特許第5900745号(P5900745)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5900745-淡水製造方法および淡水製造装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5900745
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月6日
(54)【発明の名称】淡水製造方法および淡水製造装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/44 20060101AFI20160324BHJP
   B01D 61/00 20060101ALI20160324BHJP
   C02F 1/04 20060101ALI20160324BHJP
   B01D 3/00 20060101ALI20160324BHJP
   B01D 1/00 20060101ALI20160324BHJP
【FI】
   C02F1/44 G
   B01D61/00 500
   C02F1/04 A
   B01D3/00 Z
   B01D1/00 Z
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-120403(P2012-120403)
(22)【出願日】2012年5月28日
(65)【公開番号】特開2013-244467(P2013-244467A)
(43)【公開日】2013年12月9日
【審査請求日】2014年9月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085109
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 政浩
(72)【発明者】
【氏名】功刀 亮
(72)【発明者】
【氏名】内山 武
(72)【発明者】
【氏名】渕上 浩司
(72)【発明者】
【氏名】植竹 規人
(72)【発明者】
【氏名】水上 剛志
【審査官】 手島 理
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−539584(JP,A)
【文献】 特表2001−526959(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22、61−71
C02F 1/44
C02F 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水を蒸発法で淡水化する蒸発法淡水化装置と、前記被処理水を順浸透膜と前記被処理水よりも浸透圧の高い炭酸アンモニウム水溶液を誘導溶液として使用して淡水化する順浸透膜法淡水化装置とを備えた淡水の製造方法において、前記順浸透膜法淡水化装置で生成する前記誘導溶液と膜浸透水とが混合した希釈誘導溶液を所定の温度に調整し、前記希釈誘導溶液から二酸化炭素、アンモニア、水蒸気からなるガスと淡水を蒸留分離する際に、蒸留塔から排出されるガスおよび/または淡水を利用して前記希釈誘導溶液の温度調整を行うとともに、前記蒸発法淡水化装置で製造された淡水の顕熱を熱交換器を介して前記希釈誘導溶液に伝達することを特徴とする淡水製造方法。
【請求項2】
被処理水を蒸発法で淡水化する蒸発法淡水化装置と、前記被処理水を順浸透膜と前記被処理水よりも浸透圧の高い炭酸アンモニウム水溶液を誘導溶液として使用して淡水化する順浸透膜法淡水化装置とを備えた淡水の製造方法において、前記順浸透膜法淡水化装置で生成する前記誘導溶液と膜浸透水とが混合した希釈誘導溶液を所定の温度に調整し、前記希釈誘導溶液から二酸化炭素、アンモニア、水蒸気からなるガスと淡水を蒸留分離する際に、蒸留塔から排出されるガスおよび/または淡水を利用して前記希釈誘導溶液の温度調整を行うとともに、前記蒸発法淡水化装置で製造された淡水を直接前記希釈誘導溶液に投入することを特徴とする淡水製造方法。
【請求項3】
被処理水を蒸発法で淡水化する蒸発法淡水化装置と、前記被処理水を順浸透膜と前記被処理水よりも浸透圧の高い炭酸アンモニウム水溶液を誘導溶液として使用して淡水化する順浸透膜法淡水化装置とを有する淡水製造装置であって、前記順浸透膜法淡水化装置で生成する前記誘導溶液と膜浸透水とが混合した希釈誘導溶液から二酸化炭素、アンモニア、水蒸気からなるガスと淡水を蒸留分離する蒸留装置と、該蒸留装置から排出されるガスおよび/または淡水を利用して前記希釈誘導溶液を所定の温度に調整する希釈誘導溶液温度調節手段と、前記蒸発法淡水化装置で製造された淡水の顕熱を前記蒸留装置で蒸留される前記希釈誘導溶液に伝達する熱交換器を有することを特徴とする淡水製造装置。
【請求項4】
被処理水を蒸発法で淡水化する蒸発法淡水化装置と、前記被処理水を順浸透膜と前記被処理水よりも浸透圧の高い炭酸アンモニウム水溶液を誘導溶液として使用して淡水化する順浸透膜法淡水化装置とを有する淡水製造装置であって、前記順浸透膜法淡水化装置で生成する前記誘導溶液と膜浸透水とが混合した希釈誘導溶液から二酸化炭素、アンモニア、水蒸気からなるガスと淡水を蒸留分離する蒸留装置と、該蒸留装置から排出されるガスおよび/または淡水を利用して前記希釈誘導溶液を所定の温度に調整する希釈誘導溶液温度調節手段と、前記蒸発法淡水化装置で製造された淡水前記希釈誘導溶液直接混合する手段を有することを特徴とする淡水製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば海水を蒸発法と半透膜を利用する方法を組み合せて淡水を製造する方法と装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
海水や排水を淡水化する技術には、これらの水を加熱し、減圧下で蒸発・凝縮させて淡水を得る蒸発法と、逆浸透膜を使用し、この逆浸透膜に海水の浸透圧の2倍以上の圧力をかけ、塩分は膜を透過させず水のみを透過させることにより、淡水を得る逆浸透膜法とが知られている。そして、これら二つの技術を組み合わせ、淡水の需要量と電力の需要量とのバランスに対応できるシステムも知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、海水を多段フラッシュシステムで蒸発させて淡水化する方法において、海水の淡水化率を向上させるために、熱拒否部で昇温された排海水を逆浸透システムに導入してさらに淡水を得る方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、逆浸透膜を用いた海水淡水化システムにおいて、海水の冷熱を熱交換してこれを冷却源として用いる発電設備と、この熱交換で水温が上昇した海水を加圧して逆浸透膜で淡水化する技術が開示されている。この発電設備には、蒸気タービンを用いる方法も開示されている。
【0005】
この特許文献2の図5に開示されているシステムを図2図3に示す。
【0006】
このシステムにおいては、図2に示すように、海水20は熱交換器22に入って媒体28と熱交換して加温され、この加温海水30は海水淡水化設備14に送られる。そして、そこから淡水32が取り出される。一方、冷却された媒体28は発電設備26に送られる。この海水淡水化設備として、蒸発法海水淡水化設備46と逆浸透法海水淡水化設備48を組み合わせたものが図3に示されている。加温海水30は図面右下から逆浸透法海水淡水化設備48に入り、淡水32が取り出される。一方、図面左方の発電設備26には燃料34が供給されて、そこから供給電力36が取り出される。この発電設備26の排熱38は排熱分配設備50で分配されて、それぞれ蒸発法海水淡水化設備46と逆浸透法海水淡水化設備48に送られる。この排熱の分配は、淡水需要量情報40に基いて、分配量演算部42で計算されて分配指示情報44が排熱分配設備50に送られることによって行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭60−172393号公報
【特許文献2】特開2011−177600号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2005/0145568A1号明細書
【特許文献4】特開2011−83663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の蒸発法は、原水の蒸発に多くの熱エネルギーを必要とするものであり、また、逆浸透膜法も高圧ポンプを使用するため大きな電力が必要であり、ともに多くのエネルギーを使用する技術である上に、一方の排エネルギーを他方が利用することができないシステムであり、エネルギーをより効率的に利用できるシステムが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、先に、揮発性の物質を溶解させた浸透圧の高い誘導溶液を用い、逆浸透膜法のように高圧を必要としない順浸透膜法による淡水化技術について出願した(特願2011−238284)が、この順浸透膜法においては、希釈された誘導溶液から揮発性の溶質と淡水を蒸留分離するための熱源が必要となる。この熱源として、蒸発法で製造された淡水の熱(温度60〜70℃)を利用できることに着目し、蒸発法と順浸透膜法を組み合わせた新たな淡水製造手段を考案した。
【0010】
すなわち、本発明は、被処理水を蒸発法で淡水化する蒸発法淡水化装置と、前記被処理水を順浸透膜と前記被処理水よりも浸透圧の高い誘導溶液を使用して淡水化する順浸透膜法淡水化装置とを有する淡水製造装置において、前記順浸透膜法淡水化装置で生成する前記誘導溶液と膜浸透水との混合液から前記誘導溶液と淡水を蒸留分離する際の熱源の一部に、前記蒸発法淡水化装置で製造された淡水の顕熱を利用することを特徴とする淡水製造方法と、その装置に関するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、蒸発法と順浸透膜法を組み合わせることにより、蒸発法で製造された淡水の熱を順浸透(FO)法における希釈誘導溶液から揮発性の溶質と淡水の蒸留分離に利用できるので、エネルギーを効率的に利用して淡水製造コストを下げることができる。従って、既設の蒸発法プラントにFO法プラントを増設すれば、低コストで造水量を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施例である淡水製造装置の概略構成を示すブロック線図である。
図2】従来の淡水製造装置の概略構成を示すブロック線図である。
図3】その後半部分の別の例のブロック線図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明で淡水(浄水)を得るのに使用される液体(被処理液)は溶媒が水であればよいが、例示すれば、海水、湖沼水、河川水、工場廃水などである。
【0014】
本発明が適用される蒸発法淡水化装置は、特に制限されず、多段フラッシュ方式など如何なるものであってもよい。また、圧力も減圧式の外、常圧で行われるものであってもよい。この蒸発法淡水化装置には既設の設備を利用することができる。
【0015】
蒸発淡水化装置の近隣に、順浸透膜法淡水化装置を設置し、蒸発法淡水化装置で製造された淡水の熱(温度60〜70℃)を順浸透膜法淡水化装置の蒸留分離工程の熱源の一部として利用する。
【0016】
順浸透膜法淡水化装置は、順浸透膜を装着した半透膜装置と蒸留装置と冷却再生手段よりなる。
【0017】
半透膜装置
半透膜は水を選択的に透過できるものがよく、市販の順浸透膜を好ましく使用できる。材質は特に制限されないが、例示すれば、酢酸セルロース系、ポリアミド系、ポリエチレンイミン系、ポリスルホン系、ポリベンゾイミダゾール系のものなどを挙げることができる。半透膜の形態も特に制限されず、平膜、管状膜、中空糸などいずれであってもよい。この半透膜装置では、被処理水と誘導溶液とを順浸透膜を介して接触させ、被処理水中の水をこの順浸透膜を通して誘導溶液に移動させる。
【0018】
この誘導溶液は、所定量のアンモニアと二酸化炭素を水に溶解して生成する炭酸アンモニウム水溶液である。所定量とは、被処理水中の水を順浸透膜を通過させて誘導溶液まで移動させることができる濃度にする量であり、被処理水の塩濃度より高い濃度にする量である。濃度の上限は、アンモニアと二酸化炭素の塩、すなわち、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、アンモニウムカルバメート等が順浸透膜面や、蒸留塔内で析出しないように定められ、これは実験で求めることができる。順浸透膜面や蒸留塔内に析出物が生じたか否かの確認方法の一つとして長時間運転をして安定稼動可能かどうかで判断する方法がある。アンモニアと二酸化炭素のモル比は1.5〜3程度である。このモル比も順浸透膜面や蒸留塔内でアンモニアと二酸化炭素の塩が析出しないよう配慮する。
【0019】
順浸透膜を装着する装置は通常は円筒形あるいは箱形の容器内に順浸透膜を設置して、この順浸透膜で仕切られた一方の室に被処理水を流し、他方の室に誘導溶液を流せるものであり、公知の半透膜装置を用いることができ、市販品を用いることができる。
【0020】
被処理水を流す室の入口は被処理水の液溜(これは海や河川そのものであってもよく、タンク等であってもよい。)に配管接続される。出口側は通常は濃縮された被処理水の液溜に配管接続される。両配管を結ぶ循環ラインを設けて、被処理水を循環させることもできる。
【0021】
誘導溶液を流す室の入口は冷却再生装置に配管接続され、出口は希釈誘導溶液温度調節手段に配管接続され、これによって誘導溶液の循環ラインが形成される。
【0022】
なお、本発明においては、高濃度の誘導溶液を使用するので、塩の析出による配管の詰まりが生ずる可能性があり、これを防止するために、冷却再生装置の出口配管に希釈誘導溶液を通水するための希釈誘導溶液通水手段を設けることが好ましい。
【0023】
希釈誘導溶液温度調節手段
希釈誘導溶液温度調節手段は、半透膜装置で被処理水から水を抽出して希釈された誘導溶液を所定の温度に調整する手段であり、所定の温度とはアンモニアと二酸化炭素の塩が析出しない温度であって、これは実験によって求めることができる。この温度調整は、通常は加熱によって行われる。この加温は、蒸留塔の塔頂から排出される前記ガスと熱交換してその温度を利用して行うことができ、あるいは、蒸留塔の塔底から排出される淡水と熱交換してその温度を利用することもできる。その両者を併用することもでき、あるいは別の熱源を利用することもできる。
【0024】
希釈誘導溶液温度調節手段は、蒸留装置に配管接続される。
【0025】
蒸留装置は、温度調整を行った希釈誘導溶液を蒸留してアンモニアと二酸化炭素を蒸発させて淡水を分離する装置であり、通常は、蒸留塔が用いられる。蒸留塔は公知のものを用いればよく、棚段方式、充填方式等いずれのものであってもよい。蒸留塔下部には加熱器を設け、下部の淡水を熱することにより発生する蒸気を上部から落下してくる希釈誘導溶液と接触させて熱交換させる。加熱器にはリボイラーや熱交換等を用いることができる。
【0026】
本発明においては、この蒸留装置の熱源に蒸発法淡水化装置で得られる淡水の顕熱を利用するところに特徴がある。この利用方法は、熱交換器によって希釈誘導溶液と熱交換する間接的な方法でもよいし、直接淡水を蒸留塔に導入する方法でもよい。これによって、従来、廃棄されていた蒸発法淡水の熱を有効利用することができる。その際、必要により、他の熱源を併用することができる。他の熱源は問わないが、発電所のタービンから出てくる復水前の蒸気や、排熱から回収される熱水などを用いることができる。
【0027】
蒸留によって、蒸留塔の塔頂部からは二酸化炭素、アンモニア、水蒸気からなるガスを得、塔底部からは淡水を得る。一方、塔底部から取り出される淡水は、二酸化炭素の含有量は10ppm程度以下、アンモニアの含有量は10ppm程度以下で、蒸留条件等によって、これらを1ppm以下にした淡水も得られる。
【0028】
冷却再生手段
蒸留塔の塔頂から、希釈誘導溶液温度調節手段を経由して塔頂ガス冷却再生手段に配管接続し、塔頂部から得られる二酸化炭素、アンモニア、水蒸気からなるガスを冷却して水溶液状態にする。冷却手段は問わないが、熱交換器を用いることができる。冷却する熱源としては、特に限定されないが、河川水、海水、空気などを用いることができる。再生した誘導溶液は半透膜へ送って循環使用する。
【0029】
なお、本発明においては、高濃度の誘導溶液を使用するので、塩の析出による配管の詰まりが生ずる可能性があり、これを防止するために、定期的にこの循環ラインに希釈誘導溶液を通水する、あるいは、誘導溶液の流量を瞬間的に増大することが好ましい。
【実施例】
【0030】
本発明の一実施例である淡水製造装置の概略構成を図1に示す。
【0031】
この装置は、被処理水供給装置5、蒸発法淡水化装置2、FOモジュール(順浸透膜法淡水化装置)1、誘導溶液貯留槽3および蒸留装置4からなっている。
【0032】
被処理水11は、被処理水供給装置5によって蒸発法淡水化装置2と順浸透膜法淡水化装置1に送られ、蒸発法淡水化装置2からは、濃縮被処理水12と淡水14が排出される。
【0033】
順浸透膜法淡水化装置1からは、膜を通過しなかった濃縮被処理水12が排出される。一方、膜で仕切られた反対側の室には誘導溶液貯留槽3から誘導溶液13が送入され、膜を通過した水で希釈されて室を出る。室を出た希釈誘導溶液13は誘導溶液貯留槽3に返送され、循環ラインを形成している。
【0034】
この誘導溶液貯留槽3に貯留された誘導溶液の一部は、蒸留装置4に送られ、蒸発したアンモニア、二酸化炭素および水は誘導溶液貯留槽3へ戻し溶解させる。蒸留装置4には、蒸発法淡水化装置2からも淡水14の供給ラインが接続され、直接または間接的に熱交換を行い、その熱は蒸留装置4で使用される。蒸留によりアンモニア、二酸化炭素が除去された水は、最終的に淡水14として抜き出される。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明により、順浸透膜法における誘導溶液と淡水の蒸留分離の熱源に蒸発法淡水化装置で得た淡水の顕熱を利用できるので、本発明は、海水等からの淡水の製造に広く利用できる。
【符号の説明】
【0036】
1 順浸透膜法淡水化装置(FOモジュール)
2 蒸発法淡水化装置
3 誘導溶液貯留槽
4 蒸留装置
5 被処理水供給装置
11 被処理水
12 濃縮被処理水
13 誘導溶液
14 淡水
図1
図2
図3