特許第5900708号(P5900708)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5900708
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月6日
(54)【発明の名称】透明電極、及び有機電子デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01B 5/14 20060101AFI20160324BHJP
   H01L 51/44 20060101ALI20160324BHJP
   H01L 51/46 20060101ALI20160324BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20160324BHJP
   H05B 33/28 20060101ALI20160324BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20160324BHJP
【FI】
   H01B5/14 A
   H01L31/04 130
   H01L31/04 132
   H01L31/04 120
   H01L31/04 170
   H05B33/14 A
   H05B33/28
   H05B33/02
【請求項の数】9
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2015-533782(P2015-533782)
(86)(22)【出願日】2015年4月6日
(86)【国際出願番号】JP2015060765
(87)【国際公開番号】WO2015152425
(87)【国際公開日】20151008
【審査請求日】2015年7月8日
(31)【優先権主張番号】特願2014-78063(P2014-78063)
(32)【優先日】2014年4月4日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-208285(P2014-208285)
(32)【優先日】2014年10月9日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】徳田 郁美
(72)【発明者】
【氏名】金藤 泰平
【審査官】 神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/106899(WO,A1)
【文献】 特開2013−206809(JP,A)
【文献】 特開2007−112133(JP,A)
【文献】 特開2012−124107(JP,A)
【文献】 特開2014−89962(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 5/14
B32B 32/18
H01L 51/46、51/50
H05B 33/26、33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性ポリマー層と、
前記導電性ポリマー層の厚さよりも大きい直径を有する複数の炭素繊維と、
を有し、
前記炭素繊維の一部が、前記導電性ポリマー層に埋め込まれている透明電極。
【請求項2】
前記炭素繊維の直径が、前記導電性ポリマー層の厚さに対して2〜90倍である請求項1に記載の透明電極。
【請求項3】
前記炭素繊維の直径が2〜15μmであり、前記導電性ポリマー層の厚さが5〜650nmである請求項1又は請求項2に記載の透明電極。
【請求項4】
前記炭素繊維の長さが、50〜7000μmである請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の透明電極。
【請求項5】
前記透明電極の平面に垂直な方向から見たときの前記炭素繊維の面積率が、前記透明電極に対して40〜90%である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の透明電極。
【請求項6】
基板と、
前記基板上に配置される基板電極と、
前記基板電極上に配置される有機機能層と、
前記有機機能層上に配置される透明電極であって、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の透明電極と、
を備える有機電子デバイス。
【請求項7】
前記基板が、塗装金属板、又はプラスチック基板である請求項6に記載の有機電子デバイス。
【請求項8】
前記有機機能層が、光電変換層として発電層を有する有機機能層である請求項6又は請求項7に記載の有機電子デバイス。
【請求項9】
前記基板電極、前記有機機能層、及び前記透明電極を封止する封止層を更に有する請求項6〜請求項8のいずれか1項に記載の有機電子デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機太陽電池、有機エレクトロルミネッセンス素子等に代表される有機電子デバイスに利用される透明電極、及び、透明電極を利用した有機電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
有機電子デバイスには、透明電極が利用される。透明電極は、有機太陽電池に代表される光電変換素子の受光面側に配置される。また、透明電極は、有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子に代表される発光素子の発光面側に配置される。
【0003】
透明電極材料として、酸化インジウムスズ(ITO:Indium Tin Oxide)が多用されている。ITOは、酸化インジウム(In)と、数%の酸化スズ(SnO)とを含有する。
【0004】
ITOからなる透明電極の製造方法は、例えば、文献1に開示されている。具体的には、ITO微粒子を溶媒中に分散させたITO塗布液を準備する。ITO塗布液を基板上に塗布する。400〜800℃で基板上のITO塗布液を加熱して、ITO膜(透明電極)を形成する。
【0005】
上述のとおり、ITO膜からなる透明電極は上述の加熱温度で焼成して形成される。そのため、焼成温度に耐え得る、耐熱性を有する基板を準備しなければならない。さらに、有機電子デバイスに含まれる有機機能層(発電層又は発光層)の耐熱性は低い。したがって、ITO膜からなる透明電極を有機機能層上に形成することはできない。
【0006】
焼成温度が低い透明電極として、導電性ポリマー層が開発されている。導電性ポリマー層は、例えば、PEDOT/PSS層がある。PEDOT/PSS層は、例えば、文献2に開示されている。PEDOT/PSS層は次の方法で製造される。ポリ3、4−エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)をポリスチレンスルホン酸(PSS)と共に水などに分散させた分散液を準備する。分散液を基板に塗布し、乾燥させる。以上の工程により、PEDOT/PSS層が形成される。
【0007】
ITO膜及び導電性ポリマー層に替わる透明電極として、文献3では、金属ナノワイヤを含有する透明導電膜が提案されている。文献3に開示された透明導電膜は、複数の金属ナノワイヤと、電離放射線硬化樹脂とを含有する。金属ナノワイヤの平均直径は40〜100nmであり、金属ナノワイヤは、透明導電膜内に含まれる。金属ナノワイヤは例えば銀である。透明電動膜内にて、金属ナノワイヤ同士が交差して網目構造を形成する。これにより、導電パスが形成され、透明導電膜の導電性が得られる。さらに、金属ナノワイヤは網目構造を形成するため、透明性が得られる。この文献3の透明導電は、文献2の場合と同様に、金属ナノワイヤを含有する塗料を基板又は有機機能層上に塗布して光照射による硬化、又は、乾燥させることにより形成される。
【0008】
その他、透明電極、又は透明電極に相当する部材については、文献4〜8にも開示されている。
【0009】
なお、有機電子デバイスの一つである太陽電池について、文献9には、色素増感太陽電池用の基板としてテンレス鋼板を用いることが開示されている。文献10には、クロム含有フェライト系鋼板を基板とし、化合物半導体の一つであるCIGS(銅(Cu)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、セレン(Se)を主原料とする化合物)を使用した太陽電池が開示されている。文献11には、ステンレス鋼板を基板とした、シリコン系太陽電池が開示されている。文献12には、ガラス基板上に有機薄膜を使って電池構造体を形成した有機薄膜太陽電池が開示されている。
【0010】
文献1: 日本国特開2009−123396号公報
文献2: 日本国特開2013−185137号公報
文献3: 日本国特開2012−216535号公報
文献4: 日本国特開2012−219333号公報
文献5: 国際公開WO2010/106899号公報
文献6: 日本国特表2006−527454号公報
文献7: 日本国特開2013−152579号公報
文献8: 日本国特開2011−86482号公報
文献9: 日本国特開2012−201951号公報
文献10: 日本国特開2012−97343号公報
文献11: 日本国特開2011−204723号公報
文献12: Organic Electronics, 13 (2012) 2130−2137
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
導電性ポリマー層は、高温で焼成する必要がなく、容易に形成しやすい。そのため、導電性ポリマー層は、基板上だけでなく、有機機能層上にも形成できる。しかしながら、導電性ポリマー層は、ITO膜と比較して、導電性及び光透過性が低い。
一方、金属ナノワイヤを利用した透明電極では、金属ナノワイヤのコストが高い。さらに、金属ナノワイヤの網目構造のうち、金属ナノワイヤ以外の隙間部分(つまり、樹脂部分)には導電性がなく、透明電極としての導電性が低い。
【0012】
このため、有機電子デバイスの有機機能層の機能を十分発揮させるため、有機機能層上にも形成可能である透明電極について、導電性及び光透過性の更に向上が求められているのが現状である。
【0013】
そこで、本発明の目的は、有機機能層上にも形成可能であり、高い導電性及び光透過性を有する透明電極、及び、その透明電極を備える有機電子デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
<1>
導電性ポリマー層と、
前記導電性ポリマー層の厚さよりも大きい直径を有する複数の炭素繊維と、
を有し、
前記炭素繊維の一部が、前記導電性ポリマー層に埋め込まれている透明電極。
【0015】
<2>
前記炭素繊維の直径が、前記導電性ポリマー層の厚さに対して2〜90倍である請求項1に記載の透明電極。
【0016】
<3>
前記炭素繊維の直径が2〜15μmであり、前記導電性ポリマー層の厚さが5〜650nmである請求項1又は請求項2に記載の透明電極。
【0017】
<4>
前記炭素繊維の長さが、50〜7000μmである請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の透明電極。
【0018】
<5>
前記透明電極の平面に垂直な方向から見たときの前記炭素繊維の面積率が、前記透明電極に対して40〜90%である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の透明電極。
【0019】
<6>
基板と、
前記基板上に配置される基板電極と、
前記基板電極上に配置される有機機能層と、
前記有機機能層上に配置される透明電極であって、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の透明電極と、
を備える有機電子デバイス。
【0020】
<7>
前記基板が、塗装金属板、又はプラスチック基板である請求項6に記載の有機電子デバイス。
【0021】
<8>
前記有機機能層が、光電変換層として発電層を有する有機機能層である請求項6又は請求項7に記載の有機電子デバイス。
【0022】
<9>
前記基板電極、前記有機機能層、及び前記透明電極を封止する封止層を更に有する請求項6〜請求項8のいずれか1項に記載の有機電子デバイス。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、有機機能層上にも形成可能であり、高い導電性及び光透過性を有する透明電極、及び、その透明電極を備える有機電子デバイスが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本実施形態に係る有機電子デバイスの概略断面図である。
図2】本実施形態に係る透明電極の概略断面図である。
図3】本実施形態に係る透明電極の概略平面図である。
図4】本実施形態に係る太陽電池モジュールを示す概略構成図である。
図5】実施例Bで試作した単セル(電池構造体)を2つ有する太陽電池を説明する図である。
図6】実施例Bで試作した太陽電池のI−V曲線の説明用概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明の一例である実施形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない場合がある
【0026】
<有機電子デバイス>
本実施形態に係る有機電子デバイス1は、図1に示すように、基板10と、基板10上に配置される基板電極11と、基板電極11上に配置される有機機能層12と、有機機能層12上に配置される透明電極13とを備える。また、有機電子デバイス1は、基板電極11、有機機能層12、及び透明電極13を封止する封止層14も備える。なお、封止層14は、必要に応じて設けられる層である。
【0027】
そして、有機電子デバイス1の上部電極として設けられる透明電極13は、図2図3に示すように、導電性ポリマー層131と、導電性ポリマー層131の厚さよりも大きい直径を有する複数の炭素繊維132と、を有し、炭素繊維132の一部が、導電性ポリマー層131に埋め込まれている。なお、炭素繊維132の一部が導電性ポリマー層131に埋め込まれているとは、複数の炭素繊維の各繊維の一部が導電性ポリマー層131に埋め込まれていることを意味する。
【0028】
本実施形態に係る有機電子デバイス1は、上記構成により、有機機能層12の機能を十分発揮するデバイスとなる。その理由は、以下の通り推測される。
【0029】
透明電極13は、導電性の高い炭素繊維132を複数備えている。炭素繊維132は、導電性ポリマー層131の厚さよりも大きい直径を有するので、導電性ポリマー層131から露出した状態となる。また、炭素繊維132は、一部が導電性ポリマー層131に埋め込まれるようにして設けられているので、導電性ポリマー層131が接する層(本実施形態では有機機能層12)と互いに接触する、又は、導電性ポリマー層が接する下層との距離が短くなり、下層と直接導通化が図られ易い状態となる。更に、炭素繊維132は、直径を導電性ポリマーの厚みよりも大きくすることで、複数の炭素繊維132同士が接触した状態となり易い。これに加えて、炭素繊維132以外の隙間部分が導電性ポリマー層131により導電性が付与される状態となる。これらにより、透明電極13の導電性が向上する。
【0030】
一方、光透過性の低い導電性ポリマー層131は、炭素繊維132の直径よりも薄く設けられるので、透明電極13の光透過性が向上する。なお、導電性ポリマー層131の厚さを薄くしても、導電性の高い炭素繊維132により、透明電極13の導電性が向上する。
【0031】
また、炭素繊維132と導電性ポリマー層131とで構成される透明電極13は、例えば、炭素繊維132と導電性ポリマーとを含む塗布液の塗布・乾燥等による低温形成が可能である。つまり、透明電極13は、有機機能層12上にも形成可能となる。
【0032】
このため、透明電極13は、有機機能層12上にも形成可能であり、導電性及び光透過性が高くなると推測される。そして、透明電極13を備える有機電子デバイス1は、有機機能層12の機能を十分発揮するデバイスとなる。
【0033】
以下、有機電子デバイス1の各要素について詳細に説明する。
【0034】
[基板10]
基板10の素材は、特に制限されない。基板10は樹脂を含有してもよいし、ガラス等に代表される無機を含有してもよい。基板10は、光透過性を有していてもよいし、光透過性を有していなくてもよい。
【0035】
基板10は、具体的には、例えば、ガラス、セラミック、金属等の無機材料で構成された無機基板であってもよいし、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリイミド系樹脂等の樹脂で構成されたプラスチック基板であってもよい。基板10が金属基板等の導電体である場合は、基板電極11と電気的に絶線するため、例えば、基板10の表面に絶縁層をコーティングして、その上に基板電極11を形成してもよい。この金属板としては、塗装金属板が挙げられる。
【0036】
[基板電極11]
基板電極11は、基板10上に配置される。基板電極11は周知の構成を有する。基板電極11は、例えば、金属薄膜である。金属薄膜は、例えば、アルミニウム、銀、金等の金属又は合金で構成された薄膜である。基板電極11は、金属ナノワイヤ、スズをドープした酸化インジウムスズ(ITO)、フッ素をドープした酸化スズ(FTO)、アルミニウムを添加した酸化亜鉛(ZAO)、グラフェン、導電性ポリマー等の薄膜であってもよい。
【0037】
ここで、基板電極11を導電性ポリマーの薄膜する場合、基板電極11は、蒸着のようにコストのかかる方法によらず、低温で成膜可能な方法(例えばスピンコート法等)で作製できる。
【0038】
基板電極11の厚さは、特に制限されるものではないが、性能やコストを勘案して、0.5〜3μmが好ましく、より好ましくは1〜2μmである。
【0039】
[有機機能層12]
有機機能層12は、基板電極11上に配置される。有機機能層12は、基板電極11と透明電極13との間に配置される。有機電子デバイス1が光電変換素子である場合、有機機能層12は、例えば、光電変換層(発電層、発光層、受光層等)を有する有機機能層がある。有機機能層12は複数の層を含んでもよい。なお、有機機能層12が複数の層で構成される場合、有機機能層12とは、少なくとも一つの層が有機層で構成された層を意味する。
具体的には、有機機能層12は、例えば、光電変換層121と、光電変換層121の基板電極11側に設けられる電子輸送層122と、光電変換層121の透明電極13側に設けられる正孔輸送層123とを備える。なお、例えば、有機電子デバイス1が太陽電池である場合、光電変換層121は発電層であり、有機電子デバイス1が発光素子である場合、光電変換層121は発光層であり、有機電子デバイス1が撮像素子の場合、光電変換層121は受光層である。
【0040】
有機機能層12は、光変換層12Aのみ有する構成としてもよく、光変換層12Aと電子輸送層122及び正孔輸送層123の一方とを有する構成としてもよい。有機機能層12は、さらに、上記以外の他の層、例えば、正孔注入層、電子注入層、絶縁層、反射防止層等を有する構成としてもよい。
【0041】
[透明電極13]
透明電極13は、上部電極として有機機能層12上に配置される。透明電極13は、導電性ポリマー層131と、複数の炭素繊維132とを有する。
【0042】
(導電性ポリマー層131)
導電性ポリマー層131は、導電性ポリマーを含有する。導電性ポリマーは、電気を流すことのできる高分子である。導電性ポリマーは、好ましくは、芳香族炭素環、芳香族ヘテロ環又は複素環を、単結合又は二価以上の連結基で連結した非共役系高分子又は共役系高分子がある。
【0043】
導電性ポリマーは、例えば、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリパラフェニレン、ポリイソチアナフテン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリフラン、ポリピロール、ポリセレノフェン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアセチレン、ポリピリジルビニレン、ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリ(p−フェニレン)及びポリアジンからなる群から選択される1種又は2種以上の置換又は非置換の導電性ポリマーがある。
【0044】
共役高分子の導電性ポリマーは、例えば、ドーパントとして、ハロゲン、アルカリ金属、アミノ酸、アルコール、カンファースルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸からなる群から選択される1種又は2種加えると、利便性が高まるため好ましい。具体的には、これらの共役高分子の導電性ポリマーにドーパントを加えると、状態が安定したり、溶解性が向上したり、導電性が向上したりする。
【0045】
導電性ポリマーは、好ましくは親水性を有する。この場合、導電性ポリマーの水系分散液を用いて導電性ポリマー層131を形成できる。
【0046】
導電性ポリマーは、さらに好ましくはPEDOT/PSSである。PEDOT/PSSは、ポリ3、4−エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)とポリスチレンスルホン酸(PSS)からなる高分子化合物である。
【0047】
PEDOT/PSSは、公知のものを使用してもよい。市販のPEDOT/PSSは、例えば、H.C.Starck社のCLEVIOSシリーズ、Aldrich社のPEDOT−PASS483095、560598、Nagase Chemtex社のDenatronシリーズである。
【0048】
導電性ポリマー層131の好ましい厚さは、5〜650nmである。導電性ポリマー層131の厚さが薄すぎれば、透明電極13の導電性(集電効果)が低下することがある。一方、導電性ポリマー層131が厚すぎれば、透明電極13の光透過性が低下することがある。したがって、導電性ポリマー層131の厚さを5〜650nmにすると、透明電極13の導電性(集電効果)及び光透過性が高まり易くなる。導電性ポリマー層131の好ましい下限は100nmであり、さらに好ましくは130nmである。導電性ポリマー層131の好ましい上限は600nmであり、さらに好ましくは400nmである。
【0049】
ここで、導電性ポリマー層131の厚さは、次の方法により測定される値である。透明電極13の断面を、SEM(走査型電子顕微鏡)により倍率20倍で観察し、炭素繊維132間の中央部に位置する導電性ポリマー層131の厚さを測定する。そして、この測定を5箇所で行って、その平均値を導電性ポリマー層131の厚さとする。
なお、導電性ポリマー層131の厚さの測定対象を、炭素繊維132間の中央部とするのは、炭素繊維132に近い領域は表面張力により導電性ポリマー層131が盛り上がって形成されているためである。
【0050】
(炭素繊維132)
炭素繊維132は周知の炭素繊維である。炭素繊維132は、例えば、アクリル繊維を耐炎化・炭素化、又は、石油ピッチから不融化・炭素化・黒鉛化することで製造される。
炭素繊維132の直径は、導電性ポリマー層131の厚さよりも大きい。そのため、図2に示すように、炭素繊維132の一部が、導電性ポリマー層131に埋め込まれている。つまり、炭素繊維132の一部は導電性ポリマー層131内に含まれるものの、炭素繊維132の残部は導電性ポリマー層131から露出する。具体的には、例えば、複数の炭素繊維132は、その径方向の一方側の一部(例えば、その径方向の一方側の一部であって、外周面から直径の1/3までの領域(好ましくは1/4以下までの領域)の一部))が導電性ポリマー層131に埋まり込むようにして、点在して配置されている。
なお、炭素繊維132が他の炭素繊維132の上に重なって、導電性ポリマー層131上に配置されていてもよく、この場合、例えば、炭素繊維132は、他の炭素繊維132上に重なった領域及びその周囲を除く一部が導電性ポリマー層131に埋まり込んだ状態となっている。
【0051】
炭素繊維132の好ましい直径は、導電性ポリマー層131の厚さに対して2〜90倍である。導電性ポリマー層131の厚さに対する炭素繊維132の直径の比率が小さすぎれば、透明電極13の導電性が低下することがある。導電性ポリマー層131の厚さに対する炭素繊維132の直径の比率が大きすぎれば、透明電極13の光透過性が低下することがある。したがって、導電性ポリマー層131の厚さに対する炭素繊維132の直径の比率を2〜90倍にすると、透明電極13の導電性(集電効果)及び光透過性が高まり易くなる。導電性ポリマー層131の厚さに対する炭素繊維132の直径の比率のより好ましい下限値は18倍であり、さらに好ましくは35倍である。導電性ポリマー層131の厚さに対する炭素繊維132の直径の比率のより好ましい上限値は84倍であり、さらに好ましくは60倍である。
【0052】
具体的な炭素繊維132の好ましい直径は2〜15μmである。炭素繊維132の直径のより好ましい下限値は5μmであり、さらに好ましくは8μmである。炭素繊維132の直径のより好ましい上限値は13μmであり、さらに好ましくは11μmである。
【0053】
ここで、炭素繊維132の直径は、次の方法により測定される値である。透明電極13の断面を、SEM(走査型電子顕微鏡)により倍率5,000倍で観察し、炭素繊維132の断面のうち、炭素繊維132の長さ方向に直交する断面での直径を測定する。そして、この測定を5箇所で行って、その平均値を炭素繊維132の直径とする。
なお、炭素繊維132を単独で採取可能な場合、炭素繊維132を直接観察して測定する。
【0054】
炭素繊維132の好ましい長さは、50〜7000μm(7mm)である。図3に示すとおり、透明電極13において、複数の炭素繊維132のうち、少なくとも一部が互いに接触することがよい。この場合、透明電極13の導電性が高まるやすくなる。炭素繊維132の長さが短すぎれば、互いに接触する炭素繊維132の数が少なくなり、透明電極13の導電性が低くなることがある。一方、炭素繊維132の長さが長すぎれば、炭素繊維132が透明電極13内で均一に分散しにくくなり、導電性が低下することがある。したがって、炭素繊維132の長さを50〜7000μmにすると、透明電極13の導電性が高まり易くなる。炭素繊維132の長さのより好ましい下限は2000μmであり、さらに好ましくは2500μmである。炭素繊維132の長さのより好ましい上限は6500μmであり、さらに好ましくは6000μmである。
【0055】
ここで、炭素繊維132の長さは、次の方法により測定される値である。透明電極13の平面(炭素繊維132を設ける側の面)を、光学顕微鏡により倍率10倍で観察し、炭素繊維132の長さを測定する。そして、この測定を5箇所で行って、その平均値を炭素繊維132の長さとする。
なお、炭素繊維132を単独で採取可能な場合、炭素繊維132を直接観察して測定する。
【0056】
炭素繊維132の好ましい面積率は、透明電極13に対して40〜90%である。炭素繊維132の面積率とは、透明電極13の平面(炭素繊維132を設ける側の面)に垂直な方向から見たとき、透明電極13の単位面積当たりに占める炭素繊維の面積(透明電極13の厚み方向の炭素繊維の投影面積)の割合である。炭素繊維132の面積率が小さすぎれば、透明電極13の導電性が低下することがある。炭素繊維132の面積率が大きすぎれば、透明電極13の光透過性が低下することがある。したがって、炭素繊維132の面積率を40〜90%にすると、透明電極13の導電性及び光透過性が高まり易くなる。炭素繊維132の面積率のより好ましい下限は45%であり、さらに好ましくは50%である。炭素繊維132の面積率のより好ましい上限は87%であり、さらに好ましくは80%である。
【0057】
ここで、炭素繊維132の面積率は、次の方法により測定される値である。透明電極13の平面(炭素繊維132を設ける側の面)を、光学顕微鏡により倍率5倍で観察し、その観察視野での炭素繊維132の面積率を測定する。そして、この測定を5視野で行って、その平均値を炭素繊維132の面積率とする。
【0058】
透明電極13中の好ましい炭素繊維132の含有量は70〜98質量%である。炭素繊維132の含有量が低すぎれば、透明電極13の導電性が低くなることがある。一方、炭素繊維132の含有量が高すぎれば、透明電極13の光透過性が低くなることがある。したがって、炭素繊維132の含有量を70〜98質量%にすると、透明電極13の導電性及び光透過性が高まり易くなる。
【0059】
[封止層14]
封止層14は、透明電極13上に設けられ、基板電極11、有機機能層12、及び透明電極13を封止する層である。封止層14は、特に制限はなく、光透過性が高く、且つ、耐久性(耐候性、耐高温、耐高湿、耐候性等)、及び電気絶縁性を有する周知の封止材による封止層が適用される。
封止材としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリエチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルサルフォン、ポリカーボネート等の樹脂封止材がある。
【0060】
[製造方法]
有機電子デバイス1及び透明電極13の製造方法の一例を説明する。
【0061】
基板10、基板電極11及び有機機能層12は周知の方法で製造される。例えば、初めに、基板10を準備する。基板10上に基板電極11を形成する。基板電極11は周知の方法で製造される。基板電極11が金属薄膜である場合、電極物質(金属等)を用いて、蒸着法又はスパッタリング法等の方法により、基板電極11を形成する。基板電極11がITO膜である場合、ITO塗布液を基板上に塗布する。400〜800℃で基板上のITO塗布液を加熱して、基板電極11(ITO膜)を形成する。
【0062】
基板電極11を形成した後、有機機能層12を形成する。有機機能層12は周知の方法で製造される。有機機能層12は、例えば、キャスト法、スピンコート法、ドクターブレード法、スクリーン印刷法、インクジェット法、メニスカス法、ダイコート法、グラビア印刷法、スライドコート法、スプレー法、フレキソグラフ印刷法、電子フォトグラフ法、蒸着法等により製造される。
【0063】
有機機能層12を形成した後、有機機能層12上に、透明電極13を形成する。例えば、初めに、導電性ポリマー分散液を製造する。具体的には、溶媒に対して導電性ポリマーを公知の方法で分散させる。公知の方法とは、例えば、超遠心粉砕法、カッティングミル法、ディスクミル法、ボールミル法等である。溶媒は、例えば、水、アルコール、エーテル等である。好ましくは、溶媒は水である。
【0064】
さらに、導電性ポリマー分散液に、炭素繊維132を添加して分散させる。分散方法は上述の公知の方法を採用する。以上の工程により導電性ポリマー分散液を製造する。
【0065】
さらに、導電性ポリマー分散液に添加剤を添加してもよい。添加剤は、例えば、界面活性剤、溶液促進剤、可塑剤、酸化防止剤、硫化防止剤、粘土調整剤等である。
【0066】
界面活性剤は、例えば、アルキルスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルカルボン酸等のアニオン系界面活性剤;第一〜第三脂肪アミン、四級アンモニウム、テトラアルキルアンモニウム等のカチオン系界面活性剤;N,N−ジメチル−N−アルキル−N−カルボキシメチルアンモニウムベタイン、N,N,N−トリアルキル−N−スルホアルキレンアンモニウムベタイン等の両イオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル等の非イオン性界面活性剤等である。
【0067】
導電性ポリマーとして、PEDOT/PSSを使用する場合、好ましくは、さらに添加剤としてジメチルスルホキシド(DMSO)を添加する。DMSOは、PEDOT/PSSの導電性をさらに高める。
【0068】
以上の工程により、導電性ポリマー分散液が準備される。
【0069】
導電性ポリマー分散液中の炭素繊維の含有量が高い場合、透明電極13の光透過性が低くなることがある。したがって、炭素繊維の好ましい含有量は2.5質量%以下である。一方、導電性ポリマー分散液中の炭素繊維の含有量が低すぎれば、透明電極13の導電性が低下することがある。したがって、導電性ポリマー分散液中の炭素繊維の含有量の好ましい下限は1.0質量%であり、さらに好ましくは1.5質量%である。
【0070】
導電性ポリマー分散液に界面活性剤を添加する場合、導電性ポリマー分散液中の界面活性剤の含有量が高すぎれば、透明電極13の導電性が低下することがある。したがって、界面活性剤の好ましい含有量は2.5質量%以下である。界面活性剤の含有量の好ましい下限は0.1質量%である。
【0071】
導電性ポリマー分散液にDMSOを添加する場合、導電性ポリマー分散液中のDMSOの含有量が高すぎれば、導電性の向上効果が飽和する。したがって、DMSOの好ましい含有量は15質量%以下である。DMSO含有量の好ましい下限は5質量%である。
【0072】
次に、準備された導電性ポリマー分散液を有機機能層12上に塗布する。具体的には、例えば、スピンコート、キャスト、エクストルージョンダイコータ、ブレッドコータ、エアードクターコータ、ナイフコータ、アプリケータ等を用いて、導電性ポリマー分散液を有機機能層12上に塗布する。これにより、導電性ポリマー分散液の塗膜が製膜される。アプリケータを用いて製膜する場合、分散液の塗膜の好ましい厚さは、0.5MIL〜7MIL(1MIL=12.5μm)である。
【0073】
製膜後、分散液の塗膜を乾燥して、透明電極13を形成する。乾燥方法は特に限定されない。例えば、120℃以下の温度で所定時間乾燥する。好ましい乾燥時間は20秒〜30分である。しかしながら、乾燥時間はこれに限定されない。乾燥工程では、例えば、ホットプレート、オーブン、熱風炉等を使用できる。
【0074】
その後、周知の方法を利用して、透明電極13上に、封止層14を形成し、基板電極11、有機機能層12、及び透明電極13を封止する
【0075】
以上の製造工程により、有機電子デバイス1及び透明電極13が製造される。透明電極13は、分散液を塗布して乾燥することにより、容易に製造できる。さらに、透明電極13は乾燥により形成されるため、ITO膜のように、分散液の塗膜を400℃以上の高温に加熱する必要がない。そのため、透明電極13は、耐熱性の低い有機機能層12上であっても、容易に製造することができる。
【0076】
上述の製造方法では、炭素繊維132を添加した導電性ポリマー分散液を用いて、透明電極13を形成する形態を説明したが、透明電極13の形成方法は、これに限定されるわけではない。例えば、炭素繊維132を含有しない導電性ポリマー分散液を有機機能層12上に塗布して製膜した後、導電性ポリマー分散液の塗膜上に、炭素繊維132をふりかけて、乾燥し、透明電極13を形成してもよい。
【0077】
ただし、炭素繊維132を混合した導電性ポリマー分散液を有機機能層12上に塗布して、透明電極13を形成することが好ましい。この場合、仮に、炭素繊維132同士が上下に重なって配置されても、炭素繊維132間に導電性ポリマーが入り込みやすい。そのため、透明電極13の導電性が高まるやすくなる。
【0078】
また、透明電極13は、有機機能層12上に限られず、基板10上に形成してもよい。透明電極13を基板10上に形成する場合でも、透明電極13の製造方法は、上述の方法と同じである。
【0079】
なお、有機電子デバイス1としては、太陽電池、発光素子(有機電界発光素子等)、撮像素子(イメージセンサ等)、トランジスタ、ディスプレイ等がある。また、透明電極13は、これら有機電子デバイス1の他、無機機能層を有する無機電子デバイスの透明電極として利用できる。
【0080】
<太陽電池モジュール>
本実施形態に係る太陽電池モジュール2は、図4に示すように、塗装金属板10Aと、塗装金属板上に配置される複数の電池構造体(単セル)15と、とを備えている。なお、図示しないが、電池構造体(単セル)15を封止する封止層も備えている。そして、電池構造体15は、基板電極11と、基板電極11上に配置される発電部12Aと、発電部12A上に配置される透明電極13とを備えている。電池構造体(単セル)15において、基板電極、発電部及び透明電極の全てが重なった部分が発電箇所(発電領域)である。
【0081】
太陽電池モジュール2では、隣り合った一方の電池構造体15の透明電極13を他方の電池構造体15の基板電極11に接続することにより、複数の電池構造体15同士の結線がなされてモジュール化している。複数の電池構造体15同士の結線(配線)は、例えば、隣り合う電池構造体15同士の基板電極11と透明電極13とを重ねることで形成している。
【0082】
ここで、一般的に、例えば、太陽電池に用いられる電池構造体(単セル)の電圧は1V前後である。一方で、例えば、有機薄膜太陽電池(OPV)で用いられる有機薄膜からなる電池構造体(単セル)の電圧は1V以下である。そのため、有機薄膜太陽電池の実用化のためには複数の電池構造体(単セル)を繋げ、最終出力電圧を上昇させる必要がある。そして、最終出力電圧を上昇させるため、複数の電池構造体(単セル)を結線したものがモジュールである。一般に、太陽電池モジュールのエネルギー変換効率は、発電量を光が照射される全面積で割って算出・評価されるため、結線(配線)面積は小さい方がよい。ゆえに、同一基板上に複数の電池構造体(単セル)を作製できれば、配線面積が縮小可能とある。このため、有機薄膜太陽電池のモジュール化は有効である。
【0083】
なお、太陽電池モジュール2は、基板として塗装金属板10Aを適用し、有機機能層12として発電部12Aを適用した有機電子デバイス1をモジュール化したデバイスの一例である。つまり、有機電子デバイス1は、基板10上に、基板電極11、有機機能層12及び透明電極13の構造体を複数配置してモジュール化したデバイスであってもよい。
【0084】
以下、太陽電池モジュール2の各要素の詳細について説明する。
【0085】
[塗装金属板10A]
塗装金属板10Aは、例えば、鋼板等の基材金属板101Aと、基材金属板101Aの表面に塗料を塗布して形成した塗装層102Aとを備えている。図4では、塗装層102Aは、基材金属板101Aの片面のみに設けた例を示しているが、基材金属板101Aの両面に設けてもよい。塗装層102Aを基材金属板101Aの片面のみに設けた場合、電池構造体15は、塗装金属板10Aの塗装層102Aが設けられた面上に形成される。
【0086】
なお、導電性を持つ金属板を基板とする場合、基板上に形成した複数の電池構造体(単セル)15によってモジュールを構成するためには、基板電極が導電性の基板に直接接触することを回避する必要がある。基板電極11に面する側に絶縁性の塗装層102Aを備えた塗装金属板10Aを使用することは、一つの塗装金属板10A上に複数の電池構造体15を設けた太陽電池モジュール2を容易に得ることを可能にする。
【0087】
塗装金属板10Aは、基材金属板101Aの片面又は両面に1以上の塗膜からなる塗装層102Aを有し、塗装層102Aの表面の算術平均粗さRaの値が20nm以下、塗装層102Aのうちの最表層のゴム状弾性領域における動的貯蔵弾性率の最小値が2×10Pa以下、塗装層102Aの総膜厚が1〜30μm、電圧100V印加時の漏れ電流値が10−6A/cm未満である塗装金属板が好ましい。
なお、塗装層102Aの最表層とは、塗装層102Aが1つの塗膜からなる場合、その塗膜が該当し、塗装層102Aが2以上の塗膜からなる場合、塗装層102Aの最表面に位置する塗膜が該当する。
【0088】
塗装層102Aが2以上の塗膜からなる場合には、以下に説明するように、最表層の塗膜の物性が、塗装金属板10A、及び塗装金属板10Aを備える太陽電池モジュールの特性に影響する。このことから、塗装層102Aについての規定は、主に、最表層の塗膜に関するものとなっている。
【0089】
塗装層102Aの表面は、算術平均粗さRaの値が20nm以下であることが好ましく、より好ましくは、算術平均粗さRaの値が20nm以下、かつ最大山高さRpと最大谷深さRvの合計粗さRzの値が200nm以下である。最表層のRaが20nmより大きいと、塗装金属板表面の凹凸を充分に平坦化し難くなり、電気的性能の低下を引き起こすことがある。また、最表層塗膜のRzの値が200nmより大きいと、たとえRaが20nm以下であっても、塗装金属板10A上に形成する基板電極11にピンホールが発生することがあり、短絡の原因となる場合がある。
【0090】
塗装層102Aの表面粗さは、測定方法の違いによって得られる数値が異なることが知られている。このため、算術平均粗さRa、最大山高さRpと最大谷深さRvの合計粗さRzは、AFM(原子間力顕微鏡)を用いて塗装層102Aの表面形状を撮像し、得られた像から測定した粗さ曲線を元に算出した値と定義する。
【0091】
塗装層102Aの総膜厚は、1〜30μmであることが好ましく、より好ましくは5〜20μmである。総膜厚が1μm未満では、塗装層102Aの絶縁性が低下することがある。総膜厚が20μm超では、コスト面から不利になることがある。
【0092】
塗装層102Aの総膜厚は、塗装層102Aの断面観察により測定される値である。具体的には、常温乾燥型エポキシ樹脂中に塗装金属板10Aを塗装層102Aの厚み方向と垂直に埋め込み、その埋め込み面を機械研磨する。そして、その研磨面を、SEM(走査型電子顕微鏡)により倍率5,000で観察し、塗装層102Aを測定する。そして、この測定を5箇所で行って、その平均値を塗装層102Aの総膜厚とする。
【0093】
塗装層102Aは、塗装金属板10Aと塗装金属板10Aの上に形成する電池構造体15(特に電池構造体15のうちの塗装金属板10Aと接触する基板電極11)との間で、両者の熱膨張率の差により生じる熱応力を抑制する機能を有することがよい。つまり、塗装層102Aにより、基板電極11と塗装金属板10Aとの界面応力を緩和し、形成した電池構造体15に熱履歴が与えられた際に蓄積される歪みエネルギーを小さくするとよい。
なお、電池構造体15の作製が低温で可能である太陽電池モジュールにおいては、上記両者の熱膨張率の差により熱応力が生じにくいものの、太陽電池モジュールのより高い信頼性を得るためには、塗装層102Aは上記機能を有することがよい。
【0094】
ここで、歪みエネルギーは、一般に塗装層102Aの内部に蓄積され、塗装層102Aに含む主樹脂の粘弾特性により小さくすることができる。塗装層102Aにおいて、主樹脂は特に限定されないが、例えば、主樹脂が架橋構造を持つ熱硬化型樹脂の場合、歪みエネルギーは架橋点間分子量に依存し、架橋点間分子量は一般に樹脂のゴム状弾性領域の平衡弾性率と相関がある。
【0095】
粘弾性体である樹脂は、温度や時間(動的貯蔵弾性率の場合は周波数)に依存して弾性率が変化する。架橋された熱硬化型樹脂の場合、低温又は短時間(動的貯蔵弾性率の場合は高周波)の領域(一般にはこの領域をガラス状弾性領域と呼ぶ)で、高い弾性率(一般に10〜1010Pa付近の値)を示す。そして、温度が高くなるか、又は時間が長くなるに従い(動的貯蔵弾性率の場合、周波数が低くなるに従い)、弾性率が急激に減少する領域が現れる(一般にはこの領域を転移領域と呼ぶ)。更に高温又は長時間(動的貯蔵弾性率の場合、低周波数)になると、一定の平衡弾性率となり、この平衡弾性領域をゴム状弾性領域と呼ぶ(一般には、10〜10Pa付近の値を示す)。
【0096】
動的粘弾性測定装置によって、一定周波数(角周波数6.28rad/sec)、温度−50〜200℃の領域で測定した動的貯蔵弾性率のうち、高温のゴム状弾性領域で現れる動的貯蔵弾性率の最小値で塗膜の特性を定義している。なお、動的貯蔵弾性率とは、一般にE’で表され、E’=(σ0/γ0)cosδで定義される。ここでのσ0は応力の最大振幅、γ0は歪みの最大振幅、δは応力と歪みとの間の位相角を表す。
【0097】
塗装層102Aのうちの最表層のゴム状弾性領域における動的貯蔵弾性率の最小値は、2×10Pa以下が好ましく、より好ましくは、2×10Pa以下である。動的貯蔵弾性率の最小値が2×10Pa超では、塗装層102Aの最表層の主樹脂の架橋点間分子量が小さくなり、熱応力を受けた際に、塗装層102A(その最表層)内部に蓄積する弾性的な歪みエネルギーが大きくことがあるからである。すなわち、電池構造体15の形成直後は塗装層102Aが外観上健全に見える場合であっても、熱履歴を受けた際に塗装層102A(その最表層)の破壊や剥離が生ずることがあるからである。
【0098】
塗装金属板10Aは、電圧100V印加時の漏れ電流値が10−6A/cm未満であることが好ましい。塗装金属板10Aには、光電変換層121として発電層等を含む発電部12Aと基材金属板101Aとの導通による電気的性能の低下を抑制するための絶縁性が必要であり、上記漏れ電流値が10−6A/cm以上では発電部12Aの品質を担保することが困難になることがある。
【0099】
塗装層102Aの主樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、フッ素樹脂等が挙げられる。塗装層102Aの主樹脂は、加工が厳しい用途に使用される場合には、熱硬化型の樹脂が好ましい。熱硬化型の樹脂としては、ポリエステル系樹脂(エポキシポリエステル樹脂、ポリエステル樹脂、メラミンポリエステル樹脂、ウレタンポリエステル樹脂等)、アクリル系樹脂等が挙げられる。これらポリエステル系樹脂及びアクリル系樹脂は、他の樹脂と比べて加工性が良く、厳しい加工の後にも塗装層102Aに亀裂が発生しにくい。
【0100】
塗装層102Aのうちの最表層の主樹脂は、特に限定されないが、ポリエステル系樹脂がよい。ポリエステル系樹脂としては、特に限定されないが、一般に公知の多塩基酸と多価アルコールとのエステル化合物であって、一般に公知のエステル化反応によって合成されるものが好ましい。
【0101】
多塩基酸としては、特に限定されないが、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、無水フタル酸、無水トリメット酸、マレイン酸、アジピン酸、フマル酸等が挙げられる。これらの多塩基酸は、1種を使用してもよいし、複数種を併用してもよい。
【0102】
多価アルコールとしては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。これらの多価アルコールは、1種又は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0103】
ポリエステル系樹脂を用いるに当たっては、硬化剤を配合すると、塗装層102Aの硬度が向上するため好ましい。硬化剤としては、特に限定されないが、一般に公知のアミノ樹脂、ポリイソシアネート化合物のいずれか一方または双方を用いる。
【0104】
アミノ樹脂としては、特に限定されないが、例えば、尿素、ベンゾグアナミン、メラミン等とホルムアルデヒドとの反応で得られる樹脂、及びこれらをアルコールによりアルキルエーテル化した樹脂等が挙げられる。アミノ樹脂として具体的には、メチル化尿素樹脂、n−ブチル化ベンゾグアナミン樹脂、メラミン系樹脂(メチル化メラミン樹脂、n−ブチル化メラミン樹脂、iso−ブチル化メラミン樹脂等)等が挙げられる。
【0105】
なお、塗装金属板10Aの分野で広く用いられる樹脂として、ポリエステル系樹脂を主樹脂とし、メラミン系樹脂を硬化剤としたポリエステル/メラミン系樹脂がある。ここで言う、メラミン系樹脂は、例えば、メチル化メラミン樹脂、n−ブチル化メラミン樹脂、iso−ブチル化メラミン樹脂のうちの少なくとも1種以上がある。
【0106】
ポリイソシアネート化合物としては、特に限定されないが、例えば、フェノール、クレゾール、芳香族第二級アミン、第三級アルコール、ラクタム、オキシム等のブロック剤でブロック化したイソシアネート化合物が好ましい。さらに好ましいポリイソシアネート化合物としては、HDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)及びその誘導体、TDI(トリレンジイソシアネート)及びその誘導体、MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)及びその誘導体、XDI(キシリレンジイソシアネート)及びその誘導体、IPDI(イソホロンジイソシアネート)及びその誘導体、TMDI(トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート)及びその誘導体、水添TDI及びその誘導体、水添MDI及びその誘導体、水添XDI及びその誘導体等が挙げられる。
【0107】
塗装層102Aの構成は、特に限定されないが、塗装層102Aが2以上の塗膜からなる複層である場合、少なくとも1つの塗膜が防錆顔料を含有する層であることが、電池構造体15の耐食性を高める上で好ましい。
【0108】
防錆顔料としては、特に限定されないが、例えば、リン酸系防錆顔料(リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、亜リン酸亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム等)、モリブデン酸系防錆顔料(モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸バリウム等の)、バナジウム系防錆顔料(酸化バナジウム等)、シリケート系防錆顔料(カルシウムシリケート等)、シリカ系防錆顔料(水分散シリカ、ヒュームドシリカ、カルシウムイオン交換シリカ等)、フェロアロイ系防錆顔料(フェロシリコン等)等の公知のクロメートフリー系防錆顔料;クロム酸ストロンチウム、クロム酸カリウム、クロム酸バリウム、クロム酸カルシウム等の公知のクロム系防錆顔料が挙げられる。ただし、近年の環境保全の観点から、防錆顔料としては、クロメートフリー系防錆顔料が好ましい。これらの防錆顔料は、単独で用いてもよく、複数種類を併用してもよい。
【0109】
防錆顔料の添加量は、塗膜の固形分基準で1〜40質量%であることが好ましい。防錆顔料の添加量が1質量%未満では、耐食性の改良が十分でないことがある。防錆顔料の添加量が40質量%超では、加工性が低下して、加工時に塗膜が脱落する場合があり、耐食性も劣る傾向にある。
【0110】
塗装金属板10Aは、基材金属板101Aに塗装層102Aを形成した状態で需要家向けに出荷される製品である塗装金属板が好ましい。こうした塗装金属板10Aには、塗料を基材金属板101Aに塗装して塗装層102Aを形成した塗装金属板、樹脂フィルムを基材金属板101Aにラミネートして塗装層102Aを形成した塗装金属板がある。これら塗装金属板10Aは、需要家での塗装工程が省略でき塗装廃棄物等による公害や環境問題の解決が図られ、さらに塗装のためのスペースを他の用途に転活できるなど、加工後塗装されるポストコート金属板にはないメリットがある。
【0111】
塗装金属板10Aにおいて、基材金属板101Aと塗装層102Aとの間には、必要に応じて化成処理層(図示せず)を設けてもよい。化成処理層は、基材金属板101Aと塗装層102Aとの密着性の強化、及び耐食性の向上などを目的に設けられる。化成処理層を形成するための化成処理としては、例えば、リン酸亜鉛処理、クロメート処理、シランカップリング処理、複合酸化被膜処理、クロメートフリー処理、タンニン酸系処理、チタニア系処理、ジルコニア系処理、Ni表面調整処理、Co表面調整処理、これらの混合処理等の公知の処理が挙げられる。これらの化成処理のうち、環境保全の観点から、クロメートフリー処理が好ましい。
【0112】
塗装金属板10Aにおいて、基材金属板101Aとしては、特に限定されるものではなく、例えば、鉄、鉄基合金、アルミニウム、アルミニウム基合金、銅、銅基合金等の金属板が挙げられる、基材金属板101Aとしては、金属板上に任意のめっき層を有するめっき金属板も挙げられる。これらの中で、最も好適な基材金属板101Aは、亜鉛系めっき層又はアルミニウム系めっき層を有する金属板(鋼板)である。
【0113】
亜鉛系めっき層としては、例えば、亜鉛めっき層、亜鉛−ニッケルめっき層、亜鉛−鉄めっき層、亜鉛−クロムめっき層、亜鉛−アルミニウムめっき層、亜鉛−チタンめっき層、亜鉛−マグネシウムめっき層、亜鉛−マンガンめっき層、亜鉛−アルミニウム−マグネシウムめっき層、亜鉛−アルミニウム−マグネシウム−シリコンめっき層等が挙げられる。更には、亜鉛系めっき層としては、これらのめっき層に、少量の異種金属元素又は不純物として、コバルト、モリブデン、タングステン、ニッケル、チタン、クロム、アルミニウム、マンガン、鉄、マグネシウム、鉛、ビスマス、アンチモン、錫、銅、カドミウム、ヒ素等を含有したもの、シリカ、アルミナ、チタニア等の無機物を分散させためっき層も挙げられる。
【0114】
アルミニウム系めっき層としては、例えば、アルミニウムめっき層、アルミニウムと、シリコン、亜鉛、及びマグネシウムのうちの少なくとも1種とからなる合金のめっき層(例えば、アルミニウム−シリコンめっき層、アルミニウム−亜鉛めっき層、アルミニウム−シリコン−マグネシウムめっき層等)が挙げられる。
【0115】
更には、基材金属板101Aは、亜鉛系めっき層又はアルミニウム系めっき層と、他の種類のめっき層(例えば、鉄めっき層、鉄−リンめっき層、ニッケルめっき層、コバルトめっき層等)とが積層された複層めっき層を有する金属板も適用可能である。
【0116】
めっき方法としては、特に限定されるものではなく、公知の電気めっき法、溶融めっき法、蒸着めっき法、分散めっき法、真空めっき法等のいずれの方法であってもよい。
【0117】
[発電部12A]
発電部12Aは、光電変換層121として発電層を有している。具体的には、発電部12Aは、例えば、光電変換層121としての発電層と、発電層の基板電極11側に設けられる電子輸送層122と、発電層の透明電極13側に設けられる正孔輸送層123とを備える(図1参照)。電子輸送層122及び正孔輸送層123は、必要に応じて設けられる層である。発電部12Aは、上記以外の他の層、例えば、正孔注入層、電子注入層、絶縁層、反射防止層等を有していてもよい。
【0118】
発電層は、例えば、有機半導体を含有する。有機半導体を含む発電層は、蒸着のようにコストのかかる方法によらず、低温で成膜可能な方法(例えばスピンコート法等)で作製できる。
【0119】
有機半導体としては、例えば、電子供与性を有する任意のp型有機半導体、電子受容性を有する任意のn型有機半導体が挙げられる。
p型有機半導体としては、特に限定されないが、P3HT(ポリ(3−ヘキシルチオフェン−2,5−ジイル)、チオフェン、フェニレンビニレン、チエニレンビニレン、カルバゾール、ビニルカルバゾール、ピロール、イソチアナフェン、イソチアナフェン、ヘプタジエン等の有機化合物が挙げられる。有機半導体としては、これら有機化合物に、水酸基、アルキル基、アミノ基、メチル基、ニトロ基及びハロゲン基からなる群から選択される少なくとも1つの基等を有する誘導体の重合体も挙げられる。p型有機半導体は、単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
n型有機半導体としては、PCBM([6,6]−フェニルC61酪酸メチルエステル)、フラーレン誘導体、ペリレン誘導体等が挙げられる。これらの中でも、フラーレン誘導体は、p型有機半導体からの電子移動が取り分け早いので、特に好ましい。フラーレン誘導体としては、フラーレンC60の誘導体、フラーレンC70の誘導体、フラーレンC80の誘導体等が挙げられる。n型有機半導体は、市販品を利用することができる。例えば、P3HT/PCBMとしては、シグマ−アルドリッチ社製、フロンティアカーボン社製の製品等が使用可能である。
【0120】
電子輸送層122は、電子輸送材料を含有する。電子輸送材料としては、例えば、酢酸亜鉛、亜鉛(II)アセチルアセトナート、チタニウムイソプロポキシド、オキシ硫酸チタン等が挙げられる。
正孔輸送層123は、正孔輸送材料を含有する。正孔輸送材料としては、例えば、PEDOT/PSS、酸化モリブデン、酸化ニッケル、酸化タングステン等の金属酸化物等が挙げられる。
【0121】
発電部12Aを構成する各層の膜厚は、特に制限されるものではなく、性能やコストを勘案して決定すればよい。例として、発電層の膜厚は、50〜400nmが好ましく、より好ましくは100〜300nmである。電子輸送層122及び正孔輸送層123の膜厚は、80〜300nmが好ましく、100〜250nmがより好ましい。
【0122】
[その他]
太陽電池モジュールの基板電極11、上部電極としての透明電極13、及び封止層については、有機電子デバイスで説明した基板電極11、透明電極13、及び封止層14と同様な構成である。このため、説明を省略する。
【0123】
[製造方法]
太陽電池モジュール2は、有機電子デバイス1の製造方法に準じて製造することができる。
なお、塗装金属板10A上に複数の電池構造体15(単セル)を連結する太陽電池モジュール2を製造するには、1)複数の電池構造体15を個別の塗装金属板10A上に製造した後それぞれの電極を結線する手法、1)一つの塗装金属板10A上に複数の複数の電池構造体15を形成し結線する手法等がある。例えば、連続プロセスで後者の構造をした太陽電池モジュール2を作製するには、塗装金属板10A上に基板電極11、発電部12A、透明電極13の順に帯状に製膜していく方法が取られることが多い。
【実施例】
【0124】
以下、本発明の一例である実施例について説明する。ただし、実施例は、本発明を例示するものであって、本発明の限定を意図するものではない。
【0125】
<実施例A>
表1〜表3に示す試験番号1〜57の透明電極を作製し、透明電極のシート抵抗値(Ω/sq)及び光透過率(%)を調査した。
【0126】
試験番号1〜22の透明電極は、次の方法で製造した。ガラス基板を準備した。次に、導電性ポリマー分散液を準備した。導電性ポリマー分散液として、PEDOT/PSS分散液(H.C.Starck社の商品名Clevios P HC V4)を使用した。分散液中のPEDOT/PSSの固形分濃度(NVC)は1.3質量%であった。なお、PEDOT/PSS分散液には、必要に応じて、DMSO(Aldrich社製)と、界面活性剤(表1〜表3中「SF」と表記:Aldrich社製の商品名TritonX−100)を添加した。分散液の組成の詳細は、表1に示す。
【0127】
準備された導電性ポリマー分散液をドクターブレード法によりガラス基板上に塗布して塗膜を形成した。その後、塗膜を120℃で20分間乾燥して、透明電極を作製した。各透明電極の導電性ポリマー層の厚さは、130〜600nmの範囲内であった。
【0128】
試験番号23〜57では、上記導電性ポリマー分散液に、表2に示す添加量(炭素繊維を除く導電性ポリマー分散液の成分を100としたときの割合[質量%])で炭素繊維(表1〜表3中「CF」と表記)を添加した。なお、使用した炭素繊維は次の通りである、分散液の組成の詳細は、表2〜表3に示す。
・試験番号23〜42: 日本グラファイトファイバー株式会社製の商品名GRANOC チョップドファイバー(直径=11μm、長さ=3mm)
・試験番号43〜57: 日本グラファイトファイバー株式会社製の商品名GRANOC ミルドファイバー(直径=11μm、長さ=6mm)
【0129】
炭素繊維を含有した導電性ポリマー分散液をドロップキャスト法によりガラス基板上に塗布して、分散液の塗膜を形成した。その後、分散液の塗膜を120℃で20分間乾燥して、透明電極を作製した。試験番号23〜57の透明電極の断面を、SEMにより観察したところ、炭素繊維の一部は導電性ポリマー層(PEDOT/PSS膜)に埋まり込み、残部が導電性ポリマー層から露出していた。
【0130】
なお、作製された透明電極の導電性ポリマー層の厚さについて、既述の方法に従って測定したところ、表1〜表3に示す通りであった。また、透明電極の炭素繊維(CF)について、既述の方法に従って測定したところ、炭素繊維(CF)の面積率は、表1〜表3に示す通りであった。
【0131】
[炭素繊維含有量測定]
作製された透明電極中の炭素繊維(CF)の含有量(質量%)を次の方法で求めた。まず、後述する方法で透明電極の光透過率を測定した。光透過率より炭素繊維の質量を算出し、別途、測定した導電性ポリマー層の厚さから計算される導電性ポリマー層の質量から、透明電極中の炭素繊維の含有量(質量%)を求めた。測定結果を表1〜表3に示す。
【0132】
[シート抵抗値測定試験]
各試験番号の透明電極に対して、次の方法によりシート抵抗(Ω/sq)を求めた。具体的には、三菱化学アナリテック株式会社製ロレスタ−GP MCP−T601型を用い、4端子4探針法によりシート抵抗値を測定した。
【0133】
[光透過率測定試験]
各試験番号の透明電極に対して、アジレント・テクノロジー社製の分光光度計(商品名Varian Cary 4000)を用いて、光透過率(%)を測定した。
【0134】
各試験の詳細について、表1〜表3に、一覧にして示す。なお、導電性ポリマー分散液又は炭素繊維(CF)含有導電性ポリマー分散液の組成及び導電性ポリマー層の厚みが同じ試験番号の間(例えば、試験番号1と2、試験番号23と24)で、シート抵抗値及び光装荷率が異なるのは、ロット差に起因している。
【0135】
【表1】
【0136】
【表2】
【0137】
【表3】
【0138】
[試験結果]
表1〜表3に試験結果を示したように、導電性ポリマー層の厚さよりも大きい直径を有する複数の炭素繊維の一部が導電性ポリマー層に埋め込まれている試験番号23〜57の透明電極は、シート抵抗が100Ω/sq以下と低かった。さらに、試験番号23〜57の透明電極は、光透過率が65%以上であった。一方、炭素繊維を有さない試験番号1〜22の透明電極は、シート抵抗が100Ω/sqを超えた。
【0139】
なお、試験番号11、12、21、22の透明電極のシート抵抗値(101〜2646Ω/sq)が示すように、当該試験番号の透明電極に炭素繊維を使用した場合、導電性ポリマー層の厚さに対する炭素繊維の直径の比率が2倍未満になると、炭素繊維が導電性ポリマー層中で重なり難い状態となり、透明電極のシート抵抗値は、導電性ポリマー層単体のシート抵抗値が支配的となり、100Ω/sqを超えることがある。このため、導電性ポリマー層の厚さに対する炭素繊維の直径の比率は2倍以上とすることが好ましい。
また、試験番号21、22の透明電極のシート抵抗値(101〜103Ω/sq)が示すように、当該試験番号の透明電極に炭素繊維を使用した場合、炭素繊維の直径が2μm未満になると、厚い導電性ポリマー層中で炭素繊維が重なり難い状況となり、透明電極のシート抵抗値は、導電性ポリマー層単体のシート抵抗値が支配的となり、100Ω/sqを超えることがある。このため、炭素繊維の直径は2μm以上とすることが好ましい。
また、試験番号11、12の透明電極のシート抵抗値(1899〜2646Ω/sq)が示すように、当該試験番号の透明電極に炭素繊維を使用した場合、導電性ポリマー層の厚みが5nm未満になると、炭素繊維同士をつなげる導電性ポリマー量が少なく、炭素繊維同士のネットワークが形成され難くい状況となり、透明電極のシート抵抗値は、導電性ポリマー層単体のシート抵抗値が支配的となり、100Ω/sqを超えることがある。このため、導電性ポリマー層の厚みは5nm以上とすることが好ましい。
また、試験番号21、22の透明電極のシート抵抗値(101〜103Ω/sq)が示すように、当該試験番号の透明電極に炭素繊維を使用した場合、炭素繊維の長さが0.050mm未満になると、炭素繊維が短く、炭素繊維同士のネットワークが形成され難くい状況となり、透明電極のシート抵抗値は、導電性ポリマー層単体のシート抵抗値が支配的となり、100Ω/sqを超えることがある。このため、炭素繊維の長さは0.050mm以上とすることが好ましい。
また、試験番号21、22の透明電極のシート抵抗値(101〜103Ω/sq)が示すように、当該試験番号の透明電極に炭素繊維を使用した場合、炭素繊維の面積率が40%未満になると、炭素繊維が少なく、炭素繊維同士のネットワークが形成され難くい状況となり、透明電極のシート抵抗値は、導電性ポリマー層単体のシート抵抗値が支配的となり、100Ω/sqを超えることがある。このため、炭素繊維の面積率は40%以上とすることが好ましい。
【0140】
<実施例B>
実施例Bでは、次に示す有機薄膜太陽電池(OPV)を作製した。
・実施例B1のOPV: 上部電極として、炭素繊維(CF)とPEDOT/PSS膜とで構成された透明電極(以下「PEDOT/PSS+CF膜」とも略記))を有するOPV
・比較例のOPV: 実施例B1のOPVの上部電極を、PEDOT/PSS膜(以下「PEDOT/PSS+CF膜」とも略記)で置換したOPV
【0141】
表4に、実施例B1及び比較例のOPVの各層に使用した材料、表5にスピンコートで製膜する層の製膜条件、図5に作製した太陽電池(OPV)の諸サイズ(単位:mm)を示す。作製したOPVの発電領域は、図5に見られるように、4×25mm(面積1cm)であった。蒸着法以外で製膜する際の加熱は、いずれの場合もホットプレート上で行った。
ただし、比較例のOPVの上部電極(透明電極)用製膜溶液[炭素繊維含有導電性ポリマー分散液]には、炭素繊維を含まない。
【0142】
また、実施例B及び比較例のOPVで使用した基板は、亜鉛めっき鋼板の片面に1層のクリア塗膜からなる塗装層を有する絶縁平滑PCM(絶縁平滑塗装金属板)であって、塗装層の表面の算術平均粗さRaの値が12nm、クリア塗装層のゴム状弾性領域における動的貯蔵弾性率の最小値が1.2×10Pa、塗膜層の総膜厚が15μm、電圧100V印加時の漏れ電流値が55×10−7A/cmの塗装金属板であった。
【0143】
【表4】
【0144】
【表5】
【0145】
各OPVを次のように作製した。
絶縁平滑PCMを切断して38×38mmの基板を作製し、蒸留水と2−プロパノールで洗浄後、塗装面に基板電極用製膜溶液(PEDOT/PSS分散液)をスピンコータで塗布(乾燥後の予想膜厚1μm)して基板電極を形成した。
【0146】
次いで、基板電極上に以下の層をスピンコート法で製膜して、発電部を作製した。
・電子輸送層(ZnO膜):電子輸送層用前駆体溶液を50℃で30分間撹拌後製膜し、100℃で1時間加熱(乾燥膜厚60μm)。
・発電層(P3HT/PCBM膜):発電層用製膜溶液を50℃で6時間撹拌後製膜し、30分間自然乾燥(乾燥膜厚200μm)。
・正孔輸送層(PEDOT/PSS膜):正孔輸送層用製膜溶液を常温で6時間撹拌後製膜(乾燥工程不要)(乾燥膜厚110μm)。
【0147】
続いて、上部電極(透明電極)用製膜溶液(炭素繊維を含有した導電性ポリマー分散液)を用いて、透明電極を形成した。具体的には、実施例B1のOPVの場合、発電部(その正孔輸送層)の上に、上部電極として、実施例Aの試験番号43の透明電極と同じ電極を、ドロップキャスト法により形成した。一方、比較例のOPVの場合、発電部(その正孔輸送層)の上に、上部電極として、炭素膜からなる炭素単層電極を真空蒸着方法により形成した。
【0148】
作製したOPVをI−V測定装置(株式会社システムハウス・サンライズ製W32−6244SOL3X)に直列に接続し、電圧−1.0V〜1.0Vの範囲を掃引し電流値を測定した。光源にはソーラーシミュレーター(三永電機製作所製XES−155S1)を使用し、AM1.5G−100mW/cmの擬似太陽光を使用した。そして、模擬太陽光を上部電極側から照射し、I−V曲線を得た。
【0149】
なお、図6にI−V曲線の模式図を示す。このI−V曲線より、以下のパラメータが得られる。
・短絡光電流密度Jsc:電圧0のときの光電流密度(A/cm
・開放光電圧Voc:電流0のときの光電圧(V)
・フィルファクターFF:P/(Jsc×Voc)
・エネルギー変換効率PCE(%)=P/E×100(ここでのPは、OPVの最大電気出力(W/cm)である。)
【0150】
作製したOPVについて、表6にパラメータを示す。
【0151】
【表6】
【0152】
上記から、実施例B1のOPVは、比較例のOPVに比べ、フィルファクターFF及びエネルギー変換効率PCEが向上していることがわかる。
これにより、実施例の透明電極により、OPVの発電能が向上していることがわかる。
【0153】
以上、本発明の一例である実施形態及び実施例を説明した。しかしながら、上述した実施形態及び実施例は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施形態及び実施例に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施形態及び実施例を適宜変更して実施することができる。
【0154】
なお、日本国特許出願第2014−078063号の開示、及び日本国特許出願第2014−208285号の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6