(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記混合工程において、混練系内への前記酸性溶液の投入終了前に、前記触媒原料粉および前記有機性の成形助剤の混練系内への投入を終了することを特徴とする、請求項1〜4の何れかに記載の炭化水素油分解用触媒の製造方法。
水の存在下で、炭化水素油と、請求項1に記載の炭化水素油分解用触媒の製造方法を用いて製造した炭化水素油分解用触媒とを接触させて、炭化水素油を分解することを特徴とする、炭化水素油の分解方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明者は、炭化水素油を予め脱硫および脱窒素することなく、且つ、高圧水素ガスを使用することなく、低コストで効率的に炭化水素油を軽質化することができる方法を提供することを目的として鋭意研究を行った。そして、本発明者は、所定の複合金属酸化物を触媒活性成分として含む炭化水素油分解用触媒を用いることにより、反応系外から水素を供給することなく、水の存在下で炭化水素油を分解して軽質化し得ることを新たに見出した。
【0008】
ところで、石油精製プラント等において触媒を用いて炭化水素油を工業的に軽質化する場合、反応容器内で炭化水素油の分解反応(軽質化反応)を所望した通りに進める観点からは、反応容器内に充填される触媒が、触媒充填時や分解反応中に損壊または変性しないことが必要である。即ち、工業的な炭化水素油の分解に使用される触媒には、高い機械的強度と、反応系内における安定性とが要求される。そのため、複合金属酸化物を触媒活性成分として含む上記炭化水素油分解用触媒についても、工業的に使用する際には、触媒の機械的強度と、反応系内における安定性とを高める必要がある。
【0009】
ここで、例えば特開2001−314770号公報(特許文献4)では、炭化水素油を工業的に水素化分解する際に、機械的強度および反応系内での安定性が高い担体に触媒活性成分を担持させてなる触媒を用いている。具体的には、特許文献4では、炭化水素油を水素化分解する際に使用する水素化触媒として、亜鉛を含有する含亜鉛アルミナ担体に触媒活性成分を担持してなる触媒を用いている。そして、この特許文献4に記載の水素化触媒によれば、含亜鉛アルミナ担体の使用により触媒の機械的強度および反応系内での安定性を高めることができるので、炭化水素油の水素化分解を所望した通りに進めることができる。
【0010】
しかし、複合金属酸化物を触媒活性成分として含む上記炭化水素油分解用触媒は、高温高圧の水(水蒸気)の存在下で使用される。そのため、上記炭化水素油分解用触媒の触媒活性成分は、上述したような含亜鉛アルミナ担体やシリカ担体等の担体に担持して用いることができない。γアルミナやシリカは、高温高圧の水蒸気により結晶構造が大きく変化してしまう(即ち、反応系内での安定性が低い)からである。一方、担体を用いることなく、複合金属酸化物よりなる触媒活性成分のみを用いて炭化水素油分解用触媒を成形した場合には、十分な機械的強度が得られない。
【0011】
そのため、複合金属酸化物を触媒活性成分として含む上記炭化水素油分解用触媒について、触媒の機械的強度および反応系内での安定性を高める手法を確立することが求められていた。
そこで、本発明は、水の存在下で炭化水素油を分解する際に用いられる触媒であって、複合金属酸化物を触媒活性成分として含み、且つ、機械的強度および反応系内での安定性が高い炭化水素油分解用触媒を製造する方法を提供することを目的とする。また、本発明は、その製造方法を用いて調製した炭化水素油分解用触媒を使用して炭化水素油を分解する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、複合金属酸化物を触媒活性成分として含む上記炭化水素油分解用触媒について、反応系内での触媒の安定性を低下させることなく、触媒の機械的強度を高める方法を確立することを目的として、鋭意検討を行った。そして、本発明者は、硝酸水溶液などの酸性溶液を用いて複合金属酸化物の粒子を一度解膠した後、解膠した粒子を再び凝集または凝結させて炭化水素油分解用触媒とすることにより、反応系内での触媒の安定性を低下させることなく、触媒の機械的強度を高めることに着想した。
【0013】
しかし、本発明者が、複合金属酸化物と酸性溶液とを混練して複合金属酸化物の粒子を一度解膠させた後に解膠した粒子を再び凝集または凝結させ、その後、複合金属酸化物と酸性溶液との混合物を成形および焼成することにより機械的強度の高い炭化水素油分解用触媒を調製しようとしたところ、混合物を所望の形状に成形することができず、炭化水素油分解用触媒を調製することができなかった。
そこで、本発明者は、上記混合物の成形性を向上させ、機械的強度および反応系内での安定性が高い炭化水素油分解用触媒を調製することを目的として更に検討を重ねた。そして、本発明者は、有機性の成形助剤を使用すると共に、複合金属酸化物と、酸性溶液と、成形助剤とを含む混合物のpHを制御することにより、混合物の成形性を向上させ、機械的強度および反応系内での安定性が高い炭化水素油分解用触媒を製造し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の炭化水素油分解用触媒の製造方法は、炭化水素油の分解に用いられる炭化水素油分解用触媒の製造方法であって、前記炭化水素油分解用触媒は、複合金属酸化物を含み、
前記複合金属酸化物が、IVA族元素から選択される1種の元素Xと、IIIA族元素から選択される1種の元素Y1と、VIA族元素から選択される1種の元素Y2とを含有し、元素Y1の存在量(y1)と元素Y2の存在量(y2)との合計(y1+y2)に対する元素Xの存在量(x)の比(x/(y1+y2))が、0.5以上2.0以下であり、元素Y1の存在量(y1)に対する元素Y2の存在量(y2)の比(y2/y1)が、0.02以上0.25以下である複合金属酸化物であり、前記複合金属酸化物を含む触媒原料粉と、酸性溶液と、有機性の成形助剤とを混練してpHが1.0超6.0未満の混合物を調製する混合工程と、前記混合物からなるペレットを成形する成形工程と、前記ペレットを焼成して炭化水素油分解用触媒を調製する焼成工程とを含むことを特徴とする。
なお、本発明において、「混合物のpH」は、ガラス電極法により測定することができる。
【0015】
ここで、本発明の炭化水素油分解用触媒の製造方法は、前記酸性溶液が硝酸水溶液であることが好ましい。
なお、本発明の炭化水素油分解用触媒の製造方法では、前記硝酸水溶液の硝酸濃度が0.75〜2.75質量%であることが更に好ましい。
【0016】
また、本発明の炭化水素油分解用触媒の製造方法は、前記有機性の成形助剤がセルロースであることが好ましい。
【0017】
更に、本発明の炭化水素油分解用触媒の製造方法は、前記混合工程において、混練系内への前記酸性溶液の投入終了前に、前記触媒原料粉および前記有機性の成形助剤の混練系内への投入を終了することが好ましい。
【0018】
本発明において、「元素の存在量」は、複合金属酸化物を溶解して得た溶液をICP発光分光分析法で分析し、得られた測定値から複合金属酸化物中の各元素の金属単体換算でのモル濃度を算出することにより求めることができる。そして、「元素の存在量の比(モル比)」は、算出した各元素のモル濃度の比を算出することにより求めることができる(以下、元素の存在量の比の算出方法を「融解/ICP−AES法」と称する場合がある。)。
なお
、本発明の炭化水素油分解用触媒の製造方法では、前記元素Xがジルコニウムであり、前記元素Y
1がセリウムであり、前記元素Y
2がタングステン
であることが好ましい。
【0019】
そして、本発明の炭化水素油分解用触媒の製造方法は、前記炭化水素油分解用触媒が、無機酸化物よりなるバインダーを更に含み、前記バインダーは、Al含有量が1質量%以下であり、且つ、Si含有量が1質量%以下であり、前記触媒原料粉が、前記バインダーを含有することが好ましい。
なお、本発明の炭化水素油分解用触媒の製造方法では、前記無機酸化物が、二酸化チタンであることが好ましい。
ここで、本発明において、「Al含有量」および「Si含有量」は、バインダーを溶解して得た溶液をICP発光分光分析法で分析することにより求めることができる。
【0020】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の炭化水素油の分解方法は、水の存在下で、炭化水素油と、上述した炭化水素油分解用触媒の製造方法の何れかを用いて製造した炭化水素油分解用触媒とを接触させて、炭化水素油を分解することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の炭化水素油分解用触媒の製造方法によれば、水の存在下で炭化水素油を分解する際に用いられる触媒であって、複合金属酸化物を触媒活性成分として含み、且つ、機械的強度および反応系内での安定性が高い炭化水素油分解用触媒を製造することができる。また、本発明の炭化水素油の分解方法によれば、原料となる炭化水素油を予め脱硫および脱窒素することなく、且つ、高圧水素ガスを使用することなく、低コストで効率的に炭化水素油を分解することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態を詳細に説明する。ここで、本発明の炭化水素油分解用触媒の製造方法は、複合金属酸化物を含む触媒原料粉と、酸性溶液と、有機性の成形助剤とを所定のpHとなるように混練してなる混合物を成形および焼成して炭化水素油分解用触媒を形成することを特徴とする。そして、本発明の炭化水素油分解用触媒の製造方法に従い製造された炭化水素油分解用触媒は、反応系外から水素を供給することなく、水の存在下で炭化水素油を分解して炭化水素油を軽質化する際に用いられる。
【0024】
<炭化水素油分解用触媒>
本発明の炭化水素油分解用触媒の製造方法を用いて製造される炭化水素油分解用触媒は、水の存在下で系外から水素を供給することなく炭化水素油を分解する反応に対して触媒作用を発揮する成分(炭化水素油分解反応に対する触媒活性成分)として、複合金属酸化物を含むことを特徴とする。なお、本発明の炭化水素油分解用触媒の製造方法を用いて製造される炭化水素油分解用触媒は、任意に、所定の無機酸化物よりなるバインダーを含んでいてもよい。
【0025】
ここで、複合金属酸化物とは、2種以上の金属酸化物が複合して生ずる酸化物である。そして、上記複合金属酸化物
は、所定の元素X、Y
1およびY
2を含む複合金属酸化物
である。
なお、複合金属酸化物の結晶構造は、例えばX線回折分析を用いて評価することができる。
【0029】
所定の元素Xと、所定の元素Y
1と、所定の元素Y
2とを含む複合金属酸化物としては、
(a)IVA族元素から選択される1種の元素Xと、
(b)IIIA族元素
から選択される1種の元素Y
1と、
(c
)VIA族元素
から選択される1種の元素Y
2と、
の3種の金属元素を所定の比率で含有している複合金属酸化物を挙げることができる。
ここで、上記「所定の比率」としては、融解/ICP−AES法により求めた複合金属酸化物中の各元素X,Y
1,Y
2の存在量の比(モル比)が、
(d)元素Y
1の存在量y
1と元素Y
2の存在量y
2との合計(y
1+y
2)に対する元素Xの存在量xの比が、0.5以上2.0以下(0.5≦x/(y
1+y
2)≦2.0)となり、
(e)元素Y
1の存在量y
1に対する元素Y
2の存在量y
2の比が、0.02以上0.25以下(0.02≦y
2/y
1≦0.25)となる、
比率を挙げることができる。
【0030】
より具体的には
、元素XとしてZr、元素Y
1としてCe、元素Y
2としてW
を含む複合金属酸化物を挙げることができる。
【0031】
因みに、元素Xと、元素Y
1と、元素Y
2とを含む複合金属酸化物では、元素Xがジルコニウム(Zr)であることが特に好ましい。元素XをZrとすれば、高温高圧の条件下で炭化水素油分解用触媒を使用した場合であっても、複合金属酸化物の構造を維持することができるからである。即ち、元素XがZrからなる複合金属酸化物では、炭化水素油の水素化分解に使用される、水熱合成されたゼオライトや、シリカや、γ−アルミナからなる水素化触媒のように、高温高圧の水蒸気により触媒活性成分の結晶構造が大きく変化して触媒が使用不能となることがない。また、触媒活性成分の劣化が起こりにくく、炭化水素油を前処理(脱硫および脱窒素)する必要がない。なお、複合金属酸化物の構造を確実に維持する観点からは、複合金属酸化物中の全ての金属元素の存在量mに対する元素Xの存在量xのモル比(x/m)は、0.55以上であることが好ましく、0.60以上であることが更に好ましい。
【0032】
なお、上述した複合金属酸化物は、共沈法やゾル−ゲル法等の既知の手法を用いて調製することができる。具体的には、例えば共沈法を用いる場合には、特に限定されることなく例えば以下のようにして複合金属酸化物を調製することができる。
(i)まず、複合金属酸化物を構成する金属元素を含む水溶液を調製する。
(ii)次に、調製した水溶液に対し、アンモニア水や、炭酸ナトリウム水溶液などの共沈剤を、水溶液のpHがアルカリ側に偏らないように(例えばpHが5〜8の範囲となるように)調整しながら滴下し、共沈殿物を生成させる。
(iii)そして最後に、得られた沈殿をろ過および乾燥した後、乾燥した沈殿を焼成して複合金属酸化物とする。
ここで、上記(iii)において沈殿を乾燥する温度は、水分を効率的に蒸発させる観点からは100℃以上であることが好ましく、急激な乾燥を防止する観点からは160℃以下であることが好ましい。また、乾燥した沈殿を焼成する温度は、生成する複合金属酸化物の構造安定性(即ち、触媒活性成分として使用して炭化水素油を分解した際の複合金属酸化物の構造変化の抑制)の観点からは500℃以上であることが好ましく、生成する複合金属酸化物の表面積の減少を抑制する観点からは900℃以下であることが好ましい。
因みに、共沈法やゾル−ゲル法等を用いて調製した複合金属酸化物は、通常、複数の一次粒子が凝集した二次粒子として生成する。
【0033】
また、所定の無機酸化物よりなるバインダーとは、複合金属酸化物と、酸性溶液とを含む混合物の成形性を向上するためのものである。そして、バインダーとして用いる無機酸化物としては、特に限定されることなく、上記複合金属酸化物以外の無機酸化物、例えば二酸化チタンを挙げることができる。
なお、バインダーは、混合物を焼成してなる炭化水素油分解用触媒中に含有されることとなる。そのため、バインダーは、炭化水素油分解用触媒の使用条件下(高温高圧の水蒸気下)で安定な無機酸化物であることが必要である。従って、無機酸化物よりなるバインダーは、Al含有量が1質量%以下であり、且つ、Si含有量が1質量%以下である必要がある。Alの酸化物であるアルミナや、Siの酸化物であるシリカは、高温高圧の水蒸気下で変性するからである。因みに、バインダーは、AlおよびSiを実質的に含まないことが好ましい。
【0034】
そして、上述した複合金属酸化物を含み、任意に、バインダーを更に含む炭化水素油分解用触媒は、本発明の炭化水素油分解用触媒の製造方法に従い、例えば以下のようにして製造することができる。
【0035】
<炭化水素油分解用触媒の製造方法>
図1に、本発明の炭化水素油分解用触媒の製造方法の一例を用いて炭化水素油分解用触媒を製造する際の製造工程を示す。ここで、この一例の炭化水素油分解用触媒の製造方法では、上述した複合金属酸化物と、上述したバインダーとを含む炭化水素油分解用触媒を製造する。
【0036】
具体的には、この一例の炭化水素油分解用触媒の製造方法では、
図1に示すように、まず、ニーダーやバンバリーミキサー等の混練装置に、触媒原料粉(複合金属酸化物およびバインダー)と、有機性の成形助剤と、酸性溶液とを投入し、混練を開始する(S1)。なお、この一例の炭化水素油分解用触媒の製造方法では、混練開始時には、使用する酸性溶液の一部(例えば、半量)を混練装置内に投入する。
次に、酸性溶液の残量を逐次添加しつつ、触媒原料粉と、有機性の成形助剤と、酸性溶液とを混練し(S2)、触媒原料粉と、有機性の成形助剤と、酸性溶液との混合物を得る(混合工程)。なお、混合工程においては、混合物のpHが1.0超6.0未満となるように酸性溶液を添加する。
その後、得られた混合物を押出成形装置で押出成形し(S3)、混合物からなるペレットを成形する(成形工程)。
そして最後に、得られたペレットを乾燥(S4)および焼成(S5)して、炭化水素油分解用触媒を調製する(焼成工程)。
なお、この一例の炭化水素油分解用触媒の製造方法では、混練装置および押出成形装置の代わりにエクストルーダーを用いて混合工程および成形工程を連続的に実施してもよい。
【0037】
ここで、触媒原料粉は、触媒活性成分を含む粉体であり、この一例の炭化水素油分解用触媒の製造方法では、触媒原料粉は、粒子状の複合金属酸化物と、粒子状の無機酸化物よりなるバインダーとよりなる。
なお、本発明の炭化水素油分解用触媒の製造方法では、触媒原料粉は、複合金属酸化物のみからなってもよい。
【0038】
また、酸性溶液としては、特に限定されることなく、触媒原料粉と混合した際に触媒原料粉の粒子を解膠させることができる水溶液、例えば強酸の水溶液を用いることができる。具体的には、酸性溶液としては、硝酸水溶液、硫酸水溶液、塩酸を用いることができる。
【0039】
更に、有機性の成形助剤としては、特に限定されることなく、混合物の成形性を向上させることができ、且つ、ペレットを焼成した際に燃焼分解して炭化水素油分解用触媒中に残存しない成形助剤を用いることができる。具体的には、有機性の成形助剤としては、例えばセルロース、炭素繊維等の繊維状有機物質を用いることができる。なお、セルロースとしては、結晶性かつ繊維状のセルロースであれば、特に限定されることなく、セルロースパウダー、結晶性セルロース、セルロース短繊維、セルロース誘導体等を使用してもよい。
【0040】
ここで、混合工程において、触媒原料粉と、酸性溶液と、有機性の成形助剤とを混練する条件は、触媒原料粉と、酸性溶液と、有機性の成形助剤とが均一に分散し、且つ、得られる混合物のpHが1.0超6.0未満となる条件であれば、任意の条件とすることができる。なお、混合工程では、混練後の混合物のpHのみならず、混練中の被混練物のpHも1.0超6.0未満の範囲内であることが好ましい。
因みに、混合工程で得られる混合物のpHは、使用する酸性溶液の濃度および量を変更することにより調整することができる。また、混練中の被混練物のpH制御は、例えば、pH測定器を用いて被混練物のpHを測定し、そのpH測定値に基づいて酸性溶液の添加タイミング等を制御することにより行うことができる。
【0041】
また、混合工程において、酸性溶液は、混練装置内に全量を一気に投入してもよいが、上述したように一部(例えば総投入量の半量)を混練装置内に投入した後に残量を逐次添加し、或いは、総投入量の全量を逐次添加することが好ましい。酸性溶液の全量を混練装置内に一気に投入した場合、得られる混合物がダマになり易く、また、被混練物のpHが一時的に上記pH範囲外まで低下するからである。
【0042】
更に、混合工程において触媒原料粉および有機性の成形助剤と混練する酸性溶液の量は、得られる混合物の25〜35質量%とすることが好ましい。酸性溶液の量を混合物の25〜35質量%とすれば、成形に適した水分含有量および流動性を有する混合物を得ることができるからである。
【0043】
成形工程において混合物を押出成形する条件は、混合物を所望の形状のペレットに成形し得る任意の条件とすることができる。また、混合物を成形してなるペレットの形状は、円柱状などの任意の形状とすることができる。
なお、本発明の炭化水素油分解用触媒の製造方法では、ペレットは押出成形以外の成形方法を用いて成形してもよい。
【0044】
更に、成形工程で得られたペレットの乾燥は、例えば温度110〜130℃の乾燥機内にペレットを5〜20時間放置することにより行うことができる。なお、ペレットは、含水率が10質量%以下になるまで乾燥することが好ましい。因みに、ペレットの含水率は、例えば水分計(島津製作所製、MOC63u等)を用いて、乾燥減量法により測定することができる。
また、乾燥させたペレットの焼成は、例えば温度500〜800℃の焼成炉内で、空気雰囲気下、ペレットを0.5〜5時間焼成することにより行うことができる。
【0045】
そして、この一例の炭化水素油分解用触媒の製造方法によれば、複合金属酸化物を含む混合物よりなるペレットを焼成しているので、炭化水素油分解反応に対する触媒活性成分として複合金属酸化物を含む炭化水素油分解用触媒を調製することができる。
【0046】
また、この一例の炭化水素油分解用触媒の製造方法によれば、触媒原料粉と、有機性の成形助剤と、酸性溶液とを所定のpHとなるように混練して混合物を調製しているので、混合物を所望の形状に成形することができる。更に、この一例の炭化水素油分解用触媒の製造方法によれば、所定の無機酸化物よりなるバインダーを用いているので、バインダーを使用しない場合と比較し、混合物の調製およびペレットの成形を容易に行うことができる。
更に、この一例の炭化水素油分解用触媒の製造方法では、触媒原料粉と、有機性の成形助剤と、酸性溶液とを所定のpHとなるように混練して得た混合物をペレットに成形し、該ペレットを焼成しているので、機械的強度および反応系内での安定性が高い炭化水素油分解用触媒を調製することができる。
【0047】
ここで、炭化水素油分解用触媒の高い機械的強度は、混合工程において混合物のpHが6.0未満となるように触媒原料粉と酸性溶液とを混練し、得られた混合物を成形および焼成して炭化水素油分解用触媒を調製しているために達成されると推察される。即ち、混合物のpHが6.0未満となるように触媒原料粉と酸性溶液とを混練した際に触媒原料粉の粒子(複合金属酸化物粒子およびバインダー粒子)が一度解膠し、その後、一度解膠した粒子が再び凝集または凝結して互いに強固に結合するため、高い機械的強度を有する炭化水素油分解用触媒が得られると推察される。因みに、混合物のpHが6.0以上となるように混練を行った場合には、触媒原料粉の粒子の解膠が十分に進行せず、十分な機械的強度を有する炭化水素油分解用触媒を調製することができない。
なお、混合物を調製する際に酸性溶液を用いて触媒原料粉の粒子を解膠した場合、解膠した粒子同士が早期に再凝集または再凝結すると、混合物内で粒子同士が強固に結合して混合物の粘度が増加するため、混合物の成形性が低下する。そのため、本発明の炭化水素油分解用触媒の製造方法では、混合物を調製する際に有機性の成形助剤を使用する。また、混合物のpHを低下させ過ぎた場合にも、粒子の解膠ならびに再凝集または再凝結が進行し過ぎて混合物の成形性が低下する。そのため、本発明の炭化水素油分解用触媒の製造方法では、混合物のpHが1.0超となるように混練を行う。
【0048】
因みに、触媒原料粉の粒子の解膠を十分に進行させて炭化水素油分解用触媒の機械的強度を十分に高める観点からは、混合工程では、混練装置内(混練系内)への酸性溶液の投入が終了する前に触媒原料粉を混練装置内(混練系内)に投入することが好ましい。また、混合物内の粒子が早期に再凝集または再凝結することにより混合物の成形性が低下するのを抑制する観点からは、混合工程では、混練装置内(混練系内)への酸性溶液の投入が終了する前に有機性の成形助剤を混練装置内(混練系内)に投入することが好ましい。
【0049】
また、触媒原料粉の粒子の解膠を十分に進行させて炭化水素油分解用触媒の機械的強度を十分に高める観点からは、混合工程では、混合物のpHが5.5以下、より好ましくは5.0以下となるように混練を行うことが好ましい。また、触媒原料粉の粒子の解膠ならびに再凝集または再凝結が進行し過ぎて混合物の成形性が低下するのを抑制する観点からは、混合工程では、混練中の被混練物のpHを常に1.0超とすることが好ましく、また、得られる混合物のpHが1.5以上、より好ましくは2.0以上となるように混練を行うことが好ましい。
【0050】
なお、炭化水素油分解用触媒の反応系内での高い安定性は、有機性の成形助剤の使用および混合物のpHの制御により混合物の成形性を確保しつつ、触媒原料粉の粒子を一度解膠させた後に再凝集または再凝結させて触媒の機械的強度を高めているために達成されると推察される。
即ち、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、スズ(Sn)の酸化物(例えば、アルミナ、シリカ、酸化スズ)等をバインダーとして用いて触媒の機械的強度を高めようとした場合、それらの酸化物は高温高圧の水蒸気下では変性してしまうため、反応系内での触媒の安定性は低下してしまう。しかし、アルミニウム、ケイ素またはスズの酸化物等を使用することなく、触媒原料粉の粒子の解膠ならびに再凝集または再凝結により触媒の機械的強度を高めれば、高温高圧の水蒸気下で変性し易い成分の量を低減またはゼロにして、反応系内での触媒の安定性を高めることができる。また、焼成時に燃焼分解してしまう有機性の成形助剤の使用および混合物のpH制御により混合物の成形性を確保すれば、高温高圧の水蒸気下で変性し易い成分の量を低減またはゼロにして、反応系内での触媒の安定性を高めることができる。
因みに、高温高圧の水蒸気下で変性し易い成分の量を低減またはゼロにして反応系内での触媒の安定性を高める観点からは、本発明の炭化水素油分解用触媒の製造方法に用いる混合物は、Al、Si、Snの含有量の合計が混合物の1質量%以下であることが好ましく、Al、Si、Snを実質的に含まないことが更に好ましい。また、混合物を成形および焼成してなる炭化水素油分解用触媒は、Al、Si、Snの含有量の合計が炭化水素油分解用触媒の2質量%以下であることが好ましく、Al、Si、Snを実質的に含まないことが更に好ましい。
【0051】
ここで、上述した酸性溶液としては、硝酸水溶液を用いることが好ましい。硝酸水溶液を使用すれば、塩酸を使用した場合と比較し、ペレットの焼成時に生成する排気ガスにより焼成炉が腐蝕するのを抑制することができるからである。また、硫酸は不揮発性の液体であるため、硫酸水溶液を使用した場合、ペレットを焼成して得た炭化水素油分解用触媒中に硫酸が残存する虞があるからである。
【0052】
なお、硝酸水溶液の硝酸濃度は、0.75〜2.75質量%であることが好ましく、1.0〜2.0質量%であることが更に好ましい。前述した通り、成形に適した水分含有量および流動性を有する混合物を得る観点からは硝酸水溶液の使用量は自ら制限されるところ、硝酸濃度を0.75質量%以上とすれば、触媒原料粉の粒子の解膠を十分に進行させて触媒の機械的強度を十分に高めることができるからである。また、硝酸濃度を2.75質量%超とすると、触媒原料粉の粒子の解膠ならびに再凝集または再凝結が急激に進行し過ぎて混合物の成形性が低下する虞があるからである。
【0053】
また、上述した有機性の成形助剤としては、セルロースを用いることが好ましい。
【0054】
なお、混合物中の成形助剤の量は、混合物中の触媒原料粉の量の1〜5質量%とすることが好ましい。有機性の成形助剤の量が触媒原料粉の量の1質量%未満の場合、混合物の成形性を十分に確保することができない虞があるからである。また、有機性の成形助剤の量が触媒原料粉の量の5質量%超の場合、混合物よりなるペレットを焼成して炭化水素油分解用触媒を製造した際に、成形助剤の燃焼分解により炭化水素油分解用触媒内に多数の空隙が発生し、触媒の機械的強度を十分に高めることができない虞があるからである。
【0055】
<炭化水素油の分解方法>
そして、上述のようにして調製した炭化水素油分解用触媒は、本発明の炭化水素油の分解方法に従い炭化水素油を工業的に分解(軽質化)して軽質炭化水素油を製造する際に用いることができる。
【0056】
ここで、本発明の炭化水素油の分解方法を用いて軽質炭化水素油を製造する際に原料として用いる炭化水素油としては、特に限定されることなく、石油精製時に得られる常圧蒸留残油や減圧蒸留残油などの重質炭化水素油を挙げることができる。具体的には、軽質炭化水素油の原料となる炭化水素油としては、常圧蒸留における50容量%留出温度(T50)が150℃以上550℃以下の炭化水素油や、T50が200℃以上550℃以下の炭化水素油や、T50が250℃以上550℃以下の炭化水素油を挙げることができる。
【0057】
そして、本発明の炭化水素油の分解方法は、原料となる炭化水素油を分解して軽質炭化水素油にする反応器と、原料となる炭化水素油を反応器内へ供給する原料供給手段と、水を反応器内へ供給する水供給手段とを備える軽質炭化水素油製造装置を用いて実施することができる。
具体的には、本発明の炭化水素油の分解方法を用いた炭化水素油の分解(軽質化)は、上述した炭化水素油分解用触媒を充填した反応器内に炭化水素油および水を供給し、水の存在下で、炭化水素油と、炭化水素油分解用触媒とを接触させることにより行うことができる。
【0058】
ここで、上述した炭化水素油分解用触媒と炭化水素油とを水の存在下で接触させることにより炭化水素油を分解することができる理由は、明らかではないが、前述したような複合金属酸化物、
特に所定の元素X、Y
1およびY
2を含む複合金属酸化物は、格子酸素の供給速度が高く、水を分解して酸素および水素を放出する能力が高いためであると推察される。即ち、これらの複合金属酸化物は、水を水素源として利用して重質炭化水素化合物を分解する際に、炭化水素化合物の一部と水とが下記反応式に示すように反応して水素源となる水素を生成するのを促進することができるためであると推察される。
C
nH
m+2nH
2O→nCO
2+(2n+(m/2))H
2
【0059】
ここで、炭化水素油を分解する際に用いる水の量は、原料となる炭化水素油を分解(軽質化)するのに十分な量であれば良く、例えば、炭化水素油100質量部に対して、水を5〜2000質量部、好ましくは10〜1000質量部、更に好ましくは10〜500質量部の割合で添加するのが望ましい。炭化水素油100質量部に対する水の添加量が5質量部未満の場合、水素源が不足して炭化水素油が十分に分解されない場合があるからである。一方、水の添加量が2000質量部を超えると、炭化水素油の分解に寄与しない水の量が増大することとなり、コストが増加したり、炭化水素油の分解効率が低下したりする場合があるからである。
また、軽質炭化水素油製造装置の反応器内の温度は、比較的低い温度、例えば300〜600℃、好ましくは350〜550℃、更に好ましくは400〜500℃とすることができる。温度が300℃未満の場合、反応に必要な活性化エネルギーが得られず炭化水素油の分解が十分に進行しない場合があるからである。また、温度が600℃超の場合、不要なガス(メタン、エタン等)が大量に発生し、炭化水素油の分解効率が低下するおそれがあるからである。
更に、反応器内の圧力は、例えば0.1〜40MPa、好ましくは0.1〜35MPa、更に好ましくは0.1〜30MPaとすることができる。圧力が0.1MPa未満の場合、炭化水素油と水とを反応器へスムーズに流入させることが困難になる場合があるからである。また、圧力が40MPa超の場合、反応器の製造コストが高くなる場合があるからである。
また、反応器に炭化水素油および水を流通する際の液空間速度(LHSV)は、例えば0.01〜10h
−1、好ましくは0.05〜5h
−1、更に好ましくは0.1〜2h
−1とすることができる。液空間速度が0.01h
−1未満の場合、不要なガスの発生が支配的となり、炭化水素油の分解効率が低下する場合があるからである。また、液空間速度が10h
−1超の場合、反応時間が短すぎて炭化水素油の分解が十分に進行しない場合があるからである。
【0060】
ここで、上述したように、本発明の炭化水素油の分解方法によれば、炭化水素油の分解反応に必要な水素を系内に存在する水から供給することができる。従って、本発明の炭化水素油の分解方法では、系外から水素を添加する必要はなく、系外からの水素の添加量と、原料となる炭化水素油の供給量とのモル比(水素添加量/炭化水素油供給量)は、0.1以下、好ましくは0とすることができる。よって、本発明の炭化水素油の分解方法によれば、高圧水素ガスを使用することなく、炭化水素油を低コストで効率的に分解することができる。
【0061】
なお、本発明の炭化水素油の分解方法で用いている炭化水素油分解用触媒は劣化し難いので、該触媒を用いた本発明の炭化水素油の分解方法によれば、分解する原料炭化水素油を予め脱硫および脱窒素する必要がない。
また、本発明の炭化水素油の分解方法で用いている炭化水素油分解用触媒は、本発明の炭化水素油分解用触媒の製造方法を用いて製造されており、機械的強度および反応系内における安定性が高いので、触媒充填時や分解反応中に損壊または変性し難い。従って、本発明の炭化水素油の分解方法によれば、炭化水素油を工業的に分解(軽質化)する場合であっても、反応容器内で炭化水素油の分解反応(軽質化反応)を所望した通りに進めることができる。
因みに、バインダーを炭化水素油分解用触媒に含有させる場合、炭化水素油分解用触媒中の複合金属酸化物の量(A)に対するバインダーの量(B)の質量比(B/A)は、0.2〜1.0とすることができる。複合金属酸化物の量が少ないと、炭化水素油の分解が十分に進行しない場合があるからである。また、バインダーの量が多すぎると、炭化水素油の分解効率が低下するからである。
【0062】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明の炭化水素油分解用触媒の製造方法および炭化水素油の分解方法は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の炭化水素油分解用触媒の製造方法および炭化水素油の分解方法には適宜変更を加えることができる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0064】
(実施例1)
元素Xがジルコニウムであり、元素Y
1がセリウムであり、元素Y
2がタングステンである複合金属酸化物(第一稀元素化学工業(株)製、Z−2001)と、バインダーとしての二酸化チタン(テイカ(株)製、IP212)と、有機性の成形助剤としてのセルロース(日本製紙(株)製、KCフロック W50GK)と、表1に示す濃度の硝酸水溶液とを混練し、表1に示すpHの混合物を調製した。具体的には、450gの複合金属酸化物と、150gの二酸化チタンと、18gのセルロースと、300gの硝酸水溶液とをバンバリーミキサーで混練し、混合物を得た。なお、硝酸水溶液は、混練開始時にバンバリーミキサー内に半量(150g)を投入し、残りの150gは、450gの複合金属酸化物と、150gの二酸化チタンと、18gのセルロースと、150gの硝酸水溶液とを30分間混練した後に、30分間かけて逐次添加した。また、混合物のpHは、pH計(堀場製作所製 B−211)を用いてガラス電極法で測定した。
次に、得られた混合物を押出成形してペレット(円柱状、直径2mm)を調製し、得られたペレットを温度130℃で16時間乾燥した。その後、乾燥したペレットを温度600℃、空気雰囲気下で2時間焼成し、炭化水素油分解用触媒を製造した。
なお、使用した複合金属酸化物のZr、Ce、Wの存在比(モル比)を融解/ICP−AES法で確認したところ、Zr:Ce:W=16:16:1であった。
そして、得られた炭化水素油分解用触媒について、機械的強度および触媒活性を下記の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0065】
(実施例2〜3)
使用する硝酸水溶液の濃度を表1に示す濃度とし、混合物のpHを表1に示す値とした以外は、実施例1と同様にして炭化水素油分解用触媒を製造した。
そして、得られた炭化水素油分解用触媒について、機械的強度および触媒活性を実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0066】
(比較例1)
硝酸水溶液の替わりに同量(300g)の純水を使用し、混合物のpHを表1に示す値とした以外は実施例1と同様にして、複合金属酸化物と、二酸化チタンと、セルロースとの混練物を得た。
次に、得られた混練物を押出成形してペレット(円柱状、直径2mm)を調製し、得られたペレットを温度130℃で16時間乾燥した。その後、乾燥したペレットを温度600℃、空気雰囲気下で2時間焼成し、炭化水素油分解用触媒を製造した。
そして、得られた炭化水素油分解用触媒について、機械的強度および触媒活性を実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。なお、触媒活性については、触媒の強度が低く、充填時に粉化してしまったため、測定することができなかった。
【0067】
(比較例2〜3)
使用する硝酸水溶液の濃度を表1に示す濃度とし、混合物のpHを表1に示す値とした以外は、実施例1と同様にして炭化水素油分解用触媒の製造を試みた。
しかし、比較例3では、混合物の成形性が低く、押出成形時に混合物が押出口(ダイ)に詰まってしまい、ペレットを成形することができなかった。
なお、比較例2において得られた炭化水素油分解用触媒については、機械的強度および触媒活性を実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0068】
<機械的強度>
調製した炭化水素油分解用触媒について、触媒圧潰強度(SCS:サイドクラッシュストレングス)を測定した。具体的には、円柱状の炭化水素油分解用触媒を横置きして炭化水素油分解用触媒の外周面を直径3mmのピンで押圧し、炭化水素油分解用触媒が壊れた際の荷重(破壊荷重)を測定した。そして、破壊荷重をピンの直径で除してサイドクラッシュストレングス(N/mm)を求めた。
<触媒活性>
調製した炭化水素油分解用触媒を超合金(インコネル625)製の反応器に充填した。次いで、触媒を充填した反応器にイオン交換水を通水しつつ、反応器内を温度470℃、圧力15MPaまで加熱および加圧した。その後、水素を供給することなく、表2に示すような性状の重質炭化水素油(熱分解装置から留出した油)と、イオン交換水とを反応器内に連続的に流通させた(イオン交換水の質量流量/重質炭化水素油の質量流量=1.0であり、LHSVは0.75h
−1である。)。
そして、通油開始から6時間経過後に、反応器からの流出物(分解反応生成物)を1時間採取し、下記式を用いて所定の軽質炭化水素油(沸点180〜380℃の留分)の収率Yを算出した。
Y=(M/F)×100%
Y:沸点180〜380℃の留分(灯軽油)の収率 [質量%]
M:軽質炭化水素油の収量 [g/hr]
F:重質炭化水素油の供給量 [g/hr]
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
表1より、実施例1〜3の炭化水素油分解用触媒は、比較例1〜2の炭化水素油分解用触媒に比べて機械的強度が高いことが分かる。また、比較例3では、混合物の成形性が低く、ペレットが成形できないことが分かる。
なお、セルロースを使用することなく混合物(複合金属酸化物と、二酸化チタンと、硝酸水溶液との混合物)を調製して炭化水素油分解用触媒を製造しようとしたところ、ペレットを成形することができなかった。
また、γ―アルミナと複合金属酸化物(第一稀元素化学工業(株)製、Z−2001)とを混合して形成した炭化水素油分解用触媒を用いて実施例1と同様にして炭化水素油の分解を行ったところ、アルミナが擬ベーマイトへと変化し、触媒がその形状を保持できず、複合金属酸化物が反応器外へ流出してしまった。