特許第5900130号(P5900130)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5900130フルオロアルキルアイオダイドの利用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5900130
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月6日
(54)【発明の名称】フルオロアルキルアイオダイドの利用方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 7/19 20060101AFI20160324BHJP
   C01F 11/22 20060101ALI20160324BHJP
   C07C 17/25 20060101ALN20160324BHJP
   C07C 17/275 20060101ALN20160324BHJP
   C07C 19/16 20060101ALN20160324BHJP
   C07C 21/18 20060101ALN20160324BHJP
   B01J 23/72 20060101ALN20160324BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20160324BHJP
【FI】
   C01B7/19 A
   C01F11/22
   !C07C17/25
   !C07C17/275
   !C07C19/16
   !C07C21/18
   !B01J23/72 X
   !C07B61/00 300
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-96401(P2012-96401)
(22)【出願日】2012年4月20日
(65)【公開番号】特開2013-224270(P2013-224270A)
(43)【公開日】2013年10月31日
【審査請求日】2015年1月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久米 拓司
(72)【発明者】
【氏名】島田 朋生
(72)【発明者】
【氏名】平坂 岳臣
【審査官】 山本 昌広
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−130427(JP,A)
【文献】 特開2010−235577(JP,A)
【文献】 特開平5−345732(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/151110(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 7/00−7/24
C01F 11/00−11/48
B01J 23/00−23/96
C07B 61/00
C07C 17/00−25/28
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(i)〜(iii)の工程を含むことを特徴とする、一般式(1):Rf(CF2CF2)nI(式中、Rfは、炭素数1〜10のフルオロアルキル基であり、nは1以上の整数である)で表されるフルオロアルキルアイオダイドの利用方法:
(i) 一般式(1):Rf(CF2CF2)nI(式中、Rf及びnは上記に同じ)で表されるフルオロアルキルアイオダイドをエチレンと反応させて、一般式(2):Rf(CF2CF2)nCH2CH2I(式中、Rf及びnは上記に同じ)で表されるエチレン付加物とする工程、
(ii) 上記(i)工程で得られた一般式(2)で表されるエチレン付加物を、低級アルコールの存在下で、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ金属アルコキシドからなる群から選ばれた少なくとも一種のアルカリ金属化合物と反応させて、一般式(3):Rf(CF2CF2)nCH=CH2(式中、Rf及びnは上記に同じ)で表されるオレフィン化物とする工程、
(iii) 工程(ii)で得られた一般式(3)で表されるオレフィン化物を加熱してフッ化水素を発生させ、水に吸収させてフッ化水素酸とする工程。
【請求項2】
一般式(1)で表されるフルオロアルキルアイオダイドの炭素数が8以上である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(ii)で用いる低級アルコールがメタノール及びエタノールからなる群から選ばれた少なくとも一種であり、アルカリ金属水酸化物が水酸化ナトリウムであり、アルカリ金属アルコキシドがナトリウムメトキシドである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかの方法で得られたフッ化水素酸をカルシウムイオンと反応させて、フッ化カルシウムとして回収することを特徴とする、フルオロアルキルアイオダイドの利用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオロアルキルアイオダイドの利用方法に関するものであり、更に詳しくは、テロメル化反応によって得られたフルオロアルキルアイオダイドからフッ化水素酸又はフッ化カルシウムを回収することによって、不要な鎖長のフルオロアルキルアイオダイドを有効に利用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フルオロアルキルアイオダイドは撥水撥油剤、乳化剤をはじめとする機能性材料や有機合成中間体として非常に有用な化合物であり、主にテトラフルオロエチレンを原料とするテロメル化反応によりに生産されている。
【0003】
テロメル化反応とは、適当な触媒の存在下で熱又は光を作用させて、テロゲンにタクソゲンを付加し、重合度の低いポリマー、即ちテロマーを得る反応である。
【0004】
しかしながらテロメル化反応は重合反応の一種であることから、粗製品は常に炭素数に分布を持った状態で得られる。従ってテロメル化反応によって得られるフルオロアルキルアイオダイドテロマーのうち、一定量は常に産業上の利用価値の少ない長鎖テロマーの状態となり、希少資源の有効利用、製造コスト低減等の見地においてもその再資源化が求められる。
【0005】
例えば、フルオロアルキルアイオダイドを酸素と水の共存下で燃焼処理することによって、フッ素原子をフッ化水素酸として回収することが可能である。しかしながら、フルオロアルキルアイオダイドからフッ素原子とヨウ素原子を分離することなく燃焼処理すると、フッ化水素酸、ヨウ化水素酸およびヨウ素が同時に生成するため、焼却炉の材質を激しく腐食し、劣化させることが予想される。また、この方法で得られた混酸からフッ化水素酸を回収しようとした場合、分離精製が別途必要となり、プロセスが煩雑となる。
【0006】
また、長鎖テロマーの再資源化方法として、炭素数6以上のフルオロアルキルアイオダイドに炭素数4以下のフルオロアルキルアイオダイドを混合して熱処理を行うことによって、炭素数4〜6のフルオロアルキルアイオダイドを得る方法が報告されている(下記特許文献1参照)。しかしながら、この方法によれば、目的とする短鎖フルオロアルキルアイオダイドの選択率が低く、炭素数に分布を有するテロマー化合物が得られ、更に、副生物としてパーフルオロカーボン、ヨウ素等が生成する。このため所望のフルオロアルキルアイオダイドを分離精製するプロセスが別途必要になるが、テロマー化合物と同様に炭素数に分布を持つパーフルオロカーボンが混在する為に分離精製が煩雑になる。また、ヨウ素および高炭素数(特に炭素数12以上)のパーフルオロカーボンは常温において固体である為に生産設備内で固化して装置、配管を閉塞させる原因となる。さらに、この方法の実施に適した温度域とされている450℃〜495℃では、ヨウ素は金属材質への極めて著しい腐食性を有するため、生産設備の維持管理における懸念となる。
【0007】
また、フルオロアルキルアイオダイドを水素と反応させてヨウ化物(Rf-I)を水素化物(Rf-H)として回収する方法も提案されている(下記特許文献2参照)。しかしながら、この方法では、上記のテロマーの熱分解と同様に高温下で副生するヨウ素およびヨウ化水素を取り扱わねばならず、設備寿命が短くなるという問題点がある。また、副反応によるパーフルオロカーボンの生成やパーフルオロアルキル鎖の分解を抑制するために反応温度を低下させると反応の転化率が低下するために、所望の化合物の分離精製が別途必要になる等、プロセスが煩雑となる。
【0008】
一方、メタノールの存在下でパーフルオロアルキルアイオダイドとアルカリ金属水酸化物とを反応させることによって、1H-パーフルオロアルカンとアルカリ金属ヨウ化物を得る方法も報告されている(下記特許文献3参照)。この方法によれば、パーフルオロアルキルアイオダイドを1H-パーフルオロアルカンとアルカリ金属ヨウ化物に変換することができるが、アルカリ金属水酸化物をパーフルオロアルキルアイオダイドに対して大過剰に使用する必要がある為、反応後に回収されるアルカリ金属ヨウ化物は多量のアルカリ金属水酸化物との混合物として得られる。このため、その後の回収再利用において分離精製工程が別途必要となり、効率的であるとは言い難い。更に、この方法によってフルオロアルキルアイオダイドとアルカリ金属水酸化物とを反応させる場合、メタノールからのプロトン供与によって1H-パーフルオロアルカンが生成すると同時にホルムアルデヒドが副生する。このためこの方法では、反応1バッチ毎にメタノールが消費されるので、補充する必要が有り、反応後のメタノールを回収、再利用する場合には分離精製が必要となる。しかも、ホルムアルデヒドは易重合性物質である為に生産設備内で重合して設備の閉塞や汚染の原因となり得る。
【0009】
以上の通り、特許文献1に記載の方法では、不要な鎖長のフルオロアルキルアイオダイドを完全に再利用することができない。また、特許文献2又は特許文献3に記載の方法では、生成物である1H-パーフルオロアルカン(Rf-H)に用途が無ければフッ素原子を再資源化することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO2011/256312 A1
【特許文献2】USP6525231
【特許文献3】特許第2559312号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、テロメル化反応を利用してフルオロアルキルアイオダイドを製造する際に生じる不要な鎖長のテロマー、特に長鎖テロマーを、煩雑な分離操作などを要することなく、しかも装置に対して悪影響を及ぼすことなく、有効に再利用できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、各種の鎖長のフルオロアルキルアイオダイドを処理対象として、これにエチレンを付加させてエチレン付加物とした後、低級アルコールの存在下に、アルカリ金属水酸化物及び/又はアルカリ金属アルコキシドと反応させてオレフィン化を行い、その後、オレフィン化物を酸素含有雰囲気中で熱処理してフッ化水素を発生させ、水に吸収させてフッ化水素酸とする方法によれば、フルオロアルキルアイオダイド中のフッ素原子をほぼ完全にフッ化水素酸として回収できることを見出した。しかも、この方法では、エチレン付加物の脱ヨウ化水素反応によって、処理対象とするフルオロアルキルアイオダイド中に含まれていたヨウ素分をほぼ完全に除去することができるため、燃焼時に副生するヨウ化水素による設備の腐食、劣化や再生されるフッ化水素中へのヨウ素原子の混入等の懸念を解消することができる。そして、この方法で得られたフッ化水素酸は、高純度であり、煩雑な精製工程などを要することなく、カルシウムイオンと反応させて、フッ化カルシウムを固液分離する方法によってフッ素原子をフッ化カルシウムとして収率良く回収できる。この方法で得られるフッ化カルシウムは、各種のフッ素化合物の原料として有効に利用できるものであり、不要な鎖長のフルオロアルキルアイオダイド、特に産業上の利用価値の少ない長鎖テロマーを有効に利用することが可能となる。本発明は、これらの新規な知見に基づいて完成されたものである。
【0013】
即ち、本発明は、下記のフルオロアルキルアイオダイドの利用方法を提供するものである。
項1. 下記(i)〜(iii)の工程を含むことを特徴とする、一般式(1):Rf(CF2CF2)nI(式中、Rfは、炭素数1〜10のフルオロアルキル基であり、nは1以上の整数である)で表されるフルオロアルキルアイオダイドの利用方法:
(i) 一般式(1):Rf(CF2CF2)nI(式中、Rf及びnは上記に同じ)で表されるフルオロアルキルアイオダイドをエチレンと反応させて、一般式(2):Rf(CF2CF2)nCH2CH2I(式中、Rf及びnは上記に同じ)で表されるエチレン付加物とする工程、
(ii) 上記(i)工程で得られた一般式(2)で表されるエチレン付加物を、低級アルコールの存在下で、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ金属アルコキシドからなる群から選ばれた少なくとも一種のアルカリ金属化合物と反応させて、一般式(3):Rf(CF2CF2)nCH=CH2(式中、Rf及びnは上記に同じ)で表されるオレフィン化物とする工程、
(iii) 工程(ii)で得られた一般式(3)で表されるオレフィン化物を加熱してフッ化水素を発生させ、水に吸収させてフッ化水素酸とする工程。
項2. 一般式(1)で表されるフルオロアルキルアイオダイドの炭素数が8以上である項1に記載の方法。
項3. 工程(ii)で用いる低級アルコールがメタノール及びエタノールからなる群から選ばれた少なくとも一種であり、アルカリ金属水酸化物が水酸化ナトリウムであり、アルカリ金属アルコキシドがナトリウムメトキシドである、項1又は2に記載の方法。
項4. 項1〜3のいずれかの方法で得られたフッ化水素酸をカルシウムイオンと反応させて、フッ化カルシウムとして回収することを特徴とする、フルオロアルキルアイオダイドの利用方法。
【0014】
以下、本発明方法について具体的に説明する。
【0015】
(1)処理対象物
本発明方法の処理対象物は、一般式(1):Rf(CF2CF2)nI(式中、Rfは、炭素数1〜10のフルオロアルキル基であり、nは1以上の整数である)で表されるフルオロアルキルアイオダイドである。
【0016】
上記一般式(1)で表されるフルオロアルキルアイオダイドは、例えば、Rf-Iで表されるフルオロアルキルアイオダイドとテトラフルオロエチレンとのテロメル化反応によって得ることができる。Rf-Iにおいて、Rfは、炭素数1〜10のフルオロアルキル基であり、好ましくは炭素数1〜8のフルオロアルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜5のフルオロアルキル基である。Rfはパーフルオロアルキル基であることが好ましい。
【0017】
Rf-Iの具体例としては、トリフルオロメチルアイオダイド、ペンタフルオロエチルアイオダイド、パーフルオロイソプロピルアイオダイド、パーフルオロ−n−ブチルアイオダイドなどが挙げられる。これらの内で、ペンタフルオロエチルアイオダイドがテトラフルオロエチレンのテロメル化反応に利用されることが多い。
【0018】
本発明方法の処理対象とする一般式(1)で表されるフルオロアルキルアイオダイドテロマーでは、重合度nは、1以上の整数であり、通常、2〜12程度の範囲である。例えば、炭素数が8以上の長鎖テロマーについても有効に処理できる。通常は、本発明方法では、重合度nの値の異なるフルオロアルキルアイオダイドテロマーの混合物も処理対象とすることができる。
【0019】
(2)処理方法
本発明の方法によれば、上記した一般式(1)で表されるフルオロアルキルアイオダイドを処理対象として、下記の工程により処理を行うことによって、該フルオロアルキルアイオダイド中のフッ素原子をフッ化水素酸として回収できる。
(i) 一般式(1)で表されるフルオロアルキルアイオダイドをエチレンと反応させてエチレン付加物とする工程、
(ii) 上記(i)工程で得られた一般式(2)で表されるエチレン付加物を、低級アルコールの存在下で、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ金属アルコキシドからなる群から選ばれた少なくとも一種のアルカリ金属化合物と反応させて、一般式(3):Rf(CF2CF2)nCH=CH2(式中、Rf及びnは上記に同じ)で表されるオレフィン化物とする工程、
(iii) 工程(ii)で得られたオレフィン化物を加熱してフッ化水素を発生させ、水に吸収させてフッ化水素酸とする工程。
【0020】
上記した方法で回収されるフッ化水素酸は、半導体用のエッチング剤やガラスの加工処理に有用な物質であり、更に、後述する方法で処理することによって、各種のフッ素化合物の原料として有効に利用できるフッ化カルシウム(蛍石)を容易に得ることができる。
【0021】
以下、上記した各工程について具体的に説明する。
【0022】
(i)エチレン付加工程
エチレン付加工程では、一般式(1):Rf(CF2CF2)nI(式中、Rfは、炭素数1〜10のフルオロアルキル基であり、nは1以上の整数である)で表されるフルオロアルキルアイオダイドにエチレンを付加させて、一般式(2):Rf(CF2CF2)nCH2CH2I(式中、Rf及びnは上記に同じ)で表されるエチレン付加物とする。
【0023】
この工程は、エチレン付加反応において一般的に採用されている条件下で実施することができる。具体的には、反応温度を、50〜200℃、例えば70〜120℃とし、反応圧力を0.01〜3MPa、例えば0.1〜1MPaとして、エチレン付加を実施すればよい。反応時間は、一般に、0.5〜4時間である。反応圧力は、圧入するエチレンによって生じる圧力である。
【0024】
エチレンの使用量は、一般式(1)で表されるフルオロアルキルアイオダイド1モルに対して1〜1.2モル程度とすることが好ましい。
【0025】
エチレン付加反応は、ラジカルを発生させる触媒の存在下で実施することが好ましい。触媒としては、例えば、アゾ化合物、有機過酸化物等を使用できる。アゾ化合物としては、例えば、α,α’−アゾビスイソブチロニトリルが使用できる。有機過酸化物としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド、t−ブチルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド、t−ブチル過炭酸イソプロピル等のパーオキシモノカーボネート等が使用できる。触媒の量は、一般式(1)で表されるフルオロアルキルアイオダイド1モルに対して、0.005〜0.02モル程度とすることが好ましい。
【0026】
また、エチレン付加反応を金属銅触媒の存在下で行うことによって、高い転化率を達成することができ、更に、高い選択率でモノエチレン付加体を製造することができる。しかも、上記の金属銅触媒は固体触媒であるため、生成物との分離が容易であり、かつ再利用が可能であるという利点もある。
【0027】
金属銅触媒としては、金属単体の銅であれば特に限定はない。金属銅触媒の形状は、触媒活性の観点より、金属銅表面上で出発物質との接触面積が大きい粉末状のものが好ましい。粉末状銅の平均粒子径としては、例えば、0.1〜300μm程度とすればよく、30〜150μm程度が好ましい。金属銅触媒の使用量は、例えば、一般式(1)で表されるフルオロアルキルアイオダイドの重量に対して0.1〜90重量%程度であればよく、0.5〜10重量%程度が好ましい。
【0028】
金属銅触媒は、金属銅を担体に担持させたものであってもよい。用いうる担体としては、金属銅触媒の活性に悪影響を及ぼさない担体であれば特に限定はなく、例えば、金属酸化物が挙げられる。具体的には、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化銅、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化アルミニウム、及び酸化ケイ素からなる群から選ばれる単一金属の金属酸化物、或いは亜鉛、鉄、銅、チタン、ジルコニウム、セリウム、アルミニウム、及びケイ素からなる群から選ばれる2種以上の金属の複合酸化物等が挙げられる。金属銅を担持する担体の形状は特に限定はないが、触媒活性の観点から粉末状のものが好ましい。金属銅を担体に固定化する方法は、公知の方法を用いればよい。
【0029】
金属銅を担体に担持させた金属銅触媒における金属銅の含有量は、触媒の合計量に対して、0.01〜50重量%程度であればよく、0.1〜20重量%程度とするのが好ましい。
【0030】
金属銅を担体に担持させた金属銅触媒の使用量は、例えば、一般式(1)で表されるフルオロアルキルアイオダイドの重量に対して0.1〜90重量%程度であればよく、好ましくは0.5〜10重量%程度である。
【0031】
また、金属銅触媒には、触媒の活性を上げるため他の金属を添加してもよい。例えば、チタン、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、スズ等が例示される。そのうち、スズが好ましい。添加する他の金属の使用量は、例えば、金属銅触媒の重量に対して0.1〜90重量%程度であればよく、好ましくは10〜30重量%程度である。他の金属は、触媒活性の観点から粉末状のものが好ましい。
【0032】
金属銅触媒を用いる場合のエチレン付加反応は、金属銅触媒の存在下で、一般式(1)で表されるフルオロアルキルアイオダイドとエチレンをエチレンガスの加圧下で反応させればよい。エチレンガスの圧力は、例えば、0.01〜3MPa程度であればよく、好ましくは0.1〜1MPa程度である。エチレンガスの使用量は、一般式(1)で表されるフルオロアルキルアイオダイド1モルに対して、例えば、1〜1.2モル程度とすればよい。
【0033】
エチレン付加反応は、例えば、オートクレーブ等の圧力加熱容器に一般式(1)で表されるフルオロアルキルアイオダイドと、必要に応じて金属銅触媒を入れ、容器内を脱気し、ヒーターにて反応温度まで昇温した後、エチレンガスを容器内に導入し、同温下一定時間撹拌することによって行うことができる。反応温度は、例えば、50〜200℃程度とすればよく、好ましくは、安全性及び反応速度の点から、70〜120℃程度とすればよい。
【0034】
エチレン付加反応の際には、エチレンが消費されると反応内圧が低下して反応速度が低下するために、逐次エチレンを供給し内圧を一定に保つことが好ましい。
【0035】
エチレン付加反応の反応時間は、反応条件により変化しうるが、通常0.5〜4時間程度であり、エチレンの圧力低下が見られなくなった時点を反応の終点とすればよい。
【0036】
(ii)オレフィン化工程
オレフィン化工程では、低級アルコールの存在下で、上記(i)工程で得られた一般式(2):Rf(CF2CF2)nCH2CH2I(式中、Rf及びnは上記に同じ)で表されるエチレン付加物と、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ金属アルコキシドからなる群から選ばれた少なくとも一種のアルカリ金属化合物とを反応させて、一般式(3):Rf(CF2CF2)nCH=CH2(式中、Rf及びnは上記に同じ)で表されるオレフィン化物とする。
【0037】
アルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを用いることができる。これらの内で、特に安価で入手可能である点で水酸化ナトリウムが好ましい。
【0038】
アルカリ金属アルコキシドとしては、チウムメトキシド、リチウムエトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシドなどを用いることができる。これらの中でも比較的安価に広く流通しているナトリウムメトキシドが好ましい。
【0039】
アルカリ金属水酸化物及びアルカリ金属アルコキシドは、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0040】
アルカリ金属水酸化物及びアルカリ金属アルコキシドからなる群から選ばれた少なくとも一種のアルカリ金属化合物の使用量は、その総量として、一般式(2)で表されるエチレン付加物1モルに対して1〜1.5モル程度とすることが好ましく、1〜1.2モル程度とすることがより好ましい。
【0041】
オレフィン化反応は、低級アルコールの存在下に行うことが必要である。低級アルコールとしては、炭素数1〜4程度の低級アルコールが好ましく、特に、メタノール、エタノールなどが好ましい。特に、安価に入手することが可能であって、水との共沸組成を持たないために回収が容易であり、更に、オレフィン化物の溶解量が少なく、分液後の収率が良好である点でメタノールが好ましい。低級アルコールは一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0042】
低級アルコールの使用量については、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ金属アルコキシドからなる群から選ばれた少なくとも一種のアルカリ金属化合物の総量としての使用量が、低級アルコール1リットルに対して1.5モル〜4モルの範囲内となる量とすることが好ましく、2〜3モルの範囲とすることがより好ましい。アルカリ金属化合物の濃度が上記した特定の範囲となるように低級アルコールを用いることによって、反応後に生成する一般式(3):Rf(CF2CF2)nCH=CH2(式中、Rf及びnは上記に同じ)で表されるオレフィン化物がアルコールから分離して、オレフィン化物の層とアルコールの層に二層に明確に分離する。これにより、オレフィン化物層とアルコール層を分液するのみで、高純度のオレフィン化物を回収することができる。また、アルコール層に溶解するオレフィン化物の量が非常に少ないので、オレフィン化物の収率も大きく向上する。
【0043】
オレフィン化工程は、水の存在下に行っても良い。但し、低級アルコールに対して水の量が多すぎると反応速度の低下を招き、反応後の低級アルコールの回収に支障を来たす恐れがある。このため、低級アルコール100体積部に対して45体積部以下であることが好ましく、11.5体積部以下であることが特に好ましい。
【0044】
オレフィン化工程を実施するための具体的な方法については特に限定的ではないが、処理方法の一例を示すと次の通りである。
【0045】
まず、反応容器に、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ金属アルコキシドからなる群から選ばれた少なくとも一種のアルカリ金属化合物、低級アルコール、及び一般式(2)で表されるエチレン付加物を投入して反応を行う。この時、必要であれば反応溶液を加熱、攪拌しても良い。
【0046】
アルカリ金属水酸化物及びアルカリ金属アルコキシドからなる群から選ばれた少なくとも一種のアルカリ金属化合物はエチレン付加物と同時に低級アルコールに添加してもよく、或いは、エチレン付加物を添加する前に予め低級アルコールに溶解して用いてもよい。
【0047】
反応温度は特に限定されないが、反応速度や安全性、経済性を考慮すると、通常、0〜200℃程度、好ましくは20〜160℃程度とすればよい。
【0048】
反応時の圧力については、特に限定されるものではなく、通常は、常圧又は加圧下に反応を行うことができる。
【0049】
反応時間については、通常、1〜10時間程度とすればよい。
【0050】
上記した方法によって、一般式(3)で表されるオレフィン化物を得ることができる。得られた反応溶液を静置することによって、目的物であるオレフィン化物を含む層とアルコール層との二層に分離する。下層のオレフィン化物層を分液によって回収することによって、高純度のオレフィン化物を得ることができる。また、アルコール層に溶解するオレフィン化物が非常に少ないので、高収率でオレフィン化物を得ることができる。
【0051】
(iii)熱処理工程
熱処理工程では、上記した(ii)工程で得られたオレフィン化物を加熱して熱分解によりフッ化水素を形成し、水に吸収させてフッ化水素酸とする。この工程では、フルオロアルキルアイドダイドテロマーを直接加熱して熱分解させる場合に生じるヨウ化水素およびヨウ素の発生がなく、ヨウ化水素およびヨウ素による設備の腐食、劣化や、形成されるフッ化水素酸中へのヨウ素原子の混入等の問題を解消できる。
【0052】
熱処理工程は、フッ化水素が発生する条件とすればよく、公知のフロン類破壊施設で行うことができる。フロン類破壊施設としては、例えば、液中燃焼法方式施設、プラズマ法方式施設、触媒法方式施設、過熱蒸気反応法方式施設などが使用できる。例えば、液中燃焼法方式施設では、燃料と、酸素源としての空気と、熱処理対象物とそれを加水分解する蒸気を導入して熱処理できる焼却炉と、燃焼ガスを水中に吹き込むことによって生成した酸分を水に吸収させて回収する冷却缶および/または吸収缶を備えた設備で処理することができる。処理対象物として、上記オレフィン化物を導入することによって、酸分としてフッ化水素酸を回収できる。
【0053】
以下、液中燃焼法方式を利用した熱処理方法について、より具体的に説明する。
【0054】
焼却炉の運転条件としては、温度が低いと燃焼が不十分となり、高いと炉の損傷が激しくなるため、炉内の温度は800℃以上1600℃以下、好ましくは1000℃以上1400℃以下とすればよい。炉内の圧力は、特に制約は無いが、運転の容易さから大気圧近辺とすればよく、例えば、-0.05〜0.1MPaG程度とすればよい。
【0055】
焼却炉中のオレフィン化物の滞留時間については、通常、1秒以上であればよく、好ましくは2秒以上である。
【0056】
処理対象物としては、上記した(ii)工程で得られたオレフィン化物を単独で用いる他、これ以外のフッ素化合物と同時に熱処理することができる。同時に熱処理できるフッ素化合物は、分子中にフッ素を有する化合物であって、炉内に供給できるものであれば特に限定はないが、純度よくフッ化水素酸を回収する場合は、化合物の構成元素はC、F、H、Oからなる群から選ばれる2種以上の元素を含む化合物が望ましい。
【0057】
また、塩素を含んだ化合物をオレフィン化物と同時に処理した場合、回収したフッ化水素酸に塩酸が含まれるため、純度よくフッ化水素酸を回収するためには別途精製工程が必要となるが、得られたフッ化水素酸を後述する(iv)工程で処理してフッ化カルシウムとする場合には、塩酸を含むフッ化水素酸からフッ化カルシウム形成工程を行った場合でも、精製工程を要することなく、純度よくフッ化カルシウムを回収することができる。
【0058】
燃料としては、都市ガス、重油などが使用できる。燃料の導入量は特に限定的ではないが、炉内の運転温度が上記の範囲の温度になる量が必要である。
【0059】
空気の導入は、上記のオレフィン化物と同時に処理するフッ素化合物および燃料を完全に燃焼するために必要な酸素を供給するためであり、その導入量は空気比として通常1〜3程度の量があればよく、好ましくは1〜2程度である。空気比が大きいと、火炎が不安定となり失火の原因となり、空気比が小さいと不完全燃焼を起こしてしまう。なお、空気比とは、可燃物(処理対象物及び燃料)を燃やす場合の理論空気量に対する実際に使用する空気量の比である。
【0060】
蒸気の導入は、燃焼したフッ素化合物のF原子を加水分解によりフッ化水素にするためであり、炉内温度の高温化による窒素酸化物の生成抑制のためでもある。その導入量は特に限定的ではないが、過剰量を導入しても効果は変わらず、結露によって腐食の原因となるため、一般的に空気100Nm3/hに対して10kg/hr程度である。
【0061】
以上の方法により、オレフィン化物のフッ素原子を、熱処理によって非常に高い効率でフッ化水素に分解することができる。
【0062】
フッ化水素を含む熱処理した高温のガスは、大量の水中に吹き込んで急冷して、フッ化水素などの酸分を水に吸収させることによって、フッ化水素酸として回収できる。
【0063】
フッ化水素を吸収させる水の量は、燃焼量に依存するが、回収されるフッ化水素酸の濃度が薄いと処理効率が悪く、濃度が高いと腐食の原因となるため、回収されるフッ化水素酸の濃度が1〜20重量%、好ましくは3〜10重量%となる水の量が使用される。
【0064】
(iv)フッ化カルシウム形成工程
フッ化カルシウム形成工程では、(iii)工程で回収したフッ化水素酸をカルシウムイオン存在下にpHを調整して、フッ化カルシウム(CaF2)を形成する。(iii)工程で回収したフッ化水素酸は、不純物の含量が低いため、不純物を除去するための工程を行うことなく、純度の高いフッ化カルシウムを得ることができる。
【0065】
また、フッ化水素酸中に不純物として塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンなどの他のハロゲン化物イオンが含まれていても、それぞれのカルシウム塩の水への溶解度がフッ化カルシウムの溶解度よりも充分に高いため、カルシウムイオンと反応させることによって純度よくフッ化カルシウムを得ることができる。
【0066】
フッ化カルシウム形成工程は、反応によりフッ化カルシウムが形成される条件とすればよい。通常は、フッ化水素酸をpH5〜8.5に調整してカルシウムイオンと反応させることによって、フッ化カルシウムを沈殿させて、固液分離すればよい。
【0067】
フッ化水素酸の濃度については特に限定的ではないが、通常1〜20重量%程度の濃度とすればよい。
【0068】
カルシウム塩としては、例えば、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウムなどが使用できる。これらの中でも、水に対する溶解度が高い点で塩化カルシウムが好ましい。塩化カルシウムを使用する場合には、水溶液の形態で供給される。塩化カルシウムの水溶液の濃度については特に限定はしないが、1〜30重量%程度とすることができる。
【0069】
カルシウムイオンの必要な存在量は、フッ素イオン1モルに対して0.5〜1.5モル程度あればよい。
【0070】
pH調整剤としては、反応液が酸性の場合は水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カルシウムなどを使用できる。その中でも、水酸化カルシウムはカルシウムイオン源としても利用できる点で好ましい。水酸化カルシウムを使用する場合には、粉末、水溶液の形態等で反応系に供給することもできるが、好ましくは、水に懸濁したスラリー状として供給する。スラリーにおいては、濃厚な水酸化カルシウム水溶液に水酸化カルシウム粒子が分散された状態となっている。水酸化カルシウムのスラリー濃度は特に限定しないが、1〜30重量%程度とすることができる。また、反応液がアルカリ性に振れてしまった場合には、塩酸、硫酸などが使用できるが、カルシウム塩の溶解度が高い点で、塩酸が望ましい。このようなpH調整剤を添加して前記pH範囲に調整することにより、沈殿物が生成する。沈殿はフッ化カルシウムである。
【0071】
フッ化カルシウムの沈殿物の沈降分離をよくするためには、反応液に対して無機凝集剤および/または有機凝集剤を添加して凝集させることが好ましい。無機凝集剤としては硫酸、ポリ塩化アルミニウム、硫酸バンドなどが使用できる。有機凝集剤としては、高分子凝集剤などが使用できる。
【0072】
凝集剤の添加量については、回収するフッ化カルシウムの純度低下の原因となるため、総反応液量に対して、0.5重量%以下が望ましい。
【0073】
カルシウムイオンとの反応によって得られたフッ化カルシウムの沈殿物は、公知の固液分離手段を用いて分離することができる。例えば、クラリファイヤーやシックナーなどを用いて分離することができる。
【0074】
固液分離によって得られた固形分は、公知の手段、例えば、フィルタープレス、スクリューデカンターなどの方法で脱水することができる。
【0075】
脱水した固体の純度をあげるためには、洗浄を行うことが望ましく、不純物が無機の固体であるため、水洗浄を行うことが好ましい。
【0076】
洗浄工程によって得られた固形物の乾燥は、各種の乾燥手段を用いて行うことができる。例えば、熱風乾燥、真空乾燥、エアーブロー、スピン乾燥、放射加熱式乾燥などの各種の乾燥手段を用いることができる。例えば、熱風乾燥を行うことで、水分を約15重量%程度以下まで低減した、フッ化カルシウムの固体を得ることができる。
【0077】
以上の工程により、90%以上の収率でフッ化水素酸のフッ素原子を、フッ化カルシウムの固体として回収することができる。また、この方法により、固形分におけるフッ化カルシウム含量が90重量%以上のフッ化カルシウムを回収することができる。
【0078】
以上の方法によって、テロメル化反応によって得られた不要な鎖長のフルオロアルキルアイオダイドテロマーを高い回収率でフッ化カルシウムとして回収することができる。この方法で回収されるフッ化カルシウムは、フッ素化合物の製造原料として有効に利用できる。
【発明の効果】
【0079】
本発明方法によれば、テロメル化反応によって得られるフルオロアルキルアイオダイドに含まれる不要な鎖長のテロマーから、非常に高い収率でフッ素原子をフッ化水素酸として回収することができる。この方法で得られるフッ化水素酸は、例えば、半導体用のエッチング剤やガラスの加工処理剤として使用できる有用な物質である。
【0080】
しかも、本発明の方法では、オレフィン化工程において、ヨウ素分をほぼ完全に除去できるため、熱処理工程においてヨウ化水素およびヨウ素が発生することがなく、設備の腐食、劣化や再生されるフッ化水素中へのヨウ素原子の混入等の問題が生じることがない。
【0081】
更に、本発明方法によって回収されるフッ化水素酸は高純度であり、煩雑な精製工程などを要することなく、比較的簡単な方法によって高い回収率でフッ素化合物の製造原料などとして有用性の高いフッ化カルシウム(蛍石)として回収することができる。
【0082】
従って、本発明方法によれば、テロメル化反応によって得られるフルオロアルキルアイオダイドに含まれる不要な鎖長のテロマーを有効利用することが可能となり、希少資源の有効利用、製造コスト低減等、極めて顕著な効果が達成される。
【発明を実施するための形態】
【0083】
以下、本発明の処理方法の各工程の有効性を示すために、工程毎の実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。
【0084】
実施例1:エチレン付加工程
200mlハステロイ製オートクレーブに、1−ヨードパーフルオロオクタン(n‐CF17I) 130.8gと銅粉2.66gを入れて脱気し、80℃まで昇温後、エチレンを導入してオートクレーブの内圧を0.1MPaとした。内圧を0.1MPaに保持しながらエチレンを導入し、エチレンの圧力低下が見られなくなった時点を反応の終点とした。反応時間は120分であった。反応混合物を冷却後、ガスクロマトグラフィーによる分析の結果、1−ヨードパーフルオロオクタンの転化率は99.7%であり、生成したエチレン付加体(エチレン1分子付加体)の選択率は99.9%以上であった。
【0085】
実施例2:オレフィン化工程
ジムロート冷却管を装着した200 mLのナスフラスコに、98%水酸化ナトリウム89.7mmolおよびメタノール45 mlを投入して、水酸化ナトリウムが溶解するまで50℃で撹拌を行った。水酸化ナトリウムが溶解した後に1H,1H,2H,2H−1−ヨードパーフルオロデカン50.02gを投入し、さらに2時間50℃で撹拌を行った。
【0086】
加熱、撹拌を停止して静置後、2層の溶液を分液して36.18gの下層を1H,1H,2H−パーフルオロデセンとして回収した。ガスクロマトグラフィーによる分析の結果、純度は99.99GC%であった。また、分離されたメタノール層の重量は50.72gであった。
【0087】
実施例3:オレフィン化工程
100 mLの振とう式オートクレーブに、1H,1H,2H,2H−1−ヨードパーフルオロデカン29.9g、98%水酸化ナトリウム53.9 mmolおよびメタノール26.9 mlを投入し、80℃のオイルバスに浸して2時間撹拌を行った。
【0088】
加熱、撹拌を停止して静置後、2層の溶液を分液して22.52gの下層を1H,1H,2H−パーフルオロデセンとして回収した。ガスクロマトグラフィーによる分析の結果、純度は99.99GC%であった。また、分離されたメタノール層の重量は31.34gであった。
【0089】
実施例4:オレフィン化工程
100 mLの振とう式オートクレーブに、式:C2F5(CF2CF2)nCH2CH2Iにおいて、nが3又は4である1−ヨード−2−(パーフルオロアルキル)エタンの混合物30.03g、98%水酸化ナトリウム52.0 mmolおよびメタノール26.9 mlを投入し、80℃のオイルバスに浸して2時間撹拌を行った。
【0090】
加熱、撹拌を停止して静置後、2層の溶液を分液して22.97gの下層をパーフルオロアルキルエチレンとして回収した。ガスクロマトグラフィー分析による原料の組成、反応の転化率を表1に示す。また、分離されたメタノール層の重量は29.08 gであった。
【0091】
実施例5:オレフィン化工程
100 mLの振とう式オートクレーブに、式:C2F5(CF2CF2)nCH2CH2Iにおいて、nが3〜11の範囲にある1−ヨード−2−(パーフルオロアルキル)エタンの混合物30.00g、98%水酸化ナトリウム48.6 mmolおよびメタノール24.3 mlを投入し、150℃のオイルバスに浸して2時間撹拌を行った。
【0092】
加熱、撹拌を停止して静置後、得られた白色に濁った2層の溶液を分液して21.21gの下層をパーフルオロアルキルエチレンとして回収した。ガスクロマトグラフィー分析による原料の組成、反応の転化率を表1に示す。また、分離されたメタノール層の重量は28.50 gであった。
【0093】
【表1】
【0094】
実施例6:熱処理工程
焼却ガスの吸収冷却缶、排ガス処理設備及び排水処理設備を備えた液中燃焼方式の3mの円筒竪型液中燃焼炉を用いて熱処理を行った。都市ガスの導入量34kg/h、蒸気導入量63kg/h、空気導入量980Nm3/hとして、炉内温度を1250℃で運転している焼却炉に、1H,1H,2H−パーフルオロデセン(C8F17CH=CH2)を含む含フッ素化合物を47kg/hで導入した。含フッ素化合物の主成分はHFC32及びHFC125などのHFC混合ガスと常温で液体である組成式C5F8H4Oで表される含フッ素エーテル混合物であった。この時の滞留時間は2.3秒であった。熱処理されたガスは、吸収冷却缶で冷却水を通して急冷することで、冷却水をフッ化水素酸として回収することができ、フッ化水素としての回収率は99.9%以上であった。冷却水を通ったガスは、水酸化ナトリウムを含む除害塔を通って大気放出されるが、排ガスをガスクロマトグラフィーにて分析したところ、フッ素化合物の分解率は99.99%以上であった。
【0095】
実施例7:フッ化カルシウム形成工程
1LのPFA製フラスコ中に、5重量%フッ化水素酸50gを投入した。別途ビーカーで水に分散させた水酸化カルシウムの1重量%スラリー556gを、室温で撹拌条件下、15分かけてスポイトで滴下した。次いで、10重量%硫酸を6g添加した。滴下後の反応液のpHは8であった。撹拌しながら、水で0.1重量%に希釈した高分子凝集剤を6g添加して、さらに5分撹拌を行った。
【0096】
反応液を桐山ロートを用いて吸引ろ過を行い、固体を分離した。得られた固体を100gの水での洗浄と桐山ロートでのろ過を2回行った。水洗した固体を恒温乾燥機で110℃2時間、乾燥した。室温まで冷却後、5.3gのフッ化カルシウムの白色固体を得た。赤外線式水分計による分析の結果、水分の含有量は1重量%であった。原子吸光およびFイオン分析の結果、固形分中のフッ化カルシウムの純度は93%であった。不純物は、硫酸カルシウムと炭酸カルシウムであった。フッ化水素酸からのフッ化カルシウムの収率は99%であった。