(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下の実施形態では、必要な場合に複数のセクションなどに分けて説明するが、原則、それらはお互いに無関係ではなく、一方は他方の一部または全部の変形例、詳細などの関係にある。このため、全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0035】
また、実施形態で示す構成要素は、本発明において必ずしも必須のものとは限らない。また、構成要素の数(個数、数値、量、範囲などを含む)については、特に明示した場合や原理的に明らかに特定の数に限定される場合などを除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でも良い。また、構成要素などの形状に言及するときは、特に明示した場合および原理的に明らかにそうではないと考えられる場合などを除き、実質的にその形状などに近似または類似するものなどを含むものとする。
【0036】
[第1実施形態]
本発明に係る液体供給装置として、紙などの媒体に印刷するプリンタが備えるインク供給装置に適用して説明する。インク供給装置は、プリンタにおける大容量のインク(液体)を貯留するいわゆるメインタンク(カートリッジ)ではなく、いわゆるサブタンクであり、メインタンクから正圧で供給されてきたインクをヘッドの指定水頭圧(負圧)に制御するレギュレータとして用いられる。
【0037】
まず、本実施形態に係るインク供給装置1の構成について
図1を参照して説明する。
図1は、インク供給装置1の要部の模式的断面図である。ここでは、図の上下方向を鉛直線方向、左右方向を水平面方向としてインク供給装置1を示している。インク供給装置1は、インク室6(液体室)と、エア室8と、空圧発生部33と、インク弁25(液体流路開閉部)と、エア弁27(エア流路開閉部)とを備えている。インク供給装置1の外形は、ケース2の外形であって、例えば直方体形状とすることができる。
【0038】
インクを貯留するインク室6は、ケース2内でインクを貯留する部屋である。このインク室6は、インクを導入するインク導入経路21(液体導入経路)と、インクを導出するインク導出経路22(液体導出経路)とを有している。また、インク室6は、インクが入るインク導入口11と、インクが出るインク導出口12とを有している。
【0039】
これらインク導入経路21、インク導出経路22は、ケース2と一体に形成されている。インク導入経路21は、経路断面積の形状が例えば円形状である。また、インク導出経路22は、経路断面積の形状が例えば円形状である。
【0040】
インク導入経路21は、一端(インク導入口11)が配管を介してメインタンク37(液体供給部)と連通し、他端がインク室6の内部と連通している。また、インク導出経路22は、一端(インク導出口12)が配管を介してヘッド41と連通し、他端がインク室6の内部と連通している。なお、メインタンク37は、インクをインク室6へ供給(補給)するものであり、ヘッド41は、インクを例えば紙などの媒体(ターゲット)に対して噴射(吐出)するものである。
【0041】
インク室6の内部は、ケース2と一体に形成された内壁によって区画された2つの小部屋4、5(例えば円筒形状)で構成されている。小部屋4、5の一部はそれぞれ可撓性のある隔壁15、対向壁16(例えばダイアフラムなどの可撓性部材)で構成されるので、小部屋4、5の形状は可撓性部材の形状に合わせるとよい。例えば、円形のダイアフラムを使用する場合には、小部屋4、5の形状を円筒形状とするとよい。
【0042】
インク導入経路21と小部屋3とは、連通している。また、小部屋3と小部屋4とは、開口面積(断面積)の形状が例えば円形状のゲート17を介して連通している。また、小部屋4と小部屋5とは、開口面積(断面積)の形状が例えば円形状のゲート18を介して連通している。また、小部屋5とインク導出経路22とは、連通している。
【0043】
このようなインク室6は、インク導入経路21、小部屋3、内部(小部屋4、5)、およびインク導出経路22で構成されるインクが流れるインク流路(液体流路)を有している。このインク流路は、メインタンク37からインク室6を介してヘッド41までのインクが流れるインク流路の一部を構成している。
【0044】
空気を貯留するエア室8は、ケース2内で空気(気体)を貯留する部屋である。このエア室8は、大気と連通する大気経路13と、大気とは異なる圧力の空気と連通する空気経路14とを有している。また、エア室8は、大気に開口する大気口23と、大気とは異なる圧力に制御された空気に開口する空気口24とを有している。
【0045】
これら大気経路13、空気経路14は、ケース2と一体に形成されている。大気経路13は、経路断面積の形状が例えば円形状で、曲折して形成されている。この曲折して形成されている部分は、エアノズル38となる。また、空気経路14は、経路断面積の形状が例えば円形状である。
【0046】
大気経路13は、一端(大気口23)が大気と連通し、他端がエア室8の内部と連通している。また、空気経路14は、一端(空気口24)が配管を介して空圧発生部33と連通し、他端がエア室8の内部と連通している。
【0047】
エア室8の内部は、ケース2と一体に形成された内壁によって区画された1つの小部屋7(例えば円筒形状)で構成されている。小部屋7の一部が可撓性のある隔壁15(例えばダイアフラムなどの可撓性部材)で構成されるので、小部屋7の形状を可撓性部材の形状に合わせた形状とするとよい。例えば円形のダイアフラムを使用する場合には、小部屋7の形状を円筒形状とするとよい。
【0048】
このようなエア室8は、大気経路13、内部(小部屋7)、および空気経路14で構成される気体が流れるエア流路を有している。このエア流路は、空圧発生部33からエア室8を介して大気までの空気が流れるエア流路の一部を構成している。
【0049】
空圧発生部33は、大気とは異なる圧力(例えば数kPa〜10kPa程度)で制御した空気をエア室8へ流入させるものである。この空圧発生部33は、空気経路14の一端(空気口24)と連通して設けられている。このため、空圧発生部33から所定の空圧に加圧(圧縮)された空気がエア室8へ流入する。空圧発生部33としては、例えば、エアコンプレッサや空圧ポンプを適用することができる。
【0050】
大気経路13の流路抵抗(圧力損失)と、空気経路14の流路抵抗(圧力損失)との比によって、インク弁25の開時のエア室8の内圧や、その圧力変動速度が定まる。
【0051】
空気経路14の流路抵抗は、空圧発生部33からエア室8までに接続される配管長や配管状態(材質、経時変化、取り回しなど)の影響によって変動し、所望の動作ができない場合も考えられる。そこで、インク供給装置1は、空気経路14中に設けられ、空気経路14の流路抵抗を増加する空気絞り部36を備えている。この空気絞り部36は、空気経路14の一部であって、他部の断面積より縮小して、ケース2と一体に形成されている。このように、空気経路14上に配管全体の抵抗よりも大きな流路抵抗増加部である空気絞り部36を設けることにより、配管による影響をほぼ無視することができる。
【0052】
一方、大気圧と連通される大気経路13の流路抵抗は、接続される配管がないため、大きく変動することは考えにくい。また、大気経路13を開閉するエア弁27の変位量はそれほど大きくない。このため、大気経路13に大気絞り部35を設けなくとも、エア弁27開時における大気経路13の一端とエア弁27とのギャップ(例えば0.20mm〜0.30mm)により形成される流路抵抗と、空気経路14に設けられた空気絞り部36の流路抵抗の比によって、エア弁27の開時のエア室28の内圧や圧力変動速度が所望の範囲内に収まることが多い。
【0053】
すなわち、大気経路13の流路抵抗が大きい場合には、大気経路13に流路抵抗増加部を設けなくとも良い。しかしながら、大気経路13の流路抵抗が小さすぎる場合も考えられる。そこで、インク供給装置1は、大気経路13中に設けられ、大気経路13の流路抵抗を増加する大気絞り部35を備えている。大気絞り部35は、大気経路13の一部であって他部の断面積より縮小して、ケース2と一体に形成されている。このように、大気経路13にも流路抵抗増加部である大気絞り部35を設けることで、エア室8の内圧を所望の圧力に制御することができる。
【0054】
したがって、大気経路13の流路抵抗と空気経路14の流路抵抗の比は、大気経路13(エアノズル38)の開度(開時におけるエア弁27と大気口23とのギャップ)や、大気絞り部35、空気絞り部36の直径や長さなどを変えることにより任意の値に設定することができる。このため、使用するインクの粘度や供給量、空圧発生部33の特性などに応じて好適な割合に設定することができる。
【0055】
なお、これら流路抵抗増加部は、ケース2外やインク供給装置1外に設けることもできる。しかしながら、ケース2と一体に成形した大気絞り部35および空気絞り部36に構成することで、部品点数の増加を抑え、簡単に安価な構造で実現することができる。
【0056】
インク弁25(液体流路開閉部)は、インク導入経路21を開閉するものである。具体的には、液体室6の内圧とエア室8の内圧との圧力差に応じて、インク弁25によりインク導入経路21を開放または閉塞する。また、エア弁27(エア流路開閉部)は、大気経路13を開閉するものである。具体的には、液体室6の内圧に応じて、エア弁27により大気経路13を開放または開閉する。
【0057】
このようなインク供給装置1によれば、液体室6の内圧の変化をエア室8の内圧の変化とすることができ、エア室8の内圧の変化によってインク流路を開閉することができる。すなわち、液体室6の内圧の微小な変化を、エア室8の内圧の大きな変化に変換することができ、インク流路の開口面積が大きくインク弁25に大きな駆動力が必要な場合であっても、インク弁25を駆動することができる。
【0058】
このため、例えば、粘性の高い液体を用いた場合であっても、インク流路の開口面積を大きくすることができ、液体室6の内圧を所定の範囲内に保ちながら、必要量の液体を供給することができる。また、インク弁25の駆動を補助する流体を空気などの気体とすることで、特別な供給装置や排出装置を付加することなく、簡易に液体供給装置1を構成することができる。
【0059】
ところで、インク供給装置1では、液体室6の内圧およびエア室8の内圧を検出するセンサを設け、その検出値に基づきリンク機構などによりインク弁25およびエア弁27を開閉させる構成も実現可能である。また、可撓性のある隔壁15にインク弁25および可撓性のある対向壁16にエア弁27を設ける(取り付ける)ことで、隔壁15および対向壁16の変位に伴って、それぞれインク弁25およびエア弁27を開閉する構成も実現可能である。本実施形態では、後者について説明する。後者によれば、液体室6の内圧やエア室8の内圧を検出するセンサやリンク機構などを付加することなく、簡易に液体供給装置1を構成できる。
【0060】
インク室6(具体的には小部屋4)とエア室8(具体的には小部屋7)の間には、隔壁15が設けられている。この隔壁15は、ケース2の内側に設けられるので、大気とは接していない。隔壁15は、インク室6の内圧とエア室8の内圧との圧力差に応じて、インク室6(具体的には小部屋4)またはエア室8(具体的には小部屋7)側へ撓むものである。隔壁15は、例えばダイアフラムで構成されており、ダイアフラムの外周部がケース2の内側で固定して取り付けられる。
【0061】
インク弁25は、例えば円形状の2つの鍔部25a、鍔部25cの間を軸部25bで繋ぐように形成されている。このインク弁25は、隔壁15の撓みを最大限に利用して変位する範囲を大きくとるために、隔壁15の中央部に設けられている。
【0062】
インク弁25の鍔部25aは、隔壁15に固定して取り付けられている。インク弁25の鍔部25cは、小部屋4において、ゲート17と対向するように設けられている。この鍔部25cは、インク導入経路21(インク流路)を閉鎖する、すなわちゲート17を閉鎖するので、ゲート17の開口面積よりも大きい平面積となる。インク弁25の軸部25bは、隔壁15の変位によりゲート17を開放または閉鎖できる長さである。
【0063】
また、インク供給装置1は、ゲート17の周辺部(内壁)とインク弁25Bの鍔部25cとの間に、インク弁25がゲート17を閉鎖するにあたりシール性を確保するシール部材26を備えている。このシール部材26は、例えば内径がゲート17の開口面積よりも大きい環状のゴム部材などの弾性部材(例えばOリング)である。シール部材26は、例えばインク弁25の鍔部25cに取り付けても良いが、より安定するゲート17の周辺部の内壁に取り付けている。
【0064】
エア室8の大気経路13の一端(大気口23)と対向するインク室6(具体的には小部屋5)には、対向壁16が設けられている。この対向壁16は、ケース2の開口部に設けられるので、大気と接している。対向壁16は、インク室6の内圧に応じて、大気(具体的には大気口23)またはインク室6(具体的には小部屋5)側へ撓むものである。対向壁16は、例えばダイアフラムで構成されており、ダイアフラムの外周部がケース2の内側で固定して取り付けられる。
【0065】
対向壁16に設けられるエア弁27は、例えば円形状の鍔部27aとこれから突起する突起部27b(例えばゴム部材などの弾性部材)で形成されたものである。エア弁27は、対向壁16の撓みを最大限に利用して変位する範囲を大きくとるために、対向壁16の中央部に鍔部27aを固定して取り付けている。また、対向壁16に設けられたエア弁27は、突起部27bが大気経路13の大気口23と対向するように設けられている。エア弁27の突起部27bは、大気口23を閉鎖するので、大気口23の開口面積よりも大きい平面積となる。
【0066】
このように、隔壁15および対向壁16の変位によってそれぞれインク弁25およびエア弁27を開閉する構成とすれば、インク室6の内圧やエア室8の内圧を検出するセンサやリンク機構などを付加することなく、簡易にインク供給装置1を構成できる。
【0067】
そして、インク供給装置1は、インク弁25を付勢する液体流路開閉部付勢部材31と、エア弁27を付勢するエア流路開閉部付勢部材32とを備えている。液体流路開閉部付勢部材31、エア流路開閉部付勢部材32としては、例えばコイル状のバネ(以下、圧縮バネ31、32ともいう)を適用することができる。
【0068】
圧縮バネ31は、一端がゲート17の周辺部、他端がインク弁25の鍔部25aに取り付けられて、インク室6の小部屋4内に設けられている。圧縮バネ32は、一端が小部屋5の内壁に取り付けられ、他端がエア弁27の鍔部27aに取り付けられてインク室6の小部屋5に設けられている。
【0069】
インク供給装置1では、圧縮バネ31、32の弾性定数などは、インク弁25、エア弁27の開閉にあたり、最適なものが選択されている。なお、エア弁27はインク室6の微小な内圧変化で駆動されるため、圧縮バネ31より圧縮バネ32の方が、付勢力は弱くてよいことが多い。
【0070】
このような圧縮バネ31、32を用いなくとも、摺動抵抗や変形抵抗のみでインク供給装置1を実現可能である。しかしながら、インク弁25およびエア弁27を開閉する機構が非常に繊細となり、部品のばらつきや環境変化に敏感に反応し、動作を安定して行うことができない場合がある。そこで、インク弁25およびエア弁27を付勢する部材を設けることで、機構を構成する部品のばらつきの影響などが出にくい領域で機構を動かすことができる。また、圧縮バネ31、32の調整により、インク弁25およびエア弁27の動作特性を微調整することが可能となる。
【0071】
そして、インク供給装置1は、インク流路中に設けられ、インク流路を遮断する液体遮断部34を備えている。液体遮断部34としては、例えば電磁弁(以下、電磁弁34ともいう)を適用することができる。電磁弁34は、インク流路におけるインクの流れを制御する開閉機構である。電磁弁34は、例えばインク流路におけるメインタンク37に近接した位置に配置されている。電磁弁34として、例えば、インク流路を開閉する弁と、この弁を開閉させる電磁石とにより構成されており、電磁石に流す電流をON/OFFすることで、弁によりインク流路が開閉される。
【0072】
インク供給装置1は、エア室8を一定の内圧に保とうとする空圧発生部33が正常に動作して成り立つシステムである。このため、システム起動直後や、空圧発生部33の非駆動時にインクが正圧で供給されると、インク供給装置1で貯留されているインクが漏出する可能性がある。これを避けるために、メインタンク37とヘッドとの間の液体供給経路に電磁弁34を設け、空気圧制御が不安定な期間はインクを遮断した状態としておき、空気圧制御が安定してからインクを開放した状態とするのが良い。
【0073】
次に、インク供給装置1の動作について、
図2および
図3を参照して説明する。
図2および
図3は、動作中のインク供給装置1の要部の模式的断面図である。ここでは、インク供給装置1に対して、インク導入口11(インク導入経路21)からインクが所定の圧力(正圧)で加圧され、空気口24(空気導入経路14)から空気が大気圧より高い所定の圧力で加圧されているものとする。
【0074】
まず、
図2を参照して、インク供給装置1の待機時(非供給時)の動作について説明する。待機時の状態においては、ヘッド41のインク圧がヘッド指定水頭(負圧)になっている。すなわち、ヘッド41のインク圧がインクのメニスカスを形成する所定の圧力になっている。
【0075】
ヘッド41のインク圧が所定の圧力の状態では、圧縮バネ32が伸びようとする方向の力は、インク室6の内圧(負圧のインク圧)が対向壁16をインク室6の内側へ引っ込めようとする方向に働く力を上回る。この結果、対向壁16は大気(大気口23)側へ変位する。この対向壁16の大気側への変位に伴って、エア弁27が
図2中左側へ変位して大気口23(大気経路13)を閉鎖する。すなわち、インク室6の内圧に応じて、エア弁27により大気経路13を閉鎖する。
【0076】
大気経路13が閉鎖され、空圧発生部33から空気が流入されると、エア室8の内圧(空圧)が上昇する。エア室8の内圧が所定の圧力に上昇した状態では、エア室8の内圧が内壁15を外側(インク室6側)へ膨らませようとする方向に働く力は、インク室6の内圧が内壁15をインク室6の内側へ引っ込めようとする方向に働く力と圧縮バネ31が伸びようとする方向の力との和を上回る。この結果、内壁15はインク室6(小部屋4)側へ変位する。
【0077】
この内壁15のインク室6側への変位に伴って、インク弁25が
図2中右側へ変位してゲート17(インク導入経路21)を閉鎖する。すなわち、インク室6の内圧とエア室8の内圧との圧力差に応じて、インク弁25によりインク導入経路21を閉鎖する。したがって、待機時の状態において、インクがインク供給装置1からヘッド41へ供給されない。
【0078】
続いて、
図3を参照して、インク供給装置1にインクが供給される時の動作について説明する。インク供給時直前の状態においては、ヘッド41のインク圧がヘッド指定水頭(負圧)の下限になっている。すなわち、この状態からヘッド41がさらにインクを吐出すると、ヘッド41内のインクが減少し、インク室6の内圧がヘッド指定水頭(負圧)の下限を下回り、インク室6の内圧(負圧のインク圧)が対向壁16をインク室6の内側へ引っ込めようとする方向に働く力が、圧縮バネ32が伸びようとする方向の力を上回る。この結果、対向壁16はインク室6(小部屋5)側へ変位する。
【0079】
この対向壁16のインク室6側への変位に伴って、エア弁27が
図3中右側へ変位して大気口23(大気経路13)を開放する。すなわち、インク室6の内圧に応じて、エア弁27により大気経路13を開放する。したがって、エア室8から大気へ空気が流出する。
【0080】
大気経路13の開放により、エア室8の空気が流出し、空気経路14(空気絞り部36)の流路抵抗により空圧発生部33からの空気流入が間に合わないため、エア室8の内圧が低下する。エア室8の内圧が所定の圧力に低下した状態では、エア室8の内圧が内壁15を外側(インク室6側)へ膨らませようとする方向に働く力は、インク室6の内圧が内壁15をインク室6の内側へ引っ込めようとする方向に働く力と圧縮バネ31が伸びようとする方向の力との和を下回る。この結果、内壁15はエア室8(小部屋7)側へ変位する。
【0081】
この内壁15のエア室8側への変位に伴って、インク弁25が
図3中左側へ変位してゲート17(インク導入経路21)を開放する。すなわち、インク室6の内圧とエア室8の内圧との圧力差に応じて、インク弁25によりインク導入経路21を開放する。したがって、インクはインク供給装置1からヘッド41へ供給される。ヘッド41にインクが供給されてヘッド指定水頭になると、インク供給装置1は、待機時の状態となる。
【0082】
ヘッド41がインクを吐出(消費)し続ける場合には、インク供給装置1は、待機時の状態に移らず、インクの消費にしたがってインク弁25を開いたまま変位を変えつつ、供給時の状態が保持される。なお、メインタンク37からインク供給装置1への供給可能な流量は、ヘッド41の吐出流量よりも大きいものとしている。
【0083】
本実施形態では、空気絞り部36の流路抵抗は、大気絞り部35の流路抵抗と、開時のエア弁27のギャップの流路抵抗の和よりも僅かに小さく設定されている。これにより、例えば、エア弁27が開いたときのエア室8の内圧は、エア弁27が閉じているときの半分程度とすることができる。
【0084】
このように、エア弁27が開いたときのエア室8の圧力降下の程度は、空気絞り部36の流路抵抗と、大気絞り部35の流路抵抗および開時のエア弁27のギャップの流路抵抗の和との比Gと相関する。すなわち、G=(空気絞り部36+大気絞り部35+エア弁27ギャップの流路抵抗)/(大気絞り部35+エア弁27ギャップの流路抵抗)である。
【0085】
前述したように、この流路抵抗の比Gが大きいほど(例えば、空気絞り部36の流路抵抗1に対し、大気絞り部35+エア弁27ギャップの流路抵抗1)、エア弁27からの僅かなエア流出量でエア室8の内圧は大きく変化し(上記例では、G=2となり、エア室8の内圧は半分程度となる)、インク弁25が開くことになる。つまり、この流路抵抗の比Gが、エア弁27の開度に対するゲインとなり、同一ギャップの場合、ゲインが大きいほどエア室8の圧力は低くなる。なお、ゲインは、使用するインクの粘度・必要な流量などの条件と、部材精度などにより最適な値が決まる。
【0086】
本実施形態によれば、インクが流れるインク流路が形成されるインク室6の内圧の変化をエア室8の内圧の変化とすることができ、エア室8の内圧の変化によってインク流路を開閉することができる。すなわち、インク室6の内圧の微小な変化を、エア室8の内圧の大きな変化に変換することができ、インク流路の開口面積が大きくインク弁25に大きな駆動力が必要な場合であっても、インク弁25を駆動することができる。
【0087】
このため、粘性の高いインクを用いた場合であっても、インク流路におけるゲート17の開口面積を大きくすることができ、インク室6の内圧を所定の範囲内に保ちながら、必要量の液体を供給することができる。また、インク弁25の駆動を補助する流体を気体などの空気とすることで、特別な供給装置や排出装置を付加することなく、簡易にインク供給装置1を構成することができる。
【0088】
このように、インク導入経路21には、メインタンク37から正圧でインクが導入され、空気経路14には、空圧発生部33によってエア室8へ大気より高い圧力の空気が流入された状態のインク供給装置1では、ヘッド41へインクを供給することで次の動作が起こる。インク導出経路22からインクが導出されることでインク室6の内圧が低下し、エア弁27が大気経路13を開放し、エア弁27が開くことでエア室8の内圧が低下し、インク弁25がインク導入経路21を開放する。
【0089】
これによれば、インクの減少に伴って発生するインク室6の内圧によって、エア弁27を開き、これに伴ってエア室8の内圧が低下し、エア室8の内圧が所定値を下回ったらインク弁25を開くことができる。インク弁25が開くことに伴ってインク室6の内圧が上昇するとエア弁27が閉まり、エア弁27が閉まることで、エア室8の内圧が上昇してインク弁25を閉めるという機構を実現することができる。このように、インク供給装置1では、インク室6の内圧が大気圧よりも微負圧の範囲であっても制御することができる。
【0090】
次に、インク供給装置1の停電時(空圧ダウン時)の動作について説明する。停電時の状態においては、空圧発生部33から空気の供給が停止する。したがって、エア室8の内圧が所定の範囲を外れて、エア室8は大気圧となる。
【0091】
エア室8が大気圧の状態では、エア室8の内圧が内壁15を外側(インク室6側)へ膨らませようとする方向に働く力はなくなる。このため、圧縮バネ31が伸びようとする方向の力の影響により、内壁15はエア室8側へ変位する。この内壁15のエア室8側への変位に伴って、インク弁25が
図1中左側へ変位してゲート17(インク導入経路21)を開放する。このため、インク供給装置1からヘッド41へインクが供給され続け、ヘッド41からインクが漏出してしまう。
【0092】
このような停電時の状態においては、電磁弁34を電源が切れると閉じる形式(ノーマリークローズ形式)としておけば良い。これにより、インク供給を中止することができ、インクがヘッド41から漏出するのを防止することができる。
【0093】
また、このような電磁弁34を設けなくとも、インク供給装置1は、
図4に示すような、エア室8の内圧が所定の範囲を外れたときに、インク流路を閉鎖する閉鎖機構42を備えることで、停電時の場合に対応可能である。この閉鎖機構42は、インク弁25Aと、シール部材43とを含んで構成されている。
【0094】
インク弁25Aは、インク弁25に軸部25dと鍔部25eが追加して取り付けられて構成されている。このインク弁25Aは、鍔部25aと鍔部25cの間を軸部25bで繋ぎ、鍔部25cと鍔部25eの間を軸部25dで繋ぐように形成されたものである。インク弁25Aの軸部25dは、ゲート17に挿入されるので、ゲート17の開口面積よりも小さい断面積である。インク弁25Aの鍔部25eは、インク流路を閉鎖する、すなわちゲート17で閉鎖するので、ゲート17の開口面積よりも大きい平面積である。
【0095】
また、インク弁25Aがゲート17を閉鎖するにあたりシール性を確保するシール部材43は、小部屋3内において、ゲート17の周辺部(内壁)と鍔部25eとの間に設けられている。このシール部材43は、例えば内径がゲート17の開口面積よりも大きい環状のゴム部材などの弾性部材(例えばOリング)である。
【0096】
このような閉鎖機構42を備えることで、停電時の場合、空圧発生部33からの加圧空気が停止しても、隔壁15に設けられたインク弁25Aが
図4中左側へ変位して、シール部材43を鍔部25eが押圧して、インクの供給が遮断される。
【0097】
インク供給装置1は、エア室8を一定の内圧に保とうとする空圧発生部33が正常に動作して成り立つシステムである。このため、システム起動直後や空圧発生部33の異常などによってエア室8の内圧が所定範囲を外れた場合には、インク弁25を閉める押圧力が得られず、インク弁25が開きっぱなしになってしまう懸念がある。これを防ぐためにエア室8の内圧が所定範囲の圧力を外れた場合にはインク流路を閉じる閉鎖機構42を設けると良い。
【0098】
例えば、空圧発生部が大気圧+8kPaの空気をエア室8に供給し、エア弁開時にエア室8の内圧が大気圧+4kPaまで低下することでインク供給動作を行うシステムの場合について考える。エア室8の内圧が大気圧近傍まで低下すると、エア室8の内圧によって駆動されるインク弁25の変位は想定以上となる。このような大幅な空圧ダウン(微小リークなどによる空圧低下を除く)であっても、閉鎖機構42により対応可能となる。閉鎖機構42を備えることで、停電などの空圧発生部33の異常の発生や、システム起動直後において、インクがインク室6に正圧で補給されても、インク供給装置1で貯留されているインクが漏出するのを防止することができる。
【0099】
ところで、前述のインク供給装置1の動作においては、所定の条件下において、インク弁25およびエア弁27が開閉する通常の場合について説明したが、ヘッド41側のインク圧に関係なく(エア弁27の開閉に関係なく)、インク弁25を常時開放にしたい場合もある。この場合について、
図5を参照して説明する。
図5は、動作中のインク供給装置1の要部の模式的断面図である。
【0100】
インク弁25を常時開放したい場合には、空圧発生部33からエア室8へ供給される空気の圧力を、通常の条件より低くすれば良い。エア室8の内圧が低下した状態では、インク室6の内圧が内壁15をインク室6の内側へ引っ込めようとする方向に働く力と圧縮バネ31が伸びようとする方向の力との和は、エア室8の内圧が内壁15を外側(インク室6側)へ膨らませようとする方向に働く力を上回る。この結果、内壁15はエア室8(小部屋7)側へ変位する。
【0101】
この内壁15のエア室8側への変位に伴って、インク弁25が
図3中左側へ変位してゲート17(インク導入経路21)を開放する。すなわち、インク室6の内圧とエア室8の内圧との圧力差に応じて、インク弁25によりインク導入経路21を開放する。したがって、インク弁25を常時開放することができる。
【0102】
次に、本実施形態に係るプリンタ51の構成について
図6を参照して説明する。
図6は、本実施形態に係るプリンタ51の概略構成図である。プリンタ51は、前述したように、粘性の高い液体や、大量の液体を供給可能なインク供給装置1(
図1参照)と、インク導入経路21と連通され、インクをインク室6へ供給するメインタンク37と、インク導出経路22と連通され、インクをターゲットに対して噴射するヘッド41とを備えている。さらに、プリンタ51は、待機制御部52と、メンテナンス部53とを備えている。
【0103】
メインタンク37からインク供給装置1の内部を介してヘッド41までのインク流路は、チューブなどの細長い管状部材からなるインク配管61で構成されている。このインク配管61には、電磁弁34が取り付けられている。また、空圧発生部33からインク供給装置1の内部までのエア流路は、チューブなどの細長い管状部材からなる空圧配管62で構成されている。
【0104】
メインタンク37は、インク供給装置1を介してヘッド41に供給するインクが充填されたインク貯留部(いわゆるカートリッジ)である。メインタンク37は、インク供給装置1のインク室6より高い位置、すなわちヘッド41より高い位置に配置され、水頭でインクを圧送する。また、メインタンク37からの供給は、このような水頭差による場合の他、加圧ポンプなどの能動的な加圧によりインクを圧送しても良い。能動的な加圧の場合は、メインタンク37とヘッド41との相対位置は限定されない。
【0105】
ヘッド41は、インク液滴を噴射(吐出)するものである。このため、ヘッド41には、複数のノズル54と、すべてのノズル54に連通される共通のインク流路(図示しない)とが形成されている。この共通のインク流路は、メインタンク37からヘッド41に供給されたインクが流れるインク流路でもある。
【0106】
各ノズル54は、共通のインク流路から供給されたインクを、所定量のインク液滴として噴射(吐出)するものである。各ノズル54には圧電素子(図示せず)が取り付けられており、この圧電素子を駆動してノズル54内を加圧すると、所定量のインクが押し出されて、各ノズル54の先端から所定の大きさのインク液滴が噴射される。
【0107】
各ノズル54では、噴射されるインク液滴の形状や飛行軌跡の最適化を図るために、インクの水頭値などを調整して、インクを所定形状のメニスカスを形成している。また、各ノズル54では、本願記載のインク供給装置1によってインクの水頭値を調節され、所定の範囲の負圧に保持している。インクの圧力が高すぎるとインクが垂れ落ち、低すぎるとメニスカスが破壊され空気がノズル54(ヘッド41)内に入りインク供給に不具合が生じるからである。
【0108】
このように構成されるヘッド41は、走査方向に移動可能(往復動可能)に取り付けられたキャリッジ55に搭載されている。そして、ヘッド41は、キャリッジの走査方向への移動時にインク液滴を噴射することで、ターゲット(紙などの媒体)を印刷する。
【0109】
待機制御部52は、キャップ56と、吸引ポンプ57と、廃液タンク58とを含んで構成されている。待機制御部52は、ヘッド41のノズル面をキャップ56で押さえつけ、ノズル54のインクを吸引ポンプ57(例えばチュービングポンプ)で吸引し、不要なインクを廃液タンク58に貯留する機能を有する。キャップ56は、例えばゴムなどの弾性部材で構成され、各ノズル54との密着性を向上させている。このキャップ56は、上下動可能に保持され、上昇することで各ノズル54を閉鎖し、下降することで各ノズル54を開放する。なお、揮発性の高いインクの場合には、待機制御部52は、インクの乾燥を防止する機能も有することとなる。
【0110】
メンテナンス部53は、ワイピング部材63を含んで構成されている。メンテナンス部53は、待機制御部52によるキャップ吸引後にヘッド41のノズル面に付着している余計なインクを除去する機能を有する。ワイピング部材63は、例えばゴムなどの弾性部材で構成された例えば短冊形状をしており、ノズル面を払拭して清掃する。
【0111】
なお、プリンタ51の構成については、
図6に示した構成に限られず、
図7に示す構成のように、メインタンク37をキャリッジ55上に配置するオンキャリッジタンク型であっても良い。
図7は、本実施形態に係るプリンタ51の別の概略構成図である。インクは、メインタンク37(オンキャリッジタンク)内に貯留され、インク配管61を通じてインク供給装置1に供給される。オンキャリッジタンク形式の場合、メインタンク37からインク供給装置1へインクを圧送するためには、
図7に示すように、空圧配管62を分岐してメインタンク37の液面上部空間に連通させれば良い。また、メインタンク37そのものに遠心ポンプを搭載するなどして定圧供給機能を持たせても良い。
【0112】
次に、プリンタ51の通常の動作について
図8および
図9を参照して説明する。
図8および
図9は、動作中のプリンタ51の概略構成図である。動作条件としては、メインタンク37からインク供給装置1内のインク室6へ供給されるインクは、所定の圧力で加圧され、また、空圧発生部33からインク供給装置1内のエア室8へ供給される空気は、所定の圧力で加圧されるものとする。
【0113】
図8を参照して、プリンタ51のインク充填の動作について説明する。このインク充填の動作では、インク配管61が空のとき、インク配管61やヘッド41内にインクが充填される。
【0114】
次いで、インク配管61の開閉を行う電磁弁34を開く。次いで、ヘッド41が待機制御部52において、キャップされていることを確認した後、吸引ポンプ57でキャップ56内を吸引する。キャップ56内を吸引したまま、メインタンク37からインクが導入されヘッド41に到達し、ノズル54からキャップ56内にインクが吐出する。あらかじめノズル54までの体積より多めの体積を吸引するように設定しておき、その設定条件となったところで、キャップ吸引を終了する。
【0115】
次いで、ヘッド41をメンテナンス部53に移動し、ワイピング部材63のメンテナンスにより、インク付着でノズル面が濡れた状態となっている各ノズル54にメニスカスを形成させる。各ヘッド54にメニスカスを形成した後は、ヘッド41を待機制御部52に戻し、ヘッド41をキャッピングして待機状態となる。
【0116】
続いて、
図9を参照して、プリンタ51の噴射(吐出)の動作について説明する。このインク噴射の動作では、ヘッド41からインクが噴射され、ヘッド41内の圧力が下がると、印字中であってもインク供給装置1のインク弁25が開き、メインタンク37からヘッド41までが連通し、インクが供給される。
【0117】
具体的には、ヘッド41がインク液滴を噴射すると、ヘッド41内のインク圧が低下する。次いで、インク供給装置1のインク室6の内圧が下がり、前述したように、インク室6とエア室8の内圧との圧力差により、インク弁25が開く。メインタンク37の供給(補給)によりインク圧が適正になるとインク供給装置1のインク弁25が閉じて、インクの供給が止まる。また、印字が連続してインクの噴射が続き、ヘッド41内のインク圧が変動したとしても、インク供給装置1では、インク室6とエア室8の内圧との圧力差により、インク弁25の開閉が繰り返される。
【0118】
このように、プリンタ51によれば、ヘッド41におけるインクのメニスカスが破壊されるのを防止でき、噴射される液滴の形状や飛行軌跡が最適化されて、ターゲットにインクを噴射することができる。また、粘性の高い液体や、大量の液体を供給可能なインク供給装置1を備えることで、粘性の高いインクにも対応することができる。
【0119】
次に、プリンタ51の空圧低下時(異常時)の動作について
図10を参照して説明する。
図10は、動作中のプリンタ51の概略構成図である。インク供給装置1は、エア室8を一定の内圧に保とうとする空圧発生部33が正常に動作して成り立つシステムである。このため、エアリークによる空圧低下時にインクが正圧で供給されると、インク供給装置1で貯留されているインクが漏出する可能性がある。空圧低下時の動作は、空圧配管62の亀裂などによるエアリークや、故障・停電などによりエア室8に供給される空圧が低下した場合の対処方法である。
【0120】
空圧配管62に亀裂などが発生した場合、空圧発生部33に内蔵された圧力センサが、空圧配管62の圧力低下を検知する。空圧配管62の圧力低下を検知したとき、ヘッド41からの噴射を中止する。なお、圧力低下量が印字品質に影響を及ぼさない程度の場合は、点検アラームで警告するなどの対処を行う。
【0121】
インク供給が中止されたヘッド41を待機制御部52に戻し、ヘッド41をキャッピングして待機状態とする。また、プリンタ51ではインク配管61に電磁弁34を設けているので、この電磁弁34を閉じる。このようにして、インクがヘッド41から漏出するのを防止することができる。
【0122】
また、停電などで空圧発生部33の圧力センサと空圧が同時にダウンした場合、プリンタ51ではインク配管61に電磁弁34を設けているので、この電磁弁34を電源が切れると閉じる形式(ノーマリークローズ形式)としておけば良い。これにより、インク供給を中止することができ、インクがヘッド41から漏出するのを防止することができる。
【0123】
[第2実施形態]
まず、本実施形態に係るインク供給装置1Aの構成について
図11を参照して説明する。
図11は、インク供給装置1Aの要部の模式的断面図である。インク供給装置1Aは、インク供給装置1とは異なる大気経路13およびインク導入経路21の開閉機構を備えている点で相違する。以下では、相違する点を中心に説明する。
【0124】
インク供給装置1Aのエア弁27(エア流路開閉部)は、インク室6の内圧に応じて、大気経路13を開閉するものである。具体的には、エア弁27は、対向壁16に設けられ、対向壁16の変位に伴って、大気経路13を開閉する。エア弁27を付勢する圧縮バネ32は、インク室6の小部屋5内において、一端がインク室6の小部屋5の内壁、他端がエア弁27の鍔部27aに設けられている。
【0125】
インク供給装置1Aのインク弁25B(液体流路開閉部)は、インク室6の内圧とエア室8の内圧との圧力差に応じて、インク導入経路21を開閉するものである。具体的には、インク弁25Bは、隔壁15に設けられ、隔壁15の変位に伴って、インク導入経路21を開閉する。
【0126】
インク弁25Bは、例えば円形状の2つの鍔部25a、25cの間を軸部25bで繋ぐように形成されている。このインク弁25Bは、隔壁15の撓みを最大限に利用して変位する範囲を大きくとるために、隔壁15の中央部に設けられている。
【0127】
インク弁25Bの鍔部25aは、隔壁15に固定して取り付けられている。インク弁25Bの鍔部25cは、インク室6の小部屋3において、ゲート17と対向するように設けられている。この鍔部25cは、インク導入経路21(インク流路)を閉鎖する、すなわちゲート17を閉鎖するので、ゲート17の開口面積よりも大きい平面積となる。インク弁25Bの軸部25bは、ゲート17に挿入され、このためゲート17の開口面積よりも小さい断面積である。この軸部25bは、隔壁15の変位によりゲート17を開放または閉鎖できる長さである。
【0128】
閉時のインク弁25Bのシール性を確保するシール部材26は、インク室6の小部屋3において、ゲート17の周辺部とインク弁25Bの鍔部25cとの間に設けられている。また、インク弁25Bを付勢する圧縮バネ31は、一端がエア室8の小部屋7の内壁、他端がインク弁25Bの鍔部25aに取り付けられ、エア室8の小部屋7内に設けられている。
【0129】
なお、インク供給装置1Aでは、内壁15、対向壁16、圧縮バネ31、32の弾性定数などは、インク弁25B、エア弁27の開閉にあたり、最適なものが選択されている。
【0130】
次に、本実施形態に係るインク供給装置1Aの動作について、
図11を参照して説明する。ここでは、インク供給装置1Aに対して、インク導入口11(インク導入経路21)からインクが所定の圧力(正圧)で加圧され、空気口24(空気導入経路14)から空気が大気圧より低い所定の圧力で減圧(吸引)されているものとする。
【0131】
待機時の状態においては、ヘッド41のインク圧がヘッド指定水頭(負圧)になっている。すなわち、ヘッド41のインク圧がインクのメニスカスを形成する所定の圧力になっている。
【0132】
ヘッド41のインク圧が所定の圧力の状態では、圧縮バネ32が伸びようとする方向の力は、インク室6の内圧(負圧のインク圧)が対向壁16をインク室6の内側へ引っ込めようとする方向に働く力を上回る。この結果、対向壁16は大気(大気口23)側へ変位する。この対向壁16の大気側への変位に伴って、エア弁27が
図11中左側へ変位して大気口23(大気経路13)を閉鎖する。すなわち、インク室6の内圧に応じて、エア弁27により大気経路13を閉鎖する。
【0133】
大気経路13が閉鎖され、空圧発生部33により空気がエア室8から流出されると、エア室8の内圧(空圧)が低下する。エア室8の内圧が所定の圧力に低下した状態では、エア室8の内圧が内壁15をエア室8の内側へ引っ込めようとする方向に働く力と、圧縮バネ31が伸びようとする方向の力との和は、インク室6の内圧が内壁をインク室6の内側に引っ込めようとする方向に働く力を上回る。この結果、内壁15はエア室8側へ変位する。
【0134】
この内壁15のエア室8側への変位に伴って、インク弁25Bが
図11中左側へ変位してゲート17(インク導入経路21)を閉鎖する。すなわち、インク室6の内圧とエア室8の内圧との圧力差に応じて、インク弁25Bによりインク導入経路21を閉鎖する。したがって、待機時の状態において、インクがインク供給装置1Aからヘッド41へ供給されない。
【0135】
供給時の状態においては、ヘッド41のインク圧がヘッド指定水頭(負圧)の下限になっている。すなわち、ヘッド41がインクを吐出すると、ヘッド41内のインクが減少し、インク室6の内圧が低下する。インク室6の内圧が低下すると、インク室6の内圧(負圧のインク圧)が対向壁16をインク室6の内側へ引っ込めようとする方向に働く力は、圧縮バネ32が伸びようとする方向の力を上回る。この結果、対向壁16はインク室6側へ変位する。
【0136】
この対向壁16のインク室6側への変位に伴って、エア弁27が
図11中右側へ変位して大気口23(大気経路13)を開放する。すなわち、インク室6の内圧に応じて、エア弁27により大気経路13を開放する。したがって、大気からエア室8へ空気が流入する。
【0137】
大気経路13の開放によりエア室8へ空気(大気)が流入し、空気経路14(空気絞り部36)の流路抵抗により空圧発生部33からの空気流出が間に合わないため、エア室8の内圧が上昇する。エア室8の内圧が所定の圧力に上昇した状態では、エア室8の内圧が内壁15をエア室8の内側へ引っ込ませようとする方向に働く力と、圧縮バネ31が伸びようとする方向の力との和は、インク室6の内圧が内壁15をインク室6の内側へ引っ込めようとする方向に働く力を上回る。この結果、内壁15はインク室6側へ変位する。
【0138】
この内壁15のインク室6側への変位に伴って、インク弁25Bが
図11中右側へ変位してゲート17(インク導入経路21)を開放する。すなわち、インク室6の内圧とエア室8の内圧との圧力差に応じて、インク弁25Bによりインク導入経路21を開放する。したがって、インクはインク供給装置1Aからヘッド41へ供給される。ヘッド41にインクが供給されてヘッド指定水頭になると、インク供給装置1Aは、待機時の状態となる。
【0139】
停電時(空圧ダウン時)の状態においては、空圧発生部33による空気の吸引(流出)が停止する。したがって、エア室8の内圧が所定の範囲を外れて、エア室8は大気圧となる。
【0140】
エア室8が大気圧の状態では、エア室8の内圧が内壁15をエア室8の内側へ引っ込めようとする方向に働く力はなくなる。このため、圧縮バネ31が伸びようとする方向の力の影響により、内壁15はインク室6側へ変位する。この内壁15のインク室6側への変位に伴って、インク弁25Bが
図11中右側へ変位してゲート17(インク導入経路21)を開放する。このため、インク供給装置1Aからヘッド41へインクが供給され続け、ヘッド41からインクが漏出してしまう。
【0141】
このような停電時の状態においては、電磁弁34を電源が切れると閉じる形式(ノーマリークローズ形式)としておけば良い。これにより、インク供給を中止することができ、インクがヘッド41から漏出するのを防止することができる。
【0142】
[第3実施形態]
まず、本実施形態に係るインク供給装置1Bの構成について
図12を参照して説明する。
図12は、インク供給装置1Bの要部の模式的断面図である。インク供給装置1Bは、インク供給装置1、1Aとは異なる大気経路13およびインク導入経路21の開閉機構を備えている点で相違する。以下では、相違する点を中心に説明する。
【0143】
インク供給装置1Bのインク弁25B(液体流路開閉部)は、インク室6の内圧とエア室8の内圧との圧力差に応じて、インク導入経路21を開閉するものである。具体的には、インク弁25Bは、隔壁15に設けられ、隔壁15の変位に伴って、インク導入経路21を開閉する。閉時のインク弁25Bのシール性を確保するシール部材26は、インク室6の小部屋3内において、ゲート17の周辺部とインク弁25Bの鍔部25cとの間に設けられている。また、インク弁25Bを付勢する圧縮バネ31は、インク室6の小部屋4内において、一端がインク室6の小部屋4の内壁、他端がインク弁25Bの鍔部25aに設けられている。
【0144】
インク供給装置1Bのエア弁27A(エア流路開閉部)は、インク室6の内圧に応じて、大気経路13を開閉するものである。具体的には、エア弁27Aは、対向壁16に設けられ、対向壁16の変位に伴って、大気経路13を開閉する。
【0145】
空気を貯留するエア室8は、ケース2内で空気(気体)を貯留する部屋である。エア室8の内部は、ケース2と一体に形成された内壁によって区画された2つの小部屋7、7A(例えば円筒形状)で構成されている。空気経路14と小部屋7とは、連通している。また、小部屋7と小部屋7Aとは、大気絞り部35を介して連通している。この小部屋7Aは、対向壁16と対向する外壁を貫通する大気口23を有している。なお、大気口23から小部屋7までの大気経路13には、小部屋7Aが含まれることとなる。
【0146】
エア弁27Aは、例えば円形状の2つの鍔部27a、27cの間を軸部27bで繋ぐように形成されている。このエア弁27Aは、対向壁16の撓みを最大限に利用して変位する範囲を大きくとるために、対向壁16の中央部に設けられている。
【0147】
エア弁27Aの鍔部27aは、対向壁16に固定して取り付けられている。エア弁27Aの鍔部27cは、小部屋7Aにおいて、大気口23と対向するように設けられている。この鍔部27cは、大気経路13を閉鎖する、すなわち大気口23を閉鎖するので、大気口23の開口面積よりも大きい平面積となる。エア弁27Aの軸部27bは、対向壁16の変位により大気口23を開放または閉鎖できる長さである。
【0148】
閉時のエア弁27のシール性を確保するシール部材65は、エア室8の小部屋7Aにおいて、大気口23の周辺部とエア弁27Aの鍔部27cとの間に設けられている。このシール部材65は、例えば内径が大気口23の開口面積よりも大きい環状のゴム部材などの弾性部材(例えばOリング)である。また、エア弁27Aを付勢する圧縮バネ32は、一端がインク室6の小部屋5の内壁、他端がエア弁27Aの鍔部27aに取り付けられ、インク室6の小部屋5内に設けられている。
【0149】
なお、インク供給装置1Bでは、内壁15、対向壁16、圧縮バネ31、32の弾性定数などは、インク弁25B、エア弁27Aの開閉にあたり、最適なものが選択されている。
【0150】
次に、本実施形態に係るインク供給装置1Bの動作について、
図12を参照して説明する。ここでは、インク供給装置1Bに対して、インク導入口11(インク導入経路21)からインクが所定の圧力(正圧)で加圧され、空気口24(空気導入経路14)から空気が大気圧より高い所定の圧力で加圧されているものとする。
【0151】
待機時の状態においては、ヘッド41のインク圧がヘッド指定水頭(負圧)になっている。すなわち、ヘッド41のインク圧がインクのメニスカスを形成する所定の圧力になっている。
【0152】
ヘッド41のインク圧が所定の圧力の状態では、圧縮バネ32が伸びようとする方向の力は、インク室6の内圧(負圧のインク圧)が対向壁16をインク室6の内側へ引っ込めようとする方向に働く力を上回る。この結果、対向壁16は大気(大気口23)側へ変位する。この対向壁16の大気側への変位に伴って、エア弁27Aが
図12中左側へ変位して大気口23(大気経路13)を開放する。すなわち、インク室6の内圧に応じて、エア弁27Aにより大気経路13を開放する。
【0153】
大気経路13の開放によりエア室8から空気が流出し、空気経路14(空気絞り部36)の流路抵抗により空圧発生部33からの空気流入が間に合わないため、エア室8の内圧が低下する。エア室8の内圧が所定の圧力に低下した状態では、エア室8の内圧が内壁15を外側(インク室6側)へ膨らませようとする方向に働く力は、インク室6の内圧が内壁15をインク室6の内側へ引っ込めようとする方向に働く力と圧縮バネ31が伸びようとする方向の力との和を下回る。この結果、内壁15はエア室8側へ変位する。
【0154】
この内壁15のエア室8側への変位に伴って、インク弁25Bが
図12中左側へ変位してゲート17(インク導入経路21)を閉鎖する。すなわち、インク室6の内圧とエア室8の内圧との圧力差に応じて、インク弁25Bによりインク導入経路21を閉鎖する。したがって、待機時の状態においては、インクがインク供給装置1Bからヘッド41へ供給されない。
【0155】
供給時の状態においては、ヘッド41のインク圧がヘッド指定水頭(負圧)の下限になっている。すなわち、ヘッド41がインクを吐出すると、ヘッド41内のインクが減少し、インク室6の内圧が低下する。インク室6の内圧が低下すると、インク室6の内圧(負圧のインク圧)が対向壁16をインク室6の内側へ引っ込めようとする方向に働く力は、圧縮バネ32が伸びようとする方向の力を上回る。この結果、対向壁16はインク室6側へ変位する。
【0156】
この対向壁16のインク室6側への変位に伴って、エア弁27Aが
図12中右側へ変位して大気口23(大気経路13)を閉鎖する。すなわち、インク室6の内圧に応じて、エア弁27Aにより大気経路13を閉鎖する。
【0157】
大気経路13が閉鎖され、空圧発生部33により空気がエア室8から流入されると、エア室8の内圧(空圧)が上昇する。エア室8の内圧が所定の圧力に上昇した状態では、エア室8の内圧が内壁15を外側(インク室6側)へ膨らませようとする方向に働く力は、インク室6の内圧が内壁をインク室6の内側に引っ込めようとする方向に働く力と圧縮バネ31が伸びようとする方向の力との和を上回る。この結果、内壁15はインク室6側へ変位する。
【0158】
この内壁15のインク室6側への変位に伴って、インク弁25Bが
図12中右側へ変位してゲート17(インク導入経路21)を開放する。すなわち、インク室6の内圧とエア室8の内圧との圧力差に応じて、インク弁25Bによりインク導入経路21を開放する。したがって、インクはインク供給装置1Bからヘッド41へ供給される。ヘッド41にインクが供給されてヘッド指定水頭になると、インク供給装置1Bは、待機時の状態となる。
【0159】
停電時(空圧ダウン時)の状態においては、空圧発生部33による空気の加圧が停止する。したがって、エア室8の内圧が所定の範囲を外れて、エア室8は大気圧となる。
【0160】
エア室8が大気圧の状態では、エア室8の内圧が内壁15を外側(インク室6側)へ膨らませようとする方向に働く力はなくなる。このため、圧縮バネ31が伸びようとする方向の力の影響により、内壁15はエア室8側へ変位する。この内壁15のエア室8側への変位に伴って、インク弁25Bが
図12中左側へ変位してゲート17(インク導入経路21)を閉鎖する。したがって、インク供給装置1Bからヘッド41へインクが供給されず、ヘッド41からインクが漏出するのを防止することができる。
【0161】
このように、インク供給装置1Bは、エア室8の内圧が所定の範囲を外れたときに、インク導入経路を閉鎖する閉鎖機構42を備えている。この閉鎖機構42は、インク弁25Bを含んで構成されている。この閉鎖機構42によれば、システム起動時や、空圧発生部33が不安定なときにインクが正圧で補給された場合であっても、インクが漏出するのを防止することができる。
【0162】
[第4実施形態]
まず、本実施形態に係るインク供給装置1Cの構成について
図13を参照して説明する。
図13は、インク供給装置1Cの要部の模式的断面図である。インク供給装置1Cは、インク供給装置1、1A、1Bとは異なる大気経路13およびインク導入経路21の開閉機構を備えている点で相違する。以下では、相違する点を中心に説明する。
【0163】
インク供給装置1Cのインク弁25(液体流路開閉部)は、インク室6の内圧とエア室8の内圧との圧力差に応じて、インク導入経路21を開閉するものである。具体的には、インク弁25は、隔壁15に設けられ、隔壁15の変位に伴って、インク導入経路21を開閉する。閉時のインク弁25のシール性を確保するシール部材26は、インク室6の小部屋4内において、ゲート17の周辺部とインク弁25の鍔部25cとの間に設けられている。また、インク弁25を付勢する圧縮バネ31は、エア室8の小部屋7内において、一端がエア室8の小部屋7の内壁、他端がインク弁25の鍔部25aに設けられている。
【0164】
インク供給装置1Cのエア弁27A(エア流路開閉部)は、インク室6の内圧に応じて、大気経路13を開閉するものである。具体的には、エア弁27Aは、対向壁16に設けられ、対向壁16の変位に伴って、大気経路13を開閉する。エア弁27Aを付勢する圧縮バネ32は、インク室6の小部屋5内において、一端がインク室6の小部屋5の内壁、他端がエア弁27Aの鍔部27aに設けられている。
【0165】
なお、インク供給装置1Cでは、内壁15、対向壁16、圧縮バネ31、32の弾性定数などは、インク弁25、エア弁27Aの開閉にあたり、最適なものが選択されている。
【0166】
次に、本実施形態に係るインク供給装置1Cの動作について、
図13を参照して説明する。ここでは、インク供給装置1Cに対して、インク導入口11(インク導入経路21)からインクが所定の圧力(正圧)で加圧され、空気口24(空気導入経路14)から空気が大気圧より低い所定の圧力で減圧(吸引)されているものとする。
【0167】
待機時の状態においては、ヘッド41のインク圧がヘッド指定水頭(負圧)になっている。すなわち、ヘッド41のインク圧がインクのメニスカスを形成する所定の圧力になっている。
【0168】
ヘッド41のインク圧が所定の圧力の状態では、圧縮バネ32が伸びようとする方向の力は、インク室6の内圧(負圧のインク圧)が対向壁16をインク室6の内側へ引っ込めようとする方向に働く力を上回る。この結果、対向壁16は大気(大気口23)側へ変位する。この対向壁16の大気側への変位に伴って、エア弁27Aが
図13中左側へ変位して大気口23(大気経路13)を開放する。すなわち、インク室6の内圧に応じて、エア弁27Aにより大気経路13を開放する。
【0169】
大気経路13の開放により大気から空気が流入し、空気経路14(空気絞り部36)の流路抵抗により空圧発生部33からの空気流出が間に合わないため、エア室8の内圧が上昇する。エア室8の内圧が所定の圧力に上昇した状態では、エア室8の内圧が内壁15をエア室8の内側へ引っ込めようとする方向に働く力と圧縮バネ31が伸びようとする方向の力との和は、インク室6の内圧が内壁15をインク室6の内側へ引っ込めようとする方向に働く力を上回る。この結果、内壁15はインク室6側へ変位する。
【0170】
この内壁15のインク室6側への変位に伴って、インク弁25が
図13中右側へ変位してゲート17(インク導入経路21)を閉鎖する。すなわち、インク室6の内圧とエア室8の内圧との圧力差に応じて、インク弁25によりインク導入経路21を閉鎖する。したがって、待機時の状態においては、インクがインク供給装置1Cからヘッド41へ供給されない。
【0171】
供給時の状態においては、ヘッド41のインク圧がヘッド指定水頭(負圧)の下限になっている。すなわち、ヘッド41がインクを吐出すると、ヘッド41内のインクが減少し、インク室6の内圧が低下する。インク室6の内圧が低下すると、インク室6の内圧(負圧のインク圧)が対向壁16をインク室6の内側へ引っ込めようとする方向に働く力は、圧縮バネ32が伸びようとする方向の力を上回る。この結果、対向壁16はインク室6(小部屋5)側へ変位する。
【0172】
この対向壁16のインク室6側への変位に伴って、エア弁27Aが
図13中右側へ変位して大気口23(大気経路13)を閉鎖する。すなわち、インク室6の内圧に応じて、エア弁27Aにより大気経路13を閉鎖する。
【0173】
大気経路13が閉鎖され、空圧発生部33により空気がエア室8から流出されると、エア室8の内圧(空圧)が低下する。エア室8の内圧が所定の圧力に低下した状態では、エア室8の内圧が内壁15をエア室8の内側へ引っ込めようとする方向に働く力と圧縮バネ31が伸びようとする方向の力との和が、インク室6の内圧が内壁をインク室6の内側に引っ込めようとする方向に働く力を上回る。この結果、内壁15はエア室8側へ変位する。
【0174】
この内壁15のエア室8側への変位に伴って、インク弁25が
図13中左側へ変位してゲート17(インク導入経路21)を開放する。すなわち、インク室6の内圧とエア室8の内圧との圧力差に応じて、インク弁25によりインク導入経路21を開放する。したがって、インクはインク供給装置1Cからヘッド41へ供給される。ヘッド41にインクが供給されてヘッド指定水頭になると、インク供給装置1Cは、待機時の状態となる。
【0175】
停電時(空圧ダウン時)の状態においては、空圧発生部33による空気の加圧が停止する。したがって、エア室8の内圧が所定の範囲を外れて、エア室8は大気圧となる。
【0176】
エア室8が大気圧の状態では、エア室8の内圧が内壁15をエア室8の内側へ引っ込ませようとする方向に働く力はなくなる。このため、圧縮バネ31が伸びようとする方向の力の影響により、内壁15はインク室6側へ変位する。この内壁15のインク室6側への変位に伴って、インク弁25が
図13中右側へ変位してゲート17(インク導入経路21)を閉鎖する。したがって、インク供給装置1Cからヘッド41へインクが供給されず、ヘッド41からインクが漏出するのを防止することができる。
【0177】
このように、インク供給装置1Cは、エア室8の内圧が所定の範囲を外れたときに、インク導入経路を閉鎖する閉鎖機構42を備えている。この閉鎖機構42は、インク弁25を含んで構成されている。この閉鎖機構42によれば、システム起動時や、空圧発生部33が不安定なときにインクが正圧で補給された場合であっても、インクが漏出するのを防止することができる。
【0178】
以上の実施形態で説明したとおり、開示の液体供給装置1によれば、粘性の高い液体を用いた場合であっても、センサやリンク機構などを付加することなく、液体室6の内圧を一定範囲内の圧力で制御することができる。また、以下の特徴的な作用効果が奏される。
【0179】
液体供給装置1は、液体を導入する液体導入経路21および液体を導出する液体導出経路22を有し、液体を貯留する液体室6と、前記空気経路14と連通され、大気とは異なる圧力の空気をエア室8へ流入またはエア室8から流出させる空圧発生部33と、大気と連通する大気経路13および前記空気発生部33と連通する空気経路14を有し、空気を貯留するエア室8と、前記液体導入経路21を開閉する液体流路開閉部25と、前記大気経路13を開閉するエア流路開閉部27とを備え、前記液体室6の内圧に応じて、前記エア流路開閉部27により前記大気経路13を開閉し、前記液体室6の内圧と前記エア室8の内圧との圧力差に応じて、前記液体流路開閉部25により前記液体導入経路21を開閉する。
【0180】
これによれば、液体が流れる液体室6の内圧の変化をエア室8の内圧の変化とすることができ、また液体室6の内圧の変化だけでなく、エア室8の内圧の変化と合わせて液体流路を開閉することができる。すなわち、液体室6の内圧の微小な変化を、エア室8の内圧で補助して、液体流路開閉部25の駆動力を大きくすることができる。このため、例えば、粘性の高い液体を用いた場合であっても、液体流路の開口面積を大きくすることができ、液体室6の内圧を所定の範囲内に保ちながら、必要量の液体を供給することができる。また、液体流路開閉部25の駆動を補助する流体を空気などの気体とすることで、特別な供給装置や排出装置を付加することなく、簡易に液体供給装置1を構成することができる。
【0181】
そして、前記液体室6の一部(小部屋4)は、可撓性のある隔壁15を介して前記エア室8の一部(小部屋7)と隣り合っており、前記隔壁15は、前記液体室6の内圧と前記エア室8の内圧との差に応じて、前記液体室6または前記エア室8側へ撓み、前記隔壁15の変位に伴って、前記液体流路開閉部25により前記液体導入経路21を開閉し、前記液体室6の他の一部(小部屋5)は、可撓性のある対向壁16を介して大気と接しており、前記対向壁16は、前記液体室6の内圧に応じて、大気側または前記液体室6(小部屋5)側へ撓み、前記対向壁16の変位に伴って、前記エア流路開閉部27により前記大気経路13を開閉する。
【0182】
液体供給装置1では、液体室6の内圧およびエア室8の内圧を検出するセンサを設け、その検出値に基づきリンク機構などにより液体流路開閉部25およびエア流路開閉部27を開閉させる構成も実現可能である。これに対して、隔壁15および対向壁16の変位によってそれぞれ液体流路開閉部25およびエア流路開閉部27を開閉する構成とすれば、液体室6の内圧やエア室8の内圧を検出するセンサやリンク機構などを付加することなく、簡易に液体供給装置1を構成できる。
【0183】
そして、前記隔壁15および対向壁16は、ダイアフラムで構成されている。
【0184】
これによれば、液体室6の内圧およびエア室8の内圧の変化がダイアフラムの変位となり、ダイアフラムが直接に液体流路開閉部25およびエア流路開閉部27を開閉することができるため、液体室6の内圧およびエア室8の内圧を検出するセンサやリンク機構などを付加することなく、簡易に液体供給装置1を構成できる。
【0185】
そして、液体供給装置1は、前記液体流路開閉部25を付勢する液体流路開閉部付勢部材31と、前記エア流路開閉部27を付勢するエア流路開閉部付勢部材32とを備える。
【0186】
このような付勢部材31、32を用いなくとも、摺動抵抗や変形抵抗のみで液体供給装置1を実現可能である。しかしながら、液体流路開閉部25およびエア流路開閉部27を開閉する機構が非常に繊細となり、部品のばらつきや環境変化に敏感に反応し、動作を安定して行うことができない場合がある。そこで、液体流路開閉部25およびエア流路開閉部27を付勢する部材を設けることで、機構を構成する部品のばらつきの影響などが出にくい領域で機構を動かすことができる。また、付勢部材31、32の調整により、液体流路開閉部25およびエア流路開閉部27の動作特性を微調整することが可能となる。
【0187】
そして、液体供給装置1では、前記液体導入経路21には、正圧で液体が導入され、前記空気経路14には、前記空圧発生部33によって前記エア室8へ大気より高い圧力の空気が流入され、前記液体導出経路22から液体が導出されることで前記液体室6の内圧が低下し、前記エア流路開閉部27が前記大気経路13を開放し、前記エア流路開閉部27が開くことで前記エア室8の内圧が低下し、前記液体流路開閉部25が前記液体導入経路21を開放する。
【0188】
これによれば、液体の減少に伴って発生する液体室6の内圧(負圧)によって、エア流路開閉部27を開き、これに伴ってエア室8の内圧が低下し、エア室8の内圧が所定値を下回ったら液体流路開閉部25を開くことができる。液体流路開閉部25が開くことに伴って液体室6の内圧が上昇するとエア流路開閉部27が閉まり、エア流路開閉部27が閉まることで、エア室8の内圧が上昇して液体流路開閉部25を閉めるという機構を実現することができる。このような機構により、液体供給装置1では、液体室6の内圧を所定の範囲内に保ったまま液体供給することができる。
【0189】
そして、液体供給装置1は、前記空気経路14中に設けられ、該空気経路14の流路抵抗を増加する流路抵抗増加部36を備える。
【0190】
これによれば、液体流路開閉部25の開時のエア室8の内圧およびその圧力変動速度を、大気経路13と空気経路14の流路抵抗の比によって定めることが容易となる。流路抵抗の比は、使用する液体の種別や、空圧発生部33の特性、液体の供給量などに応じて好適な割合とすると良い。大気と連通される大気経路13の流路抵抗が大きく変動することは考えにくいが、空気経路14の流路抵抗は、空圧発生部33からエア室8までの配管長や配管状態(材質、経時変化、取り回しなど)の影響によって変動し、所望の動作ができないことが考えられる。空気経路14上に配管全体の抵抗よりも大きな流路抵抗増加部36を設けることにより、配管による影響をほぼ無視することができる。
【0191】
この流路抵抗増加部36として、空気経路14の断面積を縮小した絞り部を設けることができる。流路抵抗増加部36は、液体供給装置1外に設けることもできるが、液体供給装置1と一体に成形した絞り部とすることで、部品点数の増加を抑え、簡単に安価な構造で実現することができる。
【0192】
また、大気経路13を開閉するエア流路開閉部27の変位量(ギャップ)は、それほど大きくないため、実際には、開時における大気経路13と、エア流路開閉部27とのギャップにより形成される流路抵抗と、空気経路14に設けられた流路抵抗増加部36の流路抵抗の比によって、エア流路開閉部27の開時のエア室8の内圧や圧力変動速度が決まることが多い。しかしながら、大気経路13の流路抵抗が小さすぎる場合には、大気経路13にも流路抵抗増加部35(例えば絞り部)を設けることで、エア室8の内圧を所望の圧力に制御することができる。
【0193】
そして、前記液体導入経路21は、液体を前記液体室6へ供給する液体供給部37と連通され、前記液体導出経路22は、液体をターゲットに対して噴射する液体噴射ヘッド41と連通され、前記液体供給部37から前記液体室6を介して前記液体噴射ヘッド41までの液体が流れる液体流路中に設けられ、該液体流路を遮断する液体遮断部34を備える。
【0194】
液体供給装置1は、エア室8を一定の内圧に保とうとする空圧発生部33が正常に動作して成り立つシステムである。このため、システム起動直後や、空圧発生部33の非駆動時に液体が正圧で供給されると、液体供給装置1で貯留されている液体が漏出する可能性がある。これを避けるために、液体供給部37と液体噴射ヘッド41との間に液体遮断部34を設け、空気圧制御が不安定な期間は液体を遮断した状態としておき、空気圧制御が安定してから液体を開放した状態とするのが良い。
【0195】
そして、前記液体供給装置1は、前記エア室の内圧が所定の範囲を外れたときに、前記液体導入経路を閉鎖する閉鎖機構42を備える。
【0196】
液体供給装置1は、エア室8を一定の内圧に保とうとする空圧発生部33が正常に動作して成り立つシステムである。このため、システム起動直後や空圧発生部33の異常などによってエア室8の内圧が所定範囲を外れた場合には、液体流路開閉部25を閉める押圧力が得られず、液体流路開閉部25が開きっぱなしになってしまう懸念がある。これを防ぐためにエア室8の内圧が所定範囲の圧力を外れた場合には液体流路を閉じる閉鎖機構42を設けると良い。
【0197】
例えば、空圧発生部33が大気圧+8kPaの空気をエア室8に供給し、エア流路開閉部27の開時にエア室8の内圧が大気圧+4kPaまで低下することで液体供給動作を行うシステムの場合を考える。エア室8の内圧が大気圧近傍まで低下したとき、エア室8の内圧によって駆動される液体流路開閉部25の変位は想定以上となる。このような場合に、液体流路を閉じる閉鎖機構42を設けると良い。閉鎖機構42により、システム起動時や、空気圧制御が不安定な場合に液体が正圧で補給されても、液体供給装置1で貯留されている液体が漏出するのを防止することができる。
【0198】
そして、印刷装置51は、前記液体供給装置1と、前記液体導入経路21と連通され、液体を前記液体室6へ供給する液体供給部37と、前記液体導出経路22と連通され、液体をターゲットに対して噴射する液体噴射ヘッド41とを備える。
【0199】
これによれば、粘性の高い液体を用いた場合であっても、液体噴射ヘッド41における液体のメニスカスが破壊するのを防止でき、噴射される液滴の形状や飛行軌跡が最適化されて、ターゲット(印刷媒体)に液体を噴射することができる。
【0200】
なお、本発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0201】
例えば、前記実施形態では、液体供給装置が供給する液体として、粘性の高いUV硬化型インクを適用した場合について説明した。これに限らず、例えば粘性の低い水性インクや、インク以外の各種液体(例えば食用オイル、接着剤、絶縁樹脂、塗料など)を適用することができる。
【0202】
例えば、前記実施形態では、液体供給装置として、インク供給装置に適用した場合について説明した。これに限らず、食用オイルや接着剤などの液体を供給する液体供給装置に適用することができる。また、液晶ディスプレイ、ELディスプレイおよび面発光ディスプレイの製造などで用いられる電極材や色材などの液体を供給する液体供給装置にも適用することができる。また、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を供給する液体供給装置にも適用することができる。
【0203】
例えば、前記実施形態では、エア室と液体室の隔壁を、金属または非金属の弾性フィルムのダイアフラムで構成する場合について説明した。これに限らず、液体室側からの押圧力とエア室側からの押圧力との差により撓むものであれば、例えば可撓性フィルムを適用することができる。