特許第5900596号(P5900596)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5900596パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物を含む表面処理剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5900596
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月6日
(54)【発明の名称】パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物を含む表面処理剤
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/18 20060101AFI20160324BHJP
   C08G 65/336 20060101ALI20160324BHJP
【FI】
   C09K3/18 104
   C08G65/336
   C09K3/18 102
【請求項の数】25
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2014-261746(P2014-261746)
(22)【出願日】2014年12月25日
【審査請求日】2014年12月25日
(31)【優先権主張番号】特願2013-269345(P2013-269345)
(32)【優先日】2013年12月26日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-245454(P2014-245454)
(32)【優先日】2014年12月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100068526
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭生
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】勝川 健一
(72)【発明者】
【氏名】三橋 尚志
(72)【発明者】
【氏名】茂原 健介
(72)【発明者】
【氏名】吉田 知弘
(72)【発明者】
【氏名】能勢 雅聡
(72)【発明者】
【氏名】並川 敬
【審査官】 中村 浩
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/187432(WO,A1)
【文献】 特開2013−241569(JP,A)
【文献】 特開2006−113134(JP,A)
【文献】 特開平09−235142(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/146110(WO,A1)
【文献】 特開2004−126532(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】
[式中:Rfは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基であり;
PFPEは、
−(OC−(OC−(OC−(OCF
(式中、aおよびbは、それぞれ独立して0以上30以下の整数であり、cおよびdは、それぞれ独立して1以上200以下の整数であり、a、b、cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である)
であり;
Qは、酸素原子または二価の有機基であり;
は、水素原子または炭素数1〜22のアルキル基であり;
は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜22のアルキル基であり;
Xは、水酸基または加水分解可能な基であり;
Yは、水素原子またはハロゲン原子であり;
Zは、フッ素原子または炭素数1〜5のフルオロアルキル基であり;
eは、0〜3の整数であり;
fは、0または1であり;
gは、1〜10の整数であり;
hは、0〜3の整数であり;
nは、1〜3の整数である。]
で表される少なくとも1種のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物を含んで成る表面処理剤であって、該表面処理剤に含まれるパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物の80mol%以上が、gが2以上の化合物であることを特徴とする、表面処理剤。
【請求項2】
表面処理剤に含まれるパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物の90mol%以上が、gが2以上の化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の表面処理剤。
【請求項3】
表面処理剤に含まれるパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物の50mol%以上が、gが3以上の化合物であることを特徴とする、請求項1または2に記載の表面処理剤。
【請求項4】
表面処理剤に含まれるパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物の80mol%以上が、gが3以上の化合物であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項5】
gの分散度が、1.0より大きく2.0未満であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項6】
Rfが、炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基である、請求項1〜5のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項7】
Xにおける加水分解可能な基が、−OR、−OCOR、−O−N=C(R(これら式中、Rは、各出現において、それぞれ独立して、置換または非置換のC1−12アルキル基を表す)である、請求項1〜6のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項8】
Xにおける加水分解可能な基が、−OR(式中、Rは、C1−3アルキル基を表す)である、請求項1〜7のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項9】
パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物の数平均分子量が、5×10〜1×10であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項10】
パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物の数平均分子量が、6×10〜1×10であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項11】
さらに溶媒を含有する、請求項1〜10のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項12】
さらに、含フッ素オイル、シリコーンオイル、および触媒からなる群より選択される1種またはそれ以上の他の成分を含有する、請求項1〜11のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項13】
含フッ素オイルが、式(2):
Rf−(OC)a’−(OC)b’−(OC)c’−(OCF)d’−Rf
・・・(2)
[式中:
Rfは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基であり;
Rfは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基、フッ素原子または水素原子であり;
a’、b’、c’およびd’は、それぞれ独立して、0〜300の整数であって、a’、b’、c’およびd’の和は少なくとも1であり、a’、b’、c’またはd’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。]
で表される1種またはそれ以上の化合物である、請求項12に記載の表面処理剤。
【請求項14】
含フッ素オイルが、式(2a)または(2b):
Rf−(OCFCFCFb’−Rf ・・・(2a)
Rf−(OCFCFCFCFa’−(OCFCFCFb’−(OCFCFc’−(OCFd’−Rf ・・・(2b)
[式中:
Rfは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基であり;
Rfは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基、フッ素原子または水素原子であり;
式(2a)において、b’は1以上300以下の整数であり;
式(2b)において、a’およびb’は、それぞれ独立して、0〜30の整数であり、c’およびd’は、それぞれ独立して、1〜300の整数であり、添字a’、b’、c’またはd’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である。]
で表される1種またはそれ以上の化合物である、請求項12または13に記載の表面処理剤。
【請求項15】
防汚性コーティング剤または防水性コーティング剤として使用される、請求項1〜14のいずれかに記載の表面処理剤。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれかに記載の表面処理剤を含有するペレット。
【請求項17】
基材と、該基材の表面に、請求項1〜15のいずれかに記載の表面処理剤より形成された層とを含む物品。
【請求項18】
基材がガラスである、請求項17に記載の物品。
【請求項19】
前記物品が光学部材である、請求項17または18に記載の物品。
【請求項20】
前記物品がディスプレイである、請求項17〜19のいずれかに記載の物品。
【請求項21】
式(1):
【化2】
[式中:Rfは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基であり;
PFPEは、
−(OC−(OC−(OC−(OCF
(式中、aおよびbは、それぞれ独立して0以上30以下の整数であり、cおよびdは、それぞれ独立して1以上200以下の整数であり、a、b、cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である)
であり;
Qは、酸素原子または二価の有機基であり;
は、水素原子または炭素数1〜22のアルキル基であり;
は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜22のアルキル基であり;
Xは、水酸基または加水分解可能な基であり;
Yは、水素原子またはハロゲン原子であり;
Zは、フッ素原子または炭素数1〜5のフルオロアルキル基であり;
eは、0〜3の整数であり;
fは、0または1であり;
gは、1〜10の整数であり;
hは、0〜3の整数であり;
nは、1〜3の整数である。]
で表される化合物の混合物であって、混合物中の80mol%以上の化合物が、gが2以上の化合物である混合物の製造方法であって、下記式(1a):
【化3】
[式中、Rf、PFPE、Q、Z、eおよびfは、式(1)の記載と同意義であり、Yは、塩素、ヨウ素または臭素である。]
で表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル化合物を、下記式(1b):
【化4】
[式中、R、R、hおよびnは、式(1)の記載と同意義であり、Xは、水酸基、加水分解可能な基またはハロゲン原子である。]
で表される反応性二重結合含有シラン化合物と、含フッ素芳香族化合物中で反応させ、
ついで、所望により、下記工程(a)および/または(b)
(a)YとYが異なる場合、YをYに変換する工程
(b)XとXが異なる場合、XをXに変換する工程
に付すことを含む方法。
【請求項22】
下記式(1’):
【化5】
[式中:Rfは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基であり;
PFPEは、
−(OC−(OC−(OC−(OCF
(式中、aおよびbは、それぞれ独立して0以上30以下の整数であり、cおよびdは、それぞれ独立して1以上200以下の整数であり、a、b、cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。)
であり;
Qは、酸素原子または二価の有機基であり;
は、水素原子または炭素数1〜22のアルキル基であり;
Xは、水酸基または加水分解可能な基であり;
Zは、フッ素原子または炭素数1〜5のフルオロアルキル基であり;
eは、0〜3の整数であり;
fは、0または1であり;
gは、1〜10の整数であり;
hは、0〜3の整数である。]
で表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物の混合物であって、混合物中の80mol%以上の化合物が、gが2以上の化合物であることを特徴とする混合物の製造方法であって、
下記式(1a):
【化6】
[式中、Rf、PFPE、Q、Z、eおよびfは、上記と同意義であり、Yは、塩素、ヨウ素または臭素である。]
で表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル化合物を、下記式(1c):
【化7】
[式中、Rおよびhは、上記と同意義である。]
で表される化合物と、含フッ素芳香族化合物中で反応させて、式(1d):
【化8】
[式中、Rf、PFPE、Q、Y、Z、R、e、f、gおよびhは、上記と同意義である。]
で表される化合物を得、ついで、HX(式中、Xは、上記と同意義である。)で表される化合物と反応させることを含む方法。
【請求項23】
含フッ素芳香族化合物が、パーフルオロベンゼン、ペンタフルオロベンゼン、1,2,3,4−テトラフルオロベンゼン、1,2,3,5−テトラフルオロベンゼン、1,2,4,5−テトラフルオロベンゼン、1,2,3−トリフルオロベンゼン、1,2,4−トリフルオロベンゼン、1,3,5−トリフルオロベンゼン、o−キシレンヘキサフルオライド、m−キシレンヘキサフルオライド、p−キシレンヘキサフルオライド、ベンゾトリフルオライド、フルオロベンゼン、1−クロロ−2−フルオロベンゼン、1−クロロ−3−フルオロベンゼン、1−クロロ−4−フルオロベンゼン、2,6−ジクロロフルオロベンゼン、1−フルオロ−3−(トリフルオロメトキシ)ベンゼン、1−フルオロ−2,4−ジニトロベンゼン、2,4−ジメトキシ−1−フルオロベンゼン、1−フルオロ−4−ニトロベンゼン、2−フルオロトルエン、3−フルオロトルエン、4−フルオロトルエン、3−フルオロベンゾトリフルオリド、1−クロロ−2,4−ジフルオロベンゼン、1−クロロ−3,4−ジフルオロベンゼン、1−クロロ−3,5−ジフルオロベンゼン、2−クロロ−1,3−ジフルオロベンゼン、クロロペンタフルオロベンゼン、2,4−ジクロロフルオロベンゼン、2,5−ジクロロフルオロベンゼン、2,6−ジクロロフルオロベンゼン、1,2−ジクロロ−4−フルオロベンゼン、1,3−ジクロロ−5−フルオロベンゼン、1,3−ジクロロ−2,4,6−トリフルオロベンゼン、3,4−ジフルオロベンゾニトリル、3,5−ジフルオロベンゾニトリル、3,4−ジフルオロニトロベンゼン、1−エトキシ−2,3−ジフルオロベンゼン、1,2−ジシアノ−4,5−ジフルオロベンゼン、1−アセトキシ−3−フルオロベンゼン、1−アセトキシ−4−フルオロベンゼン、1−アセトニル−4−フルオロベンゼン、2−フルオロ−m−キシレン、3−フルオロ−o−キシレン、4−フルオロ−o−キシレン、ペンタフルオロアニソール、テトラフルオロフタロニトリル、2−トリフルオロメチルベンザールクロライド、3−トリフルオロメチルベンザールクロライド、4−トリフルオロメチルベンザールクロライド、3−(トリフルオロメチル)安息香酸メチル、ジフルオロベンゾニトリル、ビストリフルオロメチルベンゾニトリル、4−トリフルオロメチルベンゾニトリル、アミノベンゾトリフルオリド、およびトリフルオロメチルアニリンから成る群から選択される、請求項21または22に記載の方法。
【請求項24】
含フッ素芳香族化合物が、分極率が0以上3デバイ以下の含フッ素芳香族化合物である、請求項21〜23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
含フッ素芳香族化合物が、m−キシレンヘキサフルオライド、ベンゾトリフルオライド、ジフルオロベンゾニトリル、ビストリフルオロメチルベンゾニトリル、から成る群から選択される、請求項21〜24のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物を含む表面処理剤に関する。また、本発明は、かかる表面処理剤を適用した物品等にも関する。
【背景技術】
【0002】
ある種の含フッ素シラン化合物は、基材の表面処理に用いると、優れた撥水性、撥油性、防汚性などを提供し得ることが知られている。含フッ素シラン化合物を含む表面処理剤から得られる層(以下、「表面処理層」とも言う)は、いわゆる機能性薄膜として、例えばガラス、プラスチック、繊維、建築資材など種々多様な基材に施されている。
【0003】
そのような含フッ素シラン化合物として、パーフルオロポリエーテル基を分子主鎖に有し、Si原子に結合した加水分解可能な基を分子末端または末端部に有するパーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物が知られている。例えば、特許文献1には、パーフルオロポリエーテル基を有する分子主鎖と、加水分解可能な基を有するSi原子を側鎖に有する複数のポリエチレン鎖とを含む含フッ素シラン化合物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第97/7155号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
表面処理層には、所望の機能を基材に対して長期に亘って提供するべく、高い耐久性が求められる。特許文献1に記載のような含フッ素シラン化合物を含む表面処理剤から得られる層は、上記のような機能を薄膜でも発揮し得ることから、光透過性ないし透明性が求められるメガネやタッチパネルなどの光学部材に好適に利用されており、とりわけこれらの用途において、摩擦耐久性の一層の向上が要求されている。
【0006】
しかしながら、従来の含フッ素シラン化合物を含む表面処理剤から得られる層では、次第に高まる摩擦耐久性向上の要求に応えるには、もはや必ずしも十分とは言えない。
【0007】
本発明は、撥水性、撥油性、防汚性を有し、かつ、高い摩擦耐久性を有する層を形成することのできる新規なパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物を含む表面処理剤を提供することを目的とする。また、本発明は、かかる表面処理剤等を提供した物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、特許文献1に記載のような、パーフルオロポリエーテル基を有する分子主鎖と、水酸基または加水分解可能な基を有するSi原子を側鎖に有するポリエチレン鎖とを含むパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物を含む表面処理剤において、Si原子を側鎖に有するエチレン鎖の繰り返し数が2以上である化合物を80mol%以上とすることにより、より優れた摩擦耐久性を有する表面処理層を形成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の第1の要旨によれば、下記式(1):
【化1】
[式中:Rfは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基であり;
PFPEは、
−(OC−(OC−(OC−(OCF
(式中、a、b、cおよびdは、それぞれ独立して、0〜200の整数であって、a、b、cおよびdの和は少なくとも1であり、a、b、cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である)
であり;
Qは、酸素原子または二価の有機基であり;
は、水素原子または炭素数1〜22のアルキル基であり;
は、それぞれ独立して、水素原子または不活性な一価の有機基であり;
Xは、水酸基または加水分解可能な基であり;
Yは、水素原子またはハロゲン原子であり;
Zは、フッ素原子または炭素数1〜5のフルオロアルキル基であり;
eは、0〜3の整数であり;
fは、0または1であり;
gは、1〜10の整数であり;
hは、0〜3の整数であり;
nは、1〜3の整数である。]
で表される少なくとも1種のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物を含んで成る表面処理剤であって、該表面処理剤に含まれるパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物の80mol%以上が、gが2以上の化合物であることを特徴とする、表面処理剤が提供される。
【0010】
本発明の第2の要旨によれば、上記の表面処理剤を含有するペレットが提供される。
【0011】
本発明の第3の要旨によれば、基材と、該基材の表面に、上記の表面処理剤より形成された層とを含む物品が提供される。
【0012】
本発明の第4の要旨によれば、下記式(1):
【化2】
[式中:Rfは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基であり;
PFPEは、
−(OC−(OC−(OC−(OCF
(式中、a、b、cおよびdは、それぞれ独立して、0〜200の整数であって、a、b、cおよびdの和は少なくとも1であり、a、b、cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である)
であり;
Qは、酸素原子または二価の有機基であり;
は、水素原子または炭素数1〜22のアルキル基であり;
は、それぞれ独立して、水素原子または不活性な一価の有機基であり;
Xは、水酸基または加水分解可能な基であり;
Yは、水素原子またはハロゲン原子であり;
Zは、フッ素原子または炭素数1〜5のフルオロアルキル基であり;
eは、0〜3の整数であり;
fは、0または1であり;
gは、1〜10の整数であり;
hは、0〜3の整数であり;
nは、1〜3の整数である。]
で表される化合物の製造方法であって、下記式(1a):
【化3】
[式中、Rf、PFPE、Q、Z、eおよびfは、式(1)の記載と同意義であり、Yは、塩素、ヨウ素または臭素である。]
で表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル化合物を、下記式(1b):
【化4】
[式中、R、R、hおよびnは、式(1)の記載と同意義であり、Xは、水酸基、加水分解可能な基またはハロゲン原子である。]
で表される反応性二重結合含有シラン化合物と、含フッ素芳香族化合物中で反応させ、
ついで、所望により、下記工程(a)および/または(b)
(a)YとYが異なる場合、YをYに変換する工程
(b)XとXが異なる場合、XをXに変換する工程
に付すことを含む方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物を含んで成る新規な表面処理剤が提供される。かかる表面処理剤を用いることにより、撥水性、撥油性、防汚性を有し、かつ、優れた摩擦耐久性を有する表面処理層を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の組成物について説明する。
【0015】
本発明の表面処理剤は、撥水性、撥油性、防汚性、防水性、摩擦耐久性を基材に対して付与することができ、特に限定されるものではないが、防汚性コーティング剤または防水性コーティング剤として好適に使用され得る。
【0016】
本発明の表面処理剤は、下記式(1):
【化5】
で表される少なくとも1種のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物を含んで成る。
【0017】
上記式(1)中、Rfは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基を表す。
【0018】
上記1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基における「炭素数1〜10のアルキル基」は、直鎖または分枝鎖の炭素数1〜10のアルキル基であり、好ましくは、直鎖または分枝鎖の炭素数1〜3のアルキル基であり、より好ましくは直鎖の炭素数1〜3のアルキル基である。
【0019】
上記Rfは、好ましくは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されている炭素数1〜10のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基、CFH−C1−9パーフルオロアルキレン基であり、さらに好ましくは炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基である。
【0020】
該炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基は、直鎖または分枝鎖の炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基であり、好ましくは、直鎖または分枝鎖の炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基であり、より好ましくは直鎖の炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基、具体的には−CF、−CFCF、または−CFCFCFである。
【0021】
上記式(1)中、PFPEは、−(OC−(OC−(OC−(OCF−であり、パーフルオロ(ポリ)エーテル基に該当する。ここに、a、b、cおよびdは、それぞれ独立して0または1以上の整数であって、a、b、cおよびdの和は少なくとも1である。好ましくは、a、b、cおよびdは、それぞれ独立して0以上200以下の整数、例えば1〜200の整数であり、より好ましくは、それぞれ独立して0以上100以下の整数である。また、好ましくは、a、b、cおよびdの和は5以上であり、より好ましくは10以上、例えば10以上100以下である。また、a、b、cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。これら繰り返し単位のうち、−(OC)−は、−(OCFCFCFCF)−、−(OCF(CF)CFCF)−、−(OCFCF(CF)CF)−、−(OCFCFCF(CF))−、−(OC(CFCF)−、−(OCFC(CF)−、−(OCF(CF)CF(CF))−、−(OCF(C)CF)−および−(OCFCF(C))−のいずれであってもよいが、好ましくは−(OCFCFCFCF)−である。−(OC)−は、−(OCFCFCF)−、−(OCF(CF)CF)−および−(OCFCF(CF))−のいずれであってもよいが、好ましくは−(OCFCFCF)−である。また、−(OC)−は、−(OCFCF)−および−(OCF(CF))−のいずれであってもよいが、好ましくは−(OCFCF)−である。
【0022】
一の態様において、PFPEは、−(OC−(式中、bは1以上200以下、好ましくは5以上200以下、より好ましくは10以上200以下の整数である)であり、好ましくは、−(OCFCFCF−(式中、bは1以上200以下、好ましくは5以上200以下、より好ましくは10以上200以下の整数である)である。
【0023】
別の態様において、PFPEは、−(OC−(OC−(OC−(OCF−(式中、aおよびbは、それぞれ独立して0以上30以下の整数であり、cおよびdは、それぞれ独立して1以上200以下、好ましくは5以上200以下、より好ましくは10以上200以下の整数であり、添字a、b、cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である)であり、好ましくは−(OCFCFCFCF−(OCFCFCF−(OCFCF−(OCF−である。
【0024】
さらに別の態様において、PFPEは、−(OC−R11n”−で表される基である。式中、R11は、OC、OCおよびOCから選択される基であるか、あるいは、これらの基から独立して選択される2または3つの基の組み合わせである。OC、OCおよびOCから独立して選択される2または3つの基の組み合わせとしては、特に限定されないが、例えば−OCOC−、−OCOC−、−OCOC−、−OCOC−、−OCOC−、−OCOC−、−OCOC−、−OCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、−OCOCOC−、および−OCOCOC−等が挙げられる。上記n”は、2〜100の整数、好ましくは2〜50の整数である。上記式中、OC、OCおよびOCは、直鎖または分枝鎖のいずれであってもよく、好ましくは直鎖である。この態様において、PFPEは、好ましくは、−(OC−OCn”−または−(OC−OCn”−である。
【0025】
上記式(1)中、Qは、酸素原子または二価の有機基を表す。
【0026】
上記「二価の有機基」とは、本明細書において用いられる場合、炭素を含有する二価の基を意味する。かかる二価の有機基としては、特に限定されるものではないが、炭化水素基からさらに1個の水素原子を脱離させた二価の有機基が挙げられる。
【0027】
上記「炭化水素基」とは、本明細書において用いられる場合、炭素および水素を含む基を意味する。かかる炭化水素基としては、特に限定されるものではないが、1つまたはそれ以上の置換基により置換されていてもよい、炭素数1〜20の炭化水素基、例えば、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基等が挙げられる。上記「脂肪族炭化水素基」は、直鎖状、分枝鎖状または環状のいずれであってもよく、飽和または不飽和のいずれであってもよい。また、炭化水素基は、1つまたはそれ以上の環構造を含んでいてもよい。なお、かかる炭化水素基は、その末端または分子鎖中に、1つまたはそれ以上のN、O、S、Si、アミド、スルホニル、シロキサン、カルボニル、カルボニルオキシ等を有していてもよい。
【0028】
上記「炭化水素基」の置換基としては、特に限定されるものではないが、例えば、ハロゲン原子、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子、好ましくはフッ素原子;1個またはそれ以上のハロゲン原子により置換されていてもよい、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、C2−6アルキニル基、C3−10シクロアルキル基、C3−10不飽和シクロアルキル基、5〜10員のヘテロシクリル基、5〜10員の不飽和ヘテロシクリル基、C6−10アリール基、5〜10員のヘテロアリール基等が挙げられる。
【0029】
一の態様において、上記Qは、C1−20アルキレン基、または−(CH−Q’−(CH−であり得る。上記式中、Q’は、−O−、または−(Si(RO)−または、−O−(CH−(Si(RO)−(式中、Rは、各出現において、それぞれ独立して、C1−6アルキル基を表し、lは1〜100の整数であり、mは1〜20の整数である)を表し、好ましくは−O−である。sは、1〜20の整数であり、好ましくは、1〜3の整数、より好ましくは1または2である。tは、1〜20の整数であり、好ましくは、2〜3の整数である。これらの基は、フッ素原子およびC1−3アルキル基から選択される1個またはそれ以上の置換基により置換されていてもよい。
【0030】
別の態様において、上記Qは、−(R20m’−On’−であり得る。式中、R20は、各出現において独立して、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよいC1−20アルキレン基、好ましくは1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよいC1−10アルキレン基、より好ましくは1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよいC1−6アルキレン基であり、例えば、−CH−、−CHF−、−CF−、−CH(CF)−、−CF(CF)−、−CH(CH)−、−CF(CH)−等が挙げられる。上記式中、m’は、1〜20の整数であり、好ましくは1〜10である。上記式中、n’は、1〜10の整数であり、好ましくは1〜5であり、好ましくは1〜3である。尚、m’またはn’を付した各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。
【0031】
上記Qの具体的な例としては、例えば:
−CHO(CH−、
−CHO(CH−、
−CHO(CHSi(CHOSi(CH(CH−、
−CHO(CHSi(CHOSi(CHOSi(CH(CH−、
−CHO(CHSi(CHO(Si(CHO)Si(CH(CH−、
−CHO(CHSi(CHO(Si(CHO)Si(CH(CH−、
−CHO(CHSi(CHO(Si(CHO)10Si(CH(CH−、
−CHO(CHSi(CHO(Si(CHO)20Si(CH(CH−、
−CHOCFCHFOCF−、
−CHOCFCHFOCFCF−、
−CHOCFCHFOCFCFCF−、
−CHOCHCFCFOCF−、
−CHOCHCFCFOCFCF−、
−CHOCHCFCFOCFCFCF−、
−CHOCHCFCFOCF(CF)CFOCF−、
−CHOCHCFCFOCF(CF)CFOCFCF−、
−CHOCHCFCFOCF(CF)CFOCFCFCF−、
−CHOCHCHFCFOCF−、
−CHOCHCHFCFOCFCF−、
−CHOCHCHFCFOCFCFCF−、
−CHOCHCHFCFOCF(CF)CFOCF−、
−CHOCHCHFCFOCF(CF)CFOCFCF−、
−CHOCHCHFCFOCF(CF)CFOCFCFCF
などが挙げられる。
【0032】
上記式(1)中、Rは、水素原子または炭素数1〜22のアルキル基を表す。炭素数1〜22のアルキル基は、好ましくは、直鎖または分岐鎖の炭素数1〜3のアルキル基であってもよい。
【0033】
上記式(1)中、Rは、Siに結合する基であり、それぞれ独立して、水素原子または不活性な一価の有機基を表す。
【0034】
上記「不活性な一価の有機基」とは、加水分解によりSiとの結合が実質的に切断されない基であり、限定するものではないが、例えば炭素数1〜22のアルキル基、好ましくは、炭素数1〜3のアルキル基であり得る。
【0035】
上記式(1)中、Xは、Siに結合する基であり、水酸基または加水分解可能な基を表す。水酸基は、特に限定されないが、加水分解可能な基が加水分解して生じたものであってよい。
【0036】
上記「加水分解可能な基」とは、本明細書において用いられる場合、加水分解反応により、化合物の主骨格から脱離し得る基を意味する。かかる加水分解可能な基としては、特に限定されるものではないが、−OR、−OCOR、−O−N=C(R、−N(R、−NHR、ハロゲン原子(これら式中、Rは、各出現において、それぞれ独立して、置換または非置換のC1−12アルキル基を表す)などが挙げられる。
【0037】
上記Xは、好ましくは、水酸基、−O(R)、−N(R(式中、RはC1−12アルキル基、好ましくはC1−6アルキル基、より好ましくはC1−3アルキル基を表す)、C1−12アルキル基、C2−12アルケニル基、C2−12アルキニル基、またはフェニル基であり、より好ましくは、−OCH、−OCHCH、−OCH(CH)である。これらの基は、例えば、フッ素原子、C1−6アルキル基、C2−6アルケニル基、およびC2−6アルキニル基から選択される1個またはそれ以上の置換基により置換されていてもよい。
【0038】
上記式(1)中、Yは、水素原子またはハロゲン原子を表す。ハロゲン原子は、好ましくはヨウ素原子、塩素原子、臭素原子であり、更に好ましくはヨウ素原子である。
【0039】
上記式(1)中、Zは、フッ素原子または炭素数1〜5のフルオロアルキル基を表す。炭素数1〜5のフルオロアルキル基は、例えば炭素数1〜3のフルオロアルキル基、好ましくは炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基、より好ましくはトリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、更に好ましくはトリフルオロメチル基である。
【0040】
上記式(1)中、eは、0〜3の整数である。別の態様において、eは、1〜3の整数である。
【0041】
上記式(1)中、fは、0または1である。
【0042】
上記式(1)中、hは、0〜3の整数である。
【0043】
上記式(1)中、nは、1〜3の整数である。
【0044】
上記式(1)中、gは、1〜10の整数である。好ましくは、gは、2〜6の整数である。
【0045】
本発明の表面処理剤に含まれるパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物の80mol%以上、好ましくは90mol%以上は、g(即ち、シラン含有基の繰り返し単位数)が2以上であり、好ましくは2以上6以下である化合物である。
【0046】
好ましい態様において、本発明の表面処理剤に含まれるパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物の50mol%以上、好ましくは60mol%以上、より好ましくは70mol%以上、さらに好ましくは80mol%以上は、gが3以上であり、好ましくは3以上6以下である化合物である。
【0047】
好ましい態様において、本発明の表面処理剤に含まれるパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物におけるgの平均値(数平均)は、2.0以上、好ましくは2.6以上、より好ましくは3.0以上である。また、上記gの平均値の上限は、特に限定されないが、例えば、6.0以下または5.0以下であってもよい。
【0048】
さらに好ましい態様において、本発明の表面処理剤に含まれるパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物におけるgの分散度は、1.0より大きく2.0未満であり、好ましくは1.0より大きく1.5未満、より好ましくは1.0より大きく1.3未満である。
【0049】
本明細書において、表面処理剤に含まれるパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物における「gの分散度」とは、表面処理剤に含まれるパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物における「gの数平均」に対する「gの重量平均」の割合(即ち、gの重量平均/gの数平均)を意味する。
【0050】
上記「gの数平均」は下記式(a)により、「gの重量平均」は下記式(b)により求めることができる。
式(a):Σ(g)/ΣN
式(b):Σ(g)/Σ(g
(式中、iは1以上の整数であり、gは、シラン含有基の繰り返し単位数がiである場合のgの値を意味し、Nは、シラン含有基の繰り返し単位数がiである化合物の個数を意味する。)
【0051】
パーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物におけるシラン含有基の繰り返し単位数、および、各繰り返し単位数のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物の個数は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化−飛行時間型質量分析(Matrix-assisted laser desorption time-of-flight mass spectrometry (MALDI−TOF−MS))により測定することができる。
【0052】
マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(MALDI−TOF−MS)法を用いて、パーフルオロポリエーテル(PFPE)の各繰り返し単位数(a、b、c、およびd)とシラン単位数(g)を測定する場合、式(1)で示される化合物に対して、カチオン化剤(イオン化助剤)および/またはマトリックスを任意の割合で混合し、測定する。
【0053】
カチオン化剤および/またはマトリックスの混合割合は、式(1)で示される化合物100重量部に対して、それぞれ、0以上1重量部以下が好ましく、0以上0.1重量部以下がより好ましい。
【0054】
カチオン化剤(イオン化助剤)としては、式(1)で示される化合物が効率よくイオン化する物質であれば特に限定されず、液体であっても、固体であってもよい。かかるカチオン化剤としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、トリフルオロ酢酸リチウム、トリフルオロ酢酸ナトリウム、トリフルオロ酢酸カリウム、およびトリフルオロ酢酸銀が挙げられる。より好ましくは、ヨウ化ナトリウム、トリフルオロ酢酸ナトリウム、またはトリフルオロ酢酸銀が用いられる。
【0055】
マトリックスとしては、レーザーの光エネルギーを吸収して、共存する分析対象分子の脱離及びイオン化を達成する物質であれば特に限定されず、液体であっても固体であってもよい。かかるマトリックスとしては、例えば、1,8−ジアミノナフタレン(1,8−DAN)、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(以下、「DHB」と略記する場合がある)、1,8−アントラセンジカルボン酸ジメチルエステル、ロイコキニザリン、アントラロビン、1,5−ジアミノナフタレン(1,5−DAN)、6−アザ−2−チオチミン、1,5−ジアミノアントラキノン、1,6−ジアミノピレン、3,6−ジアミノカルバゾール、1,8−アントラセンジカルボン酸、ノルハルマン、1−ピレンプロピルアミンハイドロクロライド、9−アミノフルオレンハイドロクロライド、フェルラ酸、ジトラノール(DIT)、2−(4−ヒドロキシフェニルアゾ)安息香酸(HABA)、trans−2−[3−(4−tert−ブチルフェニル)−2−メチル−2−プロペニリデン]マロンニトリル(DCTB)、trans−4−フェニル−3−ブテン−2−オン(TPBO)、trans−3−インドールアクリル酸(IAA)、1,10−フェナントロリン、5−ニトロー1,10−フェナントロリン、α−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸(CHCA)、シナピン酸(SA)、2,4,6−トリヒドロキシアセトフェノン(THAP)、3−ヒドロキシピコリン酸(HPA)、アントラニル酸、ニコチン酸、3−アミノキノリン、2−ヒドロキシ−5−メトキシ安息香酸、2,5−ジメトキシ安息香酸、4,7−フェナントロリン、p−クマル酸、1−イソキノリノール、2−ピコリン酸、1−ピレンブタン酸ヒドラジド(PBH)、1−ピレンブタン酸(PBA)、1−ピレンメチルアミンハイドロクロライド(PMA)、3−AC(アミノキノリン)−CHCA、ペンタフルオロ安息香酸、ペンタフルオロケイ皮酸が挙げられる。より好ましくは、IAA、DIT、DHB、CHCA、2−ヒドロキシ−5−メトキシ安息香酸が用いられる。
【0056】
上記式(1)で表される本発明のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物は、特に限定されるものではないが、5×10〜1×10の平均分子量を有し得る。摩擦耐久性の観点から、かかる範囲のなかでも、好ましくは2,000〜30,000、より好ましくは2,000〜10,000の平均分子量を有することがより好ましい。なお、本発明において「平均分子量」は数平均分子量を言い、「平均分子量」は、19F−NMRにより測定される値とする。
【0057】
次に、本発明の表面処理剤に含まれるパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物の製造方法について説明する。
【0058】
本発明の表面処理剤に含まれる、式(1):
【化6】
[式中:Rfは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基であり;
PFPEは、
−(OC−(OC−(OC−(OCF
(式中、a、b、cおよびdは、それぞれ独立して、0〜200の整数であって、a、b、cおよびdの和は少なくとも1であり、a、b、cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である)
であり;
Qは、酸素原子または二価の有機基であり;
は、水素原子または炭素数1〜22のアルキル基であり;
は、それぞれ独立して、水素原子または不活性な一価の有機基であり;
Xは、水酸基または加水分解可能な基であり;
Yは、水素原子またはハロゲン原子であり;
Zは、フッ素原子または炭素数1〜5のフルオロアルキル基であり;
eは、0〜3の整数であり;
fは、0または1であり;
gは、1〜10の整数であり;
hは、0〜3の整数であり;
nは、1〜3の整数である。]
で表される化合物は、下記式(1a):
【化7】
[式中、Rf、PFPE、Q、Z、eおよびfは、式(1)の記載と同意義であり、Yは、塩素、ヨウ素または臭素であり、好ましくはヨウ素である。]
で表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル化合物を、下記式(1b):
【化8】
[式中、R、R、hおよびnは、式(1)の記載と同意義であり、Xは、水酸基、加水分解可能な基またはハロゲン原子(例えば、塩素、ヨウ素または臭素、好ましくは塩素)である。]
で表される反応性二重結合含有シラン化合物と反応させ、
ついで、所望により、下記工程(a)および/または(b)
(a)YとYが異なる場合、YをYに変換する工程
(b)XとXが異なる場合、XをXに変換する工程
に付すことにより製造することができる。工程(a)および(b)の順番は特に限定されず、また、両者を一工程で行ってもよい。
【0059】
上記のような反応は、例えば、特開平01−294709号公報に記載されている。
【0060】
上記のように製造した式(1)で表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物において、gが2以上である化合物が所定の割合未満である場合、種々の方法によって、gが2以上である化合物が所定の割合以上となるように調整することができる。例えば、上記工程により得られたYがハロゲンである式(1)で表される化合物に、式(1b)で表される化合物を追加で反応させることにより、gの値を2以上に調整することができる。
【0061】
好ましい態様において、上記式(1a)で表される化合物と、上記式(1b)で表される化合物との反応は、含フッ素芳香族化合物中で行われる。
【0062】
含フッ素芳香族化合物としては、特に限定されないが、例えば、パーフルオロベンゼン、ペンタフルオロベンゼン、1,2,3,4−テトラフルオロベンゼン、1,2,3,5−テトラフルオロベンゼン、1,2,4,5−テトラフルオロベンゼン、1,2,3−トリフルオロベンゼン、1,2,4−トリフルオロベンゼン、1,3,5−トリフルオロベンゼン、o−キシレンヘキサフルオライド、m−キシレンヘキサフルオライド、p−キシレンヘキサフルオライド、ベンゾトリフルオライド、フルオロベンゼン、1−クロロ−2−フルオロベンゼン、1−クロロ−3−フルオロベンゼン、1−クロロ−4−フルオロベンゼン、2,6−ジクロロフルオロベンゼン、1−フルオロ−3−(トリフルオロメトキシ)ベンゼン、1−フルオロ−2,4−ジニトロベンゼン、2,4−ジメトキシ−1−フルオロベンゼン、1−フルオロ−4−ニトロベンゼン、2−フルオロトルエン、3−フルオロトルエン、4−フルオロトルエン、3−フルオロベンゾトリフルオリド、1−クロロ−2,4−ジフルオロベンゼン、1−クロロ−3,4−ジフルオロベンゼン、1−クロロ−3,5−ジフルオロベンゼン、2−クロロ−1,3−ジフルオロベンゼン、クロロペンタフルオロベンゼン、2,4−ジクロロフルオロベンゼン、2,5−ジクロロフルオロベンゼン、2,6−ジクロロフルオロベンゼン、1,2−ジクロロ−4−フルオロベンゼン、1,3−ジクロロ−5−フルオロベンゼン、1,3−ジクロロ−2,4,6−トリフルオロベンゼン、3,4−ジフルオロベンゾニトリル、3,5−ジフルオロベンゾニトリル、3,4−ジフルオロニトロベンゼン、1−エトキシ−2,3−ジフルオロベンゼン、1,2−ジシアノ−4,5−ジフルオロベンゼン、1−アセトキシ−3−フルオロベンゼン、1−アセトキシ−4−フルオロベンゼン、1−アセトニル−4−フルオロベンゼン、2−フルオロ−m−キシレン、3−フルオロ−o−キシレン、4−フルオロ−o−キシレン、ペンタフルオロアニソール、テトラフルオロフタロニトリル、2−トリフルオロメチルベンザールクロライド、3−トリフルオロメチルベンザールクロライド、4−トリフルオロメチルベンザールクロライド、3−(トリフルオロメチル)安息香酸メチル、ジフルオロベンゾニトリル、ビストリフルオロメチルベンゾニトリル、4−トリフルオロメチルベンゾニトリル、アミノベンゾトリフルオリド、およびトリフルオロメチルアニリンが挙げられる。
【0063】
好ましい含フッ素芳香族化合物は、パーフルオロベンゼン、ペンタフルオロベンゼン、1,2,3,4−テトラフルオロベンゼン、1,2,3,5−テトラフルオロベンゼン、1,2,4,5−テトラフルオロベンゼン、1,2,3−トリフルオロベンゼン、1,2,4−トリフルオロベンゼン、1,3,5−トリフルオロベンゼン、o−キシレンヘキサフルオライド、m−キシレンヘキサフルオライド、p−キシレンヘキサフルオライド、ベンゾトリフルオライド、フルオロベンゼン、1−クロロ−2−フルオロベンゼン、1−クロロ−3−フルオロベンゼン、1−クロロ−4−フルオロベンゼン、2,6−ジクロロフルオロベンゼン、1−フルオロ−3−(トリフルオロメトキシ)ベンゼン、1−フルオロ−2,4−ジニトロベンゼン、2,4−ジメトキシ−1−フルオロベンゼン、1−フルオロ−4−ニトロベンゼン、2−フルオロトルエン、3−フルオロトルエン、4−フルオロトルエン、3−フルオロベンゾトリフルオリド、1−クロロ−2,4−ジフルオロベンゼン、1−クロロ−3,4−ジフルオロベンゼン、1−クロロ−3,5−ジフルオロベンゼン、2−クロロ−1,3−ジフルオロベンゼン、クロロペンタフルオロベンゼン、2,4−ジクロロフルオロベンゼン、2,5−ジクロロフルオロベンゼン、2,6−ジクロロフルオロベンゼン、1,2−ジクロロ−4−フルオロベンゼン、1,3−ジクロロ−5−フルオロベンゼン、1,3−ジクロロ−2,4,6−トリフルオロベンゼン、3,4−ジフルオロベンゾニトリル、3,5−ジフルオロベンゾニトリル、3,4−ジフルオロニトロベンゼン、1−エトキシ−2,3−ジフルオロベンゼン、1,2−ジシアノ−4,5−ジフルオロベンゼン、1−アセトキシ−3−フルオロベンゼン、1−アセトキシ−4−フルオロベンゼン、1−アセトニル−4−フルオロベンゼン、2−フルオロ−m−キシレン、3−フルオロ−o−キシレン、4−フルオロ−o−キシレン、ペンタフルオロアニソール、テトラフルオロフタロニトリル、2−トリフルオロメチルベンザールクロライド、3−トリフルオロメチルベンザールクロライド、4−トリフルオロメチルベンザールクロライド、3−(トリフルオロメチル)安息香酸メチル、ジフルオロベンゾニトリル、ビストリフルオロメチルベンゾニトリル、および4−トリフルオロメチルベンゾニトリルである。
【0064】
より好ましい含フッ素芳香族化合物は、分極率が0以上3デバイ以下、特に0より大きく3デバイ以下の含フッ素芳香族化合物である。
【0065】
分極率が0以上3デバイ以下の含フッ素芳香族化合物としては、特に限定されないが、例えば、m−キシレンヘキサフルオライド、ベンゾトリフルオライド、ジフルオロベンゾニトリル、ビストリフルオロメチルベンゾニトリルが挙げられ、好ましくはm−キシレンヘキサフルオライド、ベンゾトリフルオライド、ジフルオロベンゾニトリル、ビストリフルオロメチルベンゾニトリルであり、特に好ましくはm−キシレンヘキサフルオライドである。
【0066】
好ましい態様において、上記式(1a)で表される化合物と、上記式(1b)で表される化合物との反応は、一般に、−20〜+150℃の温度において、自生圧力下または窒素気流中、反応開始剤または光などの存在下で行うことができる。反応開始剤としては、例えば、含フッ素ジアシルパーオキサイド、IPP(ジイソプロピルパーオキシジカーボネート)、AIBN(アゾビスイソブチロニトリル)、DTBP(ジ−t−ブチルパーオキサイド)などのラジカル発生剤が用いられる。
【0067】
好ましい態様において、工程(a)および(b)は、亜鉛およびスズから選択される少なくとも1種の触媒の存在下で行われる。
【0068】
好ましい態様において、本発明は、下記式(1’):
【化9】
[式中:Rfは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基であり;
PFPEは、
−(OC−(OC−(OC−(OCF
(式中、a、b、cおよびdは、それぞれ独立して、0〜200の整数であって、a、b、cおよびdの和は少なくとも1であり、a、b、cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である)
であり;
Qは、酸素原子または二価の有機基であり;
は、水素原子または炭素数1〜22のアルキル基であり;
Xは、水酸基または加水分解可能な基であり;
Zは、フッ素原子または炭素数1〜5のフルオロアルキル基であり;
eは、0〜3の整数であり;
fは、0または1であり;
gは、1〜10の整数であり;
hは、0〜3の整数である。]
で表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物の製造方法であって、
下記式(1a):
【化10】
[式中、Rf、PFPE、Q、Z、eおよびfは、上記と同意義であり、Yは、塩素、ヨウ素または臭素である。]
で表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル化合物を、下記式(1c):
【化11】
[式中、Rおよびhは、上記と同意義である。]
で表される化合物と、含フッ素芳香族化合物中、好ましくは−20〜+150℃の温度において、自生圧力下または窒素気流中で、反応開始剤(例えば、含フッ素ジアシルパーオキサイド、IPP(ジイソプロピルパーオキシジカーボネート)、AIBN(アゾビスイソブチロニトリル)、DTBP(ジ−t−ブチルパーオキサイド)などのラジカル発生剤)または光などの存在下で反応させて、式(1d):
【化12】
[式中、Rf、PFPE、Q、Y、Z、R、e、f、gおよびhは、上記と同意義である。]
で表される化合物を得、ついで、亜鉛およびスズから選択される少なくとも1種の触媒の存在下、HX(式中、Xは、上記と同意義である。)で表される化合物と反応させることを含む方法を提供する。
【0069】
上記含フッ素芳香族化合物としては、上記した含フッ素芳香族化合物と同様のものが挙げられ、特に分極率が0以上3デバイ以下、好ましくは0より大きく3デバイ以下の含フッ素芳香族化合物が好ましい。特に好ましくはm−キシレンヘキサフルオライドが用いられる。
【0070】
上記の態様によれば、gが2以上の化合物を80mol%以上、好ましくは90mol%以上含み、分散度が1.0より大きく2.0以下であるパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物を得ることができる。
【0071】
本発明はいかなる理論によっても拘束されないが、含フッ素芳香族化合物中で反応させることによって、ビニルシランモノマーの溶剤への溶解度が向上し、ビニルシラン付加反応が起こりやすくなるため、Si原子を側鎖に有するエチレン鎖の繰り返し数が増大したと考えられる。
【0072】
以上、本発明の表面処理剤に含まれるパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物の製造方法について説明したが、該化合物の製造方法は、これに限定されず、種々の方法により製造することができる。
【0073】
また、本発明は、上記製造方法により製造された化合物を含む表面処理剤を提供する。
【0074】
具体的には、本発明は、式(1):
【化13】
[式中:Rfは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基であり;
PFPEは、
−(OC−(OC−(OC−(OCF
(式中、a、b、cおよびdは、それぞれ独立して、0〜200の整数であって、a、b、cおよびdの和は少なくとも1であり、a、b、cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である)
であり;
Qは、酸素原子または二価の有機基であり;
は、水素原子または炭素数1〜22のアルキル基であり;
は、それぞれ独立して、水素原子または不活性な一価の有機基であり;
Xは、水酸基または加水分解可能な基であり;
Yは、水素原子またはハロゲン原子であり;
Zは、フッ素原子または炭素数1〜5のフルオロアルキル基であり;
eは、0〜3の整数であり;
fは、0または1であり;
gは、1〜10の整数であり;
hは、0〜3の整数であり;
nは、1〜3の整数である。]
で表される少なくとも1種のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物を含んで成る表面処理剤であって、上記式(1)で表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物が、下記式(1a):
【化14】
[式中、Rf、PFPE、Q、Z、eおよびfは、式(1)の記載と同意義であり、Yは、塩素、ヨウ素または臭素である。]
で表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル化合物を、下記式(1b):
【化15】
[式中、R、R、hおよびnは、式(1)の記載と同意義であり、Xは、水酸基、加水分解可能な基またはハロゲン原子である。]
で表される反応性二重結合含有シラン化合物と、含フッ素芳香族化合物中、好ましくは−20〜+150℃の温度において、自生圧力下または窒素気流中で、反応開始剤(例えば、含フッ素ジアシルパーオキサイド、IPP、AIBN、DTBPなどのラジカル発生剤)または光などの存在下で反応させ、
ついで、所望により、下記工程(a)および/または(b)
(a)YとYが異なる場合、YをYに変換する工程
(b)XとXが異なる場合、XをXに変換する工程
に付すことを含む方法により製造されていることを特徴とする表面処理剤を提供する。
【0075】
好ましい態様において、本発明は、下記式(1’):
【化16】
[式中:Rfは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基であり;
PFPEは、
−(OC−(OC−(OC−(OCF
(式中、a、b、cおよびdは、それぞれ独立して、0〜200の整数であって、a、b、cおよびdの和は少なくとも1であり、a、b、cまたはdを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は式中において任意である。)
であり;
Qは、酸素原子または二価の有機基であり;
は、水素原子または炭素数1〜22のアルキル基であり;
Xは、水酸基または加水分解可能な基であり;
Zは、フッ素原子または炭素数1〜5のフルオロアルキル基であり;
eは、0〜3の整数であり;
fは、0または1であり;
gは、1〜10の整数であり;
hは、0〜3の整数である。]
で表される少なくとも1種のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物を含んで成る表面処理剤であって、上記式(1’)で表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物が、下記式(1a):
【化17】
[式中、Rf、PFPE、Q、Z、eおよびfは、上記と同意義であり、Yは、塩素、ヨウ素または臭素である。]
で表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル化合物を、下記式(1c):
【化18】
[式中、Rおよびhは、上記と同意義である。]
で表される化合物と、含フッ素芳香族化合物中、好ましくは−20〜+150℃の温度において、自生圧力下または窒素気流中で、反応開始剤(例えば、含フッ素ジアシルパーオキサイド、IPP、AIBN、DTBPなどのラジカル発生剤)または光などの存在下で反応させて、式(1d):
【化19】
[式中、Rf、PFPE、Q、Y、Z、R、e、f、gおよびhは、上記と同意義である。]
で表される化合物を得、ついで、亜鉛およびスズから選択される少なくとも1種の触媒の存在下で、HX(式中、Xは、上記と同意義である。)で表される化合物と反応させることを含む方法により製造されていることを特徴とする表面処理剤を提供する。
【0076】
本発明の表面処理剤は、式(1)で表される化合物に加え、さらに溶媒を含んでいてもよい。
【0077】
上記溶媒としては、本発明の表面処理剤の安定性および溶媒の揮発性の観点から、次の溶媒が好ましく使用される:炭素数5〜12のパーフルオロ脂肪族炭化水素(例えば、パーフルオロヘキサン、パーフルオロメチルシクロヘキサンおよびパーフルオロ−1,3−ジメチルシクロヘキサン);ポリフルオロ芳香族炭化水素(例えば、ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン);ポリフルオロ脂肪族炭化水素;ヒドロフルオロエーテル(HFE)(例えば、パーフルオロプロピルメチルエーテル(COCH)、パーフルオロブチルメチルエーテル(COCH)、パーフルオロブチルエチルエーテル(COC)、パーフルオロヘキシルメチルエーテル(CCF(OCH)C)などのアルキルパーフルオロアルキルエーテル(パーフルオロアルキル基およびアルキル基は直鎖または分枝状であってよい))など。これらの溶媒は、単独で、または、2種以上の混合物として用いることができる。なかでも、ヒドロフルオロエーテルが好ましく、パーフルオロブチルメチルエーテル(COCH)および/またはパーフルオロブチルエチルエーテル(COC)が特に好ましい。
【0078】
本発明の表面処理剤は、式(1)で表される化合物に加え、他の成分を含んでいてもよい。かかる他の成分としては、特に限定されるものではないが、例えば、含フッ素オイルとして理解され得る(非反応性の)フルオロポリエーテル化合物、好ましくはパーフルオロ(ポリ)エーテル化合物(以下、「含フッ素オイル」と言う)、シリコーンオイルとして理解され得る(非反応性の)シリコーン化合物(以下、「シリコーンオイル」と言う)、触媒などが挙げられる。
【0079】
上記含フッ素オイルとしては、特に限定されるものではないが、例えば、以下の一般式(2)で表される化合物(パーフルオロ(ポリ)エーテル化合物)が挙げられる。
Rf−(OC)a’−(OC)b’−(OC)c’−(OCF)d’−Rf
・・・(2)
式中、Rfは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基(好ましくは、炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基)を表し、Rfは、1個またはそれ以上のフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1〜16のアルキル基(好ましくは、炭素数1〜16のパーフルオロアルキル基)、フッ素原子または水素原子を表し、RfおよびRfは、より好ましくは、それぞれ独立して、炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基である。
a’、b’、c’およびd’は、ポリマーの主骨格を構成するパーフルオロ(ポリ)エーテルの4種の繰り返し単位数をそれぞれ表し、互いに独立して0以上300以下、例えば1以上300以下の整数であって、a’、b’、c’およびd’の和は少なくとも1、好ましくは5以上、より好ましくは10以上である。好ましくは、a’、b’、c’およびd’の和は5以上であり、より好ましくは10以上、例えば10以上100以下である。添字a’、b’、c’またはd’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である。これら繰り返し単位のうち、−(OC)−は、−(OCFCFCFCF)−、−(OCF(CF)CFCF)−、−(OCFCF(CF)CF)−、−(OCFCFCF(CF))−、−(OC(CFCF)−、−(OCFC(CF)−、−(OCF(CF)CF(CF))−、−(OCF(C)CF)−および−(OCFCF(C))−のいずれであってもよいが、好ましくは−(OCFCFCFCF)−である。−(OC)−は、−(OCFCFCF)−、−(OCF(CF)CF)−および−(OCFCF(CF))−のいずれであってもよく、好ましくは−(OCFCFCF)−である。−(OC)−は、−(OCFCF)−および−(OCF(CF))−のいずれであってもよいが、好ましくは−(OCFCF)−である。
【0080】
上記一般式(2)で表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル化合物の例として、以下の一般式(2a)および(2b)のいずれかで示される化合物(1種または2種以上の混合物であってよい)が挙げられる。
Rf−(OCFCFCFb’−Rf ・・・(2a)
Rf−(OCFCFCFCFa’−(OCFCFCFb’−(OCFCFc’−(OCFd’−Rf ・・・(2b)
これら式中、RfおよびRfは上記の通りであり;式(2a)において、b’は1以上300以下、好ましくは1以上100以下の整数であり;式(2b)において、a’およびb’は、それぞれ独立して、0以上30以下の整数であり、c’およびd’はそれぞれ独立して、1以上300以下の整数である。添字a’、b’、c’またはd’を付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は、式中において任意である。
【0081】
上記含フッ素オイルは、1,000〜30,000の平均分子量を有していてよい。これにより、高い表面滑り性を得ることができる。また、蒸着法を用いて本発明の表面処理剤から表面処理層を形成する場合、上記含フッ素オイルは、表面処理剤に含まれるパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物の平均分子量よりも大きな平均分子量を有することが好ましく、例えば5,000〜30,000、好ましくは10000〜30000の平均分子量を有していてよい。
【0082】
本発明の表面処理剤中、含フッ素オイルは、上記本発明のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物の合計100質量部(2種以上の場合にはこれらの合計、以下も同様)に対して、例えば0〜500質量部、好ましくは0〜400質量部、より好ましくは25〜400質量部で含まれ得る。
【0083】
一般式(2a)で示される化合物および一般式(2b)で示される化合物は、それぞれ単独で用いても、組み合わせて用いてもよい。一般式(2a)で示される化合物よりも、一般式(2b)で示される化合物を用いるほうが、より高い表面滑り性が得られるので好ましい。これらを組み合わせて用いる場合、一般式(2a)で表される化合物と、一般式(2b)で表される化合物との質量比は、1:1〜1:30が好ましく、1:1〜1:10がより好ましい。かかる質量比によれば、表面滑り性と摩擦耐久性のバランスに優れた表面処理層を得ることができる。
【0084】
一の態様において、含フッ素オイルは、一般式(2b)で表される1種またはそれ以上の化合物を含む。かかる態様において、表面処理剤中の式(1)で表される化合物と、式(2b)で表される化合物との質量比は、4:1〜1:4であることが好ましい。
【0085】
また、別の観点から、含フッ素オイルは、一般式A’−F(式中、A’はC5−16パーフルオロアルキル基である。)で表される化合物であってよい。A’−Fで表される化合物は、RfがC1−10パーフルオロアルキル基である上記式(1)で表される化合物と高い親和性が得られる点で好ましい。
【0086】
含フッ素オイルは、表面処理層の表面滑り性を向上させるのに寄与する。
【0087】
上記シリコーンオイルとしては、例えばシロキサン結合が2,000以下の直鎖状または環状のシリコーンオイルを用い得る。直鎖状のシリコーンオイルは、いわゆるストレートシリコーンオイルおよび変性シリコーンオイルであってよい。ストレートシリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイルが挙げられる。変性シリコーンオイルとしては、ストレートシリコーンオイルを、アルキル、アラルキル、ポリエーテル、高級脂肪酸エステル、フルオロアルキル、アミノ、エポキシ、カルボキシル、アルコールなどにより変性したものが挙げられる。環状のシリコーンオイルは、例えば環状ジメチルシロキサンオイルなどが挙げられる。
【0088】
本発明の表面処理剤中、かかるシリコーンオイルは、上記本発明のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物の合計100質量部(2種以上の場合にはこれらの合計、以下も同様)に対して、例えば0〜300質量部、好ましくは50〜200質量部で含まれ得る。
【0089】
シリコーンオイルは、表面処理層の表面滑り性を向上させるのに寄与する。
【0090】
表面処理剤中に含まれる上記触媒としては、酸(例えば酢酸、トリフルオロ酢酸等)、塩基(例えばアンモニア、トリエチルアミン、ジエチルアミン等)、遷移金属(例えばTi、Ni、Sn等)等が挙げられる。
【0091】
表面処理剤中に含まれる触媒は、本発明のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物の加水分解および脱水縮合を促進し、表面処理層の形成を促進する。
【0092】
他の成分としては、上記以外に、例えば、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、メチルトリアセトキシシラン等も挙げられる。
【0093】
本発明の表面処理剤は、多孔質物質、例えば多孔質のセラミック材料、金属繊維、例えばスチールウールを綿状に固めたものに含浸させて、ペレットとすることができる。当該ペレットは、例えば、真空蒸着に用いることができる。
【0094】
次に、本発明の物品について説明する。
【0095】
本発明の物品は、基材と、該基材の表面に本発明のPFPE含有シラン化合物または表面処理剤(以下、これらを代表して単に「本発明の表面処理剤」と言う)より形成された層(表面処理層)とを含む。この物品は、例えば以下のようにして製造できる。
【0096】
まず、基材を準備する。本発明に使用可能な基材は、例えばガラス、樹脂(天然または合成樹脂、例えば一般的なプラスチック材料であってよく、板状、フィルム、その他の形態であってよい)、金属または金属酸化物(アルミニウム、銅、鉄等の金属単体または合金等の複合体であってよい)、セラミックス、半導体(シリコン、ゲルマニウム等)、繊維(織物、不織布等)、毛皮、皮革、木材、陶磁器、石材等、任意の適切な材料で構成され得る。
【0097】
例えば、製造すべき物品が光学部材である場合、基材の表面を構成する材料は、光学部材用材料、例えばガラスまたは透明プラスチックなどであってよい。また、製造すべき物品が光学部材である場合、基材の表面(最外層)に何らかの層(または膜)、例えばハードコート層や反射防止層などが形成されていてもよい。反射防止層には、単層反射防止層および多層反射防止層のいずれを使用してもよい。反射防止層に使用可能な無機物の例としては、SiO、SiO、ZrO、TiO、TiO、Ti、Ti、Al、Ta、CeO、MgO、Y、SnO、MgF、WOなどが挙げられる。これらの無機物は、単独で、またはこれらの2種以上を組み合わせて(例えば混合物として)使用してもよい。多層反射防止層とする場合、その最外層にはSiOおよび/またはSiOを用いることが好ましい。製造すべき物品が、タッチパネル用の光学ガラス部品である場合、透明電極、例えば酸化インジウムスズ(ITO)や酸化インジウム亜鉛などを用いた薄膜を、基材(ガラス)の表面の一部に有していてもよい。また、基材は、その具体的仕様等に応じて、絶縁層、粘着層、保護層、装飾枠層(I−CON)、霧化膜層、ハードコーティング膜層、偏光フィルム、相位差フィルム、および液晶表示モジュールなどを有していてもよい。
【0098】
基材の形状は特に限定されない。また、表面処理層を形成すべき基材の表面領域は、基材表面の少なくとも一部であればよく、製造すべき物品の用途および具体的仕様等に応じて適宜決定され得る。
【0099】
かかる基材としては、少なくともその表面部分が、水酸基を元々有する材料から成るものであってよい。かかる材料としては、ガラスが挙げられ、また、表面に自然酸化膜または熱酸化膜が形成される金属(特に卑金属)、セラミックス、半導体等が挙げられる。あるいは、樹脂等のように、水酸基を有していても十分でない場合や、水酸基を元々有していない場合には、基材に何らかの前処理を施すことにより、基材の表面に水酸基を導入したり、増加させたりすることができる。かかる前処理の例としては、プラズマ処理(例えばコロナ放電)や、イオンビーム照射が挙げられる。プラズマ処理は、基材表面に水酸基を導入または増加させ得ると共に、基材表面を清浄化する(異物等を除去する)ためにも好適に利用され得る。また、かかる前処理の別の例としては、炭素炭素不飽和結合基を有する界面吸着剤をLB法(ラングミュア−ブロジェット法)や化学吸着法等によって、基材表面に予め単分子膜の形態で形成し、その後、酸素や窒素等を含む雰囲気下にて不飽和結合を開裂する方法が挙げられる。
【0100】
またあるいは、かかる基材としては、少なくともその表面部分が、別の反応性基、例えばSi−H基を1つ以上有するシリコーン化合物や、アルコキシシランを含む材料から成るものであってもよい。
【0101】
次に、かかる基材の表面に、上記の本発明の表面処理剤の膜を形成し、この膜を必要に応じて後処理し、これにより、本発明の表面処理剤から表面処理層を形成する。
【0102】
本発明の表面処理剤の膜形成は、上記の表面処理剤を基材の表面に対して、該表面を被覆するように適用することによって実施できる。被覆方法は、特に限定されない。例えば、湿潤被覆法および乾燥被覆法を使用できる。
【0103】
湿潤被覆法の例としては、浸漬コーティング、スピンコーティング、フローコーティング、スプレーコーティング、ロールコーティング、グラビアコーティングおよび類似の方法が挙げられる。
【0104】
乾燥被覆法の例としては、蒸着(通常、真空蒸着)、スパッタリング、化学蒸着(CVD)および類似の方法が挙げられる。蒸着法(通常、真空蒸着法)の具体例としては、抵抗加熱、電子ビーム、高周波加熱、イオンビームおよび類似の方法が挙げられる。CVD方法の具体例としては、プラズマ−CVD、光学CVD、熱CVDおよび類似の方法が挙げられる。
【0105】
更に、常圧プラズマ法による被覆も可能である。
【0106】
膜形成は、膜中で本発明の表面処理剤が、加水分解および脱水縮合のための触媒と共に存在するように実施することが好ましい。簡便には、湿潤被覆法による場合、本発明の表面処理剤を溶媒で希釈した後、基材表面に適用する直前に、本発明の表面処理剤の希釈液に触媒を添加してよい。乾燥被覆法による場合には、触媒添加した本発明の表面処理剤をそのまま蒸着(通常、真空蒸着)処理するか、あるいは鉄や銅などの金属多孔体に、触媒添加した本発明の表面処理剤を含浸させたペレット状物質を用いて蒸着(通常、真空蒸着)処理をしてもよい。
【0107】
表面処理剤と共に存在する上記触媒には、任意の適切な酸または塩基を使用できる。酸触媒としては、例えば、酢酸、ギ酸、トリフルオロ酢酸などを使用できる。また、塩基触媒としては、例えばアンモニア、有機アミン類などを使用できる。
【0108】
次に、必要に応じて、膜を後処理する。この後処理は、特に限定されないが、例えば、水分供給および乾燥加熱を逐次的に実施するものであってよく、より詳細には、以下のようにして実施してよい。
【0109】
上記のようにして基材表面に本発明の表面処理剤を膜形成した後、この膜(以下、「前駆体膜」とも言う)に水分を供給する。水分の供給方法は、特に限定されず、例えば、前駆体膜(および基材)と周囲雰囲気との温度差による結露や、水蒸気(スチーム)の吹付けなどの方法を使用してよい。
【0110】
前駆体膜に水分が供給されると、本発明の表面処理剤中のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物のSiに結合した加水分解可能な基に水が作用し、当該化合物を速やかに加水分解させることができると考えられる。
【0111】
水分の供給は、例えば0〜500℃、好ましくは100℃以上で、300℃以下の雰囲気下にて実施し得る。このような温度範囲において水分を供給することにより、加水分解を進行させることが可能である。このときの圧力は特に限定されないが、簡便には常圧とし得る。
【0112】
次に、該前駆体膜を該基材の表面で、60℃を超える乾燥雰囲気下にて加熱する。乾燥加熱方法は、特に限定されず、前駆体膜を基材と共に、60℃を超え、好ましくは100℃を超える温度であって、例えば500℃以下、好ましくは300℃以下の温度で、かつ不飽和水蒸気圧の雰囲気下に配置すればよい。このときの圧力は特に限定されないが、簡便には常圧とし得る。
【0113】
このような雰囲気下では、本発明のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物間では、加水分解後のSiに結合した基(上記式(1)のいずれかで表される化合物においてXが全て水酸基である場合にはその水酸基である。以下も同様)同士が速やかに脱水縮合する。また、かかる化合物と基材との間では、当該化合物の加水分解後のSiに結合した基と、基材表面に存在する反応性基との間で速やかに反応し、基材表面に存在する反応性基が水酸基である場合には脱水縮合する。この結果、本発明のPFPE含有シラン化合物間で結合が形成され、また、当該化合物と基材との間で結合が形成される。
【0114】
上記の水分供給および乾燥加熱は、過熱水蒸気を用いることにより連続的に実施してもよい。
【0115】
過熱水蒸気は、飽和水蒸気を沸点より高い温度に加熱して得られるガスであって、常圧下では、100℃を超え、一般的には500℃以下、例えば300℃以下の温度で、かつ、沸点を超える温度への加熱により不飽和水蒸気圧となったガスである。前駆体膜を形成した基材を過熱水蒸気に曝すと、まず、過熱水蒸気と、比較的低温の前駆体膜との間の温度差により、前駆体膜表面にて結露が生じ、これによって前駆体膜に水分が供給される。やがて、過熱水蒸気と前駆体膜との間の温度差が小さくなるにつれて、前駆体膜表面の水分は過熱水蒸気による乾燥雰囲気中で気化し、前駆体膜表面の水分量が次第に低下する。前駆体膜表面の水分量が低下している間、即ち、前駆体膜が乾燥雰囲気下にある間、基材の表面の前駆体膜は過熱水蒸気と接触することによって、この過熱水蒸気の温度(常圧下では100℃を超える温度)に加熱されることとなる。従って、過熱水蒸気を用いれば、前駆体膜を形成した基材を過熱水蒸気に曝すだけで、水分供給と乾燥加熱とを連続的に実施することができる。
【0116】
以上のようにして後処理が実施され得る。かかる後処理は、摩擦耐久性を一層向上させるために実施され得るが、本発明の物品を製造するのに必須でないことに留意されたい。例えば、本発明の表面処理剤を基材表面に適用した後、そのまま静置しておくだけでもよい。
【0117】
上記のようにして、基材の表面に、本発明の表面処理剤の膜に由来する表面処理層が形成され、本発明の物品が製造される。これにより得られる表面処理層は、高い表面滑り性と高い摩擦耐久性の双方を有する。また、この表面処理層は、高い摩擦耐久性に加えて、使用する表面処理剤の組成にもよるが、撥水性、撥油性、防汚性(例えば指紋等の汚れの付着を防止する)、防水性(電子部品等への水の浸入を防止する)、表面滑り性(または潤滑性、例えば指紋等の汚れの拭き取り性や、指に対する優れた触感)などを有し得、機能性薄膜として好適に利用され得る。
【0118】
本発明によって得られる表面処理層を有する物品は、特に限定されるものではないが、光学部材であり得る。光学部材としては、例えば、下記の光学部材が挙げられる:例えば、陰極線管(CRT:例、TV、パソコンモニター)、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、無機薄膜ELドットマトリクスディスプレイ、背面投写型ディスプレイ、蛍光表示管(VFD)、電界放出ディスプレイ(FED:Field Emission Display)などのディスプレイまたはそれらのディスプレイの前面保護板、反射防止板、偏光板、アンチグレア板、あるいはそれらの表面に反射防止膜処理を施したもの;眼鏡などのレンズ;携帯電話、携帯情報端末などの機器のタッチパネルシート;ブルーレイ(Blu−ray(登録商標))ディスク、DVDディスク、CD−R、MOなどの光ディスクのディスク面;光ファイバー;時計の表示面など。
【0119】
本発明によって得られる表面処理層を有する他の物品は、窯業製品、塗面、布製品、皮革製品、医療品およびプラスターなどを挙げることができる
【0120】
また、本発明によって得られる表面処理層を有する物品は、医療機器または医療材料であってもよい。
【0121】
表面処理層の厚さは、特に限定されない。光学部材の場合、表面処理層の厚さは、1〜30nm、好ましくは1〜15nmの範囲であることが、光学性能、表面滑り性、摩擦耐久性および防汚性の点から好ましい。
【0122】
以上、本発明の表面処理剤を使用して得られる物品について詳述した。なお、本発明の表面処理剤の用途、使用方法ないし物品の製造方法などは、上記で例示したものに限定されない。
【実施例】
【0123】
本発明のパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物、その製造方法、およびそれを含む表面処理剤について、以下の実施例を通じてより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、本実施例において、パーフルオロポリエーテルを構成する4種の繰り返し単位(CFO)、(CFCFO)、(CFCFCFO)および(CFCFCFCFO)の存在順序は任意であり、パーフルオロポリエーテル基を有する化合物を表す式は、平均組成を示す。
【0124】
合成例1 (末端にヨウ素を有するパーフルオロポリエーテル化合物の合成)
還流冷却器、温度計および撹拌機を取り付けた1Lの4つ口フラスコに、CFCFCFO(CFCFCFO)CFCFCOOH(mの平均=24)180g、ヘキサフルオロテトラクロロブタン100mLを仕込み、撹拌しながら水酸化カリウム水溶液80mL(水酸化カリウムを4.87g含む)を加えた。得られた溶液を乾燥し、窒素気流下で、さらにヘキサフルオロテトラクロロブタン600mLおよびヨウ素をこの順に加えた。そして、この混合物を200℃に加熱、保持してヨウ素化を行った。オイルから無機塩を除去し、ヘキサフルオロテトラクロロブタンを留去して透明なCFCFCFO(CFCFCFO)CFCFI(mの平均=24)160gを得た。
【0125】
実施例1 (末端にヨウ素を有するパーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物の合成)
還流冷却器、温度計および撹拌機を取り付けた500mLの4つ口フラスコに、合成例1で得られた末端にヨウ素を有するパーフルオロポリエーテル化合物90g、m−キシレンヘキサフロライド90g、ビニルトリクロロシラン10gを順に加え、次いで、ジ−tert−ブチルパーオキシド2gを加え、120℃まで昇温させ、この温度にて一晩撹拌した。その後、揮発分を留去することにより、下記式(A)で表される末端にヨウ素を有するパーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(A)84gを得た。
【0126】
【化20】
【0127】
実施例2 (パーフルオロポリエーテル基含有メトキシシラン化合物の合成)
還流冷却器、温度計および撹拌機を取り付けた200mLの4つ口フラスコに、実施例1で合成した末端にヨウ素を有するパーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(A)20g、m−キシレンヘキサフロライド40g、亜鉛粉末2.3gを順に加え、次いで、窒素気流下、室温でメタノール5mLを加え、3時間反応させた。反応混合物にパーフルオロヘキサン20gを加えてからメタノールによる洗浄操作を行った。続いて、減圧下で揮発分を留去することにより、末端に水素を有する下記のパーフルオロエーテル基含有メトキシシラン化合物(B)16gを得た。
【0128】
【化21】
【0129】
実施例3(末端にヨウ素を有するパーフルオロポリエーテル基含有シラザン化合物の合成)
還流冷却器、温度計および撹拌機を取り付けた200mLの4つ口フラスコに、実施例1で得られた末端にヨウ素を有するパーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(A)30g、パーフルオロヘキサン77gを順に加え、次いで、ジメチルアミン5.0gを加え、5℃で3時間撹拌した。その後、テトラヒドロフランによる洗浄操作を行った。続いて、減圧下で揮発分を留去することにより、末端にヨウ素を有するパーフルオロポリエーテル基含有シラザン化合物(C)27gを得た。
【化22】
【0130】
実施例4(末端に水素を有するパーフルオロエーテル基含有シラザン化合物の合成)
還流冷却器、温度計、撹拌機を取り付けた200mLの4つ口フラスコに、実施例3で得られた末端にヨウ素を有するパーフルオロポリエーテル基含有シラザン化合物(C)20g、パーフルオロヘキサン20g、tert−ブチルアルコール20g、亜鉛粉末1.0gを順に加え、45℃で7時間撹拌した。その後、テトラヒドロフランによる洗浄操作を行った。次いで、減圧下で揮発分を留去することにより、末端に水素を有する下記のパーフルオロエーテル基含有シラザン化合物(D)16gを得た。
【化23】
【0131】
実施例5 (末端に水素を有するパーフルオロポリエーテル基含有メトキシシラン化合物の合成)
ビニルトリクロロシランの代わりに、ビニルトリメトキシシラン9gを用いることを除いて、実施例1と同様の操作を行って末端にヨウ素を有する化合物91gを得た。次いで、実施例4と同様の操作を行い、末端に水素を有するパーフルオロエーテル基含有メトキシシラン化合物(B)17gを得た。
【0132】
実施例6 (末端にヨウ素を有するパーフルオロポリエーテル基含有メトキシシラン化合物の合成)
還流冷却器、温度計および撹拌機を取り付けた500mLの4つ口フラスコに、平均組成CF(OCFCF20(OCF16OCFCHOCFCHFOCFCFI(ただし、混合物中には(OCFCFCFCF)および/または(OCFCFCF)の繰り返し単位を微量含む化合物も微量含まれる)で表される末端にヨウ素を有するパーフルオロポリエーテル化合物90g、m−キシレンヘキサフロライド90g、ビニルトリクロロシラン15g、ジ−tert−ブチルパーオキシド2.7gを順に加え、120℃まで昇温させ、一晩撹拌した。その後、揮発分を留去することにより、下記式(E)で表される末端にヨウ素を有するパーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物82gを得た。
【化24】
【0133】
実施例7 (末端に水素を有するパーフルオロエーテル基含有メトキシシラン化合物の合成)
還流冷却器、温度計および撹拌機を取り付けた200mLの4つ口フラスコに、実施例6で合成した末端にヨウ素を有するパーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物(E)18g、m−キシレンヘキサフロライド30g、亜鉛粉末1.5gを順に加え、メタノール8mLを室温で加えたのち、45℃まで昇温し7時間撹拌した。反応混合物にパーフルオロヘキサン20gを加えてからメタノールによる洗浄操作を行った。続いて、減圧下で揮発分を留去することにより、末端に水素を有する下記のパーフルオロエーテル基含有メトキシシラン化合物(F)14gを得た。
【化25】
【0134】
比較例1
m−キシレンヘキサフロライドの代わりに、同量のヘキサフルオロテトラクロロブタンを仕込んで実施例1の操作を行って式(A)で示される化合物(A’)を得、次いで、実施例2と同じ操作を行い、上記式(B)で表される化合物(B’)15gを得た。
【0135】
(評価)
実施例8、9、10、および比較例2
実施例2で得られた化合物(B)、実施例4で得られた化合物(D)、実施例7で得られた化合物(F)および比較例1で得られた化合物(B’)それぞれについて、パーフルオロポリエーテル(PFPE)単位数(a,b,c,d)とシラン単位数(g)を測定した(それぞれ、実施例8、9、10、および比較例2)。
【0136】
測定方法
実施例2で得られた化合物(B)、実施例4で得られた化合物(D)、実施例7で得られた化合物(F)、および比較例1で得られた化合物(B’)それぞれについて、化合物5mgをパーフルオロブチルエチルエーテル(住友スリーエム株式会社製 HFE−7200)2mLで希釈した溶液(A)と、トリフルオロ酢酸ナトリウム2mgをテトラヒドロフラン1mLで希釈した溶液(B)を、20:1(体積比A:B)で混ぜ合わせた。この溶液0.5μLを、日本電子株式会社製 マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間質量分析計(MALDI−TOF−MS) JMS S−3000 “Spiral TOF”を用いて、測定を行った。質量数(m/z)の較正には、平均分子量1000のポリプロピレングリコールを外部標準として用いた。
結果を下記表1に示す。なお、gが7以上の化合物の強度は、測定限界以下であった。
【0137】
【表1】
【0138】
・シラン単位数(g)における強度比率(%)は、gが1〜6の合計を100%として計算した。
・数平均シラン単位数(gの数平均):Σ(g)/ΣN
・重量平均シラン単位数(gの重量平均):Σ(g)/Σ(g
(式中、iは1以上の整数であり、gは、シラン含有基の繰り返し単位数がiである場合のgの値を意味し、Nは、シラン含有基の繰り返し単位数がiである化合物の個数を意味する。)
・重量平均/数平均(gの分散度):重量平均シラン単位数/数平均シラン単位数
【0139】
表面処理剤の調製および表面処理層の形成
実施例11
上記実施例2で得た化合物を、濃度20wt%になるように、ハイドロフルオロエーテル(スリーエム社製、ノベックHFE7200)に溶解させて、表面処理剤1を調製した。
上記で調製した表面処理剤1をスライドガラス上に真空蒸着した。真空蒸着の処理条件は、圧力3.0×10−3Paとし、スライドガラス1枚(55mm×100mm)あたり、各表面処理剤2mgを蒸着させた。その後、蒸着膜付きスライドガラスを、温度20℃および湿度65%の雰囲気下で24時間静置した。これにより、蒸着膜が硬化して、表面処理層が形成された。
【0140】
実施例12および13
上記実施例2で得た化合物の代わりに、実施例4で得た化合物を用いること、および実施例7で得た化合物を用いること以外は、実施例11と同様の操作を行い、表面処理層をそれぞれ形成した。
【0141】
比較例3
実施例2で得た化合物の代わりに上記比較例1で得た化合物を用いたこと以外は、実施例11と同様にして、表面処理剤を調製し、表面処理層を形成した。
【0142】
表面処理層の評価(摩擦耐久性評価)
上記実施例11〜13、および比較例3にて基材表面に形成された表面処理層について、水の静的接触角を測定した。水の静的接触角は、接触角測定装置(協和界面科学社製)を用いて、水1μLにて実施した。
摩擦耐久性評価として、スチールウール摩擦耐久性評価を実施した。具体的には、表面処理層を形成した基材を水平配置し、スチールウール(番手♯0000)を表面処理層の露出上面に接触させ、その上に1000gfの荷重を付与し、その後、荷重を加えた状態でスチールウールを140mm/秒の速度で往復させた。往復回数1000回毎に水の静的接触角(度)を測定した(接触角の測定値が100度未満となった時点で評価を中止した。結果を表2に示す。
【0143】
【表2】
【0144】
表2から理解されるように、gが2以上である化合物が90mol%以上であるパーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物を含む表面処理剤を用いた実施例11〜13では、gは2以上である化合物が90mol%未満である比較例3に比べて摩擦耐久性が著しく向上することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0145】
本発明は、種々多様な基材、特に透過性が求められる光学部材の表面に、表面処理層を形成するために好適に利用され得る。
【要約】      (修正有)
【課題】撥水性、撥油性、防汚性を有し、かつ、優れた摩擦耐久性を有する表面処理層を形成することができる表面処理剤を提供する。
【解決手段】式(1)で表されるパーフルオロ(ポリ)エーテル基含有シラン化合物を含んで成る表面処理剤。
[Rfは1又はそれ以上のFにより置換/未置換のC1〜10のアルキル基;PFPEは、−(OC−(OC−(OC−(OCF−(a〜dは0〜200の整数;a〜dの和は少なくとも1であり、a〜dを付して括弧でくくられた各繰り返し単位の存在順序は任意)であり;QはO又は二価の有機基;Xは水酸基又は加水分解可能な基]
【選択図】なし