特許第5900992号(P5900992)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5900992
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月6日
(54)【発明の名称】水素ガス発生方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/06 20060101AFI20160324BHJP
   C01B 3/04 20060101ALI20160324BHJP
   C01B 3/10 20060101ALI20160324BHJP
【FI】
   C01B3/06
   C01B3/04 Z
   C01B3/10
【請求項の数】12
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-253971(P2014-253971)
(22)【出願日】2014年12月16日
(62)【分割の表示】特願2012-56544(P2012-56544)の分割
【原出願日】2012年3月13日
(65)【公開番号】特開2015-51923(P2015-51923A)
(43)【公開日】2015年3月19日
【審査請求日】2014年12月22日
(31)【優先権主張番号】特願2011-58404(P2011-58404)
(32)【優先日】2011年3月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】511069116
【氏名又は名称】水素燃料開発株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091502
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 正威
(72)【発明者】
【氏名】源平 浩己
(72)【発明者】
【氏名】吉野 賢二郎
(72)【発明者】
【氏名】稲村 潤一郎
【審査官】 村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−196835(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/034748(WO,A1)
【文献】 米国特許第07803349(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/00−3/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属M及び金属水素化物M´H(ここで、M及びM´は同一又は異なる水素吸蔵金属であり、aは該金属M´の価数に等しい)を水蒸気と反応させて前記金属Mの酸化物M及び前記金属M´の酸化物M´(式中b×(金属M又はM´の価数)=2c)にすることにより発生した水素ガスを回収することを特徴とする水素ガス製造方法。
【請求項2】
前記金属MはMg、Al及びFeからなる群より選ばれる少なくとも一つであり、前記金属M´はMg、Al及びFeからなる群より選ばれた少なくとも一つである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
金属Mと金属水素化物M´Hを構成する金属M´とは同一である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記反応により発生した熱を回収し、回収した熱を利用して水から水蒸気を発生させ、かくして発生した水蒸気を金属M及び金属水素化物M´Hの前記反応に用いる水蒸気としてリサイクルすることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
金属M及び金属水素化物M´Hは、粉状または粒状である請求項1に記載の方法。
【請求項6】
上記反応により生成した酸化物M及びM´を金属M及び/又は金属水素化物M´Hに還元して、上記反応の原料又は他の用途にリサイクルすることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
金属M及び金属水素化物M´H(ここで、M及びM´は同一又は異なる水素吸蔵金属であり、aは該金属M´の価数に等しい)を収容した容器と、前記金属M及び前記金属水素化物M´Hと反応させて前記金属Mの酸化物M及び前記金属M´の酸化物M´(式中b×(金属M又はM´の価数)=2c)とするために該容器に水蒸気を供給する装置と、前記反応により発生した水素ガスと水蒸気の混合ガスから水蒸気を分離して水素ガスを回収する装置とを備えてなる水素ガス製造装置。
【請求項8】
前記金属MはMg、Al及びFeからなる群より選ばれる少なくとも一つであり、前記金属M´はMg、Al及びFeからなる群より選ばれた少なくとも一つである、請求項に記載の装置。
【請求項9】
金属Mと金属水素化物M´Hを構成する金属M´とは同一である、請求項に記載の装置。
【請求項10】
さらに、前記反応により発生した熱を回収する装置と、回収した熱を利用して水から水蒸気を発生させる装置と、かくして発生した水蒸気を前記反応に用いる水蒸気としてリサイクルするために前記容器に供給する装置とを備える請求項に記載の装置。
【請求項11】
金属M及び金属水素化物M´Hは粉状または粒状である請求項に記載の装置。
【請求項12】
さらに、上記反応により生成した酸化物M及びM´、上記反応の原料又は他の用途にリサイクルするために、金属M及び/又は金属水素化物M´Hに還元する装置を備えることを特徴とする請求項7に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MgH及びMg、Al及びAlH、Fe及びFeH等の水素吸蔵金属の水素化物と単体金属の酸化反応を併用して水素ガスを発生させる方法であって、簡単な方法で効率よく水素ガスが得られ、さらには、該反応時に生成する熱及び生成物を有効にリサイクルできる方法、及び該方法の実施に用いられる装置に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
従来、水素ガスの発生方法としては、水蒸気改質、部分酸化改質、メタン直接改質、二段発酵、熱分解ガス改質、水の電気分解、水の熱化学分解、光触媒による水の分解等、様々な方式が技術的に確立されているが、水素ガスを発生させる段階において従来以上のCO2を排出し、化石燃料を使用する等の問題も多く、特に代替燃料としての応用において実用化できていない状況であり、これに伴い燃料電池等の水素を利用した応用機器も意義を持たないことが現状であった。
【0003】
他方、水素化マグネシウム(MgH)を水と接触させて加水分解反応させることにより、水素ガスを発生させる方法は知られている。この方法は、下記反応式(1):
MgH+2HO→Mg(OH)+2H …(1)
に従うものであり、生成物としてMg(OH)が得られる。しかし、この方法では、MgHは、あくまでもワンウェイの水素吸蔵合金という立場であり、水素発生プロセスに使用するには生産にコストが掛かりすぎるという点が問題であった。
【0004】
同様に、水素化アルミニウム(AlH)を水と接触させて加水分解反応させることにより、水素ガスを発生させる方法も知られている。この方法は、下記反応式(2):
2AlH+3HO→Al+6H …(2)
に従うものであり、生成物としてAlが得られる。しかし、この方法でも、AlHは、あくまでもワンウェイの水素吸蔵合金という立場であり、水素発生プロセスに使用するには生産にコストが掛かりすぎるという点が問題であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Hiroshi Uesugi et al., “Production of Hydrogen Storage Material MgH2 and its Applications”, http://www.biocokelab.com/pdf/MgH2.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来の方法よりも簡単な方法で効率よく水素ガスが得られ、さらには、酸化反応時に生成する熱及び生成物を有効にリサイクルできる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、MgHとMg、又は、Al及びAlHなどの水素吸蔵金属Mの水素化物及び単体金属を原料として用い、これらを水蒸気と接触させ、生成物として水素ガスとMgO又はAl等の前記金属の酸化物が得られるようにすることで、上記課題が一挙に解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、その一局面によれば、金属M及び金属水素化物M´H(ここで、M及びM´は同一又は異なる水素吸蔵金属であり、aは該金属M´の価数に等しい)を水蒸気と反応させて前記金属Mの酸化物M及び前記金属M´の酸化物M´(式中b×(金属M又はM´の価数)=2c)にすることにより発生した水素ガスを回収することを特徴とする水素ガス製造方法を提供する。
【0009】
また、本発明は、他の局面によれば、金属M及び金属水素化物M´H(ここで、M及びM´は同一又は異なる水素吸蔵金属であり、aは該金属M´の価数に等しい)を収容した容器と、前記金属M及び前記金属水素化物M´Hと反応させて前記金属Mの酸化物M及び前記金属M´の酸化物M´(式中b×(金属M又はM´の価数)=2c)とするために該容器に水蒸気を供給する装置と、前記反応により発生した水素ガスと水蒸気の混合ガスから水蒸気を分離して水素ガスを回収する装置とを備えてなる水素ガス製造装置を提供する。
【0010】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記反応により発生した熱を回収し、回収した熱を利用して水から水蒸気を発生させ、かくして発生した水蒸気を金属M及び金属水素化物M´Hの前記反応に用いる水蒸気としてリサイクルする。そのために、本発明の水素ガス製造装置に、前記反応により発生した熱を回収する装置と、回収した熱を利用して水から水蒸気を発生させる装置と、かくして発生した水蒸気を前記反応に用いる水蒸気としてリサイクルするために前記容器に供給する装置をさらに具備させることが好ましい。
【0011】
本発明の好ましい他の実施形態によれば、金属M及び金属水素化物M´Hは粉状または粒状の形態で使用される。
【0012】
本発明の更に好ましい他の実施形態によれば、容器内に、金属Mからなる第一の層と、金属水素化物M´Hからなる第二の層とを敷設し、第一の層を通過した後第二の層を通過して排出されるように水蒸気を容器内に供給して上記反応を進行させる。
【0013】
本発明の更に好ましい他の実施形態によれば、上記反応により生成した酸化物M及びM´を金属M及び/又は金属水素化物M´Hに還元して、上記反応の原料又は他の用途にリサイクルする。なお、本発明で生成された酸化物M及びM´は純度が高いため、金属M及び/又は金属水素化物M´Hに還元することなくそのまま工業用原料や薬品としてのみならず、脱硫材や二酸化炭素吸着材としても利用することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、MgH2、AlH、FeH等の金属水素化物M´Hを水蒸気と接触させて水素ガスが得られるだけでなく、この酸化反応(加水分解反応)で発生した熱で金属水素化物M´Hと共存するMg、Al、Fe等の単体金属を加熱することにより、単体金属の酸化反応による水の分解も誘発させて水素を発生させることができる。
水素吸蔵金属Mは、通常の状態では水蒸気と反応せず、反応させるためには、微粉砕して活性化させる必要がある。しかし、微粉砕するにはコストがかかり、また、危険物としての取り扱いが必要となり、保管にも細心の注意とコストが必要になる。更に、水素吸蔵金属Mの微粉砕品に蒸気を当てた場合、泥状化してしまい、水蒸気との接触を十分に制御できなくなる危険性がある。一方、水素吸蔵金属の水素化物M´Hはそのまま水蒸気と反応するが、単価コストが高く大量に使えないとの欠点がある。
本発明では、水素吸蔵金属Mとその水素化物M´Hを組み合わせて原料として用いることにより、少量の水素化物M´Hが着火材となり、水素吸蔵金属Mを高温まで加熱することで水蒸気との反応を安定且つ安価に進行させることができる。
【0015】
MgHは通常の水を加える加水分解反応の場合、比較的ゆっくり水素を放出しながら周りの水分を暖めるに過ぎない。しかし、本発明で原料としてMgHとMgを併用した場合、MgHに水蒸気を供給することで、反応密度が濃くなり、発火しながら水素を放出する。そして、この発火による熱源をきっかけとして、容易に反応しないMgが加熱されて連鎖的に酸化反応し、生成物として水素ガスとMgOが得られる。尚、本発明の反応では、環境温度が高温になることからMg(OH)ではなくMgOが生成する。
【0016】
同様に、本発明で原料としてAlHとAlを併用した場合、AlHに水蒸気を供給することで、反応密度が濃くなり、発火しながら水素を放出する。そして、この発火による熱源をきっかけとして、容易に反応しないAlが加熱されて連鎖的に酸化反応し、生成物として水素ガスとAlが得られる。尚、本発明の反応では、環境温度が高温になることからAl(OH)ではなくAlが生成する。なお、同様の反応は、原料として、FeH及びFeを用いた場合の他、その他の水素吸蔵金属の水素化物及び単体金属を用いた場合も同様に進行すると考えられる。
【0017】
また、本発明では、上記反応で発生する熱を利用して水を加熱することにより水蒸気を生成させて上記反応に供することができるので、熱エネルギーを有効にリサイクルした水素ガス発生システムを構築することができる。
【0018】
また、本発明では、上記反応で原料として用いられるMgH2、AlH、FeH等の金属水素化物及びMgAl、Fe等の単体金属は何れも純度の高いMgO、Al2、Fe等の金属酸化物として回収されるので、回収された金属酸化物を再度還元して金属水素化物にすることにより、上記反応の原料としてリサイクルすることができ、大幅な原料コストの削減と省資源を達成した水素ガス発生システムを構築することができる。
また、回収されるMgO、Al2、Fe等の金属酸化物は、純度が高いため、上述のように、他の用途に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の水素ガス発生方法で用いる反応容器の一例を示す概略断面図である。
図2】本発明による水素ガス発生システムを示すフロー図(原料としてMgH及びMgを使用する態様)である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、MgH2、AlH、FeH等の金属水素化物M´Hを水蒸気に接触させることによる酸化反応(加水分解反応とも言える)と、該酸化反応で生成する熱エネルギーを用いてMg、Al、Fe等の単体金属Mを高温下で水蒸気と接触させる酸化反応とを併用する点に特徴を有する。本発明において、単体金属Mと金属水素化物M´Hを構成する金属M´は、水素吸蔵金属である限り、同一でも異なっても良いが、両者が同一である方が、生成する酸化物M及びM´が同じ酸化物になるので、生成物の純度が高なり、以後の取り扱いが容易になる点で好ましい。本発明において、水素吸蔵金属とは、水素と反応して金属水素化物を生成する金属であり、各種の金属が知られているが、入手の容易性、コストなどの観点から、Mg、Al及びFeからなる群より選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。
金属水素化物がMgHの場合の酸化反応は下記反応式(3)で示され、単体金属がMgの場合の酸化反応は下記反応式(4)で示される。同様に、金属水素化物がAlHの場合の酸化反応は下記反応式(5)で示され、単体金属がAlの場合の酸化反応は下記反応式(6)で示される。同様に、金属水素化物がFeHの場合の酸化反応は下記反応式(7)で示され、単体金属がFeの場合の酸化反応は下記反応式(8)で示される。
【0021】
MgH+HO→MgO+2H+熱 …(3)
Mg+HO→MgO+H+熱 …(4)
2AlH+3HO→Al+6H+熱 …(5)
2Al+3HO→Al+3H+熱 …(6)
2FeH+3HO→Fe+6H+熱 …(7)
2Fe+3HO→Fe+3H+熱 …(8)
【0022】
従来提案されているMgHの酸化反応による水素ガス発生方法では、MgHと水との接触を基本とするため、上記反応式(1)で示されるように、MgHはMg(OH)として回収されていた。これに対し、本発明によれば、MgHと水蒸気との接触を基本とし、MgHは高温下で大部分MgOとして回収され、同様に、併用するMgの酸化反応においても、Mgは高温下で大部分MgOとして回収される。本発明において、上記式(3)及び(4)で示される反応は、反応生成物としてMgOが得られる温度、具体的には、マグネシウムの融点である650℃以上、好ましくは、800〜1000℃の温度範囲で行われる。同様に、上記式(5)及び(6)で示される反応は、反応生成物としてAlが得られる温度、具体的には、アルミニウムの融点である660℃以上、好ましくは、800〜1000℃の温度範囲で行われる。同様に、上記式(7)及び(8)で示される反応は、反応生成物としてFeが得られる温度、具体的には、鉄の融点である1535℃以上、好ましくは、1600〜2000℃の温度範囲で行われる。
本発明では、他の装置等を使った加熱も加圧も必要とすることなく、金属M及び金属水素化物M´Hの発火熱だけで上記反応が進行する。なお、上記反応温度を低く抑えるために加圧したり、反応温度を安定に維持するために他の熱源を用いて加熱してもよいことは言うまでもない。
【0023】
上記反応式(3)、(5)又は(7)で原料として使用されるMgH、AlH又はFeH等の金属水素化物M´Hの粒径は、基本的には制限は無いが、6mm以下が望ましい。
【0024】
本発明によれば、上記反応式(4)、(6)又は(8)で原料として使用されるMg、Al又はFe等の単体金属Mは、MgH、AlH又はFeH等の金属水素化物M´Hの酸化反応により発生した熱により加熱下に保たれるので、微粉砕されて活性化されていなくても自動的に酸化反応を進行させて水素ガスを発生させる。しかし、Mg、Al又はFe等の単体金属Mの酸化反応を長時間にわたり十分に進行させるために、Mg、Al又はFe等の単体金属Mは水蒸気及び発生した水素ガスを容易に流通させる形態のものであることが好ましい。したがって、本発明で原料として使用するMg、Al又はFe等の単体金属Mは、粒状、タブレット状等の粗粒であること好ましい。該単体金属Mの粒径は、好ましくは3〜30mmであり、より好ましくは3〜15mmである。
【0025】
本発明において、上記反応式(3)及び(4)、上記反応式(5)及び(6)、又は上記反応式(7)及び(8)で示される反応は、気体の入口と出口を備えた反応容器中にMgHとMgを一緒に、AlHとAlを一緒に又はFeHとFeを一緒に収容し、該容器の入口から所定温度の水蒸気を容器内に供給するとともに、該容器の出口から生成した水素と未反応の水蒸気との混合ガスを排出させることにより行うことができる。
【0026】
好ましい反応容器としては、例えば、図1に示す反応容器1が挙げられる。この反応容器1は、耐熱性及び耐圧性の高い材料で作られた円筒状の容器であり、その円形の底壁中央に気体の入口11を備え、その円形の上壁中央に気体の出口12を備え、円筒状の反応室13は、カーボンファイバー布製の通気性を有する2つの隔壁14a及び14bで仕切られ、出口12側の上室13aと中央の中間室13bと入口11側の下室13cに区切られている。そして、中間室13bは、入口11側に配置されたタブレット状のMg、Al又はFe等の単体金属Mからなる第一の層15aと、第一の層15aの上に中間室13bを充填するように粒状又は粉状のMgH、AlH又はFeH等の金属水素化物M´Hを敷設してなる第二の層15bとを備える。
【0027】
そして、ボイラ等で発生させた水蒸気を圧力差で反応容器1の入口11から容器内に供給すると、水蒸気は下室13cから隔壁14b、第一の層15a、第二の層15b及び隔壁14aを通過して上室13aに至り、出口12から排出される。反応の初期には、水蒸気は第二の層15bを構成する金属水素化物M´Hと反応して上記反応式(3)、(5)又は(7)等に従って水素ガスと熱を生成する。発生した熱により第一の層15aを構成する単体金属Mが高温に(単体金属Mの融点以上まで)加熱されると、水蒸気は単体金属Mと反応して上記反応式(4)、(6)又は(8)等に従って水素ガスと熱を生成する。
【0028】
したがって、出口12から、反応容器1内で生成した水素ガスと未反応の水蒸気の混合ガスが排出される。この混合ガスを回収し、温度を100℃以下に冷却して水蒸気を凝縮させて水として分離することにより、高純度の水素ガスを回収することができる。この混合ガスから水蒸気を分離して水素ガスを回収する装置としては、冷却機能を備えた気液分離装置等を使用することができる。
【0029】
なお、反応容器1の外側に水等の冷媒を流通させるための冷却用のジャケット16(図2参照)を設けることにより、反応容器1の内部温度を調節可能とするとともに、反応容器1で発生した熱エネルギーを回収できるようにしてもよい。
【0030】
次に、図2に、本発明の方法に従って水素ガスを連続的に製造することができるようにしたシステムを示す。なお、図2のシステムは、原料としてMgH及びMg、又は、Al及びAlHを使用する場合を例に示しているが、原料としてFe及びFeH等の他の金属単体M及び金属水素化物M´Hを使用する場合も図2のシステムに準じて実施することができる。図2のシステムは、2基の反応容器1A及び1Bを備えている。これらの反応容器1A及び1Bは、上述のように、冷媒を流通させるための冷却用のジャケット16を備えている。そして、各反応容器1A及び1Bは、上側部に原料であるMgH及びMg、又は、Al及びAlHの供給口17を備え、底部に使用済原料(すなわちMgO又はAl)の排出口18を備える。また、この反応容器1A及び1Bは、下側部に原料である水蒸気の入口11を備え、頂部に生成した水素ガスと未反応の水蒸気との混合ガスの出口12を備える。そして、該混合ガスの出口12は一次冷却塔2A及び2Bの底部供給口21に連通している。この一次冷却塔2A及び2Bは冷却水を流通させるジャケット26を備えるとともに、冷却塔内部で水蒸気から凝縮した温水を回収する排出口を下側部に備え、頂部に水素ガスの排出口22を備える。一次冷却塔2A及び2Bの水素ガスの排出口22は、さらに、一基の二次冷却塔3の底部供給口31に連通し、さらに気液分離した水素ガスを頂部の排出口32から排出して適当な水素貯蔵槽(図示せず)に導くようにしている。
【0031】
図2のシステムで水素を製造する場合、反応容器1Aに原料であるMgH及びMg、又は、AlH及びAlを供給し、予備ボイラから得られた水蒸気を水蒸気ヘッダーから反応容器1Aの入口11に供給する。すると、上記反応式(3)及び(4)又は上記反応式(5)及び(6)で示される反応により、水素ガスと水蒸気の混合ガスが反応容器1Aの出口12から排出され、一次冷却塔2Aで100℃未満に冷却され、水蒸気は凝縮して温水として水素ガスから分離され、水素ガスはさらに二次冷却塔3で気液分離された後、水素貯蔵槽(図示せず)に回収される。なお、二次冷却塔3は一次冷却塔2A及び2Bと同様の構成を有する。
【0032】
この時、反応容器1Aで生じた熱エネルギーは、反応容器1Aのジャケット16に流通された水又は水蒸気によって回収され、蒸気ヘッダーに導かれ、反応容器1Aに原料として供給される水蒸気を生成させるため熱エネルギーとしてリサイクルされる。
【0033】
また、一次冷却塔2A及び二次冷却塔3で水蒸気から凝縮して回収された温水は、一旦、温水タンクに回収された後、二次冷却塔3のジャケット36に冷却水として流通された後、一次冷却塔2Aのジャケット26に流通されて冷却水として使用された後、反応容器1Aのジャケット16に導かれるようにされているので、二次冷却塔3及び一次冷却塔2Aで回収された熱エネルギーも、反応容器1Aに原料として供給される水蒸気を生成させるため熱エネルギーとしてリサイクルされる。
【0034】
反応容器1A内のMgH及びMgのMgOへの反応又はAlH及びAlのAlへの反応がほぼ終了した時、反応容器1Bに水蒸気を導入して上記と同様に反応を進行させることにより、連続的に水素ガスを製造することができる。
【0035】
そして、反応容器1AからMgO又はAlを排出させて、原料としてMgH及びMg又はAlH及びAlを再充填すれば、反応容器1Bの反応がほぼ終了した時、反応容器1Aに水蒸気を導入して上記と同様に反応を進行させることにより、連続的に水素ガスを製造することができる。このようにして、反応容器1A及び1Bの反応を順に繰り返すことにより、際限なく水素ガスを製造することができる。反応容器から排出されて回収されたMgO又はAlをMg及び/若しくはMgH又はAl及び/若しくはAlHに還元する装置(再生設備)でMgOをMgH及び/若しくはMg又はAlをAl及び/若しくはAlHに再生することにより、原料としてリサイクルすることができる。反応容器1A及び1Bで得られるMgO又はAlは極めて純度が高いので、公知の方法によって容易にMgH及び/若しくはMg又はAl及び/若しくはAlに再生することができる。MgOをMgHまたはMgに還元する方法としては、例えば、電気プラズマ、水素プラズマ、太陽光励起レーザー等を用いた方法が挙げられる。また、AlをAlに還元する方法としては、融解塩電気分解法がある。
【0036】
以上のとおり、図2の水素ガス製造システムによれば、MgH及びMg又はAlH及びAlを収容した反応容器に水蒸気を導入するだけで簡単に水素ガスを連続的に製造できるだけでなく、反応容器や冷却塔で生成した熱エネルギーを回収してリサイクルでき、また、反応生成物である純度の高いMgO又はAlを還元して原料としてリサイクルできるので、極めて効率良く水素ガスを製造することができる。また、反応生成物であるMgO又はAlは純度が高いため、Mg及びMgHに還元することなくそのまま工業用原料や薬品として利用でき、また、石灰石膏法に代わる脱硫材や二酸化炭素吸着材としても利用することができる。
【0037】
なお、図2の装置において、2基の反応容器1A及び1Bの何れか一方に原料としてMg及びMgHを導入し、他方に原料としてAl及びAlHを導入してもよい。また、本発明の原理に従えば、一つの反応容器にMgH及びAlを原料として導入し、上記反応式(3)及び(6)の反応を進行させて水素を製造することも可能であり、また、一つの反応容器にMg及びAlHを原料として導入し、上記反応式(4)及び(5)の反応を進行させて水素を製造することも可能であるが、反応生成物としてMgOとAlの混合物が得られるので、原料のリサイクルが煩雑になる点で、好ましくない。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の水素ガス製造方法及び装置は、燃料電池の水素源、水素自動車の燃料源、火力発電所や焼却炉における混焼用燃料源、その他の各種の水素源用に水素ガスを供給するため利用できる。
【符号の説明】
【0039】
1,1A,1B 反応容器
11 入口
12 出口
13 反応室
14a,14b 隔壁
15a 第一の層
15b 第二の層
16,26,36 ジャケット
2A,2B 一次冷却塔
3 二次冷却塔
図1
図2