特許第5900888号(P5900888)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5900888Ni基合金の使用温度推定方法及び寿命評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5900888
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月6日
(54)【発明の名称】Ni基合金の使用温度推定方法及び寿命評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01K 11/00 20060101AFI20160324BHJP
   G01N 3/00 20060101ALI20160324BHJP
【FI】
   G01K11/00 Z
   G01N3/00 R
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-139585(P2012-139585)
(22)【出願日】2012年6月21日
(65)【公開番号】特開2014-6048(P2014-6048A)
(43)【公開日】2014年1月16日
【審査請求日】2014年12月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137752
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 岳行
(74)【代理人】
【識別番号】100096541
【弁理士】
【氏名又は名称】松永 孝義
(74)【代理人】
【識別番号】100133318
【弁理士】
【氏名又は名称】飯塚 向日子
(72)【発明者】
【氏名】清水 大
【審査官】 深田 高義
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−105882(JP,A)
【文献】 特開2002−005749(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 11/00
G01N 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイラ伝熱管を含む鋼材部品に使用されるNi基合金の表面温度を推定する方法において、アルミニウム(Al)とチタン(Ti)の酸化物からなる内部酸化深さ及び材料中のAlとTiの含有量から定義される内部酸化指数と、温度と時間の関数であるLMP(ラーソンミラーパラメータ)との関係を予め実験により定め、この関係式を用いて、実機の累積運転時間と内部酸化指数からNi基合金の表面温度を推定する方法。
【請求項2】
ボイラ伝熱管を含む鋼材部品に使用されるNi基合金の表面温度を推定する方法において、実機管の内表面に予め拡散浸透処理によりAl拡散層を形成させ、温度推定に利用することを特徴とする請求項1記載の温度推定方法。
【請求項3】
実機管の外表面に予め拡散浸透処理によりAl拡散層を形成させ、温度推定に利用することを特徴とする請求項1記載のNi基合金の表面温度を推定する方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のNi基合金の表面温度を推定する方法により求めた表面温度を用いて、ボイラ伝熱管を含む鋼材部品に使用されるNi基合金のクリープ破断寿命を推定することを特徴とするNi基合金の寿命評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火力発電用ボイラ等の高温部に使用されるNi基合金のメタル使用温度の推定方法及び寿命評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、CO排出低減及び発電効率向上のため、700℃級A−USCボイラの開発が推進されている。700℃級A−USCボイラの高温部過熱器や再熱器等には、現用鋼に比べて高強度であるNi基合金が採用される。過熱器及び再熱器等の高温部の伝熱管の余寿命診断は、メタル温度や燃料性状等に基づき、クリープ寿命や腐食量評価により実施されている。クリープ寿命や腐食量に与えるメタル温度の影響は、高温になるほど大きくなるため、現用鋼に比べて高温で使用されるNi基合金の余寿命診断にはメタル温度はより重要な因子となる。
【0003】
ボイラ高温部伝熱管の実機メタル温度は、負荷変動による温度変化や管内面スケールの伝熱阻害による温度上昇のため、部位により異なる。このため、設計メタル温度を用いた余寿命診断では実機を正確に予測できない可能性がある。また、実機メタル温度の測定は、稼動中のボイラ炉内で多数の管のメタル温度を簡単に計測する方法がないため、非常に困難である。
以上のことから、Ni基合金のクリープ寿命や腐食量評価による余寿命診断を高精度に行うためには、実機メタル温度を高精度に評価する必要があった。
【0004】
この課題を解決するため、以下に示すNi基合金のメタル温度の推定方法が提案されている。下記特許文献1では、断面ミクロ組織から測定される炭化物の幅や径がメタル温度や運転時間の増加により粗大化することに着目し、メタル温度を推定する方法が考案されている。しかしながら、この手法は材料毎に炭化物の幅、径とメタル温度や運転時間との関係式を求めておく必要があり、また、同材料でも炭化物構成元素である炭素(C)やクロム(Cr)等の含有量の違いにより、推定温度が異なる可能性がある。
【0005】
また、下記特許文献2では、Ni基合金中のγ’相(NiAl)の粗大化程度から温度を推定する手法が提案されているが、γ’相は1μm以下のサイズであるため、SEMやTEMなどの電子顕微鏡を用いた観察が必要であり、簡便でない。従って、Ni基合金の実機メタル温度を幅広く簡便に推定する有効な手段がないのが現状である。
【0006】
なお、下記特許文献3には高温環境下又は高温高圧環境下で使用される炭素含有金属材料の炭素濃度の測定値と、予め求めておいた炭素含有金属材料の高温環境下又は高温高圧環境下における炭素濃度LMPとの相関関係から、炭素濃度含有金属材料に対する加熱温度及び加熱時間の関係を求め、この関係に基づいて加熱温度及び加熱時間を推定する方法が開示されている。
【0007】
特許文献3記載の方法は比較的強度でかつ組織変化しやすいフェライト鋼には有効であるが、Ni基合金などのオーステナイト鋼は組織を安定化させるために様々な元素が添加されているので、炭素濃度変化によって過熱温度及び時間を推定するには困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3794943号公報
【特許文献2】特許第4440124号公報
【特許文献3】特開平7−280798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、上述した従来技術の問題を解決し、汎用性のある簡便なNi基合金からなる伝熱管の表面温度を推定する手法を提供し、また前記得られたNi基合金からなる表面温度の推定値からボイラ伝熱管を含む鋼材部品に使用されるNi基合金のクリープ破断寿命を推定する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記本発明の課題は次の解決手段により達成される。
請求項1記載の発明は、ボイラ伝熱管を含む鋼材部品に使用されるNi基合金の表面温度を推定する方法において、アルミニウム(Al)とチタン(Ti)の酸化物からなる内部酸化深さ及び材料中のAlとTiの含有量から定義される内部酸化指数と、温度と時間の関数であるLMP(ラーソンミラーパラメータ)との関係を予め実験により定め、この関係式を用いて、実機の累積運転時間と内部酸化指数からNi基合金の表面温度を推定する方法である。
【0011】
請求項2記載の発明は、ボイラ伝熱管を含む鋼材部品に使用されるNi基合金の表面温度を推定する方法において、実機管の内表面に予め拡散浸透処理によりAl拡散層を形成させ、温度推定に利用することを特徴とする請求項1記載の温度推定方法である。
【0012】
請求項3記載の発明は、実機管の外表面に予め拡散浸透処理等によりAl拡散層を形成させ、温度推定に利用することを特徴とする請求項1記載のNi基合金の表面温度を推定する方法である。
【0013】
請求項4記載の発明は、請求項1から3のいずれかに記載のNi基合金の表面温度を推定する方法により求めた表面温度を用いて、ボイラ伝熱管を含む鋼材部品に使用されるNi基合金のクリープ破断寿命を推定することを特徴としたNi基合金の寿命評価方法である。
なお、本発明で使用されるNi基合金にはアルミニウム(Al)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)などの金属成分が含まれる。
【0014】
(作用)
本発明の表面温度推定は材料中のAlとTiの含有量、内部酸化深さ及び累積運転時間のみで評価できるので、汎用性のある簡便な方法である。
また、本発明により、ボイラの定期点検時に測定される評価部位の内部酸化深さと累積運転時間から運転時の実機メタル温度を推定することができ、材料の寿命評価に適用できる。さらに、異常な表面温度など不適合がある部位を早期に発見することが可能となり、伝熱管の墳破などのトラブルを未然に防ぐことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、実機管の表面温度を推定することが可能となり、寿命評価を行うことができるので、ボイラの予防保全に貢献できる。また、高価な装置も必要なく、経済的で汎用性がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る経年使用後のNi基合金の伝熱管表面近傍の模式図である。
図2】本発明の効果を説明するための内部酸化指数DiとLMPとの関係を示す図 である。
図3】本発明の効果を説明するための使用時間及び内部酸化指数からの温度推定を するための内部酸化指数と温度の関係図である。
図4】本発明の効果を説明するための応力σとLMPとの関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の具体的実施例を図面により説明する。
【実施例1】
【0018】
まず、Ni基合金(Alloy617(22Cr−12Co−9Mo−Ti−Al−bal.Ni))の伝熱管3の表面に生成する内部酸化について説明する。図1は高温で使用された後のNi基合金の管表面を表した模式図である。管表面には合金中のCrが酸化してできる酸化スケール1と合金中のAlとTiが酸化してできるAlやTiOなどからなる内部酸化物2が生成する。酸化スケール1の厚さと管内部に形成される内部酸化物2の管表面からの深さ(内部酸化の深さ)Diは温度及び時間の増加とともに生成量は増加する。特に内部酸化物2の温度依存性は酸化スケール1内よりも顕著である傾向にある。
【0019】
なお、図1の矢印はHO,O,Cr,O,TiおよびAlの移動を示している。また、内部酸化物2は輪郭線のはっきりしない塗りつぶし部分で示している。そして内部酸化物2の先の実線は粒界を示している。
また、鋭意研究を重ねた結果、内部酸化物2の深さDiはAlとTiの含有量に相関があることが分かった。
【0020】
そこで、材料中の単位AlとTi当たりの内部酸化物2の深さDiを表す指標として下式に示す内部酸化指数を定義した。
Fi=Di/f(Al,Ti) (1)
ここで、Fiは内部酸化指数、Diは前記内部酸化物の深さ(μm)、Alは材料中のAl(質量%)、Tiは材料中のTi(質量%)であり、上記式(1)は本発明者らが見出した内部酸化指数Fiが材料中のAl,Tiの質量%の関数であることを示している。
【0021】
なお、上記Ni基合金中のAlの含有量は0〜1.5質量%、Tiは0〜2.5質量%程度であり、AlもTiも5質量%以下が望ましく、Al,Tiの含有量が高くなるとNi基合金の耐食性は向上するが、強度や溶接で不利となり実用性が無くなる。
本実施例により、内部酸化指数Fiを用いることで、材料中のAlやTiの含有量が異なる材料においても温度推定が可能となり幅広く適用できる。
【0022】
本実施例では、同条件下で生成した複数(例えば、約45個)のNi基合金材料中のAlとTiの含有量が明確なNi基合金の内部酸化深さDiを比較、検討し、内部酸化指数Fiを下式とし、評価した。
Fi=Di/(Al+0.5Ti) (2)
上記Ni基合金としては次の3種類のNi基合金を用いた。
Alloy617(22Cr−12Co−9Mo−Ti−Al−bal.Ni), Alloy263(20Cr−20Co−6Mo−2Ti−Al−bal.Ni)およびAlloy141(20Cr−10Mo−2Ti−Al−bal.Ni)である。
なお、内部酸化深さDiは光学顕微鏡を用いて断面厚さを測定する周知な手法で測定した。
【0023】
図2に時間、温度および材料が明確な複数(約45個)のNi基合金の内部酸化深さDiを測定し、下式に示される温度と時間の関数で表されるLMP(ラーソンミラーパラメータ)と式(2)から算出される内部酸化指数Fiをプロットした結果を示す。
LMP=T×(logt+C) (3)
ここで、Tは温度(K)、tは時間(h)、Cは定数である。
なお、上記の定数Cは一般的に20とされるが、必ずしも20である必要はない。
【0024】
図2で示した関係を累乗近似した結果、下式で表される。
LMP=2.25×10×Fi0.036 (4)
本結果では、LMPと酸化指数Fiの関係は累乗近似式で示すと良い相関を示したので採用した。しかし、データ数の変化等により関係式も変化する可能性があり、対数近似式や多項近似式等の他の関数を使用してもよい。
【0025】
次に、実機で調査対象となる管を切断・抜管し、光学顕微鏡による断面観察から内部酸化深さDiを測定する。伝熱管の場合、切断・復旧工事は定期点検期間中に比較的容易に行うことができる。例として、Al量が0.5質量%、Ti量が1.0質量%のNi基合金(20Cr−10Co−10Mo−0.5Al−1.0Ti−bal.Ni)が累計50,000時間使用され、内部酸化深さの測定結果が10μmであった場合の温度推定結果を図3に示す。(2)式から内部酸化指数は10となり、推定メタル温度は720℃と評価できる。
このようにして、本発明により、累積運転時間と材質および内部酸化深さから実機管表面の温度を推定することができる。
【0026】
ここでは、温度と時間の関数にLMP(ラーソンミラーパラメータ)を使用して説明したが、これに特に限定するものではなく、OSD(Orr−Sherby―Dorn)パラメータやMH(Manson−Haferd)パラメータを使用してもよい。
なお、各パラメータは次式を用いる。式の形が異なるのみでデータは変わらない。
LMP=T(C+logt),
OSD=(logt−logta)/(T−Ta),
(ta,Taは定数)
MH=logT−Q/RT (Qは定数、Rはガス定数)
【0027】
[参考例]
実施例1では、AlとTiを含有するNi基合金について温度推定方法を示したが、本参考例では、AlとTiを含有しないNi基合金(20Cr−10Co−10Mo−bal.Ni)についても、管の内表面あるいは外表面に予め拡散浸透処理等によりAl拡散層を形成させて、温度推定を実施することも可能である。
なお、Al拡散層の形成法は一般的に用いられる拡散浸透処理(カロライズ処理)を使用した。
【実施例2】
【0028】
本実施例では上記実施例1記載のNi基合金(20Cr−10Co−10Mo−0.5Al−1.0Ti−bal.Ni)の温度推定方法により求めた表面温度(720℃)を用いたNi基合金の寿命評価方法について説明する。
【0029】
Ni基合金が使用される高温部伝熱管の寿命評価は、クリープ破断寿命に基づいて行われる。図4は応力(σ)とクリープ破断データを温度(T)と時間(t)を一元化したLMPとの関係を表したものである。
【0030】
管の円周方向の応力(σ)は、下式で示す平均径の式より算出できる。
σ=P×(OD−d)/(2d) (5)
ここで、Pは内圧(MPa)、ODは外径(mm)、dは管厚(mm)である。
円周方向の応力(σ)は設計データから求めることができるので、この応力(σ)においてクリープ破断するLMPは図4から算出できる。
【0031】
LMPは(3)式で示したように温度(T)と時間(t)の関数であるので、Ni基合金の温度推定方法により求めた表面温度を用いることで、応力(δ)から算出したLMPと表面温度と図4の関係によりクリープ破断時間が算定できる。
このようにして、本発明により推定した表面温度を用いて、Ni基合金のクリープ破断寿命を推定することも可能である。
【符号の説明】
【0032】
1 酸化スケール(Cr
2 内部酸化物(TiO,Al
3 Ni基合金の伝熱管
図1
図2
図3
図4