垂直な複数の面に沿って積層体21を分割する。このようにして、分割された積層体21A,21B,21C,21Dを得る。
【0040】
次に、II工程において、分流アダプターなどを用いて分割により得られた積層体21A〜21Dを積層方向に並ぶように移動させる。ここでは、上から順に積層体21B,積層体21D,積層体21A,積層体21Cの順に配置される。
【0041】
しかる後、III工程において、積層体21B,積層体21D,積層体21A及び積層体21Cを積層面に平行な方向に拡張する。次に、IV工程において、拡張された積層体21A〜21Dを重ね合わせた後、積層面に垂直な方向に圧縮する。このようにして、8層の積層体24を得ることができる。このI〜IV工程を繰り返すことにより、層数が10層以上の多層の成形体を得ることができる。
【0042】
なお、上記多層成形において上記積層体を分割及び積層する方法は特に限定されず、適宜の方法及び装置によって行うことができる。以下、本発明の具体的な実施例を挙げることにより、本発明を明らかにする。なお、本発明は下記実施例に限定されない。実施例1,2及び比較例1,2の多層成形体を、以下の方法により製造した。第1の層の材料と第2の層の材料とを、2台の押出機により押出して、第1の層及び第2の層を形成した。押し出された第1の層と第2の層とを、フィードブロック内において、第1の層と第2の層とを積層して、シート状の多層成形体を製造した。次に、複数の多層形成ブロックにおいて、上記積層体を分割し、分割された上記積層体をさらに積層することにより多層成形して、1層あたりの厚み0.3μm、層数900層の多層成形体を得た。
【0043】
(実施例1)
ポリプロピレン(日本ポリプロ社製、商品名:ノバテックEA9)100重量部と、薄片化黒鉛(xGScience社製、商品名「xGnP」、グラフェン層の層面の面方向における最大寸法=5μm、グラフェンの積層数:180層、アスペクト比:90)44重量部とを、230℃で溶融混練して、樹脂複合組成物を製造した。次に、第1の層の材料として上記樹脂複合組成物を、第2の層の材料としてポリプロピレン(日本ポリプロ社製、商品名:ノバテックEA9)を用いて、
図3に示す分流アダプターを用いて、多層成形体を製造した。
【0044】
図3に示す分流アダプターでは、積層体26A〜26Dが、前述した
図2に示した工程I〜IVに従って積層される。この分流アダプターを複数段用いて、多層成形体を得た。
【0045】
得られた多層成形体は、ポリプロピレン100重量部に対して、グラフェン18重量部を含んでいた。成形された多層成形体から試験片としてJIS K7113に規定の1号のダンベルを切り出し、引張弾性率を測定した。引張弾性率は2.4GPaであった。
【0046】
(実施例2)
高密度ポリエチレン樹脂(日本ポリエチレン社製、商品名:HF560)100重量部と、薄片化黒鉛(xGScience社製、商品名「xGnP」、グラフェン層の層面の面方向における最大寸法=5μm、グラフェンの積層数:180層、アスペクト比:90)44重量部とを、230℃で溶融混練して、樹脂複合組成物を製造した。次に、第1の層の材料として上記樹脂複合組成物を、第2の層の材料として高密度ポリエチレン樹脂(日本ポリエチレン社製、商品名:HF560)を用いて、上記の方法でシート状の多層成形体を製造した。得られた多層成形体は、高密度ポリエチレン樹脂100重量部に対して、グラフェン18重量部を含んでいた。成形された多層成形体から試験片としてJIS K7113に規定の1号のダンベルを切り出し、引張弾性率を測定した。引張弾性率は2.2GPaであった。
【0047】
(実施例3)
図4に示す分流アダプターで多層構造を製造したこと以外は実施例1と同様にして、複合樹脂成形体を作成した。得られた多層成形体は、実施例1と同様の条件で測定したところ、引張弾性率は2.2GPaであった。
【0048】
図4に示す分流アダプターは、供給部31と、供給部31につながる分割部31A〜31Dとを有する。
図4では、分流アダプター内で行われる工程の位置を示すために、矢印a〜gで各工程が行われる位置を示す。すなわち、位置a〜位置bにかけての部分において、加熱状態の積層体が幅方向に拡張される。位置bでは位置aの場合よりも積層体が薄くなり、幅が大きくなっている。次に、位置b〜位置dにかけて、上記のように幅が拡げられた積層体が、さらに幅方向に拡張される。位置bにおいて2分割され、次に位置cで再度2分割される。したがって、積層体が4分割される。このようにして逐次分割されることにより、樹脂流が均等に分配されることになる。したがって、樹脂流の偏りが抑制される。
【0049】
位置d〜位置eにかけて、上記のようにして得られた各分割積層体が樹脂流の流れ方向を中心軸として90度捻転される。
【0050】
位置e〜位置gにおいて、分割された複数の積層体が積層される。より具体的には、位置fにおいて、分割積層体2本ずつが積層され一体化される。さらに、位置gで、2本ずつ積層一体化された積層体がさらに積層される。このようにして、位置e〜位置gに至るにつれて、逐次積層工程が実施される。この場合、一度に全層を一体に積層する場合に比べ、層間の密着度をより一層高めることができる。さらに、得られた多層積層構造における品質性も高めることができる。実施例3では、上記分流アダプターを用い、積層構造を複数繰り返し、実施例1と同様にして多層成形体を作成した。
【0051】
(実施例4)
ポリアミド(旭化成製 商品名「1300S」)100重量部と、上記薄片化黒鉛44重量部とを、270℃で溶融混練して、樹脂複合組成物を製造した。次に、第1の層の材料として上記樹脂複合組成物を、第2の層の材料として上記ポリアミドを用いて、
図3に示す分流アダプターを用いて、多層成形体を製造した。得られた多層成形体は、ポリプロピレン100重量部に対して、グラフェン18重量部を含んでいた。成形された多層成形体から試験片としてJIS K7113に規定の1号のダンベルを切り出し、引張弾性率を測定した。引張弾性率は4.2GPaであった。
【0052】
(実施例5)
ABS(UMG ABS社製 商品名「S210B」)100重量部と、上記薄片化黒鉛44重量部とを、130℃で溶融混練して、樹脂複合組成物を製造した。次に、第1の層の材料として上記樹脂複合組成物を、第2の層の材料として上記ポリアミドを用いて、
図3に示す分流アダプターを用いて、多層成形体を製造した。得られた多層成形体は、ABS100重量部に対して、グラフェン18重量部を含んでいた。成形された多層成形体から試験片としてJIS K7113に規定の1号のダンベルを切り出し、引張弾性率を測定した。引張弾性率は3.5GPaであった。
【0053】
(実施例6)
上記ポリプロピレン100重量部と、カーボンナノチューブ(CNT社製、商品名「CTUBE」、平均外径25nm、平均長さ5um)44重量部とを、230℃で溶融混練して、樹脂複合組成物を製造した。次に、第1の層の材料として上記樹脂複合組成物を、第2の層の材料として上記ポリプロピレンを用いて、
図3に示す分流アダプターを用いて、多層成形体を製造した。得られた多層成形体は、ポリプロピレン100重量部に対して、グラフェン18重量部を含んでいた。引張弾性率は1.9GPaであった。
【0054】
(実施例7)
上記ポリプロピレン100重量部と、カーボンナノファイバー(MD Nanotech社製、商品名「CNF−T」、平均外径15nm、平均長さ5um)44重量部とを、230℃で溶融混練して、樹脂複合組成物を製造した。次に、第1の層の材料として上記樹脂複合組成物を、第2の層の材料として上記ポリプロピレンを用いて、
図3に示す分流アダプターを用いて、多層成形体を製造した。得られた多層成形体は、ポリプロピレン100重量部に対して、グラフェン18重量部を含んでいた。引張弾性率は2.0GPaであった。
【0055】
(実施例8)
上記ポリプロピレン100重量部と、カーボンファイバー(West One Corporation社製、商品名「ミルドカーボンファイバー」、平均外径5um、平均長さ100um)44重量部とを、230℃で溶融混練して、樹脂複合組成物を製造した。次に、第1の層の材料として上記樹脂複合組成物を、第2の層の材料として上記ポリプロピレンを用いて、
図3に示す分流アダプターを用いて、多層成形体を製造した。得られた多層成形体は、ポリプロピレン100重量部に対して、グラフェン18重量部を含んでいた。引張弾性率は1.8GPaであった。
【0056】
(比較例1)
ポリプロピレン(日本ポリプロ社製、商品名:ノバテックEA9)100重量部と、薄片化黒鉛(xGScience社製、商品名「xGnP」、グラフェン層の層面の面方向における最大寸法=5μm、グラフェンの積層数:180層、アスペクト比:90)20重量部とを、230℃で溶融混練して、樹脂複合組成物を製造した。次に、第1の層の材料及び第2の層の材料の両方に上記樹脂複合組成物を用いて、上記の方法でシート状の多層成形体を製造した。成形された多層成形体から試験片としてJIS K7113に規定の1号のダンベルを切り出し、引張弾性率を測定した。引張弾性率は2.4GPaであった。
【0057】
(比較例2)
高密度ポリエチレン樹脂(日本ポリエチレン社製、商品名:HF560)100重量部と、薄片化黒鉛(xGScience社製、商品名「xGnP」、グラフェン層の層面の面方向における最大寸法=5μm、グラフェンの積層数:180層、アスペクト比:90)21重量部とを、230℃で溶融混練して、樹脂複合組成物を製造した。次に、第1の層の材料及び第2の層の材料の両方に上記樹脂複合組成物を用いて、上記の方法でシート状の多層成形体を製造した。成形された多層成形体から試験片としてJIS K7113に規定の1号のダンベルを切り出し、引張弾性率を測定した。引張弾性率は2.2GPaであった。
【0058】
(比較例3)
実施例4において、薄片化黒鉛を21重量部添加し、270度で混練したことを除いては、実施例4と同様にして樹脂複合材料を得た。続いて、第1の層、第2の層の両方に上記複合樹脂を用いて、上記の方法でシート状の多層成形体を製造した。実施例4と同様の測定条件で引張弾性率を計測した。引張弾性率は4.2GPaであった。
【0059】
(比較例4)
実施例5において、薄片化黒鉛を20重量部添加し、130度で混練したことを除いては、実施例5と同様にして樹脂複合材料を得た。続いて、第1の層、第2の層の両方に上記複合樹脂を用いて、上記の方法でシート状の多層成形体を製造した。実施例5と同様の測定条件で引張弾性率を計測した。引張弾性率は3.5GPaであった。
【0060】
(比較例5)
実施例6において、カーボンナノチューブを20重量部添加したことを除いては、実施例6と同様にして樹脂複合材料を得た。続いて、第1の層、第2の層の両方に上記複合樹脂を用いて、上記の方法でシート状の多層成形体を製造した。実施例6と同様の測定条件で引張弾性率を計測した。引張弾性率は1.9GPaであった。
【0061】
(比較例6)
実施例7において、カーボンナノファイバーを21重量部添加したことを除いては、実施例7と同様にして樹脂複合材料を得た。続いて、第1の層、第2の層の両方に上記複合樹脂を用いて、上記の方法でシート状の多層成形体を製造した。実施例7と同様の測定条件で引張弾性率を計測した。引張弾性率は2.0GPaであった。
【0062】
(比較例7)
実施例8において、カーボンファイバーを21重量部添加したことを除いては、実施例8と同様にして樹脂複合材料を得た。続いて、第1の層、第2の層の両方に上記複合樹脂を用いて、上記の方法でシート状の多層成形体を製造した。実施例8と同様の測定条件で引張弾性率を計測した。引張弾性率は1.8GPaであった。
【0063】
上記のように、比較例1〜7に比べ実施例1、2、4〜8では、引張弾性率が同じあるにもかかわらず、使用した薄片化黒鉛の重量部数が約1割減少している。これは、第1の層に薄片化黒鉛を偏在化させたため、第1の層の機械的強度が高められたことによると考えられる。それによって、樹脂複合成形体全体の引張弾性率が高められたと考えられる。実施例及び比較例の結果を表1に示す。