特許第5900912号(P5900912)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5900912生体モニタ装置及び生体モニタ用プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5900912
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月6日
(54)【発明の名称】生体モニタ装置及び生体モニタ用プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/00 20060101AFI20160324BHJP
【FI】
   A61B5/00 102E
   A61B5/00 G
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-147184(P2015-147184)
(22)【出願日】2015年7月24日
【審査請求日】2015年8月14日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515118999
【氏名又は名称】メドケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】明石 英之
【審査官】 姫島 あや乃
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−189137(JP,A)
【文献】 特開2003−235813(JP,A)
【文献】 特開2012−217724(JP,A)
【文献】 特表2013−501557(JP,A)
【文献】 特開2004−081632(JP,A)
【文献】 特開2013−146532(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モニタ対象の生体情報を所定周期毎に測定する生体情報測定部と、
前記生体情報測定部により測定された生体情報の時系列データを保持する生体情報保持部と、
前記生体情報保持部に保持された前記時系列データを参照して、所定の測定期間における生体情報のばらつき度合を算出するばらつき度合算出部と、
前記測定期間よりも後の所定時点で前記生体情報測定部により測定された生体情報である判定生体情報について、前記測定期間における過去の生体情報のばらつき傾向からの前記所定時点での該判定生体情報の乖離度を、前記ばらつき度合に基づいて算出する乖離度算出部と、
前記乖離度が所定レベル以上となったときに、前記モニタ対象が異常状態であると判断する異常判断部と
を備えたことを特徴とする生体モニタ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の生体モニタ装置において、
前記ばらつき度合算出部は、前記ばらつき度合として、前記測定期間における生体情報の標準偏差を算出し、
前記乖離度算出部は、前記乖離度として、前記標準偏差及び前記測定期間における生体情報の平均値を用いて、前記判定生体情報を前記測定期間における生体情報の偏差値に置き換えた値を算出することを特徴とする生体モニタ装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の生体モニタ装置において、
前記所定時点は、直近の前記所定周期における生体情報の測定時点であり、前記測定期間は、直近の前記所定周期よりも1つ前の前記所定周期から過去数周期分の期間であることを特徴とする生体モニタ装置。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の生体モニタ装置において、
前記生体情報測定部は、複数種類の生体情報を測定し、
前記生体情報保持部は、前記生体情報測定部により測定された前記複数種類の生体情報の時系列データを保持し、
前記ばらつき度合算出部は、前記生体情報保持部により保持された前記複数種類の生体情報の時系列データを参照して、前記測定期間における前記複数種類の生体情報のばらつき度合を個別に算出し、
前記乖離度算出部は、前記所定時点での前記複数種類の前記判定生体情報について、前記複数種類ごとに、前記測定期間における生体情報のばらつき傾向からの前記判定生体情報の乖離度を、前記ばらつき度合に基づいて算出し、該算出した各乖離度の加重平均を、前記異常判断部により前記所定レベルと比較される前記乖離度として算出することを特徴とする生体モニタ装置。
【請求項5】
請求項1から請求項3のうちのいずれか1項に記載の生体モニタ装置において、
前記生体情報測定部は、生体情報として前記モニタ対象の心拍数を測定し、
前記異常判断部は、前記乖離度が前記所定レベル以上となったときに、前記モニタ対象が、発作性心房細動による異常状態であると判断することを特徴とする生体モニタ装置。
【請求項6】
請求項1から請求項3のうちのいずれか1項に記載の生体モニタ装置において、
前記生体情報測定部は、生体情報として前記モニタ対象の呼吸数を測定し、
前記異常判断部は、前記乖離度が前記所定レベル以上となったときに、前記モニタ対象が、チェーンストークス(Cheyne-Stokes)呼吸による異常状態であると判断することを特徴とする生体モニタ装置。
【請求項7】
請求項1から請求項3のうちのいずれか1項に記載の生体モニタ装置において、
前記生体情報測定部は、生体情報としてモニタ対象の呼吸数と姿勢を測定し、
前記異常判断部は、呼吸数についての前記乖離度が前記所定レベル以上となり、且つ、姿勢の測定データから前記モニタ対象の姿勢変化が検出されたときに、前記モニタ対象が、起座呼吸による異常状態であると判断することを特徴とする生体モニタ装置。
【請求項8】
請求項1から請求項3のうちのいずれか1項に記載の生体モニタ装置において、
前記モニタ対象は、ベッドに寝ている生体であり、
前記生体情報測定部は、生体情報として前記モニタ対象の動きを測定し、
前記異常判断部は、前記乖離度が前記所定レベル以上となったときに、前記モニタ対象がベッドから転落する可能性が高い異常状態であると判断することを特徴とする生体モニタ装置。
【請求項9】
コンピュータを、
モニタ対象の生体情報を所定周期毎に測定する生体情報測定部と、
前記生体情報測定部により測定された生体情報の時系列データを保持する生体情報保持部と、
前記生体情報保持部に保持された前記時系列データを参照して、所定の測定期間における生体情報のばらつき度合を算出するばらつき度合算出部と、
前記測定期間よりも後の所定時点で前記生体情報測定部により測定された生体情報である判定生体情報について、前記測定期間における過去の生体情報のばらつき傾向からの前記所定時点での該判定生体情報の乖離度を、前記ばらつき度合に基づいて算出する乖離度算出部と、
前記乖離度が所定レベル以上となったときに、前記モニタ対象が異常状態であると判断する異常判断部と
して機能させることを特徴とする生体モニタ用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体情報を測定して生体の健康状態を判断する生体モニタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被験者(生体)に装着したウェアラブルなセンサ等により、被験者の体温、脈拍、動き等の生体情報(バイタルデータ)を測定して、被験者の生体リズムの乱れ度を算出するシステムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1にシステムにおいては、所定時刻間で測定された生体情報の時系列データ(生理指標時系列データ)について、通常時と検出時の生理指標時系列データのずれ量に基づいて、検査時における生体リズムの乱れ度を決定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−239799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明者は、上述した特許文献1に記載されたシステムのように、通常時と検出時の生理指標時系列データ間のずれ量に基づく生体リズムの乱れ度を用いた場合には、突発的な生体の異常を精度良く検知することが困難な場合があることを知見した。
【0006】
本発明はかかる背景に鑑みてなされたものであり、生体の突発的な異常を精度良く検知し得る生体モニタ装置及び生体モニタ用プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の生体モニタ装置は、
モニタ対象の生体情報を所定周期毎に測定する生体情報測定部と、
前記生体情報測定部により測定された生体情報の時系列データを保持する生体情報保持部と、
前記生体情報保持部に保持された前記時系列データを参照して、所定の測定期間における生体情報のばらつき度合を算出するばらつき度合算出部と、
前記測定期間よりも後の所定時点で前記生体情報測定部により測定された生体情報である判定生体情報について、前記測定期間における過去の生体情報のばらつき傾向からの前記所定時点での該判定生体情報の乖離度を、前記ばらつき度合に基づいて算出する乖離度算出部と、
前記乖離度が所定レベル以上となったときに、前記モニタ対象が異常状態であると判断する異常判断部と
を備えたことを特徴とする。
【0008】
かかる本発明によれば、前記生体情報測定部により、前記モニタ対象の生体情報が前記所定周期毎に測定され、生体情報の時系列データが前記生体情報保持部により保持される。そして、前記ばらつき度合算出部により、前記測定期間における生体情報のばらつき度合が算出される。また、前記乖離度算出部により、前記測定期間よりも後の前記所定時点で測定された判定生体情報について、前記測定期間における生体情報のばらつき範囲から乖離度が前記ばらつき度合に基づいて算出される。
【0009】
ここで、前記ばらつき度合は、過去の測定期間における生体状態の変動の傾向(トレンド)を示すものであるため、前記乖離度は、過去の傾向からの生体情報の逸脱の程度を示すものとなる。そのため、前記異常判断部は、前記乖離度が前記所定レベル以上となったときに、モニタ対象である生体に突発的な異常が生じたと、精度良く判断することができる。
【0010】
また、前記ばらつき度合算出部は、前記ばらつき度合として、前記測定期間における生体情報の標準偏差を算出し、
前記乖離度算出部は、前記乖離度として、前記標準偏差及び前記測定期間における生体情報の平均値を用いて、前記判定生体情報を前記測定期間における生体情報の偏差値に置き換えた値を算出することを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、前記ばらつき度合算出部により、前記測定期間における生体情報の標準偏差を算出することによって、前記乖離度合算出部は、前記標準偏差を用いて前記乖離度を容易に算出することができる。
【0012】
また、前記所定時点は、直近の前記所定周期における生体情報の測定時点であり、前記測定期間は、直近の前記所定周期よりも1つ前の前記所定周期から過去数周期分の期間であることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、直近の前記所定周期における生体情報について、直前の前記測定期間における生体情報の変動の傾向からの逸脱の程度を判断することにより、モニタ対象である生体の異常をリアルタイムに判断することができる。
【0014】
また、前記生体情報測定部は、複数種類の生体情報を測定し、
前記生体情報保持部は、前記生体情報測定部により測定された前記複数種類の生体情報の時系列データを保持し、
前記ばらつき度合算出部は、前記生体情報保持部により保持された前記複数種類の生体情報の時系列データを参照して、前記測定期間における前記複数種類の生体情報のばらつき度合を個別に算出し、
前記乖離度算出部は、前記所定時点での前記複数種類の前記判定生体情報について、前記複数種類ごとに、前記測定期間における生体情報のばらつき傾向からの前記判定生体情報の乖離度を、前記ばらつき度合に基づいて算出し、該算出した各乖離度の加重平均を、前記異常判断部により前記所定レベルと比較される前記乖離度として算出することを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、前記生体情報測定部により複数種類の生体情報が測定され、前記ばらつき度合算出部は、前記複数種類の生体情報について各々前記ばらつき度合を算出する。そして、前記乖離度算出部は、複数種類の生体情報についての乖離度の加重平均を、前記異常判断部により前記所定レベルと比較される前記乖離度として算出する。この場合、複数種類の生体情報についての過去の変動傾向からの逸脱状況を、一つのパラメータ(複数種類の生体情報についての乖離度の加重平均)に基づいて、判断することができるため、より広範囲の突発的な異常状態を容易に判断することができる。
【0016】
また、前記生体情報測定部は、生体情報として前記モニタ対象の心拍数を測定し、
前記異常判断部は、前記乖離度が前記所定レベル以上となったときに、前記モニタ対象が、発作性心房細動による異常状態であると判断することを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、前記乖離度が前記所定レベル以上となったときに、モニタ対象の生体の心拍数が通常のリズムから心房細動のリズムに移行したと認識して、発作性心房細動による異常状態を判断することができる。
【0018】
また、前記生体情報測定部は、生体情報として前記モニタ対象の呼吸数を測定し、
前記異常判断部は、前記乖離度が前記所定レベル以上となったときに、前記モニタ対象が、チェーンストークス(Cheyne-Stokes)呼吸による異常状態であると判断することを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、前記乖離度が前記所定レベル以上になったときに、モニタ対象の生体の呼吸状況に低換気と過換気の周期的な切り替わりが生じたと認識して、チェーンストークス呼吸による異常状態を判断することができる。
【0020】
また、前記生体情報測定部は、生体情報としてモニタ対象の呼吸数と姿勢を測定し、
前記異常判断部は、呼吸数についての前記乖離度が前記所定レベル以上となり、且つ、姿勢の測定データから前記モニタ対象の姿勢変化が検出されたときに、前記モニタ対象が、起座呼吸による異常状態であると判断することを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、前記乖離度が前記所定レベル以上となり、且つ、前記姿勢の測定データからモニタ対象の姿勢変化が検出されたときに、モニタ対象の姿勢変化に伴って、モニタ対象の呼吸数が過去の変動傾向から逸脱したと認識して、起座呼吸による異常状態を判断することができる。
【0022】
また、前記モニタ対象は、ベッドに寝ている生体であり、
前記生体情報測定部は、生体情報として前記モニタ対象の動きを測定し、
前記異常判断部は、前記乖離度が前記所定レベル以上となったときに、前記モニタ対象がベッドから転落する可能性が高い異常状態であると判断することを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、前記乖離度が前記所定レベル以上となったときに、ベッド上の生体の動きが急変したと認識して、ベッドから転落する可能性が高い異常状態になっていると判断することができる。
【0024】
次に、本発明の生体モニタ用プログラムは、
コンピュータを、
モニタ対象の生体情報を所定周期毎に測定する生体情報測定部と、
前記生体情報測定部により測定された生体情報の時系列データを保持する生体情報保持部と、
前記生体情報保持部に保持された前記時系列データを参照して、所定の測定期間における生体情報のばらつき度合を算出するばらつき度合算出部と、
前記測定期間よりも後の所定時点で前記生体情報測定部により測定された生体情報である判定生体情報について、前記測定期間における過去の生体情報のばらつき傾向からの前記所定時点での該判定生体情報の乖離度を、前記ばらつき度合に基づいて算出する乖離度算出部と、
前記乖離度が所定レベル以上となったときに、前記モニタ対象が異常状態であると判断する異常判断部と
して機能させることを特徴とする。
【0025】
本発明の生体モニタ用プログラムをコンピュータで実行することにより、上述した生体モニタ装置の構成を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】生体モニタ装置の構成図。
図2】ナースコール子機の構成図。
図3】ナースコール親機の構成図であり、図3Aはナースコールが発生していない平常時の画面を示し、図3Bはナースコールが発生している時の画面を示している。
図4】スタッフ用携帯端末の構成図。
図5】生体の異常判断処理の第1のフローチャート。
図6】生体の異常判断処理の第2のフローチャート。
図7】異常判断処理の相対的閾値及び絶対的閾値の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施形態の一例について、図1図7を参照して説明する。図1を参照して、本実施形態の生体モニタ装置30は、ナースコール子機20、ナースコール親機40、及び看護師が所持する携帯端末50と共に、ナースコールシステム1を構成している。
ナースコールシステム1は、病院に備えられて、入院患者からの呼出し要求に対して、看護師や医師による応答を行うための構成を有している。生体モニタ装置30は、ネットワーク5を介して、ナースコール親機40及び看護師が所持する携帯端末50との間でデータ通信を行う。
【0028】
ナースコール子機20は、ベッド3のヘッドボードに取り付けられており、ベッド3に寝ている患者P(本発明のモニタ対象の生体に相当する)に装着されたバイタルセンサ10,11との間で、無線(Bluetooth(登録商標)等)によりデータ通信を行う機能と、生体モニタ装置30との間で、ナースコール親機40を介して有線又は無線によるデータ通信を行う機能とを有している。
【0029】
本実施形態では、バイタルセンサとして、患者Pの前胸部に貼り付けられた前胸部貼付け型のバイタルセンサ10と、患者Pの手首に装着されたリストバンド型のバイタルセンサ11とが用いられている。なお、非接触で患者Pの体温、動き、脈拍、呼吸状態等を測定する非接触型のバイタルセンサを用いてもよい。
【0030】
前胸部貼付け型のバイタルセンサ10は、患者Pの心電図、心拍数、呼吸状態、姿勢、体表面温度等の生体情報(バイタルデータ)を測定して、測定データをナースコール子機20に送信する。リストバンド型のバイタルセンサ11は、患者Pの脈拍と活動量の生体情報を測定して、測定データをナースコール子機20に送信する。
【0031】
ナースコール子機20は、図2に示したように、タッチパネル21、通信端子22、及びスピーカ・マイク23を備えている。患者Pは、タッチパネル21に触れることによって、看護師を呼び出すことができ、スピーカ・マイク23を介して看護師と通話をすることができる。
【0032】
タッチパネル21には、看護師の呼出し中であることを示す呼び出し中表示24、子機20の番号と作動状態を示す作動状態表示25、通話中であることを示す通話中表示26、バイタルセンサ10,11による生体情報の測定データの受信状況を示すセンサ状況表示27、及び看護師が到着するまでの予測時間(ETA,Estimated Time Arrival)を示すETA表示28が表示される。
【0033】
ナースコール子機20はナースコール親機40との間で、無線又は有線によるデータ通信を行う。ナースコール子機20は、バイタルセンサ10,11から受信した生体情報の測定データを、ナースコール親機40に送信する。また、ナースコール子機20は、ナースコール親機40との間で通話データの送受信を行う。
【0034】
生体モニタ装置30は、通信回路31、メモリ32(本発明の生体情報保持部の機能を含む)、及び図示しないCPU、各種インターフェース回路等を備えたコンピュータにより構成され、メモリ32に保持された生体モニタ装置30の制御用プログラム(生体モニタ用プログラム)をCPUが実行することによって、生体情報測定部33、ばらつき度合算出部34、乖離度算出部35、異常判断部36、及びSNS制御部37として機能する。
【0035】
生体情報測定部33は、ナースコール子機20及びナースコール親機40を介して、バイタルセンサ10,11による生体情報の測定データを受信する。生体情報測定部33は、所定周期Δt(例えば1秒)毎にΔtでの生体情報の平均値を算出して、各Δtにおける生体情報とし、生体情報の時系列データをメモリ32に保持する。
【0036】
ばらつき度合算出部34は、生体情報測定部33により算出された各Δtでの生体情報の測定値に基づいて、測定期間Tw(Δt数周期分の期間)における生体情報のばらつき度合を算出する。乖離度算出部35は、生体情報測定部33により算出された直近のΔtにおける生体情報(本発明の所定時点における判定生体情報に相当する)が、ばらつき度合算出部34により算出された過去の測定期間Twにおける生体情報のばらつき傾向から、どれ位乖離しているかを示す乖離度を算出する。
【0037】
異常判断部36は、乖離度算出部35により算出された乖離度に基づいて、患者Pに異常が生じているか否かを判断し、患者Pに異常が生じていると判断したときには、ナースコール親機40及び携帯端末50に、患者Pに異常が生じていることを示す「異常報知データ」を送信する。生体情報測定部33、ばらつき度合算出部34、乖離度算出部35、及び異常判断部36による処理の詳細については後述する。
【0038】
ナースコール親機40は、タッチパネル41を備え、図3Aに示したように、タッチパネル41に、各病室のベッド及び共用設備(図3Aではトイレ)に備えられたナースコール子機20による呼び出しの有無の一覧42と、ナースコール親機40を操作するための操作部43とを表示する。
【0039】
ナースコール親機40は、生体モニタ装置30から、「異常報知データ」を受信したときに、図3Bに示したように、異常が生じている患者の病室と氏名を報知するポップアップ表示45を、タッチパネル41に表示する。図3Bでは、301号室の1番ベッドの患者(明石 太郎)について、「転倒のおそれ」との表示がなされ、また、302号室の第3ベッドの患者(中山 京子)について、「脈拍異常」との表示がなされている。
【0040】
なお、患者Pがナース子機20にタッチして呼び出しのコールをしたときには、生体モニタ装置30は、図3Bに示したポップアップ表示45は行わず、タッチした患者の氏名を強調表示する。
【0041】
携帯端末50は、生体モニタ装置30から「異常報知データ」を受信したときに、図4に示したように、タッチパネル51に、患者からの呼び出し状況を示す呼び出し表示57、応答ボタン52,53、及びコミュニケーション画面54を表示する。
【0042】
また、生体モニタ装置30のSNS制御部37は、携帯端末50を所持する看護師に対して、SNS(Social Networking Service)ライクな情報共有サービスを提供している。SNS制御部37は、各携帯端末50に対して情報供給サービス用のアプリケーションを提供し、各携帯端末50がこのアプリケーションを実行することによって、各携帯端末50間での情報共有が可能になる。
【0043】
各携帯端末50を所持する看護師は、SNS制御部37が提供する情報提供サービスを利用して、患者の異常についての情報共有を図っている。すなわち、SNS制御部37は、各携帯端末50のコミュニケーション画面54に、異常状態の詳細55,56を表示させ、看護師による患者対応の情報等の書き込みを受付ける。そして、SNS制御部37は、書き込まれた情報を各携帯端末50に配信する。
【0044】
次に、図5図6に示したフローチャートに従って、ばらつき度合算出部34、乖離度算出部35、及び異常判断部36による処理について説明する。
【0045】
図5のSTEP1〜STEP6は、ばらつき度合算出部34による処理である。ばらつき度合算出部34は、バイタルセンサ10,11によるn個(n種類)の生体情報の測定データを、m+1の測定回数分保持するために、m+1個の要素を有するn個の配列変数MD1〜MDnと、カウンタ変数ctを用意する。
【0046】
そして、ばらつき度合算出部34は、STEP1でカウンタ変数ctを1として、STEP2〜STEP5のループによる処理を、STEP5でカウンタ変数ctがm+1になるまで繰り返し実行する。
【0047】
ばらつき度合算出部34は、STEP2で、バイタルセンサ10,11からn個(n種類)の生体情報の測定データSDAT1,SDAT2,…,SDATnを受信し、続くSTEP3で、受信した測定データSDAT1,SDAT2,…,SDATnを、配列変数MD1[ct],MD2[ct],…,MDn[ct]にそれぞれ書き込む。そして、次のSTEP4で、カウンタ変数ctをインクリメントしてSTEP5に進む。
【0048】
STEP5でカウンタ変数ctがm+1になったとき、すなわち、m回分の測定データSDAT1,SDAT2,…,SDATnが、配列変数MD1〜MDnの1〜mの配列要素に書き込まれたときに、STEP6に進む。そして、ばらつき度合算出部34は、配列変数MD1〜MDnの配列要素1〜mに書き込まれた測定データについて、生体情報の種類ごとに標準偏差σ1〜σnを算出する。例えば、配列変数MD1については、配列変数MD1[1]〜MD1[m]について、以下の式(1)、式(2)により、標準偏差σ1を算出する。
【0049】
【数1】
【0050】
【数2】
【0051】
次のSTEP7〜図6のSTEP10は、乖離度算出部35による処理である。乖離度算出部35は、STEP7で、ナースコール親機40から、バイタルセンサ10,11の測定データSDAT1,SDAT2,…,SDATnを受信する。そして、次のSTEP8で、乖離度算出部35は、受信した測定データSDAT1,SDAT2,…,SDATnを、配列変数MD1〜MDnのm+1の配列要素に書き込む。
【0052】
続く図6のSTEP9で、乖離度算出部35は、以下の式(3)により、直近の測定データであるMD1[m+1]を、直前の測定期間Twでの測定データであるMD1[1]〜MD1[m]の標準偏差σ1に基づいて置き換えた偏差値c1を算出する。
【0053】
【数3】
【0054】
配列変数MD2〜MDnについても、同様にして、MD2[m+1]〜MDn[m+1]の偏差差c2〜cnを算出する。
【0055】
続くSTEP10で、乖離度算出部35は、以下の式(4)により、偏差値c1〜cnの加重平均を緊急度スコアEmSとして算出する。
【0056】
【数4】
【0057】
但し、k1,k2,…,knは加重平均の係数であり、ベクトル自己回帰モデル(VARモデル)から、以下の式(5)のVAR(p)モデルを求め、インパルス反応関数からチューニングを行って決定される。
【0058】
【数5】
【0059】
次のSTEP11は、異常判断部36による処理である。異常判断部36は、緊急度スコアEmSが、直前の測定期間Twにおける標準偏差σ1〜σnに基づいて設定された上限閾値Emth1以上となるか、又は下限閾値Emth2以下になったときに、患者Pに突発的な異常が生じていると判断してSTEP20に進み、ネットワーク5を介して、ナースコール親機40及び看護師が所持する携帯端末50に「異常報知データ」を送信する(異常報知処理)。ここで、上限閾値Emth1及び下限閾値Emth2は、標準偏差σ1〜σn、過去の測定実績等に基づいて設定される。
【0060】
これにより、ナースコール親機40においては、上述したように、図3Bに示したポップアップ表示がなされる。また、看護師が所持する携帯端末50においては、上述したように、図4に示した異常報知画面が表示される。
【0061】
一方、STEP11で、緊急度スコアEmSが下限閾値Emth2よりも大きく、且つ上限閾値Emth1よりも小さいときには、患者P異常が生じていないと判断してSTEP12に進む。
【0062】
STEP12〜STEP15は、ばらつき度合算出部34による処理である。ばらつき度合算出部34は、STEP12でカウンタ変数ctを1にし、STEP13〜STEP15のループによる処理によって、配列変数MD1〜MDnの配列要素2〜m+1に保持されている測定データを、配列要素1〜mにシフトさせる。
【0063】
例えば、配列変数MD1については、MD1[2]〜MD1[m+1]に保持されている測定データが、それぞれMD1[1]〜MD1[m]にシフトする。配列変数MD2〜MDmについても同様である。
【0064】
STEP15でカウンタ変数ctがm+1になったときに図5のSTEP6に進み、ばらつき度合算出部34は、測定データがシフトされた配列変数MD1〜MDnについて、それぞれ標準偏差σ1〜σを算出する。これにより、標準偏差σ1〜σnが、直前の測定期間Twにおける測定データに基づく値に更新される。
【0065】
このようにして、以後は、STEP7で、ナースコール親機40からバイタルセンサ10,11の測定データSDAT1〜SDATnを受信する毎に、STEP8〜STEP10で、乖離度算出部35により緊急度スコアEmSが算出されて、STEP11で異常判断部36により、患者Pの異常の有無がリアルタイムに判断される。そして、STEP12〜STEP15,及びSTEP6で、ばらつき度合算出部34により、直前の測定期間Twにおける測定データに基づいて標準偏差σ1〜σnが更新される。
【0066】
[他の実施形態]
上記実施形態では、式(4)により複数種類の生体情報の加重平均をとって緊急度スコアEmSを算出したが、生体情報の種類ごとに緊急度スコアEmSを算出して、患者Pの異常を判断するようにしてもよい。
【0067】
図7は、ばらつき度合算出部34、乖離度算出部35、及び異常判断部36による処理を、脈拍について行う例を示したものであり、縦軸が脈拍(Hz)に設定され、横軸が時間(t)に設定されている。
【0068】
図7において、PuSがバイタルセンサ11による脈拍の測定値、PuRth1が相対的上限値、PuRth2が相対的下限値、PuAth1が絶対的上限値、PuAth2が絶対的下限値を示している。
【0069】
ばらつき度合算出部34は、所定御周期Δtごとに、t1,t2,…,tm,tm+1で、ナースコール親機40からバイタルセンサ11の測定データを受信し、m個分の測定データを受信したtmで、測定期間Twにおける脈拍の測定値の標準偏差σpを算出する(図5のSTEP1〜STEP6の処理に相当)。
【0070】
乖離度算出部35は、測定期間Twにおける脈拍の測定値の平均値ap+2σpを相対的上限値PuRth1に設定し、ap−2σpを相対的下限値PuRth2に設定する。この場合、tmにおける脈拍の測定値が、相対的下限値PuRth2〜相対的上限値PuRth1の範囲内であれば、測定期間Twにおける脈拍のばらつき傾向に対するtmでの脈拍の測定値の乖離度が、平常レベル(本発明の所定レベル未満)であると判断される。
【0071】
そして、異常判断部36は、tmにおける脈拍の測定値が、相対的下限値PuRth2〜相対的上限値PuRth1の範囲外となったときに、患者Pが異常状態であると判断する。
【0072】
[特定症例の判断]
(1)発作性心房細動
バイタルセンサ10による患者Pの心拍数数の測定データについて、上述したばらつき度合算出部34、乖離度算出部35、及び異常判断部36による処理を行って、過去の測定期間Twにおける心拍数のばらつき度合に対する直近の心拍数の乖離度を算出することにより、発作性心房細動による異常状態を判断することができる。
【0073】
(2)チェーンストークス呼吸
バイタルセンサ10による患者Pの呼吸数の測定データについて、上述したばらつき度合算出部34、乖離度算出部35、及び異常判断部36による処理を行って、過去の測定期間Twにおける呼吸数のばらつき度合に対する直近の呼吸数の乖離度を算出することにより、チェーンストークス(Cheyne-Stokes)呼吸による異常状態を判断することができる。
【0074】
(3)起座呼吸
バイタルセンサ10による患者Pの呼吸数の測定データについて、上述したばらつき度合算出部34、乖離度算出部35、及び異常判断部36による処理を行って、過去の測定期間Twにおける呼吸数のばらつき度合に対する直近の呼吸数の乖離度を算出し、乖離度が所定レベル以上となり、且つ、バイタルセンサ10により患者Pの姿勢変化が検出されたときに、起座呼吸による異常状態であると判断することができる。
【0075】
(4)ベッドからの転落
バイタルセンサ10による患者Pの姿勢の測定データに基づいて、上述したばらつき度合算出部34、乖離度算出部35、及び異常判断部36による処理を行って、過去の測定期間Twにおける患者Pの姿勢のばらつき度合に対する直近の姿勢の乖離度を算出することにより、患者Pがベッドから転落する可能性が高い異常状態であると判断することができる。
【0076】
[本発明の適用対象]
上記実施形態では、本発明の生体モニタ装置を、病院に設置されたナースコールシステムの一部として構成した例を示したが、介護施設の入所者、在宅療養者等の生体情報をモニタする場合にも、本発明の生体モニタ装置を適用することができる。
【0077】
また、本発明は、人間以外の生体(犬、猫等)に対しても適用可能である。
【0078】
[変形例]
上記実施形態では、本発明の生体モニタ装置をサーバの機能として構成して、バイタルセンサの測定データをネットワークを介して受信するようにしたが、ネットワークを介さずに、バイタルセンサの測定データを直接受信する構成としてもよい。
【0079】
また、上記実施形態では、本発明のばらつき度合として標準偏差を用いたが、測定値の変動範囲(測定値の最大値−最小値)等、他の指標を用いてもよい。
【符号の説明】
【0080】
1…ナースコールシステム、10…(前胸部貼付型の)バイタルセンサ、11…(リストバンド型の)バイタルセンサ、20…ナースコール子機、30…生体モニタ装置、33…生体情報測定部、34…ばらつき度合算出部、35…乖離度算出部、36…異常判断部、37…SNS制御部、40…ナースコール親機、50…(看護師が所持した)携帯端末。
【要約】
【課題】生体の突発的な異常を精度良く検知し得る生体モニタ装置を提供する。
【解決手段】生体情報測定部33は、バイタルセンサ10,11により、患者Pの生体情報を所定の測定周期毎に測定して、メモリ32に保持する。ばらつき度合算出部34は、メモリ32に保持された生体情報の時系列データを参照して、所定の測定期間Twにおける生体情報のばらつき度合を算出する。乖離度算出部35は、測定期間Twよりも後の所定時点で測定された生体情報である判定生体情報について、測定期間Twにおける生体情報のばらつき範囲からの判定生体情報の乖離度を、ばらつき度合に基づいて算出する。異常判断部36は、乖離度が所定レベル以上となったときに、患者Pが異常状態であると判断する。
【選択図】 図1
図1
図2
図4
図5
図6
図7
図3