(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
互いに対向配置され、その間に極端紫外光を放射するプラズマを発生すると共に前記プラズマを閉じ込める一対の同軸状電極と、各前記同軸状電極に対して放電電圧を印加する電圧印加装置と、各前記同軸状電極内で前記プラズマの媒体を放出させると共に前記プラズマの初期放電を発生させるレーザー光を生成するレーザー装置とを備え、
各前記同軸状電極は、単一の軸線上に延びる棒状の中心電極と、前記中心電極の周方向に配置された複数の棒状の外部電極と、前記中心電極と前記外部電極とを絶縁する絶縁体とを有し、
各前記同軸状電極において、前記中心電極は、前記外部電極と対向する側面に前記プラズマの前記媒体となる物質を含む金属層を有し、前記外部電極は、前記中心電極と対向する側面に、当該側面から前記中心電極に向けて突出する突部を有し、
各前記外部電極の前記突部は前記金属層に交差すると共に前記軸線に直交する平面上に位置し、
前記レーザー装置は、各前記中心電極の前記金属層に前記レーザー光を照射する
ことを特徴とするプラズマ光源。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態に係るプラズマ光源について添付図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0013】
まず、本実施形態のプラズマ光源における同軸状電極について説明する。
図1は、本実施形態のプラズマ光源を示す概略構成図である。この図に示すように、プラズマ光源は一対の同軸状電極10、10、チャンバー20及び電圧印加装置30を備える。
【0014】
一対の同軸状電極10は、対称面1に対して対称な位置関係でチャンバー20内に設置されている。換言すれば、各同軸状電極10は対称面1を中心として、一定の間隔を隔てて互いに対向するよう配置される。チャンバー20は、排気管22を介して真空ポンプ(図示せず)に接続されており、所定の真空度に維持されている。なお、チャンバー20は接地されている。
【0015】
各同軸状電極10は、中心電極12と、複数の外部電極14と、絶縁体16とを備える。中心電極12と外部電極14の間には極端紫外光を放射するプラズマ媒体が導入される。プラズマ媒体は、必要とされる紫外線の波長に応じて選択される。例えば13.5nmの紫外光が必要な場合はLi、Xe、Sn等の少なくとも1つを含むガスであり、6.7nmの紫外光が必要な場合はその紫外光を発するGd、Tb、Bi等の少なくとも1つを含むガスである。
【0016】
図1〜
図3に示すように、中心電極12は、各同軸状電極10に共通する単一の軸線Z−Zを中心軸(以下、この軸を中心軸Zと称する)として、この中心軸Z上に延びる棒状の導電体である。中心電極12は、高温プラズマに対して損傷され難い金属を用いて形成される。このような金属は、例えばタングステンやモリブデン等の高融点金属が挙げられる。
【0017】
本実施形態において、対称面1に対向する中心電極12の端面は半球状の曲面になっている。ただし、この形状は必須ではなく、端面に
図1に示すような凹部を設けてもよく、或いは単なる平面でもよい。
【0018】
図2に示すように、外部電極14に対向する面である中心電極12の側面には、プラズマ媒体領域として、プラズマの媒体となる物質を含む金属層(薄膜)27が形成されている。この金属層27には、後述するレーザー装置60のレーザー光64から分岐したレーザー光64a(64b)が照射される(
図1参照)。金属層27は、LiやGd等の極端紫外光を発する金属を含み、
図1に示すようにレーザー光64a(64b)が照射される箇所のみに形成される。或いは、中心軸Zの周方向に亘って全体的に形成してもよい。
図2に示す例では、中心軸Zを挟む2箇所に金属層27が形成されている。
【0019】
図3に示すように、外部電極14は、中心電極12の中心軸Zと平行に延びる棒状の導電体であり、中心電極12と一定の間隔を隔てながら、中心電極12の周方向に沿って角度θ毎に複数配置されている。
図3に示す例では、6本の外部電極14が中心電極12の周りを囲むように60°毎に配置されている。各外部電極14は中心電極12と平行に配置されてもよく、対称面1に向かうに連れて両者の間隔が小さくなるように傾斜して配置されてもよい。
【0020】
各外部電極14は中心電極12の周方向に沿って等間隔に配列することが望ましい。例えば、加工や組み立ての観点から、各外部電極14は中心電極12に対して回転対称な位置に設置することが望ましい。しかしながら、本発明はこのような配列は厳密なものではない。また、外部電極14の本数も6本に限定されず、中心電極12及び外部電極14の大きさや形状、両者の間隔などに応じて適宜設定される。
【0021】
なお、外部電極14は、中心電極12と同じく、高温プラズマによる損傷に耐え得るタングステンやモリブデン等の高融点金属等を用いて形成される。また、対称面1に対向する外部電極14の端面は曲面、平面の何れでもよい。
【0022】
図2及び
図3に示すように、外部電極14は、中心電極12と対向する側面14aに、側面14aから金属層27に向けて突出する突部15を有する。突部15は、金属層27に交差すると共に軸線Z−Zに直交する平面上に位置し、中心電極12に最も近い頂点部Gを一箇所だけ含むように形成される。突部15は、外部電極14のその他の部分よりも中心電極12に近く、突部15の周りの電界強度は外部電極14のその他の部分よりも大きくなる。従って、中心電極12と外部電極14との間で面状放電2(後述)の初期放電が発生した際には、突部15を含めた放電経路が優先的に形成される。つまり、突部15は、中心電極12の周方向及び軸方向において、中心電極12と外部電極14との間に発生する初期放電の位置を規定している。
【0023】
突部15の形状については、上記の条件を満たす限り特に制限は無い。例えば、
図4(A)に示すように外部電極14の周方向に沿った環状に形成してもよいし、あるいは、
図4(B)に示すように頂点を中心電極12に向けた円錐状又は角錐状に形成してもよい。前者の場合、突部15は、頂角を中心電極12に向けた略三角形の断面を有する。上記何れの場合も、中心電極12に最も近い部分が頂点部Gとして形成され、初期放電の経路の一部となる。なお、頂点部Gは必然的に電界が集中するので、その形状は必ずしも中心電極12に向けて鋭利である必要はない。ただし、何れの場合も、頂点部Gが中心電極12の周りで角度θ毎に配置されていることが好ましい。環状の突部15は、この条件が必然的に満たされ、製作も容易である点で他の形状よりも有利である。
【0024】
このように、中心電極12の周りに複数の外部電極14を配置することで、面状放電2(
図5(B)参照)に至る初期放電(例えば沿面放電)を、各外部電極14と中心電極12との間で発生させることができる。即ち、突部15の頂点部Gを放電経路に含んだ初期放電を優先的に発生させることで、当該初期放電を中心電極12の全周に亘って発生させることが可能になり、環状の面状放電2の形成が容易になる。なお、面状放電とは、2次元的に広がる面状の放電電流であり、電流シート又はプラズマシートとも呼ばれる。
【0025】
絶縁体16は例えばセラミックを用いて形成され、中心電極12と外部電極14の各基部を支持して両者の間隔を規定すると共にその間を電気的に絶縁する。絶縁体16は例えば円盤状に形成され、中心電極12及び外部電極14が貫通する貫通孔を有する。
【0026】
次に、本実施形態のプラズマ光源における電気系統について説明する。
図1に示すように、プラズマ光源は各同軸状電極10に接続する電圧印加装置30を備える。電圧印加装置30は、各同軸状電極10に同極性の放電電圧を印加する。
【0027】
具体的には、第1実施形態の電圧印加装置30は、2台の高圧電源(HV Charging Device)32、34を備える。高圧電源(以下、単に電源と称する)32の出力側は、一方(例えば
図1の左側)の同軸状電極10の中心電極12に接続し、この中心電極12に対応する外部電極14よりも高い正の放電電圧を印加する。高圧電源(以下、単に電源と称する)34の出力側は、他方(例えば
図1の右側)の同軸状電極10の中心電極12に接続し、この中心電極12に対応する外部電極14よりも高い正の放電電圧を印加する。従って、例えば、何れの外部電極14も接地されている場合は、これらに対応する中心電極12の電位は正になる。
【0028】
なお、各中心電極12を経由した電流(即ち、全ての放電電流)をオシロスコープ(Oscilloscope)で観察するため、高圧電源32、34の各コモン側(リターン側)には、ロゴスキーコイル等を用いて誘導結合された線路を設けてもよい。
【0029】
上述の通り、各中心電極12の周囲には複数の外部電極14が設けられている。理想的な面状放電2を得るには、全ての外部電極14と中心電極12との間で、放電が発生する必要がある。しかも、これらの放電が中心電極12の周りで等間隔に分布していることが望ましい。このため本実施形態の各外部電極14は、中心電極12に対向する面を曲面にして、優先的に放電する箇所を規定している。しかしながら、放電箇所を固定し、後述するレーザー光64を各中心電極12の金属層27に同時に照射したとしても、各外部電極14と中心電極12との間の放電を厳密に同時に発生させることは困難であり、実際には各放電の発生タイミングに多少のずれが生じる。各高圧電源32、34から供給される放電エネルギーは最初に発生した放電に対して優先的に費やされる傾向があり、この場合は複数の放電を略同時に発生させることが困難になる。
【0030】
そこで、本実施形態のプラズマ光源は、電圧印加装置30からの放電電圧を放電エネルギーとして外部電極14毎に蓄積するエネルギー蓄積回路50を備えている。エネルギー蓄積回路50は、例えば
図1に示すように中心電極12と各外部電極14との間を個別に接続する複数のコンデンサCで構成される。各コンデンサCは、高圧電源32、34の各出力側及び各コモン側に接続される。
【0031】
このように、放電エネルギーを蓄積するコンデンサCを外部電極14毎に設けることで、全ての外部電極14において放電を発生させることができる。即ち、最初に発生した放電によって多くの放電エネルギーが消費されることを防止でき、中心電極12の全周に亘って発生する理想的な面状放電2を得ることができる。
【0032】
さらに、本実施形態のプラズマ光源は、電圧印加装置30に放電電流が帰還することを阻止する放電電流阻止回路52を備えてもよい。放電電流阻止回路52は、例えば
図1に示すように各外部電極14と電圧印加装置30(具体的には高圧電源32、34の各コモン側)との間を接続するインダクタLで構成される。インダクタLは、放電電流に対して十分に高いインピーダンスを有するため、中心電極12及び外部電極14を経由した放電電流を、その発生源であるエネルギー蓄積回路50に戻すことができる。つまり、各コンデンサCに蓄積された放電エネルギーが、当該コンデンサCに直結した外部電極14以外の外部電極14に供給されることを防止できるため、中心電極12の周方向における放電の発生分布に偏りが生じることを防止できる。
【0033】
上述したように、本実施形態のプラズマ光源は、各同軸状電極10の中心電極12の表面にレーザー光を照射することで、プラズマ3の媒体を放出させると共にプラズマ3の初期放電(即ち、面状放電2)を発生させるレーザー装置60を備える。レーザー装置60は例えばYAGレーザーであり、アブレーションを行うために基本波の二倍波を短パルスのレーザー光64として出力する。
【0034】
レーザー光64は、ビームスプリッタ(ハーフミラー)66aやミラー66b等の光学素子により、少なくとも2本のレーザー光64a、64bに分岐し、各中心電極12の金属層(プラズマ媒体領域)27に照射される。レーザー光64a、64bが照射された金属層27の表面では、アブレーションによって金属層27の一部がプラズマ媒体である中性ガス又はイオンとなって放出される。
【0035】
一方、レーザー光64a、64bの照射時には、各同軸状電極10の中心電極12と外部電極14に電圧印加装置30による放電電圧が既に印加されている。従って、上述のアブレーションが発生すると、中心電極12と各外部電極14間の放電が誘発される。さらに、この放電によって面状放電2(
図5(B)参照)が形成される。
【0036】
なお、上記放電の発生箇所は、レーザー光64a(64b)の照射領域及びその近傍に制限される可能性がある。従って、レーザー光64a(64b)は中心軸Zの周方向に沿って間隔を置いて、複数且つ同時に照射することが好ましく、その数は少なくとも2箇所である(
図1参照)。
【0037】
これは、誘発された放電の領域が、中心電極12の軸を基点に180度以上の開き角があった実験結果に基づいている。この結果を考慮すると、照射箇所の数が少ないほど中心電極12に対して回転対称な位置にレーザー光64a、64bを照射することが望ましい。なお、複数のレーザー光の同時照射は、ビームスプリッタ及びミラー等の光学素子を用いて光路長を合わせた複数の光路を形成することで容易に達成できる。
【0038】
図5は、
図1に示すプラズマ光源の作動説明図である。この図において、(A)はレーザー光64a、64bの照射時、(B)は面状放電2の発生時、(C)は面状放電2の移動中、(D)はプラズマ3の発生時、(E)はプラズマ3の初期閉じ込め時、(F)は高温・高密度化されたプラズマ3、の各状態を示している。
【0039】
以下、これらの図を参照して、本実施形態のプラズマ光源の動作を説明する。
上述の通り、本実施形態のプラズマ光源では、チャンバー(図示せず)内に対称面1を中心に一対の同軸状電極10が対向配置される。チャンバー内は、プラズマの発生に適した温度及び圧力に保持される。また、放電前の各同軸状電極10には、電圧印加装置30により同極性の放電電圧が印加される。
図5では電極の相対的な極性を(+)、(−)で示している。
【0040】
図5(A)に示すように、放電電圧が印加された状態で、各中心電極12の金属層27にレーザー光64a又はレーザー光64bが同時に照射される。その直後、各同軸状電極10の中心電極12と各外部電極14との間で初期放電が発生し、
図5(B)に示すように、中心電極12の全周に亘って放電が分布する面状放電2が得られる。面状放電2の形成により、各同軸状電極10において、金属層27からLiを含むガス又はイオンが放出される。
【0041】
本実施形態では、各突部15が初期放電の放電経路に含まれる。換言すれば、各突部15が初期放電の発生箇所を規定する。各突部15は金属層27に交差すると共に軸線Z−Zに直交する平面上に位置するので、発生した初期放電も主にこの平面上で発生し、これに続く面状放電2もこの平面上に形成される。即ち、面状放電2は、中心電極12の全周に亘った環状に、且つ、軸線Z−Zに対して垂直に発生する。
【0042】
図5(C)に示すように、面状放電2は、自己磁場によって電極から排出される方向(同図の対称面1に向かう方向)に移動する。このときの面状放電2の形状は、軸線Z−Zから見て略環状であり、軸線Z−Zに対して垂直な状態を維持する。
【0043】
その後、
図5(D)に示すように、面状放電2は同軸状電極10の先端に達する。同軸状電極10の先端に達した後も、自己磁場による対称面1に向かう方向の力は維持される。また、面状放電2が中心電極12に達したことで、その放電電流の出発点であった中心電極12の円周側面12bが途切れ、放電電流の出発点は強制的に先端部12aに移行する。換言すれば、放電電流は先端部12aから集中的に流れ出す。この電流集中によるピンチ効果によって先端部12a周辺の電流密度は急激に上昇し、一対の面状放電2の間に挟まれていた先端部12a周辺のLiを含むプラズマ媒体6(
図5(C)参照)は高密度、高温になる。しかも、面状放電2が軸線Z−Zに対して垂直な状態を維持したまま進行したので、プラズマ媒体6は軸線Z−Zに対してほぼ軸対称に分布する。
【0044】
さらに、この現象は対称面1を挟んだ各同軸状電極10で進行するため、プラズマ媒体6は、一方の同軸状電極10から他方の同軸状電極10に向かって押し出される。その結果、プラズマ媒体6は、軸線Z−Z(中心軸Z)沿う両方向からの圧力を受けて各同軸状電極10が対向する中間位置(即ち、中心電極12の対称面1)に移動し、プラズマ媒体6を成分とする単一のプラズマ3が形成される。このプラズマ3も、プラズマ媒体6と同じく、軸線Z−Zに対してほぼ軸対称に分布する。
【0045】
図5(E)に示すように、プラズマ3が形成された後も、各面状放電2は互いが接する又は交差するまで移動し、プラズマ3を全体的に包囲すると共に、プラズマ3を各中心電極12の中間付近に保持する。
【0046】
上述の通り、面状放電2が発生している間は各中心電極12の先端部12aに各面状放電2の電流が集中する。従って、先端部12a周辺には、プラズマ3に対して軸線Z−Zに向かうピンチ効果が働き、プラズマ3は高密度化及び高温化が進行し、Liを含むイオンの電離が進行する。従って、
図5(F)に示すように、プラズマ3からは極端紫外光を含むプラズマ光8が放射される。しかも、軸線Z−Zに直交する平面上での初期放電を突部15によって形成した結果、プラズマ3が軸線Z−Zに対してほぼ軸対称に分布することから、プラズマ3の安定性を高めることができる。この状態において、プラズマ3の発光エネルギーに相当するエネルギーを電圧印加装置30から供給し続ければ、高いエネルギー変換効率でプラズマ光8を長時間に亘って発生させることができる。つまり、極端紫外光への投入エネルギーの変換効率が高まるので、プラズマ3を効率良く高温・高密度化することができ、極端紫外光を長時間(例えばμsecオーダーで)安定に得ることができる。
【0047】
なお、
図2に示すように、各中心電極12の先端部12aに、金属層(薄膜)27と同材料の金属層27aを設けてもよい。先端部12aは、面状放電2の電流が集中する場所であり、面状放電2及びプラズマ3の発生中は極端に高温になる。従って、先端部12aにプラズマ媒体領域としての金属層27aを設けることで、プラズマ3へのプラズマ媒体の供給量を増加させることができ、所望の極端紫外光の強度を増大させることが可能になる。
【0048】
また、高圧電源32、34から出力される放電電圧の極性を互いに逆にしてもよい。この場合も、突部15の形成により、軸対称のプラズマ3が得られることに変わりはなく、プラズマ3を効率良く高温・高密度化することができ、極端紫外光を長時間(例えばμsecオーダーで)安定に得ることができる。
【0049】
本発明は上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。