【実施例1】
【0018】
まず、Ni基合金(Alloy617(22Cr−12Co−9Mo−Ti−Al−bal.Ni))の伝熱管3の表面に生成する内部酸化について説明する。
図1は高温で使用された後のNi基合金の管表面を表した模式図である。管表面には合金中のCrが酸化してできる酸化スケール1と合金中のAlとTiが酸化してできるAl
2O
3やTiO
2などからなる内部酸化物2が生成する。酸化スケール1の厚さと管内部に形成される内部酸化物2の管表面からの深さ(内部酸化の深さ)Diは温度及び時間の増加とともに生成量は増加する。特に内部酸化物2の温度依存性は酸化スケール1内よりも顕著である傾向にある。
【0019】
なお、
図1の矢印はH
2O,O
2,Cr,O,TiおよびAlの移動を示している。また、内部酸化物2は輪郭線のはっきりしない塗りつぶし部分で示している。そして内部酸化物2の先の実線は粒界を示している。
また、鋭意研究を重ねた結果、内部酸化物2の深さDiはAlとTiの含有量に相関があることが分かった。
【0020】
そこで、材料中の単位AlとTi当たりの内部酸化物2の深さDiを表す指標として下式に示す内部酸化指数を定義した。
Fi=Di/f(Al,Ti) (1)
ここで、Fiは内部酸化指数、Diは前記内部酸化物の深さ(μm)、Alは材料中のAl(質量%)、Tiは材料中のTi(質量%)であり、上記式(1)は本発明者らが見出した内部酸化指数Fiが材料中のAl,Tiの質量%の関数であることを示している。
【0021】
なお、上記Ni基合金中のAlの含有量は0〜1.5質量%、Tiは0〜2.5質量%程度であり、AlもTiも5質量%以下が望ましく、Al,Tiの含有量が高くなるとNi基合金の耐食性は向上するが、強度や溶接で不利となり実用性が無くなる。
本実施例により、内部酸化指数Fiを用いることで、材料中のAlやTiの含有量が異なる材料においても温度推定が可能となり幅広く適用できる。
【0022】
本実施例では、同条件下で生成した複数(例えば、約45個)のNi基合金材料中のAlとTiの含有量が明確なNi基合金の内部酸化深さDiを比較、検討し、内部酸化指数Fiを下式とし、評価した。
Fi=Di/(Al+0.5Ti) (2)
上記Ni基合金としては次の3種類のNi基合金を用いた。
Alloy617(22Cr−12Co−9Mo−Ti−Al−bal.Ni), Alloy263(20Cr−20Co−6Mo−2Ti−Al−bal.Ni)およびAlloy141(20Cr−10Mo−2Ti−Al−bal.Ni)である。
なお、内部酸化深さDiは光学顕微鏡を用いて断面厚さを測定する周知な手法で測定した。
【0023】
図2に時間、温度および材料が明確な複数(約45個)のNi基合金の内部酸化深さDiを測定し、下式に示される温度と時間の関数で表されるLMP(ラーソンミラーパラメータ)と式(2)から算出される内部酸化指数Fiをプロットした結果を示す。
LMP=T×(logt+C) (3)
ここで、Tは温度(K)、tは時間(h)、Cは定数である。
なお、上記の定数Cは一般的に20とされるが、必ずしも20である必要はない。
【0024】
図2で示した関係を累乗近似した結果、下式で表される。
LMP=2.25×10
4×Fi
0.036 (4)
本結果では、LMPと酸化指数Fiの関係は累乗近似式で示すと良い相関を示したので採用した。しかし、データ数の変化等により関係式も変化する可能性があり、対数近似式や多項近似式等の他の関数を使用してもよい。
【0025】
次に、実機で調査対象となる管を切断・抜管し、光学顕微鏡による断面観察から内部酸化深さDiを測定する。伝熱管の場合、切断・復旧工事は定期点検期間中に比較的容易に行うことができる。例として、Al量が0.5質量%、Ti量が1.0質量%のNi基合金(20Cr−10Co−10Mo−0.5Al−1.0Ti−bal.Ni)が累計50,000時間使用され、内部酸化深さの測定結果が10μmであった場合の温度推定結果を
図3に示す。(2)式から内部酸化指数は10となり、推定メタル温度は720℃と評価できる。
このようにして、本発明により、累積運転時間と材質および内部酸化深
さから実機管表面の温度を推定することができる。
【0026】
ここでは、温度と時間の関数にLMP(ラーソンミラーパラメータ)を使用して説明したが、これに特に限定するものではなく、OSD(Orr−Sherby―Dorn)パラメータやMH(Manson−Haferd)パラメータを使用してもよい。
なお、各パラメータは次式を用いる。式の形が異なるのみでデータは変わらない。
LMP=T(C+logt),
OSD=(logt−logta)/(T−Ta),
(ta,Taは定数)
MH=logT−Q/RT (Qは定数、Rはガス定数)
【0027】
[参考例]
実施例1では、AlとTiを含有するNi基合金について温度推定方法を示したが、
本参考例では、AlとTiを含有しないNi基合金(20Cr−10Co−10Mo−bal.Ni)についても、管の内表面あるいは外表面に予め拡散浸透処理等によりAl拡散層を形成させて、温度推定を実施することも可能である。
なお、Al拡散層の形成法は一般的に用いられる拡散浸透処理(カロライズ処理)を使用した。
【実施例2】
【0028】
本実施例では上記
実施例1記載のNi基合金(20Cr−10Co−10Mo−0.5Al−1.0Ti−bal.Ni)の温度推定方法により求めた表面温度(720℃)を用いたNi基合金の寿命評価方法について説明する。
【0029】
Ni基合金が使用される高温部伝熱管の寿命評価は、クリープ破断寿命に基づいて行われる。
図4は応力(σ)とクリープ破断データを温度(T)と時間(t)を一元化したLMPとの関係を表したものである。
【0030】
管の円周方向の応力(σ)は、下式で示す平均径の式より算出できる。
σ=P×(OD−d)/(2d) (5)
ここで、Pは内圧(MPa)、ODは外径(mm)、dは管厚(mm)である。
円周方向の応力(σ)は設計データから求めることができるので、この応力(σ)においてクリープ破断するLMPは
図4から算出できる。
【0031】
LMPは(3)式で示したように温度(T)と時間(t)の関数であるので、Ni基合金の温度推定方法により求めた表面温度を用いることで、応力(δ)から算出したLMPと表面温度と
図4の関係によりクリープ破断時間が算定できる。
このようにして、本発明により推定した表面温度を用いて、Ni基合金のクリープ破断寿命を推定することも可能である。