特許第5900920号(P5900920)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5900920ハロゲン化炭化水素に光照射して得られる混合物の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5900920
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月6日
(54)【発明の名称】ハロゲン化炭化水素に光照射して得られる混合物の使用
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/12 20060101AFI20160324BHJP
   C07C 17/14 20060101ALI20160324BHJP
   C07C 22/04 20060101ALI20160324BHJP
   C07C 25/18 20060101ALI20160324BHJP
   C07C 273/18 20060101ALI20160324BHJP
   C07C 275/26 20060101ALI20160324BHJP
   C07C 68/02 20060101ALI20160324BHJP
   C07C 69/96 20060101ALI20160324BHJP
   C08G 64/20 20060101ALI20160324BHJP
【FI】
   C07C17/12
   C07C17/14
   C07C22/04
   C07C25/18
   C07C273/18
   C07C275/26
   C07C68/02 A
   C07C69/96 Z
   C08G64/20
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-48180(P2012-48180)
(22)【出願日】2012年3月5日
(65)【公開番号】特開2013-181028(P2013-181028A)
(43)【公開日】2013年9月12日
【審査請求日】2014年9月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】津田 明彦
【審査官】 吉田 直裕
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第02940952(US,A)
【文献】 特開平08−041192(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/029760(WO,A1)
【文献】 特開昭63−319205(JP,A)
【文献】 河合聡,クロロホルムの分解に関する考察,薬学雑誌,1966年,Vol.86, No.12,pp.1125-1132
【文献】 T. Alapi and A. Dombi,Direct VUV photolysis of chlorinated methanes and their mixturesin an oxygen stream using an ozone producinglow-pressure mercury vapour lamp,Chemosphere,2007年,Vol.67,pp.693-701
【文献】 W. Sean McGivern, et al.,Investigation of the Atmospheric Oxidation Pathways of Bromoform and Dibromomethane:Initiation via UV Photolysis and Hydrogen Abstraction,J. Phys. Chem. A,2004年,Vol.108,pp.7247-7252
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C01B
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)ハロゲン化炭化水素に酸素存在下で光照射して、塩素(Cl)又は臭素(Br)であるハロゲンを含有する混合物を得る工程、及び(ii)有機化合物を、ハロゲンを一旦単離することなく、前記混合物と反応させる工程を有することを特徴とするハロゲン化合物の製造方法。
【請求項2】
(a)クロロホルム又はテトラクロロエタンに酸素存在下で光照射してホスゲンを含有する混合物を得る工程、及び(b)分子内に2つ以上のアミノ基を持つ第一級アミン又はアルコールを、ホスゲンを一旦単離することなく、前記混合物と反応させる工程を有することを特徴とするポリ尿素類又は炭酸エステル誘導体の製造方法。
【請求項3】
前記ハロゲン化炭化水素がハロゲン化メタンであることを特徴とする請求項1に記載の方法
【請求項4】
前記ハロゲン化炭化水素がジブロモメタンであり、前記ハロゲンが臭素であり、前記ハロゲン化合物が臭素化合物であることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記有機化合物が、アニソール、トルエン、ヘキサフェニルベンゼン、5,10,15,20−テトラキス(3,5−ジ−tert−ブチルフェニル)ポルフィリン パラジウム(II)、アントラセン、チオフェン、シクロオクテン、アセトフェノン、スチルベン、フェノール、p−トルイジン、又はアントシアニンである請求項1、3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記アルコールが分子内に2つ以上の水酸基を持つ化合物であり、前記炭酸エステル誘導体がポリカーボネートであることを特徴とする請求項に記載の方法
【請求項7】
工程(a)においてクロロホルムを用い、工程(b)において、第一級アミンの使用量がクロロホルム100質量部に対して50質量部〜1質量部、アルコールの使用量がクロロホルム100質量部に対して50質量部〜0.1質量部である請求項2又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記光照射に低圧水銀ランプを用いることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法
【請求項9】
前記化学反応が、前記光照射と同一系内で行われることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法
【請求項10】
筒状反応容器内に光照射手段を有する装置を使用する請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン化炭化水素に光照射して得られる混合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ハロゲン及びハロゲン化カルボニルは、有機合成において非常に重要であり、化学反応原料として様々な分野で利用されている。例えば、塩素及び臭素等のハロゲンは、繊維、プラスチック、水処理剤、内装材、難燃剤、農薬、医薬及びそれらの原料等に用いられるハロゲン化合物の合成に用いられる。また、ハロゲン化カルボニルであるホスゲンは、尿素誘導体、炭酸エステル誘導体及びポリカーボネート等の合成に用いられる極めて有用な化合物である(例えば、特許文献1等)。
【0003】
しかしながら、前記ハロゲン及びハロゲン化カルボニルの多くは、非常に毒性が高く、腐食性を有するものもあるため、保存が困難であり、取扱いにも危険を伴うことがある。例えば、液体臭素は、多くの場合アンプルに入った状態で提供されるが、これは、使用時にアンプルを割る、反応容器又は保存容器に移す等、接触又は吸引のおそれを伴う操作を要するものであった。例えば、ホスゲンは窒息性の毒ガスとして使用された歴史もあり、使用時における吸引により、死亡などの危険性を伴うものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−128976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ハロゲン及び/又はハロゲン化カルボニルを化学反応原料として使用する化学反応において、より安全かつ簡便な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討の結果、ハロゲン化炭化水素を酸素存在下で分解して得られる混合物が、ハロゲン及び/又はハロゲン化カルボニルの供給源として利用できることを見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の発明を含むものである。
[1]ハロゲン化炭化水素に酸素存在下で光照射して得られる混合物に由来するハロゲン及び/又はハロゲン化カルボニルの、化学反応における化学反応原料としての使用。
[2]前記光照射に低圧水銀ランプを用いることを特徴とする前記[1]に記載の使用。
[3]前記化学反応が、前記光照射と同一系内で行われることを特徴とする前記[1]又は[2]に記載の使用。
[4]前記ハロゲン化炭化水素がハロゲン化メタンであることを特徴とする前記[1]〜[3]のいずれかに記載の使用。
[5]前記ハロゲンが臭素(Br)又は塩素(Cl)であることを特徴とする前記[1]〜[4]のいずれかに記載の使用。
[6]前記使用による生成物が臭素化合物又は塩素化合物であることを特徴とする前記[5]に記載の使用。
[7](i)ハロゲン化炭化水素に酸素存在下で光照射してハロゲンを含有する混合物を得る工程、及び(ii)有機化合物を前記混合物と反応させる工程を有することを特徴とするハロゲン化合物の製造方法。
[8]前記ハロゲン化炭化水素がジブロモメタンであり、前記ハロゲンが臭素であり、前記ハロゲン化合物が臭素化合物であることを特徴とする、前記[7]に記載のハロゲン化合物の製造方法。
[9]前記ハロゲン化カルボニルがホスゲンであることを特徴とする前記[1]〜[4]のいずれかに記載の使用。
[10]前記使用による生成物が尿素誘導体であることを特徴とする前記[9]に記載の使用。
[11]前記使用による生成物がポリ尿素であることを特徴とする前記[10]に記載の使用。
[12]前記使用による生成物が炭酸エステル誘導体であることを特徴とする前記[9]に記載の使用。
[13]前記炭酸エステル誘導体がポリカーボネートであることを特徴とする前記[12]に記載の使用。
[14]前記[13]に記載の使用により得られることを特徴とするポリカーボネート。
[15](a)クロロホルム又はテトラクロロエタンに酸素存在下で光照射してホスゲンを含有する混合物を得る工程、及び(b)第一級アミン又はアルコールを前記混合物と反応させる工程を有することを特徴とする尿素誘導体又は炭酸エステル誘導体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、ハロゲン化炭化水素を酸素雰囲気下で光照射することにより、ハロゲン及び/又はハロゲン化カルボニルを系内で発生させられるため、該ハロゲン及び/又はハロゲン化カルボニルを化学反応原料とする反応を安全、簡便かつ高収率で行うことができる。また、本発明によると、溶媒等として用いられたハロゲン化炭化水素を光照射により分解し、種々の化学反応のための原料物質として有効に再利用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に用いられる装置の一態様を示す模式図である。
図2】実施例10のバラ花弁の脱色を示す写真である(左:脱色前、右:脱色後)。
図3】実施例10のバラ花弁の部分脱色を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、ハロゲン化炭化水素に酸素存在下で光照射して得られる混合物に由来するハロゲン及び/又はハロゲン化カルボニルの、化学反応における化学反応原料としての使用に関する。
【0011】
本発明におけるハロゲン及び/又はハロゲン化カルボニルにおけるハロゲンとしては、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)及びヨウ素(I)等が挙げられ、反応性及び生成物の有用性等の点から、塩素、臭素及びヨウ素等が好ましく挙げられる。また、前記ハロゲン化カルボニルとしては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されず、フッ化カルボニル、塩化カルボニル(ホスゲン)、臭化カルボニル及びヨウ化カルボニル等が挙げられ、反応性及び生成物の有用性等の点から、ホスゲン等が好ましく挙げられる。
【0012】
本発明におけるハロゲン化炭化水素としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジブロモメタン、ブロモホルム等のハロメタン;1,1,2,2−テトラクロロエタン等のハロエタン;1,1,2,2−テトラクロロエテン等のハロエテン等が挙げられる。前記ハロゲン化炭化水素は、目的とする化学反応に応じて適宜選択すればよい。
【0013】
本発明の光照射の手段としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、特に、少なくとも短波長光を含む光を照射できるものが好ましい。前記短波長光としては、約400nm以下が好ましく、約300nm以下がより好ましく、約280nm以下がさらに好ましい。このような短波長光を波長域に含む光源としては、例えば、太陽光、低圧水銀ランプ、中圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、メタルハライドランプ等が挙げられ、反応効率およびコスト等の点から、低圧水銀ランプ等が特に好ましく用いられる。前記短波長光を波長域に含む光源を使用することで、ハロゲン化炭化水素にアルコール等の安定剤、水及びその他の不純物等が含有されていても、光照射による分解反応が進行しやすい。このため、ハロゲン化炭化水素の下処理等が不要となり、より簡便に本発明を実施することができる。光の強度、照射時間等の諸条件は、目的とする反応によって適宜設定できる。
【0014】
本発明の化学反応は、ハロゲン及び/又はハロゲン化カルボニルを反応物等として要する化学反応が関与するものであれば特に限定されず、例えば、ハロゲン化物生成反応、尿素誘導体生成反応、炭酸エステル誘導体生成反応、カルボジイミド誘導体生成反応、イソシアネート誘導体生成反応等が好ましく挙げられる。また、本発明の化学反応における反応条件は、目的とする反応によって適宜設定できる。
【0015】
前記化学反応は、光照射と同一系内で行われることが好ましい。光照射によりハロゲン及び/又はハロゲン化カルボニルを含有する混合物を得、該混合物を同一系内で前記化学反応に供することにより、前記ハロゲン及び/又はハロゲン化カルボニルを作業者が直接取扱う必要がなく安全かつ簡便に化学反応を行うことができる。また、前記化学反応前に、前記ハロゲン及び/又はハロゲン化カルボニルを一旦単離する必要もない。
【0016】
前記化学反応を行う装置の一態様としては、例えば、図1に示すように筒状反応容器6内に光照射手段1を有するもの等が挙げられる。前記光照射手段をジャケット2等で覆う場合、該ジャケットは、前記短波長光を透過する素材であることが好ましい。また、反応容器の外側から光照射を行ってもよく、この場合、反応容器は、前記短波長光を透過する素材であることが好ましい。前記短波長光を透過する素材としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、石英ガラス及びパイレックス(登録商標)ガラス等が好ましく挙げられる。
【0017】
前記光照射手段を有する反応容器内には、少なくともハロゲン化炭化水素を入れて光照射を行い、酸化的光分解を行うことが好ましい。本発明において光照射は酸素存在下で行われるが、この酸素源としては、大気を用いてもよく、精製された酸素を用いてもよい。コスト等の点からは、大気を用いることが好ましい。光照射による分解効率等の点からは、酸素源として用いられる気体中の酸素含有率は、前記ハロゲン化炭化水素の種類によって異なるが、例えば、約15体積%〜100体積%であることが好ましい。ハロゲン化炭化水素として塩化炭化水素類(ジクロロメタン、クロロホルム及びテトラクロロエタン等)を用いる場合は、15体積%〜25体積%程度が特に好ましく、臭化炭化水素類(ジブロモメタン、ブロモホルム等)を用いる場合は、90〜100体積%程度が特に好ましい。ただし前者に100%の酸素を用いたとしても酸素流量の調節で制御が可能である。
【0018】
前記光照射の手段を有する反応容器内には、ハロゲン化炭化水素の光分解で得られる化合物と反応させるための反応物及び触媒等を、前記ハロゲン化炭化水素と共に仕込んでもよい。この場合、1つの反応容器内でハロゲン及び/またはハロゲン化カルボニルが生成し消費されるため、より安全で簡便に目的化合物を得ることができる。
【0019】
また、前記ハロゲン化炭化水素の光分解で得られる化合物と反応させるための反応物及び触媒等は、例えば、前記光照射の手段を有する反応容器に連通させた別の反応容器に仕込んでもよい。この場合、反応の制御がより容易になり、目的とする反応によっては、より高い収率で目的化合物を得ることができる。
【0020】
(i)ハロゲン化炭化水素に酸素存在下で光照射してハロゲンを含有する混合物を得る工程(以下、工程(i)ともいう。)、及び(ii)有機化合物を前記混合物と反応させる工程(以下、工程(ii)ともいう。)を有することを特徴とするハロゲン化合物の製造方法も、本発明の一態様である。特に、収率及び生成物の有用性等の点から、該ハロゲン化合物は、塩素と反応することにより得られる塩素化合物及び臭素と反応することにより得られる臭素化合物等であることが好ましい。
【0021】
前記工程(i)で用いられるハロゲン化炭化水素は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されず、目的とするハロゲン化合物に応じて適宜選択されるが、反応性及びコスト等の点で、例えば、ジブロモメタン、クロロホルム、テトラクロロメタン、ブロモホルム等が好ましく用いられる。
【0022】
また、前記工程(ii)における有機化合物としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されず、目的とするハロゲン化合物に応じて適宜選択される。前記有機化合物としては、例えば、アニソール、トルエン、ヘキサフェニルベンゼン、5,10,15,20−テトラキス(3,5−ジ−tert−ブチルフェニル)ポルフィリン パラジウム(II)、アントラセン、チオフェン、シクロオクテン、アセトフェノン、スチルベン、フェノール及びp−トルイジン等が挙げられる。
【0023】
本発明の方法によると、混合物中でハロゲン化反応を行う際に、鉄、ハロゲン化鉄(臭化鉄及び塩化鉄等)、アルミニウム、並びにハロゲン化アルミニウム(臭化アルミニウム及び塩化アルミニウム等)等の金属触媒も有効に併用することができる。また、本発明の方法によると、ハロゲン系の溶媒にのみ易溶な化合物であっても容易にハロゲン化することができる。
【0024】
前記工程(i)におけるハロゲン化炭化水素としてジブロモメタンを用いる形態は、本発明の特に好ましい形態の一つとして挙げられる。ジブロモメタンは臭素とメタンを反応させたときに得られる主生成物であり、原料コストが低い点で好ましい。また、ジブロモメタンに光照射することにより、前記ハロゲンである臭素以外に、臭化水素が得られる。該臭化水素は、臭素化合物を生成する化学反応の触媒として働くこともできるため、目的とする臭素化合物が効率よく得られ、好ましい。
【0025】
前記工程(ii)における有機化合物として、ハロゲンによる酸化で脱色又は変色する色素を用いることで、前記工程(i)で生成したハロゲンにより前記色素が酸化され、脱色反応が起きる。このような脱色反応及び該脱色反応を利用した表示方法も、本発明に包含される。前記工程(i)で生成したハロゲンとしては、塩素及び臭素等が好ましく挙げられ、臭素等がより好ましく挙げられる。前記工程(i)で生成したハロゲンが臭素である場合、前記工程(i)におけるハロゲン化炭化水素は臭化炭化水素であるが、該臭化炭化水素としては、ジブロモメタン及びブロモホルム等が特に好ましく挙げられる。前記工程(i)のハロゲン化炭化水素がジブロモメタン及びブロモホルム等であれば、沸点が高く、揮発性が比較的低くなるため、好ましい。
【0026】
前記色素は、ハロゲンにより酸化されて脱色又は変色するものであれば特に限定されず、例えば、アントシアニン(シアニジン 3,5−O−ジグルコシド等)等が好ましく挙げられる。前記表示方法としては、特に限定されないが、前記色素を有する表示媒体にハロゲン化炭化水素を含浸させ、または塗布し、光照射を行う方法等が挙げられる。塗布する場合、前記ハロゲン化炭化水素としては、例えば、ジブロモメタン及びブロモホルム等、沸点が高く、揮発性が低いものを用いることが、作業の容易さ等の面で好ましい。
【0027】
(a)クロロホルム又はテトラクロロメタンに酸素存在下で光照射してホスゲンを含有する混合物を得る工程(以下、工程(a)ともいう。)、及び(b)第一級アミン又はアルコールを前記混合物と反応させる工程(以下、工程(b)ともいう。)を有することを特徴とする尿素誘導体又は炭酸エステル誘導体の製造方法も、本発明の一態様である。また、前記工程(a)においては、クロロホルムの代わりに他のハロゲン化炭化水素を用いてもよく、ホスゲンの代わりにそれぞれ対応する化合物(フッ化カルボニル、臭化カルボニル及びヨウ化カルボニル等)であってもよい。
【0028】
前記工程(b)で第一級アミンを用いた場合、尿素誘導体が得られる。前記第一級アミンとしては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されず、目的とする尿素誘導体に合わせて適宜選択できる。前記第一級アミンとしては、例えば、シクロへキシルアミン、アニリン、tert−ブチルアミン、n−ヘキシルアミン、及びベンジルアミン等が挙げられる。特に、前記第一級アミンとして、p−フェニレンジアミン、trans−1,4−シクロヘキサンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等、分子内に2つ以上のアミノ基を持つ化合物を用いることで、前記尿素誘導体としてポリ尿素類を得ることができる。前記第一級アミンの使用量は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、クロロホルム100質量部に対し、約50質量部〜1質量部が好ましく、約20質量部〜10質量部がさらに好ましい。
【0029】
前記工程(b)でアルコールを用いた場合、炭酸エステル誘導体が得られる。前記アルコールとしては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されず、目的とする炭酸エステル誘導体に合わせて適宜選択できる。前記アルコールとしては、例えば、エタノール、プロパノール並びにフェノール類(例えば、フェノール、4-tert−ブチルフェノール、4-ニトロフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールC、ビスフェノールE、ビスフェノールF、ビスフェノールM及びビスフェノールZ)等が挙げられる。特に、前記アルコールとして、ビスフェノールA、ビスフェノールC、ビスフェノールE、ビスフェノール F、ビスフェノールM及びビスフェノールZ等、分子内に2つ以上の水酸基を持つ化合物を用いることで、前記炭酸エステル誘導体としてポリカーボネート類を得ることができる。前記アルコールの使用量は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、クロロホルム100質量部に対し、約50質量部〜0.1質量部が好ましく、約10質量部〜1質量部がさらに好ましい。
【0030】
前記第一級アミン又はアルコールは、例えば、光照射の手段を有する反応容器にホスゲンと共に添加されてもよいが、前記光照射の手段を有する反応容器に連通させた別の反応容器に添加されてもよい。別の反応容器に添加される場合、例えば、前記第一級アミン又はアルコールに加え、同容器に触媒を添加することで、より高収率で尿素誘導体又は炭酸エステル誘導体を得ることができる。前記触媒としては、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、ピリジン等が好ましく挙げられ、中でも、トリエチルアミンを用いた場合は、特に収率が高く好ましい。また、前記第一級アミン又はアルコールは、適当な溶媒に溶解させて用いてもよい。該溶媒は特に限定されないが、クロロホルム、ブロモホルム等が好ましく挙げられる。前記触媒の使用量は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、クロロホルム100質量部に対し、約50質量部〜0.1質量部が好ましく、約20質量部〜1質量部がさらに好ましい。
【0031】
以下に本発明を実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形が可能である。
【実施例】
【0032】
[実施例1]
(1,3−ジシクロヘキシル尿素の合成)
中央に直径30mmの石英ガラスジャケットを装着した筒状反応容器(直径42mm)を用意し、石英ガラスジャケットに低圧水銀ランプ(SEN Light社製、UVL20PH−6、20W、φ24×120mm)を入れ、反応容器内に精製したCHCl(40mL)を入れた。空気をバブリングしながら20℃でCHClを撹拌し、前記低圧水銀ランプにより光照射を行った。発生した分解生成物を含む空気を、別途調製したシクロヘキシルアミン(1.0mL、8.3mmol)とトリエチルアミン(5.8mL、42mmol)のCHCl溶液(15mL)に吹き込み、その溶液を30分間撹拌した。その後、溶液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えてしばらく撹拌した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で有機層を洗浄し、有機層を抽出して、硫酸ナトリウムを用いて乾燥し、溶媒を減圧留去すると白い粉末が得られた。それをアセトンで洗浄し、1,3−ジシクロヘキシル尿素を99%(922mg)の収率で得た。
【0033】
[実施例2]
(ポリフェニル尿素の合成)
実施例1と同様にして、CHClに光照射を行い、発生した分解生成物を含む空気を、別途調製したp-フェニレンジアミン(448mg、4.14mmol)とトリエチルアミン(5.8mL、41.6mmol)のCHCl溶液(15mL)に吹き込み、その溶液を30分間撹拌し、不溶の白い沈殿の生成を確認した。その後、溶液に水を加えてしばらく撹拌した。沈殿をろ過し、それを水およびアセトンで洗浄し、乾燥させることによってポリフェニル尿素を88%(493mg)の収率で得た。
【0034】
[実施例3]
(ジ(4−tert−ブチルフェニル)カーボネートの合成)
前記シクロヘキシルアミンとトリエチルアミンのCHCl溶液を、4−tert−ブチルフェノール(300mg、2.0mmol)とトリエチルアミン(0.98mL、7.0mmol)のCHCl溶液(15mL)にし、再沈殿の操作をクロロホルムとヘキサンに変更した以外は実施例1と同様にして、ジ(4−tert−ブチルフェニル)カーボネートを99%(324mg)の収率で得た。
【0035】
[実施例4]
(ポリカーボネートの合成)
前記シクロヘキシルアミンとトリエチルアミンのCHCl溶液を、ビスフェノールA(457mg、2.0mmol)とトリエチルアミン(2.0mL、14.0mmol)のCHCl溶液(15mL)に変更し、実施例1と同様にして、ポリカーボネートを85%(434mg)の収率で得た。
【0036】
[実施例5]
(アニソールの臭素化反応)
中央に直径30mmの石英ガラスジャケットを装着した筒状反応容器(直径42mm)を用意し、石英ガラスジャケットに低圧水銀ランプ(SEN Light社製、UVL20PH−6、20W、φ24×120mm)を入れ、反応容器内にCHBr(10mL)を入れた。酸素を流しながら40°Cで溶液を強く撹拌し、前記低圧水銀ランプにより光照射を3時間行った。光照射後、赤褐色に変化したCHBr溶液にアニソール(162mg、1.5mmol)を加え、0.5時間、20°Cで撹拌した。反応終了後、溶液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えてしばらく撹拌した。その後、2%チオ硫酸ナトリウム水溶液と純水にて有機層を洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムにて乾燥し、溶媒を減圧留去して、4−ブロモアニソールを収率93%(260mg)で得た。
【0037】
[実施例6]
(トルエンの臭素化反応)
前記アニソールの代わりにトルエン(138mg、1.5mmol)を加え、続く撹拌条件を6時間、20°Cとした以外は実施例4と同様にして、α−ブロモメチルベンゼンを収率75%(192mg)で、α,α−ジブロモメチルベンゼンを収率4%(15mg)で得た。
【0038】
[実施例7]
(ヘキサフェニルベンゼンの臭素化反応)
前記CHBrの代わりにCHBr(10mL)を加え、光照射の時間を3時間から6時間に変更し、前記アニソールの代わりにヘキサフェニルベンゼン(50mg、0.09mmol)を加え、続く撹拌条件を7日間還流下とした以外は実施例4と同様にして反応を行い、反応終了後、溶液を減圧留去して、肌色の固体を得た。この固体をクロロホルム/ヘキサンにて再沈殿し、濾別して、ヘキサキス(4−ブロモフェニル)ベンゼンを86%の収率(81mg)で肌色の固体として得た。
【0039】
[実施例8]
(5,10,15,20−テトラキス(3,5−ジ−tert−ブチルフェニル)ポルフィリン パラジウム(II)の臭素化反応)
前記光照射の時間を3時間から1時間に変更し、前記アニソールの代わりに5,10,15,20−テトラキス(3,5−ジ−tert−ブチルフェニル)ポルフィリン パラジウム(II)(10mg、0.009mmol)を加え、続く撹拌条件を2時間還流下とした以外は実施例4と同様にして、2,3,7,8,12,13,17,18−オクタブロモ−5,10,15,20−テトラキス(3,5−ジ−tert−ブチルフェニル)ポルフィリン パラジウム(II)を84%(13mg)の収率で深紅色の固体として得た。
【0040】
[実施例9]
(アニソールの塩素化反応)
中央に直径30mmの石英ガラスジャケットを装着した筒状反応容器(直径42mm)を用意し、石英ガラスジャケットに低圧水銀ランプ(SEN Light社製、UVL20PH−6、20W、φ24×120mm)を入れ、反応容器内にCHCl(20mL)を入れた。酸素を流しながら40°Cで溶液を強く撹拌し、前記低圧水銀ランプにより光照射を3時間行った。光照射の間、CHCl溶液から発生する気体にて、ナスフラスコに入れたアニソール(216mg、2.0mmol)のCHCl(5mL)溶液を室温にて強く撹拌しながらバブリングした。光照射後、黄色に変化した筒状容器中のCHCl溶液、およびナスフラスコ中のアニソール溶液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えてしばらく撹拌した。その後、純水にてナスフラスコ中の溶液を洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムにて乾燥し、溶媒を減圧留去すると4−クロロアニソールが収率80%(228mg)で得られた。
【0041】
[実施例10]
(バラ花弁の脱色反応)
1mLのジブロモメタンに浸漬した赤色バラ花弁に、酸素を流しながら20℃で低圧水銀ランプ(SEN Light社製、UVL20PH−6、20W、φ24×120mm)で光を10分間照射したところ、バラ花弁の色が脱色され、白色になった(図2)。また、別の赤色バラ花弁にジブロモメタンを十字型に塗布し、前記と同条件で低圧水銀ランプを用いて光を照射したところ、ジブロモメタンを塗布した部分のみ脱色されていることが確認された(図3)。これは、赤色バラ花弁に含有される色素であるシアニジン 3,5−O−ジグルコシドが酸化されたことに起因するものと考えられる。
【符号の説明】
【0042】
1 低圧水銀ランプ
2 石英ガラスジャケット
3 ウォーターバス
4 撹拌子
5 冷媒
6 筒状反応容器
図1
図2
図3