(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。
図1に、本発明の第1の実施形態であるパワーモジュール用基板を用いたパワーモジュールを示す。
このパワーモジュール1は、回路層12及び金属層13が配設されたパワーモジュール用基板10と、回路層12の一方の面(
図1において上面)に第1はんだ層2を介して接合された半導体チップ3と、金属層13の他方の面(
図1において下面)に第2はんだ層4を介して接合された放熱板40と、この放熱板40の他方の面側に配設された冷却器50と、を備えている。
ここで、第1はんだ層2及び第2はんだ層4は、例えばSn−Ag系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材とされている。なお、本実施形態では、回路層12と第1はんだ層2との間、及び、金属層13と第2はんだ層4との間にNiメッキ層(図示なし)が設けられている。
【0025】
パワーモジュール用基板10は、
図1及び
図2に示すように、絶縁層を構成するセラミックス基板11と、このセラミックス基板11の一方の面(
図2において上面)に配設された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面(
図2において下面)に配設された金属層13とを備えている。
【0026】
セラミックス基板11は、回路層12と金属層13との間の電気的接続を防止するものであって、絶縁性の高いAlN(窒化アルミ)で構成されている。また、セラミックス基板11の厚さは、0.2〜1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。なお、本実施形態では、
図1及び
図2に示すように、セラミック基板11の幅は、回路層12及び金属層13の幅より広く設定されている。
【0027】
回路層12は、
図5に示すように、セラミックス基板11の一方の面(
図5において上面)に、導電性を有する金属板22が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、回路層12は、純度が99.99%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなる金属板22がセラミックス基板11に接合されることにより形成されている。
【0028】
金属層13は、
図5に示すように、セラミックス基板11の他方の面(
図5において下面)に、金属板23が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、金属層13は、回路層12と同様に、純度が99.99%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなる金属板23がセラミックス基板11に接合されることで形成されている。
【0029】
放熱板40は、前述のパワーモジュール用基板10からの熱を面方向に拡げるものであり、本実施形態では、熱伝導性に優れた銅板とされている。
冷却器50は、
図1に示すように、冷却媒体(例えば冷却水)を流通するための流路51を備えている。冷却器50は、熱伝導性が良好な材質で構成されることが望ましく、本実施形態においては、A6063(アルミニウム合金)で構成されている。
なお、放熱板40と冷却器50とは、
図1に示すように、固定ネジ41によって締結されている。
【0030】
そして、
図2に示すように、金属層13は、その他方の面(
図2において下面)側に配設された硬化層13Aと、この硬化層13Aの一方の面側に位置する本体層13Bと、を備えている。
硬化層13Aは、金属層13の他方の面に露呈し、この他方の面から一方の面側(
図2において上側)に向けて延在しており、金属層13の他方の面におけるインデンテーション硬度Hsに対して80%以上のインデンテーション硬度を有する領域である。ここで、本実施形態では、金属層13の他方の面におけるインデンテーション硬度Hsは50mgf/μm
2以上200mgf/μm
2以下の範囲内に設定されている。
本体層13Bは、そのインデンテーション硬度Hbが前記インデンテーション硬度Hsの80%未満とされた領域となる。
【0031】
なお、本実施形態では、金属層13のうちセラミックス基板11との接合界面近傍には、そのインデンテーション硬度Hcが本体層13Bのインデンテーション硬度Hbよりも高くされた界面近傍層13Cが形成されている。
ここで、本実施形態では、硬化層13Aの厚さtsが1μm以上300μm以下とされ、本体層13Bの厚さtbが100μm以上1500μm以下、界面近傍層13Cの厚さtcが50μm以上300μm以下とされている。
【0032】
また、硬化層13Aは、Zr,Hf,Ta,Nb,B,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Mo,Si,Cu,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Li及びNiから選択される1種又は2種以上の添加元素を含有しており、この添加元素の含有量の合計が0.2atom%以上10atom%以下とされている。なお、本実施形態では、添加元素としてZrを0.2atom%以上10atom%以下の範囲内で含有している。
金属層13においては、
図3に示すように、その他方の面(
図3において下面)が最も添加元素の含有量が高くなっており、一方の面側に向かうにしたがい添加元素の含有量が低くなるように構成されている。この添加元素によって金属層13の一部が硬化され、上述の硬化層13Aが形成されているのである。
【0033】
一方、本体層13Bでは、
図3に示すように、添加元素の含有量が少ないことからAlの純度が高く、変形抵抗が小さいままである。
なお、セラミックス基板11側に位置する界面近傍層13Cにおいては、セラミックス基板11と金属板23との接合において利用される元素が拡散することで、本体層13BよりもAlの純度が低くなっている。
【0034】
なお、本実施形態では、
図2に示すように、回路層12においても、その一方の面(
図2おいて上面)側から順に、硬化層12A、本体層12B、界面近傍層12Cを備えている。回路層12の硬化層12Aは、添加元素としてZrを0.2atom%以上10atom%以下の範囲内で含有している。
また、硬化層12Aは、回路層12の一方の面におけるインデンテーション硬度Hs´に対して80%以上のインデンテーション硬度を有する領域である。ここで、本実施形態では、回路層12の一方の面におけるインデンテーション硬度Hs´は50mgf/μm
2以上200mgf/μm
2以下の範囲内に設定されている。
本体層12Bは、そのインデンテーション硬度Hbが´、前記インデンテーション硬度Hs´の80%未満とされた領域となる。
【0035】
以下に、前述の構成のパワーモジュール用基板10の製造方法について、
図4から
図6を参照して説明する。
【0036】
(固着工程S01)
まず、
図5に示すように、金属層13となる金属板23の他方の面及び回路層12となる金属板22の一方の面に、スパッタリングによって、Zr,Hf,Ta,Nb,B,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Mo,Si,Cu,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Li及びNiから選択される1種又は2種以上の添加元素を固着し、この添加元素を含有する固着層23A,22Aを形成する。
本実施形態では、添加元素としてZrを固着しており、その固着量を0.002mg/cm
2以上0.15mg/cm
2以下に設定している。
【0037】
(積層工程S02)
次に、
図5に示すように、セラミックス基板11の一方の面側に、回路層12となる金属板22(4Nアルミニウムの圧延板)が、厚さ5〜50μm(本実施形態では14μm)のろう材箔24を介して積層され、セラミックス基板11の他方の面側に、金属層13となる金属板23(4Nアルミニウムの圧延板)が厚さ5〜50μm(本実施形態では14μm)のろう材箔25を介して積層される。このとき、金属板23は、固着層23Aが形成された面とは反対の面がセラミックス基板11側を向くように積層される。このようにして積層体20を形成する。
なお、本実施形態においては、ろう材箔24、25は、融点降下元素であるSiを含有したAl−Si系のろう材とされている。
【0038】
(加熱工程S03)
次に、積層工程S02において形成された積層体20を、その積層方向に加圧(圧力1〜5kgf/cm
2)した状態で加熱炉内に装入して加熱する。この加熱工程S03によって、ろう材箔24、25と金属板22、23の一部とが溶融し、
図6に示すように、金属板22、23とセラミックス基板11との界面にそれぞれ溶融金属領域26、27が形成される。ここで、加熱温度は550℃以上650℃以下、加熱時間は30分以上180分以下とされている。
また、この加熱工程S03により、金属板23の固着層23Aに含有された添加元素(Zr)が金属板23の一方の面側に向けて拡散していく。また、金属板22の固着層22Aに含有された添加元素(Zr)が金属板22の他方の面側に向けて拡散していく。
【0039】
(凝固工程S04)
次に、積層体20を冷却することによって溶融金属領域26、27を凝固させ、セラミックス基板11と金属板22及び金属板23とを接合する。このとき、ろう材箔24、25に含まれる融点降下元素(Si)が金属板22、23側へと拡散していくことになる。
【0040】
このようにして、回路層12及び金属層13となる金属板22、23とセラミックス基板11とが接合され、本実施形態であるパワーモジュール用基板10が製造される。
また、金属層13においては、固着層23Aに含有された添加元素(Zr)が拡散することで硬化層13A及び本体層13Bが形成される。また、ろう材箔25に含まれるSiが拡散することで界面近傍層13Cが形成される。同様に、回路層12においては、固着層22Aに含有された添加元素(Zr)が拡散することで硬化層12A及び本体層12Bが形成される。また、ろう材箔24に含まれるSiが拡散することで界面近傍層12Cが形成される。
【0041】
そして、このパワーモジュール用基板10の金属層13の他方の面側に、はんだ層4を介して放熱板40が接合され、この放熱板40が固定ネジ41によって冷却器50に締結される。また、回路層12の一方の面にはんだ層2を介して半導体チップ3を搭載する。これにより、本実施形態であるパワーモジュール1が製出される。
【0042】
以上のような構成とされた本実施形態であるパワーモジュール用基板10及びパワーモジュール用基板の製造方法においては、金属層13の他方の面側に、硬化層13Aが形成されており、金属層13の他方の面におけるインデンテーション硬度Hsが50mgf/μm
2以上200mgf/μm
2以下の範囲内に設定され、このインデンテーション硬度Hsの80%以上の領域が硬化層13Aとされているので、金属層13の他方の面側部分の変形抵抗が大きくなり、熱サイクル負荷時におけるうねりやシワの発生を抑制することが可能となる。よって、この金属層13の他方の面と放熱板40との間に介在されたはんだ層4におけるクラックの発生を抑制することができる。
【0043】
また、金属層13は、インデンテーション硬度Hbが前記インデンテーション硬度Hsの80%未満とされた本体層13Bを有しているので、熱サイクル負荷時の熱応力をこの本体層13Bの変形によって吸収することが可能となる。よって、セラミックス基板11と金属層13との接合信頼性を向上させることができる。
【0044】
さらに、硬化層13Aの厚さが1μm以上300μm以下とされていることから、金属層13の他方の面にうねりやシワが発生することを確実に防止することができる。さらに、本体層13Bの厚さが100μm以上1500μm以下とされているので、熱サイクル負荷時の熱応力を本体層13Bで確実に吸収することができる。
よって、熱サイクル負荷時において、金属層13の表面のうねりやシワの発生を抑制でき、放熱板40との間に介在されるはんだ層4におけるクラックの発生を抑制できる。また、セラミックス基板11と金属層13との接合界面に熱応力が作用することを抑制でき、熱サイクル信頼性を向上させることができる。
【0045】
この硬化層13Aにおいては、Zr,Hf,Ta,Nb,B,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Mo,Si,Cu,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Li及びNiから選択される1種又は2種以上の添加元素を含有しており、この添加元素の含有量の合計が0.2atom%以上10atom%以下とされており、本実施形態では、添加元素としてZrを0.2atom%以上10atom%以下の範囲内で含有しているので、この添加元素(Zr)によって金属板23を硬化させることができ、金属層13の他方の面におけるインデンテーション硬さHsを50mgf/μm
2以上200mgf/μm
2以下の範囲内にすることができる。
【0046】
また、金属層13となる金属板23の他方の面に、スパッタリングによって、Zr,Hf,Ta,Nb,B,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Mo,Si,Cu,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Li及びNiから選択される1種又は2種以上の添加元素を固着し、この添加元素(Zr)を含有する固着層23Aを形成し、この金属板23を加熱することで添加元素(Zr)を拡散させているので、金属層13の他方の面側において添加元素の含有量が高くなり、上述した硬化層13Aを形成することができる。また、添加元素の含有量は、他方の面から離れるに従い低くなることから、硬化層13Aに積層されるように、上述の本体層13Bが形成されることになる。
【0047】
さらに、本実施形態では、回路層12の一方の面側に、回路層12の一方の面におけるインデンテーション硬度Hs´に対して80%以上のインデンテーション硬度を有する硬化層12Aが形成されているので、回路層12の一方の面側部分の変形抵抗が大きくなり、熱サイクル負荷時におけるうねりやシワの発生を抑制することが可能となる。よって、この回路層12の一方の面と半導体チップ3との間に介在されたはんだ層2におけるクラックの発生を抑制することができる。
また、回路層12は、インデンテーション硬度Hb´が、回路層12の一方の面のインデンテーション硬度Hs´の80%未満とされた本体層12Bを有しているので、熱サイクル負荷時の熱応力をこの本体層12Bの変形によって吸収することが可能となる。よって、セラミックス基板11と回路層12との接合信頼性を向上させることができる。
【0048】
ここで、本実施形態では、セラミックス基板11と金属板22、23をろう付けする加熱工程S03において固着層23A,22Aの添加元素を拡散させているので、特別な熱処理工程を行う必要がなく、このパワーモジュール用基板10の製造コストを低く抑えることができる。
【0049】
次に、本発明の第2の実施形態について
図7から
図11を参照して説明する。
このパワーモジュール101は、回路層112及び金属層113が配設されたパワーモジュール用基板110と、回路層112の一方の面(
図7において上面)に第1はんだ層102を介して接合された半導体チップ103と、金属層113の他方の面(
図7において下面)に第2はんだ層104を介して接合された放熱板140と、を備えている。なお、放熱板140は、熱伝導性に優れた銅板とされている。
第1はんだ層102及び第2はんだ層104は、例えばSn−Ag系、Sn−In系、若しくはSn−Ag−Cu系のはんだ材とされている。なお、本実施形態では、回路層112と第1はんだ層102との間、及び、金属層113と第2はんだ層104との間にNiメッキ層(図示なし)が設けられている。
【0050】
パワーモジュール用基板110は、セラミックス基板111と、このセラミックス基板111の一方の面(
図8において上面)に配設された回路層112と、セラミックス基板111の他方の面(
図8において下面)に配設された金属層113とを備えている。
本実施形態では、セラミックス基板111は絶縁性の高いAl
2O
3(アルミナ)で構成されている。また、セラミックス基板111の厚さは、0.2〜0.8mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.32mmに設定されている。
【0051】
図11に示すように、回路層112は、セラミックス基板111の一方の面(
図11において上面)に導電性を有する金属板122が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、回路層112は、純度が99.99%以上のアルミニウム(4Nアルミニウム)の圧延板からなる金属板122がセラミックス基板111に接合されることにより形成されている。
また、金属層113は、セラミックス基板111の他方の面(
図11において下面)に金属板123が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、金属層113は、回路層112と同様に、純度が99.99%以上のアルミニウム(4Nアルミニウム)の圧延板からなる金属板123がセラミックス基板111に接合されることで形成されている。
【0052】
そして、
図8に示すように、金属層113は、その他方の面側に配設された硬化層113Aと、この硬化層113Aの一方の面側に位置する本体層113Bと、を備えている。
硬化層113Aは、金属層113の他方の面に露呈し、この他方の面から一方の面側に向けて延在しており、金属層113の他方の面におけるインデンテーション硬度Hsに対して80%以上のインデンテーション硬度を有する領域である。ここで、本実施形態では、金属層113の他方の面におけるインデンテーション硬度Hsが50mgf/μm
2以上200mgf/μm
2以下の範囲内に設定されている。
本体層113Bは、そのインデンテーション硬度Hbが前記インデンテーション硬度Hsの80%未満とされた領域となる。
【0053】
なお、本実施形態では、金属層113のうちセラミックス基板111との接合界面近傍には、そのインデンテーション硬度Hcが本体層113Bのインデンテーション硬度Hbよりも高くされた界面近傍層113Cが形成されている。
ここで、本実施形態では、硬化層113Aの厚さtsが1μm以上300μm以下とされ、本体層113Bの厚さtbが100μm以上1500μm以下、界面近傍層113Cの厚さtcが50μm以上300μm以下とされている。
【0054】
また、硬化層113Aは、Zr,Hf,Ta,Nb,B,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Mo,Si,Cu,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Li及びNiから選択される1種又は2種以上の添加元素を含有しており、この添加元素の含有量の合計が0.2atom%以上10atom%以下とされている。なお、本実施形態では、添加元素としてFeを0.2atom%以上10atom%以下の範囲内で含有している。
【0055】
金属層113においては、その他方の面が最も添加元素の含有量が高くなっており、一方の面側に向かうにしたがい含有量が低くなるように構成されている。この添加元素によって金属層113の一部が硬化され、上述の硬化層113Aが形成されている。
一方、本体層113Bでは、上述の添加元素(Fe)の含有量が少ないことからAlの純度が高く、変形抵抗が小さいままである。
【0056】
なお、セラミックス基板111側に位置する界面近傍層113Cにおいては、セラミックス基板111と金属板123との接合において利用される元素が拡散することで、本体層113BよりもAlの純度が低くなっている。
詳述すると、界面近傍層113Cにおいては、Si、Cu、Ag及びGeから選択される1種又は2種以上の第2添加元素が固溶している。ここで、この界面近傍層113Cの接合界面側の前記第2添加元素濃度の合計が、0.05質量%以上5質量%以下の範囲内に設定されている。
【0057】
本実施形態では、CuとGeを第2添加元素として用いており、界面近傍層113CのCu濃度が0.05質量%以上1質量%以下、Ge濃度が0.05質量%以上1質量%以下の範囲内に設定されている。
なお、界面近傍層113Cの前記第2添加元素濃度は、EPMA分析(スポット径30μm)で、接合界面から50μmまでの範囲内を5点測定した平均値である。このEPMA分析では、スポット径の全体が接合界面から50μmまでの範囲内に入るようにして分析を実施した。
【0058】
また、セラミックス基板111と金属層113(金属板123)との接合界面130には、Ti,Zr,Hf,Ta,Nb及びMoから選択される1種又は2種以上の活性元素が介在している。なお、本実施形態では、活性元素としてHfが介在している。
ここで、接合界面130部分には、
図9に示すように活性金属であるHfと酸素とを含む酸素化合物からなる酸化物層132が形成されている。この酸化物層132は、活性金属であるHfとAl
2O
3からなるセラミック基板111の酸素とが反応することによって生じたものである。この酸化物層132の厚さHは、例えば0.1μm以上5μm以下とされている。
【0059】
なお、本実施形態では、回路層112となる金属板122とセラミックス基板111との接合についても、金属層113となる金属板123とセラミックス基板111と同様に行われており、接合界面部分に酸化物層が形成されており、回路層112の接合界面近傍にも第2添加元素(Cu,Ge)が固溶している。
【0060】
以下に、前述の構成のパワーモジュール用基板110の製造方法について、
図10及び
図11を参照して説明する。
【0061】
(第1固着工程S11)
まず、
図11に示すように、金属層113となる金属板123の他方の面に、スパッタリングによって、Zr,Hf,Ta,Nb,B,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Mo,Si,Cu,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Li及びNiから選択される1種又は2種以上の添加元素を固着し、この添加元素を含有する固着層123Aを形成する。
本実施形態では、添加元素としてFeを固着しており、その固着量を0.05mg/cm
2以上1.6mg/cm
2以下に設定している。
【0062】
(第2固着工程S12)
次に、金属板122、123のそれぞれの接合面に、スパッタリングによって、第2添加元素であるCu及びGe、並びに、活性元素であるHfを固着し、第2固着層124、125を形成する。
本実施形態では、第2固着層124、125におけるCu量は0.08mg/cm
2以上2.7mg/cm
2以下、Ge量は0.002mg/cm
2以上2.5mg/cm
2以下、Hf量は0.1mg/cm
2以上6.7mg/cm
2以下に設定されている。
【0063】
(積層工程S13)
次に、金属板122をセラミックス基板111の一方の面側に積層し、かつ、金属板123をセラミックス基板111の他方の面側に積層する。このとき、
図11に示すように、金属板122、123のうち第2固着層124、125が形成された面がセラミックス基板111を向くように積層する。すなわち、金属板122、123とセラミックス基板111との間に第2固着層124、125を介在させているのである。このようにして積層体120を形成する。
【0064】
(加熱工程S14)
次に、積層工程S13において形成された積層体120を、その積層方向に加圧(圧力1〜35kgf/cm
2)した状態で加熱炉内に装入して加熱し、金属板122、123とセラミックス基板111との界面にそれぞれ溶融金属領域を形成する。この溶融金属領域は、第2固着層124、125のCu及びGeが金属板122、123側に拡散することによって、金属板122、123の第2固着層124、125近傍のCu濃度、Ge濃度が上昇して融点が低くなることにより形成されるものである。
【0065】
このとき、活性金属であるHfは、セラミックス基板111を構成するAl
2O
3と反応し、Hfと酸素とを含む酸素化合物(例えばHfO
2)が生成し、酸化物層132が形成されることになる。
また、この加熱工程S14により、金属板123の固着層123Aに含有された添加元素(本実施形態ではFe)が金属板123の一方の面側に向けて拡散していく。
なお、本実施形態では、加熱炉内の雰囲気をN
2ガス雰囲気としており、加熱温度は、550℃以上650℃以下の範囲内に設定している。
【0066】
(凝固工程S15)
次に、溶融金属領域が形成された状態で温度を一定に保持しておく。すると、溶融金属領域中のCu、Geが、さらに金属板122、123側へと拡散していくことになる。これにより、溶融金属領域であった部分のCu濃度、Ge濃度が徐々に低下していき融点が上昇することになり、温度を一定に保持した状態で凝固が進行していくことになる。つまり、セラミックス基板111と金属板122、123とは、いわゆる過渡液相接合(Transient Liquid Phase Diffusion Bonding)によって接合されているのである。このようにして凝固が進行した後に、常温にまで冷却を行う。
【0067】
このようにして、回路層112及び金属層113となる金属板122、123とセラミックス基板111とが接合され、本実施形態であるパワーモジュール用基板110が製造される。
また、金属層113においては、固着層123Aに含有された添加元素(Fe)が拡散することで硬化層113A及び本体層113Bが形成される。また、第2固着層125に含まれるCu及びGeが拡散することで界面近傍層113Cが形成される。
【0068】
そして、このパワーモジュール用基板110の金属層113の他方の面側に、はんだ層104を介して放熱板140が接合される。また、回路層112の表面にはんだ層102を介して半導体チップ103を搭載する。これにより、本実施形態であるパワーモジュール101が製出される。
【0069】
以上のような構成とされた本実施形態であるパワーモジュール用基板110及びパワーモジュール101においては、金属層113の他方の面側に硬化層113Aが形成されているので、金属層113の他方の面側部分の変形抵抗が大きくなり、熱サイクル負荷時におけるうねりやシワの発生を抑制することが可能となる。よって、この金属層113の他方の面と放熱板140との間に介在されたはんだ層104におけるクラックの発生を抑制することができる。
【0070】
また、金属層113に、前述の硬化層113Aよりもインデンテーション硬度が低い本体層113Bを有しているので、熱サイクル負荷時の熱応力をこの本体層113Bの変形によって吸収することが可能となる。よって、セラミックス基板111と金属層113との接合信頼性を向上させることができる。
【0071】
また、本実施形態では、金属板122、123の接合面に第2添加元素としてCu、Geを固着させる第2固着工程S12を備えているので、金属板122、123とセラミックス基板111の接合界面130には、Cu及びGeが介在することになる。
そして、セラミックス基板111がAl
2O
3で構成されており、金属板122,123とセラミックス基板111との接合界面130に、活性元素としてHfが介在しており、より具体的には、接合界面130にHfと酸素とを含む酸素化合物からなる酸化物層132が形成されているので、この酸化物層132によってセラミックス基板111と金属板122,123との接合強度の向上を図ることができる。なお、この酸化物層132は、活性元素であるHfとセラミックス基板111の酸素との反応によって生成していることからセラミックス基板111との接合強度は極めて高い。
【0072】
また、本実施形態では、セラミックス基板111と金属板122、123との界面に溶融金属領域を形成する加熱工程S14において、固着層123Aの添加元素を拡散させているので、特別な熱処理工程を行う必要がなく、このパワーモジュール用基板110の製造コストを低く抑えることができる。
【0073】
次に、本発明の第3の実施形態であるパワーモジュール用基板について
図12及び
図13を用いて説明する。
本実施形態であるパワーモジュール用基板210は、セラミックス基板211と、このセラミックス基板211の一方の面(
図12において上面)に配設された回路層212と、セラミックス基板211の他方の面(
図12において下面)に配設された金属層213とを備えている。
【0074】
セラミックス基板211は、本実施形態ではSi
3N
4(窒化珪素)で構成されたものとしている。また、セラミックス基板211の厚さは、0.2〜1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.32mmに設定されている。
【0075】
回路層212は、セラミックス基板211の一方の面に導電性を有する金属板が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、回路層212は、純度が99.99%以上のアルミニウム(4Nアルミニウム)の圧延板からなる金属板がセラミックス基板211に接合されることにより形成されている。
金属層213は、セラミックス基板211の他方の面に金属板が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、金属層213は、Fe,Mnを含有するアルミニウム合金の圧延板からなる金属板がセラミックス基板211に接合されることにより形成されている。
【0076】
そして、
図12に示すように、金属層213は、その他方の面に露呈した硬化層213Aを備えている。この硬化層213Aは、金属層213の他方の面におけるインデンテーション硬度Hsに対して80%以上のインデンテーション硬度を有する領域である。ここで、本実施形態では、金属層213の一方の面におけるインデンテーション硬度Hsが50mgf/μm
2以上200mgf/μm
2以下の範囲内に設定されている。
【0077】
なお、本実施形態では、金属層213のうちセラミックス基板211との接合界面近傍には、界面近傍層213Cが形成されている。
ここで、本実施形態では、硬化層213Aの厚さtsが100μm以上1500μm以下とされ、界面近傍層213Cの厚さtcが50μm以上300μm以下とされている。
【0078】
また、硬化層213Aは、Zr,Hf,Ta,Nb,B,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Mo,Si,Cu,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Li及びNiから選択される1種又は2種以上の添加元素を含有しており、この添加元素の含有量の合計が0.2atom%以上10atom%以下とされている。なお、本実施形態では、添加元素としてFe及びMnを0.2atom%以上10atom%以下の範囲内で含有している。
【0079】
なお、セラミックス基板211側に位置する界面近傍層213Cは、セラミックス基板211と金属板213との接合において利用される元素が拡散することによって形成されている。
詳述すると、界面近傍層213Cにおいては、Si,Cu,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca及びLiから選択される1種又は2種以上の第2添加元素が固溶している。ここで、この界面近傍層213Cの前記第2添加元素濃度の合計が、0.05質量%以上5質量%以下の範囲内に設定されている。
【0080】
本実施形態では、Si及びCuを第2添加元素として用いており、界面近傍層213CのSi濃度が0.05質量%以上0.5質量%以下、Cu濃度が0.05質量%以上1質量%以下の範囲内に設定されている。
なお、界面近傍層213Cの前記第2添加元素濃度は、EPMA分析(スポット径30μm)で、接合界面から50μmまでの範囲内を5点測定した平均値である。このEPMA分析では、スポット径の全体が接合界面から50μmまでの範囲内に入るようにして分析を実施した。
【0081】
以下に、前述の構成のパワーモジュール用基板210の製造方法について、
図13のフロー図を参照して説明する。
【0082】
(第2固着工程S21)
まず、回路層212となる金属板及び金属層213となる金属板のそれぞれの接合面に、スパッタリングによって、第2添加元素であるSi,Cu,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca及びLiから選択される1種又は2種以上の第2添加元素を固着して、第2固着層を形成する。
本実施形態では、第2添加元素としてCu及びSiを用いており、第2固着層におけるCu量は0.08mg/cm
2以上2.7mg/cm
2以下、Si量は0.002mg/cm
2以上1.2mg/cm
2以下に設定されている。
【0083】
(積層工程S22)
次に、セラミックス基板211と金属板を積層する。このとき、金属板のうち第2固着層が形成された面がセラミックス基板211を向くように積層する。すなわち、金属板とセラミックス基板211との間に第2固着層を介在させているのである。このようにして積層体を形成する。
【0084】
(加熱工程S23)
次に、積層工程S22において形成された積層体を、その積層方向に加圧(圧力1〜5kgf/cm
2)した状態で加熱炉内に装入して加熱し、金属板とセラミックス基板211との界面にそれぞれ溶融金属領域を形成する。この溶融金属領域は、第2固着層のCu及びSiが金属板側に拡散することによって、金属板の第2固着層近傍のCu濃度、Si濃度が上昇して融点が低くなることにより形成されるものである。
なお、本実施形態では、加熱炉内の雰囲気をN
2ガス雰囲気としており、加熱温度は、550℃以上650℃以下の範囲内に設定している。
【0085】
(凝固工程S24)
次に、溶融金属領域が形成された状態で温度を一定に保持しておく。すると、溶融金属領域中のCu、Siが、さらに金属板側へと拡散していくことになる。これにより、溶融金属領域であった部分のCu濃度、Si濃度が徐々に低下していき融点が上昇することになり、温度を一定に保持した状態で凝固が進行していくことになる。つまり、セラミックス基板211と金属板とは、いわゆる過渡液相接合(Transient Liquid Phase Diffusion Bonding)によって接合されているのである。このようにして凝固が進行した後に、常温にまで冷却を行う。
【0086】
このようにして、回路層212及び金属層213となる金属板とセラミックス基板211とが接合され、本実施形態であるパワーモジュール用基板210が製造される。
【0087】
以上のような構成とされた本実施形態であるパワーモジュール用基板210においては、金属層213の他方の面側に硬化層213Aが形成されているので、金属層213の他方の面側部分の変形抵抗が大きくなり、熱サイクル負荷時におけるうねりやシワの発生を抑制することが可能となる。よって、この金属層213の他方の面と放熱板との間に介在されたはんだ層におけるクラックの発生を抑制することができる。
【0088】
次に、本発明の第4の実施形態であるパワーモジュール用基板について
図14及び
図15を用いて説明する。
本実施形態であるパワーモジュール用基板310は、セラミックス基板311と、このセラミックス基板311の一方の面(
図14において上面)に配設された回路層312と、セラミックス基板311の他方の面(
図14において下面)に配設された金属層313とを備えている。
【0089】
セラミックス基板311は、本実施形態ではAlN(窒化アルミ)で構成されている。また、セラミックス基板311の厚さは、0.2〜1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。
【0090】
回路層312は、セラミックス基板311の一方の面に導電性を有する金属板が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、回路層312は、純度が99.99%以上のアルミニウム(4Nアルミニウム)の圧延板からなる金属板がセラミックス基板311に接合されることにより形成されている。
金属層313は、セラミックス基板311の他方の面に金属板が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、金属層313は、回路層312と同様に、純度が99.99%以上のアルミニウム(4Nアルミニウム)の圧延板からなる金属板がセラミックス基板311に接合されることで形成されている。
【0091】
そして、
図14に示すように、金属層313は、その他方の面(
図14において下面)側に配設された硬化層313Aと、この硬化層313Aの一方の面側に位置する本体層313Bと、を備えている。
硬化層313Aは、金属層313の他方の面に露呈し、この他方の面から一方の面側(
図14において上側)に向けて延在しており、金属層313の他方の面におけるインデンテーション硬度Hsに対して80%以上のインデンテーション硬度を有する領域である。ここで、本実施形態では、金属層313の他方の面におけるインデンテーション硬度Hsが50mgf/μm
2以上200mgf/μm
2以下の範囲内に設定されている。
本体層313Bは、そのインデンテーション硬度Hbが前記インデンテーション硬度Hsの80%未満とされた領域となる。
【0092】
なお、本実施形態では、金属層313のうちセラミックス基板311との接合界面近傍には、そのインデンテーション硬度Hcが本体層313Bのインデンテーション硬度Hbよりも高くされた界面近傍層313Cが形成されている。
ここで、本実施形態では、硬化層313Aの厚さtsが1μm以上300μm以下とされ、本体層313Bの厚さtbが100μm以上1500μm以下、界面近傍層313Cの厚さtcが50μm以上300μm以下とされている。
【0093】
また、硬化層313Aは、Zr,Hf,Ta,Nb,B,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Mo,Si,Cu,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Li及びNiから選択される1種又は2種以上の添加元素を含有しており、この添加元素の含有量の合計が0.2atom%以上10atom%以下とされている。なお、本実施形態では、添加元素としてZrを0.2atom%以上10atom%以下の範囲内で含有している。
【0094】
金属層313においては、その他方の面が最も添加元素の含有量が高くなっており、一方の面側に向かうにしたがい含有量が低くなるように構成されている。この添加元素によって金属層313の一部が硬化され、上述の硬化層313Aが形成されているのである。
一方、本体層313Bでは、上述の添加元素の含有量が少ないことからAlの純度が高く、変形抵抗が小さいままである。
【0095】
なお、セラミックス基板311側に位置する界面近傍層313Cにおいては、セラミックス基板311と金属板との接合において利用される元素が拡散することで、本体層313BよりもAlの純度が低くなっている。
詳述すると、界面近傍層313Cにおいては、Al−Si系のろう材に含まれるSiが固溶している。
【0096】
以下に、前述の構成のパワーモジュール用基板310の製造方法について、
図15のフロー図を参照して説明する。
【0097】
(積層工程S31)
まず、セラミックス基板311の一方の面側に、回路層312となる金属板を、厚さ15〜30μm(本実施形態では20μm)のろう材箔を介して積層し、セラミックス基板311の他方の面側に、金属層313となる金属板を厚さ15〜30μm(本実施形態では20μm)のろう材箔を介して積層して、積層体を形成する。なお、本実施形態においては、ろう材箔は、融点降下元素であるSiを含有したAl−Si系のろう材とされている。
【0098】
(接合加熱工程S32)
次に、積層工程S31において形成された積層体を、その積層方向に加圧(圧力1〜5kgf/cm
2)した状態で加熱炉内に装入して加熱し、金属板とセラミックス基板311との界面にそれぞれ溶融金属領域を形成する。
なお、本実施形態では、加熱炉内の雰囲気をN
2ガス雰囲気としており、加熱温度は、550℃以上650℃以下の範囲内に設定している。
【0099】
(凝固工程S33)
次に、積層体を冷却することによって溶融金属領域を凝固させ、セラミックス基板311と金属板とを接合する。このようにして、回路層312及び金属層313となる金属板とセラミックス基板311とが接合される。このとき、ろう材箔に含まれるSiが拡散することで、金属層313及び回路層312には、界面近傍層313C、312Cが形成される。
【0100】
(固着工程S34)
次に、金属層313の他方の面に、Zr,Hf,Ta,Nb,B,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Mo,Si,Cu,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Li及びNiから選択される1種又は2種以上の添加元素を固着し、この添加元素を含有する固着層を形成する。
本実施形態では、添加元素としてZrをスパッタリングによって固着しており、その固着量をその固着量を0.002mg/cm
2以上0.15mg/cm
2以下に設定している。
【0101】
(加熱工程S35)
そして、固着層が形成された金属層313を、接合されたセラミックス基板311とともに、加熱炉によって加熱する。このときの加熱温度は、上述の接合加熱工程S32よりも低い温度とされる。
この加熱工程S35により、金属層313の固着層に含有された添加元素(Zr)が金属層313の一方の面側に向けて拡散していく。これにより、金属層313には、固着層に含有された添加元素(Zr)が拡散することで硬化層313A及び本体層313Bが形成される。
このようにして、本実施形態であるパワーモジュール用基板310が製出される。
【0102】
以上のような構成とされた本実施形態であるパワーモジュール用基板310においては、金属層313の他方の面側に硬化層313Aが形成されているので、金属層313の他方の面側部分の変形抵抗が大きくなり、熱サイクル負荷時におけるうねりやシワの発生を抑制することが可能となる。
【0103】
また、金属層313は、硬化層313Aよりも硬度が低い本体層313Bを有しているので、熱サイクル負荷時の熱応力をこの本体層313Bの変形によって吸収することが可能となる。よって、セラミックス基板311と金属層313との接合信頼性を向上させることができる。
【0104】
次に、本発明の第5の実施形態であるパワーモジュール用基板について
図16及び
図17を用いて説明する。
本実施形態であるパワーモジュール用基板410は、セラミックス基板411と、このセラミックス基板411の一方の面(
図16において上面)に配設された回路層412と、セラミックス基板411の他方の面(
図16において下面)に配設された金属層413とを備えている。
【0105】
セラミックス基板411は、絶縁性の高いAlN(窒化アルミ)で構成されており、その厚さが0.2〜1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では、0.635mmに設定されている。
回路層412は、セラミックス基板411の一方の面に導電性を有する金属板が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、回路層412は、純度が99.99%以上のアルミニウム(4Nアルミニウム)の圧延板からなる金属板がセラミックス基板411に接合されることにより形成されている。
金属層413は、セラミックス基板411の他方の面に金属板が接合されることにより形成されている。本実施形態においては、金属層413は、回路層412と同様に、純度が99.99%以上のアルミニウム(4Nアルミニウム)の圧延板からなる金属板がセラミックス基板411に接合されることで形成されている。
【0106】
そして、
図16に示すように、金属層413は、その他方の面(
図16において下面)側に配設された硬化層413Aと、この硬化層413Aの他方の面側に位置する本体層413Bと、を備えている。
硬化層413Aは、金属層413の他方の面に露呈し、この他方の面から一方の面側(
図16において上側)に向けて延在しており、金属層413の他方の面におけるインデンテーション硬度Hsに対して80%以上のインデンテーション硬度を有する領域である。ここで、本実施形態では、金属層413の他方の面におけるインデンテーション硬度Hsが50mgf/μm
2以上200mgf/μm
2以下の範囲内に設定されている。
本体層413Bは、そのインデンテーション硬度Hbが前記インデンテーション硬度Hsの80%未満とされた領域となる。
【0107】
なお、本実施形態では、金属層413のうちセラミックス基板411との接合界面近傍には、そのインデンテーション硬度Hcが本体層413Bのインデンテーション硬度Hbよりも高くされた界面近傍層413Cが形成されている。
ここで、本実施形態では、硬化層413Aの厚さtsが1μm以上300μm以下とされ、本体層413Bの厚さtbが100μm以上1500μm以下、界面近傍層413Cの厚さtcが50μm以上300μm以下とされている。
【0108】
また、硬化層413Aは、Zr,Hf,Ta,Nb,B,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Mo,Si,Cu,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Li及びNiから選択される1種又は2種以上の添加元素を含有しており、この添加元素の含有量の合計が0.2atom%以上10atom%以下とされている。なお、本実施形態では、添加元素としてNiを0.2atom%以上10atom%以下含有している。
【0109】
金属層413においては、その他方の面が最も添加元素の含有量が高くなっており、一方の面側に向かうにしたがい含有量が低くなるように構成されている。この添加元素によって金属層413の一部が硬化され、上述の硬化層413Aが形成されているのである。
一方、本体層413Bでは、上述の添加元素の含有量が少ないことからAlの純度が高く、変形抵抗が小さいままである。
【0110】
なお、セラミックス基板411側に位置する界面近傍層413Cにおいては、セラミックス基板411と金属板との接合において利用される元素が拡散することで、本体層413BよりもAlの純度が低くなっている。本実施形態では、界面近傍層413Cには、Al−Si系のろう材に含まれるSiが固溶している。
【0111】
以下に、前述の構成のパワーモジュール用基板410の製造方法について、
図17のフロー図を参照して説明する。
【0112】
(固着工程S41)
まず、金属層413となる金属板の他方の面にZr,Hf,Ta,Nb,B,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Mo,Si,Cu,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Li及びNiから選択される1種又は2種以上の添加元素を固着し、この添加元素を含有する固着層を形成する。
本実施形態では、添加元素としてNiをめっきによって固着しており、その固着量を0.05mg/cm
2以上2.0mg/cm
2以下に設定している。
【0113】
(加熱工程S42)
次に、固着層が形成された金属板を加熱炉によって加熱する。このときの加熱温度は、150℃〜600℃に設定されている。
この加熱工程S42により、金属板の固着層に含有された添加元素(Ni)が金属板の一方の面側に向けて拡散していく。これにより、金属層413となる金属板には、硬化層413A、本体層413Bが形成されることになる。
【0114】
(積層工程S43)
次に、セラミックス基板411の一方の面に、回路層412となる金属板を、厚さ15〜30μm(本実施形態では20μm)のろう材箔を介して積層し、セラミックス基板411の他方の面に、固着層の添加元素を拡散させた金属板を、厚さ15〜30μm(本実施形態では20μm)のろう材箔を介して積層して、積層体を形成する。なお、本実施形態においては、ろう材箔は、融点降下元素であるSiを含有したAl−Si系のろう材とされている。
【0115】
(接合加熱工程S44)
次に、積層工程S43において形成された積層体を、その積層方向に加圧(圧力1〜5kgf/cm
2)した状態で加熱炉内に装入して加熱し、金属板とセラミックス基板411との界面にそれぞれ溶融金属領域を形成する。
なお、本実施形態では、加熱炉内の雰囲気をN
2ガス雰囲気としており、加熱温度は、550℃以上650℃以下の範囲内に設定している。
【0116】
(凝固工程S45)
次に、積層体を冷却することによって溶融金属層を凝固させ、セラミックス基板411と金属板とを接合する。このようにして、回路層412及び金属層413となる金属板とセラミックス基板411とが接合される。このとき、ろう材箔に含まれるSiが拡散することで、金属層413には、界面近傍層413Cが形成される。
このようにして、本実施形態であるパワーモジュール用基板410が製出される。
【0117】
以上のような構成とされた本実施形態であるパワーモジュール用基板410においては、金属層413の他方の面側に硬化層413Aが形成されているので、熱サイクル負荷時におけるうねりやシワの発生を抑制することが可能となる。また、金属層413は、硬化層413Aよりも硬度が低い本体層413Bを有しているので、熱サイクル負荷時の熱応力を、この本体層413Bの変形によって吸収することが可能となる。
【0118】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、硬化層が含有する添加元素は、実施形態で具体的に記載したものに限定されることはなく、Zr,Hf,Ta,Nb,B,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Mo,Si,Cu,Zn,Ge,Ag,Mg,Ca,Li及びNiから選択される1種又は2種以上を用いてもよい。
また、スパッタやめっきによって固着層を形成するものとして説明したが、これに限定されることはなく、蒸着、CVD、コールドスプレー、又は、前記添加元素を含有する粉末が分散されたペースト若しくはインクの塗布によって添加元素を固着させてもよい。
【0119】
また、Alとともに添加元素、第2添加元素、活性元素を固着してもよい。この場合、Ca及びLi等の酸化しやすい元素であっても確実に固着させることが可能となる。なお、前記添加元素とともにAlを固着させるには、前記添加元素とAlとを同時に蒸着してもよいし、前記添加元素とAlの合金をターゲットとして用いてスパッタリングを行ってもよい。
【0120】
また、ヒートシンクとして銅製の放熱板を備えたものを例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、他の構造のヒートシンクを用いたものであってもよい。
さらに、第2、第3の実施形態において、セラミックス基板と金属板との接合を、N
2雰囲気の加熱炉を用いて行うものとして説明したが、これに限定されることはなく、真空炉を用いてセラミックス基板と金属板との接合を行ってもよい。この場合の真空度は、10
−6〜10
−3Paの範囲内とすることが好ましい。
【0121】
また、第2の実施形態において、セラミックス基板としてAl
2O
3を使用し、セラミックス基板と金属板との接合界面に活性元素を含む酸化物層を形成したものとして説明したが、これに限定されることはなく、セラミックス基板としてAlNやSi
3N
4を使用し、セラミックス基板と金属板との接合界面に活性元素を含む窒化物層を形成したものであってもよい。
【実施例】
【0122】
本発明の有効性を確認するために行った比較実験について説明する。
まず、厚さ0.6mmの4Nアルミニウムからなる金属板の他方の面に、表1に示す添加元素を固着し、加熱することで硬化層を形成した。表1に、添加元素の固着量、加熱条件を示す。
【0123】
【表1】
【0124】
金属板に形成された硬化層及び本体層について、硬化層の他方の面におけるインデンテーション硬度Hs、硬化層の厚さ、本体層のインデンテーション硬度Hb、本体層の厚さを評価した。なお、本体層のインデンテーション硬度Hbは、金属板の面中央における金属板の厚さ方向中央部を測定した。
また、硬化層を形成しない4Nアルミニウムからなる金属板を比較例Aとした。この比較例Aについても、上述の硬化層の他方の面に相当する位置、及び、本体層に相当する位置で、それぞれインデンテーション硬度を測定した。結果を表2に示す。
【0125】
【表2】
【0126】
試料1−21について、いずれも金属板の表面に硬化層が形成され、その硬化層に積層するように、硬化層よりも硬度の低い本体層が形成された。
【0127】
次に、厚さ0.635mmのAlNからなるセラミックス基板に、回路層として、4Nアルミニウムからなる厚さ0.6mmの金属板、及び、金属層として厚さ0.6mmの金属板を、Al−Si系のろう材を用いて接合し、パワーモジュール用基板を製作した。
ここで、表1及び表2の試料1,2,9,10,14,21の金属板を用いて金属層を形成したものを本発明例1−6とした。
また、表2の比較例Aの金属板を用いて金属層を形成したものを比較例Bとした。
【0128】
そして、これらの試験片を用いて熱サイクル試験を実施した。具体的には、冷熱サイクル(−45℃←→125℃)を2000回繰り返した後に、試験片を観察し、金属層表面のうねり状態、セラミックス基板と金属層との間の接合率を評価した。結果を表3に示す。
なお、うねりについては、半径が2μmの球状先端を有し、テーパ角が90°の円錐を触針として用い、2.5(mm/基準長さ)×5区間の距離を、荷重4mN,速度1mm/sで表面を走査して区間平均の粗さ曲線を測定し、その十点平均粗さRz(JIS B0601−1994)を算出した。
また、接合率は、以下の式で算出した。ここで、「初期接合面積」とは、接合前における接合すべき面積のことである。
接合率 = (初期接合面積−剥離面積)/初期接合面積
【0129】
【表3】
【0130】
比較例Bでは、接合率は高いものの金属層の表面にうねりが確認された。
これに対して、硬化層を形成した本発明例1−6においては、金属層表面のうねりが抑制され、かつ、接合率も高かった。