特許第5901013号(P5901013)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5901013
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月6日
(54)【発明の名称】無酸化高周波熱処理装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 1/002 20060101AFI20160324BHJP
   C21D 1/42 20060101ALI20160324BHJP
   H05B 6/10 20060101ALI20160324BHJP
【FI】
   B23K1/002
   C21D1/42 B
   C21D1/42 D
   H05B6/10 331
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-36893(P2012-36893)
(22)【出願日】2012年2月23日
(65)【公開番号】特開2013-169591(P2013-169591A)
(43)【公開日】2013年9月2日
【審査請求日】2015年1月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】591195994
【氏名又は名称】株式会社ミヤデン
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 英司
【審査官】 山崎 孔徳
(56)【参考文献】
【文献】 英国特許出願公開第00385285(GB,A)
【文献】 特開平10−193088(JP,A)
【文献】 特開2011−062712(JP,A)
【文献】 特開平08−132225(JP,A)
【文献】 特開平08−090218(JP,A)
【文献】 実開平07−032499(JP,U)
【文献】 米国特許第03035142(US,A)
【文献】 独国特許発明第102005046277(DE,B3)
【文献】 特開2004−222493(JP,A)
【文献】 特開昭55−114461(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 1/002
C21D 1/42
H05B 6/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの熱処理部分の外形形状に略対応した形状の筒体と、該筒体の一方の開口端部に装着され不活性ガスの供給口を有する蓋体と、前記筒体の他方の開口端部に着脱可能に装着されるワーク支持台と、前記筒体の外周部で前記ワークの熱処理部分に対応した位置に配設された加熱コイルと、該加熱コイルに高周波電流を供給可能なトランジスタインバータと、これらを制御する制御装置と、を備え、
前記筒体は、外筒体と内筒体を有して両筒体間にガス流路が設けられると共に、前記内筒体の前記ワークの熱処理部分に対向した位置に当該熱処理部分に向けて不活性ガスを噴射可能なガス噴射孔が円周方向に複数列設けられ、
前記蓋体は、外壁と内壁を有して前記筒体方向に円錐形状に拡がり前記筒体のガス流路に密に連痛可能なガス流路が設けられ、
前記ワーク支持台もしくは前記蓋体には、前記内筒体内のガス置換時に当該内筒体内の酸素を筒体外に排出可能な排出孔が設けられて、
前記不活性ガスは、前記蓋体の供給口に接続されるガスホースから、該ガスホースの内径に対応した大きさの前記蓋体のガス流路と前記筒体のガス流路を経由して前記内筒体内に噴射されることを特徴とする無酸化高周波熱処理装置。
【請求項2】
前記排出孔は、前記ワーク支持台に設けられた筒体位置決め突起とワーク位置決め突起間に、筒体の軸方向に貫通して円周方向に複数個設けられていることを特徴とする請求項1に記載の無酸化高周波熱処理装置。
【請求項3】
前記筒体が内部を視認可能な材質で形成されると共に、該筒体の外側に前記熱処理部分の温度を検出可能な赤外線放射温度計が配設されていることを特徴とする請求項1または2に記載の無酸化高周波熱処理装置。
【請求項4】
前記筒体に前記加熱コイルが一体化されて前記ワーク支持台に対して進退可能に配設されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の無酸化高周波熱処理装置。
【請求項5】
前記内筒体のガス噴射孔が設けられる部分が、他の部分と異材質で形成されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の無酸化高周波熱処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種形状のワークの所定部位を無酸化状態で高周波の誘導加熱等により熱処理するための無酸化高周波熱処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば一対のワークの端面をロー付けする際には、接合端面間に銀ローをセットし、接合部分の周囲に配置された加熱コイルに高周波電源から高周波電流を供給することにより、接合部分を誘導加熱し銀ローを溶融させてロー付けする装置が使用されている。そして、このような装置において、ロー付け部分に高品質が要求される場合、ワークをチェンバー等のケース内に配置し、このケースに設けたガス供給口からケース内に窒素ガス等の不活性ガスを供給(噴射)して、ケース内を無酸化状態とした上でロー付けするようにしている。なお、無酸化状態で高周波熱処理する装置は、例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−59116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような熱処理装置にあっては、ケース自体の容積が比較的大きく設定されると共に、ケースの所定位置に設けたガス供給口から不活性ガスをケース内の全域に向けて供給する構造であるため、ケース内に供給する不活性ガスの量自体が多くなると共に、ケース内の全域を無酸化状態とするまでの時間、すなわちガス置換の時間が長くなる等、ロー付け作業能率の面で劣る。また、不活性ガスをワークの熱処理部分の略全域に均一に供給(噴射)することが難しいため、ワークの熱処理部分の無酸化状態を高精度に維持することが困難であると共に、熱処理部分の加熱温度を精度良く検出することが難しいため、所望の加熱温度を得ることが困難で、これらのことから、ワークに高品質な熱処理状態を得ることが難しい。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、使用する不活性ガスの量を少なくしつつ熱処理部分の周囲を短時間に無酸化状態として、熱処理作業の能率向上と高品質な熱処理状態を同時に得ることが可能な無酸化高周波熱処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成すべく、本発明のうち請求項1に記載の発明は、ワークの熱処理部分の外形形状に略対応した形状の筒体と、該筒体の一方の開口端部に装着され不活性ガスの供給口を有する蓋体と、前記筒体の他方の開口端部に着脱可能に装着されるワーク支持台と、前記筒体の外周部で前記ワークの熱処理部分に対応した位置に配設された加熱コイルと、該加熱コイルに高周波電流を供給可能なトランジスタインバータと、これらを制御する制御装置と、を備え、前記筒体は、外筒体と内筒体を有して両筒体間にガス流路が設けられると共に、前記内筒体の前記ワークの熱処理部分に対向した位置に当該熱処理部分に向けて不活性ガスを噴射可能なガス噴射孔が円周方向に複数列設けられ、前記蓋体は、外壁と内壁を有して前記筒体方向に円錐形状に拡がり前記筒体のガス流路に密に連痛可能なガス流路が設けられ、前記ワーク支持台もしくは前記蓋体には、前記内筒体内のガス置換時に当該内筒体内の酸素を筒体外に排出可能な排出孔が設けられて、前記不活性ガスは、前記蓋体の供給口に接続されるガスホースから、該ガスホースの内径に対応した大きさの前記蓋体のガス流路と前記筒体のガス流路を経由して前記内筒体内に噴射されることを特徴とする。
【0007】
また、請求項2に記載の発明は、前記排出孔が、前記ワーク支持台に設けられた筒体位置決め突起とワーク位置決め突起間に、筒体の軸方向に貫通して円周方向に複数個設けられていることを特徴とする。また、請求項3に記載の発明は、前記筒体が内部を視認可能な材質で形成されると共に、該筒体の外側に前記熱処理部分の温度を検出可能な赤外線放射温度計が配設されていることを特徴とする。さらに、請求項4に記載の発明は、前記筒体に前記加熱コイルが一体化されて前記ワーク支持台に対して進退可能に配設されていることを特徴とする。また、請求項5に記載の発明は、前記内筒体のガス噴射孔が設けられる部分が、他の部分と異材質で形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の請求項1または2に記載の発明によれば、筒体が外筒体と内筒体を有して両筒体間にガス流路が設けられると共に、内筒体に不活性ガスを噴射可能な複数のガス噴射孔が設けられているため、外筒体と内筒体間の比較的狭いガス流路から、内筒体内に不活性ガスを熱処理部分に向けて噴射して内筒体内をガス置換でき、使用する不活性ガスの量を少なくしつつワークの熱処理部分の周囲を短時間に無酸化状態として、熱処理作業の能率向上と高品質な熱処理状態を同時かつ容易に得ることができる。
【0010】
また、ワーク支持台もしくは蓋体に、内筒体内のガス置換時に内筒体内の酸素を筒体外に排出可能な排出孔が設けられているため、内筒体内のガス置換時に、該内筒体内の酸素(空気)を排出孔から素早く排出できて、内筒体内のガス置換を一層短時間かつ確実に行うことができる
【0011】
また、請求項3に記載の発明によれば、請求項1または2に記載の発明の効果に加え、筒体が内部を視認可能な材質で形成されると共に、この筒体の外側に熱処理部分の温度を検出可能な赤外線放射温度計が配設されているため、筒体として例えば石英管等の安価で透明もしくは半透明な筒体を使用できると共に、この筒体の使用により熱処理部分の温度を筒体外部から検出できて、所望の熱処理温度が確実に得られる等、熱処理品質を一層高めることができる
【0012】
さらに、請求項4に記載の発明によれば、請求項1ないし3に記載の発明の効果に加え、筒体に加熱コイルが一体化されてワーク支持台に対して進退可能に配設されているため、例えばワークの形状に対応した筒体と加熱コイルの位置関係を所望に維持できて、ワークの熱処理部分の加熱状態を安定させることができると共に、筒体と加熱コイルを熱処理用の治具として使用できて、各種形状のワークに容易に適用することができる
【0013】
また、請求項5に記載の発明によれば、請求項1ないし4に記載の発明の効果に加え、内筒体のガス噴射孔が設けられる部分が他の部分と異材質で形成されているため、例えばガス噴射孔が設けられる部分をセラミック等の材質で形成し、その他の部分を石英管等の材質で形成でき、所望のガス噴射孔を簡単に形成できると共に、ワークの熱処理部分の加熱温度に対応した材質を使用できる等、各種ワークの熱処理に的確に対応することができる
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係わる無酸化高周波熱処理装置の概略構成図
図2】同その筒体の横断面図
図3】同筒体の要部の縦断面図
図4】同蓋体の縦断面図
図5】同図1のA部の縦断面図
図6】同装置を使用した熱処理方法の工程図
図7】同筒体の変形例を示す要部の縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1図6は、本発明に係わる無酸化高周波熱処理装置の一実施形態を示している。図1に示すように、無酸化高周波熱処理装置1(以下、熱処理装置1という)は、内部にロー付けする一対のワークWa、Wbが収容セットされる円筒形状の筒体2と、この筒体2の一方の開口端部である図1の上面開口部2aを閉塞する蓋体3と、前記筒体2の高さ(長手)方向の所定位置に、外周面に対して所定間隔を有して一体的に配設された加熱コイル4等からなる熱処理治具5を有している。
【0017】
この熱処理治具5は、その筒体2の他方の開口端部である図1の下面開口部2bがワーク支持台6に上にセットされたり該支持台6上から取り外されるように、上下動可能に配設されている。また、熱処理治具5の筒体2の外周面の外側の所定位置には、赤外線放射温度計7が筒体2内部に向けて配設されている。そして、前記蓋体3の後述する上面部3aに設けられたホースコネクター8には、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスを前記筒体2内部に供給するガス供給部9がガスホース10を介して接続され、前記加熱コイル4には、高周波電源としてのトランジスタインバータ11が接続されている。
【0018】
また、前記筒体2には、治具駆動部12が接続され、この治具駆動部12が動作することにより、筒体2と蓋体3及び加熱コイル4からなる前記熱処理治具5が矢印イの如く上下動可能となっている。そして、これらのガス供給部9、トランジスタインバータ11及び治具駆動部12は、図示しないCPU、ROM、RAM、タイマー等を有する制御装置13に接続されており、この制御装置13の制御信号により、後述する如く動作するようになっている。なお、制御装置13には、前記赤外線放射温度計7が接続されている。
【0019】
前記筒体2は、図2及び図3に示すように、ともに円筒形状のワークWa、Wbの外周面形状に対応した円筒形状で、内部が視認可能な透明もしくは半透明の石英管で形成された外筒体2Aと内筒体2Bを有し、これらの両筒体2A、2B間には、所定幅のガス流路15が形成されている。また、内筒体2Bの高さ方向の所定位置でワークWa、Wbの熱処理部分に対応した位置には、所定幅の円環形状に形成されたガス噴射部16が設けられ、このガス噴射部16には例えば円形の多数のガス噴射孔16aが内筒体2Bの中心軸方向に向けて形成されている。
【0020】
このとき、ガス噴射孔16aは、その内径が所定の噴射圧が得られる内径に設定されると共に、円周方向に列状に複数列形成され、上下のガス噴射孔16aは千鳥位置かあるいは同一位置となるように形成されて、図2及び図3の矢印ロの如くガス流路15内のガスが内筒体2Bの内部に向けて所定圧で噴射されるようになっている。なお、外筒体2Aと内筒体2Bの下端は、図5に示すように、底板17により閉塞されている。
【0021】
また、前記蓋体3は、セラミックス材や石膏ボード材等の耐熱性を有する材質で形成され、図1及び図4に示すように、それぞれ外壁と内壁からなる平坦な上面部3aと、この上面部3aの外周から下方に円錐形状に拡がった斜面部3bを有し、平面部3aから斜面部3bにかけて内部にガス流路18が円錐形状に形成されている。また、斜面部3bの内壁の下端には、前記筒体2の内筒体2Bの内径と略同一の外径を有する円環状の嵌合部3cが一体形成されている。そして、嵌合部3cを内筒体2Bの上面開口部に上方から嵌合させることにより、蓋体3で筒体2の上面開口部2aが閉塞されると共に、蓋体3のガス流路18の下端が筒体2のガス流路15の上端に密に連通するようになっている。なお、蓋体3は、所定の引張力で上方に引っ張ることにより、筒体2から取り外しできるようになっている。
【0022】
前記ワーク支持台6は、耐熱性を有する適宜の材質で所定高さの円盤形状に形成され、図1及び図5に示すように、その外周縁には、筒体2を支持する外内一対の筒体位置決め突起19a、19bが円周方向に複数個一体形成されるか、もしくは円環形状に一体形成されている。また、ワーク支持台6の前記位置決め突起19bの内側には、ワークWaを位置決めするワーク位置決め突起20が、前記筒体位置決め突起19a、19bと同様の形態で一体形成されると共に、筒体位置決め突起19bとワーク位置決め突起20間には、上下方向である筒体2の軸方向に貫通した排出孔21が例えば円周方向に一定間隔で複数個形成されている。
【0023】
この排出孔21から、後述する如く筒体2内に不活性ガスを供給した際の、内筒体2B内部の酸素(空気)が矢印ハの如く、筒体2の外部(図で下方)に排出されるようになっている。なお、図5では、排出孔21を貫通孔としたが、例えば二点鎖線aで示すように、排出孔21内もしくは排出孔21の開口部に逆止弁22を配設して、矢印ハ方向のみへの酸素の排出を可能としても良い。また、図5は、筒体2内の酸素の排出をワーク支持台6に設けた排出孔21から外部に排出したが、例えば蓋体3の所定位置に排出孔を設けて筒体内2の酸素を上方に排出させても良い。この場合は、蓋体3のガス流路18内に排出孔を形成可能なパイプを貫通配置することで対応することができる。
【0024】
前記トランジスタインバータ11は、例えば半導体スイッチング素子を使用したフルブリッジ回路等からなるインバータ回路を有し、所定周波数の高周波電流を出力変成器等を介して前記加熱コイル4に供給するようになっている。このとき、トランジスタインバータの出力電流の周波数は、ワークWa、Wbの形態に応じて、予め設定されるかあるいは制御装置13の制御により調整できるようになっている。また、前記ガス供給部9は、不活性ガスのガスボンベと、その供給口に接続された電磁弁等を有し、電磁弁が制御装置13の制御信号で所定に動作することにより、前記筒体2内に不活性ガスを供給したり、ガス供給を停止するようになっている。
【0025】
さらに、前記加熱コイル4は、例えば銅の丸パイプを所定回数巻回することにより、略円筒形状に形成され、前記内筒体2Bのガス噴射部16の外側に、外筒体2Aを介在した状態で所定距離を有して、外筒体2Aに図示しない連結部材等により一体的に連結配設されている。なお、加熱コイル4の形状は、巻回形状に限らず、馬蹄形状としても良いし、外筒体2Aへの一体化構造も、連結部材による連結構造に限らず、外筒体2Aの外周面に絶縁性の接着剤等で直接固着する構造しても良い。そして、この加熱コイル4は、その両端部が前記トランジスタインバータ11の出力端子に接続されている。また、加熱コイル4の銅パイプ内には、前記トランジスタインバータ11や制御装置13に付帯して設けた図示しない冷却水供給装置から、冷却水が循環供給されて、誘導加熱時の加熱コイル4自体の発熱が抑制され、加熱効率の低下が抑えられるようになっている。
【0026】
次に、このように構成された熱処理装置1による熱処理方法の一例を、図6の工程図に基づいて説明する。先ず、制御装置13により治具駆動部12を作動させて熱処理治具5を上方に移動させ、筒体2の下端開口部2bをワーク支持台6上から所定距離上方に待避させる。この状態で、上下一対の円筒形状の異材質(もしくは同材質)で少なくもその一方が金属からなるワークWa、Wbを、そのロー付け部分となる端面間に銀ローをセットした状態で、ワーク支持台6のワーク位置決め突起20内にセット(K01)する。
【0027】
ワークWa、Wbをセットしたら、制御装置13により治具駆動部12を作動させて熱処理治具5を下降(K02)させ、筒体2の下端外周部をワーク支持台6の筒体位置決め突起19a、19b内に位置させる。これにより、図1に示すように、内筒体2Bのガス噴射部16が、一対のワークWa、Wbのロー付け部分の外周側に所定間隔を有して位置した状態となり、この状態で、制御装置13によりガス供給部9を作動させて熱処理治具5に不活性ガスを供給(K03)する。このガス供給部9から供給されるガスは、ガスホース10、蓋体3のホースコネクタ8、ガス流路18及び筒体2のガス流路15を流れて、内筒体2Bのガス噴射部16のガス噴射孔16aから内筒体2B内に噴射される。このとき、ガス噴射孔16aが内筒体2Bの外周面に円周方向に複数の列状に形成されていることから、不活性ガスが各ガス噴射孔16aからワークWa、Wbのロー付け部分に向けて均一状態で噴射される。
【0028】
これにより、内筒体2B内に噴射された不活性ガスにより、内筒体2B内の酸素が前記排出孔21から筒体2外に排出されつつ、内筒体2B内に不活性ガスが充満して無酸化状態となる。そして、この無酸化状態への移行時、すなわち内筒体2B内のガス置換時に、不活性ガスがガスホース10の内径に略対応した大きさの各ガス流路18、15を経由して内筒体2Bの各ガス噴射孔16aから噴射されるため、所定圧の不活性ガスを内筒体2B内に効果的に噴射できて、内筒体2B内のガス置換の時間が短縮されると同時に不活性ガスの使用量自体を少なくできることになる。
【0029】
不活性ガスを所定時間供給したら、該ガスの供給を停止させるかもしくは不活性ガスを続けて供給しつづけながら、制御装置13によりトランジスタインバータ11を作動(K04)させ、加熱コイル4に高周波電流を供給する。この加熱コイル4への高周波電流の供給により、加熱コイル4から発生する磁束により、ワークWa、Wbのロー付け部分に渦電流が誘起され、該部分が誘導加熱される。このとき、加熱コイル4に供給される高周波電流の周波数と出力を、ワークWa、Wbの材質や形態に応じて予め所定に設定することで、ロー付け部分が所定温度まで急速加熱され、この加熱により銀ローが溶融して一対のワークWa、Wbがロー付けされる。また、ワークWa、Wbのロー付け部分が誘導加熱されると、前記赤外線放射温度計7によりロー付け部分の温度が検出されて制御装置13に入力される。制御装置13は、入力される検出温度を、予めワークWa、Wbの形態等に応じて設定してある基準温度と比較し、検出温度が基準温度となった時点で、トランジスタインバータ11の作動を停止させる。
【0030】
そして、制御装置13により熱処理治具5を上昇(K05)させ、その後に、ロー付けされたワークWa、Wbをワーク支持台6上から取り出す(K06)。これにより、一対のワークWa、Wbのロー付け作業が完了し、この工程において、前述したように、ガス供給時間を短縮できることから、工程K03と工程K04の時間を従来のチャンバー等のケースを使用した場合に比較して大幅に短縮できて、ワークWa、Wbのロー付け作業の作業能率の向上が図れることになる。なお、以上の工程は一例であって、例えば工程K01、K06のワークWa、Wbのセットや取り出しをロボットにより自動的に行うようにしても良く、このようにすれば、ロー付け作業の完全自動化を図ることが可能になる。
【0031】
このように、前記実施形態の熱処理装置1においては、熱処理治具5を構成する筒体2が外筒体2Aと内筒体2Bを有して両筒体2A、2B間にガス流路15が設けられると共に、内筒体2Bのガス噴射部16に不活性ガスを噴射可能な複数のガス噴射孔16aが設けられているため、外筒体2Aと内筒体2B間の比較的狭いガス流路15から、内筒体2B内に不活性ガスをロー付け部分に向けて噴射して内筒体2B内をガス置換でき、使用する不活性ガスの量を少なくしつつワークWa、Wbのロー付け部分の周囲を短時間に無酸化状態として、ロー付け作業の能率向上と高品質なロー付け状態を同時かつ容易に得ることができる。
【0032】
また、筒体2が内部を視認可能な石英管で形成されると共に、この筒体2の外側にロー付け部分の温度を検出可能な赤外線放射温度計7が配設されているため、筒体2として安価で透明もしくは半透明な石英管を使用できると共に、この筒体2の使用により誘導加熱部分の温度を筒体2の外部から検出でき、この検出温度に基づいてトランジスタインバータ11を制御することで、所望の加熱温度を確実に得ることができる等、ロー付け品質を一層高めることができる。
【0033】
また、筒体2に加熱コイル4が一体化された熱処理治具5がワーク支持台6に対して進退可能に配設されているため、例えばワークWa、Wbの形状に対応した筒体2と加熱コイル4の位置関係を所望に維持できて、ワークWa、Wbのロー付け部分の加熱状態を安定させることができると共に、筒体2と加熱コイル4を一つの熱処理用の治具として使用できて、各種形状のワークWa、Wbに容易に適用することができる。
【0034】
さらに、ワーク支持台6もしくは蓋体3に、内筒体2B内のガス置換時に内筒体2B内の酸素を筒体2外に排出可能な排出孔21が設けられているため、内筒体2B内の酸素(空気)を排出孔21から素早く排出できて、内筒体2B内のガス置換を一層短時間かつ確実に行うことができる。その際、排出孔21に逆止弁22を設けるようにすれば、内筒体2B内の酸素の排出をより確実かつ短時間に行うことができる。
【0035】
図7は、前記内筒体2Bの変形例を示している。この変形例の特徴は、前記内筒体2Bを、前記ガス噴射部16としてのセラミック管23と上下の石英管24で構成した点にある。すなわち、セラミック管23に前記ガス噴射孔16aと同様のガス噴射孔23aを形成すると共に、その上下端部に凹部23bをそれぞれ設け、この凹部23b内にOリング25等のシール材や接着材を介して上下の石英管24を密着状態で連結固定して、内筒体2Bを構成する。
【0036】
この内筒体2Bの場合、上下の透明もしくは半透明の石英管24を介して、赤外線放射温度7でロー付け部分の温度が検出されることになる。この変形例においても、前記筒体2と同様の作用効果を得ることができる他に、前記ガス噴射部16の材質をガス噴射孔23aが形成され易い材質で形成でき、形や位置等の所望形態のガス噴射孔23aを内筒体2Bの所望位置に簡単に形成できると共に、ワークWa、Wbのロー付け部分の加熱温度に対応した材質を使用できる等、各種ワークWa、Wbに的確に対応できるいう作用効果を得ることができる。この変形例の場合、例えば下方の石英管24とセラミックス管23をセクミック材で一体形成しても良い。
【0037】
なお、前記実施形態においては、加熱コイル4に筒体2を一体化することにより、熱処理治具5として使用可能に構成したが、本発明はこの構成に限定されず、例えば加熱コイル4を筒体2と別体で形成することもできる。また、前記実施形態においては、筒体2を円筒形状のワークWa、Wbに対応して円筒形状としたが、ワークWa、Wbが例えば方形状の場合は、筒体2や加熱コイル4を方形状に形成しても良く、ワークの外形形状に対応した形状の筒体2等を使用することができる。さらに、前記実施形態における、蓋体3の形状、ワーク支持台6の構成等は、一例であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、適宜の構成を採用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、一対のワークを誘導加熱によってロー付けする熱処理装置に限らず、各種ワークの焼入や焼き鈍し等、誘導加熱等を使用した全ての熱処理装置にも利用できる。
【符号の説明】
【0039】
1・・・無酸化高周波熱処理装置、2・・・筒体、2A・・・外筒体、2B・・・内筒体、3・・・蓋体、4・・・加熱コイル、5・・・熱処理治具、6・・・ワーク支持台、7・・・赤外線放射温度計、9・・・ガス供給部、11・・・トランジスタインバータ、12・・・治具駆動部、13・・・制御装置、15・・・ガス流路、16・・・ガス噴射部、16a・・・ガス噴射孔、18・・・ガス流路、19a、19b・・・筒体位置決め突起、20・・・ワーク位置決め突起、21・・・排出孔、23・・・セラミック管、23a・・・ガス噴射孔、24・・・石英管、25・・・Oリング、Wa、Wb・・・ワーク。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7