特許第5900135号(P5900135)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5900135
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月6日
(54)【発明の名称】圧電振動デバイス
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/02 20060101AFI20160324BHJP
   H01L 23/02 20060101ALI20160324BHJP
【FI】
   H03H9/02 A
   H01L23/02 C
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-106102(P2012-106102)
(22)【出願日】2012年5月7日
(65)【公開番号】特開2013-236175(P2013-236175A)
(43)【公開日】2013年11月21日
【審査請求日】2014年12月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000149734
【氏名又は名称】株式会社大真空
(72)【発明者】
【氏名】幸田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 宏樹
【審査官】 鬼塚 由佳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−123297(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/018222(WO,A1)
【文献】 特開2012−064673(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/023899(WO,A1)
【文献】 特開2007−067277(JP,A)
【文献】 特開2009−228021(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/02
H01L 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子部品素子を収容する容器が、蓋と接合された圧電振動デバイスであって、
前記容器の前記蓋との接合領域には、複数の異種金属の積層膜からなるめっき層が形成され、
前記蓋の一主面には前記めっき層と対応した金錫合金層が形成されてなり、
前記めっき層は最下層側から順に、第1の金属層、第2の金属層、第3の金属層で構成され、
前記第1の金属層は、前記めっき層内で最も厚膜に形成され、
前記第2の金属層は、ニッケルめっき層からなり、
前記第3の金属層は、金めっき層であり、
第2の金属層と第3の金属層の間には、第2の金属層と第3の金属層の間の金属拡散を抑制するためのパラジウムめっき層または金ストライクめっき層からなる拡散抑制層が設けられ、
少なくとも前記第3の金属層と前記金錫合金層とが溶融によって一体化することで、容器と蓋とが接合されていることを特徴とする圧電振動デバイス。
【請求項2】
前記蓋において、容器と接合される主面の周縁には、蓋の側面から内側に傾斜した傾斜面が形成され、当該傾斜面から前記拡散抑制層にかけて、前記金錫合金層と前記めっき層の溶融物からなるメニスカスが形成されていることを特徴とする請求項1に記載の圧電振動デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は通信機器等に使用される圧電振動デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
水晶振動子に代表される圧電振動デバイスは携帯電話や移動体通信機器等に広く用いられている。例えば水晶振動子は、水晶振動片と、水晶振動片を収容する凹部を備えた容器と、当該容器との接合により前記凹部を気密に封止する蓋が主要構成部材となっている。前記容器と蓋との接合は、凹部を包囲する堤部の上面に形成された金属膜と、蓋に形成された金属膜(ロウ材等からなる接合材)とが接触した状態で、加熱雰囲気下でこれらの金属膜を溶融・一体化させることによって行われる。このような金属溶融による気密封止を行う水晶振動子は例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−287423号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記金属溶融による容器と蓋との気密封止において、例えば容器側に形成される金属膜に金めっき層を、蓋側に形成される金属膜に金錫合金をそれぞれ用い、前記金錫合金を接合材として使用することによって容器と蓋との接合を行う方法がある。
【0005】
前述した容器と蓋との接合方法において、容器側の金めっき層と蓋側の金錫合金とを接触させた状態で所定温度で加熱し、これらの金属を溶融させると、金めっき層の金が金錫合金に取り込まれる(拡散する),いわゆる“金喰われ”が発生することがある。
最近では圧電振動デバイスの超小型化により、前記堤部の幅が非常に狭くなり、堤部上面の金属膜の形成幅も非常に狭くなってきている。これより気密性確保のために堤部上面に形成する金属膜は或る程度、厚膜状態にしておく必要がある。
【0006】
前記金錫合金への金の拡散は、金めっき層の厚みが厚いほど、金めっき層中の金が鉛直方向へ拡散するのに時間を要するため、溶融した金めっき層が水平方向へ流動しにくくなる。つまり金の鉛直方向への拡散が水平方向への拡散よりも優位となり、溶融によって金を取り込んだ金錫合金が蓋側に滞留しやすくなる(図6参照)。その結果、図6に示すように溶融した金錫合金(符号8)が容器側(符号2)の封止領域(符号240で示す堤部上面)へ流動しにくくなる。この現象を防止するために金めっき層の厚みを薄くし過ぎると、前記問題は改善されたとしても圧電振動デバイスの特性が劣化してしまう問題が発生する。
【0007】
また、前記金めっき層の下層にニッケル層が存在する場合は、加熱処理によってニッケルが金めっき層内に拡散しやすくなる。そしてニッケルが拡散した金めっき層と金錫合金とが溶融によって混ざり合うと、容器の堤部上面に形成された金属膜に対する濡れ性が低下してしまう。以上のことにより、溶融した金錫合金が封止領域に充分に行き渡らなくなって気密不良や接合強度の低下といった問題が発生するおそれがある。また、容器側に形成される金めっき層は、或る程度厚膜状態にしておく必要があるためコストも高くなってしまう。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、気密信頼性が高く、かつコストを低減することができる圧電振動デバイスを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明は、電子部品素子を収容する容器が、蓋と接合された圧電振動デバイスであって、
前記容器の前記蓋との接合領域には、複数の異種金属の積層膜からなるめっき層が形成され、
前記蓋の一主面には前記めっき層と対応した金錫合金層が形成されてなり、
前記めっき層は最下層側から順に、第1の金属層、第2の金属層、第3の金属層で構成され、
前記第1の金属層は、前記めっき層内で最も厚膜に形成され、
前記第2の金属層は、ニッケルめっき層からなり、
前記第3の金属層は、金めっき層であり、
第2の金属層と第3の金属層の間には、第2の金属層と第3の金属層の間の金属拡散を抑制するためのパラジウムめっき層または金ストライクめっき層からなる拡散抑制層が設けられ、
少なくとも前記第3の金属層と前記金錫合金層とが溶融によって一体化することで、容器と蓋とが接合されている。
【0010】
上記発明によれば、封止時に溶融した金属を、容器と蓋との封止領域に速やかに配することができる。これは次の理由による。めっき層は蓋との接合領域(封止領域)に形成されており、当該めっき層の最上層が第3の金属層となっている。この第3の金属層はめっき層内の第1の金属層よりも薄く形成されている。そして第2の金属層と第3の金属層の間には拡散抑制層が形成されている。
【0011】
前記第3の金属層はめっき層の最上層であり、金錫合金層を構成する金属の一つと同種の金めっき層であるため金錫合金層内へ拡散しやすい。そしてパラジウムめっき層または金ストライクめっき層からなる拡散抑制層によって、ニッケルめっき層からなる第2の金属層が、金めっき層からなる第3の金属層へ拡散するのを抑制することができる。これにより金錫合金層の第3の金属層に対する濡れ性が低下しないため、溶融した金錫合金層が第3の金属層に対して滑るように配されるためである。つまり、或る程度厚膜状態を維持する必要があるめっき層を、複数の異種金属の積層膜で構成し、第1の金属層をめっき層内で最も厚く設定することにより、第3の金属層の厚みを圧電振動デバイスの特性を劣化させない程度に薄くすることができる。これは拡散抑制層が第2の金属層と第3の金属層の間に存在することによるものである。
【0012】
第3の金属層を薄くすることができる結果、めっき層の金属の金錫合金層内への拡散、つまり、めっき層の金属が鉛直方向へ拡散する時間を短縮することができる。その結果、溶融によってめっき層の金属を取り込んだ金錫合金層が蓋側に滞留しにくくなり、溶融した金錫合金を容器側(封止領域)へ速やかに配することができる。
【0013】
上記目的を達成するために、前記蓋において、容器と接合される主面の周縁には、蓋の側面から内側に傾斜した傾斜面が形成され、当該傾斜面から前記拡散抑制層にかけて、前記金錫合金層と前記めっき層の溶融物からなるメニスカスが形成されていてもよい。
【0014】
上記構成によれば、蓋の側面から内側に傾斜した傾斜面が形成されることにより、前記傾斜面から前記拡散抑制層にかけて溶融金属のメニスカスが形成されやすくなる。メニスカスが形成されることによって溶融金属で濡れる領域が拡大するため、より確実な気密封止を行うことができる。このとき本発明の構成であれば、溶融によって第3の金属層を取り込んだ金錫合金層が蓋の傾斜面側に滞留するのを抑制し、溶融した金錫合金を容器側の封止領域へ速やかに配することができる。その結果、溶融した金錫合金を封止領域に充分に行き渡らせることができるため、気密不良や接合強度の低下を防止することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように本発明によれば、気密信頼性が高く、かつコストを低減することができる圧電振動デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態を示す水晶振動子の断面模式図
図2】本発明の実施形態を示す水晶振動子の分解模式図
図3図1のA部拡大図
図4図2のB部拡大図
図5】本発明の実施形態を示す水晶振動子の接合領域の拡大模式図
図6】従来の水晶振動子の接合後における拡大模式図
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、圧電振動デバイスとして水晶振動子を例に挙げ、図面を参照しながら説明する。本発明の実施形態における水晶振動子1は、凹部20を備えた容器2と、凹部20の内部に接合部材6を介して接合される水晶振動片3と、凹部20を封止する蓋4が主要構成部材となっている。水晶振動片3は、蓋4と容器2とが接合材8を介して接合されることによって生まれる内部空間9に収容され、外部環境から保護されている。
【0018】
図1において容器2はホウケイ酸ガラスを基材とする箱状体であり、平面視略長方形となっている。容器2は水晶振動片を収容するための凹部20と、凹部20を包囲する環状の堤部24を有している。平面視略長方形の凹部20の内部には、水晶振動片が搭載される段部25が凹部20の一短辺全体に沿って形成されている。そして段部25よりもさらに薄肉の領域が凹部の内底面21となっている。凹部20はガラスウエハをフォトリソグラフィ技術およびウエットエッチングを用いることにより、平面視略長方形に成形されている。なお図1においてウエットエッチングによって掘り込まれた領域の側面は容器の基材がガラスであるため傾斜面となっている。
【0019】
図1に示すように凹部20には、内底面21から段部上面250にかけて内部配線パターン50が形成されている。内部配線パターン50の段部上面250における端部には一対の搭載パッド5,5が形成されており、この搭載パッド5の上に接合部材6を介して水晶振動片3の一端側が片持ち接合される。なお本実施形態では接合部材6に導電性のバンプ(金からなるバンプ)が使用されている。
【0020】
凹部の内底面21と容器の外底面22に挟まれた容器基材部分(説明の便宜上、底板部23と表記)には図示しない貫通電極が一対で形成されている。前記一対の貫通電極は、底板部23の一主面(内底面21)と他主面(容器外底面22)を貫く一対の貫通孔内壁にスパッタ膜が被着され、当該スパッタ膜の内側に樹脂材が充填された構造となっている。
【0021】
容器の外底面22には、外部基板と接続される一対の外部接続端子7,7と、外部配線パターン(図示省略)と、樹脂材からなる樹脂パターン(図示省略)とが形成されている。前述の一対の搭載パッド5,5は内部配線パターン50と、前述の一対の貫通電極(図示省略)および前記外部配線パターンを経由して一対の外部接続端子7,7と各々電気的に接続されている。
【0022】
図1乃至2において記載は省略しているが、スパッタ膜が凹部内底面21の貫通孔の端部周辺と貫通孔内壁面および容器外底面22に形成されている。ここでスパッタ膜とはスパッタリングによって成膜された膜のことである。本実施形態ではスパッタ膜として、Moからなるスパッタ膜上にCuからなるスパッタ膜が積層された2層構成となっており、スパッタ膜の一部が内部配線パターン50となっている。
【0023】
図1において水晶振動片3はATカット切断された平面視略矩形の水晶振動板である。水晶振動片2の表裏主面の中央には対向して一対の励振電極が形成されている(図示省略)。そして前記一対の励振電極の各々から水晶振動片の一短辺側まで、図示しない引出電極が導出されており、引出電極の終端には接続電極(図示省略)が各々形成されている。
【0024】
前記一対の接続電極は、容器2の一対の搭載パッド5,5と対応するように接合部材6を介して各々導電接合される。本実施形態において接合部材6には、金からなるめっきバンプが用いられており、水晶振動片3の前述の一対の接続電極の各々に予め形成される。そして容器2の一対の搭載パッド5,5上に、前記一対のめっきバンプが対応するように水晶振動片3が搭載パッド5上に位置決め載置された後、FCB(Flip Chip Bonding)法によって水晶振動片3が容器2に接合される。なお水晶振動片3と容器2との接合はFCB法に限定されるものではなく、例えば接合部材として導電性接着材を用い、導電性接着材を加熱硬化させることによって接合する方法や、その他の接合方法であってもよい。また本発明の適用はATカット切断された水晶振動片に限定されるものではなく、他の切断角度を有する水晶振動片であってもよく、例えば音叉型水晶振動片にも適用可能である。また水晶振動片以外の圧電振動片にも本発明は適用可能である。
【0025】
図1において蓋4は平面視略矩形となっている。蓋4の一主面41は平坦面となっており、他主面42には周縁部分に下方に突出した壁部43が環状に形成されている。壁部43の両側面431、432はテーパー状に成形されている。壁部43の外側面431は、蓋の外側面44から内側(内部空間側)に傾斜した傾斜面となっている。このような形状はウエットエッチングによって成形されている。
【0026】
蓋4と容器2は接合材8を介して接合されているが、接合前の状態では図2に示すように、蓋4には壁部43の上面に第1接合層81が、容器2の堤部上面240に第2接合層82がそれぞれ形成されている。
【0027】
蓋4の壁部43に形成される第1接合層81は、図3に示すように壁部上面(頂面)430から壁部外側面431に及んで形成されている。この第1接合層81は、下地層811の上に合金層812が形成され、この合金層812の上に極薄のストライクめっき層813が形成された構成となっている。本実施形態では下地層811は、Tiからなるスパッタ膜の上にCuからなるスパッタ膜が積層された2層構成となっている。合金層812は金錫合金(AuSn)であり、金の方が錫よりも含有率が高く、所定の重量比率で構成されている。この合金層812は容器2と蓋4とを接合するための接合材となっている。第1接合層81の全体の厚みは約0.006mmとなっており、合金層の厚みは約0.005mm、ストライクめっき層は約0.001mmとなっている。
なお、第1接合層81の全体の厚みは前記厚みに限定されるものではなく、0.006mmよりも薄くすることも可能である。図3において下地層811は誇張して厚く表示しているが、これは説明の便宜のためであり、実際には非常に薄膜に形成されている(後述する図4における下地層821についても同様)。
【0028】
図3に示すストライクめっき層813はAuからなり、電解めっき法によって形成されている。ストライクめっき層813は、容器2のめっき層の最上層の第3の金属層と同種の金属(Au)となっており、酸化防止膜として機能している。さらにストライクめっき層813は合金層812との密着性を向上させるためにも用いられている。なお、本実施形態ではストライクめっき層が合金層の上に形成されているが、ストライクめっき層を形成せず、合金層を最上層としてもよい。
【0029】
図4において堤部24の上面240は平坦面となっており、複数の異種金属からなる第2接合層82が形成されている。第2接合層82は、堤部上面240に環状に形成されており、第2接合層82の層構成は、前述した貫通孔の端部周辺を除き、内部配線パターン50の膜構成と同一となっている。
【0030】
第2接合層82は、下地層821の上に第1の金属層822、第2の金属層823、拡散抑制層824、第3の金属層825の順に積層された構成となっている。本実施形態では下地層821は、Moからなるスパッタ膜の上にCuからなるスパッタ膜が積層された2層構成となっている。第1の金属層822はCuめっき層であり、第2の金属層823はNiめっき層となっている、そして拡散抑制層824はPd(パラジウム)めっき層となっており、第3の金属層825はAuめっき層となっている。これらのめっき層は全て電解めっき法によって成膜されている。本実施形態ではめっき層の全体の厚みは約0.006mmとなっており、第1の金属層822の厚みは約0.0044mm、第2の金属層823の厚みは約0.001mm、拡散抑制層824の厚みは約0.0001〜0.0003mm、第3の金属層825の厚みは約0.0001〜0.0003mmとなっている。
【0031】
本実施形態において第1の金属層822は、第2接合層82の中で最も厚膜に形成されている。本実施形態では第1の金属層822としてCuめっきが用いられている。第1の金属層822にCuめっきを用いるとともに、Cuめっき層を第2接合層82の中で最も厚膜状態で形成することによって、熱伝導率が良好な金属であるCuで多くの熱容量を確保することができる。つまり、接合時の加熱雰囲気の熱が第1の金属層822によって速やかに第2の金属層側へ伝導され、第2接合層82全体の温度を速やかに上昇させることができる。これにより、第3の金属層825と合金層812の溶融を早めることができる。そして第3の金属層825と合金層812の溶融を早めることにより、溶融によって第3の金属層825を取り込んだ合金層812の蓋側への滞留を抑制することができる。
【0032】
また第1の金属層822を第2接合層82の中で最も厚膜に形成することによって次の効果も得られる。例えば蓋と容器とを、超音波を用いた金属拡散による仮止め接合(いわゆるFCB法(Flip Chip Bonding))を行う場合、第1の金属層822として、CuやAg等の延性・展性に富んだ金属材料を使用することによって、より確実な仮止め接合を行うことができる。これは厚膜状態で形成されたCuやAgが、前記FCB法による接合時に加わる荷重に対して緩衝機能を有するためである。また、蓋と容器との接合後の状態において、蓋や容器の熱膨張に起因した接合領域に加わる応力を、厚膜状態で形成されたCuやAgによって分散させることができる。
【0033】
本実施形態ではCuからなるスパッタ膜の上にCuめっき層が積層されている。すなわち第1の金属層には、下地層との密着性の点から、下地層821の最上層の金属と同種の金属が用いられている。しかしながら本発明は前記組合せに限定されるものではなく、他の組合せにも適用可能である。例えば下地層821の最上層をAgスパッタ膜とし、第1の金属層822をAgめっき層としてもよい。
【0034】
第2の金属層823には、蓋に形成された第1接合層81の合金層812(AuSn)との溶融時の濡れ性が低い金属(Ni)が用いられている。本実施形態ではCuめっきからなる第1の金属層822の上に、電解めっき法によってAuめっき層(第3の金属層825)を直接形成することが困難であるため、Niめっき層(第2の金属層823)を第1の金属層822の上に形成している。ここでNiめっき層の上にAuめっき層(第3の金属層825)を形成すると、蓋と容器との接合時の熱によってNiがAuめっき層内に拡散してしまう。Niが拡散したAuめっき層と、蓋のAuSnとが溶融によって混ざり合うと、封止領域の金属膜に対する濡れ性が低下してしまう。このためNiめっき層とAuめっき層の間に、NiとAuの相互拡散を抑制するための拡散抑制層824が設けられている。
【0035】
Niめっき層(第2の金属層823)の上には、Pdからなる拡散抑制層824が形成されている。そして拡散抑制層824上にAuめっき層(第3の金属層825)が形成されている。この拡散抑制層824は、第3の金属層825を形成するためのシード層の役割を担っているとともに、第2の金属層823(Ni)と第3の金属層825(Au)の間の金属拡散を抑制する機能を備えている。なお拡散抑制層824として、Pdめっき層以外にAuストライクめっき層も使用可能である。
【0036】
以上のような層構成とすることで、めっき層を金めっき層からなる単層(下地層を除く)で構成した場合と比べ、Auの使用量を大幅に低減することできる。その結果、圧電振動デバイスの製造コストを低減することができる。
【0037】
本実施形態において、蓋4と容器2との接合は、蓋側の第1接合層81と容器側の第2接合層82とが対応するように位置決め配置された状態で、加熱雰囲気下にて行われる。具体的には、第1接合層81と第2接合層82は、各々の接合層の最上層であるストライクめっき層813と、第3の金属層825とが接触した状態で300〜320℃の温度環境下で加熱されることによって接合される。
【0038】
蓋4と容器2の接合後の状態は図5に示す模式図のようになっている。第3の金属層825(Au)は加熱溶融によって合金層812の内部に拡散し、一体化している。この一体化した部分を図5では溶融後合金層83として表している。図5に示すように拡散抑制層824が存在することにより、第2の金属層823および第1の金属層822が、拡散抑制層824よりも上層側へ拡散するのを抑制することができる。また、拡散抑制層824よりも下層の、第2の金属層823および第1の金属層822は雰囲気温度よりも高融点であるため溶融しない。なお第2接合層82のうち、最上層の第3の金属層だけでなく、他の金属層も加熱溶融によって合金層812と一体化されていてもよい。
【0039】
本発明の実施形態によれば、封止時に溶融した金属を、容器2と蓋4との封止領域に速やかに配することができる。これは次の理由による。第2接合層82は蓋との接合領域(封止領域)に形成されており、第2接合層82の最上層が第3の金属層825となっている。第3の金属層825は第1の金属層822よりも薄く形成されている。そして第2の金属層823と第3の金属層825の間には拡散抑制層824が形成されている。
【0040】
第3の金属層825は最上層であるため合金層812の内部へ拡散しやすい。そして拡散抑制層824によって、合金層812との溶融時の濡れ性が低い第2の金属層823が、第3の金属層825へ拡散するのを抑制することができる。これにより合金層の第3の金属層に対する濡れ性が低下しないため、溶融した合金層が第3の金属層に対して滑るように配されるためである。つまり、或る程度厚膜状態を維持する必要がある第2接合層82を、複数の異種金属の積層膜で構成し、第1の金属層822を第2接合層82内で最も厚く設定することにより、第3の金属層825の厚みを水晶振動子の特性を劣化させない程度に薄くすることができる。これは拡散抑制層824が第2の金属層823と第3の金属層825の間に存在することによるものである。
【0041】
第3の金属層825を薄くすることができる結果、第3の金属層825の合金層812の内部への拡散、つまり、Auめっき層のAuが鉛直上方へ拡散する時間を短縮することができる。その結果、溶融によって第3の金属層825のAuを取り込んだAuSn合金が蓋側に滞留しにくくなり、溶融した合金を容器側(封止領域)へ速やかに配することができる。
【0042】
また上記構成によれば、蓋4には蓋外側面44から内側(内部空間9)に傾斜した傾斜面からなる壁部外側面431が形成されている。これにより、前記傾斜面から拡散抑制層824にかけて、溶融金属のメニスカスMが形成されやすくなる。メニスカスが形成されることによって溶融金属で濡れる領域が拡大するため、より確実な気密封止を行うことができる。このとき本発明の構成であれば、溶融によって第3の金属層825を取り込んだ合金層812が蓋の傾斜面側(蓋外側面431)に滞留するのを抑制し、溶融した合金を容器側の封止領域へ速やかに配することができる。その結果、溶融した合金を封止領域に充分に行き渡らせることができるため、気密不良や接合強度の低下を防止することができる。
【0043】
本発明の実施形態では電子部品素子として水晶振動片を例に挙げ、当該水晶振動片が収容された水晶振動子について説明しているが、電子部品素子として水晶振動片に加えICやサーミスタ等の素子も実装された水晶発振器や、水晶フィルタ等へも適用可能である。
【0044】
本発明は、その精神または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、上述の実施の形態はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0045】
圧電振動デバイスの量産に適用できる。
【符号の説明】
【0046】
1 水晶振動子
2 容器
3 水晶振動片
4 蓋
8 接合材
M メニスカス
24 堤部
43 壁部
81 第1接合層
812 合金層
813 ストライクめっき層
82 第2接合層
822 第1の金属層
823 第2の金属層
824 拡散抑制層
825 第3の金属層
83 溶解後合金層
図1
図2
図3
図4
図5
図6