【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、各種の鎖長のフルオロアルキルアイオダイドを処理対象として、これにエチレンを付加させてエチレン付加物とした後、低級アルコールの存在下に、アルカリ金属水酸化物及び/又はアルカリ金属アルコキシドと反応させてオレフィン化を行い、その後、オレフィン化物を酸素含有雰囲気中で熱処理してフッ化水素を発生させ、水に吸収させてフッ化水素酸とする方法によれば、フルオロアルキルアイオダイド中のフッ素原子をほぼ完全にフッ化水素酸として回収できることを見出した。しかも、この方法では、エチレン付加物の脱ヨウ化水素反応によって、処理対象とするフルオロアルキルアイオダイド中に含まれていたヨウ素分をほぼ完全に除去することができるため、燃焼時に副生するヨウ化水素による設備の腐食、劣化や再生されるフッ化水素中へのヨウ素原子の混入等の懸念を解消することができる。そして、この方法で得られたフッ化水素酸は、高純度であり、煩雑な精製工程などを要することなく、カルシウムイオンと反応させて、フッ化カルシウムを固液分離する方法によってフッ素原子をフッ化カルシウムとして収率良く回収できる。この方法で得られるフッ化カルシウムは、各種のフッ素化合物の原料として有効に利用できるものであり、不要な鎖長のフルオロアルキルアイオダイド、特に産業上の利用価値の少ない長鎖テロマーを有効に利用することが可能となる。本発明は、これらの新規な知見に基づいて完成されたものである。
【0013】
即ち、本発明は、下記のフルオロアルキルアイオダイドの利用方法を提供するものである。
項1. 下記(i)〜(iii)の工程を含むことを特徴とする、一般式(1):R
f(CF
2CF
2)
nI(式中、Rfは、炭素数1〜10のフルオロアルキル基であり、nは1以上の整数である)で表されるフルオロアルキルアイオダイドの利用方法:
(i) 一般式(1):R
f(CF
2CF
2)
nI(式中、Rf及びnは上記に同じ)で表されるフルオロアルキルアイオダイドをエチレンと反応させて、一般式(2):R
f(CF
2CF
2)
nCH
2CH
2I(式中、Rf及びnは上記に同じ)で表されるエチレン付加物とする工程、
(ii) 上記(i)工程で得られた一般式(2)で表されるエチレン付加物を、低級アルコールの存在下で、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ金属アルコキシドからなる群から選ばれた少なくとも一種のアルカリ金属化合物と反応させて、一般式(3):R
f(CF
2CF
2)
nCH=CH
2(式中、Rf及びnは上記に同じ)で表されるオレフィン化物とする工程、
(iii) 工程(ii)で得られた一般式(3)で表されるオレフィン化物を加熱してフッ化水素を発生させ、水に吸収させてフッ化水素酸とする工程。
項2. 一般式(1)で表されるフルオロアルキルアイオダイドの炭素数が8以上である項1に記載の方法。
項3. 工程(ii)で用いる低級アルコールがメタノール及びエタノールからなる群から選ばれた少なくとも一種であり、アルカリ金属水酸化物が水酸化ナトリウムであり、アルカリ金属アルコキシドがナトリウムメトキシドである、項1又は2に記載の方法。
項4. 項1〜3のいずれかの方法で得られたフッ化水素酸をカルシウムイオンと反応させて、フッ化カルシウムとして回収することを特徴とする、フルオロアルキルアイオダイドの利用方法。
【0014】
以下、本発明方法について具体的に説明する。
【0015】
(1)処理対象物
本発明方法の処理対象物は、一般式(1):R
f(CF
2CF
2)
nI(式中、Rfは、炭素数1〜10のフルオロアルキル基であり、nは1以上の整数である)で表されるフルオロアルキルアイオダイドである。
【0016】
上記一般式(1)で表されるフルオロアルキルアイオダイドは、例えば、R
f-Iで表されるフルオロアルキルアイオダイドとテトラフルオロエチレンとのテロメル化反応によって得ることができる。R
f-Iにおいて、R
fは、炭素数1〜10のフルオロアルキル基であり、好ましくは炭素数1〜8のフルオロアルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜5のフルオロアルキル基である。R
fはパーフルオロアルキル基であることが好ましい。
【0017】
R
f-Iの具体例としては、トリフルオロメチルアイオダイド、ペンタフルオロエチルアイオダイド、パーフルオロイソプロピルアイオダイド、パーフルオロ−n−ブチルアイオダイドなどが挙げられる。これらの内で、ペンタフルオロエチルアイオダイドがテトラフルオロエチレンのテロメル化反応に利用されることが多い。
【0018】
本発明方法の処理対象とする一般式(1)で表されるフルオロアルキルアイオダイドテロマーでは、重合度nは、1以上の整数であり、通常、2〜12程度の範囲である。例えば、炭素数が8以上の長鎖テロマーについても有効に処理できる。通常は、本発明方法では、重合度nの値の異なるフルオロアルキルアイオダイドテロマーの混合物も処理対象とすることができる。
【0019】
(2)処理方法
本発明の方法によれば、上記した一般式(1)で表されるフルオロアルキルアイオダイドを処理対象として、下記の工程により処理を行うことによって、該フルオロアルキルアイオダイド中のフッ素原子をフッ化水素酸として回収できる。
(i) 一般式(1)で表されるフルオロアルキルアイオダイドをエチレンと反応させてエチレン付加物とする工程、
(ii) 上記(i)工程で得られた一般式(2)で表されるエチレン付加物を、低級アルコールの存在下で、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ金属アルコキシドからなる群から選ばれた少なくとも一種のアルカリ金属化合物と反応させて、一般式(3):R
f(CF
2CF
2)
nCH=CH
2(式中、Rf及びnは上記に同じ)で表されるオレフィン化物とする工程、
(iii) 工程(ii)で得られたオレフィン化物を加熱してフッ化水素を発生させ、水に吸収させてフッ化水素酸とする工程。
【0020】
上記した方法で回収されるフッ化水素酸は、半導体用のエッチング剤やガラスの加工処理に有用な物質であり、更に、後述する方法で処理することによって、各種のフッ素化合物の原料として有効に利用できるフッ化カルシウム(蛍石)を容易に得ることができる。
【0021】
以下、上記した各工程について具体的に説明する。
【0022】
(i)エチレン付加工程
エチレン付加工程では、一般式(1):R
f(CF
2CF
2)
nI(式中、Rfは、炭素数1〜10のフルオロアルキル基であり、nは1以上の整数である)で表されるフルオロアルキルアイオダイドにエチレンを付加させて、一般式(2):R
f(CF
2CF
2)
nCH
2CH
2I(式中、Rf及びnは上記に同じ)で表されるエチレン付加物とする。
【0023】
この工程は、エチレン付加反応において一般的に採用されている条件下で実施することができる。具体的には、反応温度を、50〜200℃、例えば70〜120℃とし、反応圧力を0.01〜3MPa、例えば0.1〜1MPaとして、エチレン付加を実施すればよい。反応時間は、一般に、0.5〜4時間である。反応圧力は、圧入するエチレンによって生じる圧力である。
【0024】
エチレンの使用量は、一般式(1)で表されるフルオロアルキルアイオダイド1モルに対して1〜1.2モル程度とすることが好ましい。
【0025】
エチレン付加反応は、ラジカルを発生させる触媒の存在下で実施することが好ましい。触媒としては、例えば、アゾ化合物、有機過酸化物等を使用できる。アゾ化合物としては、例えば、α,α’−アゾビスイソブチロニトリルが使用できる。有機過酸化物としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド、t−ブチルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド、t−ブチル過炭酸イソプロピル等のパーオキシモノカーボネート等が使用できる。触媒の量は、一般式(1)で表されるフルオロアルキルアイオダイド1モルに対して、0.005〜0.02モル程度とすることが好ましい。
【0026】
また、エチレン付加反応を金属銅触媒の存在下で行うことによって、高い転化率を達成することができ、更に、高い選択率でモノエチレン付加体を製造することができる。しかも、上記の金属銅触媒は固体触媒であるため、生成物との分離が容易であり、かつ再利用が可能であるという利点もある。
【0027】
金属銅触媒としては、金属単体の銅であれば特に限定はない。金属銅触媒の形状は、触媒活性の観点より、金属銅表面上で出発物質との接触面積が大きい粉末状のものが好ましい。粉末状銅の平均粒子径としては、例えば、0.1〜300μm程度とすればよく、30〜150μm程度が好ましい。金属銅触媒の使用量は、例えば、一般式(1)で表されるフルオロアルキルアイオダイドの重量に対して0.1〜90重量%程度であればよく、0.5〜10重量%程度が好ましい。
【0028】
金属銅触媒は、金属銅を担体に担持させたものであってもよい。用いうる担体としては、金属銅触媒の活性に悪影響を及ぼさない担体であれば特に限定はなく、例えば、金属酸化物が挙げられる。具体的には、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化銅、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化アルミニウム、及び酸化ケイ素からなる群から選ばれる単一金属の金属酸化物、或いは亜鉛、鉄、銅、チタン、ジルコニウム、セリウム、アルミニウム、及びケイ素からなる群から選ばれる2種以上の金属の複合酸化物等が挙げられる。金属銅を担持する担体の形状は特に限定はないが、触媒活性の観点から粉末状のものが好ましい。金属銅を担体に固定化する方法は、公知の方法を用いればよい。
【0029】
金属銅を担体に担持させた金属銅触媒における金属銅の含有量は、触媒の合計量に対して、0.01〜50重量%程度であればよく、0.1〜20重量%程度とするのが好ましい。
【0030】
金属銅を担体に担持させた金属銅触媒の使用量は、例えば、一般式(1)で表されるフルオロアルキルアイオダイドの重量に対して0.1〜90重量%程度であればよく、好ましくは0.5〜10重量%程度である。
【0031】
また、金属銅触媒には、触媒の活性を上げるため他の金属を添加してもよい。例えば、チタン、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、スズ等が例示される。そのうち、スズが好ましい。添加する他の金属の使用量は、例えば、金属銅触媒の重量に対して0.1〜90重量%程度であればよく、好ましくは10〜30重量%程度である。他の金属は、触媒活性の観点から粉末状のものが好ましい。
【0032】
金属銅触媒を用いる場合のエチレン付加反応は、金属銅触媒の存在下で、一般式(1)で表されるフルオロアルキルアイオダイドとエチレンをエチレンガスの加圧下で反応させればよい。エチレンガスの圧力は、例えば、0.01〜3MPa程度であればよく、好ましくは0.1〜1MPa程度である。エチレンガスの使用量は、一般式(1)で表されるフルオロアルキルアイオダイド1モルに対して、例えば、1〜1.2モル程度とすればよい。
【0033】
エチレン付加反応は、例えば、オートクレーブ等の圧力加熱容器に一般式(1)で表されるフルオロアルキルアイオダイドと、必要に応じて金属銅触媒を入れ、容器内を脱気し、ヒーターにて反応温度まで昇温した後、エチレンガスを容器内に導入し、同温下一定時間撹拌することによって行うことができる。反応温度は、例えば、50〜200℃程度とすればよく、好ましくは、安全性及び反応速度の点から、70〜120℃程度とすればよい。
【0034】
エチレン付加反応の際には、エチレンが消費されると反応内圧が低下して反応速度が低下するために、逐次エチレンを供給し内圧を一定に保つことが好ましい。
【0035】
エチレン付加反応の反応時間は、反応条件により変化しうるが、通常0.5〜4時間程度であり、エチレンの圧力低下が見られなくなった時点を反応の終点とすればよい。
【0036】
(ii)オレフィン化工程
オレフィン化工程では、低級アルコールの存在下で、上記(i)工程で得られた一般式(2):R
f(CF
2CF
2)
nCH
2CH
2I(式中、Rf及びnは上記に同じ)で表されるエチレン付加物と、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ金属アルコキシドからなる群から選ばれた少なくとも一種のアルカリ金属化合物とを反応させて、一般式(3):R
f(CF
2CF
2)
nCH=CH
2(式中、Rf及びnは上記に同じ)で表されるオレフィン化物とする。
【0037】
アルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを用いることができる。これらの内で、特に安価で入手可能である点で水酸化ナトリウムが好ましい。
【0038】
アルカリ金属アルコキシドとしては、チウムメトキシド、リチウムエトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシドなどを用いることができる。これらの中でも比較的安価に広く流通しているナトリウムメトキシドが好ましい。
【0039】
アルカリ金属水酸化物及びアルカリ金属アルコキシドは、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0040】
アルカリ金属水酸化物及びアルカリ金属アルコキシドからなる群から選ばれた少なくとも一種のアルカリ金属化合物の使用量は、その総量として、一般式(2)で表されるエチレン付加物1モルに対して1〜1.5モル程度とすることが好ましく、1〜1.2モル程度とすることがより好ましい。
【0041】
オレフィン化反応は、低級アルコールの存在下に行うことが必要である。低級アルコールとしては、炭素数1〜4程度の低級アルコールが好ましく、特に、メタノール、エタノールなどが好ましい。特に、安価に入手することが可能であって、水との共沸組成を持たないために回収が容易であり、更に、オレフィン化物の溶解量が少なく、分液後の収率が良好である点でメタノールが好ましい。低級アルコールは一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0042】
低級アルコールの使用量については、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ金属アルコキシドからなる群から選ばれた少なくとも一種のアルカリ金属化合物の総量としての使用量が、低級アルコール1リットルに対して1.5モル〜4モルの範囲内となる量とすることが好ましく、2〜3モルの範囲とすることがより好ましい。アルカリ金属化合物の濃度が上記した特定の範囲となるように低級アルコールを用いることによって、反応後に生成する一般式(3):R
f(CF
2CF
2)
nCH=CH
2(式中、Rf及びnは上記に同じ)で表されるオレフィン化物がアルコールから分離して、オレフィン化物の層とアルコールの層に二層に明確に分離する。これにより、オレフィン化物層とアルコール層を分液するのみで、高純度のオレフィン化物を回収することができる。また、アルコール層に溶解するオレフィン化物の量が非常に少ないので、オレフィン化物の収率も大きく向上する。
【0043】
オレフィン化工程は、水の存在下に行っても良い。但し、低級アルコールに対して水の量が多すぎると反応速度の低下を招き、反応後の低級アルコールの回収に支障を来たす恐れがある。このため、低級アルコール100体積部に対して45体積部以下であることが好ましく、11.5体積部以下であることが特に好ましい。
【0044】
オレフィン化工程を実施するための具体的な方法については特に限定的ではないが、処理方法の一例を示すと次の通りである。
【0045】
まず、反応容器に、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ金属アルコキシドからなる群から選ばれた少なくとも一種のアルカリ金属化合物、低級アルコール、及び一般式(2)で表されるエチレン付加物を投入して反応を行う。この時、必要であれば反応溶液を加熱、攪拌しても良い。
【0046】
アルカリ金属水酸化物及びアルカリ金属アルコキシドからなる群から選ばれた少なくとも一種のアルカリ金属化合物はエチレン付加物と同時に低級アルコールに添加してもよく、或いは、エチレン付加物を添加する前に予め低級アルコールに溶解して用いてもよい。
【0047】
反応温度は特に限定されないが、反応速度や安全性、経済性を考慮すると、通常、0〜200℃程度、好ましくは20〜160℃程度とすればよい。
【0048】
反応時の圧力については、特に限定されるものではなく、通常は、常圧又は加圧下に反応を行うことができる。
【0049】
反応時間については、通常、1〜10時間程度とすればよい。
【0050】
上記した方法によって、一般式(3)で表されるオレフィン化物を得ることができる。得られた反応溶液を静置することによって、目的物であるオレフィン化物を含む層とアルコール層との二層に分離する。下層のオレフィン化物層を分液によって回収することによって、高純度のオレフィン化物を得ることができる。また、アルコール層に溶解するオレフィン化物が非常に少ないので、高収率でオレフィン化物を得ることができる。
【0051】
(iii)熱処理工程
熱処理工程では、上記した(ii)工程で得られたオレフィン化物を加熱して熱分解によりフッ化水素を形成し、水に吸収させてフッ化水素酸とする。この工程では、フルオロアルキルアイドダイドテロマーを直接加熱して熱分解させる場合に生じるヨウ化水素およびヨウ素の発生がなく、ヨウ化水素およびヨウ素による設備の腐食、劣化や、形成されるフッ化水素酸中へのヨウ素原子の混入等の問題を解消できる。
【0052】
熱処理工程は、フッ化水素が発生する条件とすればよく、公知のフロン類破壊施設で行うことができる。フロン類破壊施設としては、例えば、液中燃焼法方式施設、プラズマ法方式施設、触媒法方式施設、過熱蒸気反応法方式施設などが使用できる。例えば、液中燃焼法方式施設では、燃料と、酸素源としての空気と、熱処理対象物とそれを加水分解する蒸気を導入して熱処理できる焼却炉と、燃焼ガスを水中に吹き込むことによって生成した酸分を水に吸収させて回収する冷却缶および/または吸収缶を備えた設備で処理することができる。処理対象物として、上記オレフィン化物を導入することによって、酸分としてフッ化水素酸を回収できる。
【0053】
以下、液中燃焼法方式を利用した熱処理方法について、より具体的に説明する。
【0054】
焼却炉の運転条件としては、温度が低いと燃焼が不十分となり、高いと炉の損傷が激しくなるため、炉内の温度は800℃以上1600℃以下、好ましくは1000℃以上1400℃以下とすればよい。炉内の圧力は、特に制約は無いが、運転の容易さから大気圧近辺とすればよく、例えば、-0.05〜0.1MPaG程度とすればよい。
【0055】
焼却炉中のオレフィン化物の滞留時間については、通常、1秒以上であればよく、好ましくは2秒以上である。
【0056】
処理対象物としては、上記した(ii)工程で得られたオレフィン化物を単独で用いる他、これ以外のフッ素化合物と同時に熱処理することができる。同時に熱処理できるフッ素化合物は、分子中にフッ素を有する化合物であって、炉内に供給できるものであれば特に限定はないが、純度よくフッ化水素酸を回収する場合は、化合物の構成元素はC、F、H、Oからなる群から選ばれる2種以上の元素を含む化合物が望ましい。
【0057】
また、塩素を含んだ化合物をオレフィン化物と同時に処理した場合、回収したフッ化水素酸に塩酸が含まれるため、純度よくフッ化水素酸を回収するためには別途精製工程が必要となるが、得られたフッ化水素酸を後述する(iv)工程で処理してフッ化カルシウムとする場合には、塩酸を含むフッ化水素酸からフッ化カルシウム形成工程を行った場合でも、精製工程を要することなく、純度よくフッ化カルシウムを回収することができる。
【0058】
燃料としては、都市ガス、重油などが使用できる。燃料の導入量は特に限定的ではないが、炉内の運転温度が上記の範囲の温度になる量が必要である。
【0059】
空気の導入は、上記のオレフィン化物と同時に処理するフッ素化合物および燃料を完全に燃焼するために必要な酸素を供給するためであり、その導入量は空気比として通常1〜3程度の量があればよく、好ましくは1〜2程度である。空気比が大きいと、火炎が不安定となり失火の原因となり、空気比が小さいと不完全燃焼を起こしてしまう。なお、空気比とは、可燃物(処理対象物及び燃料)を燃やす場合の理論空気量に対する実際に使用する空気量の比である。
【0060】
蒸気の導入は、燃焼したフッ素化合物のF原子を加水分解によりフッ化水素にするためであり、炉内温度の高温化による窒素酸化物の生成抑制のためでもある。その導入量は特に限定的ではないが、過剰量を導入しても効果は変わらず、結露によって腐食の原因となるため、一般的に空気100Nm
3/hに対して10kg/hr程度である。
【0061】
以上の方法により、オレフィン化物のフッ素原子を、熱処理によって非常に高い効率でフッ化水素に分解することができる。
【0062】
フッ化水素を含む熱処理した高温のガスは、大量の水中に吹き込んで急冷して、フッ化水素などの酸分を水に吸収させることによって、フッ化水素酸として回収できる。
【0063】
フッ化水素を吸収させる水の量は、燃焼量に依存するが、回収されるフッ化水素酸の濃度が薄いと処理効率が悪く、濃度が高いと腐食の原因となるため、回収されるフッ化水素酸の濃度が1〜20重量%、好ましくは3〜10重量%となる水の量が使用される。
【0064】
(iv)フッ化カルシウム形成工程
フッ化カルシウム形成工程では、(iii)工程で回収したフッ化水素酸をカルシウムイオン存在下にpHを調整して、フッ化カルシウム(CaF
2)を形成する。(iii)工程で回収したフッ化水素酸は、不純物の含量が低いため、不純物を除去するための工程を行うことなく、純度の高いフッ化カルシウムを得ることができる。
【0065】
また、フッ化水素酸中に不純物として塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンなどの他のハロゲン化物イオンが含まれていても、それぞれのカルシウム塩の水への溶解度がフッ化カルシウムの溶解度よりも充分に高いため、カルシウムイオンと反応させることによって純度よくフッ化カルシウムを得ることができる。
【0066】
フッ化カルシウム形成工程は、反応によりフッ化カルシウムが形成される条件とすればよい。通常は、フッ化水素酸をpH5〜8.5に調整してカルシウムイオンと反応させることによって、フッ化カルシウムを沈殿させて、固液分離すればよい。
【0067】
フッ化水素酸の濃度については特に限定的ではないが、通常1〜20重量%程度の濃度とすればよい。
【0068】
カルシウム塩としては、例えば、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウムなどが使用できる。これらの中でも、水に対する溶解度が高い点で塩化カルシウムが好ましい。塩化カルシウムを使用する場合には、水溶液の形態で供給される。塩化カルシウムの水溶液の濃度については特に限定はしないが、1〜30重量%程度とすることができる。
【0069】
カルシウムイオンの必要な存在量は、フッ素イオン1モルに対して0.5〜1.5モル程度あればよい。
【0070】
pH調整剤としては、反応液が酸性の場合は水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カルシウムなどを使用できる。その中でも、水酸化カルシウムはカルシウムイオン源としても利用できる点で好ましい。水酸化カルシウムを使用する場合には、粉末、水溶液の形態等で反応系に供給することもできるが、好ましくは、水に懸濁したスラリー状として供給する。スラリーにおいては、濃厚な水酸化カルシウム水溶液に水酸化カルシウム粒子が分散された状態となっている。水酸化カルシウムのスラリー濃度は特に限定しないが、1〜30重量%程度とすることができる。また、反応液がアルカリ性に振れてしまった場合には、塩酸、硫酸などが使用できるが、カルシウム塩の溶解度が高い点で、塩酸が望ましい。このようなpH調整剤を添加して前記pH範囲に調整することにより、沈殿物が生成する。沈殿はフッ化カルシウムである。
【0071】
フッ化カルシウムの沈殿物の沈降分離をよくするためには、反応液に対して無機凝集剤および/または有機凝集剤を添加して凝集させることが好ましい。無機凝集剤としては硫酸、ポリ塩化アルミニウム、硫酸バンドなどが使用できる。有機凝集剤としては、高分子凝集剤などが使用できる。
【0072】
凝集剤の添加量については、回収するフッ化カルシウムの純度低下の原因となるため、総反応液量に対して、0.5重量%以下が望ましい。
【0073】
カルシウムイオンとの反応によって得られたフッ化カルシウムの沈殿物は、公知の固液分離手段を用いて分離することができる。例えば、クラリファイヤーやシックナーなどを用いて分離することができる。
【0074】
固液分離によって得られた固形分は、公知の手段、例えば、フィルタープレス、スクリューデカンターなどの方法で脱水することができる。
【0075】
脱水した固体の純度をあげるためには、洗浄を行うことが望ましく、不純物が無機の固体であるため、水洗浄を行うことが好ましい。
【0076】
洗浄工程によって得られた固形物の乾燥は、各種の乾燥手段を用いて行うことができる。例えば、熱風乾燥、真空乾燥、エアーブロー、スピン乾燥、放射加熱式乾燥などの各種の乾燥手段を用いることができる。例えば、熱風乾燥を行うことで、水分を約15重量%程度以下まで低減した、フッ化カルシウムの固体を得ることができる。
【0077】
以上の工程により、90%以上の収率でフッ化水素酸のフッ素原子を、フッ化カルシウムの固体として回収することができる。また、この方法により、固形分におけるフッ化カルシウム含量が90重量%以上のフッ化カルシウムを回収することができる。
【0078】
以上の方法によって、テロメル化反応によって得られた不要な鎖長のフルオロアルキルアイオダイドテロマーを高い回収率でフッ化カルシウムとして回収することができる。この方法で回収されるフッ化カルシウムは、フッ素化合物の製造原料として有効に利用できる。