特許第5900413号(P5900413)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5900413ブレーキパッド押圧ばねとそれを用いたディスクブレーキ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5900413
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月6日
(54)【発明の名称】ブレーキパッド押圧ばねとそれを用いたディスクブレーキ
(51)【国際特許分類】
   F16D 65/097 20060101AFI20160324BHJP
   F16D 55/226 20060101ALI20160324BHJP
【FI】
   F16D65/097 C
   F16D55/226 104A
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-107881(P2013-107881)
(22)【出願日】2013年5月22日
(65)【公開番号】特開2014-228054(P2014-228054A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2015年5月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100112575
【弁理士】
【氏名又は名称】田川 孝由
(72)【発明者】
【氏名】神谷 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】竹尾 祐一
【審査官】 谷口 耕之助
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−106558(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/062160(WO,A1)
【文献】 特開平10−331883(JP,A)
【文献】 実開昭51−013488(JP,U)
【文献】 特開2005−249134(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 65/097
F16D 55/226
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクブレーキのブレーキパッドにパッド裏板を挟持部で挟持して装着するブレーキ
パッド押圧ばねであって、
ディスクロータの正転方向に向けて前記ブレーキパッドを押圧する弾性アームを具備し
、その弾性アームは前記挟持部の基端側に連なっていて所定値を超える荷重をパッドを押圧した方向と反対向きに受けたときに先端側が前記パッド裏板の側面又は前記挟持部に接触して押圧ばねのばね定数が前記所定値を超える荷重が印加されないときよりも増大するように構成されており、
前記挟持部は、前記パッド裏板を挟持する第1の挟持片及び第2の挟持片と、この第1
、第2の挟持片の基端部を連結する板状連結壁とで構成され、前記第1の挟持片と第2の挟持片の少なくとも一方に、前記パッド裏板に係止して付勢力を生じ、その付勢力で前記連結壁を前記パッド裏板のディスクロータ正転方向後方の側面に押圧する付勢力発生部が含まれ、
その付勢力発生部を含んでいる挟持片が斜面又は角部を有し、その斜面又は角部を当該挟持片の弾性挟持力を利用して前記パッド裏板に押しつけることで前記連結壁の前記パッド裏板の側面に対する押圧力を発生させるように構成されたブレーキパッド押圧ばね。
【請求項2】
記第1の挟持片と第2の挟持片の基端部並列に配置され、その第1の挟持片と第2の挟持片及び前記連結壁が曲げ加工された単一の板材形成されており、前記弾性アームの基端部の幅、前記第1の挟持片から第2の挟持片にまたがる大きさになっている請求項1に記載のブレーキパッド押圧ばね。
【請求項3】
前記挟持部の前記第1の挟持片と第2の挟持片の何れか一方2個、他方1個その第1の挟持片と第2の挟持片千鳥状態に配列されており前記第1の挟持片と第2の挟持片による挟持が3点でなされる請求項1又は2に記載のディスクブレーキ用ブレーキパッド押圧ばね。
【請求項4】
ブレーキパッドと、ブレーキピストンの組み込まれたキャリパと、前記ブレーキパッド
のパッド裏板に装着される請求項1〜のいずれかに記載のブレーキパッド押圧ばねを有
し、前記ブレーキパッド前記キャリパ又はトルクメンバによってディスク軸方向スライド可能に保持され、前記ブレーキパッド押圧ばねの前記弾性アーム前記パッド裏板と前記キャリパ又はトルクメンバが備えるトルク受け面との間に介在されたディスクブレーキ
【請求項5】
記ブレーキパッド押圧ばねとして、前記挟持部、前記パッド裏板を挟持する第1の挟持片及び第2の挟持片と、この第1、第2の挟持片の基端部を連結する板状連結壁とで構成され、前記第1の挟持片と第2の挟持片の少なくとも一方に、前記パッド裏板に係止して付勢力を生じ、その付勢力で前記連結壁を前記パッド裏板のディスクロータ正転方向後方の側面に押圧する付勢力発生部含まれたブレーキパッド押圧ばねを有し、
前記ブレーキパッド前記キャリパ又はトルクメンバによってディスク軸方向スライド可能に保持され、前記ブレーキパッド押圧ばねの前記弾性アーム前記パッド裏板と前記キャリパ又はトルクメンバが備えるトルク受け面との間に介在され、前記パッド裏板斜面又は角部を有し、その斜面又は角部に前記ブレーキパッド押圧ばねの前記付勢力発生部を前記挟持片の弾性挟持力を利用して押しつけることで前記連結壁の前記パッド裏板の側面に対する押圧力を発生させるように構成された請求項4に記載のディスクブレーキ。
【請求項6】
前記パッド裏板に対するブレーキパッド押圧ばねの装着状態下において、前記弾性アー
ムの先端前記パッド裏板の摩擦材接合面よりもディスクロータ側に所定量突出し、前記ブレーキパッドの摩擦材の摩耗限界点において前記弾性アームの先端ディスクロータに接触するように構成されて前記ブレーキパッド押圧ばねが摩耗インディケータを兼用している請求項4又は5に記載のディスクブレーキ
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ディスクブレーキのブレーキパッドを押圧してトルク受け面に押し当てるブレーキパッド押圧ばねとそれを用いたディスクブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用ディスクブレーキにおいては、走行中のブレーキパッド(以下では略してパッドと言う)のガタツキを防止するために、ブレーキパッド押圧ばね(以下では略してパッド押圧ばねと言う)を設けて、パッドを予めトルク受け面に押し付けておくことがなされている。
【0003】
その目的で用いられるパッド押圧ばねのひとつに、パッドの摩耗限界を検知するインディケータを兼用したものがある。
【0004】
そのインディケータを兼用したパッド押圧ばねは、車両の後進制動時のブレーキパッドの移動速度をばね力によって低下させ、パッドがキャリパやキャリパ支持部材(マウント)に形成されるトルク受け面に対して衝突することによって発生する打音(いわゆるカッチン音やクロンク音)を小さくする働きをするものであって、パッド裏板(パッドの裏板)の車両前進時ディスクロータ(以下では略して単にディスクとも言う)回入側のトルク伝達部に装着される。
【0005】
この押圧ばねの弾性アームをキャリパやキャリパ支持部材(マウンティング)の車両前進時のディスク回出側トルク受け面に当接させ、その弾性アームが発生させたばね力でパッドをディスクロータの車両前進時回転方向(正転方向)に押圧して車両前進時ディスク回出側のトルク受け面に押しつけている。
【0006】
そのパッド押圧ばねのパッド裏板に対する装着に関しては、かしめ固定(下記特許文献1参照)と挟持固定(いわゆるクリップ式。下記特許文献2参照。)の2方式が用いられている。
【0007】
特許文献2に示された挟持固定方式のパッド押圧ばねは、帯状ばね材の一端側をコ字状に折り曲げてパッド裏板を厚み方向に挟みつける対向一対の挟持片を形成し、さらに、パッド裏板の背面側に配置される挟持片の先端にばね力を生じてパッドをディスク正転方向に押圧する弾性アームを連設している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−331883号公報
【特許文献2】特開2003−28217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
かしめ固定式のパッド押圧ばねは、寸法ばらつきの因子が多く、目標位置に正確にかしめ固定するのが難しい。また、かしめ工程が追加されるため、コストアップの懸念がある。
【0010】
一方、挟持固定式のパッド押圧ばねは、かしめ工程は不要であるが、パッドに対して後進制動による接線力(ディスク接線方向の荷重)が入力された際にばねの変形モードが安定せず、その変形モードのばらつきによりばね性能が不安定になって、所期の効果が得られない虞がある。
【0011】
従来の挟持固定式のパッド押圧ばねの変形モードが安定しない要因は2つが考えられる。
要因のひとつは、挟持部による挟持が不安定でパッド裏板に対して動き易いことである。
【0012】
弾性アームが弾性変形したときに挟持片の先端側が開いて弾性アームが連設される側の挟持片がパッド裏板の背面から浮き上がることがあり、その状況では、挟持片も弾性変形するため、弾性アームによるばね力に挟持片の変形による不安定なばね力が加算され、ばね性能のばらつきが大きくなってしまう。
【0013】
変形モードが安定しない要因の2つ目は、弾性アームのパッド変位に起因した変形の変動が生じやすいことである。
【0014】
挟持固定式のパッド押圧ばねは、パッドがディスクに押し付けられるときとディスクから引き離されるときに弾性アームのトルク受け面に対する接触点の追従が円滑になされれば、変形状態の変動は起こらない。
【0015】
ところが、従来の挟持固定式のパッド押圧ばねは、弾性アームのディスク軸方向荷重に対する剛性が十分でなく、そのために、パッドが変位したときに追従すべき前記接触点の移動が起こらず、弾性アームの変形量が増減してパッドとトルク受け面の相対変位が吸収され、このときの変形量の増減もばね性能のばらつきを招くものであった。
【0016】
この発明は、上記の従来技術に鑑みてなされたものであって、挟持固定式のパッド押圧ばねのパッド裏板に対する装着を安定させ、さらに、弾性アームの変形モードも安定させることで後進制動時の打音抑制やブレーキのいわゆる鳴き防止の性能を高めることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するため、この発明は、ディスクブレーキのパッドにパッド裏板を挟
持部で挟持して装着するパッド押圧ばねを以下の通りに構成した。
即ち、ディスクロータの正転方向に向けてパッドを押圧する弾性アームを具備し、その弾性アームは、前記挟持部の基端側に連なっていて所定値を超える荷重をパッドを押圧した方向と反対向きに受けたときに先端側が前記パッド裏板の側面又は前記挟持部に接触して押圧ばねのばね定数が前記所定値を超える荷重が印加されていないときよりも増大するように構成されており、
前記挟持部は、前記パッド裏板を挟持する第1の挟持片及び第2の挟持片と、この第1
、第2の挟持片の基端部を連結する板状連結壁とで構成され、前記第1の挟持片と第2の挟持片の少なくとも一方に、前記パッド裏板に係止して付勢力を生じ、その付勢力で前記連結壁を前記パッド裏板のディスクロータ正転方向後方の側面に押圧する付勢力発生部が含まれ、
その付勢力発生部を含んでいる挟持片が斜面又は角部を有し、その斜面又は角部を当該挟持片の弾性挟持力を利用して前記パッド裏板に押しつけることで前記連結壁の前記パッド裏板の側面に対する押圧力を発生させるものにした。
【0018】
かかるパッド押圧ばねの好ましい形態を以下に列挙する。
1)記第1の挟持片と第2の挟持片の基端部並列に配置され、その第1の挟持片と第2の挟持片及び前記連結壁が曲げ加工された単一の板材形成されており、前記弾性アームの基端部の幅、前記第1の挟持片から第2の挟持片にまたがる大きさになっているもの。
2)前記挟持部の前記第1の挟持片と第2の挟持片の何れか一方2個、他方1個その第1の挟持片と第2の挟持片千鳥状態に配列されており、第1の挟持片と第2の挟持片による挟持が3点でなされるもの。
【0019】
この発明は、上記のパッド押圧ばねを用いたディスクブレーキも併せて提供する。その
ディスクブレーキは、パッドと、ブレーキピストンの組み込まれたキャリパと、前記パッ
ド裏板に装着されるこの発明のパッド押圧ばねを有し、前記パッド前記キャリパ又はト
ルクメンバによってディスク軸方向スライド可能に保持され、前記パッド押圧ばねの前記弾性アーム前記パッド裏板と前記キャリパ又はトルクメンバが備えるトルク受け面との間に介在された構成とした
【0020】
そのディスクブレーキは、前記斜面又は角部をブレーキパッド押圧ばねではなく前記パッド裏板に形成し、その斜面又は角部に前記パッド押圧ばねの前記付勢力発生部を前記挟持片の弾性挟持力を利用して押しつけることで前記連結壁の前記パッド裏板の側面又は前記挟持部に対する押圧力を発生させるものも考えられる。
この発明のディスクブレーキに採用したブレーキパッド押圧ばねは、前記パッド裏板に対する装着状態下において、前記弾性アームの先端を前記パッド裏板の前面よりもディスクロータ側に所定量突出させ、前記ブレーキパッドの摩擦材の摩耗限界点において前記弾性アームの先端をディスクロータに接触させるようにして摩耗インディケータを兼用させることができる。
【発明の効果】
【0021】
この発明のパッド押圧ばねは、弾性アームを挟持部の基端側に連ならせて設けているため、挟持部に対して弾性アームの力の影響が及び難く、挟持部によるパッド裏板の挟持が安定してパッド押圧ばねの動きが起こり難い。また、弾性アームを挟持部の基端側に連ならせて設けたために挟持部挟持片の先端がパッド裏板から浮き上がるなどしても、後進制動時にパッドの動きを減速させる弾性アームのばね定数が変化し難い。
【0022】
これに加えて、弾性アームを挟持部の基端側に連ならせて設けたことで、パッドが進退するときに弾性アームに加わるディスク軸方向の力に対して弾性アームの曲げのモーメント長を短縮して弾性アームのディスク軸方向荷重に耐えるための剛性を向上させることが可能になっている。その剛性向上により、パッドが移動した際にトルク受け面に対する弾性アームの接触部の追従が起こり易くなり、追従不良に起因した弾性アームの変形状態の変動も抑えられる。
【0023】
これ等の相乗効果によってばね定数が安定し、後進制動時の打音抑制やブレーキのいわゆる鳴き防止の性能が向上する。
【0024】
なお、上記1)の形態のパッド押圧ばねは、弾性アームの弾性反力が第1の挟持片と第2の挟持片に分散されて波及するため、弾性アームの弾性反力による第1の挟持片と第2の挟持片の位置関係に及ぼす悪影響が回避され、挟持部によるパッド裏板の挟みつけがより安定する。
【0025】
上記2)の形態及び3)の形態のパッド押圧ばねは、付勢力発生部の力によって挟持部の連結壁がパッド裏板のディスクロータ正転方向後方の側面に押しつけられてその連結壁の動き代がほぼ無くなるため、パッド裏板に対する固定の安定性がさらに増す。
【0026】
上記4)形態のパッド押圧ばねは、パッド押圧ばねが3点でパッド裏板に支持されるため、挟持部によるパッド押圧ばねの固定の安定性がさらに増す。
【0027】
上記5)形態のパッド押圧ばねは、従来のパッド押圧ばねの利点、即ち、摩耗インディケータを兼用することによるブレーキのコスト低減の利点が損なわれない。
【0028】
また、この発明のパッド押圧ばねを用いたディスクブレーキは、パッド押圧ばねの特徴が生かされて後進制動時の打音抑制やブレーキのいわゆる鳴き防止の性能が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】この発明のパッド押圧ばねの一例を示す斜視図
図2図1のパッド押圧ばねを図1とは反対方向から見た斜視図
図3図1のパッド押圧ばねの側面図
図4図1のパッド押圧ばねの展開図
図5図1のパッド押圧ばねをディスクブレーキのパッドに装着した状態をディスク外周側から見た平面図
図6図5の一部を拡大して示す断面図
図7図6の一部をさらに拡大して示す断面図
図8】パッド押圧ばねに設けた付勢力発生部のパッド裏板に対する係止状態の変形例を示す断面図
図9】この発明のパッド押圧ばねのばね定数の変化を示す図
図10】この発明を適用した浮動型ディスクブレーキの一例を示す断面図
図11】この発明を適用したピストン対向型ディスクブレーキの一例を示す平面図
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、添付図面の図1図11に基づいてこの発明のパッド押圧ばねとディスクブレーキの実施の形態を説明する。
【0031】
図1図3に示すように、例示のパッド押圧ばね1は、挟持部2と、その挟持部の基端側に連ならせて設けた弾性アーム3と、挟持部2の挟持片の先端に形成された付勢力発生部4を備える。
【0032】
このパッド押圧ばね1は、ステンレスのばね鋼板から図4に示すような単一の板材のブランク材1Aを打ち抜き、そのブランク材1Aの必要箇所を曲げ加工して作られており、図5及び図6に示すように、ディスクブレーキのパッド裏板14aに装着して使用される。
【0033】
挟持部2は、パッド裏板14aを挟持する挟持片2a、2bと、これらの挟持片の基端部を連結する板状の連結壁2cとで構成されている。ここでは、挟持片2aを第1の挟持片、挟持片2bを第2の挟持片として説明を進める。
【0034】
第1の挟持片2aと第2の挟持片2bは、図4のブランク材1Aの折曲げ部I,IIをそれぞれ谷折りして作られている。ブランク材1Aの折曲げ部I,II間の平板部と折曲げ部IIの位置から折り曲げ部III側に至る平坦部が連結壁2cとなっている。この発明で言う挟持部2の基端側とはこの連結壁2cのある側を指す。
【0035】
例示のパッド押圧ばね1は、第1の挟持片2aを2個、第2の挟持片2bを1個にし、その2個の第1の挟持片2a、2aの連結壁2cに繋がる基端部を並列にし、かつ、2個の第1の挟持片2a、2a間に第2の挟持片2bがあるように千鳥配列にしており、第1の挟持片2aと第2の挟持片2bによるパッド裏板の挟持が3点でなされる。
【0036】
弾性アーム3は、図4のブランク材1Aを折曲げ部IIIの位置で彎曲したターン部3aができるように山折り状態に戻して作り出されている。ターン部3aの位置から曲げ戻し部の自由端である先端までが弾性アーム3であり、ターン部3aがその弾性アーム3のばね力発生部となっている。
【0037】
連結壁2cは、パッド押圧ばね1を図5に示すように、パッド14に装着した状態でパッド裏板14aから離反する方向に所定量飛び出す壁にしてあり、連結壁2cの突端に弾性アーム3の基端部が連なっている。
【0038】
その弾性アーム3が、図5図6に示すように、ばね力を生じる状態でディスクブレーキのキャリパ11やキャリパ支持部材12のトルク受け面15に接触させられ、トルク受け面15によって反力が受けられた状態が保持されてパッド14をディスクの正転方向(車両前進時の回転方向)に向けて押圧するばね力を発生させる。
【0039】
その弾性アーム3は、パッド14をディスクDの正転方向に向けて押圧した方向と反対向きに加わる荷重が所定値を超えるまでは、図6のように先端側が挟持部2から離反していわゆる片持ち支持の状態を保ち、前記押圧方向と反対向きの荷重が所定値を超えたときには先端側が挟持部2に接触(換言すればパッド裏板14aの側面に間接的に接触)するように形成されている。
【0040】
そのために、弾性アーム3が片持ち支持の状態の時には、後進制動時のパッドの動きに対して図9に示すようにばね荷重が緩やかに上昇し、その先端側が挟持部2に接触して実質的な両持ち支持に変化した位置からパッドの移動に対するばね荷重の立ち上がりが急になって後進制動におけるパッドのトルク受け面への衝撃的な衝突が緩和される。弾性アーム3を、所定値を超える荷重が加わったときにパッド裏板14aの側面に直接接触させる構成にしても同一効果が発揮される。
【0041】
例示のパッド押圧ばね1は、弾性アーム3を挟持部2の基端側に連設したので、ばねの変形モードの変動が抑えられ、図9におけるばね特性の変化点(ばね定数の変動位置)CPの位置が安定し、後進制動時の打音抑制やブレーキのいわゆる鳴き防止の性能が良くなる。
【0042】
弾性アーム3の基端部、即ち、ターン部3aが連結壁2cに連なる部分のディスク軸方向の幅W(図1参照)は、第1の挟持片2aから第2の挟持片2bにまたがる大きさに設定されている。図示のパッド押圧ばね1の弾性アームの基端部の幅Wは、連結壁2cの最大幅部と同一になっている。
【0043】
例えば、片方の挟持片の幅領域内に弾性アーム3の基端部が収まってしまう態様であると、その片方の挟持片の基端部のみに弾性アーム3の弾性反力が波及しやすい。その態様では第1の挟持片と第2の挟持片の位置関係、例えば、両挟持片の開き具合などへの影響が懸念される。
【0044】
これに対し、弾性アーム3の基端部が、図のように第1の挟持片2aから第2の挟持片2bにまたがる幅を有していると、弾性反力が第1の挟持片と第2の挟持片に分散され、片方の挟持片に開く方向の力が作用したときに他方の挟持片には開きを止める方向の力が働く。そのために、第1の挟持片と第2の挟持片の位置関係に対して悪影響が及ぶなどの状況を回避できる。
【0045】
付勢力発生部4は、第2の挟持片2bの先端に設けられている。この付勢力発生部4は、連結壁2cをパッド裏板14aの正転時ディスク回入側の側面(ディスク正転方向後方の側面)に押し当てる力を発生させ、連結壁2cの動き代を無くす働きをする。連結壁2cに動きが抑えられると、挟持部2の変位やばねの変形モードの変化が起こり難くなる。従って、これもばね定数の変動抑制に効果を奏する。
【0046】
図示の付勢力発生部4は、図7に示すように、パッド裏板14aに設けた斜面16に当接させる。斜面16は、第2の挟持片2bの基端から遠ざかるにつれて第1の挟持片2aに近づく方向に傾斜している(図6参照)。
【0047】
そのため、第2の挟持片2bの弾性復元による挟持力によって付勢力発生部4の斜面16に対する接触部に図7において右向きの分力が発生し、その分力によって連結壁2cが図中右側に引き寄せられてパッド裏板14aの側面に押しつけられる。
【0048】
連結壁2cがパッド裏板14aの側面から離間した状態になっていると、弾性アーム3をトルク受け面15との間に挿入して弾性変形させたときに連結壁2cがパッド裏板14aの側面に押しつけられる方向に動くことがあり、これによる挟持部の変位やばねの変形モードの変化が押圧ばねのばね定数に影響する懸念がある。
【0049】
図6のLは、弾性アーム3の曲げのモーメント長を表している。この発明のパッド押圧ばね1は、弾性アーム3を挟持部2の基端側に設けているので、そのモーメント長Lを従来の挟持固定式のパッド押圧ばねに比べて十分に小さくすることができる。
【0050】
これにより、ディスク軸方向荷重に対する弾性アーム3の剛性を従来のパッド押圧ばねよりも大きくしてパッドがディスク軸方向に移動する際のパッド押圧ばね1のパッド裏板14aに対する追従性を良くすることができる。
【0051】
弾性アーム3のディスク軸方向荷重に対する剛性が高められていると、制動と制動解除に伴うパッドの進退に対して、弾性アーム3のトルク受け面に対する接触部がトルク受け面15に対して滑りを生じてパッドの動きに追従し、これにより、パッドの変位に伴う弾性アーム3の変形モードの変動も抑えられ、パッド押圧ばね1のばね特性がさらに安定する。
【0052】
図6の3bは、弾性アーム3にプレス加工して設けた球面状の接点であり、この接点3bがトルク受け面15に点接触する。このため、トルク受け面15に対する弾性アーム3の接触抵抗が小さく、このことも、パッドの動きに対する追従性を向上させるのに役立っている。
【0053】
弾性アーム3の先端側は、図2のように幅を狭くしておくのがよい。車両の後進制動時に弾性アーム3がパッドのトルク伝達面とトルク受け面15との間に挟み込まれることを確実に阻止できるからである。
【0054】
なお、例示のパッド押圧ばね1は、図5図6から判るように、弾性アーム3先端をパッド裏板14aの前面から所定量ディスクD側に突出させてパッドの摩耗インディケータを兼用したものにしているが、摩耗インディケータを兼用することは必須ではなく、好ましいに過ぎない。
【0055】
また、上記付勢力発生部4は、挟持片の先端に角のある部分を形成し、その角のある部分をパッド裏板の斜面に当接させる形態や、図8のように、パッド裏板14aに角部17を設けてその角部17に付勢力発生部4の斜面を接触させる形態であってもよい。
【0056】
また、その付勢力発生部4は、第1の挟持片2aの先端に設けられていてもよいし、第1の挟持片2aと第2の挟持片2bの双方の先端に設けられていてもよい。
【0057】
図10は、この発明のパッド押圧ばねを浮動型ディスクブレーキに採用した例を示している。浮動型ディスクブレーキ10は、キャリパ11と、そのキャリパ11をディスク軸方向スライド可能に支持するキャリパ支持部材(マウント)12と、キャリパ11のインナー側のシリンダ(図示省略)に組み込まれたピストン13(図5参照)と、そのピストンに押圧されてディスクDに押しつけられるインナー側のパッド(これも図示省略)と、これに対向させたアウター側のパッド14を組み合わせて構成されている。
【0058】
この浮動型ディスクブレーキ10では、トルク受け面15がキャリパ支持部材12に設けられており、ディスクDが正転するとき、つまり、車両前進方向に回転するときのディスク回入側のトルク伝達部にパッド押圧ばね1が設けられている。
【0059】
パッド裏板14aのディスク回転方向前後の側面(トルク伝達面となす面)には、切欠き部18を設けてあり、ディスク正転方向後方の切欠き部18に挟持部2の連結壁2cを挿入し、第1の挟持片2aと第2の挟持片2bでパッド裏板14aを挟持してパッド押圧ばね1をパッド14に装着している。
【0060】
図10には現われていないが、図7で説明した付勢力発生部4の働きによってパッド押圧ばね1の挟持部の連結壁はパッド裏板14aの切欠き部18によって凹ませた側面に押しつけられている。
【0061】
この図10の状態で弾性アーム3の反発力の反力がディスク回入側(図10のおいて左側)のトルク受け面15によって受け止められ、このために、弾性アーム3が生じたばね力でパッド14がディスク正転方向に押されてパッド14がディスク回出側のトルク受け面15に押しつけられている。
【0062】
なお、図示していないインナー側のパッドについてもパッド押圧ばね1による同様の押圧がなされる。
【0063】
図11は、この発明のパッド押圧ばね1をピストン対向型ディスクブレーキに採用した例を示している。ピストン対向型ディスクブレーキ10Aは、キャリパ11のインナー側とアウター部のシリンダにそれぞれ組み込まれたピストン13でインナー側とアウター側の各パッド14を押圧してディスクDに摺接させる。パッド14は、キャリパの窓孔部に横架して設けるパッドピン19をパッド裏板14aに設けられたピン孔に通してそのパッドピン19によってディスク軸方向スライド可能に支持されている。
【0064】
このピストン対向型ディスクブレーキ10Aのトルク受け面15はキャリパ11に設けられており、ディスクDが正転のディスク回入側のトルク伝達部にパッド押圧ばね1が設けられている。そのパッド押圧ばね1の設置状況は、図5と大差がないので、ここでの再説明は省略する。
【0065】
このように構成したこの発明のディスクブレーキは、浮動型、ピストン対向型のどちらもこの発明を特徴づけるパッド押圧ばね1の働きによって後進制動時の打音抑制やブレーキのいわゆる鳴き防止の性能が向上する。
【符号の説明】
【0066】
1 パッド押圧ばね
1A ブランク材
2 挟持部
2a 第1の挟持片
2b 第2の挟持片
2c 連結壁
3 弾性アーム
3a ターン部
3b 接点
4 付勢力発生部
10 浮動型ディスクブレーキ
10A ピストン対向型ディスクブレーキ
11 キャリパ
12 キャリパ支持部材
13 ピストン
14 パッド
14a パッド裏板
15 トルク受け面
16 斜面
17 角部
18 切欠き部
19 パッドピン
I〜III 折り曲げ部
D ディスク
CP ばね定数の変化点
W 弾性アームの基端部の幅
L 弾性アームの曲げのモーメント長
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11